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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】蓄熱管理システム
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20250206BHJP
   B60L 58/27 20190101ALN20250206BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
B60L58/27
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021171501
(22)【出願日】2021-10-20
(65)【公開番号】P2023061541
(43)【公開日】2023-05-02
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 渉
(72)【発明者】
【氏名】高沢 修
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正亮
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 竜
(72)【発明者】
【氏名】清水 宣伯
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201224(JP,A)
【文献】特開2019-043262(JP,A)
【文献】特開2020-045068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
B60L 58/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載されるシステムであり、
熱媒体が循環する熱媒体回路と、
前記熱媒体と熱交換する冷媒が循環するヒートポンプ式の冷媒回路と、
前記熱媒体を介して蓄熱がなされる蓄熱部と、
前記熱媒体に対して放熱する発熱部と、
前記蓄熱部の蓄熱量を制御する制御装置を備える蓄熱管理システムであって、
前記制御装置は、
前記蓄熱部の蓄熱を行うに際して、蓄熱に有利な環境情報に基づいて蓄熱量増加制御を行い、
蓄熱に有利な前記環境情報が設定時間継続すると判断した場合に、前記蓄熱部の管理温度範囲を拡大し、前記蓄熱量増加制御を行うことを特徴とする蓄熱管理システム。
【請求項2】
前記環境情報は、外気温度の変化によって認識されることを特徴とする請求項1記載の蓄熱管理システム。
【請求項3】
前記環境情報は、前記発熱部の発熱量変化によって認識されることを特徴とする請求項1記載の蓄熱管理システム。
【請求項4】
前記環境情報は、移動体の移動速度変化によって認識されることを特徴とする請求項1記載の蓄熱管理システム。
【請求項5】
前記環境情報の継続性は、現在位置までの移動経路情報、過去の移動履歴情報、現在位置と周辺マップの情報のいずれか又はこれらから選択された情報の組み合わせによって認識されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の蓄熱管理システム。
【請求項6】
前記制御装置は、
暖房運転時に、蓄熱に有利な前記環境情報が設定時間継続すると判断した場合であって、
外気と熱交換する熱交換部に着霜が有る場合には、
除霜動作を行うことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の蓄熱管理システム。
【請求項7】
前記制御装置は、
検知された蓄熱に有利な前記環境情報が設定時間継続しないと判断した場合には、
短時間集中制御を行うことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の蓄熱管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動車両(EV:Electric Vehicle)などの移動体における蓄熱管理システムは、駆動電源であるバッテリの温調を行いながら、このバッテリを蓄熱部として利用することが行われている(下記特許文献1参照)。バッテリに蓄えられた熱は、バッテリ温調用の熱媒体回路を介してヒートポンプ(冷媒回路)の冷媒と熱交換することで、空調などに利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-37180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車両などの移動体に搭載させる蓄熱管理システムは、移動に伴ってシステムの周辺環境が変化する。この周辺環境の変化は、時には、蓄熱を行うシステムにとって有利に働く場合がある。例えば、車両がトンネル内を通過する場合、トンネルの外に比べてトンネル内では外気温度が高くなる場合が多く、この外気温度上昇分の熱をシステムに取り込んで蓄熱することができれば、システムの熱管理にとっては有利になる。また、電動車両が坂道走行する場合には、駆動モーターの負荷が上昇して排熱量が多くなるが、この排熱をシステムに取り込んで蓄熱することができれば、システムの熱管理にとって有利になる。
【0005】
しかしながら、従来の蓄熱管理システムは、このような周辺環境の変化に対して特別な対応を行っておらず、周辺環境の変化に伴う蓄熱量増大の機会を見す見す逸してしまっている問題があった。
【0006】
また、従来の蓄熱管理システムは、蓄熱部として駆動電源であるバッテリを利用しており、バッテリ温度を適温に管理することを優先しているので、前述したような周辺環境の変化に伴う蓄熱量増大の機会があったとしても、優先されるバッテリの管理温度下では蓄熱量を増大させるのにも限界が生じる問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に対処することを課題としている。すなわち、移動体に搭載させる蓄熱管理システムにおいて、周辺環境の変化によって起こる蓄熱量増大の機会を逸することがないようにすること、が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
移動体に搭載されるシステムであり、熱媒体が循環する熱媒体回路と、前記熱媒体を介して蓄熱がなされる蓄熱部と、前記熱媒体に対して放熱する発熱部と、前記蓄熱部への蓄熱量を制御する制御装置を備える蓄熱管理システムであって、前記制御装置は、前記蓄熱部への蓄熱を行うに際して、蓄熱に有利な環境情報に基づいて蓄熱量増加制御を行うことを特徴とする蓄熱管理システム。
【発明の効果】
【0009】
このような特徴を有する本発明の蓄熱管理システムは、蓄熱に有利な環境情報を検知して蓄熱量増加制御を行うことで、周辺環境の変化によって起こる蓄熱量増大の機会を逸することがなく、蓄熱量を増大させ、蓄熱した熱を効果的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る蓄熱管理システムの温熱を蓄熱する場合の回路構成例を示した説明図。
図2】本発明の実施形態に係る蓄熱管理システムの制御装置を説明する説明図((a)が制御装置の入出力を示し、(b)が制御装置の機能を示す。)。
図3図1の回路構成における蓄熱モードの説明図。
図4図1の回路構成における蓄熱利用モードの説明図。
図5図1の回路構成における蓄熱増加モードの説明図。
図6】本発明の実施形態に係る蓄熱管理システムの冷熱を蓄熱する場合の回路構成例を示した説明図((a)が蓄熱モード、(b)が蓄熱利用モードを示す。)。
図7】制御装置の基本的な制御アルゴリズムを示したフロー図。
図8】制御装置の制御フローの一例を示した説明図。
図9】電動車両に設けた制御装置のシステム構成例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0012】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る蓄熱管理システム1は、車両や船舶などの移動体に搭載されるシステムであり、熱媒体が循環する熱媒体回路2と、熱媒体を介して蓄熱がなされる蓄熱部3と、熱媒体に対して放熱する発熱部4を備えている。
【0013】
熱媒体回路2は、熱媒体を循環させるポンプP(P1,P2,P3)を備え、また、熱媒体回路2の流路を各種の制御モードに応じて切り替える切替弁V(V1,V2,V3)を備える。また、熱媒体回路2は、熱媒体と熱交換するための熱交換部T(T1,T2,T3,T4,T5,T6)を備える。
【0014】
図示の例では、熱交換部T1は、熱媒体が蓄熱部3と熱交換するためのものであり、熱交換部T2は、熱媒体が発熱部4と熱交換するためのものである。また、熱交換部T3は、熱媒体が室内空気と熱交換するために、室内空調装置5に設けられるものであり、熱交換部T4は、熱媒体がファン6にて送風された外気と熱交換するためのもの(ラジエータ)である。
【0015】
熱交換部T5と熱交換部T6は、ヒートポンプ式の冷媒回路10における冷媒と熱媒体が熱交換する冷媒熱媒体熱交換器である。熱交換部T5は、冷媒回路10において放熱器として機能し、冷媒の熱が熱媒体に放出される。熱交換部T6は、冷媒回路10において吸熱器として機能し、熱媒体の熱が冷媒に吸収される。冷媒回路10は、冷媒を圧縮して熱交換部T5に送る圧縮機11と、圧縮された冷媒を減圧して熱交換部T6に送る減圧装置(膨張弁など)12を備えている。
【0016】
蓄熱管理システム1において、蓄熱部3は、例えば、電動車両(EV)における駆動用のバッテリである。熱媒体からの熱が蓄熱部3に放出される蓄熱時には、蓄熱部3は加熱され、蓄熱部3に蓄えられた熱を熱媒体が吸熱する蓄熱利用時には、蓄熱部3は冷却される。これにより、蓄熱部3としてバッテリは、蓄熱と蓄熱利用を適宜繰り返すことで所定の温度に調整される。
【0017】
蓄熱管理システム1において、発熱部4は、例えば、電動車両(EV)において駆動時に発熱するモーターやインバータやPCU(Power Control Unit)などである。前述した冷媒回路10は、熱媒体回路2を循環する熱媒体に対して放熱する機能を有するという点では発熱部として機能している。
【0018】
そして、蓄熱管理システム1は、図2(a)に示すように、蓄熱部3の蓄熱量を制御する制御装置20を備える。制御装置20は、移動体の移動に伴って変化する環境情報等の入力データに基づいて、制御モードを変更制御することで蓄熱量を制御するものであり、切替弁V、冷媒回路10の圧縮機11や減圧装置12、ポンプP、室内空調装置5、ファン6などが制御対象になる。
【0019】
制御装置20による制御モードは、図2(b)に示すように、蓄熱モード、蓄熱利用モード、蓄熱増加モードの切り替え制御である。ここで、蓄熱モードから蓄熱増加モードへの移行を、制御装置20が行う蓄熱量増加制御という。
【0020】
図3図5は、温熱を蓄熱する場合であって、蓄熱モードと蓄熱利用モードと蓄熱増加モードにおける熱媒体回路2の切り替え状態を示している。図において、矢印付きの黒色太線は、加熱された熱媒体が矢印方向に流れる熱媒体流路を示し、矢印付きの灰色太線は、冷却された熱媒体が矢印方向に流れる熱媒体流路を示し、矢印付きの太二重線は、冷媒回路10の冷媒流路を示している。また、細破線は、不使用状態の熱媒体流路を示している。そして、図示の切替弁V2,V3における白塗りは弁の開状態を示し、黒塗りは弁の閉状態を示している。
【0021】
蓄熱モードは、図3に示すように、切替弁V(V1~V3)の切り替えで、熱媒体回路2が、第1熱媒体回路21と第2熱媒体回路22と第3熱媒体回路23の独立回路になる。
【0022】
第1熱媒体回路21は、熱媒体がポンプP1,熱交換部T1,熱交換部T2,切替弁V2,切替弁V1を経由してポンプP1に戻る循環流路を形成している。第1熱媒体回路21では、熱交換部T2にて発熱部4の熱を取り込んだ熱媒体が熱交換部T1に流れ、熱媒体に取り込まれた熱が熱交換部T1にて蓄熱部3に放熱される。
【0023】
第2熱媒体回路22は、熱媒体がポンプP2,熱交換部T5,熱交換部T3,切替弁V1を経由してポンプP2に戻る循環流路を形成している。第2熱媒体回路22では、熱交換部T5にて冷媒の熱を取り込んだ熱媒体が熱交換部T3に流れ、熱媒体に取り込まれた熱が熱交換部T3にて室内空調装置5内の空気に放出される。
【0024】
第3熱媒体回路23は、熱媒体がポンプP3,熱交換部T6,切替弁V3,熱交換部T4を経由してポンプP3に戻る循環流路を形成している。第3熱媒体回路23では、熱交換部T6にて冷媒に吸熱された熱媒体が熱交換部T4に流れ、熱交換部T4にて外気の熱を吸熱する。
【0025】
図3に示した蓄熱モードでは、第1熱媒体回路21における熱媒体の循環で、発熱部4で発生した熱が蓄熱部3に蓄熱され、第2熱媒体回路22の熱媒体の循環で、冷媒回路10の冷媒から放熱された熱で室内空調装置5の暖房運転がなされ、第3熱媒体回路23の熱媒体の循環で、外気の熱が冷媒回路10の冷媒に吸熱される。
【0026】
蓄熱利用モードは、図4に示すように、切替弁V(V1~V3)の切り替えで、熱媒体回路2が、前述した第2熱媒体回路22と第4熱媒体回路24の独立回路になる。
【0027】
第4熱媒体回路24は、熱媒体がポンプP1,熱交換部T1,熱交換部T2,切替弁V2,ポンプP3,熱交換部T6,切替弁V3,切替弁V1を経由してポンプP1に戻る循環流路を形成している。第4熱媒体回路24では、熱交換部T1にて蓄熱部3に蓄熱された熱を熱媒体に取り込み、更に熱交換部T2にて発熱部4で発熱した熱を熱媒体に取り込み、熱媒体に取り込まれた熱が熱交換部T6にて冷媒に吸熱される。図4に示した蓄熱利用モードでは、蓄熱部3に蓄熱された熱と発熱部4で発生した熱が熱媒体を介して冷媒に吸熱されることで、冷媒回路10の放熱による室内空調装置5の暖房運転が行われている。
【0028】
蓄熱増加モードは、図5に示すように、切替弁V(V1~V3)の切り替えで、熱媒体回路2が、前述した第3熱媒体回路23と第5熱媒体回路25の独立回路になる。
【0029】
第5熱媒体回路25は、熱媒体がポンプP1,熱交換部T1,熱交換部T2,切替弁V2,切替弁V1,ポンプP2,熱交換部T5,熱交換部T3,切替弁V1を経由してポンプP1に戻る循環流路を形成している。第5熱媒体回路25では、熱交換部T2にて発熱部4で発生した熱が熱媒体に取り込まれ、熱交換部T5にて冷媒回路10の放熱による熱が熱媒体に取り込まれ、熱交換部T3にて室内空調装置5の暖房に利用された熱の残りが、熱交換部T1にて蓄熱部3に蓄熱される。図5に示した蓄熱増加モードは、図3に示した蓄熱モードと比較すると、冷媒回路10の放熱のうち暖房に利用されなかった熱が追加で蓄熱部3に蓄熱されることで、蓄熱モードに対して蓄熱量が増加されることになる。
【0030】
図1は、温熱を蓄熱する場合の回路構成を示しているが、図6に示すような回路を備えた蓄熱管理システム1によると、冷熱を蓄熱部3に蓄熱することができる。この際、熱媒体回路2は、熱媒体を循環させるポンプP(P10,P11)を備え、また、熱媒体回路2の流路を各種の制御モードに応じて切り替える切替弁V(V10,V11)を備える。また、熱媒体回路2は、熱媒体と熱交換するための熱交換部T(T10,T11,T12,T13,T14)を備える。
【0031】
図6の例では、熱交換部T10は、熱媒体が蓄熱部3と熱交換するためのものであり、熱交換部T11は、熱媒体がファン6にて送風された外気と熱交換するためのもの(ラジエータ)であり、熱交換部T12,T13は、熱媒体が冷媒回路10の冷媒と熱交換するためのものであり、熱交換部T14は、熱媒体が室内空気と熱交換するために、室内空調装置5にクーラーコアとして設けられるものである。
【0032】
図6に示す蓄熱管理システム1においても、図2に示した制御装置の制御による切替弁V(V10,V11)の切り替えで、熱媒体回路2は、図6の(a)に示す蓄熱モード(冷熱)と(b)に示す蓄熱利用モード(冷熱)に切り替えられる。
【0033】
蓄熱モード(冷熱)では、冷媒回路10にて吸熱器として機能する熱交換部T13を介して低温になった熱媒体は、室内空調装置5の熱交換部T14で冷熱を放熱し、残った冷熱が熱交換部T10を介して蓄熱部3に蓄熱される。また、冷媒回路10にて放熱器として機能する熱交換部T12を介して高温になった熱媒体は、熱交換部T11を介して外気に温熱を放出する。
【0034】
蓄熱利用モード(冷熱)では、熱交換部T13を介して低温になった熱媒体が室内空調装置5の熱交換部T14で冷熱を放熱し、蓄熱部3に蓄熱された冷熱は、熱交換部T12にて冷媒を冷やす。この際、熱交換部T12で熱媒体と熱交換した冷媒は、熱交換部T11を介して外気に放熱する蓄熱モード(冷熱)よりも冷やされるため、冷媒回路の高圧低下を促し、冷房運転時の冷媒回路10の消費電力を低減させることが可能となる。
【0035】
また、図6に示した蓄熱管理システム1における蓄熱増加モードは、制御装置20の制御によって実行され、前述した蓄熱モード(冷熱)において、冷媒回路10の圧縮機11の回転数増加やポンプP(P10,P11)の回転数増加、ファン6の回転数増加で蓄冷機能を増大させる。
【0036】
制御装置20による蓄熱モードから蓄熱増加モードへの移行(蓄熱量増加制御)は、図7に示すアルゴリズムを基本として実行される。すなわち、制御装置20は、入力データに基づいて環境条件変化を検出すると(ステップS1)、その環境状況変化が蓄熱管理システム1の蓄熱に対して有利性が有るか否か判断し(ステップS2)、有利性が無い場合(ステップS2:NO)には、制御を終了し、有利性が有る場合(ステップS2:YES)には、蓄熱量増加制御を実行する(ステップS3)。
【0037】
入力データの種類毎に制御の具体例を説明する。
【0038】
先ず、入力データが外気温度である場合であって、図1に示す蓄熱管理システム1の回路構成で温熱を蓄熱する場合、ステップS1にて外気温度の変化が検出されると、ステップS2にて、以下の何れかの条件(条件1A~1C)を判断し、条件を満足する場合に有利性有り(ステップS2:YES)と判断する。
【0039】
条件1A:外気温度の高さ
(現在の外気温度)>設定値(例えば、15℃)
条件1B:外気温度の上昇量
(現在の外気温度)-(過去の外気温度)>設定値(例えば、+5℃)
条件1C:外気温度変化率
(外気温度変化率)={(現在の外気温度)-(設定時間前の外温度)}/設定時間として、
(外気温度変化率)>設定値(例えば、+5℃/min)
【0040】
この場合の蓄熱量増加制御(ステップS3)の内容としては、例えば、図3に示す蓄熱モード(温熱)から図5に示す蓄熱増加モード(温熱)に切り替えて、ファン6、冷媒回路10の圧縮機11、ポンプP(P1,P2,P3)の各回転数を増加する。
【0041】
また、入力データが外気温度である場合で、図6に示す蓄熱管理システム1の回路構成で冷熱を蓄熱する場合には、ステップS1にて外気温度の変化が検出されると、ステップS2にて、以下の何れかの条件(条件2A~2C)を判断し、条件を満足する場合に有利性有り(ステップS2:YES)と判断する。
【0042】
条件2A:外気温度の低さ
(現在の外気温度)<設定値(例えば、15℃)
条件2B:外気温度の低下量
(現在の外気温度)-(過去の外気温度)<設定値(例えば、-5℃)
条件2C:外気温度の変化率
(外気温度変化率)<所定値(例えば、-5℃/min)
【0043】
この場合の蓄熱量増加制御(ステップS3)の内容としては、図6(a)の蓄熱モード(冷熱)に切り替えて、ファン6、冷媒回路10の圧縮機11、ポンプP(P11,P12)の各回転数を増加する。
【0044】
入力データとしては、運転負荷などで上昇する発熱部4の発熱量によってもステップS2の有利性判断を行うことができる。入力データが発熱量である場合で、図1に示す蓄熱管理システム1の回路構成で温熱を蓄熱する場合、ステップS1にて発熱量の変化が検出されると、ステップS2にて、以下の何れかの条件(条件3A~3C)を判断し、条件を満足する場合に有利性有り(ステップS2:YES)と判断する。
【0045】
条件3A:発熱量の高さ
(現在の発熱量)>設定値
条件3B:発熱量の上昇量
(現在の発熱量)-(過去の発熱量)>設定値
条件3C:発熱量の変化率
(発熱量変化率)={(現在の発熱量)-(設定時間前の発熱量)}/設定時間として、
(発熱量変化率)>設定値
【0046】
この場合の蓄熱量増加制御(ステップS3)の内容としては、例えば、図3に示す蓄熱モード(温熱)において、ポンプP(P1)の回転数を増加して、発熱部4の排熱を効果的に蓄熱部3に回収して蓄熱量を増やす。
【0047】
入力データとしては、移動体の移動速度(例えば、車速)によってもステップS2の有利性判断を行うことができる。入力データが移動速度である場合で、図1に示す蓄熱管理システム1の回路構成で温熱を蓄熱する場合、ステップS1にて移動速度の変化が検出されると、ステップS2にて、以下の何れかの条件(条件4A~4C)を判断し、条件を満足する場合に有利性有り(ステップS2:YES)と判断する。
【0048】
条件4A:移動速度の高さ
(現在の移動速度)>設定値(例えば、40km/h)
条件4B:移動速度の上昇量
(現在の移動速度)-(過去の移動速度)>設定値
条件4C:移動速度の変化率
(移動速度変化率)={(現在の移動速度)-(設定時間前の移動速度)}/設定時間として、
(移動速度変化率)>設定値(例えば、20km/h/min)
【0049】
この場合の蓄熱量増加制御(ステップS3)の内容としては、例えば、熱交換部T4(ラジエータ)と熱交換する外気の風速が相対的に速くなり、外気吸熱量を増やすことができるので、図5の蓄熱増加モードに切替えて、ファン6、冷媒回路10の圧縮機11、ポンプP(P1,P2,P3)の回転数を増加して、蓄熱部3への蓄熱量を増やす。
【0050】
また、入力データが移動速度である場合であって、図6に示す蓄熱管理システム1の回路構成で冷熱を蓄熱する場合、ステップS1にて移動速度の変化が検出されると、ステップS2にて、前述した条件4A~4Cを判断し、条件を満足する場合に有利性有り(ステップS2:YES)と判断する。
【0051】
この場合の蓄熱量増加制御(ステップS3)の内容としては、例えば、熱交換部T11(ラジエータ)と熱交換する外気の風速が相対的に速くなり、外気放熱量を増やすことができるので、図6(a)の蓄熱モード(冷熱)に切り替えて、ファン6、冷媒回路10の圧縮機11、ポンプP(P1,P2,P3)の回転数を増加し、蓄熱部3への蓄熱量を増やす。
【0052】
なお、上記の各条件に用いる外気温度、発熱量、移動速度などは、実測値であってもよいし、所定時間(例えば、1分間)の実測値の平均値のように、実測値から計算される値であってもよい。各条件において、前述した平均値を用いることで、蓄熱に利用できない短時間の変化を平滑化することができ、より適正な蓄熱量増加制御を行うことできる。
【0053】
また、上記の各条件における「現在」と「過去」の時間差は、環境状況が変わったことを変化量として認識することができる程度の時間差であり、例えば、3分間~5分間程度の差に設定することができる。
【0054】
図8は、制御装置20が、図1に示した蓄熱管理システム1にて温熱の蓄熱量増加制御を行う際の制御フローの一例を示している。制御装置20は、前述したステップS1~ステップS3を基本フローとしながら、以下に示す制御フローを実行する。
【0055】
先ず、前述したように、入力データに基づいて、周辺環境の変化を検出し(ステップS1)、周辺環境の変化が検出されると、前述した各条件に基づいて、検出された周辺環境の変化が蓄熱管理システム1にとって有利性が有るか否か判断する(ステップS2)。
【0056】
ステップS2の判断で有効性がある場合に(ステップS2:YES)、この例では、更に継続性の有無が判断される(ステップS03)。ここでの継続性は、前述した有利性が有る状況がどの程度継続するかの継続時間を予測し、予測した継続時間が所定時間を超える場合に、継続性有り(ステップS03:YES)、予測した継続時間が所定時間を超えない場合に、継続性が無い(ステップS03:NO)とする。
【0057】
ステップS03における継続性は、現在位置までの移動経路情報、目的地までの移動経路情報、現在地点の環境情報、目的地までの環境情報、過去の移動履歴情報、現在位置と周辺マップの情報のいずれか又はこれらから選択された情報の組み合わせによって認識することができる。なお、ここでの環境情報は、例えば、温湿度、日射、天気情報(雨・晴れ・雪等)、日向、日陰、等の情報を含む。
【0058】
ステップS03において継続性が無いと判断した場合には(ステップS03:NO)、短時間集中制御(ステップS04)を実行して、制御を終了する。ここでの短時間集中制御は、蓄熱に有利な状況が長続きしない場合であっても、短時間で有利な状況を活用した蓄熱を集中的に行う制御であり、例えば、ファン6の回転数を増大させて外気からの吸熱量を高める、ポンプPの回転数を増大させて熱媒体回路2の流量を高める、圧縮機11の回転数を増大させて冷媒回路の能力を高める、といった制御を行う。
【0059】
そして、ステップS03にて継続性が有ると判断した場合には(ステップS03:YES)、例えば、外気温が所定温度以下で無いか(ステップS05:NO)、或いは外気温が所定温度以下の場合(ステップS05:YES)には、熱交換部T4(ラジエータ)の除霜が必要でないか(ステップS06:NO)を判断して、蓄熱部3の管理温度範囲の拡大を実行(ステップS07)した後、前述した蓄熱量増加制御(蓄熱モードから蓄熱増加モードへの移行)を実行する(ステップS3)。
【0060】
そして、外気温が所定温度以下であり(ステップS05:YES)、熱交換部T4の除霜が必要な場合(ステップS06:YES)には、蓄熱に有利な状況を利用して、走行中の除霜動作を実行する(ステップS09)。この際の走行中の除霜動作では、蓄熱部3の蓄熱を利用し、熱交換部T2を通過した熱媒体を熱交換部T4に流す流路の切り替え(図4に示した蓄熱利用モードにおいて、切替弁V3を3方向開)などを行う。
【0061】
ステップS3の蓄熱量増加制御は、前述したように、熱媒体回路2の切り替え(蓄熱モードから蓄熱増加モードへの移行)と、短時間集中制御(ステップS04)で説明したような、ファン6、ポンプP、圧縮機11の回転数増加を適宜組み合わせて蓄熱量を増大させる。なお、上記図8のフローでは、温熱の蓄熱量増加制御を行う際の制御フローの一例を説明したが、これに限らず、冷熱の蓄熱量増加制御であっても同様に、ステップS03の継続性の有無判断を行い、短時間集中制御と蓄熱量増加制御を使い分けることが可能である。
【0062】
蓄熱管理システム1が備える制御装置20は、図9に示すように、電動車両(EV)の制御を行う各種ECU(Electronic Control Unit)に車載ネットワークLを介して接続された一つのECUとして構成される。制御装置20は、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、入出力I/F(Interface)204、車内通信I/F(Interface)205などを備え、各ハードウェアは、バス206を介して相互に接続されている。
【0063】
CPU201は、ROM202に記憶されている各種プログラムを実行することにより、制御装置20の制御を実行する。ROM202は、不揮発性メモリである。例えば、ROM202は、CPU201により実行されるプログラム、CPU201がプログラムを実行するために必要なデータ等を記憶する。RAM203は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)等の主記憶装置である。例えば、RAM203は、CPU201がプログラムを実行する際に利用する作業領域として機能する。入出力I/F204は、EVに設置される各種センサやモニタに接続され、CPU201にデータを入力すると共に、CPU201が演算処理したデータを出力する。車内通信I/F205は、車載ネットワークLに接続されることで、EVに設定された他のECUとのデータ送受信を制御する。
【0064】
制御装置20は、入出力I/F204や車内通信I/F205を介して、周辺の環境情報関するデータ或いはEVの運転状況に関するデータが入力されることで、CPU201が実行するプログラムによって、前述した蓄熱管理システム1の制御を実行する。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1:蓄熱管理システム,
2:熱媒体回路,21:第1熱媒体回路,22:第2熱媒体回路,
23:第3熱媒体回路,24:第4熱媒体回路,25:第5熱媒体回路,
3:蓄熱部,4:発熱部,5:室内空調装置,6:ファン,
10:冷媒回路,11:圧縮機,12:減圧装置,
20:制御装置,201:CPU,202:ROM,203:RAM,
204:入出力I/F,205:車内通信I/F,206:バス,
T,T1,T2,T3,T4,T5,T6,T10,T11,T12,T13,T14:熱交換部,
P,P1,P2,P3,P10,P11:ポンプ,
V,V1,V2,V3,V10,V11:切替弁,
L:車載ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9