(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】植栽ユニット
(51)【国際特許分類】
A01G 9/02 20180101AFI20250206BHJP
E02D 29/02 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
A01G9/02 103T
E02D29/02 311
E02D29/02 312
(21)【出願番号】P 2021186832
(22)【出願日】2021-11-17
【審査請求日】2024-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】植竹 悠歩
(72)【発明者】
【氏名】竹鼻 恭一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 公軌
【審査官】小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1296738(KR,B1)
【文献】韓国登録特許第10-0568120(KR,B1)
【文献】特開平11-172707(JP,A)
【文献】特開2004-36105(JP,A)
【文献】特開平7-246031(JP,A)
【文献】特開平11-46591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/02
E02D 29/02
17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土圧に対抗する土留壁体の表面から張り出して設けられ、前記土留壁体の前記表面と一体に設けられた植栽部と、
前記植栽部の下部と前記土留壁体が立ち上がる壁体根元部との間で排水が流下可能に設けられ、その上部に空間を有する排水管と、
前記植栽部の植栽空間と前記排水管の上部との間に設けられ前記植栽空間と前記排水管の上部の空間とを仕切る網状部材と、
を備える植栽ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の植栽ユニットにおいて、
前記植栽空間に対向する位置の前記土留壁体の一部が前記土留壁体の内側へ凹んで設けられた壁内空間部が設けられており、
前記排水管の上部は、前記壁内空間部へ向けて開口しており、
前記網状部材は、前記植栽空間と前記壁内空間部との境界に設けられている植栽ユニット。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の植栽ユニットにおいて、
前記排水管の上部には、濾過蓋が設けられている植栽ユニット。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の植栽ユニットにおいて、
前記土留壁体の一部が前記土留壁体の内側へ凹んで設けられた壁体溝部を有し、
前記排水管は、少なくとも一部が前記壁体溝部内に設けられている植栽ユニット。
【請求項5】
請求項4に記載の植栽ユニットにおいて、
前記壁体溝部を覆い、表面の位置が前記土留壁体の表面と略一致する隠蔽部材を備える植栽ユニット。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の植栽ユニットにおいて、
前記壁体溝部の近傍における前記土留壁体の内部の鉄筋が、前記土留壁体の他の部分の鉄筋よりも、間隔を密に配筋されている植栽ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、壁面に設けられる植栽ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
土圧に対抗する土留壁体は、一般にコンクリートにより形成されており、殺風景な外観となることが多い。特に、ドライエリアのように日常的に利用される空間において、土留壁体の壁面の美的外観を向上させることが望まれる。
このドライエリアとは、一般的に、建築物の地下室部分の、外壁の周囲を掘り下げて設けた空間のことで、例えば、建築基準法施行令第22条の2に、からぼりと規定されているものである。
壁面の美的外観を向上させる手法として、植物等を壁面において栽培することが考えられる。例えば、特許文献1、特許文献2には、壁面緑化ユニットが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-335765号公報
【文献】特開2007-306845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の壁面緑化ユニットでは、その内部を水が流下する構成となっていることから、壁面の下端から連続して配置しないと、壁面を水が伝わって流下することとなり、壁面が汚れてしまう。したがって、壁面の下端から連続して配置する必要があることから、設計の自由度が低かった。
また、特許文献1の壁面緑化ユニットは、垂直な面に植栽される構成となっていることから、植栽可能な植物が限られ、植え替え等のメンテナンスも通常とは異なる特殊なやり方が必要となることから、使いづらいものであった。
【0005】
特許文献2の壁面緑化ユニットは、建物の外壁の施工の進捗と共に同時に施工され、壁面緑化ユニットへの給水・排水パイプを建物の外壁面内に挿通するものである。この排水パイプは、その上部に壁面緑化ユニットが直接接続されているので、排水パイプ内に負圧が生じやすく、重力による排水が阻害されるおそれがある。また、壁面緑化ユニットは全体が建物の外壁内に埋設されてしまうので、竣工後の排水系を含めたメンテナンスが困難である。
【0006】
壁面の下端部近傍に植栽可能な領域を配置する通常の花壇であれば、従来の花壇と同様に植え替え等のメンテナンスを行うことができ、また、壁面が汚れてしまう心配もないが、壁面の大部分がそのまま露出する形態となる。また、意匠性も低いものとなってしまう。よって、壁面のより上方においても美的外観を向上させることが望まれる。
【0007】
本開示の第1の課題は、土留壁体と一体にして設ける植栽部において、重力による排水を円滑に行うと共に、建物の竣工後の植栽部や排水系のメンテナンスを容易にすることである。第2の課題は、植栽部から生じる排水に混入しがちな土粒子等による汚れが土留壁体に影響しないようにして、建築環境の衛生や美観を保持することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本開示の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0009】
第1の開示は、土圧に対抗する土留壁体(10)の表面から張り出して設けられ、前記土留壁体(10)の前記表面と一体に設けられた植栽部(20)と、前記植栽部(20)の下部と前記土留壁体(10)が立ち上がる壁体根元部との間で排水が流下可能に設けられ、その上部に空間を有する排水管(31)と、前記植栽部(20)の植栽空間(26)と前記排水管(31)の上部との間に設けられ前記植栽空間(26)と前記排水管(31)の上部の空間とを仕切る網状部材(33)と、を備える植栽ユニット(100)である。
【0010】
第2の開示は、第1の開示に記載の植栽ユニット(100)において、前記植栽空間(26)に対向する位置の前記土留壁体(10)の一部が前記土留壁体(10)の内側へ凹んで設けられた壁内空間部(11)が設けられており、前記排水管(31)の上部は、前記壁内空間部(11)へ向けて開口しており、前記網状部材(33)は、前記植栽空間(26)と前記壁内空間部(11)との境界に設けられている植栽ユニット(100)である。
【0011】
第3の開示は、第1の開示又は第2の開示に記載の植栽ユニット(100)において、前記排水管(31)の上部には、濾過蓋(32)が設けられている植栽ユニット(100)である。
【0012】
第4の開示は、第1の開示から第3の開示までのいずれかに記載の植栽ユニット(100)において、前記土留壁体(10)の一部が前記土留壁体(10)の内側へ凹んで設けられた壁体溝部(12)を有し、前記排水管(31)は、少なくとも一部が前記壁体溝部(12)内に設けられている植栽ユニット(100)である。
【0013】
第5の開示は、第4の開示に記載の植栽ユニット(100)において、前記壁体溝部(12)を覆い、表面の位置が前記土留壁体(10)の表面と略一致する隠蔽部材(34)を備える植栽ユニット(100)である。
【0014】
第6の開示は、第4の開示又は第5の開示に記載の植栽ユニット(100)において、前記壁体溝部(12)の近傍における前記土留壁体(10)の内部の鉄筋が、前記土留壁体(10)の他の部分の鉄筋よりも、間隔を密に配筋されている植栽ユニット(100)である。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、土留壁体と一体にして設ける植栽部において、重力による排水を円滑に行うと共に、建物の竣工後の植栽部や排水系のメンテナンスを容易にすることができる。また、植栽部から生じる排水に混入しがちな土粒子等による汚れが土留壁体に影響しないようにして、建築環境の衛生や美観を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示による植栽ユニット100を有する土留壁体10を示す斜視図である。
【
図2】土留壁体10及び植栽ユニット100の正面図である。
【
図3】土留壁体10及び植栽ユニット100を
図2中の矢印A-Aの位置で切断した断面図である。
【
図4】土留壁体10及び植栽ユニット100を
図3中の矢印B-Bの位置で切断した断面図である。
【
図5】土留壁体10及び植栽ユニット100を
図3及び
図4中の矢印C-Cの位置で切断した断面図である。
【
図6】土留壁体10内の鉄筋の配筋を
図3の断面と同様な状態で示す図である。
【
図7】土留壁体10内の鉄筋の配筋を
図5の断面と同様な状態で示す図である。
【
図8】土留壁体10内の鉄筋の配筋を正面側から見た状態で説明する図である。
【
図9】本実施形態の土留壁体10及び植栽ユニット100の使用形態を
図3と同様な断面によって示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示を実施するための最良の形態について図面等を参照して説明する。
【0018】
(実施形態)
図1は、本開示による植栽ユニット100を有する土留壁体10を示す斜視図である。
図2は、土留壁体10及び植栽ユニット100の正面図である。
図2では、左半分については隠線表示(隠れて見えない構造を破線で示す)で示し、右半分については隠線表示をせずに示している。
図3は、土留壁体10及び植栽ユニット100を
図2中の矢印A-Aの位置で切断した断面図である。
図4は、土留壁体10及び植栽ユニット100を
図3中の矢印B-Bの位置で切断した断面図である。
図5は、土留壁体10及び植栽ユニット100を
図3及び
図4中の矢印C-Cの位置で切断した断面図である。
なお、
図1を含め、以下に示す各図は、模式的に示した図であり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張したり、省略したりして示している。
また、以下の説明では、具体的な数値、形状、材料等を示して説明を行うが、これらは、適宜変更することができる。
また、
図1中に矢印で示す上、下、前、後、左、右の向きを用いて説明を行う。上下方向は鉛直方向であり、前後方向は水平方向であって土留壁体10の表面10aに直交する方向であり、左右方向は水平方向であって前後方向に直交する方向である。
また、
図1中には人物Hを例示しているが、これは利用時の形態を把握しやすくするために例示したものであり、土留壁体10及び植栽ユニット100と人物Hとの大きさの比率を
図1の比率に限定するものではない。
【0019】
本実施形態の土留壁体(土留擁壁)10は、
図1における土留壁体10の背面側(表面10aの反対側
図9のS)の土圧に対抗して設けられる。なお、
図1を含めた各図において、土留壁体10の大きさを小さく示しているが、実際にはより大きな壁面を有して構成してもよい。
図1における土留壁体10の手前側は、例えば、地面を掘り下げる等して構成されたドライエリアとすることができる。
土留壁体10は、後述する鉄筋が内部に配筋された鉄筋コンクリートにより構成されている。
【0020】
植栽ユニット100は、植栽部20と、排水部30とを有している。
植栽部20は、土留壁体10の表面10aから前方へ突出して設けられており、植物を植えて栽培する植栽空間26を構成する。
植栽部20は、底面部21と、正面壁部22と、正面下がり壁部23と、側面壁部24と、側面下がり壁部25とを有しており、土留壁体10の表面10aと一体に設けられている。
【0021】
底面部21は、土留壁体10の表面10aから前方へ板状に突出して延在しており、植栽空間26の底面を構成する。
【0022】
正面壁部22は、底面部21の前端から上方へ向けて板状に突出して延在しており、植栽空間26の前方を塞ぐ壁を構成している。正面壁部22の内側(後方側の面)の上方には、上部照明27が左右方向にわたって設けられている。上部照明27は、点光源を左右方向に複数配置してもよいし、線状光源を左右方向に延在させて配置してもよい。
【0023】
正面下がり壁部23は、底面部21の前端から下方へ向けて板状に突出して延在しており、正面壁部22が下方へ延びた形態となっている。正面下がり壁部23の内側(後方側の面)の下方には、下部照明28が左右方向にわたって設けられている。下部照明28は、点光源を左右方向に複数配置してもよいし、線状光源を左右方向に延在させて配置してもよい。
特に夜間に植栽ユニット100の周囲が暗くなると、上部照明27及び下部照明28を発光させることにより、植栽部20が暗闇のなかで宙に浮いているような浮遊感を演出することもできる。
【0024】
側面壁部24は、正面壁部22の左右端と土留壁体10の表面10aとを繋ぐように板状に設けられている。
側面下がり壁部25は、正面下がり壁部23の左右端と土留壁体10の表面10aとを繋ぐように板状に設けられており、側面壁部24が下方へ延びた形態となっている。
本実施形態では、側面壁部24及び側面下がり壁部25は、正面壁部22及び土留壁体10の表面10aと45度の角度を成すように設けられている。なお、側面壁部24及び側面下がり壁部25と、正面壁部22及び土留壁体10の表面10aとが作る角度は任意に設定でき、角度ではなく、曲率や丸みを帯びた形態として設けてもよい。
【0025】
植栽空間26を囲む部位、より具体的には、底面部21と、正面壁部22と、側面壁部24との内面、及び、土留壁体10の表面10aの植栽空間26に対向する部位には、必要に応じて、防水塗料等を塗布した塗膜防水処理が施されている。
底面部21と、正面壁部22と、側面壁部24とによって植栽空間26の周囲を囲む構成としたことにより、植栽空間26は、通常の花壇のように栽培用の土壌等を入れて植物を通常の花壇と同様に栽培することができる。
【0026】
排水部30は、本実施形態では、1つの植栽空間26において左右に離間して2カ所配置されている。なお、排水部30の数は、1カ所でもよいし、3カ所以上設けてもよく、植栽空間26の大きさに応じて適宜変更して配置するとよい。
排水部30は、壁内空間部11と、壁体溝部12と、接続孔部13と、排水管31と、濾過蓋32と、網状部材33と、隠蔽部材34とを有している。
【0027】
壁内空間部11は、植栽空間26に対向する位置の土留壁体10の一部が土留壁体10の内側(後方)へ凹んで設けられた略直方体形状の空間である。壁内空間部11は、前方に開口しており、植栽空間26と連通している。壁内空間部11の内面には、必要に応じて、防水塗料等を塗布した塗膜防水処理が施されている。
壁内空間部11を設けることにより、後述する排水管31の上部に空間が生じて大気圧開放になりやすく、排水の自然流下を促進できる。また、メンテナンス時等に、この壁内空間部11内に作業者の手を入れることができ、メンテナンス性を向上できる。
【0028】
壁体溝部12は、壁内空間部11の下方にあって、土留壁体10の一部が前記土留壁体の内側へ凹んで設けられ前方が開口した略直方体形状の溝状の空間である。
【0029】
接続孔部13は、壁内空間部11の下部と壁体溝部12の上部との間にあって、壁内空間部11と壁体溝部12とを連通して接続している上下方向に貫通する孔である。
【0030】
排水管31は、壁体溝部12内において上下方向に延在して設けられており、上部が接続孔部13内に設けられており、植栽部20からの排水がこの排水管31の内部を通って下方へ流下可能となるように設けられている。また、排水管31の上部には、濾過蓋32の形状に合わせて漏斗状に開いた接続部材31aが設けられている。さらに、排水管31の下部は、土留壁体が立ち上がる壁体根元部まで延在しており、下端において前方へ屈曲されており、排水を前方へ導くようになっている。
本実施形態では、土留壁体10の前方はドライエリアとしており、後述するように床面にウッドデッキW(
図9参照)を配置している。そのため、ウッドデッキWを支える床面(コンクリートスラブ面)に設ける本設の排水系に、排水管31からの排水を流しこむ構成とした。これにより、建物が本来備える、本設の排水系を利用することで、排水管31からの排水の処理をシンプルにすることができる。なお、本実施形態のように排水管31からの排水を床面に流す構成に限らず、他の排水管や排水溝等に排水を流す構成としてもよい。
【0031】
濾過蓋32は、排水管31の上部、かつ、壁内空間部11の下部に設けられており、排水管31内への異物やゴミ等の侵入を阻止しながら、排水管31内への水の流入を可能とするストレーナとしての機能を有している。濾過蓋32には、例えば、ルーフドレンとして市販されている部材を利用することができる。
濾過蓋32は、土留壁体10に対して着脱自在に取り付けられている。濾過蓋32を着脱自在とする構成としては、例えば、ねじ止めとしてもよいし、濾過蓋32を係合させることができる保持部材を土留壁体10に固定する形態等としてもよい。濾過蓋32を着脱自在として設けることにより、壁内空間部11及び排水管31の清掃や補修等のメンテナンス作業が容易となる。
【0032】
網状部材33は、植栽空間26と排水管31の上部との間に設けられ植栽空間26と排水管31の上部の空間とを仕切る部材である。より具体的には、本実施形態では、網状部材33は、植栽空間26と壁内空間部11との境界に設けられている。
網状部材33は、土留壁体10に対して着脱自在に取り付けられている。網状部材33を着脱自在とする構成としては、例えば、ねじ止めとしてもよいし、網状部材33を係合させることができる保持部材を土留壁体10に固定する形態等としてもよい。網状部材33を着脱自在として設けることにより、壁内空間部11の清掃や補修等のメンテナンス作業が容易となる。
網状部材33は、例えばステンレスメッシュにより構成することができるが、樹脂製としてもよく、材質や形状は適宜選択可能である。
【0033】
隠蔽部材34は、壁体溝部12を覆い、表面の位置が土留壁体10の表面10aと略一致する板状の部材である。隠蔽部材34は、例えば、ステンレス鋼板により構成することができるが、合成樹脂、金属、無機材料等を用いることができる。また、隠蔽部材34の表面は、土留壁体10の表面10aと区別がつきにくいように、土留壁体10の表面10aに合わせた塗装や印刷、装飾等の表面処理を施すことが望ましい。なお、隠蔽部材34の材質や表面の処理は、土留壁体との質感の調整や耐久性等を考慮し、適宜選択することができ、材質や、その表面の処理の方法は上記例示したものに限らない。
本実施形態では、隠蔽部材34は、その下端の位置が排水管31の先端が露出できる位置となっている。なお、この形態に限らず、排水管31の先端を露出させずに、隠蔽部材34を土留壁体10の前方の床面(壁体溝部12の底面)近くまで設けてもよい。この場合、隠蔽部材34の下方に水が流出できる孔やスリット等を設けるとよい。
隠蔽部材34は、土留壁体10に対して着脱自在に設けられている。隠蔽部材34を土留壁体10に対して着脱自在に設ける構成としては、例えば、ねじ止めとしてもよいし、隠蔽部材34を係合させることができる保持部材を土留壁体10に固定する形態等としてもよい。隠蔽部材34を着脱自在として設けることにより、壁体溝部12や排水管31の清掃や補修等のメンテナンス作業が容易となる。
【0034】
次に、土留壁体10内に設けられた鉄筋の補強について説明する。
図6は、土留壁体10内の鉄筋の配筋を
図3の断面と同様な状態で示す図である。
図7は、土留壁体10内の鉄筋の配筋を
図5の断面と同様な状態で示す図である。
図8は、土留壁体10内の鉄筋の配筋を正面側から見た状態で説明する図であり、
図7中に矢印D-Dで示した位置から見た状態に相当する図である。
なお、
図6から
図8では、鉄筋の配筋状態を説明するための図であることから、断面を示すハッチングは省略している。また、植栽部20においても本来は鉄筋が配筋されているが、図示を省略する。
【0035】
土留壁体10は、土圧に対抗するための十分な強度を確保する必要があることから、適切な量の鉄筋が配筋されている。具体的には、土留壁体10の内部の前側には、垂直方向に沿って設けられた前側垂直鉄筋51と、水平方向に沿って設けられ前側垂直鉄筋51と結束線(針金)によって結束された前側水平鉄筋52とが設けられている。同様に、土留壁体10の内部の後側には、垂直方向に沿って設けられた後側垂直鉄筋53と、水平方向に沿って設けられ後側垂直鉄筋53と結束線(針金)によって結束された後側水平鉄筋54とが設けられている。
【0036】
しかし、
図6及び
図7に示すように、壁内空間部11と壁体溝部12と接続孔部13とが設けられている部分は、これらの部分を空間とするために鉄筋を配筋することができない。鉄筋が配筋されていないとその部分の強度低下の恐れがある。
そこで、本実施形態では、壁内空間部11と壁体溝部12と接続孔部13とが設けられている部分の近傍における土留壁体10の内部の鉄筋が、土留壁体10の他の部分の鉄筋よりも、間隔を密に配筋されている構造とした。
【0037】
より具体的には、壁内空間部11と壁体溝部12と接続孔部13とが設けられている部分の近傍では、後側水平鉄筋54の間にさらに補強鉄筋55を設けた。
図6に示すように、壁内空間部11と壁体溝部12と接続孔部13とが設けられている部分から離れた位置において水平方向に延在する後側水平鉄筋54が配列されている間隔をP1とする。また、壁内空間部11と壁体溝部12と接続孔部13とが設けられている部分の近傍で後側水平鉄筋54と補強鉄筋55とが配列されている間隔をP2とする。
図6に示すように、P2=P1/2となっており、壁内空間部11と壁体溝部12と接続孔部13とが設けられている部分の近傍では、他の部分よりも鉄筋が間隔を密にして配筋されている。なお、
図6から
図8において、後側水平鉄筋54と補強鉄筋55とを見分けやすくするために、補強鉄筋55についてのみ黒色に塗りつぶしたり、ハッチングを付したりしている。よって、図中におけるこれらの表現の違いは、後側水平鉄筋54と補強鉄筋55との間に材質や形状等の違いがあることを示すものではない。補強鉄筋55は、後側水平鉄筋54と同等の材料を用いることができる。
【0038】
壁内空間部11と壁体溝部12と接続孔部13とが設けられている部分の近傍とは、土留壁体が対抗すべき土圧や植栽ユニットの大きさや重量などに基づいて都度設計されるので、数値による一般的な定義は困難だが、概ね、壁内空間部11から壁体溝部12にかけての高さに渡って後側垂直鉄筋の付近となるものと想定される。
【0039】
なお、本実施形態では水平方向に延在する鉄筋について補強する構成を例示したが、垂直方向に延在する鉄筋について補強してもよいし、水平方向に延在する鉄筋と、垂直方向に延在する鉄筋との双方において補強してもよい。
【0040】
図9は、本実施形態の土留壁体10及び植栽ユニット100の使用形態を
図3と同様な断面によって示す図である。
土留壁体10の後側には、土壌Sが存在し、土留壁体10がこの土壌Sの土圧に対抗する。
また、土留壁体10の前側は、例えば、ドライエリアとすることができる。
図9の例では、土留壁体10の前側の床面に、ウッドデッキWを配置している。ウッドデッキWの上面の位置は、隠蔽部材34の下端の位置を同じか、少し高いように構成することにより、排水管31を隠すことができる。
【0041】
植栽空間26には、植栽用の栽培土壌等(41~45)を上部照明27が露出可能な位置まで入れて植物Pを植えることができる。
図9に示す例では、植栽空間26には、防根シート41、保水排水パネル42、透水シート43、栽培土壌44、マルチング45が上記順番で下方から上方に向けて重ねて設けられている。
なお、上述した
図9の例に限らず、植栽空間26における植栽形態は、植栽される植物Pに応じて適宜変更可能である。
植栽される植物Pは高木、低木、芝生等があるが、種類は問わない。植物Pを生育する栽培土壌は、自然界の土壌、人工土壌を、保水性、植物を保持する強度、環境への安全性等を基に適宜選択する。また、必要に応じて栽培土壌の表面をマルチングして、雑草、水分の蒸発、病害虫、等の発生に適切に対処するとよい。
また、植栽空間26の底部には、植栽される植物や設置場所の環境に応じて、透水シート、保水排水パネル、防根シート等を適宜設けてもよい。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の植栽ユニット100は、壁内空間部11及び排水管31等を有する排水部30を設けたことにより、植栽部20から生じる排水を土留壁体10から完全に縁切りできる。そして植栽部20を土留壁体10の壁面に床面から離して配置することができ、かつ、土留壁体10の表面10aに生じる水垢や泥水等の汚れを抑制することができ、建物の竣工後の管理に要される手間とコストを削減できる。
また、本実施形態の植栽ユニット100は、植栽部20から生じる排水が流入する排水管31が壁体溝部12の内部に収納され、さらに隠蔽部材34によってこれらが覆われるので、排水系の故障発生時等におけるメンテナンスが容易となり、また、植栽ユニット100の周辺や全体の意匠性を向上できる。
また、本実施形態の植栽ユニット100は、排水部30の近傍では、土留壁体10内の鉄筋量を増強しているので、土圧に安全に対抗するという土留壁体10の本来の機能と、植栽ユニット100による自然と共存できる住環境とを、両立することができる。
また、本実施形態の植栽ユニット100は、濾過蓋32及び網状部材33を有しているので、植栽部20から生じる排水に混入する植栽土壌及び落ち葉等が建物の本設の排水系に流入することを防止できる。
さらに、濾過蓋32と、網状部材33と、隠蔽部材34とは、いずれも着脱自在に設けられていることから、植栽ユニット100の排水部30を、竣工後でも、簡単にメンテナンスすることができる。
【0043】
(変形形態)
以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本開示の範囲内である。
【0044】
実施形態において、植栽ユニット100は、土留壁体10に設けた例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、本開示の植栽ユニットは、土木・建築構造物において人の生活環境と接近し、一定の上下・左右方向の広がりのある壁面に植栽ユニットを1段又は多段に設ける構成としてもよい。例えば、建築構造物ならオフィスビル、ホテル、マンション、医療、療養施設等の屋外・屋内の壁面に設けてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 土留壁体
10a 表面
11 壁内空間部
12 壁体溝部
13 接続孔部
20 植栽部
21 底面部
22 正面壁部
23 正面下がり壁部
24 側面壁部
25 側面下がり壁部
26 植栽空間
27 上部照明
28 下部照明
30 排水部
31 排水管
31a 接続部材
32 濾過蓋
33 網状部材
34 隠蔽部材
41 防根シート
42 保水排水パネル
43 透水シート
44 栽培土壌
45 マルチング
51 前側垂直鉄筋
52 前側水平鉄筋
53 後側垂直鉄筋
54 後側水平鉄筋
55 補強鉄筋
100 植栽ユニット