(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】グリシンベースリンカーを用いたトランスグルタミナーゼコンジュゲーション法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20250206BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20250206BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20250206BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20250206BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250206BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250206BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20250206BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20250206BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20250206BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250206BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250206BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20250206BHJP
C07K 14/52 20060101ALN20250206BHJP
C07K 14/475 20060101ALN20250206BHJP
C07K 14/575 20060101ALN20250206BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20250206BHJP
【FI】
C12P21/02 Z
C07K16/00 ZNA
C07K19/00
A61K47/68
A61K45/00
A61K39/395 L
A61K38/19
A61K38/22
A61K38/18
A61P35/00
A61P29/00
A61P43/00 111
C12N9/10
C07K14/52
C07K14/475
C07K14/575
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2022504337
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 EP2020057697
(87)【国際公開番号】W WO2020188061
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-02-20
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506215308
【氏名又は名称】パウル・シェラー・インスティトゥート
【氏名又は名称原語表記】PAUL SCHERRER INSTITUT
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】シブリ, ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ベーエ, ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】シュピヒャー, フィーリプ
(72)【発明者】
【氏名】フライ, ユリア
(72)【発明者】
【氏名】ヴェアミュラー, イェリ
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/030223(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/128410(WO,A1)
【文献】特表2016-511279(JP,A)
【文献】FEBS Letters,2005, Vol.579, pp.2092-2096
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって、抗体-リンカーコンジュゲートを作製する方法であって、
リンカーを、抗体の重鎖または軽鎖に含まれるグルタミン(Gln)残基にコンジュゲートするステップを含み、
該リンカーは、N末端グリシン(Gly)残基のN末端第一級アミンを介して、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)
m-B-(Aax)
n
(式中、
・mは0
より大きく12以下の整数であり、
・nは0以上12以下の整数であり、
・m+n
>0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・Bは、
・-N-N≡Nまたは-N
3
・Lys(N
3)
・テトラジン
・アルキン
・DBCO
・BCN
・ノルボレン
・トランスシクロオクテン
・-RCOH(アルデヒド)
・アシルトリフルオロボレート
・-SH、および
・システイン
からなる群から選択される連結部分である)
を含む
か、または前記リンカーは構造Gly-CysまたはGly-Lys(N
3
)を有し、そして
前記抗体の前記重鎖もしくは前記軽鎖に含まれる前記Gln残基はグリコシル化IgG抗体の前記C
H
2ドメインのGln残基Q295(EUナンバリング)である、
方法。
【請求項2】
前記リンカーが2つまたはそれよりも多い連結部分Bを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2つまたはそれよりも多い連結部分Bが互いに異なる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抗体-ペイロードコンジュゲートを作製する方法であって、
a)請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲートを作製するステップと、
b)ペイロードを前記抗体-リンカーコンジュゲートの1つまたは複数の連結部分Bに連結するステップと
を含む方法。
【請求項5】
前記ペイロードを、クリック反応を介して前記抗体-リンカーコンジュゲートの前記連結部分Bに連結する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって、抗体-ペイロードコンジュゲートを作製する方法であって、N末端グリシン(Gly)残基のN末端第一級アミンを介して、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)
m-B-(Aax)
n
(式中、
・mは0
より大きく12以下の整数であり、
・nは0以上12以下の整数であり、
・m+n
>0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・Bはペイロードである)
を含むリンカーを、抗体の重鎖または軽鎖に含まれるグルタミン(Gln)残基にコンジュゲートするステップを含
み、前記抗体の前記重鎖もしくは前記軽鎖に含まれる前記Gln残基はグリコシル化IgG抗体の前記C
H
2ドメインのGln残基Q295(EUナンバリング)である、方法。
【請求項7】
前記リンカーが2つまたはそれよりも多いペイロードBを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記2つまたはそれよりも多いペイロードBが互いに異なる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
1つまたは複数の前記ペイロードが、
・毒素
・サイトカイン
・成長因子
・放射性核種
・ホルモン
・抗ウイルス剤
・抗菌剤
・蛍光色素
・免疫調節/免疫刺激剤
・半減期増加部分
・溶解度増加部分
・ポリマー-毒素コンジュゲート
・核酸
・ビオチンまたはストレプトアビジン部分
・ビタミン
・標的結合部分、および
・抗炎症剤
からなる群から選択される、請求項4から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記毒素が、
・ピロロベンゾジアゼピン(PBD)
・オーリスタチン(例えば、MMAE、MMAF)
・メイタンシノイド(メイタンシン、DM1、DM4、DM21)
・デュオカルマイシン
・チューブリシン
・エンジイン(例えば、カリケアマイシン)
・PNU、ドキソルビシン
・ピロールベースキネシンスピンドルタンパク質(KSP)阻害剤
・カリケアマイシン
・アマニチン(例えば、α-アマニチン)、および
・カンプトテシン(例えば、エキサテカン、デルクステカン)
からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記リンカーがカテプシンによって切断可能でない、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記リンカーがバリン-アラニンモチーフもバリン-シトルリンモチーフも含まない、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記
抗体がグリコシル化抗体であり、該グリコシル化抗体が、前記C
H2ドメインの残基N297(EUナンバリング)でグリコシル化されているIgG抗体である、請求項
1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
m+n≦12、11、10、9、8、7、6、5または4である、請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記リンカーの正味電荷が中性または正である、請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記リンカーが、負に荷電したアミノ酸残基を含まない、請求項1から
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記リンカーが、少なくとも1つの正に荷電したアミノ酸残基を含む、請求項1から
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記リンカーが、
・リシン、
・アルギニン、および
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む、請求項1から
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つのペイロードまたは連結部分Bを含む前記リンカーを、前記Gln残基のアミド側鎖にコンジュゲートする、請求項1から
18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記微生物トランスグルタミナーゼが、Streptomyces種、特にStreptomyces mobaraensisに由来する、請求項1から
19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
a)重鎖または軽鎖に少なくとも一つのGln残基を含む抗体、および
b)ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)
m-B-(Aax)
n
を含むリンカーを含む抗体-リンカーコンジュゲートであって、
式中、GlyはN末端第一級アミンを含み、
・mは0
より大きく12以下の整数であり、
・nは0以上12以下の整数であり、
・m+n
>0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・Bは(i)ペイロードまたは
(ii)
・-N-N≡Nまたは-N
3
・Lys(N
3)
・テトラジン
・アルキン
・DBCO
・BCN
・ノルボレン
・トランスシクロオクテン
・-RCOH(アルデヒド)
・アシルトリフルオロボレート
・-SH、および
・システイン
からなる群から選択される連結部分である
か、または前記リンカーは構造Gly-CysまたはGly-Lys(N
3
)を有し、
該リンカーは、該リンカーにおいて含まれるN末端グリシン残基の該N末端第一級アミンを介して該抗体の該重鎖または該軽鎖におけるGln残基のアミド側鎖にコンジュゲートされ
、
そして
前記抗体の前記重鎖もしくは前記軽鎖に含まれる前記Gln残基はグリコシル化IgG抗体の前記C
H
2ドメインのGln残基Q295(EUナンバリング)である、
抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項22】
2つまたはそれよりも多いペイロードおよび/または連結部分Bを含む、請求項
21に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項23】
1つまたは複数の前記ペイロードが、
・毒素
・サイトカイン
・成長因子
・放射性核種
・ホルモン
・抗ウイルス剤
・抗菌剤
・蛍光色素
・免疫調節/免疫刺激剤
・半減期増加部分
・溶解度増加部分
・ポリマー-毒素コンジュゲート
・核酸
・ビオチンまたはストレプトアビジン部分
・ビタミン
・標的結合部分、および
・抗炎症剤
からなる群から選択される、請求項
21または
22に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項24】
前記毒素が、
・ピロロベンゾジアゼピン(PBD)
・オーリスタチン(例えば、MMAE、MMAF)
・メイタンシノイド(メイタンシン、DM1、DM4、DM21)
・デュオカルマイシン
・チューブリシン
・エンジイン(例えば、カリケアマイシン)
・PNU、ドキソルビシン
・ピロールベースキネシンスピンドルタンパク質(KSP)阻害剤
・カリケアマイシン
・アマニチン(例えば、α-アマニチン)、および
・カンプトテシン(例えば、エキサテカン、デルクステカン)
からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
23に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項25】
カテプシンによって切断可能でない、請求項
21から
24のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項26】
バリン-アラニンモチーフもバリン-シトルリンモチーフも含まない、請求項
21から
25のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項27】
m+n≦12、11、10、9、8、7、6、5または4である、請求項
21から
26のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項28】
前記リンカーの正味電荷が中性または正である、請求項
21から
27のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項29】
負に荷電したアミノ酸残基を含まない、請求項
21から
28のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項30】
少なくとも1つの正に荷電したアミノ酸残基を含む、請求項
21から
29のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項31】
・リシン、
・アルギニン、および
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む、請求項
21から3
0のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項32】
表5に示されるリストから選択される、請求項
21から
31のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項33】
少なくとも
a)請求項
21から
32のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲートであって、
前記1つまたは複数のペイロードが、前記リンカーに共有結合または非共有結合している、抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項34】
前記1つまたは複数のペイロードが、クリック反応で、前記リンカーの連結部分Bに共有結合している、請求項
33に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項35】
少なくとも1つの毒素を含む、請求項
21から
34のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項36】
毒素および薬物流出トランスポーターの阻害剤を含む、請求項
35に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項37】
毒素および溶解度増加部分を含む、請求項
35に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項38】
毒素および免疫刺激剤を含む、請求項
35に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項39】
2つの異なる毒素を含む、請求項
35に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項40】
第1の毒素が細胞分裂を阻害する毒素であり、第2の毒素がDNAの複製および/または転写を妨害する毒素である、請求項
39に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項41】
前記毒素の少なくとも1つがオーリスタチンまたはメイタンシノイドである、請求項
35から
40のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項42】
2つの免疫刺激剤を含む、請求項
21から
41のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項43】
少なくとも1つの免疫刺激剤がTLRアゴニストである、請求項
38から
42のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項44】
放射性核種および蛍光色素を含む、請求項
21から
34のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項45】
前記放射性核種が断層撮影、特に単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)または陽電子放射断層撮影(PET)での使用に適した放射性核種であり、前記蛍光色素が近赤外蛍光色素である、請求項
44に記載の抗体-リンカーコンジュゲート。
【請求項46】
請求項
21から
45のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲートを含む医薬組成物。
【請求項47】
請求項
21から
45のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲートまたは請求項
46に記載の医薬組成物、および少なくとも1つのさらなる薬学的に許容される成分を含む医薬製品。
【請求項48】
治療および/または診断で使用するための、請求項
21から
45のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲートを含む組成物、請求項
46に記載の医薬組成物または請求項
47に記載の医薬製品。
【請求項49】
新生物疾患、神経疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患または感染性疾患
・を患っている、
・を発症するリスクがある、および/または
・と診断されている
患者の処置で使用するための、請求項
21から
45のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲートを含む組成物、請求項
46に記載の医薬組成物または請求項
47に記載の医薬製品。
【請求項50】
新生物疾患を患っている患者の処置で使用するための、請求項
21から
45のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲートを含む組成物、請求項
46に記載の医薬組成物または請求項
47に記載の医薬製品。
【請求項51】
新生物疾患、神経疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患または感染性疾患
・を患っている、
・を発症するリスクがある、および/または
・と診断されている
患者を処置するための医薬を製造するための、請求項
21から
45のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲート、請求項
46に記載の医薬組成物または請求項
47に記載の医薬製品の使用。
【請求項52】
新生物疾患を処置または予防するための、請求項
21から
45のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲートを含む組成物、請求項
46に記載の医薬組成物または請求項
47に記載の医薬製品。
【請求項53】
術前、術中または術後イメージングで使用するための、請求項
21から
45のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲートを含む組成物、請求項
46に記載の医薬組成物または請求項
47に記載の医薬製品。
【請求項54】
術中イメージング誘導がん外科手術で使用するための、請求項
21から
45のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲートを含む組成物、請求項
46に記載の医薬組成物または請求項
47に記載の医薬製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、微生物トランスグルタミナーゼによって、抗体-ペイロードコンジュゲートを作製する方法に関する。本発明はさらに、リンカー、リンカー-ペイロード構築物および/または抗体-ペイロード構築物を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
極めて強力なペイロードを抗体に結合させることは、がんまたは炎症性疾患の標的化処置のためにますます関心を集めている。これにより得られる構築物は、抗体-ペイロードコンジュゲート、または抗体-薬物コンジュゲート(ADC)と呼ばれる。
【0003】
現在、7種のADC(Adcetris、Kadcyla、Besponsa、Mylotarg、Polivy、Padcev、Enhertu)がFDA承認されており、その全てが、非部位特異的様式で抗体に化学的に結合したペイロードを有する。よって、得られる製品は、抗体とペイロードとの間の化学量論的関係(ペイロードの抗体に対する比、または薬物の抗体に対する比、DAR)と、抗体上のコンジュゲーション部位の両方に関して、高度に不均一である。得られる分子種の各々は、同じ薬物製品中にあるものの、別個の特性を有し、広範囲の異なるin vivo薬物動態特性および活性を潜在的にもたらし得る。
【0004】
以前のin vivo研究(Lhospice et al., 2015)で、部位特異的薬物結合が、FDA承認ADCと比較して有意に高い腫瘍取り込み(約2倍)および非標的組織における取り込みの減少をもたらし、最大耐用量も少なくとも3倍の高さであることが示された。これらのデータは、化学量論的に十分規定されたADCが、化学修飾ADCと比較して改善した薬物動態および優れた治療指数を示すことを示唆している。
【0005】
部位特異的技術として、酵素コンジュゲーションは、これらのコンジュゲーション反応が典型的に速く、生理的条件下で実施され得るので、大きな関心を集めている。利用可能な酵素の中でも、Streptomyces mobaraensis種由来の微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)が、抗体を含む機能的部分の従来の化学タンパク質コンジュゲーションの魅力的な代替物としてますます関心を集めている。MTGは、生理的条件下で、タンパク質またはペプチドの「反応性」グルタミンとタンパク質またはペプチドの「反応性」リシン残基との間のアミド基転移反応を触媒するが、後者は5-アミノペンチル基などの単純な低分子量第一級アミンであってもよい(Jeger et al., 2010、Strop et al., 2014)。
【0006】
形成される結合は、それぞれのポリペプチドまたはタンパク質のペプチド結合骨格の一部を形成しないアミド結合であるイソペプチド結合である。これは、アシルグルタミン含有アミノ酸ドナー配列のグルタミル残基のγ-カルボキサミドと、本発明によるアミノドナーを含む基質の第一級(1°)アミンとの間に形成される。
【0007】
本発明者ら、および他の者たちの経験から、ごくわずかなグルタミンしかMTGによって典型的に標的化されないので、MTGが部位特異的および化学量論的タンパク質修飾の魅力的なツールとなるように思われる。
【0008】
以前、グルタミン295(Q295)が、低分子量第一級アミン基質を有するMTGによって特異的に標的とされる様々なIgG型の重鎖上の唯一の反応性グルタミンとして同定された(Jeger et al. 2010)。
【0009】
しかしながら、Q295への定量的コンジュゲーションは、PNGアーゼFによってアスパラギン残基297(N297)のグリカン部分を除去する場合にのみ可能であり、グリコシル化抗体を効率的にコンジュゲートすることはできなかった(コンジュゲーション効率<20%)。この知見は、Mindt et al. (2008)およびJeger et al. (2010)およびDickgiesser et al. 2020の研究によっても裏付けられている。
【0010】
脱グリコシル化を不要にするために、点変異を残基N297に挿入して、アグリコシル化(aglycosylation)と呼ばれるグリコシル化の消失をもたらすことも可能である。
【0011】
しかしながら、どちらのアプローチも重大な欠点がある。酵素的脱グリコシル化ステップは、脱グリコシル化酵素(例えば、PNGアーゼF)と切断グリカンの両方を培地から除去して高純度産物を確保することを確実にしなければならないため、GMPの見地から望ましくない。
【0012】
別のアミノ酸に対するN297の置換も、CH2ドメインの全体的な安定性、および結果としてコンジュゲート全体の有効性に影響を及ぼし得るので、望ましくない効果を有する。さらに、N297に存在するグリカンは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)などを誘発するので、重要な免疫調節効果(immunomodulatory effect)を有する。これらの免疫調節効果は、脱グリコシル化または別のアミノ酸に対するN297の置換で失われることになる。
【0013】
さらに、ペイロード結合のための抗体の遺伝子操作は、配列挿入が免疫原性を増加させ、抗体の全体的な安定性を低下させ得るという点で欠点を有し得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Lhospice et al., Site-Specific Conjugation of Monomethyl Auristatin E to Anti-Cd30 Antibodies Improves Their Pharmacokinetics and Therapeutic Index in Rodent Models, Mol Pharm 12 (6), 1863-1871. 2015
【文献】Jeger et al, Site-specific and stoichiometric modification of antibodies by bacterial transglutaminase. Angew Chem Int Ed Engl. 2010 Dec 17;49(51):9995-7
【文献】Strop, et al., Versatility of Microbial Transglutaminase. Bioconjugate Chemistry 2014, 25 (5), 855-862.
【文献】Mindt, et al., Modification of different IgG1 antibodies via glutamine and lysine using bacterial and human tissue transglutaminase. Bioconjugate chemistry 2008, 19 (1), 271-8.
【文献】Dickgiesser S. et al., Site-Specific Conjugation of Native Antibodies Using Engineered Microbial Transglutaminases. Bioconjug Chem. 2020 Mar 12. doi: 10.1021/acs.bioconjchem.0c00061.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
よって、本発明の1つの目的は、抗体の、特にN297の事前の脱グリコシル化を必要としない、トランスグルタミナーゼベース抗体コンジュゲーションアプローチを提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、CH2ドメインのN297の置換も修飾も必要としない、トランスグルタミナーゼベース抗体コンジュゲーションアプローチを提供することである。
【0017】
本発明の1つのさらなる目的は、化学量論ならびにコンジュゲーションの部位特異性の両方に関して、高度に均一なコンジュゲーション産物の製造を可能にする抗体コンジュゲーション技術を提供することである。
【0018】
これらのおよびさらなる目的は、本発明の独立請求項による方法および手段により満たされる。従属請求項は、具体的な実施形態に関する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明の概要
本発明は、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって、抗体-リンカーコンジュゲートおよび/または抗体-ペイロードコンジュゲートを作製するための方法およびリンカー構造に関する。本発明およびその特徴の一般的な利点を以下で詳細に論じる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一態様の図を示す。MTG=微生物トランスグルタミナーゼ。星型記号はペイロードまたは連結部分Bを示す。Gpは、ペプチドのN末端にあり、MTGの基質である、Gly残基である。このプロセスが、N297でのグリコシル化を維持することを可能にすることに留意されたい。B/星型が連結部分である場合、実際のペイロードを依然としてこの部分にコンジュゲートしなければならないことに留意されたい。 本明細書の他の箇所で論じられるように、B/星型は、例えば、DBCO含有ペイロード(例えば、毒素または蛍光色素または金属キレート剤、例えばDOTAまたはNODA-GA)への歪み促進型アルキン-アジド付加環化(strain-promoted alkyne-azide cycloaddition)(SPAAC)クリックケミストリー反応に適した連結部分、例えば生体直交型(bio-orthogonal)基(例えば、アジド/N
3基)であり得る、またはこれを含み得る。機能性部分を抗体に結合させるこのクリックケミストリーベースの「2ステップ化学酵素的」アプローチは、抗体と比較して低分子過剰で、典型的には例えば5またはそれよりも低い当量/コンジュゲーション部位でクリックすることができるので、大きな利点を有する(Dennler et al. 2014)。これにより、ADCの費用対効果の高い作製が可能になる。さらに、蛍光色素から金属キレート剤に及ぶ事実上任意のプローブをこのアプローチでクリックすることができる(Spycher et al. 2017、Dennler et al. 2015参照)。 B/星型はまた、実際のペイロード、例えば毒素であってもよい。このような実施形態は、1ステップでの得られる化合物の迅速な製造(manufacture)を可能にし、精製および製造(production)を容易にする。
【0021】
【
図2】
図2は、本発明によるオリゴペプチドを含むリンカーペプチドの例を示す。配列はGlyAlaArgLys(N
3)(GARK
1、K
1=Lys(N
3))である。Lys(N
3)は、第一級アミンがアジド基(-N-N≡Nまたは-N
3)によって置き換えられているLys残基である。本発明の命名法によると、Lys(N
3)またはN
3のみを連結部分Bとみなすことができる(この例では、N
3がクリックケミストリーに適している)。 ペプチドは、Q295位で天然IgG1抗体に効率的にコンジュゲートする(非最適化条件下でLC-MS分析から推定すると約77.3%)。 本明細書に示される一部のリンカーペプチドでは、C末端の部分を単にN
3と示すことを理解することが重要である。しかしながら、これは、Lys(N
3)の略語と理解すべきである。例えば、GAR(N
3)は、ペプチドGlyAlaArgLys(N
3)またはGARK(N
3)に相当する。すなわち、6-アジド-L-リシンは、3文字表記でLys(N
3)、または1文字表記でK(N
3)もしくは(N
3)と略され得る。よって、K(N
3)は、ペプチドの一部である場合、常に単一アミノ酸残基Lys(N
3)に関するが、ジペプチドLys-Lys(N
3)に関するわけではないことを理解すべきである。他方、ジペプチドLys-Lys(N
3)は、1文字表記でKK(N
3)と示されることになる。 本明細書に示される様々なリンカーペプチドでは、C末端または側鎖上の第一級アミンが、他の方法で示されている場合でも、保護されていてもされていなくてもよいことを理解することがさらに重要である。保護は、例えばC末端のアミド化および/または側鎖上の第一級アミンのアセチル化によって達成することができる。本発明の文脈では、保護されたリンカーペプチドと保護されていないリンカーペプチドの両方が包含される。 例えば、GARK(N3)は、実際、C末端が保護されているまたは保護されていない2つのバリアントを包含する。以下の図は、C末端がアミド化によって保護されている、C末端Lys(N
3)残基を示す:
【化1】
【0022】
【
図3】
図3は、天然IgG1抗体に対する小さな所与のペプチドライブラリーのスクリーニングの結果を示す。MTG反応性N末端アミノ酸残基または誘導体(ベータ-アラニン)を含有する様々なペプチドをスクリーニングした。見て分かるように、単一または二重N末端グリシンが最も効率的に働く。LC-MSを分析に使用した。
【0023】
【
図4】
図4および
図5は、リンカーが、マレイミドを含む毒素リンカー構築物をコンジュゲートするのに適した、遊離スルフヒドリル基を有するCys残基を含む、実施形態を示す。
図4は結合反応を示し、
図5は一部の潜在的なリンカー構築物を示す。
【0024】
【
図5】
図4および
図5は、リンカーが、マレイミドを含む毒素リンカー構築物をコンジュゲートするのに適した、遊離スルフヒドリル基を有するCys残基を含む、実施形態を示す。
図4は結合反応を示し、
図5は一部の潜在的なリンカー構築物を示す。
【0025】
【
図6】
図6は、ペプチドが抗体のGlnにコンジュゲートされる(例えば、IgGのQ295または分子操作された)2ステップコンジュゲーションプロセス(
図6A)および本発明による1ステップコンジュゲーションプロセス(
図6B)を示す。以下の表1は、本明細書で使用される2つの用語を明らかにする:
【表1】
2ステッププロセスでは、リンカーペプチドがGly-(Aax)
n-Cys-連結部分である。Gly残基を、微生物トランスグルタミナーゼを介して抗体のGln残基にコンジュゲートし、次いで、連結部分-この場合、遊離スルフヒドリル基を有するCys残基-を、マレイミドを介して、ペイロード、この場合、MC/VC/PABDCリンカー構造を有するMMAE毒素にコンジュゲートする。
1ステッププロセスでは、リンカーペプチドGly-(Aax)
mがペイロードに既にコンジュゲートされている。Gly残基を抗体のGln残基にコンジュゲートし、ペイロードは、VC/PABC構造を有するMMAE毒素からなる。VC構造のバリン残基を、ペプチド結合によって、リンカーペプチドの最後のアミノ酸にコンジュゲートする。
【0026】
【
図7】
図7は、二重ペイロード結合に適したリンカーを含むリンカーの2つの例を示す。
図7Aは、アジド(N3)である第1の連結部分を有するペプチドを示し、第2の連結部分はテトラジンである(共に生体直交型)。オリゴペプチドの構造は、GlyAlaArgLys(N
3)Lys(テトラジン)(GARK
1K
2、K
1=Lys(N
3)、K
2=Lys(テトラジン))である。
図7Bは、アジド(N
3)およびCys部分由来の遊離スルフヒドリル基を有するペプチドを示す。オリゴペプチドの構造は、GlyAlaArgLys(N
3)Cys(GARK
1C、K
1=Lys(N
3))である。 連結部分の各々が、同時にクリックすることができる生体直交型適合性基である。 よって、これらのリンカーは、2つの異なるペイロードを抗体のC
H2ドメインのQ295にコンジュゲートすることを可能にする。第2のペイロードを使用することにより、有効性および効力に関して現在の治療アプローチを超える完全に新たなクラスの抗体-ペイロードコンジュゲートの開発が可能になる。新たな適用分野、例えば、イメージングおよび治療または術中/術後外科手術のための二重型イメージングが想起される(Azhdarinia A. et al., Molec Imaging and Biology, 2012参照)。例えば、術前陽電子放射断層撮影(PET)のための分子イメージング剤および外科的マージンの誘導描写のための近赤外蛍光(NIRF)色素を包含する二重標識抗体は、がんの診断、病期分類および切除を大いに増強することができる(Houghton JL. et al., PNAS 2015参照)。PETおよびNIRF光学イメージングは、補完的臨床用途を提供し、それぞれ、疾患を限局化するための非侵襲的全身イメージングおよび外科手術中の腫瘍マージンの特定を可能にする。しかしながら、このような二重標識プローブの作製は今日まで、適切な部位特異的方法の欠如により困難であった;化学的手段によって2つの異なるプローブを結合させると、プローブのランダムコンジュゲーションにより、ほとんど不可能な分析および再現性がもたらされる。さらに、Levengood M. et al., (Angewandte Chemie, 2016)の研究で、2つの異なるオーリスタチン毒素(異なる物理化学特性を有し、補完的抗がん活性を及ぼす)が結合した二重薬物標識抗体は、個々のオーリスタチン成分で構成されるADCに対して難治性の細胞系および異種移植片モデルにおいて活性を与えた。これは、二重標識ADCが、単一の従来のADC単独よりも有効にがん不均一性および耐性に対処することを可能にすることを示唆している。ADCに対する1つの耐性機構は、がん細胞からの細胞傷害性部分の活発な送り出しを含むので、別の二重薬物用途は、細胞傷害性薬物の流出機構を特異的に遮断する薬物の付加的な同時の送達を含み得る。よって、このような二重標識ADCは、従来のADCよりも有効にADCに対するがん耐性を克服するのを助け得る。 アルキンまたはテトラジン/トランス-シクロオクテンがリンカーとして使用されている同様の構造も等しく適しており、本発明の範囲および趣旨に網羅される。 本明細書に示される一部のリンカーペプチドでは、C末端の部分を単にN
3と示すことを理解することが重要である。しかしながら、これを、Lys(N
3)の略語として理解すべきである。例えば、GAR(N
3)またはGARK(N
3)は、実際には、GARK
1、K
1=Lys(N
3)またはGlyAlaArgLys(N
3)を意味する。 本明細書に示される様々なリンカーペプチドでは、C末端は、他の方法で示されている場合でも、保護されていてもされていなくてもよいことを理解することがさらに重要である。保護は、C末端のアミド化によって達成され得る。リンカーの抗体へのコンジュゲーションは、リンカーのN末端グリシン残基の第一級アミンを介して達成されるので、リンカーのN末端は、好ましくは保護されていない。本発明の文脈では、保護されたリンカーペプチドと保護されていないリンカーペプチドの両方が包含される。例えば、GARK(N
3)は、実際、a)上に論じられるように両末端が保護されていない、またはb)上に論じられるようにC末端のみが保護されている、2つのバリアントを包含する。 C末端がアミド化されているか、されていないかという問題は、コンジュゲーション条件(バッファ、培地、他の反応成分の反応性等)に応じた実際上の問題である。
【0027】
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、それぞれ2つのアジドリンカー部分を有する2つの可能なリンカー構造を示す。
図8Aは、GlyGlyAlaArgLys(N
3)Lys(N
3)(GGARK
1K
2、K
1およびK
2=Lys(N
3))を示す。
図8Bは、GlyGlyAlaArgLys(N
3)ArgLys(N
3)(GGARK
1RK
2;K
1およびK
2=Lys(N3))を示す。このようにして、抗体ペイロード比4を得ることができる。荷電Arg残基の存在が、疎水性ペイロードを溶液中に保つのを助ける。 本明細書に示される一部のリンカーペプチドでは、C末端の部分を単にN
3と示すことを理解することが重要である。しかしながら、これを、Lys(N
3)の略語として理解すべきである。例えば、GAR(N
3)またはGARK(N
3)は、実際には、GARK
1、K
1=Lys(N
3)またはGlyAlaArgLys(N
3)を意味する。
【0028】
【
図9-1】
図9は、天然抗体へのMTG媒介コンジュゲーションに適したさらなるリンカーを示す。
【
図9-2】
図9は、天然抗体へのMTG媒介コンジュゲーションに適したさらなるリンカーを示す。
【
図9-3】
図9は、天然抗体へのMTG媒介コンジュゲーションに適したさらなるリンカーを示す。これらのリンカー構造は、第2のステップでの機能的ペイロードのクリックケミストリーベース結合に適した連結部分(アジド、N3)、またはマレイミドへの結合に適したチオール基を提供するCys残基を含有する。これらの構造は、その化学が十分に理解されており、単一アミノ酸の基本要素から組み立てられるペプチドに基づくので、新たなリンカーを迅速かつ容易に合成および評価することができる。以下の表2は概要を示す:
【表2】
【0029】
【
図10】
図10は、IgG1抗体の軽鎖がコンジュゲーションによって修飾されていないことを示す。IgG1軽鎖のデコンボリューション処理をしたLC-MSスペクトルを示す。
【0030】
【
図11-1】
図11Aは、N
3-機能性リンカーGGARK(N
3)で選択的に修飾されたトラスツズマブ天然IgG1重鎖のデコンボリューション処理をしたLC-MSスペクトルを示す。スペクトルから、観察される質量の差が予想されるペプチド質量シフトに相当するので(Mw未修飾重鎖=50595Da、予想Mw=51091Da、測定Mw=51092Da)、重鎖がただ1つのペプチドリンカーで選択的かつ定量的(95%超)に修飾されたことが分かる。
図11Bは、重鎖に予め取り付けられたN
3-機能性リンカーGGARK(N
3)にDBCO-PEG4-Ahx-DM1で選択的にクリックされたトラスツズマブ天然IgG1重鎖のデコンボリューション処理をしたLC-MSスペクトルを示す。スペクトルから、重鎖が選択的かつ定量的(95%超)にクリックされたことが分かる。
図11Cは、非最適化コンジュゲーション条件下で、GGARK(N
3)で修飾された別のIgG1重鎖のデコンボリューション処理をしたLC-MSを示す。コンジュゲーション比:83%。
【
図11-2】
図11Aは、N
3-機能性リンカーGGARK(N
3)で選択的に修飾されたトラスツズマブ天然IgG1重鎖のデコンボリューション処理をしたLC-MSスペクトルを示す。スペクトルから、観察される質量の差が予想されるペプチド質量シフトに相当するので(Mw未修飾重鎖=50595Da、予想Mw=51091Da、測定Mw=51092Da)、重鎖がただ1つのペプチドリンカーで選択的かつ定量的(95%超)に修飾されたことが分かる。
図11Bは、重鎖に予め取り付けられたN
3-機能性リンカーGGARK(N
3)にDBCO-PEG4-Ahx-DM1で選択的にクリックされたトラスツズマブ天然IgG1重鎖のデコンボリューション処理をしたLC-MSスペクトルを示す。スペクトルから、重鎖が選択的かつ定量的(95%超)にクリックされたことが分かる。
図11Cは、非最適化コンジュゲーション条件下で、GGARK(N
3)で修飾された別のIgG1重鎖のデコンボリューション処理をしたLC-MSを示す。コンジュゲーション比:83%。
【0031】
【
図12】
図12Aは、GARK(N
3)で修飾されたトラスツズマブ重鎖のデコンボリューション処理をしたLC-MSを示す。95%超のコンジュゲーション効率が達成された。
図12Bは、DBCO-PEG4-Ahx-DM1でクリックした、GARK(N
3)で修飾されたトラスツズマブ重鎖のデコンボリューション処理をしたLC-MSを示す。95%超のクリック効率が達成され、DAR2を有するADCが得られた。
【0032】
【
図13】
図13は、様々なナンバリングスキームによるIg C
H2ドメインの概要を示す。本発明の目的のために、EUナンバリングを使用している。
【0033】
【
図14】
図14は、遊離第一級アミンを有するN末端Gly残基を有するリンカーを、抗体のQ295残基の遊離第一級アミンにコンジュゲートするトランスグルタミナーゼ反応を示す。
【0034】
【
図15】
図15。ペイロードで標識されたジベンゾシクロオクチンへのクリックケミストリー反応スキーム(リンカーGlyAlaArgLys(N
3)(GARK
1、K
1=Lys(N
3)をコンジュゲートする歪み促進型アルキン-アジド付加環化(SPAAC))。
【0035】
【
図16】
図16は、それぞれ非天然アミノ酸を含む、本発明の文脈で使用することができる様々なペプチドリンカーを示す。
【0036】
【
図17-1】
図17は、本明細書に記載される方法により抗体にコンジュゲートすることができる様々なリンカー毒素構築物を示す。全ての場合で、Gly残基が、トランスグルタミナーゼコンジュゲーションのための第一級アミンを有する。
図17A。この図は、疎水性ペイロードであるメイタンシン(May)の溶解度を増加させるのに役立つ2つのアルギニン基を有する非切断性GGARR-Ahx-Mayペプチド-毒素コンジュゲートを示す。N末端グリシン残基の第一級アミンは、MTGを介した抗体へのコンジュゲーションに役立つ。リンカーが非切断性であるため、Ahx-スペーサーは、正に荷電したアルギニンをMayから分断するのに役立ち、Mayがより効率的にその標的に結合するのを助ける。
図17B。この図は、2つのアルギニン基およびPEG4スペーサーを有し、3つの部分全てが疎水性ペイロードMayの溶解度を増加させるのに役立つ、非切断性GGARR-PEG4-Mayペプチド-毒素コンジュゲートを示す。N末端グリシン残基の第一級アミンは、MTGを介した抗体へのコンジュゲーションに役立つ。リンカーが非切断性であるため、PEG4はさらに、正に荷電したアルギニンをMayから分断するのに役立ち、Mayがより効率的にその標的に結合するのを助ける。
図17C。この図は、2つのアルギニン基、PEG4スペーサー、PABC基およびval-cit配列(VC)を有する切断性GGARR-PEG4-VC-MMAEペプチド-毒素コンジュゲートを示す。N末端グリシン残基の第一級アミンは、MTGを介した抗体へのコンジュゲーションに役立ち、アルギニン基およびPEG4スペーサーは、溶解度を増加させるのに役立ち、PABC基およびval-cit配列は毒素を放出するのを助ける。
図17D。この図は、2つのアルギニン基およびPABC基を有し、PEGスペーサーおよびval-cit配列を有さない切断性GGARR-MMAEペプチド-毒素コンジュゲートを示す。GGARR基はペプチダーゼによって本質的に分解可能であるので、自壊性(self-immolative)PABC部分を通した毒素放出にval-cit配列は必要ではなく、2つのアルギニン基は極めて親水性であるので、PEGスペーサーは必要とされず、よって、ペプチド-毒素コンジュゲート全体が、血液循環中に他の分子との望ましくない相互作用を最小化するよう可能な限り小さく保たれ得る。
【
図17-2】
図17は、本明細書に記載される方法により抗体にコンジュゲートすることができる様々なリンカー毒素構築物を示す。全ての場合で、Gly残基が、トランスグルタミナーゼコンジュゲーションのための第一級アミンを有する。
図17A。この図は、疎水性ペイロードであるメイタンシン(May)の溶解度を増加させるのに役立つ2つのアルギニン基を有する非切断性GGARR-Ahx-Mayペプチド-毒素コンジュゲートを示す。N末端グリシン残基の第一級アミンは、MTGを介した抗体へのコンジュゲーションに役立つ。リンカーが非切断性であるため、Ahx-スペーサーは、正に荷電したアルギニンをMayから分断するのに役立ち、Mayがより効率的にその標的に結合するのを助ける。
図17B。この図は、2つのアルギニン基およびPEG4スペーサーを有し、3つの部分全てが疎水性ペイロードMayの溶解度を増加させるのに役立つ、非切断性GGARR-PEG4-Mayペプチド-毒素コンジュゲートを示す。N末端グリシン残基の第一級アミンは、MTGを介した抗体へのコンジュゲーションに役立つ。リンカーが非切断性であるため、PEG4はさらに、正に荷電したアルギニンをMayから分断するのに役立ち、Mayがより効率的にその標的に結合するのを助ける。
図17C。この図は、2つのアルギニン基、PEG4スペーサー、PABC基およびval-cit配列(VC)を有する切断性GGARR-PEG4-VC-MMAEペプチド-毒素コンジュゲートを示す。N末端グリシン残基の第一級アミンは、MTGを介した抗体へのコンジュゲーションに役立ち、アルギニン基およびPEG4スペーサーは、溶解度を増加させるのに役立ち、PABC基およびval-cit配列は毒素を放出するのを助ける。
図17D。この図は、2つのアルギニン基およびPABC基を有し、PEGスペーサーおよびval-cit配列を有さない切断性GGARR-MMAEペプチド-毒素コンジュゲートを示す。GGARR基はペプチダーゼによって本質的に分解可能であるので、自壊性(self-immolative)PABC部分を通した毒素放出にval-cit配列は必要ではなく、2つのアルギニン基は極めて親水性であるので、PEGスペーサーは必要とされず、よって、ペプチド-毒素コンジュゲート全体が、血液循環中に他の分子との望ましくない相互作用を最小化するよう可能な限り小さく保たれ得る。
【0037】
【
図18】
図18は、実施例3によって実施される細胞傷害性アッセイの結果を示す。本発明による方法で作製されており、各リンカーにクリック結合したMay部分を含む、Her-GARK(N
3)(P684)およびHer-GGARK(N
3)(P579)N末端グリシンADCは、Kadcylaと同様のSK-BR3細胞に対する効力を有する。よって、新規なリンカー技術によって提供される利点(製造の容易さ、部位特異性、安定な化学量論、その抗体を脱グリコシル化する必要がない)は、細胞傷害性に関する短所を伴わない。
【0038】
【
図19】
図19:βAla-Gly-Ala-Arg-Lys(N3)の構造。βAlaは、グリシンと構造的に類似のβ-アラニンを示す。しかしながら、前記リンカーは、N末端グリシンを有するGGARK(N3)(実施例2参照)と比較して劣ったコンジュゲーション効率を有する。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の詳細な説明
本発明を詳細に説明する前に、本発明が、記載される特定の成分にも方法のプロセスステップにも限定されず、このようなデバイスおよび方法が変化し得ることを理解すべきである。本明細書で使用される用語法は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定的であることを意図していないことも理解すべきである。明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上別段の意味を有することが明らかな場合を除き、単数指示対象および/または複数指示対象を含むことに留意しなければならない。数値によって範囲を定められるパラメーター範囲が与えられる場合、その範囲はこれらの限界値を含むものとみなされることをさらに理解すべきである。
【0040】
本明細書に開示される実施形態が、互いに関連しないような個々の実施形態として理解されることを意図していないことをさらに理解すべきである。ある実施形態で論じられる特徴は、本明細書に示される他の実施形態にも関連して開示されることを意図している。ある場合に、特定の特徴が、ある実施形態で開示されていないが、別の実施形態でされている場合、当業者であれば、前記特徴が前記他の実施形態で開示されることを意図していないことを必ずしも意味しないことを理解するはずである。当業者であれば、他の実施形態についても前記特徴を開示することが本出願の趣旨であるが、単に明確さの目的で、および明細書をこれが行われていない管理できる量に保つためであることを理解するはずである。
【0041】
さらに、本明細書で言及される文献の内容は参照により組み込まれる。これは、特に、標準的な方法または日常的な方法を開示する文献を参照する。この場合、参照による組み込みは、主に、十分に可能な開示を提供し、冗長な繰り返しを回避する目的を有する。
【0042】
第1の態様によると、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって、抗体-ペイロードコンジュゲートまたは抗体-リンカーコンジュゲートを作製する方法であって、N末端グリシン(Gly)残基のN末端第一級アミンを介して、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)m-B-(Aax)n
(式中、
・mは0以上12以下の整数であり、
・nは0以上12以下の整数であり、
・m+n≧0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・Bはペイロードまたは連結部分である)
を含むリンカーを、抗体の重鎖または軽鎖に含まれるグルタミン(Gln)残基にコンジュゲートするステップを含む方法が提供される。
【0043】
本明細書で使用される場合、「第一級アミン」という用語は、一般式R-NH2の、2個の水素原子で置換されたアミンに関する。
【0044】
ある特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、2つまたはそれよりも多い連結部分および/またはペイロードを含み得る。すなわち、リンカーは、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)m-B1-(Aax)n-B2-(Aax)o
(式中、
・m、nおよびoは0以上12以下の整数であり、
・m+n+o≧0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・B1およびB2はペイロードおよび/または連結部分であり、B1およびB2は同一であっても、互いに異なっていてもよい)
を有し得る。
【0045】
他の実施形態では、ペプチドリンカーは、3つの連結部分および/またはペイロードを含み得る。すなわち、リンカーは、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)m-B1-(Aax)n-B2-(Aax)o-B3-(Aax)p
(式中、
・m、n、oおよびpは0以上12以下の整数であり、
・m+n+o+p≧0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・B1、B2およびB3はペイロードおよび/または連結部分であり、B1、B2およびB3は同一であっても、互いに異なっていてもよい)
を有し得る。
【0046】
本発明が、3つを超える連結部分および/またはペイロード、例えば、4つ、5つまたは6つの連結部分および/またはペイロードを含むリンカーも包含することを理解すべきである。この場合、リンカーのペプチド構造は、2つまたは3つの連結部分および/またはペイロードを含むリンカーについて上に記載されるのと同じパターンに従う。
【0047】
ある特定の実施形態では、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって、抗体-ペイロードコンジュゲートを作製する方法であって、N末端グリシン(Gly)残基のN末端第一級アミンを介して、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)m-B-(Aax)n
(式中、
・mは0以上12以下の整数であり、
・nは0以上12以下の整数であり、
・m+n≧0であり、
・Aaxは、天然に存在するもしくは天然に存在しない、L-もしくはD-アミノ酸、またはアミノ酸誘導体もしくは模倣物であり、
・Bはペイロードまたは連結部分である)
を有するリンカーを、抗体の重鎖または軽鎖に含まれるグルタミン(Gln)残基にコンジュゲートするステップを含む方法が提供される。
【0048】
ある特定の実施形態では、本発明は、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって、抗体-ペイロードコンジュゲートまたは抗体-リンカーコンジュゲートを作製する方法であって、N末端グリシン(Gly)残基のN末端第一級アミンを介して、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)m-B-(Aax)n
を有するリンカーを、抗体の重鎖または軽鎖に含まれるグルタミン(Gln)残基にコンジュゲートするステップを含む方法に関する。この場合、部分Bが1つを超えるペイロードおよび/または連結部分を含み得ることを理解すべきである。例えば、Bが(B’-(Aax)o-B’’)(式中、B’およびB’’はペイロードおよび/または連結部分であり、oは0以上12以下の整数である)を表し得る。あるいは、Bが(B’-(Aax)o-B’’-(Aax)p-B’’’)(式中、B’、B’’およびB’’’はペイロードおよび/または連結部分であり、oおよびpは0以上12以下の整数である)を表し得る。
【0049】
よって、特定の実施形態では、本発明は、リンカーが2つまたはそれよりも多いペイロードおよび/または連結部分を含む、本発明による方法に関する。別の実施形態では、本発明は、2つまたはそれよりも多いペイロードおよび/または連結部分Bが互いに異なる、本発明による方法に関する。
【0050】
すなわち、本発明によるリンカーは、単一ペイロードまたは連結部分を含み得る。ある特定の実施形態では、リンカーは2つの連結部分を含み、2つの連結部分は同一である。他の実施形態では、リンカーは2つの連結部分を含み、2つの連結部分は異なる。さらに別の実施形態では、リンカーは2つの同一のまたは異なるペイロードを含む。本発明はさらに、1つまたは複数のペイロードおよび1つまたは複数の連結部分を含むリンカーを包含する。
【0051】
例えば、全てのペイロードまたは連結部分が第1のAax部分のC末端カルボキシル基および第2のAax部分のN末端アミン基とペプチドまたはアミド結合を形成する官能基を有するわけではないので、全てのペイロードまたは連結部分が鎖内ペイロードまたは連結部分として機能することができるわけではないことをさらに理解すべきである。この場合、このようなペイロードまたは連結部分はリンカーのC末端に位置し、リンカーのC末端Aax部分のカルボキシル基に結合していることが好ましい。ペイロードまたは連結部分がリンカーの鎖内位置にある場合、ペイロードまたは連結部分が、アミノ酸、アミノ酸誘導体である、または一般構造-NH-CHR-CO-を有する分子に結合していることが好ましい。
【0052】
好ましい実施形態では、mおよび/またはnは、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上または11以上である。他の好ましい実施形態では、mおよび/またはnは、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下または1以下である。さらなる好ましい実施形態では、m+nは、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上または11以上である。なおさらなる好ましい実施形態では、m+nは、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下または1以下である。
【0053】
両範囲のメンバーを別のものと組み合わせて、下限および上限を有する好ましい長さ範囲を開示することができる。
【0054】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、m+n、ならびに必要に応じて、m+n+oおよびm+n+o+pが、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下または4以下である、本発明による方法に関する。
【0055】
本明細書に示される様々なリンカーペプチドでは、C末端が、他の方法で示されている場合でも、保護されていてもされていなくてもよいことを理解することが重要である。保護は、C末端のアミド化によって達成することができる。本発明の文脈では、保護されているリンカーペプチドと保護されていないリンカーペプチドの両方が包含される。
【0056】
本発明者らは、このプロセスが、部位特異的抗体-ペイロードコンジュゲートを極めて費用対効果が高く、迅速に製造する(24~36時間、または必要に応じて、48時間)のに適しており、よって、このような分子の大型ライブラリーの作成、およびその後のハイスループットスクリーニングシステムでのそのスクリーニングを可能にすることを示した。
【0057】
これと対照的に、ペイロードを遺伝子(分子)操作されたCys残基を介して抗体にコンジュゲートする、抗体ペイロードコンジュゲートを作製するCys操作プロセスは、少なくとも約3~4週間を必要とする。
【0058】
一般に、本方法は、多数のペイロードを抗体にコンジュゲートすることを可能にする。各ペイロードについて、適切なペプチドリンカー構造を大型リンカープールから特定して、最適な臨床的および非臨床的特徴をもたらすことができる。これは、リンカー構造が固定されている他の方法では不可能である。さらに、本発明による方法は、各ペイロードが部位特異的に抗体にコンジュゲートしている、2つまたはそれよりも多い異なるペイロードを含む抗体-ペイロードコンジュゲートを作製することを可能にする。よって、本発明による方法を使用して、新規なおよび/または優れた治療能または診断能を有する抗体を作製することができる。
【0059】
リンカーは、限定されないが、α-、β-、γ-、δ-およびε-アミノ酸を含む任意のアミノ酸を含み得る。α-アミノ酸の場合、リンカーは、任意の天然に存在するL-またはD-アミノ酸を含み得る。天然に存在するL-またはD-アミノ酸は、自然に見出される任意のL-またはD-アミノ酸を包含する。すなわち、「天然に存在するL-またはD-アミノ」酸という用語は、天然に存在するタンパク質中の基本要素として使用される全ての標準の、またはタンパク質構成性アミノ酸を包含する。さらに、「天然に存在するL-またはD-アミノ」酸という用語は、例えば、代謝中間体もしくは分解産物として、または他の、タンパク質非構成性高分子の基本要素として、自然に見られる全ての非標準L-またはD-アミノ酸を包含する。
【0060】
さらに、リンカーは、天然に存在しないL-またはD-アミノ酸を含み得る。天然に存在しないL-またはD-アミノ酸は、以前自然に見られなかった、一般構造H2N-CHR-COOHを有する任意の分子を包含する。
【0061】
当業者であれば、L-またはD-アミノ酸が天然に存在するか、天然に存在しないかを決定する場合に調べるリソースおよびデータベースを知っている。しかしながら、疑義がある場合には、「天然に存在するまたは天然に存在しないL-またはD-アミノ酸」という用語が、分子の起源にかかわりなく、一般構造H2N-CHR-COOHを有する任意の分子のL-およびD-異性体を包含することを理解すべきである。
【0062】
ある特定の実施形態では、本発明のリンカーは、一般構造H2N-CR1R2-COOHを有する、天然に存在するまたは天然に存在しない、非キラルアミノ酸も含み得る。
【0063】
さらに、本発明のリンカーはアミノ酸誘導体を含み得る。アミノ酸誘導体は、1つまたは複数の化学反応、例えばα-アミノ基、α-カルボン酸基および/またはアミノ酸側鎖の化学反応によって、天然に存在するまたは天然に存在しないアミノ酸から得られた化合物である。すなわち、アミノ酸誘導体という用語は、天然に存在するまたは天然に存在しないL-またはD-アミノ酸から得られた、構造-NH-CHR-CO-を有する任意の分子を包含する。本発明のアミノ酸誘導体はペプチドベースリンカーの一部であることが想定されるので、アミノ酸誘導体が、天然に存在するもしく天然に存在しないL-もしくD-アミノ酸のアミノ酸側鎖、またはアミノ酸誘導体がペプチドのC末端に位置する場合、天然に存在するもしくは天然に存在しないL-もしくはD-アミノ酸のアルファ-カルボン酸基の1つまたは複数の反応によって得られていることが好ましい。天然に存在するおよび天然に存在しないアミノ酸がアミノ酸誘導体であってもよく、逆もまた同様であることに留意しなければならない。
【0064】
本発明のリンカーに含まれ得る非標準アミノ酸、天然に存在しないアミノ酸およびアミノ酸誘導体の例としては、それだけに限らないが、α-アミノ酪酸、α-アミノイソ酪酸、オルニチン、ヒドロキシプロリン、アグマチン、(S)-2-アミノ-4-((2-アミノ)ピリミジニル)ブタン酸、アルファ-アミノイソ酪酸、p-ベンゾイル-L-フェニルアラニン、t-ブチルグリシン、シトルリン(citruiline)、シクロヘキシルアラニン、デスアミノチロシン、L-(4-グアニジノ)フェニルアラニン、ホモアルギニン、ホモシステイン、ホモセリン、ホモリシン、n-ホルミルトリプトファン、ノルロイシン、ノルバリン、フェニルグリシン、(S)-4-ピペリジル-(N-アミジノ)グリシン、パラベンゾイル-L-フェニルアラニン、サルコシンおよび2-チエニルアラニンが挙げられる。
【0065】
上記のアルファ-アミノ酸に加えて、本発明のリンカーは、1つまたは複数のβ-、γ-、δ-またはε-アミノ酸も含み得る。よって、ある特定の実施形態では、リンカーがペプチド模倣物であり得る。ペプチド模倣物は、2つのα-アミノ酸の間に形成される古典的ペプチド結合のみを含有するわけではなく、追加でまたは代わりに、アルファアミノ酸とβ-、γ-、δ-もしくはε-アミノ酸との間、または2つのβ-、γ-、δ-もしくはε-アミノ酸の間に形成される1つまたは複数のアミド結合を含んでもよい。ペプチド模倣物であり、α-アミノ酸とβ-アミノ酸との間のアミド結合を含むリンカーの例を
図16に示す(Gly-β-Ala-Arg-Lys(N
3))。したがって、リンカーがペプチドとして記載される本発明の任意の例では、リンカーがペプチド模倣物であってもよく、よって、α-アミノ酸のみからなるのではなく、代わりに、1つまたは複数のβ-、γ-、δ-もしくはε-アミノ酸またはアミノ酸として分類されない分子を含んでもよいことを理解すべきである。本発明のリンカーに含まれ得るβ-、γ-、δ-またはε-アミノ酸の例としては、それだけに限らないが、β-アラニン、γ-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、6-アミノヘキサン酸およびスタチンが挙げられる。
【0066】
「D-アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸と天然に存在しないアミノ酸の両方のD-対応物を含むと理解される。
【0067】
本発明のペプチドリンカーはペプチドベースであるので、これらは、いったん抗体-ペイロードコンジュゲートが標的細胞に内部移行すると、宿主細胞ペプチダーゼによって加水分解される可能性がある。したがって、ある特定の実施形態では、リンカーが必ずしもカテプシン切断部位を含む必要はない。よって、一実施形態では、ペプチド構造を含むまたは有するリンカーは、カテプシンによって切断可能でない。これには特に、カテプシンBが含まれる。1つのさらなる実施形態では、ペプチド構造を含むまたは有するリンカーが、バリン-アラニンモチーフもバリン-シトルリンモチーフも含まない。しかしながら、本発明が、バリン-アラニンまたはバリン-シトルリンなどのカテプシン切断部位を含むリンカーも包含することを理解すべきである。例えば、非標準またはD-アミノ酸を含むリンカーは、宿主細胞ペプチダーゼによって効率的に切断され得ない。この場合、リンカー中のカテプシン切断部位が、宿主細胞への内部移行後のペイロードの放出を改善し得る。リンカーは、必要であれば、標的細胞内のペイロードの効率的な放出を可能にする他のモチーフまたは自壊性基をさらに含んでもよい。
【0068】
ADCリンカーで使用されるが、Lys残基を欠く1つの典型的なジペプチド構造は、例えばブレンツキシマブベドチンで提供され、Dubowchik and Firestone 2002に論じられる、バリン-シトルリンモチーフである。このリンカーは、カテプシンBによって切断されて、疾患部位で毒素を放出することができる。同じことが、例えばSGN-CD33Aで提供されるバリン-アラニンモチーフにも当てはまる。
【0069】
1つのさらなる実施形態では、リンカーが、ポリエチレングリコールもポリエチレングリコール誘導体も含まない。
【0070】
ポリエチレングリコール(PEG)は、工業製造から医薬まで多くの用途を有するポリエーテル化合物である。PEGは、その分子量に応じて、ポリエチレンオキシド(PEO)またはポリオキシエチレン(POE)としても知られている。PEGの構造は、H-(O-CH2-CH2)n-OHとして一般的に表される。しかしながら、本発明のリンカーがPEGまたはPEG誘導体を含み得ることを理解すべきである。
【0071】
よって、Bはペイロードまたは連結部分のいずれかであり得るので、本発明による方法が、以下の表3に示される、2つの主要な実施形態を有することを理解することが重要である:
【表3】
【0072】
すなわち、ある特定の実施形態では、ペイロードを、化学合成によってリンカーに結合させる。したがって、リンカーが、構造Gly-(Aax)m-ペイロードまたはGly-(Aax)m-ペイロード-(Aax)nを有し得る。例えば、ペイロードを、化学合成によってペプチドのC末端に結合させることができる。よって、ある特定の実施形態では、リンカーが、構造Gly-Ala-Arg-ペイロード、Gly-Ala-Arg-Arg-ペイロード、Gly-Gly-Ala-Arg-ペイロード、Gly-Gly-Ala-Arg-Arg-ペイロードまたはGly-Gly-Gly-ペイロードを有し得る。
【0073】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、抗体は、
・IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY
・IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA、ならびに/あるいは
・標的結合特性を保持し、CH2ドメインを含む、その断片または組換えバリアント
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0074】
抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0075】
抗体はヒト起源のものであってよいが、同様にマウス、ラット、ヤギ、ロバ、ハムスターまたはウサギ由来であってもよい。コンジュゲートが治療用である場合、マウスまたはウサギ抗体を、必要に応じてキメラ化またはヒト化することができる。
【0076】
CH2ドメインを含む抗体の断片または組換えバリアントは、例えば、
・重鎖ドメインのみを含む抗体フォーマット(サメ抗体/IgNAR(VH-CH1-CH2-CH3-CH4-CH5)2またはラクダ抗体/hcIgG(VH-CH2-CH3)2)
・scFv-Fc(VH-VL-CH2-CH3)2
・Fcドメインおよび1つまたは複数の受容体ドメインを含む、Fc融合ペプチド
である。
【0077】
抗体はまた、二重特異性(例えば、DVD-IgG、クロスMab、付加IgG-HC融合体)またはバイパラトピック(biparatopic)であってもよい。概要についてはBrinkmann and Kontermann (2017)を参照されたい。
【0078】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、抗体が、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAもしくはIgY抗体、またはその断片もしくは組換えバリアントであり、その断片または組換えバリアントが、標的結合特性を保持し、CH2ドメインを含む、本発明による方法に関する。
【0079】
好ましい実施形態では、抗体はIgG抗体である。すなわち、抗体は、好ましくは残基N297でグリコシル化されているIgG抗体であり得る。あるいは、抗体は、好ましくはグリカンが残基N297において酵素PNGアーゼFで切断されている、脱グリコシル化抗体であり得る。さらに、抗体は、好ましくは残基N297が非アスパラギン残基で置き換えられている、アグリコシル化抗体であり得る。抗体を脱グリコシル化する方法およびアグリコシル化抗体を作製する方法は当技術分野で公知である。
【0080】
本明細書で論じられる場合、残基N297でグリコシル化されているIgG抗体は、非グリコシル化抗体に優るいくつかの利点を有する。さらに、本発明のリンカーを、残基N297でグリコシル化されている抗体に、予想外に高い効率でコンジュゲートすることができることが実証されている。したがって、さらにより好ましい実施形態では、抗体は、CH2ドメインの残基N297(EUナンバリング)でグリコシル化されているIgG抗体である。
【0081】
特定の実施形態では、本発明は、(a)ペイロードもしくは連結部分Bを含むリンカーを、分子操作によって抗体の重鎖もしくは軽鎖に導入されたGln残基にコンジュゲートする、または(b)ペイロードもしくは連結部分Bを含むリンカーを、抗体のFcドメインのGln残基にコンジュゲートする、本発明による方法に関する。
【0082】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、ペイロードまたは連結部分を、分子操作によって抗体の重鎖または軽鎖に導入されたGln残基にコンジュゲートする。
【0083】
「分子操作(molecular engineering)」という用語は、本明細書で使用される場合、核酸配列を操作するための分子生物学法の使用に関する。本発明の中では、分子操作を使用して、Gln残基を抗体の重鎖または軽鎖に導入することができる。一般に、Gln残基を抗体の重鎖または軽鎖に導入するための2つの異なる戦略が本発明の中で想起される。第1に、抗体の重鎖または軽鎖の単一残基をGln残基で置換することができる。第2に、2つまたはそれよりも多いアミノ酸残基からなるGln含有ペプチドタグを、抗体の重鎖または軽鎖に組み込むことができる。そのために、ペプチドタグを、重鎖もしくは軽鎖の内部位置、すなわち、重鎖もしくは軽鎖の2つの既存のアミノ酸残基間に組み込むことができる、またはペプチドタグを、抗体の重鎖もしくは軽鎖のN末端もしくはC末端に融合(付加)することができる。
【0084】
第1の場合、抗体の重鎖または軽鎖の任意のアミノ残基をGln残基で置換することができるが、これは、得られた抗体を微生物トランスグルタミナーゼによって本発明のリンカーでコンジュゲートすることができる場合である。ある特定の実施形態では、抗体は、IgG抗体のCH2ドメインのアミノ酸残基N297(EUナンバリング)が置換されている、特に置換がN297Q置換である抗体である。N297Q変異を含む抗体を、抗体の重鎖1本当たり1つを超えるリンカーにコンジュゲートすることができる。例えば、N297Q変異を含む抗体を4つのリンカーにコンジュゲートすることができ、1つのリンカーが抗体の第1の重鎖の残基Q295にコンジュゲートされ、1つのリンカーが抗体の第1の重鎖の残基N297Qにコンジュゲートされ、1つのリンカーが抗体の第2の重鎖の残基Q295にコンジュゲートされ、1つのリンカーが抗体の第2の重鎖の残基N297Qにコンジュゲートされる。当業者であれば、IgG抗体の残基N297をGln残基で置き換えることによって、アグリコシル化抗体が得られることを知っている。
【0085】
特定の実施形態では、本発明は、分子操作によって抗体の重鎖または軽鎖に導入されたGln残基が、(a)抗体の重鎖もしくは軽鎖に組み込まれている、または(b)抗体の重鎖もしくは軽鎖のN末端もしくはC末端に融合されているペプチドに含まれる、本発明による方法に関する。
【0086】
よって、抗体の単一アミノ酸残基を置換する代わりに、トランスグルタミナーゼがアクセス可能なGln残基を含むペプチドタグを、抗体の重鎖または軽鎖に導入することができる。このようなペプチドタグを、抗体の重鎖または軽鎖のN末端またはC末端に融合することができる。好ましくは、トランスグルタミナーゼがアクセス可能なGln残基を含むペプチドタグを抗体の重鎖のC末端に融合する。さらにより好ましくは、トランスグルタミナーゼがアクセス可能なGln残基を含むペプチドタグをIgG抗体の重鎖のC末端に融合する。抗体の重鎖のC末端に融合され、微生物トランスグルタミナーゼの基質として働き得るいくつかのペプチドタグは、WO2012/059882、WO2016/144608、WO2016/100735、WO2016/096785に、ならびにSteffen et al. (JBC, 2017)およびMalesevic et al. (Chembiochem, 2015)によって記載されている。
【0087】
抗体の重鎖または軽鎖に導入され得る、特に抗体の重鎖のC末端に融合され得る例示的なペプチドリンカーは、LLQGG、LLQG、LSLSQG、GGGLLQGG、GLLQG、LLQ、GSPLAQSHGG、GLLQGGG、GLLQGG、GLLQ、LLQLLQGA、LLQGA、LLQYQGA、LLQGSG、LLQYQG、LLQLLQG、SLLQG、LLQLQ、LLQLLQ、LLQGR、EEQYASTY、EEQYQSTY、EEQYNSTY、EEQYQS、EEQYQST、EQYQSTY、QYQS、QYQSTY、YRYRQ、DYALQ、FGLQRPY、EQKLISEEDL、LQRおよびYQRである。
【0088】
当業者であれば、例えばSambrook, Joseph. (2001). Molecular cloning : a laboratory manual. Cold Spring Harbor, N.Y. :Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載される分子クローニングの方法によって、抗体のアミノ酸残基を置換する方法またはペプチドタグを抗体に導入する方法を知っている。
【0089】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、ペイロードまたは連結部分を、抗体のFcドメインのGlnにコンジュゲートする。
【0090】
すなわち、本発明のリンカーを、微生物トランスグルタミナーゼの基質として働くことができる抗体のFcドメインの任意のGln残基にコンジュゲートすることができる。
【0091】
典型的には、Fcドメインという用語は、本明細書で使用される場合、IgA、IgDおよびIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン(CH2およびCH3)、ならびにIgE、IgYおよびIgMの最後の3つの定常領域ドメイン(CH2、CH3およびCH4)を指す。すなわち、ペイロードまたは連結部分Bを含むリンカーを、抗体のCH2、CH3、および該当する場合、CH4ドメインにコンジュゲートすることができる。
【0092】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、ペイロードまたは連結部分を、抗体のCH2ドメインのGln残基Q295(EUナンバリング)にコンジュゲートする。特定の実施形態では、本発明は、抗体のFcドメインのGln残基がIgGのCH2ドメインのGln残基Q295(EUナンバリング)である、本発明による方法に関する。
【0093】
Q295がIgG型抗体の極めて保存されたアミノ酸残基であることを理解することが重要である。これは、ヒトIgG1、2、3、4、ならびにとりわけウサギおよびラット抗体で保存されている。よって、Q295を使用することができることは、抗体が通常、非ヒト起源のものである、治療用抗体-ペイロードコンジュゲートまたは診断用コンジュゲートを作製するためのかなりの利点となる。よって、本発明による方法は、極めて多用途で広範に適用可能なツールを提供する。残基Q295は、IgG型抗体の中でも極めて保存されているが、マウスIgG2aまたはIgG2bなどの一部のIgG型抗体は、この残基を有さない。よって、本発明の方法で使用される抗体が、好ましくはCH2ドメインの残基Q295(EUナンバリング)を含むIgG型抗体であることを理解すべきである。
【0094】
さらに、ペイロード結合のためにQ295を使用する操作されたコンジュゲートは、良好な薬物動態および有効性を実証し(Lhospice et al. 2015)、分解しやすい不安定な毒素をも有することができる(Dorywalska et al. 2015)ことが示されている。よって、同じ残基が修飾されているが、グリコシル化抗体の残基であるので、この部位特異的方法でも同様の効果が見られると予想される。グリコシル化は全体的なADC安定性にさらに寄与し得るので、言及されるアプローチなどによるグリカン部分の除去は、あまり安定でない抗体をもたらすことが示されている(Zheng et al. 2011)。
【0095】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、ペイロードまたは連結部分がコンジュゲートされる抗体がグリコシル化されている。
【0096】
典型的なIgG形抗体は、CH2ドメインのN297位(Asp-X-Ser/Thr-モチーフ)でN-グリコシル化されている。
【0097】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、抗体のFcドメインのGln残基が、CH2ドメインの残基N297(EUナンバリング)でグリコシル化されているIgG抗体のCH2ドメインのGln残基Q295(EUナンバリング)である、本発明による方法に関する。
【0098】
トランスグルタミナーゼによるリンカーのCH2 Gln残基へのコンジュゲーションを論じている文献では、焦点が、小型の低分子量基質に当てられている。しかしながら、先行技術文献では、このようなコンジュゲーションを達成するために、N297位での脱グリコシル化ステップ、またはアグリコシル化抗体の使用が必要であると常に記載されている(WO2015/015448;WO2017/025179;WO2013/092998)。
【0099】
しかしながら、極めて驚くべきことに、全ての予想に反して、グリコシル化抗体のQ295への部位特異的コンジュゲーションは、実際、上に論じられるオリゴペプチド構造を使用することによって効率的に可能である。
【0100】
Q295は、その天然状態で、グリコシル化されているN297と極めて近いが、本発明による方法は、指定されるリンカーを使用して、リンカーまたはペイロードのそこへのコンジュゲーションを可能にする。
【0101】
しかしながら、示されるように、本発明による方法は、Q295の前もっての酵素的脱グリコシル化も、アグリコシル化抗体の使用も、別のアミノ酸に対するN297の置換も、グリコシル化を防ぐためのT299A変異の導入も必要としない。
【0102】
これらの2つの点が、製造面で有意な利点を提供する。酵素的脱グリコシル化ステップは、確実に脱グリコシル化酵素(例えば、PNGアーゼF)と切断グリカンの両方を培地から除去しなければならないので、GMPの見地から望ましくない。
【0103】
さらに、ペイロード結合のための抗体の遺伝子操作は必要ではないので、結果として免疫原性を増加させかつ抗体の全体的な安定性を低下させ得る配列挿入を回避することができる。
【0104】
別のアミノ酸に対するN297の置換も、PBDなどの疎水性ペイロードにとって特に重要となる抗体凝集増加および溶解度低下をもたらし得る(Zheng et al. 2011)、結果としてFcドメイン全体の全体的な安定性(Subedi et al, 2015)およびコンジュゲート全体の有効性に影響を及ぼし得るので、望ましくない効果を有する。さらに、N297に存在するグリカンは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)などを誘発するので、重要な免疫調節効果を有する。これらの免疫調節効果は、脱グリコシル化またはアグリコシル化抗体を得るための上に論じられる他のアプローチのいずれかで失われることになる。さらに、確立された抗体のいかなる配列修飾も規制上の問題をもたらすおそれがあり、これは、しばしば、許容される、臨床的に検証された抗体がADCコンジュゲーションのための出発点として使用されるので、問題である。
【0105】
よって、本発明による方法は、部位特異的ペイロード結合を有する化学量論的に十分に規定されたADCを、容易に、欠点なしに作製することを可能にする。
【0106】
上記を考慮して、本発明の方法は、好ましくはIgG抗体のCH2ドメインの残基Q295(EUナンバリング)での該抗体のコンジュゲーションに使用されると述べられており、ここで、該抗体はCH2ドメインの残基N297(EUナンバリング)でグリコシル化されている。しかしながら、本発明の方法が、Gln残基が内因性Gln残基または分子操作によって導入されているGln残基であり得る、抗体の残基Q295または任意の他の適切なGln残基での脱グリコシル化またはアグリコシル化抗体のコンジュゲーションも包含すると明示的に述べられる。
【0107】
本発明はまた、IgA、IgE、IgM、IgDまたはIgY抗体などの、IgG抗体以外のアイソタイプの抗体のコンジュゲーションを包含する。これらの抗体のコンジュゲーションは、内因性Gln残基、例えば抗体のFcドメインの内因性Gln残基、または分子操作によって抗体に導入されているGln残基で行われ得る。
【0108】
一般に、当業者であれば、抗体のどの位置でリンカーがコンジュゲートされているかを決定する方法を知っている。例えば、コンジュゲーション部位は、抗体-ペイロードコンジュゲートのタンパク質消化、および得られた断片のLC-MS/MS分析によって決定され得る。例えば、試料を、それぞれ、取扱説明書に従ってGlycINATOR(Genovis)で脱グリコシル化し、その後、トリプシンゴールド(質量分析グレード、Promega)で消化することができる。したがって、1μgのタンパク質を50ngのトリプシンと37℃で一晩インキュベートすることができる。Synapt-G2質量分析計(Waters)に接続したnanoAcquity HPLCシステムを使用して、LC-MS/MS分析を実施することができる。このために、100ngのペプチド溶液を、Acquity UPLC Symmetry C18トラップカラム(Waters、部品番号186006527)にロードし、1%緩衝液A(水、0.1%ギ酸)および99%緩衝液B(アセトニトリル、0.1%ギ酸)で、5μL/分の流速で、3分間捕捉することができる。次いで、ペプチドを、25分以内に3%から65%の緩衝液Bの線形勾配で溶出することができる。データは、正極性の分解モードで、50~2000m/zの質量範囲で取得することができる。他の機器設定は以下の通りとすることができる:キャピラリー電圧3,2kV、サンプリングコーン40V、抽出コーン4.0V、ソース温度130℃、コーンガス35L/時間、ナノフローガス0.1バールおよびパージガス150L/時間。質量分析計は[Glu1]-フィブリノペプチドで較正することができる。
【0109】
さらに、当業者であれば、抗体-ペイロード構築物の薬物の抗体に対する(DAR)比(ration)またはペイロードの抗体に対する比を決定する方法を知っている。例えば、DARは、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)またはLC-MSによって決定され得る。
【0110】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)については、試料を0.5M硫酸アンモニウムに調整し、1mL/分および30℃で20分間にわたるA(1.5M硫酸アンモニウム、25mMトリスHCl、pH7.5)からB(20%イソプロパノール、25mMトリスHCl、pH7.5)までの完全勾配を使用して、MAB PAK HIC Butylカラム(5μm、4.6×100mm、Thermo Scientific)を介して評価することができる。典型的には、40μgの試料を使用することができ、シグナルを280nmで記録することができる。ADC DAR2種の絶対保持時間をそれぞれの非コンジュゲートmAbの保持時間で割ることによって、相対HIC保持時間(HIC-RRT)を計算することができる。
【0111】
LC-MS DAR決定については、ADCを、NH4HCO3で最終濃度0.025mg/mLに希釈することができる。その後、40μLのこの溶液を、1μLのTCEP(500mM)により室温で5分間還元し、次いで、10μLのクロロアセトアミド(200mM)を添加し、引き続いて暗所中37℃で一晩インキュベートすることによってアルキル化することができる。逆相クロマトグラフィーについては、ソフトウェアChromeleonと組み合わせたDionex U3000システムを使用することができる。このシステムは、70℃に加熱されるRP-1000カラム(1000Å、5μm、1.0×100mm、Sepax)、および波長214nmに設定されるUV検出器を備えることができる。溶媒Aは水+0.1%ギ酸からなり得、溶媒Bは85%アセトニトリル+0.1%ギ酸を含み得る。還元し、アルキル化した試料をカラムにロードし、14分間にわたって、30~50%の溶媒Bの勾配によって分離することができる。液体クロマトグラフィーシステムを、DAR種を同定するためにSynapt-G2質量分析計に接続することができる。質量分析計のキャピラリー電圧は3kV、サンプリングコーンは30Vに設定することができ、抽出コーンは合計5Vの値となることができる。ソース温度は150℃、脱溶媒温度は500℃、コーンガスは20l/時間、脱溶媒ガスは600l/時間に設定することができ、取得はポジティブモードで、1秒スキャン時間で、600~5000Daの質量範囲で行うことができる。機器はヨウ化ナトリウムで較正することができる。スペクトルのデコンボリューションは、収束までMassLynxのMaxEnt1アルゴリズムで実施することができる。DAR種のクロマトグラフィーピークへの割り当て後、逆相クロマトグラムの積分ピーク面積に基づいて、DARを計算することができる。
【0112】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、リンカーの正味電荷は中性または正である。
【0113】
ペプチドの正味電荷は通常、中性pH(7.0)で計算される。最も単純なアプローチでは、正味電荷が、正に荷電したアミノ酸残基(ArgおよびLysおよび必要に応じてHis)の数と負に荷電したアミノ酸残基(AspおよびGlu)の数を足し、2つの群の差を計算することによって決定される。リンカーが非標準アミノ酸を含む場合、当業者であれば、中性pHでの非標準アミノ酸の電荷を決定する方法を知っている。
【0114】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、リンカーは、負に荷電したアミノ酸残基を含まない。
【0115】
好ましくは、オリゴペプチドは、負に荷電したアミノ酸残基GluおよびAspも負に荷電した非標準アミノ酸も含まない。
【0116】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、リンカーは、正に荷電したアミノ酸残基を含む。
【0117】
本発明の一実施形態によると、リンカーは、
・リシンもしくはリシン誘導体もしくはリシン模倣物、
・アルギニン、および/または
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも2つのアミノ酸残基を含む。
【0118】
ある特定の実施形態では、リンカーは、
・リシンもしくはリシン誘導体もしくはリシン模倣物、
・アルギニン、および
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。
【0119】
ある特定の実施形態では、リンカーは、
・リシン、
・アルギニン、および
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。
【0120】
ある特定の実施形態では、リンカーは、
・アルギニン、および
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。
【0121】
ある特定の実施形態では、リンカーは、少なくとも1つのアルギニン残基を含む。
【0122】
表8は、負、中性および正の正味電荷を有するリンカーを、本発明の方法でグリコシル化抗体にコンジュゲートすることができることを示している。特に、正に荷電したアルギニン残基を含むリンカーを、高い効率でグリコシル化抗体にコンジュゲートすることができる。
【0123】
すなわち、ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、中性または正の正味電荷を有する。ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、中性または正の正味電荷を有し、少なくとも1つのアルギニンおよび/またはヒスチジン残基を含む。ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、中性または正の正味電荷を有し、少なくとも1つのアルギニン残基を含む。ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、リシン残基を含まない。ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、中性または正の正味電荷を有し、リシン残基を含まない。
【0124】
表8はさらに、アミノ酸配列Gly-[Gly/Ala]-Arg-Bを有するリンカーを、グリコシル化抗体に効率的にコンジュゲートすることができることを示している。したがって、ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、配列Gly-[Gly/Ala]-Arg-BまたはGly-[Gly/Ala]-Arg-B-(Aax)nを有する。
【0125】
ある特定の実施形態では、1つまたは複数の連結部分Bを含むリンカーは、GDC、GRCD、GRDC、GGDC、GGCD、GGEC、GGK(N3)D、GGRCD、GGGDC、GC、GRC、GGRC、GRAC、GARC、GGHK(N3)、GGK(N3)RC、GARK(N3)およびGGARK(N3)からなる群から選択される。好ましい実施形態では、1つまたは複数の連結部分Bを含むリンカーは、GGK(N3)D、GGRCD、GC、GRC、GGRC、GARC、GGK(N3)RC、GARK(N3)およびGGARK(N3)からなる群から選択される。より好ましい実施形態では、1つまたは複数の連結部分Bを含むリンカーは、GGRCD、GC、GGRC、GARC、GGK(N3)RC、GARK(N3)およびGGARK(N3)からなる群から選択される。最も好ましい実施形態では、1つまたは複数の連結部分Bを含むリンカーは、GC、GGRC、GARCおよびGGARK(N3)からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、1つまたは複数の連結部分Bを含むリンカーは、GGGK(N3)である。
【0126】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、抗体は、抗体のCH2ドメイン中にAsn残基N297(EUナンバリング)を含む。
【0127】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、N297残基はグリコシル化されている。
【0128】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、ペイロードまたは連結部分Bを含むリンカーをGln残基のアミド側鎖にコンジュゲートする。すなわち、抗体のGln残基のアミド側鎖を、イソペプチド結合を介してリンカーのN末端アミノ基にコンジュゲートする。
【0129】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、微生物トランスグルタミナーゼは、Streptomyces種、特にStreptomyces mobaraensisに由来し、優先的には天然酵素と80%の配列同一性を有する。したがって、MTGは天然酵素であってもよいし、または天然酵素の操作されたバリアントであってもよい。
図8に示されるように、グリコシル化抗体のコンジュゲーションのために最適化されていない天然MTGバリアントで、高いコンジュゲーション効率が得られた。
【0130】
1つのこのような微生物トランスグルタミナーゼは、Zedira(ドイツ)から商業的に入手可能である。これは、E.coliで組み換え的に産生される。Streptomyces mobaraensisトランスグルタミナーゼは、配列番号48に開示されるアミノ酸配列を有する。他のアミノ酸配列を有するS.mobaraensis MTGバリアントが報告されており、これらも本発明によって包含される(配列番号28および49)。
【0131】
別の実施形態では、微生物トランスグルタミナーゼStreptomyces ladakanum(以前はStreptoverticillium ladakanumとして公知)が使用されている。Streptomyces ladakanumトランスグルタミナーゼ(米国特許第6,660,510(B2)号)は、配列番号27に開示されるアミノ酸配列を有する。
【0132】
上記トランスグルタミナーゼの両方が配列修飾され得る。いくつかの実施形態では、配列番号27、28、48および49と80%またはそれよりも多い配列同一性を有するトランスグルタミナーゼを使用することができる。
【0133】
別の適切な微生物トランスグルタミナーゼは、商業的に味の素からのものであり、ACTIVA TGと呼ばれる。Zedira製のトランスグルタミナーゼと比較して、ACTIVA TGは、4個のN末端アミノ酸を欠くが、同様の活性を有する。
【0134】
本発明の文脈で使用することができるさらなる微生物トランスグルタミナーゼは、その内容が参照により完全に本明細書に組み込まれる、Kieliszek and Misiewicz 2014、WO2015/191883A1、WO2008/102007A1および米国特許出願公開第2010/0143970号に開示されている。
【0135】
ある特定の実施形態では、微生物トランスグルタミナーゼの変異バリアントは、リンカーの抗体へのコンジュゲーションに使用される。すなわち、本発明の方法で使用される微生物トランスグルタミナーゼは、配列番号27または29に示されるS.mobaraensisトランスグルタミナーゼのバリアントであり得る。ある特定の実施形態では、配列番号29に示される組換え体S. morabaensisトランスグルタミナーゼは、変異G250Dを含む。ある特定の実施形態では、配列番号29に示される組換え体S. morabaensisトランスグルタミナーゼは、変異G250DおよびE300Dを含む。ある特定の実施形態では、配列番号29に示される組換え体S. morabaensisトランスグルタミナーゼは、変異D4EおよびG250Dを含む。ある特定の実施形態では、配列番号29に示される組換え体S. morabaensisトランスグルタミナーゼは、変異E120AおよびG250Dを含む。ある特定の実施形態では、配列番号29に示される組換え体S. morabaensisトランスグルタミナーゼは、変異A212DおよびG250Dを含む。ある特定の実施形態では、配列番号29に示される組換えS. morabaensisトランスグルタミナーゼは、変異G250DおよびK327Tを含む。
【0136】
微生物トランスグルタミナーゼは、抗体とリンカーの効率的なコンジュゲーションを可能にする任意の濃度で、コンジュゲーション反応に添加することができる。ある特定の実施形態では、微生物トランスグルタミナーゼは、100U/mL、90U/mL、80U/mL、70U/mL、60U/mL、50U/mL、40U/mL、30U/mL、20U/mL、10U/mLまたは7U/mL未満の濃度でコンジュゲーション反応に添加され得る。
【0137】
本発明による方法は、微生物トランスグルタミナーゼの使用を含む。しかしながら、非微生物起源のトランスグルタミナーゼ活性を含む酵素によっても等価な反応を行うことができることに留意すべきである。したがって、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートを、非微生物起源のトランスグルタミナーゼ活性を含む酵素を用いて作製することもできる。
【0138】
効率的なコンジュゲーションを得るために、リンカーをモル過剰で抗体に添加することが好ましい。すなわち、ある特定の実施形態では、抗体を、抗体に対して少なくとも5、10、20、30、40、50、60、70、80、90または100モル当量過剰のペプチドリンカーと混合する。
【0139】
本発明による方法は、好ましくは6~8.5の範囲のpHで行われる。実施例1および2は、コンジュゲーション効率がpH7.6で最高であることを示している。よって、好ましい実施形態では、本発明は、リンカーの抗体へのコンジュゲーションが、6~8.5の範囲のpH、より好ましくは7~8の範囲のpHで達成される、本発明による方法に関する。最も好ましい実施形態では、本発明は、リンカーの抗体へのコンジュゲーションがpH7.6で達成される、本発明による方法に関する。
【0140】
本発明の方法は、本発明の方法によるリンカーまたはリンカー-ペイロード構築物の抗体へのコンジュゲーションに適した任意の緩衝液中で行うことができる。本発明の方法に適した緩衝液としては、限定されないが、トリス、MOPS、HEPES、PBSまたはビストリスが挙げられる。さらに、緩衝液は、本発明の方法を行うのに適した任意の塩濃度を含み得る。例えば、本発明の方法で使用される緩衝液は、150mM以下、140mM以下、130mM以下、120mM以下、110mM以下、100mM以下、90mM以下、80mM以下、70mM以下、60mM以下、50mM以下、40mM以下、30mM以下、20mM以下、10mM以下または1mMの塩濃度を有し得る。ある特定の実施形態では、緩衝液は塩を含まなくてもよい。
【0141】
最適な反応条件(例えば、pH、緩衝液、塩濃度)はペイロード間で変化し、ある程度は、リンカーおよび/またはペイロードの物理化学特性に依存し得ることに留意すべきである。しかしながら、本発明の方法を行うのに適した反応条件を特定するために、当業者による不要な実験は要求されない。
【0142】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、連結部分Bは、
・生体直交型マーカー基、または
・架橋のための他の非生体直交型実体
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0143】
本発明のある特定の実施形態では、連結部分Bは、
・生体直交型マーカー基、または
・架橋のための非生体直交型実体
を含む。
【0144】
「生体直交型マーカー基」という用語は、天然の生化学プロセスを妨害することなく生体系の内側で起こる化学反応をもたらすことができる反応性基を示すために、Sletten and Bertozzi (2011)によって確立された。「架橋のための非生体直交型実体」は、第1の官能基を含むか、またはそれからなる任意の分子であり得、第1の官能基は、適合性の第2の官能基を含むペイロードに化学的または酵素的に架橋することができる。架橋反応が非生体直交型反応である場合であっても、反応が、ペイロードのリンカーへの架橋以外の追加の修飾を抗体に導入しないことが好ましい。上記を考慮して、連結部分Bは、「生体直交型マーカー基」もしくは「非生体直交型実体」からなり得るか、または「生体直交型マーカー基」もしくは「非生体直交型実体」を含み得る。例えば、連結部分Lys(N3)の場合、Lys(N3)全体とアジド基単独の両方を本発明中で生体直交型マーカー基とみなすことができる。
【0145】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、生体直交型マーカー基または非生体直交型実体は、
・-N-N≡Nまたは-N3
・Lys(N3)
・テトラジン
・アルキン
・DBCO
・BCN
・ノルボレン(Norborene)
・トランスシクロオクテン
・-RCOH(アルデヒド)
・アシルトリフルオロボレート
・-SH、および
・システイン
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0146】
これらの基は例えば、表4に示される結合反応のいずれかに関わる:
【表4】
【0147】
上記の表4では、前記連結部分が、その中のいわゆる、「結合パートナー1」または「結合パートナー2」であり得るか、またはこれを含み得る。
【0148】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、連結部分Bは、遊離スルフヒドリル基を有するCys残基である。
【0149】
このようなCys残基(または誘導体)の遊離スルフヒドリル基を使用して、マレイミドを含むリンカー毒素構築物をそこにコンジュゲートすることができる。コンジュゲーション反応の一部のさらなる詳細、および一部の潜在的なリンカー構築物については
図5を参照されたい。
【0150】
Adcetrisなどのマレイミドリンカーを含む毒素は、頻繁に使用されており、医学当局によって承認もされている。よって、MMAE毒素を含む薬物を、構築物を抗体のCys残基の遊離スルフヒドリル基にコンジュゲートすることを可能にする、(i)p-アミノベンジルスペーサー、(ii)ジペプチドおよび(iii)マレイミドカプロイルリンカーを含むリンカーにコンジュゲートする。
【0151】
したがって、本発明によるリンカー中にCys残基を提供することは、既製の毒素-マレイミド構築物を使用して抗体-ペイロード構築物を作製することができる、またはより一般的に、Cys-マレイミド結合化学の利点を十分に利用することができるという利点を有する。同時に、脱グリコシル化する必要がない、既製の抗体を使用することができる。
【0152】
具体的な実施形態では、Cys残基は、ペプチドリンカーのC末端、または鎖内である。
【0153】
別の実施形態では、連結部分Bはアジド基を含む。当業者であれば、6-アジド-リシン(Lys(N
3))または4-アジド-ホモアラニン(Xaa(N
3))などの、本発明によるリンカーに組み込むことができるアジド基を含む分子を知っている。アジド基を含む連結部分は、歪み促進型アジド-アルキン付加環化(SPAAC)、銅触媒アジド-アルキン付加環化(CuAAC)またはシュタウディンガーライゲーションなどの様々な生体直交型反応で基質として使用することができる。例えば、ある特定の実施形態では、DBCOなどのシクロオクテン誘導体を含むペイロードを、SPAACによってアジド基を含むリンカーに結合させることができる(
図15参照)。
【0154】
さらに別の実施形態では、連結部分Bはテトラジンを含む。当業者であれば、本発明によるリンカーに組み込むことができるテトラジンを含む分子、好ましくはテトラジン基を含むアミノ酸誘導体を知っている(例えば、
図7A参照)。テトラジンを含む連結部分は、生体直交型テトラジンライゲーションで基質として使用することができる。例えば、ある特定の実施形態では、シクロプロペン、ノルボレンまたはシクロオクチン基、例えばビシクロ[6.1.0]ノニン(BCN)を含むペイロードを、テトラジン基を含むリンカーに結合させることができる。
【0155】
本発明はさらに、2つの異なる生体直交型マーカー基および/または非生体直交型実体を含むリンカーを包含する。例えば、本発明によるリンカーは、Lys(N3)またはXaa(N3)などのアジドを含む連結部分、およびシステインなどのスルフヒドリルを含む連結部分を含み得る。ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、Lys(N3)またはXaa(N3)などのアジドを含む連結部分、およびテトラジン修飾アミノ酸などのテトラジンを含む連結部分を含み得る。ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、システインなどのスルフヒドリルを含む連結部分、およびテトラジン修飾アミノ酸などのテトラジンを含む連結部分を含み得る。2つの異なる生体直交型マーカー基および/または非生体直交型実体を含むリンカーは、2つの別個のペイロードを受け入れることができ、よって、1つを超えるペイロードを含む抗体-ペイロードコンジュゲートを得ることができるという利点を有する。
【0156】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、Bが連結部分である場合、実際のペイロードを連結部分に連結するさらなるステップが行われることが提供される。
【0157】
アジドとシクロオクチンとの間(銅フリーのクリックケミストリーとも呼ばれる、Baskin et al (2007))、ニトロンとシクロオクチンとの間(Ning et al (2010))の1,3-双極子付加環化、アルデヒドおよびケトンからのオキシム/ヒドラゾン形成(Yarema, et al (1998))、テトラジンライゲーション(Blackman et al (2008))、イソニトリルベースのクリック反応(Stoeckmann et al (2011))、ならびに最近では、クアドリシクランライゲーション(Sletten & Bertozzi (JACS, 2011))、銅(I)触媒アジド-アルキン付加環化(CuAAC、Kolb & Sharpless (2003))、歪み促進型アジド-アルキン付加環化(SPAAC、Agard et al (2004))または歪み促進型アルキン-ニトロン付加環化(SPANC、MacKenzie et al (2014))を含む、生体直交性の要件を満たすいくつかの化学ライゲーション戦略が開発されている。
【0158】
これら全ての文献は、十分に可能な開示を提供し、冗長な繰り返しを回避するために参照により本明細書に組み込まれる。
【0159】
好ましくは、本発明によるリンカーを微生物トランスグルタミナーゼによって抗体のGln残基にコンジュゲートした後に、ペイロードを前記リンカーの生体直交型マーカー基または非生体直交型実体に結合させることを理解すべきである。しかしながら、本発明はまた、第1のステップで、ペイロードを、連結部分を含むリンカーに結合しており、第2のステップで、得られたリンカー-ペイロード構築物を微生物トランスグルタミナーゼによって抗体にコンジュゲートする、抗体-ペイロードコンジュゲートも包含する。
【0160】
特定の実施形態では、本発明は、ペイロードを、クリック反応、例えば上記のクリック反応のいずれか1つを介して、抗体-リンカーコンジュゲートの連結部分Bに連結する、本発明による方法に関する。好ましい実施形態では、クリック反応はSPAACである。
【0161】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、ペイロードBは、
・毒素
・サイトカイン
・成長因子
・放射性核種
・ホルモン
・抗ウイルス剤
・抗菌剤
・蛍光色素
・免疫調節/免疫刺激剤(immunoregulatory/immunostimulatory agent)
・半減期増加部分
・溶解度増加部分
・ポリマー-毒素コンジュゲート
・核酸
・ビオチンまたはストレプトアビジン部分
・ビタミン
・標的結合部分、および
・抗炎症剤
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0162】
半減期増加部分は、例えば、PEG部分(ポリエチレングリコール部分;PEG化)、他のポリマー部分、PAS部分(プロリン、アラニンおよびセリンを含むオリゴペプチド;PAS化)、または血清アルブミン結合剤である。溶解度増加部分は、例えば、PEG部分(PEG化)またはPAS部分(PAS化)である。
【0163】
ポリマー-毒素コンジュゲートは、多くのペイロード分子を有することができるポリマーである。このようなコンジュゲートは時々、例えばMersana therapeuticsによって販売されている、fleximerとも呼ばれる。
【0164】
核酸ペイロードの1つの例は、MultiCell Technologies,Incによって開発された、腫瘍溶解特性および免疫活性化特性を有する極めて小型の非コード二本鎖RNAである、MCT-485である。
【0165】
抗炎症剤は、例えば、標的特異抗体にコンジュゲートすると、例えば自己免疫疾患によって引き起こされる炎症を改善することができる、抗炎症性サイトカインである。
【0166】
「蛍光色素」という用語は、本明細書で使用される場合、第1の波長で光を吸収し、第1の波長よりも長い第2の波長で発光する色素を指す。ある特定の実施形態では、蛍光色素は、650~900nmの間の波長で発光する、近赤外蛍光色素である。この領域では、組織自己蛍光が低いので、低い蛍光消光により、最小のバックグラウンド干渉で、深部組織透過が増強される。したがって、近赤外蛍光イメージングを使用して、本発明の抗体-ペイロードコンジュゲートが結合している組織を、外科手術中に目に見えるようにすることができる。「近赤外蛍光色素」は、当技術分野で公知であり、商業的に入手可能である。ある特定の実施形態では、近赤外蛍光色素は、IRDye 800CW、Cy7、Cy7.5、NIR CF750/770/790、DyLight 800またはAlexa Fluor 750であり得る。
【0167】
「放射性核種」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、90Y、111In、67Cu、77Lu、99Tc、161Tb、225Acなどの、Y、In、Tb、Ac、Cu、Lu、Tc、Re、Co、Feなどの放射性金属の正に荷電したイオンを含む、医学的に有用な放射性核種に関する。放射性核種はキレート剤に含まれ得る。さらに、放射性核種は、治療用放射性核種、または以下に論じられるイメージング技術で造影剤として使用することができる放射性核種であり得る。放射性核種または放射性核種を含む分子は、当技術分野で公知であり、商業的に入手可能である。
【0168】
「毒素」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞または生物に有毒な任意の化合物に関する。よって、毒素は、例えば低分子、核酸、ペプチドまたはタンパク質であってよい。具体例は、神経毒、壊死毒、血液毒および細胞毒である。本発明の1つのさらなる実施形態によると、毒素は、
・ピロロベンゾジアゼピン(PBD)
・オーリスタチン(例えば、MMAE、MMAF)
・メイタンシノイド(メイタンシン、DM1、DM4、DM21)
・デュオカルマイシン
・チューブリシン(Tubulysin)
・エンジイン(Enediyenes)(例えば、カリケアマイシン)
・PNU、ドキソルビシン
・ピロールベースキネシンスピンドルタンパク質(KSP)阻害剤
・カリケアマイシン
・アマニチン(例えば、α-アマニチン)、および/または
・カンプトテシン(例えば、エキサテカン、デルクステカン)
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0169】
ある特定の実施形態では、ペイロードはオーリスタチンである。本明細書で使用される場合、「オーリスタチン」という用語は、有糸分裂阻害剤(anti-mitotic agent)のファミリーを指す。オーリスタチン誘導体も、「オーリスタチン」という用語の定義に含まれる。オーリスタチンの例としては、それだけに限らないが、オーリスタチンE(AE)の合成アナログ、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)、モノメチルオーリスタチンF(MMAF)およびドラスタチンが挙げられる。
【0170】
ある特定の実施形態では、ペイロードはメイタンシノイドである。本発明の文脈では、「メイタンシノイド」という用語は、アフリカの低木であるMaytenus ovatusから最初に単離された高度細胞傷害性薬物のクラス、ならびにさらなるメイタンシノール(Maytansinol)および天然メイタンシノールのC-3エステル(米国特許第4,151,042号);合成メイタンシノールのC-3エステルアナログ(Kupchan et al., J. Med. Chem. 21: 31-37, 1978;Higashide et al., Nature 270: 721-722, 1977;Kawai et al., Chem. Farm. Bull. 32: 3441-3451;および米国特許第5,416,064号);単純なカルボン酸のC-3エステル(米国特許第4,248,870号;同第4,265,814号;同第4,308,268号;同第4,308,269号;同第4,309,428号;同第4,317,821号;同第4,322,348号;および同第4,331,598号);およびN-メチル-L-アラニンの誘導体とのC-3エステル(米国特許第4,137,230号;同第4,260,608号;およびKawai et al., Chem. Pharm Bull. 12: 3441, 1984)を指す。本発明の方法で使用され得る、または本発明の抗体-ペイロードコンジュゲートに含まれ得る例示的なメイタンシノイドは、DM1、DM3、DM4および/またはDM21である。
【0171】
ある特定の実施形態では、毒性ペイロード分子は デュオカルマイシンである。適切なデュオカルマイシンは、例えばデュオカルマイシンA、デュオカルマイシンB1、デュオカルマイシンB2、デュオカルマイシンCI、デュオカルマイシンC2、デュオカルマイシンD、デュオカルマイシンSA、デュオカルマイシンMAおよびCC-1065であり得る。「デュオカルマイシン」という用語は、アドゼレシン、ビゼレシン、カルゼレシン、KW-2189およびCBI-TMIなどのデュオカルマイシンの合成アナログも指すと理解すべきである。
【0172】
毒素はまた、本発明の意味においては、薬物流出トランスポーターの阻害剤でもあり得る。毒素および薬物流出トランスポーターの阻害剤を含む抗体-ペイロードコンジュゲートは、細胞に内部移行すると、薬物流出トランスポーターの阻害剤が、毒素が細胞の外に流出するのを防ぐという利点を有し得る。本発明の中では、薬物流出トランスポーターはP-糖タンパク質であり得る。P-糖タンパク質の一部の一般的な薬理学的阻害剤としては、アミオダロン、クラリスロマイシン、シクロスポリン、コルヒチン、ジルチアゼム、エリスロマイシン、フェロジピン、ケトコナゾール、ランソプラゾール、オメプラゾールおよび他のプロトンポンプ阻害剤、ニフェジピン、パロキセチン、レセルピン、サキナビル、セルトラリン、キニジン、タモキシフェン、ベラパミルおよびデュロキセチンが挙げられる。エラクリダルおよびCP100356は他の一般的なP-gp阻害剤である。ゾスキダルおよびタリキダルもこれを踏まえて開発された。最後に、バルスポダールおよびレベルサン(reversan)は、このような薬剤の他の例である。
【0173】
ビタミンは、葉酸、ホラシンおよびビタミンB9を含む、フォレートからなる群から選択され得る。
【0174】
標的結合部分は、タンパク質または非タンパク質標的に特異的に結合することができるタンパク質または低分子であり得る。一実施形態では、このような標的結合部分が、scFv形抗体、Fab断片、F(ab)2断片、ナノボディ、アフィボディ、ダイアボディ、VHH型抗体、またはDARPINを含む抗体模倣物である。
【0175】
ペイロードを、クリック反応などの任意の適切な反応によってリンカーの連結部分に結合させることができる、または化学合成によってリンカーに結合させることができることを理解すべきである。
【0176】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、リンカーは、2つまたはそれよりも多い連結部分Bを有する。
【0177】
このような実施形態では、例えば、2つのペイロードが各Q295残基にコンジュゲートしており、抗体のペイロードに対する比が4である、抗体-ペイロードコンジュゲートを作製することができる。
【0178】
本発明の1つのさらなる実施形態によると、2つまたはそれよりも多い連結部分Bは互いに異なる。
【0179】
このような実施形態では、第1の連結部分が、例えば、アジド(N3)であるか、またはこれを含むことができ、第2の連結部分が、テトラジンであるか、またはこれを含むことができる。よって、このようなオリゴペプチドリンカーは、2つの異なるペイロードを抗体の2つのGln残基、すなわち、抗体の2つのCH2ドメインのQ295残基にコンジュゲートすることを可能にする。
【0180】
このようにして、抗体ペイロード比2+2を得ることができる。第2のペイロードを使用することにより、有効性および効力に関して現在の治療アプローチを超える完全に新規なクラスの抗体ペイロードコンジュゲートを開発することが可能になる。
【0181】
このような実施形態は、とりわけ、例えばDNAおよび微小管などの細胞内の2つの異なる構造を標的とすることを可能にする。一部のがんは、例えば微小管毒などのある薬物に耐性であり得るので、DNA毒が、がん細胞を依然として殺傷することができる。
【0182】
別の実施形態によると、同時におよび同じ組織に放出された場合にのみ十分強力な2つの薬物を使用することができる。これは、抗体が健康な組織で部分的に分解される、または一方の薬物が早まって失われる場合に、標的外毒性の減少をもたらし得る。
【0183】
さらに、二重標識プローブを非侵襲的イメージングおよび治療、または術中/術後イメージング/外科手術に使用することができる。このような実施形態では、腫瘍患者を非侵襲的イメージングによって選択することができる。次いで、腫瘍を、外科医またはロボットが全てのがん性組織を特定するのを助ける他のイメージング剤(例えば、蛍光色素)を使用して、外科的に除去することができる。
【0184】
本発明の別の態様によると、上記ステップのいずれか1つによる方法を用いて作製された抗体-ペイロードコンジュゲートが提供される。
【0185】
本発明の別の態様によると、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)m-B-(Aax)n
(式中、GlyはN末端第一級アミンを含み、
・mは0以上12以下の整数であり、
・nは0以上12以下の整数であり、
・m+n≧0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・Bはペイロードまたは連結部分である)
を含むリンカーであって、リンカーのN末端GlyのN末端第一級アミンを介して、微生物トランスグルタミナーゼによって抗体にコンジュゲートすることができる、リンカーが提供される。
【0186】
前記リンカーは、N末端グリシン(Gly)残基のN末端第一級アミンを介して、トランスグルタミナーゼ酵素によって、抗体の重鎖または軽鎖に含まれるグルタミン(Gln)残基にコンジュゲートするのに適している。
【0187】
一般的に、本発明の方法による上に論じられる利点および実施形態は、この態様、すなわち、材料の組成(composition of matter)としてのリンカーにも当てはまる。よって、これらの実施形態を材料の組成としてのリンカーによっても開示されているとみなすものとする。
【0188】
本明細書に示される様々なリンカーペプチドでは、C末端は、他の方法で示されている場合でも、保護されていてもされていなくてもよいことを理解することが重要である。保護はアミド化によって達成することができる。本発明の文脈では、C末端で保護されているリンカーペプチドと保護されていないリンカーペプチドが包含される。
【0189】
特定の実施形態では、本発明は、2つまたはそれよりも多いペイロードおよび/または連結部分Bを含む、本発明によるリンカーに関する。
【0190】
ある特定の実施形態では、リンカーは、2つまたはそれよりも多い連結部分および/またはペイロードを含み得る。すなわち、リンカーは、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)m-B1-(Aax)n-B2-(Aax)o
(式中、
・m、nおよびoは0以上12以下の整数であり、
・m+n+o≧0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・B1およびB2はペイロードおよび/または連結部分であり、B1およびB2は同一であっても、互いに異なっていてもよい)
を有し得、リンカーを、リンカーのN末端GlyのN末端第一級アミンを介して、微生物トランスグルタミナーゼによって抗体にコンジュゲートすることができる。
【0191】
他の実施形態では、リンカーは、3つの連結部分および/またはペイロードを含み得る。すなわち、リンカーは、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)m-B1-(Aax)n-B2-(Aax)o-B3-(Aax)p
(式中、
・m、n、oおよびpは0以上12以下の整数であり、
・m+n+o+p≧0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・B1、B2およびB3はペイロードおよび/または連結部分であり、B1、B2およびB3は同一であっても、互いに異なっていてもよい)
を有し得、リンカーを、リンカーのN末端GlyのN末端第一級アミンを介して、微生物トランスグルタミナーゼによって抗体にコンジュゲートすることができる。
【0192】
本発明が、3つを超える連結部分および/またはペイロード、例えば、4つ、5つまたは6つの連結部分および/またはペイロードを含むリンカーも包含することを理解すべきである。この場合、リンカーのペプチド構造は、2つまたは3つの連結部分および/またはペイロードを含むリンカーについて上に記載されるのと同じパターンに従う。
【0193】
ある特定の実施形態では、本発明は、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)m-B-(Aax)n
(式中、
・mは0以上12以下の整数であり、
・nは0以上12以下の整数であり、
・m+n≧0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・Bはペイロードまたは連結部分である)
を有するリンカーであって、リンカーのN末端GlyのN末端第一級アミンを介して、微生物トランスグルタミナーゼによって抗体にコンジュゲートすることができるリンカーに関する。
【0194】
この場合、部分Bが1つを超えるペイロードおよび/または連結部分を含み得ることを理解すべきである。例えば、Bが(B’-(Aax)o-B’’)(式中、B’およびB’’はペイロードおよび/または連結部分であり、oは0以上12以下の整数である)を表し得る。あるいは、Bが(B’-(Aax)o-B’’-(Aax)p-B’’’)(式中、B’、B’’およびB’’’はペイロードおよび/または連結部分であり、oおよびpは0以上12以下の整数である)を表し得る。
【0195】
好ましい実施形態では、mおよび/またはnは、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上または11以上である。他の好ましい実施形態では、mおよび/またはnは、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下または1以下である。さらなる好ましい実施形態では、m+nは、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上または11以上である。なおさらなる好ましい実施形態では、m+nは、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下または1以下である。
【0196】
両範囲のメンバーを別のものと組み合わせて、下限および上限を有する好ましい長さ範囲を開示することができる。
【0197】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、m+nが、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下または4以下である、本発明によるリンカーに関する。
【0198】
さらなる実施形態では、リンカーはカテプシンBによって切断可能でない、および/またはリンカーはバリン-アラニンモチーフもバリン-シトルリンモチーフも含まない、および/またはリンカーはポリエチレングリコールもポリエチレングリコール誘導体も含まない。
【0199】
一実施形態によると、連結部分Bは、
・生体直交型マーカー基
・架橋のための他の非生体直交型実体
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0200】
ある特定の実施形態では、リンカーの少なくとも1つの連結部分Bは、
・生体直交型マーカー基;または
・架橋のための非生体直交型実体
を含むか、またはそれからなる。
【0201】
一実施形態によると、生体直交型マーカー基または非生体直交型実体は、
・-N-N≡Nまたは-N3
・Lys(N3)
・テトラジン
・アルキン
・DBCO
・BCN
・ノルボレン
・トランスシクロオクテン
・-RCOH(アルデヒド)
・アシルトリフルオロボレート
・-SH、および
・システイン
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0202】
さらなる実施形態では、リンカーの正味電荷は中性もしくは正である、および/またはリンカーは負に荷電したアミノ酸残基を含まない、および/またはリンカーは正に荷電したアミノ酸残基を含む、および/またはリンカーは、
・リシン
・アルギニン、および/または
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも2つのアミノ酸残基を含む。
【0203】
ある特定の実施形態では、リンカーは、
・リシン、
・アルギニン、および
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。
【0204】
ある特定の実施形態では、リンカーは、
・アルギニン、および
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。
【0205】
すなわち、ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、中性または正の正味電荷を有する。ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、中性または正の正味電荷を有し、少なくとも1つのアルギニンおよび/またはヒスチジン残基を含む。ある特定の実施形態では、本発明によるリンカーは、リシン残基を含まない。ある特定の実施形態では、リンカーは、中性または正の正味電荷を有し、リシン残基を含まない。
【0206】
一実施形態によると、第一級アミン基は、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)の基質として働くのに適している。
【0207】
1つのさらなる実施形態によると、リンカーは、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって抗体-ペイロードコンジュゲートを作製するのに適している。
1つのさらなる実施形態によると、リンカーは、
a)表5に示されるリスト、および/または
b)配列番号1~25のいずれか1つ
から選択される。
【0208】
特定の実施形態では、本発明は、リンカーが表5に示されるリストから選択される、本発明によるリンカーに関する。
【0209】
本発明のさらに別の態様によると、少なくとも
a)上記説明によるリンカー、および
b)1つまたは複数のペイロード
を含む、リンカー-ペイロード構築物であって、前記構築物中、リンカーおよび/またはペイロードが、前記構築物を形成するために共有結合または非共有結合を可能にするように、必要に応じて結合中に化学修飾されている、リンカー-ペイロード構築物が提供される。
【0210】
ある特定の実施形態では、少なくとも
a)上記説明によるリンカー、および
b)1つまたは複数のペイロード
を含む、リンカー-ペイロード構築物であって、1つまたは複数のペイロードが、リンカーに共有結合または非共有結合している、リンカー-ペイロード構築物が提供される。
【0211】
特定の実施形態では、本発明は、構築物中、1つまたは複数のペイロードが、クリック反応で、リンカーの連結部分Bに共有結合している、本発明によるリンカー-ペイロード構築物に関する。すなわち、1つまたは複数のペイロードを、限定されないが、SPAAC、テトラジンライゲーションまたはチオール-マレイミドコンジュゲーションなどの上で論じられるクリック反応のいずれかによって、連結部分Bに結合させ得る。
【0212】
リンカー中の連結部分とペイロードとの間のクリック反応に加えて、ペイロードを、当技術分野で公知の任意の酵素反応または非酵素反応によってリンカーに共有結合させ得る。このために、ペイロードを、リンカーのC末端またはリンカーのアミノ酸側鎖に結合させ得る。
【0213】
ある特定の実施形態では、ペイロードを化学合成によってリンカーに結合させる。当業者であれば、ペイロードを化学反応によってペプチドリンカーに結合させる方法を知っている。例えば、アミンを含むペイロード、またはチオールを含むペイロード(例えば、メイタンシンアナログ)、またはヒドロキシル含有ペイロード(例えば、SN-38アナログ)を、化学合成によってペプチドリンカーのC末端に結合させて、例えば
図17に示されるリンカーを得ることができる。しかしながら、当業者であれば、ペイロードを化学合成によってアミノ酸またはアミノ酸誘導体のC末端または側鎖にカップリングするために利用することができるさらなる反応および反応性基を知っている。ペイロードを化学合成によってペプチドリンカーに結合させるために使用することができる典型的な反応としては、限定されないが、ペプチドカップリング、活性化エステルカップリング(NHSエステル、PFPエステル)、クリック反応(CuAAC、SPAAC)、マイケル付加(チオールマレイミドコンジュゲーション)が挙げられる。ペイロードのペプチドへのカップリングは、例えばCostoplus et al. (ACS Med Chem, 2019)、Sonzini et al. (Bioconj Chem, 2019)、Bodero et al. (Belstein, 2018)、Nunes et al. (RSC Adv, 2017)、Doronina et al. (Bioconj Chem, 2006)、Nakada et al. (Bioorg Med Chem, 2016)およびDickgiesser et al. (Bioconj Chem, 2020)によって、先行技術で広範囲にわたって記載されている。
【0214】
特定の実施形態では、本発明は、構築物中、リンカーおよび/またはペイロードが、前記構築物を形成するために共有結合または非共有結合を可能にするように、必要に応じて結合中に化学修飾されている、本発明によるリンカー-ペイロード構築物に関する。
【0215】
2つまたはそれよりも多いペイロードが使用されている場合、これらのペイロードは同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0216】
一実施形態では、ペイロードは、
・毒素
・サイトカイン
・成長因子
・放射性核種
・ホルモン
・抗ウイルス剤
・抗菌剤
・蛍光色素
・免疫調節/免疫刺激剤
・半減期増加部分
・溶解度増加部分
・ポリマー-毒素コンジュゲート
・核酸
・ビオチンまたはストレプトアビジン部分
・ビタミン
・標的結合部分、および
・抗炎症剤
・タンパク質分解体(PROTAC)
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0217】
別の実施形態では、毒素は、
・ピロロベンゾジアゼピン(PBD)
・オーリスタチン(例えば、MMAE、MMAF)
・メイタンシノイド(メイタンシン、DM1、DM4、DM21)
・デュオカルマイシン
・チューブリシン
・エンジイン(例えば、カリケアマイシン)
・PNU、ドキソルビシン
・ピロールベースキネシンスピンドルタンパク質(KSP)阻害剤
・カリケアマイシン
・アマニチン(例えば、α-アマニチン)、および/または
・カンプトテシン(例えば、エキサテカン、デルクステカン)
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0218】
本発明の別の態様によると、
a)1つまたは複数の上記説明によるリンカー-ペイロード構築物、および
b)重鎖または軽鎖に少なくとも1つのGln残基を含む抗体
を含む抗体-ペイロードコンジュゲートであって、前記コンジュゲート中、リンカー-ペイロード構築物および/または抗体が、前記コンジュゲートを形成するために共有結合によるまたは非共有結合によるコンジュゲーションを可能にするように、必要に応じてコンジュゲーション中に化学修飾されている、抗体-ペイロードコンジュゲートが提供される。
【0219】
特定の実施形態では、本発明は、
a)1つまたは複数の上記説明によるリンカー-ペイロード構築物、および
b)重鎖または軽鎖に少なくとも1つのGln残基を含む抗体
を含む抗体ペイロードコンジュゲートであって、前記リンカー-ペイロード構築物が、前記リンカー-ペイロード構築物に含まれるN末端グリシン残基のN末端第一級アミンを介して、前記抗体の重鎖または軽鎖のGln残基のアミド側鎖にコンジュゲートしている、抗体ペイロードコンジュゲートに関する。
【0220】
特定の実施形態では、本発明は、コンジュゲーションが微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって達成されている、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0221】
特定の実施形態では、本発明は、コンジュゲーションがリンカー-ペイロード構築物の形成前または後に達成されている、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。すなわち、本発明は、第1のステップで、リンカーを抗体にコンジュゲートさせた後、第2のステップで、1つまたは複数のペイロードをリンカーの連結部分に結合させる、抗体-ペイロードコンジュゲートを包含する。しかしながら、本発明はまた、第1のステップで、1つまたは複数のペイロードをリンカーの連結部分に結合させ、次いで、第2のステップで、得られたリンカー-ペイロード構築物を抗体にコンジュゲートする、抗体-ペイロードコンジュゲートも包含する。さらに、1ステップ反応で、1つまたは複数のペイロードを化学合成によってペプチドリンカーに結合させ、次いで、得られたリンカー-ペイロード構築物を抗体にコンジュゲートすることができる。
【0222】
特定の実施形態では、本発明は、抗体がIgG、IgE、IgM、IgD、IgAもしくはIgY抗体、またはその断片もしくは組換えバリアントであり、その断片または組換えバリアントが、標的結合特性を保持し、CH2ドメインを含む、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0223】
特定の実施形態では、本発明は、抗体がIgG抗体である、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0224】
特定の実施形態では、本発明は、抗体がグリコシル化抗体、脱グリコシル化抗体またはアグリコシル化抗体である、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0225】
特定の実施形態では、本発明は、グリコシル化抗体がCH2ドメインの残基N297(EUナンバリング)でグリコシル化されているIgG抗体である、またはグリコシル化抗体がIgG抗体のCH2ドメインの残基N297(EUナンバリング)と相同な残基でグリコシル化されている異なるアイソタイプの抗体である、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0226】
特定の実施形態では、本発明は、(a)リンカー-ペイロード構築物が、分子操作によって抗体の重鎖または軽鎖に導入されたGln残基にコンジュゲートしている、または(b)リンカー-ペイロード構築物が、抗体のFcドメインのGln残基にコンジュゲートしている、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0227】
特定の実施形態では、本発明は、抗体のFcドメインのGln残基が、IgG抗体のCH2ドメインのGln残基Q295(EUナンバリング)、または異なるアイソタイプの抗体の相同なGln残基である、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0228】
特定の実施形態では、本発明は、抗体のFcドメインのGln残基が、CH2ドメインの残基N297(EUナンバリング)でグリコシル化されているIgG抗体のCH2ドメインのGln残基Q295(EUナンバリング)である、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0229】
本発明の方法または抗体-ペイロードコンジュゲートの抗体は、任意の抗体、好ましくは任意のIgG型抗体であり得る。例えば、抗体は、限定されないが、ブレンツキシマブ、トラスツズマブ、ゲムツズマブ、イノツズマブ、アベルマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、ダラツムマブ、ペルツズマブ、ベドリズマブ、オクレリズマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ゴリムマブ、オビヌツズマブ、ポラツズマブまたはエンホルツマブであり得る。
【0230】
すなわち、ある特定の実施形態では、本発明は、抗体がブレンツキシマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がトラスツズマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がゲムツズマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がイノツズマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がアベルマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がセツキシマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がリツキシマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がダラツムマブ(Daratumumbab)である、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がペルツズマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がベドリズマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がオクレリズマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がトシリズマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がウステキヌマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がゴリムマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がオビヌツズマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がポラツズマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。さらなる実施形態では、本発明は、抗体がエンホルツマブである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0231】
特定の実施形態では、本発明は、分子操作によって抗体の重鎖または軽鎖に導入されたGln残基がアグリコシル化IgG抗体のCH2ドメインのN297Q(EUナンバリング)である、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0232】
特定の実施形態では、本発明は、分子操作によって抗体の重鎖または軽鎖に導入されたGln残基が、(a)抗体の重鎖もしくは軽鎖に組み込まれている、または(b)抗体の重鎖もしくは軽鎖のN末端もしくはC末端に融合されているペプチドに含まれる、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0233】
特定の実施形態では、本発明は、Gln残基を含むペプチドが抗体の重鎖のC末端に融合されている、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0234】
特定の実施形態では、本発明は、Gln残基を含むペプチドがLLQGG、LLQG、LSLSQG、GGGLLQGG、GLLQG、LLQ、GSPLAQSHGG、GLLQGGG、GLLQGG、GLLQ、LLQLLQGA、LLQGA、LLQYQGA、LLQGSG、LLQYQG、LLQLLQG、SLLQG、LLQLQ、LLQLLQ、LLQGR、EEQYASTY、EEQYQSTY、EEQYNSTY、EEQYQS、EEQYQST、EQYQSTY、QYQS、QYQSTY、YRYRQ、DYALQ、FGLQRPY、EQKLISEEDL、LQRおよびYQRからなる群から選択される、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0235】
特定の実施形態では、本発明は、少なくとも1つの毒素(at least on toxin)を含む、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0236】
すなわち、本発明の抗体-ペイロードコンジュゲートは、少なくとも1つの毒素を含む少なくとも1つのリンカーにコンジュゲートしている抗体を含む。ある特定の実施形態では、抗体-ペイロードコンジュゲートが2つのリンカーを含み、抗体の各重鎖がそれぞれ1つのリンカーにコンジュゲートしている。ある特定の実施形態では、抗体-ペイロードコンジュゲートが4つのリンカーを含み、抗体の各重鎖がそれぞれ2つのリンカーにコンジュゲートしている。このような場合、各リンカーは、1つまたは複数のペイロード、例えば毒素を含有し得る。
【0237】
ある特定の実施形態では、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートは、各リンカーが1つのペイロード、例えば毒素を含む、2つのリンカーを含む。他の実施形態では、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートは、各リンカーが2つのペイロード、例えば1つの毒素と1つの他のペイロード、または2つの同一のもしくは異なる毒素を含む、2つのリンカーを含む。抗体-ペイロードコンジュゲートが2つのリンカーを含む実施形態では、リンカーが、IgG抗体の2つの重鎖の残基Q295にコンジュゲートしていることが好ましい。さらにより好ましくは、抗体は、残基N297でグリコシル化されているIgG抗体である。
【0238】
ある特定の実施形態では、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートは、各リンカーが1つのペイロード、例えば毒素を含む、4つのリンカーを含む。他の実施形態では、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートは、各リンカーが2つのペイロード、例えば1つの毒素と1つの他のペイロード、または2つの同一のもしくは異なる毒素を含む、4つのリンカーを含む。抗体-ペイロードコンジュゲートが4つのリンカーを含む実施形態では、リンカーがIgG抗体の2つの重鎖の残基Q295およびN297Qにコンジュゲートしていることが好ましい。
【0239】
特定の実施形態では、本発明は、2つの異なる毒素を含む、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0240】
ある特定の実施形態では、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートは、2つの異なる毒素を含む。すなわち、ある特定の実施形態では、抗体-ペイロードコンジュゲートは、各リンカーが2つの異なる毒素を含む、2つのリンカーを含み得る。2つの異なる毒素を含む抗体-ペイロードコンジュゲートは、細胞傷害活性の増加を有し得るという利点を有する。このような細胞傷害活性の増加は、2つの異なる細胞機構を標的とする2つの毒素を組み合わせることによって達成され得る。例えば、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートは、細胞分裂を阻害する第1の毒素とDNAの複製および/または転写を妨害する毒素である第2の毒素とを含み得る。
【0241】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、第1の毒素が細胞分裂を阻害する毒素であり、第2の毒素がDNAの複製および/または転写を妨害する毒素である、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0242】
有糸分裂阻害剤または紡錘体毒などの細胞分裂を阻害する毒素は、細胞の有糸分裂を阻害または防止する能力を有する薬剤である。紡錘体毒は、紡錘体として公知の染色体のセントロメア領域を接続するタンパク質糸に影響を及ぼすことによって細胞分裂を崩壊させる毒である。紡錘体毒は、紡錘体集合チェックポイント(SAC)で細胞分裂の有糸分裂期を中断することによって新たな細胞の産生を有効に中止する。有糸分裂紡錘体は、調節タンパク質と共に;複製された染色体を適切に分離する活性において互いに助けあう、微小管(重合したチューブリン)で構成される。有糸分裂紡錘体に影響を及ぼすある特定の化合物が、固形腫瘍および血液悪性腫瘍に対して極めて有効であると分かっている。
【0243】
有糸分裂阻害剤の2つの特定のファミリーである、ビンカアルカロイドおよびタキサンは、微小管動態の揺動によって細胞の分裂を中断する。ビンカアルカロイドは、チューブリンの微小管への重合の阻害を引き起こし、細胞周期内のG2/M停止、および最終的には細胞死をもたらすことによって作用する。対照的に、タキサンは、微小管を脱重合に対して安定化することによって有糸分裂細胞周期を停止する。新規な化学療法の標的となり得る多数の他の紡錘体タンパク質が存在するが、チューブリン結合剤が臨床的使用における唯一の種類である。運動タンパク質キネシンに影響を及ぼす薬剤が臨床試験に入り始めている。別の種類であるパクリタキセルは、既存の微小管内のチューブリンに結合することによって作用する。本発明中の細胞分裂を阻害する好ましい毒素は、MMAEおよびMMAFなどのオーリスタチン、ならびにDM1、DM3、DM4および/またはDM21などのメイタンシノイドである。
【0244】
特定の実施形態では、本発明は、毒素の少なくとも1つがオーリスタチンまたはメイタンシノイドである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0245】
DNA分子の正しい複製および/または転写を防止し、がん処置で適していることが示されているいくつかの薬剤が当業者に公知である。例えば、新たに形成されたDNAおよび/またはRNA分子に誤って取り込まれるヌクレオチドまたはヌクレオシドアナログなどの代謝拮抗薬が当技術分野で公知であり、Tsesmetzis et al, Cancers (Basel), 2018, 10(7): 240によって要約されている。DNAの複製および/または転写を妨害することが公知の他の毒素は、デュオロマイシン(duoromycin)である。
【0246】
したがって、ある特定の実施形態では、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートは、第1の毒素がデュオロマイシンであり、第2のペイロードがオーリスタチンまたはメイタンシノイドである、2つの異なる毒素を含む。
【0247】
ある特定の実施形態では、本発明は、2つの異なるオーリスタチンを含む、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0248】
2つの異なる毒素を含む抗体-ペイロードコンジュゲートの1つの主な利点は、抗体-ペイロードコンジュゲートが毒素の1つの作用機構から逃れた標的細胞に対しても依然として作用し得ること、および/または抗体-ペイロードコンジュゲートが不均一腫瘍に対する高い有効性を有し得ることである。
【0249】
特定の実施形態では、本発明は、毒素および薬物流出トランスポーターの阻害剤を含む、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0250】
特定の実施形態では、本発明は、毒素および溶解度増加部分を含む、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0251】
すなわち、抗体-ペイロードコンジュゲートは、第1のペイロードが毒素であり、第2のペイロードが溶解度増加部分である、2つのペイロードを含み得る。
図9の構造5は、リシン側鎖に結合した溶解度増加部分を含むペプチドリンカーを示している。したがって、毒素および溶解度増加部分を含む抗体-ペイロードコンジュゲートは、毒素を
図9の構造5に示されるリンカーのアジド基にクリックすることによって得られ得る。あるいは、抗体-リンカーコンジュゲートは、毒素をリンカーのアジドを含む連結部分にクリックすることによって、およびマレイミドを含む溶解度増加部分を同じリンカーのシステイン側鎖にクリックすることによって得られ得る。あるいは、毒素および/または溶解度増加部分を、化学合成によってリンカーに結合させることができる。
【0252】
特定の実施形態では、本発明は、毒素および免疫刺激剤を含む、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0253】
本明細書で使用される場合、文脈に応じて、「免疫刺激剤」という用語は、抗原に対する対象の免疫応答を増加させる化合物を含む。免疫刺激剤の例としては、免疫賦活薬および免疫細胞活性化化合物が挙げられる。本発明の抗体-ペイロードコンジュゲートは、リガンドを認識し、抗原提示を増強するように免疫細胞をプログラムするのを助ける免疫刺激剤を含有し得る。免疫細胞活性化化合物には、Toll様受容体(TLR)アゴニストが含まれる。このようなアゴニストには、病原体関連分子パターン(PAMP)、例えば細菌由来免疫調節物質(bacterially-derived immunomodulator)(別名、デンジャーシグナル)などの感染模倣組成物およびダメージ関連分子パターン(DAMP)、例えばストレスまたは損傷細胞を模倣する組成物が含まれる。TLRアゴニストには、核酸または脂質組成物(例えば、モノホスホリル脂質A(MPLA))が含まれる。一例では、TLRアゴニストは、TLR9アゴニスト、例えばシトシン-グアノシンオリゴヌクレオチド(CpG-ODN)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)縮合オリゴヌクレオチド(ODN)、例えばPEI-CpG-ODN、または二本鎖デオキシリボ核酸(DNA)を含む。別の例では、TLRアゴニストは、TLR3アゴニスト、例えばポリイノシン-ポリシチジル酸(ポリ(I:C))、PEI-ポリ(I:C)、ポリアデニル酸-ポリウリジル酸(ポリ(A:U))、PEI-ポリ(A:U)、または二本鎖リボ核酸(RNA)を含む。他の例示的なワクチン免疫刺激化合物には、リポ多糖(LPS)、ケモカイン/サイトカイン、真菌ベータ-グルカン(レンチナンなど)、イミキモド、CRX-527およびOM-174が含まれる。
【0254】
特定の実施形態では、本発明は、2つの異なる免疫刺激剤を含む、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0255】
特定の実施形態では、本発明は、少なくとも1つの免疫刺激剤がTLRアゴニストである、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0256】
「TLRアゴニスト」という用語は、本明細書で使用される場合、直接的リガンドとして、または間接的に内因性もしくは外因性産生を通して、TLRシグナル伝達経路を通してシグナル伝達応答を引き起こすことができる分子を指す。TLR受容体のアゴニストリガンドは、(i)実際のTLR受容体の天然リガンド、もしくはTLR受容体に結合し、その上で共刺激シグナルを誘導する能力を保存するその機能的に等価なバリアント、または(ii)TLR受容体、さらに特に、前記受容体の細胞外ドメインに特異的に結合し、その受容体および関連タンパク質によって制御される免疫シグナルの一部を誘導することができる、TLR受容体に対するアゴニスト抗体、もしくはその機能的に等価なバリアントである。結合特異性は、ヒトTLR受容体に対するもの、または異なる種の、ヒトTLR受容体に相同なTLR受容体に対するものであり得る。
【0257】
特定の実施形態では、本発明は、放射性核種および蛍光色素を含む、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0258】
特定の実施形態では、本発明は、放射性核種が断層撮影、特に単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)または陽電子放射断層撮影(PET)での使用に適しており、蛍光色素が近赤外蛍光色素である、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。
【0259】
「放射性核種(radionuclide)」という用語は、本明細書で使用される場合、放射性核種(radioactive nuclide)、放射性同位体または放射性同位元素と同じ意味を有する。
【0260】
放射性核種は、好ましくは陽電子放射断層撮影(PET)、単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)、SPECTおよび/もしくはPETのハイブリッド、またはこれらの組合せなどの核医学分子イメージング技術によって検出可能である。
【0261】
単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)は、本明細書では、プラナーシンチグラフィー(PS)を含む。
【0262】
SPECTおよび/またはPETのハイブリッドは、例えばSPECT/CT、PET/CT、PET/IRMまたはSPECT/IRMである。
【0263】
SPECTおよび/またはPETは、対象の体に導入された放射性核種の濃度(または取り込み)についての情報を取得する。PETは、陽電子を放出する放射性核種によって間接的に放射されるガンマ線ペアを検出することによって画像を作成する。PET分析によって、目的の領域(例えば、脳、乳房、肝臓、...)にわたる体の一連のシンスライス画像(thin slice image)が得られる。これらのシンスライス画像を、調査する領域の三次元表現に組み立てることができる。SPECTはPETと類似であるが、SPECTで使用される放射性物質は、PETで使用されるものよりも長い減衰時間を有し、二重ガンマ線の代わりに単一ガンマ線を放射する。SPECT像は、PET像よりも低い感度を示し、PET像よりも詳細でないが、SPECT技術はPETよりもはるかに安価であり、粒子加速器の近接を必要としないという利点を提供する。実際の臨床PETは、SPECTよりも高い感度および優れた空間分解能を提供し、光子の高いエネルギーにより正確な減衰補正の利点を提供する;したがって、PETは、SPECTよりも正確な定量データを提供する。プラナーシンチグラフィー(PS)は、同じ放射性核種を使用するという点でSPECTと類似である。しかしながら、PSは、2D情報しか作成しない。
【0264】
SPECTは局所的放射性トレーサ取り込みのコンピュータ作成像をもたらし、CTはヒトの体のX線密度の3D解剖学的画像をもたらす。複合SPECT/CTイメージングは、単一検査中に得られる、SPECTからの順次機能情報およびCTからの解剖学的情報をもたらす。CTデータはまた、単光子放出データの迅速で最適な減衰補正にも使用される。異常なおよび/または生理的なトレーサ取り込みの領域を正確に限局化することによって、SPECT/CTは、感度および特異度を改善するが、正確な線量測定推定を達成すること、および介入的手技を誘導すること、または体外照射療法のために標的体積をより良く規定することを助けることもできる。単光子放出放射線トレーサによるガンマカメライメージングが手技の大部分となっている。
【0265】
放射性核種は、テクネチウム-99m(99mTc)、ガリウム-67(67Ga)、ガリウム-68(68Ga)、イットリウム-90(90Y)、インジウム-111(111In)、レニウム-186(186Re)、フッ素-18(18F)、銅-64(64Cu)、テルビウム-149(149Tb)またはタリウム-201(201TI)からなる群で選択され得る。放射性核種は、分子に含まれてもよいし、またはキレート剤に結合していてもよい。
【0266】
本発明の別の態様によると、上記説明によるリンカー、上記説明によるリンカー-ペイロード構築物、および/または上記説明による抗体-ペイロードコンジュゲートを含む医薬組成物が提供される。
【0267】
本発明の別の態様によると、上記説明による抗体-ペイロードコンジュゲート、または上記説明による医薬組成物、および少なくとも1つのさらなる薬学的に許容される担体を含む、医薬製品が提供される。
【0268】
薬学的に許容される担体は、対象に非毒性の、有効成分以外の医薬製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体としては、それだけに限らないが、バッファ、賦形剤、安定剤または保存剤が挙げられる。
【0269】
本明細書に記載される抗体-ペイロードコンジュゲートの医薬製剤は、凍結乾燥製剤または水性液剤の形態で、所望の純度を有するこのようなコンジュゲートを1つまたは複数の必要に応じた薬学的に許容される担体(Flemington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Oslo, A. Ed. (1980))と混合することによって調製される。薬学的に許容される担体は、一般的に、用いられる投与量および濃度でレシピエントに非毒性であり、それだけに限らないが、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む単糖、二糖および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Znタンパク質錯体);ならびに/あるいはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。本明細書の例示的な薬学的に許容される担体には、間質性(insterstitial)薬物分散剤、例えば可溶性中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えばヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えばrHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)がさらに含まれる。rHuPH20を含む、ある特定の例示的なsHASEGPおよび使用方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号および同第2006/0104968号に記載されている。一態様では、sHASEGPを、1つまたは複数の追加のグリコサミノグリカナーゼ、例えばコンドロイチナーゼと組み合わせる。
【0270】
一実施形態では、本発明は、治療および/または診断で使用するための、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲート、本発明による医薬組成物または本発明による医薬製品に関する。
【0271】
すなわち、本発明の抗体-ペイロードコンジュゲートは、対象の処置または対象の疾患もしくは状態の診断で使用され得る。個体または対象は哺乳動物である。哺乳動物には、それだけに限らないが、飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類、例えばマカク)、ウサギ、および齧歯類(例えば、マウスおよびラット)が含まれる。ある特定の実施形態では、個体または対象はヒトである。
【0272】
本発明の別の態様によると、新生物疾患、神経疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患もしくは感染性疾患
・を患っている、
・を発症するリスクがある、および/もしくは
・と診断されている
患者を処置するための、または予防またはこのような状態を予防するための(医薬を製造するための)、上記説明による医薬組成物または上記説明による製品が提供される。
【0273】
好ましくは、本発明は、新生物疾患を患っている患者の処置で使用するための、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲート、本発明による医薬組成物または本発明による医薬製品に関する。
【0274】
「新生物疾患」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞の制御されない、異常な成長を特徴とする状態を指す。新生物疾患には、がんが含まれる。がんの例としては、それだけに限らないが、癌、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫および白血病が挙げられる。このようながんのより具体的な例としては、乳がん、前立腺がん、結腸がん、扁平上皮がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、頸がん、胃腸がん、膵臓がん、神経膠芽腫、肝臓がん、膀胱がん、ヘパトーマ、結腸直腸がん、子宮頸がん、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎がん、外陰がん、甲状腺がん、肝癌、皮膚がん、黒色腫、脳がん、卵巣がん、神経芽細胞腫、骨髄腫、様々な種類の頭頸部がん、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、ユーイング肉腫および末梢性神経上皮腫が挙げられる。好ましいがんには、肝臓がん、リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、ユーイング肉腫および末梢性神経上皮腫が含まれる。
【0275】
すなわち、本発明の抗体-ペイロードコンジュゲートは、好ましくはがんの処置に使用される。よって、ある特定の実施形態では、抗体-ペイロードコンジュゲートは、腫瘍細胞上に存在する抗原に特異的に結合する抗体を含む。ある特定の実施形態では、抗原は、腫瘍細胞の表面上の抗原である。ある特定の実施形態では、腫瘍細胞の表面上の抗原は、抗体-ペイロードコンジュゲートの抗原への結合で、抗体-ペイロードコンジュゲートと一緒に細胞に内部移行する。
【0276】
抗体-ペイロードコンジュゲートが、がんの処置で使用される場合、抗体-ペイロードコンジュゲートは、抗体-薬物コンジュゲートが結合する腫瘍細胞を殺傷するか、またはその増殖を阻害する能力を有する少なくとも1つのペイロードを含むことが好ましい。ある特定の実施形態では、少なくとも1つのペイロードは、抗体-ペイロードコンジュゲートが腫瘍細胞に内部移行した後に細胞傷害活性を示す。ある特定の実施形態では、少なくとも1つのペイロードは毒素である。
【0277】
本発明の別の態様によると、新生物疾患を処置または予防する方法であって、上記説明による抗体-ペイロードコンジュゲート、上記説明による医薬組成物、または上記説明による製品を、それを必要とする患者に投与するステップを含む方法が提供される。
【0278】
炎症性疾患は自己免疫疾患であり得る。感染性疾患は細菌感染症またはウイルス感染症であり得る。
【0279】
特定の実施形態では、本発明は、術前、術中および/または術後イメージングで使用するための、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲート、本発明による医薬組成物または本発明による医薬製品に関する。
【0280】
すなわち、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートは、イメージングで使用され得る。このために、抗体-ペイロードコンジュゲートは、特異的標的分子、細胞または組織に結合している間に可視化され得る。特定のペイロードを可視化するための様々な技術が当技術分野で公知である。例えば、ペイロードが放射性核種である場合、抗体-ペイロードコンジュゲートが結合する分子、細胞または組織がPETまたはSPECTによって可視化され得る。ペイロードが蛍光色素である場合、抗体-ペイロードコンジュゲートが結合する分子、細胞または組織が蛍光イメージングによって可視化され得る。ある特定の実施形態では、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲートは、2つの異なるペイロード、例えば放射性核種および蛍光色素を含む。この場合、抗体-ペイロードコンジュゲートが結合する分子、細胞または組織は、2つの異なるおよび/または補完的なイメージング技術、例えばPET/SPECTおよび蛍光イメージングを使用して可視化され得る。
【0281】
抗体-ペイロードコンジュゲートは、術前、術中および/または術後イメージングに使用され得る。
【0282】
術前イメージングは、ある特定の疾患または状態を診断する場合に、特定の標的分子、細胞または組織を目に見えるようにするため、および必要に応じて、外科手術のガイダンスを提供するために、外科手術の前に実施され得る全てのイメージング技術を包含する。術前イメージングは、腫瘍上の抗原に特異的に結合し、放射性核種を含むペイロードにコンジュゲートしている抗体を含む抗体-ペイロードコンジュゲートを使用することによって、外科手術が実施される前に、PETまたはSPECTによって腫瘍を目に見えるようにするステップを含み得る。
【0283】
術中イメージングは、特定の標的分子、細胞または組織を目に見えるようにし、よって、外科手術のガイダンスを提供するために外科手術中に実施され得る全てのイメージング技術を包含する。ある特定の実施形態では、近赤外蛍光色素を含む抗体-ペイロードコンジュゲートを使用して、近赤外蛍光イメージングによって外科手術中に腫瘍を可視化することができる。術中イメージングにより、外科手術中に外科医が特定の組織、例えば腫瘍組織を特定することが可能になり、よって、腫瘍組織の完全な除去が可能になり得る。
【0284】
術後イメージングは、特定の標的分子、細胞または組織を目に見えるようにし、外科手術の結果を評価するために、外科手術後に実施され得る全てのイメージング技術を包含する。術後イメージングは、術前外科手術と同様に実施され得る。
【0285】
ある特定の実施形態では、本発明は、2つまたはそれよりも多い異なるペイロードを含む抗体-ペイロードコンジュゲートに関する。例えば、抗体-ペイロードコンジュゲートは、放射性核種および近赤外蛍光色素を含み得る。このような抗体-ペイロードコンジュゲートは、PET/SPECTによるイメージングおよび近赤外蛍光イメージングに使用され得る。このような抗体の利点は、PETまたはSPECTによって外科手術の前および後に標的組織、例えば腫瘍を可視化するために使用することができることである。同時に、腫瘍を近赤外蛍光イメージング(near-fluorescent infrared imaging)によって外科手術中に可視化することができる。
【0286】
特定の実施形態では、本発明は、術中イメージング誘導がん外科手術で使用するための、本発明による抗体-ペイロードコンジュゲート、本発明による医薬組成物または本発明による医薬製品に関する。
【0287】
上記のように、本発明の抗体-ペイロードコンジュゲートを使用して標的分子、細胞または組織を可視化し、外科手術中に外科医またはロボットを誘導することができる。すなわち、抗体-ペイロードコンジュゲートを使用して、例えば近赤外イメージングによって、外科手術中に腫瘍組織を可視化し、腫瘍組織の完全な除去を可能にすることができる。
【0288】
前記コンジュゲートまたは製品は、疾患を効率的に処置する量または投与量でヒトまたは動物対象に投与される。あるいは、対応する処置方法が提供される。
【0289】
本発明の抗体-ペイロードコンジュゲートは、非経口、肺内および鼻腔内、ならびに局所処置のために所望であれば、病巣内、子宮内または膀胱内投与を含む任意の適切な手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与が含まれる。投与は、部分的には投与が短時間であるか慢性的であるかに応じて、任意の適切な経路、例えば静脈内または皮下注射などの注射によることができる。それだけに限らないが、単回投与または種々の時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、およびパルス注入を含む種々の投与スケジュールが本明細書で企図される。
【0290】
本発明の抗体-ペイロードコンジュゲートは、良質な医療行為と一致した様式で製剤化、服用および投与される。本文脈で考慮する因子には、処置される特定の障害、処置される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、および医師に公知の他の因子が含まれる。抗体-ペイロードコンジュゲートは、当の障害を予防または処置するために現在使用されている1つまたは複数の薬剤と共に製剤化される必要はないが、必要に応じて製剤化される。このような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗体-ペイロードコンジュゲートの量、障害または処置の種類、および上に論じられる他の因子に依存する。これらは一般的に、本明細書に記載されるのと同じ投与量および投与経路、または本明細書に記載される投与量の約1~99%、または適切であると経験的/臨床的に決定されている任意の投与量および任意の経路で使用される。
【0291】
疾患を予防または処置するために、本発明の抗体-ペイロードコンジュゲートの適切な投与量(単独で、または1つもしくは他の追加の治療剤と組み合わせて使用される場合)は、処置される疾患の種類、抗体-ペイロードコンジュゲートの種類、疾患の重症度および経過、抗体-ペイロードコンジュゲートが予防目的で投与されているか治療目的で投与されているか、以前の治療、患者の臨床歴、ならびに抗体-ペイロードコンジュゲートに対する応答、ならびに主治医の裁量に依存する。抗体-ペイロードコンジュゲートは、一度にまたは一連の処置にわたって患者に適切に投与される。
【0292】
以下の表5は、本発明の文脈で使用され得る様々なリンカー、およびそれらの配列番号を示す。疑義を回避するために、電子WIPO ST 25配列表との矛盾が存在する場合、この表の配列を正確なものとみなすものとする。
【0293】
本明細書に示される一部のリンカーペプチドでは、C末端の部分を単にN3として示すことを理解することが重要である。しかしながら、これをLys(N3)の略語として理解すべきである。例えば、GARK(N3)またはGlyAlaArgLys(N3)は、実際にはGARK1(K1=Lys(N3))を意味する。
【0294】
本明細書に示される様々なリンカーペプチドでは、C末端が、他の方法で示されている場合でも、保護されていてもされていなくてもよいことを理解することがさらに重要である。
【0295】
保護はC末端のアミド化によって達成することができる。本発明の文脈では、保護されたリンカーペプチドと保護されていないリンカーペプチドの両方が包含される。
【0296】
例えば、GARK(N3)は、実際、C末端が保護されているまたは保護されていない2つのバリアントを包含する。他方、例えばGARK(N3)-COOHは、保護されていないペプチド、すなわち、保護されていないC末端を有するペプチドを明示的に指定する。
【0297】
以下の表5は、本発明の文脈で、包含され、使用するのに適している一部のリンカーを示す:
【表5】
【実施例】
【0298】
本発明を図面および前記の説明で詳細に例示および説明してきたが、このような例示および説明は、例示的または代表的なものとみなされるべきであり、制限的とみなされるべきではない;本発明は開示される実施形態に限定されない。開示される実施形態の他の変形形態は、図面、開示および添付の特許請求の範囲の研究から、請求される発明の実施において当業者によって理解され、行われ得る。特許請求の範囲において、「~を含む(comprising)」という単語は、他の要素もステップも除外せず、不定冠詞「a(1つの)」または「an(1つの)」は複数を除外しない。単に、ある特定の尺度が相互に異なる従属請求項で列挙されているという事実は、これらの尺度の組合せを有効に使うことができないことを示すわけではない。特許請求の範囲のいずれの参照記号も、範囲を限定するものと解釈すべきでない。
【0299】
本明細書に開示される全てのアミノ酸配列はN末端からC末端に示される;本明細書に開示される全ての核酸配列は5’→3’に示される。
【0300】
(実施例1)
コンジュゲーション効率
製造業者の指示に従って、ペプチドを入手したままで使用し、適切なストック濃度(例えば、25mM)で溶解し、アリコートを調製し、-20℃で保管した。IgGサブクラスの2つの抗体(抗体1:抗Her2 IgG1、抗体2:抗CD38 IgG1)を以下の通り修飾した:1mg/mLの非脱グリコシル化抗体(約6.67μM)を80モル当量のペプチドリンカー(すなわち、約533μM)、6U/mL MTGおよび緩衝液と混合した。反応混合物を37℃で20時間インキュベートし、次いで、還元条件下でLC-MS分析に供した。
【0301】
以下の表6は、本発明によるリンカー((
*)でマークされる)対他のリンカーのコンジュゲーション効率を示す:
【表6】
【0302】
他のペプチドも、同様にN末端第一級アミン(Gly残基に含まれないが)を含むにもかかわらず、N末端第一級アミンを除くさらなる第一級アミンを有さない、N末端Gly残基を含むペプチドは、グリコシル化抗体のQ295残基とのはるかに最良のコンジュゲーション効率を有することが明確に分かる。
【0303】
(実施例2)
コンジュゲーション効率
製造業者の指示に従って、ペプチドを入手したままで使用し、適切なストック濃度(例えば、25mM)で溶解し、アリコートを調製し、-20℃で保管した。IgGサブクラスの2つの抗体(抗体1:抗Her2 IgG1、抗体2:抗CD38 IgG1)を以下の通り修飾した:1mg/mLの非脱グリコシル化抗体(約6.67μM)を80モル当量のペプチドリンカー(すなわち、約533μM)、6U/mL MTGおよび緩衝液と混合した。反応混合物を37℃で20時間インキュベートし、次いで、還元条件下でLC-MS分析に供した。
【0304】
以下の表7は、本発明によるリンカー((
*)でマークされる)対
図19に示される別のリンカーβAGARK(N3)(βAはβ-アラニンを示すことに留意されたい)のコンジュゲーション効率を示す。
【0305】
【0306】
N末端第一級アミンを除くさらなる第一級アミンを有さない、N末端Gly残基を含むペプチドは、N末端β-Ala残基を有する構造的に類似のリンカーと比較して、グリコシル化抗体のQ295残基とのはるかに優れたコンジュゲーション効率を有することが明確に分かる。
【0307】
(実施例3)
細胞傷害性アッセイ
細胞系および培養:MDA-MB-231およびSK-BR-3をアメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から入手し、標準的な細胞培養プロトコルに従ってRPMI-1640で培養した。
【0308】
SK-BR-3は、治療研究で、特にHER2標的化の状況で使用される、1970年にMemorial Sloan-Kettering Cancer Centerによって単離された乳がん細胞系である。MDA-MB-231細胞は、「基底」型のヒト乳腺癌に由来し、トリプルネガティブ(ER、PRおよびHER2陰性)である。Adcetris(ブレンツキシマブベドチン)は、CD30を標的とし、よって、CD30を発現しない細胞、例えばMDA-MB-231およびSK-BR-3に対して活性でないと予想される商業的に入手可能な抗体薬物コンジュゲートである。Kadcyla(トラスツズマブエムタンシン)は、Her2を標的とし、よって、Her2を発現する細胞(例えば、SK-BR-3)に対して活性であるが、Her2を発現しない細胞(例えば、MDA-MB-231)に対して活性でないと予想される商業的に入手可能な抗体薬物コンジュゲートである。p684およびp579は、リンカーがN末端グリシン(GARK(N
3)(P684)およびGGARK(N
3)(P579))を有する、本明細書で指定されるリンカー技術によって作製される抗体薬物コンジュゲートである。抗体-ペイロードコンジュゲートを作製するために、DBCO基に結合させたMay(メイタンシン)分子(以下参照)をリンカーのアジド基にクリックした。両コンジュゲートは非脱グリコシル化抗体を使用し、Her2を標的とし、薬物の抗体に対する比が2であり、よって、2つのMay(メイタンシン)分子を有する。ハーセプチンは、Her2を標的とする、非脱グリコシル化、非コンジュゲート抗体である。
【化2】
【0309】
細胞傷害性アッセイ:細胞を、細胞10,000個/ウェルの密度で96ウェルプレート(白壁、透明な平底プレート)に播種し、37℃および5%CO2で一晩インキュベートした。モノクローナル抗体(mAb)および抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を、開始濃度10μg/mL(66.7mM)で、培地中1:4段階希釈した。培地を細胞から除去し、mAb/ADC希釈物を添加した。培地のみで処理した細胞は100%生存率の参照として役立った。細胞を、37℃および5%CO2で3日間、抗体とインキュベートした。
【0310】
細胞生存率を、製造業者の指示に従って、ここに手短に概説するように、Cell Titer-Glo(登録商標)(Promega)によって評価した。プレートを30分間、室温に平衡化した。Cell Titer-Glo(登録商標)試薬を、Cell Titer-Glo緩衝液を基質に添加することによって調製した。50μL/ウェルのCell Titer-Glo(登録商標)試薬を添加し、2分間、振盪しながら室温でインキュベートし、引き続いて室温でさらに30分間インキュベートした。1秒の積分時間を使用して、Perkin Elmer 2030 Multilabel Reader Victor(商標)X3プレートリーダーで発光を検出した。
【0311】
データを以下のように処理した:培地のみで処理したウェルの発光値を平均し、100%生存率の参照として役立てた。mAb/ADC処理ウェルの%生存率を、以下の方程式を使用して計算した:
【数1】
【0312】
正規化した%生存率を、mAb/ADC濃度の対数に対してプロットし、GraphPad Prism 7.00を使用してデータを当てはめた。
【0313】
図18で分かるように、P684およびP579は、Kadcylaと同じSK-BR3細胞に対する効力を有する。よって、新規なリンカー技術によって提供される利点(製造の容易さ、部位特異性、安定な化学量論、その抗体を脱グリコシル化する必要がない)は、細胞傷害性に関する短所を伴わない。P684およびP579はDARが2であるが、Kadcylaは平均DARが3.53±0.05であり、よって、より多くの毒素を標的細胞に送達することができるので、これはさらにより重要である。以下の表は効力(IC50)を示す:
【表8】
【0314】
(実施例4)
コンジュゲーション効率
製造業者の指示に従って、ペプチドを入手したままで使用し、適切なストック濃度(例えば、25mM)で溶解し、アリコートを調製し、-20℃で保管した。抗Her2 IgG1抗体(トラスツズマブ)を以下の通り修飾した:1mg/mLの非脱グリコシル化抗体(約6.67μM)を80モル当量のペプチドリンカー(すなわち、約533μM)、6U/mL MTGおよび緩衝液と混合した。反応混合物を37℃で20時間インキュベートし、次いで、還元条件下でLC-MS分析に供した。
【0315】
以下の表8は、本発明の範囲内に入る種々のリンカーのコンジュゲーション効率(CE(%))を示す。
【0316】
【0317】
参考文献
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【0318】
免責事項
本明細書に示される一部のリンカーペプチドでは、C末端の部分を単にN3として示すことを理解することが重要である。しかしながら、これをLys(N3)の略語として理解すべきである。例えば、GAR(N3)は、実際にはGARK1、K1=Lys(N3)またはGlyAlaArgLys(N3)を意味する。
【0319】
本明細書に示される様々なリンカーペプチドでは、C末端が、他の方法で示されている場合でも、保護されていてもされていなくてもよいことを理解することがさらに重要である。保護はアミド化によって達成することができる。本発明の文脈では、保護されたリンカーペプチドと保護されていないリンカーペプチドの両方が包含される。例えば、GARK(N3)は、実際、C末端が保護されているまたは保護されていない2つのバリアントを包含する。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって、抗体-リンカーコンジュゲートを作製する方法であって、N末端グリシン(Gly)残基のN末端第一級アミンを介して、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)
m
-B-(Aax)
n
(式中、
・mは0以上12以下の整数であり、
・nは0以上12以下の整数であり、
・m+n≧0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・Bは連結部分である)
を含むリンカーを、抗体の重鎖または軽鎖に含まれるグルタミン(Gln)残基にコンジュゲートするステップを含む方法。
(項目2)
前記リンカーが2つまたはそれよりも多い連結部分Bを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記2つまたはそれよりも多い連結部分Bが互いに異なる、項目2に記載の方法。
(項目4)
1つまたは複数の連結部分Bの少なくとも1つが、
・生体直交型マーカー基、または
・架橋のための非生体直交型実体
を含む、項目1から3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
前記生体直交型マーカー基または前記非生体直交型実体が、
・-N-N≡Nまたは-N
3
・Lys(N
3
)
・テトラジン
・アルキン
・DBCO
・BCN
・ノルボレン
・トランスシクロオクテン
・-RCOH(アルデヒド)
・アシルトリフルオロボレート
・-SH、および
・システイン
からなる群から選択される少なくとも1つである、項目4に記載の方法。
(項目6)
抗体-ペイロードコンジュゲートを作製する方法であって、
a)項目1から5のいずれか一項に記載の抗体-リンカーコンジュゲートを作製するステップと、
b)ペイロードを前記抗体-リンカーコンジュゲートの1つまたは複数の連結部分Bに連結するステップと
を含む方法。
(項目7)
前記ペイロードを、クリック反応を介して前記抗体-リンカーコンジュゲートの前記連結部分Bに連結する、項目6に記載の方法。
(項目8)
微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって、抗体-ペイロードコンジュゲートを作製する方法であって、N末端グリシン(Gly)残基のN末端第一級アミンを介して、ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)
m
-B-(Aax)
n
(式中、
・mは0以上12以下の整数であり、
・nは0以上12以下の整数であり、
・m+n≧0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・Bはペイロードである)
を含むリンカーを、抗体の重鎖または軽鎖に含まれるグルタミン(Gln)残基にコンジュゲートするステップを含む方法。
(項目9)
前記リンカーが2つまたはそれよりも多いペイロードBを含む、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記2つまたはそれよりも多いペイロードBが互いに異なる、項目9に記載の方法。
(項目11)
1つまたは複数のペイロードが、
・毒素
・サイトカイン
・成長因子
・放射性核種
・ホルモン
・抗ウイルス剤
・抗菌剤
・蛍光色素
・免疫調節/免疫刺激剤
・半減期増加部分
・溶解度増加部分
・ポリマー-毒素コンジュゲート
・核酸
・ビオチンまたはストレプトアビジン部分
・ビタミン
・標的結合部分、および
・抗炎症剤
からなる群から選択される、項目6から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記毒素が、
・ピロロベンゾジアゼピン(PBD)
・オーリスタチン(例えば、MMAE、MMAF)
・メイタンシノイド(メイタンシン、DM1、DM4、DM21)
・デュオカルマイシン
・チューブリシン
・エンジイン(例えば、カリケアマイシン)
・PNU、ドキソルビシン
・ピロールベースキネシンスピンドルタンパク質(KSP)阻害剤
・カリケアマイシン
・アマニチン(例えば、α-アマニチン)、および
・カンプトテシン(例えば、エキサテカン、デルクステカン)
からなる群から選択される少なくとも1つである、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記リンカーがカテプシンによって切断可能でない、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記リンカーがバリン-アラニンモチーフもバリン-シトルリンモチーフも含まない、項目1から13のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記抗体が、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAもしくはIgY抗体、またはその断片もしくは組換えバリアントであり、前記その断片または組換えバリアントが、標的結合特性を保持し、C
H
2ドメインを含む、項目1から14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記抗体がIgG抗体である、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記抗体が、グリコシル化抗体、脱グリコシル化抗体またはアグリコシル化抗体である、項目15または16に記載の方法。
(項目18)
前記グリコシル化抗体が、前記C
H
2ドメインの残基N297(EUナンバリング)でグリコシル化されているIgG抗体である、項目17に記載の方法。
(項目19)
(a)前記ペイロードもしくは連結部分Bを含む前記リンカーを、分子操作によって前記抗体の前記重鎖もしくは軽鎖に導入されたGln残基にコンジュゲートする、または(b)前記ペイロードもしくは連結部分Bを含む前記リンカーを、前記抗体のFcドメインのGln残基にコンジュゲートする、項目1から18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
前記抗体の前記Fcドメインの前記Gln残基が、IgG抗体の前記C
H
2ドメインのGln残基Q295(EUナンバリング)である、項目19に記載の方法。
(項目21)
分子操作によって前記抗体の前記重鎖または軽鎖に導入された前記Gln残基が、アグリコシル化IgG抗体の前記C
H
2ドメインのN297Q(EUナンバリング)である、項目19に記載の方法。
(項目22)
分子操作によって前記抗体の前記重鎖または軽鎖に導入された前記Gln残基が、(a)前記抗体の前記重鎖もしくは軽鎖に組み込まれている、または(b)前記抗体の前記重鎖もしくは軽鎖のN末端もしくはC末端に融合されているペプチドに含まれる、項目19に記載の方法。
(項目23)
前記Gln残基を含む前記ペプチドが、前記抗体の前記重鎖の前記C末端に融合されている、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記Gln残基を含む前記ペプチドが、
・LLQGG、
・LLQG、
・LSLSQG、
・GGGLLQGG、
・GLLQG、
・LLQ、
・GSPLAQSHGG、
・GLLQGGG、
・GLLQGG、
・GLLQ、
・LLQLLQGA、
・LLQGA、
・LLQYQGA、
・LLQGSG、
・LLQYQG、
・LLQLLQG、
・SLLQG、
・LLQLQ、
・LLQLLQ、
・LLQGR,
・EEQYASTY、
・EEQYQSTY、
・EEQYNSTY、
・EEQYQS、
・EEQYQST、
・EQYQSTY、
・QYQS、
・QYQSTY、
・YRYRQ、
・DYALQ、
・FGLQRPY、
・EQKLISEEDL、
・LQRおよび
・YQR
からなる群から選択される、項目22または23に記載の方法。
(項目25)
m+n≦12、11、10、9、8、7、6、5または4である、項目1から24のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記リンカーの正味電荷が中性または正である、項目1から25のいずれか一項に記載の方法。
(項目27)
前記リンカーが、負に荷電したアミノ酸残基を含まない、項目1から26のいずれか一項に記載の方法。
(項目28)
前記リンカーが、少なくとも1つの正に荷電したアミノ酸残基を含む、項目1から27のいずれか一項に記載の方法。
(項目29)
前記リンカーが、
・リシン、
・アルギニン、および
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む、項目1から28のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
少なくとも1つのペイロードまたは連結部分Bを含む前記リンカーを、前記Gln残基のアミド側鎖にコンジュゲートする、項目1から29のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
前記微生物トランスグルタミナーゼが、Streptomyces種、特にStreptomyces mobaraensisに由来する、項目1から30のいずれか一項に記載の方法。
(項目32)
項目6から31のいずれか一項に記載の方法で作製された抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目33)
ペプチド構造(N→C方向に示される)
Gly-(Aax)
m
-B-(Aax)
n
(式中、GlyはN末端第一級アミンを含み、
・mは0以上12以下の整数であり、
・nは0以上12以下の整数であり、
・m+n≧0であり、
・Aaxはアミノ酸またはアミノ酸誘導体であり、
・Bはペイロードまたは連結部分である)
を含むリンカーであって、該リンカーのN末端Glyの前記N末端第一級アミンを介して、微生物トランスグルタミナーゼによって抗体にコンジュゲートすることができる、リンカー。
(項目34)
2つまたはそれよりも多いペイロードおよび/または連結部分Bを含む、項目33に記載のリンカー。
(項目35)
1つまたは複数の連結部分Bの少なくとも1つが、
・生体直交型マーカー基、または
・架橋のための非生体直交型実体
を含む、項目33または34に記載のリンカー。
(項目36)
前記生体直交型マーカー基または前記非生体直交型実体が、
・-N-N≡Nまたは-N
3
・Lys(N
3
)
・テトラジン
・アルキン
・DBCO
・BCN
・ノルボレン
・トランスシクロオクテン
・-RCOH(アルデヒド)
・アシルトリフルオロボレート
・-SH、および
・システイン
からなる群から選択される少なくとも1つである、項目35に記載のリンカー。
(項目37)
1つまたは複数のペイロードが、
・毒素
・サイトカイン
・成長因子
・放射性核種
・ホルモン
・抗ウイルス剤
・抗菌剤
・蛍光色素
・免疫調節/免疫刺激剤
・半減期増加部分
・溶解度増加部分
・ポリマー-毒素コンジュゲート
・核酸
・ビオチンまたはストレプトアビジン部分
・ビタミン
・標的結合部分、および
・抗炎症剤
からなる群から選択される、項目33または34に記載のリンカー。
(項目38)
前記毒素が、
・ピロロベンゾジアゼピン(PBD)
・オーリスタチン(例えば、MMAE、MMAF)
・メイタンシノイド(メイタンシン、DM1、DM4、DM21)
・デュオカルマイシン
・チューブリシン
・エンジイン(例えば、カリケアマイシン)
・PNU、ドキソルビシン
・ピロールベースキネシンスピンドルタンパク質(KSP)阻害剤
・カリケアマイシン
・アマニチン(例えば、α-アマニチン)、および
・カンプトテシン(例えば、エキサテカン、デルクステカン)
からなる群から選択される少なくとも1つである、項目37に記載のリンカー。
(項目39)
カテプシンによって切断可能でない、項目33から38のいずれか一項に記載のリンカー。
(項目40)
バリン-アラニンモチーフもバリン-シトルリンモチーフも含まない、項目33から39のいずれか一項に記載のリンカー。
(項目41)
m+n≦12、11、10、9、8、7、6、5または4である、項目33から40のいずれか一項に記載のリンカー。
(項目42)
前記リンカーの正味電荷が中性または正である、項目33から41のいずれか一項に記載のリンカー。
(項目43)
負に荷電したアミノ酸残基を含まない、項目33から42のいずれか一項に記載のリンカー。
(項目44)
少なくとも1つの正に荷電したアミノ酸残基を含む、項目33から43のいずれか一項に記載のリンカー。
(項目45)
・リシン、
・アルギニン、および
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基を含む、項目33から44のいずれか一項に記載のリンカー。
(項目46)
表5に示されるリストから選択される、項目33から45のいずれか一項に記載のリンカー。
(項目47)
少なくとも
a)項目33から46のいずれか一項に記載のリンカー、および
b)1つまたは複数のペイロード
を含むリンカー-ペイロード構築物であって、
前記1つまたは複数のペイロードが、前記リンカーに共有結合または非共有結合している、リンカー-ペイロード構築物。
(項目48)
前記構築物中、前記1つまたは複数のペイロードが、クリック反応で、前記リンカーの連結部分Bに共有結合している、項目47に記載のリンカー-ペイロード構築物。
(項目49)
化学合成によって得られた、項目47に記載のリンカー-ペイロード構築物。
(項目50)
前記構築物中、前記リンカーおよび/または前記1つもしくは複数のペイロードが、前記構築物を形成するために共有結合または非共有結合を可能にするように結合中に化学修飾されている、項目47から49のいずれか一項に記載のリンカー-ペイロード構築物。
(項目51)
a)項目47から50のいずれか一項に記載の1つまたは複数のリンカー-ペイロード構築物、および
b)重鎖または軽鎖に少なくとも1つのGln残基を含む抗体
を含む抗体-ペイロードコンジュゲートであって、
前記リンカー-ペイロード構築物が、前記リンカー-ペイロード構築物に含まれるN末端グリシン残基のN末端第一級アミンを介して、前記抗体の前記重鎖または軽鎖のGln残基のアミド側鎖にコンジュゲートしている、抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目52)
コンジュゲーションが微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)によって達成されている、項目51に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目53)
前記コンジュゲーションが、前記リンカー-ペイロード構築物の形成前または後に達成されている、項目51または52に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目54)
前記コンジュゲート中、前記リンカー-ペイロード構築物および/または前記抗体が、前記コンジュゲートを形成するために共有結合的コンジュゲーションを可能にするように、必要に応じてコンジュゲーション中に化学修飾されている、項目51から53のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目55)
前記抗体が、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAもしくはIgY抗体、またはその断片もしくは組換えバリアントであり、前記その断片または組換えバリアントが、標的結合特性を保持し、C
H
2ドメインを含む、項目51から54のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目56)
前記抗体がIgG抗体である、項目55に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目57)
前記抗体が、グリコシル化抗体、脱グリコシル化抗体またはアグリコシル化抗体である、項目55または56に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目58)
前記グリコシル化抗体が、前記C
H
2ドメインの残基N297(EUナンバリング)でグリコシル化されているIgG抗体である、項目57に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目59)
(a)前記リンカー-ペイロード構築物が、分子操作によって前記抗体の前記重鎖もしくは軽鎖に導入されたGln残基にコンジュゲートしている、または(b)前記リンカー-ペイロード構築物が、前記抗体のFcドメインのGln残基にコンジュゲートしている、項目51から58のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目60)
前記抗体の前記Fcドメインの前記Gln残基が、IgG抗体の前記C
H
2ドメインのGln残基Q295(EUナンバリング)である、項目59に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目61)
分子操作によって前記抗体の前記重鎖または軽鎖に導入された前記Gln残基が、アグリコシル化抗体の前記C
H
2ドメインのN297Q(EUナンバリング)である、項目59に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目62)
分子操作によって前記抗体の前記重鎖または軽鎖に導入された前記Gln残基が、(a)前記抗体の前記重鎖もしくは軽鎖に組み込まれている、または(b)前記抗体の前記重鎖もしくは軽鎖のN末端もしくはC末端に融合されているペプチドに含まれる、項目59に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目63)
前記Gln残基を含む前記ペプチドが、前記抗体の前記重鎖の前記C末端に融合されている、項目62に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目64)
前記Gln残基を含む前記ペプチドが、
・LLQGG、
・LLQG、
・LSLSQG、
・GGGLLQGG、
・GLLQG、
・LLQ、
・GSPLAQSHGG、
・GLLQGGG、
・GLLQGG、
・GLLQ、
・LLQLLQGA、
・LLQGA、
・LLQYQGA、
・LLQGSG、
・LLQYQG、
・LLQLLQG、
・SLLQG、
・LLQLQ、
・LLQLLQ、
・LLQGR、
・EEQYASTY、
・EEQYQSTY、
・EEQYNSTY、
・EEQYQS、
・EEQYQST、
・EQYQSTY、
・QYQS、
・QYQSTY,
・YRYRQ、
・DYALQ、
・FGLQRPY、
・EQKLISEEDL、
・LQRおよび
・YQR
からなる群から選択される、項目62または63に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目65)
少なくとも1つの毒素を含む、項目51から64のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目66)
毒素および薬物流出トランスポーターの阻害剤を含む、項目65に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目67)
毒素および溶解度増加部分を含む、項目65に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目68)
毒素および免疫刺激剤を含む、項目65に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目69)
2つの異なる毒素を含む、項目65に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目70)
第1の毒素が細胞分裂を阻害する毒素であり、第2の毒素がDNAの複製および/または転写を妨害する毒素である、項目69に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目71)
前記毒素の少なくとも1つがオーリスタチンまたはメイタンシノイドである、項目65から70のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目72)
2つの免疫刺激剤を含む、項目51から64のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目73)
少なくとも1つの免疫刺激剤がTLRアゴニストである、項目68から72のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目74)
放射性核種および蛍光色素を含む、項目51から64のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目75)
前記放射性核種が断層撮影、特に単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)または陽電子放射断層撮影(PET)での使用に適した放射性核種であり、前記蛍光色素が近赤外蛍光色素である、項目74に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート。
(項目76)
項目33から46のいずれか一項に記載のリンカー、項目47から50のいずれか一項に記載のリンカー-ペイロード構築物、および/または項目51から75のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲートを含む医薬組成物。
(項目77)
項目51から75のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲートまたは項目76に記載の医薬組成物、および少なくとも1つのさらなる薬学的に許容される成分を含む医薬製品。
(項目78)
治療および/または診断で使用するための、項目51から75のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート、項目76に記載の医薬組成物または項目77に記載の医薬製品。
(項目79)
新生物疾患、神経疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患または感染性疾患
・を患っている、
・を発症するリスクがある、および/または
・と診断されている
患者の処置で使用するための、項目51から75のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート、項目76に記載の医薬組成物または項目77に記載の医薬製品。
(項目80)
新生物疾患を患っている患者の処置で使用するための、項目51から75のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート、項目76に記載の医薬組成物または項目77に記載の医薬製品。
(項目81)
新生物疾患、神経疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患または感染性疾患
・を患っている、
・を発症するリスクがある、および/または
・と診断されている
患者を処置するための医薬を製造するための、項目51から75のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート、項目76に記載の医薬組成物または項目77に記載の医薬製品の使用。
(項目82)
新生物疾患を処置または予防する方法であって、項目51から75のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート、項目76に記載の医薬組成物または項目77に記載の医薬製品を、それを必要とする患者に投与するステップを含む方法。
(項目83)
術前、術中または術後イメージングで使用するための、項目51から75のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート、項目76に記載の医薬組成物または項目77に記載の医薬製品。
(項目84)
術中イメージング誘導がん外科手術で使用するための、項目51から75のいずれか一項に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート、項目76に記載の医薬組成物または項目77に記載の医薬製品。
【配列表】