(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】細胞標的化のための多重特異性抗原結合分子およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20250206BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20250206BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250206BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20250206BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20250206BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20250206BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20250206BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20250206BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250206BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20250206BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
A61P35/00
A61P31/00
A61P31/10
A61P31/12
A61P31/04
A61P33/00
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K39/395 R
A61K39/395 Q
A61K39/395 S
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2022509082
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(86)【国際出願番号】 US2020046352
(87)【国際公開番号】W WO2021030680
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-08-02
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ヘイバー、ローリック
(72)【発明者】
【氏名】フィニー、ジェニファー エイ.
(72)【発明者】
【氏名】マッケイ、ライアン
(72)【発明者】
【氏名】スミス、エリック
(72)【発明者】
【氏名】リン、チャ-ヤン
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0355600(US,A1)
【文献】特表2012-528092(JP,A)
【文献】J. Biochem.,2004年,Vol.135,pp.555-565,DOI: 10.1093/jb/mvh065
【文献】Protein Engineering, Design & Selection,2012年,vol.25 no.10,pp.551-559,doi:10.1093/protein/gzs048
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
A61P 35/00
A61P 31/00
A61P 31/10
A61P 31/04
A61P 31/12
A61P 33/00
A61K 39/395
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重特異性抗原結合分子であって、
(a)N末端からC末端に向かって、(i)
ヒトCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメイン
であって、軽鎖可変領域(LCVR)および軽鎖CLドメインと対合した重鎖可変領域(HCVR)および重鎖CH1ドメインを含む免疫グロブリンFabドメインを含む第1の抗原結合ドメイン、(ii)
免疫グロブリンFcドメインを含む第1の多量体化ドメイン、および(iii)
ヒトCD3に特異的に結合する第2の抗原結合ドメイン
であって、ペプチドリンカーで接続されたHCVRおよびLCVRを含む単鎖可変フラグメント(scFv)ドメインである第2の抗原結合ドメインを含む、第1のポリペプチドと、
(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3の抗原結合ドメイン
であって、LCVRおよび軽鎖CLドメインと対合したHCVRおよび重鎖CH1ドメインを含む免疫グロブリンFabドメインを含む第3の抗原結合ドメイン、(ii)
免疫グロブリンFcドメインを含む第2の多量体化ドメイン
、および(iii)標的抗原に特異的に結合する第4の抗原結合ドメインであって、ペプチドリンカーで接続されたHCVRおよびLCVRを含むscFvドメインである第4の抗原結合ドメインを含む、第2のポリペプチドと、を含み、
前記第1および前記第2の多量体化ドメインが、
ジスルフィド結合を介して互いに会合して、前記分子を形成している、分子。
【請求項2】
前記ペプチドリンカーが10~30アミノ酸である、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
前記ペプチドリンカーが(G4S)
n
リンカーであり、nが1~10である、請求項1に記載の分子。
【請求項4】
前記scFvドメインが
、残基44にシステイン変異を含
むHCV
Rと、残基10
0にシステイン変異を含む
LCVRとを含
む、請求項
1~3のいずれか一項に記載の分子。
【請求項5】
前記scFvドメインが、5~25アミノ酸のリンカーを介して前記第1および第2の多量体化ドメインのC末端にそれぞれ接続している、請求項1~4のいずれか一項に記載の分子。
【請求項6】
前記scFvドメインが、(G4S)
n
リンカーを介して前記第1および第2の多量体化ドメインのC末端にそれぞれ接続しており、nが1~10である、請求項1~4のいずれか一項に記載の分子。
【請求項7】
前記第1の多量体化ドメインおよび前記第2の多量体化ドメインが、ヒトIgG1
FcドメインまたはヒトIgG4 Fcドメインである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の分子。
【請求項8】
前記第1の多量体化ドメインまたは前記第2の多量体化ドメイン
の一方のみが、同じアイソタイプの野生型Fcドメインと比較してプロテインA結合についての親和性を低減するアミノ酸置換を
含む、請求項
1~7のいずれか一項に記載の分子。
【請求項9】
前記アミノ酸置換が、H435RおよびY436F修飾(EU番号付け)を含む、請求項8に記載の分子。
【請求項10】
前記第1のポリペプチド、前記第2のポリペプチド、または前記第1および第2のポリペプチドの両方は、同じアイソタイプの野生型ヒンジドメインと比較してFcγ受容体についての結合親和性を低減する修飾ヒンジドメインを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の分子。
【請求項11】
前記標的抗原は、主要組織適合複合体(MHC)タンパク質と複合体化されたペプチドである、請求項1~10のいずれか一項に記載の分子。
【請求項12】
前記第3の抗原結合ドメインおよび前記第4の抗原結合ドメインは、異なる標的抗原に結合する、請求項1~11のいずれか一項に記載の分子。
【請求項13】
前記異なる標的抗原は同じ細胞の表面上に発現する、請求項12に記載の分子。
【請求項14】
前記第3の抗原結合ドメインが結合する標的抗原は、前記第4の抗原結合ドメインが結合する標的抗原と同じである、請求項1~11のいずれか一項に記載の分子。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか一項に記載の分子および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む、薬学的組成物。
【請求項16】
が
んの治療用
の請求項
15に記載の薬学的組成物
であって、前記標的抗原は腫瘍細胞抗原である、薬学的組成物。
【請求項17】
感染症の治療用の請求項15に記載の薬学的組成物であって、前記標的抗原は感染症関連抗原である、薬学的組成物。
【請求項18】
(a)前記感染症はウイルス感染症であり、前記感染症関連抗原はウイルス抗原であるか、
(b)前記感染症は細菌感染症であり、前記感染症関連抗原は細菌抗原であるか、
(c)前記感染症は真菌感染症であり、前記感染症関連抗原は真菌抗原であるか、
(d)前記感染症は寄生虫感染症であり、前記感染症関連抗原は寄生虫によって発現される抗原である、請求項17に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
前記薬学的組成物は第2の治療剤と組み合わされて使用されるものであり、前記第2の治療剤は、標的抗原(TA)に結合する第1の抗原結合ドメインおよびT細胞抗原に結合する第2の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記第2の治療剤は、二重特異性抗TA×抗CD28抗体を含む、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記第2の治療剤は、二重特異性抗EGFR×抗CD28抗体を含む、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記第2の治療剤は、T細胞上のチェックポイント阻害剤に結合する抗体を含む、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
前記第2の治療剤は、抗PD-1抗体を含む、請求項22に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記標的抗原が
、標的細胞当たり100~5000コピーの密度で存在する、請求項
16~23のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
前記標的抗原が、標的細胞当たり1000~20,000コピーの密度で存在する、請求項16~23のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の参照
本出願は、2020年8月7日に作成され、64,570バイトを含むファイル10606WO01-Sequence.txtとしてコンピュータ可読形式で提出された配列表を参照によって組み込む。
【0002】
技術分野
本発明は、多価抗原結合タンパク質の代替フォーマット、およびそれらの使用の方法に関する。二重特異性および多重特異性分子を含む、多価抗原結合タンパク質は、T細胞抗原(例えば、CD3)に特異的に結合するN末端およびC末端抗原結合ドメインの両方を有する第1のポリペプチド鎖と、標的抗原(例えば、腫瘍細胞抗原)に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む第2のポリペプチド鎖と、を含む。
【背景技術】
【0003】
二重特異性および多重特異性抗体ならびに抗原結合分子は、当該技術分野で知られている(例えば、非特許文献1を参照されたい)。そのような既知のフォーマットの中には、FcFc*(
図1A構造)があり、抗体のいずれかのアーム上にFab抗原結合ドメイン、およびプロテインA結合親和性を変化させてホモ二量体不純物からのヘテロ二量体の単離を可能にする修飾CH3ドメインを有するFc領域を有する従来の二重特異性抗体である(同上p.184、
図2、パネル7、最後の構造)。この従来の二重特異性抗体フォーマットは、抗体の1つのアームが腫瘍細胞抗原を標的とし、第2のアームがCD3などのT細胞抗原を標的とする二重特異性抗体を作製するために使用された。別の従来のフォーマットは、IgG-HC-scFv(
図1B構造)であり、2つのN末端Fabドメインが第1の抗原に結合し、Fc領域のC末端に連結した2つのscFvドメインが第2の抗原に結合する、二重特異性抗体である(同上p.184、
図2、パネル10、最初の構造)。当該技術分野では、所望の機能性を改善する二重特異性または多重特異性抗原結合分子のための新しく有用なフォーマットの必要性がある。Brinkmannらは、一般に、ホモ二量体またはヘテロ二量体抗原結合分子の生成のための「ビルディングブロック」を参照するが(p.183、
図1)、可能性は実質的に無限であり、伝えられるところによると
図2(p.184)に示されるそれらの分子のみが調製された。さらに、Brinkmannは、特異的な抗原結合ドメイン、特に、多重特異性分子の一部を形成する単一のポリペプチド鎖のN末端およびC末端の両方にT細胞抗原結合ドメインを含む分子を企図しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Brinkmann and Kontermann,MABS,9(2):182-212,2017
【発明の概要】
【0005】
一般に、本発明は、T細胞抗原(TCA)(例えば、CD3)および標的抗原(TA)(例えば、腫瘍関連抗原、ウイルスまたは細菌抗原)の両方に結合し、T細胞抗原結合に関して多価(例えば、二価)である単一のポリペプチド鎖を含む、多重特異性抗原結合分子を提供する。
【0006】
一態様では、本発明は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1の抗原結合ドメイン、(ii)第1の多量体化ドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2の抗原結合ドメインを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3の抗原結合ドメイン、および(ii)第2の多量体化ドメインを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の多量体化ドメインが、互いに会合して、分子を形成する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態では、第2のポリペプチドは、第2の多量体化ドメインのC末端に第4の抗原結合ドメインをさらに含む。場合によっては、第4の抗原結合ドメインは、標的抗原に特異的に結合する。場合によっては、第3の抗原結合ドメインおよび第4の抗原結合ドメインは、異なる標的抗原に特異的に結合する。場合によっては、異なる標的抗原は、同じ細胞の表面上に発現(または存在)する。場合によっては、異なる標的抗原は、異なる細胞の表面上に発現(または存在)する。本明細書における、細胞の表面上に発現する(または存在する)標的抗原への参照は、細胞の膜に埋め込まれるか、または細胞の膜に広がる細胞によって発現されるタンパク質、および細胞による主要組織適合複合体(MHC)タンパク質の溝の文脈において提示されるペプチドの両方を含む。場合によっては、第3の抗原結合ドメインおよび第4の抗原結合ドメインは、同じ標的抗原に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、第4の抗原結合ドメインは、T細胞抗原に特異的に結合する。場合によっては、第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインは、同じT細胞抗原に特異的に結合する。場合によっては、第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインは、異なるT細胞抗原に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、第1の抗原結合ドメインは、共刺激分子である第1のT細胞抗原に特異的に結合し、第2の抗原結合ドメインは、チェックポイント阻害剤である第2のT細胞抗原に特異的に結合する。場合によっては、共刺激分子は、CD28であり、チェックポイント阻害剤は、PD-1である。場合によっては、第1、第2、および第4の抗原結合ドメインは、同じT細胞抗原に特異的に結合する。場合によっては、第1、第2、および第4の抗原結合ドメインは、異なるT細胞抗原に結合する。場合によっては、第1および第4の抗原結合ドメインは、同じT細胞抗原に特異的に結合する。場合によっては、第2および第4の抗原結合ドメインは、同じT細胞抗原に特異的に結合する。
【0008】
様々な実施形態では、抗原結合ドメインのうちの1つ以上は、Fabである。様々な実施形態では、抗原結合ドメインのうちの1つ以上は、scFvである。いくつかの実施形態では、多重特異性分子は、FabおよびscFv抗原結合ドメインの両方を含有する。場合によっては、第1の抗原結合ドメインおよび第3の抗原結合ドメインは、Fabである。場合によっては、第2の抗原結合ドメインは、scFvである。場合によっては、第4の抗原結合ドメインは、scFvである。いくつかの実施形態では、第1、第2、および第3の抗原結合ドメインは、Fabである。場合によっては、第1および第3の抗原結合ドメインは、Fabドメインであり、第2の抗原結合ドメインは、scFvドメインである。いくつかの実施形態では、第1、第2、第3、および第4の抗原結合ドメインは、Fabである。場合によっては、第1、第2、第3、および第4の抗原結合ドメインは、Fabドメインである。場合によっては、第1および第3の抗原結合ドメインは、Fabドメインであり、第2および第4の抗原結合ドメインは、scFvドメインである。場合によっては、第1、第2、第3、および第4の抗原結合ドメインは、Fabドメインである。場合によっては、第1および第3の抗原結合ドメインは、Fabドメインであり、第2および第4の抗原結合ドメインは、scFvドメインである。場合によっては、第1、第2、第3、および第4の抗原結合ドメインは、Fabドメインである。
【0009】
抗原結合ドメインがscFvドメインである任意の実施形態では、scFvドメインは、残基44にシステイン変異を含む重鎖可変領域(HCVR)、および残基100(Kabat番号付け)にシステイン変異を含む軽鎖可変領域を含み得る。場合によっては、scFvは、10~30アミノ酸のポリペプチドリンカー、任意に(G4S)4リンカーを介して一緒に結合したHCVRおよびLCVRを含む。いくつかの実施形態では、scFvは、5~25アミノ酸のリンカー、任意に(G4S)3リンカーを介して第1および/または第2の多量体化ドメインのC末端に接続している。
【0010】
いくつかの実施形態では、T細胞抗原は、T細胞受容体複合体抗原(すなわち、T細胞受容体複合体を構成するタンパク質サブユニットのいずれか)である。場合によっては、T細胞抗原は、CD3である。場合によっては、T細胞抗原は、T細胞上の共刺激分子またはチェックポイント阻害剤である。いくつかの実施形態では、T細胞抗原は、CD27、CD28、4-1BB、およびPD-1からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、T細胞抗原は、CD3、CD27、CD28、4-1BB、およびPD-1からなる群から選択される。
【0011】
いくつかの実施形態では、標的抗原は、腫瘍関連抗原である。いくつかの実施形態では、標的抗原は、ウイルスまたは細菌抗原である。いくつかの実施形態では、標的抗原は、真菌抗原または寄生虫抗原である。
【0012】
いくつかの実施形態では、第1および第2の多量体化ドメインは、免疫グロブリンFcドメインである。場合によっては、第1の多量体化ドメインおよび第2の多量体化ドメインは、ヒトIgG1またはヒトIgG4 Fcドメインである。場合によっては、第1および第2の多量体化ドメインは、ヒトIgGポリペプチド(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)の免疫グロブリンヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。場合によっては、第1および第2の多量体化ドメインは、ヒトIgG1ポリペプチドのヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。場合によっては、第1および第2の多量体化ドメインは、ヒトIgG4ポリペプチドのヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、第1および第2の多量体化ドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合する。
【0013】
いくつかの実施形態では、第1の多量体化ドメインまたは第2の多量体化ドメインは、同じアイソタイプの野生型Fcドメインと比較してプロテインA結合についての親和性を低減するアミノ酸置換を含む。場合によっては、アミノ酸置換は、H435R修飾、またはH435RおよびY436F修飾(EU番号付け)を含む。場合によっては、第1の多量体化ドメインは、H435RおよびY436F修飾を含む。場合によっては、第2の多量体化ドメインは、H435RおよびY436F修飾を含む。いくつかの実施形態では、第1のポリペプチド、第2のポリペプチド、または第1および第2のポリペプチドの両方は、同じアイソタイプの野生型ヒンジドメインと比較してFcγ受容体についての結合親和性を低減する修飾ヒンジドメインを含む。
【0014】
別の態様では、本発明は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第1のscFvを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第2のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)標的抗原に特異的に結合する第2のscFvを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインが、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態では、第2のFabおよび第2のscFvは、異なる標的抗原に特異的に結合する。場合によっては、異なる標的抗原は、同じ細胞の表面上に発現する。いくつかの実施形態では、第2のFabおよび第2のscFvは、同じ標的抗原に特異的に結合する。
【0016】
別の態様では、本発明は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)標的抗原に特異的に結合する第4のFabを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインが、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態では、第3のFabおよび第4のFabは、異なる標的抗原に特異的に結合する。場合によっては、異なる標的抗原は、同じ細胞の表面上に発現する。いくつかの実施形態では、第3のFabおよび第4のFabは、同じ標的抗原に特異的に結合する。
【0018】
別の態様では、本発明は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第1のscFvを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第2のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2のscFvを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインが、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第2のFab、および(ii)第2の免疫グロブリンFcドメインを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインが、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する、多重特異性抗原結合分子を提供する。
【0020】
上記または本明細書で言及されるもののいずれかなどの、様々な実施形態では、T細胞抗原は、T細胞受容体複合体抗原(すなわち、T細胞受容体複合体を構成するタンパク質サブユニットのいずれか)である。場合によっては、T細胞抗原は、CD3である。場合によっては、T細胞抗原は、T細胞上の共刺激分子またはチェックポイント阻害剤である。いくつかの実施形態では、T細胞抗原は、CD27、CD28、4-1BB、およびPD-1からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、T細胞抗原は、CD3、CD27、CD28、4-1BB、およびPD-1からなる群から選択される。
【0021】
上記または本明細書で言及されるもののいずれかなどの、様々な実施形態では、標的抗原は、腫瘍関連抗原である。いくつかの実施形態では、標的抗原は、ウイルスまたは細菌抗原である。いくつかの実施形態では、標的抗原は、真菌抗原または寄生虫抗原である。
【0022】
上記または本明細書で言及されるもののいずれかなどの、いくつかの実施形態では、第1および第2の多量体化ドメインは、免疫グロブリンFcドメインである。場合によっては、第1の多量体化ドメインおよび第2の多量体化ドメインは、ヒトIgG1またはヒトIgG4 Fcドメインである。場合によっては、第1および第2の多量体化ドメインは、ヒトIgGポリペプチド(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)の免疫グロブリンヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。場合によっては、第1および第2の多量体化ドメインは、ヒトIgG1ポリペプチドのヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。場合によっては、第1および第2の多量体化ドメインは、ヒトIgG4ポリペプチドのヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、第1および第2の多量体化ドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合する。
【0023】
上記または本明細書で言及されるもののいずれかなどの、いくつかの実施形態では、第1の多量体化ドメインまたは第2の多量体化ドメインは、同じアイソタイプの野生型Fcドメインと比較してプロテインA結合についての親和性を低減するアミノ酸置換を含む。場合によっては、アミノ酸置換は、H435R修飾、またはH435RおよびY436F修飾(EU番号付け)を含む。場合によっては、第1の多量体化ドメインは、H435RおよびY436F修飾を含む。場合によっては、第2の多量体化ドメインは、H435RおよびY436F修飾を含む。いくつかの実施形態では、第1のポリペプチド、第2のポリペプチド、または第1および第2のポリペプチドの両方は、同じアイソタイプの野生型ヒンジドメインと比較してFcγ受容体についての結合親和性を低減する修飾ヒンジドメインを含む。
【0024】
別の態様では、本発明は、上記または本明細書で論じられる多重特異性分子のうちのいずれか1つと、薬学的に許容される担体または希釈剤と、を含む、薬学的組成物を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、がんの治療を必要とする対象に上記または本明細書で論じられる多重特異性分子のうちのいずれか1つを投与することを含む、がんを治療する方法を提供する。
【0026】
別の態様では、本発明は、感染症の治療を必要とする対象に上記または本明細書で論じられる多重特異性分子のうちのいずれか1つを投与することを含む、感染症を治療する方法を提供する。場合によっては、感染症は、細菌感染症である。場合によっては、感染症は、ウイルス感染症である。場合によっては、感染症は、真菌感染症である。場合によっては、感染症は、寄生虫感染症である。
【0027】
様々な実施形態では、標的抗原は、標的細胞当たり10~10,000,000コピーの密度で存在する。様々な実施形態では、標的抗原は、標的細胞当たり100~10,000,000コピーの密度で存在する。様々な実施形態では、標的抗原は、標的細胞当たり100~1,000,000コピーの密度で存在する。いくつかの実施形態では、標的抗原は、50~10,000の密度で存在する。いくつかの実施形態では、標的抗原は、100~5000の密度で存在する。いくつかの実施形態では、標的抗原は、100~20,000の密度で存在する。いくつかの実施形態では、標的抗原は、標的細胞当たり500~1,000,000コピーの密度で存在する。いくつかの実施形態では、標的抗原は、標的細胞当たり1000~20,000コピーの密度で存在する。いくつかの実施形態では、標的抗原は、標的細胞当たり20,000コピー超の密度で存在する。様々な実施形態では、標的抗原は、標的細胞当たり約10、約50、約100、約200、約300、約400、約500、約1000、約2000、約3000、約4000、約5000、約6000、約7000、約8000、約9000、約10,000、約15,000、約20,000、約25,000、約50,000、約75,000、約100,000、約200,000、約300,000、約400,000、約500,000、約600,000、約700,000、約800,000、約900,000、約1,000,000、約2,000,000、約3,000,000、約4,000,000、または約5,000,000コピーの密度で存在する。本明細書で使用される場合、「低密度抗原」は、標的細胞上に5000コピー以下の抗原が見出される抗原である。低密度抗原への参照は、細胞が、4000コピー以下、3000コピー以下、2000コピー以下、1000コピー以下、900コピー以下、800コピー以下、700コピー以下、600コピー以下、500コピー以下、400コピー以下、300コピー以下、200コピー以下、100コピー以下、または50コピー以下の標的抗原を有する場合を含む。
【0028】
様々な実施形態では、多重特異性分子は、疾患または障害を治療するために第2の治療剤と組み合わされて投与される。場合によっては、第2の治療剤は、標的抗原(TA)に結合する第1の抗原結合ドメインおよびT細胞抗原に結合する第2の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を含む。場合によっては、標的抗原は、腫瘍細胞抗原である。いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、二重特異性抗TA×抗CD28抗体を含む。いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、二重特異性抗EGFR×抗CD28抗体を含む。いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、T細胞上のチェックポイント阻害剤に結合する抗体を含む。いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、抗PD-1抗体を含む。場合によっては、多重特異性分子は、2つ以上の第2の治療剤と組み合わされて投与される。
【0029】
別の態様では、本発明は、疾患または障害(例えば、がん、または感染症)の治療を必要とする対象における疾患または障害(例えば、がん、または感染症)を治療するための医薬品の製造における、上記または本明細書で論じられる多重特異性分子のうちのいずれか1つの使用を提供する。
【0030】
別の態様では、本発明は、上記もしくは本明細書で論じられる多重特異性分子のうちのいずれか1つの医学における使用、または疾患もしくは障害(例えば、がん、もしくは感染症)を治療することを提供する。
【0031】
別の態様では、本発明は、医学における使用のための、または疾患もしくは障害(例えば、がん、もしくは感染症)を治療するための、上記または本明細書で論じられる、多重特異性分子を提供する。
【0032】
上記または本明細書で論じられる実施形態のいずれかでは、標的抗原は、主要組織適合複合体(MHC)タンパク質の溝の文脈におけるペプチドであり得る。
様々な実施形態では、上記または本明細書で論じられる実施形態の特徴または構成要素のうちのいずれかは組み合わせられ得、そのような組み合わせは本開示の範囲内に包含される。上記または本明細書で論じられるいずれの特定の値も、上記または本明細書で論じられる別の関連値と組み合わせられて、それらの値が範囲の上限および下限を表す範囲を列挙することができ、かかる範囲は本開示の範囲内に包含される。
【0033】
他の実施形態は、後述の発明を実施するための形態の精査から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1Aおよび1Bは、既知の二重特異性抗体および抗原結合分子フォーマットを示す。
図1C、1E、1F、1G、1H、1I、1J、1K、1L、1M、1N、1O、1P、1Q、1R、および1Sは、本発明の実施形態による二重特異性または多重特異性抗原結合分子フォーマットを示す。これらのフォーマットの各々では、第1のポリペプチド鎖は、T細胞抗原(TCA)(例えば、CD3)に特異的に結合するN末端およびC末端抗原結合ドメイン(例えば、FabまたはscFv)の両方を含み、第2のポリペプチド鎖は、標的抗原(TA)(例えば、腫瘍細胞抗原)に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメイン(例えば、FabまたはscFv)を含む。
図1Dは、T細胞抗原(例えば、CD3)に特異的に結合する2つの抗原結合ドメインが異なるポリペプチド鎖(1つのポリペプチド鎖上のN末端、および第2のポリペプチド鎖上のC末端)に位置するフォーマットを示す。
【
図2】T細胞のみの対照(ゼロ)および陽性対照と比較した、
図1A、1B、および1Cに示されるフォーマットの各々を有する分子によって誘導されるT細胞活性化を示す。標的細胞の不在下では、分子のいずれもT細胞を活性化しなかった。
【
図3】最大の細胞殺滅を誘導する陽性対照と比較した、ヒトPBMCおよび標的細胞(A375)の存在下、
図1A、1B、および1Cに示されるフォーマットの各々を有する分子の細胞毒性活性を示す。分子のCD3結合ドメインは、7221G抗CD3抗体の可変領域を含む。
図1Cの構造を有する分子は、
図1Aおよび1Bの構造を有する分子よりも著しく強力であった。
【
図4A】
図4A、4B、および4Cは、最大細胞殺滅を誘導する陽性対照と比較した、抗PD-1抗体(
図4A)、共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体(
図4B)、または抗PD-1抗体および共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体(
図4C)の両方と組み合わされた、ヒトPBMCおよび標的細胞(A375)の存在下で、
図1A、1B、および1Cに示されるフォーマットの各々を有する分子の細胞毒性活性を示す。分子のCD3結合ドメインは、7221G抗CD3抗体の可変領域を含む。
図1Cの構造を有する分子は、
図1Aおよび1Bの構造を有する分子よりも、これらの追加の抗体と組み合わされて著しく強力であった。
【
図5】
図4A、4B、および4Cに示される最大抗体濃度の点で
図1A(左パネル)の構造を有する分子と比較した、
図1C(右パネル)の構造を有する分子の測定されたサイトカインレベルを示す。分子のCD3結合ドメインは、7221G抗CD3抗体の可変領域を含む。
図1Cの構造を有する分子は、著しくより大きな細胞毒性活性にもかかわらず、より大きなレベルのサイトカイン放出を示さない。
【
図6A】
図6A、6B、6C、および6Dは、
図1Cの構造を有する分子およびこの分子の修飾バージョン(不活性ドメインを有する-凡例ではXによって示される)の、MAGEA4ペプチドを過剰発現するRaji細胞(
図6A)もしくはA375細胞(
図6C)、またはCD3+Jurkat細胞(
図6Bおよび6D)への結合を示す。
図6Aおよび6Bに示される分子のCD3結合ドメインは、7195P抗CD3抗体の可変領域を含む。
図6Cおよび6Dに示される分子のCD3結合ドメインは、7221G抗CD3抗体の可変領域を含む。
図6A、6B、6C、および6Dに示されるように、2つの活性抗原結合ドメインの存在は、標的抗原への結合を改善し、抗CD3結合ドメインの供給源に関係なく、同様の結合が観察された。これらの図に示されるように、結合は、N末端Fabドメインが除去されたときに最も影響を受けた。
【
図7A】
図7Aおよび7Bは、
図6Aおよび6B(
図7A)、ならびに
図6Cおよび6D(
図7B)に示される同じ分子の細胞毒性活性を示す。
図1Cの構造を有する分子は、最大の細胞毒性効力を示し、2つの活性T細胞抗原(例えば、CD3)結合ドメインを有する分子が続いた。抗CD3結合ドメインの供給源に関係なく、同様の細胞毒性のパターンが観察された。
【
図8A】
図8Aおよび8Bは、
図1Cの構造を有する分子およびこの分子の修飾バージョン(C末端Fabドメインまたは不活性ドメインを有する-凡例ではXによって示される)の、MAGEA4ペプチドを過剰発現するRaji細胞(
図8A)またはCD3+Jurkat細胞(
図8B)への結合を示す。分子のCD3結合ドメインは、7195P抗CD3抗体の可変領域を含む。
図8Aおよび8Bに示されるように、C末端scFvドメインは、C末端Fabドメインと比較して標的抗原への優れた結合を提供した。
【
図9】
図8Aおよび
図8Bに示される同じ分子の細胞毒性活性を示す。分子のCD3結合ドメインは、7195P抗CD3抗体の可変領域を含む。
図1Cの構造を有する分子は、最大の細胞毒性効力を示し、
図1Eの構造を有する分子が続いた。
【
図10A】
図10Aおよび10Bは、
図1Cおよび1Dの構造を有する分子の、MAGEA4ペプチドを過剰発現するA375細胞(
図10A)、またはCD3+Jurkat細胞(
図10B)への結合を示す。分子のCD3結合ドメインは、7221G抗CD3抗体の可変領域を含む。2つの分子は、互いに比較して両方の細胞型への同様の結合を示した。
【
図11A】
図11Aおよび11Bは、2つの異なるドナー供給源からのA375細胞に対する
図10Aおよび10Bに示される同じ分子の細胞毒性活性を示す。分子のCD3結合ドメインは、7221G抗CD3抗体の可変領域を含む。
図1Cの構造を有する分子は、
図1Dの構造を有する分子よりも強力であった。
【
図12A】
図12Aおよび12Bは、
図1Aの構造を有する分子と比較した、それぞれ、
図1Cおよび
図1Fの構造を有する分子の相対的な細胞毒性活性および効力を示す。分子は、実施例7で論じられるように、個別に、ならびに共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体および抗PD-1抗体と組み合わされて試験された。分子のCD3結合ドメインは、7195P抗CD3抗体の可変領域を含む。
図1Fの構造を有する分子は、2つのTA抗原結合ドメインを有する同じ標的抗原の2つの異なるエピトープを標的とするが、
図1Cの構造を有する分子は、2つのTA抗原結合ドメインを有する標的抗原の同じエピトープを標的とする。
図1Fの構造を有する分子は、
図1Cの構造を有する分子よりも強力であり、両方の分子は、
図1Aの構造を有する分子よりも強力であった。いずれの場合も、これらの分子の共刺激二重特異性抗体および抗PD-1抗体との組み合わせは、
図4A~4Cに示される結果と同様に、さらに大きな細胞毒性効力をもたらした。
【
図13】CD3結合ドメインがCD3に対して強い、中程度の、または弱い結合親和性を有する抗CD3抗体に由来する、
図1Fの構造を有する分子についての相対的な結合親和性を示す。「強」結合ドメインは、7195P抗CD3抗体に由来する。「中」結合ドメインは、7221G抗CD3抗体に由来する。「弱」結合ドメインは、7221G20抗CD3抗体に由来する。例えば、「強/強」への参照は、それぞれ、Fab抗CD3結合ドメインおよびscFc抗CD3結合ドメインを指す。予想どおり、CD3陽性Jurkat細胞への結合は、分子における抗CD3結合ドメインの親和性の強度と相関する。
【
図14A】
図14Aおよび14Bは、MAGEA4陽性A375細胞における
図13に示される分子の相対的な細胞毒性活性および効力を示す。分子は、実施例8で論じられるように、個別に(
図14A)、ならびに共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体および抗PD-1抗体(
図14B)と組み合わされて試験された。抗CD3結合ドメインの強度と分子の効力との間には明確な相関がある。「対照」は、他の分子と比較するための最大の細胞毒性を提供するために、すべてのHLA分子の足場を標的とする陽性対照である。
【
図15A】
図15Aおよび15Bは、MAGEA4陽性ScaBER細胞における
図13に示される分子の相対的な細胞毒性活性および効力を示す。分子は、実施例8で論じられるように、個別に(
図15A)、ならびに共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体および抗PD-1抗体(
図15B)と組み合わされて試験された。抗CD3結合ドメインの強度と分子の効力との間には明確な相関がある。「対照」は、他の分子と比較するための最大の細胞毒性を提供するために、すべてのHLA分子の足場を標的とする陽性対照である。
【
図16A】
図16A、16B、および16Cは、
図1A(分子C)、1C(分子B)、およびIF(分子AおよびD)の構造を有する分子についてのNYESO-1陽性細胞(
図16A)、MAGEA4(ペプチド1)陽性細胞(
図16B)、およびMAGEA4(ペプチド2)陽性細胞(
図16C)に対する相対的結合親和性を示す。予想どおり、NYESO-1結合ドメインを有しない、分子Dは、NYESO-1発現細胞に結合せず(
図16A)に、関連するMAGEA4結合ドメインを欠く分子は、
図16Bおよび16Cに示されるように、MAGEA4発現細胞に結合しない。分子のCD3結合ドメインは、7195P抗CD3抗体の可変領域を含む。「HLA標的化二重特異性」陽性対照は、HLA分子およびCD3を結合する。「アイソタイプ対照多重特異性」は、無関係な標的抗原への結合ドメインを有する
図1Cの構造を有する分子である。
【
図17A】
図17Aおよび17Bは、HLA分子およびCD3を結合する、
図1Aの構造を有する陽性対照と比較した、それぞれ、
図1Cおよび
図1Fの構造を有する分子の相対的な細胞毒性活性および効力を示す。アイソタイプ対照には、無関係な標的抗原への結合ドメインを有する
図1Cの構造を有する分子、ならびにCD3および無関係な標的抗原への結合ドメインを有する
図1Aの構造を有する分子が含まれた。分子は、実施例9で論じられるように、個別に、ならびに共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体および抗PD-1抗体と組み合わされて試験された。分子のCD3結合ドメインは、7195P抗CD3抗体の可変領域を含む。
図1Fの構造を有する分子は、2つのTA抗原結合ドメインを有する2つの異なる抗原(NYESO-1およびMAGEA4)を標的とするが、
図1Cの構造を有する分子は、2つのTA抗原結合ドメインの両方を有する単一の抗原を標的とする。
図1Fの構造を有し、2つの異なる抗原を標的とする分子は、
図1Cの構造を有する分子よりも強力であった。いずれの場合も、これらの分子と共刺激二重特異性抗体および抗PD-1抗体との組み合わせは、
図4A~4Cに示される結果と同様に、分子単独と比較して、さらに大きな細胞毒性効力をもたらした。
【
図17C】
図17Cおよび17Dは、
図17Aおよび17Bに関連して論じられる分子の相対的なT細胞活性化を示したものである。
【
図18A】
図18Aおよび18Bは、
図1Aの構造を有する分子と比較した、それぞれ、
図1Cおよび
図1Fの構造を有する分子の相対的な細胞毒性活性および効力を示す。陽性対照は、ヒト白血球抗原(HLA)分子およびCD3を結合する
図1Aの構造を有する分子である。アイソタイプ対照には、無関係な標的抗原への結合ドメインを有する
図1Cの構造を有する分子、ならびにCD3および無関係な標的抗原への結合ドメインを有する
図1Aの構造を有する分子が含まれた。分子は、実施例9で論じられるように、個別に、ならびに共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体および抗PD-1抗体と組み合わされて試験された。分子のCD3結合ドメインは、7195P抗CD3抗体の可変領域を含む。
図18Aに示されるように、
図1Fの構造を有する(2つの異なるMAGEA4のエピトープを標的とする)分子は、
図1Cの構造を有する(両方のTA結合ドメインを有する単一のエピトープを標的とする)分子よりも強力であり、両方の分子は、
図1Aの構造を有する分子よりも強力である。同様に、
図18Bに示されるように、
図1Fの構造を有する(2つの異なる抗原を標的とする)分子は、
図1Cの構造を有する(両方のTA結合ドメインを有する単一の抗原を標的とする)分子よりも強力であり、両方の分子は、
図1Aの構造を有する分子よりも強力である。いずれの場合も、これらの分子と共刺激二重特異性抗体および抗PD-1抗体との組み合わせは、
図4A~4Cに示される結果と同様に、分子単独と比較して、さらに大きな細胞毒性効力をもたらした。
【
図18C】
図18C、18D、18E、および18Fは、
図18Aおよび18Bに関連して論じられる分子の相対的なT細胞活性化を示す。
【
図19A】
図19Aおよび19Bは、
図1Aの構造を有する2つの分子の組み合わせと比較した、
図1Fの構造を有する分子の、それぞれ、細胞毒性活性および効力、ならびにT細胞活性化を示し、2つの分子の組み合わせは、
図1Fの構造を有する分子と同じ標的抗原の対に結合する。
図19Aおよび19Bに示されるように、
図1Fの構造を有する分子は、
図1Aの構造を有する2つの分子の組み合わせよりも、腫瘍細胞をより強力に殺滅し、T細胞活性化を増加させる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明がさらに詳細に記載される前に、記載される特定の方法および実験条件が異なり得るため、本発明がそのような方法および条件に限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを記載する目的のためであり、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定するようには意図されていないことも、理解されたい。
【0036】
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、特定の列挙された数値に関して使用されるとき、その値が列挙された値から1%以下だけ変動し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される場合、「約100」という表現は、99および101ならびにそれらの間のすべての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0037】
本明細書に記載されるものと同様または同等のいずれの方法および材料も本発明の実施または試験に使用され得るが、好ましい方法および材料をこれから説明する。本明細書において言及されるすべての特許、出願および非特許刊行物は、それらの全体の参照により本明細書に組み込まれる。
【0038】
定義
「T細胞」という用語は、CD4+細胞(ヘルパーT細胞)、CD8+細胞(細胞毒性T細胞)、制御性T細胞(Treg)、および腫瘍浸潤リンパ球を含む、CD3を発現する免疫細胞を指す。
【0039】
「T細胞抗原」という表現は、T細胞上に存在する細胞表面に発現されるタンパク質を指し、「共刺激分子」を含む。「共刺激分子」とは、同族のリガンドまたは受容体(例えば、抗原提示細胞上)に結合して刺激シグナルを提供するT細胞によって発現されるタンパク質を指し、これは、T細胞のTCRのペプチド/MHCとの関与によって提供される一次シグナルと組み合わされて、T細胞の活性を刺激する。T細胞の刺激は、T細胞の活性化、増殖、および/または生存を含むことができる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「細胞表面発現」または「細胞表面分子」という表現は、インビトロまたはインビボで細胞の表面上に発現される1つ以上のタンパク質を意味し、タンパク質の少なくとも一部分は、細胞膜の細胞外側面に露出され、抗体の抗原結合部分または本明細書で論じられる多重特異性抗原結合分子の抗原結合ドメインに接近可能である。
【0041】
「CD3」という表現は、本明細書で使用される場合、多分子T細胞受容体(TCR)の一部としてT細胞上に発現され、4つの受容体鎖すなわちCD3-イプシロン、CD3-デルタ、CD3-ゼータ、CD3-ガンマのうち2つの会合から形成されるホモ二量体またはヘテロ二量体からなる抗原を指す。本明細書におけるタンパク質、ポリペプチド、およびタンパク質フラグメントへのすべての参照は、非ヒト種由来であると明確に特定されない限り、それぞれのタンパク質、ポリペプチド、またはタンパク質フラグメントのヒトバージョンを指すよう意図されている。したがって、「CD3」という表現は、非ヒト種、例えば、「マウスCD3」、「サルCD3」など由来であると特定されない限り、ヒトCD3を意味する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「CD3に結合する抗体」または「抗CD3抗体」は、単一のCD3サブユニット(例えば、イプシロン、デルタ、ガンマ、またはゼータ)を特異的に認識する抗体およびその抗原結合フラグメント、ならびに2つのCD3サブユニットの二量体複合体(例えば、ガンマ/イプシロン、デルタ/イプシロン、およびゼータ/ゼータCD3二量体)を特異的に認識する抗体およびその抗原結合フラグメントを含む。本発明の抗原結合ドメインは、可溶性CD3および/または細胞表面発現CD3に結合し得る。可溶性CD3には、天然CD3タンパク質、ならびに膜貫通ドメインを欠くか、または細胞膜と会合していない組換えCD3タンパク質バリアント、例えば、単量体および二量体CD3構築物などが含まれる。
【0043】
本明細書で使用される場合、「細胞表面発現CD3」という表現は、インビトロまたはインビボで細胞表面上に発現される1つ以上のCD3タンパク質を意味し、CD3タンパク質の少なくとも一部は細胞膜の細胞外側面に露出され、抗体の抗原結合部分に接近可能である。「細胞表面発現CD3」としては、細胞膜内の機能的T細胞受容体の中に含まれるCD3タンパク質が挙げられる。「細胞表面発現CD3」という表現は、細胞の表面上のホモ二量体またはヘテロ二量体の一部として発現されるCD3タンパク質(例えば、ガンマ/イプシロン、デルタ/イプシロン、およびゼータ/ゼータCD3二量体)を含む。「細胞表面発現CD3」という表現はまた、他のCD3鎖型なしで、細胞の表面上にそれ自体で発現するCD3鎖(例えば、CD3-イプシロン、CD3-デルタ、またはCD3-ガンマ)も含む。あるいは、「細胞表面発現CD3」は、通常CD3タンパク質を発現する細胞の表面上に発現されるCD3タンパク質を含むかまたはそれからなることができる。あるいは、「細胞表面発現CD3」は、通常その表面にヒトCD3を発現しないがその表面にCD3を発現するように人工的に操作されている細胞の表面上に発現されるCD3タンパク質を含むかまたはそれからなることができる。
【0044】
「抗原結合ドメイン」という用語は、所定の抗原(例えば、CD3または腫瘍関連抗原)に特異的に結合する多重特異性分子または対応する抗体のその部分を指す。「対応する抗体」への参照は、多重特異性分子で使用されるCDRまたは可変領域(HCVRおよびLCVR)が由来する抗体を指す。例えば、例で論じられる
図1C構造の分子は、特異的な抗CD3抗体および抗MAGEA4抗体に由来する可変領域を有するFabおよびscFvを含む。これらの抗体は、それぞれの多重特異性分子に「対応する抗体」である。
【0045】
「多重特異性抗原結合分子」という用語は、2つ以上(例えば、3つまたは4つ)の異なるエピトープまたは抗原に結合する分子を含む。場合によっては、多重特異性抗原結合分子は、二重特異性である。場合によっては、多重特異性抗原結合分子は、三重特異性である。場合によっては、多重特異性抗原結合分子は、四重特異性である。
【0046】
「抗体」という用語は、特定の抗原(例えば、CD3または標的抗原(TA))に特異的に結合するか、またはそれと相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む、任意の抗原結合分子または分子複合体を意味する。「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互連結された4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにそれらの多量体(例えば、IgM)を含む。「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互連結された4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子も含む。重鎖は各々、重鎖可変領域(本明細書でHCVRまたはVHと略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含む。軽鎖は各々、軽鎖可変領域(本明細書でLCVRまたはVLと略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分され得る。VHおよびVLは各々、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順にアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDRおよび4つのFRからなる。本発明の異なる実施形態では、抗TA抗体または抗CD3抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、または天然にもしくは人工的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0047】
本明細書で使用される「抗体」という用語はまた、完全抗体分子の抗原結合フラグメントを含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」および同様の用語は、本明細書で使用される場合、天然の、酵素処理で入手可能な、合成の、または遺伝子操作された、抗原を特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗体結合フラグメントは、例えば、抗体可変ドメインおよび任意に定常ドメインをコードするDNAの操作および発現に関連するタンパク質消化技術または組換え遺伝子操作技術などの任意の好適な標準的技法を使用して、完全抗体分子から誘導され得る。かかるDNAは既知であり、かつ/または例えば、商業的供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、または合成され得る。DNAは、化学的に、または分子生物学技法を使用することによって配列決定および操作されて、例えば、1つ以上の可変ドメインおよび/もしくは定常ドメインを好適な立体配置に配置するか、またはコドンを導入し、システイン残基を作製し、アミノ酸を修飾、付加、もしくは欠失などすることができる。
【0048】
抗体結合フラグメントの非限定例としては、(i)Fabフラグメント、(ii)F(ab’)2フラグメント、(iii)Fdフラグメント、(iv)Fvフラグメント、(v)単鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAbフラグメント、および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基、または拘束FR3-CDR3-FR4ペプチドからなる最小認識単位が挙げられる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小型モジュール型免疫医薬品(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の操作された分子も、本明細書で使用する「抗原結合フラグメント」という表現に包含される。
【0049】
抗体の抗原結合フラグメントは、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成のものであり得、一般に、1つ以上のフレームワーク配列に隣接しているか、またはそれとインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VHドメインがVLドメインに会合した抗原結合フラグメントでは、VHドメインおよびVLドメインは、任意の好適な配置で互いに対して位置付けられてもよい。例えば、可変領域は二量体であり、VH-VH、VH-VL、またはVL-VL二量体を含んでもよい。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体のVHドメインまたはVLドメインを含んでもよい。
【0050】
特定の実施形態では、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合された少なくとも1つの可変ドメインを含んでもよい。本発明の抗体の抗原結合フラグメント内に見られ得る可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な例示的な立体配置には、(i)VH-CH1、(ii)VH-CH2、(iii)VH-CH3、(iv)VH-CH1-CH2、(v)VH-CH1-CH2-CH3、(vi)VH-CH2-CH3、(vii)VH-CL、(viii)VL-CH1、(ix)VL-CH2、(x)VL-CH3、(xi)VL-CH1-CH2、(xii)VL-CH1-CH2-CH3、(xiii)VL-CH2-CH3、および(xiv)VL-CLが挙げられる。上に列記される例示的な立体配置のうちのいずれかを含む、可変ドメインおよび定常ドメインのいずれの立体配置でも、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接連結されているか、または完全もしくは部分的ヒンジ領域もしくはリンカー領域によって連結されているかのいずれかであり得る。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子において隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメイン間の可動性または半可動性連結をもたらす少なくとも2つの(例えば、5、10、15、20、40、60、またはそれ以上の)アミノ酸からなり得る。さらに、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、互いとのおよび/または1つ以上の単量体VHもしくはVLドメインとの(例えば、ジスルフィド結合による)非共有結合において、上に列記される可変ドメイン立体配置および定常ドメイン立体配置のうちのいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含み得る。
【0051】
本発明の特定の実施形態では、抗体は、ヒト抗体である。「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。ヒト抗体は、例えば、CDR、特にCDR3における、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によるか、またはインビボでの体細胞変異によって導入された変異)によってコードされないアミノ酸残基を含み得る。しかしながら、本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列へと移植された抗体を含むことを意図するものではない。
【0052】
本明細書で論じられる抗体は、いくつかの実施形態では、組換えヒト抗体であり得る。「組換えヒト抗体」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作製、もしくは単離されるすべてのヒト抗体、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される抗体、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリから単離される抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離される抗体(例えば、Taylor et al.(1992)Nucl.Acids Res.20:6287-6295を参照されたい)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、作製、もしくは単離される抗体を含むことを意図する。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する。しかしながら、特定の実施形態では、そのような組換えヒト抗体は、インビトロ変異誘発(または、ヒトIg配列に対してトランスジェニックな動物が使用される際の、インビボ体細胞変異誘発)に供され、したがって、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に由来しそれらに関連しているが、インビボでヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然に存在し得ない配列である。
【0053】
本明細書で参照される抗体は、単離された抗体であり得る。「単離された抗体」は、本明細書で使用される場合、その天然環境の少なくとも1つの成分から同定され、分離および/または回収された抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの成分から、または抗体が天然に存在するか、もしくは天然に産生される組織もしくは細胞から、分離または除去された抗体は、「単離された抗体」である。単離された抗体は、組換え細胞内でインサイチュの抗体も含む。単離された抗体は、少なくとも1つの精製または単離ステップに供された抗体である。単離された抗体は、他の細胞性材料および/または化学物質を実質的に含まない場合がある。
【0054】
本明細書で参照される抗体は、抗体が由来した対応する生殖系列配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域において1つ以上のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含み得る。そのような変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば、公共の抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって容易に確認することができる。
【0055】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして既知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は、2つ以上のエピトープを有してもよい。したがって、異なる抗体は抗原上の異なる領域に結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、立体配座または直鎖状のいずれかであり得る。立体配座エピトープは、直鎖状ポリペプチド鎖の異なるセグメント由来の空間的に並置されたアミノ酸によって産生される。直鎖状エピトープは、ポリペプチド鎖内の隣接するアミノ酸残基によって産生されたものである。特定の状況では、エピトープは、抗原上のサッカリド、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含み得る。
【0056】
「多量体化(multimerization)ドメイン」または「多量体化(multimerizing)ドメイン」は、同じまたは類似の構造または構成の第2の高分子と(共有的にまたは非共有的に)会合する能力を有する任意の高分子である。例えば、多量体化ドメインは、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドであってもよい。多量体化ドメインの非限定的な例は、免疫グロブリンのFc部分、例えば、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4から選択されるIgGのFcドメイン、ならびに各アイソタイプ群内の任意のアロタイプである。特定の実施形態では、多量体化ドメインは、少なくとも1つのシステイン残基を含有する長さが1~約200アミノ酸のFcフラグメントまたはアミノ酸配列である。他の実施形態では、多量体化ドメインは、システイン残基または短いシステイン含有ペプチドである。他の多量体化ドメインには、ロイシンジッパー、ヘリックスループモチーフ、またはコイルドコイルモチーフを含むか、またはそれからなるペプチドまたはポリペプチドが含まれる。いくつかの実施形態では、多量体化ドメインは、免疫グロブリンFcドメインであり、本発明の多重特異性抗原結合分子は、従来の抗体におけるように、鎖間ジスルフィド結合を介した2つのそのようなFcドメインの会合によって形成される。
【0057】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成されるフラグメント、ならびにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用、およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生成されるフラグメントなどの、ヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチドを指す。核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド(DNAおよびRNAなど)、もしくは天然に存在するヌクレオチドの類似体(例えば、天然に存在するヌクレオチドのエナンチオマー型)、またはそれらの両方の組み合わせである単量体からなり得る。修飾されたヌクレオチドは、糖部分および/またはピリミジンもしくはプリン塩基部分において変化を有し得る。糖修飾は、例えば、1つ以上のヒドロキシル基のハロゲン、アルキル基、アミン、およびアジド基での置換を含み、または糖は、エーテルもしくはエステルとして官能化され得る。さらに、糖部分全体を、アザ糖および炭素環式糖類似体などの立体的および電子的に類似した構造と置き換えられ得る。塩基部分における修飾の例としては、アルキル化プリンおよびピリミジン、アシル化プリンもしくはピリミジン、または他の周知の複素環式置換基が挙げられる。核酸単量体は、ホスホジエステル結合またはそのような連結の類似体によって連結され得る。核酸は、一本鎖または二本鎖のいずれかであり得る。
【0058】
「組換え」という用語は、本明細書で使用される場合、組換え手段によって調製、発現、作製、もしくは単離されるすべての分子、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される多重特異性分子(例えば、二重特異性分子)、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離される多重特異性分子(例えば、二重特異性分子)(例えば、Taylor et al.(1992)Nucl.Acids Res.20:6287-6295を参照されたい)、またはヒト免疫グロブリンおよび/もしくはMHC遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、作製、もしくは単離される分子を含むことを意図する。そのような組換え多重特異性分子は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗原結合ドメインを含むことができる。
【0059】
「対象」または「患者」という用語は、本明細書で使用される場合、非ヒト霊長類およびヒトを含む動物界のすべてのメンバーを含む。一実施形態では、患者は、疾患または障害、例えば、感染症またはがんを有するヒトである。
【0060】
「実質的な同一性」または「実質的に同一である」という用語は、核酸またはそのフラグメントを指す場合、別の核酸(またはその相補鎖)との適切なヌクレオチド挿入または欠失と最適に整列した場合、以下に論じられるように、FASTA、BLASTまたはGapなど、配列同一性の任意の周知のアルゴリズムによって測定される場合に、ヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、または99%のヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子と実質的な同一性を有する核酸分子は、特定の場合では、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることができる。
【0061】
ポリペプチドへ適用される場合、「実質的な類似性」または「実質的に類似の」という用語は、2つのペプチド配列が、既定のギャップ重みを使用してプログラムGAPまたはBESTFITなどによって最適に整列した場合、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%の配列同一性を共有する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換が異なる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されたものである。概して、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つ以上のアミノ酸配列の保存的置換が互いに異なる場合、配列同一性パーセントまたは類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整され得る。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるPearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331を参照されたい。同様の化学的特性を備えた側鎖を有するアミノ酸基の例には、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン、(2)脂肪族ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン、(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、(6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに(7)硫黄含有含硫側鎖:システインおよびメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸塩-アスパラギン酸塩、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換とは、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al.(1992)Science 256:1443-1445に開示されるPAM250対数尤度行列において正値を有する任意の変化である。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負以外の値を有する任意の変化である。
【0062】
ポリペプチドに対する配列類似性は、配列同一性とも呼ばれ、典型的には配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質分析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失、および他の修飾に割り当てられた類似性の測定値を使用して類似の配列を一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドなどの密接に関連するポリペプチド間または野生型タンパク質とその変異タンパク質との間の配列相同性または配列同一性を決定するための既定パラメータとともに使用され得るGapおよびBestfitなどのプログラムを含む。例えば、GCGバージョン6.1を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCGバージョン6.1のプログラムである既定パラメータまたは推奨パラメータを用いたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列との間の最良重複領域の整列および配列同一性パーセントを提供する(Pearson(2000)(上記参照))。本発明の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含むデータベースと比較する際の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを使用したコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、各々参照により本明細書に組み込まれる、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410およびAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照されたい。
【0063】
「ベクター」および「発現ベクター」という用語は、ウイルスベクター、プラスミド、RNAベクター、または染色体、非染色体、半合成、もしくは合成核酸からなり得る線状もしくは環状のDNAもしくはRNA分子を含むが、これらに限定されない。場合によっては、ベクターは、自律複製(エピソームベクター)および/またはそれらが連結されている核酸の発現(発現ベクター)が可能なものである。多数の好適なベクターが当業者に既知であり、市販されている。ウイルスベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス、オルソミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)などのマイナス鎖RNAウイルス、ラブドウイルス(例えば、狂犬病および水胞性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、はしかおよびセンダイ)、ピコルナウイルスおよびアルファウイルスなどのプラス鎖RNAウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、エプスタインバーウイルス、サイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘、カナリア痘)を含む二本鎖DNAウイルスを含む。他のウイルスとしては、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポーバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスを含む。レトロウイルスの例としては、トリ白血病肉腫、哺乳動物のC型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、およびレンチウイルスが挙げられる。
【0064】
多重特異性抗原結合分子
本発明の多重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性または三重特異性または四重特異性)は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1の抗原結合ドメイン、(ii)第1の多量体化ドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2の抗原結合ドメインを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3の抗原結合ドメイン、および(ii)第2の多量体化ドメインを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の多量体化ドメインは、(例えば、鎖間ジスルフィド結合を介して)互いに会合して、分子を形成する。
【0065】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性または三重特異性または四重特異性)は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1の抗原結合ドメイン、(ii)第1の多量体化ドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2の抗原結合ドメインを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3の抗原結合ドメイン、(ii)第2の多量体化ドメイン、および(iii)標的抗原に特異的に結合する第4の抗原結合ドメインを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の多量体化ドメインは、(例えば、鎖間ジスルフィド結合を介して)互いに会合して、分子を形成する。
【0066】
上記および本明細書で参照される抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(HCVR)を含む、Fabドメイン、および軽鎖可変領域(LCVR)と対合される重鎖CH1ドメイン、およびCLドメインであり得る。上記および本明細書で参照される抗原結合ドメインはまた、例えば、約10~約25アミノ酸の、短いペプチドリンカーによって一緒に接続されたHCVRおよびLCVRを含む、単鎖可変フラグメント(scFv)ドメインであり得る。特定のリンカーには、(G4S)nリンカーが含まれ、n=1~10であるか、またはnは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10である。場合によっては、各scFvのHCVRとLCVRとの間のリンカーは、(G4S)4である。別段に定義されない限り、本発明の多重特異性分子の抗原結合ドメインは、すべてのFabドメイン、すべてのscFvドメイン、またはFabドメインおよびscFvドメインの組み合わせであり得る。場合によっては、抗原結合ドメインのうちの1つ以上は、Fabドメインである。場合によっては、抗原結合ドメインのうちの1つ以上は、scFvドメインである。場合によっては、第1の抗原結合ドメインおよび第3の抗原結合ドメインは、Fabドメインである。場合によっては、第2の抗原結合ドメインは、scFvドメインである。場合によっては、第4の抗原結合ドメインは、scFvドメインである。場合によっては、第1および第3の抗原結合ドメインは、Fabドメインであり、第2および第4の抗原結合ドメインは、scFvドメインである。場合によっては、第1、第2、および第3の抗原結合ドメインは、Fabドメインである。場合によっては、第1、第2、第3、および第4の抗原結合ドメインは、Fabドメインである。
【0067】
様々な実施形態では、scFvドメインは、リンカーペプチドを介してそれぞれの多量体化ドメインのC末端に接続している。場合によっては、リンカーは、1~10アミノ酸長である。いくつかの実施形態では、リンカーは、1~20アミノ酸長である。これに関して、リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20アミノ酸長であり得る。いくつかの実施形態では、リンカーは、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30アミノ酸長であり得る。本明細書で論じられる数を含む範囲は、本開示内にも包含され、例えば、リンカー10~30アミノ酸長である。いくつかの実施形態では、リンカーは、可動性リンカーである。好適なリンカーは、容易に選択され得、4アミノ酸~10アミノ酸、5アミノ酸~9アミノ酸、6アミノ酸~8アミノ酸、または7アミノ酸~8アミノ酸を含む、1アミノ酸(例えば、Gly)~20アミノ酸、2アミノ酸~15アミノ酸、3アミノ酸~12アミノ酸などの様々な長さの好適なもののうちのいずれかであり得、1、2、3、4、5、6、または7アミノ酸であり得る。例示的な可動性リンカーとしては、グリシンポリマー(G)n、グリシン-セリンポリマー(GS)n、(nは、少なくとも1(例えば、1~20)の整数である)、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、および当該技術分野で既知の他の可動性リンカーが挙げられる。特定のリンカーには、(G4S)nリンカーが含まれ、n=1~10であるか、またはnは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10である。場合によっては、各scFvドメインとそれぞれの多量体化ドメインのC末端との間のリンカーは、(G4S)3である。
【0068】
1つ以上の抗原結合ドメインがscFvであるそれらの実施形態では、scFvは、安定化scFvであり得、1つ以上の修飾は、scFvの適切な立体配座をもたらし、維持するために、HCVRおよび/またはLCVR配列に対して行われる。いくつかの実施形態では、scFvは、可変領域間のジスルフィド間結合を生成するために、HCVRの残基44およびLCVRの残基100(Kabat番号付け)にシステイン変異を含む(Zhao et al.,Int.J.Mol.Sci,12:1-11,2011、およびWeatherill et al.,Protein Engineering,Design and Selection,25(7):321-329,2012を参照されたい)。いくつかの実施形態では、scFvは、グルタミン残基をグルタミン酸またはリジン残基に修飾して、立体配座異性化を阻害するために、HCVRの残基39およびLCVRの残基38(Kabat番号付け)に変異を含む(Igawa et al.,Protein Engineering,Design and Selection,23(8):667-677,2010を参照されたい)。
【0069】
様々な実施形態では、抗原結合ドメインのいずれかのLCVR(および任意にCL)は、HCVRに対応する同族のLCVRであり得るか、またはLCVRは、複数の抗原結合ドメインに共通の汎用的LCVR(および任意にCL)であり得る。いくつかの実施形態では、Fabドメインの軽鎖は、共通の軽鎖である。いくつかの実施形態では、Fabドメインの軽鎖は、標的抗原結合ドメインに対応する同族の軽鎖であり、軽鎖は、両方のFabドメインに共通である。いくつかの実施形態では、scFvドメインのLCVRは、同族のLCVRである。いくつかの実施形態では、Fabドメインの軽鎖は、共通の軽鎖であり、scFvドメインのLCVRは、同族のLCVRである。
【0070】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第1のscFvを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第2のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)標的抗原に特異的に結合する第2のscFvを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Cに示される。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)標的抗原に特異的に結合する第4のFabを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Eに示される。
【0072】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第1のscFvを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)第1の標的抗原に特異的に結合する第2のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第1の標的抗原とは異なる第2の標的抗原に特異的に結合する第2のscFvを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Fに示される。
【0073】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)第1の標的抗原に特異的に結合する第3のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第1の標的抗原とは異なる第2の標的抗原に特異的に結合する第4のFabを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Gに示される。
【0074】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第1のscFvを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第2のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2のscFvを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Hに示される。
【0075】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第4のFabを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Iに示される。
【0076】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第2のFab、および(ii)第2の免疫グロブリンFcドメインを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Jに示される。
【0077】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)T細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3のFab、および(ii)第2の免疫グロブリンFcドメインを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Kに示される。
【0078】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)第1のT細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第2のT細胞抗原に特異的に結合する第1のscFvを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第2のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)標的抗原に特異的に結合する第2のscFvを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Lに示される。
【0079】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)第1のT細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第2のT細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)標的抗原に特異的に結合する第4のFabを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Mに示される。
【0080】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)第1のT細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第2のT細胞抗原に特異的に結合する第1のscFvを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)第1の標的抗原に特異的に結合する第2のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第1の標的抗原とは異なる第2の標的抗原に特異的に結合する第2のscFvを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Nに示される。
【0081】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)第1のT細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第2のT細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)第1の標的抗原に特異的に結合する第3のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第1の標的抗原とは異なる第2の標的抗原に特異的に結合する第4のFabを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Oに示される。
【0082】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)第1のT細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第2のT細胞抗原に特異的に結合する第1のscFvを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第2のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞に特異的に結合する(任意に第1のT細胞抗原、第2のT細胞抗原、または第3のT細胞抗原に結合し得る)第2のscFvを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Pに示される。
【0083】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)第1のT細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第2のT細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3のFab、(ii)第2の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)T細胞に特異的に結合する(任意に第1のT細胞抗原、第2のT細胞抗原、または第3のT細胞抗原に結合し得る)第4のFabを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Qに示される。
【0084】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)第1のT細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第2のT細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第2のFab、および(ii)第2の免疫グロブリンFcドメインを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Rに示される。
【0085】
いくつかの実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、(a)N末端からC末端に向かって、(i)第1のT細胞抗原に特異的に結合する第1のFab、(ii)第1の免疫グロブリンFcドメイン、および(iii)第2のT細胞抗原に特異的に結合する第2のFabを含む、第1のポリペプチドと、(b)N末端からC末端に向かって、(i)標的抗原に特異的に結合する第3のFab、および(ii)第2の免疫グロブリンFcドメインを含む、第2のポリペプチドと、を含み、第1および第2の免疫グロブリンドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合して、分子を形成する。そのような分子の例示的な構造は、
図1Sに示される。
【0086】
別段に定義されない限り、かつ存在する場合、第4の抗原結合ドメインは、標的抗原またはT細胞抗原に特異的に結合することができる。場合によっては、第3の抗原結合ドメインおよび第4の抗原結合ドメインは、異なる標的抗原(同じタンパク質、または異なるタンパク質上の異なるエピトープ)に特異的に結合する。場合によっては、異なる標的抗原は、同じ標的細胞(例えば、腫瘍細胞)の表面上に発現する。場合によっては、第3の抗原結合ドメインおよび第4の抗原結合ドメインは、同じ標的抗原(同じタンパク質上の同じエピトープ)に特異的に結合する。様々な実施形態では、第1および第2の抗原結合ドメイン、ならびに第4の抗原結合ドメイン(存在し、T細胞抗原に向けられる場合)は、図に示されるように、同じまたは異なるT細胞抗原に結合することができる。場合によっては、第1、第2、および第4の抗原結合ドメインは、異なるT細胞抗原(同じタンパク質、または異なるタンパク質上の異なるエピトープ)に特異的に結合する。場合によっては、第1、第2、および第4の抗原結合ドメインは、同じT細胞抗原(同じタンパク質上の同じエピトープ)に特異的に結合する。場合によっては、異なるT細胞抗原は、T細胞の表面上の共刺激分子(例えば、CD28)およびチェックポイント阻害剤(例えば、PD-1)である。そのような実施形態では、本発明の多重特異性分子は、T細胞に共刺激シグナルを提供するだけでなく、チェックポイント阻害を防止することができる。本明細書で使用される場合、「同じ」標的抗原またはT細胞抗原への参照は、必ずしも抗原結合ドメインが同じ表面分子に結合していることを意味しないが、むしろ抗原結合ドメインが同じ特異性を有する(例えば、それらは各々がCD3またはTAを結合する)ことを意味する。同様に、「異なる」標的抗原またはT細胞抗原への参照は、それが別の標的抗原(例えば、MAGEA4対EGFR)もしくは別のT細胞抗原(例えば、CD28対PD-1)とは異なるか、または同じタンパク質上の別のエピトープであることを意味する。
【0087】
上記または本明細書で論じられる実施形態のいずれかでは、標的抗原は、腫瘍関連抗原または感染症関連抗原(例えば、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、または寄生虫によって発現される抗原)であり得る。場合によっては、標的抗原は、腫瘍関連抗原である。場合によっては、標的抗原は、感染症関連抗原である。場合によっては、標的抗原は、ウイルス抗原である。場合によっては、標的抗原は、細菌抗原である。場合によっては、標的抗原は、真菌抗原である。場合によっては、標的抗原は、寄生虫によって発現される抗原である。
【0088】
場合によっては、標的抗原は、主要組織適合複合体(MHC)タンパク質の溝(PiG)の文脈におけるペプチドである。いくつかの実施形態では、PiGは、約5~約40アミノ酸残基、約6~約30アミノ酸残基、約8~約20アミノ酸残基、または約9、10、もしくは11アミノ酸残基からなるペプチドである。場合によっては、PiGは、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、または寄生虫抗原のフラグメントである。様々な実施形態では、標的抗原は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DQ、またはHLA-DPのいずれかを含む、ヒト白血球抗原の任意のクラス、サブタイプ、または対立遺伝子の溝の文脈におけるペプチドである。いくつかの実施形態では、標的抗原は、ペプチド/MHC複合体である。場合によっては、ペプチド/MHC複合体中のペプチドは、腫瘍関連抗原のフラグメント、細菌抗原のフラグメント、ウイルス抗原のフラグメント、真菌抗原のフラグメント、または寄生虫抗原のフラグメントである。
【0089】
場合によっては、抗原は、腫瘍関連抗原または腫瘍細胞によって発現される抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍関連抗原は、AFP、ALK、BAGEタンパク質、BIRC5(サバイビン)、BIRC7、β-カテニン、brc-abl、BRCA1、BORIS、CA9、炭酸脱水酵素IX、カスパーゼ-8、CALR、CCR5、CD19、CD20(MS4A1)、CD22、CD40、CD70、CDK4、CEA、サイクリン-B1、CYP1B1、EGFR、EGFRvIII、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、EpCAM、EphA2、Fra-1、FOLR1、GAGEタンパク質(例えば、GAGE-1、-2)、GD2、GD3、GloboH、グリピカン-3、GM3、gp100、Her2、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、IL-10、LMP2、MAGEタンパク質(例えば、MAGE-1、-2、-3、-4、-6、および-12)、MART-1、メソテリン、ML-IAP、Muc1、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、Muc16(CA-125)、MUM1、NA17、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ESO1、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、PSMA(FOLH1)、RAGEタンパク質、Ras、RGS5、Rho、SART-1、SART-3、STEAP1、STEAP2、TAG-72、TGF-β、TMPRSS2、トンプソン-ヌーベル抗原(Tn)、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、およびウロプラキン-3からなる群から選択される。
【0090】
場合によっては、抗原は、ウイルス抗原または細菌抗原である。いくつかの実施形態では、ウイルス抗原は、アデノウイルス、アストロウイルス、チクングニア、サイトメガロ、デング、エボラ、EBV、ハンタウイルス、HBsAg、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎、ヘルペス、HIV、HPIV、HTLV、インフルエンザ、日本脳炎ウイルス、ラッサ、はしか、メタニューモウイルス、ムンプス、ノロウイルス、オロプーシェ、HPV、パルボウイルス、ロタウイルス、RSV、風疹、SARS、TBEV、ウスツ、ワクシニア、水痘、ウエストナイル、黄熱、およびジカからなる群から選択されるウイルスに関連するか、もしくはそれによって発現され、または細菌抗原は、メチシリン耐性Staphylococcus Aureus(MRSA)、Clostridium Difficile、カルバペネム耐性Enterobacteriaceae、薬物耐性Neisseria Gonorrhoeae、多剤耐性Acinetobacter、薬物耐性Campylobacter、フルコナゾール耐性Candida、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌、バンコマイシン耐性enterococcus、多剤耐性pseudomonas Aeruginosa、薬物耐性非チフス性Salmonella、薬物耐性Salmonella serotype typhi、薬物耐性Shigella、薬物耐性Streptococcus Pneumoniae、薬物耐性tuberculosis、バンコマイシン耐性Staphylococcus Aureus、エリスロマイシン耐性group A Streptococcus、およびクリンダマイシン耐性group B Streptococcusからなる群から選択される細菌に由来する。
【0091】
上記または本明細書で論じられる実施形態のいずれかでは、T細胞抗原は、T細胞の表面で発現される抗原、T細胞受容体複合体抗原、T細胞上の共刺激分子もしくはチェックポイント阻害剤、CD3、CD27、CD28、4-1BB、またはPD-1であり得る。場合によっては、T細胞抗原は、T細胞受容体複合体抗原である。場合によっては、T細胞抗原は、CD3である。場合によっては、T細胞抗原は、T細胞上の共刺激分子またはチェックポイント阻害剤である。場合によっては、T細胞抗原は、CD27、CD28、4-1BB、およびPD-1からなる群から選択される。場合によっては、T細胞抗原は、CD3、CD27、CD28、4-1BB、およびPD-1からなる群から選択される。場合によっては、T細胞抗原は、CD28、ICOS、HVEM、CD27、4-1BB、0X40、DR3、GITR、CD30、SLAM、CD2、2B4、CD226、TIM1、およびTIM2からなる群から選択される。
【0092】
T細胞抗原がCD3である特定の実施形態では、CD3結合ドメインは、ヒトCD3に結合し、ヒトT細胞活性化を誘導する。特定の実施形態では、CD3結合ドメインは、ヒトCD3に弱く結合し、ヒトT細胞活性化を誘導する。いくつかの実施形態では、CD3結合ドメインは、ヒトCD3に弱く結合し、腫瘍関連抗原発現細胞殺滅を誘導する。いくつかの実施形態では、CD3結合ドメインは、ヒトおよびカニクイザル(サル)CD3と弱く結合または会合するが、結合相互作用は、当該技術分野で既知のインビトロアッセイによって検出可能ではない。いくつかの実施形態では、CD3結合ドメインは、ヒトCD3に弱い親和性で結合する。いくつかの実施形態では、CD3結合ドメインは、ヒトCD3に中程度の親和性で結合する。いくつかの実施形態では、CD3結合ドメインは、ヒトCD3に高い親和性で結合する。いくつかの実施形態では、CD3結合ドメインは、ヒトCD3に(例えば、25℃で)、表面プラズモン共鳴(例えば、mAb捕捉または抗原捕捉フォーマット)または実質的に同様のアッセイによって測定される約15nM未満のKDで結合する。いくつかの実施形態では、CD3結合ドメインは、ヒトCD3に、表面プラズモン共鳴結合アッセイ(例えば、mAb捕捉または抗原捕捉フォーマット)または実質的に同様のアッセイで測定される場合に、約15nM超、約20nM超、約30nM超、約40nM超、約50nM超、約60nM超、約100nM超、約200nM超、または約300nM超のKD値で結合する。いくつかの実施形態では、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、CD3に、例えば、本明細書において実施例3で定義されるアッセイフォーマット、または実質的に同様のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定される場合に、約5nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約800pM未満、約600pM未満、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約180pM未満、約160pM未満、約140pM未満、約120pM未満、約100pM未満、約80pM未満、約60pM未満、約40pM未満、約20pM未満、または約10pM未満のKDで結合する。
【0093】
いくつかの実施形態では、CD3結合ドメインは、インビトロフローサイトメトリー結合アッセイで測定される場合に、約50nM未満未満、約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、900pM未満、800pM未満、700pM未満、600pM未満、または500pM未満のEC50値を示す。いくつかの実施形態では、CD3結合ドメインは、インビトロフローサイトメトリー結合アッセイで測定される場合に、約1nM、2nM、3nM、4nM、5nM、10nM、25nM、50nM、100nM、500nM、または1μM以上のEC50値を示す。
【0094】
実施形態のいずれかでは、CD3結合ドメインは、7195P、7221G、7221G5、および7221G20として同定される抗体を含む、WO2014/047231(9250-WO)またはWO2017/053856(10151WO01)に開示される抗CD3抗体のHCVR/LCVRまたはCDR(例えば、HCVR/LCVR配列の対内に含有される6つのCDR)アミノ酸配列のいずれかを含むことができる。様々な実施形態では、「強い結合剤」として同定された抗CD3抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイ(例えば、T200 BIACORE装置で行われる測定での抗原捕捉フォーマットで25℃)で測定される場合に、一桁のナノモル範囲(例えば、1~9nM)のヒトCD3についての親和性を有する。様々な実施形態では、「中程度の結合剤」として同定された抗CD3抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイで測定される場合に、2桁のナノモル範囲(例えば、10~99nM、任意に10~50nM、または10~25nM)のヒトCD3についての親和性を有する。様々な実施形態では、「弱い結合剤」として同定された抗CD3抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイで測定される場合に、3桁のナノモル範囲(例えば、100~999nM、任意に100~500nM、または500nM~1μM)のヒトCD3についての親和性を有する。様々な実施形態では、「非常に弱い結合剤」として同定された抗CD3抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイで測定される場合に、10μMを超えるか、または検出不能であるヒトCD3についての親和性を有する。
【0095】
実施形態のいずれかでは、CD3結合ドメインは、以下の表に記載されるHCVR/LCVRまたはCDR(例えば、HCVR/LCVR配列の対内に含有される6つのCDR)アミノ酸配列のいずれかを含むことができる(「G」バージョンは、WO 2017/053856から取られている)。いくつかの実施形態では、(例えば、
図1Cまたは1Fの構造を有する分子のFabアームにおける)CD3結合ドメインは、標的抗原結合ドメインに対応する同族の軽鎖を含む。言い換えれば、標的抗原結合ドメインの同族の軽鎖は、標的抗原結合ドメインおよびCD3結合ドメインの両方に(例えば、
図1Cまたは1Fの構造のN末端Fabドメインにおいて)共通である。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
表1に記載される抗体の各々は、表3に記載されるアミノ酸配列を含む共通の軽鎖可変領域を含む。「G」指定抗体の各々はまた、本明細書において「7221」接頭辞、例えば、7221G、7221G5、7221G20などで呼ばれ得る。抗原結合ドメインのscFvバージョンでは、重鎖可変領域の44位のアミノ酸残基は、例えば、配列番号169(7195Pに対応する修飾された重鎖)または配列番号170(7221Gに対応する修飾された重鎖)に示されるように、システイン残基で置き換えられ得る。
【0101】
本発明の多重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性または三重特異性または四重特異性)は、2つのポリペプチド鎖を含み、その各々は、(例えば、鎖間ジスルフィド結合を介した)2つのポリペプチド鎖の会合を促進して、単一の多重特異性抗原結合分子を形成する多量体化ドメインを含む。上記または本明細書で論じられる実施形態のいずれかでは、第1および第2の多量体化ドメインは、免疫グロブリンFcドメイン(例えば、ヒトIgGアイソタイプ)であり得る。場合によっては、第1および第2の多量体化ドメインは、ジスルフィド結合を介して互いに会合する。いくつかの実施形態では、第1の多量体化ドメインおよび第2の多量体化ドメインは、ヒトIgG1またはヒトIgG4 Fcドメインである。場合によっては、第1および第2の多量体化ドメインは、ヒトIgG1またはヒトIgG4のヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。
【0102】
いくつかの実施形態では、第1の多量体化ドメインまたは第2の多量体化ドメインは、同じアイソタイプ(例えば、ヒトIgG1またはヒトIgG4)の野生型Fcドメインと比較してプロテインA結合についての親和性を低減するアミノ酸置換を含む。場合によっては、アミノ酸置換は、H435R修飾、またはH435RおよびY436F修飾(EU番号付け)を含む。場合によっては、第1の多量体化ドメインは、H435RおよびY436F修飾を含む。場合によっては、第2の多量体化ドメインは、H435RおよびY436F修飾を含む。
【0103】
いくつかの実施形態では、第1のポリペプチド、第2のポリペプチド、または第1および第2のポリペプチドの両方は、同じアイソタイプ(例えば、ヒトIgG1またはヒトIgG4)の野生型ヒンジドメインと比較してFcγ受容体についての結合親和性を低減する修飾ヒンジドメインを含む。
【0104】
多量体化ドメインがヒンジドメインを含む重鎖定常領域を含む様々な実施形態では、定常領域は、複数の免疫グロブリンアイソタイプに由来する配列を組み合わせる、キメラであり得る。例えば、キメラFcドメインは、ヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4 CH2領域に由来するCH2配列の一部または全部、およびヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4に由来するCH3配列の一部または全部を含み得る。キメラFcドメインは、キメラヒンジ領域も含み得る。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列と組み合わせられた、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」配列を含み得る。本明細書に記載の抗原結合分子のうちのいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの具体的な例は、N末端からC末端に、[IgG4 CH1]-[IgG4上部ヒンジ]-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4 CH2]-[IgG4 CH3]を含む。本明細書に記載の抗原結合分子のうちのいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの別の例は、N末端からC末端に、[IgG1 CH1]-[IgG1上部ヒンジ]-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4 CH2]-[IgG1 CH3]を含む。本発明の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインのこれらおよび他の例は、WO2014/121087(8550-WO)に記載される。これらの一般的な構造配置を有するキメラFcドメインおよびそのバリアントは、改変されたFc受容体結合を有し得、次いで、Fcエフェクター機能に影響を及ぼす。
【0105】
多量体化ドメインがヒンジドメインを含む重鎖定常領域を含む様々な実施形態では、ヒンジドメイン内の233~236位は、G、G、G、および空き;G、G、空き、および空き;G、空き、空き、および空き;またはすべて空きであり、位置は、EU番号付けによって番号付けられる。任意に、重鎖定常領域は、N末端からC末端に向かって、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。任意に、重鎖定常領域は、N末端からC末端に向かって、CH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。任意に、存在する場合、CH1領域、存在する場合、ヒンジ領域の残部、CH2領域、およびCH3領域は、同じヒトアイソタイプである。任意に、存在する場合、CH1領域、存在する場合、ヒンジ領域の残部、CH2領域、およびCH3領域は、ヒトIgG1である。任意に、存在する場合、CH1領域、存在する場合、ヒンジ領域の残部、CH2領域、およびCH3領域は、ヒトIgG2である。任意に、存在する場合、CH1領域、存在する場合、ヒンジ領域の残部、CH2領域、およびCH3領域は、ヒトIgG4である。任意に、定常領域は、プロテインAへの結合を低減するように修飾されたCH3ドメインを有する。本発明の抗原結合分子のいずれかに含めることができる多量体化重鎖定常領域のこれらおよび他の例は、WO2016/161010(10140WO01)に記載される。
【0106】
本発明の実施形態では、1つの多量体化ドメインの別の多量体化ドメインとの会合は、2つの抗原結合ドメイン間の会合を促進し、それによって二重特異性抗原結合分子を形成する。多量体化ドメインは、同じまたは類似の構造または構成の第2の多量体化ドメインと会合する能力を有する任意の高分子、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、またはアミノ酸であり得る。例えば、多量体化ドメインは、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドであってもよい。多量体化成分の非限定的な例は、免疫グロブリンのFc部分(CH2-CH3ドメインを含む)、例えばアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4から選択されるIgGのFcドメイン、ならびに各アイソタイプ群内の任意のアロタイプである。
【0107】
いくつかの実施形態では、第1および第2の多量体化ドメインは、例えば、IgG1/IgG1、IgG2/IgG2、IgG4/IgG4などの同じIgGアイソタイプであり得る。あるいは、第1および第2の多量体化ドメインは、例えば、IgG1/IgG2、IgG1/IgG4、IgG2/IgG4などの異なるIgGアイソタイプのものであり得る。
【0108】
特定の実施形態では、多量体化ドメインは、Fcフラグメントまたは少なくとも1つのシステイン残基を含む1~約200アミノ酸長のアミノ酸配列である。他の実施形態では、多量体化ドメインは、システイン残基、または短いシステイン含有ペプチドである。他の多量体化ドメインには、ロイシンジッパー、ヘリックスループモチーフ、またはコイルドコイルモチーフを含むか、またはそれからなるペプチドまたはポリペプチドが含まれる。
【0109】
多量体化ドメイン、例えば、Fcドメイン(ヒンジありまたはなし)は、野生型、Fcドメインの天然に存在するバージョンと比較して、1つ以上のアミノ酸変化(例えば、挿入、欠失、または置換)を含んでもよい。例えば、本発明は、FcとFcRnとの間の修飾された結合相互作用(例えば、強化または減少)を有する修飾Fcドメインをもたらす、Fcドメイン中の1つ以上の修飾を含む二重特異性抗原結合分子を含む。一実施形態では、二重特異性抗原結合分子は、CH2またはCH3領域に修飾を含み、この修飾により、酸性環境(例えば、pH範囲約5.5~約6.0のエンドソーム内)においてFcRnに対するFcドメインの親和性が増加する。かかるFc修飾の非限定的な例には、例えば、250位(例えば、EまたはQ)、250位および428位(例えば、LまたはF)、252位(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254位(例えば、SまたはT)、および256位(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)での修飾、または428位および/もしくは433位(例えば、L/R/S/P/QまたはK)および/または434位(例えば、H/FまたはY)での修飾、または250位および/もしくは428位での修飾、または307位もしくは308位(例えば、308F、V308F)および434位での修飾が挙げられる。一実施形態では、修飾は428L(例えばM428L)および434S(例えばN434S)の修飾、428L、259I(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)の修飾、433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)の修飾、252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)の修飾、250Qおよび428Lの修飾(例えば、T250QおよびM428L)、307および/または308の修飾(例えば、308Fまたは308P)を含む。
【0110】
本発明はまた、第1のIg CH3ドメインおよび第2のIg CH3ドメインを含む多重特異性抗原結合分子を含み、第1および第2のIg CH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸ほど互いに異なっており、少なくとも1つのアミノ酸の相違は、アミノ酸の相違を欠く二重特異性抗体と比較して、プロテインAへの二重特異性抗体の結合を低減する。一実施形態では、第1のIg CH3ドメインは、プロテインAに結合し、第2のIg CH3ドメインは、H95R修飾(IMGTエクソン番号付けによるもの、EU番号付けによるH435R)などのプロテインA結合を低減または消失させる変異を含む。第2のCH3は、Y96F修飾(IMGTによるもの、EUによるY436F)をさらに含み得る。例えば、米国特許第8,586,713号を参照されたい。第2のCH3内に見られ得るさらなる修飾には、IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによるもの、EUによるD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I)、IgG2抗体の場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGTによるもの、EUによるN384S、K392N、およびV422I)、ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによるもの、EUによるQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)が含まれる。
【0111】
抗原結合ドメインの調製および二重特異性分子の構築
特定の抗原に特異的な抗原結合ドメインは、当該技術分野で既知の任意の抗体産生技術によって調製することができる。得られると、2つ以上の異なる抗原(例えば、CD3および標的抗原)に特異的な、異なる抗原結合ドメインは、互いに適切に配置して、常法を使用して本発明の多重特異性抗原結合分子の構造を産生することができる。特定の実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子の個々の成分(例えば、重鎖および軽鎖またはその部分)のうちの1つ以上は、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体に由来する。そのような抗体を作製するための方法は当該技術分野において周知である。例えば、本発明の多重特異性抗原結合分子の重鎖および/または軽鎖のうちの1つ以上は、VELOCIMMUNE(商標)技術を使用して調製することができる。VELOCIMMUNE(商標)技術(または任意の他のヒト抗体生成技術)を使用して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、特定の抗原(例えば、CD3または標的抗原)に対する高親和性キメラ抗体がまず単離される。抗体は、親和性、選択性、エピトープなどを含む、望ましい特徴について特徴付けられ、選択される。マウス定常領域は、所望のヒト定常領域で置き換えられて、本発明の多重特異性抗原結合分子に組み込まれ得る完全ヒト重鎖および/または軽鎖を生成する。
【0112】
遺伝子操作された動物は、ヒト多重特異性抗原結合分子を作製するために使用され得る。例えば、内在性マウス免疫グロブリン軽鎖可変配列を再編成および発現することができない、遺伝子修飾マウスを使用することができ、マウスは、内在性マウスカッパ遺伝子座のマウスカッパ定常遺伝子に作動可能に連結されているヒト免疫グロブリン配列によってコードされる1つまたは2つのヒト軽鎖可変ドメインのみを発現する。そのような遺伝子修飾マウスを使用して、2つの異なるヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントのうちの1つに由来する可変ドメインを含む同一の軽鎖と会合する2つの異なる重鎖を含む完全ヒト多重特異性抗原結合分子を産生することができる。(例えば、US2011/0195454を参照されたい)。完全ヒトとは、抗体またはその抗原結合フラグメントもしくは免疫グロブリンドメインの各ポリペプチドの全長にわたるヒト配列に由来するDNAによってコードされるアミノ酸配列を含む、抗体、またはその抗原結合フラグメントもしくは免疫グロブリンドメインを指す。いくつかの例において、完全ヒト配列は、ヒトの内在性タンパク質に由来する。他の例において、完全ヒトタンパク質またはタンパク質配列は、各成分配列がヒト配列に由来するキメラ配列を含む。いずれの理論にも縛られないが、キメラタンパク質またはキメラ配列は、一般に、例えば任意の野生型ヒト免疫グロブリン領域またはドメインと比較して、成分配列の接合部における免疫原性エピトープの作製を最小にするように設計される。
【0113】
様々な実施形態では、上記で論じられる方法および技法は、T細胞抗原および標的抗原に対する抗体を生成するために使用され、これらの抗体の抗原結合ドメイン(例えば、HCVR、LCVR、またはCDR)は、本明細書で論じられる、または、例えば、
図1Cおよび1E~1Sに示される構造を有する多重特異性抗原結合分子を産生するために使用される。
【0114】
抗原結合ドメインの結合特性
本明細書で使用される場合、抗体(例えば、対応する抗体)、免疫グロブリン、抗原結合ドメイン、または多重特異性抗原結合分子の、例えば、細胞表面タンパク質またはそのフラグメントなどの所定の抗原への結合の文脈における「結合」という用語は、典型的には、最低2つの実体または分子構造間の相互作用または会合、例えば、抗原結合ドメイン/抗原相互作用を指す。
【0115】
例えば、結合親和性は、リガンドとして抗原を、分析物(または抗リガンド)として抗体、Ig、抗体結合ドメイン、または多重特異性抗原結合分子を使用して、例えば、BIAcore 3000機器において表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって決定される場合、典型的には、約10-7M以下、例えば、約10-8M以下、例えば、約10-9M以下のKD値に対応する。フローサイトメトリーアッセイも日常的に使用される。
【0116】
したがって、本発明の抗体(例えば、対応する抗体)、抗原結合ドメイン、または多重特異性抗原結合分子は、非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合についてのその親和性よりも少なくとも10倍低いKD値に対応する親和性を有する所定の抗原または細胞表面分子に結合する。本発明によると、非特異的抗原よりも10倍以下低いKD値に対応する抗体(例えば、対応する抗体)、抗原結合ドメイン、または多重特異性抗原結合分子の親和性は、検出不能な結合とみなされ得るが、そのような抗体は、本発明の二重特異性抗体の産生のための第2の抗原結合アームと対合され得る。
【0117】
「KD」(M)という用語は、特定の抗体(もしくは抗原結合ドメイン)-抗原相互作用の解離平衡定数、または抗原に結合する抗体(もしくは抗原結合ドメイン)もしくは抗体結合フラグメントの解離平衡定数を指す。KDと結合親和性との間には逆の関係があり、したがって、KD値が小さいほど、親和性は高い、すなわちより強い。したがって、「より高い親和性」または「より強い親和性」という用語は、相互作用を形成するより高い能力、つまりより小さいKD値に関し、逆に「より低い親和性」または「より弱い親和性」という用語は、相互作用を形成するより低い能力、つまりより大きなKD値に関する。状況によっては、別の相互作用パートナー分子(例えば、抗原Y)に対する分子(例えば、抗体または抗原結合ドメイン)の結合親和性と比較して、その相互作用パートナー分子(例えば、抗原X)に対する特定の分子(例えば、抗体または抗原結合ドメイン)のより高い結合親和性(またはKD)は、より大きなKD値(より低い、またはより弱い、親和性)をより小さなKD(より高い、またはより強い、親和性)で割ることによって決定される結合比として表され、例えば、場合によって5倍または10倍大きな結合親和性として表され得る。
【0118】
「kd」(秒-1または1/s)という用語は、特定の抗体(もしくは抗原結合ドメイン)-抗原相互作用の解離速度定数、または抗体もしくは抗体結合ドメインの解離速度定数を指す。その値はkoff値とも呼ばれる。
【0119】
「ka」(M-1×秒-1または1/M)という用語は、特定の抗体(もしくは抗原結合ドメイン)-抗原相互作用の会合速度定数、または抗体もしくは抗体結合ドメインの会合速度定数を指す。
【0120】
「KA」(M-1または1/M)という用語は、特定の抗体(もしくは抗原結合ドメイン)-抗原相互作用の会合平衡定数、または抗体もしくは抗体結合ドメインの会合平衡定数を指す。会合平衡定数は、kaをkdで割ることによって得られる。
【0121】
「EC50」または「EC50」という用語は、最大半量の有効濃度を指し、特定の曝露時間後にベースラインと最大値との間の中間で応答を誘導する抗体(または抗原結合ドメインもしくは多重特異性分子)の濃度を含む。EC50は、その最大効果の50%が観察される抗体(または抗原結合ドメインまたは多重特異性分子)の濃度を本質的に表す。特定の実施形態では、EC50値は、例えば、フローサイトメトリー結合アッセイによって決定されるように、CD3または標的抗原(例えば、腫瘍関連抗原)を発現する細胞に最大半量の結合を与える本発明の多重特異性分子の濃度に等しい。したがって、低減したまたは弱い結合は、EC50の増加、または最大半量の有効濃度で観察される。
【0122】
一実施形態では、低下した結合は、最大半量の標的細胞への結合を可能にする増加したEC50分子濃度として定義することができる。
別の実施形態では、EC50値は、T細胞の細胞毒性活性による標的細胞の最大半量枯渇を誘発する本発明の分子の濃度を表す。したがって、細胞毒性活性の増加(例えば、T細胞媒介性腫瘍細胞殺滅)は、EC50または最大半量の有効濃度値の低下で観察される。
【0123】
pH依存的結合
本発明は、pH依存的結合特性を有する抗原結合ドメインおよび二重特異性抗原結合分子を含む。例えば、本発明の分子は、中性pHと比較して酸性pHでT細胞抗原または標的抗原への低減した結合を示し得る。あるいは、本発明の分子は、中性pHと比較して酸性pHでT細胞抗原または標的抗原への増強された結合を示し得る。「酸性pH」という表現は、約6.2未満、例えば、約6.0、5.95、5、9、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0以下のpH値を含む。本明細書で使用される場合、「中性pH」という表現は、約7.0~約7.4のpHを意味する。「中性pH」という表現は、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、および7.4のpH値を含む。
【0124】
場合によっては、「中性pHと比較して酸性pHで...低減した結合」は、中性pHでその抗原に結合する分子(または抗原結合ドメイン)のKD値に対する酸性pHでその抗原に結合する分子(または抗原結合ドメイン)のKD値(またはその逆)の比に関して表される。例えば、分子または抗原結合ドメインが約3.0以上の酸性/中性KD比を示す場合、本発明の目的のために、分子または抗原結合ドメインは、「中性pHと比較して、酸性pHでT細胞抗原または標的抗原への低減した結合」を示すとみなされ得る。特定の例示的な実施形態では、本発明の分子または抗原結合ドメインの酸性/中性KD比は、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、20.0、25.0、30.0、40.0、50.0、60.0、70.0、100.0以上であり得る。
【0125】
pH依存的結合特性を有する多重特異性抗体は、例えば、中性pHと比較して、酸性pHでの特定の抗原への低減した(増強した)結合について対応する抗体の集団をスクリーニングすることによって得られ得る。加えて、アミノ酸レベルでの抗原結合ドメインの修飾は、pH依存的特性を有する分子を産生し得る。例えば、抗原結合ドメイン(例えば、CDR内)の1つ以上のアミノ酸をヒスチジン残基で置換することによって、中性pHに対して酸性pHで低減した抗原結合を有する分子が得られ得る。
【0126】
多重特異性抗原結合分子の生物学的特性
本発明は、ヒトT細胞抗原(例えば、CD3)およびヒト標的抗原(複数可)(例えば、腫瘍関連抗原)に同時に結合することができる多重特異性抗原結合分子およびその抗原結合ドメインを含むことができる。
【0127】
本発明は、ヒトT細胞抗原(例えば、CD3)に結合し、標的細胞の存在下でT細胞活性化を誘導する多重特異性抗原結合分子を含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、本発明は、ヒトT細胞抗原(例えば、CD3)に結合し、標的抗原(複数可)(例えば、腫瘍関連抗原)を発現する細胞の存在下でT細胞の細胞毒性活性を誘導する多重特異性抗原結合分子を含む。
【0128】
本発明は、従来の構造の二重特異性抗CD3×抗TA抗体と比較して、サイトカイン産生を増加させることなく、ヒトT細胞抗原(例えば、CD3)に結合し、T細胞活性化を誘導する多重特異性抗原結合分子を含むことができる(例えば、
図1A)。
【0129】
本発明は、細胞が標的抗原(複数可)を発現する細胞集団を枯渇または低減することができる多重特異性抗原結合分子を含むことができる。本発明の多重特異性抗原結合分子は、従来の二重特異性抗体フォーマットを有する分子よりも強力にT細胞媒介性細胞毒性を誘導することができる(例えば、
図1Aおよび1B)。
【0130】
本発明は、ヒトT細胞抗原(例えば、CD3)および2つの異なる標的抗原(例えば、
図1Fの構造を有する分子)に結合し、2つの標的抗原を発現する細胞の存在下で細胞毒性活性および/またはT細胞活性化を誘導する多重特異性抗原結合分子を含むことができる。
【0131】
多くのがんは、プロテオソームによって細胞内で処理される様々な細胞内抗原を発現し、関連するペプチドは、HLA分子の文脈における細胞の表面で示される。異なるタンパク質からの標的化ペプチドは、本発明の多重特異性分子の特異性を増加させるために使用され得る。場合によっては、PiG抗原または低密度がん抗原によって特徴付けられるがんは、腫瘍内の標的コピー数が低いことが多いため、従来のがん療法から逃れる。加えて、PiGまたは低密度がん抗原によって特徴付けられる固形腫瘍は、細胞表面抗原ではないが、がん関連ペプチド内の溝に存在するため、療法に対してより耐性があり、治療することがより困難であり得る。よって、2つの異なる抗原(例えば、低密度抗原)を標的とする本発明の多重特異性分子の使用は、がん、特に固形腫瘍によって特徴付けられるがんにおける療法の有効性を増加/増強するために、PiGおよび/または低密度がん抗原を効果的に標的とすることができる。
【0132】
様々な実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子は、標的抗原の密度が細胞当たり約100コピー~細胞当たり約100万コピー以上の範囲である場合、細胞集団においてT細胞媒介性細胞毒性を誘導することができる。場合によっては、標的抗原は、約100、約200、約300、約400、約500、約1000、約2000、約3000、約4000、約5000、約6000、約7000、約8000、約9000、約10000、約15000、約20000、約25000、約30000、約35000、約40000、約45000、約50000、約75000、約100000(すなわち、100K)、約200K、約300K、約400K、約500K、約600K、約700K、約800K、約900K、約100万、約200万、約300万、約400万、約500万、または約1000万のコピー数/細胞で存在する。
【0133】
理論によって拘束されることを意図することなく、本発明者らは、本発明の分子フォーマットの改善された細胞毒性効力が、分子の単鎖上の2つのT細胞抗原(例えば、CD3)結合ドメインの存在の関数であると仮定する。特に、本発明の分子構造の形状は、刺激性シナプス形成を誘導することなく、低濃度で溶解性シナプス形成を選択的に誘導し、後者は、細胞毒性Tリンパ球からのサイトカイン産生に関与すると仮定される。
【0134】
エピトープマッピングおよび関連技法
本発明の抗原結合分子が結合するT細胞抗原(例えば、CD3)および/または標的抗原(例えば、腫瘍関連抗原)上のエピトープは、タンパク質の3つ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、またはそれ以上)のアミノ酸の単一連続配列からなってもよい。あるいは、エピトープは、タンパク質の複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなってもよい。本発明の分子は、例えば、単一のCD3鎖内に含まれるアミノ酸(例えば、CD3-イプシロン、CD3-デルタ、またはCD3-ガンマ)と相互作用し得るか、または2つ以上の異なるCD3鎖上のアミノ酸と相互作用し得る。「エピトープ」という用語は、本明細書で使用される場合、パラトープとして既知の抗原結合ドメインの可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は、2つ以上のエピトープを有してもよい。よって、異なる抗原結合ドメインは、抗原上の異なる領域に結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、立体配座または直鎖状のいずれかであり得る。立体配座エピトープは、直鎖状ポリペプチド鎖の異なるセグメント由来の空間的に並置されたアミノ酸によって産生される。直鎖状エピトープは、ポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基によって産生されるものである。ある特定の状況において、エピトープは、抗原上の糖類、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含み得る。
【0135】
当業者に既知の様々な技法を使用して、分子の抗原結合ドメインがポリペプチドまたはタンパク質内にある「1つ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定することができる。例示的な技法としては、例えば、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harb.,NY)に記載されている日常的な交差ブロッキングアッセイ、アラニンスキャニング変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke,2004,Methods Mol Biol 248:443-463)、およびペプチド切断分析が挙げられる。加えて、エピトープ切除、エピトープ抽出、および抗原の化学修飾などの方法を採用することができる(Tomer,2000,Protein Science 9:487-496)。分子の抗原結合ドメインが相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般的にいえば、水素/重水素交換法は、関心対象のタンパク質を重水素標識した後、分子を重水素標識タンパク質へ結合させることを包含する。次に、タンパク質/分子複合体を水に移して、分子によって保護されている残基(重水素標識されたままである)を除くすべての残基で水素-重水素交換を生じさせる。分子の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断および質量分析へ供し、それにより、分子が相互作用する特異的アミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267(2):252-259、Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aを参照されたい。抗原/分子複合体のX線結晶解析もまた、エピトープマッピング目的に使用してもよい。
【0136】
生物学的等価物
本発明は、本明細書に記載される例示的な多重特異性抗原結合分子のいずれかと生物学的に等価である多重特異性抗原結合分子を含む。2つの抗原結合タンパク質は、例えば、それらが類似の実験条件下で単回用量または複数回用量のいずれかで同じモル用量で投与された場合に、吸収速度および吸収の程度が有意差を示さない薬学的等価物または薬学的代替物である場合、生物学的等価物とみなされる。これらの吸収の程度は等価であるが吸収速度は等価ではなく、吸収速度におけるこのような差が意図的で、かつ標識に反映されており、例えば長期使用に及ぼす有効な身体薬剤濃度の達成に必須ではなく、試験した特定の薬剤製品にとって医学的に有意ではないとみなされるため、生物学的に等価とみなされ得る場合、いくつかの抗原結合タンパク質は、等価物または薬学的選択肢とみなされるであろう。
【0137】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、これらの安全性、純度、または有効性において臨床的に有意性のある差がない場合、生物学的に等価である。
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、免疫原性の臨床的に有意な変化または有効性の減退を含む有害作用のリスクの期待される上昇なしで参照生成物と生物学的生成物との間での切り替えなしで持続される療法と比較して、患者が1回以上切り替えられることができる場合、生物学的に等価である。
【0138】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、これらが両方とも、条件または使用条件についての共通の機序または作用機序によって、このような機序が既知である程度まで作用する場合、生物学的に等価である。
【0139】
生物学的等価性は、インビボおよびインビトロの方法によって実証され得る。生物学的等価性測定は、例えば、(a)抗原結合タンパク質またはその代謝産物の濃度が血液、血漿、血清、または他の生物学的流体中で時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳動物におけるインビボ試験、(b)ヒトインビボ生物学的利用能データと相関しており、かつそれらを合理的に予測しているインビトロ試験、(c)抗原結合タンパク質(またはその標的)の適切な急性薬理学的効果が時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳動物におけるインビボ試験、および(d)抗原結合タンパク質の安全性、有効性、または生物学的利用能もしくは生物学的等価性を確立する、十分に管理された臨床試験を含む。
【0140】
本明細書に記載される例示的な多重特異性抗原結合分子の生物学的に等価なバリアントは、例えば、残基もしくは配列の様々な置換を行うこと、または生物学的活性に必要とされない末端もしくは内部の残基もしくは配列を欠失することによって構築され得る。例えば、生物学的活性にとって必須ではないシステイン残基は、再生の際の不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために、欠失または他のアミノ酸で置換することができる。他の文脈において、生物学的に等価な抗原結合タンパク質は、分子のグリコシル化特性を修飾するアミノ酸変化、例えば、グリコシル化を排除または除去する変異を含む、本明細書に記載される例示的な多重特異性抗原結合分子のバリアントを含み得る。
【0141】
種の選択性および種の交差反応性
本発明の特定の実施形態によると、ヒトT細胞抗原(例えば、CD3)に結合するが、他の種由来の同じ抗原に結合しない抗原結合分子が提供される。ヒト標的抗原(例えば、腫瘍抗原)に結合するが、他の種からの同じ標的抗原に結合しない抗原結合分子も提供される。本発明はまた、ヒト抗原および1つ以上の非ヒト種からの対応する抗原に結合する抗原結合分子を含む。
【0142】
本発明の特定の例示的な実施形態によると、ヒトCD3および/またはヒト腫瘍抗原に結合し、場合によっては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、もしくはチンパンジーCD3および/または腫瘍抗原のうちの1つ以上に結合してもよく、または結合しなくてもよい抗原結合分子が提供される。例えば、本発明の特定の例示的な実施形態では、ヒトCD3およびカニクイザルCD3に結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒト腫瘍抗原に特異的に結合する第2の抗原結合ドメインと、を含む、多重特異性抗原結合分子が提供される。
【0143】
免疫複合体
本発明は、細胞毒素、化学療法薬、免疫抑制剤、または放射性同位元素などの治療部分(「免疫結合体」)に複合体化された抗原結合分子を包含する。細胞毒性薬剤には、細胞に有害な任意の薬剤が含まれる。免疫複合体を形成するために好適な細胞毒性薬剤および化学療法剤の例は、当該技術分野で知られている(例えば、WO05/103081を参照)。
【0144】
治療製剤および投与
本発明は、本発明の多重特異性抗原結合分子を含む薬学的組成物を提供する。本発明の薬学的組成物は、好適な担体、賦形剤、および改善された移動、送達、耐性などを提供する他の薬剤とともに製剤化される。多くの適切な製剤は、薬剤師全員に既知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PAにおいて認めることができる。これらの製剤には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、ベシクル(LIPOFECTIN(商標)、Life Technologies、Carlsbad、CAなど)を含む脂質(カチオン性またはアニオン性)、DNA複合体、無水吸収ペースト、水中油エマルションおよび油中水エマルション、エマルションカーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカーボワックスを含む半固体混合物が含まれる。Powell et al.”Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0145】
患者に投与される抗原結合分子の用量は、患者の年齢および大きさ、標的疾患、病態、投与経路などに応じて変動し得る。好ましい用量は、典型的には体重または体表面積に従って計算される。本発明の多重特異性抗原結合分子が成人患者において治療目的に使用される場合、本発明の多重特異性抗原結合分子を通常約0.01~約20mg/kg体重、より好ましくは約0.02~約7、約0.03~約5、または約0.05~約3mg/kg体重の単回用量で静脈内投与することが有利であり得る。病態の重症度に応じて、治療の頻度および期間を調整することができる。多重特異性抗原結合分子を投与するための有効投与量およびスケジュールは、経験的に決定され得、例えば、患者の経過を定期的な評価によってモニターし、それに応じて用量を調整することができる。さらに、投与量の種間スケーリングは、当該技術分野において周知の方法を使用して実施することができる(例えば、Mordenti et al.,1991,Pharmaceut.Res.8:1351)。
【0146】
様々な送達系は既知であり、本発明の薬学的組成物を投与するために使用することができ、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルにおける封入、変異ウイルスを発現することのできる組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスである(例えば、Wu et al.,1987,J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照されたい)。導入方法には、皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路および経口経路が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、例えば、注入もしくはボーラス注射による、上皮または粘膜皮膚の内層(lining)(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜など)を介した吸収による任意の好都合な経路によって投与することができ、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与することができる。投与は全身または局所であり得る。
【0147】
本発明の薬学的組成物は、標準的な針および注射器を用いて皮下にまたは静脈内に送達することができる。加えて、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスは、本発明の薬学的組成物を送達する際の適用を容易にする。このようなペン型送達デバイスは、再利用可能または使い捨て可能であり得る。再利用可能なペン型送達デバイスは、概して、薬学的組成物を含む交換可能なカートリッジを利用する。一度、カートリッジ内の薬学的組成物がすべて投与され、カートリッジが空になると、この空のカートリッジは容易に廃棄することができ、薬学的組成物を含む新しいカートリッジと容易に交換することができる。次に、ペン型送達デバイスは再利用することができる。使い捨てのペン型送達デバイスにおいて、交換可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスは、このデバイス内の貯蔵器の中に保持された薬学的組成物が事前に充填されている。貯蔵器から薬学的組成物が空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0148】
数多くの再利用可能なペンおよび自動注射送達デバイスは、本発明の薬学的組成物の皮下送達における用途を有する。例としては、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.,Woodstock,UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems,Bergdorf,Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.,Indianapolis,IN)、NOVOPEN(商標)I,IIおよびIII(Novo Nordisk,Copenhagen,Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk,Copenhagen,Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、およびOPTICLIK(商標)(sanofi-aventis,Frankfurt,Germany)が挙げられるが、これらに限定されず、ほんの数種類しか挙げていない。本発明の薬学的組成物の皮下送達での用途を有する使い捨てペン型送達デバイスの例としては、SOLOSTAR(商標)ペン(Sanofi-Aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)自動注射器(Amgen,Thousand Oaks,CA)、PENLET(商標)(Haselmeier,Stuttgart,Germany)、EPIPEN(Dey,L.P.)およびHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs,Abbott Park IL)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0149】
ある特定の状況において、薬学的組成物は、徐放系で送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用することができる(Langer,上記、Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),1974,CRC Pres.,Boca Raton,Floridaを参照されたい。さらに別の実施形態では、徐放系を組成物の標的の近傍に配置することができ、それによって全身用量のほんの一部のみが必要となる(例えば、Goodson,1984,Medical Applications of Controlled Release,上記,vol.2,pp.115-138を参照されたい)。他の徐放系は、Langer,1990,Science249:1527-1533による総説で考察されている。
【0150】
注射可能な調製物には、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、および筋肉内注射、点滴注入などのための剤形が含まれてもよい。これらの注射可能な調製物は、公に知られている方法によって調製され得る。例えば、注射可能な調製物は、例えば、注射に従来使用される滅菌水性媒体または油性媒体中に上記に記載される抗原結合分子またはその塩を溶解、懸濁、または乳化させることによって調製され得る。注射用水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコース含有等張液、および他の補助剤などがあり、これらは、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適切な可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。油性媒体として、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが使用され、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。このように調製された注射は、好ましくは適切なアンプルに充填される。
【0151】
有益なことに、上記に記載される経口または非経口での使用のための薬学的組成物は、有効成分の用量に適合するために好適な単位用量の投薬形態へと調製される。そのような単位用量の剤形には、例えば、錠剤、ピル、カプセル、注射(アンプル)、坐剤などが含まれる。前述の含有される抗原結合分子の量は、概して、単位用量の剤形当たり約5~約500mgであり、特に注射の形態では、前述の抗原結合分子は、約5~約100mg、他の剤形については約10~約250mgで含有されることが好ましい。
【0152】
抗原結合分子の治療的使用
本発明は、T細胞抗原(例えば、CD3)および標的抗原(例えば、腫瘍関連抗原)に特異的に結合する多重特異性抗原結合分子を含む治療組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法を含む。治療組成物は、本明細書に開示される多重特異性抗原結合分子のいずれかと、薬学的に許容される担体または希釈剤と、を含むことができる。本明細書で使用される場合、「それを必要とする対象」という表現は、がんの1つ以上の症状または徴候を示すヒトまたは非ヒト動物、あるいはそうでなければ標的抗原活性の阻害もしくは低減または標的抗原陽性細胞(例えば、腫瘍細胞)の枯渇から利益を得るものを意味する。
【0153】
本発明の多重特異性抗原結合分子(およびそれを含む治療組成物)は、とりわけ、免疫応答の刺激、活性化、および/または標的化が有益である任意の疾患または障害を治療するために有用である。特に、本発明の多重特異性抗原結合分子は、標的抗原発現もしくは活性または標的抗原陽性細胞の増殖に関連するか、またはそれによって媒介される任意の疾患または障害の治療、予防、および/または改善に使用され得る。本発明の治療方法が達成される作用機序は、T細胞の存在下で標的抗原を発現する細胞の殺滅を含む。
【0154】
本発明の多重特異性抗原結合分子は、例えば、がんを含む標的抗原発現に関連する疾患または障害を治療するために使用され得る。腫瘍スキャニングなどのような、当該技術分野において既知の分析/診断方法は、患者が標的抗原について陽性である腫瘍細胞を保有するかを確かめるために使用され得る。場合によっては、がんは、固形腫瘍、頸部がん、頭頸部扁平上皮がん、黒色腫、前立腺がん、急性骨髄性白血病、膵臓がん、結腸がん、急性リンパ球性白血病、非ホジキンリンパ腫、胃がん、移植後リンパ増殖性障害、卵巣がん、肺がん、扁平上皮がん、非小細胞肺がん、食道がん、膀胱がん、鼻咽頭がん、子宮がん、肝臓がん、精巣がん、または乳がんから選択される。
【0155】
本発明はまた、対象における残存がんを治療するための方法も含む。本明細書で使用される場合、「残存がん」という用語は、抗がん療法による治療後の対象における1つ以上のがん性細胞の存在または持続を意味する。
【0156】
特定の態様によると、本発明は、対象が標的抗原陽性がんを有すると決定された後、本明細書の他所に記載の多重特異性抗原結合分子のうちの1つ以上を対象に投与することを含む、標的抗原発現に関連する疾患または障害(例えば、がん)を治療するための方法を提供する。例えば、本発明は、対象が他の免疫療法または化学療法を受けてから1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、または4週間、2カ月、4カ月、6カ月、8カ月、1年以上後に、多重特異性抗原結合分子を患者に投与することを含む、がんを治療するための方法を含む。
【0157】
併用療法および製剤
本発明は、本明細書に記載の例示的な多重特異性抗原結合分子のいずれかを含む薬学的組成物を1つ以上の追加の治療剤と組み合わせて投与することを含む方法を提供する。本発明の抗原結合分子と組み合わされ得るか、または組み合わされて投与され得る例示的な追加の治療剤は、例えば、抗腫瘍剤(例えば、化学療法剤)を含む。特定の実施形態では、第2の治療剤は、モノクローナル抗体、抗体薬物複合体、抗腫瘍剤に複合体化した二重特異性抗体、チェックポイント阻害剤、またはそれらの組み合わせであり得る。本発明の抗原結合分子と組み合わされて有益に投与され得る他の薬剤には、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18などのサイトカイン、またはそれらのそれぞれの受容体に結合する小分子サイトカイン阻害剤および抗体を含む、サイトカイン阻害剤が含まれる。本発明の薬学的組成物(例えば、本明細書に開示される多重特異性抗原結合分子を含む薬学的組成物)はまた、細胞表面上の異なる抗原と相互作用し得るモノクローナル抗体、腫瘍細胞表面上の抗原に結合する一方のアームおよびT細胞上の抗原に結合する他方のアームを有する二重特異性抗体、抗体薬物複合体、抗腫瘍剤に複合体化した二重特異性抗体、チェックポイント阻害剤、例えば、PD-1もしくはCTLA-4を標的とするもの、またはそれらの組み合わせから選択される1つ以上の治療組み合わせを含む治療レジメンの一部として投与され得る。特定の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、ペンブロリズマブ(Keytruda)、ニボルマブ(Opdivo)、またはセミプリマブ(REGN2810)などのPD-1阻害剤から選択され得る。特定の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、アテゾリズマブ(Tecentriq)、アベルマブ(Bavencio)、またはデュルバルマブ(Imfinzi)などのPD-L1阻害剤から選択され得る。特定の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ(Yervoy)などのCTLA-4阻害剤から選択され得る。本発明の抗体と併用して使用することができる他の組み合わせは、上に記載されている。
【0158】
本発明はまた、本明細書に記載の抗原結合分子のいずれか、およびVEGF、Ang2、DLL4、EGFR、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EGFRvIII、cMet、IGF1R、IL-10、B-raf、PDGFR-α、PDGFR-β、FOLH1(PSMA)、PRLR、STEAP1、STEAP2、TMPRSS2、MSLN、CA9、ウロプラキンのうちの1つ以上の阻害剤、または前述のサイトカインのいずれかを含む治療組み合わせを含み、阻害剤は、アプタマー、アンチセンス分子、リボザイム、siRNA、ペプチボディ、ナノボディ、抗体、二重特異性抗体、または抗体フラグメント(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、scFv、dAbフラグメント、またはダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、および最小認識ユニットなどの他の操作された分子)である。本発明の抗原結合分子は、抗ウイルス薬、抗生物質、鎮痛薬、コルチコステロイドおよび/またはNSAIDと組み合わせて投与および/または同時処方することもできる。本発明の抗原結合分子はまた、放射線治療および/または従来の化学療法も含む治療レジメンの一部として投与してもよい。
【0159】
追加の治療活性成分は、本発明の抗原結合分子の投与の直前、同時に、または直後に投与してもよい。(本開示の目的のために、このような投与レジメンは、追加の治療活性成分と「組み合わせて」抗原結合分子を投与することとみなされる。
【0160】
本発明には、本発明の抗原結合分子が、本明細書の他所に記載の追加の治療活性成分の1つ以上と同時処方された薬学的組成物が含まれる。
投与レジメン
本発明の特定の実施形態によれば、多重特異性抗原結合分子の複数回用量は、既定される時間経過にわたって対象に投与され得る。本発明のこの態様による方法は、本発明の抗原結合分子の複数回用量を対象へ連続的に投与することを含む。本明細書で使用される場合、「連続的に投与すること」は、抗原結合分子の各用量が、異なる時点、例えば、所定の間隔(例えば、数時間、数日間、数週間または数か月間)によって分けられた異なる日に対象へ投与されることを意味する。本発明には、抗原結合分子の単回の初回用量と、それに続く抗原結合分子の1回以上の二次用量、次いで任意に抗原結合分子の1回以上の三次用量を患者へ連続的に投与することを含む方法が含まれる。
【0161】
「一次用量」、「二次用量」、および「三次用量」という用語は、本発明の抗原結合分子の投与の時系列を指す。したがって、「一次用量」とは、治療レジメンの開始時に投与される用量(「ベースライン用量」とも呼ばれる)であり、「二次用量」とは、一次用量後に投与される用量であり、「三次用量」とは、二次用量後に投与される用量である。一次用量、二次用量、および三次用量はすべて、同じ量の抗原結合分子を含有し得るが、概して、投与頻度に関して互いに異なり得る。しかしながら、特定の実施形態では、一次用量、二次用量、および/または三次用量に含有される抗原結合分子の量は、治療経過の間、互いに異なる(例えば、適宜上下に調整される)。特定の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、または5回)の用量が治療レジメンの開始時において「負荷用量(loading dose)」として投与され、続いてより低い頻度に基づいて投与される後続用量(例えば、「維持用量」)が投与される。
【0162】
本発明のある例示的な実施形態では、各二次用量および/または三次用量は、直前の用量の1~26(例えば、1、1と1/2、2、2と1/2、3、3と1/2、4、4と1/2、5、5と1/2、6、6と1/2、7、7と1/2、8、8と1/2、9、9と1/2、10、10と1/2、11、11と1/2、12、12と1/2、13、13と1/2、14、14と1/2、15、15と1/2、16、16と1/2、17、17と1/2、18、18と1/2、19、19と1/2、20、20と1/2、21、21と1/2、22、22と1/2、23、23と1/2、24、24と1/2、25、25と1/2、26、26と1/2、またはそれ以上)週間後に投与される。「直前の用量」という句は、本明細書で使用される場合、一連の複数回投与において、抗原結合分子の用量を意味し、これは、介入用量のない直後の用量の投与の前に患者へ投与される。
【0163】
本発明のこの態様による方法は、抗原結合分子の二次および/または三次用量の任意の回数を患者へ投与することを含んでよい。例えば、特定の実施形態では、単回の二次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回またはそれ以上)の二次用量が患者に投与される。同様に、特定の実施形態では、単回の三次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回またはそれ以上)の三次用量が患者に投与される。
【0164】
複数回の二次用量を伴う実施形態では、各二次用量は、他の二次用量と同じ頻度で投与され得る。例えば、各二次用量は、直前の用量の1~2週間後に患者に投与されてもよい。同様に、複数の三次用量を伴う実施形態では、各三次用量は、他の三次用量と同じ頻度で投与されてもよい。例えば、各三次用量は、直前の用量の2~4週間後に患者に投与されてもよい。あるいは、二次用量および/または三次用量が患者へ投与される頻度は、治療レジメンの経過にわたって変動し得る。投与頻度はまた、臨床検査後の個々の患者の必要性に応じて、医師によって治療経過の間に調整され得る。
【実施例】
【0165】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物をどのように作製および使用するかに関する完全な開示および説明を当業者に提供するために提示されており、本発明者らが本発明とみなすことの範囲を限定することを企図するものではない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力はしてきたが、いくつかの実験上の誤差および偏差が考慮されるべきである。別段示されない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧またはそれに近い圧力である。
【0166】
フローサイトメトリーによって結合するための方法:以下の例では、以下のフローサイトメトリー方法を使用して、様々な分子についての結合を決定した。フローサイトメトリー分析を利用して、MAGEA4×CD3多重特異性分子のRAJI/HLA-A2/B2M/MAGEA4(ペプチドa)、A375/hHLA-A2/B2M/MAGEA4(ペプチドb)、RAJI/HLA-A2/B2M/NY-ESO-1、およびJURKAT細胞への結合を測定し、続いてAPC標識抗ヒトIgG抗体で検出した。簡潔には、1×105細胞/ウェルを、MAGEA4×CD3多重特異性分子の段階希釈液またはアイソタイプ対照(ヒトMAGEA4またはCD3との交差反応性なしにヒト抗原に結合するヒトIgG4ステルス抗体)と4℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を1%濾過FBSを含有する冷PBSで2回洗浄し、PE結合抗ヒト2次抗体を細胞に添加して、さらに30分間インキュベートした。抗体なしまたは二次抗体のみを含有するウェルを対照として使用した。インキュベーション後、細胞を洗浄し、1%濾過FBSを含有する200μLの冷PBSに再懸濁し、BD FACS Canto IIでフローサイトメトリーによって分析した。
【0167】
細胞毒性アッセイのための方法:以下の例では、以下の細胞毒性アッセイを使用して様々な分子の細胞毒性を決定した。単剤としての、またはEGFR×CD28二重特異性抗体および/もしくはPD-1抗体と組み合わされたMAGEA4×CD3の存在下でのMAGEA4+細胞の殺滅をモニターするために、A375細胞、ScaBER細胞、NCI-H1755転移性(肝臓由来)細胞、およびNCI-H1755細胞を、1uMの蛍光追跡色素Violet Cell Trackerで標識した。標識後、細胞を37℃で一晩播種した。別に、ヒトPBMCを1×106細胞/mLで補充RPMI培地に播種し、付着マクロファージ、樹状細胞、およびいくつかの単球を枯渇させることによってリンパ球を濃縮するために37℃で一晩インキュベートした。翌日、標的細胞を、付着細胞枯渇ナイーブPBMC(エフェクター/標的細胞10:1比)、MAGEA4×CD3多重特異性分子の段階希釈液、ならびに固定濃度のEGFR×CD28および/または抗PD1抗体と37℃で96時間共インキュベートした。トリプシン-EDTA解離バッファーを使用して細胞を細胞培養プレートから取り出し、FACS BD LSRFortessa-X20でFACSによって分析した。FACS分析のために、細胞をdead/live Near IR Reactive(Invitrogen)色素で染色した。FACS分析の直前に、5E05計数ビーズを各ウェルに加えた。各試料について1E05ビーズを収集した。殺滅の特異性を評価するために、細胞を生きたバイオレット標識集団にゲートした。生きた集団のパーセントを記録し、生存率の計算に使用した。
【0168】
実施例1:T細胞活性化は標的細胞の存在に依存している
T細胞活性化を、
図1A、1B、および1Cに示される分子フォーマットの各々について評価した。T細胞の活性化およびPD-1マーカーの上方調節を、CD2、CD4、CD8、CD25、およびPD-1に対して直接複合体化した抗体と細胞をインキュベートし、全T細胞(CD2+)のうちの後期活性化(CD25+/CD8+)T細胞およびPD-1+/CD4+T細胞の割合を報告することによって評価した。
【0169】
図2に示されるように、本発明の例示的な多重特異性分子(
図1C構造)は、標的細胞の不在下でT細胞を活性化しなかった。「ゼロ」は、T細胞のみの対照を表す。
実施例2:従来のフォーマットと比較した多重特異性分子の細胞毒性
本発明の例示的な多重特異性分子(
図1C構造)の細胞毒性を上記で論じられるように測定し、同じ抗原結合ドメインを有する従来のフォーマットの分子(
図1Aおよび1B)の細胞毒性と比較した。この実施例で使用されるCD3結合ドメインは、ヒトCD3に対して中程度の結合親和性を有する。この実施例で使用される標的抗原結合ドメインは、MAGEA4(黒色腫関連抗原A4)ペプチドに結合する。「対照」は、他のフォーマットと比較するための最大の細胞毒性を提供するために、すべてのHLA分子の足場を標的とする陽性対照である。
【0170】
図3に示されるように、本発明の例示的な多重特異性分子(
図1C構造)は、従来の二重特異性フォーマットを有する分子(
図1A構造、および
図1B構造)よりも強力に標的細胞を殺滅した。
【0171】
実施例3:抗PD-1抗体、共刺激二重特異性抗体、または両方との組み合わせの従来のフォーマットと比較した多重特異性分子の細胞毒性
本発明の例示的な多重特異性分子(
図1C構造)の細胞毒性を、上記で論じられるように測定し、抗PD-1抗体、共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体、または両方の抗PD-1抗体および共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体と組み合わせて同じ抗原結合ドメインを有する従来のフォーマットの分子(
図1Aおよび1B)の細胞毒性と比較した。陽性対照、ならびにCD3および標的抗原結合ドメインは、実施例2において上記で論じられるとおりであった。
【0172】
図4A、4B、および4Cに示されるように、抗PD-1抗体、共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体、または両方の添加は、本発明の例示的な多重特異性分子(
図1C構造)の効力をさらに増強した。実線は、(
図3に示されるように)単剤の細胞毒性を表し、破線は、それぞれの組み合わせの細胞毒性を表す。
【0173】
細胞毒性に加えて、ヒトPBMCアッセイからのアッセイウェルの上清を、BDサイトメトリービーズアレイヒトキットを使用し、製造業者のプロトコルに従って、Th1/Th2サイトカイン放出について評価した。
図5に示されるように、本発明の例示的な多重特異性分子(
図1C構造)のより大きな細胞毒性は、従来の二重特異性抗体フォーマット(
図1A構造)と比較して、いかなるより大きなサイトカイン放出ももたらさなかった。
【0174】
この一連の実験は、(a)細胞毒性アッセイにおける最大濃度で、
図1Cの構造を有する分子は、同等レベルのサイトカイン放出を伴う
図1Aの構造を有する分子よりも大きな効力を示し、(b)
図1C(単剤)の構造を有する分子の細胞毒性のEC50は、
図1A(単剤)の構造を有する分子で観察されるものよりも低く、(c)細胞毒性アッセイにおける最大濃度で、
図1Aの構造を有する分子は、同等レベルのサイトカイン放出を伴う
図1Aの構造を有する分子(抗PD-1組み合わせ)よりも抗PD-1抗体との組み合わせでより大きな効力を示し、(d)抗PD-1抗体と組み合わされた
図1Cの構造を有する分子の細胞毒性のEC50は、
図1Aの構造を有する分子(抗PD-1組み合わせ)で観察されるものよりも低く、(e)細胞毒性アッセイにおける最大濃度で、
図1Aの構造を有する分子は、同等レベルのサイトカイン放出を伴う
図1Aの構造を有する分子(抗EGFR×CD28組み合わせ)よりも抗EGFR×CD28二重特異性抗体との組み合わせでより大きな効力を示し、(f)抗EGFR×CD28二重特異性抗体と組み合わされた
図1Cの構造を有する分子の細胞毒性のEC50は、
図1Aの構造を有する分子(抗EGFR×CD28組み合わせ)で観察されるものよりも低く、(g)細胞毒性アッセイにおける最大濃度で、
図1Aの構造を有する分子は、抗PD-1抗体および抗EGFR×CD28二重特異性抗体と組み合わされて、同等レベルのサイトカイン放出を伴う
図1Aの構造を有する分子(三重組み合わせ)よりも大きな効力を示し、(h)抗PD-1抗体および抗EGFR×CD28二重特異性抗体と組み合わされた
図1Cの構造を有する分子の細胞毒性のEC50は、
図1Aの構造を有する分子(三重組み合わせ)で観察されるものよりも低かったことを確認する。
【0175】
実施例4:多重特異性分子の効力は2つのエフェクター結合ドメインによって増強される
例示的な多重特異性分子(
図1C構造)の、MAGEA4ペプチドを過剰発現する標的細胞およびCD3+Jurkat細胞への結合を、上記で論じられるように測定した。これらの細胞への結合を、抗原結合ドメインのうちの1つ以上が不活性化された
図1C構造の修飾についても評価した。非活性ドメインは、図の凡例に「X」で示される。
【0176】
実施例6A~6Dに示されるように、結合データは、2つの抗原結合ドメイン(例えば、単一のFabおよび単一のscFv)の組み合わせが、単一のFabドメインを有する分子または単一のscFvドメインを有する分子よりも大きな親和性(低いEC50)で標的細胞に結合した。予想どおり、アイソタイプ対照分子は、結合を示さなかった。抗CD3結合ドメインの供給源に関係なく、結合パターンの区別が観察されなかった。
【0177】
結合に加えて、これらの分子の細胞毒性も、上記で論じられる方法を使用して決定された。
図7Aおよび7Bに示されるように、本発明の例示的な多重特異性分子(
図1C構造)は、最大の細胞毒性効力を示し、2つのT細胞抗原(CD3)結合ドメインを含むが、単一の標的抗原(MAGEA4)結合ドメイン(scFvまたはFab)のみを含む2つの修飾された分子が続いた。同様に、抗CD3結合ドメインの供給源に関係なく、同じ細胞毒性パターンが観察された。陰性対照(
図1Aフォーマット)は、無関係な標的抗原結合ドメインを含んだ。
【0178】
実施例5:C末端scFvドメインはC末端Fabドメインと比較して多重特異性分子の効力を増強する
例示的な多重特異性分子(
図1C構造)の、MAGEA4ペプチドを過剰発現する標的細胞およびCD3+Jurkat細胞への結合を、上記で論じられるように測定した。これらの細胞への結合を、C末端scFvドメインをFabドメインで置き換える
図1C構造の修飾(
図1E構造)、またはN末端Fabドメインが不活性化されたものについても評価した。非活性ドメインは、図の凡例に「X」で示される。
【0179】
実施例4で論じられる結合と同様に、
図8Aおよび8Bに示されるように、結合データは、2つの抗原結合ドメイン(例えば、単一のFabおよび単一のscFv、または2つのFab)の組み合わせが、単一のFabドメインを有する分子または単一のscFvドメインを有する分子よりも大きな親和性(低いEC50)で標的細胞に結合した。
図8Aおよび8Bの表に示されるように、
図1Cおよび
図1Eの構造を有する分子は、同等の結合滴定で結合する。
【0180】
結合に加えて、これらの分子の細胞毒性も、上記で論じられる方法を使用して決定された。
図9に示されるように、本発明の例示的な多重特異性分子(
図1C構造)は、最大の細胞毒性効力を示し、2つのscFvドメインの代わりにC末端Fabドメインを含む修飾分子が続いた。
【0181】
実施例6:T細胞抗原についての単鎖二価性は多鎖二価性と比較して多重特異性分子の効力を増強する
例示的な多重特異性分子(
図1C構造)の、MAGEA4ペプチドを過剰発現する標的細胞およびCD3+Jurkat細胞への結合を、上記で論じられるように測定した。これらの細胞への結合を、MAGEA4結合ドメインおよびCD3結合ドメインが交換されて、2セットの抗原結合ドメインが2つの別々のポリペプチド鎖上に位置する、
図1Dに示される構造を有する分子についても評価した。
【0182】
図10Aおよび10Bに示されるように、結合データは、2つの細胞型の各々への2つの分子構造の同様の結合を示した。
結合に加えて、これらの分子の細胞毒性も、上記で論じられる方法を使用して決定された。
図11Aおよび11Bに示されるように、本発明の例示的な多重特異性分子(
図1C構造)は、
図1Dの構造を有する分子と比較してより大きな細胞毒性効力を示し、単一のポリペプチド鎖上の2つのT細胞抗原結合ドメインの存在が増強した細胞毒性効力を提供することを確認した。
【0183】
実施例7:単独または抗PD-1抗体および共刺激二重特異性抗体との組み合わせの従来のフォーマットと比較した1つまたは2つの抗原を標的とする多重特異性分子の相対的細胞毒性
本発明の2つの例示的な多重特異性分子(
図1Cおよび1F構造)の細胞毒性を上記で論じられるように測定し、単独、または抗PD-1抗体および共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体との組み合わせの、従来のフォーマットの分子(
図1A)の細胞毒性と比較した。この実施例は、前の実施例で使用されたものよりも大きな特異性を有する陽性対照を使用して、
図1Cおよび1Fの構造を有する分子と、これらの分子の共刺激二重特異性抗体および抗PD-1抗体との組み合わせとの間のより大きな区別を示す。この実施例で使用されるCD3抗原結合ドメインは、ヒトCD3に対して強い結合親和性を有し、標的抗原結合ドメイン(MAGEA4a)は、上記の実施例2に論じられるとおりであった。陰性対照(
図1Aフォーマット)は、無関係な標的抗原結合ドメインを含んだ。
図1Fの構造を有する分子についてこの実施例で使用される第2の標的抗原結合ドメイン(MAGEA4b)は、第1の標的抗原結合ドメインによって結合されるエピトープとは完全に異なるMAGEA4のエピトープに結合する。
【0184】
図12Aおよび12Bに示されるように、腫瘍細胞上の2つの異なる低密度抗原を標的とする多重特異性分子は、単一の腫瘍抗原のみを標的とする多重特異性分子と比較して増加した効力を示し、両方の分子は、
図1Aの構造を有する従来のフォーマットの分子よりも大きな効力を示す。抗PD-1抗体および共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体の添加は、本発明の例示的な多重特異性分子(
図1Cおよび1F構造)の効力をさらに増強した。
【0185】
実施例8:多重特異性分子の相対的な細胞毒性はT細胞抗原結合ドメインの親和性と相関する
(
図13に示されるように)
図1Fの構造を有する例示的な多重特異性分子は、様々な親和性の抗CD3結合ドメインで調製した。以下のパラメータに従って5つの分子を調製した:
CD3アーム7195P(強)fabおよび7195P(強)scfvを有する分子A、
CD3アーム7221G(中)fabおよび7221G(中)scfvを有する分子B、
CD3アーム7221G20(弱)fabおよび7221G20(弱)scfvを有する分子C、
CD3アーム7221G20(弱)fabおよび7221G(中)scfvを有する分子D、ならびに
CD3アーム7221G(中)fabおよび7195P(強)scfvを有する分子E。
【0186】
これらの5つの分子からのT細胞への結合滴定の範囲は、フローサイトメトリーによって試験され、アイソタイプ対照と比較して
図13に示されるように、CD3結合ドメインの強度と相関する。
【0187】
2つの異なるMAGEA4+細胞株(A375およびScaBER)を標的とする細胞毒性アッセイでは、
図14A、14B、15A、および15Bに示されるように、エフェクターアーム(例えば、抗CD3結合ドメイン)の強度が、単剤として、またはEGFR×CD28二重特異性抗体および抗PD1抗体と組み合わされて、低下する場合、分子の効力が低下することが示された。分子の各々は、(非重複MAGEA4ペプチド1およびMAGEA4ペプチド2に対して)同じ標的抗原結合ドメインを含有した。
【0188】
実施例9:単独または抗PD-1抗体および共刺激二重特異性抗体との組み合わせの従来のフォーマットと比較した2つの抗原を標的とする多重特異性分子の相対的細胞毒性
本発明の3つの例示的な多重特異性分子(
図1Cおよび1F構造)の細胞毒性を上記で論じられるように測定し、単独、または抗PD-1抗体および共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体との組み合わせの、従来のフォーマットの分子(
図1A)の細胞毒性と比較した。この実施例は、CD3およびHLAを結合する
図1Aの構造を有する陽性対照を使用する。この実施例で使用されるCD3抗原結合ドメインは、ヒトCD3(7195Pに由来)に対して強い結合親和性を有し、標的抗原結合ドメインは、1つもしくは2つの非重複MAGEA4(黒色腫関連抗原A4)ペプチド(MAGEA4AaおよびMAGEA4b)に対し、またはNY-ESO-1(ニューヨーク食道扁平上皮がん1)のペプチドに対する。無関係な標的抗原結合ドメインを含む2つのアイソタイプ陰性対照(
図1Aフォーマットおよび
図1Cフォーマット)も含まれた。
【0189】
図16A、16B、および16Cに示されるように、分子は、予想どおり、フローサイトメトリーによってNY-ESO-1、MAGEA4a、またはMAGEA4b発現細胞に結合した。
【0190】
図17Aおよび17Bに示されるように、2つの異なる抗原(分子A)または単一抗原の2つの異なるエピトープ(分子B)を標的とする多重特異性分子は、両方の転移性非小細胞肺がん(NSCLC)細胞(
図17A)およびNSCLC(
図17B)の細胞毒性を強力に誘導し、2つの異なる抗原を標的とする多重特異性分子(分子A)は、同じ抗原の2つの異なるエピトープを標的とする多重特異性分子(分子B)と比較して増加した効力を示した。抗PD-1抗体および共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体の添加は、本発明の例示的な多重特異性分子(
図1F構造)の効力をさらに増強した。これらの分子のT細胞活性化の相対的誘導も評価され、
図17C(転移性NSCLC細胞)および17D(NSCLC細胞)に示される。
【0191】
1つまたは2つの抗原(異なるエピトープまたは異なる抗原)を標的とし、
図1Cおよび1Fの構造を有する多重特異性分子の相対的な細胞毒性活性および効力を、単独、または抗PD-1抗体および共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体との組み合わせの、従来のフォーマットの分子(
図1A)の細胞毒性と比較した。陽性対照およびアイソタイプ対照は、この実施例において上記で論じられるとおりであった。
図18Aおよび18Bに示されるように、多重特異性分子は、従来のフォーマットの分子よりも強力であり、2つの異なるエピトープ(
図18A)または2つの異なる抗原(
図18B)を標的とする多重特異性分子は、両方の標的抗原結合ドメインで同じ抗原を標的とする多重特異性分子よりも強力であった。これらの分子のT細胞活性化の相対的な誘導を
図18C、18D、18E、および18Fに示す。
【0192】
実施例10:同じ抗原を標的とする従来のフォーマットの分子の組み合わせと比較した、2つの抗原を標的とする多重特異性分子の相対的細胞毒性
2つの異なる抗原を標的とする本発明の例示的な多重特異性分子(
図1F構造)の細胞毒性を上記で論じられるように測定し、単独、または抗PD-1抗体および共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体との組み合わせの、同じ2つの抗原を標的とする従来のフォーマットの分子(
図1A構造)の組み合わせの細胞毒性と比較した。
【0193】
細胞毒性アッセイは、MAGEA4発現SCaBER細胞(膀胱)を標的とし、MAGEA4aおよびMAGEA4b(MAGEA4の非重複ペプチド)の両方を標的とする多重特異性分子が、
図19Aに示されるように、同じ2つのMAGEA4ペプチドを標的とする従来のフォーマットの二重特異性抗体の組み合わせよりも強力であることを示した。抗PD-1抗体および共刺激二重特異性EGFR×CD28抗体の添加は、本発明の例示的な多重特異性分子の効力をさらに増強した(
図1F構造)。これらの同じ分子によるT細胞活性化の相対的な誘導を
図19Bに示す。
【0194】
本発明は、本明細書に記載される具体的な実施形態によって範囲が限定されるべきではない。実際、本明細書に記載されるものに加えて本発明の様々な変更が前述の記載から当業者には明らかとなるであろう。そのような変更は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【配列表】