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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】徐放性基剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20250206BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 9/22 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 9/52 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K47/38
A61K9/22
A61K9/52
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022514395
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012433
(87)【国際公開番号】W WO2021205887
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2020071297
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594146788
【氏名又は名称】日本酢ビ・ポバール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100188499
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100127568
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 善典
(74)【代理人】
【識別番号】100171402
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 ▲茂▼
(74)【代理人】
【識別番号】100213779
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 有佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】川田 章太郎
(72)【発明者】
【氏名】河西 将利
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-015459(JP,A)
【文献】特開2015-229659(JP,A)
【文献】特表2017-521471(JP,A)
【文献】特開2012-211340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系重合体及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを組み合わせた徐放性基剤であり、ポリビニルアルコール系重合体:低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの質量比が30:70~90:10である徐放性基剤(ただし、徐放性基剤が、イブプロフェン2480g、クロスカルメロースナトリウム161.2g、軽質無水ケイ酸446.8g、結晶セルロース1169.1g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース139.9g、アリルイソプロピルアセチル尿素1500g及び無水カフェイン2000gを含む製剤を構成する場合を除く)。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系重合体及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含み、ポリビニルアルコール系重合体:低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの質量比が30:70~90:10である固形製剤(ただし、固形製剤が、イブプロフェン2480g、クロスカルメロースナトリウム161.2g、軽質無水ケイ酸446.8g、結晶セルロース1169.1g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース139.9g、アリルイソプロピルアセチル尿素1500g及び無水カフェイン2000gを含む場合を除く)。
【請求項3】
徐放性基剤の対象物が、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素、及び無水カフェインのいずれも含有しない、請求項1記載の剤。
【請求項4】
イブプロフェンと、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェインよりなる群から選ばれる一種とを含有する固形製剤でない、請求項2記載の製剤。
【請求項5】
徐放性製剤である請求項2又は4記載の製剤。
【請求項6】
経口剤である請求項2及び4~5のいずれか記載の製剤。
【請求項7】
製剤の対象物が薬物を含む請求項2及び4~6のいずれか記載の製剤。
【請求項8】
ポリビニルアルコール系重合体が、JIS K6726に従って測定した4質量%水溶液粘度が15.0mPa・s以上を満たす請求項1、3に記載の基剤又は請求項2、4~7記載の製剤。
【請求項9】
ポリビニルアルコール系重合体の平均けん化度が65.0~90.0モル%である請求項1、3、8に記載の基剤又は請求項2、4~8記載の製剤。
【請求項10】
ポリビニルアルコール系重合体の平均重合度が1000以上である請求項1、3、8~9に記載の基剤又は請求項2、4~9記載の製剤。
【請求項11】
ポリビニルアルコール系重合体が、ビニルエステル系重合体のケン化物であって、ビニルエステル系モノマーと共重合可能な単量体由来の単位を有しない、請求項1、3、8~10に記載の基剤又は請求項2、4~10に記載の製剤。
【請求項12】
ポリビニルアルコール系重合体:低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの質量比が、40:60~80:20である請求項1、3、8~11に記載の基剤又は請求項2、4~11記載の製剤。
【請求項13】
ポリビニルアルコール系重合体の平均重合度が1000以上であり、ポリビニルアルコール系重合体:低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの質量比が40:60~80:20である請求項1、3、8~12に記載の基剤又は請求項2、4~12記載の製剤。
【請求項14】
請求項1、3及び8~13のいずれか記載の剤、及び徐放性基剤の対象物を含む混合物を直接圧縮する工程を含む、固形製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放性基剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
徐放性製剤は、投与後に長時間にわたり薬物が少しずつ体内で放出される製剤であり、速放性製剤に比べて投与回数を減らすことができるという特徴を有している。これにより患者の負担軽減およびコンプライアンスの向上が期待できるため、国内外で広く用いられている。
【0003】
徐放性製剤に用いられる基剤としては、様々なポリマーが用いられており、ポリビニルアルコール(以下、PVAとも略記する)が使用された例もある。
【0004】
例えば、特許文献1及び2には、PVAやPVA誘導体と微結晶セルロース(以下、MCCとも略記する)の混合物を直接圧縮することで優れた成形性と徐放性を示す製剤が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6629835号公報
【文献】特開2013-241341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規な徐放性基剤を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、新規な製剤を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、新規な製剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
特許文献1及び2に記載の製剤は、成形性や徐放性が向上しているとはいえ、その効果は十分ではない場合があった。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、PVAと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを組み合わせることにより、徐放性製剤の基剤として機能できること等を見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、次の発明などに関する。
[1]
ポリビニルアルコール系重合体及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを組み合わせた徐放性基剤。
[2]
ポリビニルアルコール系重合体及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む固形製剤。
[3]
徐放性製剤である[2]記載の製剤。
[4]
経口剤である[2]又は[3]記載の製剤。
[5]
製剤の対象物が薬物を含む[2]~[4]のいずれか記載の製剤。
[6]
ポリビニルアルコール系重合体が、JIS K6726に従って測定した4質量%水溶液粘度が15.0mPa・s以上を満たす[1]~[5]のいずれか記載の剤又は製剤。
[7]
ポリビニルアルコール系重合体の平均けん化度が65.0~90.0モル%である[1]~[6]のいずれか記載の剤又は製剤。
[8]
ポリビニルアルコール系重合体の平均重合度が1000以上である[1]~[7]のいずれか記載の剤又は製剤。
[9]
ポリビニルアルコール系重合体:低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの質量比が、40:60~80:20である[1]~[8]のいずれか記載の剤又は製剤。
[10]
ポリビニルアルコール系重合体の平均重合度が1000以上であり、ポリビニルアルコール系重合体:低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの質量比が40:60~80:20である[1]~[9]のいずれか記載の剤又は製剤。
[11]
[1]及び[6]~[10]のいずれか記載の剤及び製剤の対象物を含む混合物を直接圧縮する工程を含む、固形製剤の製造方法。
[12]
ポリビニルアルコール系重合体及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせの、徐放性基剤としての使用。
[13]
ポリビニルアルコール系重合体及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせを用いた、固形製剤の徐放性向上方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様では、新規な徐放性基剤を提供できる。
【0013】
本発明の一態様では、固形製剤を得るのに有用な徐放性基剤を提供しうる。例えば、本発明の徐放性基剤を含む混合物を打錠することで、効率良く、硬度や徐放性の点で有利な固形製剤(錠剤)を提供しうる。
【0014】
本発明の一態様の剤によれば、硬度が高い固形製剤を提供しうる。このような製剤は、成形後に砕けにくいため、成形性に優れる。
【0015】
本発明の一態様では、新規な製剤(特に、固形製剤)を提供しうる。
【0016】
本発明の一態様では、新規な製剤の製造方法を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1~8の溶出率の経時変化を表すグラフである。
図2】参考例1~2の溶出率の経時変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[徐放性基剤]
本発明の徐放性基剤は、ポリビニルアルコール系重合体及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを組み合わせている。
本発明の徐放性基剤は、これら両成分が組み合わせられていればよく、単一の基剤中に両成分を含有していてもよいし、複数基剤の組み合わせ全体として両成分を含有するように組み合わせてなる基剤であってもよい。換言すれば、複数基剤を組み合わせてなる系は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと組み合わせるための、ポリビニルアルコール系重合体を含む徐放性基剤であってもよい。
【0019】
(ポリビニルアルコール系重合体)
ポリビニルアルコール系重合体(PVA系重合体、PVAなどということがある)は、通常、ビニルエステル系重合体(少なくともビニルエステルを重合成分とする重合体)のけん化物であってもよい。
【0020】
PVA系重合体の平均けん化度は、製剤における低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの崩壊性の発現を抑制しやすくなるためか、製剤が徐放性効果をより発揮しやすい等の観点から、例えば、90.0モル%以下(例えば、89.5モル%以下)、好ましくは89.0モル%以下(例えば、88.5モル%以下、88.0モル%以下)等であってもよい。
また、PVA系重合体の平均けん化度の下限値は、例えば、60.0モル%以上(例えば、62.0モル%以上)、好ましくは65.0モル%以上(例えば、68.0モル%以上、70.0モル%以上、75.0モル%以上、80.0モル%以上)等であってもよい。
【0021】
なお、PVA系重合体の平均けん化度は、これらの上限値と下限値とを適宜組み合わせて適当な範囲(例えば、60.0モル%以上90.0モル%以下等)を設定してもよく(他も同じ)、上記上限値と下限値の全ての組み合わせが含まれる。
【0022】
なお、PVA系重合体の平均けん化度は、特に限定されないが、例えば、JIS K6726のけん化度測定方法などによって、測定してもよい。
【0023】
PVA系重合体の平均重合度は、製剤における低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの崩壊性の発現を抑制しやすくなるためか、製剤が徐放性効果をより発揮しやすい等の観点から、例えば、800以上(例えば、900以上、1000以上、1100以上、1200以上、1300以上、1400以上)、好ましくは1500以上(例えば、1600以上)、より好ましくは2000以上(例えば、2100以上、2400以上)等であってもよい。
また、PVA系重合体の平均重合度の上限値は、例えば、5000以下(例えば、4900以下)、好ましくは4500以下(例えば、4400以下)、より好ましくは3500以下(例えば、3400以下)等であってもよい。
【0024】
なお、PVA系重合体の平均重合度は、これらの上限値と下限値とを適宜組み合わせて適当な範囲(例えば、1500以上3500以下等)を設定してもよく(他も同じ)、上記上限値と下限値の全ての組み合わせが含まれる。
【0025】
なお、PVA系重合体の平均重合度は、特に限定されないが、例えば、JIS K6726の平均重合度測定方法などによって、測定してもよい。
【0026】
PVA系重合体の4質量%水溶液粘度(JIS K6726に従って測定)は、製剤の徐放性等の観点から、例えば、6.0mPa・s以上(例えば、8.0mPa・s以上)、好ましくは10.0mPa・s以上(例えば、12.0mPa・s以上)、特に好ましくは15.0mPa・s以上(例えば、18.0mPa・s以上、20.0mPa・s以上)等であってもよい。
また、PVA系重合体の4質量%水溶液粘度(JIS K6726に従って測定)の上限値は、例えば、300mPa・s以下(例えば、280mPa・s以下)、好ましくは240mPa・s以下(例えば、220mPa・s以下)、より好ましくは100mPa・s以下(例えば、80mPa・s以下)等であってもよい。
【0027】
なお、PVA系重合体の4質量%水溶液粘度は、これらの上限値と下限値とを適宜組み合わせて適当な範囲(例えば、15mPa・s以上240mPa・s以下等)を設定してもよく(他も同じ)、上記上限値と下限値の全ての組み合わせが含まれる。
【0028】
PVA系重合体は、1種で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
PVA系重合体は、市販品を利用してよく、合成したものを使用してもよい。PVA系重合体の製造方法としては、ビニルエステル系モノマーを含む重合成分の重合体(ビニルエステル系重合体)をけん化する等の公知の方法が用いられる。
【0030】
ビニルエステル系モノマー(ビニルエステル系単量体)としては、特に限定されないが、例えば、脂肪酸ビニルエステル[例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル等のC1-20脂肪酸ビニルエステル(例えば、C1-16アルカン酸-ビニルエステル)等]、芳香族カルボン酸ビニルエステル[例えば、安息香酸ビニルなどのアレーンカルボン酸ビニル(例えば、C7-12アレーンカルボン酸-ビニルエステル)等]等が挙げられる。
【0031】
ビニルエステル系モノマーは、1種で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0032】
ビニルエステル系モノマーは、少なくとも脂肪酸ビニルエステル(例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のC1-10アルカン酸-ビニルエステルなど)を含んでいるのが好ましく、工業的観点等から、特に、酢酸ビニルを含んでいてもよい。
【0033】
ビニルエステル系重合体は、ビニルエステル単位を有していればよく、必要に応じて、他の単量体(ビニルエステル系モノマーと共重合可能な単量体)由来の単位を有していてもよい(他の単量体により変性されていてもよい)。
【0034】
他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、α-オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン等)、(メタ)アクリル酸エステル類[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル]、不飽和アミド類[例えば、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等]、不飽和酸類{例えば、不飽和酸[例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等]、不飽和酸エステル[(メタ)アクリル酸以外の不飽和酸エステル、例えば、アルキル(メチル、エチル、プロピルなど)エステル等]、不飽和酸無水物(無水マレイン酸等)、不飽和酸の塩[例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩等]等}、グリシジル基含有単量体[例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートなど]、スルホン酸基含有単量体(例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、その塩類等)、リン酸基含有単量体[例えば、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート等]、ビニルエーテル類(例えば、アルキルビニルエーテル類)、アリルアルコール等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0035】
他の単量体は、1種で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0036】
なお、重合成分が、他の単量体を含む場合、重合成分における他の単量体の割合は、例えば、50質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であってもよい。
【0037】
重合成分におけるビニルエステル系モノマーの割合は、例えば、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0038】
なお、PVA系重合体は、ビニルアルコール単位の一部が、アセタール化、エーテル化、アセトアセチル化、カチオン化などの反応によって、変性されたものであってもよい。
【0039】
重合成分(例えば、酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマーを含む重合成分)の重合方法としては、特に限定されず、例えば、従来公知の塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられるが、溶剤としてメタノールを用いた溶液重合が工業的に好ましい。該溶液重合には、過酸化物系、アゾ系等の公知の開始剤を用いることができ、重合成分とメタノールの配合比、重合収率を変えることにより、ビニルエステル系重合体の重合度を調整することができる。また、PVA系重合体を得るための原料として、市販のビニルエステル系重合体(ポリ酢酸ビニル樹脂など)を使用することもできる。
【0040】
ビニルエステル系重合体(例えば、ポリ酢酸ビニル)のけん化方法としては、従来から公知のアルカリ触媒又は酸触媒を用いたけん化方法を適用することができ、中でもビニルエステル系重合体(例えば、ポリ酢酸ビニル)のメタノール溶液又はビニルエステル系重合体(例えば、ポリ酢酸ビニル)のメタノール、水、酢酸メチル等の混合溶液に水酸化ナトリウム等のアルカリを加えて、撹拌して混合しながら、ビニルエステル系重合体(例えば、ポリ酢酸ビニル)のアシル基(例えば、アセチル基)を加アルコール分解する方法が、工業的に好ましい。
【0041】
その後、得られた塊状物、ゲル状物あるいは粒状物を粉砕し、必要に応じて添加したアルカリを中和した後、固形物と液分を分離し、固形物を乾燥することによりPVA系重合体を得ることができる。
【0042】
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、置換度(エーテル化度)が、例えば、0.05~1.0(例えば、0.07~0.8)、好ましくは0.1~0.6(例えば、0.15~0.5)程度であってよい。
なお、置換度は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースにおいて、グルコース単位あたりの置換された水酸基の平均数であってよい。
【0043】
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースにおいて、水酸基の置換基の含有量(質量%)は、例えば、ヒドロキシプロポキシ基含有量が5~16質量%であってよい。
【0044】
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、1種で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0045】
本発明の徐放性基剤において、ポリビニルアルコール系重合体と低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの配合割合は、製剤の徐放性や成形性等の観点から、ポリビニルアルコール系重合体:低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(質量比)が、例えば、30:70~90:10(例えば、33:67~87:13)、好ましくは35:65~85:15(例えば、40:60~80:20)、より好ましくは43:57~78:22(例えば、45:55~75:25)程度であってもよい。
【0046】
本発明の徐放性基剤の対象物としては、特に限定されないが、例えば、医薬品、医薬部外品、食品、農薬等であってもよい。また、対象物は、有効成分、栄養素(又は栄養成分)等であってもよく、薬物(原薬等)であってもよい。
対象物は、有機物、無機物のいずれであってもよく、これらの混合物や有機-無機ハイブリット物であってもよい。
【0047】
このような対象物のうち薬物ないし有効成分(又は、対象物中に含まれる薬物ないし有効成分)としては、特に限定されるものではない。かかる薬物としては、例えば、中枢神経系薬物、脳代謝改善剤、脳循環改善剤、抗てんかん剤、交感神経興奮剤、循環器系薬物、呼吸器系薬物、消化器系薬物、抗生物質、鎮咳・去たん剤、アレルギー用薬、抗ヒスタミン剤、歯科口腔用薬、強心剤、不整脈用剤、利尿薬、解熱鎮痛消炎剤、自律神経作用薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬、催眠鎮静薬、血管拡張薬、血圧降下剤、血管収縮薬、末梢血管拡張薬、血液凝固阻止剤、高脂血症用剤、利胆剤、抗マラリア剤、止潟剤、向精神剤、化学療法剤、糖尿病用剤、骨粗しょう症用剤、骨格筋弛緩薬、滋養強壮保健薬、鎮けい剤、抗リウマチ薬、ホルモン剤、アルカロイド系麻薬、サルファ剤、痛風治療薬、抗悪性腫瘍剤等が挙げられる。
【0048】
中枢神経系薬物としては、例えば、ジアゼパム、イデベノン、アスピリン、イブプロフェン、パラセタモール、ナプロキセン、ピロキシカム、インドメタシン、スリンダック、ロラゼパム、ニトラゼパム、フェニトイン、アセトアミノフェン、エテンザミド、ケトプロフェン、クロルジアゼポキシド、シチコリン等が挙げられる。
【0049】
脳代謝改善剤としては、例えば、塩酸メクロフェニキセート等が挙げられる。
脳循環改善剤としては、例えば、ビンポセチン等が挙げられる。
抗てんかん剤としては、例えば、フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム等が挙げられる。
交感神経興奮剤としては、例えば、塩酸イソプロテレノール等が挙げられる。
【0050】
循環器系薬物としては、例えば、モルシドミン、ビンポセチン、プロプラノロール、メチルドパ、ジピリダモール、フロセミド、トリアムテレン、ニフェジビン、アテノロール、スピロノラクトン、メトプロロール、ピンドロール、カプトプリル、硝酸イソソルビト、塩酸デラプリル、塩酸メクロフェノキサート、塩酸ジルチアゼム、塩酸エチレフリン、ジギトキシン、塩酸プロプラノロール、塩酸アルプレノロール等が挙げられる。
【0051】
呼吸器系薬物としては、例えば、鎮咳・去たん剤、呼吸促進剤、気管支拡張剤等が挙げられる。
鎮咳・去たん剤としては、例えば、塩酸ノスカピン、クエン酸カルベタペンタン、デキストロメトルファン、臭化水素酸デキストロメトルファン、クエン酸イソアミニル、リン酸ジメモルファン、塩酸クロペラスチン、臭化水素酸デキストロメルトファン、テオフィリン、グァヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン、グアイフェネシンリン酸コデイン、アンプロキソール塩酸塩等が挙げられる。
呼吸促進剤としては、例えば、酒石酸レバロルファン等が挙げられる。
気管支拡張剤としては、例えば、テオフィリン、サルブタモール、硫酸サルブタモール等が挙げられる。
【0052】
消化器系薬物としては、例えば、胃腸薬、制酸剤、抗潰瘍剤、消化酵素剤、排便機能促進剤、制吐剤等が挙げられる。
胃腸薬としては、例えば、健胃消化剤(例えば、ジアスターゼ、含糖ペプシン、ロートエキス、セルラーゼAP3、リパーゼAP、ケイヒ油)、整腸剤(例えば、塩化ベルベリン、耐性乳酸菌、ビフィズス菌)等が挙げられる。
制酸剤としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、沈降炭酸カルシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。
抗潰瘍剤としては、例えば、5-アミノサリチル酸、ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール、シメチジン、ファモチジン、ラニチジン、塩酸ラニチジン、塩酸ピレンゼピン、2-[〔3-メチル-4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-2-ピリジル〕メチルスルフィニル]ベンゾイミダゾール及び5-メトキシ-2-〔(4-メトキシ-3,5-ジメチル-2-ピリジル)メチルスルフィニル〕ベンゾイミダゾール等の抗潰瘍作用を有するベンゾイミダゾール系薬物等が挙げられる。
消化酵素剤としては、例えば、パンクレアチン等が挙げられる。
排便機能促進剤としては、例えば、ビサコジル等が挙げられる。
制吐剤としては、例えば、塩酸ジフェニドール、メトクロプラミド等が挙げられる。
【0053】
抗生物質としては、例えば、セファレキシン、アモキシシリン、セファクロル、塩酸ピプメシリナム、塩酸セフォチアムヘキセチル、セファドロキシル、セフィキシム、セフジトレンピボキシル、セフテラムピボキシルおよびセフポドキシミプロキセチルなどのセフェム系、アンピシリン、シクラシン、ナリジクス酸およびエノキサシンなどの合成抗菌剤カルモナムナトリウムなどのモノバクタム系、エリスロマイシンなどのマクロライド系、ペネム系、カルバペネム系抗生物質等が挙げられる。
【0054】
アレルギー用薬としては、例えば、アンレキサノクス、セラトロダスト等が挙げられる。
【0055】
抗ヒスタミン剤としては、例えば、塩酸ジフェンヒドラミン、プロメタジン、塩酸プロメタジン、塩酸イソチペンジル、dl-マレイン酸クロルフェニラミン等が挙げられる。
【0056】
歯科口腔用薬としては、例えば、オキシテトラサイクリン、トリアムシノロンアセトニド、塩酸クロルヘキシジン、リドカイン等が挙げられる。
強心剤としては、例えば、ジゴキシン、カフェイン等が挙げられる。
不整脈用剤としては、例えば、塩酸プロカインアミド、塩酸プロプラノロール、ピンドロール等が挙げられる。
利尿薬としては、例えば、カフェイン、フロセミド、イソソルピド、ヒドロクロロチアジド等が挙げられる。
【0057】
解熱鎮痛消炎剤としては、例えば、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン、エテンザミド、塩酸ジフェンヒドラミン、dl-マレイン酸クロルフェニラミン、ジクロフェナクナトリウム、リン酸ジヒドロコデイン、サリチルアミド、アミノピリン、ノスカピン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸フェニルプロパノールアミン、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、トルフェナム酸、メフェナム酸、フルフェナム酸、ケトプロフェン、インドメタシン、ブコローム、ペンタゾシン、カフェイン、無水カフェイン、スルピリン、ヒドロモルフォン塩酸塩、タペンタドール塩酸塩等が挙げられる。
【0058】
自律神経作用薬としては、例えば、リン酸ジヒドロコデイン及びdl-塩酸メチルエフェドリン、硫酸アトロピン、塩化アセチルコリン、ネオスチグミン等が挙げられる。
【0059】
血管拡張薬としては、例えば、ニフェジピン、塩酸カルボクロメン、モルシドミン、塩酸ペラパミル等が挙げられる。
【0060】
血圧降下剤としては、例えば、カプトプリル、塩酸デラプリル、塩酸ヒドララジン、塩酸ラベタロール、塩酸マニジピン、カンデサルタンシレキセチル、メチルドパ、ペリンドプリルエルブミン等が挙げられる。
【0061】
血管収縮薬としては、例えば、塩酸フェニレフリン等が挙げられる。
【0062】
末梢血管拡張薬としては、例えば、シンナリジン等が挙げられる。
【0063】
血液凝固阻止剤としては、例えば、ジクマロール等が挙げられる。
【0064】
高脂血症用剤としては、例えば、セリバスタチンナトリウム、シンバスタチン、プラバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム水和物等が挙げられる。
【0065】
利胆剤としては、例えば、デヒドロコール酸、トレピプトン等が挙げられる。
【0066】
抗マラリア剤としては、例えば、塩酸キニーネ等が挙げられる。
【0067】
止潟剤としては、例えば、塩酸ロペラミド等が挙げられる。
【0068】
向精神剤としては、例えば、クロルプロマジン、レセルピン等が挙げられる。
【0069】
抗うつ薬としては、例えば、アンフェタミン、イミプラミン、塩酸マプロチリン、パロキセチン塩酸塩等が挙げられる。
【0070】
抗精神病薬としては、例えば、パリペリドン等が挙げられる。
【0071】
抗不安薬としては、例えば、ジアゼパム、アルプラゾラム、クロルジアゼポキシド等が挙げられる。
【0072】
催眠鎮静薬としては、例えば、エスタゾラム、ジアゼパム、ニトラゼパム、ペルラピン、フェノバルビタールナトリウム等が挙げられる。
【0073】
化学療法剤としては、例えば、スルファメチゾール等が挙げられる。
【0074】
糖尿病用剤としては、例えば、グリミジンナトリウム、グリピザイド、塩酸フェンフォルミン、塩酸ブフォルミン、メトフォルミン、塩酸メトフォルミン、トルブタミド、ボグリボース、塩酸ピオグリタゾン、グリベンクラミド、トログリダゾン等が挙げられる。
骨粗しょう症用剤としては、例えば、イプリフラボン等が挙げられる。
骨格筋弛緩薬としては、例えば、メトカルバモール等が挙げられる。
【0075】
滋養強壮保健薬には、例えば、ビタミン類及びその誘導体[例えば、ビタミンA、ビタミンB1、フルスルチアミン、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、パントテン酸カルシウム、トラネキサム酸等]、ミネラル(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄等)、タンパク、アミノ酸、オリゴ糖、生薬等が挙げられる。
【0076】
鎮けい剤としては、例えば、塩酸メクリジン、ジメンヒドリナート、臭化水素酸スコポラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸パパベリン等が挙げられる。
抗リウマチ薬としては、例えば、メソトレキセート、ブシラミン等が挙げられる。
ホルモン剤としては、例えば、リオチロニンナトリウム、リン酸デキメタゾンナトリウム、プレドニゾロン、オキセンドロン、酢酸リュープロレリン等が挙げられる。
アルカロイド系麻薬としては、例えば、アヘン、塩酸モルヒネ、トコン、塩酸オキシコドン、塩酸アヘンアルカロイド、塩酸コカイン等が挙げられる。
サルファ剤としては、例えば、スルフィソミジン、スルファメチゾール等が挙げられる。
痛風治療薬としては、例えば、アロプリノール、コルヒチン等が挙げられる。
抗悪性腫瘍剤としては、例えば、5-フルオロウラシル、ウラシル、マイトマイシン等が挙げられる。
【0077】
対象物は、他の成分(例えば、賦形剤、崩壊剤、滑択剤、凝集防止剤、溶解補助剤など通常この分野で使用される種々の添加剤)を含んでいてもよい。
【0078】
賦形剤としては、例えば、白糖、乳糖、マンニトール、グルコースなどの糖類、でんぷん、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが挙げられ、好ましくは、乳糖、マンニトール、結晶セルロースなどが挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム等が挙げられる。
滑択剤、凝集防止剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール類、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
溶解補助剤としては、例えば、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸等が挙げられる。
これら添加剤は、1種又は2種以上を使用することができる。他の成分(添加剤)の含有量は、薬剤の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0079】
対象物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0080】
対象物は、常温(例えば、10~40℃等)において固体であってもよい。
【0081】
対象物の形状は、粉末(又は粉体)が好ましい。このような粉末(原体、原末など)の大きさは、特に限定されないが、例えば、平均粒子径が、500μm以下(例えば、5~400μm)、好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下(例えば、10~80μm)程度であってもよい。
【0082】
なお、粉末の平均粒子径は、レーザー式粒度分布測定装置などにより測定してもよい。
【0083】
[固形製剤など]
本発明は、ポリビニルアルコール系重合体及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む固形製剤をも含有する。なお、ポリビニルアルコール系重合体及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、上記例示のものであってよい。また、製剤の対象物は、上記例示の対象物(徐放性基剤の対象物)であってよく、通常、粉体であってよい。
【0084】
本発明の製剤は、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等であってよいが、錠剤が好ましい。
【0085】
本発明の製剤は、経口剤として好適に使用してもよい。
【0086】
本発明の製剤は、ポリビニルアルコール系重合体及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(さらに、製剤の対象物)以外に、他の成分を含んでいてもよい。
【0087】
他の成分としては、通常、この分野で常用され得る添加剤(例えば、崩壊剤、滑択剤、凝集防止剤、溶解補助剤など)を含んでいてもよい。
【0088】
崩壊剤としては、例えば、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム等が挙げられる。
【0089】
滑択剤又は凝集防止剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール類、安息香酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0090】
溶解補助剤としては、例えば、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸などの有機酸などが挙げられる。
【0091】
これらの添加剤は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0092】
また、これら添加剤の含有量は、製剤の成分の種類などに応じて適宜決定することができる。
【0093】
製剤において、本発明の徐放性基剤の割合は、例えば、40~99.5質量%(例えば、42~99質量%)、好ましくは45~98.5質量%(例えば、50~98質量%)、より好ましくは52~97.5質量%(例えば、55~97質量%)程度であってもよい。
【0094】
製剤において、ポリビニルアルコール系重合体の割合は、例えば、20~60質量%(例えば、22~58質量%)、好ましくは25~55質量%(例えば、27~52質量%)、より好ましくは30~50質量%(例えば、33~48質量%)程度であってもよい。
【0095】
製剤において、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの割合は、例えば、5~60質量%(例えば、7~58質量%)、好ましくは10~55質量%(例えば、12~52質量%)、より好ましくは15~50質量%(例えば、33~48質量%)程度であってもよい。
【0096】
製剤において、ポリビニルアルコール系重合体と低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの配合割合は、製剤の徐放性や成形性等の観点から、ポリビニルアルコール系重合体:低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(質量比)が、例えば、30:70~90:10(例えば、33:67~87:13)、好ましくは35:65~85:15(例えば、40:60~80:20)、より好ましくは43:57~78:22(例えば、45:55~75:25)程度であってもよい。
【0097】
なお、本発明の製剤の形状は、特に限定されないが、製剤が錠剤である場合、錠剤の形状は、例えば、円盤形、レンズ形、竿形などのいずれであってもよい。
【0098】
また、本発明の製剤の大きさは、特に限定されないが、特に、製剤が錠剤である場合、錠剤の大きさは、例えば、直径(最大径)で、3mm以上(例えば、4~15mm、5~12mm、8~11mmなど)であってもよい。
【0099】
錠剤は、ポリビニルアルコール系重合体、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及び製剤の対象物(又は、本発明の徐放性基剤及び製剤の対象物)を少なくとも含む混合物(打錠末)を打錠することによって、製造することができる。
打錠末は、上記他の成分を含んでいてもよい。
【0100】
打錠方法としては、特に限定されず、慣用の打錠方法を採用できるが、特に、直接圧縮法(直接打錠法)が好ましい。直接圧縮(直接打錠)は、打錠末をそのまま打錠機で圧縮成形することにより、実施することができる。
【0101】
錠剤は、錠剤表面に被覆層を有していてもよい。
【0102】
被覆錠剤において、被覆層の構成成分としては、特に限定されないが、例えば、セルロース系樹脂(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートなど)、ポリビニルアルコール系重合体などの樹脂材料が挙げられる。
【0103】
本発明の製剤は、徐放性製剤であってもよい。
【0104】
本発明の徐放性製剤は、活性成分(例えば、有効成分、栄養素、薬物等)の種類等もよるが、活性成分の溶出率が80%以上(例えば、80%)に到達する時間(溶出時間)が、少なくとも2時間以上であってもよく、好ましくは3時間以上(例えば、4時間以上、5時間以上、6時間以上、7時間以上等であってよい。
本発明の徐放性製剤において、活性成分の溶出率が80%以上(例えば、80%)に到達する時間の上限値は、特に限定されないが、例えば、20時間以下、19時間以下、18時間以下、17時間以下、16時間以下、15時間以下等であってもよい。
【0105】
また、本発明の徐放性製剤は、活性成分の種類等によるが、活性成分の溶出率が50%に到達する時間が、例えば、20分以上、好ましくは30分以上(例えば、40分以上)、より好ましくは60分以上(例えば、80分以上)等であってもよい。
本発明の徐放性製剤において、活性成分の溶出率が50%に到達する時間の上限値は、特に限定されないが、例えば、20時間以下、19時間以下、18時間以下、17時間以下、16時間以下、15時間以下等であってもよい。
【0106】
また、溶出時間の測定方法は、特に限定されないが、例えば、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)を使用してもよい。日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)は、試験液が蒸留水900mL、パドル回転数が50rpmであってもよい。
【実施例
【0107】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例中、特にことわりのないかぎり、「%」及び「部」は質量基準を表す。
【0108】
また、各種条件等は以下の通りである。
【0109】
<平均けん化度、平均重合度及び4質量%水溶液粘度>
JIS K6726に従って、測定した。
【0110】
<打錠条件>
使用装置:ロータリー打錠機 VIRGO(菊水製作所製)
打錠圧:15kN
回転速度:10rpm
錠剤重量:200mg
錠剤直径:8mmφ
【0111】
<錠剤硬度の評価>
得られた錠剤の硬度を、錠剤硬度計(TBH125、ERWEKA製)を用いて測定した。6回測定を行い、その平均値を測定値とした。
【0112】
<溶出率の評価>
以下の試験条件下において溶出試験を実施した。また、溶出率が80%に到達した時間を測定、算出した。
試験法:日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)
試験液:蒸留水 900mL
パドル回転数:50rpm
測定サンプル:実施例および比較例で示される錠剤
検出波長:UV444nm(リボフラビン)
UV270nm(テオフィリン)
【0113】
以下の実施例及び参考例で使用した各PVA系重合体(PVA1~3)を、表1に示す。
なお、表1に製品名が記載されたPVAは、日本酢ビ・ポバール製である。
また、いずれのPVA系重合体も、粉砕を行い、平均粒子径が約100μmになるように調整した。
【0114】
【表1】
【0115】
また、PVA3の合成方法を、以下に示す。
【0116】
(合成例1)
攪拌機、コンデンサー、窒素ガス導入口および開始剤投入口を備えた反応槽に、予めメタノール140部および酢酸ビニルモノマー860部を仕込み、系内の窒素置換を行った後60℃に加熱し、還流が発生した時点で、開始剤として2,2’-アゾビス2,4-ジメチルバレロニトリルの1.5%メタノール溶液を2.0部添加し、重合を開始した。重合中は系を70℃に保持し、系内に窒素ガスを流しつつ常圧とし、さらに2,2’-アゾビス2,4-ジメチルバレロニトリルの2%メタノール溶液2.0部を重合開始から15分後に加えた。重合開始から2.3時間後、酢酸ビニルの反応収率が52%になった時点で系を冷却し、重合を終了した。得られた反応物にメタノール蒸気を加えながら、残存する酢酸ビニルモノマーを留出し、ポリ酢酸ビニルの40%メタノール溶液を得た。
次に、上記で得られたポリ酢酸ビニルの40%メタノール溶液500部に、メタノール100部、水6部、水酸化ナトリウムの5.2%メタノール溶液6.3部を加えてよく混合し、40℃で40分間けん化反応を行い、得られたゲル状物を粉砕し、中和後にメタノールで洗浄した後に乾燥して、けん化度65.0モル%、平均重合度2400のPVA系重合体3(PVA3)を得た。
【0117】
(実施例1)
表2に記載の配合割合で、ステアリン酸マグネシウム(St-Mg)以外の成分をポリエチレン袋に入れ、空気を入れて袋を膨らませた後、100回混合した(袋を振った)。その後、袋の中にSt-Mgを添加し、空気を入れて袋を膨らませた後、30回混合した(袋を振った)。得られた混合物を打錠し、錠剤を作製した。得られた錠剤について、錠剤硬度および溶出時間を測定した。結果を表2に示す。なお、表2において、L-HPCとは、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを示す。L-HPCとしては、NBD-021(信越化学工業株式会社)を使用した。
【0118】
(実施例2~8)
表2に記載のPVA系重合体を用い、各成分の種類及び配合割合を表2に記載のものとした以外は、実施例1と同様にして打錠を実施し、錠剤硬度及び溶出時間を測定した。結果を表2に示す。
【0119】
また、実施例1~8の溶出率の経時変化を図1に示す。
【0120】
(参考例1~2)
表2に記載のPVA系重合体を用い、各成分の種類及び配合割合を表2に記載のものとした以外は、実施例1と同様にして打錠を実施し、錠剤硬度及び溶出時間を測定した。結果を表2に示す。なお、表2において、Cl-PVPとは、架橋ポリビニルピロリドン(コリドンCL、BASFジャパン社)を示す。また、参考例1~2の溶出率の経時変化を図2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示すように、実施例では、PVA系重合体と低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを併用することにより、高い成形性と優れた徐放性を両立した製剤を作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、新規な徐放性基剤を提供できる。このよう基剤は、徐放性製剤等を得るのに有用である。
図1
図2