(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、レーザ加工方法、及び、半導体部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20250206BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20250206BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20250206BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/53
B23K26/073
B23K26/067
(21)【出願番号】P 2022536133
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013398
(87)【国際公開番号】W WO2022014104
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2020121652
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-138956(JP,A)
【文献】特開2012-115906(JP,A)
【文献】特開2012-091233(JP,A)
【文献】特開2011-244000(JP,A)
【文献】特開2011-212750(JP,A)
【文献】特開2011-051011(JP,A)
【文献】特開2011-206850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
B23K 26/073
B23K 26/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力する光源と、
前記光源から出力された前記レーザ光を変調パターンに応じて変調して出力するための空間光変調器と、
前記空間光変調器から出力された前記レーザ光を対象物に集光して前記対象物に集光スポットを形成するための集光レンズと、
前記集光スポットを前記対象物に対して相対移動させるための移動部と、
少なくとも前記空間光変調器及び前記移動部を制御することによって、前記対象物における前記レーザ光の入射面に交差するZ方向についての前記集光スポットの位置を第1Z位置に設定しつつ、前記入射面に沿うX方向に延びるラインに沿って前記集光スポットを相対移動させることにより、第1改質領域及び前記第1改質領域から延びる第1亀裂を前記対象物に形成する第1形成処理と、前記Z方向についての前記集光スポットの位置を前記第1Z位置よりも前記入射面側の第2Z位置に設定しつつ、前記ラインに沿って前記集光スポットを相対移動させることにより、第2改質領域及び前記第2改質領域から延びる第2亀裂を形成する第2形成処理と、を実施する制御部と、
を備え、
前記第1形成処理では、前記制御部は、前記入射面に沿うと共に前記X方向に交差するY方向についての前記集光スポットの位置を第1Y位置に設定し、
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記Y方向についての前記集光スポットの位置を前記第1Y位置からシフトした第2Y位置に設定すると共に、前記空間光変調器に表示させる前記変調パターンの制御によって、前記Y方向及び前記Z方向を含むYZ面内での前記集光スポットのビーム形状が、少なくとも前記集光スポットの中心よりも前記入射面側において前記シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるように前記レーザ光を変調させることにより、前記YZ面内において前記シフトの方向に傾斜するように前記第2亀裂を形成する、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記第1形成処理では、前記制御部は、前記YZ面内での前記集光スポットのビーム形状が、少なくとも前記集光スポットの中心よりも前記入射面側において前記シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるように前記レーザ光を変調させることにより、前記YZ面内において前記シフトの方向に傾斜するように前記第1亀裂を形成する、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記変調パターンは、前記レーザ光に対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記コマ収差パターンによる前記コマ収差の大きさを制御することにより、前記ビーム形状を前記傾斜形状とするための第1パターン制御を行う、
請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記変調パターンは、前記レーザ光の球面収差を補正するための球面収差補正パターンを含み、
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記集光レンズの入射瞳面の中心に対して前記球面収差補正パターンの中心を前記Y方向にオフセットさせることにより、前記ビーム形状を前記傾斜形状とするための第2パターン制御を行う、
請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記X方向に沿った軸線に対して非対称な前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させることにより、前記ビーム形状を前記傾斜形状とするための第3パターン制御を行う、
請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記変調パターンは、前記X方向及び前記Y方向を含むXY面内における前記集光スポットのビーム形状を、前記X方向を長手とする楕円形状とするための楕円パターンを含み、
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記楕円パターンの強度が、前記X方向に沿った軸線に対して非対称となるように、前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させることによって、前記ビーム形状を前記傾斜形状とするための第4パターン制御を行う、
請求項1~5のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2形成処理において、前記YZ面内で前記シフトの方向に沿って配列された複数の前記レーザ光の集光点を形成するための前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させることにより、複数の前記集光点を含む前記集光スポットの前記ビーム形状を前記傾斜形状とするための第5パターン制御を行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記X方向に沿って前記対象物に設定された一の前記ラインに対して、前記第1形成処理を実施した後に、前記第2形成処理を実施する、
請求項1~7のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記レーザ光を分岐させるための分岐パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させることにより、前記対象物に設定された一の前記ラインに対して前記第1形成処理と前記第2形成処理とを同時に実施する、
請求項1~7のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
対象物にレーザ光を集光して前記レーザ光の集光スポットを形成すると共に、前記集光スポットを前記対象物に対して相対移動させることにより、前記対象物のレーザ加工を行うレーザ加工工程を備え、
前記レーザ加工工程は、
前記対象物における前記レーザ光の入射面に交差するZ方向についての前記集光スポットの位置を第1Z位置に設定しつつ、前記入射面に沿うX方向に延びるラインに沿って前記集光スポットを相対移動させることにより、第1改質領域及び前記第1改質領域から延びる第1亀裂を前記対象物に形成する第1形成工程と、
前記Z方向についての前記集光スポットの位置を前記第1Z位置よりも前記入射面側の第2Z位置に設定しつつ、前記ラインに沿って前記集光スポットを相対移動させることにより、第2改質領域及び前記第2改質領域から延びる第2亀裂を形成する第2形成工程と、
を含み、
前記第1形成工程では、前記入射面に沿うと共に前記X方向に交差するY方向についての前記集光スポットの位置を第1Y位置に設定し、
前記第2形成工程では、前記Y方向についての前記集光スポットの位置を前記第1Y位置からシフトした第2Y位置に設定すると共に、前記Y方向及び前記Z方向を含むYZ面内での前記集光スポットのビーム形状が、少なくとも前記集光スポットの中心よりも前記入射面側において前記シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるように前記レーザ光を変調させることにより、前記YZ面内において前記シフトの方向に傾斜するように前記第2亀裂を形成する、
レーザ加工方法。
【請求項11】
半導体を含む対象物にレーザ光を集光して前記レーザ光の集光スポットを形成すると共に、前記集光スポットを前記対象物に対して相対移動させることにより、前記対象物のレーザ加工を行うレーザ加工工程と、
前記レーザ加工工程の後に、前記対象物の一部を分離することにより、前記対象物から半導体部材を形成する分離工程と、
を備え、
前記レーザ加工工程は、
前記対象物における前記レーザ光の入射面に交差するZ方向についての前記集光スポットの位置を第1Z位置に設定しつつ、前記入射面に沿うX方向に延びるラインに沿って前記集光スポットを相対移動させることにより、第1改質領域及び前記第1改質領域から延びる第1亀裂を前記対象物に形成する第1形成工程と、
前記Z方向についての前記集光スポットの位置を前記第1Z位置よりも前記入射面側の第2Z位置に設定しつつ、前記ラインに沿って前記集光スポットを相対移動させることにより、第2改質領域及び前記第2改質領域から延びる第2亀裂を形成する第2形成工程と、
を含み、
前記第1形成工程では、前記入射面に沿うと共に前記X方向に交差するY方向についての前記集光スポットの位置を第1Y位置に設定し、
前記第2形成工程では、前記Y方向についての前記集光スポットの位置を前記第1Y位置からシフトした第2Y位置に設定すると共に、前記Y方向及び前記Z方向を含むYZ面内での前記集光スポットのビーム形状が、少なくとも前記集光スポットの中心よりも前記入射面側において前記シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるように前記レーザ光を変調させることにより、前記YZ面内において前記シフトの方向に傾斜するように前記第2亀裂を形成し、
前記分離工程では、前記第1亀裂及び前記第2亀裂を境界として前記対象物の前記一部を分離することにより、前記第2亀裂によって規定される傾斜面である側面を含む前記半導体部材を形成する、
半導体部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、レーザ加工装置、レーザ加工方法、及び、半導体部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザダイシング装置が記載されている。このレーザダイシング装置は、ウェハを移動させるステージと、ウェハにレーザ光を照射するレーザヘッドと、各部の制御を行う制御部と、を備えている。レーザヘッドは、ウェハの内部に改質領域を形成するための加工用レーザ光を出射するレーザ光源と、加工用レーザ光の光路上に順に配置されたダイクロイックミラー及び集光レンズと、AF装置と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者の知見によれば、例えば、ウェハから角錐台形状や円錐台形状のチップを切り出すようにレーザ加工を行う要求がある。すなわち、ウェハからチップを切り出す際の境界となる(切断面を規定する)改質領域及び改質領域から延びる亀裂を、ウェハの厚さ方向に対して斜めに形成する要望がある。
【0005】
そこで、本開示の一側面は、対象物に斜め亀裂を形成可能なレーザ加工装置、レーザ加工方法、及び、半導体部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置は、レーザ光を出力する光源と、光源から出力された前記レーザ光を変調パターンに応じて変調して出力するための空間光変調器と、空間光変調器から出力されたレーザ光を対象物に集光して対象物に集光スポットを形成するための集光レンズと、集光スポットを対象物に対して相対移動させるための移動部と、少なくとも空間光変調器及び移動部を制御することによって、対象物におけるレーザ光の入射面に交差するZ方向についての集光スポットの位置を第1Z位置に設定しつつ、入射面に沿うX方向に延びるラインに沿って集光スポットを相対移動させることにより、第1改質領域及び第1改質領域から延びる第1亀裂を対象物に形成する第1形成処理と、Z方向についての集光スポットの位置を第1Z位置よりも入射面側の第2Z位置に設定しつつ、ラインに沿って集光スポットを相対移動させることにより、第2改質領域及び第2改質領域から延びる第2亀裂を形成する第2形成処理と、を実施する制御部と、を備え、第1形成処理では、制御部は、入射面に沿うと共にX方向に交差するY方向についての集光スポットの位置を第1Y位置に設定し、第2形成処理では、制御部は、Y方向についての集光スポットの位置を第1Y位置からシフトした第2Y位置に設定すると共に、空間光変調器に表示させる変調パターンの制御によって、Y方向及びZ方向を含むYZ面内での集光スポットのビーム形状が、少なくとも集光スポットの中心よりも入射面側においてシフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光を変調させることにより、YZ面内においてシフトの方向に傾斜するように第2亀裂を形成する。
【0007】
本開示の一側面に係るレーザ加工方法は、対象物にレーザ光を集光してレーザ光の集光スポットを形成すると共に、集光スポットを対象物に対して相対移動させることにより、対象物のレーザ加工を行うレーザ加工工程を備え、レーザ加工工程は、対象物におけるレーザ光の入射面に交差するZ方向についての集光スポットの位置を第1Z位置に設定しつつ、入射面に沿うX方向に延びるラインに沿って集光スポットを相対移動させることにより、第1改質領域及び第1改質領域から延びる第1亀裂を対象物に形成する第1形成工程と、Z方向についての集光スポットの位置を第1Z位置よりも入射面側の第2Z位置に設定しつつ、ラインに沿って集光スポットを相対移動させることにより、第2改質領域及び第2改質領域から延びる第2亀裂を形成する第2形成工程と、を含み、第1形成工程では、入射面に沿うと共にX方向に交差するY方向についての集光スポットの位置を第1Y位置に設定し、第2形成工程では、Y方向についての集光スポットの位置を第1Y位置からシフトした第2Y位置に設定すると共に、Y方向及びZ方向を含むYZ面内での集光スポットのビーム形状が、少なくとも集光スポットの中心よりも入射面側においてシフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光を変調させることにより、YZ面内においてシフトの方向に傾斜するように第2亀裂を形成する。
【0008】
これらの装置及び方法では、第1Z位置において、X方向に延びるラインに沿ってレーザ光の集光スポットが相対移動させられることにより、第1改質領域及び第1改質領域から延びる第1亀裂が形成される。第1Z位置は、対象物におけるレーザ光の入射面に交差するZ方向の位置である。また、第1Z位置よりも入射面側の第2Z位置において、ラインに沿ってレーザ光の集光スポットが相対移動させられることにより、第2改質領域及び第2改質領域から延びる第2亀裂が形成される。集光スポットは、第1改質領域及び第1亀裂の形成の際にはY方向について第1Y位置とされ、第2改質領域及び第2亀裂の形成の際にはY方向について第1Y位置からシフトした第2Y位置とされる。Y方向は、Z方向及びX方向に交差する方向である。さらに、第2改質領域及び第2亀裂の形成の際には、YZ面内での集光スポットのビーム形状が、少なくとも集光スポットの中心よりも入射面側において集光スポットのシフト方向に傾斜する傾斜形状とされる。本発明者の知見によれば、このように、集光スポットをY方向にシフトさせ、且つ、集光スポットのビーム形状を制御することにより、少なくとも第2亀裂をYZ面内において当該シフト方向に傾斜した斜め亀裂とすることができる。すなわち、この装置及び方法によれば、斜め亀裂を形成可能である。
【0009】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、第1形成処理では、制御部は、YZ面内での集光スポットのビーム形状が、少なくとも集光スポットの中心よりも入射面側においてシフト方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光を変調させることにより、YZ面内においてシフト方向に傾斜するように第1亀裂を形成してもよい。この場合、第1改質領域及び第2改質領域にわたって斜めに延びる亀裂を確実に形成可能である。
【0010】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、変調パターンは、レーザ光に対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、第2形成処理では、制御部は、コマ収差パターンによるコマ収差の大きさを制御することにより、ビーム形状を傾斜形状とするための第1パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合、YZ面内における集光スポットのビーム形状が、弧状に形成される。すなわち、この場合には、集光スポットのビーム形状が、集光スポットの中心よりも入射面側でシフト方向に傾斜すると共に、集光スポットの中心よりも入射面と反対側でシフト方向と反対方向に傾斜される。この場合であっても、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0011】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、変調パターンは、レーザ光の球面収差を補正するための球面収差補正パターンを含み、第2形成処理では、制御部は、集光レンズの入射瞳面の中心に対して球面収差補正パターンの中心をY方向にオフセットさせることにより、ビーム形状を傾斜形状とするための第2パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、コマ収差パターンを利用した場合と同様に、YZ面内における集光スポットのビーム形状を弧状に形成でき、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0012】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、第2形成処理では、制御部は、X方向に沿った軸線に対して非対称な変調パターンを空間光変調器に表示させることにより、ビーム形状を傾斜形状とするための第3パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合、YZ面内における集光スポットのビーム形状の全体を、シフト方向に傾斜させることができる。この場合であっても、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0013】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、変調パターンは、X方向及びY方向を含むXY面内における集光スポットのビーム形状を、X方向を長手とする楕円形状とするための楕円パターンを含み、第2形成処理では、制御部は、楕円パターンの強度が、X方向に沿った軸線に対して非対称となるように、変調パターンを空間光変調器に表示させることによって、ビーム形状を傾斜形状とするための第4パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、YZ面内における集光スポットのビーム形状を弧状に形成でき、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0014】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、制御部は、第2形成処理において、YZ面内でシフトの方向に沿って配列された複数の集光点を形成するための変調パターンを空間光変調器に表示させることにより、複数の集光点を含む集光スポットのビーム形状を傾斜形状とするための第5パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0015】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、制御部は、X方向に沿って対象物に設定された一のラインに対して、第1形成処理を実施した後に、第2形成処理を実施してもよい。このように、第1形成処理と第2形成処理とを別途行う場合であっても、斜め亀裂を形成可能である。
【0016】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、制御部は、レーザ光を分岐させるための分岐パターンを含む変調パターンを空間光変調器に表示させることにより、対象物に設定された一のラインに対して第1形成処理と第2形成処理とを同時に実施してもよい。このように、第1形成処理と第2形成処理とを同時に実施する場合であっても、斜め亀裂を形成可能である。
【0017】
本開示の一側面に係る半導体部材の製造方法は、半導体を含む対象物にレーザ光を集光してレーザ光の集光スポットを形成すると共に、集光スポットを対象物に対して相対移動させることにより、対象物のレーザ加工を行うレーザ加工工程と、レーザ加工工程の後に、対象物の一部を分離することにより、対象物から半導体部材を形成する分離工程と、を備え、レーザ加工工程は、対象物におけるレーザ光の入射面に交差するZ方向についての集光スポットの位置を第1Z位置に設定しつつ、入射面に沿うX方向に延びるラインに沿って集光スポットを相対移動させることにより、第1改質領域及び第1改質領域から延びる第1亀裂を対象物に形成する第1形成工程と、Z方向についての集光スポットの位置を第1Z位置よりも入射面側の第2Z位置に設定しつつ、ラインに沿って集光スポットを相対移動させることにより、第2改質領域及び第2改質領域から延びる第2亀裂を形成する第2形成工程と、を含み、第1形成工程では、入射面に沿うと共にX方向に交差するY方向についての集光スポットの位置を第1Y位置に設定し、第2形成工程では、Y方向についての集光スポットの位置を第1Y位置からシフトした第2Y位置に設定すると共に、Y方向及びZ方向を含むYZ面内での集光スポットのビーム形状が、少なくとも集光スポットの中心よりも入射面側においてシフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光を変調させることにより、YZ面内においてシフトの方向に傾斜するように第2亀裂を形成し、分離工程では、第1亀裂及び第2亀裂を境界として対象物の一部を分離することにより、第2亀裂によって規定される傾斜面である側面を含む半導体部材を形成する。
【0018】
この製造方法によれば、上記のレーザ加工方法と同様に、対象物に斜め亀裂を形成できる。よって、分離工程において、亀裂を境界として対象物の一部を分離することにより、傾斜面である側面を含む半導体部材を製造できる。
【発明の効果】
【0019】
本開示の一側面によれば、対象物に斜め亀裂を形成可能なレーザ加工装置、レーザ加工方法、及び、半導体部材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図2に示された4fレンズユニットを示す図である。
【
図5】
図5は、斜め亀裂形成の知見を説明するための対象物の断面図である。
【
図6】
図6は、斜め亀裂形成の知見を説明するための対象物の断面図である。
【
図7】
図7は、レーザ光の集光スポットのビーム形状を示す図である。
【
図8】
図8は、変調パターンのオフセットを示す図である。
【
図9】
図9は、斜め亀裂の形成状態を示す断面写真である。
【
図11】
図11は、斜め亀裂の形成状態を示す断面写真である。
【
図12】
図12は、斜め亀裂の形成状態を示す断面写真である。
【
図14】
図14は、集光レンズの入射瞳面における強度分布、及び、集光スポットのビーム形状を示す図である。
【
図15】
図15は、集光スポットのビーム形状、及び、集光スポットの強度分布の観測結果を示す図である。
【
図17】
図17は、非対称な変調パターンの別の例を示す図である。
【
図18】
図18は、集光レンズの入射瞳面における強度分布、及び、集光スポットのビーム形状を示す図である。
【
図19】
図19は、変調パターンの一例、及び集光スポットの形成を示す図である。
【
図20】
図20は、第1実施形態に係る対象物を示す図である。
【
図21】
図21は、第1実施形態に係るレーザ加工工程を示す図である。
【
図22】
図22は、対象物から得られた半導体部材を示す図である。
【
図23】
図23は、対象物から得られた半導体部材を示す図である。
【
図24】
図24は、第2実施形態に係る対象物を示す図である。
【
図25】
図25は、第2実施形態に係るレーザ加工工程を示す図である。
【
図26】
図26は、第2実施形態に係る分離工程を示す図である。
【
図27】
図27は、対象物から得られた半導体部材を示す図である。
【
図28】
図28は、レーザ加工工程の変形例を示す断面図である。
【
図29】
図29は、レーザ加工工程の別の変形例を示す断面図である。
【
図31】
図31は、第3実施形態に係る対象物を示す図である。
【
図32】
図32は、第3実施形態に係るレーザ加工工程を示す断面図である。
【
図33】
図33は、第3実施形態に係るレーザ加工工程を示す断面図である。
【
図34】
図34は、第3実施形態に係る研削工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及びZ軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。
[レーザ加工装置、及び、レーザ加工の概要]
【0022】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ2と、レーザ照射部3と、駆動部(移動部)4,5と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成するための装置である。
【0023】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを保持することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、Z方向に平行な軸線を回転軸として回転可能である。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能とされてもよい。なお、X方向及びY方向は、互いに交差(直交)する第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0024】
レーザ照射部3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光スポットC(例えば後述する中心Ca)に対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。なお、集光スポットCは、詳細な説明は後述するが、レーザ光Lのビーム強度が最も高くなる位置又はビーム強度の重心位置から所定範囲の領域である。
【0025】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延びるように形成され得る。そのような改質領域12及び亀裂は、例えば対象物11の切断に利用される。
【0026】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光スポットCをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光スポットCの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0027】
駆動部4は、ステージ2をZ方向に交差(直交)する面内の一方向に移動させる第1移動部41と、ステージ2をZ方向に交差(直交)する面内の別方向に移動させる第2移動部42と、を含む。一例として、第1移動部41は、ステージ2をX方向に沿って移動させ、第2移動部42は、ステージ2をY方向に沿って移動させる。また、駆動部4は、ステージ2をZ方向に平行な軸線を回転軸として回転させる。駆動部5は、レーザ照射部3を支持している。駆動部5は、レーザ照射部3をX方向、Y方向、及びZ方向に沿って移動させる。レーザ光Lの集光スポットCが形成されている状態においてステージ2及び/又はレーザ照射部3が移動させられることにより、集光スポットCが対象物11に対して相対移動させられる。すなわち、駆動部4,5は、対象物11に対してレーザ光Lの集光スポットCが相対移動するように、ステージ2及びレーザ照射部3の少なくとも一方を移動させる移動部である。
【0028】
制御部6は、ステージ2、レーザ照射部3、及び駆動部4,5の動作を制御する。制御部6は、処理部、記憶部、及び入力受付部を有している(不図示)。処理部は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。入力受付部は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0029】
図2は、
図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
図2には、レーザ加工の予定を示す仮想的なラインAを示している。
図2に示されるように、レーザ照射部3は、光源31と、空間光変調器7と、集光レンズ33と、4fレンズユニット34と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。なお、レーザ照射部3は、光源31を有さず、レーザ照射部3の外部からレーザ光Lを導入するように構成されてもよい。空間光変調器7は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。集光レンズ33は、空間光変調器7によって変調されて空間光変調器7から出力されたレーザ光Lを対象物11に向けて集光する。
【0030】
図3に示されるように、4fレンズユニット34は、空間光変調器7から集光レンズ33に向かうレーザ光Lの光路上に配列された一対のレンズ34A,34Bを有している。一対のレンズ34A,34Bは、空間光変調器7の変調面7aと集光レンズ33の入射瞳面(瞳面)33aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。これにより、空間光変調器7の変調面7aでのレーザ光Lの像(空間光変調器7において変調されたレーザ光Lの像)が、集光レンズ33の入射瞳面33aに転像(結像)される。なお、図中のFsはフーリエ面を示す。
【0031】
図4に示されるように、空間光変調器7は、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。空間光変調器7は、半導体基板71上に、駆動回路層72、画素電極層73、反射膜74、配向膜75、液晶層76、配向膜77、透明導電膜78及び透明基板79がこの順序で積層されることで、構成されている。
【0032】
半導体基板71は、例えば、シリコン基板である。駆動回路層72は、半導体基板71上において、アクティブ・マトリクス回路を構成している。画素電極層73は、半導体基板71の表面に沿ってマトリックス状に配列された複数の画素電極73aを含んでいる。各画素電極73aは、例えば、アルミニウム等の金属材料によって形成されている。各画素電極73aには、駆動回路層72によって電圧が印加される。
【0033】
反射膜74は、例えば、誘電体多層膜である。配向膜75は、液晶層76における反射膜74側の表面に設けられており、配向膜77は、液晶層76における反射膜74とは反対側の表面に設けられている。各配向膜75,77は、例えば、ポリイミド等の高分子材料によって形成されており、各配向膜75,77における液晶層76との接触面には、例えば、ラビング処理が施されている。配向膜75,77は、液晶層76に含まれる液晶分子76aを一定方向に配列させる。
【0034】
透明導電膜78は、透明基板79における配向膜77側の表面に設けられており、液晶層76等を挟んで画素電極層73と向かい合っている。透明基板79は、例えば、ガラス基板である。透明導電膜78は、例えば、ITO等の光透過性且つ導電性材料によって形成されている。透明基板79及び透明導電膜78は、レーザ光Lを透過させる。
【0035】
以上のように構成された空間光変調器7では、変調パターンを示す信号が制御部6から駆動回路層72に入力されると、当該信号に応じた電圧が各画素電極73aに印加され、各画素電極73aと透明導電膜78との間に電界が形成される。当該電界が形成されると、液晶層76において、各画素電極73aに対応する領域ごとに液晶分子76aの配列方向が変化し、各画素電極73aに対応する領域ごとに屈折率が変化する。この状態が、液晶層76に変調パターンが表示された状態である。変調パターンは、レーザ光Lを変調するためのものである。
【0036】
すなわち、液晶層76に変調パターンが表示された状態で、レーザ光Lが、外部から透明基板79及び透明導電膜78を介して液晶層76に入射し、反射膜74で反射されて、液晶層76から透明導電膜78及び透明基板79を介して外部に出射させられると、液晶層76に表示された変調パターンに応じて、レーザ光Lが変調される。このように、空間光変調器7によれば、液晶層76に表示する変調パターンを適宜設定することで、レーザ光Lの変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等の変調)が可能である。なお、
図3に示された変調面7aは、例えば液晶層76である。
【0037】
以上のように、光源31から出力されたレーザ光Lが、空間光変調器7及び4fレンズユニット34を介して集光レンズ33に入射され、集光レンズ33によって対象物11内に集光されることにより、その集光スポットCにおいて対象物11に改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂が形成される。さらに、制御部6が駆動部4,5を制御することにより、集光スポットCを対象物11に対して相対移動させることにより、集光スポットCの移動方向に沿って改質領域12及び亀裂が形成されることとなる。
[斜め亀裂形成に関する知見の説明]
【0038】
ここで、このときの集光スポットCの移動方向(加工進行方向)をX方向とする。また、対象物11におけるレーザ光Lの入射面である第1面11aに交差(直交)する方向をZ方向とする。また、X方向及びZ方向に交差(直交)する方向をY方向とする。X方向及びY方向は第1面11aに沿った方向である。なお、Z方向は、集光レンズ33の光軸、集光レンズ33を介して対象物11に向けて集光されるレーザ光Lの光軸として規定されてもよい。
【0039】
図5に示されるように、加工進行方向であるX方向に交差する交差面(Y方向及びZ方向を含むYZ面E)内において、Z方向及びY方向に対して傾斜するラインD(ここではY方向から所定の角度θをもって傾斜するラインD)に沿って斜めに亀裂を形成する要求がある。このような斜め亀裂形成に対する本発明者の知見について、加工例を示しながら説明する。
【0040】
ここでは、改質領域12として改質領域12a,12bを形成する。これにより、改質領域12aから延びる亀裂13aと、改質領域12bから延びる亀裂13bとをつなげて、ラインDに沿って斜めに延びる亀裂13を形成する。ここでは、まず、
図6に示されるように、対象物11における第1面11aをレーザ光Lの入射面としつつ集光スポットC1を形成する。一方、集光スポットC1よりも第1面11a側において、第1面11aをレーザ光Lの入射面としつつ集光スポットC2を形成する。このとき、集光スポットC2は、集光スポットC1よりもZ方向に距離Szだけシフトされており、且つ、集光スポットC1よりもY方向に距離Syだけシフトされている。距離Sz及び距離Syは、一例として、ラインDの傾きに対応する。
【0041】
他方、
図7に示されるように、空間光変調器7を用いてレーザ光Lを変調することにより、集光スポットC(少なくとも集光スポットC2)のYZ面E内でのビーム形状を、少なくとも集光スポットCの中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対してシフトの方向(ここではY方向の負側)に傾斜する傾斜形状とする。
図7の例では、中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対してY方向の負側に傾斜すると共に、中心Caよりも第1面11aと反対側においても、Z方向に対してY方向の負側に傾斜する弧形状とされている。なお、YZ面E内における集光スポットCのビーム形状とは、YZ面E内における集光スポットCでのレーザ光Lの強度分布である。
【0042】
このように、少なくとも2つの集光スポットC1,C2をY方向にシフトさせると共に、少なくとも集光スポットC2(ここでは集光スポットC1,C2の両方)のビーム形状を傾斜形状とすることにより、
図8の(a)に示されるように、斜めに伸びる亀裂13を形成することができる。なお、例えば空間光変調器7の変調パターンの制御によって、レーザ光Lを分岐することにより集光スポットC1,C2を同時に形成して改質領域12及び亀裂13の形成を行ってもよいし(多焦点加工)、集光スポットC1の形成により改質領域12a及び亀裂13aを形成した後に、集光スポットC2の形成により改質領域12b及び亀裂13bを形成するようにしてもよい(シングルパス加工)。
【0043】
また、集光スポットC1と集光スポットC2との間に別の集光スポットを形成することにより、
図8の(b)に示されるように、改質領域12aと改質領域12bとの間に別の改質領域12cを介在させ、より長く斜めに伸びる亀裂13を形成してもよい。
【0044】
引き続いて、集光スポットCのYZ面E内でのビーム形状を傾斜形状とするための知見について説明する。まず、集光スポットCの定義について具体的に説明する。ここでは、集光スポットCとは、中心Caから所定範囲(例えばZ方向について中心Caから±25μmの範囲)の領域である。中心Caは、上述したように、ビーム強度が最も高くなる位置、又は、ビーム強度の重心位置である。ビーム強度の重心位置は、例えば、レーザ光Lを分岐させるための変調パターンといったようなレーザ光Lの光軸をシフトさせる変調パターンによる変調が行われていない状態でのレーザ光Lの光軸上で、ビーム強度の重心が位置する位置である。ビーム強度が最も高くなる位置やビーム強度の重心は、以下のように取得できる。すなわち、レーザ光Lの出力を対象物11に改質領域12が形成されない程度に(加工閾値よりも)低くした状態で、対象物11にレーザ光Lを照射する。これと共に、対象物11のレーザ光Lの入射面と反対側の面(ここでは第2面11b)からのレーザ光Lの反射光を、例えば
図15に示されるZ方向の複数の位置F1~F7についてカメラで撮像する。これにより、得られた画像に基づいてビーム強度の最も高くなる位置や重心を取得できる。なお、改質領域12は、この中心Ca付近で形成される。
【0045】
集光スポットCでのビーム形状を傾斜形状とするためには、変調パターンをオフセットさせる方法がある。より具体的には、空間光変調器7には、波面の歪を補正するための歪補正パターン、レーザ光を分岐するためのグレーティングパターン、スリットパターン、非点収差パターン、コマ収差パターン、及び、球面収差補正パターン等の種々のパターンが表示される(これらが重畳されたパターンが表示される)。このうち、
図9に示されるように、球面収差補正パターンPsをオフセットさせることにより、集光スポットCのビーム形状を調整可能である。
【0046】
図9の例では、変調面7aにおいて、球面収差補正パターンPsの中心Pcを、レーザ光Lの(ビームスポットの)中心Lcに対して、Y方向の負側にオフセット量Oy1だけオフセットさせている。上述したように、変調面7aは、4fレンズユニット34によって、集光レンズ33の入射瞳面33aに転像される。したがって、変調面7aにおけるオフセットは、入射瞳面33aでは、Y方向の正側へのオフセットになる。すなわち、入射瞳面33aでは、球面収差補正パターンPsの中心Pcは、レーザ光Lの中心Lc、及び入射瞳面33aの中心(ここでは、中心Lcと一致している)からY方向の正側にオフセット量Oy2だけオフセットされる。
【0047】
このように、球面収差補正パターンPsをオフセットさせることにより、レーザ光Lの集光スポットCのビーム形状が、
図7に示されるように弧状の傾斜形状に変形される。以上のように球面収差補正パターンPsをオフセットさせることは、レーザ光Lに対してコマ収差を与えることに相当する。したがって、空間光変調器7の変調パターンに、レーザ光Lに対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含ませることにより、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状としてもよい。なお、コマ収差パターンとしては、Zernikeの多項式の9項(3次のコマ収差のY成分)に相当するパターンであって、Y方向にコマ収差が発生するパターンを使用することができる。
【0048】
引き続いて、対象物11の結晶性と亀裂13との関係についての知見を説明する。
図10は、対象物の模式的な平面図である。ここでは、対象物11は、シリコンウェハ(t775μm、<100>、1Ω・cm)であり、ノッチ11dが形成されている。この対象物11に対して、加工進行方向であるX方向を0°(100)面に合わせた第1加工例を
図11の(a)に示し、X方向を15°に合わせた第2加工例を
図11の(b)に示し、30°に合わせた第3加工例を
図12の(a)に示し、及び、45°(100)面に合わせた第4加工例を
図12の(b)に示す。各加工例においては、YZ面内におけるラインDのY方向からの角度θを71°としている。
【0049】
また、各加工例では、第1パスとして集光スポットC1をX方向に相対移動させて改質領域12a及び亀裂13aを形成した後に、第2パスとして集光スポットC2をX方向に相対移動させて改質領域12b及び亀裂13bを形成するシングルパス加工としている。第1パス及び第2パスの加工条件は以下のとおりとした。なお、以下のCPは集光補正の強度を示したものであり、コマ(LBAオフセットY)は、球面収差補正パターンPsのY方向へのオフセット量を空間光変調器7のピクセル単位で示したものである。
【0050】
<第1パス>
Z方向位置:161μm
CP:-18
出力:2W
速度:530mm/s
周波数:80kHz
コマ(LBAオフセットY):-5
Y方向位置:0
【0051】
<第2パス>
Z方向位置:151μm
CP:-18
出力:2W
速度:530mm/s
周波数80kHz
コマ(LBAオフセットY):-5
Y方向位置:0.014mm
【0052】
図11及び
図12に示されるように、いずれの場合であっても、Y方向に対して71°で傾斜するラインDに沿って亀裂13を形成することができた。すなわち、対象物11における主要劈開面である(110)面、(111)面、及び、(100)面等の影響に依らず、すなわち、対象物11の結晶構造に依らずに、所望のラインDに沿って斜めに延びる亀裂13を形成することができた。
【0053】
なお、このように斜めに延びる亀裂13を形成するためのビーム形状の制御は、上記の例に限定されない。引き続いて、ビーム形状を傾斜形状とするための別の例について説明する。
図13の(a)に示されるように、加工進行方向であるX方向に沿った軸線Axに対して非対称な変調パターンPG1によってレーザ光Lを変調し、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状としてもよい。変調パターンPG1は、Y方向におけるレーザ光Lのビームスポットの中心Lcを通るX方向に沿った軸線AxよりもY方向の負側にグレーティングパターンGaを含むと共に、軸線AxよりもY方向の正側に非変調領域Baを含む。換言すれば、変調パターンPG1は、軸線AxよりもY方向の正側のみにグレーティングパターンGaが含まれる。なお、
図13の(b)は、
図13の(a)の変調パターンPG1を集光レンズ33の入射瞳面33aに対応するように反転させたものである。
【0054】
図14の(a)は、集光レンズ33の入射瞳面33aにおけるレーザ光Lの強度分布を示す。
図14の(a)に示されるように、このような変調パターンPG1を用いることにより、空間光変調器7に入射したレーザ光LのうちのグレーティングパターンGaにより変調された部分が集光レンズ33の入射瞳面33aに入射しなくなる。この結果、
図14の(b)及び
図15に示されるように、YZ面E内における集光スポットCのビーム形状を、その全体がZ方向に対して一方向に傾斜した傾斜形状とすることができる。
【0055】
すなわち、この場合には、集光スポットCのビーム形状が、集光スポットCの中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対してY方向の負側に傾斜する共に、集光スポットCの中心Caよりも第1面11aと反対側において、Z方向に対してY方向の正側に傾斜することとなる。なお、
図15の(b)の各図は、
図15の(a)に示されたZ方向の各位置F1~F7におけるレーザ光LのXY面内の強度分布を示し、カメラによる実際の観測結果である。集光スポットCのビーム形状をこのように制御した場合であっても、上記の例と同様に、斜めに伸びる亀裂13を形成できる。
【0056】
さらに、軸線Axに対して非対称な変調パターンとしては、
図16に示される変調パターンPG2,PG3,PG4を採用することもできる。変調パターンPG2は、軸線AxよりもY方向の負側において、軸線Axから離れる方向に順に配列された非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaを含み、軸線AxよりもY方向の正側に非変調領域Baを含む。すなわち、変調パターンPG2は、軸線AxよりもY方向の負側の領域の一部にグレーティングパターンGaを含む。
【0057】
変調パターンPG3は、軸線AXよりもY方向の負側において、軸線Axから離れる方向に順に配列された非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaを含むと共に、軸線AxよりもY方向の正側においても、軸線Axから離れる方向に順に配列された非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaを含む。変調パターンPG3では、軸線AxよりもY方向の正側とY方向の負側とで、非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaの割合を異ならせることで(Y方向の負側で相対的に非変調領域Baが狭くされることで)、軸線Axに対して非対称とされている。
【0058】
変調パターンPG4は、変調パターンPG2と同様に、軸線AxよりもY方向の負側の領域の一部にグレーティングパターンGaを含む。変調パターンPG4では、さらに、X方向についても、グレーティングパターンGaが設けられた領域が一部とされている。すなわち、変調パターンPG4では、軸線AxよりもY方向の負側の領域において、X方向に順に配列された非変調領域Ba、グレーティングパターンGa、及び、非変調領域Baを含む。ここでは、グレーティングパターンGaは、X方向におけるレーザ光Lのビームスポットの中心Lcを通るY方向に沿った軸線Ayを含む領域に配置されている。
【0059】
以上のいずれの変調パターンPG2~PG4によっても、集光スポットCのビーム形状を、少なくとも中心Caよりも第1面11a側においてZ方向に対してY方向の負側に傾斜する傾斜形状とすることができる。すなわち、集光スポットCのビーム形状を、少なくとも中心Caよりも第1面11a側においてZ方向に対してY方向の負側に傾斜するように制御するためには、変調パターンPG1~PG4のように、或いは、変調パターンPG1~PG4に限らず、グレーティングパターンGaを含む非対称な変調パターンを用いることができる。
【0060】
さらに、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とするための非対称な変調パターンとしては、グレーティングパターンGaを利用するものに限定されない。
図17は、非対称な変調パターンの別の例を示す図である。
図17の(a)に示されるように、変調パターンPEは、軸線AxよりもY方向の負側に楕円パターンEwを含むと共に、軸線AxよりもY方向の正側に楕円パターンEsを含む。なお、
図17の(b)は、
図17の(a)の変調パターンPEを集光レンズ33の入射瞳面33aに対応するように反転させたものである。
【0061】
図17の(c)に示されるように、楕円パターンEw,Esは、いずれも、X方向及びY方向を含むXY面における集光スポットCのビーム形状を、X方向を長手方向とする楕円形状とするためのパターンである。ただし、楕円パターンEwと楕円パターンEsとでは変調の強度が異なる。より具体的には、楕円パターンEsによる変調の強度が楕円パターンEwによる変調の強度よりも大きくされている。すなわち、楕円パターンEsによって変調されたレーザ光Lが形成する集光スポットCsが、楕円パターンEwによって変調されたレーザ光Lが形成する集光スポットCwよりもX方向に長い楕円形状となるようにされている。ここでは、軸線AxよりもY方向の負側に相対的に強い楕円パターンEsが配置されている。
【0062】
図18の(a)に示されるように、このような変調パターンPEを用いることにより、YZ面E内における集光スポットCのビーム形状を、中心Caよりも第1面11a側においてZ方向に対してY方向の負側に傾斜する傾斜形状とすることができる。特に、この場合には、YZ面E内における集光スポットCのビーム形状が、中心Caよりも第1面11aと反対側においてもZ方向に対してY方向の負側に傾斜することとなり、全体として弧状となる。なお、
図18の(b)の各図は、
図18の(a)に示されたZ方向の各位置H1~F8におけるレーザ光LのXY面内の強度分布を示し、カメラによる実際の観測結果である。
【0063】
さらには、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とするための変調パターンは、以上の非対称なパターンに限定されない。一例として、そのような変調パターンとして、
図19に示されるように、YZ面E内において複数位置に集光点CIを形成して、複数の集光点CIの全体で(複数の集光点CIを含む)傾斜形状である集光スポットCを形成するように、レーザ光Lを変調するためのパターンが挙げられる。このような変調パターンは一例として、アキシコンレンズパターンに基づいて形成できる。このような変調パターンを用いた場合には、改質領域12自体もYZ面E内において斜めに形成することができる。このため、この場合には、所望する傾斜に応じて正確に斜めの亀裂13を形成できる。一方、このような変調パターンを用いた場合には、上記の他の例と比較して、亀裂13の長さが短くなる傾向がある。したがって、要求に応じて各種の変調パターンを使い分けることにより、所望の加工が可能となる。
【0064】
なお、上記集光点CIは、例えば、非変調のレーザ光が集光される点である。以上のように、本発明者の知見によれば、YZ面E内において少なくとの2つの改質領域12a,12bをY方向及びZ方向にシフトさせ、且つ、YZ面内において集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とすることにより、Z方向に対してY方向に傾斜するように斜めに延びる亀裂13を形成することができるのである。
【0065】
なお、ビーム形状の制御に際して、球面収差補正パターンのオフセットを利用する場合、コマ収差パターンを利用する場合、及び、楕円パターンを利用する場合には、回折格子パターンを利用してレーザ光の一部をカットする場合と比較して、高エネルギーでの加工が可能となる。また、これらの場合には、亀裂の形成を重視する場合に有効である。また、コマ収差パターンを利用する場合には、多焦点加工の場合に、一部の集光スポットのビーム形状のみを傾斜形状とすることが可能である。さらに、アキシコンレンズパターンを利用する場合は、他のパターンの利用は、他のパターンと比較して改質領域の形成を重視する場合に有効である。
[第1実施形態]
【0066】
引き続いて、第1実施形態に係る半導体部材の製造方法、及びレーザ加工装置について説明する。まず、概略について説明する。
図20は、第1実施形態に係る対象物を示す図である。
図20の(a)は平面図であり、
図20の(b)は
図20の(a)のXXb-XXb線に沿っての断面図である。
図20に示される対象物11は、例えば半導体を含む。対象物11は、一例として半導体ウェハ(例えばシリコンウェハ)である。対象物11は、第1面11aと第1面11aの反対側の第2面11bとを含む。ここでは、対象物11を格子状に切断することにより、複数の半導体部材50を形成する。そのために、対象物11には、第1面11a及び第2面11bに平行な複数のラインAが切断予定ラインとして格子状に設定されている。ラインAは例えば仮想的な線である。
【0067】
ここでは、ラインAのうちの一対のラインAa1,Aa2、及び、一対のラインAb1,Ab2を図示している。ラインAa1,Aa2は、Z方向からみて互いに平行に一方向に延びている。ラインAb1,Ab2は、Z方向からみて、ラインAa1,Aa2に交差すると共に互いに平行に一方向に延びている。ここでは、対象物11は、第1面11aが集光レンズ33側に臨むようにステージ2に支持されている。
【0068】
本実施形態では、このような対象物11に対して、ラインAのそれぞれに沿ってレーザ光Lの集光スポットCを相対移動させながらレーザ光Lを照射して、ラインAのそれぞれに沿って改質領域12及び亀裂13を形成する。このとき、集光スポットCは、X方向に相対移動される。すなわち、ここでは、X方向を加工進行方向とする。本実施形態では、この加工進行方向であるX方向に交差(直交)する交差面(YZ面E)内において、Z方向に対してY方向に傾斜した亀裂13を形成する。
図20の(b)では、所望する亀裂13の延びる方向をラインDで示している。YZ面E内において互いに隣り合うラインDは、第2面11bから第1面11aに向かうにつれて互いに離れるように傾斜している。すなわち、本実施形態では、Y方向に互いに隣り合う亀裂13を、第2面11bから第1面11aに向かうにつれて互いに離れるように斜めに形成する。
【0069】
引き続いて、本実施形態に係る半導体部材の製造方法、及びレーザ加工装置を具体的に説明する。この製造方法では、まず、上記のような対象物11を用意すると共に、対象物11を、第1面11aが集光レンズ33側に臨むように、且つ、ラインAa1,Aa2がX方向に沿うように、ステージ2により支持する。
【0070】
その状態において、まず、1つのラインAa1に対して、対象物11にレーザ光L(レーザ光L1,L2)を集光してレーザ光Lの集光スポットC(集光スポットC1,C2)を形成すると共に、集光スポットCを対象物11に対してX方向に相対移動させることにより、対象物11のレーザ加工を行うレーザ加工工程を実施する。
【0071】
より具体的には、レーザ加工工程では、
図21に示されるように、対象物11におけるレーザ光L1の入射面である第1面11aに交差するZ方向についての集光スポットC1の位置を第1Z位置Z1に設定しつつ、X方向に延びるラインAa1に沿って集光スポットC1を相対移動させることにより、改質領域(第1改質領域)12a及び改質領域12aから延びる亀裂(第1亀裂)13aを対象物11に形成する第1形成工程を実施する。第1形成工程では、第1面11aに沿うと共にX方向に交差するY方向についての集光スポットC1の位置を第1Y位置Y1に設定する。
【0072】
また、レーザ加工工程では、Z方向についてのレーザ光L2の集光スポットC2の位置を、第1形成工程での集光スポットC1の第1Z位置Z1よりも第1面11a(入射面)側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインAa1に沿って集光スポットC2をX方向に相対移動させることにより、改質領域12b(第2改質領域)及び改質領域12bから延びる亀裂(第2亀裂)13bを形成する第2形成工程を実施する。第2形成工程では、Y方向についての集光スポットC2の位置を、集光スポットC1の第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2に設定する。また、第2形成工程では、Y方向及びZ方向を含むYZ面E内での集光スポットC2のビーム形状が、少なくとも集光スポットC2の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を変調させる。これにより、YZ面E内において当該シフトの方向に傾斜するように亀裂13bが形成される。なお、Y方向についての集光スポットC1と集光スポットC2との距離Sy(シフト量)は、Y方向に隣り合う2つのラインAa1,Aa2のY方向の間隔よりも小さい。
【0073】
なお、ここでは、第1形成工程でも、第2形成工程と同様に、Y方向及びZ方向を含むYZ面E内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L1を変調させる。以上により、亀裂13aと亀裂13bとがつなげられ、改質領域12a,12bにわたって斜めに延びる亀裂13が形成される。亀裂13は、対象物11の第1面11a及び/又は第2面11bに到達してもよいし到達しなくてもよい(要求される加工の態様に応じて適宜設定され得る)。
【0074】
これらの第1形成工程及び第2形成工程を含むレーザ加工工程は、例えば、レーザ加工装置1の制御部6がレーザ加工装置1の各部を制御することにより行うことができる。すなわち、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、制御部6が、空間光変調器7及び駆動部4,5を制御することによって、Z方向についての集光スポットC1の位置を第1Z位置Z1に設定しつつ、X方向に延びるラインAa1に沿って集光スポットC1を相対移動させることにより、改質領域12a及び亀裂13aを対象物11に形成する第1形成処理と、Z方向についての集光スポットC2の位置を第1Z位置Z1よりも第1面11a側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインAa1に沿って集光スポットC2を相対移動させることにより、改質領域12b及び亀裂13bを形成する第2形成処理と、を実施することとなる。
【0075】
また、第1形成処理では、制御部6は、Y方向についての集光スポットC1の位置を第1Y位置Y1に設定する。第2形成処理では、制御部6は、Y方向についての集光スポットC2の位置を第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2に設定すると共に、空間光変調器7に表示させる変調パターンの制御によって、YZ面E内での集光スポットC2のビーム形状が、少なくとも集光スポットC2の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を変調させる。制御部6は、第1形成処理でも、第2形成処理と同様に、YZ面E内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L1を変調させる。なお、ビーム形状を傾斜形状とするための変調パターンは、上述したとおりである。
【0076】
すなわち、ここでの変調パターンは、レーザ光Lに対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、少なくとも第2形成処理では、制御部6は、コマ収差パターンによるコマ収差の大きさを制御することにより、集光スポットC2のビーム形状を傾斜形状とするための第1パターン制御を行うことができる。上述したように、レーザ光Lに対してコマ収差を付与することは、球面収差補正パターンのオフセットと同義である。
【0077】
したがって、ここでの変調パターンは、レーザ光Lの球面収差を補正するための球面収差補正パターンPsを含み、少なくとも第2形成処理では、制御部6は、集光レンズ33の入射瞳面33aの中心に対して球面収差補正パターンPsの中心PcをY方向にオフセットさせることにより、集光スポットC2のビーム形状を傾斜形状とするための第2パターン制御を行ってもよい。
【0078】
或いは、第2形成処理では、制御部6は、X方向に沿った軸線Axに対して非対称な変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、集光スポットC2のビーム形状を傾斜形状とするための第3パターン制御を行ってもよい。軸線Axに対して非対称な変調パターンとしては、グレーティングパターンGaを含む変調パターンPG1~PG4であってもよいし、楕円パターンEs,Ewを含む変調パターンPEであってもよい(或いは両方を含むものであってもよい)。
【0079】
すなわち、ここでの変調パターンは、XY面内における集光スポットCのビーム形状を、X方向を長手とする楕円形状とするための楕円パターンEs,Ewを含み、第2形成処理では、制御部6は、楕円パターンEs,Ewの強度が、X方向に沿った軸線Axに対して非対称となるように、変調パターンPEを空間光変調器7に表示させることによって、集光スポットC2のビーム形状を傾斜形状とするための第4パターン制御を行ってもよい。
【0080】
さらには、制御部6は、第2形成処理において、YZ面E内で当該シフトの方向に沿って配列された複数の集光点CIを形成するための変調パターン(例えば上記のアキシコンレンズパターンPA)を空間光変調器7に表示させることにより、複数の集光点CIを含む集光スポットC2のビーム形状を傾斜形状とするための第5パターン制御を行ってもよい。上記の各種パターンは任意に組み合わされて重畳されてもよい。すなわち、制御部6は、第1パターン制御~第5パターン制御を任意に組み合わせて実行することができる。
【0081】
なお、第1形成工程(第1形成処理)と第2形成工程(第2形成処理)とは、同時に実施されてもよいし(多焦点加工)、順番に実施されてもよい(シングルパス加工)。すなわち、制御部6は、一のラインA(例えばラインAa1)に対して、第1形成処理を実施した後に、第2形成処理を実施してもよい。或いは、制御部6は、レーザ光Lをレーザ光L1,L2に分岐させるための分岐パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、対象物11に設定された一のラインA(例えばラインAa1)に対して第1形成処理と第2形成処理とを同時に実施してもよい。
【0082】
本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、以上のレーザ加工工程を全てのラインAに対して実施する。これにより、全てのラインAに沿って改質領域12及び亀裂13が形成される。その後、本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、対象物11の一部を分離することにより、対象物11から半導体部材50を形成する分離工程を実施する。
【0083】
より具体的には、分離工程では、亀裂13を境界として対象物11の一部を分離することにより、
図22の(a)に示されるように、少なくとも亀裂13bによって規定される傾斜面である側面50sを含む半導体部材50を形成する。ここでは、対象物11をラインAに沿って亀裂13を境界として切断することにより、複数の半導体部材50を形成する。側面50sは、半導体部材50の外側面であって、第1面11aの一部である半導体部材50の第1面50aと、第2面11bの一部である半導体部材50の第2面50bとを接続する面であり、第1面50a及び第2面50bの法線に対して傾斜している。
【0084】
以上により、半導体部材50が得られる(
図22の(a)参照)。以上の半導体部材の製造方法は、本実施形態に係るレーザ加工方法を含む。本実施形態に係るレーザ加工方法は、上述したレーザ加工工程を含む。
【0085】
なお、
図22の(b)に示されるように、本実施形態に係る半導体部材の製造方法によって得られた複数の半導体部材50を、一の半導体部材50の第1面50aと別の半導体部材50の第2面50bとが対向するように積層して、積層型の半導体素子50Aを構成することができる。ここでは、第1面50aの面積が第2面50bの面積よりも大きい。したがって、半導体素子50Aでは、一の半導体部材50の第1面50aに対して、別の半導体部材50の第2面50bによって覆われていない(第2面50bから露出された)領域が形成される。したがって、その第1面50aにおける第2面50bによって覆われていない領域をワイヤボンディングのワイヤWの設置個所として利用することにより、例えば貫通電極といった内部構造を利用することなく、半導体部材50同士を電気的に接続することが可能である。
【0086】
また、
図23の(a)に示されるように、例えば基板51上に、複数の半導体部材50を、第1面50aが同一方向に臨むように配列して設置することにより(タイリングにより)、半導体素子50Bを構成することができる。この場合には、隣接する半導体部材50の側面50s同士が傾斜に応じて互いに離間することとなるので、半導体部材50を形成する際に側面50sに突起が生じた場合であっても、隣接する半導体部材50の間でその突起の干渉が避けられ、複数の半導体部材50を密集して配置できる。
【0087】
また、
図23の(b)に示されるように、分離工程において、対象物11から一部55を分離することにより、残存した別の一部として半導体部材50Cを形成してもよい。より具体的には、分離工程では、対象物11のエッチングを行うことにより、亀裂13及び改質領域12に沿ってエッチングを進行させ、対象物11から一部55を除去することができる。これにより、亀裂13によって規定される内側面である側面50sを含む半導体部材50Cが得られる。
【0088】
さらに、
図23の(c)に示されるように、面取り加工された半導体部材50Dを形成することもできる。この場合、一例として、レーザ加工工程において、改質領域12b及び亀裂13bよりも第1面11a側に別の改質領域を形成することにより、当該別の改質領域からZ方向に沿って延びる垂直亀裂を亀裂13に繋がるように形成する。そして、分離工程において、亀裂13及び垂直亀裂を境界として対象物11から一部を分離することによって、亀裂13によって規定される傾斜面である側面50sと、垂直亀裂によって規定される垂直面である側面50rとを含む半導体部材50Dが得られる。半導体部材50Dは、側面50rと第1面50aとの間を傾斜した側面50sが接続することにより、面取りされた形状となる。これにより、欠け防止が図られる。
【0089】
以上説明したように、本実施形態に係る半導体部材の製造方法(レーザ加工方法)、及び、レーザ加工装置1では、第1Z位置Z1において、X方向に延びるラインAa1に沿ってレーザ光L1の集光スポットC1が相対移動させられることにより、改質領域12a及び亀裂13aが形成される。また、第1Z位置Z1よりも第1面11a側の第2Z位置Z2において、ラインAa1に沿ってレーザ光L2の集光スポットC2が相対移動させられることにより、改質領域12b及び亀裂13bが形成される。集光スポットC1は、改質領域12a及び亀裂13aの形成の際にはY方向について第1Y位置Y1とされ、改質領域12b及び亀裂13bの形成の際にはY方向について第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2とされる。
【0090】
さらに、改質領域12b及び亀裂13bの形成の際には、YZ面E内での集光スポットC2のビーム形状が、少なくとも集光スポットC2の中心よりも第1面11a側において集光スポットC2のシフト方向に傾斜する傾斜形状とされる。本発明者の知見によれば、このように、集光スポットC2をY方向にシフトさせ、且つ、集光スポットC2のビーム形状を制御することにより、少なくとも亀裂13bをYZ面E内において当該シフト方向に傾斜した斜め亀裂とすることができる。すなわち、斜め亀裂を形成可能である。
【0091】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、制御部6は、第1形成処理において、YZ面E内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心よりも第1面11a側においてシフト方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光Lを変調させることにより、YZ面E内においてシフト方向に傾斜するように亀裂13aを形成する。このため、改質領域12a及び改質領域12bにわたって斜めに延びる亀裂13を確実に形成可能である。
【0092】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、変調パターンは、レーザ光Lに対して正のコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含んでもよい。この場合、制御部6は、第2形成処理において、コマ収差パターンによるコマ収差の大きさを制御することにより、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とするための第1パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合、YZ面E内における集光スポットCのビーム形状が弧状に形成される。すなわち、この場合には、集光スポットCのビーム形状が、集光スポットCの中心Caよりも第1面11a側でシフト方向に傾斜すると共に、集光スポットCの中心Caよりも第2面11b側でシフト方向と反対方向に傾斜される。この場合であっても、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0093】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、変調パターンは、レーザ光Lの球面収差を補正するための球面収差補正パターンPsを含んでもよい。この場合、制御部6は、第2形成処理において、集光レンズ33の入射瞳面33aの中心に対して球面収差補正パターンPsの中心PcをY方向にオフセットさせることにより、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とするための第2パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、コマ収差パターンを利用した場合と同様に、YZ面E内における集光スポットCのビーム形状を弧状に形成でき、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0094】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、制御部6は、第2形成処理において、X方向に沿った軸線Axに対して非対称な変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、ビーム形状を傾斜形状とするための第3パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合、YZ面E内における集光スポットCのビーム形状の全体を、シフト方向に傾斜させることができる。この場合であっても、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0095】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、変調パターンは、X方向及びY方向を含むXY面内における集光スポットCのビーム形状を、X方向を長手とする楕円形状とするための楕円パターンEs,Ewを含んでもよい。この場合、制御部6は、第2形成処理において、楕円パターンEs,Ewの強度が、X方向に沿った軸線Axに対して非対称となるように、変調パターンを空間光変調器7に表示させることによって、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とするための第4パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、YZ面E内における集光スポットCのビーム形状を弧状に形成でき、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0096】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、制御部6は、第2形成処理において、YZ面E内でシフトの方向に沿って配列された複数の集光点CIを形成するための変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、複数の集光点CIを含む集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とするための第5パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0097】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、制御部6は、X方向に沿って対象物11に設定された一のラインAa1に対して、第1形成処理を実施した後に、第2形成処理を実施してもよい。このように、第1形成処理と第2形成処理とを別途行う場合であっても、斜め亀裂を形成可能である。さらには、レーザ加工装置1では、制御部6は、レーザ光Lを分岐させるための分岐パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、対象物11に設定された一のラインAa1に対して第1形成処理と第2形成処理とを同時に実施してもよい。このように、第1形成処理と第2形成処理とを同時に実施する場合であっても、斜め亀裂を形成可能である。
[第2実施形態]
【0098】
引き続いて、第2実施形態に係る半導体部材の製造方法、及びレーザ加工装置について説明する。まず、概略について説明する。
図24は、第2実施形態に係る対象物を示す図である。
図24の(a)は平面図であり、
図24の(b)は
図24の(a)のXXIb-XXIb線に沿っての断面図である。
図24に示される対象物11は、例えば半導体を含む。対象物11は、一例として半導体ウェハ(例えばシリコンウェハ)である。対象物11は、第1面11aと第1面11aの反対側の第2面11bとを含む。また、対象物11は、第1面11aを含む第1領域11Aと、第2面11bを含む第2領域11Bと、を含む。
【0099】
なお、図中のラインGは第1領域11Aと第2領域11Bとの境界を示す仮想的な線である。第1領域11Aは、第1面11aに沿った研削予定領域である。ここでは、対象物11(第2領域11B)から円形の半導体部材60を切り出す。そのために、対象物11には、Z方向からみて円形状に延びる複数のラインAcが切断予定ラインとして設定されている。ラインAcは例えば仮想的な線である。
【0100】
対象物11は、一例として、第1面11aが集光レンズ33側に臨むようにステージ2に支持される。本実施形態では、このような対象物11に対して、ラインAcのそれぞれに沿ってレーザ光Lの集光スポットCを相対移動させながらレーザ光Lを照射して、ラインAのそれぞれに沿って改質領域12及び亀裂13を形成する。このとき、集光スポットCは、X方向に相対移動される。すなわち、ここでは、X方向を加工進行方向とする。本実施形態では、この加工進行方向であるX方向に交差(直交)する交差面(YZ面E)内において、Z方向に対してY方向に傾斜した亀裂13を形成する。
【0101】
図24の(b)では、所望する亀裂13の延びる方向をラインDで示している。YZ面E内において互いに隣り合うラインDは、第2面11bから第1面11aに向かうにつれて互いに離れるように傾斜している。換言すれば、本実施形態では、YZ面E内においてY方向に互いに隣り合う亀裂13を、第2面11bから第1面11aに向かうにつれて互いに離れるように斜めに形成する。さらに換言すれば、本実施形態では、YZ面E内において、第2面11bから第1面11aに向かうにつれてラインAcの中心を通る(Z方向に沿った)基準線Azから離れるようにZ方向に対して傾斜する亀裂13を形成する。
【0102】
なお、亀裂の傾斜方向は逆であってもよい。すなわち、YZ面E内において互いに隣り合うラインDが、第2面11bから第1面11aに向かうにつれて互いに近づくように傾斜していてもよい。換言すれば、YZ面E内においてY方向に互いに隣り合う亀裂13を、第2面11bから第1面11aに向かうにつれて互いに近づくように斜めに形成してもよい。さらに換言すれば、YZ面E内において、第2面11bから第1面11aに向かうにつれてラインAcの中心を通る(Z方向に沿った)基準線Azに近づくようにZ方向に対して傾斜する亀裂13を形成してもよい。これらの傾斜方向のバリエーションは、得られる半導体部材の形状や用途や分割方法等の要求によって任意に選択され得る。例えば、後述するように(
図26の(c)に示されるように)、得られた半導体部材60を第1面11a(第1面60a)側からピックアップする場合と、第2面11b(第2面60b)側からピックアップする場合とで適宜に選択され得る。
【0103】
引き続いて、本実施形態に係る半導体部材の製造方法、及びレーザ加工装置を具体的に説明する。この方法では、まず、上記のような対象物11を用意すると共に、対象物11を、第1面11aが集光レンズ33側に臨むようにステージ2により支持する。その状態において、まず、1つのラインAcに対して、対象物11にレーザ光L(レーザ光L1,L2)の集光スポットC(集光スポットC1,C2)を形成すると共に、ラインAcに沿って集光スポットCを対象物11に対して相対移動させることにより、ラインAcに沿って対象物11に改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂13を形成するレーザ加工工程を実施する。
【0104】
より具体的には、レーザ加工工程では、
図25に示されるように、対象物11におけるレーザ光L1の入射面である第1面11aに交差するZ方向についての集光スポットC1の位置を第1Z位置Z1に設定しつつ、ラインAa1に沿って集光スポットC1を相対移動させることにより、改質領域12a及び改質領域12aから延びる亀裂13aを対象物11に形成する第1形成工程を実施する。第1Z位置Z1は、研削予定領域である第1領域11Aに設定される。第1形成工程では、第1面11aに沿うと共にX方向に交差するY方向についての集光スポットC1の位置を第1Y位置Y1に設定する。
【0105】
また、レーザ加工工程では、Z方向についてのレーザ光L2の集光スポットC2の位置を、第1形成工程での集光スポットC1の第1Z位置Z1よりも第1面11a(入射面)側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインAcに沿って集光スポットC2をX方向に相対移動させることにより、改質領域12b及び改質領域12bから延びる亀裂13bを形成する第2形成工程を実施する。第2Z位置Z2は、研削予定領域である第1領域11Aに設定される。第2形成工程では、Y方向についての集光スポットC2の位置を、集光スポットC1の第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2に設定する。また、第2形成工程では、YZ面E内での集光スポットC2のビーム形状が、少なくとも集光スポットC2の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を変調させる。これにより、YZ面E内において当該シフトの方向に傾斜するように亀裂13bが形成される。
【0106】
なお、ここでは、第1形成工程でも、第2形成工程と同様に、YZ面E内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L1を変調させる。以上により、亀裂13aと亀裂13bがつながり、改質領域12a,12bにわたって斜めに延びる亀裂13が形成される。図示の例では、亀裂13は、対象物11の第1面11a及び第2面11bに到達しているが、到達していなくてもよい。
【0107】
これらの第1形成工程及び第2形成工程を含むレーザ加工工程は、例えば、第1実施形態と同様に、レーザ加工装置1の制御部6がレーザ加工装置1の各部を制御することにより行うことができる。すなわち、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、制御部6が、空間光変調器7及び駆動部4,5を制御することによって、Z方向についての集光スポットC1の位置を第1Z位置Z1に設定しつつ、ラインAcに沿って集光スポットC1を相対移動させることにより、改質領域12a及び亀裂13aを対象物11に形成する第1形成処理と、Z方向についての集光スポットC2の位置を第1Z位置Z1よりも第1面11a側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインAcに沿って集光スポットC2を相対移動させることにより、改質領域12b及び亀裂13bを形成する第2形成処理と、を実施することとなる。
【0108】
また、第1形成処理では、制御部6は、Y方向についての集光スポットC1の位置を第1Y位置Y1に設定する。第2形成処理では、制御部6は、Y方向についての集光スポットC2の位置を第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2に設定すると共に、空間光変調器7に表示させる変調パターンの制御によって、YZ面E内での集光スポットC2のビーム形状が、少なくとも集光スポットC2の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を変調させる。ここでは、制御部6は、同様に、YZ面E内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L1を変調させる。なお、ビーム形状を傾斜形状とするための変調パターンは、上述したとおりである。
【0109】
なお、第1形成工程(第1形成処理)と第2形成工程(第2形成処理)とは、同時に実施されてもよいし(多焦点加工)、順番に実施されてもよい(シングルパス加工)。すなわち、制御部6は、一のラインAcに対して、第1形成処理を実施した後に、第2形成処理を実施してもよい。或いは、制御部6は、レーザ光Lをレーザ光L1,L2に分岐させるための分岐パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、対象物11に設定された一のラインAcに対して第1形成処理と第2形成処理とを同時に実施してもよい。
【0110】
また、集光スポットC1,C2をX方向に相対移動させるためには、例えば、Z方向からみて集光スポットC1,C2がラインAc上に位置されている状態において、制御部6が駆動部4を制御して集光スポットC1,C2が円形状のラインAcに沿って移動するようにステージ2を2次元状に移動させればよい。或いは、集光スポットC1,C2がラインAcに沿って移動するように、制御部6が駆動部5を制御することによってレーザ照射部3を移動させてもよいし、制御部6がステージ2を回転させるような制御を行ってもよいし、制御部6がそれらを組み合わせた制御を行ってもよい。
【0111】
このように集光スポットC1,C2を円形状のラインAcに沿って相対移動させて加工を行う場合には、XY面内において、集光スポットC1,C2を長尺状としつつ、その長手方向が加工進行方向であるX方向に対して傾斜するように集光スポットC1,C2を回転させるように制御することができる。一例として、集光スポットC1,C2を、XY面内において、その長手方向とX方向との角度が、第1角度(+10°~+35°)となるように回転することができ、また、第2角度(-35°~-10°)となるように回転することができる。第1角度とするか第2角度とするかは、ラインAcと対象物11の結晶方位との関係に応じて選択され得る。この場合には、空間光変調器7では、上記のようにYZ面内でのビーム形状を傾斜形状とするための変調パターンと、XY面内でのビーム形状を長尺状とするためのパターンとが重畳されることとなる。
【0112】
本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、以上のレーザ加工工程を全てのラインAcに対して実施する。これにより、全てのラインAcに沿って改質領域12及び亀裂13が形成される。すなわち、ここでは、レーザ加工工程では、複数のラインAcのそれぞれに沿って集光スポットCを相対移動さることにより、複数のラインAcのそれぞれに沿って改質領域12及び亀裂13を形成することとなる。
【0113】
その後、本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、対象物11の一部を分離することにより、対象物11から半導体部材60を形成する分離工程を実施する。より具体的には、分離工程の前に、まず、
図26の(a),(b)に示されるように、第1面11a側から対象物11を研削して第1領域11Aを除去する研削工程を実施する。これにより、第1領域11Aと共に改質領域12及び亀裂13の一部が除去される。また、第2面11bと反対側に新たな第1面11c(残存する第2領域11Bの表面)が形成される。すなわち、ここでは、レーザ加工工程と分離工程との間において、Z方向に沿って対象物11を研削することにより、対象物11から改質領域12を除去する研削工程が実施される。
【0114】
その後、
図26の(c)に示されるように、第2面11b側から分離される一部(半導体部材60に相当する部分)に力を加えると共に、その一部の外側面(半導体部材60の外側面60sに相当する面)を治具により保持しつつ、当該一部を第2領域11Bから分離する。これにより、半導体部材60が形成される。なお、半導体部材60は、新たな第1面11cの一部である第1面60aと、第2面11bの一部である第2面60bとを含む。外側面60sは、第1面60aと第2面60bとを接続する面であって、亀裂13によって規定される傾斜面である。外側面60sは、第1面60a及び第2面60bの法線に対して傾斜している。
【0115】
なお、分離工程の後に研削工程を実施してもよい。すなわち、分離工程の後に、Z方向に沿って半導体部材60を研削することにより、半導体部材60から改質領域12を除去する研削工程を実施してもよい。
【0116】
以上の半導体部材の製造方法は、本実施形態に係るレーザ加工方法を含む。本実施形態に係るレーザ加工方法は、上述したレーザ加工工程を含む。
【0117】
なお、本実施形態では、
図27の(a)に示される半導体部材60Aや、
図27の(b)に示される半導体部材60Bといったように、半導体部材60と異なる形状の部材を製造することもできる。引き続いて、これらの半導体部材60A,60Bを製造する場合の一例について説明する。
【0118】
半導体部材60Aは、半導体部材60と同様に、第1面60a、第2面60b、及び、外側面60sを含む。さらに、半導体部材60Aは、外側面60rを含む。外側面60rは、第1面60a及び第2面60bの法線に対して平行である。外側面60sは、第2面60bに接続されており、外側面60rは第1面60aに接続されている。これにより、外側面60s,60rは、第1面60aと第2面60bとを接続している。
【0119】
このような半導体部材60Aを製造する場合、
図28に示されるように、上述した改質領域12及び亀裂13の形成に加えて、対象物11に対して改質領域14及び改質領域14からZ方向に沿って延びる亀裂15をさらに形成することとなる。すなわち、半導体部材60Aを形成する場合、レーザ加工工程は、改質領域12及び亀裂13を形成するための第1加工工程と、改質領域14及び亀裂15を形成するための第2加工工程を含むこととなる。第1加工工程は、上述したとおりである。すなわち、第1加工工程では、ラインAcに沿って集光スポットCを対象物11に対して相対移動させることにより、ラインAcに沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、改質領域12から延びる亀裂13を形成する。亀裂13は、YZ面E内において第1面11aに向かうにつれてラインAcの中心を通る(Z方向に沿った)基準線Azから離れるようにZ方向に対して傾斜している。なお、図示の例では、改質領域12として、改質領域12aと改質領域12bとの間に介在する別の改質領域12cをさらに形成している。
【0120】
一方、第2加工工程では、ラインAcに沿ってレーザ光の集光スポットを対象物11に対して相対移動させることにより、亀裂13よりも第1面11a側に改質領域14を形成すると共に、YZ面E内において改質領域14からZ方向に沿って亀裂13及び第1面11aに向けて延びる亀裂15を形成する。ここでは、亀裂15の一端は亀裂13に至り、亀裂15の他端は第1面11aに至っている。また、ここでは、Z方向に並ぶ2つの改質領域14を形成している。なお、
図28の(a)では、所望する亀裂15の延びる方向(ここではZ方向)をラインKで示している。
【0121】
以上のように改質領域12,14及び亀裂13,15が形成された状態において、研削工程及び分離工程を実施することにより、亀裂13,15を境界として対象物11の一部を分離し、半導体部材60Aが得られる。亀裂13は、半導体部材60Aの外側面60sを規定し、亀裂15は、半導体部材60Aの外側面60rを規定する。なお、第1加工工程では、YZ面E内において第1面11aに向かうにつれてラインAcの中心を通る(Z方向に沿った)基準線Azから近づくようにZ方向に対して傾斜する亀裂13を形成してもよい。
【0122】
図27の(b)に示される半導体部材60Bは、半導体部材60Aと同様に、第1面60a、第2面60b、外側面60s、及び、外側面60rを含む。さらに、半導体部材60Bは、外側面60mを含む。外側面60mは、第1面60a及び第2面60bの法線に対して傾斜した傾斜面である。外側面60mの傾斜の方向は、外側面60sの傾斜の方向と反対である。半導体部材60Bでは、外側面60sは第2面60bに接続されており、外側面60mは第1面60aに接続されており、外側面60rは外側面60s及び外側面60mに接続されている。これにより、外側面60s,60r,60mは、第1面60aと第2面60bとを接続している。
【0123】
このような半導体部材60Bを製造する場合、
図29に示されるように、上述した改質領域12,14及び亀裂13,15の形成に加えて、対象物11に対して改質領域16及び改質領域16から斜めに延びる亀裂17をさらに形成することとなる。すなわち、半導体部材60Bを形成する場合、レーザ加工工程は、改質領域12及び亀裂13を形成するための第1加工工程と、改質領域14及び亀裂15を形成するための第2加工工程とに加えて、改質領域16及び亀裂17を形成するための第3加工工程をさらに含むこととなる。
【0124】
第1加工工程及び第2加工工程は上述したとおりである。一方、第3加工工程では、ラインAcに沿ってレーザ光の集光スポットを対象物11に対して相対移動させることにより、亀裂13と亀裂15との交点よりも第1面11a側に改質領域16を形成すると共に、改質領域16から亀裂15に向けて延びる亀裂17を形成する。亀裂17は、YZ面E内において、第1面11aに向かうにつれて基準線Azに近づくようにZ方向に対して傾斜している。このように、YZ面E内での亀裂17の傾斜の方向は、亀裂13の傾斜の方向と反対である。ここでは、亀裂17の一端は亀裂15に至り、亀裂17の他端は第1面11aに至っている。また、ここでは、YZ面E内に並ぶ2つの改質領域16を形成している。なお、
図29の(a)では、所望する亀裂17の延びる方向をラインKで示している。
【0125】
以上のように改質領域12,14,16及び亀裂13,15,17が形成された状態において、研削工程及び分離工程を実施することにより、亀裂13,15,17を境界として対象物11の一部を分離し、半導体部材60Bが得られる。亀裂13は、半導体部材60Bの外側面60sを規定し、亀裂15は、半導体部材60Bの外側面60rを規定し、亀裂17は、半導体部材60Bの外側面60mを規定する。
【0126】
なお、対象物11における半導体部材60Bに相当する一部は、Z方向について中心側が相対的に大径となる形状を有している。したがって、分離工程では、対象物11の形状を維持したまま半導体部材60Bに相当する一部を対象物11から抜き出すことが困難である。よって、この場合には、分離工程の前に、対象物11を複数の部分に切断するための加工が必要となる。そのために、
図30の(a)に示されるように、Z方向からみて、それぞれのラインAcから対象物11の外縁に至るようにラインAsが設定されている。
【0127】
ラインAsは、ラインAcと接続されることによって、Z方向からみたときに対象物11がラインAsとラインAcとによって複数の部分に区画されるように設定されている。そして、分離工程の前に、ラインAsに沿って改質領域及び亀裂を形成しておく。これにより、分離工程では、ラインAsに沿って形成された改質領域及び亀裂を境界として対象物11が切断されることとなり、対象物11から容易に半導体部材60Bを分離することが可能となる。
【0128】
なお、以上の例では研削工程を実施する場合について説明したが、研削工程は必須ではない。例えば、YZ面内において、改質領域12,14,16を対象物11のZ方向の全体にわたるようにZ方向に配列して形成すると共に、それらの改質領域12,14,16にわたるように亀裂13,15,17を形成する。そして、外力を印加することにより、改質領域12,14,16及び亀裂13,15,17を境界として対象物11を分割して半導体部材60Bを取得する。得られた半導体部材60Bは、外側面60s,60r,60mに露出する改質領域(改質領域12,14,16の一部)を含むこととなる。この場合には、半導体部材60Bに対してエッチングを施すことにより、外側面60s,60r,60mに露出する改質領域を除去してもよい。
【0129】
以上説明したように、本実施形態に係る半導体部材の製造方法(レーザ加工方法)、及び、レーザ加工装置1では、第1実施形態と同様に、集光スポットC2をY方向にシフトさせ、且つ、集光スポットC2のビーム形状を制御することにより、少なくとも亀裂13bをYZ面E内において当該シフト方向に傾斜した斜め亀裂とすることができる。すなわち、斜め亀裂を形成可能である。
【0130】
また、本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、円形状に延びるラインAcに沿ってレーザ光Lの集光スポットCを対象物11に対して相対移動させることにより、当該ラインAcに沿って対象物11に改質領域12及び亀裂13を形成する。このとき、ラインAcに交差する交差面(YZ面E)内において、Z方向に対して傾斜した亀裂13を形成する。そして、当該亀裂13を境界として対象物11の一部を分離することにより、半導体部材60を形成する。これにより、亀裂13によって規定される傾斜面を外側面60sとして含む半導体部材60が得られる。この傾斜した外側面60sは、例えば、半導体部材60の搬送時に、半導体部材60の表裏面(第1面60a及び第2面60b)を保護しつつ(表裏面に触れずに)半導体部材60を保持するためのベベルとして利用され得る。このように、本実施形態に係る半導体部材の製造方法によれば、レーザ加工によってベベルを有する半導体部材60を形成可能である。
【0131】
また、本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、対象物11には、複数のラインAcが設定されており、レーザ加工工程では、複数のラインAcのそれぞれに沿って集光スポットCを相対移動させることにより、複数のラインAcのそれぞれに沿って改質領域12及び亀裂13を形成する。そして、分離工程では、複数のラインAcのそれぞれに沿って対象物11の一部を分離することにより、対象物11から複数の半導体部材60を形成する。このように、1つの対象物11から複数の半導体部材60を製造する場合でも、それぞれの半導体部材60にベベルを形成可能である。
【0132】
また、本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、レーザ加工工程は、ラインAcに沿って集光スポットを対象物11に対して相対移動させることにより、亀裂13よりも第1面11a側に改質領域14を形成すると共に、改質領域14から亀裂13に向けて延びる亀裂15を形成する第2加工工程を含んでもよい。また、第1加工工程ではYZ面E内において、第1面11aに向かうにつれてラインAcの中心を通る基準線Azから離れるようにZ方向に対して傾斜する亀裂13を形成し、第2加工工程では、YZ面Eにおいて、Z方向に沿って延びる亀裂15を形成してもよい。この場合、亀裂13によって規定される傾斜面(外側面60s)と、亀裂15によって規定される垂直面(外側面60r)とを含む半導体部材60Aを形成できる。
【0133】
さらに、本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、レーザ加工工程は、ラインAcに沿って集光スポットを対象物11に対して相対移動させることにより、亀裂13と亀裂15との交点よりも第1面11a側に改質領域16を形成すると共に、改質領域16から亀裂15に向けて延びる亀裂17を形成する第3加工工程を含むことができる。そして、第3加工工程では、YZ面E内において、第1面11aに向かうにつれて基準線Azに近づくようにZ方向に対して傾斜する亀裂17を形成してもよい。この場合、亀裂13によって規定される傾斜面(外側面60s)と、亀裂15によって規定される垂直面(外側面60r)と、亀裂17によって規定される別の傾斜面(外側面60m)とを含む半導体部材60Bを形成できる。
【0134】
なお、本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、レーザ加工工程は、ラインAcに沿って集光スポットを対象物11に対して相対移動させることにより、亀裂13よりも第1面11a側に改質領域14を形成すると共に、改質領域14から亀裂13に向けて延びる亀裂15を形成する第2加工工程を含む。そして、第1加工工程では、YZ面E内において、第1面11aに向かうにつれて基準線Azに近づくようにZ方向に対して傾斜する亀裂13を形成し、第2加工工程では、YZ面E内において、Z方向に沿って延びる亀裂15を形成してもよい。この場合、亀裂13によって規定される傾斜面(外側面60s)と、亀裂15によって規定される垂直面(外側面60r)とを外側面として含む半導体部材60Aを形成できる。
【0135】
また、本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、レーザ加工工程と分離工程との間において、Z方向に沿って対象物11を研削することにより、対象物11から改質領域12等を除去する研削工程をさらに備えてもよい。或いは、本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、分離工程の後に、Z方向に沿って半導体部材60を研削することにより、半導体部材60から改質領域12等を除去する研削工程をさらに備えてもよい。この場合、改質領域12が除去された半導体部材60を得ることができる。
【0136】
なお、
図30の(b)に示されるように、対象物11に対して単一の(円形状の)ラインAcが設定されてもよい。ここでは、Z方向からみたときの対象物11の外形は円形状である。また、Z方向からみたとき、ラインAcは対象物11の外形よりも小径である。また、ラインAcは、Z方向からみて対象物11の外形と同心となるように対象物11に設定されている。この場合、レーザ加工工程では、ラインAcに沿って集光スポットを相対移動させることにより、ラインAcに沿って改質領域12,14,16及び亀裂13,15,17を形成できる。そして、分離工程では、ラインAcに沿って対象物11の一部を分離することにより、対象物11から1つの半導体部材60を形成してもよい。このように、1つの対象物11から1つの半導体部材60を製造する場合でも、その半導体部材60にベベルを形成可能である。
[第3実施形態]
【0137】
引き続いて、第3実施形態に係る半導体部材の製造方法、及びレーザ加工装置について説明する。まず、概略について説明する。
図31は、第3実施形態に係る対象物を示す図である。
図31の(a)は平面図であり、
図31の(b)は
図31の(a)のXXXb-XXXb線に沿っての断面図である。
図31に示される対象物11は、例えば半導体を含む。対象物11は、一例として半導体ウェハ(例えばシリコンウェハ)である。対象物11は、第1面11aと第1面11aの反対側の第2面11bとを含む。
【0138】
対象物11には、第1面11a及び第2面11bに平行な複数のラインAが切断予定ラインとして設定されている。ラインAは、格子状に設定されていてもよいが、ここでは、互いに平行に一方向に延びる複数のラインAを図示している。ラインAは、例えば仮想的な線である。対象物11は、第1面11aを含む第1領域11Aと、第2面11bを含む第2領域11Bと、を含む。なお、図中のラインGは第1領域11Aと第2領域11Bとの境界を示す仮想的な線である。第1領域11Aは、研削予定領域である。
【0139】
また、対象物11は、第2面11bに形成された半導体構造部Nを含む。半導体構造部Nは、ラインAに沿って対象物11を切断することにより得られる個々の半導体部材を半導体素子として機能させるための構造を有している。したがって、ラインAは、半導体構造部Nの間を通るように設定されている。対象物11は、第1面11aが集光レンズ33側に臨むように、第2面11b側において保持部材Tに保持されステージ2に支持される。保持部材Tは、例えば伸縮性を有するテープである。
【0140】
本実施形態では、このような対象物11に対して、ラインAのそれぞれに沿ってレーザ光Lの集光スポットCを相対移動させながらレーザ光Lを照射して、ラインAのそれぞれに沿って改質領域12及び亀裂13を形成する。このとき、集光スポットCは、X方向に相対移動される。すなわち、ここでは、X方向を加工進行方向とする。本実施形態では、この加工進行方向であるX方向に交差(直交)する交差面(YZ面E)内において、Z方向に対してY方向に傾斜した部分を含む亀裂13を形成する。
【0141】
引き続いて、本実施形態に係る半導体部材の製造方法、及び、レーザ加工装置を具体的に説明する。
図32に示されるように、この方法では、まず、上記のような対象物11を用意すると共に、対象物11を、第1面11aが集光レンズ33側に臨むように、且つ、ラインAがX方向に沿うように、ステージ2により支持する。その状態において、まず、1つのラインAに対して、対象物11にレーザ光Lの集光スポットC(レーザ光L1,L2,L3の集光スポットC1,C2,C3)を形成すると共に、集光スポットCを対象物11に対して相対移動させることにより、対象物11のレーザ加工を行うレーザ加工工程を実施する。
【0142】
より具体的には、レーザ加工工程では、対象物11におけるレーザ光Lの入射面である第1面11aに交差するZ方向についての集光スポットC1の位置を第1Z位置Z1に設定しつつ、第1面11aに沿うX方向に延びるラインAに沿って集光スポットC1を相対移動させることにより、改質領域(第1改質領域)12a及び改質領域12aから延びる亀裂(第1亀裂)13aを対象物11に形成すると共に、Z方向についての集光スポットC3の位置を第1Z位置Z3に設定しつつ、ラインAに沿って集光スポットC3を相対移動させることにより、改質領域(第1改質領域)12c及び改質領域12cから延びる亀裂(第1亀裂)13cを対象物11に形成する第1形成工程を実施する。
【0143】
第1Z位置Z3は、第1Z位置Z1よりも第1面11a側の位置である。また、ここでは、第1Z位置Z1が第2領域11Bに設定されると共に、第1Z位置Z3が研削予定領域である第1領域11Aに設定される。ただし、第1Z位置Z1,Z3の一は、その両方を第1領域11Aに設定されてもよいし、第2領域11Bに設定されてもよく、対象物11の研削後に改質領域12a,12cを残存させるか否かの要求に応じて任意に設定され得る。
【0144】
このように、本実施形態では、第1形成工程において、Z方向の位置が互いに異なる複数の第1Z位置Z1,Z3のそれぞれに集光スポットC1,C3を形成して相対移動させることにより、ラインAに交差する交差面(YZ面E)内においてZ方向に配列された複数の改質領域12a,12cを形成すると共に、複数の改質領域12a,12cにわたるように亀裂13a,13cを形成することとなる。また、第1形成工程では、Y方向についての集光スポットC1,C3の位置を第1Y位置Y1に設定すると共に、YZ面E内においてZ方向に沿うように、且つ、第2面11bに到達するように亀裂13a,13cを形成する。これらの亀裂13a,13cは、一例として、対象物11の主要劈開面に沿っている。
【0145】
続いて、
図33に示されるように、レーザ形成工程では、第1形成工程の後に、レーザ光L2のZ方向についての集光スポットC2の位置を第1Z位置Z3よりも第1面11a側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインAに沿って集光スポットC2を相対移動させることにより、改質領域(第2改質領域)12b及び改質領域12bから延びる亀裂(第2亀裂)13bを形成する第2形成工程を実施する。ここでは、上記のように第1Z位置Z3が研削予定領域である第1領域11Aに設定されることから、第2Z位置Z2も第1領域11Aに設定される。特に、ここでは、亀裂13bが第1領域11A内に形成されるように第2Z位置Z2が設定される。
【0146】
また、第2形成工程では、Y方向についての集光スポットC2の位置を、集光スポットC1,C3の第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2に設定し、YZ面E内においてZ方向に対して傾斜するように亀裂13bを形成する。より具体的には、第2形成工程では、YZ面E内での集光スポットC2のビーム形状が、少なくとも集光スポットC2の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を変調させることにより、YZ面E内において当該シフトの方向に傾斜するように亀裂13bを形成する。さらに、第2形成工程では、YZ面E内において対象物11の劈開面に対して傾斜するように亀裂13bを形成する。
【0147】
これらの第1形成工程及び第2形成工程を含むレーザ加工工程は、例えば、第1実施形態と同様に、レーザ加工装置1の制御部6がレーザ加工装置1の各部を制御することにより行うことができる。すなわち、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、制御部6が、空間光変調器7及び駆動部4,5を制御することによって、Z方向についての集光スポットC1,C3の位置を第1Z位置Z1,Z3に設定しつつ、ラインAに沿って集光スポットC1,C3を相対移動させることにより、改質領域12a,12c及び亀裂13a,13cを対象物11に形成する第1形成処理と、Z方向についての集光スポットC2の位置を第1Z位置Z1,Z3よりも第1面11a側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインAに沿って集光スポットC2を相対移動させることにより、改質領域12b及び亀裂13bを形成する第2形成処理と、を実施することとなる。
【0148】
また、第1形成処理では、制御部6は、Y方向についての集光スポットC1,C3の位置を第1Y位置Y1に設定する。第2形成処理では、制御部6は、Y方向についての集光スポットC2の位置を第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2に設定すると共に、空間光変調器7に表示させる変調パターンの制御によって、YZ面E内での集光スポットC2のビーム形状が、少なくとも集光スポットC2の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を変調させる。なお、ビーム形状を傾斜形状とするための変調パターンは、上述したとおりである。なお、第1形成工程(第1形成処理)において、レーザ光L1による改質領域12a及び亀裂13aの形成と、レーザ光L3による改質領域12c及び亀裂13cの形成とは、同時に実施されてもよいし(多焦点加工)、順番に実施されてもよい(シングルパス加工)。
【0149】
さらに、レーザ光Lをレーザ光L1,L2,L3に分岐させるための分岐パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、対象物11に設定された一のラインAに対して、第1形成工程(第1形成処理)と第2形成工程(第2形成処理)とを同時に実施してもよい。この場合、レーザ光L1,L2,L3のうちのレーザ光L2のみに対してコマ収差を発生させるように変調パターンを合成することにより、集光スポットC1,C2,C3のうちの集光スポットC2のみを傾斜形状とすることが可能である。
【0150】
本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、以上のレーザ加工工程を全てのラインAに対して実施する。これにより、
図34の(a)に示されるように、全てのラインAに沿って、改質領域12及び亀裂13が形成される。なお、亀裂13bと亀裂13cとは、互いにつながっていなくてもよいし、互いにつながっていてもよい。
【0151】
その後、本実施形態に係る半導体部材の製造方法では、
図34の(b)に示されるように、第1面11a側から対象物11を研削して第1領域11Aを除去することにより、少なくともZ方向に対して斜めに延びる亀裂13bを対象物11から除去する。ここでは、亀裂13bに加えて、改質領域12b,12cも除去される。
【0152】
これにより、残存する第2領域11Bとしての半導体部材70が得られる。半導体部材70は、第2面11bと、第2面11bの反対側の面であって、研削により形成される新たな第1面70aを含む。半導体部材70には、少なくとも新たな第1面70aから第2面11bにわたる亀裂13が形成されている(ここでは、改質領域12aが残存されている)。したがって、この後の工程において、保持部材Tを拡張することにより、亀裂13を境界として半導体部材70を複数の別の半導体部材に分離することが可能である。以上の半導体部材の製造方法は、本実施形態に係るレーザ加工方法を含む。本実施形態に係るレーザ加工方法は、上述したレーザ加工工程を含む。
【0153】
以上説明したように、本実施形態に係る半導体部材の製造方法(レーザ加工方法)、及び、レーザ加工装置1では、第1実施形態と同様に、集光スポットC2をY方向にシフトさせ、且つ、集光スポットC2のビーム形状を制御することにより、少なくとも亀裂13bをYZ面E内において当該シフト方向に傾斜した斜め亀裂とすることができる。すなわち、斜め亀裂を形成可能である。
【0154】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法では、第1形成工程にて、X方向に沿うラインAに沿ってレーザ光L1,L3の集光スポットC1,C3を相対移動させて、改質領域12a,12cを対象物11に形成すると共に、改質領域12a,12cから延びる亀裂13a,13cを対象物11の第2面11bに到達するように対象物11に形成する。このとき、集光スポットC1,C3のZ方向についての位置を第1Z位置Z1,Z3とする。また、このとき、X方向に交差するYZ面E内においてZ方向に沿うように亀裂13a,13cを形成する。
【0155】
その後、第2形成工程にて、レーザ光L2の集光スポットC2のZ方向の位置を第1Z位置Z1,Z3よりも第1面11a側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインAに沿って集光スポットC2を相対移動させ、改質領域12b及び亀裂13bを対象物11に形成する。このとき、集光スポットC2のY方向の位置を第1形成工程と比較してY方向にシフトさせ、YZ面E内においてZ方向に対して傾斜するように亀裂13bを形成する。本発明者の知見によれば、このようにすると、亀裂13cがZ方向に沿って第1面11a側に伸展しようとしたときに、亀裂13bに接続されて伸展が止められるのである。よって、この方法によれば、亀裂13の伸展を抑制可能である。
【0156】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法では、対象物11は、第1面11aを含む研削予定領域(第1領域11A)が設定されており、第1形成工程では、第1Z位置Z1を研削予定領域よりも第2面11b側に設定する。そして、第2形成工程では、亀裂13bが研削予定領域の内部に形成されるように第2Z位置Z2を設定する。このため、研削予定領域の研削によって亀裂13bが除かれることにより、傾斜した亀裂の影響が低減される。
【0157】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法では、第2形成工程では、YZ面E内において対象物11の劈開面に対して傾斜するように亀裂13bを形成する。この場合、より確実に亀裂の伸展を抑制可能である。
【0158】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法では、第1形成工程では、Z方向の位置が互いに異なる複数の第1Z位置Z1,Z3のそれぞれに集光スポットC1,C3を形成して相対移動させることにより、YZ面E内においてZ方向に配列された複数の改質領域12a,12cを形成すると共に、複数の改質領域12a,12cにわたるように亀裂13a,13cを形成する。このため、Z方向により長い亀裂13a,13cを形成することにより、より厚い対象物11の加工を好適に行うことができる。
【0159】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法では、第1形成工程では、第2面11bに到達するように亀裂13aを形成してもよい。このように、亀裂13aが第2面11bに到達している場合には、意図せず亀裂が伸展しやすいため、亀裂の伸展を抑制することがより有効である。
【0160】
さらに、本実施形態に係るレーザ加工方法では、第1形成工程及び第2形成工程は、レーザ光Lを分岐させることにより、対象物11に設定された一のラインAに対して同時に実施されてもよい。このように、第1形成工程と第2形成工程とを同時に実施する場合であっても、斜め亀裂を形成可能である。
【0161】
さらに、本実施形態に係る半導体部材の製造方法は、半導体を含む対象物11から半導体部材70を製造する半導体部材の製造方法であって、上記のレーザ加工方法が備えるレーザ加工工程を実施した後に、第1面11a側から対象物11を研削して少なくとも亀裂13bを対象物11から除去することにより、対象物11から半導体部材70を形成する。この製造方法では、上記のレーザ加工方法のレーザ加工工程が実施される。したがって、意図しない亀裂の伸展が抑制される。このため、レーザ加工工程の後に対象物を研削する際に、チッピングの発生が抑制される。また、研削を行う場所への搬送が容易となる。
【0162】
なお、上記の例では、第1形成工程において、第2面11bに到達するように亀裂13aを形成する場合について説明した。しかしながら、亀裂13aは、第2面11bに到達していなくもよい。この場合、第2形成工程で改質領域12b及び亀裂13bを形成することにより亀裂13aが第2面11b側に伸展して第2面11bに到達する場合もあるし、研削工程で対象物11を研削することにより亀裂13aが第2面11b側に伸展して第2面11bに到達する場合もある。
【0163】
また、上記の例では、Z方向に対して斜めに延びる亀裂13bの起点となる改質領域12bが、Z方向に沿って延びる亀裂13a,13cの起点となる改質領域12a,12cよりも、レーザ光Lの入射面である第1面11a側に位置する場合を挙げた。しかしながら、改質領域12b及び亀裂13bは、改質領域12a,12c及び亀裂13a,13cよりも第2面11b側に位置していてもよい。すなわち、第2形成工程では、第2Z位置Z2を、第1Z位置Z1よりも第2面11b側に設定することもできる。この場合、YZ面内での集光スポットC2のビーム形状が、少なくとも中心Caよりも第1面11a側において、集光スポットC2の第2Y位置Y2から集光スポットC1の第1Y位置Y1に向かう方向に傾斜するように制御することにより、Z方向に対して当該方向に傾斜した亀裂13bを形成できる。
【0164】
以上の実施形態は、本開示の一側面の一側面を説明したものである。したがって、本開示の一側面は、上記実施形態に限定されることなく、任意に変更され得る。
【0165】
例えば、YZ面E内においてZ方向に並んで形成する改質領域12の数は、対象物11の厚さや亀裂13の所望する伸展量等に応じて任意に設定され得る。
【0166】
また、レーザ光Lを変調するための変調パターンは、上記の例に限定されず、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とし得る任意のものを採用できる。
【0167】
また、上記各実施形態は、互いに任意に組み合わせて、或いは一部を互いに交換して適用され得る。例えば、第2実施形態のように、円形状のラインAcに沿って改質領域12及び亀裂13を形成する場合に、第3実施形態のように亀裂13の伸展を抑制するための構成を採用してもよい。
【0168】
さらに、上記実施形態では、対象物11が、テープ等の保持部材Tを介して保持される例を挙げたが、対象物11は、例えばシリコン基板やガラス基板等が張り合わされて保持されてもよい。対象物11の一面に回路等が形成されている場合には、その回路面同士を貼り合わせることもできる。
【0169】
1…レーザ加工装置、4,5…駆動部(移動部)、6…制御部、7…空間光変調器、11…対象物、11a…第1面、11b…第2面、12,12a,12b,12c…改質領域、13,13a,13b,13c…亀裂、C,C1,C2,C3…集光スポット、L,L1,L2,L3…レーザ光、31…光源、33…集光レンズ。
【産業上の利用可能性】
【0170】
対象物に斜め亀裂を形成可能なレーザ加工装置、レーザ加工方法、及び、半導体部材の製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0171】
1…レーザ加工装置、4,5…駆動部(移動部)、6…制御部、7…空間光変調器、11…対象物、11a…第1面、11b…第2面、12,12a,12b,12c…改質領域、13,13a,13b,13c…亀裂、C,C1,C2,C3…集光スポット、L,L1,L2,L3…レーザ光、31…光源、33…集光レンズ。