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▶ 浜松ホトニクス株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20250206BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20250206BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20250206BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20250206BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20250206BHJP
【FI】
H01L21/78 B
H01L21/78 R
H01L21/304 601Z
B23K26/073
B23K26/067
B23K26/53
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022536136
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013420
(87)【国際公開番号】W WO2022014107
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2020121652
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020217750
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
(72)【発明者】
【氏名】佐野 いく
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 銀治
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-089714(JP,A)
【文献】特開2014-138956(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014720(WO,A1)
【文献】特開2014-017433(JP,A)
【文献】特開2020-069531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/304
B23K 26/073
B23K 26/067
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、
前記対象物を支持するための支持部と、
前記支持部に支持された前記対象物に向けて前記レーザ光を照射するための照射部と、
前記レーザ光の集光領域を前記対象物に対して相対移動させるための移動部と、
前記移動部及び前記照射部を制御するための制御部と、
を備え、
前記対象物は、(100)面と、一の(110)面と、別の(110)面と、前記一の(110)面に直交する第1結晶方位と、前記別の(110)面に直交する第2結晶方位と、を含む結晶構造を有すると共に、前記(100)面が前記レーザ光の入射面となるように前記支持部に支持され、
前記対象物には、前記入射面に交差するZ方向からみて、円弧状の第1領域と前記第1領域との境界を有する円弧状の第2領域とを含む円環状のラインが設定されており、
前記照射部は、前記Z方向からみたときに前記集光領域が長手方向を有するように、前記レーザ光を成形する成形部を有し、
前記制御部は、
前記照射部及び前記移動部を制御することによって、前記ラインのうちの前記第1領域に沿って前記集光領域を相対移動させることにより、前記第1領域に沿って前記対象物に前記改質領域を形成すると共に、当該改質領域から前記対象物の前記入射面と反対側の反対面に向けて前記Z方向に対して斜めに延びる斜め亀裂を形成する第1加工処理と、
前記照射部及び前記移動部を制御することによって、前記ラインのうちの前記第2領域に沿って前記集光領域を相対移動させることにより、前記第2領域に沿って前記対象物に前記改質領域を形成すると共に、当該改質領域から前記反対面に向けて延びる前記斜め亀裂を形成する第2加工処理と、
を実行し、
前記第1加工処理及び前記第2加工処理では、前記制御部は、前記成形部を制御することによって、前記集光領域の前記長手方向が、前記第1結晶方位及び前記第2結晶方位のうち、前記集光領域の移動方向である加工進行方向との間の角度が大きい一方に近づく向きに前記加工進行方向に対して傾斜するように、前記レーザ光を成形すると共に、前記移動部を制御することによって、前記第1加工処理と前記第2加工処理とで前記加工進行方向の順逆を同一とし、
前記第2結晶方位と前記ラインとが直交する点を0°とし、前記第1結晶方位と前記ラインとが直交する点を90°とし、前記ラインにおける前記0°と前記90°との中間の点を45°としたときに、前記第1領域及び前記第2領域のうち、前記Z方向からみて、前記長手方向の傾斜の向きが前記加工進行方向に対して前記斜め亀裂が延びる側と同じ側となる一方が前記45°の点を含むように、前記第1領域と前記第2領域との前記境界が設定される、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記第1領域及び前記第2領域のうちの前記一方は、前記第1領域及び前記第2領域のうちの他方よりも長い、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記対象物は、前記Z方向に沿って前記反対面側から順に配列された第1部分及び第2部分を含み、
前記制御部は、前記第1部分に対して、前記加工進行方向の順逆を同一としつつ前記第1加工処理及び前記第2加工処理を実行すると共に、前記第2部分に対して、前記第1加工処理及び前記第2加工処理と異なる別加工処理を実行し、
前記別加工処理では、前記制御部は、前記照射部及び前記移動部を制御することによって、前記ラインの全体にわたって前記加工進行方向の順逆を同一としつつ前記ラインに沿って前記集光領域を相対移動させることにより、前記ラインに沿って前記対象物に前記改質領域及び当該改質領域から前記Z方向に沿って延びる亀裂を形成する、
請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記別加工処理では、前記制御部は、前記成形部を制御することによって、前記集光領域の前記長手方向が前記加工進行方向に沿うように前記レーザ光を成形する、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記対象物は、別の部材に接合された接合領域を含み、
前記第1加工処理及び前記第2加工処理では、前記制御部は、前記入射面から前記反対面に向かうにつれて前記接合領域の内側の位置から前記接合領域の外縁に向かうように傾斜した前記斜め亀裂を形成する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記第1加工処理及び前記第2加工処理では、前記制御部は、
前記Z方向についての前記集光領域の位置を第1Z位置に設定しつつ、前記ラインに沿って前記集光領域を相対移動させることにより、前記改質領域としての第1改質領域及び前記第1改質領域から延びる亀裂を前記対象物に形成する第1形成処理と、
前記Z方向についての前記集光領域の位置を前記第1Z位置よりも前記入射面側の第2Z位置に設定しつつ、前記ラインに沿って前記集光領域を相対移動させることにより、前記改質領域としての第2改質領域及び前記第2改質領域から延びる亀裂を形成する第2形成処理と、を実行し、
前記第1形成処理では、前記制御部は、前記加工進行方向及び前記Z方向に交差するY方向についての前記集光領域の位置を第1Y位置に設定し、
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記Y方向についての前記集光領域の位置を前記第1Y位置からシフトした第2Y位置に設定すると共に、前記成形部の制御によって、前記Y方向及び前記Z方向を含むYZ面内での前記集光領域の形状が、少なくとも前記集光領域の中心よりも前記入射面側において前記シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるように前記レーザ光を成形することにより、前記YZ面内において前記シフトの方向に傾斜するように前記斜め亀裂を形成する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記成形部は、前記レーザ光を変調パターンに応じて変調することにより前記レーザ光を成形するための空間光変調器を含み、
前記照射部は、前記空間光変調器からの前記レーザ光を前記対象物に向けて集光するための集光レンズを含み、
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記空間光変調器に表示させる前記変調パターンの制御によって、前記集光領域の形状が前記傾斜形状となるように前記レーザ光を変調することにより前記レーザ光を成形する、
請求項6に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記変調パターンは、前記レーザ光に対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記コマ収差パターンによる前記コマ収差の大きさを制御することにより、前記集光領域の形状を前記傾斜形状とするための第1パターン制御を行う、
請求項7に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記変調パターンは、前記レーザ光の球面収差を補正するための球面収差補正パターンを含み、
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記集光レンズの入射瞳面の中心に対して前記球面収差補正パターンの中心を前記Y方向にオフセットさせることにより、前記集光領域の形状を前記傾斜形状とするための第2パターン制御を行う、
請求項7又は8に記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記加工進行方向に沿った軸線に対して非対称な前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させることにより、前記集光領域の形状を前記傾斜形状とするための第3パターン制御を行う、
請求項7~9のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項11】
前記変調パターンは、前記Y方向及び前記Z方向に交差するX方向と前記Y方向とを含むXY面内における前記集光領域の形状を、前記X方向を長手とする楕円形状とするための楕円パターンを含み、
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記楕円パターンの強度が、前記X方向に沿った軸線に対して非対称となるように、前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させることによって、前記集光領域の形状を前記傾斜形状とするための第4パターン制御を行う、
請求項7~10のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項12】
前記第2形成処理では、前記制御部は、前記YZ面内で前記シフトの方向に沿って配列された複数の前記レーザ光の集光点を形成するための前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させることにより、複数の前記集光点を含む前記集光領域の形状を前記傾斜形状とするための第5パターン制御を行う、
請求項7~11のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項13】
対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工方法であって、
前記対象物に設定されたラインのうちの第1領域に沿って前記レーザ光の集光領域を相対移動させることにより、前記第1領域に沿って前記対象物に前記改質領域を形成すると共に、当該改質領域から前記対象物の前記レーザ光の入射面と反対側の反対面に向けて前記入射面に交差するZ方向に対して斜めに延びる斜め亀裂を形成する第1加工工程と、
前記ラインのうちの第2領域に沿って前記集光領域を相対移動させることにより、前記第2領域に沿って前記対象物に前記改質領域を形成すると共に、当該改質領域から前記反対面に向けて延びる前記斜め亀裂を形成する第2加工工程と、
を備え、
前記対象物は、(100)面と、一の(110)面と、別の(110)面と、前記一の(110)面に直交する第1結晶方位と、前記別の(110)面に直交する第2結晶方位と、を含む結晶構造を有すると共に、前記(100)面が前記入射面とされ、
前記対象物には、前記Z方向からみて、円弧状の前記第1領域と前記第1領域との境界を有する円弧状の前記第2領域とを含む円環状の前記ラインが設定されており、
前記第1加工工程及び前記第2加工工程では、
前記Z方向からみたときに前記集光領域が長手方向を有するように、且つ、前記集光領域の前記長手方向が、前記第1結晶方位及び前記第2結晶方位のうち、前記集光領域の移動方向である加工進行方向との間の角度が大きい一方に近づく向きに前記加工進行方向に対して傾斜するように、前記レーザ光を成形すると共に、前記第1加工工程と前記第2加工工程とで前記加工進行方向の順逆を同一とし、
前記第2結晶方位と前記ラインとが直交する点を0°とし、前記第1結晶方位と前記ラインとが直交する点を90°とし、前記ラインにおける前記0°と前記90°との中間の点を45°としたときに、前記第1領域及び前記第2領域のうち、前記Z方向からみて、前記長手方向の傾斜の向きが前記加工進行方向に対して前記斜め亀裂が延びる側と同じ側となる一方が前記45°の点を含むように、前記第1領域と前記第2領域との前記境界が設定される、
レーザ加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワークを保持する保持機構と、保持機構に保持されたワークにレーザ光を照射するレーザ照射機構と、を備えるレーザ加工装置が記載されている。特許文献1に記載のレーザ加工装置では、集光レンズを有するレーザ照射機構が基台に対して固定されており、集光レンズの光軸に垂直な方向に沿ったワークの移動が保持機構によって実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5456510号公報
【文献】特開2020-069530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば半導体デバイスの製造工程では、半導体ウェハからその外縁部分を不要部分として除去するトリミング加工が実施される場合がある。しかし、対象物からその外縁部分を除去するために、対象物の外縁の内側において環状に延在するラインに沿ってレーザ光の集光点を相対的に移動させることにより、当該ラインに沿って改質領域を形成すると、外縁部分が除去されて形成される対象物のトリム面の品質が場所によって低下するおそれがあることが分かった。
【0005】
一方、本発明者の知見によれば、トリミング加工の際に、対象物のレーザ光の入射面側から、その反対側の面に至るように改質領域から亀裂を伸展させる場合、対象物の厚さ方向に沿って鉛直方向に亀裂を伸展させるのではなく、厚さ方向に傾斜するように斜めに亀裂を伸展させる要求がある。これは、例えば、厚さ方向に沿って亀裂を伸展させた場合、厚さ方向に沿って対象物の直下に配置された別の対象物(例えば、対象物としてのウェハに張り合わされた別のウェハ)に至ってしまうこと抑制するためである。すなわち、本発明者は、上記技術分野にあって、外縁部分が除去された対象物のトリム面の品質低下を抑制しつつ、斜め亀裂を形成可能とする要求があるとの新たな知見を得た。
【0006】
そこで、本開示の一側面は、外縁部分が除去された対象物のトリム面の品質低下を抑制しつつ、斜め亀裂を形成可能とするレーザ加工装置、及び、レーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めることにより、次のような知見を得ている。すなわち、まず、対象物が、(100)面を主面とし、一の(110)面に直交する第1結晶方位と、別の(110)面に直交する第2結晶方位と、を有するウェハである場合、第1結晶方位及び第2結晶方位のうち加工進行方向(集光点の相対移動の方向)との間の角度が大きい一方に近づくように、加工進行方向に対して傾斜するようにビーム形状を成形することにより、外側面の品質の低下を抑制できるのである(例えば、上記の特許文献2参照)。
【0008】
より具体的には、改質領域から延びる亀裂が、例えば第1結晶方位に引っ張られる場合に、ビーム形状を長尺状にすると共に、その長手方向の向きを加工進行方向の向きにするのではなく、加工進行方向に対して第1結晶方位側とは反対側の第2結晶方位に近づくように傾斜させる。これにより、結晶方位(結晶軸)による亀裂伸展力に対して、ビーム形状を長尺状にしたことによる亀裂伸展力が打ち消すように作用し、亀裂が加工進行方向に精度よく沿って伸びるようになると考えられる。
【0009】
また、改質領域から延びる亀裂が、例えば第2結晶方位に引っ張られる場合には、ビーム形状を長尺状にすると共に、その長手方向の向きを加工進行方向の向きにするのではなく、加工進行方向に対して第2結晶方位側とは反対側の第1結晶方位に近づくように傾斜させる。これにより、結晶方位による亀裂伸展力に対して、ビーム形状を長尺状にしたことによる亀裂伸展力が打ち消すように作用し、亀裂が加工進行方向BDに精度よく沿って伸びるようになると考えられる。これらの結果、トリム面の品質低下が抑制されると考えられる。
【0010】
一方、本発明者は、上記知見に基づいてさらなる研究を進めることにより、加工進行方向と結晶構造とに基づいてビーム形状の長手方向の向きを上記のとおり設定した場合であっても、ビーム形状の長手方向の向きと斜め亀裂の傾斜方向との関係によっては、トリム面の品質低下のさらなる抑制の余地があることを発見した。すなわち、ビーム形状の長手方向の向きと斜め亀裂の傾斜方向とが、加工進行方向に対して同じ側にある場合にはトリム面の品質が相対的に良好である一方で、ビーム形状の長手方向の向きと斜め亀裂の傾斜方向とが、加工進行方向に対して互いに逆側となる場合には、トリム面の品質が相対的に良好でない場合があるのである。
【0011】
特に、加工進行方向を規定するラインと第2結晶方位とが直交する点を0°とし、当該ラインと第1結晶方位とが直交する点を90°とし、当該ラインにおける0°と90°との中間の点を45°としたとき、45°の点の加工の際に、ビーム形状の長手方向の向きと斜め亀裂の傾斜方向とが加工進行方向に対して互いに逆側となる状態であると、トリム面の品質の低下が発生しやすい。本開示の一側面は、以上のような知見に基づいてなされたものである。
【0012】
すなわち、本開示の一側面に係るレーザ加工装置は、対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、対象物を支持するための支持部と、支持部に支持された対象物に向けてレーザ光を照射するための照射部と、レーザ光の集光領域を対象物に対して相対移動させるための移動部と、移動部及び照射部を制御するための制御部と、を備え、対象物は、(100)面と、一の(110)面と、別の(110)面と、一の(110)面に直交する第1結晶方位と、別の(110)面に直交する第2結晶方位と、を含む結晶構造を有すると共に、(100)面がレーザ光の入射面となるように支持部に支持され、対象物には、入射面に交差するZ方向からみて、円弧状の第1領域と第1領域との境界を有する円弧状の第2領域とを含む円環状のラインが設定されており、照射部は、Z方向からみたときに集光領域が長手方向を有するように、レーザ光を成形する成形部を有し、制御部は、照射部及び移動部を制御することによって、ラインのうちの第1領域に沿って集光領域を相対移動させることにより、第1領域に沿って対象物に改質領域を形成すると共に、当該改質領域から対象物の入射面と反対側の反対面に向けてZ方向に対して斜めに延びる斜め亀裂を形成する第1加工処理と、照射部及び移動部を制御することによって、ラインのうちの第2領域に沿って集光領域を相対移動させることにより、第2領域に沿って対象物に改質領域を形成すると共に、改質領域から反対面に向けて延びる斜め亀裂を形成する第2加工処理と、を実行し、第1加工処理及び第2加工処理では、制御部は、成形部を制御することによって、集光領域の長手方向が、第1結晶方位及び第2結晶方位のうち、集光領域の移動方向である加工進行方向との間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向に対して傾斜するように、レーザ光を成形すると共に、移動部を制御することによって、第1加工処理と第2加工処理とで加工進行方向の順逆を同一とし、第2結晶方位とラインとが直交する点を0°とし、第1結晶方位とラインとが直交する点を90°とし、ラインにおける0°と90°との中間の点を45°としたときに、第1領域及び第2領域のうち、Z方向からみて、長手方向の傾斜の向きが加工進行方向に対して斜め亀裂が延びる側と同じ側となる一方が45°の点を含むように、第1領域と第2領域との境界が設定される。
【0013】
或いは、本開示の一側面に係るレーザ加工方法は、対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工方法であって、対象物に設定されたラインのうちの第1領域に沿ってレーザ光の集光領域を相対移動させることにより、第1領域に沿って対象物に改質領域を形成すると共に、当該改質領域から対象物のレーザ光の入射面と反対側の反対面に向けて入射面に交差するZ方向に対して斜めに延びる斜め亀裂を形成する第1加工工程と、ラインのうちの第2領域に沿って集光領域を相対移動させることにより、第2領域に沿って対象物に改質領域を形成すると共に、改質領域から反対面に向けて延びる斜め亀裂を形成する第2加工工程と、を備え、対象物は、(100)面と、一の(110)面と、別の(110)面と、一の(110)面に直交する第1結晶方位と、別の(110)面に直交する第2結晶方位と、を含む結晶構造を有すると共に、(100)面が入射面とされ、対象物には、Z方向からみて、円弧状の第1領域と第1領域との境界を有する円弧状の第2領域とを含む円環状のラインが設定されており、第1加工工程及び第2加工工程では、Z方向からみたときに集光領域が長手方向を有するように、且つ、集光領域の長手方向が、第1結晶方位及び第2結晶方位のうち、集光領域の移動方向である加工進行方向との間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向に対して傾斜するように、レーザ光を成形すると共に、第1形成工程と第2形成工程とで加工進行方向の順逆を同一とし、第2結晶方位とラインとが直交する点を0°とし、第1結晶方位とラインとが直交する点を90°とし、ラインにおける0°と90°との中間の点を45°としたときに、第1領域及び第2領域のうち、Z方向からみて、長手方向の傾斜の向きが加工進行方向に対して斜め亀裂が延びる側と同じ側となる一方が45°の点を含むように、第1領域と第2領域との境界が設定される。
【0014】
これらの装置及び方法では、対象物は、(100)面と、一の(110)面と、別の(110)面と、一の(110)面に直交する第1結晶方位と、別の(110)面に直交する第2結晶方位と、を含む結晶構造を有する。そして、ここでは、レーザ光の集光領域を相対移動させるラインのうちの第1領域に沿って対象物に改質領域を形成する場合(第1加工処理、第1加工工程)、及び、当該ラインのうちの第2領域に沿って対象物に改質領域を形成する場合(第2加工処理、第2加工工程)のそれぞれにおいて、集光領域の長手方向が、第1結晶方位及び第2結晶方位のうちの加工進行方向との間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向に対して傾斜するように、レーザ光が成形される。このため、上記知見に示されるように、トリム面の品質低下が抑制される。
【0015】
一方、これらの装置及び方法では、第1加工処理及び第2加工処理(第1加工工程及び第2加工工程も同様(以下同様))おいて、改質領域から対象物の入射面と反対側の反対面に向けてZ方向(入射面に交差する方向)に対して斜めに延びる斜め亀裂を形成する。したがって、上記知見に示されるように、この斜め亀裂の延びる方向と集光領域の長手方向の向きとの関係を考慮する必要がある。特に、45°の点の加工の際に、集光領域の長手方向の向きと斜め亀裂の傾斜方向とが加工進行方向に対して互いに逆側となる状態であると、トリム面の品質の低下が発生しやすい。
【0016】
これに対して、これらの装置及び方法では、第1領域と第2領域との間の境界が、第1領域及び第2領域のうちの長手方向の傾斜の向きが加工進行方向に対して斜め亀裂が延びる側と同じ側となる一方が45°の点を含むように設定される。換言すれば、第1領域及び第2領域のうち、集光領域の長手方向の向きと斜め亀裂の傾斜方向とが加工進行方向に対して互いに逆側となる状態で加工を行う領域が、ラインにおける45°の点に至らない。したがって、品質低下が抑制される。このように、これらの装置及び方法によれば、対象物のトリム面の品質低下を抑制しつつ、斜め亀裂を形成可能である。
【0017】
さらに、これらの装置及び方法では、第1加工処理と第2加工処理とで加工進行方向の順逆が同一とされる。したがって、第1加工処理と第2加工処理とで加工進行方向の順逆を切り替える場合と比較して、レーザ光の集光領域の相対移動の加減速に係る時間が削減される。
【0018】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、第1領域及び第2領域のうちの一方は、第1領域及び第2領域のうちの他方よりも長くてもよい。このように、第1領域と第2領域との長さを違えて設定してもよい。
【0019】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、対象物は、Z方向に沿って反対面側から順に配列された第1部分及び第2部分を含み、制御部は、第1部分に対して、加工進行方向の順逆を同一としつつ第1加工処理及び第2加工処理を実行すると共に、第2部分に対して、第1加工処理及び第2加工処理と異なる別加工処理を実行し、別加工処理では、制御部は、照射部及び移動部を制御することによって、ラインの全体にわたって加工進行方向の順逆を同一としつつラインに沿って集光領域を相対移動させることにより、ラインに沿って対象物に改質領域及び当該改質領域からZ方向に沿って延びる亀裂を形成してもよい。この場合、Z方向に沿った亀裂を形成する第2部分では、ラインの全体にわたって加工進行方向の向きが同一とされてレーザ加工が行われる。したがって、第2部分でラインの第1領域と第2領域とで加工進行方向の順逆を切り替える場合と比較して、レーザ光の集光領域の相対移動の加減速に係る時間が削減される。
【0020】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、別加工処理では、制御部は、成形部を制御することによって、集光領域の長手方向が加工進行方向に沿うようにレーザ光を成形してもよい。この場合、Z方向に沿った亀裂を形成する第2部分では、ラインの第1領域の加工と第2領域の加工との間で集光領域の長手方向と加工進行方向との関係を変化させるようにレーザ光の成形を行う必要がないため、制御部の処理が簡略化される。
【0021】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、対象物は、別の部材に接合された接合領域を含み、第1加工処理及び第2加工処理では、制御部は、入射面から反対面に向かうにつれて接合領域の内側の位置から接合領域の外縁に向かうように傾斜した斜め亀裂を形成してもよい。この場合、斜め亀裂を境界として対象物の一部を対象物から除去し、対象物の残部を残存させた場合に、対象物の他の部材との接合領域を越えて対象物の残部が外側に延在することが避けられる。
【0022】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、第1加工処理及び第2加工処理では、制御部は、Z方向についての集光領域の位置を第1Z位置に設定しつつ、ラインに沿って集光領域を相対移動させることにより、改質領域としての第1改質領域及び第1改質領域から延びる亀裂を対象物に形成する第1形成処理と、Z方向についての集光領域の位置を第1Z位置よりも入射面側の第2Z位置に設定しつつ、ラインに沿って集光領域を相対移動させることにより、改質領域としての第2改質領域及び第2改質領域から延びる亀裂を形成する第2形成処理と、を実行し、第1形成処理では、制御部は、加工進行方向及びZ方向に交差するY方向についての集光領域の位置を第1Y位置に設定し、第2形成処理では、制御部は、Y方向についての集光領域の位置を第1Y位置からシフトした第2Y位置に設定すると共に、成形部の制御によって、Y方向及びZ方向を含むYZ面内での集光領域の形状が、少なくとも集光領域の中心よりも入射面側においてシフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光を成形することにより、YZ面内においてシフトの方向に傾斜するように斜め亀裂を形成してもよい。このようにすれば、Z方向に対して傾斜した斜め亀裂を好適に形成可能である。
【0023】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、成形部は、レーザ光を変調パターンに応じて変調することによりレーザ光を成形するための空間光変調器を含み、照射部は、空間光変調器からのレーザ光を対象物に向けて集光するための集光レンズを含み、第2形成処理では、制御部は、空間光変調器に表示させる変調パターンの制御によって、集光領域の形状が傾斜形状となるようにレーザ光を変調することによりレーザ光を成形してもよい。この場合、空間光変調器を用いて容易にレーザ光を成形できる。
【0024】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、変調パターンは、レーザ光に対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、第2形成処理では、制御部は、コマ収差パターンによるコマ収差の大きさを制御することにより、集光領域の形状を傾斜形状とするための第1パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合、YZ面内における集光領域の形状が、弧状に形成される。すなわち、この場合には、集光領域の形状が、集光領域の中心よりも入射面側でシフト方向に傾斜すると共に、集光領域の中心よりも入射面と反対側でシフト方向と反対方向に傾斜される。この場合であっても、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0025】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、変調パターンは、レーザ光の球面収差を補正するための球面収差補正パターンを含み、第2形成処理では、制御部は、集光レンズの入射瞳面の中心に対して球面収差補正パターンの中心をY方向にオフセットさせることにより、集光領域の形状を傾斜形状とするための第2パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、コマ収差パターンを利用した場合と同様に、YZ面内における集光領域の形状を弧状に形成でき、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0026】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、第2形成処理では、制御部は、加工進行方向に沿った軸線に対して非対称な変調パターンを空間光変調器に表示させることにより、集光領域の形状を傾斜形状とするための第3パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合、YZ面内における集光領域の形状の全体を、シフト方向に傾斜させることができる。この場合であっても、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0027】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、変調パターンは、Y方向及びZ方向に交差するX方向とY方向とを含むXY面内における集光領域の形状を、X方向を長手とする楕円形状とするための楕円パターンを含み、第2形成処理では、制御部は、楕円パターンの強度が、X方向に沿った軸線に対して非対称となるように、変調パターンを空間光変調器に表示させることによって、集光領域の形状を傾斜形状とするための第4パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、YZ面内における集光領域の形状を弧状に形成でき、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【0028】
本開示の一側面に係るレーザ加工装置では、第2形成処理では、制御部は、YZ面内でシフトの方向に沿って配列された複数のレーザ光の集光点を形成するための変調パターンを空間光変調器に表示させることにより、複数の集光点を含む集光領域の形状を傾斜形状とするための第5パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、シフト方向に傾斜する斜め亀裂を形成可能である。
【発明の効果】
【0029】
本開示の一側面によれば、外縁部分が除去された対象物のトリム面の品質低下を抑制しつつ、斜め亀裂を形成可能とするレーザ加工装置、及び、レーザ加工方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
図3図3は、図2に示された4fレンズユニットを示す図である。
図4図4は、図2に示された空間光変調器を示す図である。
図5図5は、斜め亀裂形成の知見を説明するための対象物の断面図である。
図6図6は、斜め亀裂形成の知見を説明するための対象物の断面図である。
図7図7は、レーザ光の集光領域のビーム形状を示す図である。
図8図8は、変調パターンのオフセットを示す図である。
図9図9は、斜め亀裂の形成状態を示す断面写真である。
図10図10は、対象物の模式的な平面図である。
図11図11は、斜め亀裂の形成状態を示す断面写真である。
図12図12は、斜め亀裂の形成状態を示す断面写真である。
図13図13は、変調パターンの一例を示す図である。
図14図14は、集光レンズの入射瞳面における強度分布、及び、集光領域のビーム形状を示す図である。
図15図15は、集光領域のビーム形状、及び、集光領域の強度分布の観測結果を示す図である。
図16図16は、変調パターンの一例を示す図である。
図17図17は、非対称な変調パターンの別の例を示す図である。
図18図18は、集光レンズの入射瞳面における強度分布、及び、集光領域のビーム形状を示す図である。
図19図19は、変調パターンの一例、及び集光領域の形成を示す図である。
図20図20は、加工の対象物を示す図である。
図21図21は、加工の対象物を示す図である。
図22図22は、集光領域のビーム形状を示す模式図である。
図23図23は、集光領域のビーム形状を示す模式図である。
図24図24は、トリミング加工の一工程を示す図である。
図25図25は、トリミング加工の一工程を示す図である。
図26図26は、トリミング加工の一工程を示す図である。
図27図27は、トリミング加工の一工程を示す図である。
図28図28は、トリミング加工の一工程を示す図である。
図29図29は、トリミング加工の一工程を示す図である。
図30図30は、一実施形態に係るレーザ加工の対象物を示す図である。
図31図31は、図30に示された対象物の断面図である。
図32図32は、図30に示された対象物の平面図である。
図33図33は、加工結果を示す断面写真である。
図34図34は、加工結果を示す断面写真である。
図35図35は、加工試験を説明するための模式図である。
図36図36は、加工試験における加工進行方向とビーム形状と斜め亀裂との関係を示す模式図である。
図37図37は、図35,36に示される加工試験の結果を示す表である。
図38図38は、加工試験の結果を示す表である。
図39図39は、加工試験の結果を示す断面写真である。
図40図40は、一実施形態に係るレーザ加工の一工程を示す図である。
図41図41は、一実施形態に係るレーザ加工の一工程を示す図である。
図42図42は、一実施形態に係るレーザ加工の一工程を示す図である。
図43図43は、一実施形態に係るレーザ加工の一工程を示す図である。
図44図44は、一実施形態に係るレーザ加工の一工程を示す図である。
図45図45は、一実施形態に係るレーザ加工の一工程を示す図である。
図46図46は、一実施形態に係るレーザ加工の一工程を示す図である。
図47図47は、一実施形態に係るレーザ加工の一工程を示す図である。
図48図48は、一実施形態に係るレーザ加工の対象物を示す図である。
図49図49は、加工試験の結果を示す表である。
図50図50は、加工試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及びZ軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。
[レーザ加工装置、及び、レーザ加工の概要]
【0032】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ(支持部)2と、照射部3と、移動部4,5と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成するための装置である。
【0033】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを保持することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、Z方向に平行な軸線を回転軸として回転可能である。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能とされてもよい。なお、X方向及びY方向は、互いに交差(直交)する第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0034】
照射部3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光領域C(例えば後述する中心Ca)に対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。なお、集光領域Cは、詳細な説明は後述するが、レーザ光Lのビーム強度が最も高くなる位置又はビーム強度の重心位置から所定範囲の領域である。
【0035】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延びるように形成され得る。そのような改質領域12及び亀裂は、例えば対象物11の切断に利用される。
【0036】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光領域CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光領域Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0037】
移動部4は、ステージ2をZ方向に交差(直交)する面内の一方向に移動させる第1移動部41と、ステージ2をZ方向に交差(直交)する面内の別方向に移動させる第2移動部42と、を含む。一例として、第1移動部41は、ステージ2をX方向に沿って移動させ、第2移動部42は、ステージ2をY方向に沿って移動させる。また、移動部4は、ステージ2をZ方向に平行な軸線を回転軸として回転させる。移動部5は、照射部3を支持している。移動部5は、照射部3をX方向、Y方向、及びZ方向に沿って移動させる。レーザ光Lの集光領域Cが形成されている状態においてステージ2及び/又は照射部3が移動させられることにより、集光領域Cが対象物11に対して相対移動させられる。すなわち、移動部4,5は、対象物11に対してレーザ光Lの集光領域Cを相対移動させるために、ステージ2及び照射部3の少なくとも一方を移動させる。
【0038】
制御部6は、ステージ2、照射部3、及び移動部4,5の動作を制御する。制御部6は、処理部、記憶部、及び入力受付部を有している(不図示)。処理部は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。入力受付部は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0039】
図2は、図1に示された照射部の構成を示す模式図である。図2には、レーザ加工の予定を示す仮想的なラインAを示している。図2に示されるように、照射部3は、光源31と、空間光変調器(成形部)7と、集光レンズ33と、4fレンズユニット34と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。なお、照射部3は、光源31を有さず、照射部3の外部からレーザ光Lを導入するように構成されてもよい。空間光変調器7は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。集光レンズ33は、空間光変調器7によって変調されて空間光変調器7から出力されたレーザ光Lを対象物11に向けて集光する。
【0040】
図3に示されるように、4fレンズユニット34は、空間光変調器7から集光レンズ33に向かうレーザ光Lの光路上に配列された一対のレンズ34A,34Bを有している。一対のレンズ34A,34Bは、空間光変調器7の変調面7aと集光レンズ33の入射瞳面(瞳面)33aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。これにより、空間光変調器7の変調面7aでのレーザ光Lの像(空間光変調器7において変調されたレーザ光Lの像)が、集光レンズ33の入射瞳面33aに転像(結像)される。なお、図中のFsはフーリエ面を示す。
【0041】
図4に示されるように、空間光変調器7は、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。空間光変調器7は、半導体基板71上に、駆動回路層72、画素電極層73、反射膜74、配向膜75、液晶層76、配向膜77、透明導電膜78及び透明基板79がこの順序で積層されることで、構成されている。
【0042】
半導体基板71は、例えば、シリコン基板である。駆動回路層72は、半導体基板71上において、アクティブ・マトリクス回路を構成している。画素電極層73は、半導体基板71の表面に沿ってマトリックス状に配列された複数の画素電極73aを含んでいる。各画素電極73aは、例えば、アルミニウム等の金属材料によって形成されている。各画素電極73aには、駆動回路層72によって電圧が印加される。
【0043】
反射膜74は、例えば、誘電体多層膜である。配向膜75は、液晶層76における反射膜74側の表面に設けられており、配向膜77は、液晶層76における反射膜74とは反対側の表面に設けられている。各配向膜75,77は、例えば、ポリイミド等の高分子材料によって形成されており、各配向膜75,77における液晶層76との接触面には、例えば、ラビング処理が施されている。配向膜75,77は、液晶層76に含まれる液晶分子76aを一定方向に配列させる。
【0044】
透明導電膜78は、透明基板79における配向膜77側の表面に設けられており、液晶層76等を挟んで画素電極層73と向かい合っている。透明基板79は、例えば、ガラス基板である。透明導電膜78は、例えば、ITO等の光透過性且つ導電性材料によって形成されている。透明基板79及び透明導電膜78は、レーザ光Lを透過させる。
【0045】
以上のように構成された空間光変調器7では、変調パターンを示す信号が制御部6から駆動回路層72に入力されると、当該信号に応じた電圧が各画素電極73aに印加され、各画素電極73aと透明導電膜78との間に電界が形成される。当該電界が形成されると、液晶層76において、各画素電極73aに対応する領域ごとに液晶分子76aの配列方向が変化し、各画素電極73aに対応する領域ごとに屈折率が変化する。この状態が、液晶層76に変調パターンが表示された状態である。変調パターンは、レーザ光Lを変調するためのものである。
【0046】
すなわち、液晶層76に変調パターンが表示された状態で、レーザ光Lが、外部から透明基板79及び透明導電膜78を介して液晶層76に入射し、反射膜74で反射されて、液晶層76から透明導電膜78及び透明基板79を介して外部に出射させられると、液晶層76に表示された変調パターンに応じて、レーザ光Lが変調される。このように、空間光変調器7によれば、液晶層76に表示する変調パターンを適宜設定することで、レーザ光Lの変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等の変調)が可能である。なお、図3に示された変調面7aは、例えば液晶層76である。
【0047】
以上のように、光源31から出力されたレーザ光Lが、空間光変調器7及び4fレンズユニット34を介して集光レンズ33に入射され、集光レンズ33によって対象物11内に集光されることにより、その集光領域Cにおいて対象物11に改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂が形成される。さらに、制御部6が移動部4,5を制御することにより、集光領域Cを対象物11に対して相対移動させることにより、集光領域Cの移動方向に沿って改質領域12及び亀裂が形成されることとなる。
[斜め亀裂形成に関する知見の説明]
【0048】
ここで、このときの集光領域Cの相対移動の方向(加工進行方向)をX方向とする。また、対象物11におけるレーザ光Lの入射面である第1面11aに交差(直交)する方向をZ方向とする。また、X方向及びZ方向に交差(直交)する方向をY方向とする。X方向及びY方向は第1面11aに沿った方向である。なお、Z方向は、集光レンズ33の光軸、集光レンズ33を介して対象物11に向けて集光されるレーザ光Lの光軸として規定されてもよい。
【0049】
図5に示されるように、加工進行方向であるX方向に交差する交差面(Y方向及びZ方向を含むYZ面S)内において、Z方向及びY方向に対して傾斜するラインRA(ここではY方向から所定の角度θをもって傾斜するラインRA)に沿って斜めに亀裂を形成する要求がある。このような斜め亀裂形成に対する本発明者の知見について、加工例を示しながら説明する。
【0050】
ここでは、改質領域12として改質領域12a,12bを形成する。これにより、改質領域12aから延びる亀裂13aと、改質領域12bから延びる亀裂13bとをつなげて、ラインRAに沿って斜めに延びる亀裂13を形成する。ここでは、まず、図6に示されるように、対象物11における第1面11aをレーザ光Lの入射面としつつ集光領域C1を形成する。一方、集光領域C1よりも第1面11a側において、第1面11aをレーザ光Lの入射面としつつ集光領域C2を形成する。このとき、集光領域C2は、集光領域C1よりもZ方向に距離Szだけシフトされており、且つ、集光領域C1よりもY方向に距離Syだけシフトされている。距離Sz及び距離Syは、一例として、ラインRAの傾きに対応する。
【0051】
他方、図7に示されるように、空間光変調器7を用いてレーザ光Lを変調することにより、集光領域C(少なくとも集光領域C2)のYZ面S内でのビーム形状を、少なくとも集光領域Cの中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対してシフトの方向(ここではY方向の負側)に傾斜する傾斜形状とする。図7の例では、中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対してY方向の負側に傾斜すると共に、中心Caよりも第1面11aと反対側においても、Z方向に対してY方向の負側に傾斜する弧形状とされている。なお、YZ面S内における集光領域Cのビーム形状とは、YZ面S内における集光領域Cでのレーザ光Lの強度分布である。
【0052】
このように、少なくとも2つの集光領域C1,C2をY方向にシフトさせると共に、少なくとも集光領域C2(ここでは集光領域C1,C2の両方)のビーム形状を傾斜形状とすることにより、図9の(a)に示されるように、斜めに伸びる亀裂13を形成することができる。なお、例えば空間光変調器7の変調パターンの制御によって、レーザ光Lを分岐することにより集光領域C1,C2を同時に形成して改質領域12及び亀裂13の形成を行ってもよいし(多焦点加工)、集光領域C1の形成により改質領域12a及び亀裂13aを形成した後に、集光領域C2の形成により改質領域12b及び亀裂13bを形成するようにしてもよい(シングルパス加工)。
【0053】
また、集光領域C1と集光領域C2との間に別の集光領域を形成することにより、図9の(b)に示されるように、改質領域12aと改質領域12bとの間に別の改質領域12cを介在させ、より長く斜めに伸びる亀裂13を形成してもよい。
【0054】
引き続いて、集光領域CのYZ面S内でのビーム形状を傾斜形状とするための知見について説明する。まず、集光領域Cの定義について具体的に説明する。ここでは、集光領域Cとは、中心Caから所定範囲(例えばZ方向について中心Caから±25μmの範囲)の領域である。中心Caは、上述したように、ビーム強度が最も高くなる位置、又は、ビーム強度の重心位置である。ビーム強度の重心位置は、例えば、レーザ光Lを分岐させるための変調パターンといったようなレーザ光Lの光軸をシフトさせる変調パターンによる変調が行われていない状態でのレーザ光Lの光軸上で、ビーム強度の重心が位置する位置である。ビーム強度が最も高くなる位置やビーム強度の重心は、以下のように取得できる。すなわち、レーザ光Lの出力を対象物11に改質領域12が形成されない程度に(加工閾値よりも)低くした状態で、対象物11にレーザ光Lを照射する。これと共に、対象物11のレーザ光Lの入射面と反対側の面(ここでは第2面11b)からのレーザ光Lの反射光を、例えば図15に示されるZ方向の複数の位置F1~F7についてカメラで撮像する。これにより、得られた画像に基づいてビーム強度の最も高くなる位置や重心を取得できる。なお、改質領域12は、この中心Ca付近で形成される。
【0055】
集光領域Cでのビーム形状を傾斜形状とするためには、変調パターンをオフセットさせる方法がある。より具体的には、空間光変調器7には、波面の歪を補正するための歪補正パターン、レーザ光を分岐するためのグレーティングパターン、スリットパターン、非点収差パターン、コマ収差パターン、及び、球面収差補正パターン等の種々のパターンが表示される(これらが重畳されたパターンが表示される)。このうち、図8に示されるように、球面収差補正パターンPsをオフセットさせることにより、集光領域Cのビーム形状を調整可能である。
【0056】
図8の例では、変調面7aにおいて、球面収差補正パターンPsの中心Pcを、レーザ光Lの(ビームスポットの)中心Lcに対して、Y方向の負側にオフセット量Oy1だけオフセットさせている。上述したように、変調面7aは、4fレンズユニット34によって、集光レンズ33の入射瞳面33aに転像される。したがって、変調面7aにおけるオフセットは、入射瞳面33aでは、Y方向の正側へのオフセットになる。すなわち、入射瞳面33aでは、球面収差補正パターンPsの中心Pcは、レーザ光Lの中心Lc、及び入射瞳面33aの中心(ここでは、中心Lcと一致している)からY方向の正側にオフセット量Oy2だけオフセットされる。
【0057】
このように、球面収差補正パターンPsをオフセットさせることにより、レーザ光Lの集光領域Cのビーム形状が、図7に示されるように弧状の傾斜形状に変形される。以上のように球面収差補正パターンPsをオフセットさせることは、レーザ光Lに対してコマ収差を与えることに相当する。したがって、空間光変調器7の変調パターンに、レーザ光Lに対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含ませることにより、集光領域Cのビーム形状を傾斜形状としてもよい。なお、コマ収差パターンとしては、Zernikeの多項式の9項(3次のコマ収差のY成分)に相当するパターンであって、Y方向にコマ収差が発生するパターンを使用することができる。
【0058】
引き続いて、対象物11の結晶性と亀裂13との関係についての知見を説明する。図10は、対象物の模式的な平面図である。ここでは、対象物11は、シリコンウェハ(t775μm、<100>、1Ω・cm)であり、ノッチ11dが形成されている。この対象物11に対して、加工進行方向であるX方向を0°(110)面に合わせた第1加工例を図11の(a)に示し、X方向を15°に合わせた第2加工例を図11の(b)に示し、30°に合わせた別加工例を図12の(a)に示し、45°(100)面に合わせた第4加工例を図12の(b)に示す。各加工例においては、YZ面S内におけるラインRAのY方向からの角度θを71°としている。
【0059】
また、各加工例では、第1パスとして集光領域C1をX方向に相対移動させて改質領域12a及び亀裂13aを形成した後に、第2パスとして集光領域C2をX方向に相対移動させて改質領域12b及び亀裂13bを形成するシングルパス加工としている。第1パス及び第2パスの加工条件は以下のとおりとした。なお、以下のCPは集光補正の強度を示したものであり、コマ(LBAオフセットY)は、球面収差補正パターンPsのY方向へのオフセット量を空間光変調器7のピクセル単位で示したものである。
【0060】
<第1パス>
Z方向位置:161μm
CP:-18
出力:2W
速度:530mm/s
周波数:80kHz
コマ(LBAオフセットY):-5
Y方向位置:0
【0061】
<第2パス>
Z方向位置:151μm
CP:-18
出力:2W
速度:530mm/s
周波数80kHz
コマ(LBAオフセットY):-5
Y方向位置:0.014mm
【0062】
図11及び図12に示されるように、いずれの場合であっても、Y方向に対して71°で傾斜するラインRAに沿って亀裂13を形成することができた。すなわち、対象物11における主要劈開面である(110)面、(111)面、及び、(100)面等の影響に依らず、すなわち、対象物11の結晶構造に依らずに、所望のラインRAに沿って斜めに延びる亀裂13を形成することができた。
【0063】
なお、このように斜めに延びる亀裂13を形成するためのビーム形状の制御は、上記の例に限定されない。引き続いて、ビーム形状を傾斜形状とするための別の例について説明する。図13の(a)に示されるように、加工進行方向であるX方向に沿った軸線Axに対して非対称な変調パターンPG1によってレーザ光Lを変調し、集光領域Cのビーム形状を傾斜形状としてもよい。変調パターンPG1は、Y方向におけるレーザ光Lのビームスポットの中心Lcを通るX方向に沿った軸線AxよりもY方向の負側にグレーティングパターンGaを含むと共に、軸線AxよりもY方向の正側に非変調領域Baを含む。換言すれば、変調パターンPG1は、軸線AxよりもY方向の正側のみにグレーティングパターンGaが含まれる。なお、図13の(b)は、図13の(a)の変調パターンPG1を集光レンズ33の入射瞳面33aに対応するように反転させたものである。
【0064】
図14の(a)は、集光レンズ33の入射瞳面33aにおけるレーザ光Lの強度分布を示す。図14の(a)に示されるように、このような変調パターンPG1を用いることにより、空間光変調器7に入射したレーザ光LのうちのグレーティングパターンGaにより変調された部分が集光レンズ33の入射瞳面33aに入射しなくなる。この結果、図14の(b)及び図15に示されるように、YZ面S内における集光領域Cのビーム形状を、その全体がZ方向に対して一方向に傾斜した傾斜形状とすることができる。
【0065】
すなわち、この場合には、集光領域Cのビーム形状が、集光領域Cの中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対してY方向の負側に傾斜する共に、集光領域Cの中心Caよりも第1面11aと反対側において、Z方向に対してY方向の正側に傾斜することとなる。なお、図15の(b)の各図は、図15の(a)に示されたZ方向の各位置F1~F7におけるレーザ光LのXY面内の強度分布を示し、カメラによる実際の観測結果である。集光領域Cのビーム形状をこのように制御した場合であっても、上記の例と同様に、斜めに伸びる亀裂13を形成できる。
【0066】
さらに、軸線Axに対して非対称な変調パターンとしては、図16に示される変調パターンPG2,PG3,PG4を採用することもできる。変調パターンPG2は、軸線AxよりもY方向の負側において、軸線Axから離れる方向に順に配列された非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaを含み、軸線AxよりもY方向の正側に非変調領域Baを含む。すなわち、変調パターンPG2は、軸線AxよりもY方向の負側の領域の一部にグレーティングパターンGaを含む。
【0067】
変調パターンPG3は、軸線AXよりもY方向の負側において、軸線Axから離れる方向に順に配列された非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaを含むと共に、軸線AxよりもY方向の正側においても、軸線Axから離れる方向に順に配列された非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaを含む。変調パターンPG3では、軸線AxよりもY方向の正側とY方向の負側とで、非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaの割合を異ならせることで(Y方向の負側で相対的に非変調領域Baが狭くされることで)、軸線Axに対して非対称とされている。
【0068】
変調パターンPG4は、変調パターンPG2と同様に、軸線AxよりもY方向の負側の領域の一部にグレーティングパターンGaを含む。変調パターンPG4では、さらに、X方向についても、グレーティングパターンGaが設けられた領域が一部とされている。すなわち、変調パターンPG4では、軸線AxよりもY方向の負側の領域において、X方向に順に配列された非変調領域Ba、グレーティングパターンGa、及び、非変調領域Baを含む。ここでは、グレーティングパターンGaは、X方向におけるレーザ光Lのビームスポットの中心Lcを通るY方向に沿った軸線Ayを含む領域に配置されている。
【0069】
以上のいずれの変調パターンPG2~PG4によっても、集光領域Cのビーム形状を、少なくとも中心Caよりも第1面11a側においてZ方向に対してY方向の負側に傾斜する傾斜形状とすることができる。すなわち、集光領域Cのビーム形状を、少なくとも中心Caよりも第1面11a側においてZ方向に対してY方向の負側に傾斜するように制御するためには、変調パターンPG1~PG4のように、或いは、変調パターンPG1~PG4に限らず、グレーティングパターンGaを含む非対称な変調パターンを用いることができる。
【0070】
さらに、集光領域Cのビーム形状を傾斜形状とするための非対称な変調パターンとしては、グレーティングパターンGaを利用するものに限定されない。図17は、非対称な変調パターンの別の例を示す図である。図17の(a)に示されるように、変調パターンPEは、軸線AxよりもY方向の負側に楕円パターンEwを含むと共に、軸線AxよりもY方向の正側に楕円パターンEsを含む。なお、図17の(b)は、図17の(a)の変調パターンPEを集光レンズ33の入射瞳面33aに対応するように反転させたものである。
【0071】
図17の(c)に示されるように、楕円パターンEw,Esは、いずれも、X方向及びY方向を含むXY面における集光領域Cのビーム形状を、X方向を長手方向とする楕円形状とするためのパターンである。ただし、楕円パターンEwと楕円パターンEsとでは変調の強度が異なる。より具体的には、楕円パターンEsによる変調の強度が楕円パターンEwによる変調の強度よりも大きくされている。すなわち、楕円パターンEsによって変調されたレーザ光Lが形成する集光領域Csが、楕円パターンEwによって変調されたレーザ光Lが形成する集光領域CwよりもX方向に長い楕円形状となるようにされている。ここでは、軸線AxよりもY方向の負側に相対的に強い楕円パターンEsが配置されている。
【0072】
図18の(a)に示されるように、このような変調パターンPEを用いることにより、YZ面S内における集光領域Cのビーム形状を、中心Caよりも第1面11a側においてZ方向に対してY方向の負側に傾斜する傾斜形状とすることができる。特に、この場合には、YZ面S内における集光領域Cのビーム形状が、中心Caよりも第1面11aと反対側においてもZ方向に対してY方向の負側に傾斜することとなり、全体として弧状となる。なお、図18の(b)の各図は、図18の(a)に示されたZ方向の各位置H1~F8におけるレーザ光LのXY面内の強度分布を示し、カメラによる実際の観測結果である。
【0073】
さらには、集光領域Cのビーム形状を傾斜形状とするための変調パターンは、以上の非対称なパターンに限定されない。一例として、そのような変調パターンとして、図19に示されるように、YZ面S内において複数位置に集光点CIを形成して、複数の集光点CIの全体で(複数の集光点CIを含む)傾斜形状である集光領域Cを形成するように、レーザ光Lを変調するためのパターンが挙げられる。このような変調パターンは一例として、アキシコンレンズパターンに基づいて形成できる。このような変調パターンを用いた場合には、改質領域12自体もYZ面S内において斜めに形成することができる。このため、この場合には、所望する傾斜に応じて正確に斜めの亀裂13を形成できる。一方、このような変調パターンを用いた場合には、上記の他の例と比較して、亀裂13の長さが短くなる傾向がある。したがって、要求に応じて各種の変調パターンを使い分けることにより、所望の加工が可能となる。
【0074】
なお、上記集光点CIは、例えば、非変調のレーザ光が集光される点である。以上のように、本発明者の知見によれば、YZ面S内において少なくとの2つの改質領域12a,12bをY方向及びZ方向にシフトさせ、且つ、YZ面S内において集光領域Cのビーム形状を傾斜形状とすることにより、Z方向に対してY方向に傾斜するように斜めに延びる亀裂13を形成することができるのである。
【0075】
なお、ビーム形状の制御に際して、球面収差補正パターンのオフセットを利用する場合、コマ収差パターンを利用する場合、及び、楕円パターンを利用する場合には、回折格子パターンを利用してレーザ光の一部をカットする場合と比較して、高エネルギーでの加工が可能となる。また、これらの場合には、亀裂の形成を重視する場合に有効である。また、コマ収差パターンを利用する場合には、多焦点加工の場合に、一部の集光領域のビーム形状のみを傾斜形状とすることが可能である。さらに、アキシコンレンズパターンを利用する場合は、他のパターンの利用は、他のパターンと比較して改質領域の形成を重視する場合に有効である。
[トリミング加工の一例]
【0076】
引き続いて、トリミング加工の一例について説明する。トリミング加工は、対象物11において不要部分を除去する加工である。トリミング加工は、対象物11に集光領域を合わせてレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成するレーザ加工方法を含む。対象物11は、例えば円板状に形成された半導体ウェハを含む。対象物としては特に限定されず、種々の材料で形成されていてもよいし、種々の形状を呈していてもよい。対象物11の第2面11bには、機能素子(不図示)が形成されている。機能素子は、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。
【0077】
図20及び図21は、加工の対象物を示す図である。図20,21に示されるように、対象物11には、有効領域R及び除去領域Eが設定されている。有効領域Rは、取得する半導体デバイスに対応する部分である。ここでの有効領域Rは、対象物11を厚さ方向から見て中央部分を含む円板状の部分である。除去領域Eは、対象物11における有効領域Rよりも外側の領域である。除去領域Eは、対象物11において有効領域R以外の外縁部分である。ここでの除去領域Eは、有効領域Rを囲う円環状の部分である。除去領域Eは、対象物11を厚さ方向から見て周縁部分(外縁のベベル部)を含む。有効領域R及び除去領域Eの設定は、制御部6において行うことができる。有効領域R及び除去領域Eは、座標指定されたものであってもよい。
【0078】
ステージ2は、対象物11が載置される支持部である。本実施形態のステージ2には、対象物11の第1面11aをレーザ光入射面側である上側にした状態(第2面11bをステージ2側である下側にした状態)で、対象物11が載置されている。ステージ2は、その中心に設けられた回転軸Cxを有する。回転軸Cxは、Z方向に沿って延びる軸である。ステージ2は、回転軸Cxを中心に回転可能である。ステージ2は、モータ等の公知の駆動装置の駆動力により回転駆動される。
【0079】
照射部3は、ステージ2に載置された対象物11にレーザ光LをZ方向に沿って照射し、当該対象物11の内部に改質領域を形成する。照射部3は、移動部5に取り付けられている。照射部3は、モータ等の公知の駆動装置の駆動力によりZ方向に直線的に移動可能である。照射部3は、モータ等の公知の駆動装置の駆動力によりX方向及びY方向に直線的に移動可能である。
【0080】
照射部3は、上述したように、空間光変調器7を備えている。空間光変調器7は、レーザ光Lの光軸に垂直な面内における集光領域Cの形状(すなわち、Z方向からみたときの集光領域Cの形状)(以下、「ビーム形状」ともいう)を成形する成形部を構成する。空間光変調器7は、Z方向からみたときのビーム形状が長手方向を有するようにレーザ光Lを成形することができる。例えば空間光変調器7は、ビーム形状を楕円形状とする変調パターンを表示ずることで、ビーム形状を楕円形状へ成形する。
【0081】
ビーム形状は、楕円形状に限定されず、長尺形状であればよい。ビーム形状は、扁平円形状、長円形状又はトラック形状であってもよい。ビーム形状は、長尺な三角形形状、矩形形状又は多角形形状であってもよい。このようなビーム形状を実現する空間光変調器7の変調パターンは、スリットパターン及び非点パターンの少なくとも何れかを含んでいてもよい。なお、レーザ光Lが非点収差等によって複数の集光領域Cを有する場合、複数の集光領域Cのうち、レーザ光Lの光路における最も上流側の集光領域Cの形状が、本実施形態のビーム形状である(その他のレーザ光において同じ)。ここでの長手方向は、ビーム形状に係る楕円形状の長軸方向であり、楕円長軸方向とも称される。
【0082】
ビーム形状は、集光点の形状に限定されず、集光点付近の形状であってもよく、要は、集光領域Cの一部の形状であればよい。例えば、非点収差を有するレーザ光Lの場合、図22の(a)に示されるように、集光点付近におけるレーザ光入射面側の領域では、ビーム形状が長手方向NHを有する。図22の(a)のビーム形状の平面内(集光点付近におけるレーザ光入射面側のZ方向位置での平面内)のビーム強度分布では、長手方向NHに強い強度を持つ分布になっており、ビーム強度の強い方向が長手方向NHと一致している。
【0083】
非点収差を有するレーザ光Lの場合、図22の(c)に示されるように、集光点付近におけるレーザ光入射面の反対面側の領域では、ビーム形状が、レーザ光入射面側の領域の長手方向NH(図22の(a)参照)に対して垂直な長手方向NH0を有する。図22の(c)のビーム形状の平面内(集光点付近におけるレーザ光入射面の反対面側のZ方向位置での平面内)のビーム強度分布では、長手方向NH0に強い強度を持つ分布になっており、ビーム強度の強い方向が長手方向NH0と一致している。非点収差を有するレーザ光Lの場合、図22の(b)に示されるように、集光点付近におけるレーザ光入射面側とその反対面側との間の領域では、集光領域Cが長手方向を有さずに円形となる。
【0084】
このような非点収差を有するレーザ光Lの場合において、本実施形態が対象とする集光領域Cは、集光点付近におけるレーザ光入射面側の領域を含み、本実施形態が対象とするビーム形状は、図22の(a)に示されるビーム形状である。
【0085】
なお、空間光変調器7の変調パターンを調整することによって、集光領域Cにおける図22の(a)に示されるビーム形状となる位置を、所望に制御することができる。例えば、集光点付近におけるレーザ光入射面の反対面側の領域にて図22の(a)に示されるビーム形状を有するように制御することができる。また例えば、集光点付近におけるレーザ光入射面側とその反対面側との間の領域にて図22の(a)に示されるビーム形状を有するように制御することができる。集光領域Cの一部の位置は、特に限定されず、対象物11のレーザ光入射面からその反対面までの間の何れかの位置であればよい。
【0086】
また例えば、変調パターンの制御及び/又は機械式機構によるスリット又は楕円光学系を用いた場合、図23の(a)に示されるように、集光点付近におけるレーザ光入射面側の領域では、ビーム形状が長手方向NHを有する。図23の(a)のビーム形状の平面内(集光点付近におけるレーザ光入射面側のZ方向位置での平面内)のビーム強度分布では、長手方向NHに強い強度を持つ分布になっており、ビーム強度の強い方向が長手方向NHと一致している。
【0087】
スリット又は楕円光学系を用いた場合、図23の(c)に示されるように、集光点付近におけるレーザ光入射面の反対面側の領域では、ビーム形状が、レーザ光入射面側の領域の長手方向NH(図22の(a)参照)と同じ長手方向NHを有する。図23の(c)のビーム形状の平面内(集光点付近におけるレーザ光入射面の反対面側のZ方向位置での平面内)のビーム強度分布では、長手方向NHに強い強度を持つ分布になっており、ビーム強度の強い方向が長手方向NHと一致している。スリット又は楕円光学系を用いた場合、図23の(b)に示されるように、集光点では、ビーム形状が、レーザ光入射面側の領域の長手方向NH(図23の(a)参照)に対して垂直な長手方向NH0を有する。図23の(b)のビーム形状の平面内(集光点のZ方向位置での平面内)のビーム強度分布では、長手方向NH0に強い強度を持つ分布になっており、ビーム強度の強い方向が長手方向NH0と一致している。
【0088】
このようなスリット又は楕円光学系を用いた場合には、集光点以外のビーム形状が長手方向を有する形状となり、集光点以外のビーム形状は、本実施形態が対象とするビーム形状である。すなわち、本実施形態が対象とする集光領域Cの一部は、集光点付近におけるレーザ光入射面側の領域を含み、本実施形態が対象とするビーム形状は、図23の(a)に示されるビーム形状である。
【0089】
トリミング加工では、制御部6は、ステージ2の回転、照射部3からのレーザ光Lの照射、ビーム形状、及び、集光領域Cの移動を制御する。制御部6は、ステージ2の回転量に関する回転情報(以下、「θ情報」ともいう)に基づいて、各種の制御を実行可能である。θ情報は、ステージ2を回転させる駆動装置の駆動量から取得されてもよいし、別途のセンサ等により取得されてもよい。θ情報は、公知の種々の手法により取得することができる。ここでのθ情報は、対象物11が0°方向の位置に位置するときの状態を基準にした回転角度を含む。
【0090】
制御部6は、ステージ2を回転させながら、対象物11におけるラインA(有効領域Rの周縁)に沿った位置に集光領域Cを位置させた状態で、θ情報に基づいて照射部3におけるレーザ光Lの照射の開始及び停止を制御することにより、有効領域Rの周縁に沿って改質領域を形成させる周縁処理を実行する。
【0091】
制御部6は、ステージ2を回転させずに、除去領域Eにレーザ光Lを照射させると共に、当該レーザ光Lの集光領域Cを移動させることにより、除去領域Eに改質領域を形成させる除去処理を実行する。
【0092】
制御部6は、改質領域に含まれる複数の改質スポットのピッチ(加工進行方向に隣接する改質スポットの間隔)が一定になるように、ステージ2の回転、照射部3からのレーザ光Lの照射、並びに、集光領域Cの移動の少なくとも何れかを制御する。
【0093】
制御部6は、アライメント用のカメラ(不図示)の撮像画像から、対象物11の回転方向の基準位置(0°方向の位置)及び対象物11の直径を取得する。制御部6は、照射部3がステージ2の回転軸Cx上までX方向に沿って移動できるように、照射部3の移動を制御する。
【0094】
次に、トリミング加工の一例について説明する。まず、第1面11aがレーザ光Lの入射面となるように、ステージ2上に対象物11を載置する。対象物11において機能素子が搭載された第2面11b側は、支持基板ないししテープ材が接着されて保護されている。
【0095】
続いて、トリミング加工を実施する。トリミング加工では、制御部6により周縁処理を実行する。具体的には、図24の(a)に示されるように、ステージ2を一定の速さで回転しながら、対象物11における有効領域Rの周縁に沿った位置に集光領域Cを位置させた状態で、θ情報に基づいて照射部3におけるレーザ光Lの照射の開始及び停止を制御する。これにより、図24の(b)及び図24の(c)に示されるように、ラインA(有効領域Rの周縁)に沿って改質領域12を形成する。形成した改質領域12は、改質スポット及び改質スポットから延びる亀裂を含む。
【0096】
トリミング加工では、制御部6により除去処理を実行する。具体的には、図25の(a)に示されるように、ステージ2を回転させずに、除去領域Eにおいてレーザ光Lを照射すると共に、照射部3をX方向に沿って移動し、当該レーザ光Lの集光領域Cを対象物11に対してX方向に相対移動する。ステージ2を90°回転させた後、除去領域Eにおいてレーザ光Lを照射すると共に、照射部3をX方向に沿って移動し、当該レーザ光Lの集光領域Cを対象物11に対してX方向に相対移動する。
【0097】
これにより、図25の(b)に示されるように、Z方向から見て除去領域Eに4等分するように延びるラインに沿って、改質領域12を形成する。形成した改質領域12は、改質スポット及び改質スポットから延びる亀裂を含む。この亀裂は、第1面11a及び第2面11bの少なくとも何れかに到達していてもよいし、第1面11a及び第2面11bの少なくとも何れかに到達していなくてもよい。その後、図26の(a)及び図26の(b)に示されるように、例えば冶具又はエアーにより、改質領域12を境界として除去領域Eを取り除く。これにより、対象物11から半導体デバイス11Kが形成される。
【0098】
続いて、図26の(c)に示されるように、半導体デバイス11Kの剥離面11cに対して仕上げの研削、ないし砥石等の研磨材KMによる研磨を行う。エッチングにより対象物11を剥離している場合、当該研磨を簡略化することができる。以上の結果、半導体デバイス11Mが取得される。
【0099】
次に、トリミング加工に関して、より詳細に説明する。図27に示されるように、対象物11は、板状を呈している。対象物11は、(100)面と、一の(110)面と、別の(110)面と、一の(110)面に直交する第1結晶方位K1と、別の(110)面に直交する第2結晶方位K2と、を含む結晶構造を有している。対象物11の第1面11aは、(100)面である。対象物11は、(100)面(すなわち第1面11a)がレーザ光Lの入射面となるようにステージ2に支持されている。対象物11は、例えば、シリコンで形成されたシリコンウェハである。(110)面は、へき開面である。第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2は、へき開方向、すなわち、対象物11において最も亀裂が延びやすい方向である。第1結晶方位K1と第2結晶方位K2とは、互いに直交する。
【0100】
対象物11には、アライメント対象11nが設けられている。例えばアライメント対象11nは、対象物11の0°方向の位置に対してθ方向(ステージ2の回転軸Cx回りの回転方向)に一定の関係を有する。0°方向の位置とは、θ方向において基準となる対象物11の位置である。例えばアライメント対象11nは、外縁部に形成されたノッチである。なお、アライメント対象11nは、特に限定されず、対象物11のオリエンテーションフラットであってもよいし、機能素子のパターンであってもよい。図示する例では、アライメント対象11nは、対象物11の0°方向の位置に設けられている。換言すると、アライメント対象11nは、対象物11の外縁と第2結晶方位K2とが直交する位置に設けられている。
【0101】
対象物11には、トリミング予定ラインとしてのラインAが設定されている。ラインAは、改質領域12の形成を予定するラインである。ラインAは、対象物11の外縁の内側において環状に延在する。ここでのラインAは、円環状に延在する。ラインAは、対象物11の有効領域Rと除去領域Eとの境界に設定されている。ラインAの設定は、制御部6において行うことができる。ラインAは、仮想的なラインであるが、実際に引かれたラインであってもよい。ラインAは、座標指定されたものであってもよい。
【0102】
制御部6は、対象物11に関する対象物情報を取得する。対象物情報は、例えば対象物11の結晶方位(第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2)に関する情報と、対象物11の0°方向の位置及び対象物11の直径に関するアライメント情報と、を含む。制御部6は、アライメント用のカメラの撮像画像、並びに、ユーザの操作又は外部からの通信等による入力に基づいて、対象物情報を取得することができる。
【0103】
また、制御部6は、ラインAに関するライン情報を取得する。ライン情報は、ラインAの情報、及び、ラインAに沿って集光領域Cを相対的に移動させる場合の当該移動の移動方向(「加工進行方向」ともいう)に関する情報を含む。例えば加工進行方向は、ラインA上に位置する集光領域Cを通るラインAの接線方向である。制御部6は、ユーザの操作又は外部からの通信等による入力に基づいて、ライン情報を取得することができる。
【0104】
さらに、制御部6は、取得された対象物情報及びライン情報に基づいて、ビーム形状の長手方向が加工進行方向と交差するように、ラインAに沿って集光領域Cを相対的に移動させる場合の長手方向の向きを決定する。具体的には、制御部6は、対象物情報及びライン情報に基づいて、長手方向NHの向きを第1向き及び第2向きに決定する。第1向きは、ラインAの第1領域A1に沿って集光領域Cを相対的に移動させる場合のビーム形状の長手方向の向きである。第2向きは、ラインAの第2領域A2に沿って集光領域Cを相対的に移動させる場合のビーム形状の長手方向の向きである。以下、「ビーム形状の長手方向の向き」を、単に「ビーム形状の向き」ともいう。
【0105】
第1領域A1は、円弧状の領域であって、一例として、第2結晶方位K2とラインAとが直交する点を0°とし、第1結晶方位K1とラインAとが直交する点を90°とし、ラインAにおける0°と90°との中間の点を45°としたとき、0°から45°までの領域、90°から135°までの領域、180°から225°までの領域、及び、270°から315°までの領域を含み、第2領域A2は、円弧状の領域であって、45°から90°までの領域、135°から180°までの領域、225°から270°までの領域、及び、315°から360°までの領域を含む。なお、この場合、45°の点、及び、225°の点は、(100)面に直交する第3結晶方位K3とラインAとが直交する点であり、135°の点、及び、315°の点は、(100)面に直交する第4結晶方位K4とラインAとが直交する点である。
【0106】
このように、ラインAは、反時計回りに45°ごとに交互に配列された複数の第1領域A1及び複数の第2領域A2を含む。ただし、第1領域A1及び第2領域A2の上記の角度範囲は、0°の点をどこに設定するかによって任意に変更され得る。例えば、第1結晶方位K1とラインAとが直交する点を0°とした場合(上記の90°の点を0°とした場合)には、第1領域A1及び第2領域A2は、上記の角度範囲から90°だけ回転された角度範囲となる。また、上記のとおり0°の点を設定した場合、0°の点から時計回りに45°だけ回転された点である315°の点を、-45°の点と言い換えることも可能である。さらに、第1領域A1と第2領域A2との境界(例えば45°)の点は、第1領域A1と第2領域A2とのいずれか一方に含まれてもよいし、両方に含まれてもよい。
【0107】
第1領域A1は、ラインAに沿って集光領域Cを相対的に移動させる場合に、後述の加工角度が0°以上45°以下、もしくは-90°以上-45°以下となる領域を含む。第2領域A2は、ラインAに沿って集光領域Cを相対的に移動させる場合に、後述の加工角度が45°以上90°未満もしくは-45°以上0°未満となる領域を含む。
【0108】
図28の(b)に示されるように、加工角度αは、第1結晶方位K1に対する加工進行方向NDの角度である。加工角度αは、レーザ光Lの入射面である第1面11aに交差するZ方向から見て、反時計回りに向かう角度を正(プラス)の角度とし、時計回りに向かう角度を負(マイナス)の角度とする。加工角度αは、ステージ2のθ情報、対象物情報及びライン情報に基づき取得できる。第1領域A1に沿って集光領域Cを相対的に移動している場合は、例えば、加工角度αが0°以上45°以下もしくは-90°以上-45°以下の場合として認識することができる。第2領域A2に沿って集光領域Cを相対的に移動する場合は、例えば、加工角度αが45°以上90°以下もしくは-45°以上0°以下の場合として認識することができる。
【0109】
第1向き及び第2向きは、第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2のうち加工進行方向NDとの間の角度が大きい一方(より離れている一方)に近づくように、加工進行方向NDに対して傾斜した方向の向きである。
【0110】
第1向き及び第2向きは、加工角度αが0°以上90°以下の場合、次のとおりである。第1向きは、第2結晶方位K2に近づく側へ長手方向NHが加工進行方向NDに対して傾斜した方向の向きである。第2向きは、第1結晶方位K1に近づく側へ長手方向NHが加工進行方向NDに対して傾斜した方向の向きである。第1向きは、例えば、加工進行方向NDから第2結晶方位K2に近づく側へ10°~35°傾斜した方向の向きである。第2向きは、例えば、加工進行方向NDから第1結晶方位K1に近づく側へ10°~35°傾斜した方向の向きである。
【0111】
第1向きは、ビーム角度βが+10°~+35°の場合の集光領域Cの向きである。第2向きは、ビーム角度βが-35°~-10°の場合の集光領域Cの向きである。ビーム角度βは、加工進行方向NDと長手方向NHとの間の角度である。ビーム角度βは、レーザ光Lの入射面である第1面11aに交差するZ方向から見て、反時計回りに向かう角度を正(プラス)の角度とし、時計回りに向かう角度を負(マイナス)の角度とする。ビーム角度βは、集光領域Cの向きと加工進行方向NDとに基づき取得できる。
【0112】
制御部6は、対象物11に対するレーザ加工の開始及び停止を制御する。制御部6は、ラインAの第1領域A1に沿って集光領域Cを相対的に移動させて改質領域12を形成させると共に、ラインAの第1領域A1以外の領域での改質領域12の形成を停止させる第1加工処理を実行する。制御部6は、ラインAの第2領域A2に沿って集光領域Cを相対的に移動させて改質領域12を形成させると共に、ラインAの第2領域A2以外の領域での改質領域12の形成を停止させる第2加工処理と、を実行する。
【0113】
制御部6による改質領域12の形成及びその停止の切り替えは、次のようにして実現することができる。例えば、照射部3において、レーザ光Lの照射(出力)の開始及び停止(ON/OFF)を切替えることで、改質領域12の形成と当該形成の停止とを切り替えることが可能である。具体的には、レーザ発振器が固体レーザで構成されている場合、共振器内に設けられたQスイッチ(AOM(音響光学変調器)、EOM(電気光学変調器)等)のON/OFFが切り替えられることで、レーザ光Lの照射の開始及び停止が高速に切り替えられる。レーザ発振器がファイバレーザで構成されている場合、シードレーザ、アンプ(励起用)レーザを構成する半導体レーザの出力のON/OFFが切り替えられることで、レーザ光Lの照射の開始及び停止が高速に切り替えられる。レーザ発振器が外部変調素子を用いている場合、共振器外に設けられた外部変調素子(AOM、EOM等)のON/OFFが切り替えられることで、レーザ光Lの照射のON/OFFが高速に切り替えられる。
【0114】
或いは、制御部6による改質領域12の形成及びその停止の切り替えは、次のようにして実現してもよい。例えば、シャッタ等の機械式機構を制御するによってレーザ光Lの光路を開閉し、改質領域12の形成と当該形成の停止とを切り替えてもよい。レーザ光LをCW光(連続波)へ切り替えることで、改質領域12の形成を停止させてもよい。空間光変調器7の液晶層76に、レーザ光Lの集光状態を改質できない状態とするパターン(例えば、レーザ散乱させる梨地模様のパターン)を表示することで、改質領域12の形成を停止させてもよい。アッテネータ等の出力調整部を制御し、改質領域12が形成できないようにレーザ光Lの出力に低下させることで、改質領域12の形成を停止させてもよい。偏光方向を切り替えることで、改質領域12の形成を停止させてもよい。レーザ光Lを光軸以外の方向に散乱させて(飛ばして)カットすることで、改質領域12の形成を停止させてもよい。
【0115】
制御部6は、空間光変調器7を制御することにより、集光領域Cの向きを調整する。制御部6は、第1加工処理を実行する場合に、第1向きとなるように集光領域Cの向きを調整する。制御部6は、第2加工処理を実行する場合に、第2向きとなるように集光領域Cの向きを調整する。制御部6は、一例として、加工進行方向NDに対して±35°の範囲で変化するように、集光領域Cの長手方向NHを調整する。
【0116】
上述したレーザ加工装置1では、以下のトリミング加工を実施する。
【0117】
トリミング加工では、まず、アライメント用のカメラが対象物11のアライメント対象11nの直上に位置し且つアライメント対象11nにカメラのピントが合うように、ステージ2を回転させると共にカメラが搭載されている照射部3をX方向及びY方向に沿って移動させる。
【0118】
続いて、アライメント用のカメラにより撮像を行う。カメラの撮像画像に基づいて、対象物11の0°方向の位置を取得する。制御部6により、カメラの撮像画像、並びに、ユーザの操作又は外部からの通信等による入力に基づいて、対象物情報及びライン情報を取得する。対象物情報は、対象物11の0°方向の位置及び直径に関するアライメント情報を含む。上述したように、アライメント対象11nは0°方向の位置に対してθ方向に一定の関係を有することから、撮像画像からアライメント対象11nの位置を得ることで、0°方向の位置を取得できる。カメラの撮像画像に基づくことで、対象物11の直径を取得できる。なお、対象物11の直径は、ユーザからの入力により設定されてもよい。
【0119】
続いて、取得された対象物情報及びライン情報に基づいて、制御部6により、ラインAに沿って集光領域Cを相対的に移動させる場合の集光領域Cの長手方向NHの向きとして第1向き及び第2向きを決定する。
【0120】
続いて、ステージ2を回転させ、対象物11を0°方向の位置に位置させる。X方向において、集光領域Cがトリミング所定位置に位置するように、照射部3をX方向及びY方向に沿って移動させる。例えばトリミング所定位置は、対象物11におけるラインA上の所定位置である。
【0121】
続いて、ステージ2の回転を開始する。測距センサ(不図示)による第1面11aの追従を開始する。なお、測距センサの追従開始の前に、集光領域Cの位置が測距センサの測長可能範囲内であることを予め確認する。ステージ2の回転速度が一定(等速)になった時点で、照射部3によるレーザ光Lの照射を開始する。
【0122】
ステージ2を回転させながら、制御部6によりレーザ光Lの照射のON/OFFを切り替えることで、図28の(a)に示されるように、ラインAのうち第1領域A1に沿って集光領域Cを相対的に移動させて改質領域12を形成させると共に、ラインAの第1領域A1以外の領域での改質領域12の形成を停止させる(第1加工工程)。図28の(b)に示されるように、第1加工工程を実行する場合、制御部6により、第1向きとなるように集光領域Cの向きを調整する。つまり、第1加工工程における集光領域Cの向きは、第1向きで固定されている。
【0123】
続いて、ステージ2を回転させながら、制御部6によりレーザ光Lの照射のON/OFFを切り替えることで、図29の(a)に示されるように、ラインAのうち第2領域A2に沿って集光領域Cを相対的に移動させて改質領域12を形成させると共に、ラインAの第1領域A1以外の領域での改質領域12の形成を停止させる(第2加工工程)。図29の(b)に示されるように、第2加工工程を実行する場合、制御部6により、第2向きとなるように集光領域Cの向きを調整する。つまり、第2加工工程における集光領域Cの向きは、第2向きで固定されている。
【0124】
上述した第1加工工程及び第2加工工程を、トリミング所定位置のZ方向の位置を変えて繰り返し行う。以上により、対象物11の内部において、有効領域Rの周縁のラインAに沿って、Z方向に複数列の改質領域12を形成する。
[レーザ加工の第1実施形態]
【0125】
以上、斜め亀裂形成に関する知見、及び、トリミング加工の一例について説明した。ここでは、トリミング加工の際に斜め亀裂の形成を行うレーザ加工の一実施形態について説明を行う。図30は、一実施形態に係るレーザ加工の対象物を示す図である。図30の(a)は平面図であり、図30の(b)は側面図である。図31は、図30に示された対象物の断面図である。
【0126】
図30,31に示されるように、対象物100は、上述した対象物11と、対象物11とは別部材である対象物11Rと、を含む。対象物11Rは、例えばシリコンウェハである。対象物11は、複数の機能素子を含み、第2面11bに形成されたデバイス層110を含む。対象物11Rは、複数の機能素子を含み、対象物11Rの第1面11Raに形成されたデバイス層110Rを含む。対象物11と対象物11Rとは、デバイス層110とデバイス層110Rとが互いに対向するように配置されて互いに接合されることによって張り合わされており、対象物100を構成している。
【0127】
ここでは、対象物11に改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂13を形成し、それらの改質領域12及び亀裂13を境界として対象物11の除去領域Eを切除するトリミング加工を行う。より具体的には、対象物11は、レーザ光Lの入射面となる第1面11aの反対側の第2面11b(反対面)側から順に配列された第1部分15A及び第2部分15Bを含む。そして、第1部分15Aでは、Z方向に対して斜めに延びる亀裂13(以下、「斜め亀裂」という場合がある)を形成するように改質領域12の形成を行い、第2部分15Bでは、Z方向に沿って延びる亀裂13(以下、「垂直亀裂」という場合がある)を形成するように改質領域12の形成を行う。なお、図31のラインR1は、斜め亀裂を形成する予定のラインを示し、ラインR2は垂直亀裂を形成する予定のラインを示す。
【0128】
したがって、少なくとも第1部分15Aの加工の際には、上記のトリミング加工と斜め亀裂を生じさせるための加工とが併用される。すなわち、第1部分15Aの加工の際には、第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2のうち加工進行方向NDとの間の角度が大きい一方に近づくように、加工進行方向NDに対して長手方向NHが傾斜するようにビーム形状を成形しつつラインAに沿って改質領域12及び亀裂13を形成すると共に、亀裂13が斜め亀裂となるようにする。
【0129】
より具体的には、ラインAの第1領域A1の加工を行う場合には、図28の(b)に示されるような第1向きの第1形状Q1の集光領域Cとなるようにレーザ光Lの成形を行い、ラインAの第2領域A2の加工を行う場合には、図29の(b)に示されるような第2向きの第2形状Q2の集光領域Cとなるようにレーザ光Lの成形を行う。このような加工を行う場合について、次のような加工試験を行った。
【0130】
図32は、図30に示された対象物の平面図である。図32に示されるように、ここでは、ラインAのうち、ラインAと第2結晶方位K2との交点である0°の点から、ラインAと第4結晶方位K4との交点である-45°の点までの第2領域A2について、加工進行方向NDを順方向ND1として集光領域Cを相対移動させた場合と、加工進行方向NDを逆方向ND2として集光領域Cを相対移動させた場合と、のそれぞれの場合で実際に加工を行って断面観察を行った。ここでは、第2領域A2の加工を行うため、集光領域Cは、図29の(b)に示される第2形状Q2とされる。また、斜め亀裂の延びる方向CDは、対象物11の中心側から外側に向かう方向(図29の(b)参照)である。
【0131】
したがって、図29の(b)に示されるように、加工進行方向NDが順方向ND1である場合には、加工進行方向NDに対する集光領域Cの長手方向NHの傾斜の向きと、斜め亀裂の延びる方向CDとが同じ側となる一方で、加工進行方向NDが逆方向ND2である場合(加工進行方向NDの矢印の向きを逆にした場合)には、加工進行方向NDに対する長手方向NHの傾斜の向きと、斜め亀裂の延びる方向CDとが互いに反対側となる。なお、順方向ND1を反時計回りの方向とし、逆方向ND2を時計回りの方向としている。
【0132】
図33及び図34は、加工結果を示す断面写真である。図33は、順方向ND1での加工結果を示し、(a)~(d)は、それぞれ、0°の点、-15°の点、-30°の点、及び、-45°の点の断面写真である。また、図34は、逆方向ND2での加工結果を示し、(a)~(d)は、それぞれ、0°の点、-15°の点、-30°の点、及び、-45°の点の断面写真である。
【0133】
図33,34に示されるように、長手方向NHの向きと斜め亀裂の延びる方向CDとが加工進行方向NDに対して同じ側となる順方向ND1での加工では、0°から-45°に至るまで良好な加工結果が得られたものの、長手方向NHの向きと斜め亀裂の延びる方向CDとが加工進行方向NDに対して逆側となる逆方向ND2での加工では、-45°の点(図34の(d))において、下面に至るような凹凸FNが発生し、品質低下が確認された。このことから、加工進行方向NDに対する長手方向NHの傾斜の向きと、加工進行方向NDに対する斜め亀裂の延びる方向CDとの関係が、加工品質に影響していることが理解された。この理解に基づいて、別の加工試験を行った。
【0134】
図35は、加工試験を説明するための模式図である。図36は、加工試験における加工進行方向とビーム形状と斜め亀裂との関係を示す模式図である。図35,36に示されるように、この加工試験では、Z方向からみたときに(110)面に対して45°となる方向を加工進行方向NDとし、その順方向ND1と逆方向ND2とのそれぞれについて、斜め亀裂の延びる方向CDを正方向CD1とした場合と逆方向CD2とした場合の加工を行った。すなわち、加工進行方向NDの順逆で2通り、斜め亀裂の延びる方向CDの正逆で2通りの計4通りの組み合わせに対して、さらに、集光領域Cのビーム形状を第1形状Q1とした場合と第2形状Q2とした場合の加工(計8通りの加工)を行った。
【0135】
図37は、図35,36に示される加工試験の結果を示す表である。図37に示されるように、計8通りの加工に対して、斜め亀裂の延びる方向CDを正方向CD1としたときには、集光領域Cのビーム形状を第2形状Q2とし、且つ、加工進行方向NDを順方向ND1とした場合、及び、集光領域Cのビーム形状を第1形状Q1とし、且つ、加工進行方向NDを逆方向ND2とした場合に、良好な加工結果(図37の表の「A」)が得られた。
【0136】
また、計8通りの加工に対して、斜め亀裂の延びる方向CDを逆方向CD2としたときには、集光領域Cのビーム形状を第1形状Q1とし、且つ、加工進行方向NDを順方向ND1とした場合、及び、集光領域Cのビーム形状を第2形状Q2とし、且つ、加工進行方向NDを逆方向ND2とした場合に、良好な加工結果が得られた。このことから、少なくとも45°の点の加工を行う際には、加工進行方向NDの順逆を調整し、加工進行方向NDに対する集光領域Cの長手方向NHの傾斜の向きと斜め亀裂の延びる方向CDとが同じ側となる場合に、良好な加工結果となるとの知見が得られた。
【0137】
なお、45°の点は、第2結晶方位K2とラインAとが直交する点を0°とした場合には、(100)面に直交する第3結晶方位K3とラインAとが直交する点であり、同じく(100)面に直交する第4結晶方位K4とラインAとが直交する点である-45°の点と同等である。
【0138】
以上の知見に基づいて、さらなる加工試験を行った。図38は、加工試験の結果を示す表である。図38の表に示される各条件のうち、第1領域A1でビーム形状を第1形状Q1とする条件、及び、第2領域A2でビーム形状を第2形状Q2とする条件であって、加工進行方向NDに対する集光領域Cの長手方向NHの傾斜の向きと斜め亀裂の延びる方向CDとが同じ側となる条件IR1及び条件IR2で、良好な加工結果(図38の表の評価「A」又は評価「B」)が得られた。なお、図38に示される評価は、評価「A」、評価「B」、評価「C」、評価「D」、及び、評価「E」の順に良好となっている(すなわち、評価「A」が最も良好であり、評価「E」が最も良好でない)。
【0139】
条件IR1は、第1結晶方位K1とラインAとが直交する点を0°とした場合の0°の点から-45°の点までの第2領域A2に対して、加工進行方向NDを順方向ND1とし、且つ、集光領域Cのビーム形状を第2形状Q2とする条件である。また、条件IR2は、第1結晶方位K1とラインAとが直交する点を0°とした場合の-45°の点から-90°の点までの第1領域A1に対して、加工進行方向NDを逆方向ND2とし、且つ、集光領域Cのビーム形状を第1形状Q1とする条件である。
【0140】
一方、図38の表に示される各条件のうち、第1領域A1でビーム形状を第1形状Q1とする条件、及び、第2領域A2でビーム形状を第2形状Q2とする条件であれば、加工進行方向NDに対する集光領域Cの長手方向NHの傾斜の向きと斜め亀裂の延びる方向CDとが同じ側でない条件IR3及び条件IR4についても、条件IR1及び条件IR2と比較して劣るものの、-45°の点を除いて概ね良好な加工結果が得られた。他方、図38の表に示される各条件のうち、第1領域A1でビーム形状を第2形状Q2とする条件IR5、及び、第2領域A2でビーム形状を第1形状Q1とする条件IR6では、加工進行方向NDの順逆によらず、全般的に良好な結果が得られなかった。
【0141】
なお、図39の(a)は図38の表中の評価「E」、図39の(b)は図38の表中の評価「D」、図39の(c)は図38の表中の評価「C」、図39の(d)は図38の表中の評価「B」、図39の(e)は図38の表中の評価「A」のそれぞれに対応する断面写真の一例である。図39に示されるように、評価「A」及び評価「B」は、下面に至る凹凸が形成されていない良好な加工結果を示す。また、評価「C」は、下面に至る凹凸がわずかに生じているものの、概ね良好な結果を示す。一方、評価「D」及び評価「E」は、下面に至る凹凸が相対的に多く生じており、良好でない結果を示す。
【0142】
図38,39に示される加工試験の結果によれば、図37に示される加工試験の結果より得られた知見の正しさが確認された。
【0143】
本実施形態では、以上のような知見に基づいてレーザ加工を行う。ここでは、まず、対象物11の第1部分15A(図31参照)の加工を行う。すなわち、ステージ2を回転させながら、制御部6によりレーザ光Lの照射のON/OFFを切り替えることで、図40の(a)に示されるように、ラインAのうち第1領域A1に沿って集光領域Cを相対的に移動させて改質領域12を形成すると共に、ラインAの第1領域A1以外の領域(第2領域A2)での改質領域12の形成を停止する(第1加工)。
【0144】
図40の(b)に示されるように、第1加工では、制御部6の移動部4の制御のもとでステージ2の回転方向が制御されることにより、加工進行方向NDが逆方向ND2とされる。また、第1加工では、第1領域A1の加工であるため、制御部6の制御のもとで空間光変調器7によるレーザ光Lの成形が行われることにより、集光領域Cのビーム形状が第1形状Q1とされる。さらに、ここでは、第2面11bに向かうにつれてZ方向に対して対象物11の中心から外側に向かう方向に傾斜するように(図31参照)、斜め亀裂の延びる方向CDが正方向CD1とされる。
【0145】
ここでの斜め亀裂の形成方法について具体的に説明する。すなわち、第1加工では、図41に示されるように、対象物11におけるレーザ光L1の入射面である第1面11aに交差するZ方向についての集光領域C1の位置を第1Z位置Z1に設定しつつ、ラインA(X方向)に沿って集光領域C1を相対移動させることにより、改質領域(第1改質領域)12a及び改質領域12aから延びる亀裂(第1亀裂)13aを対象物11に形成する(第1形成)。この第1形成では、第1面11aに沿うと共にX方向に交差するY方向についての集光領域C1の位置を第1Y位置Y1に設定する。
【0146】
また、第1加工では、Z方向についてのレーザ光L2の集光領域C2の位置を、第1形成での集光領域C1の第1Z位置Z1よりも第1面11a(入射面)側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインA(X方向)に沿って集光領域C2を相対移動させることにより、改質領域12b(第2改質領域)及び改質領域12bから延びる亀裂(第2亀裂)13bを形成する(第2形成)。この第2形成では、Y方向についての集光領域C2の位置を、集光領域C1の第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2に設定する。また、第2形成では、Y方向及びZ方向を含むYZ面S内での集光領域C2のビーム形状が、少なくとも集光領域C2の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を変調させる(Z方向からみたときの集光領域C2のビーム形状は第1形状Q1である)。これにより、YZ面S内において当該シフトの方向に傾斜するように亀裂13が形成される。YZ面S内におけるビーム形状の制御については、上記の斜め亀裂に関する知見で説明した通りである。
【0147】
なお、ここでは、第1形成でも、第2形成と同様に、Y方向及びZ方向を含むYZ面S内での集光領域C1のビーム形状が、少なくとも集光領域C1の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L1を変調させる(この場合にも、Z方向からみたときの集光領域C1のビーム形状は第1形状Q1である)。以上により、図41の(b)に示されるように、ラインAの第1領域A1において、亀裂13aと亀裂13bとがつなげられ、改質領域12a,12bにわたって斜めに延びる亀裂13(斜め亀裂13F)が形成される。斜め亀裂13Fは、対象物11の第2面11bに到達してもよいし到達しなくてもよい(要求される加工の態様に応じて適宜設定され得る)。
【0148】
なお、レーザ光L1,L2は、例えば、空間光変調器7にレーザ光Lを分岐するためのパターンを表示させてレーザ光Lを変調することにより、レーザ光Lを2つに分岐することにより生成され得る。この場合、第1形成と第2形成とが同時に実施されることとなる。ただし、レーザ光L1,L2は、別のレーザ光であってもよく、この場合、第1形成と第2形成とが別途のタイミングで行われることとなる。また、集光領域C1,C2は、それぞれ、レーザ光Lの集光領域Cに相当するレーザ光L1,L2の集光領域である。
【0149】
一方、本実施形態では、ステージ2を回転させながら、制御部6によりレーザ光Lの照射のON/OFFを切り替えることで、図42の(a)に示されるように、ラインAのうち第2領域A2に沿って集光領域Cを相対的に移動させて改質領域12を形成すると共に、ラインAの第2領域A2以外の領域(第1領域A1)での改質領域12の形成を停止する(第2加工)。
【0150】
図42の(b)に示されるように、第2加工では、制御部6の移動部4の制御のもとでステージ2の回転方向が制御されることにより、加工進行方向NDが順方向ND1とされる。すなわち、第1加工と第2加工との間では、加工進行方向NDの順逆(順方向ND1とするか逆方向ND2とするか)が切り替えられる。また、第2加工では、第2領域A2の加工であるため、制御部6の制御のもとで空間光変調器7によるレーザ光Lの成形が行われることにより、集光領域Cのビーム形状が第2形状Q2とされる。さらに、ここでは、第2面11bに向かうにつれてZ方向に対して対象物11の中心から外側に向かう方向に傾斜するように(図31参照)、斜め亀裂の延びる方向CDが正方向CD1とされる。
【0151】
ここでの斜め亀裂の形成方法について具体的に説明する。すなわち、第2加工では、図43の(a)に示されるように、対象物11におけるレーザ光L1の入射面である第1面11aに交差するZ方向についての集光領域C1の位置を第1Z位置Z1に設定しつつ、ラインA(X方向)に沿って集光領域C1を相対移動させることにより、改質領域(第1改質領域)12a及び改質領域12aから延びる亀裂(第1亀裂)13aを対象物11に形成する(第1形成)。この第1形成では、第1面11aに沿うと共にX方向に交差するY方向についての集光領域C1の位置を第1Y位置Y1に設定する。
【0152】
また、第2形成では、Z方向についてのレーザ光L2の集光領域C2の位置を、第1形成での集光領域C1の第1Z位置Z1よりも第1面11a(入射面)側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインA(X方向)に沿って集光領域C2を相対移動させることにより、改質領域12b(第2改質領域)及び改質領域12bから延びる亀裂(第2亀裂)13bを形成する(第2形成)。この第2形成では、Y方向についての集光領域C2の位置を、集光領域C1の第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2に設定する。また、第2形成では、Y方向及びZ方向を含むYZ面S内での集光領域C2のビーム形状が、少なくとも集光領域C2の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を変調させる(Z方向からみたときの集光領域C2のビーム形状は、第2形状Q2である)。これにより、YZ面S内において当該シフトの方向に傾斜するように亀裂13が形成される。
【0153】
なお、ここでは、第1形成でも、第2形成と同様に、Y方向及びZ方向を含むYZ面S内での集光領域C1のビーム形状が、少なくとも集光領域C1の中心よりも第1面11a側において当該シフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L1を変調させる(この場合にも、Z方向からみたときの集光領域C1のビーム形状は第2形状Q2である)。以上により、図43の(b)に示されるように、ラインAの第2領域A2において、亀裂13aと亀裂13bとがつなげられ、改質領域12a,12bにわたって斜めに延びる亀裂13(斜め亀裂13F)が形成される。亀裂13は、対象物11の第2面11bに到達してもよいし到達しなくてもよい(要求される加工の態様に応じて適宜設定され得る)。なお、ビーム形状を傾斜形状とするための変調パターンは、上述したとおりである。
【0154】
すなわち、ここでの変調パターンは、レーザ光Lに対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、少なくとも第2形成では、制御部6は、コマ収差パターンによるコマ収差の大きさを制御することにより、集光領域C2のビーム形状を傾斜形状とするための第1パターン制御を行うことができる。上述したように、レーザ光Lに対してコマ収差を付与することは、球面収差補正パターンのオフセットと同義である。
【0155】
したがって、ここでの変調パターンは、レーザ光Lの球面収差を補正するための球面収差補正パターンPsを含み、少なくとも第2形成では、制御部6は、集光レンズ33の入射瞳面33aの中心に対して球面収差補正パターンPsの中心PcをY方向にオフセットさせることにより、集光領域C2のビーム形状を傾斜形状とするための第2パターン制御を行ってもよい。
【0156】
或いは、第2形成では、制御部6は、X方向に沿った軸線Axに対して非対称な変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、集光領域C2のビーム形状を傾斜形状とするための第3パターン制御を行ってもよい。軸線Axに対して非対称な変調パターンとしては、グレーティングパターンGaを含む変調パターンPG1~PG4であってもよいし、楕円パターンEs,Ewを含む変調パターンPEであってもよい(或いは両方を含むものであってもよい)。
【0157】
すなわち、ここでの変調パターンは、XY面内における集光領域Cのビーム形状を、X方向を長手とする楕円形状とするための楕円パターンEs,Ewを含み、第2形成では、制御部6は、楕円パターンEs,Ewの強度が、X方向に沿った軸線Axに対して非対称となるように、変調パターンPEを空間光変調器7に表示させることによって、集光領域C2のビーム形状を傾斜形状とするための第4パターン制御を行ってもよい。
【0158】
さらには、制御部6は、第2形成において、YZ面S内で当該シフトの方向に沿って配列された複数の集光領域Cを形成するための変調パターン(例えば上記のアキシコンレンズパターンPA)を空間光変調器7に表示させることにより、集光領域Cのビーム形状を傾斜形状とするための第5パターン制御を行ってもよい。上記の各種パターンは任意に組み合わされて重畳されてもよい。すなわち、制御部6は、第1パターン制御~第5パターン制御を任意に組み合わせて実行することができる。
【0159】
なお、第1形成と第2形成とは、同時に実施されてもよいし(多焦点加工)、順番に実施されてもよい(シングルパス加工)。すなわち、制御部6は、ラインAの例えば第1領域A1に対して、第1形成を実施した後に、第2形成を実施してもよい。或いは、制御部6は、レーザ光Lをレーザ光L1,L2に分岐させるための分岐パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、対象物11に設定されたラインAの例えば第1領域A1に対して第1形成と第2形成とを同時に実施してもよい。
【0160】
引き続いて、本実施形態では、対象物11の第2部分15B(図31参照)の加工を行う。第2部分15Bでは、斜め亀裂を形成は必須でなく、ここでは垂直亀裂を形成する。したがって、第2部分15Bの加工は、上述したトリミング加工と同様の加工によって、改質領域12c,12d及びそれらから延びる亀裂(垂直亀裂)13c,13dを形成する(図45参照)。この場合、第2部分15Bでは、第1領域A1と第2領域A2とで加工進行方向NDの順逆を切り替えることなく、第1加工及び第2加工を行うこととなる。
【0161】
ただし、上述したトリミング加工では、トリム面の品質の低下抑制のため、第1領域A1の加工の際にビーム形状が第1形状Q1とされ(第1加工)、第2領域A2の加工の際にビーム形状が第2形状Q2とされていた(第2加工)が、第2部分15Bでは集光領域Cの長手方向NHが加工進行方向NDに沿うように(加工進行方向NDに対して傾斜しないように)すると共に、第1領域A1と第2領域A2との境界でレーザ光Lの照射のON・OFFを行うことなくラインAの全体わたって連続的に集光領域Cを相対移動させて改質領域12c,12d及び亀裂13c,13dを形成してもよい。すなわち、第2部分15Bでは、第1加工及び第2加工と異なる別加工を行うこともできる。或いは、第2部分15Bでは、加工進行方向NDの切り替えを行うことなく、ラインAのうちの第1領域A1に沿って集光領域Cを相対移動させることにより、第1領域A1に沿って改質領域12c,12dを形成すると共に、当該改質領域12c,12dからZ方向に沿って延びる亀裂13c,13dを形成する第1Z加工と、ラインAのうちの第2領域A2に沿って集光領域Cを相対移動させることにより、第2領域A2に沿って改質領域12c,12dを形成すると共に、当該改質領域12c,12dからZ方向に沿って延びる亀裂13c,13dを形成する第2Z加工と、を別加工として行ってもよい。この場合、第1Z加工及び第2Z加工では、第1加工及び第2加工と同様に、Z方向からみたときに集光領域Cが長手方向NHを有するように、且つ、当該長手方向NHが、第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2のうち加工進行方向NDとの間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向NDDに対して傾斜するように、レーザ光Lを成形することができる。
【0162】
以上の加工によって、図44及び図45に示されるように、ラインAの全体にわたって、且つ、Z方向の概ね全体にわたって、対象物11に改質領域12及び亀裂13が形成されることとなる。特に、図45に示されるように、第1部分15Aでは、対象物11の第1面11aから第2面11bに向かうにつれて、対象物11のデバイス層110と対象物11Rのデバイス層110Rとの接合領域の内側の位置から当該接合領域の外縁110eに向かうように傾斜した亀裂13a,13bが形成される。また、亀裂13c,13dは、連続せずに分断されていてもよいし、連続していてもよい。さらには、亀裂13bと亀裂13cとが連続せずに分断されていてもよいし、連続していてもよい。
【0163】
引き続いて、上記のトリミング加工と同様に、除去処理が行われる。具体的には、ステージ2を回転させずに、除去領域Eにおいてレーザ光Lを照射すると共に、照射部3をX方向に沿って移動し、当該レーザ光Lの集光領域Cを対象物11に対してX方向に相対移動する。ステージ2を90°回転させた後、除去領域Eにおいてレーザ光Lを照射すると共に、照射部3をX方向に沿ってX方向に移動し、当該レーザ光Lの集光領域Cを対象物11に対してX方向に相対移動する。
【0164】
これにより、図46に示されるように、Z方向から見て除去領域Eに4等分するように延びるラインに沿って、改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂13を形成する。その後、図47の(a)に示されるように、例えば冶具又はエアーにより、改質領域12を境界として除去領域Eを取り除く。これにより、対象物11から半導体デバイス11Kが形成され、半導体デバイス11Kを含む対象物100Kが得られる。
【0165】
続いて、半導体デバイス11Kを第1面11a側から研削する。ここでは、第2部分15Bを除去すると共に、第1部分15Aの一部を除去する。第1部分15Aの除去される一部は、改質領域12a,12bが形成された部分である。したがって、第1部分15Aの残存される残部は、改質領域12a,12bを含まない。エッチングにより対象物11を剥離している場合、当該研磨を簡略化することができる。以上の結果、半導体デバイス11Mが形成され、半導体デバイス11Mを含む対象物100Mが得られる。
【0166】
以上の本実施形態に係るレーザ加工について、レーザ加工装置1の構成として説明する。すなわち、レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光L(レーザ光L1,L2)を照射して改質領域12を形成するためのものであり、少なくとも、対象物11を支持するためのステージ2と、ステージ2に支持された対象物11に向けてレーザ光Lを照射するための照射部3と、レーザ光Lの集光領域C(集光領域C1,C2)を対象物11に対して相対移動させるための移動部4,5と、移動部4,5及び照射部3を制御するための制御部6と、を備えている。照射部3は、Z方向からみたときに集光領域Cが長手方向NHを有するようにレーザ光Lを成形する空間光変調器7を有する。
【0167】
そして、制御部6は、照射部3及び移動部4,5を制御することによって、ラインAのうちの第1領域A1に沿って集光領域C(集光領域C1,C2)を相対移動させることにより、第1領域A1に沿って対象物11に改質領域12(改質領域12a,12b)を形成すると共に、当該改質領域12から対象物11の入射面である第1面11aと反対側の第2面11bに向けてZ方向に対して斜めに延びる斜め亀裂13Fを形成する第1加工処理(上記の第1加工)を実行する。
【0168】
さらに、制御部6は、照射部3及び移動部4,5を制御することによって、ラインAのうちの第2領域A2に沿って集光領域C(集光領域C1,C2)を相対移動させることにより、第2領域A2に沿って対象物11に改質領域12(改質領域12a,12b)を形成すると共に、改質領域12から第2面11bに向けて延びる斜め亀裂13F(亀裂13a,13b)を形成する第2加工処理(上記の第2加工)を実行する。
【0169】
第1加工処理及び第2加工処理では、制御部6は、空間光変調器7を制御することによって、Z方向からみて集光領域Cが長手方向NHを有するように、且つ、当該集光領域Cの長手方向NHが、第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2のうち、集光領域Cの移動方向である加工進行方向NDとの間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向NDに対して傾斜するように、レーザ光Lを成形する。また、第1加工処理及び第2加工処理では、制御部6は、移動部4,5を制御することによって、Z方向からみたとき、長手方向NHの傾斜の向きが、加工進行方向NDに対して斜め亀裂13Fが延びる方向と同じ側となるように、加工進行方向NDの順逆を第1加工処理と第2加工処理とで切り替える。
【0170】
引き続いて、以上の本実施形態に係るレーザ加工について、レーザ加工方法の工程として説明する。すなわち、本実施形態に係るレーザ加工方法は、対象物11にレーザ光L(レーザ光L1,L2)を照射して改質領域12を形成するためのものであり、対象物11に設定されたラインAのうちの第1領域A1に沿って集光領域C(集光領域C1,C2)を相対移動させることにより、第1領域A1に沿って対象物11に改質領域12(改質領域12a,12b)を形成すると共に、当該改質領域12から対象物11の入射面である第1面11aと反対側の第2面11bに向けてZ方向に対して斜めに延びる斜め亀裂13F(亀裂13a,13b)を形成する第1加工工程(上記の第1加工)を有する。
【0171】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法は、ラインAのうちの第2領域A2に沿って集光領域C(集光領域C1,C2)を相対移動させることにより、第2領域A2に沿って対象物11に改質領域12(改質領域12a,12b)を形成すると共に、改質領域12から第2面11bに向けて延びる斜め亀裂13F(亀裂13a,13b)を形成する第2加工工程(上記の第2加工)を有する。
【0172】
第1加工工程及び第2加工工程では、Z方向からみたときに集光領域Cが長手方向NHを有するように、且つ、集光領域Cの長手方向NHが、第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2のうち、集光領域Cの移動方向である加工進行方向NDとの間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向NDに対して傾斜するように、レーザ光Lを成形する。また、第1加工工程及び第2加工工程では、Z方向からみたとき、長手方向NHの傾斜の向きが、加工進行方向NDに対して斜め亀裂13Fが延びる方向と同じ側となるように、加工進行方向NDの順逆を第1加工工程と第2加工工程とで切り替える。
【0173】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、対象物11は、(100)面と、一の(110)面と、別の(110)面と、一の(110)面に直交する第1結晶方位K1と、別の(110)面に直交する第2結晶方位K2と、を含む結晶構造を有する。そして、ここでは、レーザ光Lの集光領域Cを相対移動させるラインAのうちの第1領域A1に沿って対象物11に改質領域12を形成する場合(第1加工処理、第1加工工程)、及び、当該ラインAのうちの第2領域A2に沿って対象物11に改質領域12を形成する場合(第2加工処理、第2加工工程)のそれぞれにおいて、集光領域Cの長手方向NHが、第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2のうちの加工進行方向NDとの間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向NDに対して傾斜するように、レーザ光Lが成形される。このため、トリム面の品質低下が抑制される。
【0174】
一方、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、第1加工処理及び第2加工処理(第1加工工程及び第2加工工程も同様(以下同様))おいて、改質領域12から対象物11の第2面11bに向けてZ方向(入射面に交差する方向)に対して斜めに延びる斜め亀裂13Fを形成する。したがって、この斜め亀裂13Fの延びる方向と集光領域Cの長手方向NHの向きとの関係を考慮する必要がある。そして、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、Z方向からみたとき、集光領域Cの長手方向NHの傾斜の向きが、加工進行方向NDに対して斜め亀裂13Fが延びる側と同じ側となるように、加工進行方向NDの順逆を第1加工処理と第2加工処理とで切り替える。
【0175】
この結果、第1領域A1及び第2領域A2の両方において、加工進行方向NDに対する集光領域Cの長手方向NHの傾斜の向きと斜め亀裂13Fの延びる側とが同じ側となる。よって、集光領域Cの長手方向NHの向きと斜め亀裂13Fの傾斜方向との関係が、相対的に良好な品質が得られる組み合わせとなり、品質低下が抑制される。このように、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法によれば、対象物11のトリム面の品質低下を抑制しつつ、斜め亀裂を形成可能である。
【0176】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、対象物11は、Z方向に沿って第2面11b側から順に配列された第1部分15A及び第2部分15Bを含む。そして、制御部6は、第1部分15Aに対して、加工進行方向NDの順逆を切り替えながら第1加工処理及び第2加工処理を実行すると共に、第2部分15Bに対して、加工進行方向NDの切り替えを行うことなく第1加工処理及び第2加工処理を実行し、第2部分15Bに対して改質領域12(改質領域12c,12d)及び当該改質領域12からZ方向に沿って延びる亀裂13(亀裂13c,13d)を形成してもよい。この場合、Z方向に沿った亀裂13を形成する第2部分15Bでは、第1加工処理と第2加工処理とで加工進行方向NDの順逆の切り替えを行わない。したがって、第1加工処理と第2加工処理とで加工進行方向NDの順逆を切り替える場合と比較して、レーザ光Lの集光領域Cの相対移動の加減速に係る時間が削減される。
【0177】
或いは、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、制御部6は、第1部分15Aに対して、加工進行方向NDの順逆を切り替えながら第1加工処理及び第2加工処理を実行すると共に、第2部分15Bに対して、第1加工処理及び第2加工処理と異なる別加工処理(別加工)を実行してもよい。別加工処理では、制御部6は、照射部3及び移動部4,5を制御することによって、ラインAの全体にわたって加工進行方向NDの順逆を同一としつつ集光領域CをラインAに沿って相対移動させることにより、ラインAに沿って対象物11に改質領域12及び当該改質領域12からZ方向に沿って延びる亀裂13を形成してもよい。この場合、第2部分15BでもラインAの第1領域A1と第2領域A2とで加工進行方向NDの順逆を切り替える場合と比較して、レーザ光Lの集光領域Cの相対移動の加減速に係る時間が削減される。
【0178】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、別加工処理では、制御部6は、空間光変調器7を制御することによって、Z方向からみたときに集光領域Cが長手方向NHを有するように、且つ、当該集光領域Cの長手方向NHが加工進行方向NDに沿うようにレーザ光Lを成形してもよい。この場合、Z方向に沿った亀裂13を形成する第2部分15Bでは、ラインAの第1領域A1の加工と第2領域A2の加工との間でレーザ光Lの集光領域Cの傾きが変化するようにレーザ光Lの成形を行う場合と比較して、制御部6の処理が簡略化される。
【0179】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、対象物11は、別の部材(対象物11R)に接合された接合領域を含み、第1加工処理及び第2加工処理では、制御部6は、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて接合領域の内側の位置から接合領域の外縁11eに向かうように傾斜した斜め亀裂13Fを形成してもよい。この場合、斜め亀裂13Fを境界として対象物11の一部を対象物11から除去し、対象物11の残部を残存させた場合に、対象物11の他の部材との接合領域を越えて対象物11の残部が外側に延在することが避けられる。
【0180】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、第1加工処理及び第2加工処理では、制御部6は、Z方向についての集光領域C1の位置を第1Z位置Z1に設定しつつ、ラインAに沿って集光領域C1を相対移動させることにより、改質領域12a及び改質領域12aから延びる亀裂13aを対象物11に形成する第1形成処理(上記の第1形成)と、Z方向についての集光領域C2の位置を第1Z位置Z1よりも第1面11a側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインAに沿って集光領域C2を相対移動させることにより、改質領域12b及び改質領域12bから延びる亀裂13bを形成する第2形成処理(上記の第2形成)と、を実行することができる。
【0181】
第1形成処理では、制御部6は、加工進行方向ND及びZ方向に交差するY方向についての集光領域C1の位置を第1Y位置Y1に設定し、第2形成処理では、制御部6は、Y方向についての集光領域C2の位置を第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2に設定すると共に、空間光変調器7の制御によって、Y方向及びZ方向を含むYZ面S内での集光領域C2の形状が、少なくとも集光領域C2の中心より第1面11a側においてシフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を成形することにより、YZ面S内においてシフトの方向に傾斜するように亀裂13bを形成してもよい。このようにすれば、Z方向に対して傾斜した斜め亀裂を好適に形成可能である。
【0182】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、照射部3は、空間光変調器7からのレーザ光Lを対象物11に向けて集光するための集光レンズ33を含み、第2形成処理では、制御部6は、空間光変調器7に表示させる変調パターンの制御によって、集光領域Cの形状が傾斜形状となるようにレーザ光Lを変調することによりレーザ光Lを成形してもよい。この場合、空間光変調器7を用いて容易にレーザ光Lを成形できる。
【0183】
このとき、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、変調パターンは、レーザ光Lに対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、第2形成処理では、制御部6は、コマ収差パターンによるコマ収差の大きさを制御することにより、集光領域Cの形状を傾斜形状とするための第1パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合、YZ面S内における集光領域Cの形状が、弧状に形成される。すなわち、この場合には、集光領域Cの形状が、集光領域Cの中心Caよりも第1面11a(入射面)側でシフト方向に傾斜すると共に、集光領域Cの中心Caよりも入射面と反対側でシフト方向と反対方向に傾斜される。この場合であっても、シフト方向に傾斜する斜め亀裂13Fを形成可能である。
【0184】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、対象物11は、Z方向に沿って第2面11b側から順に配列された第1部分15A及び第2部分15Bを含む。そして、制御部6は、第1部分15Aに対して、加工進行方向NDの順逆を切り替えながら第1加工処理及び第2加工処理を実行すると共に、第2部分15Bに対して、加工進行方向NDの切り替えを行うことなく、照射部3及び移動部4,5を制御することによって、ラインAのうちの第1領域A1に沿って集光領域Cを相対移動させることにより、第1領域A1に沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、当該改質領域12からZ方向に沿って延びる亀裂13を形成する第1Z加工処理(上記の第1Z加工)と、照射部3及び移動部4,5を制御することによって、ラインAのうちの第2領域A2に沿って集光領域Cを相対移動させることにより、第2領域A2に沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、当該改質領域12からZ方向に沿って延びる亀裂13を形成する第2Z加工処理(上記の第2加工)と、を別加処理として実行してもよい。この場合、第2部分15Bについても、第1領域A1と第2領域A2とにおいて集光領域Cの長手方向NHを加工進行方向NDに応じて設定しつつ、第1領域A1と第2領域A2とで加工進行方向NDの順逆を切り替える場合と比較してレーザ光Lの集光領域Cの相対移動の加減速に係る時間が削減される。
【0185】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、変調パターンは、レーザ光Lの球面収差を補正するための球面収差補正パターンを含み、第2形成処理では、制御部6は、集光レンズ33の入射瞳面33aの中心に対して球面収差補正パターンPsの中心をY方向にオフセットさせることにより、集光領域Cの形状を傾斜形状とするための第2パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、コマ収差パターンを利用した場合と同様に、YZ面S内における集光領域Cの形状を弧状に形成でき、シフト方向に傾斜する斜め亀裂13Fを形成可能である。
【0186】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、第2形成処理では、制御部6は、加工進行方向NDに沿った軸線に対して非対称な変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、集光領域Cの形状を傾斜形状とするための第3パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合、YZ面S内における集光領域Cの形状の全体を、シフト方向に傾斜させることができる。この場合であっても、シフト方向に傾斜する斜め亀裂13Fを形成可能である。
【0187】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、変調パターンは、Y方向及びZ方向に交差するX方向とY方向とを含むXY面内における集光領域Cの形状を、X方向を長手とする楕円形状とするための楕円パターンを含み、第2形成処理では、制御部6は、楕円パターンの強度が、X方向に沿った軸線に対して非対称となるように、変調パターンを空間光変調器7に表示させることによって、ビーム形状を傾斜形状とするための第4パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、YZ面S内における集光領域Cの形状を弧状に形成でき、シフト方向に傾斜する斜め亀裂13Fを形成可能である。
【0188】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、第2形成処理では、制御部6は、YZ面S内でシフトの方向に沿って配列された複数のレーザ光Lの集光点CIを形成するための変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、複数の集光点CIを含む集光領域Cの形状を傾斜形状とするための第5パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、シフト方向に傾斜する斜め亀裂13Fを形成可能である。
[レーザ加工の第2実施形態]
【0189】
引き続いて、トリミング加工の際に斜め亀裂の形成を行うレーザ加工の別の実施形態について説明する。図48は、一実施形態に係るレーザ加工の対象物を示す図である。図48に示されるように、本実施形態に係るレーザ加工の対象物は、第1実施形態と同様に、対象物11Rに張り合わされて対象物100を構成する対象物11である。ただし、本実施形態では、ラインAにおける第1領域A1及び第2領域A2の角度範囲が第1実施形態と異なる。
【0190】
第1実施形態では、一例として、第1領域A1と第2領域A2との境界が、トリム面の品質低下が生じやすい45°や-45°の点に設定されていた。これは、第1実施形態では、品質低下が生じやすい45°,-45°の点であっても、加工進行方向NDの順逆を調整し、45°,-45°の点の加工の際に加工進行方向NDに対する集光領域Cの長手方向NHの傾斜の向きと斜め亀裂13Fが延びる方向とを同じ側とすれば、品質低下を抑制可能であるとの知見に基づいたものであった。
【0191】
一方、図38の表に示されるように、例えば、第1領域A1及び第2領域A2の加工の際の加工進行方向NDをいずれも順方向ND1とする場合(上から1番目及び3番目の表参照)、-45°の点は、集光領域Cのビーム形状を第1形状Q1としたときには(上から3番目の表参照)品質低下が見られるものの、第2形状Q2としたときには(上から1番目の表参照)良好な品質が得られ、且つ、-50°の点でも依然として良好な品質が得られることがわかる。
【0192】
したがって、第1領域A1及び第2領域A2の加工の際の加工進行方向NDを順方向ND1に統一したとしても、0°から-50°程度までの角度範囲での加工の際に集光領域Cのビーム形状を第2形状Q2とし、且つ、-50°から-90°程度までの角度範囲での加工の際に集光領域Cのビーム形状を第1形状Q1とすれば、全ての角度範囲で良好な加工品質が得られるのである。実際に、図49の表を参照すると、条件IR7と条件IR8とを併用することにより全ての角度範囲で良好な加工品質が得られることがわかる。
【0193】
さらに、例えば、第1領域A1及び第2領域A2の加工の際の加工進行方向NDをいずれも逆方向ND2とする場合(上から2番目及び4番目の表参照)には、-45°の点は、順方向D1の例とは反対に、集光領域Cのビーム形状を第2形状Q2としたときには(上から2番目の表参照)品質低下が見られ、第1形状Q1としたときには(上から4番目の表参照)良好な品質が得られ、且つ、-40°の点でも依然として良好な品質が得られることがわかる。
【0194】
したがって、第1領域A1及び第2領域A2の加工の際の加工進行方向NDを逆方向ND2に統一したとしても、0°から-40°程度までの角度範囲での加工の際に集光領域Cのビーム形状を第2形状Q2とし、且つ、-40°から-90°程度までの角度範囲での加工の際に集光領域Cのビーム形状を第1形状Q1とすれば、全ての角度範囲で良好な加工品質が得られるのである。実際に、図50の表を参照すると、条件IR9条件IR10とを併用することにより全ての角度範囲で良好な加工品質が得られることがわかる。
【0195】
つまり、集光領域Cの長手方向NHが、第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2のうち、加工進行方向NDとの間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向NDに対して傾斜するようにレーザ光Lを成形することを前提に、第1領域A1の加工(上記の第1加工)と第2領域A2の加工(上記の第2加工)とで加工進行方向の順逆を同一とした場合には、第1領域A1及び第2領域A2のうち、長手方向NHの傾斜の向きが加工進行方向NDに対して斜め亀裂13Fが延びる側と同じ側となる一方が45°の点(上記の例では-45°の点)を含むように、第1領域A1と第2領域A2との境界を設定すれば、全ての角度範囲で良好な加工品質が得られるのである。
【0196】
本実施形態に係るレーザ加工では、以上の知見に基づいて行われる。すなわち、本実施形態に係るレーザ加工では、図48に示されるように、第1領域A1と第2領域A2との境界Ksが、長手方向NHの傾斜の向きが加工進行方向NDに対して斜め亀裂13Fが延びる側と同じ側となる一方が45°の点(上記の例では-45°の点)を含むように設定される。図示の例では、加工進行方向NDを順方向ND1とし、第2領域A2が45°の点を含むように境界Ksが設定されている。
【0197】
特に、ここでは、第1実施形態と比較して、第1領域A1を約5°分だけ縮小して0°から40°程度までの約40°分の円弧とし、第2領域A2を約5°分だけ拡大して40°から90°程度までの約50°分の円弧とすることから、第2領域A2が第1領域A1よりも約10°分だけ長くされている。第1領域A1及び第2領域A2のそれぞれの加工は、加工進行方向NDが順方向ND1(或いは逆方向ND2)に統一されている点を除き、上記の第1加工及び第2加工(さらには第1形成及び第2形成)と同様に実施される。
【0198】
以上の本実施形態に係るレーザ加工について、レーザ加工装置1の構成として説明する。すなわち、レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光L(レーザ光L1,L2)を照射して改質領域12を形成するためのものであり、少なくとも、対象物11を支持するためのステージ2と、ステージ2に支持された対象物11に向けてレーザ光Lを照射するための照射部3と、レーザ光Lの集光領域C(集光領域C1,C2)を対象物11に対して相対移動させるための移動部4,5と、移動部4,5及び照射部3を制御するための制御部6と、を備えている。照射部3は、Z方向からみたときに集光領域Cが長手方向NHを有するようにレーザ光Lを成形する空間光変調器7を有する。
【0199】
そして、制御部6は、照射部3及び移動部4,5を制御することによって、ラインAのうちの第1領域A1に沿って集光領域C(集光領域C1,C2)を相対移動させることにより、第1領域A1に沿って対象物11に改質領域12(改質領域12a,12b)を形成すると共に、当該改質領域12から対象物11の入射面である第1面11aと反対側の第2面11bに向けてZ方向に対して斜めに延びる斜め亀裂13F(亀裂13a,13b)を形成する第1加工処理(上記の第1加工)を実行する。
【0200】
さらに、制御部6は、照射部3及び移動部4,5を制御することによって、ラインAのうちの第2領域A2に沿って集光領域C(集光領域C1,C2)を相対移動させることにより、第2領域A2に沿って対象物11に改質領域12(改質領域12a,12b)を形成すると共に、改質領域12から第2面11bに向けて延びる斜め亀裂13F(亀裂13a,13b)を形成する第2加工処理(上記の第2加工)を実行する。
【0201】
第1加工処理及び第2加工処理では、制御部6は、空間光変調器7を制御することによって、集光領域Cの長手方向NHが、第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2のうち、集光領域Cの移動方向である加工進行方向NDとの間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向NDに対して傾斜するように、レーザ光Lを成形すると共に、第1加工処理と第2加工処理とで加工進行方向NDの順逆を同一とする。
【0202】
そして、第2結晶方位K2とラインAとが直交する点を0°とし、第1結晶方位K1とラインAとが直交する点を90°とし、ラインAにおける0°と90°との中間の点を45°としたときに、第1領域A1及び第2領域A2のうち、Z方向からみて、長手方向NHの傾斜の向きが加工進行方向NDに対して斜め亀裂13Fが延びる側と同じ側となる一方が45°の点を含むように、第1領域A1と第2領域A2との境界Ksが設定される。
【0203】
引き続いて、以上の本実施形態に係るレーザ加工について、レーザ加工方法の工程として説明する。すなわち、本実施形態に係るレーザ加工方法は、対象物11にレーザ光L(レーザ光L1,L2)を照射して改質領域12を形成するためのものであり、対象物11に設定されたラインAのうちの第1領域A1に沿って集光領域C(集光領域C1,C2)を相対移動させることにより、第1領域A1に沿って対象物11に改質領域12(改質領域12a,12b)を形成すると共に、当該改質領域12から対象物11の入射面である第1面11aと反対側の第2面11bに向けてZ方向に対して斜めに延びる斜め亀裂13F(亀裂13a,13b)を形成する第1加工工程(上記の第1加工)を有する。
【0204】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法は、ラインAのうちの第2領域A2に沿って集光領域C(集光領域C1,C2)を相対移動させることにより、第2領域A2に沿って対象物11に改質領域12(改質領域12a,12b)を形成すると共に、改質領域12から第2面11bに向けて延びる斜め亀裂13F(亀裂13a,13b)を形成する第2加工工程(上記の第2加工)を有する。
【0205】
第1加工工程及び第2加工工程では、Z方向からみたときに集光領域Cが長手方向NHを有するように、且つ、集光領域Cの長手方向NHが、第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2のうち、集光領域Cの移動方向である加工進行方向NDとの間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向NDに対して傾斜するように、レーザ光Lを成形すると共に、第1加工工程と第2加工工程とで加工進行方向NDの順逆を同一とする。
【0206】
そして、第2結晶方位K2とラインAとが直交する点を0°とし、第1結晶方位K1とラインAとが直交する点を90°とし、ラインAにおける0°と90°との中間の点を45°としたときに、第1領域A1及び第2領域A2のうち、Z方向からみて、長手方向NHの傾斜の向きが加工進行方向NDに対して斜め亀裂13Fが延びる側と同じ側となる一方が45°の点を含むように、第1領域A1と第2領域A2との境界Ksが設定される。
【0207】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、対象物11は、(100)面と、一の(110)面と、別の(110)面と、一の(110)面に直交する第1結晶方位K1と、別の(110)面に直交する第2結晶方位K2と、を含む結晶構造を有する。そして、ここでは、レーザ光Lの集光領域Cを相対移動させるラインAのうちの第1領域A1に沿って対象物11に改質領域12を形成する場合(第1加工処理、第1加工工程)、及び、当該ラインAのうちの第2領域A2に沿って対象物11に改質領域12を形成する場合(第2加工処理、第2加工工程)のそれぞれにおいて、集光領域Cの長手方向NHが、第1結晶方位K1及び第2結晶方位K2のうちの加工進行方向NDとの間の角度が大きい一方に近づく向きに加工進行方向NDに対して傾斜するように、レーザ光Lが成形される。このため、上記知見に示されるように、トリム面の品質低下が抑制される。
【0208】
一方、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、第1加工処理及び第2加工処理(第1加工工程及び第2加工工程も同様(以下同様))おいて、改質領域12から対象物11の第1面11a(入射面)と反対側の第2面11b(反対面)に向けてZ方向(入射面に交差する方向)に対して斜めに延びる斜め亀裂13Fを形成する。したがって、斜め亀裂13Fの延びる方向と集光領域Cの長手方向NHの向きとの関係を考慮する必要がある。特に、45°の点の加工の際に、集光領域Cの長手方向NHの向きと斜め亀裂13Fの傾斜方向とが加工進行方向NDに対して互いに逆側となる状態であると、トリム面の品質の低下が発生しやすい。
【0209】
これに対して、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、第1領域A1と第2領域A2との間の境界Ksが、第1領域A1及び第2領域A2のうちの長手方向NHの傾斜の向きが加工進行方向NDに対して斜め亀裂13Fが延びる側と同じ側となる一方が45°の点を含むように設定される。換言すれば、第1領域A1及び第2領域A2のうち、集光領域Cの長手方向NHの向きと斜め亀裂13Fの傾斜方向とが加工進行方向NDに対して互いに逆側となる状態で加工を行う領域が、ラインAにおける45°の点に至らない。したがって、品質低下が抑制される。このように、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法によれば、対象物11のトリム面の品質低下を抑制しつつ、斜め亀裂13Fを形成可能である。
【0210】
さらに、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、第1加工処理と第2加工処理とで加工進行方向NDの順逆が同一とされる。したがって、第1加工処理と第2加工処理とで加工進行方向NDの順逆を切り替える場合と比較して、レーザ光Lの集光領域Cの相対移動の加減速に係る時間が削減される。
【0211】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、第1領域A1及び第2領域A2のうち、Z方向からみて、長手方向NHの傾斜の向きが加工進行方向NDに対して斜め亀裂13Fが延びる側と同じ側となる一方が、他方よりも長くてもよい。このように、第1領域A1と第2領域A2との長さを違えて設定してもよい。
【0212】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、制御部6は、第1部分15Aに対して、加工進行方向NDの順逆を同一にしつつ第1加工処理及び第2加工処理を実行すると共に、第2部分15Bに対して、第1加工処理及び第2加工処理と異なる別加工処理(別加工)を実行してもよい。別加工処理では、制御部6は、照射部3及び移動部4,5を制御することによって、ラインAの全体にわたって加工進行方向NDの順逆を同一としつつラインAに沿って集光領域Cを相対移動させることにより、ラインAに沿って対象物11に改質領域12及び当該改質領域12からZ方向に沿って延びる亀裂13を形成してもよい。この場合、第2部分15BでもラインAの第1領域A1と第2領域A2とで加工進行方向NDの順逆を切り替える場合と比較して、レーザ光Lの集光領域Cの相対移動の加減速に係る時間が削減される。
【0213】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、別加工処理では、制御部6は、空間光変調器7を制御することによって、Z方向からみたときに集光領域Cが長手方向NHを有するように、且つ、当該集光領域Cの長手方向NHが加工進行方向NDに沿うようにレーザ光Lを成形してもよい。この場合、Z方向に沿った亀裂13を形成する第2部分15Bでは、ラインAの第1領域A1の加工と第2領域A2の加工との間でレーザ光Lの集光領域Cの傾きが変化するようにレーザ光Lの成形を行う場合と比較して、制御部6の処理が簡略化される。
【0214】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、別加工処理として、第2部分15Bに対して、加工進行方向NDの切り替えを行うことなく、照射部3及び移動部4,5を制御することによって、ラインAのうちの第1領域A1に沿って集光領域Cを相対移動させることにより、第1領域A1に沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、当該改質領域12からZ方向に沿って延びる亀裂13を形成する第1Z加工処理(上記の第1Z加工)と、照射部3及び移動部4,5を制御することによって、ラインAのうちの第2領域A2に沿って集光領域Cを相対移動させることにより、第2領域A2に沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、当該改質領域12からZ方向に沿って延びる亀裂13を形成する第2Z加工処理(上記の第2加工)と、を別加処理として実行してもよい。この場合、第2部分15Bについても、第1領域A1と第2領域A2とで集光領域Cの長手方向NHを加工進行方向NDに応じて設定しつつ、第1領域A1と第2領域A2とで加工進行方向NDの順逆を切り替える場合と比較してレーザ光Lの集光領域Cの相対移動の加減速に係る時間が削減される。
【0215】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、対象物11は、別の部材(対象物11R)に接合された接合領域を含み、第1加工処理及び第2加工処理では、制御部6は、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて接合領域の内側の位置から接合領域の外縁11eに向かうように傾斜した斜め亀裂13Fを形成してもよい。この場合、斜め亀裂13Fを境界として対象物11の一部を対象物11から除去し、対象物11の残部を残存させた場合に、対象物11の他の部材との接合領域を越えて対象物11の残部が外側に延在することが避けられる。
【0216】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、第1加工処理及び第2加工処理では、制御部6は、Z方向についての集光領域C1の位置を第1Z位置Z1に設定しつつ、ラインAに沿って集光領域C1を相対移動させることにより、改質領域12a及び改質領域12aから延びる亀裂13aを対象物11に形成する第1形成処理(上記の第1形成)と、Z方向についての集光領域C2の位置を第1Z位置Z1よりも第1面11a側の第2Z位置Z2に設定しつつ、ラインAに沿って集光領域C2を相対移動させることにより、改質領域12b及び改質領域12bから延びる亀裂13bを形成する第2形成処理(上記の第2形成)と、を実行することができる。
【0217】
第1形成処理では、制御部6は、加工進行方向ND及びZ方向に交差するY方向についての集光領域C1の位置を第1Y位置Y1に設定し、第2形成処理では、制御部6は、Y方向についての集光領域C2の位置を第1Y位置Y1からシフトした第2Y位置Y2に設定すると共に、空間光変調器7の制御によって、Y方向及びZ方向を含むYZ面S内での集光領域C2の形状が、少なくとも集光領域C2の中心より第1面11a側においてシフトの方向に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を成形することにより、YZ面S内においてシフトの方向に傾斜するように斜め亀裂13Fを形成してもよい。このようにすれば、Z方向に対して傾斜した斜め亀裂を好適に形成可能である。
【0218】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、照射部3は、空間光変調器7からのレーザ光Lを対象物11に向けて集光するための集光レンズ33を含み、第2形成処理では、制御部6は、空間光変調器7に表示させる変調パターンの制御によって、集光領域Cの形状が傾斜形状となるようにレーザ光Lを変調することによりレーザ光Lを成形してもよい。この場合、空間光変調器7を用いて容易にレーザ光Lを成形できる。
【0219】
このとき、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、変調パターンは、レーザ光Lに対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、第2形成処理では、制御部6は、コマ収差パターンによるコマ収差の大きさを制御することにより、集光領域Cの形状を傾斜形状とするための第1パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合、YZ面S内における集光領域Cの形状が、弧状に形成される。すなわち、この場合には、集光領域Cの形状が、集光領域Cの中心Caよりも第1面11a(入射面)側でシフト方向に傾斜すると共に、集光領域Cの中心Caよりも入射面と反対側でシフト方向と反対方向に傾斜される。この場合であっても、シフト方向に傾斜する斜め亀裂13Fを形成可能である。
【0220】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、変調パターンは、レーザ光Lの球面収差を補正するための球面収差補正パターンを含み、第2形成処理では、制御部6は、集光レンズ33の入射瞳面33aの中心に対して球面収差補正パターンPsの中心をY方向にオフセットさせることにより、集光領域Cの形状を傾斜形状とするための第2パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、コマ収差パターンを利用した場合と同様に、YZ面S内における集光領域Cの形状を弧状に形成でき、シフト方向に傾斜する斜め亀裂13Fを形成可能である。
【0221】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、第2形成処理では、制御部6は、加工進行方向NDに沿った軸線に対して非対称な変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、集光領域Cの形状を傾斜形状とするための第3パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合、YZ面S内における集光領域Cの形状の全体を、シフト方向に傾斜させることができる。この場合であっても、シフト方向に傾斜する斜め亀裂13Fを形成可能である。
【0222】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、変調パターンは、Y方向及びZ方向に交差するX方向とY方向とを含むXY面内における集光領域Cの形状を、X方向を長手とする楕円形状とするための楕円パターンを含み、第2形成処理では、制御部6は、楕円パターンの強度が、X方向に沿った軸線に対して非対称となるように、変調パターンを空間光変調器7に表示させることによって、ビーム形状を傾斜形状とするための第4パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、YZ面S内における集光領域Cの形状を弧状に形成でき、シフト方向に傾斜する斜め亀裂13Fを形成可能である。
【0223】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、第2形成処理では、制御部6は、YZ面S内でシフトの方向に沿って配列された複数のレーザ光Lの集光点CIを形成するための変調パターンを空間光変調器7に表示させることにより、複数の集光点CIを含む集光領域Cの形状を傾斜形状とするための第5パターン制御を行ってもよい。本発明者の知見によれば、この場合にも、シフト方向に傾斜する斜め亀裂13Fを形成可能である。
[変形例]
【0224】
以上、レーザ加工装置及びレーザ加工方法の一態様について説明したが、本開示の一側面は、上記の態様に限定されず、変形され得る。
【0225】
例えば、上記の例では、対象物11と対象物11Rとが張り合わされて構成される対象物100(張り合わせウェハ)を挙げたが、レーザ加工の対象はこのような張り合わせウェハに限定されず、単一のウェハ等の対象物であってもよい。
【0226】
また、図45に示される例では、第1部分15Aに対して、2つの集光領域C1,C2を用いて2つの改質領域12a,12bを形成する場合が挙げられている。この場合、斜め亀裂13Fの形成に際して、少なくとも、より第1面11a側の集光領域C2のYZ面S内でのビーム形状を制御した。しかし、第1部分15Aに対して、複数組の改質領域12a,12bを形成する場合には、最も第2面11b側(対象物11R側)の改質領域12a,12bの形成のときに、少なくとも、より第1面11a側の集光領域C2のYZ面S内でのビーム形状を制御すればよい。
【0227】
また、上記実施形態では、対象物11の第2部分15Bに対して垂直亀裂を形成した。しかし、対象物11の第2部分15Bについても、第1部分15Aと同様に斜め亀裂を形成してもよい。
【0228】
また、第1実施形態に係るレーザ加工では、ラインAのうちの第1領域A1の加工である第1加工と、第2領域A2の加工である第2加工とを、0°、45°、90°といったように45°間隔で切り替えるようにGUI上で設定され、実際のレーザのON・OFFも同角度で行われる例を記載している。しかし、実際の装置では、レーザのON・OFFの遅れにより、設定よりも数百msec程度遅れる場合がある。すなわち、第1領域A1と第2領域A2との境界で厳密にレーザのON・OFFが行われる場合に限定されない。
【0229】
また、上記のような原因により、改質領域12の形成位置ズレ量を減らすため、制御部6は、レーザのON・OFFの遅れ時間を予め補正し、レーザを早めにON・OFFさせる補正パラメータを持っていてもよい。この場合、改質領域12の形成位置のズレは、1mm以内に抑制可能である。一例として、対象物11が12インチウエハの場合、円周は約942mmであり、1°あたり2.617mm程度であるため、この場合のズレは1°以内に収められる。
【0230】
なお、図38等の結果に示されるように、第1領域A1と第2領域A2との切り替えポイントには、±5°程度の加工品質マージンがある事が確認される。そのため、切り替えポイントの設定を°±5°、45°±5°、90°±5°といったように、品質のマージン内であれば、意図的にずらしてもよい。
【0231】
また、上記実施形態では、例えばレーザのON・OFFによって、Z方向からみたときに環状になるように改質領域12を形成するが、厳密には、ON・OFFされる位置において、部分的に改質領域12が(例えば数百μm程度)重なっている場合や、逆に、改質領域12が一部形成されない領域が(例えば数百μm程度)あってもよい。それらの影響で品質が悪化しないように、多段加工で複数の段に、斜め亀裂の形成と上記の第1加工・第2加工の効果を持たせて加工する場合がある。
【0232】
また、実際の加工では、集光領域Cの相対移動の速さが一定になるまでに助走距離が必要であるため、順方向ND1と逆方向ND2との切り替えは、助走を含む。助走時にはレーザをOFFし、等速になってから切り替えポイントでレーザをONする。助走時に何回転するかは、装置の性能による。また、オートフォーカスに関しては、助走時から追従させ、改質領域形成時にオーバーシュートがおきないように、調整をしても良い。
【0233】
さらに、第2実施形態についても、切り替えの精度に関しては、上記の例と共通であるが、45°の点、135°の点等の切り替えポイントとしては、図49の表に示されるように、-45°の点では少なくとも切り替えをせず、-50°の点を中心に切り替える(図50の表の例では-40°の点を中心に切り替える)。その際、ズレの許容マージンは一例として±2°程度であるが、ビーム形状(楕円率をさらに高める)によっては、例えば±4°程度まで高める事ができる場合がある。一方、0°、90°の切り替えポイントはずらす必要がないが、品質のマージンにあわせて、例えば±4°度程度の範囲でずらしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0234】
外縁部分が除去された対象物のトリム面の品質低下を抑制しつつ、斜め亀裂を形成可能とするレーザ加工装置、及び、レーザ加工方法が提供される。
【符号の説明】
【0235】
1…レーザ加工装置、2…ステージ(支持部)、3…照射部、4,5…移動部、6…制御部、7…空間光変調器、11…対象物、11a…第1面(入射面)、11b…第2面(反対面)、12,12a,12b…改質領域、13,13a,13b…亀裂、13F…斜め亀裂、33…集光レンズ、A1…第1領域、A2…第2領域、K1…第1結晶方位、K2…第2結晶方位、L…レーザ光、C,C1,C2…集光領域、ND…加工進行方向。
図1
図2
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