(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】ホイール式車両の走行装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20250206BHJP
【FI】
F16H57/04 Q
F16H57/04 D
F16H57/04 J
F16H57/04 Z
(21)【出願番号】P 2024509193
(86)(22)【出願日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2023011394
(87)【国際公開番号】W WO2023182403
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2024-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2022048400
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彰紀
(72)【発明者】
【氏名】篠原 毅
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】竹下 大翼
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴宏
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-116963(JP,A)
【文献】特開2007-016906(JP,A)
【文献】実開昭58-138856(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール式車両の車体に固定され、先端が開口する小径円筒部を有する筒状のスピンドルと、
前記スピンドルの内周側を軸方向に伸長して設けられ、先端が前記スピンドルの前記小径円筒部の開口端から突出してその先端に太陽歯車が取付けられ、駆動源により回転駆動される回転軸と、
前記スピンドルの外周側に回転可能に設けられ、外周側に車輪が取付けられると共に内部に潤滑油が収容される車輪取付筒と、
前記回転軸の回転を減速して前記車輪取付筒に伝達する前記太陽歯車を含む減速機構と、
軸受嵌合穴を有し、前記駆動源と前記減速機構との間に位置して前記スピンドルの前記小径円筒部の内周側に設けられるリテーナと、
前記リテーナの前記軸受嵌合穴に挿嵌され、前記回転軸の軸方向の中間部を前記スピンドルに対して回転可能に支持する軸受とを備えてなるホイール式車両の走行装置において、
前記リテーナは、前記駆動源側の面に、前記軸受嵌合穴から径方向内側に張出し前記軸受に当接する環状の鍔部を有し、
前記リテーナの前記減速機構側において前記軸受を介して前記鍔部と軸方向で対向する位置には、前記鍔部および前記軸受嵌合穴の内周面と共に潤滑油の油溜め部を形成する油溜めプレートが設けられ、
前記油溜めプレートは、
前記回転軸の外径寸法よりも大きな長さ寸法を有し、前記回転軸の外径寸法よりも小さな高さ寸法を有する三日月型の板体として形成され、前記軸受嵌合穴の中心よりも下側で前記リテーナに取付けられた取付部と、前記取付部から上方に立上がり前記軸受を介して前記鍔部と軸方向で対向する壁部とを有し、
前記壁部の上端縁は、前記鍔部の内周縁の最下部よりも低い位置に配置されていることを特徴とするホイール式車両の走行装置。
【請求項2】
前記油溜めプレートの前記取付部と前記壁部との間には、前記取付部から前記減速機構に向けて軸方向に延在し前記油溜め部を拡張する拡張部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のホイール式車両の走行装置。
【請求項3】
前記回転軸には、外周側が軸受嵌合部となった筒状のスリーブが取付けられ、
前記軸受は、前記スリーブを介して前記リテーナの前記軸受嵌合穴に挿嵌され、
前記スリーブのうち前記駆動源側の面には、前記軸受嵌合部から径方向外側に張出し、前記リテーナの前記鍔部と共に前記軸受を前記駆動源側から覆うスリーブ側鍔部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のホイール式車両の走行装置。
【請求項4】
前記車輪取付筒内の潤滑油を吸込んで吐出する潤滑油ポンプと、
前記潤滑油ポンプから吐出された潤滑油を前記リテーナの上部に導く供給管と、を有することを特徴とする請求項1に記載のホイール式車両の走行装置。
【請求項5】
前記リテーナは、前記供給管から供給された潤滑油を前記軸受に導く油路を有することを特徴とする請求項4に記載のホイール式車両の走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばダンプトラック等の車輪を有するホイール式車両に好適に用いられる走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ホイール式車両、例えばダンプトラックに設けられる走行装置は、車体に固定された筒状のスピンドルと、前記スピンドルの内周側を軸方向に伸長して設けられ、駆動源により回転駆動される回転軸と、前記スピンドルの外周側に回転可能に設けられ、外周側に車輪が取付けられると共に内周側に潤滑が収容される車輪取付筒と、前記回転軸の回転を減速して前記車輪取付筒に伝達する遊星歯車減速機構とを備えている。遊星歯車減速機構は、電動モータ等の駆動源の回転出力を減速し、車輪取付筒を介して車輪(駆動輪)に伝達することにより駆動輪に大きな回転トルクを発生させ、ダンプトラックを走行させる(特許文献1参照)。
【0003】
走行装置の回転軸は、スピンドルの内周側を軸方向に伸長した状態で、駆動源と遊星歯車減速機構(太陽歯車)との間に設けられている。このため、回転軸の長さ方向の中間部は、スピンドルの内周側に設けられた軸受により、スピンドルに対して回転可能に支持されている。ダンプトラックは、鉱山等で採掘された砕石等の重量物を運搬するため、走行装置には大きな回転負荷が作用する。このため、軸受に対して十分な潤滑油を供給することにより、回転軸および軸受が常に円滑に回転できる状態を保つ必要がある。
【0004】
ここで、走行装置の内部に多量の潤滑油を収容した場合には、遊星歯車減速機構によって潤滑油が撹拌されるときの抵抗(撹拌抵抗)により、走行装置がエネルギロスや発熱等を生じてしまう。このため、走行装置の内部に収容される潤滑油は、必要最小限の油量(例えば、車輪取付筒の内容積の1/5~1/3程度)に設定するのが一般的である。このように、潤滑油を必要最小限の油量に設定した場合には、潤滑油の油面は回転軸よりも下方に位置するため、回転軸および軸受が潤滑油に浸ることはなく、遊星歯車減速機構を構成する遊星歯車、キャリア等の一部が潤滑油に浸るようになる。従って、潤滑油は、走行装置が駆動されたときに遊星歯車減速機構によって跳ね上げられ、ミスト状となって飛散することにより、適宜に軸受に供給される。
【0005】
しかし、特許文献1による走行装置は、回転軸を支持する軸受に対し、遊星歯車減速機構によって跳ね上げられたミスト状の潤滑油が供給される構成であるため、軸受に対して常に十分な潤滑油を供給することができないという問題がある。
【0006】
これに対し、軸受をスピンドルに対して保持するリテーナに、潤滑油を軸受へと導く油路を形成した走行装置が提案されている(特許文献2参照)。この走行装置は、車輪取付筒(ドラム)の内部に収容された潤滑油をポンプによって吸上げ、リテーナに形成された油路に供給することにより、軸受に対して十分な潤滑油を供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2004/0065169号明細書
【文献】特開2010-116963号公報
【発明の概要】
【0008】
しかし、特許文献2による走行装置では、走行装置が高速で回転したときに、車輪取付筒の内部に収容された潤滑油が遠心力によって車輪取付筒の内周面に押付けられることにより、潤滑油の液面位置が低下することがある。これにより、車輪取付筒の内部に収容された潤滑油をポンプによって吸上げることができなくなり、軸受に対して安定的に潤滑油を供給することができなくなるという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、回転軸を支持する軸受に対して常に十分な潤滑油を供給することができるようにしたホイール式車両の走行装置を提供することにある。
【0010】
本発明は、ホイール式車両の車体に固定され、先端が開口する小径円筒部を有する筒状のスピンドルと、前記スピンドルの内周側を軸方向に伸長して設けられ、先端が前記スピンドルの前記小径円筒部の開口端から突出してその先端に太陽歯車が取付けられ、駆動源により回転駆動される回転軸と、前記スピンドルの外周側に回転可能に設けられ、外周側に車輪が取付けられると共に内部に潤滑油が収容される車輪取付筒と、前記回転軸の回転を減速して前記車輪取付筒に伝達する前記太陽歯車を含む減速機構と、軸受嵌合穴を有し、前記駆動源と前記減速機構との間に位置して前記スピンドルの前記小径円筒部の内周側に設けられるリテーナと、前記リテーナの前記軸受嵌合穴に挿嵌され、前記回転軸の軸方向の中間部を前記スピンドルに対して回転可能に支持する軸受とを備えてなるホイール式車両の走行装置において、前記リテーナは、前記駆動源側の面に、前記軸受嵌合穴から径方向内側に張出し前記軸受に当接する環状の鍔部を有し、前記リテーナの前記減速機構側において前記軸受を介して前記鍔部と軸方向で対向する位置には、前記鍔部および前記軸受嵌合穴の内周面と共に潤滑油の油溜め部を形成する油溜めプレートが設けられ、前記油溜めプレートは、前記回転軸の外径寸法よりも大きな長さ寸法を有し、前記回転軸の外径寸法よりも小さな高さ寸法を有する三日月型の板体として形成され、前記軸受嵌合穴の中心よりも下側で前記リテーナに取付けられた取付部と、前記取付部から上方に立上がり前記軸受を介して前記鍔部と軸方向で対向する壁部とを有し、前記壁部の上端縁は、前記鍔部の内周縁の最下部よりも低い位置に配置されていることを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、回転軸を支持する軸受に供給される潤滑油を、リテーナの鍔部、軸受嵌合穴の内周面、および油溜めプレートによって形成された油溜め部に貯留することができる。これにより、車体の走行状態に関わらず、油溜め部に貯留された潤滑油を用いて軸受を十分に供給することができ、回転軸を円滑に回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施形態による走行装置が適用されたダンプトラックを示す左側面図である。
【
図2】ダンプトラックを後方からみた背面図である。
【
図3】後輪側の走行装置を
図1中の矢示III-III方向から見た断面図である。
【
図4】
図3中の回転軸、軸受、リテーナ、油溜めプレート等を示す拡大図である。
【
図5】回転軸、軸受、リテーナ、油溜めプレート等を
図4中の矢示V-V方向から見た断面図である。
【
図6】第2の実施形態による回転軸、軸受、リテーナ、油溜めプレート等を示す
図4と同様位置の拡大図である。
【
図7】第3の実施形態による回転軸、軸受、リテーナ、油溜めプレート等を示す
図4と同様位置の拡大図である。
【
図8】回転軸、軸受、リテーナ、油溜めプレート等を
図7中の矢示VIII-VIII方向から見た断面図である。
【
図9】第4の実施形態による回転軸、軸受、リテーナ、油溜めプレート等を示す
図4と同様位置の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態によるホイール式車両の走行装置を、後輪駆動式のダンプトラックに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。なお、実施形態では、ダンプトラックの走行方向を前後方向とし、走行方向と直交する方向を左右方向として説明する。
【0014】
図1ないし
図5は本発明の第1の実施形態を示している。図中、ダンプトラック1は、頑丈なフレーム構造をなす車体2と、車体2上に起伏可能に搭載されたベッセル(荷台)3と、車体2の前部に設けられたキャブ5と、車輪としての左右の前輪6および左右の後輪7と、を含んで構成されている。
【0015】
ベッセル3は、例えば砕石物等の重量物を積載する大型の容器として形成され、ベッセル3の後側底部は、車体2の後端側に連結ピン4等を介して起伏(傾転)可能に連結されている。ベッセル3の前側上部には、キャブ5を上側から覆う庇部3Aが一体に設けられている。キャブ5は、庇部3Aの下側に位置して車体2の前部に設けられている。キャブ5は運転室を形成し、キャブ5の内部には、運転席、操舵用のハンドル、複数の操作レバー(いずれも図示せず)等が設けられている。
【0016】
左右の前輪6は、車体2の前部側に回転可能に設けられている(左前輪のみ図示)。左右の前輪6は、運転者によって操舵される操舵輪を構成している。左右の後輪7は、車体2の後部側に回転可能に設けられている(左後輪のみ図示)。左右の後輪7は、ダンプトラック1の駆動輪を構成し、
図3に示す走行装置11により車輪取付筒16と一体に回転駆動される。後輪7は、複輪式タイヤからなる2列のタイヤ7Aと、タイヤ7Aの径方向内側に配設されるリム7Bとを含んで構成されている。
【0017】
エンジン8は、キャブ5の下側に位置して車体2内に設けられている。エンジン8は、例えばディーゼルエンジン等により構成され、車体2に搭載された後述する走行用モータ13、油圧ポンプ(図示せず)等を回転駆動する。油圧ポンプから吐出された圧油は、後述するホイストシリンダ9、パワーステアリング用の操舵シリンダ(図示せず)等に供給される。
【0018】
ホイストシリンダ9は、車体2とベッセル3との間に設けられている。ホイストシリンダ9は、前輪6と後輪7との間に位置して車体2の左,右両側に配設され、油圧ポンプからの圧油が給排されることにより上,下方向に伸縮し、連結ピン4を中心にしてベッセル3を起伏(傾転)させる。
【0019】
後輪側のアクスルハウジング10は、車体2の後部側に設けられている。アクスルハウジング10は、左右方向(軸方向)に延びる中空な円筒体からなり、左右の後輪側サスペンション10Aを介して車体2の後部側に取付けられている。アクスルハウジング10の左右両側には、左右の後輪7を駆動する走行装置11がそれぞれ設けられている。
【0020】
走行装置11は、アクスルハウジング10の左右両側にそれぞれ設けられている。
図3に示すように、走行装置11は、スピンドル12と、走行用モータ13と、回転軸14と、車輪取付筒16と、減速機構21と、リテーナ42と、軸受44と、油溜めプレート47とを含んで構成されている。走行装置11は、回転軸14の回転を減速機構21によって減速し、駆動輪となる左右の後輪7を大きな回転トルクをもって回転駆動する。
【0021】
スピンドル12は、アクスルハウジング10の左右両側に取付けられている。スピンドル12は、左右方向に延びる段付き円筒状に形成され、テーパ部12Aと、中間円筒部12Bと、小径円筒部12Cとを有している。テーパ部12Aは、スピンドル12の軸方向一側(アクスルハウジング10側)から軸方向他側に向けて徐々に縮径するテーパ形状をなし、アクスルハウジング10の端部に複数のボルト12Dを用いて取付けられている。中間円筒部12Bは、テーパ部12Aの縮径側に一体形成され軸方向に延びている。小径円筒部12Cは、中間円筒部12Bよりも小さい外径寸法を有し、中間円筒部12Bの先端側に一体形成されている。
【0022】
テーパ部12Aの軸方向一側には、径方向内向きに突出する複数のモータ取付座12Eが設けられ、モータ取付座12Eには、走行用モータ13が取付けられている。テーパ部12Aの外周側には、径方向外向きに突出する環状のフランジ部12Fが設けられ、フランジ部12Fには、後述の湿式ブレーキ35が取付けられている。
【0023】
一方、小径円筒部12Cの先端は開口端となり、その内周側には後述する2段目のキャリア33の筒状突出部33Aがスプライン結合されている。小径円筒部12Cの軸方向の中間部の内周側には、径方向内側に突出する環状の内側突部12Gが一体に形成され、内側突部12Gには、後述するリテーナ42が取付けられている。さらに、小径円筒部12Cの下部側には、上下方向(小径円筒部12Cの径方向)に貫通する径方向穴12Hが穿設され、この径方向穴12H内には、後述する吸込管38の先端38Aが挿通されている。
【0024】
駆動源としての走行用モータ13は、アクスルハウジング10およびスピンドル12のテーパ部12A内に配置されている。走行用モータ13の外周側には複数の取付フランジ13Aが設けられ、取付フランジ13Aがスピンドル12(テーパ部12A)のモータ取付座12Eにボルト等を用いて取付けられている。走行用モータ13は、電動モータにより構成され、車体2に搭載された発電機(図示せず)からの電力が供給されることにより、回転軸14を回転駆動する。
【0025】
回転軸14は、スピンドル12の内周側を軸方向に伸長して設けられている。回転軸14は、1本の長尺な棒状体を用いて形成され、回転軸14の一端側は、走行用モータ13の出力軸(図示せず)にカップリング15を介して接続され、回転軸14は、走行用モータ13によって回転駆動される。回転軸14の他端側は、スピンドル12の小径円筒部12Cの開口端から突出し、回転軸14の他端(突出端)には、後述の太陽歯車23が取付けられている。回転軸14の軸方向の中間部は、軸受44によりスピンドル12に対して回転可能に支持されている。
【0026】
車輪取付筒16は、スピンドル12を構成する小径円筒部12Cの外周側に、2個のころ軸受17,18を介して回転可能に設けられている。車輪取付筒16は、ころ軸受17,18に支持され、小径円筒部12Cの外周側を軸方向に延びる中空円筒部16Aと、中空円筒部16Aの先端から軸方向に突出しスピンドル12から離れる方向に延びる延長円筒部16Bとを有している。車輪取付筒16の外周側には、後輪7を構成する円筒状のリム7Bが着脱可能に取付けられ、後輪7は車輪取付筒16と一体に回転する。車輪取付筒16の延長円筒部16Bの端部には、後述の内歯車32と外側ドラム19とが長尺ボルト20を用いて一体的に固定されている。外側ドラム19は円筒体からなり、軸方向の一側に設けられたフランジ部19Aが、内歯車32を介して車輪取付筒16に固定され、軸方向の他側は開口端となっている。
【0027】
減速機構21は、回転軸14と車輪取付筒16との間に設けられている。減速機構21は、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29とにより構成され、回転軸14の回転を2段減速し、車輪取付筒16に伝達する。
【0028】
1段目の遊星歯車減速機構22は、太陽歯車23と、複数の遊星歯車24と、キャリア26とを含んで構成されている。太陽歯車23は、スピンドル12(小径円筒部12C)から突出した回転軸14の先端にスプライン結合されている。複数の遊星歯車24は、太陽歯車23とリング状の内歯車25とに噛合し、太陽歯車23の周囲を自転しつつ公転する。キャリア26は、車輪取付筒16に一体化された外側ドラム19の開口端にボルト等を介して固定され、支持ピン27を介して遊星歯車24を回転可能に支持している。
【0029】
ここで、内歯車25はリングギヤを用いて形成され、太陽歯車23および複数の遊星歯車24を径方向外側から取囲んでいる。内歯車25は、外側ドラム19の内周面との間に径方向の隙間を介して相対回転可能に配置されている。内歯車25の回転は、カップリング28を介して2段目の遊星歯車減速機構29に伝達される。
【0030】
カップリング28は、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29との間に設けられている。カップリング28は、中心部にボス28Aを有する円板状に形成されている。カップリング28の外周側は、1段目の内歯車25にスプライン結合され、カップリング28のボス28Aの内周側は、後述する2段目の太陽歯車30にスプライン結合されている。カップリング28は、1段目の内歯車25の回転を2段目の太陽歯車30に伝達し、太陽歯車30を1段目の内歯車25と一体に回転させる。
【0031】
1段目の遊星歯車減速機構22は、走行用モータ13によって回転軸14と一体に太陽歯車23が回転することにより、太陽歯車23の回転を、複数の遊星歯車24の自転運動と公転運動とに変換する。そして、遊星歯車24の自転運動は、内歯車25に減速した回転として伝えられ、内歯車25の回転は、カップリング28を介して2段目の遊星歯車減速機構29に伝達される。一方、遊星歯車24の公転運動は、キャリア26の回転となって外側ドラム19を介して車輪取付筒16に伝達される。このとき、車輪取付筒16は、2段目の内歯車32と一体に回転するため、遊星歯車24の公転は、車輪取付筒16に同期した回転に抑えられる。
【0032】
2段目の遊星歯車減速機構29は、円筒状の太陽歯車30と、複数の遊星歯車31と、キャリア33とを含んで構成されている。太陽歯車30は、カップリング28のボス28Aの内周側にスプライン結合され、カップリング28と一体に回転する。複数の遊星歯車31は、太陽歯車30とリング状の内歯車32とに噛合し、太陽歯車30の周囲を自転しつつ公転する。キャリア33は、支持ピン34を介して遊星歯車31を回転可能に支持している。キャリア33の中心部には円筒状の筒状突出部33Aが設けられ、筒状突出部33Aの外周側は、小径円筒部12Cの内周側にスプライン結合されている。ここで、2段目の内歯車32は、太陽歯車30、複数の遊星歯車31等を径方向外側から取囲むリングギヤを用いて形成され、車輪取付筒16の延長円筒部16Bと外側ドラム19との間に長尺ボルト20を用いて一体的に固着されている。
【0033】
2段目の遊星歯車減速機構29は、キャリア33の筒状突出部33Aがスピンドル12の小径円筒部12Cにスプライン結合されることにより、遊星歯車31の公転(キャリア33の回転)が拘束される。従って、2段目の遊星歯車減速機構29は、太陽歯車30がカップリング28と一体に回転することにより、太陽歯車30の回転を遊星歯車31の自転に変換し、この遊星歯車31の自転を2段目の内歯車32に伝達する。これにより、内歯車32が減速して回転し、内歯車32が固定された車輪取付筒16に対し、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29とで2段階で減速された大出力の回転トルクが伝達される。
【0034】
ここで、車輪取付筒16の内部には潤滑油Lが貯留され、潤滑油Lの液面は、例えばスピンドル12を構成する小径円筒部12Cの最下部よりも低い位置にある。従って、ころ軸受17,18の下側部位は潤滑油Lに浸漬され、遊星歯車減速機構22,29の一部は、常に潤滑油Lによって潤滑される。また、遊星歯車減速機構22,29によって跳ね上げられた潤滑油Lは、ミスト状となってスピンドル12内に飛散し、回転軸14を支持する軸受44にも供給される。これにより、走行装置11の作動時において、潤滑油Lの攪拌による抵抗を小さくしてエネルギロスを抑えることができ、かつ走行装置11の発熱を抑えることができる。
【0035】
湿式ブレーキ35は、スピンドル12のフランジ部12Fに取付けられている。湿式ブレーキ35は、湿式多版型の油圧ブレーキにより構成され、車輪取付筒16に取付けられたブレーキハブ36に対して制動力を付与する。これにより、車輪取付筒16の回転、即ち、後輪7の回転に制動力が付与される。
【0036】
隔壁37は、スピンドル12内に設けられている。隔壁37は、環状の板体により形成され、隔壁37の外周側は、スピンドル12のテーパ部12Aと中間円筒部12Bとの境界部にボルト等を用いて取付けられている。隔壁37は、スピンドル12内を、走行用モータ13を収容するモータ収容空間部37Aと、車輪取付筒16の内部に連通する筒状空間部37Bとに仕切っている。
【0037】
吸込管38は、スピンドル12およびアクスルハウジング10内に設けられている。吸込管38の長さ方向一側は、アクスルハウジング10内を軸方向に延び、潤滑油ポンプ39の吸込側に接続されている。吸込管38の長さ方向他側は、回転軸14の下側に位置してスピンドル12内を軸方向に延び、後述するリテーナ42に保持されている。リテーナ42から突出した吸込管38の先端38Aは、L字状に屈曲して下向きに延び、スピンドル12の径方向穴12H内に挿通されている。これにより、吸込管38の先端38Aは、車輪取付筒16内の潤滑油Lに浸漬され、潤滑油ポンプ39は、吸込管38を通じて潤滑油Lを吸上げる。
【0038】
供給管40は、スピンドル12およびアクスルハウジング10内に設けられ、吸込管38、潤滑油ポンプ39等と共に潤滑油Lの循環回路を形成している。供給管40の長さ方向一側は、アクスルハウジング10内を軸方向に延び、潤滑油ポンプ39の吐出側に接続されている。供給管40の長さ方向他側は、回転軸14の上側に位置してスピンドル12内を軸方向に延び、リテーナ42に保持されている。リテーナ42から突出した供給管40の先端40Aは、S字状に屈曲しつつ回転軸14に沿って2段目のキャリア33の筒状突出部33A内へと延びている。また、供給管40の途中にはオイルクーラ41が設けられている。これにより、潤滑油ポンプ39から吐出した潤滑油Lは、オイルクーラ41により冷却された状態で供給管40の先端40Aを通じて回転軸14に供給され、回転軸14を冷却すると共に、回転軸14から飛散して軸受44等を潤滑する。
【0039】
リテーナ42は、スピンドル12(小径円筒部12C)の内側突部12Gにボルト等を用いて取付けられている。リテーナ42は、中心部に軸受嵌合穴42Aが形成された円板からなり、軸受嵌合穴42Aに嵌合された軸受44を保持すると共に、吸込管38および供給管40の長さ方向他側を保持している。
図4に示すように、リテーナ42のうち走行用モータ13側となる軸方向の一側面42Bには、軸受嵌合穴42Aの内周面42Cから径方向内側に張出す環状の鍔部42Dが設けられている。リテーナ42のうち減速機構21側となる軸方向の他側面42Eには、後述する油溜めプレート47が取付けられている。さらに、リテーナ42には、リテーナ42の外周面から軸受嵌合穴42Aへと径方向に延びる油路42Fが形成されている。油路42Fは、一端(上端)がリテーナ42の外周面に開口すると共に他端(下端)が軸受嵌合穴42Aに開口し、リテーナ42の外周面に飛散した潤滑油Lを、軸受嵌合穴42Aへと導く。
【0040】
スリーブ43は、回転軸14のうちリテーナ42の軸受嵌合穴42Aに対応する位置に設けられている。スリーブ43は、軸取付孔43Aを有する段付き円筒体からなり、スリーブ43の外周面は、大径外周面43Bと小径外周面43Cとを有している。さらに、スリーブ43の軸方向一側(走行用モータ13側)の面には、大径外周面43Bから径方向外側に張出す環状のフランジ部43Dが設けられている。
【0041】
軸受44は、リテーナ42を介してスピンドル12の内周側に配置され、スピンドル12に対して回転軸14を回転可能に支持している。軸受44は、外輪44Aと、内輪44Bと、複数の転動体44Cとを含んで構成されている。軸受44の外輪44Aは、リテーナ42の軸受嵌合穴42Aに嵌合し、軸受44の内輪44Bは、スリーブ43の大径外周面43Bに嵌合している。軸受44の外輪44Aは、リテーナ42の鍔部42Dと、軸受嵌合穴42Aの内周面42Cに取付けられたストップリング45とにより、軸方向に位置決めされている。軸受44の内輪44Bは、スリーブ43のフランジ部43Dと、小径外周面43Cに焼き嵌めされた環状のストッパ46とにより、軸方向に位置決めされている。
【0042】
油溜めプレート47は、リテーナ42のうち減速機構21側に位置する他側面42Eに取付けられている。即ち、油溜めプレート47は、リテーナ42の減速機構21側において軸受44を介して鍔部42Dと軸方向で対向する位置(面)に設けられている。
図4および
図5に示すように、油溜めプレート47は、回転軸14の外径寸法よりも大きな長さ寸法を有し、回転軸14の外径寸法よりも小さな高さ寸法を有する三日月型の板体として形成されている。油溜めプレート47は、軸受嵌合穴42の中心よりも下側でリテーナ42に取付けられた取付部47Aと、取付部47Aから上方に立上がり、リテーナ42の鍔部42Dと軸方向で対向する壁部47Bとを有している。
【0043】
油溜めプレート47は、取付部47Aが複数のボルト48を用いてリテーナ42の他側面42Eに取付けられている。油溜めプレート47の長さ方向の中央部は、回転軸14の軸中心を通る鉛直線上に一致している。この状態で、油溜めプレート47の壁部47Bは、軸受44を介して(挟んで)リテーナ42の鍔部42Dと軸方向で対向している。これにより、油溜めプレート47は、リテーナ42の軸受嵌合穴42Aの内周面42C、および鍔部42Dと共に、潤滑油Lを貯留する油溜め部49を形成している。
【0044】
ここで、壁部47Bの上端縁47Cは、リテーナ42に形成された軸受嵌合穴42Aの内周面42Cの最下部42Gよりも上方に突出し、かつ、鍔部42Dの内周縁42Hの最下部42Jよりも低い位置に配置されている。これにより、油溜め部49内に貯留された潤滑油Lが、油溜め部49の容積を越えたとしても、潤滑油Lがリテーナ42の鍔部42Dを越えて走行用モータ13側に溢れるのを抑え、走行用モータ13を保護することができる。
【0045】
このように、本実施形態では、油溜めプレート47、リテーナ42の軸受嵌合穴42Aの内周面42C、鍔部42Dによって油溜め部49が形成されている。これにより、潤滑油ポンプ39から吐出して回転軸14に供給された後、回転軸14から飛散してスピンドル12の内周面からリテーナ42の外周面に移動した潤滑油L、あるいは減速機構21等により跳ね上げられてリテーナ42の外周面に飛散したミスト状の潤滑油Lは、リテーナ42の油路42Fを通じて軸受嵌合穴42Aへと導かれ、油溜め部49内に貯留される。
【0046】
本実施形態によるダンプトラック1の走行装置11は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0047】
ダンプトラック1のキャブ5に乗り込んだ運転者が、エンジン8を起動すると、油圧ポンプが回転駆動されると共に発電機(いずれも図示せず)により発電が行われる。ダンプトラック1の走行駆動時には、発電機から走行用モータ13に電力が供給され、走行用モータ13が作動して回転軸14が回転する。
【0048】
回転軸14の回転は、1段目の遊星歯車減速機構22の太陽歯車23から遊星歯車24に減速されて伝達され、遊星歯車24の回転は、内歯車25およびカップリング28を介して2段目の遊星歯車減速機構29の太陽歯車30に減速されて伝達される。2段目の遊星歯車減速機構29では、太陽歯車30の回転が遊星歯車31に減速されて伝達される。このとき、遊星歯車31を支持するキャリア33は、筒状突出部33Aがスピンドル12の小径円筒部12Cにスプライン結合されているため、遊星歯車31の公転(キャリア33の回転)は拘束される。
【0049】
従って、遊星歯車31は、太陽歯車30の周囲で自転のみを行い、車輪取付筒16に固定された内歯車32には、遊星歯車31の自転により減速された回転が伝達される。これにより、車輪取付筒16は、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29とで2段減速された大きな回転トルクをもって回転する。この結果、駆動輪となる左右の後輪7は、車輪取付筒16と一体に回転し、ダンプトラック1を走行駆動することができる。
【0050】
回転軸14の軸方向中間部は、軸受44およびリテーナ42を介してスピンドル12に回転可能に支持されている。これにより、回転軸14が高速回転したときに、回転軸14の偏心によって軸方向中間部が径方向に撓んだり、芯振れしたりするのを抑えることができ、回転軸14の耐久性を高めることができる。
【0051】
走行装置11の作動時においては、車輪取付筒16内に貯溜された潤滑油Lが、遊星歯車減速機構22,29を構成する遊星歯車24,31等によって掻き上げられ、歯車間の噛合部、ころ軸受17,18、軸受44等に供給される。そして、潤滑油Lは順次下方へと滴下し、車輪取付筒16の下部側へと集められる。
【0052】
車輪取付筒16の下部側に集められた潤滑油Lは、潤滑油ポンプ39により吸込管38の先端38Aから吸い上げられ、オイルクーラ41で冷却された後に、供給管40の先端40Aから回転軸14の外周面に吐出する。回転軸14の外周面に吐出した潤滑油Lは、回転軸14を冷却すると共に、回転軸14の回転により飛散し、軸受44、遊星歯車減速機構22,29等を潤滑する。
【0053】
このとき、遊星歯車減速機構22,29により跳ね上げられた潤滑油L、および回転軸14の回転によって飛散した潤滑油Lの一部は、スピンドル12を構成する小径円筒部12Cの内周面に付着する。小径円筒部12Cの内周面に付着した潤滑油Lは、小径円筒部12Cの内側突部12Gに沿ってリテーナ42の外周面に移動した後、リテーナ42の油路42Fを通じて軸受嵌合穴42Aへと導かれる。軸受嵌合穴42Aに導かれた潤滑油Lは、軸受44を潤滑すると共に軸受嵌合穴42Aの下部側へと流れ、軸受嵌合穴42Aの内周面42C、鍔部42D、油溜めプレート47によって形成された油溜め部49に貯留される。
【0054】
ここで、走行装置11が高速で回転するときには、車輪取付筒16の内部に収容された潤滑油Lが、遠心力によって車輪取付筒16の内周面に押付けられることにより、潤滑油Lの液面位置が低下することがある。この場合には、吸込管38の先端38Aが潤滑油Lから離れ、潤滑油ポンプ39によって潤滑油Lを吸い上げることができなくなる。
【0055】
これに対し、本実施形態では、軸受嵌合穴42Aの内周面42C、鍔部42D、油溜めプレート47によって形成された油溜め部49に、潤滑油Lを貯留することができる。このため、軸受44に対し、ダンプトラック1の走行状態に関わらず、油溜め部49に貯留された潤滑油Lを十分に供給することができる。この結果、軸受44等を介してスピンドル12に支持された回転軸14を常に円滑に回転させることができ、走行装置11を長期に亘って安定して作動させることができ、その信頼性を高めることができる。
【0056】
しかも、油溜めプレート47の壁部47Bの上端縁47Cは、リテーナ42に設けられた鍔部42Dの内周縁42Hの最下部42Jよりも低い位置に配置されている。これにより、油溜め部49内に貯留された潤滑油Lが、油溜め部49の容積を越えたとしても、潤滑油Lがリテーナ42の鍔部42Dを越えて走行用モータ13側に溢れるのを抑え、走行用モータ13を保護することができる。
【0057】
かくして、第1の実施形態では、車体2に固定された筒状のスピンドル12と、スピンドル12の内周側を軸方向に伸長して設けられ、走行用モータ13により回転駆動される回転軸14と、スピンドル12の外周側に回転可能に設けられ、外周側に車輪7が取付けられると共に内部に潤滑油Lが収容される車輪取付筒16と、回転軸14の回転を減速して車輪取付筒16に伝達する減速機構21と、軸受嵌合穴42Aを有し、走行用モータ13と減速機構21との間に位置してスピンドル12の内周側に設けられるリテーナ42と、リテーナ42の軸受嵌合穴42Aに挿嵌され、回転軸14をスピンドル12に対して回転可能に支持する軸受44とを備えてなる走行装置11において、リテーナ42のうち走行用モータ13側の面(一側面42B)には、軸受嵌合穴42Aから径方向内側に張出し軸受44に当接する環状の鍔部42Dを設け、リテーナ42のうち減速機構21側の面(他側面42E)には、鍔部42Dと軸方向で対向し、鍔部42Dおよび軸受嵌合穴42Aの内周面42Cと共に潤滑油Lの油溜め部49を形成する油溜めプレート47を設けている。
【0058】
この構成によれば、回転軸14を支持する軸受44に供給される潤滑油Lを、油溜め部49に貯留することができる。これにより、ダンプトラック1の走行状態に関わらず、常に軸受44に対し、油溜め部49に貯留された潤滑油Lを十分に供給することができる。この結果、回転軸14を常に円滑に回転させることにより、走行装置11を長期に亘って安定して作動させることができ、その信頼性を高めることができる。
【0059】
実施形態では、油溜めプレート27は、軸受嵌合穴42Aの中心よりも下側でリテーナ42に取付けられた取付部47Aと、取付部47Aから上方に立上がり鍔部42Dと軸方向で対向する壁部47Bとを有し、壁部47Bの上端縁47Cは、鍔部42Dの内周縁42Hの最下部42Jよりも低い位置に配置されている。この構成によれば、油溜め部49内に貯留された潤滑油Lが、油溜め部49の容積を越えたとしても、潤滑油Lがリテーナ42の鍔部42Dを越えて走行用モータ13側に溢れるのを抑え、走行用モータ13を保護することができる。
【0060】
次に、
図6は本発明の第2の実施形態を示している。本実施形態の特徴は、油溜めプレートの取付部と壁部との間に拡張部を設けたことにある。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0061】
図中、油溜めプレート51は、リテーナ42のうち減速機構21側に位置する他側面42Eに取付けられている。油溜めプレート51は、第1の実施形態による油溜めプレート47と同様に、取付部51Aと壁部51Bとを有している。しかし、油溜めプレート51は、取付部51Aと壁部51Bとの間に拡張部51Cが設けられている点で、第1の実施形態による油溜めプレート47とは異なっている。
【0062】
油溜めプレート51の取付部51Aは、軸受嵌合穴42の中心よりも下側でボルト48を用いてリテーナ42の他側面42Eに取付けられている。油溜めプレート51の拡張部51Cは、取付部51Aから減速機構21側に突出し、減速機構21に向けて軸方向に延在している。油溜めプレート51の壁部51Bは、拡張部51Cの突出端から上方に立上がり、リテーナ42の鍔部42Dと軸方向で対向している。壁部51Bの上端縁51Dは、リテーナ42に形成された軸受嵌合穴42Aの内周面42Cの最下部42Gよりも上方に突出し、かつ、鍔部42Dの内周縁42Hの最下部42Jよりも低い位置に配置されている。
【0063】
これにより、油溜めプレート51は、リテーナ42の軸受嵌合穴42Aの内周面42C、および鍔部42Dと共に、潤滑油Lを貯留する油溜め部52を形成している。この場合、油溜めプレート51は、取付部51Aと壁部51Bとの間に軸方向に延びる拡張部51Cが設けられているので、この拡張部51Cの分、油溜め部52の容積を拡張することができる。
【0064】
第2の実施形態による走行装置は、上述の如き油溜めプレート51を有するもので、その基本的作用については、第1の実施形態による走行装置11と格別差異はない。然るに、本実施形態による油溜めプレート51は、取付部51Aと壁部51Bとの間に軸方向に延びる拡張部51Cが設けられることにより、軸受嵌合穴42Aの内周面42C、鍔部42Dと共に形成する油溜め部52の容積を拡張することができる。この結果、油溜め部52内に貯留される潤滑油Lを増加させることができ、軸受44に対する潤滑を長期に亘って適正に行うことができる。
【0065】
このように、第2の実施形態では、油溜めプレート51の取付部51Aと壁部51Bとの間には、取付部51Aから減速機構21に向けて軸方向に延在し、油溜め部52を拡張する拡張部51Cを設けている。この構成によれば、拡張部51Cを設けた分だけ油溜め部52に貯留される潤滑油Lが増加するので、軸受44に対する潤滑を長期に亘って適正に行うことができる。
【0066】
次に、
図7および
図8は本発明の第3の実施形態を示している。本実施形態の特徴は、油溜めプレートは、リテーナに取付けられた環状取付部と、環状取付部から径方向内側に張出す環状壁部とにより構成したことにある。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0067】
図中、油溜めプレート61は、リテーナ42のうち減速機構21側に位置する他側面42Eに取付けられている。油溜めプレート61は、全体として環状の板体からなり、外周側に位置する平坦な環状取付部61Aと、環状取付部61Aの内周側から径方向内側に張出すテーパ状の環状壁部61Bとを有している。環状壁部61Bの内周側は円形な軸挿通孔61Cとなり、軸挿通孔61Cには回転軸14が挿通されている。環状取付部61Aは、ボルト48を用いてリテーナ42の他側面42Eに取付けられている。油溜めプレート61の中心は、回転軸14の中心に一致し、油溜めプレート61の環状壁部61Bは、リテーナ42の鍔部42Dと全周に亘って対向している。
【0068】
環状壁部61Bの内周縁61Dは、リテーナ42に形成された軸受嵌合穴42Aの内周面42Cよりも径方向内側に配置され、かつ、鍔部42Dの内周縁42Hよりも径方向外側に配置されている。これにより、油溜めプレート61は、リテーナ42の軸受嵌合穴42Aの内周面42C、および鍔部42Dと共に、潤滑油Lを貯留する油溜め部62を形成している。
【0069】
油溜めプレート61の環状壁部61Bは、回転軸14に向けて徐々に縮径しつつ、リテーナ42の他側面42Eから減速機構21に向けてテーパ状に突出している。ここで、回転軸14の軸中心線をA-Aとすると、テーパ状の環状壁部61Bと回転軸14の軸中心線A-Aとが交わる角度θは、0よりも大きく90°よりも小さい範囲(0<θ<90°)に設定されている。このように、テーパ状の環状壁部61Bは、回転軸14のうち軸受44の周囲を全周に亘って外周側から覆っている。これにより、回転軸14の回転時に、回転軸14、スリーブ43、ストッパ46等から飛散した潤滑油Lを、環状の環状壁部61Bによって受け止めた後、テーパ状の環状壁部61Bに沿って油溜め部62へと円滑に導くことができる構成となっている。
【0070】
第3の実施形態による走行装置は、上述の如き油溜めプレート61を有するもので、その基本的作用については、第1の実施形態による走行装置11と格別差異はない。然るに、本実施形態による油溜めプレート61は、リテーナ42の他側面42Eに取付けられる平坦な環状の環状取付部61Aと、環状取付部61Aの内周側から径方向内側に張出す環状の環状壁部61Bとを有している。環状壁部61Bは、回転軸14に向けて徐々に縮径しつつ減速機構21に向けてテーパ状に突出し、環状壁部61Bと回転軸14の軸中心線A-Aとが交わる角度θは、0<θ<90°の範囲に設定されている。これにより、回転軸14、スリーブ43、ストッパ46等から飛散した潤滑油Lを、テーパ状の環状壁部61Bによって収集し、効率良く油溜め部62に貯留することができる。この結果、回転軸14を常に円滑に回転させることにより、走行装置11を長期に亘って安定して作動させることができる。
【0071】
このように、第3の実施形態では、油溜めプレート61は、リテーナ42に取付けられた環状の環状取付部61Aと、環状取付部61Aから径方向内側に張出し、リテーナ42の鍔部42Dと全周に亘って対向する環状の環状壁部61Bとにより構成されている。この構成によれば、回転軸14のうち軸受44の周囲を、テーパ状の環状壁部61Bによって外周側から覆うことができ、回転軸14のうち軸受44の周囲から飛散した潤滑油Lを、環状壁部61Bによって受け止めた後、環状壁部61Bの傾斜に沿って油溜め部62に導くことができる。
【0072】
また、第3の実施形態では、油溜めプレート61の環状壁部61Bと回転軸14の軸中心線A-Aとが交わる角度θは、0<θ<90°の範囲に設定されている。この構成によれば、回転軸14のうち軸受44周囲から飛散した潤滑油Lを、テーパ状の環状壁部61Bによって収集し、効率良く油溜め部62に貯留することができる。
【0073】
次に、
図9は本発明の第4の実施形態を示している。本実施形態の特徴は、回転軸には、外周側が軸受嵌合部となった筒状のスリーブが取付けられ、スリーブのうち駆動源側の面には、前記軸受嵌合部から径方向外側に張出す環状のスリーブ側鍔部を設けたことにある。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0074】
図中、スリーブ71は、回転軸14のうちリテーナ42の軸受嵌合穴42Aに対応する位置に設けられている。スリーブ71は、第1の実施形態によるスリーブ43と同様に、軸取付孔71Aを有する段付き円筒体からなり、スリーブ71の外周面は、軸受嵌合部としての大径外周面71Bと、大径外周面71Bよりも小径な小径外周面71Cとを有している。しかし、スリーブ71の軸方向一側(走行用モータ13側)の面には、後述するスリーブ側鍔部71Eが設けられている点で、第1の実施形態によるスリーブ43とは異なる。
【0075】
スリーブ71は、軸受44の内輪44Bが嵌合する軸受嵌合部としての大径外周面71Bを有し、スリーブ71の軸方向一側(走行用モータ13側)となる一側面71Dには、大径外周面71Bから径方向外側に張出す環状のスリーブ側鍔部71Eが設けられている。スリーブ側鍔部71Eの外径寸法は、軸受44を構成する内輪44Bの外径寸法よりも大きく、外輪44Aの内径寸法よりも小さく設定されている。軸受44の内輪44Bは、スリーブ71の小径外周面71Cに嵌合されたストッパ46とスリーブ側鍔部71Eとに当接することにより、軸方向に位置決めされている。この状態で、スリーブ側鍔部71Eの外周縁は、リテーナ42に設けられた鍔部42Dの内周縁と僅かな環状の隙間をもって対向し、スリーブ側鍔部71Eは、リテーナ42の鍔部42Dと共に、軸受44を走行用モータ13側から覆っている。
【0076】
第4の実施形態による走行装置は、上述の如きスリーブ71を有するもので、その基本的作用については、第1の実施形態による走行装置11と格別差異はない。然るに、本実施形態では、スリーブ71に設けたスリーブ側鍔部71Eの外周縁が、リテーナ42に設けられた鍔部42Dの内周縁と僅かな環状の隙間をもって対向し、スリーブ側鍔部71Eは、リテーナ42の鍔部42Dと共に、軸受44を走行用モータ13側から覆っている。これにより、油溜め部49内に貯留された潤滑油Lが油溜め部49の容積を越えたとしても、この潤滑油Lが走行用モータ13側に溢れるのを、リテーナ42の鍔部42Dとスリーブ71のスリーブ側鍔部71Eとにより確実に防止することができ、走行用モータ13を保護することができる。
【0077】
このように、第4の実施形態では、回転軸14には、外周側が大径外周面71Bとなった筒状のスリーブ71が取付けられ、軸受14は、スリーブ71を介してリテーナ42の軸受嵌合穴42Aに挿嵌され、スリーブ71のうち走行用モータ13側の面には、大径外周面71Bから径方向外側に張出し、リテーナ42の鍔部42Dと共に軸受14を走行用モータ13側から覆うスリーブ側鍔部71Eを設けている。この構成によれば、油溜め部49内に貯留された潤滑油Lが油溜め部49の容積を越えた場合に、この潤滑油Lが走行用モータ13側に溢れるのを、リテーナ42の鍔部42Dとスリーブ71のスリーブ側鍔部71Eとによって防止することができる。
【0078】
なお、実施形態では、回転軸14、ころ軸受17,18、減速機構21、軸受44等を潤滑するため、吸込管38、潤滑油ポンプ39、供給管40等により構成された循環回路から供給される潤滑油Lと、減速機構21によって跳ね上げられたミスト状の潤滑油Lとを用いる場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば循環回路から供給される潤滑油L、または減速機構21によって跳ね上げられたミスト状の潤滑油Lのいずれか一方の潤滑油Lのみを用いる構成としてもよい。
【0079】
また、第1の実施形態では、三日月状に形成された油溜めプレート27を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば長方形状の種々の形状を有する油溜めプレートを用いる構成としてもよい。
【0080】
さらに、実施形態では、後輪駆動式のダンプトラック1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば前輪駆動式または前,後輪を共に駆動する4輪駆動式のダンプトラックに適用してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 ダンプトラック
2 車体
7 後輪(車輪)
12 スピンドル
13 走行用モータ(駆動源)
14 回転軸
16 車輪取付筒
21 減速機構
42 リテーナ
42A 軸受嵌合穴
42C 内周面
42D 鍔部
44 軸受
47,51,61 油溜めプレート
47A,51A 取付部
47B,51B 壁部
51C 拡張部
61A 環状取付部
61B 環状壁部
49,52,62 油溜め部
71 スリーブ
71B 大径外周面(軸受嵌合部)
71E スリーブ側鍔部