(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】伸線ダイス
(51)【国際特許分類】
B21C 3/02 20060101AFI20250206BHJP
【FI】
B21C3/02 K
B21C3/02 A
(21)【出願番号】P 2024544520
(86)(22)【出願日】2024-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2024011945
【審査請求日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2023060736
(32)【優先日】2023-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉本 康平
(72)【発明者】
【氏名】木村 公一朗
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/073424(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/044802(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/239697(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/088048(WO,A1)
【文献】特開平03-254323(JP,A)
【文献】実開昭61-092409(JP,U)
【文献】特開昭58-41925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 3/02
B21C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベアリングの直径Dが、100μm未満の伸線ダイスであって、
平均粒径が500nm以下の実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドに孔が設けられ、
リダクション角度は、4°以上14°以下で、
前記ベアリングの長さは、20%D以上100%D以下で、
前記ベアリングと、ベルまたはアプローチとの同芯度は1.0μm以下で、
前記ベアリングの孔の真円度は、0.5μm以下である、伸線ダイス。
【請求項2】
前記リダクション角度は5°以上12°以下である、請求項1に記載の伸線ダイス。
【請求項3】
前記ベアリングの長さは30%D以上70%D以下である、請求項1または2に記載の伸線ダイス。
【請求項4】
前記ベアリングと、前記ベルまたは前記アプローチとの同芯度は0.8μm以下である、請求項1または2に記載の伸線ダイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は伸線ダイスに関する。本出願は、2023年4月4日に出願した日本特許出願である特願2023-060736号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、伸線ダイスは、たとえば国際公開第2008/088048号に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の伸線ダイスは、ベアリングの直径Dが、100μm未満の伸線ダイスであって、
平均粒径が500nm以下の実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドに孔が設けられ、
リダクション角度は、4°以上14°以下で、
ベアリング長さは、20%D以上100%D以下で、
ベアリングと、ベルまたはアプローチとの同芯度は1.0μm以下で、
ベアリングの孔の真円度は、0.5μm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施の形態に従ったバインダレス多結晶ダイヤモンドダイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
従来の伸線ダイスにおいては、細線化が困難であるという問題があった。
【0007】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0008】
本開示の伸線ダイスは、ベアリングの直径Dが、100μm未満の伸線ダイスであって、平均粒径が500nm以下の実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドに孔が設けられ、リダクション角度は、4°以上14°以下で、ベアリング長さは、20%D以上100%D以下で、ベアリングと、ベルまたはアプローチとの同芯度は1.0μm以下で、ベアリングの孔の真円度は、0.5μm以下である。
【0009】
(ダイヤモンド)
実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドは、いわゆるバインダが存在しないダイヤモンドである。代表的なものの一例として、超高圧高温下で非ダイヤモンド炭素をダイヤモンドに直接変換させて製造したダイヤモンドがあり、バインダレスダイヤモンドとして知られている。なお、本願における平均粒径とは、以下のようにして求めたものとする。まず、多結晶ダイヤモンドの焼結体組織をSEMまたはTEMで観察し、画像処理で個々の粒子(一次粒子)を抽出してその粒子の面積を算出し、その面積を円形と仮定した場合の直径を粒径とする。そして、単位面積(たとえば50μm×50μm)あたりの各粒子の粒径の平均値を平均粒径とする。
【0010】
ダイス孔は、一般的には伸線方向に垂直な断面において円形状とされる。
(構造)
伸線ダイスは、上流側から順にベル、アプローチ、リダクション、ベアリング、バックリリーフおよびエクジットを有する。
【0011】
リダクションにおけるダイス孔の開き角度であるリダクション角度は4°以上14°以下である。リダクション角度が14°を超えるとまたは4°未満となると、伸線ダイスの寿命が短くなる。リダクション角度は5°以上12°以下であることが好ましい。
【0012】
ベアリングの長さは、20%D以上100%D以下で、ベアリングと、ベルまたはアプローチとの同芯度は1.0μm以下で、ベアリングの孔の真円度は、0.5μm以下である。好ましくは、ベアリングの長さは30%D以上70%D以下である。好ましくは、前記ベアリングと、前記ベルまたは前記アプローチとの同芯度は0.8μm以下である。
【0013】
図1は、実施の形態に従ったバインダレス多結晶ダイヤモンドダイスの断面図である。
図1で示すように、実施の形態1に従った伸線用のダイス1はダイス孔1hを有する。ダイス1は、上流側から順にベル1a、アプローチ1b、リダクション1c、ベアリング1d、バックリリーフ1eおよびエクジット1fを有する。
【0014】
ベル1aはダイス孔1hの最も上流側に位置している。ベル1aを規定するダイス孔1hの側面の接線12a,13aのなす角度αはベル角である。ベル1aは、伸線される線材および潤滑材の入口に該当する。
【0015】
アプローチ1bは、ベル1aの下流に設けられる。ベル1aとアプローチ1bとの境界において、ダイス孔1hの傾きが連続的に変化していてもよく、非連続的に変化していてもよい。アプローチ1bを規定するダイス孔1hの側面の接線12b,13bのなす角度βはアプローチ角である。
【0016】
リダクション1cは、アプローチ1bの下流に設けられる。アプローチ1bとリダクション1cとの境界において、ダイス孔1hの傾きが連続的に変化していてもよく、非連続的に変化していてもよい。リダクション1cを規定するダイス孔1hの側面の接線12c,13cのなす角度γはリダクション角である。
【0017】
ベアリング1dは、リダクション1cの下流に設けられる。リダクション1cとベアリング1dとの境界において、ダイス孔1hの傾きが連続的に変化していてもよく、非連続的に変化していてもよい。ベアリング1dを規定するダイス孔1hの直径Dは一定である。ベアリング1dは円筒形状である。ベアリング1dは、ダイス孔1hにおいて最も直径が小さい部分である。
【0018】
バックリリーフ1eは、ベアリング1dの下流に設けられる。ベアリング1dとバックリリーフ1eとの境界において、ダイス孔1hの傾きが連続的に変化していてもよく、非連続的に変化していてもよい。バックリリーフ1eを規定するダイス孔1hの側面の角度θはバックリリーフ角である。
【0019】
エクジット1fは、バックリリーフ1eの下流に設けられる。ベアリング1dとバックリリーフ1eとの境界において、ダイス孔1hの傾きが連続的に変化していてもよく、非連続的に変化していてもよい。バックリリーフ1eを規定するダイス孔1hの側面の角度φはエクジット角である。
【0020】
リダクション1cの直径をRDとすると、RDとDとの間には、D<RD≦1.050Dの関係が成立する。そのため、上記関係の直径RDを有する部分がリダクション1cである。リダクション1cの断面積はベアリング1dの断面積の100%を超え110%以下である。
【0021】
ベアリング1dの長さはLである。LとDとの間には、20%D≦L≦100%Dの関係が成立する。好ましくは、30%D≦L≦70%Dの関係が成立する。ダイス孔1hの直径がDの部分がベアリング1dである。
【0022】
(ダイス孔1hの形状の特定方法)
ベル1a、アプローチ1b、リダクション1c、ベアリング1d、バックリリーフ1eおよびエクジット1fの形状を測定するためには、ダイス孔1hに転写材(たとえば、株式会社ストルアス製、レプリセット)を充填して、ダイス孔1hの形状を転写したレプリカを作製する。このレプリカを、透過照明の付いた工具顕微鏡を使い、ダイス孔1hの輪郭を明確にして、
図1のダイス孔1hのようなダイス孔1hの断面図を得る。
【0023】
断面図において、内径が最も狭くかつ円筒状の部分をベアリング1dとする。ベアリングの直径をDとする。断面図において、ベアリング1dに隣接してベアリング1dの上流に位置し、内径RDがD<RD≦1.050Dを満たす部分をリダクション1cとする。断面図において、ベアリング1dに隣接してベアリング1dの下流に位置し、内径BDがD<BD≦1.025Dを満たす部分をバックリリーフ1eとする。
【0024】
リダクション角γの測定にあたっては、ダイス孔1hの断面図において、リダクション1cの基準点11c(RD=1.050Dの部分)において両側面に接線12c,13cを引き、2つ接線12c,13cのなす角度をリダクション角γとする。
【0025】
(同芯度の測定方法)
ベル1aまたはアプローチ1b、とベアリング1dとの同芯度の測定は、たとえば測定装置としてキーエンス製デジタルマイクロスコープ(VHX8000)を用いる。測定条件は倍率:×2,500倍、照明は透過照明とする。中心線1pと平行な方向からダイス孔1hを観察して、白く光って見える領域の輪郭を求める。ダイス孔1hの直径Dに対して、150~250%Dの範囲にある白く光って見える領域の最も外側にある輪郭(ベルまたはアプローチ部)をベル1aまたはアプローチ1bの輪郭とする。その輪郭から円を近似して円の中心をベル1aまたはアプローチ1bの中心とする。同様にベアリング1dの輪郭を求める。その輪郭から円を近似して円の中心をベアリング1dの中心とする。ベル1aまたはアプローチ1bの中心とベアリング1dの中心との距離Wを同芯度という。
【0026】
(真円度の測定方法)
本願では、真円度は、ダイスで伸線加工した線材の直径を360度の各方向で測定した時の、最大の径と最小の径との差を真円度とする。測定は、セルサ社製ワイヤー線径測定機(LDSN)を使い、伸線した線材の直径を360度にわたって250点測定した。この250点の測定値の最大値と最小値との差を真円度とする。線材にダイス孔1hの形状(ベアリング1dの形状)が転写されて、ベアリング1dの真円度が線材に反映される。
【0027】
ベアリング1dの真円度は上記の手順で求めたベアリング1dの輪郭において円近似により求めたベアリング1dの中心からの距離の最大値と最小値との差である。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
(実施例1)
(BL(バインダレス)ダイヤモンドダイスの伸線評価)
ダイス素材の違いによる性能の確認を行うため、下記3種類の同形状ダイスを用意し評価を行った。
【0029】
ダイス素材
A.バインダレスPCDダイス、B.単結晶ダイヤモンドダイス、C.バインダを含むPCDダイス、3種類を準備した。A.バインダレスPCDダイス、のダイヤモンドの平均粒径は0.05μm(50nm)である。これらの形状を表1および表2に示す。
【0030】
【0031】
【0032】
表1および2において「BLPCD」とは、超高圧高温下で非ダイヤモンド炭素をダイヤモンドに直接変換させて製造したダイヤモンドで、バインダが存在せず実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドをいう。
【0033】
「PCD粒径1μm」とは平均粒径が1μmの多結晶ダイヤモンドで構成され、バインダを5体積%以上含み残部がダイヤモンドである多結晶ダイヤモンドをいう。
【0034】
このダイスを用いてSUS線材を、線速500m/minで、油性潤滑条件において伸線した。直径Dがφ0.08mmであれば伸線前の線径はφ0.087mmとした。直径Dがφ0.10mmであれば伸線前の線径はφ0.109mmとした。直径Dがφ0.04mmであれば伸線前の線径はφ0.0435mmとした。直径Dがφ0.15mmであれば伸線前の線径はφ0.0164mmとした。これらのSUS線材を各ダイスで伸線加工を行い、伸線後の線材の真円度が0.3μmになるか、または伸線開始後100mの時点の伸線された線材の線径と比べた時の線径の増加分が0.3μmであるか、となればダイスの寿命とした。または、線材にカール(反り、Rが30mm未満)が発生すればダイスの寿命とした。その結果を表3および表4に示す。
【0035】
【0036】
【0037】
表3および4の「寿命」において「A」は60km以上、「B」は30km超-60km未満、「C」は30km以下の寿命であったことを示す。
【0038】
「線径拡大量」とは伸線開始後100m時点の線径と伸線後30km時点の線径との差をいう。線径は、ダイスで伸線加工した線材の直径を360度の各方向で測定した時の平均値とする。測定はセルサ社製ワイヤー線径測定機(LDSN)を使い、伸線加工した線材の直径を360度にわたって250点測定した。線径拡大量がマイナスの試料も存在する。これは、BLPCDのような高硬度のダイヤを使うと、リング摩耗が発生し、伸線時に線材が削れて細くなることがあるからである。
【0039】
「カール状態」は伸線後の線材の反りのRが50mm以上であれば「A」、Rが30mm以上50mm未満であれば「B」、Rが30mm未満であれば「C」とした。
【0040】
寿命が「C」であったダイスでは、カール状態が初期から悪く、伸線加工が進むにつれて悪化して30kmの伸線ができなかったため、寿命を迎えた状態でのベアリングの真円度を「真円度(30km伸線後)」に記載した。
【0041】
試料番号166では、5km伸線した段階で断線が発生した。評価継続できなかったため伸線を中止した。
【0042】
表3および表4より、リダクション角度が14°以下、ベアリング長さが20%D以上100%D以下、ベアリングとベルまたはアプローチとの同芯度は1.0μm以下、ベアリングの孔の真円度が0.5μm以下であると、寿命、カール状態(初期)、カール状態(30km)の評価においてB以上の評価が得られていることが分かる。
【0043】
より好ましくは、リダクション角度が5°以上12°以下であると評価Aが増加していることが分かる。さらに、ベアリング長さ30%D以上70%D以下の範囲であれば、評価Aが増加していることが分かる。さらに、同芯度が0.8μm以下であれば評価Aが増加していることが分かる。
【0044】
(付記1)
ベアリングの直径Dが、100μm未満の伸線ダイスであって、
平均粒径が500nm以下の実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドに孔が設けられ、
リダクション角度は、4°以上14°以下で、
前記ベアリングの長さは、20%D以上100%D以下で、
前記ベアリングと、ベルまたはアプローチとの同芯度は1.0μm以下で、
前記ベアリングの孔の真円度は、0.5μm以下である、伸線ダイス。
【0045】
(付記2)
前記リダクション角度は5°以上12°以下である付記1に記載の伸線ダイス。
【0046】
(付記3)
前記ベアリングの長さは30%D以上70%D以下である、付記1または2に記載の伸線ダイス。
【0047】
(付記4)
前記ベアリングと、前記ベルまたは前記アプローチとの同芯度は0.8μm以下である、付記1から3のいずれか1項に記載の伸線ダイス。
【0048】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1 ダイス、1a ベル、1b アプローチ、1c リダクション、1d ベアリング、1e バックリリーフ、1f エクジット、1h ダイス孔、1p 中心線、11c 基準点、12a,12b,12c,13a,13b,13c 接線。
【要約】
伸線ダイスは、ベアリングの直径Dが、100μm未満の伸線ダイスであって、平均粒径が500nm以下の実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドに孔が設けられ、リダクション角度は、4°以上14°以下で、前記ベアリングの長さは、20%D以上100%D以下で、前記ベアリングと、ベルまたはアプローチとの同芯度は1.0μm以下で、前記ベアリングの孔の真円度は、0.5μm以下である。