(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】脂肪吸収抑制剤、食品及び脱脂ごま並びに肥満を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20250207BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20250207BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20250207BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20250207BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20250207BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20250207BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
A23L33/10
A23K10/30
A61K9/14
A61K36/185
A61P3/04
A61P3/06
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2020029647
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2023-02-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公益社団法人日本農芸化学会 日本農芸化学会2019年度大会プログラム集、第64頁 3B1a13、発行日 平成31年2月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (2)公益社団法人日本農芸化学会 日本農芸化学会2019年度大会講演要旨集、第782頁、発行日 平成31年3月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (3)日本農芸化学会2019年度大会、東京農業大学、開催日 平成31年3月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (4)株式会社ファーマフーズ https://www.pharmafoods.co.jp/news/detail/188 https://www.pharmafoods.co.jp/uploaded/files/ea8681cb9bd529c11eadc2c22fdb209940691749.pdf、 掲載日 平成31年3月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (5)公益社団法人日本農芸化学会 日本農芸化学会2020年度大会プログラム集、第64頁 3A03a13、発行日 令和2年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】500101243
【氏名又は名称】株式会社ファーマフーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100188499
【氏名又は名称】勝又 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100127568
【氏名又は名称】酒井 善典
(74)【代理人】
【識別番号】100171402
【氏名又は名称】上田 ▲茂▼
(74)【代理人】
【識別番号】100213779
【氏名又は名称】小川 有佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 裕晃
(72)【発明者】
【氏名】森田 沙代
(72)【発明者】
【氏名】古賀 啓太
(72)【発明者】
【氏名】山津 敦史
(72)【発明者】
【氏名】金 武祚
(72)【発明者】
【氏名】古田 到真
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-050423(JP,A)
【文献】特開平10-276662(JP,A)
【文献】特開2005-008572(JP,A)
【文献】第72回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集,2018年,p.256,3B-02p
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23K
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂ごまの微粉砕
物を含有する脂肪吸収抑制剤。
【請求項2】
脱脂ごまを含有し、該脱脂ごまが、レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が1~200μmであり、圧縮度が30~80%である
、脂肪吸収抑制剤。
【請求項3】
リパーゼ阻害能を有する請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
食品用である、請求項1~3のいずれかに記載の
剤。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の
剤を動物に投与することを特徴とす
る動物の肥満を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪吸収抑制剤、食品及び脱脂ごま並びに肥満を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食生活や生活習慣の変化などに伴い、肥満人口は世界中で増加している。肥満は糖尿病、高血圧、癌など様々な健康リスクを増加させるリスク因子であり、世界レベルでは、年間400万人が肥満に起因する疾患で死亡しているといわれている。
【0003】
現在使用されている抗肥満薬としては、(1)食欲中枢に作用し、食欲を抑制するもの(マジンドール等)、(2)腸内のリパーゼを阻害することで脂肪の吸収を抑制するもの(オルリスタット等)などが知られている。これらの抗肥満薬には、何らかの副作用があるものが多く、安全性が未だ確立されていないため、長期使用できるものは少ない。
【0004】
このような中、上記(2)のリパーゼ阻害による脂肪吸収抑制剤について、食品素材を用いることで、より安全性の高いものを得ることが検討されている。リパーゼ阻害能を有する食品素材としては、杜仲葉(特許文献1)、ハクトウオウ、ミツモウカ、カイトウヒ、ハクシジン、トウガシ(特許文献2)、黒ショウガ、赤ショウガ、ニッケイ、大麦若葉、黒ニンニク、阿仙薬、アジサイ、訶子、ザクロ、亜麻仁、桂花、九節茶、雪の下、ジャスミン茶、オレガノ、オリーブ葉、沙棘、カレーリーフ(特許文献3)、及びシラタマカズラ(特許文献4)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-289951号公報
【文献】特開2006-169181号公報
【文献】特開2010-209051号公報
【文献】特開2014-172901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の食品素材は市場における流通が少ないものが多く、コスト高及び供給量の低下を招来するという不都合がある。そのため、入手容易性や、コスト低減等の観点から、より身近な食品素材を用いた脂肪吸収抑制剤が求められている。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、新規な脂肪吸収抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、脱脂ごまを微粉砕したものが脂肪吸収抑制作用を示すことを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、脱脂ごまの微粉砕物又はその処理物を含有する脂肪吸収抑制剤である。
【0010】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が1~200μmであり、圧縮度が30~80%である脱脂ごまを含有する脂肪吸収抑制剤である。
【0011】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が1~200μmであり、圧縮度が30~80%である脱脂ごまである。
【0012】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、当該剤、当該食品若しくは当該脱脂ごまをヒト若しくは動物に投与することを特徴とするヒト又は動物の肥満を抑制する方法である。
【0013】
さらに詳しくは、本発明は、以下の発明等に関する。
[1]脱脂ごまの微粉砕物又はその処理物を含有する脂肪吸収抑制剤。
[2]レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が1~200μmであり、圧縮度が30~80%である脱脂ごまを含有する脂肪吸収抑制剤。
[3]リパーゼ阻害能を有する[1]又は[2]に記載の剤。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の剤を含有する食品。
[5]レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が1~200μmであり、圧縮度が30~80%である脱脂ごま。
[6][1]~[3]のいずれかに記載の剤、[4]に記載の食品若しくは[5]に記載の脱脂ごまをヒト若しくは動物に投与することを特徴とするヒト又は動物の肥満を抑制する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新規な脂肪吸収抑制剤を提供することができる。本発明の脂肪吸収抑制剤は、食品素材から得られるものであるので、安全性が高い。本発明の脂肪吸収抑制剤は、脂肪吸収抑制能及びリパーゼ阻害能に優れている。本発明の脂肪吸収抑制剤は、煩雑な製造工程を必要とせず、簡便に製造することができる。本発明の食品は、本発明の脂肪吸収抑制剤が含有されているので、脂肪吸収抑制能及びリパーゼ阻害能を有する。本発明の脱脂ごまは、本発明の脂肪吸収抑制剤の原料として好適に用いることができる。従って、本発明の剤、食品及び脱脂ごまをヒト又は動物に投与することにより、ヒト又は動物の肥満を抑制することができる。また、本発明は、肥満、血清高トリグリセリド血症などの脂肪の蓄積に由来する疾患、肥満に起因する糖尿病、高脂血症、高血圧症、動脈硬化等の疾患の治療又は予防用、さらにダイエット用の医薬品、食品、食品添加物、機能性食品などに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】脂肪吸収抑制試験(ヒト)の結果を示すグラフである。
【
図2】脱脂ごま未粉砕物の脂肪吸収抑制試験(in vivo)の結果を示すグラフである。
【
図3】脱脂ごま微粉砕物の脂肪吸収抑制試験(in vivo)の結果を示すグラフである。
【
図4】リパーゼ阻害試験(in vitro)の結果を示すグラフである。
【
図5】長期摂取試験(in vivo)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<脂肪吸収抑制剤>
当該脂肪吸収抑制剤は、血液中に中性脂肪(トリグリセリド)等の脂質が移行することを抑制する作用(脂肪吸収抑制能)を有するものを含み、当該脂肪吸収抑制剤は、通常、リパーゼ阻害能を有している。
【0017】
本発明の脂肪吸収抑制剤の態様として、下記(1)~(4)が挙げられる。
(1)脱脂ごまの微粉砕物又はその処理物を含有する脂肪吸収抑制剤。
(2)レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が1~200μmである脱脂ごまを含有する脂肪吸収抑制剤。
(3)圧縮度が30~80%である脱脂ごまを含有する脂肪吸収抑制剤。
(4)レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が1~200μmであり、圧縮度が30~80%である脱脂ごまを含有する脂肪吸収抑制剤。
【0018】
当該脂肪吸収抑制剤は、必須成分として、「脱脂ごまの微粉砕物又はその処理物」を含有し、「レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が1~200μmであり、圧縮度が30~80%である脱脂ごま」を含有することが好ましい。当該脂肪吸収抑制剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の任意の成分を含有していてもよい。以下、各成分について説明する。
【0019】
[脱脂ごまの微粉砕物又はその処理物]
本発明の一態様に係る脂肪吸収抑制剤は、脱脂ごまの微粉砕物又はその処理物を含有する。
【0020】
脱脂ごまの微粉砕物は、脱脂ごま(未粉砕物)を、通常、平均粒子径を小さくした「粉砕物」よりも、さらに微小なものに粉砕したものが好ましく、平均粒子径を、未粉砕物の好ましくは1/2以下、より好ましくは1/4以下としたものがさらに好ましく、平均粒子径として、例えば50%粒子径が200μm以下であるものが特に好ましい。
【0021】
脱脂ごまの微粉砕物についての「その処理物」とは、脱脂ごまの微粉砕物を物理的及び/又は化学的に処理したものを意味する。脱脂ごまの微粉砕物の処理物としては、例えば、脱脂ごまの微粉砕物に抽出処理を行って得られる抽出物、この抽出物の濃縮物や、残存微粉砕物の他、乾燥物、凍結物などが挙げられる。
【0022】
抽出処理に用いる抽出溶媒としては、例えば、エタノール、エタノール水溶液等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、トルエン等の炭化水素類などが挙げられる。抽出処理の温度の下限としては、0℃が好ましく、20℃がより好ましい。抽出処理の温度の上限としては、100℃が好ましく、70℃がより好ましい。抽出処理の時間の下限としては、10秒が好ましく、1分がより好ましい。抽出処理の時間の上限としては、5時間が好ましく、1時間がより好ましい。抽出処理における脱脂ごま微粉砕物に対する抽出溶媒の質量比(抽出溶媒/脱脂ごま微粉砕物)の下限としては、0.1が好ましく、1がより好ましい。質量比(抽出溶媒/脱脂ごま微粉砕物)の上限としては、100が好ましく、10がより好ましい。
本発明の開示は、これら下限値と上限値との任意の組み合わせを含む。
【0023】
抽出処理を行って得られる抽出物から濃縮物を得る方法としては、例えば、常圧濃縮、減圧濃縮等が挙げられる。
【0024】
(脱脂ごま)
脱脂ごまは、未粉砕のままでは、脂肪吸収抑制能は認められないが、微粉砕物とすることで、脂肪吸収抑制能が発揮されることを見出した。
【0025】
「脱脂ごま」とは、ごま原料を脱脂したものをいう。
ごま原料としては、例えば、黒ごま、白ごま、金ごま等が挙げられる。ごま原料として、焙煎されたものを用いてもよい。ごま原料を焙煎する方法は、公知の方法に従って行われてもよい。
【0026】
ごま原料を脱脂する方法としては、例えば、圧搾法、ヘキサン抽出法等の溶媒抽出法などが挙げられる。ごま原料を脱脂する方法は、公知の方法に従って行われてもよい。
【0027】
脱脂ごま(未粉砕物)としては、例えば、一般的に市場に流通している、油脂含有量が35質量%以下のものを用いることができる。脱脂ごま(未粉砕物)の市販品としては、例えば、ポーラーズ研究所社の「ごま油かす」等が挙げられる。
【0028】
脱脂ごま(未粉砕物)の油脂含有量の上限としては、35質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、25質量%がさらに好ましく、15質量%が特に好ましい。脱脂ごまの油脂含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましく、8質量%が特に好ましい。
【0029】
脱脂ごま(未粉砕物)の平均粒子径は、50%粒子径として、格別な制限はないが、通常、250μm~3mmであり、300μm~1mmが好ましく、400~800μmがより好ましい。
【0030】
脱脂ごまの微粉砕物を得る方法としては、脱脂ごま(未粉砕物)を、例えば、ボールミル、チューブミル、ジェットミル、ハンマーミル、粉砕ミル、ピンミル、空気掃引ミル、ディスクミル、振動ミル、石臼、遊星運動ミル等の粉砕機を用いて粉砕する方法などが挙げられる。
【0031】
脱脂ごまを微粉砕する際の温度の下限としては、-30℃が好ましく、0℃がより好ましい。脱脂ごまを微粉砕する際の温度の上限としては、100℃が好ましく、50℃がより好ましい。脱脂ごまの微粉砕の時間の下限としては、10秒が好ましく、1分がより好ましい。脱脂ごまの微粉砕の時間の上限としては、5時間が好ましく、1時間がより好ましい。
【0032】
本発明の他の一態様の脂肪吸収抑制剤は、レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が1~200μmである脱脂ごまを含有する。脱脂ごまの50%粒子径が上記上限を超えると、脂肪吸収抑制能が低下し、十分な脂肪吸収抑制能が発揮されない。脱脂ごまの50%粒子径が上記下限未満であると、流動性が著しく低下し、良好な操作性が保たれない。
【0033】
当該脂肪吸収抑制剤が含有する脱脂ごまの50%粒子径の下限としては、1μmが好ましく、10μmがより好ましく、20μmがさらに好ましく、40μmが特に好ましい。脱脂ごまの50%粒子径の上限としては、200μmが好ましく、180μmがより好ましく、160μmがさらに好ましく、140μmが特に好ましい。脱脂ごまの50%粒子径を上記範囲とすることで、脂肪吸収抑制能をより向上させることができる。
【0034】
本明細書において、「レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径」は、例えば、レーザ回折式粒子径分布測定装置(島津製作所社の「SALD-2200」、マルバーン社の「マスターサイザー3000」等)などを用い、測定装置の使用説明書に記載の測定手順に忠実に従って測定される。「50%粒子径」は「メディアン径(D50)」を意味する。
【0035】
本発明の他の一態様の脂肪吸収抑制剤は、圧縮度が30~80%である脱脂ごまを含有する。脱脂ごまの圧縮度が上記上限を超えると、流動性が著しく低下し、良好な操作性が保たれない。脱脂ごまの圧縮度が上記下限未満であると、脂肪吸収抑制能が低下し、十分な脂肪吸収抑制能が発揮されない。
【0036】
当該脂肪吸収抑制剤が含有する脱脂ごまの圧縮度の下限としては、30%が好ましく、35%がより好ましく、40%がさらに好ましく、45%が特に好ましい。脱脂ごまの圧縮度の上限としては、80%が好ましく、75%がより好ましく、70%がさらに好ましく、65%が特に好ましい。脱脂ごまの圧縮度を上記範囲とすることで、脂肪吸収抑制能をより向上させることができる。
【0037】
本明細書において、「圧縮度」は、例えば、多機能型粉体物性測定器(セイシン企業社の「マルチテスター MT-02」等)などを用い、「かため嵩密度」及び「ゆるめ嵩密度」を測定装置の使用説明書に記載の測定手順に忠実に従って測定し、これらの測定値から下記式により算出される。
圧縮度(%)=(かため嵩密度(g/mL)-ゆるめ嵩密度(g/mL))÷かため嵩密度(g/mL)×100
【0038】
脱脂ごまのかため嵩密度の下限としては、0.50g/mLが好ましく、0.55g/mLがより好ましい。脱脂ごまのかため嵩密度の上限としては、0.62g/mLが好ましく、0.60g/mLがより好ましい。
【0039】
脱脂ごまのゆるめ嵩密度の下限としては、0.20g/mLが好ましく、0.25g/mLがより好ましい。脱脂ごまのゆるめ嵩密度の上限としては、0.40g/mLが好ましく、0.35g/mLがより好ましい。
【0040】
脱脂ごまの動的嵩密度の下限としては、0.35g/mLが好ましく、0.40g/mLがより好ましい。脱脂ごまの動的嵩密度の上限としては、0.60g/mLが好ましく、0.55g/mLがより好ましい。
【0041】
脱脂ごまの安息角の下限としては、35°が好ましく、40°がより好ましい。脱脂ごまの安息角の上限としては、60°が好ましく、55°がより好ましい。
【0042】
脱脂ごまの崩壊角の下限としては、15°が好ましく、20°がより好ましい。脱脂ごまの崩壊角の上限としては、30°が好ましく、27°がより好ましい。
【0043】
脱脂ごまの差角(安息角-崩壊角)の下限としては、15°が好ましく、20°がより好ましい。脱脂ごまの差角の上限としては、30°が好ましく、25°がより好ましい。
【0044】
脱脂ごまのスパチュラ角の下限としては、55°が好ましく、60°がより好ましい。脱脂ごまのスパチュラ角の上限としては、75°が好ましく、70°がより好ましい。
【0045】
本発明の他の一態様の脂肪吸収抑制剤は、レーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が1~200μmであり、圧縮度が30~80%である脱脂ごまを含有する。
【0046】
当該脂肪吸収抑制剤に含有される脱脂ごまの50%粒子径及び圧縮度を上記範囲とすることで、脂肪吸収抑制能をより高いものとすることができる。
【0047】
(その他の任意の成分)
当該脂肪吸収抑制剤が含有していてもよいその他の任意の成分としては、例えば、糖質甘味料(果糖、ブトウ糖、タガトース、アラビノース等の単糖類、乳糖、オリゴ糖、トレハロース、麦芽糖等の少糖類、粉末水あめ、デキストリン、糖アルコールなど)、高甘味度甘味料(スクラロース、アセスルファムK、ステビアなど)、デンプン等の多糖類、バニリン等の嬌味剤、風味原料(卵、コーヒー、茶類、ココア、果汁果肉、ヨーグルト、酒類など)、アミノ酸、タンパク質、食物繊維、ビタミン、ミネラル、酸味料、香料、油脂、乳製品、賦形剤、保存剤、色素、酸味料、乳化剤、寒天などが挙げられる。
これらの成分は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
当該脂肪吸収抑制剤の形態としては、例えば、粉体状、顆粒状、ペースト状、懸濁液状など種々の形態が挙げられる。当該脂肪吸収抑制剤の製剤自体及びその製造方法は、従来充分に確立されているので、本発明においてもそれらに従ってよい。
【0049】
当該脂肪吸収抑制剤の摂取時期は、特に限定されないが、例えば、食事の前後、又は同時に摂取すること等が挙げられる。特に、食事と同時に摂取することが、効率的に脂肪吸収抑制効果が得られる点で好ましい。
【0050】
当該脂肪吸収抑制剤を食事の前後又は同時に摂取する場合、当該脂肪吸収抑制剤の1回の食事当たりの摂取用量の下限としては、脱脂ごま微粉砕物換算で、50mgが好ましく、100mgがより好ましい。当該脂肪吸収抑制剤の1回の食事当たりの摂取用量の上限としては、10gが好ましく、1gがより好ましい。
【0051】
当該脂肪吸収抑制剤は、各種食品の他、医薬品や一般工業品としても応用することができる。これらの中でも、食品に応用することができると、手軽に美味しく喫食でき、効率よく簡便に脂肪吸収抑制能を発揮させることができる点で好適である。
【0052】
<食品>
本発明の食品は、上述の当該脂肪吸収抑制剤を含有する。含有させる方法は、公知技術に従って行われてよい。
【0053】
当該食品としては、例えば、菓子類(チューインガム、キャンディ、タブレット、チョコレート、ゼリーなど)、冷菓、麺類等のデンプン系食品、ベーカリー食品(パン、ビスケットなど)、油脂食品(マーガリン、ショートニング、ファットスプレッドなど)、乳製品(バター、クリーム、チーズなど)、ドリンク類(ジュース、お茶、エナジードリンク)、調味料(醤油、砂糖、味噌、みりん、ドレッシング、タレなど)、サプリメント類(プロテイン、タブレット、粒、カプセル、錠剤、粉末、顆粒など)などが挙げられる。これらの中で、当該脂肪吸収抑制剤を、サプリメント、麺類、パン、揚げ物の衣などに含有させることは、好ましい実施態様である。
【0054】
当該食品における当該脂肪吸収抑制剤の含有量の下限としては、当該食品の種類や目的等に応じて異なるが、脱脂ごま微粉砕物換算で、0.0001質量%が好ましく、0.01質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましく、10質量%が特に好ましい。当該食品における当該脂肪吸収抑制剤の含有量の上限は、100質量%であってもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
[製造例1](脂肪吸収抑制剤(A)の製造)
脱脂ごま(三井物産社の「脱脂ごま粉末」)を、ハンマーミル(ホソカワミクロン社の「ACM30」)を用い、回転数3000r.p.m.にて粉砕を行い、脱脂ごまの微粉砕物を得た。得られた脱脂ごまの微粉砕物を、脂肪吸収抑制剤(A)とした。
【0057】
[試験例1:50%粒子径及び圧縮度の測定]
(50%粒子径の測定)
脱脂ごま(未粉砕物)の粒子径分布を、レーザ回折式粒子径分布測定装置(島津製作所社の「SALD-2200」)を用いて測定した。
脱脂ごま(未粉砕物)については粒子径分布を3点測定し、50%粒子径(D50、メディアン径)は、278μm、457μm、567μmであった。
脂肪吸収抑制剤(A)の粒子径分布を、レーザ回折式粒度分布測定装置(マルバーン社の「マスターサイザー3000」)を用いて測定した。
脂肪吸収抑制剤(A)については粒子径分布を3回測定し、50%粒子径(D50、メディアン径)は、32.7μm、30.7μm、32.0μmであった。
【0058】
(圧縮度の測定)
脱脂ごま(未粉砕物)及び脂肪吸収抑制剤(A)の圧縮度を、多機能型粉体物性測定器(セイシン企業社の「マルチテスター MT-02」)を用いて測定した。圧縮度は、かため嵩密度及びゆるめ嵩密度の測定値から、下記圧縮度計算式により算出した。
【0059】
<圧縮度計算式>
圧縮度(%)=(かため嵩密度(g/mL)-ゆるめ嵩密度(g/mL))÷かため嵩密度(g/mL)×100
【0060】
脱脂ごま(未粉砕物)及び脂肪吸収抑制剤(A)についての各測定値(ゆるめ嵩密度、かため嵩密度、動的嵩密度、安息角、崩壊角及びスパチュラ角)並びに圧縮度及び差角の算出値を下記表1に示す。
【0061】
【0062】
脱脂ごま(未粉砕物)については圧縮度を3点測定し、19.0%、20.7%、23.4%であった。
脂肪吸収抑制剤(A)については圧縮度を3点測定し、52.6%、53.8%、54.2%であった。
【0063】
[製造例2](脂肪吸収抑制剤(B)の製造)
上記製造例1で得られた脂肪吸収抑制剤(A)50gについて、50容量%エタノール水溶液500mLを用い、30℃で180分間抽出処理を行い、得られた抽出液を減圧濃縮することにより、脂肪吸収抑制剤(B)7.7gを調製した。
【0064】
[試験例2:脂肪吸収抑制試験(ヒト)]
脂肪吸収抑制剤(B)について、ヒトに対する脂肪吸収抑制試験を、下記方法により行った。
【0065】
22歳以上56歳未満の健常男女26名の被験者を、各13名のActive群と、Placebo群の2群に分けた。
Active群は、試験食品として下記表2に記載の試験食品1を摂取し、その直後に、下記表3に記載の高脂肪食(総脂質量として41.2g)を摂取した。
Placebo群は、試験食品として下記表2に記載の試験食品2を摂取した以外は、Active群と同様に行った。
高脂肪食の摂取の0時間後、2時間後、3時間後、4時間後及び6時間後に採血し、血中トリグリセリド量を測定した。各時刻の血中トリグリセリド量の測定値から、下記に示す血中トリグリセリド変化量計算式により、血中トリグリセリド変化量[mg/dL]を算出した。
<血中トリグリセリド変化量計算式>
血中トリグリセリド変化量=高脂肪食摂取後血中トリグリセリド量-高脂肪食摂取前血中トリグリセリド量
【0066】
脂肪吸収抑制試験(ヒト)に用いた各試験食品の組成を下記表2に示す。
【0067】
【0068】
脂肪吸収抑制試験(ヒト)に用いた高脂肪食の詳細を下記表3に示す。
【0069】
【0070】
試験例2の結果を
図1に示す。高脂肪食摂取の3時間後、6時間後の血中トリグリセリド変化量においてActive群がPlacebo群に対して有意に低値(3時間後:P(有意確率)=0.04、6時間後:P=0.01)を示した。このように、ヒトにおいて、脂肪吸収抑制剤(B)による食後の脂肪吸収抑制効果が確認された。
【0071】
[試験例3:脱脂ごま未粉砕物に関する脂肪吸収抑制試験(in vivo)]
脱脂ごま(未粉砕物)について、ラットに対する脂肪吸収抑制試験を、下記方法により行った。
【0072】
コーン油30mLをコール酸400mg、コレステロールオリエート10g及び純水30mLと混合し、10分間超音波処理し、エマルジョン化して、脂質負荷食用の乳化コーン油とした。
ラットの体重を測定し、125mg/kg(脱脂ごま(未粉砕物)の重量/ラット体重)を投与できるように投与用量を計算した。製造例1で用いた脱脂ごま未粉砕物を20%(v/v)エタノール溶液中で撹拌させ(50.9mg/mL)、試験液Aとした。
Wister Rat(雄性、6週齢)を脱脂ごま未粉砕群とコントロール群の2群(各群7匹)に分け、脱脂ごま未粉砕物群には、試験液A400μLを経口投与した(脱脂ごま(未粉砕物)投与用量:20.4mg(ヒト換算(60kgとして)で約1g))。コントロール群には20%(v/v)エタノール溶液400μLを経口投与した。いずれの群についても、経口投与から10分後、乳化コーン油1mLを経口投与した。脂質負荷食の投与から7.5時間後まで1.5時間毎に採血した。血液を30分静置した後、遠心分離(3000g×15分)を行った。血清を取り出し、血中トリグリセリド濃度[mg/mL]を測定した。血中トリグリセリド濃度の測定はラボアッセイTMトリグリセライド(富士フィルム和光純薬社製)の測定法に則って行った。
【0073】
[試験例4:脱脂ごま微粉砕物に関する脂肪吸収抑制試験(in vivo)]
脂肪吸収抑制剤(A)について、ラットに対する脂肪吸収抑制試験を、下記方法により行った。
【0074】
ラットの体重を測定し、125mg/kgを投与できるように投与用量を計算した。製造例1で得られた脂肪吸収抑制剤(A)を20%(v/v)エタノール溶液中で撹拌させ(45.0mg/mL)、試験液Bとした。
Wister Rat(雄性、6週齢)を脱脂ごま微粉砕群とコントロール群の2群(各群7匹)に分け、脂肪吸収抑制剤(A)を投与する脱脂ごま微粉砕物群には、試験液B400μLを経口投与した(投与用量:18.8mg(ヒト換算で約1g/日))。コントロール群には20%(v/v)エタノール溶液400μLを経口投与した。いずれの群についても、経口投与から10分後、乳化コーン油1mLを経口投与した。脂質負荷食の投与から7.5時間後まで1.5時間毎に採血した。血液を30分静置した後、遠心分離(3000g×15分)を行った。血清を取り出し、血中トリグリセリド濃度[mg/mL]を測定した。血中トリグリセリド濃度の測定はラボアッセイTMトリグリセライド(富士フィルム和光純薬社製)の測定法に則って行った。
【0075】
試験例3の結果を
図2に示す。試験例3において、コントロール群の被検体のうち1匹が試験続行不可能の状態になったため、コントロール群から除外した。脱脂ごま未粉砕物では、脂肪の吸収の抑制は認められなかった。
試験例4の結果を
図3に示す。脂肪吸収抑制剤(A)を投与した脱脂ごま微粉砕物群の血中トリグリセリド値は、脂質負荷食投与後、1.5時間後、7.5時間後にコントロール群よりも有意に低値(1.5時間後:P=0.03、7.5時間後:P=0.01)を示し、脂肪の吸収が抑制されたことが確認された。
試験例3及び試験例4の結果より、脱脂ごま(未粉砕物)を微粉砕することで脂質吸収抑制効果が発揮されることを確認した。
【0076】
[製造例3](脂肪吸収抑制剤(C)の製造)
上記製造例1で得られた脂肪吸収抑制剤(A)50gを、50容量%エタノール水溶液500mLを用いて、室温で180分間抽出処理を行い、得られた抽出液を減圧濃縮することにより、脂肪吸収抑制剤(C)9gを調製した。
【0077】
[試験例5:リパーゼ阻害試験(in vitro)]
脂肪吸収抑制剤(C)について、リパーゼ阻害活性を下記方法により評価した。
【0078】
(酵素液の調製)
ラット腸管アセトンパウダー0.5g(Sigma社製)に0.1Mクエン酸緩衝液(pH6.0)5mLを加え、氷中で1時間振とう後、4℃、10000rpmで45分遠心分離した。その後、上清をクエン酸緩衝液で100倍希釈し、酵素液を得た。
【0079】
(活性評価)
活性評価には、リパーゼキットS(ファーマバイオメディカル社製)を用いた。24well-プレートに、所定の各濃度の脂肪吸収抑制剤(C)の水溶液(サンプル)を100μL、発色液237μL、酵素液9μL、及びエステラーゼ阻害剤4μLを添加し、30℃、5分間インキュベートした。その後、基質液25μLを添加し、遮光下30℃で30分間反応を行った。その後、反応停止液700μLを加え、412nmの吸光度を測定した。
【0080】
(コントロール評価)
コントロールを同じサンプル配置で24well-プレートに作成した。所定の各濃度の脂肪吸収抑制剤(C)の水溶液100μL(サンプル)、発色液237μL、酵素液9μL、及びエステラーゼ阻害剤4μLを添加し、遮光下30℃で35分間インキュベートした。その後、反応停止液700μL、及び基質液25μLを加え、412nmの吸光度を測定した。
【0081】
(計算)
脂肪吸収抑制剤(C)の水溶液の代わりに溶媒のみをサンプルとして添加したものをブランクとした。ブランクについても活性評価とコントロール評価を行った。
以下の計算式によりサンプルのリパーゼ活性を算出した。
リパーゼ活性(%)=100×(活性評価ウェルの吸光度-活性評価ウェル(コントロール)の吸光度)/(ブランクの吸光度-ブランク(コントロール)の吸光度)
【0082】
試験例5の結果を
図4に示す。サンプル添加量は各ウェル中の脂肪吸収抑制剤(C)の終濃度を示す。脂肪吸収抑制剤(C)に、濃度依存的、かつ強力なリパーゼ阻害活性(50%リパーゼ活性阻害濃度:IC
50=140μg/mL)が観察された。
【0083】
[試験例6:長期摂取試験(in vivo)]
脂肪吸収抑制剤について長期摂取試験(in vivo)を下記方法により行った。
【0084】
C57BL/6マウス(雄性、5週齢)をコントロール群と脱脂ごま微粉砕物群の2群に分けた(各群10匹)。コントロール群には高脂肪食を、脱脂ごま微粉砕物群には高脂肪食に製造例1で得た脱脂ごま微粉砕物(脂肪吸収抑制剤(A))0.1質量%(ヒト換算で約0.5g/日)を混合したものを、それぞれ自由摂取にて投与し、1週間毎に、4週間後まで体重測定を行った。
【0085】
試験例6の結果を
図5に示す。脂肪吸収抑制剤(A)の長期摂取によれば、コントロール群に比べて、21日後(P=0.02)、28日後(P=0.02)の体重増加を有意に抑制することができることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、新規な脂肪吸収抑制剤を提供することができる。本発明の脂肪吸収抑制剤は、食品素材から得られるものであるので、安全性が高い。本発明の脂肪吸収抑制剤は、脂肪吸収抑制能及びリパーゼ阻害能に優れている。本発明の脂肪吸収抑制剤は、煩雑な製造工程を必要とせず、簡便に製造することができる。本発明の食品は、本発明の脂肪吸収抑制剤が含有されているので、脂肪吸収抑制能及びリパーゼ阻害能を有する。本発明の脱脂ごまは、本発明の脂肪吸収抑制剤の原料として好適に用いることができる。従って、本発明の剤、食品及び脱脂ごまをヒト又は動物に投与することにより、ヒト又は動物の肥満を抑制することができる。また、本発明は、肥満、血清高トリグリセリド血症などの脂肪の蓄積に由来する疾患、肥満に起因する糖尿病、高脂血症、高血圧症、動脈硬化等の疾患の治療又は予防用、さらにダイエット用の医薬品、食品、食品添加物、機能性食品などに好適に用いることができる。