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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】加硫方法及び加硫ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20250207BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20250207BHJP
   C08J 3/28 20060101ALI20250207BHJP
   H05B 6/64 20060101ALI20250207BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250207BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
C08J7/00 302
C08J3/24 Z CEQ
C08J3/28
H05B6/64
C08K3/04
C08L9/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021092509
(22)【出願日】2021-06-01
(65)【公開番号】P2021195543
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020102665
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】北條 将広
(72)【発明者】
【氏名】斉木 彩
(72)【発明者】
【氏名】堀越 智
(72)【発明者】
【氏名】奥村 恭輔
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-049245(JP,A)
【文献】特開平03-143936(JP,A)
【文献】特開平11-236403(JP,A)
【文献】特開平10-025429(JP,A)
【文献】特開平10-202670(JP,A)
【文献】特開平03-112612(JP,A)
【文献】特開2010-140034(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0090373(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102304241(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0120900(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C35/00-35/18
71/04
C08J3/00-3/28
7/00-7/02
7/12-7/18
99/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
H05B6/46
6/52-6/64
6/70-6/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム及びカーボンブラックを含有するゴム組成物を、マイクロ波を照射することにより加硫する、加硫方法であって、
使用するマイクロ波の周波数での30~200℃の温度範囲における該ゴム組成物の温度-誘電損失曲線において、誘電損失(ε″)の値が、下記式(1):
ε″(α)=ε″min+(ε″max-ε″min)×α ・・・(1)
(式中、ε″minは、誘電損失の最小値であり、ε″maxは、誘電損失の最大値であり、αは、0.01<α<0.30を満たす任意定数である)で算出されるε″(α)であるときの温度をT(α)[℃]とし、誘電損失(ε″)の値が、下記式(2):
ε″(β)=ε″min+(ε″max-ε″min)×β ・・・(2)
(式中、βは、0.70<β<0.99を満たす任意定数である)で算出されるε″(β)であるときの温度をT(β)[℃]としたときに、
T(α)~T(β)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]を、30~T(α)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながらマイクロ波を照射する、ことを特徴とする、加硫方法。
【請求項2】
T(α)~T(β)[℃]の温度範囲における平均昇温速度が、20℃/分以下である、請求項1に記載の加硫方法。
【請求項3】
ジエン系ゴム及びカーボンブラックを含有するゴム組成物を、マイクロ波を照射することにより加硫する、加硫方法であって、
使用するマイクロ波の周波数での30~200℃の温度範囲における該ゴム組成物の温度-誘電正接曲線において、誘電正接(tanδ)の値が、下記式(3):
tanδ(γ)=tanδmin+(tanδmax-tanδmin)×γ ・・・(3)
(式中、tanδminは、誘電正接の最小値であり、tanδmaxは、誘電正接の最大値であり、γは、0.01<γ<0.30を満たす任意定数である)で算出されるtanδ(γ)であるときの温度をT(γ)[℃]とし、誘電正接(tanδ)の値が、下記式(4):
tanδ(σ)=tanδmin+(tanδmax-tanδmin)×σ ・・・(4)
(式中、σは、0.70<σ<0.99を満たす任意定数である)で算出されるtanδ(σ)であるときの温度をT(σ)[℃]としたときに、
T(γ)~T(σ)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]を、30~T(γ)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながらマイクロ波を照射する、ことを特徴とする、加硫方法。
【請求項4】
T(γ)~T(σ)(℃)の温度範囲における平均昇温速度が、20℃/分以下である、請求項3に記載の加硫方法。
【請求項5】
前記ゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して10質量部以上である、請求項1~4のいずれかに記載の加硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫方法及び加硫ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ用のゴム製品の製造にあたり、マイクロ波のエネルギーを利用することは知られている。例えば、特許文献1には、空気入りタイヤの製造において必要となる熱エネルギーの少なくとも一部にマイクロ波エネルギーを用いることで、全加熱時間を短縮し得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-66924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
但し実際のところ、特許文献1においては、マイクロ波エネルギーによる加熱を加硫反応の開始前に終了している。この点に関し、従来、マイクロ波を照射して加硫反応を行った場合には、加硫反応のコントロールが極めて難しく、加硫が不均一となって局所的な焼き焦げが発生する等の問題があった。このような加硫不均一の問題などのため、現状、マイクロ波を用いたゴム加硫は完全な実用化に至っておらず、マイクロ波の利用は、せいぜい加硫前の予備加熱に留まっているという事情があった。
【0005】
そこで、本発明は、マイクロ波の照射によってゴム組成物を均一に加硫することが可能な、加硫方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記の加硫方法により加硫されてなる加硫ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的に対処するため鋭意検討を重ねた結果、まず、カーボンブラックを含有するゴム組成物をマイクロ波照射によって加熱(加硫)した際に、温度が高くなるほどマイクロ波が特異的に吸収され易くなる傾向があることを発見した。
【0007】
このような傾向のため、ゴム組成物の一部分においてある温度に到達すると、マイクロ波の吸収量がより増加し、加熱され易くなる結果、加硫の不均一性がますます拡大することとなり、これが上記従来の問題を引き起こしていたことが予想された。
【0008】
更に本発明者らが検討を進めたところ、驚くべきことに、カーボンブラックを含有するゴム組成物をマイクロ波照射によって加熱(加硫)する際、30℃を超える少なくとも一部の温度範囲内において、誘電損失(ε″)及び誘電正接(tanδ)が大幅に上昇するという知見を得た。この事象は、充填剤の中でもカーボンブラックに特有のものと考えられ、また、カーボンブラックの凝集が関与しているものと考えられる。
【0009】
そして、上述したような温度範囲において昇温速度を適切に制御しながらマイクロ波を照射することにより、均一加硫が図れることを見出し、本発明をするに至った。
【0010】
即ち、上記目的を達成するための本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0011】
本発明の加硫方法は、ジエン系ゴム及びカーボンブラックを含有するゴム組成物を、マイクロ波を照射することにより加硫する、加硫方法であって、
使用するマイクロ波の周波数での30~200℃の温度範囲における該ゴム組成物の温度-誘電損失曲線において、誘電損失(ε″)の値が、下記式(1):
ε″(α)=ε″min+(ε″max-ε″min)×α ・・・(1)
(式中、ε″minは、誘電損失の最小値であり、ε″maxは、誘電損失の最大値であり、αは、0.01<α<0.30を満たす任意定数である)で算出されるε″(α)であるときの温度をT(α)[℃]とし、誘電損失(ε″)の値が、下記式(2):
ε″(β)=ε″min+(ε″max-ε″min)×β ・・・(2)
(式中、βは、0.70<β<0.99を満たす任意定数である)で算出されるε″(β)であるときの温度をT(β)[℃]としたときに、
T(α)~T(β)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]を、30~T(α)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながらマイクロ波を照射する、ことを特徴とする。
かかる本発明の加硫方法によれば、マイクロ波の照射によってゴム組成物を均一に加硫することが可能である。
【0012】
上記本発明の加硫方法においては、T(α)~T(β)[℃]の温度範囲における平均昇温速度が、20℃/分以下であることが好ましい。この場合、ゴム組成物の加硫均一性をより高めることができる。
【0013】
別の本発明の加硫方法は、ジエン系ゴム及びカーボンブラックを含有するゴム組成物を、マイクロ波を照射することにより加硫する、加硫方法であって、
使用するマイクロ波の周波数での30~200℃の温度範囲における該ゴム組成物の温度-誘電正接曲線において、誘電正接(tanδ)の値が、下記式(3):
tanδ(γ)=tanδmin+(tanδmax-tanδmin)×γ ・・・(3)
(式中、tanδminは、誘電正接の最小値であり、tanδmaxは、誘電正接の最大値であり、γは、0.01<γ<0.30を満たす任意定数である)で算出されるtanδ(γ)であるときの温度をT(γ)[℃]とし、誘電正接(tanδ)の値が、下記式(4):
tanδ(σ)=tanδmin+(tanδmax-tanδmin)×σ ・・・(4)
(式中、σは、0.70<σ<0.99を満たす任意定数である)で算出されるtanδ(σ)であるときの温度をT(σ)[℃]としたときに、
T(γ)~T(σ)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]を、30~T(γ)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながらマイクロ波を照射する、ことを特徴とする。
かかる本発明の加硫方法によれば、マイクロ波の照射によってゴム組成物を均一に加硫することが可能である。
【0014】
上記別の本発明の加硫方法においては、T(γ)~T(σ)(℃)の温度範囲における平均昇温速度が、20℃/分以下であることが好ましい。この場合、ゴム組成物の加硫均一性をより高めることができる。
【0015】
上述した加硫方法においては、加硫均一化の効果をより確実に享受する観点から、前記ゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して10質量部以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の加硫ゴム組成物は、上述した加硫方法により加硫されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マイクロ波の照射によってゴム組成物を均一に加硫することが可能な、加硫方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記の加硫方法により加硫されてなる加硫ゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一例のゴム組成物についての温度-誘電損失(ε″)曲線を示す概要図である。
図2】一例のゴム組成物についての温度-誘電正接(tanδ)曲線を示す概要図である。
図3】実施例のゴム組成物についての、温度-誘電損失(ε″)の測定結果のプロット図である。
図4】実施例のゴム組成物についての、温度-誘電正接(tanδ)の測定結果のプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0020】
<第一実施形態の加硫方法>
本発明の第一実施形態の加硫方法は、ジエン系ゴム及びカーボンブラックを含有するゴム組成物を、マイクロ波を照射することにより加硫する、加硫方法であって、
使用するマイクロ波の周波数での30~200℃の温度範囲における該ゴム組成物の温度-誘電損失曲線において、誘電損失(ε″)の値が、下記式(1):
ε″(α)=ε″min+(ε″max-ε″min)×α ・・・(1)
(式中、ε″minは、誘電損失の最小値であり、ε″maxは、誘電損失の最大値であり、αは、0.01<α<0.30を満たす任意定数である)で算出されるε″(α)であるときの温度をT(α)[℃]とし、誘電損失(ε″)の値が、下記式(2):
ε″(β)=ε″min+(ε″max-ε″min)×β ・・・(2)
(式中、βは、0.70<β<0.99を満たす任意定数である)で算出されるε″(β)であるときの温度をT(β)[℃]としたときに、
T(α)~T(β)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]を、30~T(α)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながらマイクロ波を照射する、ことを特徴とする。
【0021】
本明細書において、「マイクロ波」とは、周波数300MHz~300GHzの電磁波を指すものとする。また、使用するマイクロ波の周波数は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
マイクロ波照射時に使用するマイクロ波発振装置としては、一般的な2.45GHzマグネトロン発振器、半導体発振器などを用いた固定周波数マイクロ波発生装置及び、半導体発振器を用いた周波数可変型マイクロ波発生装置(VFM)などが挙げられる。周波数可変型マイクロ波発生装置を使用すれば、ゴム-金属部品複合体への加硫も実現できる。
【0023】
より具体的に、本実施形態の加硫方法においては、まず、加硫対象のゴム組成物について、使用するマイクロ波の周波数での、30~200℃の温度範囲における温度-誘電損失曲線を得る。なお、各温度での誘電損失の測定は、例えば、ネットワークアナライザーを用いて行うことができる。また、曲線の作成に当たっては、疑似ゴム組成物として、加硫対象のゴム組成物と同一の組成を有する別のゴム組成物を用いることが好ましく、また、加硫対象のゴム組成物と同一の組成及び形状を有する別のゴム組成物を用いることがより好ましい。
【0024】
なお、通常、各温度でのゴム組成物の誘電損失の測定は、ゴム組成物を昇温させながら行う。そして、昇温挙動によってはカーボンブラックの凝集の度合い及び/又は加硫の度合い等が変化し得ることから、各温度でのゴム組成物の誘電損失の値は、一意的に求めることが極めて困難であるという事情がある。これを踏まえ、疑似ゴム組成物を用いた誘電損失の測定に当たっては、温度が長期停滞したり急激に上昇したりしないようにして、安定的な勾配で昇温させることが好ましい。
【0025】
参考までに、一例のゴム組成物についての温度-誘電損失曲線を、図1に示す。本実施形態の加硫方法では、図1に示すような温度-誘電損失曲線において、誘電損失の最小値(ε″min)及び最大値(ε″max)を求め、更に、誘電損失の値が「ε″min+(ε″max-ε″min)×α」、即ちε″(α)であるときの温度(T(α))、及び、誘電損失の値が「ε″min+(ε″max-ε″min)×β」、即ちε″(β)であるときの温度(T(β))をそれぞれ求める。ここで、αは、0.01超0.30未満の任意定数であり、βは、0.70超0.99未満の任意定数である。なお、T(α)は、30℃超で且つ誘電損失の値が最小であるときの温度よりも高い温度であり、T(β)は、200℃未満で且つ誘電損失の値が最大であるときの温度よりも低い温度である。
【0026】
そして、本実施形態の加硫方法では、実際にゴム組成物にマイクロ波を照射して加硫する際に、T(α)~T(β)の温度範囲(以下、「第2の温度範囲」と称することがある。)における平均昇温速度を、30℃~T(α)の温度範囲(以下、「第1の温度範囲」と称することがある。)における平均昇温速度の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながら、マイクロ波を照射する。このように、本実施形態の加硫方法は、あらかじめ加硫対象のゴム組成物の誘電特性を測定するとともに、その測定結果に基づき、ゴム組成物の温度を適切にモニタリングしながらマイクロ波を照射することを基とするものである。そして、本実施形態の加硫方法では、マイクロ波を照射するに当たり、所定の温度範囲におけるゴム組成物の平均昇温速度を相対的に小さくすることで、ゴム組成物を均一に加硫することができる。
【0027】
平均昇温速度は、起点温度から終点温度に達するまでの時間を用いて算出することができる。
【0028】
平均昇温速度のコントロールは、例えば、マイクロ波の照射量の微調整、マイクロ波照射のオン-オフ切り替えによる調整、などにより行うことができる。
【0029】
また、所定の温度範囲における平均昇温速度をコントロールするに当たっては、当該温度範囲について、起点温度から終点温度に達するまでの時間に着目して行うこともできるし、或いはより厳密に、当該温度範囲を分割し(例えば、10℃毎に分割し)、分割された各温度範囲について、起点温度から終点温度に達するまでの時間に着目して行うこともできる。
【0030】
なお、α及びβは、上述の通り任意定数であることから、所定範囲内からそれぞれの値を適宜選択することができる。但し、好適例においては、αの値として0.05<α<0.20の範囲内で選択し、また、βの値として0.80<β<0.95の範囲内で選択することができる。更に、その一例においては、αの値として0.10を選択し、また、βの値として0.90を選択することができる。
【0031】
本実施形態の加硫方法では、上述から明らかなように、第1の温度範囲(30℃~T(α))に対する第2の温度範囲(T(α)~T(β))の平均昇温速度の比を、0.2~0.8の範囲内にすることを要する。上記比が0.2未満であると、加硫に過度の時間を要し、生産効率が悪化する虞がある。また、上記比が0.8超であると、加硫均一性が悪化する虞がある。同様の観点から、上記比は、0.3以上が好ましく、また、0.7以下が好ましい。
【0032】
本実施形態の加硫方法において、第2の温度範囲(T(α)~T(β))における平均昇温速度は、20℃/分以下であることが好ましい。この場合、ゴム組成物の加硫均一性をより高めることができる。
【0033】
一方、T(β)以上の温度範囲(第3の温度範囲)における平均昇温速度は、特に限定されないが、例えば、第1の温度範囲における平均昇温速度と同程度とすることができる。
【0034】
本実施形態の加硫方法において、実際にゴム組成物を加硫する際の最高到達温度(いわゆる加硫温度)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、通常はT(β)以上とし、140℃以上とすることが好ましく、また、190℃以下とすることが好ましく、160℃以下とすることがより好ましい。
【0035】
<第二実施形態の加硫方法>
次に、本発明の第二実施形態の加硫方法は、ジエン系ゴム及びカーボンブラックを含有するゴム組成物を、マイクロ波を照射することにより加硫する、加硫方法であって、
使用するマイクロ波の周波数での30~200℃の温度範囲における該ゴム組成物の温度-誘電正接曲線において、誘電正接(tanδ)の値が、下記式(3):
tanδ(γ)=tanδmin+(tanδmax-tanδmin)×γ ・・・(3)
(式中、tanδminは、誘電正接の最小値であり、tanδmaxは、誘電正接の最大値であり、γは、0.01<γ<0.30を満たす任意定数である)で算出されるtanδ(γ)であるときの温度をT(γ)[℃]とし、誘電正接(tanδ)の値が、下記式(4):
tanδ(σ)=tanδmin+(tanδmax-tanδmin)×σ ・・・(4)
(式中、σは、0.70<σ<0.99を満たす任意定数である)で算出されるtanδ(σ)であるときの温度をT(σ)[℃]としたときに、
T(γ)~T(σ)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]を、30~T(γ)[℃]の温度範囲における平均昇温速度[℃/分]の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながらマイクロ波を照射する、ことを特徴とする。
【0036】
誘電正接(tanδ)は、ε″/ε’により算出される値である(ε″は誘電損失であり、ε’は誘電率である)。
【0037】
より具体的に、本実施形態の加硫方法においては、まず、加硫対象のゴム組成物について、使用するマイクロ波の周波数での、30~200℃の温度範囲における温度-誘電正接曲線を得る。なお、各温度での誘電正接の測定は、例えば、ネットワークアナライザーを用いて行うことができる。また、曲線の作成に当たっては、疑似ゴム組成物として、加硫対象のゴム組成物と同一の組成を有する別のゴム組成物を用いることが好ましく、また、加硫対象のゴム組成物と同一の組成及び形状を有する別のゴム組成物を用いることがより好ましい。
【0038】
なお、通常、各温度でのゴム組成物の誘電正接の測定は、ゴム組成物を昇温させながら行う。そして、昇温挙動によってはカーボンブラックの凝集の度合い及び/又は加硫の度合い等が変化し得ることから、各温度でのゴム組成物の誘電正接の値は、一意的に求めることが極めて困難であるという事情がある。これを踏まえ、疑似ゴム組成物を用いた誘電正接の測定に当たっては、温度が長期停滞したり急激に上昇したりしないようにして、安定的な勾配で昇温させることが好ましい。
【0039】
参考までに、一例のゴム組成物についての温度-誘電正接曲線を、図2に示す。本実施形態の加硫方法では、図2に示すような温度-誘電正接曲線において、誘電正接の最小値(tanδmin)及び最大値(tanδmax)を求め、更に、誘電正接の値が「tanδmin+(tanδmax-tanδmin)×γ」、即ちtanδ(γ)であるときの温度(T(γ))、及び、誘電正接の値が「tanδmin+(tanδmax-tanδmin)×σ」、即ちtanδ(σ)であるときの温度(T(σ))をそれぞれ求める。ここで、γは、0.01超0.30未満の任意定数であり、σは、0.70超0.99未満の任意定数である。また、T(γ)は、30℃超で且つ誘電損失の値が最小であるときの温度よりも高い温度であり、T(σ)は、200℃未満で且つ誘電損失の値が最大であるときの温度よりも低い温度である。
【0040】
そして、本実施形態の加硫方法では、実際にゴム組成物にマイクロ波を照射して加硫する際に、T(γ)~T(σ)の温度範囲(以下、「第2の温度範囲」と称することがある。)における平均昇温速度を、30℃~T(γ)の温度範囲(以下、「第1の温度範囲」と称することがある。)における平均昇温速度の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながら、マイクロ波を照射する。このように、本実施形態の加硫方法は、第一実施形態と同様、あらかじめ加硫対象のゴム組成物の誘電特性を測定するとともに、その測定結果に基づき、ゴム組成物の温度を適切にモニタリングしながらマイクロ波を照射することを基とするものである。そして、本実施形態の加硫方法では、第一実施形態と同様、マイクロ波を照射するに当たり、所定の温度範囲におけるゴム組成物の平均昇温速度を相対的に小さくすることで、ゴム組成物を均一に加硫することができる。
【0041】
なお、γ及びσは、上述の通り任意定数であることから、所定範囲内からそれぞれの値を適宜選択することができる。但し、好適例においては、γの値として0.05<γ<0.20の範囲内で選択し、また、σの値として0.80<σ<0.95の範囲内で選択することができる。更に、その一例においては、γの値として0.10を選択し、また、σの値として0.90を選択することができる。
【0042】
本実施形態の加硫方法では、上述から明らかなように、第1の温度範囲(30℃~T(γ))に対する第2の温度範囲(T(γ)~T(σ))の平均昇温速度の比を、0.2~0.8の範囲内にすることを要する。上記比が0.2未満であると、加硫に過度の時間を要し、生産効率が悪化する虞がある。また、上記比が0.8超であると、加硫均一性が悪化する虞がある。同様の観点から、上記比は、0.3以上が好ましく、また、0.7以下が好ましい。
【0043】
本実施形態の加硫方法において、第2の温度範囲(T(γ)~T(σ))における平均昇温速度は、20℃/分以下であることが好ましい。この場合、ゴム組成物の加硫均一性をより高めることができる。
【0044】
一方、T(σ)以上の温度範囲(第3の温度範囲)における平均昇温速度は、特に限定されないが、例えば、第1の温度範囲における平均昇温速度と同程度とすることができる。
【0045】
本実施形態の加硫方法において、実際にゴム組成物を加硫する際の最高到達温度(いわゆる加硫温度)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、通常はT(σ)以上とし、140℃以上とすることが好ましく、また、190℃以下とすることが好ましく、160℃以下とすることがより好ましい。
【0046】
(加硫対象のゴム組成物)
以下、上述した加硫方法に共通して、本発明で用いるゴム組成物(加硫対象のゴム組成物)について説明する。加硫対象のゴム組成物は、少なくともジエン系ゴム及びカーボンブラックを含有する。また、加硫対象のゴム組成物は、更に必要に応じて、加硫剤、その他の成分などを適宜含有することができる。
【0047】
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。これらジエン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、本発明の加硫方法による加硫均一化の効果をより確実に享受する観点から、ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びスチレン-ブタジエンゴムの少なくともいずれかを用いることが好ましい。
【0048】
カーボンブラックとしては、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFのグレードのカーボンブラックが挙げられる。これらカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、カーボンブラックとしては、HAF、ISAF又はSAFグレードのカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0049】
ゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、本発明の加硫方法による加硫均一化の効果をより確実に享受する観点から、ジエン系ゴム100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましい。また、ゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量は、本実施形態の加硫方法における平均昇温速度のコントロール性を保持する観点、及び、得られる加硫ゴム組成物の機械特性を保持する観点から、ジエン系ゴム100質量部に対して120質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましい。
【0050】
ゴム組成物は、加硫剤を含有することが好ましい。加硫剤としては、例えば、硫黄、モルホリンジスルフィド等の硫黄系加硫剤;ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン等の有機過酸化物;等が挙げられる。また、加硫剤としては、ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物、1,3-ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド等も挙げられる。これら加硫剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、本発明の加硫方法による加硫均一化の効果をより確実に享受する観点から、硫黄系加硫剤を用いることがより好ましい。
【0051】
ゴム組成物における加硫剤の含有量としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下とすることができる。
【0052】
その他の成分としては、カーボンブラック以外の充填剤(シリカなど)、ステアリン酸等の加硫助剤、加硫促進剤、亜鉛華等の加硫促進助剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、加工性改良剤などが挙げられ、これらを適量含有することができる。
【0053】
加硫対象のゴム組成物は、例えば、ロール、インターナルミキサー、バンバリーローター等の混練機を用い、常法に従って上述した各成分を配合して混練することにより得られたものとすることができる。
【0054】
加硫対象のゴム組成物の形状としては、特に限定されない。例えば、加硫対象のゴム組成物は、あらかじめ成形してなるプレ成形体とすることができ、特には、従来は不均一加熱が起こりやすかった複雑な形状のプレ成形体であっても、均一に加硫することができ、ひいては所望の加硫成形体を得ることができる。
【0055】
<加硫ゴム組成物>
本発明の一実施形態の加硫ゴム組成物は、上述した加硫方法により加硫されてなることを特徴とする。かかる加硫ゴム組成物は、上述した加硫方法により加硫されたことで、加硫均一化が図られており、高い強度を有することができる。
【実施例
【0056】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
<ゴム組成物の調製>
表1に示す配合処方で常法に従って混練して、ゴム組成物を調製した。
【0058】
【表1】
【0059】
*1 イソプレンゴム:JSR株式会社製、IR2200
*2 カーボンブラック:東海カーボン株式会社製、シースト7HM、ISAFグレード
*3 老化防止剤:大内新興化学工業株式会社製、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(6PPD)
*4 その他薬品:日本ゼオン社株式会社製、Quintone 1105
*5 加硫促進剤:大内新興化学工業株式会社製、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(ノクセラーCZ)
【0060】
<誘電損失(ε″)及び誘電正接(tanδ)の測定>
上記のゴム組成物について、ベクトルネットワーク(アジレント・テクノロジー株式会社製、「E5071C」)を用い、印加周波数2.45GHzでの30~160℃の温度範囲における誘電損失(ε″)及び誘電正接(tanδ)を同軸ケーブル法により測定した。測定は、ゴム組成物を昇温させながら行った。まずは、上記条件のもと複数回測定し、次に、測定結果に基づき、誘電損失(ε″)と温度、及び誘電正接(tanδ)と温度との相関に関するプロット図を作成した。なお、これら測定結果のプロット図を、図3及び図4にそれぞれ示す。また、上記プロット図に基づく、温度に対応する誘電損失(ε″)及び誘電正接(tanδ)を下記表2に示す。
なお、160~200℃の温度範囲については、誘電損失(ε″)及び誘電正接(tanδ)の値が最大値にはならないものと想定した。
【0061】
【表2】
【0062】
第一実施形態の加硫方法に従い、上記の測定結果から温度-誘電損失(ε″)曲線を作成したところ、ε″min(誘電損失の最小値)は、30℃のときの値であり、ε″max(誘電損失の最大値)は、160℃のときの値であった。
また、式(1)におけるαの値として0.01を選択した場合に、ε″(α)、即ちε″(0.01)は、2.00であり、T(α)、即ちT(0.01)は、40℃であった。同様に、式(1)におけるαの値として0.30を選択した場合に、ε″(α)、即ちε″(0.30)は、7.92であり、T(α)、即ちT(0.30)は、114℃であった。
また、式(2)におけるβの値として0.70を選択した場合に、ε″(β)、即ちε″(0.70)は、16.08であり、T(β)、即ちT(0.70)は、134℃であった。同様に、式(2)におけるβの値として0.99を選択した場合に、ε″(β)、即ちε″(0.99)は、22.00であり、T(β)、即ちT(0.99)は、158℃であった。
【0063】
従って、このゴム組成物にマイクロ波を照射して加硫を行う際には、40℃超又は114℃超、且つ、134℃未満又は158℃未満の温度範囲における平均昇温速度を、30℃以上、40℃以下又は114℃以下の温度範囲における平均昇温速度の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながらマイクロ波を照射することで、均一な加硫が可能となる。
【0064】
要するに、このゴム組成物にマイクロ波を照射して加硫を行う際には、T(α)として40℃~114℃の範囲内の任意の温度を選択するとともに、T(β)として134℃~158℃の範囲内の任意の温度を選択し、T(α)~T(β)の温度範囲における平均昇温速度を、30℃~T(α)の温度範囲における平均昇温速度の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながらマイクロ波を照射することで、均一な加硫が可能となる。
【0065】
同様に、第二実施形態の加硫方法に従い、上記の測定結果から温度-誘電正接(tanδ)曲線を作成したところ、tanδmin(誘電正接の最小値)は、30℃のときの値であり、tanδmax(誘電正接の最大値)は、160℃のときの値であった。
また、式(3)におけるγの値として0.01を選択した場合に、tanδ(γ)、即ちtanδ(0.01)は、0.159であり、T(γ)、即ちT(0.01)は、35℃であった。同様に、式(3)におけるγの値として0.30を選択した場合に、tanδ(γ)、即ちtanδ(0.30)は、0.528であり、T(γ)、即ちT(0.30)は、113℃であった。
また、式(4)におけるσの値として0.70を選択した場合に、tanδ(σ)、即ちtanδ(0.70)は、1.038であり、T(σ)、即ちT(0.70)は、135℃であった。同様に、式(4)におけるσの値として0.99を選択した場合に、tanδ(σ)、即ちtanδ(0.99)は、1.407であり、T(σ)、即ちT(0.99)は、158℃であった。
【0066】
従って、このゴム組成物にマイクロ波を照射して加硫を行う際には、35℃超又は113℃超、且つ、135℃未満又は158℃未満の温度範囲における平均昇温速度を、30℃以上、35℃以下又は113℃以下の温度範囲における平均昇温速度の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながらマイクロ波を照射することで、均一な加硫が可能となる。
【0067】
要するに、このゴム組成物にマイクロ波を照射して加硫を行う際には、T(γ)として35℃~113℃の範囲内の任意の温度を選択するとともに、T(σ)として135℃~158℃の範囲内の任意の温度を選択し、T(γ)~T(σ)の温度範囲における平均昇温速度を、30℃~T(γ)の温度範囲における平均昇温速度の0.2~0.8倍の範囲内にコントロールしながらマイクロ波を照射することで、均一な加硫が可能となる。
【0068】
<ゴム組成物の加硫>
上記のゴム組成物について、80mm×80mm×厚み2mmのサイズのシート状サンプルとし、室温で24時間真空乾燥させた。次いで、このシート状サンプルをテフロン(登録商標)モールドに挟み、圧力0.4MPaで加圧するとともに、表3に記載の昇温条件にて、マイクロ波の照射により加熱(加硫)した。
【0069】
加硫後のシート状サンプルについて、1cm間隔、計49点における硬度を高分子計器株式会社デジタルハードネステスターRH 101aを用いて測定した。そして、全測定点(49点)のうち、硬度60以上である測定点の割合を算出した。結果を「加硫均一性」として表3に示す。かかる割合が大きいほど、加硫均一性が高いことを示す。なお、「硬度60以上」は、シート状サンプルのトルエン浸漬試験において、硬度60以上であれば、架橋によりトルエンに溶出しなかったという結果に基づくものである。
【0070】
また、全測定点(49点)のうちの最大値と最小値の差を算出した。結果を「加硫バラつき」として表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3より、実施例においては、所定の昇温条件でコントロールしながらマイクロ波を照射したので、得られた加硫物の加硫均一性が高く、加硫バラつきも小さいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、マイクロ波の照射によってゴム組成物を均一に加硫することが可能な、加硫方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記の加硫方法により加硫されてなる加硫ゴム組成物を提供することができる。
図1
図2
図3
図4