(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】アミノ酸定量用試験紙、被検試料中のアミノ酸濃度の定量方法、およびアミノ酸定量用試験紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/52 20060101AFI20250207BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
G01N33/52 B
G01N33/68
(21)【出願番号】P 2023020146
(22)【出願日】2023-02-13
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2022041785
(32)【優先日】2022-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000223045
【氏名又は名称】東洋濾紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安澤 力
(72)【発明者】
【氏名】武内 義弥
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一敏
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6218894(JP,B2)
【文献】特開2008-199925(JP,A)
【文献】特開2001-061802(JP,A)
【文献】特開2009-236597(JP,A)
【文献】国際公開第2021/193598(WO,A1)
【文献】特開平10-084991(JP,A)
【文献】特開昭59-042896(JP,A)
【文献】特表2019-502655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中の
L-グルタミン酸濃度を比色法により定量するための試験紙であって、
液体浸透性の担体と、
前記液体浸透性の担体に含まれたL-グルタミン酸オキシダーゼ、
3,3’-ジアミノベンジジンおよび3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンから選択される発色試薬、および界面活性剤と
を備えることを特徴とする試験紙。
【請求項2】
前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である請求項1記載の試験紙。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートである請求項2記載の試験紙。
【請求項4】
前記L-グルタミン酸オキシダーゼは、以下(a)のL-グルタミン酸オキシダーゼ変異体および/または(b)のL-グルタミン酸オキシダーゼ変異体を含有する請求項1~3のいずれか1項記載の試験紙。
(a)配列番号3のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含み、かつ、L-グルタミン酸の酸化活性を有するL-グルタミン酸オキシ
ダーゼ変異体(ただし、配列番号1のアミノ酸配列を含むL-グルタミン酸オキシ
ダーゼを除く)
(b)前記(a)のL-グルタミン酸オキシ
ダーゼ変異体における(1)α1領域とα2領域の境界近傍領域中の部位、(2)α2領域とγ領域の境界領域近傍領域中の部位、および(3)γ領域とβ領域の境界近傍領域中の部位からなる群より選ばれる1つ以上の部位において、1~20個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーが挿入されており、かつ、L-グルタミン酸の酸化活性を有するL-グルタミン酸オキシ
ダーゼ変異体であって、
α1領域とα2領域の境界近傍領域中の部位が、配列番号3における349~363位のアミノ酸残基からなる領域中の部位であり、
α2領域とγ領域の境界近傍領域中の部位が、配列番号3における372~377位のアミノ酸残基からなる領域中の部位であり、かつ
γ領域とβ領域の境界近傍領域中の部位が、配列番号3における466~469位のアミノ酸残基からなる領域中の部位である、L-グルタミン酸オキシ
ダーゼ変異体。
【請求項5】
酸化的脱アミノ反応における妨害物質の影響を低減する妨害低減剤が、前記担体にさらに担持されている請求項1~3のいずれか1項記載の試験紙。
【請求項6】
酸化的脱アミノ反応における妨害物質の影響を低減する妨害低減剤が、前記担体にさらに担持されている請求項4記載の試験紙。
【請求項7】
前記妨害低減剤が、フリーラジカルを含む請求項5記載の試験紙。
【請求項8】
前記フリーラジカルが、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカルである請求項7記載の試験紙。
【請求項9】
被検試料中の
L-グルタミン酸濃度を定量する方法であって、請求項1記載の試験紙を前記被検試料に接触させ、比色法により定量する定量方法。
【請求項10】
前記
被検試料は
、生体由来試料または食飲料品である請求項9記載の定量方法。
【請求項11】
アスコルビン酸を含有する被検試料中のL-グルタミン酸濃度を定量する方法であって、請求項6記載の試験紙を前記被検試料に接触させ、比色法により定量する定量方法。
【請求項12】
請求項3記載の試験紙の製造方法であって、L-グルタミン酸オキシダーゼ、3,3’-ジアミノベンジジンおよび3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンから選択される発色試薬、およびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートを含有する染色液を、液体浸透性の担体に含浸させる工程を含む製造方法。
【請求項13】
前記
染色液における前記ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの濃度は、0.01%以上0.5%以下である請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
前記染色液における前記L-グルタミン酸オキシダーゼの濃度は、500~5000U/Lであることを特徴とする請求項12または13記載の製造方法。
【請求項15】
前記染色液
は、過酸化水素検出試薬、緩衝液、アンモニア検出試薬、および2-オキソグルタル酸検出試薬からなる群より選ばれる1つ以上をさらに含有することを特徴とする請求項
12または13記載の製造方法。
【請求項16】
請求項6記載の試験紙の製造方法であって、L-グルタミン酸オキシダーゼ、3,3’-ジアミノベンジジンおよび3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンから選択される発色試薬、およびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、および、酸化的脱アミノ反応における妨害物質の影響を低減する妨害低減剤を含有する染色液を、液体浸透性の担体に含浸させる工程を含む製造方法。
【請求項17】
前記
妨害低減剤は、
4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカルを含む請求項
16記載の製造方法。
【請求項18】
前記染色液における前記4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカルの濃度は、3~10g/Lであることを特徴とする請求項17記載の製造方法。
【請求項19】
前記
染色液における前記ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの濃度は、
0.01%以上0.5%以下である請求項
16記載の製造方法。
【請求項20】
前記染色液における前記
L-グルタミン酸オキシダーゼの濃度は、
500~5000U/Lであることを特徴とする請求項
16記載の製造方法。
【請求項21】
前記染色液
は、過酸化水素検出試薬、緩衝液、アンモニア検出試薬、および2-オキソグルタル酸検出試薬からなる群より選ばれる1つ以上をさらに含有することを特徴とする請求項
16記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸定量用試験紙、被検試料中のアミノ酸濃度の定量方法、およびアミノ酸定量用試験紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品中の旨味成分の一つであるグルタミン酸の測定は、大型かつ高価な専用装置が必要である。流れ分析系によって、食品試料中の旨味成分を測定する方法および測定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、グルタミン酸等のアミノ酸の定量には、高価なアミノ酸分析装置や液体の測定キットが用いられていた。また、測定には時間や技術が必要なこともあり、短時間で簡便にアミノ酸濃度を定量できる試験紙が求められていた。
そこで本発明は、被検試料中のアミノ酸濃度を短時間で簡便に定量できるアミノ酸定量用試験紙、被検試料中のアミノ酸濃度の定量方法、およびアミノ酸定量用試験紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、L-グルタミン酸オキシダーゼおよび発色試薬とともに、界面活性剤を液体浸透性の担体に担持させることによって、アミノ酸を簡便かつ安価に定量できる試験紙が得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、被検試料中のアミノ酸濃度を比色法により定量するための試験紙であって、液体浸透性の担体に、L-グルタミン酸オキシダーゼ、発色試薬、および界面活性剤が担持されていることを特徴とする試験紙である。
【0007】
また、本発明は、被検試料中のアミノ酸濃度を定量する方法であって、前述の試験紙を前記被検試料に接触させ、比色法により定量する定量方法である。
【0008】
さらに、本発明は、界面活性剤がポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートである前述の試験紙の製造方法であって、L-グルタミン酸オキシダーゼ、発色試薬、およびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートを含有する染色液を、液体浸透性の担体に含浸させる工程を含む製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被検試料中のアミノ酸濃度を短時間で簡便に定量できるアミノ酸定量用試験紙、被検試料中のアミノ酸濃度の定量方法、およびアミノ酸定量用試験紙の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の試験紙は、被検試料中のアミノ酸濃度を比色法により定量するために用いられる。被検試料としては、アミノ酸を含有すると疑われる試料である限り特に限定されず、例えば、生体由来試料(血液、尿、唾液、涙など)、および食飲料品(栄養ドリンク、アミノ酸飲料など)が挙げられる。被検試料中のL-グルタミン酸は、1mM未満の低濃度であっても、1mM以上の高濃度であってもよい。こうした被検試料中のアミノ酸としては、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、トリプトファン、およびリジン等が挙げられるが、本発明の試験紙は、特にグルタミン酸の定量に有効に用いられる。グルタミン酸としては、具体的には、L-グルタミン酸が挙げられる。
【0011】
本発明のアミノ酸定量用試験紙は、アミノ酸の酸化的脱アミノ反応を触媒するL-グルタミン酸オキシダーゼおよび発色試薬とともに、界面活性剤が、担液体浸透性の担体に持されている。液体浸透性の担体としては、セルロース、ガラス繊維等からなる濾紙や多孔質膜等を用いることができる。担体の形状や大きさは特に限定されず、任意の形状で任意の大きさとすることができ、例えば、5mm×5mm×1mmの小片状のセルロース繊維製濾紙が挙げられる。
【0012】
L-グルタミン酸オキシダーゼとしては、任意のものを用いることができる。特に、以下の(a)のL-グルタミン酸オキシダーゼ変異体、および(b)のL-グルタミン酸オキシダーゼ変異体が、本発明におけるL-グルタミン酸オキシダーゼとして好ましい。
(a)配列番号3のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を示すアミノ酸配列を含み、かつ、L-グルタミン酸の酸化活性を有するL-グルタミン酸オキシダーゼ変異体(ただし、配列番号1のアミノ酸配列を含むL-グルタミン酸オキシダーゼを除く)
(b)前記(a)のL-グルタミン酸オキシダーゼ変異体における(1)α1領域とα2領域の境界近傍領域中の部位、(2)α2領域とγ領域の境界領域近傍領域中の部位、および(3)γ領域とβ領域の境界近傍領域中の部位からなる群より選ばれる1つ以上の部位において、1~20個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーが挿入されており、かつ、L-グルタミン酸の酸化活性を有するL-グルタミン酸オキシダーゼ変異体であって、
α1領域とα2領域の境界近傍領域中の部位が、配列番号3における349~363位のアミノ酸残基からなる領域中の部位であり、
α2領域とγ領域の境界近傍領域中の部位が、配列番号3における372~377位のアミノ酸残基からなる領域中の部位であり、かつ
γ領域とβ領域の境界近傍領域中の部位が、配列番号3における466~469位のアミノ酸残基からなる領域中の部位である、L-グルタミン酸オキシダーゼ変異体。
上述の(a)のL-グルタミン酸オキシダーゼ変異体、および(b)のL-グルタミン酸オキシダーゼ変異体は、いずれか一方を用いてもよいが、両方を用いた場合には、より優れた効果が発揮される。
【0013】
上述のL-グルタミン酸オキシダーゼ変異体は、国際公開第2021/193598号にしたがって調製し、確認することができる。
【0014】
発色試薬としては、4-アミノアンチピリンとトリンダー試薬の組み合せ、ベンジジン、o-トリジン、o-ジアニシジン、3,3’-ジアミノベンジジン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)等が挙げられ、特に3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)が好ましい。
【0015】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および両性界面活性剤から選択されるイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられるが、非イオン性界面活性剤が好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween20)等が挙げられ、特にポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween20)が好ましい。界面活性剤は、グルタミン酸の酸化的脱アミノ反応を促進する反応促進剤として作用する。
【0016】
本発明の試験紙は、L-グルタミン酸オキシダーゼ、発色試薬、および界面活性剤を含有する染色液を担体に含浸させ、乾燥させることにより製造することができる。染色液の溶媒としては、アルコールとケトンとの混合液が挙げられる。アルコールとケトンとの体積比(アルコール:ケトン)は、10:90~90:10が好ましく、40:60~60:40がより好ましい。アルコールは、メタノール、エタノール、およびイソプロピルアルコール等から選択することができ、ケトンは、アセトン、メチルエチルケトン、およびシクロヘキサノ等から選択することができる。
【0017】
染色液中におけるL-グルタミン酸オキシダーゼの濃度は、500~5000U/L程度が好ましく、1000~2000U/L程度がより好ましい。染色液中における発色試薬の濃度は、1~10mM程度が好ましく、3~5mM程度がより好ましい。染色液中における界面活性剤の濃度は、0.01~0.5%程度が好ましく、0.01~0.1%程度がより好ましい。
【0018】
上述した成分に加えて、染色液中には、過酸化水素検出試薬、および緩衝液等を配合することができる。過酸化水素検出試薬は、過酸化水素の検出を例えば発色や蛍光などによって行う場合に用いる。例えば、ペルオキシダーゼおよび/またはその基質となり得る発色剤との組み合わせが挙げられる。具体的には、西洋わさびペルオキシダーゼと4-アミノアンチピリンおよびトリンダー試薬であるTOOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン)の組み合わせなどが挙げられるが、この組み合わせに限定されない。染色液中における4-アミノアンチピリン濃度は、0.1~10mM程度が好ましく、0.5~3mM程度がより好ましい。染色液中におけるトリンダー試薬濃度は、0.1~10mM程度が好ましく、2~5mM程度がより好ましい。
【0019】
緩衝液は、反応液中のpHを目的の酵素反応に適した値に維持するために用いられる。緩衝液としては、例えばTES(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸)、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸、リン酸等が挙げられ、特に0.05~0.5MのHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)が好ましい。例えば、0.2MのHEPESは、pH7.0の緩衝液である。この場合、染色液中における濃度が40~60%程度となるように、緩衝液を配合することが好ましい。
【0020】
さらに、染色液中には、アンモニア検出試薬、および2-オキソグルタル酸検出試薬からなる群より選ばれる1種以上が含有されていてもよい。アンモニア検出試薬としては、例えばフェノールと次亜塩素酸を組み合わせたインドフェノール法などが挙げられる。2-オキソグルタル酸検出試薬としては、例えば、2-オキソ酸還元酵素などが挙げられる。
【0021】
本発明における染色液は、例えば、1000~2000U/LのL-グルタミン酸オキシダーゼ、20000~40000U/Lのペルオキシダーゼ、0.07~1.2gの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、および40~60mLの0.2M HEPES(pH7.0)を、20~30mLのメタノールおよび20~30mLのアセトンの混合液からなる溶媒に加え、均一に混合して得ることができる。
【0022】
またさらに、染色液中には、酸化的脱アミノ反応における妨害物質の影響を低減する妨害低減剤が含有されていてもよい。酸化的脱アミノ反応における妨害物質としては、還元性物質および酸化性物質が挙げられる。トマト等の青果物には、還元性物質の一種であるアスコルビン酸が含有されている。また、食肉加工品や果実加工品などの加工食品には、発色促進や退色防止などを目的として、微量のアスコルビン酸が添加されている。このため、アスコルビン酸の影響により発色試薬の呈色反応が妨害されてしまう。したがって、青果物や加工食品中のアミノ酸濃度、特にグルタミン酸濃度は、グルタミン酸オキシダーゼを担持させた試験紙を用いて測定することが困難であった。
【0023】
アスコルビン酸の影響を低減してアミノ酸濃度を定量する方法としては、アスコルビン酸オキシダーゼを添加する方法が知られている。しかしながら、アスコルビン酸オキシダーゼは高価であるのに加え、前処理を要する煩雑な操作となることから実用的ではない。酸化的脱アミノ反応における妨害物質の影響を低減する妨害低減剤を用いることにより、こうした不都合を回避しつつアスコルビン酸の影響を低減して、被検試料中のアミノ酸濃度を定量可能な試験紙が得られる。
【0024】
酸化的脱アミノ反応における妨害物質の影響を低減する妨害低減剤としては、例えば、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル、4-カルボキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル、3-カルボキシ-2,2,5,5-テトラメチル-1-ピロリジニルオキシフリーラジカル、3-シアノ-2,2,5,5-テトラメチル-1-ピロリジニルオキシフリーラジカル、4-(4-ニトロベンゾイロキシ)-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル、3-アミノメチル-2,2,5,5-テトラメチル-1-ピロリジニルオキシフリーラジカル、2-ブチル-4,4-ジメチル-2-ペンチル-3-オキサゾリジニルオキシフリーラジカル、2-(4-メトキシ-4-オキソブチル)-4,4-ジメチル-2-トリデシル-3-オキサゾリジニルオキシフリーラジカル、テトラメチレンスルフォキシド、3,4-ジブロモテトラヒドロチオペン-1,1-ジオキサイド、5,5-ジメチル-1-ピロリン-N-オキサイド、およびピリジンサルファトリオキサイド等が挙げられる。
【0025】
これらの化合物は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。アスコルビン酸による妨害反応を低減させる効果が十分に得られることから、フリーラジカル、中でも4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカルが、妨害低減剤として特に好ましい。
【0026】
妨害低減剤は、本発明のアミノ酸定量用試験紙中に680~2270g/m3程度の量で担持されていれば、アスコルビン酸の影響を低減するという効果を発揮する。したがって、試験紙において所定の含有量となるように、染色液中の妨害低減剤の濃度を適宜設定すればよい。例えば、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカルの濃度が3~10g/L程度の染色液を用いた場合には、680~2270g/m3程度の4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカルが担持された試験紙を得ることができる。
680~2270g/m3程度の妨害低減剤が担持された試験紙を用いることにより、0.001~0.1mM程度のアスコルビン酸が共存する被検試料についても、アスコルビン酸の妨害なしにアミノ酸濃度を測定することができる。
【0027】
本発明の試験紙の作製にあたっては、染色液をガラス製ビーカーやステンレス製タンク等に収容し、その中に紙等の担体に0.01~1分程度浸漬して、染色液を担体に含浸させる。その後、送風乾燥器やドラム乾燥器等を用いて35~55℃で5~25分乾燥させることによって、所定の成分が担持された本発明の試験紙が作製される。
【0028】
本発明の試験紙を用いた被検試料中のアミノ酸濃度の定量は、以下の手順で行うことができる。まず、被検試料中に本発明の試験紙を1~30秒程度浸漬し、取り出す。被検試料の温度は特に限定されず、20~30℃程度とすることができる。被検試料への浸漬時間は、1~10秒程度が好ましく、1~2秒程度がより好ましい。余分な被検試料を振り落とし、10~600秒後、好ましくは60~180秒後、目視により色調表と比較する。色調表は、アミノ酸濃度が既知の溶液を用いて、予め作製しておく。具体的には、L-グルタミン酸、L-グルタミン酸ナトリウム、それらの水和物により、色調表を作製することができる。
【0029】
なお、被検試料の例としては、生体由来試料、食飲料品、調味料、培地、排水、河川水、地下水、海水、土壌、および肥料等が挙げられる。代表的な食品として、トマトには、9~14mg/100g程度のアスコルビン酸が含有されており、ジャガイモには13~34mg/100g程度のアスコルビン酸が含有されている。また、発色促進や退色防止などを目的としてアスコルビン酸を添加している例としては、下記表1に掲げる食飲料品等が挙げられる。
【0030】
【表1】
※ 上記表のデータは、「L-アスコルビン酸カルシウムの食品添加物の指定に関する添加物部会報告書」(厚生労働省)から転記したものである。
【0031】
本発明の試験紙には、L-グルタミン酸オキシダーゼおよび発色試薬とともに、界面活性剤が担持されているので、被検試料に浸漬後、120秒で強い呈色を確認することができる。また、被検試料中のL-グルタミン酸が低濃度、例えば0.05mMの場合でも、120秒で所定の呈色を示す。
このように、本発明の試験紙を用いることにより、短時間で簡便に、グルタミン酸等のアミノ酸の濃度を定量することが可能となった。
【0032】
L-グルタミン酸オキシダーゼ、発色色素および界面活性剤に加えて、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカル等の妨害低減剤が担持された試験紙の場合には、アスコルビン酸などの妨害物質の影響なしにグルタミン酸濃度を定量することができる。こうした試験紙は、青果物や加工食品中のグルタミン酸の定量に有効である。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、含有量、配合比等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0034】
<実施例1>
以下の処方により、染色液を調製した。
L-グルタミン酸オキシダーゼ 160U
ペルオキシダーゼ(東洋紡PEO-301) 3000U
3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)
0.1g(4.16mM)
0.2M HEPES(pH7.0) 50mL
メタノール 25mL
アセトン 25mL
Tween20 0.05g(0.05%)
【0035】
ここで用いたL-グルタミン酸オキシダーゼは、国際公開第2021/193598号の実施例1にしたがって調製したGluOX変異体である。
【0036】
担体としては、東洋濾紙製定性濾紙No.2(300mm×300mm)を用意した。染色液を金属製バットに収容し、ここに担体を5秒間浸漬して、担体に染色液を含浸させた。次いで、染色液が含浸した担体を取り出し、東洋製作所製送風乾燥機を用いて45℃で15分間乾燥させることで溶媒を除去した。
こうして、担体としての定性濾紙に、L-グルタミン酸オキシダーゼ、発色試薬(TMBZ)、および非イオン性界面活性剤(Tween20)が担持された実施例1の試験紙を得た。
【0037】
実施例1の試験紙を用いて、被検試料中のL-グルタミン酸の濃度を定量した。被検試料としては、L-グルタミン酸の濃度が異なる5種類の液体を用意した。L-グルタミン酸の濃度は、0mM,0.05mM,0.1mM,0.5mM,1mMとした。
定量にあたっては、各被検試料に試験紙の一端を2秒浸漬し、取り出した。余分な被検試料を振り落とし、120秒後の呈色を目視により色調表と比較した。
【0038】
L-グルタミン酸濃度が0.05~1mMのいずれの被検試料の場合も、120秒後の試験紙の色調は色調表と同程度であった。呈色は、室温で5か月保存後にも維持されており、安定性に優れることが確認された。
【0039】
非イオン性界面活性剤の濃度を0.5%に変更した以外は上述と同様の染色液を用いて作製された試験紙の場合には、L-グルタミン酸濃度が0~1mMの場合、180秒で呈色が確認された。
このように実施例1の試験紙は、反応が非常に早く、L-グルタミン酸濃度0.05~5mMにおいて、30~120秒で呈色することが確認された。
【0040】
<比較例>
前述と同様の成分を用い、以下の処方により一次染色液および二次染色液を調製した。こうして得られた一次染色液および二次染色液を用いて、比較例の試験紙を作製した。
<一次染色液>
グルタミン酸オキシダーゼ 160U
ペルオキシダーゼ(東洋紡PEO-301) 3000U
0.1M HEPES(pH7.0) 100mL
<二次染色液>
3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)
0.1g(4.16mM)
メタノール 50mL
アセトン 50mL
【0041】
前述と同様の担体に、一次染色液を含浸させ、送風乾燥機中、45℃で30分間乾燥させた。一次染色液が含浸した担体に、さらに二次染色液を含浸させ、送風乾燥機中、35℃で6分間乾燥させて、比較例の試験紙を得た。比較例の試験紙には、非イオン性界面活性剤は担持されていない。
【0042】
比較例の試験紙を用いて、被検試料中のL-グルタミン酸の濃度を定量した。被検試料としては、L-グルタミン酸の濃度が異なる5種類の液体を用意した。L-グルタミン酸の濃度は、0mM,0.05mM,0.1mM,0.5mM,1mMとし、前述と同様の手法により呈色を観察した。
その結果、比較例の試験紙の場合には、呈色するまでの時間が長く、120秒後でも非常に呈色が弱いものであった。
【0043】
上述の実施例1および比較例の試験紙における呈色について以下の基準で評価し、下記表にまとめる。
〇:色調表通りに呈色する。
△:呈色するが色調表と異なる。
×:ほとんど呈色しない。
【0044】
【0045】
本発明の試験紙を用いることによって、被検試料中のL-グルタミン酸の濃度を短時間で簡便に定量することが可能となった。
【0046】
<実施例2>
妨害低減剤としての4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカルを0.45g追加する以外は実施例1と同様の処方で、実施例2の染色液を調製した。得られた染色液を用い、実施例1と同様の手法により実施例2の試験紙を作製した。実施例2の試験紙には、1021g/m3程度の4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルフリーラジカルが担持されている。
【0047】
実施例2の試験紙を用いて、アスコルビン酸を含有する被検試料中のL-グルタミン酸の濃度を定量した。アスコルビン酸の濃度は、0.02mM、0.04mM、0.06mM、0.08mM、0.1mMの5種類とし、L-グルタミン酸の濃度は0mM、0.05mM、0.1mM、0.5mM、1mMの5種類とした。
定量にあたっては、各被検試料に試験紙の一端を2秒浸漬し、取り出した。余分な被検試料を振り落とし、120秒後の呈色を目視により色調表と比較した。
【0048】
実施例2の試験紙における呈色について、上述と同様の基準で評価し、下記表にまとめる。
【0049】
【0050】
アスコルビン酸の濃度が0.02~0.1mMのいずれの被検試料の場合も、120秒後の試験紙の色調は色調表と同程度であった。アスコルビン酸共存下でも、呈色反応が妨害されないことが確認された。
【0051】
参考のため、実施例1と同様にして得られた試験紙を用い、実施例2と同様の方法でアスコルビン酸を含有する被検試料中のL-グルタミン酸濃度を定量した。試験紙の呈色を上述と同様の基準で評価し、下記表にまとめる。
【0052】
【0053】
妨害低減剤が含有されない試験紙の場合には、アスコルビン酸の共存により呈色が妨害される場合がある。
妨害低減剤を含有する試験紙は、アスコルビン酸を含有する青果物や加工食品中のグルタミン酸測定に有効に使用されることが期待される。