(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】保持用部材及びこれを用いたスナップファスナー
(51)【国際特許分類】
A44B 17/00 20060101AFI20250207BHJP
F16B 19/00 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
A44B17/00
F16B19/00 C
(21)【出願番号】P 2021124109
(22)【出願日】2021-07-29
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】521334790
【氏名又は名称】アイティーボタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】武田 一寿
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-145404(JP,A)
【文献】特開2011-093409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 17/00
F16B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性嵌合するスナップボタンを構成する雌型又は雄型の嵌合部材を衣服等の生地の所定位置に保持するための保持用部材であって、
前記嵌合部材に形成された貫通孔に挿入不可能な形状ないし大きさを有する本体と、
前記本体から突出し、前記貫通孔に対して該貫通孔の一端側から挿入されて他端側からその一部が露出する挿通が可能
であり、この挿入の際に縮径する略円柱状の軸体とを有し、
前記軸体の先側領域は略筒状を呈し、該先側領域の先端部分を周方向に三つ割にしてあ
り、先側領域における前記先端部分を除いた部分は周方向に連続する筒状を呈するとともに、前記軸体の外周面には、前記貫通孔の他端側の開口縁に係止可能な係止突起を設けてある保持用部材。
【請求項2】
前記係止突起は、前記軸体の外周面において周方向に延びる突条であり、前記軸体の軸方向に間隔をあけて複数設けられている請求項1に記載の保持用部材。
【請求項3】
スナップファスナーを構成する雌型又は雄型のスナップボタンが、請求項1または2に記載の保持用部材と、該保持用部材によって衣服等の生地の所定位置に保持される雌型又は雄型の嵌合部材とを具備したスナップファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、弾性嵌合する雌雄のスナップボタンによって構成されるスナップファスナー(衣類用点ファスナー)を、専用の工具を用いることなく衣服等の生地に取付可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
専用の工具を用いることなく衣服等の生地に取付可能なスナップファスナーは公知であり(例えば特許文献1)、
図7(A)に示す保持用部材51、
図7(C)に示す雌型の嵌合部材60及び
図7(D)に示す雄型の嵌合部材70は、斯かるスナップファスナーを構成するものである。すなわち、
図7(C)に示す雌型の嵌合部材60の凹部61と、
図7(D)に示す雄型の嵌合部材70の凸部71とは相互に弾性嵌合可能であり、保持用部材51は、雌雄の嵌合部材60、70をそれぞれ生地Cの所定位置に保持可能とし、この保持を行わせるために打ち具等の専用の工具は不要である。なお、一組のスナップファスナーには、二つの保持用部材51と、各一つの嵌合部材60、70とを要する。
【0003】
詳述すると、保持用部材51は、
図7(A)に示すように、円盤状の本体52と、本体52の中心から突出する軸体53とを有し、軸体53の先端部外周の180度離れた2箇所には外側方へ突出する膨径部54が形成され、二つの膨径部54の間には、軸体53の先端面からスリット55が切り込まれている。
【0004】
一方、雌型の嵌合部材60は、
図7(C)に示すように、凹部61の底に貫通孔62を有し、
図7(D)に示す雄型の嵌合部材70の略円筒状の凸部71の底にも、これと同様の貫通孔(図示していない)が設けられている。
【0005】
そして、保持用部材51によって雌型の嵌合部材60を保持するには、保持用部材51の軸体53を、衣服等の生地Cに設けた穴H(
図7(A)参照)に通し、
図7(B)に示すように、生地Cの下面側に本体52を位置させつつ、軸体53を生地Cの上面側に突出させた状態とした後、
図7(C)に示すように、雌型の嵌合部材60を生地Cの上面側から保持用部材51の軸体53に接近させ、嵌合部材60の貫通孔62にその下方から軸体53を真っすぐ挿入するだけでよい。この挿入を行うと、軸体53の先端部の二つの膨径部54はスリット55により縮径してから復径することにより、各膨径部54は貫通孔62を通り抜けてから貫通孔62の開口縁に係止し、嵌合部材60は保持用部材51によって生地Cの所定位置(穴Hの位置)に保持された状態となる。なお、保持用部材51による雄型の嵌合部材70の保持も同様に行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のスナップファスナーでは、スリット55による膨径部54の縮径が可能である構造上、貫通孔62を通り抜けた後に復径した膨径部54が貫通孔62の開口縁にしっかりと係止し、軸体53が貫通孔62から抜けないようにするためには、膨径部54を軸体53の径方向にも軸方向にもある程度大きくする必要がある。しかし、膨径部54を大きくすると、この膨径部54を受け入れる雌雄の嵌合部材60、70の凹部61、凸部71も大きくしなければならず、雌雄の嵌合部材60、70の大型化は、これらを設けた衣服等の端部を閉じたときにその箇所で隙間が大きくなるという問題を生じる。
【0008】
また、上記従来のスナップファスナーでは、スリット55が深く入っているため、膨径部54を含む軸体53の強度が低下する恐れがあり、スリット55を浅くすると膨径部54を貫通孔62に通すのにかなりの力を要することになる。
【0009】
さらに、上記従来のスナップファスナーでは、保持用部材51によって雌型の嵌合部材60を保持させるために、雌型の嵌合部材60の貫通孔62に対してその下方から保持用部材51の軸体53をまっすぐ挿入する必要があるが、軸体53の先端側はスリット55によって二つ割になっているため、挿入の際の軸体53の軸回りの向きによってはこの軸体53に対する雌型の嵌合部材60が傾きやすく、挿入作業に手間取るという問題もある。
【0010】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、雌雄の嵌合部材の小型化、保持用部材の強度向上及び生地へのスナップファスナーの取付作業性の向上を図ることができる保持用部材及びこれを用いたスナップファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る保持用部材は、弾性嵌合するスナップボタンを構成する雌型又は雄型の嵌合部材を衣服等の生地の所定位置に保持するための保持用部材であって、前記嵌合部材に形成された貫通孔に挿入不可能な形状ないし大きさを有する本体と、前記本体から突出し、前記貫通孔に対して該貫通孔の一端側から挿入されて他端側からその一部が露出する挿通が可能であり、この挿入の際に縮径する略円柱状の軸体とを有し、前記軸体の先側領域は略筒状を呈し、該先側領域の先端部分を周方向に三つ割にしてあり、先側領域における前記先端部分を除いた部分は周方向に連続する筒状を呈するとともに、前記軸体の外周面には、前記貫通孔の他端側の開口縁に係止可能な係止突起を設けてある(請求項1)。
【0012】
上記保持用部材において、前記係止突起は、前記軸体の外周面において周方向に延びる突条であり、前記軸体の軸方向に間隔をあけて複数設けられていてもよい(請求項2)。
【0013】
一方、上記目的を達成するために、本発明に係るスナップファスナーは、スナップファスナーを構成する雌型又は雄型のスナップボタンが、請求項1または2に記載の保持用部材と、該保持用部材によって衣服等の生地の所定位置に保持される雌型又は雄型の嵌合部材とを具備した(請求項3)。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、雌雄の嵌合部材の小型化、保持用部材の強度向上及び生地へのスナップファスナーの取付作業性の向上を図ることができる保持用部材及びこれを用いたスナップファスナーが得られる。
【0015】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の保持用部材では、軸体の先側領域にスリットを設けず先側領域を略筒状としたことにより、嵌合部材の貫通孔に軸体を挿入する際の軸体の変形性(縮径度合い)を小さく抑えることができ、これに伴い、貫通孔の開口縁に係止させる係止突起も小さくて済み、また、スリットを設けず略筒状とする先側領域自体も、その構造上(強度的に問題無く)、小型化可能であるので、軸体の先側領域や係止突起を受け入れる嵌合部材の小型化を図ることができる。
【0016】
また、本発明の保持用部材では、軸体の先側領域にスリットを設けず略筒状としたことにより、その強度向上を図ることもできる。
【0017】
さらに、本発明の保持用部材では、軸体の先側領域の先端部分を周方向に三つ割にしてあることにより、挿入の際の軸体の軸回りの向きによらずこの軸体に対する嵌合部材が傾き難く、挿入作業の容易化を図ることができる。また、軸体の先側領域の先端部分を周方向に四つ割以上にすると強度が低下し易いが、三つ割としたことにより強度低下防止をも図ることができる。
【0018】
請求項2に係る発明の保持用部材では、軸体の軸方向に間隔をあけて複数の係止突起を設けたことにより、スナップファスナーの取付対象とする生地の厚みのばらつきに対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(A)及び(B)は、本発明の一実施の形態に係るスナップファスナーを構成する保持用部材の斜視図及び平面図である。
【
図2】(A)は前記保持用部材の正面図、(B)は(A)のA-A線断面図である。
【
図3】(A)~(C)は、前記スナップファスナーを構成する雌型の嵌合部材の上面側からみた斜視図、下面側からみた斜視図及び平面図、(D)は(C)のA-A線断面図である。
【
図4】(A)~(C)は、前記スナップファスナーを構成する雄型の嵌合部材の上面側からみた斜視図、下面側からみた斜視図及び平面図、(D)は(C)のA-A線断面図である。
【
図5】(A)及び(B)は、前記保持用部材の変形例の斜視図及び縦断面図である。
【
図6】前記保持用部材の他の変形例の斜視図である。
【
図7】(A)及び(B)は、従来のスナップファスナーの保持用部材の生地へのセット方法を示す説明図、(C)及び(D)は従来のスナップファスナーの保持用部材による雌型の嵌合部材及び雄型の嵌合部材の保持方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0021】
図1及び
図2に示す保持用部材1、
図3に示す雌型の嵌合部材2、
図4に示す雄型の嵌合部材3は、専用の工具を用いることなく衣服等の生地に取付可能なスナップファスナーを構成するものであり、それぞれ
図7に示す保持用部材51、嵌合部材60、70に対応する。すなわち、本例の一組のスナップファスナーは、一つの保持用部材1及び雌型の嵌合部材2からなる雌型のスナップボタンと、他の一つの保持用部材1及び雄型の嵌合部材3からなる雄型のスナップボタンとで構成される。
【0022】
そして、上述のように、従来のスナップファスナーを構成する保持用部材51が、嵌合部材60、70を衣服等の生地Cの所定位置(そこには目打ち等の適宜の道具で穴Hが形成される。
図7(A)参照)に保持するためのものであったのと同様に、保持用部材1は、スナップボタンを構成する嵌合部材2、3を衣服等の生地の所定位置に保持するためのものである。
【0023】
図1及び
図2に示すように、保持用部材1は、略円盤状の本体4と、この本体4の一面側(上面側)の中央部から突出する軸体5とを有する。
【0024】
本体4は、雌型の嵌合部材2に形成された貫通孔6(
図3(A)~(D)参照)及び雄型の嵌合部材3に形成された貫通孔7(
図4(B)~(D)参照)に挿入不可能な形状ないし大きさを有する。また、本体4の一面側(上面側)における軸体5の周囲には、生地Cに食い込んで本体4の軸回りの回転を防止するスパイク状の小突起8が周方向に等間隔で複数形成されている。なお、小突起8は、この回転防止機能を発揮可能な適宜の形状を有していればよく、例えば、
図1(A)に示すように略円柱状をしていてもよいし、
図2(B)に示すように円柱の先端を尖らせて円錐状としてあってもよい。
【0025】
軸体5は、雌雄の嵌合部材2,3の貫通孔6,7に対して貫通孔6,7の一端側から挿入されて他端側からその一部が露出する挿通が可能な略円柱状をしている。そして、軸体5の先側領域9(
図2(B)参照)が略筒状を呈するように、先側領域9(軸体5)の先端面中央から基端側に向かって延びる凹入部9aが形成されている。なお、この先側領域9(凹入部9a)は、軸体3の全長の1/4~1/2程度の長さとすることが考えられる。
【0026】
また、先側領域9の先端部分を周方向に三つ割にして、三つの突出部10を有するようにしてあるとともに、軸体5の外周面には、貫通孔6,7の他端側(上端側)の開口縁に係止可能な係止突起11を設けてある。ここで、係止突起11は、軸体5の外周面において周方向に延びる突条(環状突起)であり、軸体5の軸方向に間隔をあけて複数(図示例では計五つ)設けてある。
【0027】
一方、
図3に示す雌型の嵌合部材2の凹部12と、
図4に示す雄型の嵌合部材3の凸部13とは相互に弾性嵌合可能であり、凹部12の底には貫通孔6の他端(上端)が臨み、凸部13の底には貫通孔7の他端(上端)が臨んでいる。
【0028】
なお、保持用部材1による雌雄の嵌合部材2,3の保持のさせ方は、
図7に示した従来のスナップファスナーを構成する保持用部材51による雌雄の嵌合部材60、70の保持のさせ方と同様に行えるのであり、重複を避けるため、その説明を省略する。
【0029】
上記のように構成した本例のスナップファスナーでは、雌雄の嵌合部材2,3の小型化、保持用部材1の強度向上及び生地Cへのスナップファスナーの取付作業性の向上を図ることができる。
【0030】
すなわち、本例の保持用部材1では、軸体5の先側領域9にスリットを設けず先側領域9を略筒状としたことにより、雌雄の嵌合部材2,3の貫通孔6,7に軸体5を挿入する際の軸体5の変形性(縮径度合い)を小さく抑えることができ、これに伴い、貫通孔6,7の開口縁に係止させる係止突起11も小さくて済み、また、スリットを設けず略筒状とする先側領域9自体も、その構造上(強度的に問題無く)、小型化可能であるので、軸体5の先側領域9や係止突起11を受け入れる凹部12、凸部13を有する嵌合部材2,3の小型化を図ることができる。例えば、
図7に示す従来のスナップファスナーでは、自然状態における膨径部53の外径は貫通孔62の内径よりも0.5mm以上大きくする必要があると考えられるが、本例の係止突起11の外径は貫通孔6,7の内径よりも約0.1mm程度大きいものとすることが可能である。
【0031】
また、本例の保持用部材1では、軸体5の先側領域9にスリットを設けず略筒状としたことにより、その強度向上を図ることもできる。
【0032】
さらに、本例の保持用部材1では、軸体5の先側領域9の先端部分を周方向に三つ割にしてあることにより、挿入の際の軸体5の軸回りの向きによらずこの軸体5に対する嵌合部材2,3が傾き難く、挿入作業の容易化を図ることができる。また、軸体5の先側領域9の先端部分を周方向に四つ割以上にすると強度が低下し易いが、三つ割としたことにより強度低下防止をも図ることができる。
【0033】
その上、本例の保持用部材1では、軸体5の軸方向に間隔をあけて複数の係止突起11を設けたことにより、スナップファスナーの取付対象とする生地Cの厚みのばらつきに対応することができる。
【0034】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0035】
図1(A)、
図2(B)には軸体5の外周面に係止突起11が計五つ設けられている例を示したが、係止突起11の数はこれに限らず、四つ以下でも六つ以上でもよく、例えば、
図5(A)及び(B)に示すように、先側領域9の外周面に一つの係止突起11のみを設けるようにしてもよい。
【0036】
また、
図6に示すように、係止突起11が軸体5の外周面上を螺旋状に延びるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 保持用部材
2 雌型の嵌合部材
3 雄型の嵌合部材
4 本体
5 軸体
6 貫通孔
7 貫通孔
8 小突起
9 先側領域
9a 凹入部
10 突出部
11 係止突起
12 凹部
13 凸部
51 保持用部材
52 本体
53 軸体
54 膨径部
55 スリット
60 雌型の嵌合部材
61 凹部
62 貫通孔
70 雄型の嵌合部材
71 凸部
C 生地
H 穴