(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】運動効果を予測するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/22 20060101AFI20250207BHJP
【FI】
A61B5/22 100
(21)【出願番号】P 2023075150
(22)【出願日】2023-04-28
【審査請求日】2023-11-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 4年 9月22日に、完全オンライン開催の第77回日本体力医学会大会にてポスター発表 [刊行物等] 令和 4年 8月に、第77回日本体力医学会大会事務局が発行する「第77回日本体力医学会大会プログラム・予稿集」に掲載 [刊行物等] 令和4年9月16日に、第77回日本体力医学会大会のウェブサイト「https://right-stuff.biz/jspfsm77/」に掲載 [刊行物等] 令和 4年11月25日に、日本体力医学会編集委員会が発行する「The Journal of Physical Fitness and Sports Medicine(JPFSM)Vol.11,No.6」に掲載 [刊行物等] 令和 4年11月25日に、国立研究開発法人科学技術振興機構(J-STAGE)のウェブサイト「https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jpfsm/11/6/_contents/-char/en」に掲載
(73)【特許権者】
【識別番号】506320336
【氏名又は名称】特定非営利活動法人熟年体育大学リサーチセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 壮太
(72)【発明者】
【氏名】増木 静江
(72)【発明者】
【氏名】能勢 博
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/204233(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0121882(KR,A)
【文献】特表2019-502475(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187372(WO,A1)
【文献】KIM, Junghoon et al.,Lifestyle-Based Physical Activity Intervention for One Year Improves Metabolic Syndrome in Overweight Male Employees,The Tohoku Journal of Experimental Medicine,第229巻, 第1号,2012年12月05日,pp.11-17,<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjem/229/1/229_11/_article/-char/ja/>,<DOI:10.1620/tjem.229.11>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538
A61B 5/06-5/398
G06Q 50/22
G16H 50/00-50/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の強度に達している時間が、週平均で所定の時間に達している運動を行うトレーニングを継続したときの効果を予測するシステムであって、
体力向上または生活習慣病改善に関わる予測対象項目を取得する入力インターフェイスと、
前記予測対象項目が運動強度依存群に含まれていれば、前記入力インターフェイスを介して、前記予測対象項目のユーザーの初期特性と、前記トレーニングの継続中に予定している週平均時間と、前記トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも取得して、前記初期特性、前記週平均時間および前記運動強度を少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いて前記トレーニングを所定の期間継続した後の前記予測対象項目の予測効果を出力する第1の予測ユニットと、
前記予測対象項目が運動強度非依存群に含まれていれば、前記入力インターフェイスを介して、前記予測対象項目の前記ユーザーの初期特性と、前記トレーニングの継続中に予定している、週平均時間とを少なくとも取得して、前記初期特性および前記週平均時間を少なくとも要素として含む運動強度非依存の推定式を用いて前記トレーニングを所定の期間継続した後の前記予測対象項目の予測効果を出力する第2の予測ユニットと、を有するシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の予測ユニットは、前記入力インターフェイスを介して、前記ユーザーの性別を取得して、前記性別、前記初期特性、前記週平均時間および前記運動強度を少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いて前記トレーニングを所定の期間継続した後の前記予測対象項目の予測効果を出力する、システム。
【請求項3】
請求項1において、
前記予測対象項目が前記運動強度依存群に含まれる場合は、前記ユーザーに対し、予測効果が運動強度に依存することを含む情報を提供する第1のインターフェイスを含む、システム。
【請求項4】
請求項1において、
前記予測対象項目が前記運動強度非依存群に含まれる場合は、前記ユーザーに対し、予測効果が運動強度に依存しないことを含む情報を提供する第2のインターフェイスを含む、システム。
【請求項5】
請求項1において、
前記トレーニングは、前記所定の強度を最高酸素摂取量の70%、前記週平均の前記所定の時間を60分に設定したインターバル速歩トレーニングを含む、システム。
【請求項6】
請求項5において、
前記運動強度依存群に含まれる前記予測対象項目は、最高酸素摂取量、体格指数および最低血圧を含み、
前記運動強度非依存群に含まれる前記予測対象項目は、血糖値、HDLコレステロールおよび動脈硬化指数を含む、システム。
【請求項7】
所定の強度に達している時間が、週平均で所定の時間に達している運動を行うトレーニングを継続したときの効果を、効果予測システムを用いて予測する方法であって、
前記効果予測システムは、体力向上または生活習慣病改善に関わる予測対象項目を取得する入力インターフェイスと、
運動強度依存群に含まれる前記予測対象項目に対し、前記予測対象項目のユーザーの初期特性と、前記トレーニングの継続中に予定している、週平均時間と、前記トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を格納しており、運動強度非依存群の前記予測対象項目に対し、前記初期特性と、前記週平均時間とを少なくとも要素として含む運動強度非依存の推定式を格納しているライブラリとを有し、
前記予測対象項目が前記運動強度依存群に含まれていれば、前記入力インターフェイスを介して前記初期特性、前記週平均時間および前記運動強度を少なくとも取得し、それらを少なくとも要素として含む前記運動強度依存の推定式を用いて前記トレーニングを所定の期間継続した後の前記運動強度依存群の予測対象項目の予測効果を出力することと、
前記予測対象項目が前記運動強度非依存群に含まれていれば、前記入力インターフェイスを介して前記初期特性と、前記週平均時間とを少なくとも取得し、それらを少なくとも要素として含む前記運動強度非依存の推定式を用いて前記トレーニングを所定の期間継続した後の前記運動強度非依存群の予測対象項目の予測効果を出力することとを有する、方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記ライブラリは、前記運動強度依存群に含まれる前記予測対象項目に対し、前記ユーザーの性別と、前記予測対象項目のユーザーの初期特性と、前記トレーニングの継続中に予定している、週平均時間と、前記トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を格納しており、
前記運動強度依存群の予測対象項目の予測効果を出力することは、前記性別、前記初期特性、前記週平均時間および前記運動強度を少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いて前記トレーニングを所定の期間継続した後の前記予測対象項目の予測効果を出力することを含む、方法。
【請求項9】
請求項7において、
前記予測対象項目が前記運動強度依存群に含まれる場合は、前記ユーザーに対し、予測効果が運動強度に依存することを含む情報を提供することを含む、方法。
【請求項10】
請求項7において、
前記予測対象項目が前記運動強度非依存群に含まれる場合は、前記ユーザーに対し、予測効果が運動強度に依存しないことを含む情報を提供することを含む、方法。
【請求項11】
請求項7において、
前記トレーニングは、前記所定の強度を最高酸素摂取量の70%、前記週平均の前記所定の時間を60分に設定したインターバル速歩トレーニングを含む、方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記運動強度依存群に含まれる前記予測対象項目は、最高酸素摂取量、体格指数および最低血圧を含み、
前記運動強度非依存群に含まれる前記予測対象項目は、血糖値、HDLコレステロールおよび動脈硬化指数を含む、方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記ライブラリは、前記最高酸素摂取量の予測効果として最高酸素摂取量変化ΔVO2peak(ml/kg/min)、前記体格指数の予測効果として体格指数変化ΔBMI(kg/m
2)、前記最低血圧の予測効果として最低血圧変化ΔDBP(mmHg)、前記血糖値の予測効果として血糖値変化ΔFBG(mg/dl)、前記HDLコレステロールの予測効果として血中コレステロール変化ΔHDL(mg/dl)、前記動脈硬化指数の予測効果として動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)を推定する以下の推定式を含む、方法。
ΔVO2peak=a11・S+a12・VO2peak初期値+a13・Wa
+a14・Wi+c1
ΔBMI=a21・S+a22・BMI初期値+a23・Wa+a24・Wi+c2
ΔDBP=a32・DBP初期値+a35・ΔVO2peak+c3
ΔFBG=a42・FBG初期値+a43・Wa+c4
ΔHDL=a52・HDL初期値+a53・Wa+c5
Δ(LDL/HDL)=a62・(LDL/HDL)初期値+a63・Wa+c6
ただし、Sは性別(男性=1,女性=0)、Waは前記週平均時間(min/week)、Wiは前記運動強度(%VO2peak)であり、a11~a63およびc1~c6は係数であり以下の範囲である。
-3.278<a11<-0.866
-0.527<a12<-0.261
0.011<a13< 0.025
0.159<a14< 0.266
-13.421<c1 < -1.152
0.130<a21< 0.780
-0.201<a22<-0.105
-0.008<a23<-0.003
-0.028<a24<-0.003
3.236<c2 < 6.329
-1.010<a32<-0.764
-1.176<a35<-0.129
59.051<c3 <78.785
-0.707<a42<-0.414
-0.080<a43<-0.014
44.393<c4 <76.900
-0.620<a52<-0.245
0.008<a53< 0.072
12.078<c5 < 38.074
-0.634<a62<-0.295
-0.004<a63< 0.000
0.683<c6 < 1.499
【請求項14】
コンピュータにより、所定の強度に達している時間が、週平均で所定の時間に達している運動を行うトレーニングを継続したときの効果を予測する方法であって、
前記コンピュータが、入力インターフェイスを介して体力向上または生活習慣病改善に関わる予測対象項目を取得することと、
前記予測対象項目が運動強度依存群に含まれていれば、前記入力インターフェイスを介して、前記予測対象項目のユーザーの初期特性と、前記トレーニングの継続中に予定している週平均時間と、前記トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも取得して、前記初期特性、前記週平均時間および前記運動強度を少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いて前記トレーニングを所定の期間継続した後の前記予測対象項目の予測効果を出力することと、
前記予測対象項目が運動強度非依存群に含まれていれば、前記入力インターフェイスを介して、前記予測対象項目の前記ユーザーの初期特性と、前記トレーニングの継続中に予定している週平均時間とを少なくとも取得して、前記初期特性および前記週平均時間を少なくとも要素として含む運動強度非依存の推定式を用いて前記トレーニングを所定の期間継続した後の前記予測対象項目の予測効果を出力することとを有する方法。
【請求項15】
コンピュータにより、所定の強度に達している時間が、週平均で所定の時間に達している運動を行うトレーニングを継続したときの効果を予測するプログラムであって、
前記コンピュータが、
入力インターフェイスを介して体力向上または生活習慣病改善に関わる予測対象項目を取得することと、
前記予測対象項目が運動強度依存群に含まれていれば、前記入力インターフェイスを介して、前記予測対象項目のユーザーの初期特性と、前記トレーニングの継続中に予定している週平均時間と、前記トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも取得して、前記初期特性、前記週平均時間および前記運動強度を少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いて前記トレーニングを所定の期間継続した後の前記予測対象項目の予測効果を出力することと、
前記予測対象項目が運動強度非依存群に含まれていれば、前記入力インターフェイスを介して、前記予測対象項目の前記ユーザーの初期特性と、前記トレーニングの継続中に予定している週平均時間とを少なくとも取得して、前記初期特性および前記週平均時間を少なくとも要素として含む運動強度非依存の推定式を用いて前記トレーニングを所定の期間継続した後の前記予測対象項目の予測効果を出力することとを実行するための命令を有するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動効果を予測するシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、決められた運動を一定期間継続して行なった場合に体重、筋力、血糖値などの測定値がどれだけ改善されるかを精度よく予測する運動効果予測システムが提案されている。この運動効果予測システムでは初期条件入力用画面に、運動が処方される前、もしくは、直近に測定した初期測定値と週平均速歩時間とを入力する。入力された初期測定値は、初期属性グループ判定手段によって、統計データに基づいて区分された初期属性グループのうちのいずれに属するか判定される。初期属性グループが判定されると、効果予測手段が、各初期属性グループに予め用意されている効果推定式に週平均速歩時間を代入して、約5ヶ月経過後の初期測定値の変化量(効果)を算出する。効果の算出に用いられる効果推定式は初期属性グループ毎に統計データを解析して得られたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運動が体力向上や生活習慣病の予防に効果があることが知られている。一方、運動時間や、運動強度が体力の向上や生活習慣病の予防にどの程度の効果があるのかは明確になっているとは言えない。例えば、運動強度を上げることが体力の向上に役立つとしても、運動強度を上げ過ぎることによる危険やディメリットも知られており、一方、運動強度を上げなければ効果が得られない可能性もある。また、運動強度を上げても運動時間が不足すれば効果が得られない可能性もあり、ユーザーの現状および将来(目標)に適した運動処方を適切に提供することが重要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、所定の強度に達している時間が、週平均で所定の時間に達している運動を行うトレーニングを継続したときの効果を予測するシステムである。本願の発明者らは、このトレーニングを継続したユーザーの運動効果を解析することにより、体力向上または生活習慣病改善に関わる予測対象項目の効果について、運動強度に依存する項目(運動強度依存群)と、運動強度に依存しない項目(運動強度非依存群)とがあることを見出した。なお、本明細書において「運動強度に依存しない」または「運動強度非依存」という定義は、運動強度が、対象としているトレーニングとして規定されている運動の「所定の強度」に達しており、この「所定の強度」以上の運動強度に依存しない、または、非依存であることを意味する。
【0006】
この新たな見地に基づいて、本発明のシステムは、体力向上または生活習慣病改善に関わる予測対象項目を取得する入力インターフェイスと、予測対象項目が運動強度依存群に含まれていれば、入力インターフェイスを介して、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間と、トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも取得して、初期特性、週平均時間および運動強度を少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の予測対象項目の予測効果を出力する第1の予測ユニットと、予測対象項目が運動強度非依存群に含まれていれば、入力インターフェイスを介して、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間とを少なくとも取得して、初期特性および週平均時間を少なくとも要素として含む運動強度非依存の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の予測対象項目の予測効果を出力する第2の予測ユニットとを有する。
【0007】
さらに、発明者らは、運動強度依存群の予測対象項目の効果にはユーザーの性別が関連することを見出した。したがって、第1の予測ユニットは、入力インターフェイスを介して、ユーザーの性別を取得して、性別、初期特性、週平均時間および運動強度を少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の予測対象項目の予測効果を出力してもよい。
【0008】
運動強度依存群に含まれる予測対象項目の一例は、最高酸素摂取量、体格指数および最低血圧であり、運動強度非依存群に含まれる予測対象項目の一例は、血糖値、HDLコレステロールおよび動脈硬化指数である。トレーニングの一例は、所定の強度を最高酸素摂取量の70%、週平均の所定の時間を60分に設定したインターバル速歩トレーニングである。
【0009】
このシステムは、さらに、予測対象項目が運動強度依存群に含まれる場合は、ユーザーに対し、予測効果が運動強度に依存することを含む情報を提供する第1のインターフェイスを含んでもよい。また、システムは、予測対象項目が運動強度非依存群に含まれる場合は、ユーザーに対し、予測効果が運動強度に依存しないことを含む情報を提供する第2のインターフェイスを含んでもよい。ユーザーに対し、予測対象項目の効果が運動強度に依存するか否かを明示する、例えば、運動強度の入力項目を明示的に追加したり、省いたり、あるいは情報として運動強度に依存または依存しないことを明示することにより、ユーザーが積極的に運動強度を上げたり、または、むやみに運動強度を上げないように促すことが可能となる。
【0010】
本発明の他の態様の1つは、所定の強度に達している時間が、週平均で所定の時間に達している運動を行うトレーニングを継続したときの効果を、効果予測システムを用いて予測する方法である。効果予測システムは、体力向上または生活習慣病改善に関わる予測対象項目を取得する入力インターフェイスと、運動強度依存群に含まれる予測対象項目に対し、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間と、トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を格納しており、運動強度非依存群の予測対象項目に対し、初期特性と、週平均時間とを少なくとも要素として含む運動強度非依存の推定式を格納しているライブラリとを有する。
【0011】
当該方法は、予測対象項目が運動強度依存群に含まれていれば、入力インターフェイスを介して初期特性、週平均時間および運動強度を少なくとも取得し、それらを少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の運動強度依存群の予測対象項目の予測効果を出力することと、予測対象項目が運動強度非依存群に含まれていれば、入力インターフェイスを介して初期特性と、週平均時間とを少なくとも取得し、それらを少なくとも要素として含む運動強度非依存の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の運動強度非依存群の予測対象項目の予測効果を出力することとを有する。
【0012】
ライブラリは、運動強度依存群に含まれる予測対象項目に対し、ユーザーの性別と、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間と、トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を格納していてもよい。運動強度依存群の予測対象項目の予測効果を出力することは、性別、初期特性、週平均時間および運動強度を少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の予測対象項目の予測効果を出力することを含んでもよい。
【0013】
この方法は、予測対象項目が運動強度依存群に含まれる場合は、ユーザーに対し、予測効果が運動強度に依存することを含む情報を提供することを含んでもよく、予測対象項目が運動強度非依存群に含まれる場合は、ユーザーに対し、予測効果が運動強度に依存しないことを含む情報を提供することを含んでもよい。
【0014】
本発明の他の態様の1つは、所定の強度に達している時間が、週平均で所定の時間に達している運動を行うトレーニングを継続したときの効果を予測する方法であって、以下のステップを有する方法である。
・体力向上または生活習慣病改善に関わる予測対象項目を取得すること。
・予測対象項目が運動強度依存群に含まれていれば、入力インターフェイスを介して、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間と、トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも取得して、初期特性、週平均時間および運動強度を少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の前記予測対象項目の予測効果を出力すること。
・予測対象項目が運動強度非依存群に含まれていれば、入力インターフェイスを介して、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間とを少なくとも取得して、初期特性および週平均時間を少なくとも要素として含む運動強度非依存の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の予測対象項目の予測効果を出力すること。
【0015】
本発明の他の態様の1つは、コンピュータにより、所定の強度に達している時間が、週平均で所定の時間に達している運動を行うトレーニングを継続したときの効果を予測するプログラムであり、コンピュータが、体力向上または生活習慣病改善に関わる予測対象項目を取得することと、予測対象項目が運動強度依存群に含まれていれば、入力インターフェイスを介して、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間と、トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも取得して、初期特性、週平均時間および運動強度を少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の予測対象項目の予測効果を出力することと、予測対象項目が運動強度非依存群に含まれていれば、入力インターフェイスを介して、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間とを少なくとも取得して、初期特性および週平均時間を少なくとも要素として含む運動強度非依存の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の予測対象項目の予測効果を出力することとを実行するための命令を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】運動効果予測システムの概要を示すブロック図。
【
図2】インターバル速歩トレーニングの概要を示す図。
【
図3】インターバル速歩トレーニングの膝伸展筋力、膝屈曲筋力、持久力指数(最高酸素摂取量)に関する効果を示す図。
【
図4】インターバル速歩トレーニングの最高血圧および最低血圧に関する効果を示す図。
【
図6】決定因子同定群および精度検証群に含まれる被験者の特性値を示す図。
【
図8】最高酸素摂取量変化ΔVO2peak、体格指数変化ΔBMI、最低血圧変化ΔDBP、血糖値変化ΔFBG、血中コレステロール変化ΔHDL、動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)の総歩行時間を独立変数に含めた解析結果。
【
図9】最高酸素摂取量変化ΔVO2peak、体格指数変化ΔBMI、最低血圧変化ΔDBP、血糖値変化ΔFBG、血中コレステロール変化ΔHDL、動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)の週速歩時間を独立変数に含めた解析結果。
【
図10】最高酸素摂取量変化ΔVO2peak、体格指数変化ΔBMI、最低血圧変化ΔDBP、血糖値変化ΔFBG、血中コレステロール変化ΔHDL、動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)の週速歩時間および速歩の運動強度を独立変数に含めた解析結果。
【
図11】体格指数変化ΔBMI、最低血圧変化ΔDBP、血糖値変化ΔFBG、血中コレステロール変化ΔHDL、動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)の推定最高酸素摂取量変化ΔVO2peakを独立変数に含めた解析結果。
【
図12】最高酸素摂取量変化ΔVO2peakの運動強度を独立変数として含む推定式の決定因子同定群(a)と精度検証群(b)との実測値と推定値との評価結果。
【
図13】最高酸素摂取量変化ΔVO2peakの運動強度を独立変数として含まない推定式の決定因子同定群(a)と精度検証群(b)との実測値と推定値との評価結果。
【
図14】体格指数変化ΔBMIの推定式の決定因子同定群(a)と精度検証群(b)との実測値と推定値との評価結果。
【
図15】最低血圧変化ΔDBPの推定式の決定因子同定群(a)と精度検証群(b)との実測値と推定値との評価結果。
【
図16】血糖値変化ΔFBGの推定式の決定因子同定群(a)と精度検証群(b)との実測値と推定値との評価結果。
【
図17】血中コレステロール変化ΔHDLの推定式の決定因子同定群(a)と精度検証群(b)との実測値と推定値との評価結果。
【
図18】動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)の推定式の決定因子同定群(a)と精度検証群(b)との実測値と推定値との評価結果。
【
図19】効果予測システムの処理の概要を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、所定のトレーニングを継続したときの効果を予測するシステムの一例を示している。このシステム1では、ユーザー6がPC、スマートホンなどの端末5を用いて、インターネット9を介して運動効果予測情報を提供するサービスを行っているプロバイダのサーバー(運動効果予測情報提供システム、効果予測システム)10にアクセスし、所定のユーザーの情報(ユーザー情報)7を入力することにより、運動効果予測情報8を取得する。効果予測システム10が提供する運動効果予測は、所定の強度に達している時間が、週平均で所定の時間に達している運動を行うトレーニングを継続したときの予測効果であり、トレーニングの一例は、所定の強度を最高酸素摂取量の70%、週平均の所定の時間を60分以上に設定したインターバル速歩トレーニング(以降、インターバル速歩)である。
【0018】
効果予測システム(情報提供システム)10は、CPU、メモリなどのコンピュータ資源を含む。効果予測システム10は、ユーザー情報7を取得し、予測効果情報8を提供する入出力インターフェイス15を含む。ユーザー情報7は、体力向上または生活習慣病改善に関わる予測対象項目を含む。情報提供システム10は、それぞれの予測対象項目に対して運動効果を予測するための推定式を格納したライブラリ20を含む。ライブラリ20は、運動強度依存群21に含まれる予測対象項目に対し、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間と、トレーニングの継続中に予定している運動強度とを少なくとも要素として含む運動強度依存の推定式と、運動強度非依存群22の予測対象項目に対し、初期特性と、週平均時間とを少なくとも要素として含む運動強度非依存の推定式とを格納している。
【0019】
運動強度依存群21に含まれる予測対象項目の一例は最高酸素摂取量、体格指数および最低血圧であり、ライブラリ20は、最高酸素摂取量の予測効果として最高酸素摂取量変化ΔVO2peak、体格指数の予測効果として体格指数変化ΔBMI、および最低血圧の予測効果として最低血圧変化ΔDBPをそれぞれ推定する推定式を含む。
【0020】
運動強度非依存群22に含まれる予測対象項目の一例は、血糖値、HDLコレステロールおよび動脈硬化指数であり、ライブラリ20は、血糖値の予測効果として血糖値変化ΔFBG、HDLコレステロールの予測効果としてHDLコレステロール変化ΔHDL、および動脈硬化指数の予測効果として動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)をそれぞれ推定する推定式を含む。なお、本明細書において、運動強度非依存とは、トレーニングとしての効果を得るために規定されている所定の強度での運動は実施されており、トレーニングの効果が所定の強度を上回る運動強度には依存しないことを意味しており、所定の強度以下の運動強度を許容しているものではない。
【0021】
効果予測システム10は、運動強度依存群21の対象項目の予測効果を、推定式を用いて予測する第1の予測ユニット11と、運動強度非依存群22の対象項目の予測効果を、推定式を用いて予測する第2の予測ユニット12とを含む。第1の予測ユニット11は、予測対象項目が運動強度依存群21に含まれていれば、入出力インターフェイス15を介して、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間と、トレーニングの継続中に予定している運動強度とを含むユーザー情報7を取得し、それらを要素として含む運動強度依存群21の推定式を用いてトレーニングを所定の期間、本例では5か月間継続した後の予測対象項目の予測効果を出力する。第2の予測ユニット12は、予測対象項目が運動強度非依存群22に含まれていれば、入力インターフェイス15を介して、予測対象項目のユーザーの初期特性と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間とを取得して、それらを要素として含む運動強度非依存群22の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の予測対象項目の予測効果を出力する。
【0022】
運動強度依存群21の推定式はユーザーの性別Sを要素として含んでいてもよく、その場合は、第1の予測ユニット11は、入力インターフェイス15を介して、ユーザーの性別Sを含めたユーザー情報7を取得し、それらを含む運動強度依存群21の推定式を用いてトレーニングを所定の期間継続した後の予測対象項目の予測効果を出力する。
【0023】
入出力インターフェイス15は、予測対象項目が運動強度依存群に含まれる場合は、ユーザーに対し、予測効果が運動強度に依存することを含む情報を提供する第1のインターフェイス16と、予測対象項目が運動強度非依存群に含まれる場合は、ユーザーに対し、予測効果が運動強度(トレーニングとして要求される所定の運動強度(最低限の運動強度)以上の運動強度)に依存しないことを含む情報を提供する第2のインターフェイス17とを含む。これらのインターフェイス16および17は、ユーザー6に対し、予測対象項目の予測効果が運動強度(トレーニングとして要求される所定の運動強度(最低限の運動強度)以上の運動強度)に依存するか否かを明示する、例えば、これらのインターフェイス16および17は、運動強度の入力項目を明示的に追加したり、省いたり、あるいは情報として運動強度に依存または依存しないことを明示することにより、ユーザー6が予測効果を得るために積極的に運動強度を上げたり、または、むやみに運動強度を上げないように促すようにする。第1のインターフェイス16または第2のインターフェイス17のみを設けておいてもよい。
【0024】
図2に、インターバル速歩トレーニング(IWT)の概要を示している。インターバル速歩トレーニングは、所定の強度(運動強度)を最高酸素摂取量VO2peakの70%、週平均の所定の時間を60分以上に設定したトレーニングである。
図2に示すように、所定の強度以下の歩行と、所定の強度以上の速歩とを適当な間隔、例えば5分間隔で繰り返し、一日15分を、週4日以上を継続することにより、一週間の速歩の平均(週平均時間)で60分以上とするトレーニングである。したがって、この効果予測システム10のユーザー情報7に含まれる、ユーザー6が予定している週平均時間(予定週平均時間)Waはインターバル速歩トレーニングの速歩の週平均時間であり、トレーニングの継続中に予定している運動強度(予定運動強度)Wiはインターバル速歩トレーニングの速歩の最高酸素摂取量VO2peakに対する割合である。このため、ユーザー情報7に含まれる週平均時間Waは60分以上が想定され、運動強度Wiは70%以上が想定される。
【0025】
トレーニングの指標となる最高酸素摂取量VO2peakの値はいくつかの方法で推定できることが知られている。もちろん、自転車エルゴメーター、トレッドミルなどの体力測定用の機器を用いた呼気ガス分析法であってもよい。最高酸素摂取量VO2peakを求める1つの手法は3段階ステップアップ歩行法であり、安静、ゆっくり歩行、中くらい歩行、および最速歩行を、3分間ずつ段階的に負荷をあげ、最速歩行の最後の3分間のエネルギー消費量(酸素摂取量)を3軸の加速度計と高度計の出力から求める方法である。最高酸素摂取量の測定を著しく簡便にすることができ、十分な精度で体力を測定できる。歩行時の単位時間当たりの酸素摂取量eVO2Wは以下の式で推定することができる。歩行中の酸素摂取量の推定値eVO2Wを求める推定式(7)については、本願の発明者らの「Yamazaki T, Gen-no H, Kamijo Y, Okazaki K, Masuki S, and Nose H. A new device to estimate VO2 during incline walking by accelerometry and barometry. Med Sci Sports Exerc, 41: 2213-2219, 2009」に開示されている。
eVO2W=w1・VM+w2・Hu+w3・Hd・・・(1)
VMは3軸加速度センサーのベクトルノルム、すなわち、各方向の加速度を累積した単位時間当たりの累積加速度(G/min、Gは重力加速度)であり、Huは単位時間当たりの上昇量(上昇速度、m/min)であり、Hdは単位時間当たりの下降量(下降速度、m/min)である。気圧計を用いた場合は、上昇速度および下降速度H(単位時間当たりの上昇量および下降量)である。w1、w2およびw3は係数である。
【0026】
インターバル速歩トレーニングにおける酸素摂取量VO2の値(推定値)および速歩時間は、ユーザー6に装着する計測器2またはスマートホンのアプリなどにより自動的に記録することができる。したがって、ユーザー6は、自己が設定した(予定した)週平均時間Waと運動強度Wiとを満足するようにインターバル速歩トレーニングを実行することができる。
【0027】
図3および
図4に、発明者らが確認した、インターバル速歩トレーニングを5か月継続したときの体力向上および生活習慣病改善についての変化の一例を示している。白が男性の傾向を示し、斜線が女性の傾向を示し、黒が全体の傾向を示している。インターバル速歩トレーニングは、体力向上および生活習慣病改善に関わる項目、例えば、図示している膝伸展筋力、膝屈伸筋力、持久力指数、最高血圧および最低血圧について効果が見られ、従来効果があるといわれている一日一万歩の運動をするよりも運動効果が高いことがわかる。
【0028】
発明者らの解析によると、中高年者を対象とした5か月間のインターバル速歩トレーニング(IWT)は、最高酸素摂取量VO2peakを平均10%向上し、生活習慣病の症状を20%改善する。さらに、本発明においては、個々の被験者の初期特性、インターバル速歩トレーニング中の運動の強度や量などが効果にどの程度影響しているかを明らかにした。すなわち、インターバル速歩トレーニングの効果を決定する因子を同定し、その信頼性を検証した。
【0029】
図5に、解析の流れを示している。2005年から2016年にインターバル速歩トレーニングを行う事業(本事業)に入会された参加者のうち、決定因子同定群として、2005年に本事業に入会し、5か月間インターバル速歩トレーニングを実施した中高年者485名(~64歳、決定因子同定群)において、被験者の初期特性と介入中の運動の強度と量を独立変数の候補とし、各効果パラメータを従属変数とした重回帰分析を行い、同分析による推定値と実測値の間で最も高い相関が得られる独立変数を同定した(解析1)。さらに、2006-2016年に本事業に入会した5か月間インターバル速歩トレーニングを実施した別の中高年者609名(~65歳、精度検証群)を対象に、その信頼性を検証した(解析2)。
【0030】
図6に、解析対象とした決定因子同定群および精度検証群の被験者の各特性値のトレーニング前(pre)、トレーニング後(post)および変化量(Δ)の平均値を示している。最高酸素摂取量VO2peak、体格指数BMI、最低血圧DBP、血糖値FBG、HDLコレステロールHDLおよび動脈硬化指数(LDL/HDL)を対象として、決定因子同定群の5か月間の変化量を解析(解析1)して回帰式を求めたところ、すべての効果決定因子としてそれらの初期値が関与した。さらに、最高酸素摂取量VO2peakと体格指数BMIでは速歩時の強度と量、血糖値FBG、HDLおよび動脈硬化指数(LDL/HDL)では速歩の量、また、最低血圧DBPではインターバル速歩トレーニングによる最高酸素摂取量の変化量ΔVO2peakが決定因子として同定された。また、精度検証群において、決定因子同定群で求めた各回帰式を用いた推定値と実測値から95%予測区間を求めたところ(解析2)、決定因子同定群のそれらとほぼ一致した。
【0031】
したがって、最高酸素摂取量VO2peak、体格指数BMI、最低血圧DBP、血糖値FBG、HDLコレステロールHDLおよび動脈硬化指数(LDL/HDL)について、インターバル速歩トレーニングを継続した5か月後の変化(Δ、運動効果)を推定(予測)することが可能であることが判明した。すなわち、運動効果としての最高酸素摂取量変化ΔVO2peak、体格指数変化ΔBMI、最低血圧変化ΔDBP、血糖値変化ΔFBG、HDLコレステロール変化ΔHDLおよび動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)としたときに、それらの予測対象項目の効果を予測するために適した所定のユーザー情報7を取得することにより、その運動効果を予測(推定)できることを見出した。
【0032】
図7に、トレーニングにより変化する運動効果(予測対象項目)の推定式(予測式)を示している。最高酸素摂取量変化ΔVO2peak、および体格指数変化ΔBMIの推定式は、性別S(男性=1、女性=0)、初期値(初期特性)、週速歩時間(週平均時間)Wa、および速歩の運動強度Wiを決定因子(パラメータ)として含む。最低血圧変化ΔDBPの推定式は、初期値(初期特性)、および上記において推定された最高酸素摂取量変化ΔVO2peakを決定因子(パラメータ)として含む。血糖値変化ΔFBG、HDLコレステロール変化ΔHDL、および動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)の推定式は、初期値(初期特性)、および週速歩時間(週平均時間)Waを決定因子(パラメータ)として含むことが分かった。したがって、予測対象項目の運動効果として、最高酸素摂取量変化ΔVO2peak、体格指数変化ΔBMI、および最低血圧変化ΔDBPは運動強度依存群21に含まれ、血糖値変化ΔFBG、HDLコレステロール変化ΔHDL、および動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)は運動強度非依存群22に含まれることが分かった。
【0033】
図8ないし
図11に、各対象項目の運動効果の推定式(重回帰式)における決定因子を同定する過程を示している。決定因子同定群に含まれる被験者の初期値とトレーニング実績から、各測定パラメータ(各予測対象項目)のトレーニング前後の変化量(Δ、運動効果)を決定する因子を同定した。重回帰式の一例は以下の式(2)の通りである。
yj=a(j,1)・x1+a(j,2)・x2+・・・
+a(j,i)・xi+cj (2)
ここで、独立変数xiの候補は、年齢、性別、各測定パラメータの初期値、5か月間のトレーニング実績(週総歩行時間、週速歩時間、速歩運動強度)、最高酸素量変化(ΔVO2peak)である。従属変数yjは、各測定パラメータのトレーニング前後における変化量(ΔVO2peak、体格指数(ΔBMI)、最高血圧(ΔSBP)、最低血圧(ΔDBP)、平均血圧(ΔMBP)、血糖値(ΔFBG)、血中コレステロール(ΔHDL,ΔLDL)、血中中性脂肪(ΔTG)、動脈硬化指数(Δ(LDL/HDL))である。
【0034】
次に、それぞれの従属変数について、独立変数の候補を回帰式に代入し、求めた推定値と実測値との間の相関係数(r)が有意で、しかも最も高い値を示すa(j,i)を決定した。さらに、推定値と実測値間の以下の一次回帰式(式(3))を決定し、その推定式の信頼性について95%予測区間を算出した。
yi‘=mj・yj+nj (3)
なお、推定値と実測値との間のBland-Altman解析を行ったところ、誤差に偏りが生じたためX軸、Y軸の両方のバラつきを考慮したBrace法により推定値を補正した。
【0035】
図8に従属変数(変化量)として5か月トレーニングを行った後の、最高酸素摂取量変化ΔVO2peak、体格指数変化ΔBMI、最低血圧変化ΔDBP、血糖値変化ΔFBG、血中コレステロール変化ΔHDL、動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)を選択したときの、総歩行時間を独立変数に含めた解析結果を示し、
図9に週速歩時間を独立変数に含めた解析結果を示し、
図10に週速歩時間および速歩の運動強度を独立変数に含めた解析結果を示し、
図11に推定最高酸素摂取量変化ΔVO2peakを独立変数に含めた解析結果を示す。
【0036】
最高酸素摂取量変化ΔVO2peakについては、性別、初期値、総週歩行時間、週速歩時間および速歩の運動強度に対して相関が認められるが、性別、初期値、週速歩時間および速歩の運動強度を独立変数とした推定式が最も精度が高いことが分かった。体格指数変化ΔBMIについては、性別、初期値、総週歩行時間、週速歩時間、速歩の運動強度、推定最高酸素摂取量変化に対して相関が認められるが、性別、初期値、週速歩時間および速歩の運動強度を独立変数とした推定式が最も精度が高いことが分かった。最低血圧変化ΔDBPについては初期値、週速歩時間、推定最高酸素摂取量変化に対して相関が認められるが、初期値および推定最高酸素摂取量変化を独立変数とした推定式が最も精度が高いことが分かった。なお、最高酸素摂取量変化ΔVO2peakを推定するためには運動強度が必要となるため、最低血圧変化ΔDBPも運動強度依存群21に含まれる。
【0037】
血糖値変化ΔFBG、血中コレステロール変化ΔHDL、および動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)については、初期値および週速歩時間に対して相関が認められるが、その他のパラメータについての相関は認めらなかった。したがって、これらの変化量(運動効果、予想対象項目)は運動強度非依存群22に含まれる。
【0038】
図8ないし
図11に、それぞれの独立変数に対する係数の95%信頼区間の値を合わせて示しており、それぞれの予想対象項目ついての推定式としては以下を採用できる。ただし、Sは性別(男性=1,女性=0)、Waは週平均時間(週速歩時間、min/week)、Wiは運動強度(速歩の運動強度、%VO2peak)である。対象項目の初期値は、推定対象のユーザーのトレーニング開始時の対象項目の値、例えば、トレーニング開始時の最高酸素摂取量である。なお、各係数の単位については省略するが、独立変数および従属変数に合致するものである。
【0039】
最高酸素摂取量変化ΔVO2peak(ml/kg/min)
ΔVO2peak=a11・S+a12・VO2peak初期値+a13・Wa
+a14・Wi+c1 (11)
-1.873<a11<-0.495
-0.301<a12<-0.149
0.006<a13< 0.014
0.091<a14< 0.152
-6.469<c1 < 0.542
なお、各係数の中央値は
図7に示した通りである。以下の係数についても同様である。
【0040】
体格指数変化ΔBMI(kg/m2)
ΔBMI=a21・S+a22・BMI初期値+a23・Wa+a24・Wi
+c2 (12)
0.051<a21< 0.306
-0.079<a22<-0.041
-0.003<a23<-0.001
-0.011<a24<-0.001
1.014<c2 < 2.227
【0041】
最低血圧変化ΔDBP(mmHg)
ΔDBP=a32・DBP初期値+a35・ΔVO2peak+c3 (13)
-0.564<a32<-0.427
-0.657<a35<-0.072
31.587<c3 <42.612
【0042】
血糖値変化ΔFBG(mg/dl)
ΔFBG=a42・FBG初期値+a43・Wa+c4 (14)
-0.256<a42<-0.150
-0.029<a43<-0.005
13.483<c4 <25.261
【0043】
血中コレステロール変化ΔHDL(mg/dl)
ΔHDL=a52・HDL初期値+a53・Wa+c5 (15)
-0.147<a52<-0.058
0.002<a53< 0.017
3.829<c5 < 9.989
【0044】
動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)
Δ(LDL/HDL)=a62・(LDL/HDL)初期値+a63・Wa
+c6 (16)
-0.170<a62<-0.079
-0.001<a63< 0.000
0.124<c6 < 0.343
【0045】
次に、解析2において、上記にて決定因子同定群を用いて決定した各予測対象項目の予測効果の推定式に、精度検証群の独立変数を代入して推定値を求め、その推定値を精度検証群の実測値に対してプロットし、推定式の95%予測区間を算出した。最後に、求めた95%予測区間を決定因子同定群と精度検証群との間で比較した。
【0046】
図12および
図13に、最高酸素摂取量変化ΔVO2peakの決定因子同定群と精度検証群との実測値と推定値との評価結果を示している。
図12は上述した運動強度を独立変数として含む推定式の評価結果を示し、
図13は、参考として、運動強度を独立変数として含まない(性別、初期値および週速歩時間のみを含む)推定式の評価結果を示している。
図12に示した運動強度を独立変数として含む推定式の相関係数rが
図13に示した推定式の相関係数よりも高く、運動効果を、より高い精度で推定できることが分かる。
【0047】
図14は体格指数変化ΔBMIの決定因子同定群と精度検証群との実測値と推定値との評価結果を示す。
図15は、最低血圧変化ΔDBPの決定因子同定群と精度検証群との実測値と推定値との評価結果を示す。
図16は、血糖値変化ΔFBGの決定因子同定群と精度検証群との実測値と推定値との評価結果を示す。
図17は、血中コレステロール変化ΔHDLの決定因子同定群と精度検証群との実測値と推定値との評価結果を示す。
図18は、動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)決定因子同定群と精度検証群との実測値と推定値との評価結果を示す。いずれの予想対象項目においても、決定因子同定群および精度検証群において高い相関を示しており、さらに、精度検証群において、決定因子同定群で求めた各回帰式(推定式)を用いた推定値と実測値から95%予測区間を求めたところ、決定因子同定群のそれらとほぼ一致した。したがって、上述したそれぞれの推定式を用いて、それぞれの予想対象項目の運動効果(予測効果)を高い精度で予想できることを示している。
【0048】
図12から
図18に、それぞれの予想対象項目における推定値と実測値間の一次回帰式(式(3))を示している。式(11)から(16)に示した各予想対象項目の推定式における各係数および各定数は、Brace法により以下のように補正することで推定値の精度を向上できる。なお、Δ´は補正後の値を示し、カッコ内の数値は中央値を示す。
【0049】
最高酸素摂取量変化ΔVO2peak(ml/kg/min)(推定式(11))
Δ´VO2peak=1.75ΔVO2peak-2.10
-3.278<a11(-2.07)<-0.866
-0.527<a12(-0.394)<-0.261
0.011<a13( 0.018)< 0.025
0.159<a14( 0.214)< 0.266
-13.421<c1( -7.28) < -1.152
【0050】
体格指数変化ΔBMI(kg/m2)(推定式(12))
Δ´BMI=2.55ΔBMI+0.65
0.130<a21( 0.456)< 0.780
-0.201<a22(-0.153)<-0.105
-0.008<a23(-0.005)<-0.003
-0.028<a24(-0.015)<-0.003
3.236<c2( 4.78) < 6.329
【0051】
最低血圧変化ΔDBP(mmHg)(推定式(13))
Δ´DBP=1.79ΔDBP+2.51
-1.010<a32(-0.886)<-0.764
-1.176<a35(-0.653)<-0.129
59.051<c3( 68.9)<78.785
【0052】
血糖値変化ΔFBG(mg/dl)(推定式(14))
Δ´FBG=2.76ΔFBG+7.18
-0.707<a42(-0.560)<-0.414
-0.080<a43(-0.047)<-0.014
44.393<c4( 60.7) <76.900
【0053】
血中コレステロール変化ΔHDL(mg/dl)(推定式(15))
Δ´HDL=4.22ΔHDL-4.08
-0.620<a52(-0.430)<-0.245
0.008<a53( 0.040)< 0.072
12.078<c5( 25.1) < 38.074
【0054】
動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)(推定式(16))
Δ´(LDL/HDL)=3.73Δ(LDL/HDL)+0.22
-0.634<a62(-0.466)<-0.295
-0.004<a63(-0.002)< 0.000
0.683<c6( 1.09) < 1.499
【0055】
図19に、効果予測システム10において、予測効果項目に対して予測効果を求める処理の概要をフローチャートにより示している。この処理は、コンピュータが実行可能な命令を含むプログラム(プログラム製品)として記録媒体などのコンピュータ読み取り可能な媒体を介して提供してもよい。効果予測システム10のライブラリ20は、運動強度依存群21として、最高酸素摂取量VO2peakの予測効果の最高酸素摂取量変化ΔVO2peak、体格指数BMIの予測効果の体格指数変化ΔBMI(kg/m2)、最低血圧DBPの予測効果の最低血圧変化ΔDBP(mmHg)のそれぞれに対して求められた上記の推定式(11)~(13)を含む。ライブラリ20は、また、運動強度非依存群22として、血糖値FBGの予測効果の血糖値変化ΔFBG(mg/dl)、HDLコレステロールの予測効果の血中コレステロール変化ΔHDL(mg/dl)、動脈硬化指数の予測効果として動脈硬化指数変化Δ(LDL/HDL)のそれぞれに対して求められた上記の推定式(14)~(16)を含む。
【0056】
まず、ステップ51において、効果予測システム10は、運動効果を予測する項目(予測対象項目)を、入出力インターフェイス15を介して取得する。ステップ52において、入出力インターフェイス15または第1の予測ユニット11は、予測対象項目が運動強度依存群21、すなわち、最高酸素摂取量、体格指数および最低血圧の少なくともいずれかであれば、ステップ53において、入出力インターフェイス15を介して、性別Sと、予測対象項目のユーザーの初期値(初期特性)と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間Waと、トレーニングの継続中に予定している運動強度Wiとを含むユーザー情報7を取得する。この際、ステップ53aにおいて、ユーザー6に対し、第1のインターフェイス16を介して、照会されている予測対象項目の予測効果(運動効果)が運動強度に依存することを含む情報を提供してもよい。ユーザー6に、運動強度を積極的に上げることにより運動効果が得られやすいことを示すことができる。
【0057】
一方、ステップ52において、入出力インターフェイス15または第2の予測ユニット12は、予測対象項目が運動強度非依存群22、すなわち、血糖値、HDLコレステロールおよび動脈硬化指数の少なくともいずれかであれば、ステップ54において、入出力インターフェイス15を介して予測対象項目のユーザーの初期値(初期特性)と、トレーニングの継続中に予定している週平均時間Waとを含むユーザー情報7を取得する。この際、ステップ54aにおいて、ユーザー6に対して、第2のインターフェイス17を介して、照会されている予測対象項目の予測効果(運動効果)が運動強度に依存しないことを含む情報を提供してもよい。すなわち、運動強度がトレーニングとして要求されている所定の強度(最大体力(VO2peak)の70%以上)の運動であれば、運動強度には依存しないことを含む情報を提供してもよい。ユーザー6に、運動強度を所定の強度以上(最大体力の70%以上)に上げなくても、週平均時間を確保することにより運動効果が得られることを示すことができる。
【0058】
ステップ55において、第1の予測ユニット11および第2の予測ユニット12は、ライブラリ20に予め格納されている運動強度依存群21または運動強度非依存群22の推定式を用いて、ユーザー情報7に基づいて、照会された予測対象項目の予測効果を推定し、ステップ56において、その予測効果(予想される運動効果)をユーザー6の端末5にインターネット9などを介して提供する。
【0059】
生活習慣病の指数の1つとして、LSDスコア(生活習慣病指標、LSDリスクファクタ、Lifestyle-related disease)が知られている。LSDスコア(生活習慣病指標)とは、いわゆるメタボ指標であり、以下の4項目の診断基準について、1つ該当すれば1点を加算する。したがって、4項目すべて該当すれば4点満点とした診断基準である。
1)最高血圧≧130mmHg、または最低血圧≧85mmHg
2)空腹時血糖≧100mg/dl、
3)BMI≧25kg/m2、
4)中性脂肪≧150mg/dlまたはHDLコレステロール≦40mg/dl。
【0060】
例えば、ユーザー6がLSDスコアを改善しようとしたときに、1)または3)が該当しているときは、体格指数および/または最低血圧を改善することが望ましい。インターバル速歩トレーニングにより、該当している項目を改善しようと考えた際に、効果予測システム10を用いて運動効果を予測することが可能である。この際、体格指数および最低血圧は運動強度依存群21であり、初期値および予定の週平均時間Waに加えて、予定の運動強度Wiを含むユーザー情報7を効果予測システム10に提供することにより、トレーニングの予測効果、本例では、体格指数変化ΔBMIおよび最低血圧変化ΔDBPを推定してユーザー6に提供し、トレーニング効果の予測と、ユーザーが希望するトレーニング効果を得るための運動強度を含めたトレーニングプログラムを生成することができる。
【0061】
一方、LSDスコアで、4)が該当しているときは、HDLコレステロールを改善することが望ましい。HDLコレステロールは運動強度非依存群22であり、初期値および予定の週平均時間Waを含むユーザー情報7を効果予測システム10に提供することにより、トレーニングの予測効果、本例では、HDLコレステロール変化ΔHDLを推定してユーザー6に提供し、トレーニング効果の予測と、ユーザーが希望するトレーニング効果を得るための運動強度を含めたトレーニングプログラムを生成することができる。この際、運動強度Wiを上げても運動効果はほとんど変わらず、トレーニングの週平均時間Waを増やすことがトレーニングとして重要であることをユーザー6に提供できる。
【符号の説明】
【0062】
10 効果予測システム