(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】水硬性組成物用添加剤および水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 24/12 20060101AFI20250207BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20250207BHJP
C04B 24/16 20060101ALI20250207BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20250207BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
C04B24/12 A
C04B24/04
C04B24/16
C04B24/02
C04B28/02
(21)【出願番号】P 2024140994
(22)【出願日】2024-08-22
【審査請求日】2024-08-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】古川 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】内藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 善將
(72)【発明者】
【氏名】近藤 智考
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/188655(WO,A1)
【文献】特開2019-104666(JP,A)
【文献】特表2015-526371(JP,A)
【文献】特開昭56-059656(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113200701(CN,A)
【文献】特開2014-009120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリイソプロパノールアミンおよびN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む第三級アルカノールアミン類(A)と、
アミノ基およびカルボキシ基をいずれも含まない2価以上4価以下の多価アルコール(B)
であって、ジエチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む多価アルコール(B)と、
式(1)で表される化合物を含む第一級アルカノールアミン類(C)と、を含有
し、
【化1】
式(1)において、
Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、および2-ヒドロキシエチル基からなる群から選択される基であり、
XおよびYは、一方がアミノ基であり、他方がヒドロキシ基であり、
前記第三級アルカノールアミン類(A)、前記多価アルコール(B)、および前記第一級アルカノールアミン類(C)の含有量の合計に対して、
前記第三級アルカノールアミン類(A)の含有量が占める割合が30質量%以上70質量%以下であり、
前記多価アルコール(B)の含有量が占める割合が20質量%以上60質量%以下であり、
前記第一級アルカノールアミン類(C)の含有量が占める割合が10質量%以上40質量%以下である、ことを特徴とする水硬性組成物用添加剤。
【請求項2】
ジアルキルスルホンおよびジアルキルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む有機硫黄化合物(D)、ならびに、
炭酸エステル化合物(E)、からなる群から選択される少なくとも一つの成分をさらに含有する請求項1に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項3】
前記有機硫黄化合物(D)および前記炭酸エステル化合物(E)を含有する請求項
2に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項4】
前記有機硫黄化合物(D)がジメチルスルホンを含む請求項
2に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項5】
前記炭酸エステル化合物(E)がグリセロール1,2-カルボナートを含む請求項
2に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項6】
前記第三級アルカノールアミン類(A)、前記多価アルコール(B)、前記第一級アルカノールアミン類(C)、前記有機硫黄化合物(D)、および前記炭酸エステル化合物(E)の含有量の合計に対して、
前記第三級アルカノールアミン類(A)の含有量が占める割合が20質量%以上50質量%以下であり、
前記多価アルコール(B)の含有量が占める割合が20質量%以上50質量%以下であり、
前記第一級アルカノールアミン類(C)の含有量が占める割合が15質量%以上40質量%以下であり、
前記有機硫黄化合物(D)の含有量が占める割合が0質量%以上20質量%以下であり、
前記炭酸エステル化合物(E)の含有量が占める割合が0質量%以上20質量%以下であり、かつ、
前記有機硫黄化合物(D)の含有量および前記炭酸エステル化合物(E)の含有量の少なくとも一方は0質量%より大きい、請求項
2に記載の水硬性組成物用添加剤。
【請求項7】
セメント、水、分散剤、および、請求項1~
6のいずれか一項に記載の水硬性組成物用添加剤を含有することを特徴とする水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用添加剤および水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性組成物は、セメントなどの結合材を含む組成物である。たとえばコンクリートは、セメントと骨材と水とを混合して得られる水硬性組成物であり、これを硬化させたものが建築資材等として広く利用されている。
【0003】
水硬性組成物の硬化後の強度を向上するため、水硬性組成物用添加剤が利用されている。たとえば、一般に減水剤と称される添加剤は、水中におけるセメントの分散性を高めることで水硬性組成物の単位水量を低減し、これによって硬化後の強度の向上に寄与している。
【0004】
たとえば特開2018-140920号公報(特許文献1)には、トリイソプロパノールアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-N-(ヒドロキシエチル)アミンから選ばれる少なくとも1種と、オキシカルボン酸もしくはその塩、ケト酸もしくはその塩、糖、糖アルコールから選ばれる少なくとも1種と、を含む、セメント用添加剤が開示されている。特許文献1に記載のセメント用添加剤は、セメント組成物の硬化物の強度を長期にわたって顕著に向上させうるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のセメント用添加剤を用いた場合であっても、コンクリートの長期強度(材齢28日の圧縮強度)が不足する場合があった。
【0007】
そこで、水硬性組成物の材齢28日の圧縮強度のさらなる向上を可能にする水硬性組成物用添加剤および水硬性組成物の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、
トリイソプロパノールアミンおよびN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む第三級アルカノールアミン類(A)と、アミノ基およびカルボキシ基をいずれも含まない2価以上4価以下の多価アルコール(B)
であって、ジエチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む多価アルコール(B)と、
式(1)で表される化合物を含む第一級アルカノールアミン類(C)と、を含有
し、
【化1】
式(1)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、および2-ヒドロキシエチル基からなる群から選択される基であり、XおよびYは、一方がアミノ基であり、他方がヒドロキシ基であり、前記第三級アルカノールアミン類(A)、前記多価アルコール(B)、および前記第一級アルカノールアミン類(C)の含有量の合計に対して、前記第三級アルカノールアミン類(A)の含有量が占める割合が30質量%以上70質量%以下であり、前記多価アルコール(B)の含有量が占める割合が20質量%以上60質量%以下であり、前記第一級アルカノールアミン類(C)の含有量が占める割合が10質量%以上40質量%以下である、ことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る水硬性組成物は、セメント、水、分散剤、および、上記の水硬性組成物用添加剤を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明者らは、第三級アルカノールアミン類(A)、アミノ基およびカルボキシ基をいずれも含まない2価以上4価以下の多価アルコール(B)、および第一級アルカノールアミン類(C)が水硬性組成物の強度向上において相乗効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。上記の各構成によれば、水硬性組成物の材齢28日の圧縮強度のさらなる向上が可能になる。
【0011】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0012】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、一態様として、ジアルキルスルホンおよびジアルキルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む有機硫黄化合物(D)、ならびに、炭酸エステル化合物(E)、からなる群から選択される少なくとも一つの成分をさらに含有することが好ましい。
【0013】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、一態様として、前記有機硫黄化合物(D)および前記炭酸エステル化合物(E)を含有することが好ましい。
【0014】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、一態様として、前記有機硫黄化合物(D)がジメチルスルホンを含むことが好ましい。
【0015】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、一態様として、前記炭酸エステル化合物(E)がグリセロール1,2-カルボナートを含むことが好ましい。
【0016】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、一態様として、前記第三級アルカノールアミン類(A)、前記多価アルコール(B)、前記第一級アルカノールアミン類(C)、前記有機硫黄化合物(D)、および前記炭酸エステル化合物(E)の含有量の合計に対して、前記第三級アルカノールアミン類(A)の含有量が占める割合が20質量%以上50質量%以下であり、前記多価アルコール(B)の含有量が占める割合が20質量%以上50質量%以下であり、前記第一級アルカノールアミン類(C)の含有量が占める割合が15質量%以上40質量%以下であり、前記有機硫黄化合物(D)の含有量が占める割合が0質量%以上20質量%以下であり、前記炭酸エステル化合物(E)の含有量が占める割合が0質量%以上20質量%以下であり、かつ、前記有機硫黄化合物(D)の含有量および前記炭酸エステル化合物(E)の含有量の少なくとも一方は0質量%より大きいことが好ましい。
【0017】
以上の好ましい態様に係る構成によれば、水硬性組成物の材齢28日の圧縮強度が特に高くなりやすい。なお、本発明において、上記のそれぞれの好ましい態様に係る諸要件は、互いに矛盾しない限り、任意の複数の要件を同時に満たすことが許容される。
【0018】
本発明のさらなる特徴と利点は、以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤および水硬性組成物の実施形態について説明する。
【0020】
〔水硬性組成物用添加剤の構成〕
本実施形態に係る水硬性組成物用添加剤は、第三級アルカノールアミン類(A)と、アミノ基およびカルボキシ基をいずれも含まない2価以上4価以下の多価アルコール(B)と、第一級アルカノールアミン類(C)と、を含有する。また、本実施形態に係る水硬性組成物用添加剤は、有機硫黄化合物(D)および炭酸エステル化合物(E)の一方または双方を任意に含有する。水硬性組成物用添加剤は、有機硫黄化合物(D)および炭酸エステル化合物(E)からなる群から選択される少なくとも一つの成分を含有することが好ましく、有機硫黄化合物(D)および炭酸エステル化合物(E)の双方を含有することがより好ましい。
【0021】
第三級アルカノールアミン類(A)は、第三級アルカノールアミン類に該当する化合物である限りにおいて限定されない。なお、第三級アルカノールアミン類(A)は、単独の化合物であってもよいし、複数の化合物であってもよい。第三級アルカノールアミン類(A)は、トリイソプロパノールアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、および、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-N-(ヒドロキシエチル)アミン、からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことが好ましく、トリイソプロパノールアミンおよびN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことがより好ましい。
【0022】
多価アルコール(B)は、アミノ基およびカルボキシ基をいずれも含まない2価以上4価以下の多価アルコールに該当する化合物である限りにおいて限定されない。なお、多価アルコール(B)は、単独の化合物であってもよいし、複数の化合物であってもよい。多価アルコール(B)は、ジエチレングリコール、グリセリン、およびジグリセリンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことが好ましく、ジエチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことがより好ましい。
【0023】
第一級アルカノールアミン類(C)は、第一級アルカノールアミンに該当する化合物である限りにおいて限定されない。なお、第一級アルカノールアミン類(C)は、単独の化合物であってもよいし、複数の化合物であってもよい。第一級アルカノールアミン類(C)は、式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【化2】
式(1)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、および2-ヒドロキシエチル基からなる群から選択される基である。また、式(1)において、XおよびYは、一方がアミノ基であり、他方がヒドロキシ基である。
【0024】
式(1)で表される化合物の非限定的な例として、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Rがヒドロキシメチル基であり、Xがアミノ基であり、Yがヒドロキシ基である。)、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール(Rがエチル基であり、Xがアミノ基であり、Yがヒドロキシ基である。)、2-アミノ-1,3-プロパンジオール(Rが水素原子であり、Xがアミノ基であり、Yがヒドロキシ基である。)、3-アミノ-1,2-プロパンジオール(Rが水素原子であり、Xがヒドロキシ基であり、Yがアミノ基である。)、および2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(Rがメチル基であり、Xがアミノ基であり、Yがヒドロキシ基である。)が挙げられる。
【0025】
本実施形態に係る水硬性組成物用添加剤が有機硫黄化合物(D)を含有する場合において、有機硫黄化合物(D)は、ジアルキルスルホンおよびジアルキルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含む。なお、有機硫黄化合物(D)は、単独の化合物であってもよいし、複数の化合物であってもよい。有機硫黄化合物(D)が複数の化合物を含む場合において、少なくとも一つの化合物がジアルキルスルホンおよびジアルキルスルホキシドからなる群から選択されればよく、ジアルキルスルホンおよびジアルキルスルホキシド以外の有機硫黄化合物を含むことは妨げられない。有機硫黄化合物(D)は、ジアルキルスルホンを含むことが好ましく、ジメチルスルホンおよびジエチルスルホンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことがより好ましく、ジメチルスルホンを含むことがさらに好ましい。
【0026】
本実施形態に係る水硬性組成物用添加剤が炭酸エステル化合物(E)を含有する場合において、炭酸エステル化合物(E)は、炭酸エステル化合物に該当する化合物である限りにおいて限定されない。なお、炭酸エステル化合物(E)は、単独の化合物であってもよいし、複数の化合物であってもよい。炭酸エステル化合物(E)は、グリセロール1,2-カルボナート、エチレンカルボナート、およびプロピレンカルボナートからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことが好ましく、グリセロール1,2-カルボナートを含むことがより好ましい。
【0027】
本実施形態に係る水硬性組成物用添加剤は、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、第一級アルカノールアミン類(C)、有機硫黄化合物(D)、および炭酸エステル化合物(E)の他の成分を含有していてもよい。かかる他の成分としては、分散剤、強度増進剤、凝結遅延剤、空気連行剤(AE剤とも称される。)、消泡剤、収縮低減剤、増粘剤、防腐剤、防錆剤などが例示されるが、これらに限定されない。また、水硬性組成物用添加剤は水(水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水など)で適宜希釈されうる。
【0028】
本実施形態に係る水硬性組成物用添加剤において、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、および第一級アルカノールアミン類(C)の含有量の合計に対して、第三級アルカノールアミン類(A)の含有量が占める割合が30質量%以上70質量%以下であり、多価アルコール(B)の含有量が占める割合が20質量%以上60質量%以下であり、第一級アルカノールアミン類(C)の含有量が占める割合が10質量%以上40質量%以下であることが好ましい。なお、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、および第一級アルカノールアミン類(C)の各成分の一つまたは複数が複数の化合物を含む場合において、当該成分の含有量は、当該成分に該当する複数の化合物の含有量の合計をいう。
【0029】
本実施形態に係る水硬性組成物用添加剤が有機硫黄化合物(D)および炭酸エステル化合物(E)からなる群から選択される少なくとも一つの成分を含有する場合において、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、第一級アルカノールアミン類(C)、有機硫黄化合物(D)、および炭酸エステル化合物(E)の含有量の合計に対して、第三級アルカノールアミン類(A)の含有量が占める割合が20質量%以上50質量%以下であり、多価アルコール(B)の含有量が占める割合が20質量%以上50質量%以下であり、第一級アルカノールアミン類(C)の含有量が占める割合が15質量%以上40質量%以下であり、有機硫黄化合物(D)の含有量が占める割合が0質量%以上20質量%以下であり、炭酸エステル化合物(E)の含有量が占める割合が0質量%以上20質量%以下であることが好ましい。ただし、有機硫黄化合物(D)の含有量および炭酸エステル化合物(E)の含有量の少なくとも一方は0質量%より大きい。なお、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、第一級アルカノールアミン類(C)、有機硫黄化合物(D)、および炭酸エステル化合物(E)の各成分の一つまたは複数が複数の化合物を含む場合において、当該成分の含有量は、当該成分に該当する複数の化合物の含有量の合計をいう。
【0030】
〔水硬性組成物用添加剤の製造方法〕
本実施形態に係る水硬性組成物用添加剤は、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、および第一級アルカノールアミン類(C)、任意に加えられる有機硫黄化合物(D)および炭酸エステル化合物(E)、ならびに、任意に加えられるその他の成分、を公知の方法で混合することによって得られうる。
【0031】
〔水硬性組成物〕
本実施形態に係る水硬性組成物は、セメント、水、分散剤、および、上記の水硬性組成物用添加剤を含有する。また、本実施形態に係る水硬性組成物は、セメント以外の結合材および骨材を含みうる。
【0032】
本実施形態に係る水硬性組成物に含まれるセメントは、特に限定されない。セメントの非限定的な例として、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメントなどが挙げられる。
【0033】
本実施形態に係る水硬性組成物に含まれる水は、特に限定されない。水は、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水などでありうるが、これらに限定されない。
【0034】
本実施形態に係る水硬性組成物に含まれる分散剤は、水硬性組成物に使用される分散剤として公知のものでありうる。かかる分散剤の非限定的な例として、ポリカルボン酸系共重合体、リン酸エステル系共重合体、ナフタレン系縮合体、メラミン系縮合体、フェノール系縮合体、リグニンスルホン酸塩などが挙げられる。分散剤は、ポリカルボン酸系重合体を含有するものであることが好ましい。なお、市販されている分散剤を用いてもよい。
市販されている分散剤としては、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤などが例示される。
【0035】
本実施形態に係る水硬性組成物は、セメント以外の結合材を含みうる。かかる結合材としては、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末、石粉、シリカフューム、膨張材などが例示される。
【0036】
本実施形態に係る水硬性組成物は、骨材を含みうる。骨材のうち細骨材の非限定的な例として、川砂、山砂、陸砂、海砂、珪砂、砕砂、各種スラグ細骨材などが挙げられる。また、細骨材は粘土質などの微粒成分を含んでいてもよい。骨材のうち粗骨材の非限定的な例として、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石、各種スラグ粗骨材、軽量骨材などが挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る水硬性組成物は、上記の成分の他の成分を含みうる。かかる他の成分としては、強度増進剤、凝結遅延剤、空気連行剤(AE剤とも称される。)、消泡剤、収縮低減剤、増粘剤、防腐剤、防錆剤などが例示されるが、これらに限定されない。なお、これらの成分は、水硬性組成物用添加剤に含まれていてもよい成分である。すなわち、上記に例示される任意の成分は、水硬性組成物用添加剤の成分として添加されてもよいし、水硬性組成物を製造する段階において水硬性組成物用添加剤とは別の成分として添加されてもよい。
【0038】
本実施形態に係る水硬性組成物は、上記の水硬性組成物用添加剤を、セメントを含む結合材に対して0.01質量%以上0.5質量%以下含みうる。さらに好ましくは、セメントを含む結合材に対して0.05質量%以上0.2質量%以下含みうる。なお、セメントを含む結合材に対する水硬性組成物用添加剤の含有割合を算出する際に用いる水硬性組成物用添加剤の含有量は、不揮発分の含有量である。水硬性組成物用添加剤の不揮発分とは、水硬性組成物用添加剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいう。
【0039】
本実施形態に係る水硬性組成物のその他の配合条件は、水硬性組成物の配合条件として公知の範囲でありうる。たとえば、セメントを含む結合材に対する水の比率(W/B)は、20質量%以上70質量%以下でありうる。
【0040】
本実施形態に係る水硬性組成物から、通常の施工方法によって硬化体を得ることができる。すなわち、水硬性組成物を型枠などに充填し、室温での養生や蒸気による加熱養生などを経て、硬化したモルタル、コンクリートなどを得ることができる。
【0041】
本実施形態に係る水硬性組成物は、上記の水硬性組成物用添加剤を含有することによって、従来の水硬性組成物用添加剤を含有する場合に比べて高い強度が得られる。また、本発明者らは、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、および第一級アルカノールアミン類(C)をすべて含む水硬性組成物用添加剤を含有する水硬性組成物において、各成分の単独の寄与の足し合わせを超える水準の強度向上が見られることを見出した。すなわち、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、および第一級アルカノールアミン類(C)は水硬性組成物の強度向上において相乗効果を奏するといえる。
【0042】
〔その他の実施形態〕
本発明は、第三級アルカノールアミン類(A)と、2価以上4価以下の多価アルコール(B)と、第一級アルカノールアミン類(C)と、を含有することを特徴とする水硬性組成物用添加剤でありうる。
【0043】
当該水硬性組成物用添加剤は、一態様として、前記第三級アルカノールアミン類(A)が、トリイソプロパノールアミンおよびN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むものでありうる。
【0044】
当該水硬性組成物用添加剤は、一態様として、前記多価アルコール(B)が、ジエチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むものでありうる。
【0045】
当該水硬性組成物用添加剤は、一態様として、前記第一級アルカノールアミン類(C)が、式(1)で表される化合物を含み、
【化3】
式(1)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、および2-ヒドロキシエチル基からなる群から選択される基であり、XおよびYは、一方がアミノ基であり、他方がヒドロキシ基であるものでありうる。
【0046】
当該水硬性組成物用添加剤は、一態様として、前記第三級アルカノールアミン類(A)、前記多価アルコール(B)、および前記第一級アルカノールアミン類(C)の含有量の合計に対して、前記第三級アルカノールアミン類(A)の含有量が占める割合が30質量%以上70質量%以下であり、前記多価アルコール(B)の含有量が占める割合が20質量%以上60質量%以下であり、前記第一級アルカノールアミン類(C)の含有量が占める割合が10質量%以上40質量%以下であるものでありうる。
【0047】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0048】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0049】
〔水硬性組成物用添加剤の調製〕
以下の方法で、後掲する表1および表2に示す実施例1~31、参考例1~8、および比較例1~14の水硬性組成物用添加剤を得た。
【0050】
(1)原料
(1-1)第三級アルカノールアミン類
以下に示す第三級アルカノールアミン類を用いた。第三級アルカノールアミン類A-1、A-2、A-3は、いずれも上記の実施形態に係る第三級アルカノールアミン類(A)に該当する。
A-1:トリイソプロパノールアミン(富士フイルム和光純薬工業社製)
A-2:N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(東京化成工業社製)
A-3:N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-N-(ヒドロキシエチル)アミン(東京化成工業社製)
【0051】
(1-2)アルコール
以下に示すアルコールを用いた。アルコールB-1、B-2、およびB-3は、2価以上4価以下の多価アルコールであり、上記の実施形態に係る多価アルコール(B)に該当する。アルコールb-1、b-2、およびb-3は、上記の実施形態に係る多価アルコール(B)に該当しない。
B-1:グリセリン(富士フイルム和光純薬工業社製)
B-2:ジエチレングリコール(富士フイルム和光純薬工業社製)
B-3:ジグリセリン(富士フイルム和光純薬工業社製)
b-1:グルコン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬工業社製)
b-2:酒石酸(富士フイルム和光純薬工業社製)
b-3:リンゴ酸(富士フイルム和光純薬工業社製)
【0052】
(1-3)第一級アルカノールアミン類
以下に示す第一級アルカノールアミン類を用いた。第一級アルカノールアミン類C-1、C-2、C-3、C-4,C-5は、いずれも上記の実施形態に係る第一級アルカノールアミン類(C)のうち、式(1)で表される化合物に該当する。
【化4】
C-1:トリスヒドロキシメチルアミノメタン(富士フイルム和光純薬工業社製)(Rがヒドロキシメチル基であり、Xがアミノ基であり、Yがヒドロキシ基である。)
C-2:2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール(Rがエチル基であり、Xがアミノ基であり、Yがヒドロキシ基である。)
C-3:2-アミノ-1,3-プロパンジオール(富士フイルム和光純薬工業社製)(Rが水素原子であり、Xがアミノ基であり、Yがヒドロキシ基である。)
C-4:3-アミノ-1,2-プロパンジオール(富士フイルム和光純薬工業社製)(Rが水素原子であり、Xがヒドロキシ基であり、Yがアミノ基である。)
C-5:2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(富士フイルム和光純薬工業社製)(Rがメチル基であり、Xがアミノ基であり、Yがヒドロキシ基である。)
【0053】
(1-4)有機硫黄化合物
以下に示す有機硫黄化合物を用いた。有機硫黄化合物D-1およびD-2は、いずれも上記の実施形態に係る有機硫黄化合物(D)に該当する。
D-1:ジメチルスルホン(富士フイルム和光純薬工業社製)
D-2:ジエチルスルホン(富士フイルム和光純薬工業社製)
【0054】
(1-5)炭酸エステル化合物
以下に示す炭酸エステル化合物を用いた。炭酸エステル化合物E-1、E-2、およびE-3は、いずれも上記の実施形態に係る炭酸エステル化合物(E)に該当する。
E-1:グリセロール1,2-カルボナート(富士フイルム和光純薬工業社製)
E-2:エチレンカルボナート(富士フイルム和光純薬工業社製)
E-3:プロピレンカルボナート(富士フイルム和光純薬工業社製)
【0055】
(2)水硬性組成物用添加剤の調製
表1および表2の割合となるように、各成分を混合、イオン交換水で希釈し有効成分20質量%の水溶液を調整した。
【0056】
〔水硬性組成物用添加剤の評価〕
(1)水硬性組成物の調製
(1-1)水硬性組成物の原料
水として、蒲郡市上水道水を用いた。セメントとして、普通ポルトランドセメントを用いた。当該普通ポルトランドセメントは、太平洋セメント社製、UBE三菱セメント社製、および、住友大阪セメント社製の普通ポルトランドセメントを等量で混合したものとし、密度は3.16g/cm3だった。細骨材として、大井川水系産の陸砂を用いた。当該陸砂の密度は2.57g/cm3だった。粗骨材として、岡崎産の砕石を用いた。当該砕石の密度は2.68g/cm3だった。
【0057】
(1-2)水硬性組成物の調製
20℃の試験室において、普通ポルトランドセメントからなる結合材と、骨材としての陸砂および砕石とを50Lのパン型強制練りミキサーに投入した。さらに、実施例、参考例、および比較例のいずれかの水硬性組成物用添加剤、ポリカルボン酸系分散剤を主成分とする高性能AE減水剤(チューポールHP-11(竹本油脂株式会社製))、および消泡剤(AFK-2(竹本油脂株式会社製))を加えた水をミキサーに投入し、90秒間混練し、水硬性組成物を得た。得られた水硬性組成物は20℃であった。各成分の単位量を水165kg/m3、セメント367kg/m3、細骨材875kg/m3、粗骨材961kg/m3とした。この単位量条件において、細骨材率は48.5%であり、セメントに対する水の比率(W/C)は45%である。水硬性組成物用添加剤の添加量(不揮発分)をセメントに対して0.06質量%以上0.10質量%以下とし、高性能AE減水剤の添加量をセメントに対して0.8質量%とし、消泡剤の添加量をセメントに対して0.0002質量%として、これらの成分を練り混ぜ水の一部として添加した。
【0058】
得られた水硬性組成物のスランプフローをJIS A 1150:2020に従って測定した。実施例、参考例、および比較例のいずれについても、スランプフローは420mm±10mmの範囲にあった。また、得られた水硬性組成物の空気量を、JIS A 1128:2020に従って測定した。実施例、参考例、および比較例のいずれについても、空気量は2.0%以下だった。実施例、参考例、および比較例の各例においてスランプフローおよび空気量が同等であったことから、各例に係る水硬性組成物の強度の比較において、これらの要素の影響を排して考えることができる。すなわち、水硬性組成物用添加剤の違いによる強度の違いを検討できる実験条件を整えることができた。
【0059】
(2)材齢28日の圧縮強度試験
上記の手順で調製した水硬性組成物をφ100mm×200mmの鋼製型枠に充填して供試体とし、温度20℃、湿度60%の環境下での恒温恒湿空気養生を24時間行った。続いて、20℃の水中での養生を27日間行った。合計28日間の養生を行った供試体を型枠から取り外し、表面を研磨したのちに、自動圧縮強度測定器(株式会社前川製作所製)を用いて、JIS A 1108:2018に従って圧縮強度を測定した。実施例、参考例、および比較例の各例の圧縮強度の測定値を、水硬性組成物用添加剤を添加していない比較例1における圧縮強度の測定値を100%とする百分率で表した値を「強度比」とした。得られた強度比の値に基づいて、実施例、参考例、および比較例の各例を下記のA~Dの四水準に区分した。
A:強度比が115%以上である。
B:強度比が110%以上115%未満である。
C:強度比が105%以上110%未満である。
D:強度比が105%未満である。
【0060】
〔結果〕
実施例、参考例、および比較例の各例について、原料の種類および比率(質量%)、水硬性組成物用添加剤の添加量(セメントに対する質量%)、スランプフローおよび空気量、材齢28日の圧縮強度および強度比(比較例1に対する百分率)、ならびに評価(A~D)を表1および表2に示す。なお、表中では、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、第一級アルカノールアミン類(C)、有機硫黄化合物(D)、および炭酸エステル化合物(E)を、それぞれ符号のみで略記している。
【0061】
実施例1~31および参考例1~8に示すように、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、および第一級アルカノールアミン類(C)を含む水硬性組成物用添加剤を用いた場合において、水硬性組成物用添加剤を添加していない比較例1に比べて5%以上の強度の上昇が見られた。実施例に見られる強度の顕著な上昇は、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、または第一級アルカノールアミン類(C)をそれぞれ単独で用いた場合には見られないものであるとともに、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、または第一級アルカノールアミン類(C)をそれぞれ単独で用いた場合における強度への寄与の単なる足し合わせでは説明できない水準にある。すなわち、第三級アルカノールアミン類(A)、多価アルコール(B)、および第一級アルカノールアミン類(C)が相乗的に作用して水硬性組成物の強度の向上に寄与していると考えられる。
【0062】
また、水硬性組成物の強度の上昇は、有機硫黄化合物(D)および炭酸エステル化合物(E)の少なくとも一方を含む水硬性組成物用添加剤を用いた場合により顕著であり、有機硫黄化合物(D)および炭酸エステル化合物(E)の双方を含む水硬性組成物用添加剤を用いた場合に特に顕著である。
【0063】
表1:水硬性組成物用添加剤の組成および評価結果
【表1】
【0064】
表2:水硬性組成物用添加剤の組成および評価結果
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、コンクリート等の水硬性組成物に適用できる。
【要約】
【課題】水硬性組成物の材齢28日の圧縮強度のさらなる向上を可能にする。
【解決手段】本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、第三級アルカノールアミン類(A)と、アミノ基およびカルボキシ基をいずれも含まない2価以上4価以下の多価アルコール(B)と、第一級アルカノールアミン類(C)と、を含有することを特徴とする。
【選択図】なし