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  • -編織物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】編織物
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/14 20060101AFI20250207BHJP
   D02G 1/16 20060101ALI20250207BHJP
   D03D 15/40 20210101ALI20250207BHJP
   D03D 15/513 20210101ALI20250207BHJP
   D01F 6/60 20060101ALI20250207BHJP
   A41D 19/015 20060101ALN20250207BHJP
【FI】
D04B1/14
D02G1/16
D03D15/40
D03D15/513
D01F6/60 371Z
A41D19/015 110Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021037474
(22)【出願日】2021-03-09
(65)【公開番号】P2022137802
(43)【公開日】2022-09-22
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】古庭 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和義
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-132833(JP,A)
【文献】特開2017-172058(JP,A)
【文献】特開2020-158919(JP,A)
【文献】特開2001-303324(JP,A)
【文献】特開平01-020340(JP,A)
【文献】特表2010-506060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00- 1/28
21/00-21/20
D03D 1/00-27/18
D02G 1/00- 3/48
D01F 1/00- 6/96
9/00- 9/04
A41D19/00-19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーバーフィード率3~12%で流体噴射加工された有機繊維のみからなる繊度220~1,700dtexの繊維糸条(A)と、
短繊維束が紡績加工された有機繊維のみからなる糸条(B)を、
交編織してなる織編物であって、
前記繊維糸条(A)及び(B)を構成する有機繊維がパラ系アラミド繊維であり、
前記繊維糸条(B)が、紡績糸双糸で、単糸撚係数(K )が2.0~4.0であり、
前記織編物が、繊維糸条(A)10~70質量%、繊維糸条(B)90~30質量%で構成されることを特徴とする編織物。
【請求項2】
繊維糸条(A)のマルチフィラメント数が1,400以下であり、かつ、繊維糸条(B)の単繊維繊度が5dtex以下である、請求項記載の編織物。
【請求項3】
パラ系アラミド繊維が、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維である、請求項記載の編織物。
【請求項4】
次の(1)と(2)を同時に満たす請求項1~いずれか記載の編織物。
(1)JIS B 9923 タンブリング法により発塵させ、パーティクルカウンターで測定したときの塵の粒径0.1μm以上の発塵個数が、織編物の目付当たり、12,000個/m以下の値を示す。
(2)JIS T 8502 防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験で測定される切断荷重の値が5~15Nの範囲である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射加工糸と紡績糸を交編織してなる編織物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機繊維のなかでも全芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)や全芳香族ポリエステル繊維等の高強度繊維を使用した編織物(手袋、腕カバー、前掛け等)は、当該繊維が刃物で切断されにくいので、木綿等を使用した従来の手袋、腕カバー、前掛け等に比べて耐切創性が画期的に高い。そのため、バリの出た板金加工品や割れ易いガラス製品を扱う製造現場をはじめ、金属片やガラス片が混入している可能性のある一般塵芥を扱うゴミ収集作業現場等において、作業者の手や体を切創事故から護る防護衣料として使用されてきた。
【0003】
しかし、当該作業者等からは、より一層安全かつ高品質の防護衣料が強く要望されている。例えば防護手袋を着用する場合は、一般的に該手袋を1枚装着して作業する場合が多く、作業内容によってさらなる耐切創性が必要となり、かつ汚れ等による手袋交換が必要になるので、軍手タイプの手袋の上に、同タイプの手袋、革製の縫製手袋あるいはゴム製手袋等を重ね履きすることが多い。そのため、軽量かつ装着性(重ね履きし易いこと)と着用感(作業し易いこと)の良いものが望まれている。
【0004】
一般に高強度繊維の紡績糸を使用した編織物は、耐切創性に優れている一方で、繊維の剛性が高いため、ごわごわ感があり、硬い繊維端の刺激が着用者にチクチク感のような不快感を与える、また着用中にフィブリル繊維が脱落して発塵する、と言った問題がある。そのため、高強度繊維の紡績糸を使用した編織物では、耐切創性と、装着性・発塵性は相互に取り合いの関係にある。
【0005】
すなわち、高強度繊維は、一般に、単糸繊度が大きくなるにつれて切断され難くなるので、編織物の耐切創性を向上させるためには、単糸繊度を上げることが有効と考えられるが、太繊度の高強度繊維を使用することで、短繊維の曲げ硬さが飛躍的に高くなる。そのため、単純に太繊度の紡績糸を使用したのでは、耐切創性はあってもチクチク感の多い編織物しか作ることができず、反対に、単糸繊度が小さい細繊度の紡績糸を使用するで、編織物のチクチク感は多少解消されるが、高強度繊維の特長である耐切創性が生かされ難くなる。
【0006】
そこで、特許文献1には、流体噴射加工された有機繊維のみ(ただし、弾性繊維を含まない)からなる繊度440~1,800dtexの繊維糸条を単体もしくは複数本引き揃えた糸条で編成される手袋であって、糸製造時及び編成時に糸条から発生する塵量を抑制した耐切創性手袋が開示されている。当該耐切創性手袋は、耐切創性が高く、発塵数が少なく、フィット感、硬さ、チクチク感も良好である。しかし、流体噴射加工された流体加工糸を紡績糸と交編織または引き揃え、引き揃え糸を用いて編織物を作製することについて、引用文献1は開示も示唆もしていない。
【0007】
特許文献2には、1,670dtex/1,250f(単糸繊度1.3dtex)のポリケトン繊維マルチフィラメント糸(引張強度18cN/dtex )を、繊維長51mmにカットして、綿番手20s/1の紡績糸を作製した後、当該紡績糸とZ撚りした280dtexのポリケトン繊維マルチフィラメント糸を合糸し、S撚り(500T/m)して諸撚糸を作製し、該諸撚糸を6本合糸したものを用いて手袋を作製した結果、手袋のソフト感や着用性に優れること、JIS-T-8052に準ずる耐切傷性が9Nであることが開示されている(実施例1参照)。また、ポリケトン繊維マルチフィラメント糸としては、流体噴射加工糸の使用も示唆されているが、流体噴射加工糸の特性や手袋の評価結果は示されておらず、織機や編機の仕様等も考慮しなければならないので、特許文献2の開示内容から、編織物の特性(特に発塵性)を予測することは困難である。
【0008】
比較的毛羽が発生し難い超高分子量ポリエチレン繊維やポリケトン繊維の流体加工糸で編成した防護用手袋も知られている(例えば、特許文献3)。しかし、高強度繊維で編成した手袋では、耐切創性と低発塵性は相反する関係にあり、また糸の素材(糸の性質)、加工法(糸条の性質)、手袋の編成方法等の影響も受ける。そのため、紡績糸使いの手袋であって、耐切創性と低発塵性を兼備し、しかも装着時のフィット感(装着性)を満たす手袋は、なかなか得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2020-158919号公報
【文献】特開2008-308772号公報
【文献】特開2009-079309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてなされたものであり、従来の紡績糸編織物の長所である耐切創性を生かしながら、紡績糸編織物の欠点である発塵性及び装着性を改善し、さらには引張強力、耐摩耗性に優れる編織物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するために、次の手段を採用するものである。
すなわち、本発明は、
オーバーフィード率3~12%で流体噴射加工された有機繊維のみからなる繊度220~1,700dtexの繊維糸条(A)と、
短繊維束が紡績加工された有機繊維のみからなる糸条(B)を、
交編織してなる織編物であって、
前記繊維糸条(A)及び(B)を構成する有機繊維がパラ系アラミド繊維であり、
前記繊維糸条(B)が、紡績糸双糸で、単糸撚係数(K )が2.0~4.0であり、
前記織編物が、繊維糸条(A)10~70質量%、繊維糸条(B)90~30質量%で構成されることを特徴とする編織物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流体噴射加工された有機繊維のみからなる特定の繊度を有する有機繊維糸条と、短繊維束を紡績加工した有機繊維からなる有機繊維糸条を、交編織することにより、チクチク感がなく、耐切創性及び低発塵性に優れているだけでなく、引張強力、耐摩耗性に優れる編織物を提供することができる。
【0013】
本発明の編織物では、紡績糸単独の編織物に比べて、粒径0.1μm以上の塵の発塵個数が4割減少したことで、著しい改善効果が認められる一方、編織物の切創力を維持できるので、従来の紡績糸編織物の特性を損なうことのない交編織物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】有機繊維糸条の流体噴射加工の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明の編織物は、流体噴射加工された有機繊維のみからなる繊度220~1,700dtexの繊維糸条(A)と、短繊維束が紡績加工された有機繊維のみからなる繊維糸条(B)を、交編織してなることを特徴とする。
ただし、繊維糸条(A)及び繊維糸条(B)を構成する有機繊維は、弾性繊維を含まない。弾性繊維を含む糸条で編成した手袋は、手袋着用時のフィット感に優れる利点があるが、品質管理の点で課題がある。
【0016】
<繊維糸条(A)>
【0017】
[有機繊維]
上記の繊維糸条(A)において、有機繊維は、公知の繊維のなかから適宜選択することができるが、原糸の特性として、JIS L 1013 8.5に準じて測定した引張強度が17.5cN/dtex以上である、高強度繊維の連続繊維が好ましい。引張強度が17.5cN/dtex未満の場合は、繊維糸条に高度の耐摩耗性を付与することが難しくなる傾向がある。有機繊維の引張強度は、17.5~35cN/dtexが好ましく、より好ましくは20~35cN/dtexである。
【0018】
上記の有機繊維としては、引張強さと耐摩耗性の観点から、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリケトン繊維、ポリアミドイミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、高強力ビニロン繊維等が挙げられる。有機繊維は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。これらの素材のなかでも、手袋着用時の装着感に優れている点から、パラ系・メタ系アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維が好ましく、特に耐切創性に優れている点から、パラ系アラミド繊維が好ましい。アラミド繊維は、有機繊維全量に対して50質量%以上用いるが好ましく、70~90質量%がより好ましく、100質量%が特に好ましい。アラミド繊維として、メタ系とパラ系のアラミド繊維を併用することもできる。
【0019】
上記の有機繊維は市販品を用いてもよく、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「Kevlar」(登録商標))、コポリパラフェニレン-3,4´-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等が挙げられる。これらのなかでも、高強度、高弾性率、耐切創性及び耐熱性に優れている点から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が好ましい。
【0020】
また、全芳香族ポリエステル繊維としては、株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」等、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維としては、東洋紡株式会社製、商品名「ザイロン」等、超高分子量ポリエチレン繊維としては、東洋紡株式会社製、商品名「イザナス」「ツヌーガ」、DSM社製、商品名「ダイニーマ」、ハネウエル社製、商品名「スペクトラ」等が挙げられる。
【0021】
[繊維糸条(A)]
有機繊維からなる繊維糸条(A)の繊度は220~1,700dtexである。繊維糸条の繊度が220未満の場合、引き揃え本数が極端に少なくなると編織物の耐切創性が悪化し、反対に引き揃え本数が多くなると編織物の生産性が悪化する。一方、繊維糸条の繊度が1,700dexを超えると、編み立て性が悪くなる(編み機カッターが切れにくくなる)。繊維糸条の繊度は、より好ましくは440~1,700dtex、さらに好ましくは600~1,700dtexである。
【0022】
有機繊維の単繊維繊度は、0.1~10dtexが好ましく、さらに好ましくは0.3~6dtex、特に好ましくは1.0~2.5dtexである。0.1dtex未満では繊維の強力が弱すぎて手袋の形成が困難であり、一方、10dtexを超えると手袋が硬くなる。
【0023】
マルチフィラメント数としては、1,400以下であることが好ましく、より好ましくは100~1,200、さらに好ましくは200~1,100である。マルチフィラメント数が1,400以下であると、手袋が硬くなりすぎず、耐切創性を維持することができる。
【0024】
[流体噴射加工]
繊維糸条(A)は、有機繊維に流体噴射加工を施した流体加工糸の繊維糸条を、単体もしくは複数本引き揃えた糸条で編成される。引揃え本数は特に限定されないが、通常、2~5本、好ましくは2~3本である。
【0025】
流体噴射加工は、繊維に水、水蒸気、空気等の流体を強制的に吹き付け、その流れにより繊維の配向を乱れさせたりして、嵩高性を付与する技術である。パラ系アラミド繊維等の引張強度が17.5cN/dtex以上の有機繊維は、引張弾性率も高いので編成手袋が硬くなりやすいが、流体噴射加工を施すことで繊維表面を損傷することなく嵩高性を付与できる。
【0026】
本発明で用いる有機繊維の流体噴射加工方法の一例を図1に示す。有機繊維糸条1は、フィードローラー2から流体加工ノズル3に供給され、同流体加工ノズル3に別の流入口4から供給された流体と合流して流体加工ノズル3から噴出され、デリベリローラー5を経て巻き取りボビン7に巻き取られる。有機繊維糸条1は、一個の原糸ボビンから供給されても良いし、複数の原糸ボビンから供給されても良い。有機繊維糸条は、1種類でも良いし、異なる2種類以上の素材を流体加工ノズルに供給して複合しても良い。
【0027】
流体噴射加工では、オーバーフィード率、糸条の太さ、ノズルの形状や流体の圧力、加工速度等の加工条件の選択をすることにより、ループ状の毛羽を持った嵩高性の高い加工糸から、ループ毛羽を持たない軽度の嵩高糸まで用途に応じて種々の加工糸が得られる。一般に、細い糸条(150dtex以下)は流体噴射加工によって強い撹乱を受けるためパラ系アラミド繊維等の高強度繊維では繊維表面がフィブリル化する恐れがある。本発明の有機繊維糸条の繊度は220~1,700dtexであり、流体噴射加工による撹乱を受けにくいのでループは形成され難く、また、繊維表面が損傷し難く、糸条それぞれがウエーブ状のたるみ形状をなすふくらみを持った嵩高性の加工糸となる。
【0028】
有機繊維糸条をオーバーフィード率3~12%、より好ましくは3~8%で、流体噴射圧力1MPa以下で加工することにより、本発明の耐切創性手袋に好適な繊維糸条が得られる。また、有機繊維のフィブリル化や、繊維表面の削れが抑制され、フィブリル断片や削屑が手袋に付着することが抑制される。なお、「フィブリル化」とは、1本の繊維に亀裂が発生して、より細かな繊維に分裂する現象をいう。
【0029】
繊維糸条(A)は、上記の高強度の有機繊維からなる繊維糸条の他に、例えば、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリウレタン系や、レーヨンなどの再生繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系もしくはフェノール系等の合成繊維等の公知の繊維糸条を含んでいても良い。ナイロン、ポリエステル等の公知の繊維は、本発明の効果(低発塵性、耐切創性)を阻害しない範囲で、糸中に約50%質量%未満の比率で含むことが好ましく、より好ましくは10~30質量%である。
【0030】
編織物を構成する繊維糸条(A)の本数は、1本または複数本が用いられる。複数本で編成する場合、有機繊維糸条の構成は、同じでも異なっていても良く、一部の糸条のみがナイロン、ポリエステル等の繊維を含んでいても良い。
【0031】
<繊維糸条(B)>
【0032】
繊維糸条(B)は、短繊維束が紡績加工された有機繊維のみからなる繊維糸条である。1本の繊維糸条の片撚り糸もしくは複数本の繊維糸条の諸撚り糸が用いられる。
【0033】
有機繊維としては、繊維糸条(A)で挙げた有機繊維、レーヨン等の再生繊維、綿、麻等の天然繊維から選択される1種または2種以上の混合繊維が用いられる。それらの中でも、布帛の引張強度、引裂き強力、破裂強度、耐摩耗性、耐切創性を向上させることができる点より、繊維糸条(A)で挙げた高強度有機繊維が好ましい。
【0034】
短繊維の繊維長は、平均繊維長が35~160mmが好ましく、より好ましくは45~130mmである。この範囲であれば、紡績糸の撚り係数を適正化する際の加工が容易であり、同時に編織物のチクチク感を解消し作業性や装着性を高めることができる。また、良好な紡績性を得るために、短繊維の捲縮数は、約3~約12山/inchが好ましい。
【0035】
短繊維の単繊維繊度は、0.8~10.0dtexが好ましく、より好ましくは1.0~6.5dtex、特に好ましくは1.2~4.5dtexである。単繊維繊度が0.8dtex未満では、JIS T 8052:2005「防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験方法」に規定された試験方法に基づいて測定した耐切創性が不充分となる。
【0036】
本発明で用いる紡績糸は、有機繊維を常法により綿紡績、スフ紡績又は梳毛紡績設備で製造したものであって良い。その際、紡績糸の繊度(番手)は、英国式綿番手30~70番が使用される。ここで、紡績糸が細くなると番手数が大きくなる。
【0037】
紡績糸の形態は、紡績糸単糸、または、紡績糸単糸を2本引き揃えて紡績糸単糸と逆方向に撚糸した紡績糸双糸が用いられる。その他、紡績糸単糸を3本引き揃えて撚り合わせた三子糸であっても良い。これらの紡績糸の中でも製編時の張力に耐えうる引張強さと、布帛の耐切創性に優れる観点より、双糸が好ましい。紡績糸双糸の番手は、綿番手10番/2s~60番/2sが好ましく、前記範囲内であれば加工性が著しく損なわれることがない。より好ましくは、15番/2s~50番/2s、さらに好ましくは20番/2s~40番/2sである。
【0038】
紡績糸は、単糸撚係数(K)と、単糸及びそれを引き揃えた双糸の撚数(T、T)を適正化することが好ましい。紡績糸単糸を加撚する場合は、次式で求められる単糸撚係数(K)を、2.0~4.0の範囲とすることが好ましい。単糸撚係数(K)が2.0より小さいと、短繊維同士の絡みが弱くなりすぎ、短繊維の端部が紡績糸からはみ出し、チクチク感の多い布帛(手袋)となる。また、単糸撚係数(K)が4.0より大きいと、強撚になりすぎて二重撚の発生が強くなって加工性が悪化し、紡績糸の引張強さも低下し、また風合いも劣る。より好ましい単糸撚係数(K)は2.5~3.8の範囲である。また、単糸撚数(T)は13~30t/inchが好ましく、より好ましくは13~25t/inchである。紡績糸単糸の撚方向は、S、Zのいずれでも良い。
【0039】
撚係数 =T/s1/2
T;撚数(t/inch)
s;綿番手
【0040】
上記の所定の撚り(撚数T)を加えた紡績糸単糸を2本引き揃え、ダブルツイスターで所定の逆撚り(撚数T)を加えて、紡績糸双糸に加工する。双糸上撚数(T)は100~900t/mが好ましく、より好ましくは150~800t/mである。
上記の式で求められる双糸の上撚り撚係数(K)は、2.0~6.0の範囲とすることが好ましい。双糸撚係数(K)が2.0より小さいと、短繊維の端部が紡績糸からはみ出し、チクチク感の多い手袋となる。また、双糸撚係数(K)が6.0より大きいと、強撚になりすぎて二重撚の発生が強くなって加工性が悪化し、紡績糸の引張強さも低下し、また風合いも劣る。より好ましい双糸撚係数(K)は2.0~5.0の範囲である。このとき、紡績糸の単糸下撚り数(T)と双糸上撚り撚数(T)の比率(T/T)(%)が30~95%、より好ましくは50~90%の範囲になるように加撚することが望ましい。
【0041】
本発明の紡績糸は、単糸繊度が0.8~10.0dtexの有機繊維フィラメントを切断し、ステープル化したものを用いて、従来公知の紡績手段で製造することができる。ステープルをスライバーとし、それをリング撚糸機等にて所定の撚係数の撚りを加え、さらにダブルツイスター等にて、所定の撚数比率とする。
【0042】
また、本発明の紡績糸を製造する場合、本発明の効果を妨げない範囲で、約30質量%以下で他の短繊維(例えば、綿、レーヨン、ポリエステル、ナイロン等)を混用しても良い。好ましくは、アラミド繊維を紡績糸全体の質量のうち、40~100%の範囲とすることが好ましく、パラ系アラミド繊維を50~100%用いることが特に好ましい。
【0043】
[編織物]
本発明の編織物は、繊維糸条(A)と繊維糸条(B)を、交編織することにより、あるいは、それぞれ単体もしくは複数本を引き揃え、引揃えた糸条を編機または織機に給糸することにより得られる。
引き揃える繊維糸条(A)及び繊維糸条(B)の割合(質量比)は、繊維糸条(A):繊維糸条(B)=10~70:90~30とすることが好ましい。繊維糸条(A)の比率が、10以上であれば、発塵量の抑制に加え、耐摩耗性の向上が期待でき、70以下であれば、布帛が適度に厚みを有し、薄くなりすぎない。繊維糸条(A)と繊維糸条(B)の割合は、より好ましくは20~60:80~40であり、さらに好ましくは、20~50:80~50である。
【0044】
編織物の目付としては、特に限定されるものではないが、好ましくは300~800g/mである。前記範囲内とすることにより、適度な布帛の厚みと耐切創性のバランスを両立する効果がある。より好ましくは400~700g/m、さらに好ましくは500~600g/mである。
【0045】
本発明において手袋等の編物を作製する場合、上記の繊維糸条(A)と繊維糸条(B)の引き揃え糸を、糸との接触面が梨地状であるテンション調整機を介して、コンピューター手袋編機SFGやSTJ(株式会社島精機製作所製)に給糸し、編成することが好ましい。編成用の糸条をパッケージから巻き出した後に、編機の糸道に存在する主な装置としては、ヤーンガイドプレート、1つめのテンション調整機、追油用フェルト、糸切れ検知バネ、2つめのテンション調整機があり、さらに天バネを経て、ヤーンフィーダーへ導かれ、最終的にニードル針により編成される。この2つのテンション調整機は、糸に安定的な張力を付与するための糸道ガイドであり、ワッシャーテンサーやスプリングテンサー等がある。
【0046】
糸道ガイドの表面仕上げ方法としては、梨地仕上げの他、鏡面仕上げが一般的である。糸道ガイドの糸との接触面が梨地状であると、糸との摩擦が減少することにより、パッケージ近くの糸道ガイドでは、主に有機繊維のフィブリル化を抑制することができ、その後の糸道ガイドでは、有機繊維のフィブリルの断片化または繊維表面が削れる現象を抑制することができる。
【0047】
テンション調整機の糸との接触面の材質としては、例えば、梨地クロムメッキを施した金属;金属上にチタン、アルミナ、チタンカーバイド等のセラミックスや、テフロン(登録商標)、シリコン等でコーティングを施したもの;チタン、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス等が挙げられる。
【0048】
本発明では、糸に張力を付与するための糸道ガイドであるテンション調整機として、糸との接触面が梨地状のものを用いることが効果的である。該テンション調整機としては、梨地処理を施した構成部材、或いは、材質が梨地状の構成部材(例えば、テンションワッシャー表面が梨地処理品で、テンサーシャフトがアルミナセラミック製部品である)を組み合せたもの等が挙げられる。糸を安定供給するため糸に張力を付与した際に、糸が擦れて大量のフィブリルや削れ屑が発生するのを防止する効果がある。さらに、他の糸道ガイドにセラミックス製のものを用いることが好ましく、より優れた効果が発現する。
【0049】
本発明では、上記の糸条を用い、さらには編み方を調整することにより、JIS B 9923 タンブリング法により発塵させ、パーティクルカウンターで測定したときの塵の粒径0.1μm以上の発塵個数が、織編物の目付当たり、12,000個/m以下の値を示す手袋が得られる。手袋2枚あたりの発塵個数は、より好ましくは11,000個/m以下、さらに好ましくは10,000個/m以下である。発塵個数は少なければ少ないほど望ましい。
【0050】
また、JIS T 8502 防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験で測定される切断荷重は、5~15Nの範囲である。切断荷重は、より好ましくは6N以上、さらに好ましくは7N以上、特に好ましくは10N以上である。切断荷重が5N未満では作業用耐切創手袋として役割を果たせず、15Nを超えると耐切創性が高い程刃物やバリに対して抵抗があり良いが、手袋が硬くなり装着感が悪くなる。
【実施例
【0051】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における各物性値の測定方法は次の通りである。
【0052】
[目付]
JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」、8.3「単位面積当たりの質量」に準拠し、1m当たりの質量(g/m)を求めた。
【0053】
[切創力及び耐切創力(切れ難さCut resistance )]
JIS T 8052:2005「防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験方法」に準拠し、手袋の手の平部の切創力(N)を測定した。切創力の値が大きいほど切れ難いと判定した。測定機は、RGI社製のTDM-100を用いた。
【0054】
[発塵量]
手袋4枚を、クリーン洗濯を行わずに、クリーンルーム(清浄度:ISOクラス5)中に設置したタンブリング式発塵性試験機を用いて、JIS B 9923-1997(クリーンルーム用衣服の汚染粒子測定方法)タンブリング法により発塵し、パーティクルカウンターで各粒径以上の発塵個数を測定した。測定回数は5回、最大値及び最小値を除き、残りの測定値の平均値を手袋2枚あたりの発塵量に換算した。なお、ドラムの回転数は30回転/分、排出空気の流量は0.0102m/秒とした。
【0055】
[引張強力]
JIS L 1095:2010 一般紡績糸試験方法に準じて、テンシロン万能試験機を用い、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分で構成糸(引き揃え)の引張強力を測定した。
【0056】
[耐摩耗性]
JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」、8.19「摩耗強さ」F-2法(研磨紙法)に準拠した。
【0057】
[手袋の着用評価(フィット感、硬さ、チクチク感)]
5名の被験者による着用試験を実施した。EN 420:2003 Protective gloves -General requirements and test methodsの5.2によって被験者全員がデクステリティ(Dexterity)にレベル5の性能評価を与え、かつ、官能評価で5名中5名が「着用感良好」と評したものを合格(◎)、5名中3名以上が「着用感良好」と評したものを合格(○)とし、それ以外を不合格(×)とした。また、官能評価で5名中3名以上が「チクチク感なし」と評したものを(なし)、チクチク感ありと評したものを(あり)とした。
【0058】
[製造例1(流体加工糸)]
単繊維繊度1.67dtexで、総繊度が1,670dtexである、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTA)繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「Kevlar」(登録商標))のフィラメント糸条を用いた。図1に示された流体噴射加工装置を用いたタスラン方式により、オーバーフィード率を3~12%に設定し、流体としてスチームを用いて流体噴射加工することにより、PPTAフィラメントの流体加工糸を得た。流体加工糸は無撚糸とした。
【0059】
[製造例2(紡績糸)]
アラミド短繊維糸条として、繊度1.67dtexのパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製“Kevlar(R)29”、引張強度20.3cN/dtex)にステープル加工を施した、繊維長51mm、捲縮数約8山/inchのパラ系アラミド短繊維100%を用いた。
これを、開綿機、カード、練条の順で通しスライバーとした。次に、これをリング精紡機に仕掛け、撚数(T)13t/inch、撚係数2.9、撚り方向がZ撚りの撚りを加えて、糸番手20(綿番手)、引張強さ2,415gの紡績糸の単糸を得た。この紡績糸を2本引き揃え、ダブルツイスターで撚数(T)340t/mの逆(S)撚りを加えて、糸番手が20/2s(綿番手)、引張強さ5,259gの双糸を得た。
【0060】
[製造例3(流体加工糸)]
単繊維繊度1.67dtexで、総繊度が220dtexであるPPTA繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「Kevlar」(登録商標))のフィラメント糸条を用いた以外は、製造例1と同様の方法で流体加工糸を得た。
【0061】
(実施例1)
製造例1で作製した流体加工糸1本と、製造例2で作製した紡績糸双糸2本を引き揃えたものを、7ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所製)に供給する際に、糸道ガイドのうち、2箇所のワッシャーテンサーを表面が梨地状のものを用いた以外は、常法により、シームレス手袋を編みあげた。手袋2枚の重さは30.6gであった。
すなわち、ワッシャーテンサーのテンサーシャフトの糸道部をアルミナセラミック製ガイド(湯浅糸道株式会社製YM99C,密度3.8,硬度1,800,Rmax1.5μm)、上下2枚のテンションワッシャーを梨地クロムメッキ製とし、その他の糸道ガイドは、編機仕様から変更せずに、アルミナセラミック製、梨地クロムメッキ製やメッキ処理のないガイドを混在させて用いた。
【0062】
実施例1で作製した手袋は、粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋の目付当たり12,000個/m以下(低発塵性)で切創力は11.6Nであった。チクチク感がなく、着用評価も良好であった。結果として、紡績糸単体で編成した手袋に比べて、引張強力及び耐摩耗性が向上した、低発塵性の手袋が得られた。
【0063】
(比較例1)
製造例2で作製した紡績糸5本を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、シームレス手袋を編みあげた。得られた手袋は、耐切創性に優れていたが、発塵数が多く、チクチク感があり着用評価が劣るものであった。
【0064】
(実施例2)
製造例3で作製した流体加工糸2本と、製造例2で作製した紡績糸双糸2本を引き揃えたものを用いた以外は、実施例1と同様の方法でシームレス手袋を編みあげた。
【0065】
(比較例2)
製造例2で作製した紡績糸3本を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、シームレス手袋を編みあげた。
【0066】
手袋構成及び評価結果を表1にまとめて示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1より、オーバーフィード率3~12%で流体噴射加工された繊度220~1,700dtexの有機繊維糸と、紡績糸(双糸)の引き揃え糸条を用いて、編織物を編織することにより、耐切創性が5N~15Nで、かつ、粒径0.1μm以上の発塵数が、編織物目付当たり12,000個/m以下である、従来の紡績糸で作製した手袋に比べて低発塵性で、かつ耐切創性、耐摩耗性、引張強力に優れる編織物が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の編織物は、紡績糸使いの編織物であるにも拘わらず、塵の混入等を比較的嫌う作業用手袋や作業用衣服として有用である。そのため、漁業、農業、食品産業、医療、ハイテク産業等における作業用の手袋や衣服として、或いは、スポーツ用の手袋や衣服として有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 有機繊維糸条
2 フィードローラー
3 流体加工ノズル
4 流体流入口
5 デリベリローラー
6 巻き取りローラー
7 巻き取りボビン
図1