(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】コンクリート補強材、コンクリート補強材を有するコンクリート構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 23/02 20060101AFI20250207BHJP
E04C 5/07 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
B28B23/02 Z
E04C5/07
(21)【出願番号】P 2020055054
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】岡村 脩平
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 保久
(72)【発明者】
【氏名】安藤 直文
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-216749(JP,A)
【文献】特開2000-080541(JP,A)
【文献】特開2005-120547(JP,A)
【文献】特開昭64-029560(JP,A)
【文献】特開2001-232624(JP,A)
【文献】トレカ短繊維
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 21/00-23/22
E04C 5/00- 5/20
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートに埋め込まれるコンクリート補強材であって、
線状体から構成される網状体、及び前記網状体の表面に分布している凸状体を有しており、
前記凸状体が、前記網状体の面方向に対して少なくとも垂直方向に突き出しており、
前記網状体が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上の合成樹脂から形成される脂肪族樹脂繊維を含有する線状体、並びに
、金属繊維、芳香族樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維から選択される1種以上の追加の繊維を含有
し前記脂肪族樹脂繊維を含有しない線状体を含み、前記網状体を構成する前記
線状体が、3,500デシテックス~50,000デシテックスの総繊度を有し、
前記網状体を構成する前記線状体が、第1方向、第2方向、及び第3方向に沿って延在しており、前記第1方向、前記第2方向、及び前記第3方向は、互いに55°~65°の角度で交叉しており、
前記第1方向に沿って延在している前記線状体が、前記脂肪族樹脂繊維を含有する前記
線状体であり、かつ、
前記第2方向に沿って延在している前記線状体が、前記追加の繊維を含有する前記
線状体である、
コンクリート補強材。
【請求項2】
コンクリートに埋め込まれるコンクリート補強材であって、
線状体から構成される網状体、及び前記網状体の表面に分布している凸状体を有しており、
前記凸状体が、前記網状体の面方向に対して少なくとも垂直方向に突き出しており、
前記網状体が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上の合成樹脂から形成される脂肪族樹脂繊維を含有する線状体、並びに
、金属繊維、芳香族樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維から選択される1種以上の追加の繊維を含有
し前記脂肪族樹脂繊維を含有しない線状体を含み、前記網状体を構成する前記
線状体が、3,500デシテックス~50,000デシテックスの総繊度を有し、
前記網状体を構成する前記線状体が、第4方向、第5方向、第6方向、及び第7方向に沿って延在しており、前記第4方向及び前記第5方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、前記第6方向及び前記第7方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、かつそれぞれ前記第4方向及び前記第5方向と40°~50°の角度で交叉しており、
前記第4方向に沿って延在している前記線状体が、前記脂肪族樹脂繊維を含有する前記
線状体であり、かつ、
前記第5方向に沿って延在している前記線状体が、前記追加の繊維を含有する前記
線状体である
コンクリート補強材。
【請求項3】
コンクリートに埋め込まれるコンクリート補強材であって、
線状体から構成される網状体、及び前記網状体の表面に分布している凸状体を有しており、
前記凸状体が、前記網状体の面方向に対して少なくとも垂直方向に突き出しており、
前記網状体が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上の合成樹脂から形成される脂肪族樹脂繊維を含有する線状体、並びに
、金属繊維、芳香族樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維から選択される1種以上の追加の繊維を含有
し前記脂肪族樹脂繊維を含有しない線状体を含み、前記網状体を構成する前記
線状体が、3,500デシテックス~50,000デシテックスの総繊度を有し、
かつ以下の条件1及び条件2:
条件1:前記網状体を構成する前記線状体が、第1方向、第2方向、及び第3方向に沿って延在しており、前記第1方向、前記第2方向、及び前記第3方向は、互いに55°~65°の角度で交叉している、
条件2:前記網状体を構成する前記線状体が、第4方向、第5方向、第6方向、及び第7方向に沿って延在しており、前記第4方向及び前記第5方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、前記第6方向及び前記第7方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、かつそれぞれ前記第4方向及び前記第5方向と40°~50°の角度で交叉している
のいずれかを満たし、
前記凸状体は、前記コンクリート補強材をコンクリート成型用の型枠に当接したときに、前記網状体を前記型枠の面から所定長だけ離隔するものであり、かつ、
前記所定長は、前記型枠内にコンクリートを打設したときに、コンクリート中のモルタル又はコンクリート中のセメントペーストが前記型枠と前記網状体との間に入り込む程度に設定される、
コンクリート補強材。
【請求項4】
コンクリートに埋め込まれるコンクリート補強材であって、
線状体から構成される網状体、及び前記網状体の表面に分布している凸状体を有しており、
前記凸状体が、前記網状体の面方向に対して少なくとも垂直方向に突き出しており、
前記網状体が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上の合成樹脂から形成される脂肪族樹脂繊維を含有する線状体、並びに
、金属繊維、芳香族樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維から選択される1種以上の追加の繊維を含有
し前記脂肪族樹脂繊維を含有しない線状体を含み、前記網状体を構成する前記
線状体が、3,500デシテックス~50,000デシテックスの総繊度を有し、
かつ以下の条件1及び条件2:
条件1:前記網状体を構成する前記線状体が、第1方向、第2方向、及び第3方向に沿って延在しており、前記第1方向、前記第2方向、及び前記第3方向は、互いに55°~65°の角度で交叉している、
条件2:前記網状体を構成する前記線状体が、第4方向、第5方向、第6方向、及び第7方向に沿って延在しており、前記第4方向及び前記第5方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、前記第6方向及び前記第7方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、かつそれぞれ前記第4方向及び前記第5方向と40°~50°の角度で交叉している
のいずれかを満たし、
前記凸状体は、接着剤を介して前記網状体に接着された鉱物質の粒状体である、
コンクリート補強材。
【請求項5】
前記脂肪族樹脂繊維を含有する線状体が、前記脂肪族樹脂繊維を撚り合わせた糸、又は、前記脂肪族樹脂繊維を束ねた紐状体である、請求項1~4のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
【請求項6】
前記脂肪族樹脂繊維を含有する線状体が、ポリビニルアルコール(PVA)から形成される脂肪族樹脂繊維を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
【請求項7】
前記脂肪族樹脂繊維を含有する線状体が、ポリオレフィンから形成される脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ前記ポリオレフィンが、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、又はポリエチレンである、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
【請求項8】
前記脂肪族樹脂繊維を含有する線状体が、ポリオレフィンから形成される脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ前記ポリオレフィンが、ポリプロピレンである、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
【請求項9】
前記脂肪族樹脂繊維を含有する線状体が、ポリオレフィンから形成される脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ前記ポリオレフィンが、ポリメチルペンテンである、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
【請求項10】
前記脂肪族樹脂繊維を含有する線状体が、ポリオレフィンから形成される脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ前記ポリオレフィンがポリエチレンである、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
【請求項11】
前記脂肪族樹脂繊維を含有する線状体が、脂肪族ポリアミドから形成される脂肪族樹脂繊維を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
【請求項12】
前記脂肪族樹脂繊維を含有する前記線状体が、前記脂肪族樹脂繊維を撚り合わせた糸、又は前記脂肪族樹脂繊維を束ねた紐状体であり、かつ、
前記追加の繊維を含有する前記線状体が、前記追加の繊維を撚り合わせた糸、又は前記追加の繊維を束ねた紐状体である、
請求項1~11のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
【請求項13】
前記追加の繊維が、芳香族樹脂繊維であり、かつ前記芳香族樹脂繊維が、アラミド繊維である、請求項1~12のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
【請求項14】
前記網状体が、前記線状体を織り合わせて形成されている、請求項1~13のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載のコンクリート補強材を有しているコンクリート構造体であって、前記コンクリート補強材が、前記コンクリート構造体の表面付近に、前記表面の面方向に沿って埋め込まれている、
コンクリート構造体。
【請求項16】
コンクリート構造体の製造方法であって、
コンクリート成型用の型枠を提供すること、
コンクリート補強材を提供すること、ここで、前記コンクリート補強材は、コンクリートに埋め込まれるコンクリート補強材であり、線状体から構成される網状体、及び前記網状体の表面に分布している凸状体を有している、
前記コンクリート補強材を、前記型枠の内面に沿って、前記コンクリート補強材の前記凸状体が前記型枠の底部に接触するように配置し、それによって、前記コンクリート補強材の前記網状体と前記型枠の底部との間に間隔を形成すること、並びに
コンクリートを、前記型枠内に、前記コンクリート、前記コンクリート中のモルタル及び/又は前記コンクリート中のセメントペーストが前記間隔に流れ込むように打設し、それによって、前記網状体を、コンクリートに埋め込むこと、
を含み
前記コンクリート補強材に関して、
前記凸状体が、前記網状体の面方向に対して少なくとも垂直方向に突き出しており、
前記網状体が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上の合成樹脂から形成される脂肪族樹脂繊維を含有する線状体、並びに
、金属繊維、芳香族樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維から選択される1種以上の追加の繊維を含有
し前記脂肪族樹脂繊維を含有しない線状体を含み、前記網状体を構成する前記
線状体が、3,500デシテックス~50,000デシテックスの総繊度を有し、かつ以下の条件1及び条件2:
条件1:前記網状体を構成する前記線状体が、第1方向、第2方向、及び第3方向に沿って延在しており、前記第1方向、前記第2方向、及び前記第3方向は、互いに55°~65°の角度で交叉している、
条件2:前記網状体を構成する前記線状体が、第4方向、第5方向、第6方向、及び第7方向に沿って延在しており、前記第4方向及び前記第5方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、前記第6方向及び前記第7方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、かつそれぞれ前記第4方向及び前記第5方向と40°~50°の角度で交叉している、
のいずれかを満たす、
コンクリート構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンクリート構造体内に埋め込むように配置されるコンクリート補強材、この補強材を用いたコンクリート構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート材は、一般に、圧縮に強い一方で、引張に弱い。コンクリート材に曲げなどの変形の応力が働くと、圧縮応力だけでなく引張応力も同時に及ぼされるため、一定以上の引張応力を受けた箇所が不可逆な劣化・ダメージを被り、その結果としてコンクリート材の機能が低下又は喪失するおそれがある。そのため、コンクリート材に補強を施すことが一般的である。補強には様々な態様があり、例えば、鉄筋若しくは鉄枠を併用することによる補強、高強度・高弾性率繊維のシート状物若しくは網状シートでコンクリート材を覆うことによる補強、又は、当該シート等をコンクリート材に内包することによる補強、といった補強の態様がある。
【0003】
特許文献1は、コンクリート構造体の表面近くに配置される補強材であって、コンクリートの打設時に、型枠の内面に沿って適切な位置に容易に配置することができるとともに、コンクリートとの付着力が十分に期待できるコンクリート補強材を開示している。
【0004】
従来の補強材に用いられる繊維は、高い引張強度・引張弾性率を有する繊維に実際上限られており、例えば、金属繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維等が、主に用いられてきた。
【0005】
特許文献2は、繊維強化シートを構造物の表面に接着して一体化する構造物の補強法を開示している。特許文献2は、強化繊維として、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、金属繊維、及び、アラミドなどの有機繊維を使用することを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-232624号公報
【文献】特開2011-208352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来のコンクリート補強材では、圧縮には強い一方で引張に弱いというコンクリート材の特性を補うという観点から、高い引張強度・引張弾性率を有する繊維が用いられてきた。一方で、コンクリート材が変形・破壊した際の剥落の発生を防止して安全性をさらに高めるという観点において、従来のコンクリート補強材には改善の余地があった。
【0008】
このような背景において、本開示は、改善した剥落防止性及び安全性を有するコンクリート補強材を提供することを目的とする。また、本開示は、このようなコンクリート補強材を有するコンクリート構造体、及びその製造方法にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者らは、補強材に用いられる繊維の種類・特性等を検討した結果、特定の繊維を用いることによって、改善した剥落防止性及び安全性を有するコンクリート補強材を提供することができることを見出した。より詳細には、コンクリート構造物を変形・破壊に至らしめる強力な外力に対抗するための補強、という従来の観点に加えて、コンクリート材の変形・破壊の過程におけるさらなる安全性を確保するという観点から一定の合理性・優位性を追及した結果、特定の繊維を有する本開示に係るコンクリート補強材によって、改善した剥落防止性及び安全性を有するコンクリート補強材を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本開示は、以下の手段によって上記の目的を達成するものである:
〈態様1〉
コンクリートに埋め込まれるコンクリート補強材であって、
線状体から構成される網状体、及び前記網状体の表面に分布している凸状体を有しており、
前記凸状体が、前記網状体の面方向に対して少なくとも垂直方向に突き出しており、
前記線状体が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上の合成樹脂から形成される脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ3,500デシテックス~50,000デシテックスの総繊度を有する、
コンクリート補強材。
〈態様2〉
前記線状体が、前記脂肪族樹脂繊維を撚り合わせた糸、又は、前記脂肪族樹脂繊維を束ねた紐状体である、態様1に記載のコンクリート補強材。
〈態様3〉
前記線状体が、ポリビニルアルコール(PVA)から形成される脂肪族樹脂繊維を含有する、態様1又は2に記載のコンクリート補強材。
〈態様4〉
前記線状体が、ポリオレフィンから形成される脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ前記ポリオレフィンが、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、又はポリエチレンである、態様1又は2に記載のコンクリート補強材。
〈態様5〉
前記線状体が、ポリオレフィンから形成される脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ前記ポリオレフィンが、ポリプロピレンである、態様1又は2に記載のコンクリート補強材。
〈態様6〉
前記線状体が、ポリオレフィンから形成される脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ前記ポリオレフィンが、ポリメチルペンテンである、態様1又は2に記載のコンクリート補強材。
〈態様7〉
前記線状体が、ポリオレフィンから形成される脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ前記ポリオレフィンがポリエチレンである、態様1又は2に記載のコンクリート補強材。
〈態様8〉
前記線状体が、脂肪族ポリアミドから形成される脂肪族樹脂繊維を含有する、態様1又は2に記載のコンクリート補強材。
〈態様9〉
コンクリートに埋め込まれるコンクリート補強材であって、
線状体から構成される網状体、及び前記網状体の表面に分布している凸状体を有しており、
前記凸状体が、前記網状体の面方向に対して少なくとも垂直方向に突き出しており、
前記線状体が、
ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上の合成樹脂から形成される脂肪族樹脂繊維、並びに、
金属繊維、芳香族樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維から選択される1種以上の追加の繊維、
を含有する、
コンクリート補強材。
〈態様10〉
前記線状体のうちの一部が、前記脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ、
前記線状体のうちの他の一部が、前記追加の繊維を含有する、
態様9に記載のコンクリート補強材。
〈態様11〉
前記線状体のうちの一部が、前記脂肪族樹脂繊維を撚り合わせた糸、又は前記脂肪族樹脂繊維を束ねた紐状体であり、かつ、
前記線状体のうちの他の一部が、前記追加の繊維を撚り合わせた糸、又は前記追加の繊維を束ねた紐状体である、
態様9又は10に記載のコンクリート補強材。
〈態様12〉
前記追加の繊維が、芳香族樹脂繊維であり、かつ前記芳香族樹脂繊維が、アラミド繊維である、態様9~11のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
〈態様13〉
前記網状体を構成する前記線状体が、第1方向、第2方向、及び第3方向に沿って延在しており、
前記第1方向、前記第2方向、及び前記第3方向は、互いに55°~65°の角度で交叉している、
態様1~12のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
〈態様14〉
前記網状体を構成する前記線状体が、第4方向、第5方向、第6方向、及び第7方向に沿って延在しており、
前記第4方向及び前記第5方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、
前記第6方向及び前記第7方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、かつそれぞれ前記第4方向及び前記第5方向と40°~50°の角度で交叉している、
態様1~12のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
〈態様15〉
前記網状体を構成する前記線状体が、第1方向、第2方向、及び第3方向に沿って延在しており、
前記第1方向、前記第2方向、及び前記第3方向は、互いに55°~65°の角度で交叉しており、
前記第1方向に沿って延在している前記線状体が、前記脂肪族樹脂繊維を含み、かつ、
前記第2方向に沿って延在している前記線状体が、前記追加の繊維を含む、
態様9~12のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
〈態様16〉
前記網状体を構成する前記線状体が、第4方向、第5方向、第6方向、及び第7方向に沿って延在しており、
前記第4方向及び前記第5方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、
前記第6方向及び前記第7方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、かつそれぞれ前記第4方向及び前記第5方向と40°~50°の角度で交叉しており、
前記第4方向に沿って延在している前記線状体が、前記脂肪族樹脂繊維を含み、かつ、
前記第5方向に沿って延在している前記線状体が、前記追加の繊維を含む、
態様9~12のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
〈態様17〉
前記網状体が、前記線状体を織り合わせて形成されている、態様1~16のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
〈態様18〉
前記凸状体は、前記コンクリート補強材をコンクリート成型用の型枠に当接したときに、前記網状体を前記型枠の面から所定長だけ離隔するものであり、かつ、
前記所定長は、前記型枠内にコンクリートを打設したときに、コンクリート中のモルタル又はコンクリート中のセメントペーストが前記型枠と前記網状体との間に入り込む程度に設定される、
態様1~17のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
〈態様19〉
前記凸状体は、接着剤を介して前記網状体に接着された鉱物質の粒状体である、態様1~18のいずれか一項に記載のコンクリート補強材。
〈態様20〉
態様1~19のいずれか一項に記載のコンクリート補強材を有しているコンクリート構造体であって、前記コンクリート補強材が、前記コンクリ―ト構造体の表面付近に、前記表面の面方向に沿って埋め込まれている、
コンクリート構造体。
〈態様21〉
コンクリート成型用の型枠を提供すること、
態様1~19のいずれか一項に記載のコンクリート補強材を提供すること、
前記コンクリート補強材を、前記型枠の内面に沿って、前記コンクリート補強材の前記凸状体が前記型枠の底部に接触するように配置し、それによって、前記コンクリート補強材の前記網状体と前記型枠の底部との間に間隔を形成すること、並びに
コンクリートを、前記型枠内に、前記コンクリート、前記コンクリート中のモルタル及び/又は前記コンクリート中のセメントペーストが前記間隔に流れ込むように打設し、それによって、前記網状体を、コンクリートに埋め込むこと、
を含む、コンクリート構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る発明によれば、改善した剥落防止性及び安全性を有するコンクリート補強材を提供することができる。
【0012】
また、本開示によれば、このようなコンクリート補強材を有するコンクリート構造体、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示に係るコンクリート補強材を有するコンクリート構造体の1つの実施態様を示す断面概略図である。
【
図2】
図2は、本開示に係るコンクリート補強材を有するコンクリート構造体の適用例を説明するための概略図である。
【
図3】
図3は、本開示に係る、脂肪族樹脂繊維を含有するコンクリート補強材の1つの実施態様を示す平面概略図である。
【
図4】
図4は、本開示に係る、脂肪族樹脂繊維を含有するコンクリート補強材の別の実施態様を示す平面概略図である。
【
図5】
図5は、本開示に係る、脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を有するコンクリート補強材の1つの実施態様を示す平面概略図である。
【
図6】
図6は、本開示に係る、脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を有するコンクリート補強材の別の実施態様を示す平面概略図である。
【
図7】
図7は、本開示に係るコンクリート構造体の製造方法の1つの実施態様に係る工程の一部を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る発明の実施の形態を説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。図面に示されている形態は、本開示の例示であり、本開示を限定するものではない。
【0015】
≪脂肪族樹脂繊維を含有するコンクリート補強材≫
本開示に係る、脂肪族樹脂繊維を含有するコンクリート補強材は、
コンクリートに埋め込まれるコンクリート補強材であって、
線状体から構成される網状体、及び網状体の表面に分布している凸状体を有しており、
凸状体が、網状体の面方向に対して少なくとも垂直方向に突き出しており、
線状体が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上の合成樹脂から形成される脂肪族樹脂繊維を含有し、かつ3,500デシテックス~50,000デシテックスの総繊度を有する。
【0016】
従来のコンクリート補強材では、圧縮には強い一方で引張に弱いというコンクリート材料の特性を補うために、高い引張強度・引張弾性率を有する繊維が用いられてきた。このような従来の補強材を有するコンクリート材は、外力に対して比較的強い変形抵抗力を示す一方で、いったんコンクリート材の変形が起こった場合には、変形の程度が比較的小さい段階で、コンクリート片や骨材の剥落及び落下、並びに補強材の引き抜きが発生し、補強効果が皆無になってしまう場合があった。
【0017】
これに対して、本件発明者らは、本開示に係る上記のコンクリート補強材によれば、改善した剥落防止性及び安全性を有するコンクリート補強材を提供することができることを見出した。すなわち、本開示に係るコンクリート補強材によれば、コンクリート材の変形過程において、変形の度合いが小さいときのみならず、変形の度合いが比較的大きい場合であっても、補強材による補強効果及び剥落防止効果を維持することができ、結果として、コンクリート材の変形・破壊の過程における剥落防止や高い安全性を確保することができる。
【0018】
理論によって限定する意図はないが、本開示に係るコンクリート補強材に含有される脂肪族樹脂繊維は、従来の補強材に使用されてきた強化繊維と比較して、変形が小さいときには同等の機能を有しつつ、ある程度変形が大きくなっても補強材としての機能を保持することができる。そのため、本開示に係るコンクリート補強材によって補強されたコンクリート構造体は、変形・破壊がある程度進行した後であっても、一体性を保つことができ、剥落防止性・安全性を保持することができると考えられる。
【0019】
本開示に係る脂肪族樹脂繊維を含有するコンクリート補強材は、コンクリートに埋め込まれる。
【0020】
図1は、本開示に係る脂肪族樹脂繊維を含有するコンクリート補強材10を有するコンクリート構造体11の表面18付近の概略断面図である。このコンクリート構造体11では、本開示に係るコンクリート補強材10が、コンクリート構造体11の表面18に沿ってコンクリート17に埋め込まれている。コンクリート補強材10は、線状体12から構成される網状体、及び凸状体14としての粒状体を有している。凸状体14としての粒状体は、網状体の面方向に対して少なくとも垂直方向に突き出している。コンクリート補強材10の網状体は、この粒状体の粒径に相当する距離で、表面18から離れている。コンクリート構造体11の表面18と、コンクリート補強材10の網状体との間には、コンクリート17中のモルタル分又はセメントペーストが回り込んでおり、コンクリート構造体11の表面18が、良好な外観に仕上げられている。なお、
図1の実施態様では、凸状体14の一部が、コンクリートの表面18に露出している。また、
図1のコンクリート構造体11は、直交する2方向に配置されている鉄筋16、及び、かぶり部分15を有している。
【0021】
図1のコンクリート構造体11は、本開示に係るコンクリート補強材10を有しているため、コンクリート構造体が外力を受けて比較的大きく変形した場合であっても、かぶり部15の一部等がコンクリート片となって剥落することを防止する効果を発揮することができる。
【0022】
また、
図1のコンクリート構造体11では、表面近くにコンクリート補強材10が配置されているため、アルカリ骨材反応や鉄筋の腐食によってコンクリートの表面にひび割れが生じても、ひび割れ幅の拡大が抑制される。
【0023】
図2は、本開示に係るコンクリート構造体の適用例を説明するための概略図である。
図2は、プレストレストコンクリートの箱桁20、下床版21、ウエブ22、及び上床版の張出し部分23を示す。本開示に係るコンクリート補強材1は、例えば、下床版21の下面、ウエブ22の外側面、上床版の張出し部分23の下面近くに、埋め込むことができる。
【0024】
本開示に係るコンクリート補強材は、線状体から構成される網状体及び凸状体から構成されている。凸状体は、網状体を構成する線状体の上に配置されている。
【0025】
本開示に係るコンクリート補強材は、例えば、線状体を網状に編むことによって形成された網状体に、接着剤としてのエポキシ樹脂を含浸させ、かつ、例えば凸状体としての珪砂などを、一様に分布するように接着させることによって、形成することができる。
【0026】
図3は、本開示に係るコンクリート補強材の1つの実施態様を示す平面概略図である。
図3に示されているコンクリート補強材30では、線状体32から構成される網状体が、線状体32上に分布している凸状体としての粒状体34を有している。
【0027】
図4は、本開示に係るコンクリート補強材の別の実施態様を示す平面概略図である。
図4に示されているコンクリート補強材40では、線状体42から構成される網状体が、線状体42上に分布している凸状体としての粒状体44を有している。
【0028】
〈網状体〉
本開示に係るコンクリート補強材の網状体は、線状体から構成されている。
【0029】
網状体は、線状体を織り合わせて形成されていてよい。また、網状体を構成する線状体の間隔(網目の大きさ)は、1mm~500mmであってよく、又は、5mm~200mm、10mm~100mm、若しくは15~60mmであってよい。
【0030】
本開示に係る好ましい1つの実施態様では、網状体を構成する線状体が、互いに55°~65°の角度で交叉している第1方向、第2方向、及び第3方向に沿って延在している。特に好ましくは、第1方向、第2方向、及び第3方向は、互いに、57°~63°、58°~62°、59°~61°、59.5°~60.5°、又は59.9°~60.1°の角度で交叉する。
【0031】
図3のコンクリート補強材の網状体は、線状体32を、互いにほぼ60°で交叉する3方向に配して織り合わせることによって、形成されている。
【0032】
網状体を構成する線状体が、第1方向、第2方向、及び第3方向に沿って延在しており、かつ第1方向、第2方向、及び第3方向が、互いに55~65°の角度で交叉している場合には、線状体が配置される三つの方向へ引張力が作用しても、大きな変形が拘束される。したがって、互いに直角な2方向のみに線状体が配置されている場合と比較して、方向による変形量の差が小さくなる。また、コンクリート補強材を有するコンクリート構造体を製造する際に、引張力を付与しながらコンクリート補強材を型枠内面に接触させることができ、しわ等が生じないように固定する作業が容易となる。
【0033】
本開示に係る好ましい別の実施態様では、コンクリート補強材において、網状体を構成する線状体が、第4方向、第5方向、第6方向、及び第7方向に沿って延在しており、
第4方向及び第5方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、
第6方向及び第7方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、かつそれぞれ第4方向及び第5方向と40°~50°の角度で交叉している。
【0034】
特に好ましくは、
第4方向及び第5方向が、互いに87°~93°、89°~91°、89.5°~90.5°、若しくは89.9°~90.1°の角度で交叉しており、かつ/又は、
第6方向及び第7方向が、互いに87°~93°、89°~91°、89.5°~90.5°、若しくは89.9°~90.1°の角度で交叉しており、かつ、それぞれ、第4方向及び/又は第5方向と42~48°、44~46°、44.5~45.5°、若しくは44.9~45.1°の角度で交叉している。
【0035】
図4のコンクリート補強材の網状体は、線状体42が4つの方向に織り合わされた構造を有している。すなわち、線状体42を、互いに直角な2方向と、これらと45°の角度で交叉する追加の2方向に配置することによって、網状体が形成されている。
【0036】
網状体を構成する線状体が、第4方向、第5方向、第6方向、及び第7方向に沿って延在しており、第4方向及び前記第5方向が、互いに85~95°の角度で交叉しており、第6方向及び前記第7方向が、互いに85~95°の角度で交叉しておりかつそれぞれ第4方向及び/又は第5方向と40~50°の角度で交叉している場合には、互いに直角な方向に引張力を作用させても、双方向に大きな変形が生じない。また、斜め方向においても変形が拘束され、ほぼ等方性となる。したがって、コンクリート補強材の製造過程において、織り上がった網状体を巻き取る作業、網状体を広げた状態に支持して接着剤を含浸する作業、及び網状体に粒状体を接着する作業等が、著しく容易となる。また、コンクリート補強材を有するコンクリート構造体を製造する際に、コンクリート補強材を型枠に沿って配置する作業も容易となる。
【0037】
(線状体)
線状体は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上から形成される脂肪族樹脂繊維を含有する。
【0038】
線状体に含有される脂肪族樹脂繊維としては、ポリビニルアルコール(PVA)及びポリオレフィンが好適であり、これらを複数種混ぜて用いることもできる。ポリビニルアルコールは、アセタール化によって水不溶性としたものを含む。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリメチルペンテンが挙げられる。脂肪族ポリアミドとしては、ナイロン6が挙げられる。
【0039】
脂肪族樹脂繊維を含有するコンクリート補強材を構成する線状体の総繊度は、3,500デシテックスから50,000デシテックスである。総繊度が3,500デシテックス以上であることによって、従来の補強材に使用されてきた強化繊維と比較して、変形が小さいときには同等の機能を有しつつ、ある程度変形が大きくなっても、補強材としての機能を保持することができる。また、総繊度が50,000デシテックス以下であることによって、コンクリート構造体を製造する際に、フレッシュコンクリートが網状体の網目を容易に通り抜けるために十分な大きさの網目サイズを確保することができ、結果として、コンクリート補強材がコンクリート中に良好に埋め込まれたコンクリート構造体を得ることができる。
【0040】
線状体の総繊度については、検尺機を用いて巻き取った100mの線状体の質量を測定し、計測された質量に100を乗じることによって、10000mあたりの繊度(dtex)を算出し、これを線状体の総繊度とすることができる。
【0041】
好ましくは、脂肪族樹脂繊維を含有するコンクリート補強材を構成する線状体の総繊度は、4,000デシテックス以上、5,000デシテックス以上、6,000デシテックス以上、7,000デシテックス以上、若しくは8,000デシテックス以上であってよく、かつ/又は、40,000デシテックス以下、30,000デシテックス以下、20,000デシテックス以下、若しくは15,000デシテックス以下であってよい。
【0042】
線状体の収束状態、及び引き揃えの状態には特に制限はなく、繊維を撚ったものであっても繊維を引き揃えたものであっても、樹脂成型物であってもよい。線状体を構成する繊維(束)は、折り重なっていてもよく、平行に並んでいてもよく、隙間なく並んでいても折り重なっていてもよく、かつ/又は、隙間を伴って並んでいても折り重なっていてもよい。
【0043】
好ましくは、線状体は、上記の脂肪族樹脂繊維を撚り合わせた糸、又は、上記の脂肪族樹脂繊維を束ねた紐状体である。糸又は紐状体である線状体から構成される網状体を有するコンクリート補強材では、網状体を構成する線状体の表面積が比較的大きくなっており、その結果として、網状体と凸状体との付着面積を十分に確保することができる。また、このような網状体は、腐蝕によって劣化するおそれが低減されており、かつ廉価で製造することができる。
【0044】
紐状体は、例えば、100~10,000フィラメント又は500~5,000フィラメントの繊維を引き揃え、そして、引き揃えた繊維を結着樹脂によって紐状に束ねることによって製造されたものであってもよい。
【0045】
(凸状体)
本開示に係るコンクリート補強材は、網状体の表面に分布している凸状体を有しており、この凸状体は、前記網状体の面方向に対して、少なくとも垂直方向に突き出している。
図1のコンクリート補強材10では、凸状体14としての粒状体が、線状体12によって構成される網状体の表面に分布しており、かつ、網状体の面が広がる方向に対して、少なくとも直角方向に突き出している。
【0046】
コンクリート補強材がこのような凸状体を有していることによって、コンクリート補強材を有するコンクリート構造体を製造する際に、凸状体の大きさに応じた距離で、網状体を型枠から離すことができる。そのため、コンクリート構造体の表面から一定距離で離れて埋め込まれたコンクリート補強材を有するコンクリート構造体を得ることができる。
【0047】
コンクリート構造体の表面近くにコンクリート補強材が埋め込まれている場合には、コンクリート構造体の表面付近に作用する引張力に抵抗してコンクリート表面のひび割れが分散されるとともに、ひび割れ幅を小さく抑制することができる。また、コンクリートの劣化によってひびわれが進行しても、コンクリート補強材が表面近くに連続して配置されているので、コンクリート片の剥落が防止される。
【0048】
好ましくは、凸状体は、コンクリート補強材をコンクリート成型用の型枠に当接したときに、網状体の面を型枠の面から所定長だけ離隔するものであり、かつ、当該所定長は、型枠内にコンクリートを打設したときに、コンクリート中のモルタル又はコンクリート中のセメントペーストが型枠と網状体との間に入り込む程度に設定される。この条件を満たす凸状体を用いた場合には、コンクリート部材の表面に網状体が露出することがなく、特に良好な仕上がりとなる。
【0049】
凸状体に関して、上記「所定長」は、1μm~100mmの範囲であり、好ましくは、10μm~50mm、100μm~10mm、1mm~5mm、又は2mm~3mmである。
【0050】
凸状体の形状は特に制限されず、球状、鱗片状、若しくは繊維状であってよく、又は不定形又は球状であってよい。なお、本願に関して、「不定形」は、凸状体が型などによって成形されていないことを意味している。
【0051】
好ましくは、凸状体は、鉱物質の粒状体である。
【0052】
鉱物質の粒状体としては、珪砂及び/又は川砂を用いることができるが、ガラス及び/又は金属の粒を用いてもよい。また、粘土及び/若しくは石炭灰等を混練・造粒・焼成したもの、又は、合成樹脂を粒状に成形したものであってもよい。
【0053】
鉱物質の粒状体の粒径は、特に限定されないが、コンクリート補強材が用いられるコンクリート構造体の形状、寸法、及び/又は用途等に応じて適宜設定することができる。鉱物質の粒状体の粒径は、例えば、0.1mm~100mm、0.5mm~25mm、1mm~10mm、1.5mm~5mm、又は2mm~3mmであってよい。
【0054】
なお、粒状体の粒径は、光学顕微鏡等を用いて取得した画像において、無作為に選んだ100個の粒状体の面積円相当径の平均を算出することによって測定することができる。
【0055】
凸状体は、好ましくは、接着剤を介して網状体に付着している。網状体に凸状体を接着するための接着剤は、特に限定されないが、好ましくは、水に対して不溶性のものであり、エポキシ樹脂等の強い接着力を有するものが特に好ましい。エポキシ樹脂は、硬化することによって、凸状体と網状体との間の特に強固な接着をもたらす。
【0056】
金属、セラミック若しくは合成樹脂からなる部材、若しくは砂、砂利等を、網状体に接着して凸状体としてもよく、又は、未硬化の合成樹脂を網状体にからめて、凸状となるように成形することによって、凸状体を形成してもよい。
【0057】
≪脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を有するコンクリート補強材≫
本開示はまた、下記の、脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材を含む:
コンクリートに埋め込まれるコンクリート補強材であって、
線状体から構成される網状体、及び網状体の表面に分布している凸状体を有しており、
凸状体が、網状体の面方向に対して少なくとも垂直方向に突き出しており、
線状体が、
ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上の合成樹脂から形成される脂肪族樹脂繊維、並びに、
金属繊維、芳香族樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維から選択される1種以上の追加の繊維、
を含有する、
コンクリート補強材。
【0058】
従来のコンクリート補強材では、圧縮には強い一方で引張に弱いというコンクリート材料の特性を補うという観点から、高い引張強度・引張弾性率を有する繊維が用いられてきた。そのため、従来の補強材を有するコンクリート材は、外力に対して比較的強い変形抵抗力を示す一方で、いったんコンクリートの変形が起こった場合には、変形の程度が比較的小さい段階で、コンクリート片や骨材などの剥落及び落下並びに補強材の引き抜きが発生し、それによって、補強効果が皆無になってしまう場合があった。
【0059】
これに対して、本件発明者らは、本開示に係る脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材によれば、改善した剥落防止性及び安全性を有するコンクリート補強材を提供することができることを見出した。すなわち、本開示に係る脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材によれば、コンクリート材の変形過程において、変形の度合いが小さいときのみならず、変形の度合いが比較的大きい場合であっても、補強材による補強効果及び剥落防止効果を維持することができ、結果として、コンクリート材の変形・破壊の過程における剥落防止や高い安全性を確保することができる。
【0060】
理論によって限定する意図はないが、上記の脂肪族樹脂繊維は、従来の補強材に使用されてきた強化繊維と比較して、変形が小さいときには同等の機能を有しつつ、ある程度変形が大きくなっても補強材としての機能を保持することができる。そのため、本開示に係るコンクリート補強材によって補強されたコンクリート構造体は、ある程度変形・破壊された後であっても、コンクリート片等の剥落防止性を維持することができると考えられる。
【0061】
また、本開示に係る脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材は、金属繊維、芳香族樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維から選択される1種以上の追加の繊維を有しているため、コンクリートの変形程度が比較的小さい段階における抵抗力(変形初期の抵抗力・強度)が、さらに向上している。
【0062】
さらに、本開示に係る脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材では、脂肪族樹脂繊維と追加の繊維との割合を選択することによって、変形に対する抵抗力・強度と、変形・破壊の過程における剥落防止や安全性とのバランスを所望の程度に設定することができる。このことは、様々な用途に応じて最適な補強材を得るうえで、特に有利である。
【0063】
〈網状体〉
脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材は、線状体から構成される網状体を含む。網状体に関しては、追加の繊維を含有するということ以外は、脂肪族樹脂繊維を有するコンクリート補強材についての上記の記載を参照することができる。
【0064】
好ましくは、脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材の網状体は、線状体を織り合わせて形成されている。
【0065】
〈線状体〉
脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材では、線状体が、
ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、及び脂肪族ポリアミドから選択される1種以上の合成樹脂から形成される脂肪族樹脂繊維、並びに、
金属繊維、芳香族樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維から選択される1種以上の追加の繊維、
を含有する。
【0066】
(脂肪族樹脂繊維)
脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材において、線状体に含有される脂肪族樹脂繊維については、脂肪族樹脂繊維を有するコンクリート補強材に関する上記の記載を参照することができる。
【0067】
(追加の繊維)
脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を有するコンクリート補強材に含有される追加の繊維は、金属繊維、芳香族樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維から選択される1種以上の繊維である。追加の繊維は、比較的高い引張強度及び/又は引張弾性率を有する繊維であることが好ましい。金属繊維は、例えば、ボロン繊維、チタン繊維、及び/又はスチール繊維であってよい。また、芳香族樹脂繊維は、例えば、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、及び/又はポリアリレートから形成される繊維であってよい。
【0068】
使用実績及び取扱性が優れることから、追加の繊維が芳香族樹脂繊維であることが好ましく、芳香族樹脂繊維としては、アラミド繊維が特に好ましい。
【0069】
脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材では、線状体のうちの一部が、脂肪族樹脂繊維を含有してよく、かつ、線状体のうちの他の一部が、前記追加の繊維を含有してよい。
【0070】
好ましくは、脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材において、網状体を構成する線状体が、第1方向、第2方向、及び第3方向に沿って延在しており、
第1方向、前記第2方向、及び前記第3方向は、互いに55°~65°の角度で交叉しており、
第1方向に沿って延在している線状体が、脂肪族樹脂繊維を含み、
第2方向に沿って延在している線状体が、追加の繊維を含み、かつ
第3方向に沿って延在している線状体が、随意に、脂肪族樹脂繊維又は追加の繊維を含む。
【0071】
図5は、本開示に係る脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材の1つの好ましい実施態様を示す平面概略図である。
図5に示されている脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材50では、線状体52から構成される網状体が、線状体52上に分布している凸状体54を有している。
図5の網状体は、線状体52を、互いにほぼ交叉する3方向に配して織り合わせることによって、形成されている。方向D1に沿って延在している線状体52a(黒色の線)が、本開示に係る脂肪族樹脂繊維を含有しており、方向D2及びD3に沿って延在している線状体52b及び52cが、本開示に係る追加の繊維(白色の線)を含有している。
【0072】
好ましくは、脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材において、
網状体を構成する線状体が、第4方向、第5方向、第6方向、及び第7方向に沿って延在しており、
第4方向及び第5方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、
第6方向及び第7方向は、互いに85°~95°の角度で交叉しており、かつそれぞれ第4方向及び第5方向と40°~50°の角度で交叉しており、
第4方向に沿って延在している線状体が、脂肪族樹脂繊維を含み、
第5方向に沿って延在している線状体が、追加の繊維を含み、かつ
第6方向及び第7方向に沿ってそれぞれ延在している線状体が、随意に、脂肪族樹脂繊維又は追加の繊維を含む。
【0073】
図6は、本開示に係る脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材の別の好ましい実施態様を示す平面概略図である。
図6に示されている脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材60では、線状体62から構成される網状体が、線状体62上に分布している凸状体64を有している。
図6の網状体は、線状体62を、互いに直角な2方向と、これらと45°の角度で交叉する追加の2方向に配置することによって形成されている。
図6に示されているコンクリート補強材60では、方向D4に沿って延在している線状体62a(黒色の線形で示す)が、本開示に係る脂肪族樹脂繊維を含有しており、かつ、方向D5、D6及びD7に沿って延在している線状体62b、62c及び62dが、本開示に係る追加の繊維(白色の線形で示す)を含有している。
【0074】
脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を有するコンクリート補強材の網状体において、脂肪族樹脂繊維を含有する線状体と、追加の繊維を含有する線状体との割合は、要求される補強性能、すなわち、補強されたコンクリート構造体の変形初期の抵抗力・強度を特に重視するのか、変形・破壊の過程における剥落防止や安全性を特に重視するのかを考慮し、それぞれのバランスを取って決めることができる。
【0075】
脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材において、脂肪族樹脂繊維を含有する線状体の総繊度は、3,500デシテックス~50,000デシテックスであってよい。好ましくは、線状体の総繊度は、4,000デシテックス以上、5,000デシテックス以上、6,000デシテックス以上、7,000デシテックス以上、若しくは8,000デシテックス以上であってよく、かつ/又は、40,000デシテックス以下、30,000デシテックス以下、20,000デシテックス以下、若しくは15,000デシテックス以下であってよい。
【0076】
脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材において、追加の繊維を含有する線状体の総繊度は、特に限定されないが、500デシテックス~50,000デシテックスであってよい。好ましくは、線状体の総繊度は、1,000デシテックス以上、2,000デシテックス以上、3,000デシテックス以上、4,000デシテックス以上、若しくは5,000デシテックス以上であってよく、かつ/又は、30,000デシテックス以下、15,000デシテックス以下、10,000デシテックス以下、若しくは7,500デシテックス以下であってよい。
【0077】
好ましくは、脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材において、
線状体のうちの一部が、脂肪族樹脂繊維を撚り合わせた糸、又は脂肪族樹脂繊維を束ねた紐状体であり、かつ、
線状体のうちの他の一部が、追加の繊維を撚り合わせた糸、又は追加の繊維を束ねた紐状体である。
【0078】
追加の繊維として金属線を用いる場合、金属線は、鋼線等充分な強度を有するものであれば、様々なものを用いることができる。例えば、金属線として、コンクリートが中性化しても腐蝕しないステンレス鋼及び/又はチタン等を用いることができる。
【0079】
〈凸状体〉
脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材に含まれる凸状体に関しては、脂肪族樹脂繊維を含有するコンクリート補強材に含まれる凸状体に関する上記の記載を参照することができる。なお、追加の繊維として金属線を用いる場合には、線状体に含有される金属線の一部を凸状に曲げ加工することによって、凸状体を形成することもできる。
【0080】
≪コンクリート構造体≫
本開示は、下記のコンクリート構造体を含む:
本開示に係るコンクリート補強材を有しており、かつ、
コンクリート補強材が、コンクリ―ト構造体の表面付近に、表面の面方向に沿って埋め込まれている。
【0081】
本開示に係るコンクリート構造体の実施態様については、
図1を用いて上述したとおりである。コンクリート補強材とコンクリートとは、好ましくは、密接して一体化している。
【0082】
本開示に係るコンクリート構造体は、本開示に係るコンクリート補強材を有しているため、改善した剥落防止性及び安全性を有する。
【0083】
本開示に係るコンクリート構造体が、本開示に係るコンクリート補強材として、脂肪族樹脂繊維を含有するコンクリート補強材を有する場合には、ある程度変形・破壊された後であっても、剥落防止性を維持することができる。
【0084】
本開示に係るコンクリート構造体が、本開示に係るコンクリート補強材として、脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材を有する場合には、ある程度変形・破壊された後であっても、剥落防止性を維持することができるとともに、コンクリートの変形程度が比較的小さい段階における抵抗力(変形初期の抵抗力・強度)がさらに向上する。
【0085】
さらに、本開示に係るコンクリート構造体が、本開示に係るコンクリート補強材として、脂肪族樹脂繊維及び追加の繊維を含有するコンクリート補強材を有する場合には、含有される脂肪族樹脂繊維と追加の繊維との割合を選択することによって、変形初期の抵抗力・強度と、変形・破壊の過程における剥落防止や安全性とのバランスが用途に応じて最適化されたコンクリート構造体を提供することができる。
【0086】
本開示に係るコンクリート構造体では、コンクリート補強材が、コンクリート構造体を構成するコンクリートに密接していることが好ましい。本開示に係るコンクリート構造体を構成するコンクリートは、特に限定されず、土木構造物向けに用いられる一般的なコンクリートを用いることができる。
【0087】
本開示に係るコンクリート構造体のサイズは特に限定されない。また、本開示に係るコンクリート構造体の形状も特に限定されず、例えば、平板状であってよい。
【0088】
好ましくは、本開示に係るコンクリート構造体は、NEXCO試験方法424-2011「はく落防止の押抜き試験方法」(4.1連続繊維シートをコンクリート表面近傍に埋め込む場合)に依拠する押抜き試験に従って計測したときに、変位40mmにおける0.3kN以上の抵抗力、及び/又は変位50mmにおける0.2kN以上の抵抗力を示す。
【0089】
さらに好ましくは、本開示に係るコンクリート構造体は、上記押抜き試験に従って計測したときに、変位40mmにおける0.5kN以上の抵抗力、1.0kN以上の抵抗力、1.5kN以上の抵抗力、若しくは2.0kN以上の抵抗力を示し、かつ/又は、変位50mmにおける0.3kN以上の抵抗力、0.5kN以上の抵抗力、1.0kN以上の抵抗力、1.5kN以上の抵抗力、若しくは2.0kN以上の抵抗力を示す。
【0090】
また、好ましくは、本開示に係るコンクリート構造体は、上記押抜き試験に従って計測したときに、変位10mmにおける0.5kN以上の抵抗力、1.0kN以上の抵抗力、1.5kN以上の抵抗力、若しくは2.0kN以上の抵抗力を示し、かつ/又は、変位20mmにおける0.8kN以上の抵抗力、1.5kN以上の抵抗力、2.5kN以上の抵抗力、3.0kN以上の抵抗力、若しくは3.5kN以上の抵抗力を示し、かつ/又は、変位30mmにおける1.5kN以上の抵抗力、2.5kN以上の抵抗力、3.5kN以上の抵抗力、4.0kN以上の抵抗力、若しくは4.5kN以上の抵抗力を示す。
【0091】
本開示に係るコンクリート構造体は、例えば、下記に示す本開示に係る製造方法によって製造することができる。
【0092】
≪コンクリート構造体の製造方法≫
本開示は、下記を含むコンクリート構造体の製造方法を含む:
コンクリート成型用の型枠を提供すること(型枠提供工程)、
本開示に係るコンクリート補強材を提供すること(補強材提供工程)、
コンクリート補強材を、型枠の内面に沿って、コンクリート補強材の凸状体が型枠の底部に接触するように配置し、それによって、コンクリート補強材の前記網状体と型枠の底部との間に間隔を形成すること(補強材配置工程)、並びに
コンクリートを、型枠内に、コンクリート、コンクリート中のモルタル及び/又はコンクリート中のセメントペーストが上記の間隔に流れ込むように打設し、それによって、網状体を、コンクリートに埋め込むこと(打設工程)、
を含む。
【0093】
本開示に係る製造方法によれば、コンクリート補強材の凸状体が型枠の底部に接触するように、コンクリート補強材を型枠の内面に沿って配置するので、コンクリート補強材が、型枠内面から一定の距離で離れた位置に支持され、結果として、コンクリート補強材の網状体と型枠内面との間に、間隔が形成される。そのため、コンクリートを打設したときに、コンクリート中のモルタル分及び/又はセメントペーストが上記の間隙に回り込み、コンクリート補強材が、コンクリート構造体の表面下に良好に埋め込まれる。したがって、本開示に係る製造方法によれば、コンクリート部材の表面に網状体が露出することがなく、良好な仕上がりとなる。また、網状体がコンクリート中に埋め込まれることによって網状体の劣化も防止される。さらに、網状体の配置が容易となるため、表面近くが補強されるとともに外観が良好なコンクリート構造体を、安価で形成することが可能となる。
【0094】
さらに、本開示に係る製造方法によれば、本開示に係るコンクリート補強材を有するコンクリート構造体を製造することができるため、改善した剥落防止性及び安全性を有するコンクリート構造体を提供することができる。
【0095】
〈型枠提供工程〉
本開示のコンクリート構造体の製造方法における型枠提供工程では、コンクリート成型用の型枠を提供する。型枠は、特に限定されず、コンクリート成型に用いられる公知の型枠を用いることができる。例えば、型枠としては、合板及び/又は桟木から組み立てられる型枠であってよい。型枠の形状は特に限定されず、製造されるコンクリート構造体の形状に合わせて適宜設定することができる。
【0096】
〈補強材提供工程〉
本開示のコンクリート構造体の製造方法における補強材提供工程では、本開示に係るコンクリート補強材を提供する。本開示に係るコンクリート補強材については、上述の記載を参照することができる。
【0097】
補強材提供工程では、型枠の大きさに合わせて調整されたコンクリート補強材のサイズを提供することができる。例えば、コンクリート補強材を裁断することによって、コンクリート補強材のサイズを調整してよい。
【0098】
〈補強材配置工程〉
本開示のコンクリート構造体の製造方法における補強材配置工程では、コンクリート補強材を、型枠の内面に沿って、コンクリート補強材の凸状体が型枠の底部に接触するように配置し、それによって、コンクリート補強材の網状体と型枠の底部との間に間隔を形成する。
【0099】
補強材配置工程では、例えば、コンクリート構造体の面のうち、表面の補強が必要な面に対応する型枠の内面に沿って、型枠と接触するように、コンクリート補強材を配置してよい。また、補強材配置工程で配置されるコンクリート補強材は、網状体と凸状体との間の接着が完全でない状態のものを用いることもできるが、網状体に適用された接着剤が硬化して、剛性を有していることが好ましい。
【0100】
好ましくは、補強材配置工程において、コンクリート補強材を型枠に仮固定する。コンクリート補強材を型枠に仮固定する場合、コンクリート補強材の数カ所において型枠に仮固定するだけで、所定の位置に支持することができる。仮固定は、公知の固定具を用いて行うことができる。
【0101】
補強材配置工程において、接着剤でコンクリート補強材を型枠に仮固定してもよい。この場合に使用される接着剤としては、脱型の際に容易に離脱されるもので、かつコンクリート構造体の表面を汚さないものを選択することが好ましい。
【0102】
(鉄筋の組立)
本開示に係る製造方法は、型枠内に鉄筋を組み立てる鉄筋組立工程を、さらに含むことができる。鉄筋組立工程は、好ましくは、補強材配置工程の後に行われる。なお、鉄筋組立工程では、あらかじめ工場又は組み立てヤード等で篭状に組み立てられた鉄筋を、型枠内の所定位置に据え付けてもよい。
【0103】
鉄筋の設置寸法およびかぶり厚を確保するために、型枠に対して鉄筋の位置を固定してもよい。例えば、長手方向の鉄筋を型枠に貫通させ、かつ、直交する鉄筋と結束線を用いて固定することによって、型枠に対する鉄筋の位置を固定することができる。
【0104】
鉄筋組立工程の後に、モルタルスペーサー取付工程をさらに行うことができる。モルタルスペーサー取付工程では、モルタルスペーサーを鉄筋に取り付け、かつ、モルタルスペーサーをコンクリート補強材に当接させる。モルタルスペーサーを取り付けることによって、鉄筋と型枠との間隔を保持することが可能となる。
【0105】
〈打設工程〉
本開示のコンクリート構造体の製造方法における打設工程では、コンクリートを、型枠内に、コンクリート、コンクリート中のモルタル及び/又はコンクリート中のセメントペーストが上記の間隔に流れ込むように打設し、それによって、網状体を、コンクリートに埋め込む。好ましくは、打設工程では、コンクリートを、型枠内に、コンクリート中のモルタル及び/又はコンクリート中のセメントペーストが上記の間隔に流れ込むように打設し、それによって、網状体を、コンクリートに埋め込む。
【0106】
コンクリートの打設の様式は、特に限定されず、例えば、スコップを用いてコンクリートを型枠内へ落とし込むことによってコンクリートの打設を行ってよい。
【0107】
打設工程では、バイブレーター等を用いることによって、コンクリートのモルタル分又はセメントペーストがコンクリート補強材と型枠との間に充分回り込むようにすることができる。例えば、内部振動機を用いた締固めを行うことができる。
【0108】
(養生工程)
好ましくは、打設工程の後に、充分な養生を行い、その後に、脱型する。例えば、打設工程の後に、5日~20日にわたって、15~25℃の温度において、湿布養生を行い、その後で、型枠からコンクリート構造体を外してよい。
【0109】
図7は、本開示に係るコンクリート構造体の製造方法の1つの実施態様における製造過程の一部を示す。
図7に示す方法では、まず、(
図7でその一部を示す)型枠78を、所定の位置に組み立てる。そして、
図7に示すように、補強が意図されている側のコンクリート構造体の表面に対応する型枠78の底部78aに沿って、コンクリート補強材70を、底部78aと接触するように、配置する。そして、随意に、型枠78内に鉄筋76を組み立てる。そして、随意に、モルタルスペーサー79を鉄筋76に取り付け、かつコンクリート補強材70に当接させる。そして、型枠78内に、コンクリート(図示されていない)を打設する。
【0110】
本開示に係る製造方法によれば、コンクリート補強材70を型枠78に接するように配置しておくだけで、コンクリート表面近くに補強材を有するコンクリート構造体を容易に形成することができ、結果として、コンクリート構造体の表面に補強材が露出することなく良好な外観に仕上げられる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこの具体的に示された実施例に限定されるものではない。
【0112】
≪実施例1≫
下記のとおり、実施例1に係るコンクリート補強材を有するコンクリート構造体(コンクリート供試体)を製造し、押抜き試験によって性能評価を行った。
【0113】
〈コンクリート供試体の製造〉
コンクリート供試体は、幅400×長さ600×厚さ100ミリメートルの平板であった。コンクリート供試体は、NEXCO試験方法424-2011「はく落防止の押抜き試験方法」(4.1 連続繊維シートをコンクリート表面近傍に埋め込む場合)に従って、1水準あたり3個作成した。
【0114】
(型枠)
コンクリート供試体を製造するために用いた型枠として、コンクリート型枠用合板及び桟木を組み立てたものを用いた。鉄筋の設置寸法及びかぶり厚を確保するため、長手方向の鉄筋を型枠に貫通させ、直交彷徨の鉄筋と結束線を用いて固定した。
【0115】
(網状体)
実施例1に係るコンクリート補強材(連続繊維シート)の網状体を構成する線状体は、ポリビニルアルコール(PVA)繊維フィラメント(クラレ社製)を引き揃え結着樹脂で線状に束ねたものであり、その総繊度が10640デシデックスであった。この線状体を互いにほぼ60°の角度で交叉する3方向に配して織り合わせることによって、網状体を形成した。網状体の糸の間隔(網目の大きさ)は15~60mmであった。
【0116】
(凸状体)
実施例1に係るコンクリート補強材の凸状体として、粒径が2~3mmの珪砂を用いた。
(コンクリート補強材の製造)
接着剤としての液状の未硬化エポキシ樹脂を、上記の網状体に含浸させた。そして、含浸液から引き上げた網状体に、凸状体としての上記の珪砂を押し付けて接着させ、接着剤を硬化させて、網状体に珪砂が分布している実施例1に係るコンクリート補強材を製造した。
【0117】
(補強材の配置)
コンクリート補強材を400mm×400mmのサイズに裁断して、型枠側が珪砂面となるように型枠内にして型枠内に配置し、専用の留め具を打ち込んで固定した。
【0118】
(打設)
コンクリート打設のためのコンクリートは、土木構造物向けの一般的な配合(JIS A 5308(レディーミクストコンクリート))を用いた。スコップを用いてコンクリートを静かに型枠内へ落とし込み、内部振動機を用いて、鉄筋に触れぬように締固めを行って、コンクリートの打設を行った。
【0119】
ブリーディングが収まる頃を見計らって、木ごて及び金ごてを用いて、上面を平坦に仕上げた。
【0120】
コンクリート打設後に、材齢10日まで温度摂氏20度の室内で湿布養生を行った。そして、型枠脱型を行った後に、温度摂氏23度程度の室内で、空中養生を行った。その間に、押抜き試験の準備として、材齢20日に、湿式ダイヤモンドコアドリルを用いて、打ち込み面側から直径100mm、深さ80±3mmまでコア削孔を行った。
【0121】
コア抜き後に、コンクリート供試体を直ちに室温摂氏23±2度の室内に移動し、試験直前(48時間以上経過)まで静置した。
【0122】
〈押抜き試験〉
実施例1に係るコンクリート構造体について、NEXCO試験方法424-2011「はく落防止の押抜き試験方法」(4.1連続繊維シートをコンクリート表面近傍に埋め込む場合)に依拠して、押抜き試験を行った。
【0123】
押抜き試験の具体的な手順を、下記に示す:
1)コンクリート供試体は、3個を1組とした。
2)コンクリート供試体を架台に設置し、コア中央部に鉛直、均等に荷重がかかるように、直径100ミリメートル、厚さ55ミリメートルの鋼製アンビルを球座に挟んで載荷した。
3)球座と鋼製アンビルとの間隙を荷重がかからない位置まで最小にし、変位の0(ゼロ)点調整をした。
4)載荷速度は試験機のクロスヘッド速度とし、変位0(ゼロ)ミリメートルよりコア部のコンクリートが破壊するまで1ミリメートル/分、以降試験終了まで5ミリメートル/分とし、荷重と変位を測定した。
5)変位10ミリメートルごとに載荷を停止し、はく離範囲のマーキングを行った。
6)変位30ミリメートル時点において最終的な耐荷力が確認された場合は、試験を終了し、さらなる耐荷力を有すると判断された場合は、変位40ミリメートル又は50ミリメートルまで試験を継続し、剥落防止性能を確認した。
7)荷重と変位の測定データに基づいて、変位10ミリメートル以上の最大荷重を求めた。
8)コンクリート供試体3個についてそれぞれ取得したデータから、変位10ミリメートル以上の最大荷重の平均値を求め、これを試験値とした。
【0124】
実施例1について行った押抜き試験の結果を、下記の表1に示す。
【0125】
≪実施例2≫
線状体の総繊度を6650デシテックスとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表1に示す。
【0126】
≪実施例3≫
PVA繊維から形成された線状体の代わりにポリエチレン(PE)繊維から形成された線状体を用い、かつ総繊度を6600デシテックスとした以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表1に示す。
【0127】
≪実施例4≫
PVA繊維から形成された線状体の代わりにポリプロピレン(PP)繊維(三菱レーヨン社製)から形成された線状体を用い、かつ総繊度を10020デシテックスとした以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表1に示す。
【0128】
≪実施例5≫
PVA繊維から形成された線状体の代わりにポリメチルペンテン(PMP)繊維から形成された線状体(三井化学社製の樹脂を溶融紡糸して作製したもの)を用い、かつ総繊度を10000デシテックスとした以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表1に示す。
【0129】
≪実施例6≫
PVA繊維から形成された線状体の代わりにナイロン6(PA)から形成された線状体(宇部興産株式会社製のナイロン6樹脂を溶融紡糸して作製したもの)を用い、かつ総繊度を10000デシテックスとした以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表1に示す。
【0130】
≪実施例7≫
PVA繊維から形成された線状体の総繊度を3990デシテックスとした以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表1に示す。
【0131】
≪比較例1≫
PVA繊維から形成された線状体の代わりにパラ型全芳香族ポリアミド繊維(TN、帝人株式会社製の「テクノーラ(登録商標)」)から形成された線状体を用い、かつ総繊度を6680デシテックスとした以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表1及び表2に示す。
【0132】
≪比較例2≫
PVA繊維から形成された線状体の代わりにパラ型全芳香族ポリアミド繊維(TN、帝人株式会社製の「テクノーラ(登録商標)」)から形成された線状体を用い、かつ総繊度を3340デシテックスとした以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表1及び表2に示す。
【0133】
≪比較例3≫
PVA繊維から形成された線状体の総繊度を3300デシテックスとした以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表1に示す。
【0134】
【0135】
表1で見られるように、PVA繊維、PE繊維、PP繊維、PMP繊維又はPA繊維を含有しており総繊度が3500以上であるコンクリート補強材を有する実施例1~7のコンクリート構造体は、変位が比較的大きい場合(変位=40mm又は50mmの場合)であっても、比較的大きい抵抗力を示すことが分かる。
【0136】
これに対して、表1で見られるように、TN繊維から構成されるコンクリート補強材を有する比較例1及び比較例2のコンクリート構造体では、変位が比較的大きい場合(変位=40mm又は50mmの場合)に、抵抗力が失われていることが分かる。
【0137】
また、表1で見られるように、PVA繊維を含有していても、総繊度が3500デシテックス以下である場合(比較例3のコンクリート構造体の場合)には、実施例1~7と比較して、抵抗力が低いことが分かる。
【0138】
≪実施例8及び9≫
実施例8及び9では、網状体を構成する線状体の一部としてアラミド繊維から形成された線状体を用い、かつ、線状体の他の一部としてPVA繊維から形成された線状体を用いて、実験を行った。
【0139】
〈実施例8〉
網状体を構成する3方向の線状体のうちの1方向において、PVA繊維から形成された線状体の代わりに、パラ型全芳香族ポリアミド繊維(TN、帝人株式会社製の「テクノーラ(登録商標)」)から形成された総繊度6680デシテックスの線状体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表2に示す。
【0140】
〈実施例9〉
網状体を構成する3方向の線状体のうちの2方向において、PVA繊維から形成された線状体の代わりに、パラ型全芳香族ポリアミド繊維(TN、帝人株式会社製の「テクノーラ(登録商標)」)から形成された総繊度6680デシテックスの線状体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係るコンクリート構造体を作成し、押抜き試験を行った。結果を下記の表2に示す。
【0141】
【0142】
表2で見られるように、線状体の一部がPVA繊維を含有しておりかつ線状体の他の一部がTN繊維を含有しているコンクリート補強材を有する実施例8及び9に係るコンクリート構造体は、TN繊維含有線状体のみを含有するコンクリート補強材を有する比較例1及び2に係るコンクリート構造体と比較して、比較的変位の程度が大きい場合(変位=40mm又は50mmの場合)において、比較的大きい抵抗力を有していたことがわかる。
【0143】
なお、線状体の一部がPVA繊維を含有しておりかつ線状体の他の一部がTN繊維を含有しているコンクリート補強材を有する実施例8及び9に係るコンクリート構造体(表2参照)は、PVA繊維を含有するコンクリート補強材を有する実施例1に係るコンクリート構造体(表1)と比較して、比較的変位の程度が小さい場合(変位=20mm又は30mmの場合)における抵抗力が、比較的大きいことがわかる。したがって、本開示に係るコンクリート補強材によれば、コンクリート補強材に含有される繊維の種類及び/又はその割合を設定することによって、変位の程度に応じて最適な抵抗力を示すコンクリート補強材が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0144】
10、30、40、50、60、70 コンクリート補強材
11 コンクリート構造体
12、32、42、52、62、52a、52b、52c、62a、62b、62c、62d、72 線状体
14、34、44、54、64、74 凸状体
15 かぶり部分
16、76 鉄筋
17 コンクリート
20 プレストレストコンクリートの箱桁
21 下床版
22 ウエブ
23 上床版の張出し部分
79 モルタルスペーサー
78 型枠
78a 型枠の底部
D1、D2、D3、D4、D5、D6、D7 方向