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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20250207BHJP
   F16C 19/04 20060101ALI20250207BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20250207BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20250207BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20250207BHJP
   F16J 15/324 20160101ALI20250207BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/04
F16C33/66 Z
F16C33/78 D
F16J15/3204 201
F16J15/324
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020138674
(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公開番号】P2022034797
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-03-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克明
(72)【発明者】
【氏名】宮入 進
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-249108(JP,A)
【文献】特開2004-092682(JP,A)
【文献】特開2002-130292(JP,A)
【文献】特開2008-175257(JP,A)
【文献】特開平11-210757(JP,A)
【文献】特開2007-303600(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158564(WO,A1)
【文献】特開2018-159392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/41
F16C 19/04
F16C 33/66
F16C 33/76-33/78
F16J 15/3204
F16J 15/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪(2)と、
前記内輪(2)の径方向外側に同軸に設けられた外輪(3)と、
前記内輪(2)と前記外輪(3)の間に形成される環状空間(4)に組み込まれた複数の玉(5)と、
前記複数の玉(5)を保持する樹脂製保持器(7)と、を備え、
前記外輪(3)の内周には、前記玉(5)が転がり接触する外輪軌道溝(12)と、前記外輪軌道溝(12)の軸方向両側に位置する一対の外輪溝肩部(13)とが設けられ、
前記樹脂製保持器(7)は、前記玉(5)の通過領域に隣接して周方向に延びる保持器円環部(21)と、前記保持器円環部(21)から周方向に隣り合う前記玉(5)の間を軸方向に延びる片持ち梁状の保持器爪部(22)と、を有する玉軸受において、
前記保持器爪部(22)の軸方向長さが、前記外輪軌道溝(12)の軸方向幅よりも大きく設定され、
前記保持器円環部(21)の径方向外側面に、前記一対の外輪溝肩部(13)のうちの一方の外輪溝肩部(13)に摺接する根元側被案内面(23)が形成され、
前記保持器爪部(22)の先端側の軸方向端部の径方向外側面に、前記一対の外輪溝肩部(13)のうちの他方の外輪溝肩部(13)に摺接する先端側被案内面(24)が形成され、
前記根元側被案内面(23)および前記先端側被案内面(24)は、周方向に沿った断面形状が径方向外方に突出する円弧状に形成され、
前記根元側被案内面(23)および前記先端側被案内面(24)の周方向に沿った断面の曲率半径を、前記外輪溝肩部(13)の内径の半径の1/2よりも小さく、前記外輪溝肩部(13)の内径の半径の1/10よりも大きく設定し
前記環状空間(4)の軸方向の一方の端部開口を塞ぐ環状のシール部材(6)を更に有し、
前記保持器円環部(21)は、前記シール部材(6)と軸方向に対向して摺接する保持器側摺接面(42)を有し、
前記シール部材(6)は、前記保持器側摺接面(42)に摺接するシール側摺接面(43)を有し、
前記保持器側摺接面(42)と前記シール側摺接面(43)のうちの一方の摺接面に、周方向に沿った断面形状が軸方向に凸の円弧状の複数の軸方向突起(44)が周方向に一定ピッチで形成され
前記軸方向突起(44)は、周方向に沿った断面における軸方向に凸の円弧状の頂部の高さが径方向に沿って一定の平行頂部(45)と、周方向に沿った断面における軸方向に凸の円弧状の頂部の高さが前記平行頂部(45)の径方向外端から径方向外方に向かって次第に低くなる傾斜頂部(46)とを有することを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
前記保持器爪部(22)は、前記玉(5)と周方向に対向する周方向対向面(27)を有し、
前記周方向対向面(27)の、前記玉(5)を周方向に受け止める部分は、遠心力で前記保持器爪部(22)が径方向外方に移動したときに前記周方向対向面(27)が前記玉(5)に干渉しないように、保持器円環部(21)の中心と保持器爪部(22)の中心とを結ぶ直線と平行に延びる平面形状とされている請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記根元側被案内面(23)の前記保持器爪部(22)から遠い側の軸方向端縁(25)と、前記先端側被案内面(24)の前記保持器円環部(21)から遠い側の軸方向端縁(26)とが、R面取りされている請求項1または2に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記保持器爪部(22)の径方向外側面の前記根元側被案内面(23)と前記先端側被案内面(24)との間に、前記外輪軌道溝(12)の軸方向幅よりも広い軸方向幅をもって周方向に延びる逃がし凹部(41)が形成されている請求項1から3のいずれかに記載の玉軸受。
【請求項5】
前記保持器爪部(22)の径方向内側面に、前記保持器爪部(22)の先端から前記保持器円環部(21)に向かって軸方向に延びる油溜まり溝(40)が形成されている請求項1から4のいずれかに記載の玉軸受。
【請求項6】
前記傾斜頂部(46)は、周方向に直交する断面形状が、前記平行頂部(45)と滑らかに接続するR形状である請求項1から5のいずれかに記載の玉軸受。
【請求項7】
前記複数の軸方向突起(44)は、前記玉(5)のピッチ円に重なる位置かそれよりも径方向外側に配置されている請求項1から6のいずれかに記載の玉軸受。
【請求項8】
前記環状空間(4)の前記シール部材(6)で塞がれた側の軸方向端部とは反対側の軸方向端部は、外部から供給される潤滑剤を前記環状空間(4)に受け入れるように、シール部材(6)を設けずに開放している請求項1から7のいずれかに記載の玉軸受。
【請求項9】
電気自動車の電動モータ(31)の回転を減速する電気自動車用トランスミッション(30)の軸受として使用される請求項1からのいずれかに記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や産業機械などの回転軸を支持する軸受として、玉軸受が多く用いられる。一般に、玉軸受は、内輪と、内輪の径方向外側に同軸に設けられた外輪と、内輪と外輪の間の環状空間内に設けられた複数の玉と、その複数の玉を保持する保持器とを有する。
【0003】
保持器としては、例えば、特許文献1のように、玉の通過領域に隣接して周方向に延びる保持器円環部と、保持器円環部から周方向に隣り合う玉の間を軸方向に延びる片持ち梁状の保持器爪部とを有する樹脂製保持器(いわゆる冠形保持器)が知られている。保持器爪部は、玉の表面に対向する玉案内面を有し、この玉案内面は、玉を抱え込むように玉の表面に沿った凹球面とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3035766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、EV(バッテリー式電気自動車)やHEV(ハイブリッド電気自動車)等の電気自動車の分野では、電動モータの小型軽量化を図るために、電動モータの高速回転化が進められている。このような電動モータの回転が入力される回転軸を支持する玉軸受は、dmn値(玉のピッチ円直径dm(mm)×回転数n(min-1))が200万を超える条件で使用されることもある。
【0006】
本願の発明者らは、EVやHEV等の高速回転する回転軸を支持する玉軸受に、冠形保持器を使用することを検討した。
【0007】
しかしながら、高速回転する玉軸受に冠形保持器を使用する場合、片持ち梁状の保持器爪部に作用する遠心力によって、保持器爪部を径方向外方に向かって傾ける方向のねじり変形が保持器円環部に生じるとともに、保持器爪部自体にも径方向外方に向かって撓み変形が生じ、これらの変形によって保持器爪部が玉に干渉するおそれがあることが分かった。保持器爪部が玉に干渉すると、玉軸受の発熱の原因となる。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、高速回転で使用したときに遠心力による樹脂製保持器の変形が生じにくい玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成を玉軸受に採用する。
内輪と、
前記内輪の径方向外側に同軸に設けられた外輪と、
前記内輪と前記外輪の間に形成される環状空間に組み込まれた複数の玉と、
前記複数の玉を保持する樹脂製保持器と、を備え、
前記外輪の内周には、前記玉が転がり接触する外輪軌道溝と、前記外輪軌道溝の軸方向両側に位置する一対の外輪溝肩部とが設けられ、
前記樹脂製保持器は、前記玉の通過領域に隣接して周方向に延びる保持器円環部と、前記保持器円環部から周方向に隣り合う前記玉の間を軸方向に延びる片持ち梁状の保持器爪部と、を有する玉軸受において、
前記保持器爪部の軸方向長さが、前記外輪軌道溝の軸方向幅よりも大きく設定され、
前記保持器円環部の径方向外側面に、前記一対の外輪溝肩部のうちの一方の外輪溝肩部に摺接する根元側被案内面が形成され、
前記保持器爪部の先端側の軸方向端部の径方向外側面に、前記一対の外輪溝肩部のうちの他方の外輪溝肩部に摺接する先端側被案内面が形成され、
前記根元側被案内面および前記先端側被案内面は、周方向に沿った断面形状が径方向外方に突出する円弧状に形成されていることを特徴とする玉軸受。
【0010】
このようにすると、根元側被案内面が、周方向に沿った断面形状が径方向外方に突出する円弧状に形成されているので、根元側被案内面と一方の外輪溝肩部との間に、くさび膜効果による油膜が形成され、その油膜によって根元側被案内面と外輪溝肩部の間が流体潤滑状態となり、保持器と外輪の間の接触抵抗をきわめて小さく抑えることができる。同様に、先端側被案内面が、周方向に沿った断面形状が径方向外方に突出する円弧状に形成されているので、先端側被案内面と他方の外輪溝肩部との間に、くさび膜効果による油膜が形成され、その油膜によって先端側被案内面と外輪溝肩部の間が流体潤滑状態となり、保持器と外輪の間の接触抵抗をきわめて小さく抑えることができる。そのため、保持器と外輪の接触部分の摺動抵抗によって異常発熱するのを防止することができる。また、一対の外輪溝肩部のうちの一方の外輪溝肩部が、保持器円環部を径方向外側から支持し、他方の外輪溝肩部が、保持器爪部の先端側の軸方向端部を径方向外側から支持するので、保持器爪部が、径方向外方に向かって撓み変形を生じにくい。そのため、高速回転で使用したときにも、保持器爪部が受ける遠心力によって保持器円環部にねじり変形が生じるのを抑えるとともに、保持器爪部自体にも径方向外方に向かって撓み変形が生じるのを抑えることができる。
【0011】
前記保持器爪部は、前記玉と周方向に対向する周方向対向面を有し、
前記周方向対向面の、前記玉を周方向に受け止める部分は、遠心力で前記保持器爪部が径方向外方に移動したときに前記周方向対向面が前記玉に干渉しないように、保持器円環部の中心と保持器爪部の中心とを結ぶ直線と平行に延びる平面形状とされている構成を採用すると好ましい。
【0012】
このようにすると、保持器爪部の周方向対向面が平面形状なので、保持器爪部に作用する遠心力によって、保持器爪部が径方向外方に移動したときに、保持器爪部の周方向対向面が玉に干渉するのを防止することができる。また、保持器爪部の周方向対向面と玉との間で生じる潤滑剤の剪断抵抗が低く抑えられるので、玉軸受の発熱を抑制することも可能である。
【0013】
前記根元側被案内面の前記保持器爪部から遠い側の軸方向端縁と、前記先端側被案内面の前記保持器円環部から遠い側の軸方向端縁とに、R面取りを施すと好ましい。
【0014】
このようにすると、根元側被案内面と一方の外輪溝肩部との間に、くさび膜効果による油膜を効果的に形成することができるとともに、先端側被案内面と他方の外輪溝肩部との間にも、くさび膜効果による油膜を効果的に形成することが可能となる。
【0015】
前記保持器爪部の径方向外側面の前記根元側被案内面と前記先端側被案内面との間に、前記外輪軌道溝の軸方向幅よりも広い軸方向幅をもって周方向に延びる逃がし凹部を形成すると好ましい。
【0016】
このようにすると、外輪溝肩部と外輪軌道溝の境界部分が、保持器円環部の径方向外側面または保持器爪部の径方向外側面に摺接するのを防止することができる。そのため、保持器円環部の径方向外側面または保持器爪部の径方向外側面が、外輪溝肩部と外輪軌道溝の境界部分に対応する位置で、局所的に摩耗するのを防止することが可能となる。
【0017】
前記保持器爪部の径方向内側面に、前記保持器爪部の先端から前記保持器円環部に向かって軸方向に延びる油溜まり溝を形成すると好ましい。
【0018】
このようにすると、遠心力で外径側に飛散する潤滑剤を油溜まり溝に溜め、その潤滑剤を内輪に供給することが可能となる。
【0019】
前記環状空間の軸方向の一方の端部開口を塞ぐ環状のシール部材を更に有し、
前記保持器円環部は、前記シール部材と軸方向に対向して摺接する保持器側摺接面を有し、
前記シール部材は、前記保持器側摺接面に摺接するシール側摺接面を有し、
前記保持器側摺接面と前記シール側摺接面のうちの一方の摺接面に、周方向に沿った断面形状が軸方向に凸の円弧状の複数の軸方向突起が周方向に一定ピッチで形成されている構成を採用すると好ましい。
【0020】
このようにすると、保持器側摺接面とシール側摺接面のうちの一方の摺接面に、周方向に沿った断面形状が軸方向に凸の円弧状の複数の軸方向突起が周方向に一定ピッチで形成されているので、その軸方向突起と摺接面の間に、くさび膜効果による油膜が形成され、その油膜によって軸方向突起と摺接面の間が流体潤滑状態となり、保持器とシール部材の間の接触抵抗をきわめて小さく抑えることができる。そのため、保持器とシール部材の接触部分の摺動抵抗によって異常発熱するのを防止することができる。また、保持器円環部がシール部材に摺接して設けられているので、保持器円環部の軸方向厚さを大きく設定することができ、保持器円環部の剛性を高めることが可能となる。そのため、高速回転で使用したときにも、保持器爪部が受ける遠心力による保持器円環部のねじり変形を抑えることができる。
【0021】
前記軸方向突起は、周方向に沿った断面における軸方向に凸の円弧状の頂部の高さが径方向に沿って一定の平行頂部と、周方向に沿った断面における軸方向に凸の円弧状の頂部の高さが前記平行頂部の径方向外端から径方向外方に向かって次第に低くなる傾斜頂部とを有する構成を採用すると好ましい。
【0022】
このようにすると、低速で軸受が回転し、保持器爪部が受ける遠心力が比較的小さいときには、軸方向突起の平行頂部と摺接面との間に、くさび膜効果による油膜を形成することができる。また、高速で軸受が回転し、保持器爪部が受ける遠心力が比較的大きいときには、保持器円環部が比較的大きいねじり変形を生じた状態で、軸方向突起の平行頂部および傾斜頂部と摺接面との間に、くさび膜効果による油膜を形成することができる。このように、軸受の回転速度によらず、安定して保持器とシール部材との間にくさび膜効果による油膜を形成することが可能となる。
【0023】
前記傾斜頂部は、周方向に直交する断面形状が、前記平行頂部と滑らかに接続するR形状とすると好ましい。
【0024】
このようにすると、傾斜頂部と平行頂部とが滑らかに接続しているので、保持器円環部が比較的大きいねじり変形を生じた状態で、平行頂部および傾斜頂部と摺接面との間にくさび膜効果による油膜を形成するときに、その油膜を安定して形成することが可能である。
【0025】
前記複数の軸方向突起は、前記玉のピッチ円に重なる位置かそれよりも径方向外側に配置すると好ましい。
【0026】
このようにすると、保持器爪部に作用する遠心力によって、保持器爪部を径方向外方に向かって傾ける方向のねじり変形が保持器円環部に生じたときに、そのねじり変形により、保持器側摺接面とシール側摺接面とが、軸方向突起よりも径方向外側に外れた位置で接触する事態を防止することができる。
【0027】
前記環状空間の前記シール部材で塞がれた側の軸方向端部とは反対側の軸方向端部は、外部から供給される潤滑剤を前記環状空間に受け入れるように、シール部材を設けずに開放している構成を採用すると好ましい。
【0028】
このようにすると、根元側被案内面および先端側被案内面を十分に潤滑して、確実にくさび膜による油膜を形成することが可能となる。
【0029】
電気自動車の電動モータの回転を減速する電気自動車用トランスミッションの軸受として使用すると特に好適である。
【発明の効果】
【0030】
この発明の玉軸受は、根元側被案内面が、周方向に沿った断面形状が径方向外方に突出する円弧状に形成されているので、根元側被案内面と一方の外輪溝肩部との間に、くさび膜効果による油膜が形成され、その油膜によって根元側被案内面と外輪溝肩部の間が流体潤滑状態となり、保持器と外輪の間の接触抵抗をきわめて小さく抑えることができる。同様に、先端側被案内面が、周方向に沿った断面形状が径方向外方に突出する円弧状に形成されているので、先端側被案内面と他方の外輪溝肩部との間に、くさび膜効果による油膜が形成され、その油膜によって先端側被案内面と外輪溝肩部の間が流体潤滑状態となり、保持器と外輪の間の接触抵抗をきわめて小さく抑えることができる。そのため、保持器と外輪の接触部分の摺動抵抗によって異常発熱するのを防止することができる。また、一対の外輪溝肩部のうちの一方の外輪溝肩部が、保持器円環部を径方向外側から支持し、他方の外輪溝肩部が、保持器爪部の先端側の軸方向端部を径方向外側から支持するので、保持器爪部が、径方向外方に向かって撓み変形を生じにくい。そのため、高速回転で使用したときにも、保持器爪部が受ける遠心力によって保持器円環部にねじり変形が生じるのを抑えるとともに、保持器爪部自体にも径方向外方に向かって撓み変形が生じるのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】この発明の第1実施形態にかかる玉軸受を示す断面図
図2図1のII-II線に沿った断面図
図3図1のIII-III線に沿った断面図
図4図1の玉軸受の保持器円環部の近傍の拡大断面図
図5図4のV-V線に沿った断面図
図6図1の保持器を保持器爪部の側から見た斜視図
図7図1のシール部材のシールリップの近傍を拡大して示す図
図8図7のVIII-VIII線に沿った断面図
図9図1の玉軸受を組み込んだ電気自動車用トランスミッションの概略図
図10】この発明の第2実施形態にかかる玉軸受を示す断面図
図11図10のXI-XI線に沿った断面図
図12図10のXII-XII線に沿った断面図
図13図10の保持器を保持器爪部の側から見た斜視図
図14】この発明の第3実施形態にかかる玉軸受を示す断面図
図15図14のXV-XV線に沿った断面図
図16図14のXVI-XVI線に沿った断面図
図17図14の保持器を保持器爪部の側から見た斜視図
図18】この発明の第4実施形態にかかる玉軸受の保持器円環部の近傍の拡大断面図
図19図18のXIX-XIX線に沿った断面図
図20】この発明の第5実施形態にかかる玉軸受の保持器円環部の近傍の拡大断面図
図21図20のXXI-XXI線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1に、この発明の第1実施形態にかかる玉軸受1を示す。この玉軸受1は、内輪2と、内輪2の径方向外側に同軸に設けられた外輪3と、内輪2と外輪3の間に形成される環状空間4内に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の玉5と、環状空間4の軸方向の両側の端部開口のうち一方の端部開口を塞ぐ環状のシール部材6と、複数の玉5の周方向の間隔を保持する樹脂製保持器7(以下単に「保持器7」という)とを有する。
【0033】
内輪2の外周には、玉5が転がり接触する内輪軌道溝8と、内輪軌道溝8の軸方向外側に位置する一対の内輪溝肩部9と、内輪溝肩部9の軸方向外側に位置する摺動凹部10とが形成されている。内輪軌道溝8は、玉5の表面に沿った凹円弧状の断面をもつ円弧溝であり、内輪2の外周の軸方向中央を周方向に延びて形成されている。一対の内輪溝肩部9は、内輪軌道溝8を軸方向に挟む両側を周方向に延びる土手状の部分である。摺動凹部10は、内輪溝肩部9の軸方向外側に隣接して形成された周方向に延びる凹部である。摺動凹部10の内面には、シール部材6の内径側端部に設けられたシールリップ11が摺接している。図では、摺動凹部10の内面のシールリップ11が摺接する面は、軸方向に沿って一定の外径をもつ円筒面である。
【0034】
外輪3の内周には、玉5が転がり接触する外輪軌道溝12と、外輪軌道溝12の軸方向外側に位置する一対の外輪溝肩部13と、外輪溝肩部13の軸方向外側に位置するシール固定溝14とが形成されている。外輪軌道溝12は、玉5の表面に沿った凹円弧状の断面をもつ円弧溝であり、外輪3の内周の軸方向中央を周方向に延びて形成されている。一対の外輪溝肩部13は、外輪軌道溝12を軸方向に挟む両側を周方向に延びる土手状の部分である。シール固定溝14は、外輪溝肩部13の軸方向外側に隣接して形成された周方向に延びる溝である。シール固定溝14には、シール部材6の外径側端部に設けられた嵌合部15が嵌合して固定されている。
【0035】
玉5は、外輪軌道溝12と内輪軌道溝8との間で径方向に挟み込まれている。外輪軌道溝12の軸方向幅寸法は、玉5の直径の半分よりも大きい。また、内輪軌道溝8の軸方向幅寸法は、玉5の直径の半分よりも大きい。
【0036】
図4に示すように、シール部材6は、環状の芯金16の表面にゴム材17(例えばニトリルゴム、アクリルゴムなど)を加硫接着して形成された環状の部材である。シール部材6は、シール固定溝14に嵌合する嵌合部15と、嵌合部15から径方向内方に延びる円環板部18と、摺動凹部10の内面に摺接するシールリップ11とを有する。芯金16は、円環板状のフランジ部19と、フランジ部19の径方向外端に沿って軸方向内側に曲げられた円筒部20とを有する。フランジ部19は、シール部材6の円環板部18に埋め込まれ、円筒部20は、シール部材6の嵌合部15に埋め込まれている。
【0037】
図1に示すように、シール部材6は、環状空間4の軸方向の両側の端部開口のうち一方の端部開口のみに設けられている。すなわち、環状空間4のシール部材6で塞がれた側(図では右側)の軸方向端部とは反対側(図では左側)の軸方向端部は、外部から供給される潤滑油を環状空間4に受け入れるように、シール部材6を設けずに開放している。
【0038】
保持器7は、玉5の通過領域に隣接して周方向に延びる保持器円環部21と、保持器円環部21から周方向に隣り合う玉5の間を軸方向に延びる保持器爪部22とを有する。保持器円環部21と保持器爪部22は、樹脂組成物によって継ぎ目の無い一体に形成されている。保持器円環部21と保持器爪部22とを形成する樹脂組成物は、樹脂材のみからなるものを使用することも可能であるが、ここでは、樹脂材に繊維強化材を添加したものが使用されている。
【0039】
樹脂組成物のベースとなる樹脂材としては、ポリアミド(PA)またはスーパーエンジニアリングプラスチックを採用することができる。ポリアミドとしては、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)等を使用することができる。また、スーパーエンジニアリングプラスチックとしては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を採用することができる。樹脂材に添加する繊維強化材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等を採用することができる。
【0040】
保持器爪部22は、軸方向の一端を保持器円環部21に固定された固定端とし、軸方向の他端を自由端とする片持ち梁状に形成されている。保持器爪部22の軸方向長さは、外輪軌道溝12の軸方向幅よりも大きく設定されている。保持器爪部22は、軸方向に向かって径方向厚さが変化せず一定の形状となっている。
【0041】
図1図6に示すように、保持器円環部21の径方向外側面には、保持器爪部22の根元に対応する位置に、一対の外輪溝肩部13のうちの一方の外輪溝肩部13に摺接する根元側被案内面23が形成されている。また、保持器爪部22の先端側の軸方向端部の径方向外側面には、一対の外輪溝肩部13のうちの他方の外輪溝肩部13に摺接する先端側被案内面24が形成されている。
【0042】
図5に示すように、根元側被案内面23は、周方向に沿った断面形状が径方向外方に突出する円弧状に形成されている。ここで「径方向外方に突出する」とは、保持器円環部21と同心の円に対して径方向外方に突き出す形状を有することをいう。先端側被案内面24(図6参照)も、周方向に沿った断面形状が径方向外方に突出する円弧状に形成されている。根元側被案内面23の周方向に沿った断面と、先端側被案内面24の周方向に沿った断面は、同一形状である。根元側被案内面23および先端側被案内面24の周方向に沿った断面の曲率半径は、外輪溝肩部13の内径の半径の1/2よりも小さく、外輪溝肩部13の内径の半径の1/10よりも大きく設定することができる。
【0043】
図6に示すように、この実施形態では、根元側被案内面23および先端側被案内面24は、根元側被案内面23と先端側被案内面24との間に窪みが生じないようにまっすぐに軸方向に連続した一連の面となっている。
【0044】
図3に示すように、根元側被案内面23の保持器爪部22から遠い側の軸方向端縁25は、R面取りされている。ここで、R面取りとは、図4に示すように、周方向に直交する断面形状が凸円弧状となるような角部形状を付与することをいう。図3に示すように、先端側被案内面24の保持器円環部21から遠い側の軸方向端縁26も、R面取りされている。
【0045】
図2に示すように、保持器爪部22は、玉5と周方向に対向する周方向対向面27を有する。周方向対向面27の玉5を周方向に受け止める部分は、遠心力で保持器爪部22が径方向外方に移動したときに周方向対向面27が玉5に干渉しないように、軸方向に見て、保持器円環部21の中心と保持器爪部22の中心とを結ぶ仮想の直線と平行に延びる平面形状とされている。ここで、保持器円環部21の中心は、内輪2の中心または外輪3の中心と同じ位置である。また、保持器爪部22の中心は、軸方向に見て、保持器爪部22の周方向両側に位置する一対の周方向対向面27の中間位置である。
【0046】
図3に示すように、周方向対向面27の、玉5を周方向に受け止める部分は、玉5を受け止めたときに軸方向分力を生じないように、径方向に見て、周方向の傾斜をもたず軸方向にまっすぐ延びている。保持器円環部21は、玉5と軸方向に対向する軸方向対向面28を有する。周方向対向面27と軸方向対向面28は、断面凹円弧状に接続している。
【0047】
図7図8に示すように、シールリップ11の内径側端部には、内輪2の外周の摺動凹部10と摺接する複数の突起29が周方向に間隔をおいて設けられている。突起29は、周方向に対して直交する方向に延びるように形成されている。図8に示すように、各突起29は、凸円弧状の断面形状を有する。
【0048】
上記の玉軸受1は、図9に示すように、EV(バッテリー式電気自動車)やHEV(ハイブリッド電気自動車)等の電気自動車の電動モータ31の回転を減速する電気自動車用トランスミッション30の軸受として使用することが可能である。この電気自動車用トランスミッション30の軸受は、車両走行中、低速域から高速域まで幅広い回転数で回転し、軸受が最も高速で回転するときは、dmn値(玉5のピッチ円直径(mm)×回転数(min-1))が200万を超える条件で使用される。
【0049】
図9に示すトランスミッションは、電動モータ31のステータ32と、電動モータ31のロータ33と、ロータ33に連結された回転軸34と、回転軸34を回転可能に支持する玉軸受1と、回転軸34と平行に配置された第2回転軸35および第3回転軸36と、回転軸34の回転を第2回転軸35に伝達する第1ギヤ列37と、第2回転軸35の回転を第3回転軸36に伝達する第2ギヤ列38とを有する。ステータ32は環状の静止部材であり、そのステータ32の内側に回転部材としてのロータ33が配置されている。ステータ32に通電すると、ステータ32とロータ33の間に働く電磁力によってロータ33が回転し、そのロータ33の回転が回転軸34に入力される。
【0050】
この玉軸受1は、図5に示すように、根元側被案内面23が、周方向に沿った断面形状が径方向外方に突出する円弧状に形成されているので、根元側被案内面23と一方の外輪溝肩部13との間に、くさび膜効果による油膜が形成され、その油膜によって根元側被案内面23と外輪溝肩部13の間が流体潤滑状態となり、保持器7と外輪3の間の接触抵抗をきわめて小さく抑えることができる。同様に、図1に示す先端側被案内面24も、周方向に沿った断面形状が径方向外方に突出する円弧状に形成されているので、先端側被案内面24と他方の外輪溝肩部13(左側の外輪溝肩部13)との間に、くさび膜効果による油膜が形成され、その油膜によって先端側被案内面24と外輪溝肩部13の間が流体潤滑状態となり、保持器7と外輪3の間の接触抵抗をきわめて小さく抑えることができる。そのため、保持器7と外輪3の接触部分の摺動抵抗によって異常発熱するのを防止することができる。
【0051】
ここで、摺接面間の潤滑状態は、境界潤滑状態と流体潤滑状態とに区別される。境界潤滑状態は、各摺接面に吸着した潤滑油の数層の分子層(10-5~10-6mm程度)からなる油膜で摺接面を潤滑し、摺接面の細かい凹凸の直接接触が生じている状態をいい、一方、流体潤滑状態は、くさび膜効果によって摺接面間に油膜(例えば10-3~10-1mm程度)を形成し、その油膜によって摺接面同士の直接接触が生じていない状態(油膜を介した間接的な接触のみが生じている状態)をいう。くさび膜効果が発生し流体潤滑状態になると、摺動抵抗がほぼゼロになるため、従来は不可能だった高周速での使用が可能となる。
【0052】
また、この玉軸受1は、図1に示すように、一対の外輪溝肩部13のうちの一方の外輪溝肩部13(右側の外輪溝肩部13)が、保持器円環部21を径方向外側から支持し、他方の外輪溝肩部13(左側の外輪溝肩部13)が、保持器爪部22の先端側の軸方向端部を径方向外側から支持するので、保持器爪部22が、径方向外方に向かって撓み変形を生じにくい。そのため、高速回転で使用したときにも、保持器爪部22が受ける遠心力によって保持器円環部21にねじり変形が生じるのを抑えるとともに、保持器爪部22自体にも径方向外方に向かって撓み変形が生じるのを抑えることができる。
【0053】
また、この玉軸受1は、図3に示すように、根元側被案内面23の保持器爪部22から遠い側の軸方向端縁25と、先端側被案内面24の保持器円環部21から遠い側の軸方向端縁26とが、R面取りされているので、図1に示す根元側被案内面23と一方の外輪溝肩部13(右側の外輪溝肩部13)との間に、くさび膜効果による油膜を、効果的に形成することができるとともに、先端側被案内面24と他方の外輪溝肩部13(左側の外輪溝肩部13)との間にも、くさび膜効果による油膜を、効果的に形成することが可能である。
【0054】
また、この玉軸受1は、図2に示すように、周方向対向面27の玉5を周方向に受け止める部分が、保持器円環部21の中心と保持器爪部22の中心とを結ぶ直線と平行に延びる平面形状なので、保持器爪部22に作用する遠心力によって、保持器爪部22が径方向外方に移動したときに、保持器爪部22の周方向対向面27が玉5に干渉するのを防止することができる。また、保持器爪部22の周方向対向面27と玉5との間で生じる潤滑油の剪断抵抗が低く抑えられるので、玉軸受1の発熱を抑制することも可能である。
【0055】
また、この玉軸受1は、環状空間4のシール部材6で塞がれた側の軸方向端部とは反対側の軸方向端部が開放しているので、根元側被案内面23および先端側被案内面24を十分に潤滑して、確実にくさび膜による油膜を形成することが可能である。
【0056】
上記実施形態では、軸受の内部を潤滑する潤滑剤として潤滑油を用いたオイル潤滑の玉軸受1を例に挙げて説明したが、この発明は、軸受の内部を潤滑する潤滑剤としてグリースを用いたグリース潤滑の玉軸受1にも適用可能である。グリースは、潤滑油と、この潤滑油中に分散する増ちょう剤とを含む半固体状の潤滑剤である。
【0057】
図10図13に、第2実施形態にかかる玉軸受1を示す。第1実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0058】
図10図12に示すように、保持器爪部22の径方向内側面に、保持器爪部22の先端から保持器円環部21に向かって軸方向に延びる油溜まり溝40が形成されている。図10に示すように、油溜まり溝40は、一対の内輪溝肩部9のうち保持器円環部21に近い側の内輪溝肩部9と径方向に対向する位置で、保持器7の径方向内側面に切れ上がっている。すなわち、油溜まり溝40は、軸方向に非貫通の溝とされている。なお、油溜まり溝40は、保持器7の径方向内側面を軸方向に貫通して形成することも可能である。
【0059】
図11図13に示すように、油溜まり溝40は、保持器爪部22の径方向内側面の周方向中央に形成されている。油溜まり溝40は、半円状の断面形状を有する。油溜まり溝40は、三角形状の断面形状をもつものや、四角形状の断面形状をもつものを採用してもよい。
【0060】
この実施形態の玉軸受1は、遠心力で外径側に飛散する潤滑油を油溜まり溝40に溜め、その潤滑油を内輪2に供給することが可能である。
【0061】
また、この実施形態の玉軸受1は、第1実施形態と同様の作用効果を有する。
【0062】
図14図17に、第3実施形態にかかる玉軸受1を示す。第1実施形態および第2実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0063】
図17に示すように、保持器爪部22の径方向外側面の、根元側被案内面23と先端側被案内面24との間の部分に、逃がし凹部41が形成されている。すなわち、保持器爪部22の径方向外側面は、軸方向に沿って、根元側被案内面23、逃がし凹部41、先端側被案内面24が順に並んだ段差付きの面となっている。
【0064】
図14図15に示すように、逃がし凹部41は、外輪軌道溝12の軸方向幅よりも広い軸方向幅をもって周方向に延びている。ここで、図14に示すように、逃がし凹部41は、外輪軌道溝12の軸方向幅を全幅にわたって覆うように配置されている。すなわち、逃がし凹部41の根元側被案内面23の側の端部は、一対の外輪溝肩部13のうちの一方の外輪溝肩部13(保持器円環部21と近い側の外輪溝肩部13)と、外輪軌道溝12との境界部分よりも、前記一方の外輪溝肩部13の側にずれた位置に配置されている。また、逃がし凹部41の先端側被案内面24の側の端部は、一対の外輪溝肩部13のうちの他方の外輪溝肩部13(保持器円環部21から遠い側の外輪溝肩部13)と、外輪軌道溝12との境界部分よりも、前記他方の外輪溝肩部13の側にずれた位置に配置されている。逃がし凹部41の軸方向両端は、根元側被案内面23および先端側被案内面24に傾斜して切れ上がっている。
【0065】
図15に示すように、逃がし凹部41は、根元側被案内面23(あるいは先端側被案内面24)に対して径方向内側に後退した位置に内面をもつように、根元側被案内面23(あるいは先端側被案内面24)に対して窪んでいる。逃がし凹部41の内面は、図では、径方向に直交する平坦面である。
【0066】
この実施形態の玉軸受1は、図14に示すように、根元側被案内面23と先端側被案内面24との間に逃がし凹部41を形成しているので、外輪溝肩部13と外輪軌道溝12の境界部分が、保持器円環部21の径方向外側面または保持器爪部22の径方向外側面に摺接するのを防止することができる。そのため、保持器円環部21の径方向外側面または保持器爪部22の径方向外側面が、外輪溝肩部13と外輪軌道溝12の境界部分に対応する位置で、局所的に摩耗するのを防止することが可能である。
【0067】
また、この実施形態の玉軸受1は、第1実施形態および第2実施形態と同様の作用効果を有する。
【0068】
図18図19に、第4実施形態にかかる玉軸受1を示す。第1実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0069】
図18に示すように、保持器円環部21の軸方向厚さは、玉5とシール部材6の間の軸方向の間隔とほぼ同じ大きさ(具体的には、玉5とシール部材6の間の軸方向の間隔の95%以上、100%未満の大きさ)となっている。保持器円環部21は、シール部材6と軸方向に対向して摺接する保持器側摺接面42を有し、シール部材6は、保持器側摺接面42に摺接するシール側摺接面43を有する。
【0070】
図19に示すように、保持器側摺接面42には、複数の軸方向突起44が周方向に一定ピッチで形成されている。各軸方向突起44は、周方向に沿った断面形状が軸方向に凸の円弧状となるように形成されている。また、軸方向突起44の軸方向高さは、軸方向突起44の周方向の幅寸法の5%以下に設定されている。図では、軸方向突起44の存在を分かりやすくするために、軸方向突起44の軸方向高さを誇張して示している。一方、シール側摺接面43は、軸方向に直角な円環状の平面であり、軸方向突起44は形成されていない。
【0071】
図18に示すように、軸方向突起44は、玉5のピッチ円(複数の玉5の中心を結ぶ仮想の円)に重なる位置かそれよりも径方向外側に配置されている。ここで、軸方向突起44が、玉5のピッチ円に重なる位置に配置されるとは、玉5のピッチ円を通る仮想の円筒面が軸方向突起44の位置を通過する位置関係にあることをいい、軸方向突起44が、玉5のピッチ円よりも径方向外側に配置されるとは、軸方向突起44の全体が、玉5のピッチ円を通る仮想の円筒面よりも径方向外側にある位置関係をいう。図では、軸方向突起44は、玉5のピッチ円よりも径方向外側に配置されている。
【0072】
軸方向突起44は、平行頂部45と第1の傾斜頂部46と第2の傾斜頂部47とを有する。平行頂部45は、周方向に沿った断面における軸方向に凸の円弧状の頂部の高さが径方向に沿って一定の部分である。第1の傾斜頂部46は、周方向に沿った断面における軸方向に凸の円弧状の頂部の高さが平行頂部45の径方向外端から径方向外方に向かって次第に低くなる部分である。第2の傾斜頂部47は、周方向に沿った断面の軸方向に凸の円弧状の頂部の高さが平行頂部45の径方向内端から径方向内方に向かって次第に低くなる部分である。図18に示すように、第1の傾斜頂部46は、周方向に直交する断面形状が、平行頂部45と滑らかに接続するR形状となっている。第2の傾斜頂部47も、周方向に直交する断面形状が、平行頂部45と滑らかに接続するR形状となっている。
【0073】
この玉軸受1は、図19に示すように、保持器側摺接面42に、周方向に沿った断面形状が軸方向に凸の円弧状の複数の軸方向突起44が周方向に一定ピッチで形成されているので、その軸方向突起44とシール側摺接面43の間に、くさび膜効果による油膜が形成され、その油膜によって軸方向突起44とシール側摺接面43の間が流体潤滑状態となり、保持器7とシール部材6の間の接触抵抗をきわめて小さく抑えることができる。そのため、保持器7とシール部材6の接触部分の摺動抵抗によって異常発熱するのを防止することができる。
【0074】
また、この玉軸受1は、図18に示すように、保持器円環部21がシール部材6に摺接して設けられているので、保持器円環部21の軸方向厚さを大きく設定し、保持器円環部21の剛性を高めることが可能となる。そのため、高速回転で使用したときにも、保持器爪部22が受ける遠心力による保持器円環部21のねじり変形を抑えることができる。
【0075】
また、この玉軸受1は、軸受の設置部位のスペースが狭く、軸受の幅寸法を小さく抑える必要がある箇所(すなわち、従来は、シール付玉軸受を採用することを断念せざるを得ず、シール部材6を設けずに軸方向の両端が開放した開放型の玉軸受を採用せざるを得なかった箇所)にも設置することが可能である。
【0076】
また、この玉軸受1は、図18に示すように、平行頂部45と第1の傾斜頂部46とを有する軸方向突起44を採用しているので、低速で軸受が回転し、保持器爪部22が受ける遠心力が比較的小さいときには、軸方向突起44の平行頂部45とシール側摺接面43との間に、くさび膜効果による油膜を形成することができる。また、高速で軸受が回転し、保持器爪部22が受ける遠心力が比較的大きいときには、保持器円環部21が比較的大きいねじり変形を生じた状態で、軸方向突起44の平行頂部45および第1の傾斜頂部46とシール側摺接面43との間に、くさび膜効果による油膜を形成することができる。このように、軸受の回転速度によらず、安定して保持器7とシール部材6との間にくさび膜効果による油膜を形成することが可能である。
【0077】
また、この玉軸受1は、図18に示すように、第1の傾斜頂部46の周方向に直交する断面形状がR形状であり、第1の傾斜頂部46と平行頂部45とが滑らかに接続しているので、保持器円環部21が比較的大きいねじり変形を生じた状態で、平行頂部45および第1の傾斜頂部46とシール側摺接面43との間にくさび膜効果による油膜を形成するときに、その油膜を安定して形成することが可能である。
【0078】
また、この玉軸受1は、図18に示すように、軸方向突起44が、玉5のピッチ円に重なる位置かそれよりも径方向外側に配置されているので、保持器爪部22に作用する遠心力によって、保持器爪部22を径方向外方に向かって傾ける方向のねじり変形が保持器円環部21に生じたときに、そのねじり変形により、保持器側摺接面42とシール側摺接面43とが、軸方向突起44よりも径方向外側に外れた位置で接触する事態を防止することができる。
【0079】
また、この実施形態の玉軸受1は、第1実施形態と同様の作用効果を有する。さらに、この実施形態の玉軸受1に、第2実施形態および第3実施形態の構成を追加することも可能である。
【0080】
図20図21に、第5実施形態にかかる玉軸受1を示す。第4実施形態は、保持器側摺接面42とシール側摺接面43のうちの保持器側摺接面42に軸方向突起44を設けたのに対し、第5実施形態は、シール側摺接面43に軸方向突起44を設けた点で異なり、それ以外の構成は同じである。そのため、第4実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0081】
図21に示すように、シール側摺接面43には、複数の軸方向突起44が周方向に一定ピッチで形成されている。軸方向突起44は、シール部材6を構成するゴム材17に金型で成形されている。各軸方向突起44は、周方向に沿った断面形状が軸方向に凸の円弧状となるように形成されている。また、軸方向突起44の軸方向高さは、軸方向突起44の周方向の幅寸法の5%以下に設定されている。図では、軸方向突起44の存在を分かりやすくするために、軸方向突起44の軸方向高さを誇張して示している。一方、保持器側摺接面42は、軸方向に直角な円環状の平面であり、軸方向突起44は形成されていない。
【0082】
図20に示すように、軸方向突起44は、玉5のピッチ円(複数の玉5の中心を結ぶ仮想の円)に重なる位置かそれよりも径方向外側に配置されている。
【0083】
軸方向突起44は、平行頂部45と第1の傾斜頂部46と第2の傾斜頂部47とを有する。平行頂部45は、周方向に沿った断面における軸方向に凸の円弧状の頂部の高さが径方向に沿って一定の部分である。第1の傾斜頂部46は、周方向に沿った断面における軸方向に凸の円弧状の頂部の高さが平行頂部45の径方向外端から径方向外方に向かって次第に低くなる部分である。第2の傾斜頂部47は、周方向に沿った断面の軸方向に凸の円弧状の頂部の高さが平行頂部45の径方向内端から径方向内方に向かって次第に低くなる部分である。第1の傾斜頂部46は、周方向に直交する断面形状が、平行頂部45と滑らかに接続するR形状となっている。第2の傾斜頂部47も、周方向に直交する断面形状が、平行頂部45と滑らかに接続するR形状となっている。
【0084】
この玉軸受1は、図21に示すように、シール側摺接面43に、周方向に沿った断面形状が軸方向に凸の円弧状の複数の軸方向突起44が周方向に一定ピッチで形成されているので、その軸方向突起44と保持器側摺接面42の間に、くさび膜効果による油膜が形成され、その油膜によって軸方向突起44と保持器側摺接面42の間が流体潤滑状態となり、保持器7とシール部材6の間の接触抵抗をきわめて小さく抑えることができる。そのため、保持器7とシール部材6の接触部分の摺動抵抗によって異常発熱するのを防止することができる。
【0085】
また、この玉軸受1は、図20に示すように、平行頂部45と第1の傾斜頂部46とを有する軸方向突起44を採用しているので、低速で軸受が回転し、保持器爪部22が受ける遠心力が比較的小さいときには、軸方向突起44の平行頂部45と保持器側摺接面42との間に、くさび膜効果による油膜を形成することができる。また、高速で軸受が回転し、保持器爪部22が受ける遠心力が比較的大きいときには、保持器円環部21が比較的大きいねじり変形を生じた状態で、軸方向突起44の平行頂部45および第1の傾斜頂部46と保持器側摺接面42との間に、くさび膜効果による油膜を形成することができる。このように、軸受の回転速度によらず、安定して保持器7とシール部材6との間にくさび膜効果による油膜を形成することが可能である。
【0086】
また、この玉軸受1は、図20に示すように、第1の傾斜頂部46の周方向に直交する断面形状がR形状であり、第1の傾斜頂部46と平行頂部45とが滑らかに接続しているので、保持器円環部21が比較的大きいねじり変形を生じた状態で、平行頂部45および第1の傾斜頂部46と保持器側摺接面42との間にくさび膜効果による油膜を形成するときに、その油膜を安定して形成することが可能である。
【0087】
その他の作用効果も第4実施形態と同様である。
【0088】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0089】
1 玉軸受
2 内輪
3 外輪
4 環状空間
5 玉
6 シール部材
7 樹脂製保持器
12 外輪軌道溝
13 外輪溝肩部
21 保持器円環部
22 保持器爪部
23 根元側被案内面
24 先端側被案内面
25,26 軸方向端縁
27 周方向対向面
30 電気自動車用トランスミッション
31 電動モータ
40 油溜まり溝
41 逃がし凹部
42 保持器側摺接面
43 シール側摺接面
44 軸方向突起
45 平行頂部
46 第1の傾斜頂部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21