(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】ハードコート樹脂組成物及びハードコートフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20250207BHJP
C09D 181/00 20060101ALI20250207BHJP
C09D 7/47 20180101ALI20250207BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20250207BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20250207BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
B32B27/30 A
C09D181/00
C09D7/47
B32B27/30 B
B32B27/40
G02B1/14
C09D4/02
(21)【出願番号】P 2020199259
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2020187815
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青谷 光
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-056514(JP,A)
【文献】特開2021-056515(JP,A)
【文献】特開2019-131768(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0115883(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,
101/00-201/10
B32B 1/00-43/00
G02B 1/00-1/18
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルム基材上に、
ポリチオフェン系化合物を含むバインダー(A)と、反応性官能基を有するフッ素系シリコーン化合物(B)と、光重合開始剤(C)と、を含む組成物であり、
前記(A)が6官能以上の(メタ)アクリレートを含み、
前記(B)の光重合成分100重量部に対する割合が0.3~12.0重量部であり、
硬化皮膜の水接触角が100°以上で、消しゴムを用い荷重1Kgで1000回往復させた後の水接触角の低下率が20%未満であるハードコート樹脂組成物
の硬化層を有し、
全光線透過率が90%以上であることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
前記(A)
に含まれるポリチオフェン系化合物の含有量が、全固形分に対し0.8~5.0重量%であるハードコート樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
硬化皮膜の水接触角が110.1°以上であるハードコート樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
ヘイズが1%以下であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のハードコートフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性のハードコート樹脂組成物、及びそれを用いたハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置と入力手段を兼ね備えたタッチパネルは幅広い分野で使用されている。特にタッチペンを入力手段で利用したタッチパネルは、文字や複雑な図形を直接入力することで、より直感的な操作が可能となっており、タブレット型PC,ペンタブレット、スマートフォン、携帯用ゲーム機器等の広範囲で採用が拡大している。
【0003】
タッチパネルは画面がむき出しの状態であり、指や膚、ペンなどが直接接触するため、皮脂等の汚れやキズがつき易いという問題がある。このような問題に対応するため、タッチパネルの表面に汚れがつきにくい、汚れが落としやすい、すべりが良くキズがつきにくい等の技術が開発され、例えば、加水分解性シリル基またはシラノール基と、ラジカル重合性化合物と、重合開始剤を含有するハードコート層と表面層とが順に積層されたハードコートフィルムなどが提案されている(特許文献1)。
【0004】
このようなハードコートフィルムを使用することで、汚れ付着や擦傷の発生をかなり防止できるようになってきたが、特にタッチペンを用いる場合は、表面機能を長期に渡り持続することができるような耐摩耗性も要求されるようになってきた。しかしながら十分な耐摩耗性を有するハードコートフィルムはあまり存在せず、例えば消しゴムのようにフィルム表面をこすり取るもので擦過された場合は、水接触角が大きく変化し防汚性が低下する等の課題があり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、優れた光学特性と共に耐摩耗性を有しており、消しゴムにより擦過しても水接触角の変化率が非常に小さい光硬化性の樹脂組成物、及びその樹脂硬化層を有するハードコート(以下HC)フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、プラスチックフィルム基材上に、ポリチオフェン系化合物を含むバインダー(A)と、反応性官能基を有するフッ素系シリコーン化合物(B)と、光重合開始剤(C)と、を含む組成物であり、前記(A)が6官能以上の(メタ)アクリレートを含み、前記(B)の光重合成分100重量部に対する割合が0.3~12.0重量部であり、硬化皮膜の水接触角が100°以上で、消しゴムを用い荷重1Kgで1000回往復させた後の水接触角の低下率が20%未満であるハードコート樹脂組成物の硬化層を有し、全光線透過率が90%以上であることを特徴とするハードコートフィルムを提供する。
【0008】
請求項2の発明は、前記(A)に含まれるポリチオフェン系化合物の含有量が、全固形分に対し0.8~5.0重量%であるハードコート樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルムを提供する。
【0009】
請求項3の発明は、硬化皮膜の水接触角が110.1°以上であるハードコート樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルムを提供する。
【0010】
請求項4の発明は、ヘイズが1%以下であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のハードコートフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、優れた光学特性と共に、消しゴムにより擦過しても水接触角の変化率が非常に小さいという優れた耐摩耗性を有しており、タッチパネル用HCフィルムに用いるHC樹脂として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のHC樹脂組成物は、ポリチオフェン系化合物を含むバインダー(A)と、フッ素系化合物(B)と、光重合開始剤(C)からなる。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0014】
本発明で使用するポリチオフェン系化合物を含むバインダー(A)は、ハードコート皮膜を構成する主成分であり、導電性であるポリチオフェン系化合物を含んでいる。ポリチオフェンは含硫黄複素環化合物であるチオフェンの重合体で、ドーピングにより共役n軌道に対して電子を付与または除去すると、導電性を持つようになる化合物である。特にポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)(以下PEDOT)は、ポリ(4‐スチレンスルホン酸塩)(以下PSS)との組合せにより導電性が向上すると共に、環境安定性が高く、また薄膜での光透過性が高い点で好ましい。発明者はこのポリチオフェン系化合物を特定のバインダーと組合せることで、撥水性を安定的に維持できることを見出した。
【0015】
前記(A)に含まれるポリチオフェン系化合物の含有量としては、全固形分に対し0.3~5.0重量%が好ましく、0.5~3.0重量%が更に好ましく、0.8~2.0重量%が特に好ましい。0.3重量%以上とすることで、消しゴムによる擦過後の水接触角の低下を十分抑えることが可能となり、5.0重量%以下とすることでHC層の外観を良好に維持できる。配合量については硬化皮膜の表面抵抗率を目安とすることができ、具体的には初期段階で1×108~1×1012Ω/□であることが好ましい。導電性の向上により水接触角の低下を抑えることができる理由は明らかではないが、消しゴムを擦過する際に発生する静電気を発生しにくくすることで、皮膜へのダメージを低減でき、その結果として水接触角の低下を抑えることができるものと推測される。
【0016】
前記(A)のバインダーは、硬化物が網目状の架橋構造となる6官能以上の(メタ)アクリレートを含む。上限は15官能以下が好ましく、12官能以下が更に好ましい。使用されるバインダーとしては6官能以上であれば特に限定されず、オリゴマーでは例えばウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、アクリル系(メタ)アクリレート、ジエン系(メタ)アクリレート等が挙げられ、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、耐摩耗性や速硬化性などの点でウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
【0017】
前記(A)のバインダーであるウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えばポリイソシアネートに水酸基を有する多官能(メタ)アクリレートを反応させた構造が挙げられる。ポリイソシアネートとしては例えばヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDI)のような脂肪族系、イソホロンジイソシアネートのような脂環族系、ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族系などが挙げられるが、これらの中では耐候安定性に優れ延伸性を有するHDIが好ましい。また水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらの中ではペンタエリスリトールトリアクリレートが好ましい。
【0018】
前記(A)の低分子量バインダーとしては、例えば6官能でジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(以下DPHA)が挙げられる。6官能未満のバインダーではオリゴマーの場合でも、低分子量モノマーの場合であっても、消しゴムによる擦過後の水接触角の低下率が大きくなり不適である。官能基数の低下により水接触角が低下する要因は明らかではないが、硬化性の低下により塗膜表面に微細な傷が入りやすくなり、その内部での帯電により水が浸透しやすくなり、その結果として接触角が低下するものと推測される。
【0019】
前記(A)以外として、組成物の粘度調整、基材との密着性改善のため、6官能未満の(メタ)アクリレートモノマーを含んでもよい。例えばブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられ、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
本発明で使用するフッ素系化合物(B)は、防汚性(防指紋性)と撥水性を付与するレベリング剤である。(A)と重合反応する反応性官能基を有しているため、硬化後の皮膜から経時的に欠落することがなく、効果を長期的に持続させることが可能である。消しゴムとの摩擦力を低下させる観点から、フッ素系シリコーン化合物であることが好ましい。特に窒素パージ(脱酸素)条件下にて光硬化させた場合に、その効果を大きくできる。フッ素系シリコーン化合物の市販品としてはX-71-1203M(商品名:信越化学工業社製、固形分20%)、メガファックRS-851、RS-852(商品名:いずれもDIC社製)、オプスターTU2225(商品名:JSR社製)等がある。またフッ素系化合物の市販品としてはKY-1216(商品名:信越化学工業社製、固形分20%))等がある。
【0021】
前記(B)の光硬化成分100重量部に対する配合量は0.3~12.0重量部であり、0.35~11.0重量部が好ましい。0.3重量部未満では消しゴムにより擦過された場合の水接触角の低下度合いが大きくなり、12.0重量部超ではフィルム化した時のハジキが多く外観が低下したり、ヘイズが高くなったりする傾向があるため不可である。
【0022】
本発明で使用される光重合開始剤(C)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系等汎用の光重合開始剤が使用できる。重合開始剤の光吸収波長を任意に選択することによって、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲にわたって硬化性を付与することができる。具体的にはベンジルケタール系として2.2-ジメトキシ-1.2-ジフェニルエタン-1-オンが、α-ヒドロキシアセトフェノン系として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン及び1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンが、α-アミノアセトフェノン系として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンが、アシルフォスフィンオキサイド系として2.4.6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド及びビス(2.4.6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中では、黄変しにくいα-ヒドロキシアセトフェノン系を含むことが好ましく、市販品としてはIrgacure184及び同2959(商品名:BASFジャパン社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系)などがある。
【0023】
前記(C)の光硬化樹脂成分100重量部に対する比率は、0.5部~10重量部が好ましく、3~8重量部が更に好ましい。0.5重量部以上とすることで充分な硬化性が発現し、10重量部以下とすることで過剰添加とならず塗膜の黄変や保存性低下を防ぐことができる。
【0024】
また、本発明のHC樹脂組成物には必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、消泡剤、増粘剤、沈澱防止剤、帯電防止剤、防曇剤、スリップ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、有機微粒子、無機フィラー等を添加してもよい。
【0025】
本発明のHC樹脂組成物は、有機プラスチックフィルムへの塗工性を向上させるため、溶剤にて固形分が10~70%に希釈される。溶剤としては、例えばエタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(以下MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、PGM,ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテ等のエーテル系溶媒等があげられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
本発明のHC樹脂が塗布されるプラスチックフィルム基材としては、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルフォンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルフォンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッソ樹脂フィルム、ナイロンフィルム、アクリルフィルム、シクロオレフィン(コ)ポリマーフィルム等を例示することができる。
【0027】
なかでも価格、加工性、寸法安定性などの点から二軸延伸処理されたポリエステルフィルムや、耐候性の点からアクリルフィルム、ポリカーボネートフィルムが好ましく用いられる。フィルムの厚みは概ね23μm~250μmであればよい。
【0028】
本発明のHC樹脂組成物を塗布する方法は、特に制限はなく、公知のスプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などを利用できる。また乾燥膜厚は、0.5μm~20μmが好ましい。
【0029】
本発明のHC樹脂組成物を塗布した後は60~120℃で乾燥し、紫外線照射機を用いて硬化させる。紫外線を照射する場合の光源としては例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、無電極紫外線ランプ、LEDランプなどがあげられ、硬化条件としては500mW/cm2~3000mW/cm2の照射強度で、積算光量として50~2,000mJ/cm2が例示される。また照射する雰囲気は空気中でよいが、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中が好ましい。
【0030】
本発明のHC樹脂組成物の硬化層を有するHCフィルムを、消しゴムを用い荷重1Kgfで1000回往復させた後の水接触角の低下率は20%未満である。低下率が20%未満であれば防汚成分のほとんどが消しゴム試験により削り取られずに残存していると考えられるため、優れた防汚性を有すると共に、優れた耐摩耗性を有すると判断できる。
【0031】
上記で消しゴムを用いる理由は、消しゴムによる擦過がタッチペンでの擦りに近いためであり、この評価によりタッチペンに対する耐摩耗性を近似評価できる。光学フィルムの耐擦傷性は、スチールウールを用いた評価が一般的であるが、スチールウールは文字通り硬くて細い金属製のワイヤーであり、タッチペンの擦り度合いとは全く異なるため、タッチペンによる耐摩耗性はスチールウールでは評価ができない。
【0032】
上記消しゴム試験に用いる消しゴムは、耐摩耗性試験に用いる消しゴムである韓国製のMINOAN(商品名:MUNBANGSAWOO社製、直径6mm)を用い、東洋精機製作所製の平面摩擦試験機を用いて、荷重1Kgで擦り速度40rpm、ストローク幅50mmの条件で1000往復擦り、その前後の水接触角を測定する。なお本明細書において、水接触角はJIS R 3257:1999の静滴法に基づいて測定した値とする。
【0033】
消しゴム試験前の水接触角は100°以上であり、105°以上が好ましく、110°以上が更に好ましい。100°以下では十分な防汚性を有しているとは言えず、指紋や汚れの付着を抑制することが難しい。消しゴム試験後の水接触角は、試験前の測定値に対し低下率が20%未満であり、10%未満であることが好ましく、6%未満であることが更に好ましい。20%以上では十分な耐摩耗性を有しているとは言えず、タッチペンでの擦りに対し経時的な防汚性低下が大きくなる。
【0034】
以下、本発明を実施例、比較例に基づき詳細に説明するが、具体例を示すものであって特にこれらに限定するものではない。また表記が無い場合は、室温は25℃、相対湿度65%の条件下で測定を行った。なお配合量は重量部を示し、希釈溶剤以外は固形分換算で表記した。
【0035】
実施例1
(A)としてZ-885B-AS(商品名:アイカ工業社製、ポリチオフェン系化合物:PEDOT/PSSを全固形分の1%、バインダー:HDIとPETAを反応させた6官能ウレタンアクリレート)を、(B)としてX-71-1203M(商品名:信越化学工業社製、固形分20%)を、(C)としてOmnirad184(商品名:社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系)を、希釈溶剤として酢酸ブチル、MEK、PGM、ジアセトンアルコールを用い、表1記載の配合で均一に溶解分散するまで撹拌してHC樹脂組成物である実施例1を調整した。
【0036】
実施例2~6
実施例1で用いた材料の他、(A)としてZ-702B-AS(商品名:アイカ工業社製、ポリチオフェン系化合物:PEDOT/PSSを全固形分の1.4%、バインダー:DPHA、6官能)を、(B)としてKY-1216(商品名:信越化学工業社製、固形分20%)用い、1記載の配合で均一に溶解分散するまで撹拌してHC樹脂組成物である実施例2~6を調整した。
【0037】
比較例1~5
実施例で用いた材料の他、バインダーとしてZ-879A-AS(商品名:アイカ工業社製、ポリチオフェン系化合物:PEDOT/PSSを全固形分の1%、バインダー:HDIフレートとPETA及び2-ヒドロキシエチルアクリレートを反応させた5官能ウレタンアクリレート)及びZ-850A-AS(商品名:アイカ工業社製、ポリチオフェン系化合物:PEDOT/PSSを全固形分の1.4%、バインダー:、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、4官能)及びDPHA及びウレアクA(HDIとPETAを反応させた6官能ウレタンアクリレート)を配合し、表2記載の配合で均一に溶解分散するまで撹拌してHC樹脂組成物である比較例1~5を調整した。
【0038】
HCフィルムの調整
A4サイズのポリエチレンテレフタレートフィルムU403(商品名:東レ社製、100μm、両面易接着層有り)に硬化時の膜厚が2μmとなるよう塗布し、恒温槽で80℃×1分乾燥後、窒素パージして、フュージョンUVシステムジャパン製の無電極UV照射装置F300S/LC-6Bを用い、Hバルブで出力1200mW/cm2、積算光量200mJ/cm2で紫外線硬化させた。
【0039】
【0040】
【0041】
評価方法は以下の通りとした。
【0042】
外観:上記で作成したHCフィルムの塗布面を目視で確認し、ブツ、ハジキ、塗布ムラ等の欠点がなく良好な場合を〇、欠点がある場合を×とした。
【0043】
全光線透過率:JIS K7361-1に準拠し、東洋精機製作所社製のHaze-GARD2を用い測定し、90%以上の場合を〇、90%未満の場合を×とした。
【0044】
ヘイズ:JIS K7361-1に準拠し、東洋精機製作所社製のHaze-GARD2を用い測定し、1%以下の場合を〇、1%超の場合を×とした。
【0045】
表面抵抗率:上記で作成したHCフィルムの塗布面を、JIS K6911に準拠し、日東精工アナリテック社製の高抵抗率計HIRESTA-UXを用い測定し、1.00×1012Ω/□超の場合を×とした。
【0046】
水接触角:MINOAN(商品名:MUNBANGSAWOO社製、直径6mm)を用い、東洋精機製作所製の平面摩擦試験機を用いて、荷重1Kgで擦り速度40rpm、ストローク幅50mmの条件で1000往復擦り、その前後の水接触角を測定した。水接触角はJIS R 3257:1999の静滴法に準じ、協和界面科学社製のDMs-400により、室温で水を滴下し30秒静置後に測定した。評価は、初期水接触角と、消しゴムによる摩耗後の水接触率の差を水接触角変化率とし、10%未満を◎、10~20%未満を〇、20%以上を×とした。
【0047】
【0048】
【0049】
実施例は外観、全光線透過率、ヘイズ、水接触角すべての面で問題はなく良好であった。
【0050】
一方、(B)の配合量が下限に満たない比較例1、(A)の官能基数が6未満である比較例2及び3、バインダーにポリチオフェン系化合物を含まない比較例4及び5は、全て水接触角の変化率が大きく、いずれも本願発明に適さないものであった。