(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】LCP押出フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/21 20190101AFI20250207BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250207BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20250207BHJP
B29C 48/395 20190101ALI20250207BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20250207BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20250207BHJP
【FI】
B29C48/21
C08J5/18 CFD
B29C48/305
B29C48/395
B29K67:00
B29L9:00
(21)【出願番号】P 2020204317
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 直希
(72)【発明者】
【氏名】升田 優亮
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/013106(WO,A1)
【文献】特開2008-052170(JP,A)
【文献】特開2003-181904(JP,A)
【文献】特表2015-507551(JP,A)
【文献】国際公開第2010/053212(WO,A1)
【文献】特開2017-101200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む第一表層用の樹脂組成物Aを、熱可塑性液晶ポリマーを含む中心層用の樹脂組成物Bを、熱可塑性樹脂を含む第二表層の樹脂組成物Cを、それぞれ準備する工程、
二種三層押出機から、剪断応力40kPa以下及びドローダウン比3.5以下の条件下で、前記樹脂組成物Aと前記樹脂組成物Bと前記樹脂組成物Cとを共押出して、前記第一表層、前記中心層、及び前記第二表層を少なくともこの順に有する二種三層フィルムを成形する工程、並びに
前記二種三層フィルムから前記第一及び第二表層を取り除いて、15μm以上300μm以下の厚みを有するLCP押出フィルムを得る、
LCP押出フィルムの製造方法。
【請求項2】
MD方向に平行なフィルム断面に対してナノインデンテーション法で測定した、フィルム表面から厚み方向に1μmに位置する深度1μm点の硬さH1と厚み中心点の硬さH2とが、-10.0≦100×(H2-H1)/H1≦0.0を満たし、且つ、JIS K7197に準拠したTMA法によって測定される23~200℃におけるMD方向及びTD方向の線膨張係数が-30~55ppm/Kの範囲内にある、前記LCP押出フィルムを得る
請求項1に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性液晶ポリマーが、(全)芳香族ポリエステル樹脂を含む
請求項1又は2に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリフェニルサルファイドよりなる群から選択される1種を含む
請求項1~3のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物Bが、無機フィラーをさらに含有する
請求項1~4のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂組成物Aと前記樹脂組成物Bと前記樹脂組成物CとをTダイから共押出する
請求項1~5のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【請求項7】
TD方向の線膨張係数が55ppm/K以下の前記LCP押出フィルムを得る
請求項1~6のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【請求項8】
得られた前記LCP押出フィルムを200~360℃の条件下で加熱加圧処理する
請求項1~7のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記フィルム表面に、JIS K5600-5-6に準拠したクロスカット法による密着性試験で、テープ剥離可能なスキン層を有さない前記LCP押出フィルムを得る
請求項1~8のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LCP押出フィルムの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回路基板用絶縁材料として、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と無機フィラーと溶剤等を含むワニスをガラスクロスに含浸させた後、熱プレス成形した、ワニス含浸複合材が知られている。しかしながら、この製法は、例えばワニス含浸時の樹脂流れ性や熱プレス成形時の硬化性等の観点で、製造時のプロセス裕度が乏しく、生産性に劣る。また、熱硬化性樹脂は、吸湿し易く、その吸湿にともなって寸法が変化するため、得られるワニス含浸複合材の寸法精度(加熱寸法精度)に劣る。
【0003】
一方、液晶ポリマー(LCP;Liquid Crystal Polymer)は、溶融状態或いは溶液状態で液晶性を示すポリマーである。とりわけ、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーは、押出成形が可能であり、高ガスバリア性、高フィルム強度、高耐熱、高絶縁、低吸水率、高周波域での低誘電特性等の優れた性質を有している。そのため、熱可塑性液晶ポリマーを用いたフィルムは、ガスバリア性フィルム材料用途、電子材料用途や電気絶縁性材料用途において、実用化が検討されている。
【0004】
しかしながら、単層押出成形を実際に行ってみると、熱可塑性液晶ポリマーが有する高度の液晶配向性に起因して、工業上の利用価値が高い熱可塑性液晶ポリマーフィルム、すなわち厚み精度に優れ外観や表面平坦性が良好な熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得ることが困難であることが判明した。
【0005】
そこで、例えば特許文献1には、単層押出ダイスに代えて三層共押出ダイスを用いて、中間層として全芳香族ポリエステル系サーモトロピック液晶ポリマーを両外層としてポリオレフィン系樹脂又はポリカーボネート樹脂を同時押出して、中間層が熱可塑性液晶ポリマー層であり両外層が熱可塑性樹脂層である三層の積層フィルムを成形し、両外層の熱可塑性樹脂層を剥離して中間層をフィルムとして取り出すことで、厚み精度に優れ外観や表面平坦性が良好な熱可塑性液晶ポリマーフィルムが得られることが開示されている。
【0006】
また、例えば特許文献2には、特許文献1に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムにおいてMD方向(Machine Direction;長手方向)に対してTD方向(Transverse Direction;横手方向)の強度が実用に耐えられないことを見出し、マルチマニホールド方式の共押出ダイスに代えてフィードブロック方式の三層共押出ダイスを用いることにより、得られる熱可塑性液晶ポリマーフィルムのTD方向及びMD方向(Machine Direction;長手方向)の強度の異方性が緩和されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭63-31729号公報
【文献】特開平2-178016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液晶ポリマーを用いた回路基板用絶縁材料は、高周波特性及び低誘電性に優れることから、今後進展する第5世代移動通信システム(5G)やミリ波レーダー等におけるフレキシブルプリント配線板(FPC)、フレキシブルプリント配線板積層体、繊維強化フレキシブル積層体等の回路基板の絶縁材料として、近年、脚光を浴びている。
【0009】
上述した特許文献1及び2に記載の技術では、厚み精度に優れ外観や表面平坦性が良好な熱可塑性液晶ポリマーフィルムを実現することができるとされている。しかしながら、実際には、熱可塑性液晶ポリマーがフィルム表面において高度に分子配向することで生じるスキン層の剥離やフィブリル化した繊維の剥離の発生は抑制できるものの、特許文献1及び2に記載の熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、フィルム全体としては、依然として熱可塑性液晶ポリマーが高度に分子配向しており、回路基板の絶縁材料として実用に耐えられるものではなかった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、従来の押出成形では回避困難であった熱可塑性液晶ポリマーの高配向を大幅に低減可能な、新規なLCP押出フィルムの製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく単層フィルムや多層フィルムの各種押出成形を鋭意検討した結果、所定の二種三層の共押出成形法によれば、従来の押出成形では回避困難であった熱可塑性液晶ポリマーの高配向を大幅に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
(1)(1)熱可塑性樹脂を含む第一表層用の樹脂組成物Aを、熱可塑性液晶ポリマーを含む中心層用の樹脂組成物Bを、熱可塑性樹脂を含む第二表層の樹脂組成物Cを、それぞれ準備する工程、二種三層押出機から、剪断応力40kPa以下及びドローダウン比3.5以下の条件下で、前記樹脂組成物Aと前記樹脂組成物Bと前記樹脂組成物Cとを共押出して、前記第一表層、前記中心層、及び前記第二表層を少なくともこの順に有する二種三層フィルムを成形する工程、並びに前記二種三層フィルムから前記第一及び第二表層を取り除いて、15μm以上300μm以下の厚みを有するLCP押出フィルムを得る、LCP押出フィルムの製造方法。
【0013】
(2)MD方向に平行なフィルム断面に対してナノインデンテーション法で測定した、フィルム表面から厚み方向に1μmに位置する深度1μm点の硬さH1と厚み中心点の硬さH2とが、-10.0≦100×(H2-H1)/H1≦0.0を満たし、且つ、JIS K7197に準拠したTMA法によって測定される23~200℃におけるMD方向及びTD方向の線膨張係数が-30~55ppm/Kの範囲内にある、前記LCP押出フィルムを得る(1)に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【0014】
(3)前記熱可塑性液晶ポリマーが、(全)芳香族ポリエステル樹脂を含む(1)又は(2)に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
(4)前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリフェニルサルファイドよりなる群から選択される1種を含む(1)~(3)のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【0015】
(5)前記樹脂組成物Bが、無機フィラーをさらに含有する(1)~(4)のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
(6)前記樹脂組成物Aと前記樹脂組成物Bと前記樹脂組成物CとをTダイから共押出する(1)~(5)のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
(7)TD方向の線膨張係数が55ppm/K以下の前記LCP押出フィルムを得る(1)~(6)のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【0016】
(8)得られた前記LCP押出フィルムを200~360℃の条件下で加熱加圧処理する(1)~(7)のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
(9)前記フィルム表面に、JIS K5600-5-6に準拠したクロスカット法による密着性試験で、テープ剥離可能なスキン層を有さない前記LCP押出フィルムを得る(1)~(8)のいずれか一項に記載のLCP押出フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、従来の押出成形では回避困難であった熱可塑性液晶ポリマーの高配向を大幅に低減可能な、新規なLCP押出フィルムの製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態のLCP押出フィルムを示す模式斜視図である。
【
図2】ナノインデンテーション法による硬さ測定の算出方法を示す図である。
【
図3】一実施形態のLCP押出フィルムを示す模式断面図である。
【
図4】配向性ピークの面積割合に基づく配向度の算出原理を示す概念図である。
【
図5】一実施形態のLCP押出フィルムの溶融共押出法を示す図である。
【
図6】一実施形態のLCP押出フィルムの溶融共押出法を示す図である。
【
図7】一実施形態のLCP押出フィルムの溶融共押出法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。但し、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0020】
(LCP押出フィルム)
図1は、本実施形態のLCP押出フィルム100の要部を示す模式断面図である。本実施形態のLCP押出フィルム100は、熱可塑性液晶ポリマーを厚み15μm以上300μm以下のフィルム状に押出成形したものである。
【0021】
先にも述べたとおり、従来技術のLCP押出フィルムは、フィルム表面ではスキン層の剥離やフィブリル化した繊維の剥離が発生する等、熱可塑性液晶ポリマーがフィルム表面において極度に分子配向されたものであった。これは、押出時に装置側面からの剪断応力を受け、その結果、押出成形体の表面において熱可塑性液晶ポリマーが高配向しているためであると推察される。そして、特許文献1及び2のように改善することにより、熱可塑性液晶ポリマーのフィルム表面における極度の分子配向が緩和されることが確認されたが、それと同時に、フィルム表面における熱可塑性液晶ポリマーの分子配向の制御のみでは、回路基板の絶縁材料としての要求性能に耐え得るものを実現できないことが、本発明者らの知見により判明した。
【0022】
本実施形態のLCP押出フィルム100は、従来技術とは異なり、フィルム表面のみならずフィルム内部においても熱可塑性液晶ポリマーの分子配向や内部歪み等が緩和されている。すなわち、本実施形態のLCP押出フィルム100は、MD方向に平行なフィルム断面に対してナノインデンテーション法で測定した、フィルム表面から厚み方向に1μmに位置する深度1μm点の硬さH1と厚み中心点の硬さH2とが、-10.0≦100×(H2-H1)/H1≦0.0を満たし、且つ、JIS K7197に準拠したTMA法によって測定される23~200℃におけるMD方向及びTD方向の線膨張係数が-30~55ppm/Kの範囲内にあることを特徴とする。以下、さらに詳述する。
【0023】
LCP押出フィルム100としては、Tダイ押出フィルム等の押出フィルムが好ましく用いられる。また、LCP押出フィルム100としては、熱可塑性樹脂層、熱可塑性液晶ポリマー層、及び熱可塑性樹脂層が少なくともこの順に配列された積層構造を有する三層共押出フィルムの中間層(芯層)である熱可塑性液晶ポリマー層も好ましく用いられる。この場合、三層共押出フィルムの両外層の熱可塑性樹脂層を除去することで、単層の熱可塑性液晶ポリマーフィルム(LCP押出フィルム100)として用いることができる。熱可塑性液晶ポリマーの押出フィルムは、熱可塑性液晶ポリマーの繊維からなる織布や不織布に比して、低コストで均質なものが製造可能である。
【0024】
LCP押出フィルム100に含まれる熱可塑性の液晶ポリマーは、当業界で公知のものを用いることができ、その種類は特に限定されない。液晶ポリマーは、光学的に異方性の溶融相を形成するポリマーであり、代表的にはサーモトロピック液晶化合物が挙げられる。なお、異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した偏光検査法等の公知の方法によって確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施することができる。
【0025】
熱可塑性液晶ポリマーの具体例としては、芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物、芳香族又は脂肪族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族アミノカルボン酸等の単量体を重縮合させたものが挙げられるが、これらに特に限定されない。熱可塑性の液晶ポリマーは、共重合体が好ましい。具体的には、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン等の単量体を重縮合させてなる芳香族ポリアミド樹脂;芳香族ジオール、芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等の単量体を重縮合させてなる(全)芳香族ポリエステル樹脂;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0026】
熱可塑性液晶ポリマーは、一般的に、熱変形温度(TDUL)の観点からI型、II型、III型等に分類されている。本実施形態のLCP押出フィルム100は、いずれのタイプの熱可塑性液晶ポリマーであっても好適に用いることができ、適用用途に応じて適宜選択して用いればよい。例えば230~260℃程度の鉛フリーはんだへの適用が求められる電子回路基板用途においては、TDULが250~350℃程度の高耐熱なI型の熱可塑性液晶ポリマー、TDULが240~250℃程度の比較的に高耐熱なII型の熱可塑性液晶ポリマーが好適に用いられる。
【0027】
これらの中でも、サーモトロピック型の液晶様性質を示し、融点が250℃以上、好ましくは融点が280℃~380℃の、(全)芳香族ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。このような(全)芳香族ポリエステル樹脂としては、例えば、芳香族ジオール、芳香族カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等のモノマーから合成される、溶融時に液晶性を示す(全)芳香族ポリエステル樹脂が知られている。その代表的なものとしては、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、フェノール及びフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、2,6-ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、(全)芳香族ポリエステル樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。要求性能に応じて、比較的に高融点ないしは高熱変形温度を有し高耐熱な全芳香族ポリエステル樹脂を用いたり、比較的に低融点ないしは低熱変形温度を有し成形加工性に優れる芳香族ポリエステル樹脂を用いたりすることができる。
【0028】
好ましい一態様としては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体(以降において、単に「モノマー成分A」と称する場合がある。)を基本構造とし、パラヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェノール、エチレンテレフタレート及びこれらの誘導体よりなる群から選択される1種以上をモノマー成分(以降において、単に「モノマー成分B」と称する場合がある。)として少なくとも有する(全)芳香族ポリエステル樹脂が挙げられる。このような(全)芳香族ポリエステル樹脂は、溶融状態で分子の直鎖が規則正しく並んで異方性溶融相を形成し、典型的にはサーモトロピック型の液晶様性質を示し、機械的特性、電気特性、高周波特性、耐熱性、吸湿性等において優れた基本性能を有するものとなる。
【0029】
また、上述した好ましい一態様の(全)芳香族ポリエステル樹脂は、必須単位としてモノマー成分A及びモノマー成分Bを有するものである限り、任意の構成を採ることができる。例えば2種以上のモノマー成分Aを有していても、3種以上のモノマー成分Aを有していてもよい。また、上述した好ましい一態様の(全)芳香族ポリエステル樹脂は、モノマー成分A及びモノマー成分B以外の、他のモノマー成分(以降において、単に「モノマー成分C」と称する場合がある。)を含有していてもよい。すなわち、上述した好ましい一態様の(全)芳香族ポリエステル樹脂は、モノマー成分A及びモノマー成分Bのみからなる2元系以上の重縮合体であっても、モノマー成分A、モノマー成分B及びモノマー成分Cからなる3元系以上のモノマー成分の重縮合体であってもよい。他のモノマー成分としては、上述したモノマー成分A及びモノマー成分B以外のもの、具体的には芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物及びその誘導体;芳香族又は脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体;芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体;香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸及びその誘導体;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。他のモノマー成分は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0030】
なお、本明細書において、「誘導体」とは、上述したモノマー成分の一部に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~5のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等)、フェニル基等のアリール基、水酸基、炭素数1~5のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)、カルボニル基、-O-、-S-、-CH2-等の修飾基が導入されているもの(以降において、「置換基を有するモノマー成分」と称する場合がある。)を意味する。ここで、「誘導体」は、上述した修飾基を有していてもよいモノマー成分A及びBのアシル化物、エステル誘導体、又は酸ハロゲン化物等のエステル形成性モノマーであってもよい。
【0031】
特に好ましい一態様としては、パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体との二元系重縮合体;パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体とモノマー成分Cとの三元系以上の重縮合体;パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体とテレフタル酸、イソフタル酸、6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェノール、エチレンテレフタレート及びこれらの誘導体よりなる群から選択される1種以上とからなる三元系以上の重縮合体;パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体とテレフタル酸、イソフタル酸、6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェノール、エチレンテレフタレート及びこれらの誘導体よりなる群から選択される1種以上と1種以上のモノマー成分Cとからなる四元系以上の重縮合体;が挙げられる。これらは、例えばパラヒドロキシ安息香酸のホモポリマー等に対して比較的に低融点を有するものとして得ることができ、そのため、これらを用いた熱可塑性液晶ポリマーは、被着体への熱圧着時の成形加工性に優れたものとなる。
【0032】
(全)芳香族ポリエステル樹脂の融点を低くし、LCP押出フィルム100の被着体への熱圧着時の成形加工性を高め、或いはLCP押出フィルム100を金属箔に熱圧着した際に高いピール強度を得る等の観点から、(全)芳香族ポリエステル樹脂に対するモノマー成分Aのモル比換算の含有割合は、10モル%以上90モル%以下が好ましく、30モル%以上85モル%以下がより好ましく、50モル%以上80モル%以下がさらに好ましい。同様に、(全)芳香族ポリエステル樹脂に対するモノマー成分Bのモル比換算の含有割合は、10モル%以上90モル%以下が好ましく、15モル%以上70モル%以下がより好ましく、20モル%以上50モル%以下がさらに好ましい。また、(全)芳香族ポリエステル樹脂に含まれていてもよいモノマー成分Cの含有割合は、モル比換算で10モル%以下が好ましく、より好ましくは8モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下、特に好ましくは3モル%以下である。
【0033】
なお、(全)芳香族ポリエステル樹脂の合成方法は、公知の方法を適用することができ、特に限定されない。上述したモノマー成分によるエステル結合を形成させる公知の重縮合法、例えば溶融重合、溶融アシドリシス法、スラリー重合法等を適用することができる。これらの重合法を適用する際、常法にしたがい、アシル化ないしはアセチル化工程を経てもよい。
【0034】
LCP押出フィルム100は、無機フィラーをさらに含有していてもよい。無機フィラーを含有することで、線膨張係数が低減されたLCP押出フィルム100を実現でき、具体的には、MD方向、TD方向、及びZD方向(Z-axis Direction;フィルム厚み方向)の線膨張係数の異方性が低減されたLCP押出フィルム100が得られ易い。このようなLCP押出フィルム100は、例えば多層積層が要求されるリジッド基板用途等において特に有用となる。
【0035】
無機フィラーは、当業界で公知のものを用いることができ、その種類は特に限定されない。例えばカオリン、焼成カオリン、焼成クレー、未焼成クレー、シリカ(例えば天然シリカ、溶融シリカ、アモルファスシリカ、中空シリカ、湿式シリカ、合成シリカ、アエロジル等)、アルミニウム化合物(例えばベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、ハイドロタルサイト、ホウ酸アルミニウム、窒化アルミニウム等)、マグネシウム化合物(例えば、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等)、カルシウム化合物(例えば炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ホウ酸カルシウム等)、モリブデン化合物(例えば酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛等)、タルク(例えば天然タルク、焼成タルク等)、マイカ(雲母)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸ナトリウム、窒化ホウ素、凝集窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化炭素、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、錫酸亜鉛等の錫酸塩等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、誘電特性等の観点から、シリカが好ましい。
【0036】
また、ここで用いる無機フィラーは、当業界で公知の表面処理が施されたものであってもよい。表面処理により、耐湿性、接着強度、分散性等を向上させることができる。表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、スルホン酸エステル、カルボン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0037】
無機フィラーのメディアン径(d50)は、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。調製時の混練性や取扱性、線膨張係数の低減効果等の観点から、無機フィラーのd50は、0.01μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは0.03μm以上50μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上50μm以下である。なお、本明細書において、無機フィラーのメディアン径(d50)は、レーザー回折/散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製LA-500)を用いて、レーザー回折・散乱法により体積基準で測定される値を意味する。
【0038】
無機フィラーの含有量は、他の必須成分及び任意成分との配合バランスを考慮し、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。調製時の混練性や取扱性、線膨張係数の低減効果等の観点から、LCP押出フィルム100の総量に対する固形分換算で、無機フィラーの含有量は、合計で1質量%以上45質量%以下が好ましく、より好ましくは合計で3質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは合計で5質量%以上35質量%以下である。
【0039】
LCP押出フィルム100は、本発明の効果を過度に損なわない範囲で、上述した熱可塑性液晶ポリマー以外の樹脂成分(以降において、単に「他の樹脂成分」と称する場合がある。)、例えば熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等を含有していてもよい。また、LCP押出フィルム100は、本発明の効果を過度に損なわない範囲で、当業界で公知の添加剤、例えば炭素数10~25の高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、ポリシロキサン、フッ素樹脂等の離型改良剤;染料、顔料等の着色剤;有機充填剤;酸化防止剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;難燃剤;帯電防止剤;界面活性剤;防錆剤;消泡剤;蛍光剤等を含んでいてもよい。これらの添加剤は、それぞれ1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの添加剤は、LCP押出フィルム100の成形時に調製する溶融樹脂組成物に含ませることができる。これらの樹脂成分や添加剤の含有量は、特に限定されないが、成形加工性や熱安定等の観点から、LCP押出フィルム100の総量に対して、それぞれ0.01~10質量%が好ましく、より好ましくはそれぞれ0.1~7質量%、さらに好ましくはそれぞれ0.5~5質量%である。
【0040】
LCP押出フィルム100の厚みは、要求性に応じて適宜設定でき、特に限定されない。押出成形時の取扱性や生産性等を考慮すると、15μm以上300μm以下が好ましく、より好ましくは18μm以上250μm以下、さらに好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0041】
そして、本実施形態のLCP押出フィルム100は、フィルム表面のみならずフィルム内部においても熱可塑性液晶ポリマーの分子配向や内部歪み等を緩和する観点から、MD方向に平行なフィルム断面に対してナノインデンテーション法で測定した、フィルム表面から厚み方向に1μmに位置する深度1μm点の硬さH1と厚み中心点の硬さH2とが、以下に示す関係を満たすように調整されている。
好ましくは -10.0≦100×(H2-H1)/H1≦0.0である。
より好ましくは - 7.5≦100×(H2-H1)/H1≦0.0である。
さらに好ましくは - 5.0≦100×(H2-H1)/H1≦0.0である。
上記式で表される関係、すなわち深度1μm点の硬さH1と厚み中心点の硬さH2の関係は、フィルム中の熱可塑性液晶ポリマーの配向性を示し、その絶対値が低いほど、MD方向及びTD方向への配向性が等方的であることを意味する。
【0042】
ここで、MD方向に平行なフィルム断面における、フィルム表面から厚み方向に1μmに位置する深度1μm点(フィルム断面の平面視で、一方のフィルム表面から厚み方向に1μmの位置)の硬さH1は、LCP押出フィルム100のフィルム表面近傍における、熱可塑性液晶ポリマーの分子配向や内部歪み等を示す指標である。深度1μm点の硬さH1は、熱可塑性液晶ポリマーの配向性が低いほど大きくなる傾向にあり、熱可塑性液晶ポリマーの配向性が高いほど小さくなる傾向にある。そして、深度1μm点の硬さH1は、好ましくは0.250GPa以上、より好ましくは0.255GPa以上である。一方、MD方向に平行なフィルム断面における厚み中心点(フィルム断面の平面視で、一方のフィルム表面と他方のフィルム表面とから等間隔な位置)の硬さH2は、LCP押出フィルム100のフィルム内部における、熱可塑性液晶ポリマーの分子配向や内部歪み等を示す指標である。厚み中心点の硬さH2は、熱可塑性液晶ポリマーの配向性が低いほど大きくなる傾向にあり、熱可塑性液晶ポリマーの配向性が高いほど小さくなる傾向にある。厚み中心点の硬さH2は、好ましくは0.240GPa以上、より好ましくは0.245GPa以上である。なお、LCP押出フィルム100のMD方向に平行なフィルム断面の作製方法は、特に限定されないが、測定データ間の客観性を担保する観点から、凍結条件下でLCP押出フィルム100をイオンビーム加工して、MD方向に平行なフィルム平滑断面を作製するものとする。
【0043】
なお、本明細書において、ナノインデンテーション法による硬さ測定は、ダイヤモンド製バーコビッチ型圧子を用い、押込み深さhmax=0.05μm条件で、LCP押出フィルム100のMD方向に平行なフィルム断面に対し、フィルム表面から1μm点の硬さH1と厚み中心点の硬さH2を測定することにより行うものとする。また、
図2に示すとおり、硬さH1及び硬さH2は、最大荷重Pmaxと接触投影面積A(圧子とフィルム断面が接触する面積)に基づいて、下記式から算出するものとする。
硬さ(GPa)=Pmax/A
【0044】
一方、本実施形態のLCP押出フィルム100は、上述した配向度で表される熱可塑性液晶ポリマーの分子配向のみならず、MD方向及びTD方向の線膨張係数で表される熱可塑性液晶ポリマーの分子配向も十分に低減されている。先にも述べたとおり、従来技術の特許文献1及び2に記載のLCP押出フィルムは、三層共押出時に両外層の熱可塑性樹脂層に保護されることによって熱可塑性液晶ポリマーの分子配向が若干緩和され、これにより、得られる熱可塑性液晶ポリマーフィルムのMD方向及びTD方向の強度の異方性が緩和されていることが伺える。とは言うものの、実際には、特許文献1及び2に記載のLCP押出フィルムは、MD方向の線膨張係数は-20ppm/K程度が安定して得られているに対して、TD方向の線膨張係数は55ppmを超えており、ときには100ppm/K程度に達するものがある。このことからも明らかなように、従来技術の特許文献1及び2に記載のLCP押出フィルムは、フィルム全体としては、熱可塑性液晶ポリマーの分子配向が依然として大きく残っており、或いは内部歪み等が大きく残っていることが容易に理解される。したがって、LCP押出フィルム100のフィルム全体としての熱可塑性液晶ポリマーの分子配向や内部歪み等は、上述したナノインデンテーション法による硬さと線膨張係数との組み合わせで制御する必要がある。
【0045】
本実施形態のLCP押出フィルム100は、MD方向及びTD方向の線膨張係数(CTE,α2,23~200℃)は-30~55ppm/Kの範囲内にある。かかる範囲内に線膨張係数があるLCP押出フィルム100は、内部歪み等が十分に低減された状態にある。本実施形態のLCP押出フィルム100のMD方向の線膨張係数(CTE,α2,23~200℃)は、さらに、金属箔への密着性を高める等の観点から、-30~10ppm/Kの範囲内にあることが好ましく、-25~5ppm/Kの範囲内にあることがより好ましく、-20~0ppm/Kの範囲内にあることがさらに好ましい。また、本実施形態のLCP押出フィルム100のTD方向の線膨張係数(CTE,α2,23~200℃)は、さらに、金属箔への密着性を高める等の観点から、0~55ppm/Kの範囲内にあることが好ましく、0~50ppm/Kの範囲内にあることがより好ましく、0~45ppm/Kの範囲内にあることがさらに好ましい。
【0046】
なお、本明細書において、線膨張係数の測定は、JIS K7197に準拠したTMA法で行い、平均線膨張係数は、同法において測定される23~200℃の線膨張係数の平均値を意味する。ここで測定する線膨張係数は、熱履歴を解消した値を見るために、LCP押出フィルム100を5℃/分の昇温速度で加熱(1st heating)した後に測定環境温度(23℃)まで冷却(1st cooling)し、その後に5℃/分の昇温速度で2回目の加熱(2nd heating)したときの値を意味する。また、その他の詳細な測定条件は、後述する実施例に記載した条件にしたがうものとする。
【0047】
また、本実施形態のLCP押出フィルム100は、フィルム表面のみならずフィルム内部においても熱可塑性液晶ポリマーの分子配向や内部歪み等を緩和する観点から、露出しているフィルム表面S1を含む配向度α1と、前記フィルム表面S1を厚み方向にエッチング処理することで露出する、前記フィルム表面S1から深度5μmに位置するフィルム表面S2を含む配向度α2とが、以下に示す関係を満たすことが望ましい。
好ましくは -4.0≦[(α2-α1)/α1]×100≦0.0である。
より好ましくは -3.0≦[(α2-α1)/α1]×100≦0.0である。
さらに好ましくは -2.0≦[(α2-α1)/α1]×100≦0.0である。
【0048】
ここで、
図3に示すとおり、フィルム表面S1は、本実施形態のLCP押出フィルム100の最表面であって、外方へ向けて露出している露出面である。フィルム表面S1を含む配向度(配向度α1)は、好ましくは39.0%以下、より好ましくは38.5%以下、さらに好ましくは38.0%以下である。一方、フィルム表面S2は、本実施形態のLCP押出フィルム100のフィルム表面S1を厚み方向にエッチング処理することで新たに露出する面であり、
図3では、フィルム表面S1から深度5μmに位置する仮想面として破線で表す。このフィルム表面S2を含む配向度(配向度α2)は、好ましくは37.7%以下、より好ましくは37.5%以下、さらに好ましくは37.3%以下である。また、フィルム表面S2が位置する深度は、エッチング時の溶解誤差等を考慮して、フィルム表面S1から厳密に5μmである必要はなく、フィルム表面S1から5.0μm以上であればよい。また、フィルム表面S2の作製のためのエッチング処理条件は、特に限定されないが、測定データ間の客観性を担保する観点から、後述する実施例に記載の条件にしたがうものとする。
【0049】
なお、本明細書において、LCP押出フィルム100のフィルム表面S1,S2を含む配向度α1,α2(%)は、X線回折装置を用いて透過法でX線回折測定を行い、得られた回折強度分布曲線において配向性ピークの面積割合に基づいて下記式から算出される値を意味する。一般的に、配向度(%)が小さい測定対象の場合、X線回折測定ではピーク強度が小さくブロードな回折ピークが観察されるため、配向性ピークの半値幅に基づく算出方法では、高い測定精度を担保できない。そのため、本明細書では、配向性ピークの半値幅ではなく、配向性ピークの面積割合に基づく算出方法で、フィルム表面S1,S2を含む配向度α1,α2(%)をそれぞれ算出している。具体的には、
図4及び数式1に示すとおり、配向性ピークの面積割合に基づく算出方法として、2θ/θスキャンでピーク強度(配向性成分)を測定するとともに、βスキャンで方位角方向に0°から360°までの強度を測定して方位角方向の強度分布(ベース強度(等方性成分))を得て、ベースとなる等方性成分の面積を除いた配向性成分が占める面積が、全体面積(配向性成分の面積+等方性成分の面積)に占める割合を、配向度(%)として算出する。
【数1】
【0050】
一方、本実施形態のLCP押出フィルム100の誘電特性は、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。より高い誘電特性を得る観点から、比誘電率εr(36GHz)は、3.0以上3.7以下が好ましく、より好ましくは3.0~3.5である。同様に、誘電正接tanδ(36GHz)は0.0010以上0.0050以下が好ましく、より好ましくは0.0010以上0.0045以下である。なお、本明細書において、比誘電率εr及び誘電正接tanδは、JIS K6471に準拠した空洞共振器接動法で測定される36GHzにおける値を意味する。また、その他の詳細な測定条件は、後述する実施例に記載した条件にしたがうものとする。
【0051】
(LCP押出フィルムの製造方法)
本実施形態のLCP押出フィルム100は、上述した熱可塑性液晶ポリマー、及び必要に応じて無機フィラーや他の樹脂成分等の任意成分を含む樹脂組成物を、所定厚みに押出成形することにより得ることができる。押出法は、公知の各種方法を適用することができ、その種類は特に限定されない。例えばTダイ法やインフレーション法;例えばマルチマニホールド方式の共押出法やフィードブロック方式の共押出法;例えば二層共押出法や三層共押出法等の多層共押出法;を任意に組み合わせて適用することができる。
【0052】
これらの中でも、フィルム表面(フィルム表面S1)及びフィルム内部(フィルム表面S2)における熱可塑性液晶ポリマーの分子配向の制御の容易性の観点から、好ましい一態様としては、上述した樹脂組成物を、Tダイを用いた押出成形法(以降において、単に「Tダイ押出法」という場合がある。)によりTダイから押し出してフィルム状に成形し、その後に必要に応じて冷却処理、圧着処理、加圧加熱処理等をして、所定のLCP押出フィルム100を得る方法が挙げられる。具体的には、熱可塑性樹脂を含む第一表層用の樹脂組成物Aを、熱可塑性液晶ポリマーを含む中心層用の樹脂組成物Bを、熱可塑性樹脂を含む第二表層の樹脂組成物Cを、それぞれ準備しておき、押出機の共押出ダイからこれらを共押出して、三層構成の共押出溶融物を押出して、中間層の熱可塑性液晶ポリマー層としてLCP押出フィルム100を成形する共押出法が好ましい。このような共押出成形によれば、両外層の熱可塑性樹脂層に保護されることにより、中間層の熱可塑性液晶ポリマー層における熱可塑性液晶ポリマーの分子配向が緩和される。以下、本実施形態のLCP押出フィルム100の製造方法の好ましい一態様について詳述する。
【0053】
図5~
図7は、上述した本実施形態のLCP押出フィルム100の製造方法の好ましい一態様を示す図である。ここでは、上述した熱可塑性液晶ポリマー、及び必要に応じて無機フィラーや他の樹脂成分等の任意成分を含む上記の樹脂組成物Bを、押出機のTダイからフィルム状に溶融押出する。このとき、上記のフィルム状の溶融押出物の両面に熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物A,Cを共押出することで、熱可塑性樹脂を含む第一外層(剥離層)、熱可塑性液晶ポリマーを含む中間層(LCP層)、及び熱可塑性樹脂を含む第二外層(剥離層)を有する、所定厚みの共押出溶融物(3層積層フィルム)を作製する。この共押出溶融物は、引取ロールで引き出され、冷却ロール及び圧着ロールへと送られる。その後、第一外層及び第二外層を中間層から剥離して、両外層の熱可塑性樹脂層と、中間層の熱可塑性液晶ポリマー層(LCP押出フィルム100)とが巻取ロールにそれぞれ巻き取られる。
【0054】
上記の熱可塑性液晶ポリマーを含む樹脂組成物Bの調製は、常法にしたがって行えばよく、特に限定されない。上述した各成分を、例えば混練、溶融混錬、造粒、押出成形、プレス又は射出成形等の公知の方法によって製造及び加工することができる。なお、溶融混練を行う際には、一般に使用されている一軸式又は二軸式の押出機や各種ニーダー等の混練装置を用いることができる。これらの溶融混練装置に各成分を供給するに際し、液晶ポリマー、その他の樹脂成分、無機フィラー、添加剤等を予めタンブラーやヘンシェルミキサー等の混合装置を用いてドライブレンドしてもよい。溶融混練の際、混練装置のシリンダー設定温度は、適宜設定すればよく特に限定されないが、一般的に液晶ポリマーの融点以上360℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは液晶ポリマーの融点+10℃以上360℃以下である。
【0055】
熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物A,Cの調製も、常法にしたがって行えばよく、特に限定されない。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、PMMA等のアクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニルサルファイド(PPS)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。共押出溶融物とされた際に、ポリカーボネート等の極性樹脂であっても、ポリメチルペンテン等の無極性樹脂であっても、剥離層として有効に機能する。これらの熱可塑性樹脂に、上述したLCP押出フィルム100に含まれていてもよい他の樹脂成分や無機フィラー等の任意成分を配合してもよい。なお、樹脂組成物Aと樹脂組成物Cとは、同一の樹脂組成を有していても、異なる樹脂組成を有していてもよく、同一の熱可塑性樹脂を含んでいても、異なる熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。そして、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物A,Cは、例えば混練、溶融混錬、造粒、押出成形、プレス又は射出成形等の公知の方法によって製造及び加工することができる。なお、溶融混練を行う際には、一般に使用されている一軸式又は二軸式の押出機や各種ニーダー等の混練装置を用いることができる。これらの溶融混練装置に各成分を供給するに際し、熱可塑性樹脂、その他の樹脂成分、無機フィラー、添加剤等を予めタンブラーやヘンシェルミキサー等の混合装置を用いてドライブレンドしてもよい。溶融混練の際、混練装置のシリンダー設定温度は、熱可塑性樹脂が熱分解で劣化しない温度以下で適宜設定すればよく特に限定されないが、一般的に熱可塑性樹脂の融点以上が好ましく、より好ましくは熱可塑性樹脂の融点+10℃以上である。
【0056】
共押出の際の設定条件は、使用する樹脂組成物の種類や組成、目的とする押出フィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。例えば押出機のシリンダーの設定温度は、使用する樹脂組成物の種類や組成、目的とする押出フィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、230~360℃が好ましく、より好ましくは280~350℃である。
【0057】
また、例えばTダイのダイ幅(mm)も同様に、使用する樹脂組成物の種類や組成、目的とする押出フィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的には200~2000mmが好ましく、より好ましくは400~1500mmである。
【0058】
さらに、例えばTダイのリップ開度(mm)は、も同様に、使用する樹脂組成物の種類や組成、目的とする押出フィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的には0.1~3.0(mm)が好ましく、より好ましくは0.2~2.0(mm)である。
【0059】
そして、例えばTダイのリップ壁面の剪断速度(sec-1)も同様に、使用する樹脂組成物の種類や組成、目的とする押出フィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的には100~1500(sec-1)が好ましく、より好ましくは150~1000(sec-1)である。
【0060】
また、Tダイの樹脂組成物の総吐出量(mm3/sec)も同様に、使用する樹脂組成物の種類や組成、目的とする押出フィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的に500~15000(mm3/sec)が好ましく、より好ましくは1500~10000(mm3/sec)である。
【0061】
一方、熱可塑性液晶ポリマーの溶融粘度(Pa・sec)も同様に、使用する樹脂組成物の種類や組成、目的とする押出フィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的に10~300(Pa・sec)が好ましく、より好ましくは20~250(Pa・sec)である。なお、熱可塑性液晶ポリマーの溶融粘度(Pa・sec)は、JIS K7199に準拠し、キャピログラフ1D(東洋精機製作所社製)を用いて、シリンダー長10.00mm、シリンダー径1.00mm、及びバレル径9.55mmの条件下、LCP押出フィルム100の製造時の条件下(ダイ温度、及びリップ壁面の剪断速度)で測定される値を意味する。
【0062】
また、共押出フィルムの引取速度(mm/sec)も同様に、使用する樹脂組成物の種類や組成、目的とする押出フィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的に15~1000(mm/sec)が好ましく、より好ましくは20~500(mm/sec)である。
【0063】
ここで、共押出時の熱可塑性液晶ポリマーのMD方向への分子配向を低減する観点から、共押出時の剪断応力(kPa)は、低いことが望ましい。共押出時の剪断応力が大きいと、熱可塑性液晶ポリマーがMD方向へ高配向され易く、また、内部歪みが残存し易い傾向にあり、共押出時の剪断応力が小さいと、フィルム表面及びフィルム内部の双方において、熱可塑性液晶ポリマーの分子配向が低減され易く、また、内部歪みが残存し難い傾向にある。なお、共押出時の剪断応力(kPa)は、リップ壁面の剪断速度(sec-1)と熱可塑性液晶ポリマーの溶融粘度(Pa・sec)との積で表される値であり、剪断速度は、共押出時の樹脂組成物の総吐出量、ダイ幅、リップ開度に基づいて算出される値である。したがって、共押出時の剪断応力は、これらの各値を調整することにより制御可能である。そして具体的には、共押出時の剪断応力は、40kPa以下が好ましく、より好ましくは38kPa以下、さらに好ましくは36kPa以下である。なお、その下限値は、特に限定されないが、生産性等を考慮すれば5kPa以上が好ましく、より好ましくは10kPa以上である。
【0064】
また、共押出時の熱可塑性液晶ポリマーのMD方向への分子配向を低減する観点から、共押出時のドローダウン比は、低いことが望ましい。共押出時のドローダウン比が大きいと、熱可塑性液晶ポリマーがMD方向へ高配向され易く、また、内部歪みが残存し易い傾向にあり、共押出時のドローダウン比が小さいと、フィルム表面及びフィルム内部の双方において、熱可塑性液晶ポリマーの分子配向が低減され易く、また、内部歪みが残存し難い傾向にある。なお、ドローダウン比は、引取速度(mm/sec)/熱可塑性液晶ポリマーの流速(mm/sec)で表される値であり、熱可塑性液晶ポリマーの流速は、共押出時の樹脂組成物の総吐出量、ダイ幅、リップ開度に基づいて算出される値である。したがって、共押出時のドローダウン比は、これらの各値を調整することにより制御可能である。そして具体的には、共押出時のドローダウン比は、3.5以下が好ましく、より好ましくは3.3以下、さらに好ましくは3.1以下である。なお、その下限値は、特に限定されないが、生産性等を考慮すれば1.0以上が好ましく、より好ましくは1.2以上である。
【0065】
得られるLCP押出フィルム100の厚みは、要求性に応じて適宜設定でき、特に限定されない。押出成形時の取扱性や生産性等を考慮すると、15μm以上300μm以下が好ましく、より好ましくは18μm以上250μm以下、さらに好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0066】
得られるLCP押出フィルム100の融点(融解温度)は、特に限定されないが、フィルムの耐熱性や加工性等の観点から、融点(融解温度)が200~400℃であることが好ましく、とりわけ金属箔への熱圧着性を高める観点から、250~360℃が好ましく、より好ましくは260~355℃、さらに好ましくは270~350℃、特に好ましくは275~345℃である。なお、本明細書において、LCP押出フィルム100の融点は、DSC8500(PerkinElmer社製)を用いて、熱履歴を解消した値を見るために、温度区間 30~400℃で押出フィルムを20℃/分の昇温速度で加熱(1st heating)した後に50℃/分の降温速度で冷却(1st cooling)し、その後に20℃/分の昇温速度で2回目の加熱(2nd heating)したときの示差走査熱量測定法(DSC)における融解ピーク温度を意味する。また、その他については、後述する実施例に記載の測定条件に従うものとする。
【0067】
なお、押出成形されたLCP押出フィルム100は、そのまま用いることができるが、さらに必要に応じて加圧加熱工程を行うことにより、熱可塑性液晶ポリマーの分子配向をさらに低減させ或いは内部歪みをさらに解放させることもできる。
【0068】
加熱加圧処理は、当業界で公知の方法、例えば接触式の熱処理、非接触性の熱処理等を用いて行えばよく、その種類は特に限定されない。例えば非接触式ヒーター、オーブン、ブロー装置、熱ロール、冷却ロール、熱プレス機、ダブルベルト熱プレス機等の公知の機器を用いて熱セットすることができる。このとき、必要に応じて、LCP押出フィルム100の表面に、当業界で公知の剥離フィルムや多孔質フィルムを配して、熱処理を行うことができる。また、この熱処理を行う場合、配向性の制御の観点から、LCP押出フィルム100の表裏に剥離フィルムや多孔質フィルムを配してダブルベルトプレス機のエンドレスベルト対の間に挟持しながら熱圧着し、その後に剥離フィルムや多孔質フィルムを除去する熱圧成形方法が好ましく用いられる。熱圧成形方法は、例えば特開2010-221694号等を参照して行えばよい。上記の樹脂組成物を用いたLCP押出フィルム100をダブルベルトプレス機のエンドレスベルト対の間で熱圧成形する際の処理温度としては、LCP押出フィルム100の結晶状態を制御するため、液晶ポリマーの融点より高い温度以上、融点より70℃高い温度以下で行うことが好ましく、より好ましくは融点より+5℃高い温度以上、融点より60℃高い温度以下、さらに好ましくは融点より+10℃高い温度以上、融点より50℃高い温度以下である。このときの熱圧着条件は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、面圧0.5~10MPaで加熱温度250~430℃の条件下で行うことが好ましく、より好ましくは面圧0.6~8MPaで加熱温度260~400℃の条件下、さらに好ましくは面圧0.7~6MPaで加熱温度270~370℃の条件下である。一方、非接触式ヒーターやオーブンを用いる場合には、例えば200~320℃で1~20時間の条件下で行うことが好ましい。
【0069】
そして、本実施形態のLCP押出フィルム100は、従来の押出成形では回避困難であった熱可塑性液晶ポリマーの高配向を大幅に低減しているので、電子回路基板や多層基板等の回路基板の素材として使用することができる。また、本実施形態のLCP押出フィルム100は、高周波域での誘電特性に優れ、製造容易で生産性に優れるため、第5世代移動通信システム(5G)やミリ波レーダー等におけるフレキシブルプリント配線板(FPC)等の絶縁材料として殊に有用な素材となる。
【実施例】
【0070】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによりなんら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい上限値又は好ましい下限値としての意味をもつものであり、好ましい数値範囲は前記の上限値又は下限値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0071】
[溶融粘度]
以下の条件で、各LCP押出フィルムの溶融粘度[Pa・sec]をそれぞれ測定した。
測定機器:キャピログラフ1D(東洋精機製作所社製)
使用装置:シリンダー長10.00mm、シリンダー径1.00mm、バレル径9.55mm
測定条件:各LCP押出フィルムの押出成形時の温度[℃]と剪断速度[sec-1]
【0072】
[ナノインデンテーション法による硬さ測定]
ISO 14577に準拠したナノインデンター法により、各LCP押出フィルムの深度1μm点の硬さH1と厚み中心点の硬さH2を測定した。
測定機器: ナノインデンター Hysitron TI 950 TriboIndenter(Bruker社製)
使用圧子: ダイヤモンド製 Berkovich型圧子
測定条件: 押込み深さhmax 0.05μm
測定方法 負荷-除荷試験
なお、各LCP押出フィルムの測定面は、各LCP押出フィルムのMD方向に平行なフィルム平滑断面とし、かかるフィルム平滑断面は、各LCP押出フィルムを凍結条件下でイオンビーム加工にて切断加工することで作製した。
【0073】
[線膨張係数]
JIS K7197に準拠したTMA法で、各LCP押出フィルムの線膨張係数を測定した。
測定機器: TMA 4000SE(NETZSCH社製)
測定方法: 引張モード
測定条件: サンプルサイズ 25mm×4mm×厚み50μm
チャック間距離 20mm
温度区間 23~200℃(2ndRUN)
昇温速度 5℃/min
雰囲気 窒素(流量50ml/min)
試験荷重 5gf
※熱履歴を解消した値をみるため、2ndRUNの値を採用
【0074】
[配向度]
X線回折装置Smartlab(リガク社製)を用いて透過法でフィルム表面S1あるいはフィルム表面S2を含む各LCP押出フィルムのX線回折測定を行い、配向度をそれぞれ測定した。ここでは、X線源にCu封入管を用い、平行ビーム光学系、透過法でX線回折測定(2θ/θスキャン、βスキャン)を行い、まず、2θ/θスキャンで2θ=19.5°にピークトップがあることを確認した。次に、βスキャンにて2θ=19.5の回折ピークに対し、方位角方向に0°から360°までの強度を測定することにより、方位角方向の強度分布を得た。得られたβプロファイルのベース強度(等方性成分)とピーク強度(配向性成分)から、配向性ピークの面積割合に基づいて、上記式から配向度を算出した。
なお、各LCP押出フィルムのフィルム表面S2は、各LCP押出フィルムを23℃50%RH環境下でモノエチルアミン70%水溶液(ダイセル社製)に168時間浸漬し、各LCP押出フィルムの両表面を5μmエッチングし、その後、流水で5分間水洗いし、さらに蒸留水で洗浄し、80℃で1時間乾燥し、23℃50%RH環境下で24時間冷却することにより、それぞれ調整した。
【0075】
[テープ剥離試験]
各LCP押出フィルムのフィルム表面に、JIS K5600-5-6に準拠したクロスカット法による密着性試験を行い、スキン層の有無をそれぞれ確認した。このとき、幅24mm×長さ50mmのニチバン社製セロテープ(登録商標)を使用し、テープを剥離した後に格子の目に剥がればない場合を「スキン層なし」、剥がれがある場合を「スキン層あり」とした。
○ スキン層なし
× スキン層あり
【0076】
(実施例1~3)
中心層としてII型熱可塑性液晶ポリマー(モノマー組成がp-ヒドロキシ安息香酸74mol%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸26mol%の共重合体、温度300℃及び剪断速度500sec-1の溶融粘度は80Pa・sec)を、中心層の両面の表層としてポリカーボネートPC(帝人社製パンライトL-1225L)をそれぞれ用いて、表1に示す成形条件で、ダイ幅600mm及びリップ開度0.2~1.0mmのTダイを備える二種三層押出機からTダイキャスティング法で各樹脂を300℃で共押出して、中心層が50μmでの二種三層フィルムを成形した。成形した二種三層フィルムから両表層のポリカーボネートフィルムを巻取ラインでそれぞれ剥離し、融点280℃及び厚み50μmを有する実施例1~3のLCP押出フィルムをそれぞれ得た。
【0077】
(比較例1)
II型熱可塑性液晶ポリマー(モノマー組成がp-ヒドロキシ安息香酸74mol%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸26mol%の共重合体、温度300℃及び剪断速度500sec-1の溶融粘度は80Pa・sec)を用いて、表1に示す成形条件で、ダイ幅600mm及びリップ開度0.3mmのTダイを備える単層押出機からTダイキャスティング法で液晶ポリマーを300℃で押出して、融点280℃及び厚み50μmを有する比較例1のLCP押出フィルムを得た。
【0078】
(比較例2~4)
成形条件を表1に記載のとおりに変更する以外は、実施例1と同様の方法で、融点280℃及び厚み50μmを有する比較例2~4のLCP押出フィルムをそれぞれ得た。
【0079】
【0080】
(実施例4~6)
II型熱可塑性液晶ポリマーに代えてI型熱可塑性液晶ポリマー(モノマー組成がp-ヒドロキシ安息香酸79mol%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸20mol%、テレフタル酸1mol%の共重合体、温度330℃及び剪断速度500sec-1の溶融粘度は70Pa・sec)を中心層に用い、各樹脂を330℃で共押出した以外は、実施例1と同様の方法で、融点315℃及び厚み50μmを有する実施例4~6のLCP押出フィルムをそれぞれ得た。
【0081】
(比較例5)
II型熱可塑性液晶ポリマーに代えてI型熱可塑性液晶ポリマー(モノマー組成がp-ヒドロキシ安息香酸79mol%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸20mol%、テレフタル酸1mol%の共重合体、温度330℃及び剪断速度500sec-1の溶融粘度は70Pa・sec)を用い、液晶ポリマーを330℃で押出した以外は、比較例1と同様の方法で、融点315℃及び厚み50μmを有する比較例2のLCP押出フィルムを得た。
【0082】
(比較例6~8)
成形条件を表2に記載のとおりに変更する以外は、実施例4と同様の方法で、融点315℃及び厚み50μmを有する比較例6~8のLCP押出フィルムをそれぞれ得た。
【0083】
【0084】
(実施例7~9)
ポリカーボネートに代えて両面の表層にポリメチルペンテンPMP(三井化学社製TPX MX004)を用いる以外は、実施例1と同様の方法で、融点280℃及び厚み50μmを有する実施例7~9のLCP押出フィルムを得た。
【0085】
(比較例9~11)
成形条件を表3に記載のとおりに変更する以外は、実施例7と同様の方法で、融点280℃及び厚み50μmを有する比較例9~11のLCP押出フィルムをそれぞれ得た。
【0086】
【0087】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のLCP押出フィルムは、電子回路基板、多層基板、高放熱基板、フレキシブルプリント配線板、アンテナ基板、光電子混載基板、ICバッケージ等の用途において広く且つ有効に利用可能であり、とりわけ超微細加工に適応し信頼性が高いため、第5世代移動通信システム(5G)やミリ波レーダー等におけるフレキシブルプリント配線板(FPC)等の絶縁材料や金属箔張積層板等として殊に広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
100 ・・・LCP押出フィルム
100a・・・面
100b・・・面
H1 ・・・深度1μm点の硬さ
H2 ・・・厚み中心点の硬さ
S1 ・・・フィルム表面
S2 ・・・深度5μmのフィルム表面