(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】極低温液体用配管構造及びそれを備えた船舶
(51)【国際特許分類】
F17D 5/00 20060101AFI20250207BHJP
B63B 25/08 20060101ALI20250207BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20250207BHJP
B63B 27/24 20060101ALI20250207BHJP
F16L 3/00 20060101ALI20250207BHJP
F16L 55/00 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
F17D5/00
B63B25/08 B
B63B25/16 A
B63B25/16 F
B63B27/24 A
F16L3/00 E
F16L55/00 Z
(21)【出願番号】P 2020218810
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】谷本 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】下垣 貴志
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0132867(KR,A)
【文献】特開2015-004382(JP,A)
【文献】特開2004-190759(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0019267(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17D 5/00
B63B 27/24
B63B 25/16
B63B 25/08
F16L 3/00
F16L 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧での沸点が-196℃以下の極低温液体を貯留する船舶に適用される配管構造であって、
前記船舶の構造材から上方に離れた位置で当該構造材に沿って配索され、前記極低温液体が流通する低温配管と、
前記低温配管の下方において前記構造材を覆うように設けられ、前記低温配管の表面に液化空気が形成された場合に当該液化空気の滴下を受け止めて蒸発させる多孔質の放熱層と、を備え
、
前記低温配管は、前記極低温液体が流通可能な内管と、当該内管の外側に同心状に配置された外管と、前記内管と前記外管との間に形成された真空層とを備えた多重管であり、
前記放熱層は、前記構造材に対して、前記低温配管の全長にわたって設けられている、極低温液体用配管構造。
【請求項2】
前記放熱層は、アスファルト、コンクリート及びモルタルから選ばれる一種又は二種以上の材料からなる、請求項1に記載の極低温液体用配管構造。
【請求項3】
前記放熱層は、前記構造材における前記低温配管が配索される領域の全域にわたって設けられる、請求項1又は2に記載の極低温液体用配管構造。
【請求項4】
前記構造材から上方に離れた位置に前記低温配管を支持し且つ当該低温配管に接触する支持部材を、更に備え、
前記支持部材は、前記構造材よりも低温脆化が起こり難い低温用鋼により構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の極低温液体用配管構造。
【請求項5】
常圧での沸点が-196℃以下の極低温液体を貯留する船舶であって、
所定の構造材を有する船体と、
請求項1~4のいずれか1項に記載の極低温液体用配管構造と、を備える、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧での沸点が-196℃以下の極低温液体を貯留する船舶に適用される極低温液体用配管構造、及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような極低温液体を流すための配管として、下記特許文献1のものが知られている。具体的に、この特許文献1の配管は、常圧での沸点が-253℃である液化水素を流すための二重構造の配管(二重管)であって、同心状に配置された内管と外管とを有している。内管と外管との間には、熱伝達を遮断するための真空層が形成されている。この真空層の断熱作用により、内管の内部の液化水素がその沸点以下の温度に維持されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の液化水素用の二重管において、上記断熱層の真空度が低下した場合には、内管から外管への熱伝達が起こり易くなり、外管と内管との温度差が縮小する。外管の温度が内管の内部の液化水素に近い温度まで低下する場合には外管の表面で空気が凝縮するおそれがある。
【0005】
外管の表面に液化空気(液化窒素または液化酸素)が形成された場合、この液化空気が外管の表面等をつたって、二重管の下方に位置する船舶の船体を構成する構造材に滴下する。この場合、構造材が液化空気により顕著に冷却される。構造材は、通常、SS材等の一般的な構造用軟鋼により構成されるので、液化空気により冷却されると、温度低下に起因して脆くなる低温脆化が生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、極低温液体が流通する配管の温度低下に伴って当該配管の表面に形成された液化空気の滴下の影響で船舶の構造材が脆化するのを抑制し得る極低温液体用配管構造、及び船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の局面に係る極低温液体用配管構造は、常圧での沸点が-196℃以下の極低温液体を貯留する船舶に適用される配管構造であって、前記船舶の構造材から上方に離れた位置で当該構造材に沿って配索され、前記極低温液体が流通する低温配管と、前記低温配管の下方において前記構造材を覆うように設けられ、前記低温配管の表面に液化空気が形成された場合に当該液化空気の滴下を受け止めて蒸発させる多孔質の放熱層と、を備える。前記低温配管は、前記極低温液体が流通可能な内管と、当該内管の外側に同心状に配置された外管と、前記内管と前記外管との間に形成された真空層とを備えた多重管である。前記放熱層は、前記構造材に対して、前記低温配管の全長にわたって設けられている。
【0008】
本発明の他の局面に係る船舶は、常圧での沸点が-196℃以下の極低温液体を貯留する船舶であって、所定の構造材を有する船体と、上記の極低温液体用配管構造と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極低温液体が流通する配管の温度低下に伴って当該配管の表面に形成された液化空気の滴下の影響で船舶の構造材が脆化するのを抑制し得る極低温液体用配管構造、及びそれを備えた船舶船を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る極低温液体用配管構造が適用された船舶の概略構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る極低温液体用配管構造及び極低温液体を貯留、運搬する船舶について説明する。
【0012】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る極低温液体用配管構造が適用された船舶の構造を概略的に示す側面図及び断面図である。本図に示される船舶1は、液化水素L(
図2)を貯留、運搬する液化水素運搬船であり、船体2と、船体2に搭載された複数のタンク3とを備えている。船舶1により貯留、運搬される液化水素Lは、常圧で-253℃である沸点以下の温度にまで冷却された液体状態の水素のことであり、本発明における極低温液体の一例に該当する。
【0013】
船体2は、各タンク3に対応する領域に、上向きに開口した複数の貨物艙5を有している。隣接する貨物艙5の間には、両貨物艙5同士を仕切るための隔壁6が形成されている。
【0014】
船体2はまた、貨物艙5の周囲に甲板7を備えている。甲板7は、貨物艙5の前方に位置する船首甲板7aと、貨物艙5の左右両側に位置する一対のサイド甲板7b,7cと、貨物艙5の後方に位置する船尾甲板7dとを含む。船体2は、低温用鋼以外の鋼材により構成されている。例えば、各甲板7a~7dは、それぞれSS材(Steel Structure)等の一般的な構造用軟鋼により構成されている。
【0015】
各タンク3は、船舶1の船長方向に長い円筒状のタンクであり、それぞれ貨物艙5に収容されている。各タンク3は、液化水素Lが内部に貯留された内槽3aと、内槽3aの外側に同心状に配置された外槽3bとを有している。内槽3aと外槽3bの間には、断熱のための真空層3cが形成されている。真空層3cは、図外の吸引装置と連通可能な密閉空間である。
【0016】
各タンク3の上方には、それぞれタンクカバー4が配置されている。各タンクカバー4は、船体2の一部を構成し、貨物艙5と協働してタンク3用の収容空間Sを形成している。タンクカバー4は、船体2と同様に、低温用鋼以外の鋼材により構成されている。例えば、タンクカバー4は、それぞれSS材等の一般的な構造用軟鋼により構成されている。言い換えると、タンクカバー4は、極低温の条件で脆化する低温脆化が低温用鋼よりも起こり易い鋼材により構成されている。
【0017】
タンクカバー4の上面には、水素配管10が配置されている。水素配管10は、少なくともタンク3内の液化水素Lを船舶1から荷役する際に使用され、当該液化水素Lが流通する配管である。水素配管10は、タンクカバー4の上面から上方に離れた位置で、タンクカバー4の上面に沿って適宜湾曲しつつ延びるように配索されている。なお、水素配管10は、本発明における低温配管の一例に該当する。また、水素配管10の下方に位置するタンクカバー4は、本発明における船舶の構造材の一例に該当する。
【0018】
図3は、水素配管10の構造を示す断面斜視図である。本図に示すように、水素配管10は、液化水素Lが内部を流通可能な内管10aと、内管10aの外側に同心状に配置された外管10bと、内管10aと外管10bとの間に形成された断熱のための真空層10cとを備えた多重管である。真空層10cは、
図1,2に示される吸引ポート11を介して吸引装置12と連通可能な密閉空間である。
【0019】
本実施形態では、水素配管10における少なくとも内管10aは、極低温の条件でも脆化し難い性質を有する低温用鋼により構成されている。
【0020】
本実施形態では、外管10bは、低温用鋼により構成されている。外管10bの材質は必ずしも低温用鋼でなくてもよく、各種の金属や樹脂を適用できる。
【0021】
図4及び
図5は、本発明の一実施形態に係る極低温液体用配管構造を示す側面図及び断面図である。なお、
図5の断面図では、内管10aの内部に液化水素L(
図3参照)を図示することを省略している。また、以下の説明では、水素配管10の軸心と平行な方向のことを管軸方向Xといい、管軸方向X及び上下方向(鉛直方向)と直交する方向のことを管軸直交方向Yというものとする。
【0022】
極低温液体用配管構造は、極低温液体である液化水素Lを貯留、運搬する船舶1に適用される配管構造であり、上記の水素配管10に加えて、放熱層20と複数の支持部材30とを備える。
【0023】
図4に示すように、水素配管10は、管軸方向Xに所定長の単位管10Aを複数つなぎ合わせた構造を有する。水素配管10においては、複数の単位管10Aごとに、真空層10cの真空化及び真空を維持するための吸引装置12が吸引ポート11を介して接続されている。つまり、水素配管10における真空層10cの吸引装置12による真空引きは、水素配管10の全長で行われるのではなく、単位管10Aごとに区分けして行われる。これにより、水素配管10における真空層10cを所定の真空度に速く到達させることができるとともに、真空層10cの真空度の低下現象が生じた場合にはその現象を水素配管10の一部区間に止めることができる。
【0024】
放熱層20は、水素配管10の下方においてタンクカバー4の上面を覆うように設けられた、内部に多数の孔を持つ多孔質の層である。放熱層20は、タンクカバー4の上面において、水素配管10が配索される領域の全域にわたって設けられる。放熱層20は、アスファルト、コンクリート及びモルタルから選ばれる一種又は二種以上の材料からなる。放熱層20は、水素配管10の外管10bの温度低下の影響で、当該外管10bの表面に空気中の窒素や酸素が凝縮した液化空気が形成された場合に、当該液化空気の滴下を受け止めて蒸発させる。
【0025】
複数の支持部材30は、タンクカバー4の上面において管軸方向Xに並ぶように配設されている。各支持部材30は、タンクカバー4から上方に離れた位置に水素配管10を支持し且つ当該水素配管10に接触する。各支持部材30は、座部31と、一対の脚部32と、固定具33とを有している。
【0026】
座部31は、管軸直交方向Yに延びる板状の部材であり、水素配管10の直下に配設されている。水素配管10は、固定具33により座部31の上面に固定されている。言い換えると、座部31は、水素配管10の下面に接触して当該水素配管10を直接支持している。具体的には、座部31は、外管10bの下面に接触して当該外管10bを支持している。
【0027】
固定具33は、正面視で逆U字状に形成された締結部材である。具体的に、固定具33は、管軸直交方向Yに延びるアッパ部33aと、アッパ部33aの両端から下方に延びる一対のサイド部33bとを有している。一対のサイド部33bは、水素配管10の左右両側の位置で座部31に対し上から締結される。これにより、アッパ部33aと座部31との間に水素配管10が挟み込まれ、水素配管10が支持部材30に対し固定される。なお、外管10bの座部31と外管10bとの間には、熱収縮等による外管10bと座部31との相対移動を許容するための潤滑部材もしくは低摩擦部材が配置されていてもよい。
【0028】
一対の脚部32は、座部31における管軸直交方向Yの両端部(左右両端部)から下方に延びるように形成されている。各脚部32の下端は、放熱層20を介してタンクカバー4の上面に固定されている。
【0029】
支持部材30は、極低温の条件でも脆化し難い性質を有する低温用鋼により構成されている。例えば、支持部材30を構成する各部(座部31、脚部32、及び固定具33)は、それぞれ低温用鋼の一種であるオーステナイト系ステンレス鋼により構成することができる。オーステナイトステンレス鋼としては、例えばSUS304LやSUS316Lなどの低炭素のステンレス鋼が特に好適である。もちろん、オーステナイト系ステンレス鋼以外の低温用鋼であるアルミニウム合金などを使用することも当然に可能である。
【0030】
以上説明したように、本実施形態では、液化水素Lを流すための水素配管10の下方においてタンクカバー4を覆うように多孔質の放熱層20が設けられるとともに、水素配管10が低温用鋼からなる支持部材30を介して支持される。このため、水素配管10の温度低下に伴って当該水素配管10の表面に形成された液化空気の滴下の影響でタンクカバー4が脆化するのを抑制できるという利点がある。
【0031】
水素配管10は内管10aと外管10bとを含む二重構造であり、両管10a,10bの間には真空層10cが形成されるため、この真空層10cの真空度が十分である間は、内管10aの内部に液化水素Lが流れたとしても、外管10bの温度は内管10aの温度に対し十分に高い値に維持される。しかしながら、真空層10cの真空度は船舶1の長期運用等に起因して低下することがあり、このような真空度の低下が起きると、内管10aと外管10bとの間の熱伝達が促進されて、外管10bと内管10aとの温度差が縮小する。極端な例では、外管10bの温度が内管10aの内部の液化水素の温度(-253℃以下)に近い温度まで低下することが起こり得る。
【0032】
ここで、既述の通り、水素配管10は単位管10Aを複数つなぎ合わせた構造を有し、真空層10cの真空度は単位管10Aごとに区分けして維持される。このため、真空層10cの真空度は水素配管10の全長において一律に低下するわけではなく、各単位管10Aによって真空度の低下度合いは異なることがある。このため、外管10bの温度が液化水素Lに近い温度まで低下したとしても、そのような現象は水素配管10の一部に限定して起きるのが通常である。このような事情から、以下では、水素配管10の一部であってその表面温度が液化水素Lに近い温度まで低下した部分のことを、特に温度低下部と称するものとする。
【0033】
水素配管10に温度低下部が生じた場合、当該温度低下部に対応した単位管10Aを修理する作業や、新たな単位管10Aと交換する作業が、船舶1の乗組員によって行われる。但し、このような作業が完了する前に、水素配管10の温度低下部では、空気中の窒素や酸素が外管10bの表面で凝縮し、液化空気が形成される可能性がある。このような液化空気が外管10bの表面をつたって、温度低下部の下方に位置するタンクカバー4に滴下された場合、タンクカバー4が液化空気により顕著に冷却される。タンクカバー4は、通常、SS材等の一般的な構造用軟鋼により構成されるので、液化空気により冷却されると、温度低下に起因して脆くなる低温脆化が生じ得る。
【0034】
この問題に鑑みて、本実施形態では、水素配管10の下方においてタンクカバー4を覆うように多孔質の放熱層20が設けられている。これにより、水素配管10から滴下された液化空気を放熱層20で的確に受け止めることができ、且つ受け止めた液化空気を放熱層20の温度によって迅速に蒸発させることができる。放熱層20は、多孔質で表面積の大きい層であるので、受け止めた液化空気を蒸発させ易い。このため、液化空気がタンクカバー4まで到達して当該タンクカバー4が顕著に冷却されるような事態が起き難くなるので、タンクカバー4を低温脆化から適切に保護することができる。
【0035】
更に、放熱層20は、本来的に多孔質のアスファルト、コンクリート及びモルタルから選ばれる一種又は二種以上の材料によって構成される。例えば、放熱層20をアスファルトの単層で形成してもよいし、アスファルトとコンクリートの積層体で形成してもよい。アスファルト、コンクリート及びモルタルは、低温脆化の起こり難い特性を有している。このため、水素配管10から放熱層20に液化空気が滴下された場合に生じ得る放熱層20の低温脆化を抑制することができる。また、これらの材料を用いれば、タンクカバー4の上面に多孔質の放熱層20を容易且つ安価に形成することができる。
【0036】
更にまた、放熱層20は、タンクカバー4の上面において水素配管10が配索される領域の全域にわたって設けられる。これにより、タンクカバー4の上方において水素配管10が適宜湾曲しつつ延びるように配索され、その配管レイアウトが複雑化された場合であっても、また、水素配管10の複数箇所で大幅な温度低下が起きたとしても、各温度低下部で発生した液化空気の滴下を放熱層20により的確に受け止めることができる。
【0037】
また、水素配管10の温度低下部では、外管10bの温度が液化水素Lに近い温度まで低下するので、仮にこのような温度低下部に支持部材30が設けられていた場合、当該温度低下部からの熱伝導により支持部材30(特に水素配管10と接触する座部31及び固定具33)が顕著に冷却されることになる。仮に支持部材30の材質がタンクカバー4と同様の一般的な構造用軟鋼であったとすると、支持部材30が低温脆化により脆くなって、水素配管10の支持が適切に行えなくなる可能性がある。この問題に鑑みて、本実施形態では、支持部材30の材質が極低温の条件でも脆化し難い低温用鋼とされる。このため、支持部材30が顕著に冷却されたとしても、支持部材30の低温脆化を十分に抑制することができ、当該支持部材30による水素配管10の支持強度を良好に維持することができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態に係る極低温液体用配管構造及び船舶について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を採用することができる。
【0039】
上記実施形態では、タンクカバー4の上面において水素配管10が配索される領域の全域にわたって放熱層20が設けられた構造を例示したが、このような構造に限定されるものではない。例えば、放熱層20は、タンクカバー4の上面において、水素配管10の管軸方向Xに沿って、当該水素配管10の全長にわたって延びるように設けられてもよい。また、水素配管10の中でも特に真空層10cの真空度が低下し易い場所が予め分かっているような場合には、このような場所の下方の位置に限定的に放熱層20を設けるようにしてもよい。
【0040】
上記実施形態では、船舶1におけるタンクカバー4の上方に水素配管10が配設された構造を例示したが、水素配管10はタンクカバー4の上方だけでなく甲板7の上方にも配設され得るし、貨物機器室等の室内にも配設され得る。このようにタンクカバー4の上方以外の場所に水素配管が配設される場合についても、タンクカバー4の上方以外の場所に放熱層20を設け、上記実施形態と同様の支持部材30による支持構造を適用することが可能である。
【0041】
上記実施形態では、水素配管10として、内管10aと外管10bとを有しかつ両者の間に真空層10cが形成された二重管を採用したが、真空層のない非二重構造の配管を低温配管として用いることも可能である。例えば、低温用鋼からなる主管とその外面に形成されたウレタン層などの断熱層とを備えたものを上記低温配管として用いることが可能である。
【0042】
上記実施形態では、常圧での沸点が-253℃である液化水素Lを貯留、運搬する船舶1に本発明の配管構造を適用した例について説明したが、これに限定されるものではない。本発明の配管構造が適用可能な船舶は、常圧での沸点が-196℃以下の極低温液体を貯留するものであればよく、その限りにおいて種々の船舶に本発明の配管構造を適用可能である。例えば、常圧での沸点が-269℃である液化ヘリウムや、常圧での沸点が-196℃である液化窒素を貯留する船舶にも、本発明の配管構造を同様に適用することが可能である。
【0043】
以上説明した実施形態及び変形例に含まれる発明をまとめると以下のとおりである。
【0044】
本発明の一の局面に係る極低温液体用配管構造は、常圧での沸点が-196℃以下の極低温液体を貯留する船舶に適用される配管構造であって、前記船舶の構造材から上方に離れた位置で当該構造材に沿って配索され、前記極低温液体が流通する低温配管と、前記低温配管の下方において前記構造材を覆うように設けられ、前記低温配管の表面に液化空気が形成された場合に当該液化空気の滴下を受け止めて蒸発させる多孔質の放熱層と、を備える。
【0045】
常圧での沸点が-196℃以下の極低温液体が流通する低温配管は、少なくともその一部の表面温度が極低温液体に近い温度にまで低下する可能性がある。低温配管において大幅な温度低下が生じた温度低下部では、その表面において空気中の窒素や酸素が凝縮し、液化空気が形成される可能性がある。このような液化空気が低温配管の表面をつたって、低温配管の下方に位置する船舶の構造材に滴下された場合、構造材が液化空気により顕著に冷却される。船舶の構造材は、通常、SS材等の一般的な構造用軟鋼により構成されるので、液化空気により冷却されると、温度低下に起因して脆くなる低温脆化が生じ得る。この問題に鑑みて、本発明では、低温配管の下方において構造材を覆うように多孔質の放熱層が設けられている。このため、低温配管から滴下された液化空気を放熱層で的確に受け止めて蒸発させることができる。これにより、液化空気が船舶の構造材まで到達するのを十分に高い確率で防止でき、当該構造材を低温脆化から適切に保護することができる。
【0046】
上記の極低温液体用配管構造において、前記放熱層は、アスファルト、コンクリート及びモルタルから選ばれる一種又は二種以上の材料からなる構成であってもよい。
【0047】
アスファルト、コンクリート及びモルタルは、低温脆化の起こり難い特性を有している。このため、低温配管から放熱層に液化空気が滴下された場合に生じ得る放熱層の低温脆化を抑制することができる。更に、これらの材料を用いれば、船舶の構造材上に多孔質の放熱層を容易且つ安価に形成することができる。
【0048】
上記の極低温液体用配管構造において、前記放熱層は、前記構造材における前記低温配管が配索される領域の全域にわたって設けられる構成であってもよい。
【0049】
この態様では、構造材の上方において低温配管が適宜湾曲しつつ延びるように配索され、その配管レイアウトが複雑化された場合であっても、また、低温配管の複数箇所で大幅な温度低下が起きたとしても、各温度低下部で発生した液化空気の滴下を放熱層により的確に受け止めることができる。
【0050】
上記の極低温液体用配管構造は、前記構造材から上方に離れた位置に前記低温配管を支持し且つ当該低温配管に接触する支持部材を、更に備え、前記支持部材は、前記構造材よりも低温脆化が起こり難い低温用鋼により構成されていてもよい。
【0051】
低温配管に大幅な温度低下が起きた場合、当該低温配管を支持する支持部材は、低温配管からの熱伝導により顕著に冷却され得る。この場合、仮に支持部材の材質が船舶の構造材と同じ材質であったとすると、支持部材が低温脆化により脆くなって、低温配管の支持が適切に行えなくなる可能性がある。この問題に鑑みて、支持部材の材質が前記構造材よりも低温脆化の起こり難い低温用鋼とされる。このため、支持部材が顕著に冷却されたとしても、支持部材の低温脆化を十分に抑制でき、当該支持部材による低温配管の支持強度を良好に維持することができる。
【0052】
本発明の他の局面に係る船舶は、常圧での沸点が-196℃以下の極低温液体を貯留する船舶であって、所定の構造材を有する船体と、上記の極低温液体用配管構造と、を備える。
【0053】
この船舶によれば、船体を構成する構造材を低温脆化から保護することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 船舶
2 船体
3 タンク
4 タンクカバー(構造材)
10 水素配管(低温配管)
20 放熱層
30 支持部材
L 液化水素(極低温液体)