(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】コンテンツ制御装置、コンテンツ制御方法、プログラム、およびコンテンツ提供システム
(51)【国際特許分類】
H04N 5/93 20060101AFI20250207BHJP
A63G 31/02 20060101ALI20250207BHJP
G06F 3/0481 20220101ALI20250207BHJP
【FI】
H04N5/93
A63G31/02
G06F3/0481
(21)【出願番号】P 2021084050
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山本 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】五島 正基
(72)【発明者】
【氏名】望月 鞠花
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 誠
(72)【発明者】
【氏名】川島 大輝
(72)【発明者】
【氏名】中川原 貴幸
【審査官】大西 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-102401(JP,A)
【文献】特開2019-136572(JP,A)
【文献】特開2020-103782(JP,A)
【文献】国際公開第2016/189572(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03476673(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 5/91 - 5/956
G06F 3/048- 3/0489
A63G 1/00 -33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置とを備えたコンテンツ提供システムの制御装置であって、
仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力するコンテンツ再生部と、
前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御する移動制御部と、
を備え
、
前記移動制御部は、前記コンテンツの再生中において、前記車両が前記仮想空間における利用者の直進移動に同期して規定の周回ルートを走行するように前記全方向移動車輪を制御する、
コンテンツ制御装置。
【請求項2】
前記移動制御部は、前記車両が規定速度以下の速度で前記周回ルートを走行するように前記全方向移動車輪を制御する、
請求項
1に記載のコンテンツ制御装置。
【請求項3】
全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置とを備えたコンテンツ提供システムの制御装置であって、
仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力するコンテンツ再生部と、
前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御する移動制御部と、
前記車両を載置する台座となる装置であって、前記全方向移動車輪による前記車両の移動を打ち消す駆動台装置と、
を備えるコンテンツ制御装置。
【請求項4】
人の五感のうち少なくとも一つによって知覚される事象を、前記コンテンツを演出する特殊効果として発生させる発生装置に対し、前記事象の発生を前記駆動台装置の駆動状態に応じて指示する演出制御部をさらに備える、
請求項
3に記載のコンテンツ制御装置。
【請求項5】
前記コンテンツの再生によって得られる前記仮想空間の映像において、前記仮想空間は、前記仮想空間における利用者の移動に応じて、前記利用者によって近いと認識される領域ほど大きく変化するように表示され、前記利用者によって遠いと認識される領域ほど小さく変化するように表示される、
請求項1から
4のいずれか一項に記載のコンテンツ制御装置。
【請求項6】
前記移動制御部は、前記車両の移動限界に対応して前記仮想空間に表示されるオブジェクトの位置に基づき、前記利用者が前記移動限界と接触しないように前記全方向移動車輪を制御する、
請求項1から
5のいずれか一項に記載のコンテンツ制御装置。
【請求項7】
全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置とを備えたコンテンツ提供システムの制御装置として機能するコンピュータが、
仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力
するコンテンツ再生処理と、
前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御する
移動制御処理と、
を実行するコンテンツ制御方法であって、
前記移動制御処理は、前記コンテンツの再生中において、前記車両が前記仮想空間における利用者の直進移動に同期して規定の周回ルートを走行するように前記全方向移動車輪を制御するものである、
コンテンツ制御方法。
【請求項8】
全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置と、前記車両を載置する台座となる装置であって、前記全方向移動車輪による前記車両の移動を打ち消す駆動台装置と、を備えたコンテンツ提供システムの制御装置として機能するコンピュータが、
仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力するコンテンツ再生処理と、
前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御する移動制御処理と、
を実行するコンテンツ制御方法。
【請求項9】
全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置とを備えたコンテンツ提供システムの制御装置として機能するコンピュータに、
仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生
し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力
するコンテンツ再生処理と、
前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御
する移動制御処理と、
を実行させるためのプログラムであって、
前記移動制御処理は、前記コンテンツの再生中において、前記車両が前記仮想空間における利用者の直進移動に同期して規定の周回ルートを走行するように前記全方向移動車輪を制御するものである、
プログラム。
【請求項10】
全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置と、前記車両を載置する台座となる装置であって、前記全方向移動車輪による前記車両の移動を打ち消す駆動台装置と、を備えたコンテンツ提供システムの制御装置として機能するコンピュータに、
仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力するコンテンツ再生処理と、
前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御する移動制御処理と、
を実行させるためのプログラム。
【請求項11】
全方向移動車輪を備えた車両と、
映像投影装置と、
仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力するコンテンツ再生部と、
前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御する移動制御部と、
を備え、
前記移動制御部は、前記コンテンツの再生中において、前記車両が前記仮想空間における利用者の直進移動に同期して規定の周回ルートを走行するように前記全方向移動車輪を制御する、
コンテンツ提供システム。
【請求項12】
全方向移動車輪を備えた車両と、
映像投影装置と、
前記車両を載置する台座となる装置であって、前記全方向移動車輪による前記車両の移動を打ち消す駆動台装置と、
仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力するコンテンツ再生部と、
前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御する移動制御部と、
を備えるコンテンツ提供システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテンツ制御装置、コンテンツ制御方法、プログラム、およびコンテンツ提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドマウントディスプレイを用いて仮想空間を体験させるコンテンツを提供する技術が開発されている。このような用途において、ヘッドマウントディスプレイは、利用者の動作を考慮して、周辺に障害物の無いオープンスペースで使用されることが望ましい場合が多い。しかしながら、利用者周辺の状況は必ずしも一定でないため、利用者は、コンテンツの利用にあたり、周辺環境に配慮しながらヘッドマウントディスプレイを使用する必要があった。このような不便を解決するため、ヘッドマウントディスプレイを用いたコンテンツを、利用者の動作範囲をある程度制限しながら提供する技術が考案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、利用者は実際には所定位置から動くことがないため、仮想空間での移動を含む経験を体験させるコンテンツは、臨場感に欠ける場合があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、仮想空間での移動を含む経験を体験させるコンテンツの臨場感を向上させることができるコンテンツ制御装置、コンテンツ制御方法、プログラム、およびコンテンツ提供システムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るコンテンツ制御装置、コンテンツ制御方法、プログラム、およびコンテンツ提供システムは、以下の構成を採用した。
【0007】
(1):この発明の一態様に係るコンテンツ制御装置は、全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置とを備えたコンテンツ提供システムの制御装置であって、仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力するコンテンツ再生部と、前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御する移動制御部と、を備える。
【0008】
(2):上記(1)の態様において、記移動制御部は、前記コンテンツの再生中において、前記車両が前記仮想空間における利用者の直進移動に同期して規定の周回ルートを走行するように前記全方向移動車輪を制御するものである。
【0009】
(3):上記(2)の態様において、前記移動制御部は、前記車両が規定速度以下の速度で前記周回ルートを走行するように前記全方向移動車輪を制御するものである。
【0010】
(4):上記(1)から(3)のいずれかの態様において、前記コンテンツの再生によって得られる前記仮想空間の映像において、前記仮想空間は、前記仮想空間における利用者の移動に応じて、前記利用者によって近いと認識される領域ほど大きく変化するように表示され、前記利用者によって遠いと認識される領域ほど小さく変化するように表示されるものである。
【0011】
(5):上記(1)から(4)のいずれかの態様において、前記移動制御部は、前記車両の移動限界に対応して前記仮想空間に表示されるオブジェクトの位置に基づき、前記利用者が前記移動限界と接触しないように前記全方向移動車輪を制御するものである。
【0012】
(6):上記(1)から(5)のいずれかの態様において、前記車両を載置する台座となる装置であって、前記全方向移動車輪による前記車両の移動を打ち消す駆動台装置をさらに備えるものである。
【0013】
(7):上記(6)の態様において、人の五感のうち少なくとも一つによって知覚される事象を、前記コンテンツを演出する特殊効果として発生させる発生装置に対し、前記事象の発生を前記駆動台装置の駆動状態に応じて指示する演出制御部をさらに備えるものである。
【0014】
(8):この発明の一態様に係るコンテンツ制御方法は、全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置とを備えたコンテンツ提供システムの制御装置として機能するコンピュータが、仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力し、前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御するものである。
【0015】
(9):この発明の一態様に係るプログラムは、全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置とを備えたコンテンツ提供システムの制御装置として機能するコンピュータに、仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生させ、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力させ、前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御させるものである。
【0016】
(10):この発明の一態様に係るコンテンツ提供システムは、全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置と、仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力するコンテンツ再生部と、前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御する移動制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
(1)~(10)によれば、仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、当該コンテンツの再生によって得られた映像信号を映像投影装置に出力し、映像投影装置に表示させる映像に同期して全方向移動車両を制御することにより、仮想空間での移動を含む経験を提供するコンテンツの臨場感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態におけるコンテンツ提供システムの構成例を示す図である。
【
図2】第1実施形態における全方向移動車輪の構成例を示す図である。
【
図3】第1実施形態におけるコンテンツ提供システムの機能構成の一例を示す図である。
【
図4】第1実施形態における全方向移動車両の移動方向と、コンテンツ映像により知覚される利用者の移動方向との関係を例示する図である。
【
図5】第1実施形態のコンテンツ制御装置が、コンテンツの再生に合わせて全方向移動車両の移動を制御する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】第1実施形態における同期制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】第1実施形態において第2の制御タイミングで全方向移動車両の移動方向が変更される状況の一例を示す図である。
【
図8】第2実施形態におけるコンテンツ提供システムの構成例を示す図である。
【
図9】第2実施形態におけるコンテンツ提供システムの機能構成の一例を示す図である。
【
図10】第2実施形態における同期制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明のコンテンツ制御装置、コンテンツ制御方法、プログラム、およびコンテンツ提供システムの実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態におけるコンテンツ提供システム1Aの構成例を示す図である。コンテンツ提供システム1Aは、視覚的に認知される仮想的な移動を実際の移動に同期して体感させるコンテンツを提供するシステムである。コンテンツ提供システム1Aは、例えば、映像投影装置10と、全方向移動車両20と、コンテンツ制御装置30とを備える。コンテンツ制御装置30は、映像投影装置10および全方向移動車両20のそれぞれと通信可能である。
【0020】
映像投影装置10は、VR(Virtual Reality)に対応した映像信号(以下「VR信号」という。)を入力して視差に応じた映像を利用者の眼前に表示することにより、利用者に対して仮想空間に入りこんだような感覚を与えることができる表示装置である。映像投影装置10は、対象コンテンツのVR信号をコンテンツ制御装置30から入力し、入力したVR信号に基づく映像を表示することにより、仮想空間での移動を含む経験を利用者に体験させることができる。
【0021】
例えば、映像投影装置10は、いわゆるVRゴーグルと呼ばれる頭部装着型のディスプレイ装置であってもよい。なお、映像投影装置10は、移動する利用者に対してVR映像を視聴させることができる位置に設置されればよく、利用者の頭部に装着されるものに限定されない。例えば、映像投影装置10は、ディスプレイの支持部が利用者の頭部以外(例えば肩など)に固定されるものであってもよいし、全方向移動車両20に固定されるものであってもよい。また、映像投影装置10が投影するVR映像は、AR(Augmented Reality)やMR(Mixed Reality)を含むものであってもよい。
【0022】
なお、利用者に対して同様の感覚を知覚させるものであれば、映像投影装置10の実現方法は特定の方法に限定されない。例えば、映像投影装置10の投影方式は、網膜投影方式であってもよいし、虚像投影方式であってもよいし、その他の方式によるものであってもよい。また、例えば、映像投影装置10の表示部の形式は、開放型であってもよいし、遮蔽型であってもよい。
【0023】
全方向移動車両20は、コンテンツ提供システム1Aにおいて、コンテンツ映像によって視覚的に知覚される仮想的な移動に、実際の移動によって得られる移動の実感を付加するために利用者を移動させる役割を有する。全方向移動車両20は、コンテンツ映像に同期した制御信号をコンテンツ制御装置30から入力し、入力した制御信号に基づいて自車両の移動を制御する。具体的には、全方向移動車両20は、例えば、座席部21と、全方向移動車輪22とを備える。座席部21は、利用者の座席を構成する。利用者は、座席部21に座って全方向移動車両20を操縦する。
【0024】
全方向移動車輪22は、車両が旋回等の予備動作を行うことなく現在位置から直ちに任意方向(360度の全方向)に進み出すことを可能にする車輪である。
図2は、全方向移動車輪22の構成例を示す図である。全方向移動車輪22は、例えば、前輪としての大径車輪22Aと、後輪としての旋回用車輪22Cとを備え、前輪の大径車輪22Aの接地部(径方向の縁の部分)に複数の小径車輪22Bを備える。大径車輪22Aは、主に前後方向への直進移動を実現する車輪である。小径車輪22Bは、大径車輪22Aの回転方向(円周方向)を軸として回転することにより、主にその場での横方向の移動を実現する車輪である。一方、後輪の旋回用車輪22Cは、大径車輪22Aよりも径が小さく、大径車輪22Aの回転軸に直交する回転軸で回転することにより、主に旋回移動を実現する車輪である。全方向移動車輪22は、大径車輪22A、小径車輪22B、および旋回用車輪22Cの回転をそれぞれ独立して制御可能なモータ(図示せず)を備える。このような構成により、全方向移動車輪22は、前後移動に加えて、前・後輪の横方向への移動速度差を利用することで、真横や斜めなどさまざまな方向に動くだけでなく、曲がることやその場での旋回といった機敏な動きも実現することができる。
【0025】
ここで、全方向移動車両20の前方向は
図1におけるy軸の正方向(紙面奥側から紙面手前側に向かう方向、以下+y軸方向という。)であり、後方向はy軸の負方向(紙面手前側から紙面奥側に向かう方向、以下-y軸方向という。)である。例えば、
図2の動作例M1(前進・後進)に示すように、全方向移動車輪22は、大径車輪22Aを矢印A1の方向に回転させることによって前進し、矢印A2の方向に回転させることによって後進する。
【0026】
また例えば、
図2の動作例M2(左右移動)に示すように、全方向移動車輪22は、小径車輪22Bを矢印A3の方向に回転させることにより向きを変えずにその場で左方向に移動することができる。この場合、旋回用車輪22Cは、左右方向の移動に応じて矢印A4方向に自然回転するように構成されてもよいし、小径車輪22Bの回転量に応じて矢印A4方向に回転するように制御されてもよい。また、全方向移動車輪22は、小径車輪22Bを矢印A3と逆方向に回転させることにより向きを変えずにその場で右方向に移動することができる。なお、ここでいう左方向は、
図1における左方向であり、x軸の負方向(-x軸方向)に対応し、右方向は、
図1における右方向であり、x軸の正方向(+x軸方向)に対応する。なお、複数の小径車輪22Bは、全ての車輪が同時に回転するように構成されてもよいし、接地部の車輪のみが回転するように構成されてもよい。
【0027】
また例えば、
図2の動作例M3(その場旋回)に示すように、全方向移動車輪22は、旋回用車輪22Cを矢印A5の方向に回転させることにより大径車輪22Aの接地点P1を中心としてその場で矢印A6方向に旋回することができ、矢印A5と逆方向に回転させることにより矢印A6と逆方向にその場で旋回することができる。
【0028】
また例えば、
図2の動作例M4(旋回走行)に示すように、全方向移動車輪22は、大径車輪22Aを矢印A7方向に回転させ、旋回用車輪22Cを矢印A8方向に回転させることにより、矢印A9の方向に旋回しながら前進することができる(旋回走行)。また、全方向移動車輪22は、大径車輪22Aを矢印A7と逆方向に回転させ、旋回用車輪22Cを矢印A8方向に回転させることにより、矢印A9の逆方向に旋回しながら後進することができる。またこの例において、全方向移動車輪22は、旋回用車輪22Cを矢印A8と逆方向に回転させることにより、旋回中心を右側にとりながら前進または後進することができる。
【0029】
なお、全方向移動車輪22の実現方法は
図2の方法に限定されない。全方向移動車輪22は任意の既存技術で実現されてよい。また、全方向移動車両20は、1つの全方向移動車輪22を備えてもよいし、複数の全方向移動車輪22を備えてもよい。さらに、全方向移動車両20は、全方向移動車輪22に加えて、通常の車輪を補助的な車輪として備えてもよい。全方向移動車輪22の動作は、全方向移動車両20に搭載されている図示しない制御部(例えば座席部21の内側に設置される。)によって制御され、制御部はコンテンツ制御装置30から入力する制御信号に基づいて全方向移動車輪22の動作(移動方向や速度)を変更する。
【0030】
コンテンツ制御装置30は、コンテンツを再生するとともに、再生中のコンテンツのVR信号を映像投影装置10に出力する機能を有する。また、コンテンツ制御装置30は、コンテンツの再生状況に応じた制御信号を全方向移動車両20に出力する機能を有する。コンテンツ制御装置30が、このような各機能を有することにより、コンテンツ提供システム1Aは、コンテンツ映像によって視覚的に知覚される仮想的な移動に同期して利用者を移動させることができる。
【0031】
図3は、第1実施形態におけるコンテンツ提供システム1Aの機能構成の一例を示す図である。映像投影装置10、全方向移動車両20、およびコンテンツ制御装置30は、例えば無線LAN(Local Area Network)に接続され、無線LANを介して互いに通信可能である。コンテンツを利用する際の利便性から、本実施形態では、各装置間の通信が無線通信により実現される場合を想定するが、これは必須ではなく、各装置間の通信は有線通信によって実現されてもよい。また、映像投影装置10、全方向移動車両20、およびコンテンツ制御装置30は、無線LANに代えて近距離無線通信によって通信するように構成されてもよい。
【0032】
また、即応性に問題がない場合、映像投影装置10、全方向移動車両20、およびコンテンツ制御装置30は、セルラー網や専用線、インターネット等のWAN(Wide Area Network)を介して通信するように構成されてもよい。また、また、即応性に問題がない場合、映像投影装置10、全方向移動車両20、およびコンテンツ制御装置30は、セルラー網や専用線、インターネット等のWAN(Wide Area Network)を介して通信するように構成されてもよい。
【0033】
まず、映像投影装置10の構成について説明する。映像投影装置10は、例えば、通信部11と、表示部12と、表示制御部13とを備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0034】
通信部11は、例えば、LANに接続する無線LANインタフェースである。通信部11は、LANを介してコンテンツ制御装置30からVR信号を受信し、受信したVR信号を表示制御部13に出力する。通信部11は、映像投影装置10、全方向移動車両20、およびコンテンツ制御装置30の各装置間で採用する通信方式に応じて他の通信インタフェースに置き換えられてもよい。
【0035】
表示部12は、光源(小型のプロジェクタ)やレンズ、ハーフミラーなどを組み合わせて構成され、光源から出力される映像がレンズやハーフミラーなどを介して映像投影装置10を装着した利用者の網膜に結像するように構成される。表示部12は、コンテンツ制御装置30から供給されるVR信号に基づく映像を光源から出力する。
【0036】
表示制御部13は、映像投影装置10の表示動作を制御する。具体的には、表示制御部13は、再生中のコンテンツのVR信号を、通信部11を介してコンテンツ制御装置30から受信し、受信したVR信号を表示部12に出力する。表示部12では、表示制御部13から出力されたVR信号に基づく映像が光源から出力される。これにより、再生中のコンテンツ映像が利用者の網膜に結像する。
【0037】
続いて、全方向移動車両20の構成について説明する。全方向移動車両20は、例えば、全方向移動車輪22と、通信部23と、車輪制御部24とを備える。これらの構成要素は、例えば、CPUなどのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSIやASIC、FPGA、GPUなどのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0038】
全方向移動車輪22は、上述のとおり、移動方向を任意の方向に即座に変更することができる車輪であり、車輪の移動方向を変更する駆動機構と、車輪の回転速度や回転方向を変更する駆動機構とを有する。これらの各駆動機構は、電気信号による動作制御が可能であり、車輪制御部24から入力する制御信号に基づいて制御される。
【0039】
通信部23は、例えば、無線LANインタフェースである。通信部23は、コンテンツ制御装置30から制御信号を受信し、受信した制御信号を車輪制御部24に出力する。通信部23は、映像投影装置10、全方向移動車両20、およびコンテンツ制御装置30の各装置間で採用する通信方式に応じて他の通信インタフェースに置き換えられてもよい。
【0040】
車輪制御部24は、全方向移動車両20の移動動作を制御する。具体的には、車輪制御部24は、コンテンツ制御装置30から供給される、コンテンツの再生状況に応じた制御信号に基づいて全方向移動車輪22の動作を制御する。例えば、コンテンツ映像において利用者が仮想空間内で前進するシーンが再生されている状況において、車輪制御部24は、利用者の前進に合わせて全方向移動車両20を前進させる制御信号をコンテンツ制御装置30から入力し、入力した制御信号を全方向移動車輪22に出力することにより、全方向移動車両20を前進させる。
【0041】
続いて、コンテンツ制御装置30の構成について説明する。コンテンツ制御装置30は、例えば、通信部31と、記憶部32と、コンテンツ制御部33Aとを備える。これらの構成要素は、例えば、CPUなどのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSIやASIC、FPGA、GPUなどのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0042】
通信部31は、例えば、LANに接続する無線LANインタフェースである。通信部31は、LANを介して映像投影装置10にVR信号を送信するとともに、全方向移動車両20に制御信号を送信する。通信部31は、映像投影装置10、全方向移動車両20、およびコンテンツ制御装置30の各装置間で採用する通信方式に応じて他の通信インタフェースに置き換えられてもよい。
【0043】
記憶部32は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM、ROM、またはRAM等により実現される。例えば、記憶部32には、コンテンツデータD1およびコンテンツ制御データD2が記憶される。その他、記憶部32には、プロセッサによって読み出されて実行されるプログラムや設定情報、中間データ、各種入出力データなど、コンテンツ制御装置30の動作に必要な任意の情報が格納されてよい。
【0044】
ここで、コンテンツデータD1は、利用者に提供するコンテンツを生成するデータである。本実施形態では、コンテンツデータD1は、仮想空間における仮想的な移動を視覚的に知覚させる映像データを含み、再生処理が施されることによってコンテンツ映像を表示するように構成される。また、コンテンツ制御データD2は、利用者に提供するコンテンツについて、再生状況に応じた制御信号を定義したデータである。
【0045】
コンテンツ制御部33Aは、指定されたコンテンツを再生して映像投影装置10に表示させるとともに、コンテンツの再生状況に応じて全方向移動車両20の移動を制御する機能を有する。例えば、コンテンツ制御部33Aは、コンテンツ再生部331と、移動制御部332とを備える。
【0046】
コンテンツ再生部331は、指定されたコンテンツのコンテンツデータD1を記憶部32から取得して再生処理を実行することにより当該コンテンツの映像信号を取得するとともに、取得した映像信号をVR信号に変換して映像投影装置10に送信する。なお、コンテンツデータD1がVR表示に対応している場合、すなわち、コンテンツデータD1に含まれる映像データが再生処理によって直接的にVR信号を出力するように構成されている場合、コンテンツ再生部331は、映像信号からVR信号への変換処理を省略してもよい。
【0047】
移動制御部332は、再生中のコンテンツに対応するコンテンツ制御データD2を記憶部32から取得するとともに、取得したコンテンツ制御データD2に基づいてコンテンツの再生状況に応じた制御信号を生成し、生成した制御信号を全方向移動車両20に送信する。例えば、コンテンツ制御データD2には、コンテンツ映像において利用者が移動するシーンの表示タイミングに対応した制御タイミングが少なくとも定義されており、移動制御部332は、再生中のコンテンツ映像に同期しながら、コンテンツ制御データD2が示す制御タイミングに合わせて全方向移動車両20を移動させる制御信号を生成する。
【0048】
なお、コンテンツの再生は、再生時におけるコンテンツ制御装置30の負荷の影響を受ける場合があるため、再生中のコンテンツの再生位置は、コンテンツの再生開始からの経過時間に必ずしも一致しない。そのため、例えば、移動制御部332は、コンテンツ再生部331から再生中のコンテンツの再生位置を示す情報(以下「再生位置情報」という。)を周期的に取得して再生位置を監視することによりコンテンツ映像に同期して制御信号を生成する。例えば、再生位置情報は、コンテンツ映像中の特定フレームや、クロック信号のカウント数によって表されてもよい。これにより、コンテンツ制御装置30は、コンテンツ映像と全方向移動車両20の動作を精度良く同期することが可能となり、仮想空間での移動と実際の移動とのズレによる違和感を低減し、より臨場感の高いコンテンツを提供することができる。
【0049】
なお、コンテンツ制御データD2には、制御タイミングと対応づけて、移動速度や移動量、移動方向などの移動態様が定義されてもよい。この場合、移動制御部332は、コンテンツ制御データD2が示す制御タイミングに合わせ、当該制御タイミングに関して定義された移動態様で全方向移動車両20を移動させる制御信号を生成するように構成されてもよい。
【0050】
図4は、全方向移動車両20の移動方向と、コンテンツ映像により知覚される利用者の移動方向との関係を例示する図である。
図4において、仮想空間VS1の映像は、コンテンツ映像において、利用者が道路R1を紙面手前側から紙面奥側に向けて(図中の矢印方向)移動しているシーンが再生されている状況を表している。このような状況において、移動制御部332は、仮想空間VS1の映像に同期し、現実空間RS1において、全方向移動車両20に周回ルートRT1を規定速度以下の速度で走行させる制御信号を生成する。
【0051】
ここで、規定速度は、利用者に当該周回移動を直進移動と知覚させる(錯覚させる)ことができる速度の上限値である。これは、周回移動では移動速度が速くなるほど遠心力が大きくなるので、利用者は現在の移動が周回移動であることを視覚以外の感覚によって知覚しやすくなる一方、移動速度が遅くなるほど遠心力が小さくなるので、利用者は現在の移動を直進移動と錯覚しやすくなることを利用したものである。
【0052】
また、周回移動では周回ルートの径が大きいほど遠心力が大きくなるので、利用者は現在の移動が周回移動であることを視覚以外の感覚によって知覚しやすくなる一方、周回ルートの径が小さくなるほど遠心力が小さくなるので、利用者は現在の移動を直進移動と錯覚しやすくなる。そのため、移動制御部332は、移動速度の条件を満足することに加え、許容される範囲内でできるだけ大きな径の周回ルートを走行させる制御信号を生成するように構成されてもよい。
【0053】
このように、移動制御部332が、コンテンツ映像に同期して全方向移動車両20の移動を制御することによって、仮想空間での移動と実際の移動とを同期したコンテンツを提供することが可能となり、より臨場感の高いコンテンツを提供することが可能となる。さらに、移動制御部332が、規定速度以下の速度で周回ルートを走行するように全方向移動車両20を制御することによって、利用者が違和感を覚えないようにしつつ、コンテンツの利用に要する現実空間の範囲を周回ルートの範囲程度に制限することが可能となる。これにより、利用者は、より臨場感の高いコンテンツを、限られた範囲の空間で利用することが可能となる。したがって、本実施形態のコンテンツ提供システム1Aによれば、仮想空間での移動を含む経験を体験させるコンテンツの臨場感を向上させることが可能となる。
【0054】
なお、コンテンツの臨場感をさらに向上させるために、コンテンツ映像における画像の変化の大きさを画像内の領域に応じて異ならせてもよい。具体的には、仮想空間における利用者の移動に応じて、利用者によって近いと認識される領域ほど画像の変化を大きくし、利用者によって遠いと認識される領域ほど画像の変化を小さくするような視覚的効果をコンテンツ映像に付与してもよい。コンテンツ再生部331は、予めこのような視覚効果が付与されたコンテンツを再生してもよいし、コンテンツの再生によって得られた映像信号にこのような視覚効果を付与するように構成されてもよい。
【0055】
図5は、本実施形態のコンテンツ制御装置30が、コンテンツの再生に合わせて全方向移動車両20の移動を制御する処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、コンテンツ制御装置30において、コンテンツの再生条件が満たされた場合に、コンテンツ再生部331が、指定されたコンテンツを再生する(ステップS101)。具体的には、コンテンツ再生部331は、指定されたコンテンツのコンテンツデータD1を記憶部32から取得し、取得したコンテンツデータD1に対して再生処理を実行する。コンテンツ再生部331は、コンテンツの再生を開始すると、再生処理によって取得された時系列の映像信号をVR信号に変換し、変換した時系列のVR信号を時系列に映像投影装置10に出力していく(ステップS102)。
【0056】
続いて、移動制御部332が同期制御処理を実行する(ステップS103)。同期制御処理は、コンテンツ映像に同期して全方向移動車両20の移動を制御する処理であり、コンテンツの再生中において所定の周期で繰り返し実行される処理である。移動制御部332は、一周期分の同期制御処理(ステップS103)を実行すると、コンテンツの再生が終了したか否かを判定する(ステップS104)。ここで、コンテンツの再生が終了していないと判定した場合、移動制御部332は、ステップS103に処理を戻し、同期制御処理を繰り返し実行する。
【0057】
一方、ステップS104において、コンテンツの再生が終了したと判定した場合、移動制御部332は、全方向移動車両20の移動を停止させる(ステップS105)とともに、映像投影装置10に対するVR信号の出力を終了する(ステップS106)。
【0058】
図6は、本実施形態における同期制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、移動制御部332は、再生中のコンテンツ映像において、全方向移動車両20の移動制御に関して第1の制御タイミングが到来したか否かを判定する(ステップS201)。具体的には、移動制御部332は、記憶部32に記憶されているコンテンツ制御データD2を参照し、コンテンツ映像の現在の再生時刻(ここでは映像の先頭からの経過時間を意味するものとする。)が第1の制御タイミングとして定義されているか否かを判定する。この場合、移動制御部332は、現在の再生時刻が第1の制御タイミングとして定義されている場合には第1の制御タイミングが到来したと判定し、現在の再生時刻が第1の制御タイミングとして定義されていない場合には第1の制御タイミングは到来していないと判定することができる。
【0059】
ここで、第1の制御タイミングが到来したと判定した場合、移動制御部332は、規定速度以下の速度で周回ルートを走行するように全方向移動車両20を制御する制御信号を生成して全方向移動車両20に出力する(ステップS202)。一方、ステップS201において、第1の制御タイミングは到来していないと判定した場合、移動制御部332は、ステップS202をスキップしてステップS203に処理を進める。
【0060】
続いて、移動制御部332は、再生中のコンテンツ映像において、全方向移動車両20の移動制御に関して第2の制御タイミングが到来したか否かを判定する(ステップS203)。ここでは、第2の制御タイミングも、第1の制御タイミングと同様に、コンテンツ制御データD2に定義されているものとし、コンテンツ制御データD2に基づいて到来の有無を判定することができるものとする。ここで、第2の制御タイミングは、再生中のコンテンツ映像において、利用者が現実空間の移動限界に対応して設置された仮想オブジェクト(例えば、壁や崖、柵など)に到達して移動方向を変更するシーンが再生されるタイミングである。
【0061】
ここで、第2の制御タイミングが到来したと判定した場合、移動制御部332は、現実空間の移動限界を超えないように移動方向を変更する制御信号を生成して全方向移動車両20に出力する(ステップS204)。例えば、
図7は、第2の制御タイミングにおいて全方向移動車両20の移動方向が変更される状況の一例を示す図である。
図7において、仮想空間VS2の映像は、コンテンツ映像において、利用者が道路R2を紙面手前側から紙面奥側に移動しているシーンが再生されている状況を表している。また、道路R2の途中に配置されている壁WL1は、現実空間RS2において利用者の移動範囲を制限する壁WL2(移動限界)に対応して表示された仮想オブジェクトである。
【0062】
例えば、このような仮想オブジェクトの表示は、仮想オブジェクトが所定のタイミングで表示されるように構成されたコンテンツの再生に合わせて、規定の走行シナリオ(経路および速度)で全方向移動車両20を走行させることによって実現できる。これは、
図7の例に当てはめると、再生開始から5分後に壁WL1に到達する動画をコンテンツとして再生し、その一方で、再生開始から5分後に壁WL2に到達するような走行シナリオで全方向移動車両20を走行させる方法であるということができる。すなわち、この場合は、コンテンツも走行シナリオも予め同期するように構成しておくというものである。
【0063】
また、別の方法として、コンテンツの再生が単なる動画の再生ではなく、シミュレーションによる仮想空間の再現等によって実現される場合には、コンテンツ再生部331が、全方向移動車両20の移動状況に応じて仮想空間内に仮想オブジェクトを配置してもよい。なお、この場合、コンテンツ再生部331は、全方向移動車両20と移動限界との位置関係を逐次把握する必要がある。そのため、この場合、全方向移動車両20は、自車両の位置情報を取得する機能を有し、周期的に位置情報を取得してコンテンツ制御装置30に提供するように構成されてもよい。
【0064】
いずれの実現方法にせよ、現実空間における移動限界と、仮想空間における仮想オブジェクトが同期して表示される場合において、移動制御部332は、仮想空間VS2の映像に同期し、現実空間RS2において、移動限界を超えないように、すなわち移動限界であるWL2に接触しないように全方向移動車両20の移動方向を変更する制御信号を生成する。ここで例えば、
図7の例において、再生中のコンテンツは、壁WL1の手前で道路R3に向けて左方向に方向転換するシーンを表示するように予め構成されており、移動制御部332は、このシーンの再生タイミングに合わせて、全方向移動車両20の移動方向を変更する。
【0065】
このように、現実空間における移動限界に対応したオブジェクトが仮想空間にも表示され、仮想空間において当該オブジェクトを回避するシーンの再生タイミングに合わせて全方向移動車両20の移動方向が変更されることにより、利用者は仮想空間での移動を含む経験を、より高い臨場感をもって体験することが可能となる。
【0066】
以上のように構成された第1実施形態のコンテンツ提供システム1Aによれば、仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツが再生され、コンテンツの再生によって得られた映像信号が映像投影装置10に表示され、映像投影装置10に表示される映像に同期して全方向移動車両20が制御されることにより、仮想空間での移動を含む経験を提供するコンテンツの臨場感を向上させることが可能となる。
【0067】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態におけるコンテンツ提供システム1Bの構成例を示す図である。コンテンツ提供システム1Bは、全方向移動車両20が移動しないように全方向移動車輪22の駆動を打ち消すように駆動する駆動台装置40をさらに備える点と、仮想空間での移動を含む経験の臨場感を向上させるための各種特殊効果を発生させる特殊効果発生装置50をさらに備える点と、において第1実施形態のコンテンツ提供システム1Aと異なる。コンテンツ提供システム1Bのその他の構成は、コンテンツ提供システム1Aと同様である。そのため、
図8では、第1実施形態と同様の構成については
図1と同じ符号を付すことにより、ここでの説明を省略する。
【0068】
駆動台装置40は、全方向移動車両20を載置する台座として用いられる装置である。駆動台装置40は、全方向移動車両20の全方向移動車輪22と接触し、全方向移動車輪22の駆動を打ち消すように駆動する駆動部42を備える。例えば、駆動部42は、全方向移動車輪22の駆動によって回転する1つ以上の球体やキャタピラなどによって構成されてもよいし、摩擦係数が小さい平面部材などによって構成されてもよい。駆動部42は、センサによって全方向移動車輪22の駆動を検知して、それを打ち消すように駆動するものであってもよいし、電気的な機構を有さず、全方向移動車輪22の駆動に対して小さい抵抗で相対的に駆動するものであってもよい。
【0069】
特殊効果発生装置50は、風や霧、匂い、音、振動などの特殊効果を発生させる装置である。特殊効果発生装置50は、コンテンツ制御装置30の制御により、コンテンツ映像に同期して特殊効果を発生させる。例えば、特殊効果発生装置50は、コンテンツ映像において、仮想空間に風が吹くシーンが再生された場合、その再生タイミングにおいてコンテンツ制御装置30から風を出力する制御信号を入力する。それにより、特殊効果発生装置50は、仮想空間で風が吹くシーンに同期して現実空間で実際の風を発生させることができる。
【0070】
図9は、第2実施形態におけるコンテンツ提供システム1Bの機能構成の一例を示す図である。上述のとおり、コンテンツ提供システム1Bは、駆動台装置40および特殊効果発生装置50をさらに備える点で第1実施形態のコンテンツ提供システム1Aと異なる。また、コンテンツ提供システム1Bにおいて、コンテンツ制御装置30は、コンテンツ制御部33Aに代えてコンテンツ制御部33Bを備える点で第1実施形態のコンテンツ提供システム1Aと異なる。また、コンテンツ制御部33Bは、演出制御部333をさらに備える点で第1実施形態のコンテンツ制御部33Aと異なる。コンテンツ提供システム1Bのその他の構成は、コンテンツ提供システム1Aと同様である。そのため、
図9では、第1実施形態と同様の構成については
図3と同じ符号を付すことにより、ここでの説明を省略する。
【0071】
まず、駆動台装置40の構成について説明する。駆動台装置40は、通信部41と、駆動部42と、駆動センサ43とを備える。通信部41は、例えば、LANに接続する無線LANインタフェースである。通信部41は、LANを介してコンテンツ制御装置30と通信する。通信部41は、駆動台装置40とコンテンツ制御装置30との間で採用する通信方式に応じて他の通信インタフェースに置き換えられてもよい。
【0072】
駆動部42は、
図8でも説明したとおり、全方向移動車両20の全方向移動車輪22と接触し、全方向移動車輪22の駆動を打ち消すように駆動する駆動機構である。駆動部42の駆動状態は駆動センサ43によって検知され、コンテンツ制御装置30に通知される。
【0073】
駆動センサ43は、駆動部42の駆動状態を検知するセンサである。駆動センサ43は、少なくとも駆動部42が駆動中であるか否かを検知できるものであればよい。例えば、駆動センサ43は、駆動部42の作動により回転する回転部の回転を検知する回転センサであってもよいし、駆動部42の変位を検知するセンサであってもよい。駆動センサ43は、検知結果を示す情報(以下「検知情報」という。)をコンテンツ制御装置30に送信する。
【0074】
続いて、特殊効果発生装置50の構成について説明する。特殊効果発生装置50は、人の五感のうち少なくとも一つによって知覚される事象を、前記コンテンツを演出する特殊効果として発生させる装置である。特殊効果発生装置50は、例えば、通信部51と、特殊効果発生部52と、特殊効果制御部53とを備える。通信部41は、例えば、LANに接続する無線LANインタフェースである。通信部51は、LANを介してコンテンツ制御装置30と通信する。通信部51は、特殊効果発生装置50とコンテンツ制御装置30との間で採用する通信方式に応じて他の通信インタフェースに置き換えられてもよい。
【0075】
特殊効果発生部52は、上述のとおり、風や霧、匂い、音、振動などの特殊効果を発生させる送風機や噴霧器、芳香装置、スピーカ、バイブレータなどの装置である。特殊効果発生装置50は、それぞれが異なる特殊効果を発生する複数の特殊効果発生部52を備えてもよいし、1つの特殊効果発生部52を備えてもよい。また、コンテンツ提供システム1Bは、コンテンツの演出に必要な特殊効果を1つの特殊効果発生装置50で発生させるように構成されてもよいし、複数の特殊効果発生装置50で発生させるように構成されてもよい。特殊効果発生部52は、特殊効果の出力の有無や出力の強度などを電気信号によって制御可能であり、特殊効果制御部53から入力する制御信号に基づいて制御される。
【0076】
特殊効果制御部53は、特殊効果発生部52による特殊効果の出力動作を制御する。具体的には、特殊効果制御部53は、コンテンツ制御装置30から供給される、駆動台装置40の駆動状態に応じた制御信号に基づいて特殊効果発生部52の動作を制御する。例えば、特殊効果制御部53は、駆動台装置40が駆動している状況において、すなわち、全方向移動車輪22が回転している状況において、利用者に対してよりリアルな移動の感覚を演出するために振動を発生させる制御信号をコンテンツ制御装置30から入力し、入力した制御信号を特殊効果発生部52に出力することにより、特殊効果発生部52が振動を発生させ、その振動が全方向移動車両20に伝わる。これにより、利用者は、仮想空間での移動時においてよりリアルな移動の感覚を味わうことができる。
【0077】
続いて、コンテンツ制御装置30の演出制御部333について説明する。演出制御部333は、特殊効果発生装置50に対し、特殊効果の発生を駆動台装置40の駆動状態に応じて指示するものである。演出制御部333は、駆動台装置40の駆動状態に応じた制御信号を生成して特殊効果発生装置50に出力する。例えば、上記の振動の例では、演出制御部333は、全方向移動車両20が低速で移動しているときには小さな振動を発生させる制御信号を生成し、全方向移動車両20が高速で移動しているときには大きな振動を発生させる制御信号を生成してもよい。演出制御部333が、このような制御信号を出力することにより、特殊効果発生装置50は、全方向移動車両20の駆動状態に同期して、全方向移動車両20の駆動状態に応じた移動の演出を利用者に対して行うことが可能となる。
【0078】
図10は、第2実施形態における同期制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。ここで、第2実施形態における同期制御処理は、ステップS301およびS302をさらに有する点で第1実施形態における同期制御処理と異なる。そのため、
図10において、第1実施形態と同様の各処理については
図6と同じ符号を付すことにより、ここでの説明を省略する。
【0079】
例えば、演出制御部333は、ステップS204において、移動制御部332が全方向移動車両20に対する制御信号を出力した後に、特殊効果の発生条件が満たされたか否かを判定する(ステップS301)。ここでいう特殊効果の発生条件は、例えば、全方向移動車両20が駆動中であること、である。全方向移動車輪22の駆動は駆動台装置40によって打ち消されるため、実際には全方向移動車両20は駆動台装置40の上から移動することはない。この場合、演出制御部333は、駆動台装置40から受信される検知情報に基づいて全方向移動車両20が移動中であるか否かを判定することができる。
【0080】
ここで、特殊効果の発生条件が満たされたと判定した場合、演出制御部333は、特殊効果発生装置50に対して、全方向移動車両20の駆動状態に応じた特殊効果の出力を指示する(ステップS302)。一方、ステップS301において、特殊効果の発生条件が満たされていないと判定した場合、演出制御部333は、ステップS302をスキップして同期制御処理を終了する。
【0081】
以上のように構成された第2実施形態のコンテンツ提供システム1Bによれば、仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツが再生され、コンテンツの再生によって得られた映像信号が映像投影装置10に表示され、映像投影装置10に表示される映像に同期して全方向移動車両20が制御されることにより、仮想空間での移動を含む経験を提供するコンテンツの臨場感を向上させることが可能となる。
【0082】
さらに、第2実施形態のコンテンツ提供システム1Bによれば、コンテンツ映像に同期して制御される全方向移動車両20の駆動が駆動台装置40によって打ち消されるので、全方向移動車両20は、移動時と同じ動作を行いつつも、駆動台装置40の上から移動することがない。そのため、仮想空間において移動を含む経験を体験させるコンテンツを、より高い臨場感でかつ省スペースで提供することができる。
【0083】
さらに、第2実施形態のコンテンツ提供システム1Bによれば、特殊効果発生装置50が、コンテンツ映像に同期して制御される全方向移動車両20の駆動状態に応じて特殊効果を発生させることにより、現実空間における物理現象でコンテンツを演出することができる。そのため、仮想空間において移動を含む経験を体験させるコンテンツを、より高い臨場感をもって利用者に提供することができる。
【0084】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
プログラムを記憶した記憶装置と、
ハードウェアプロセッサと、を備え、
前記ハードウェアプロセッサが前記記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、
全方向移動車輪を備えた車両と、映像投影装置とを備えたコンテンツ提供システムの制御装置として機能するコンピュータが、
仮想空間において移動を含む経験を利用者に体験させるコンテンツを再生し、
前記コンテンツの再生によって得られた映像信号を前記映像投影装置に出力し、
前記映像投影装置に表示させる映像に同期して前記車両の全方向移動車輪を制御する、
ように構成されている、コンテンツ制御装置。
【0085】
上記各実施形態において、コンテンツ制御装置30が備える各機能部の一部または全部は、映像投影装置10、全方向移動車両20、駆動台装置40、および特殊効果発生装置50のいずれか1つ以上に分散して配置されてもよい。
【0086】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0087】
1A,1B…コンテンツ提供システム、10…映像投影装置、11…通信部、12…表示部、13…表示制御部、20…全方向移動車両、21…座席部、22…全方向移動車輪、22A…大径車輪、22B…小径車輪、22C…旋回用車輪、23…通信部、24…車輪制御部、30…コンテンツ制御装置、31…通信部、32…記憶部、33A,33B…コンテンツ制御部、331…コンテンツ再生部、332…移動制御部、333…演出制御部、34…軸、40…駆動台装置、41…通信部、42…駆動部、43…駆動センサ、50…特殊効果発生装置、51…通信部、52…特殊効果発生部、53…特殊効果制御部