(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】低粘度分散媒用高隠蔽性白色顔料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09C 1/36 20060101AFI20250207BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
C09C1/36
C09C3/06
(21)【出願番号】P 2021501793
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003550
(87)【国際公開番号】W WO2020175003
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019036993
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】000109255
【氏名又は名称】チタン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】勝山 智祐
(72)【発明者】
【氏名】那須 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】森下 正育
(72)【発明者】
【氏名】下村 直敬
(72)【発明者】
【氏名】下村 珠美
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-256341(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194466(WO,A1)
【文献】特開2019-006716(JP,A)
【文献】特開平09-202620(JP,A)
【文献】国際公開第2019/225491(WO,A1)
【文献】特開2016-037469(JP,A)
【文献】特開2008-056535(JP,A)
【文献】特開平02-283617(JP,A)
【文献】特開平07-165423(JP,A)
【文献】特開平10-245228(JP,A)
【文献】特開2005-298316(JP,A)
【文献】特開2010-163369(JP,A)
【文献】特開2003-192349(JP,A)
【文献】特開2019-157058(JP,A)
【文献】特開2017-105967(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175440(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/36
C09C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面突出形状を有する二次構造粒子で構成され、
前記二次構造粒子は、複数の一次構造体が連結して構成されており、
前記二次構造粒子の表面に、酸化チタン以外の無機材料の
焼成酸化物層が被覆されており、かつ、面積円相当粒子径が、150nm以上500nm以下であり、
前記無機材料が、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、ジルコニウム、セリウム及び錫から選ばれる元素の酸化物のうちの一種又は二種以上であり、
以下の隠蔽性試験において、30.0以下の色差(ΔE)又は2.0以上の隠蔽力差を有する、
ルチル型の酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料(但し、一個の粒子の長軸面が短軸方向に配向凝集した短冊状の粒子形態を有し、かつ、平均粒子径D50が100nm~400nmであるルチル型酸化チタン
、並びに、ケイ素の酸化物又は水酸化物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、及び鉄の酸化物又は水酸化物を各層として有する被覆酸化チタン粉末を除く。):
隠蔽性試験
前記顔料の割合が50g/kgとなるように、ニトロセルロースラッカーに前記顔料を混合撹拌してスラリーを調製し、次いで、JIS K5400に記載されている白黒の隠蔽率試験紙上に、0.101mmのアプリケーターでスラリーを塗布及び乾燥して試験サンプルを調製し、この試験サンプルを分光測色機にて、前記隠蔽率試験紙の白紙及び黒紙上の塗膜表面をそれぞれ測色し、Hunter Lab色空間における色差(ΔE)を以下の式2より算出する、又は、隠蔽力差を、以下の式3より算出する:
【数1】
隠蔽力差=(表面被覆及び焼成処理していない未焼成の酸化チタンの色差(ΔE))-(前記顔料の色差(ΔE)) …式3
【請求項2】
表面突出形状を有する二次構造粒子で構成され、
前記二次構造粒子は、複数の一次構造体が連結して構成されており、
前記二次構造粒子の表面に、酸化チタン以外の無機材料の
焼成酸化物層が被覆されており、かつ、面積円相当粒子径が、150nm以上500nm以下であり、
前記無機材料が、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、ジルコニウム、セリウム及び錫から選ばれる元素の酸化物のうちの一種又は二種以上であり、
以下の隠蔽性試験において、30.0以下の色差(ΔE)又は2.0以上の隠蔽力差を有する、
ルチル型の酸化チタンを主成分とする化粧料用表面被覆焼成顔料
(但し、ケイ素の酸化物又は水酸化物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、及び鉄の酸化物又は水酸化物を各層として有する被覆酸化チタン粉末を除く。):
隠蔽性試験
前記顔料の割合が50g/kgとなるように、ニトロセルロースラッカーに前記顔料を混合撹拌してスラリーを調製し、次いで、JIS K5400に記載されている白黒の隠蔽率試験紙上に、0.101mmのアプリケーターでスラリーを塗布及び乾燥して試験サンプルを調製し、この試験サンプルを分光測色機にて、前記隠蔽率試験紙の白紙及び黒紙上の塗膜表面をそれぞれ測色し、Hunter Lab色空間における色差(ΔE)を以下の式2より算出する、又は、隠蔽力差を、以下の式3より算出する:
【数2】
隠蔽力差=(表面被覆及び焼成処理していない未焼成の酸化チタンの色差(ΔE))-(前記顔料の色差(ΔE)) …式3
【請求項3】
前記無機材料が、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の顔料。
【請求項4】
前記一次構造体の形状が、針状、粒状、紡錘状、短冊状、藁束状、棒状、及び繭状から選ばれる少なくとも一種である、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の顔料。
【請求項5】
前記顔料の見かけ嵩密度が、600kg/m
3以下である、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の顔料。
【請求項6】
前記顔料の比表面積が、80m
2/g以下である、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の顔料。
【請求項7】
化粧料用である、請求項1及び3から請求項6までのいずれか一項に記載の顔料。
【請求項8】
150nm以上500nm以下の面積円相当粒子径、
600kg/m
3以下の見かけ嵩密度及び
34m
2
/g以上80m
2/g以下の比表面積から選ばれる少なくとも一種、並びに、
以下の隠蔽性試験において、30.0以下の色差(ΔE)又は2.0以上の隠蔽力差、を有し、かつ、
表面が、酸化チタン以外の無機材料の
焼成酸化物層で被覆され、前記無機材料が、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、ジルコニウム、セリウム及び錫から選ばれる元素の酸化物のうちの一種又は二種以上である、
ルチル型の酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料(但し、一個の粒子の長軸面が短軸方向に配向凝集した短冊状の粒子形態を有し、かつ、平均粒子径D50が100nm~400nmであるルチル型酸化チタン
、並びに、ケイ素の酸化物又は水酸化物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、及び鉄の酸化物又は水酸化物を各層として有する被覆酸化チタン粉末を除く。):
隠蔽性試験
前記顔料の割合が50g/kgとなるように、ニトロセルロースラッカーに前記顔料を混合撹拌してスラリーを調製し、次いで、JIS K5400に記載されている白黒の隠蔽率試験紙上に、0.101mmのアプリケーターでスラリーを塗布及び乾燥して試験サンプルを調製し、この試験サンプルを分光測色機にて、前記隠蔽率試験紙の白紙及び黒紙上の塗膜表面をそれぞれ測色し、Hunter Lab色空間における色差(ΔE)を以下の式2より算出する、又は、隠蔽力差を、以下の式3より算出する:
【数3】
隠蔽力差=(表面被覆及び焼成処理していない未焼成の酸化チタンの色差(ΔE))-(前記顔料の色差(ΔE)) …式3
【請求項9】
150nm以上500nm以下の面積円相当粒子径、
600kg/m
3以下の見かけ嵩密度及び
34m
2
/g以上80m
2/g以下の比表面積から選ばれる少なくとも一種、並びに、
以下の隠蔽性試験において、30.0以下の色差(ΔE)又は2.0以上の隠蔽力差、を有し、かつ、
表面が、酸化チタン以外の無機材料の
焼成酸化物層で被覆され、前記無機材料が、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、ジルコニウム、セリウム及び錫から選ばれる元素の酸化物のうちの一種又は二種以上である、
ルチル型の酸化チタンを主成分とする化粧料用表面被覆焼成顔料
(但し、ケイ素の酸化物又は水酸化物、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、及び鉄の酸化物又は水酸化物を各層として有する被覆酸化チタン粉末を除く。):
隠蔽性試験
前記顔料の割合が50g/kgとなるように、ニトロセルロースラッカーに前記顔料を混合撹拌してスラリーを調製し、次いで、JIS K5400に記載されている白黒の隠蔽率試験紙上に、0.101mmのアプリケーターでスラリーを塗布及び乾燥して試験サンプルを調製し、この試験サンプルを分光測色機にて、前記隠蔽率試験紙の白紙及び黒紙上の塗膜表面をそれぞれ測色し、Hunter Lab色空間における色差(ΔE)を以下の式2より算出する、又は、隠蔽力差を、以下の式3より算出する:
【数4】
隠蔽力差=(表面被覆及び焼成処理していない未焼成の酸化チタンの色差(ΔE))-(前記顔料の色差(ΔE)) …式3
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の顔料、及び分散媒を含有し、かつ、剪断速度1000/sでの粘度が、100mPa・s以下である、組成物。
【請求項11】
酸化チタン形成溶液を用い、複数の一次構造体が連結して構成されている表面突出形状を有する二次構造粒子を含むスラリーを調製し、該スラリーに被覆剤の原料となる無機塩の水溶液からなる無機材料コート液を添加し、無機材料が表面に被覆された二次構造粒子を、空気中550℃以上750℃以下で焼成する、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の顔料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低粘度の分散媒中での使用に適した、酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な粒子形状の酸化チタンを主成分とする顔料が、種々の分散媒中に配合して各種用途に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、辺の大きさが0.05~0.2μm、厚さ方向が0.02~0.1μmの寸法を有する棒状粒子が集合及び/又は結合した扇状のルチル型酸化チタン粒子が更に凝集して形成され、その凝集粒子の粒径が0.1~5.0μm、平均摩擦係数(MIU値)が0.2以上0.7未満である、隠蔽性を有する未焼成のルチル型酸化チタン凝集粒子を、高粘度タイプの化粧料に使用することが開示されている。
【0004】
特許文献2から特許文献4には、粒子形状が藁束状、短冊状等の酸化チタンを、高粘度タイプの化粧料に使用することが開示されている。
【0005】
酸化チタンは化粧料を中心に広く使用されているが、相互作用の強さの指標であるハンマカー定数(Hamaker constant)が大きいため、一般に、凝集及び沈降しやすい。
【0006】
一般に、液体媒体中における粒子の沈降性の指標については、以下の式1に示すストークスの式を使用することができる:
【数1】
ここで、V
sは、沈降速度、D
pは、粒子径、ρ
pは、粒子密度、ρ
fは、媒体密度、gは、重力加速度、ηは、媒体粘度を意味する。
【0007】
顔料級酸化チタンの平均粒子径は、約0.3μmであり、化粧品においては、顔料級酸化チタンの結晶系は屈折率が高く、隠ぺい力で有利なルチル系が使用される。ルチル系の密度は、4.27g/mL(清野学、酸化チタン、1991)である。そして、沈降速度は、粒子径の二乗及び密度差に比例し、媒体粘度に反比例するため、例えば、水系分散媒のような低粘度の媒体中では、高密度である顔料級酸化チタン粒子は沈降しやすい。そのため、このような顔料級酸化チタンは、比較的高粘度の化粧料などで使用される媒体に対して配合することはあっても、攪拌、振とう等の物理的分散手段を適用することなく、水系分散媒のような低粘度の媒体中に配合することはできない。
【0008】
また、一般的な顔料級酸化チタンは、必要な隠蔽性を発現するために、焼成を実施することが多い。しかしながら、焼成した酸化チタンは、空隙率の低下に伴って密度が上昇するため、未焼成の酸化チタンに比べて更に沈降しやすい。
【0009】
低粘度の分散媒中では、酸化チタンの粒子径を小さくすることが、耐沈降性を向上させる有効な手段となる。しかし、酸化チタンは粒子径を小さくすると隠蔽性が低下するため、化粧料の材料として要求される性能を満たさなくなることがある。低粘度の分散媒中での耐沈降性と隠蔽性の両立が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4684970号公報
【文献】特許第6258462号公報
【文献】特許第5096383号公報
【文献】特開2014-84251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示の主題は、水系分散媒のような低粘度の分散媒中においても沈降しづらく、かつ、隠蔽性に優れる酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、酸化チタンの分散について鋭意検討を重ねた結果、
図1に示すような突出形状を持つ酸化チタンを被覆剤の原料となる無機塩の水溶液で処理し、焼成することによって、低粘度の分散媒中での耐沈降性に優れ、かつ隠蔽性にも優れる、酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料が得られることを見出した。
【0013】
また、本開示の酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料は分散媒と混合した組成物として使用することができる。
【0014】
〈態様1〉
表面突出形状を有する二次構造粒子で構成され、前記二次構造粒子は、複数の一次構造体が連結して構成されており、前記二次構造粒子の表面に、酸化チタン以外の無機材料が被覆されており、かつ、面積円相当粒子径が、150nm以上500nm以下である酸化チタンを主成分とする顔料。
〈態様2〉
前記無機材料が、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、鉄、セリウム及び錫から選ばれる元素の酸化物のうちの一種又は二種以上である、態様1に記載の顔料。
〈態様3〉
前記無機材料が、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも一種である、態様1に記載の顔料。
〈態様4〉
前記一次構造体の形状が、針状、粒状、紡錘状、短冊状、藁束状、棒状、及び繭状から選ばれる少なくとも一種である、態様1から態様3までのいずれかに記載の顔料。
〈態様5〉
前記顔料の見かけ嵩密度が、600kg/m3以下である、態様1から態様4までのいずれかに記載の顔料。
〈態様6〉
前記顔料の比表面積が、80m2/g以下である、態様1から態様5までのいずれかに記載の顔料。
〈態様7〉
隠蔽性試験において、2.0以上の隠蔽力差を有する、態様1から態様6までのいずれかに記載の顔料。
〈態様8〉
酸化チタン成分がルチル型である、態様1から態様7までのいずれかに記載の顔料。
〈態様9〉
化粧料用である、態様1から態様8までのいずれかに記載の顔料。
〈態様10〉
150nm以上500nm以下の面積円相当粒子径、並びに600kg/m3以下の見かけ嵩密度及び80m2/g以下の比表面積から選ばれる少なくとも一種を有し、かつ、表面に酸化チタン以外の無機材料の酸化物層が被覆されている顔料。
〈態様11〉
態様1から態様10までのいずれかに記載の顔料、及び分散媒を含有し、かつ、剪断速度1000/sでの粘度が、100mPa・s以下である、組成物。
〈態様12〉
酸化チタン形成溶液を用い、複数の一次構造体が連結して構成されている表面突出形状を有する二次構造粒子を含むスラリーを調製し、
該スラリーに被覆剤の原料となる無機塩の水溶液からなる無機材料コート液を添加し、
無機材料の酸化物層が表面に被覆された二次構造粒子を、空気中550℃以上750℃以下で焼成する、
態様1から態様10までのいずれかに記載の顔料の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、水系分散媒のような低粘度の分散媒中においても沈降しづらく、かつ、隠蔽性にも優れる酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】表面未被覆及び未焼成の酸化チタンの透過型電子顕微鏡写真である。
【
図2】表面未被覆酸化チタンの焼成後の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図3】本開示の一実施態様における酸化ケイ素で表面被覆された酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料の焼成後の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図4】本開示の別の実施態様における酸化ケイ素及び酸化アルミニウムで表面被覆された酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料の焼成後の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0018】
本開示の一実施態様の酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料は、
図3に示されるような表面突出形状を有する二次構造粒子から構成され、この二次構造粒子は、複数の一次構造体が連結して構成されており、二次構造粒子の表面が、酸化チタン以外の無機材料で被覆されており、かつ、面積円相当粒子径が、150nm以上500nm以下である。
【0019】
本開示の顔料では、二次構造粒子が多数の表面突出形状を有することが重要である。本開示の顔料は、
図3に示されるような突出形状によって、空隙があることから、見かけ嵩密度が小さくなる。このため、水系分散媒のような低粘度の分散媒中であっても沈降速度が小さくなり、一般的な顔料級酸化チタンに比べて沈降しづらくなるものと考えている。
【0020】
このような顔料は、一般的な顔料級酸化チタンなどとは異なる特異な見かけ嵩密度又は比表面積を有している。このような特異な見かけ嵩密度又は比表面積を有する顔料であれば、同様の作用効果を呈し得ると考えている。
【0021】
また、本開示の顔料は、
図1に示されるような特異な形態を有する未焼成の酸化チタンに対して表面被覆処理を適用し、その後、焼成処理を実施している。その結果、特許文献2に記載されるような、焼成して表面形状が変化した酸化チタン(
図2)に対して表面被覆処理をした顔料とは異なり、本開示の表面被覆焼成顔料は、
図3及び4に示されるような特異な形態、即ち、複数の一次構造体が連結して構成されている二次構造粒子の形態を保持することができる。これは、酸化チタンからなる一次構造体の表面に、酸化チタンとは異なる無機材料からなる被覆層が形成されることによって、一次構造体同士の焼結が阻害されたためであると考えている。
【0022】
さらに、顔料表面の被覆層は、酸化チタン以外の無機材料で構成されている。無機材料からなる被覆層の表面には、水酸基が配置されやすいため、水系分散媒と酸化チタンとの相溶性が向上し、水系分散媒に対し、より分散しやすくなるものと考えている。
【0023】
また、顔料表面の被覆層は、焼成によって酸化チタンとの結合力が向上して被覆層の剥がれが防止されるため、未焼成の被覆層に比べて耐久性が向上すると考えている。
【0024】
本開示の顔料は、面積円相当粒子径が、150nm以上500nm以下と、一般的な顔料級酸化チタンと同程度であるとともに、表面被覆処理後に焼成されている。その結果、特許文献1、特許文献3及び特許文献4に記載されるような未焼成の表面被覆酸化チタンなどと比べ、顔料の空隙率、特に、表面被覆がされにくい顔料内部のコア付近の空隙率を低下させることができるため、隠蔽性能をより向上させることができるものと考えている。
【0025】
《酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料》
本開示の酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料(単に「顔料」と称する場合がある。)としては、表面が、酸化チタン以外の無機材料で被覆され、150nm以上500nm以下の面積円相当粒子径を有するとともに、複数の一次構造体が連結して構成されている表面突出形状を有する酸化チタンを主成分とする二次構造粒子からなる顔料、並びに/又は、600kg/m3以下の見かけ嵩密度及び80m2/g以下の比表面積から選ばれる少なくとも一種を有する酸化チタンを主成分とする顔料を使用することができる。
【0026】
顔料中の酸化チタン成分の種類としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型のいずれであってもよいが、隠蔽性の観点から、ルチル型の酸化チタンが好ましい。
【0027】
〈顔料の特性〉
(面積円相当粒子径)
顔料の面積円相当粒子径とは、例えば、透過型電子顕微鏡で観察した顔料の投影面積と同じ面積を有する円形状の粒子に換算した場合の粒子径を意図することができる。係る面積円相当粒子径は、10個以上の粒子の平均値と規定することができる。酸化チタン粒子の面積円相当粒子径は、例えば、可視光の散乱効果を高め、隠蔽性を強めるために、可視光の1/2波長付近の大きさであることが好ましく、150nm以上450nm以下であることがより好ましく、200nm以上400nm以下であることが特に好ましい。
【0028】
(見かけ嵩密度)
本開示の顔料は、沈降速度を小さくするために、見かけ嵩密度が、600kg/m3以下であることが望ましい。見かけ嵩密度の下限値については特に制限はないが、例えば、100kg/m3以上と規定することができる。見かけ嵩密度は、例えば、比容積試験器を用い、後述するようにして求めることができる。
【0029】
(比表面積)
本開示の顔料は、隠蔽性、耐沈降性等の観点から、比表面積が80m2/g以下であることが望ましい。酸化チタンの比表面積は、例えば、BET法により求めることができる。
【0030】
(隠蔽性)
本開示の顔料は、後述する隠蔽性試験において、隠蔽性の指標となる色差(ΔE)を、例えば、30.0以下、27.0以下、25.0以下、24.0以下、又は23.0以下にすることができる。色差の下限値については特に制限はないが、例えば、10.0以上、12.0以上、又は15.0以上と規定することができる。
【0031】
また、本開示の顔料は、後述する隠蔽性試験において、表面被覆及び焼成処理をしていない酸化チタンの色差を基準に、他の酸化チタンの色差との差(隠蔽力差)から隠蔽性を評価することができる。この隠蔽力差としては、2.0以上と規定することができる。隠蔽力差の上限値については特に制限はないが、例えば、20.0以下と規定することができる。
【0032】
(結晶子径)
本開示の顔料は、8.0nm以上の結晶子径を有することが望ましく、また、25.0nm以下の結晶子径を有することが望ましい。酸化チタンの結晶子径は、一般的なX線回折法によって測定することができる。
【0033】
(形状)
本開示の顔料としては、二次粒子が、複数の一次構造体が連結して構成されている表面突出形状を有するものを使用することができる。
【0034】
一次構造体の形状としては、耐沈降性及び隠蔽性能が得られるならばいかなるものでもよく、次のものに限定されないが、例えば、針状、粒状、紡錘状、短状、藁束状、棒状、及び繭状から選ばれる少なくとも一種とすることができる。中でも、
図3及び
図4に示されているような、針状、又は棒状の形状であることが好ましい。
【0035】
一次構造体は、二次構造粒子の表面において突出している形状を呈し得るように連結されていればよく、その連結構造については特に限定されないが、一次構造体が、例えば、扇状、放射状、又はランダムに連結されていてもよく、中でも、耐沈降性及び隠蔽性の観点から放射状に連結していることが好ましい。
【0036】
〈表面被覆層〉
本開示の顔料は、その表面に、酸化チタン以外の無機材料が一種以上被覆されている。係る無機材料としては、次のものに限定されないが、例えば、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、ジルコニウム、鉄、セリウム及び錫から選択される元素を含む成分、例えば、上記の元素の酸化物が挙げられる。中でも、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムが好ましく、酸化ケイ素がより好ましい。表面被覆層を備える顔料は、隠蔽性の観点から、酸化チタンが主体であること、即ち、800g/kg以上が、酸化チタン成分であることが好ましい。係る酸化チタンにおける表面被覆層の割合としては、顔料の質量を基準として、200g/kg以下とすることができ、また、10g/kg以上とすることができる。
【0037】
本開示の顔料の表面に酸化チタン以外の無機材料を被覆することによって、一次構造体の焼結による形状変化を低減させることができ、また、分散媒、特に、水系分散媒への分散性を向上させることができる。
【0038】
《表面被覆焼成酸化チタンを含む組成物》
本開示の酸化チタンを主成分とする顔料は、低粘度の分散媒、特に、水系分散媒とともに組成物を構成することができる。
【0039】
〈組成物の特性〉
(粘度)
本開示の顔料を含む組成物は、剪断速度1000/sで、100mPa・s以下の粘度を有することができる。係る粘度は、例えば、MCR-302(Anton-Paar社製)などのレオメーターを用いて測定することができ、32℃、1気圧で測定したときの測定対象物の剪断速度1000/s時の粘度が、100mPa・s以下、50mPa・s以下、又は10mPa・s以下と規定することができ、また、1mPa・s以上、2mPa・s以上、又は3mPa・s以上と規定することができる。
【0040】
本開示の組成物の静置粘度、即ち、剪断速度が限りなく0s-1に近いところ、例えば、剪断速度1/sでの粘度としては、1000mPa・s以下と規定することができ、また、10mPa・s以上と規定することができる。静置粘度も、32℃、1気圧の条件下で、上述したレオメーターを用いて測定することができる。
【0041】
(耐沈降性)
本開示の組成物は、後述する耐沈降性試験において、24時間後に、90.0%以上、93.0%以上、又は95.0%以上を達成することができ、また、100%以下、100%未満、又は99.0%以下を達成することができる。
【0042】
(耐沈降性)
本開示の組成物は、後述する耐沈降性試験において、24時間後に90.0%以上を達成することができ、また、90時間後でも85.0%以上を達成することができる。
【0043】
〈顔料の配合量〉
組成物中の顔料の配合量としては、使用用途等に応じて適宜調整することができ、次のものに限定されないが、例えば、組成物中、50g/kg以上、100g/kg以上、又は200g/kg以上とすることができ、また、300g/kg以下、270g/kg以下、又は250g/kg以下とすることができる。
【0044】
〈分散媒〉
分散媒は、顔料を分散させることができるものであれば特に制限はなく、有機系分散媒、水系分散媒などの公知の分散媒を一種以上使用することができる。中でも、水系分散媒を使用することが好ましい。水系分散媒としては、例えば、水、低級アルコール及び多価アルコール等の各種アルコール、又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0045】
低級アルコールとしては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール等が挙げられる。
【0046】
多価アルコールとしては、例えば、2価のアルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等);3価のアルコール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等);4価アルコール(例えば、1,2,6-ヘキサントリオール等のペンタエリスリトール等);5価アルコール(例えば、キシリトール等);6価アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール等);多価アルコール重合体(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ポリグリセリン等);2価のアルコールアルキルエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-メチルヘキシルエーテル、エチレングリコールイソアミルエーテル、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等);2価アルコールアルキルエーテル類(例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル等);2価アルコールエーテルエステル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、エチレングリコールジアジベート、エチレングリコールジサクシネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノフェニルエーテルアセテート等);グリセリンモノアルキルエーテル(例えば、キシルアルコール、セラキルアルコール、バチルアルコール等);糖アルコール(例えば、ソルビトール、マルチトール、マルトトリオース、マンニトール、ショ糖、エリトリトール、グルコース、フルクトース、デンプン分解糖、マルトース、キシリトース、デンプン分解糖還元アルコール等);グリソリッド;テトラハイドロフルフリルアルコール;POE-テトラハイドロフルフリルアルコール;POP-ブチルエーテル;POP・POE-ブチルエーテル;トリポリオキシプロピレングリセリンエーテル;POP-グリセリンエーテル;POP-グリセリンエーテルリン酸;POP・POE-ペンタンエリスリトールエーテル、ポリグリセリン等が挙げられる。
【0047】
〈任意成分〉
本開示の組成物は、本開示の効果を阻害しない範囲において、他の成分、例えば、酸化チタン以外の顔料、染料、エステル、保湿剤、水溶性高分子、油分、高級アルコール、バインダー、分散剤、各種の塩成分、増粘剤、各種界面活性剤等の表面張力低下剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、金属イオン封鎖剤、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン剤、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、防腐剤、消炎剤、抗炎症剤、美白剤、賦活剤、抗脂漏剤、各種生薬抽出物、薬剤等を必要に応じて適宜配合することができる。本開示の顔料は、耐沈降性に優れるため、分散剤を使用しなくてもよいが、高分子電解質等の分散剤を使用した場合には、耐沈降性をより向上させることができる。
【0048】
《用途》
本開示の酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料及び本開示の顔料を含む組成物は、例えば、化粧料、塗料、インクなどの幅広い用途において適宜使用することができる。
【0049】
《酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料の製造方法》
本開示の酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料の製造方法については特に制限されない。
図1のような表面被覆していない未焼成の酸化チタンの製造方法については、例えば、特許文献1の記載を参照することができる。具体的には、例えば、酸化チタン形成溶液として硫酸チタニル溶液を使用し、10℃以下の温度で係る硫酸チタニル溶液をアルカリ中和して得られたオルソチタン酸に、10℃以下の温度で塩酸を添加してオルソチタン酸を完全に溶解した後、加熱して加水分解を行うことにより、
図1に示されるような針状の一次構造体が連結した二次構造粒子の、表面被覆していない未焼成の酸化チタンを得ることができる。その時のTiO
2濃度は、50g/L以上140g/L以下、好ましくは60g/L以上120g/L以下であり、塩酸濃度は、70g/L以上170g/L以下、好ましくは80g/L以上160g/L以下である。また、加水分解の温度は、25℃以上60℃以下、好ましくは30℃以上55℃以下である。
【0050】
また、
図1のような表面被覆していない未焼成の酸化チタンは、オルソチタン酸の他に、四塩化チタン溶液、又はメタチタン酸をアルカリで処理したチタン酸のアルカリ塩を塩酸にて溶解した溶液を用いて加水分解を行って得ることもできる。
【0051】
この他、藁束状、短冊状等の一次構造体が連結した二次構造粒子の、表面被覆していない未焼成の酸化チタンについては、例えば、特許文献3及び4に記載されるような方法を適宜使用し、必要に応じて加熱、焼成などをすることによって得ることができる。
【0052】
表面被覆していない未焼成の酸化チタンの表面被覆方法についても特に制限されないが、例えば、イオン交換水中に、上述のようにして調製した酸化チタンを添加してスラリーを調製する。次いで、ケイ酸ナトリウムの水溶液からなる無機材料コート液を、スラリーを70℃に保温し、攪拌しながらゆっくりと添加し、所定時間撹拌を行った後、希塩酸、希硫酸等の酸を添加してpHを5.0から8.0に調整する。この操作を2回以上実施することによって、表面被覆層の層構成又は被覆量を調整することができる。また、無機材料コート液の組成、濃度及び配合量などを調整することによっても、表面被覆層の被覆量を調整することもできる。
【0053】
得られたスラリーを、ろ過、水洗、乾燥し、一般的な焼成炉であるマッフル炉又はロータリーキルンを用いて焼成することによって、
図3及び4に示されるような形状の酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料を得ることができる。ここで、焼成温度としては、例えば、500℃以上800℃以下とすることができ、より好ましくは550℃以上750℃以下とすることができ、焼成時間としては、0.5時間から2.0時間、より好ましくは、1.0時間から1.5時間とすることができる。
【0054】
表面被覆していない未焼成の酸化チタンを焼成した場合、一般に、
図1の形状から
図2の形状へと形態が変化する。しかしながら、無機材料で表面被覆した酸化チタンを焼成した場合には、酸化チタンの粒子形状は、
図3及び4に示されるように、
図1の形状をほぼ維持することができる。
【0055】
本開示の顔料における、表面突出形状の保持性、耐沈降性、隠蔽性等の性能は、例えば、表面被覆層の材料、焼成温度、焼成時間などを適宜調整することによって制御することができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて、本開示についてさらに詳しく説明を行うが、本開示はこれらに限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り、配合量はg/kgで示す。
【0057】
《実施例1から実施例3及び比較例1から比較例5》
下記に示す製造方法により得た二酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料について、面積円相当粒子径、比表面積、見かけ嵩密度、結晶子径、及び隠蔽性を評価した。また、下記に示す表1の処方及び製造方法により得た組成物について、粘度、及び耐沈降性を評価した。表1では、表面被覆していない未焼成の二酸化チタンに被覆されるSiO2の量を「被覆量」と表記し、また、焼成処理したものを「有」、焼成処理していないものを「無」と表記している。
【0058】
〈顔料の評価〉
調製した顔料に対して以下に示す各種評価を実施し、その結果を、表1にまとめる。
【0059】
(面積円相当粒子径の評価)
面積円相当粒子径については、透過型電子顕微鏡であるH7100型(日立ハイテクノロジー社製)を用い、100000倍に拡大し、二酸化チタン粒子10個の平均値として評価した。
【0060】
(比表面積の評価)
比表面積については、Macsorb HMmodel-1208(Mountech社製)を用いてBET法で評価した。
【0061】
(見かけ嵩密度の評価)
顔料を20mLの比容積試験管に約10mL入れて秤量する。比容積試験器TAP-ONE TP01(ヤマグチマイカ社製)を用い、秤量した試験管を200回タッピングした後に体積を測定し、見かけ嵩密度を算出した。また、以下の基準で見かけ嵩密度を評価した。
【0062】
A:見かけ嵩密度≦500kg/m3
B:500kg/m3<見かけ嵩密度≦600kg/m3
C:600kg/m3<見かけ嵩密度
【0063】
(結晶子径の評価)
二酸化チタンの結晶子径については、X線回折装置(Geigerflex、理学電機社製)で測定し、シェラー式を適用することにより、平均結晶子径を算出した。
【0064】
(隠蔽性の評価)
顔料の割合が50g/kgとなるように、ニトロセルロースラッカーに二酸化チタンを混合攪拌してスラリーを調製した。次いで、JIS K5400に記載されている白黒の隠蔽率試験紙上に、0.101mmのアプリケーターでスラリーを塗布及び乾燥して試験サンプルを得た。得られた試験サンプルを分光測色機であるCM-2600d(コニカミノルタ社製)にて、白と黒紙上の塗膜表面をそれぞれ測色した。Hunter Lab色空間における、色差(ΔE)を以下の式2より算出し、かつ、表面被覆及び焼成処理していない二酸化チタンの色差を基準に、他の各顔料の色差との差(隠蔽力差)を、以下の式3より算出し、以下の基準で隠蔽性を評価した:
【数2】
隠蔽力差=(表面被覆及び焼成処理していない未焼成の二酸化チタンの色差)-(他の顔料の色差) …式3
【0065】
なお、隠蔽力差が大きいほど、特に、隠蔽力差が2.0以上であると、隠蔽性が向上していることを示す。
【0066】
A:4.0≦隠蔽力差
B:2.0≦隠蔽力差<4.0
C:隠蔽力差<2.0
【0067】
〈組成物の評価〉
調製した組成物に対して以下に示す各種評価を実施し、その結果を、表1にまとめる。
【0068】
(粘度の評価)
粘度については、MCR-302(Anton-Paar社製)を用いて評価した。係る粘度は、32℃、1気圧で測定したときの測定対象物の剪断速度1000/s時の粘度である。
【0069】
(耐沈降性の評価)
50mLの比色用試験管に顔料を0.1g添加し、続いてイオン交換水を注入して30mLとし、激しく振とうして二酸化チタンを分散させ、評価用の分散液を調製した。所定時間経過後の顔料の沈降状態を、分散液の水面の高さに対する沈降界面の高さの比を百分率で算出し、その結果を、表1にまとめる。数値が大きいほど、特に、24時間後に90.0%以上、90時間後に85.0%以上であると、耐沈降性能に優れているといえる。
【0070】
〈実施例1〉
(表面被覆していない未焼成の二酸化チタンの形成工程)
洗浄メタチタン酸を硫酸で溶解して得た硫酸チタニル溶液を、160g/Lの炭酸ナトリウム溶液中に、液温が10℃を超えないようにゆっくりと滴下し、pHが10.0になった時点で、硫酸チタニルの滴下を止めた。得られた白色沈殿物を常法でろ過し、十分に洗浄してオルソチタン酸を得た。
【0071】
次いで、10℃以下に冷却しながら、洗浄したオルソチタン酸ケーキを濃塩酸中に添加し、オルソチタン酸が完全に溶解するまで撹拌した。その後、TiO
2換算の濃度が60g/L、塩酸濃度が80g/Lになるように調整し、撹拌しながら加温して55℃に液温を合わせ、20時間撹拌して加水分解を行った。得られたスラリーを、中和し、常法で洗浄し、乾燥して、
図1に示されるような、針状の一次構造体が連結して構成された二次構造粒子の形態を呈する、二酸化チタンAを得た。
【0072】
(二酸化チタンを主成分とする表面被覆焼成顔料の形成工程)
得られた表面被覆していない未焼成の二酸化チタンAを、イオン交換水に分散させて分散液を調製した。次いで、二酸化チタンAを含む分散液に対し、SiO2換算で50g/kgのケイ酸ナトリウム水溶液を撹拌しながら添加し、1時間撹拌を行った後、希塩酸をゆっくりと添加してpHを5.0に調整した。ここで、ケイ酸ナトリウム溶液の量は、被覆前の二酸化チタンAの質量を基準として、SiO2被覆が33g/kgになる量で用いた。得られた分散液を、常法でろ過、水洗し、乾燥して、表面被覆された未焼成の二酸化チタンBを得た。
【0073】
次いで、この表面被覆された未焼成の二酸化チタンBを、マッフル炉にて550℃で1時間焼成して、表面被覆されたルチル型の焼成二酸化チタンCを得た。得られた焼成二酸化チタンCの粒子形状は、
図3に示されるように、焼成後においても、
図1における表面被覆していない未焼成の二酸化チタンAの形状とほぼ同一の表面に突出している突出形状を呈していた。
【0074】
以下の表1に示される配合割合で、得られた焼成二酸化チタンCをイオン交換水に添加し、激しく振とうして組成物を調製した。
【0075】
〈実施例2〉
SiO2被覆の量を33g/kgから20g/kgに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面被覆された焼成二酸化チタンDを調製するとともに、この表面被覆された焼成二酸化チタンDを用いて、実施例1と同様にして実施例2の組成物を調製した。
【0076】
〈実施例3〉
SiO2被覆の量を33g/kgから47g/kgに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面被覆されたルチル型の焼成二酸化チタンEを調製するとともに、この二酸化チタンEを用いて、実施例1と同様にして実施例3の組成物を調製した。
【0077】
〈比較例1〉
実施例1における二酸化チタンの形成工程と同様の方法によって、表面被覆及び焼成処理していない二酸化チタンAを調製した。次いで、以下の表1に示される配合割合で、得られた二酸化チタンAをイオン交換水に添加し、激しく振とうして比較例1の組成物を調製した。
【0078】
〈比較例2〉
実施例1における表面処理及び焼成処理されていない二酸化チタンの形成工程と同様の方法によって調製した表面被覆及び焼成処理していない二酸化チタンAを、マッフル炉にて550℃で1時間焼成し、表面被覆されていない焼成二酸化チタンFを調製した。次いで、以下の表1に示される配合割合で、二酸化チタンFをイオン交換水に添加し、激しく振とうして比較例2の組成物を調製した。
【0079】
〈比較例3〉
実施例1における表面処理及び焼成処理していない二酸化チタンの形成工程及び表面被覆二酸化チタンの形成工程と同様の方法によって、表面被覆した後で、焼成していない表面処理二酸化チタンBを調製した。次いで、以下の表1に示される配合割合で、得られた二酸化チタンBをイオン交換水に添加し、激しく振とうして比較例3の組成物を調製した。
【0080】
〈比較例4〉
以下の表1に示される配合割合で、粒子形状が不定形である顔料級ルチル型二酸化チタンであるTIPAQUE(商標)CR-50(石原産業社製)を、イオン交換水に添加し、激しく振とうして比較例4の組成物を調製した。
【0081】
〈比較例5〉
以下の表1に示される配合割合で、粒子形状が針状の微粒子タイプのルチル型二酸化チタンであるTTO-55(A)(石原産業社製)を、イオン交換水に添加し、激しく振とうして比較例5の組成物を調製した。
【0082】
【0083】
〈結果〉
表1の実施例1から実施例3及び比較例1から比較例3の結果から明らかなように、二酸化チタンの表面を無機材料で被覆すると、耐沈降性が向上することが確認できた。
【0084】
また、実施例1から実施例3と、比較例3の測定結果から、2.0以上の隠蔽力差を実現するためには、表面を無機材料で被覆した二酸化チタンを焼成する必要があることが明らかになった。
【0085】
二酸化チタンを無機材料で被覆し、更に焼成することによって耐沈降性に優れ、また2.0以上の隠蔽力差を有する二酸化チタンを得ることができた。