(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】抗血小板および抗菌の二重機能性のための一酸化窒素およびクロルヘキシジン放出カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61L 29/16 20060101AFI20250207BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20250207BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20250207BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20250207BHJP
A61K 31/155 20060101ALI20250207BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20250207BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20250207BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
A61L29/16
A61L29/06
A61L29/08 100
A61M25/00 500
A61K31/155
A61K31/198
A61P7/02
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2022528943
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 US2020060019
(87)【国際公開番号】W WO2021101771
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-08-29
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ フリージエ
(72)【発明者】
【氏名】ブレンダン レーン
(72)【発明者】
【氏名】ギドン オフェク
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-520126(JP,A)
【文献】Yaqi WO et al.,"Reduction of Thrombosis and Bacterial Infection via Controlled Nitric Oxide (NO) Release from S-Nitroso-N-acetylpenicillamine (SNAP) Impregnated CarboSil Intravascular Catheters",ACS Biomaterials Science & Engineering,2017年,Vol.3,p.349-359,DOI: 10.1021/acsbiomaterials.6b00622
【文献】Kathy JAWORSKI et al.,"S-nitrosothiols do not induce oxidative stress, contrary to other nitric oxide donors, in cultures of vascular endothelial or smooth muscle cells",European Journal of Pharmacology,2001年,Vol.425,p.11-19,DOI: 10.1016/S0014-2999(01)01166-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 29/00-33/18
A61M 25/00-25/18
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化窒素およびクロルヘキシジンを放出して抗血小板作用および抗菌性を提供するように構成されたカテーテルの製造方法であって、
熱可塑性ポリウレタンカテーテル押し出し成形物に、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンをしみ込ませる工程であって、
前記しみ込ませる工程は、
しみ込ませる溶媒中に溶解した一酸化窒素放出化合物とクロルヘキシジンを含む、しみ込ませ溶液を得ること、
前記熱可塑性ポリウレタンカテーテル押し出し成形物を、前記しみ込ませ溶液をさらして、前記一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンを、前記熱可塑性ポリウレタンカテーテル押し出し成形物に浸透させること、および
前記カテーテル押し出し成形物から前記溶媒を蒸発させること、を含む工程と、
前記しみ込ませたカテーテル押し出し成形物を、クロルヘキシジンを含むポリウレタンコーティングでコーティングする工程であって、浸漬コーティング溶媒中に溶解したポリウレタンおよびクロルヘキシジンを含むポリマー溶液中に、前記カテーテル押し出し成形物を浸漬することを含む工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記しみ込ませた一酸化窒素放出化合物が、s-ニトロソ-n-アセチルペニシラミン(SNAP)、s-ニトロソグルタチオン(GSNO)、およびこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記しみ込ませる溶媒に溶解された前記クロルヘキシジンが、クロルヘキシジンジアセテート、クロルヘキシジンベース、グルコン酸クロルヘキシジン、およびこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記しみ込ませる溶媒が、メタノール、アセトン、およびメチルエチルケトン(MEK)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記しみ込ませる溶媒が、20~25体積%のメタノール、17.5~77.5体積%のアセトン、および残りの体積%のメチルエチルケトン(MEK)を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリウレタンコーティングが、一酸化窒素放出化合物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー溶液が、一酸化窒素放出化合物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
一酸化窒素放出化合物が、s-ニトロソ-n-アセチルペニシラミン(SNAP)、s-ニトロソグルタチオン(GSNO)、およびこれらの混合物から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリウレタンが、脂肪族ポリウレタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリウレタンが、芳香族ポリウレタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
浸漬コーティング溶液中の前記クロルヘキシジン濃度が、0.5重量%~20重量%の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記浸漬コーティング溶媒が、メタノールおよびジオキソランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記浸漬コーティング溶媒が、10体積%~25体積%のメタノール、および75体積%~90体積%のジオキソランを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記熱可塑性ポリウレタンカテーテル押し出し成形物は、しみ込ませ溶液に25分~240分の間の時間さらされている、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二重の抗血小板および抗菌の機能性を提供するために、一酸化窒素(NO)放出化合物およびクロルヘキシジンをしみ込ませ、コーティングされたカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、様々な注入療法に一般的に使用される。注入療法は、最も一般的な医療処置の1つである。入院患者、在宅ケア患者、およびその他の患者は、血管系に挿入した血管アクセス装置を介して流体、薬物、および血液製剤を受け取る。注入療法は、感染症の治療、麻酔もしくは鎮痛、栄養補給、癌性増殖の治療、血圧および心拍リズムの維持、その他多くの臨床的に重要な用途に使用される。例えば、カテーテルは、生理食塩水などの流体、種々の薬剤、および完全非経口栄養剤を患者に注入するために、患者から血液を抜き取るために、ならびに患者の血管系の種々のパラメータを測定するために使用される。
【0003】
カテーテルは、一般に、静脈内カテーテルアセンブリの一部として患者の脈管構造に導入される。カテーテルアセンブリは、一般に、カテーテルを支持するカテーテルハブを含み、カテーテルハブは、導入針を支持する針ハブに結合される。導入針は、針のベベル部がカテーテルの先端を越えて露出するように、カテーテル内に延在し、位置決めされる。針のベベル部は、患者の皮膚を突き刺して開口部を提供し、それによって針を患者の脈管構造に挿入するために使用される。カテーテルの挿入および配置に続いて、導入針がカテーテルから除去され、それによって患者への静脈アクセスが提供される。
【0004】
カテーテル関連血流感染症(CRBSI)は、血管内カテーテルおよび静脈内アクセス装置を装着した患者における微生物のコロニー形成によって引き起こされる。これらの感染症は、米国の病院において、中心静脈カテーテル(CVC)に関連する血流感染症が毎年約25万~40万件発生しているため、疾病および過剰な医療費の大きな原因となっている。金銭的コストに加えて、これらの感染症は毎年2万人から10万人の死亡といくらか関連している。医療関連感染症(HAI)を減らすためのガイドラインがあるにもかかわらず、カテーテル関連血流感染症は我々の医療システムを悩ませ続けている。
【0005】
カテーテルに種々の抗菌剤をしみ込ませることは、これらの感染を予防するために実施されてきたアプローチの1つである。しかしながら、これらのカテーテルは満足な結果をもたらしていない。加えて、いくつかの微生物は、システムにおける種々の抗菌剤に対して耐性を獲得している。
【0006】
カテーテルその他の生物医学的装置が長時間血液と接触すると、第XII因子および第XI因子などの血漿タンパク質が活性化され、装置表面に付着する。血栓形成に加えて、バイオフィルム形成および細菌感染が起こりうる。
【0007】
先行技術の抗血小板/抗血栓形成技術は、一般に、タンパク質付着を遅延させるための表面修飾技術またはヘパリンに基づく技術を使用する。
【0008】
先行技術の抗血小板および抗血栓形成技術は、一般的にすべての表面修飾技術を克服する複雑な現象であるタンパク質付着を阻止しようとするため、長期間(血流中で7日超)有効でない。ヘパリン技術は、より成功しているが、しかし、それらは非常に高価であり、高速処理製造シナリオ(rapid throughput manufacturing scenario)におけるスケールアップが困難である。
【0009】
したがって、改良された抗菌および抗血小板能を有するカテーテルに対する当技術分野のニーズがある。そのような方法およびシステムが本明細書に開示される。
【0010】
本明細書に請求される主題は、いずれかの欠点を解決するか、または上述のような環境においてのみ効果がある実施形態に限定されない。むしろ、この背景は、本明細書に記載されたある実施形態が実施され得る1つの例示的な技術領域を示すためにのみ提供される。
【0011】
本開示は、現在利用可能な抗菌および抗血小板のカテーテルによってまだ完全に解決されていない当該分野における問題および必要性に応じて開発されたものである。開示されたカテーテルは、一酸化窒素およびクロルヘキシジンを放出することにより、改良された抗菌および抗血小板能を提供する。他の抗菌剤と組み合わせて放出された一酸化窒素は、全体的な抗菌効果を高め、バイオフィルム浸透および根絶メカニズムを与える。
【発明の概要】
【0012】
本開示は、一酸化窒素およびクロルヘキシジンを放出して抗血小板作用および抗菌性を提供するように構成されたカテーテルの製造方法に関する。開示された方法は、熱可塑性ポリウレタンカテーテル押し出し成形物(thermoplastic polyurethane catheter extrusion)にNO放出化合物およびクロルヘキシジンを適用するための多段階プロセスを使用する。最初に、押し出し成形物に、溶媒系に溶解したNO放出化合物およびクロルヘキシジンをしみ込ませる。溶媒を押し出し成形物から蒸発させる。次いで、しみ込ませたカテーテル押し出し成形物を、ポリウレタンのマトリックスの内部に追加のクロルヘキシジンおよび/またはNO放出化合物で浸漬コーティングする。
【0013】
得られたカテーテルは、NOおよびクロルヘキシジンを、ある期間にわたって同時に溶出する。溶出速度は、カテーテルにしみ込ませ、コーティングされた活性剤の濃度に影響される。それは、浸漬コーティングにおけるポリウレタンの特性によってさらに影響を受ける。これらの特性-分子量、コーティング厚、およびコポリマーのハード/ソフトセグメント比および化学的性質-は、活性剤の放出動態に影響を及ぼし、長期間にわたって抗菌/抗血小板活性を維持する。
【0014】
開示されたカテーテルは、熱可塑性ポリウレタンカテーテル押し出し成形物に、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンを最初にしみ込ませることによって製造される。その後、しみ込ませたカテーテル押し出し成形物を、クロルヘキシジンおよび/または一酸化窒素放出化合物を含むポリウレタンコーティングでコーティングする。
【0015】
しみ込ませる工程は、カテーテル押し出し成形物を、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンが溶解された溶媒にさらすことによって、1段階で達成することができる。カテーテル押し出し成形物は、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンがカテーテル押し出し成形物を浸透するのに十分な時間、溶媒溶液にさらされる。しみ込ませる工程は、カテーテル押し出し成形物を、一酸化窒素放出化合物が溶解された溶媒およびクロルヘキシジンが溶解された溶媒にさらすことによって、2段階で達成され得る。カテーテル押し出し成形物は、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンがカテーテル押し出し成形物に浸透するのに十分な時間、溶媒溶液にさらされる。しみ込ませる工程は室温で行うことができる。しみ込ませる工程は、約25~55℃の範囲の温度で行うことができる。
【0016】
任意の生理学的に適合する一酸化窒素放出化合物を使用することができる。一酸化窒素放出化合物の非限定的な例としては、s-ニトロソ-n-アセチルペニシラミン(SNAP)、s-ニトロソグルタチオン(GSNO)、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
クロルヘキシジンの非限定的な例としては、クロルヘキシジンジアセテート、クロルヘキシジンベース(chlorhexidine base)、グルコン酸クロルヘキシジン、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
ポリウレタンカテーテル押し出し成形物と適合する任意の溶媒を使用することができる。溶媒はメタノールを含み得る。溶媒はアセトンを含み得る。溶媒は、メチルエチルケトン(MEK)を含み得る。溶媒は、溶媒の混合物を含み得る。溶媒は、メタノール、アセトン、MEKを含み得る。
【0019】
コーティング工程は、しみ込ませたカテーテル押し出し成形物を、適切な溶媒に溶解したポリウレタンおよびクロルヘキシジンおよび/または一酸化窒素放出化合物を含むポリマー溶液中に浸漬コーティングすることによって達成することができる。浸漬コーティングポリマー溶液中のポリウレタンは、脂肪族ポリウレタンを含み得る。浸漬コーティングポリマー溶液中のポリウレタンは、芳香族ポリウレタンを含み得る。
【0020】
ポリマー溶液中のクロルヘキシジンは、クロルヘキシジンベースを含んでいてもよい。浸漬コーティング溶液中のクロルヘキシジン濃度は、0.5重量%~20重量%の範囲であってもよい。
【0021】
ポリマー溶液中の一酸化窒素放出化合物は、任意の生理学的に適合する一酸化窒素放出化合物であり得る。一酸化窒素放出化合物の非限定的な例としては、s-ニトロソ-n-アセチルペニシラミン(SNAP)、s-ニトロソグルタチオン(GSNO)、およびこれらの混合物が挙げられる。s-ニトロソ-n-アセチルペニシラミン(SNAP)は、溶媒中に1~20重量/体積%の濃度を有していてもよい。
【0022】
浸漬コーティングポリマー溶液のための溶媒は、メタノール、ジオキソラン、およびこれらの混合物を含み得る。非限定的な実施形態において、溶媒は、10体積%~25体積%のメタノール、および75体積%~90体積%のジオキソランを含む。
【0023】
上記のように製造されたカテーテルは、一酸化窒素およびクロルヘキシジンを放出して、抗血小板作用および抗菌性を提供するように構成される。カテーテルは、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンをしみ込ませた、押し出し成形された熱可塑性ポリウレタンカテーテル本体(extruded thermoplastic polyurethane catheter body)を含む。カテーテルはさらに、クロルヘキシジンを含む、ポリウレタンカテーテル本体上のポリウレタンコーティングを含む。ポリマーコーティングは、一酸化窒素放出化合物をさらに含み得る。
【0024】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方が、例示および説明的なものであり、特許請求の範囲に記載の本発明を限定するものではないことを理解されたい。様々な実施形態は、図面に示される配置および手段に限定されないことを理解されたい。また、実施形態を組み合わせてもよく、または他の実施形態を利用してもよく、特許請求の範囲に記載されない限り、本発明の様々な実施形態の範囲から逸脱することなく、構造的な変更を行ってもよいことを理解されたい。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
例示的な実施形態は、以下を含む添付の図面を使用することにより、さらなる具体性および詳細を伴って記載および説明される。
【0026】
【
図1】二重の抗血小板および抗菌の機能性を提供するために、一酸化窒素(NO)放出化合物およびクロルヘキシジンを含有するように製造されたカテーテル本体の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示は、一酸化窒素(NO)放出化合物およびクロルヘキシジンをしみ込ませ、およびコーティングされたカテーテルに関する。一酸化窒素とクロルヘキシジンの組み合わせは、二重の抗血小板および抗菌の機能性を提供する。さらに、他の抗菌剤と組み合わせた一酸化窒素は、全体的な抗菌効果を高め、バイオフィルム浸透および根絶メカニズムを与える。本開示はさらに、一酸化窒素およびクロルヘキシジンを放出して抗血小板作用および抗菌性を提供するように構成されたカテーテルの製造方法に関する。
【0028】
一酸化窒素(NO)は体内の内皮細胞によって産生される天然の血小板活性化阻害剤であり、抗菌およびバイオフィルム根絶能力も示す。一酸化窒素は、体内の、内皮細胞、神経細胞、その他の細胞で一酸化窒素シンターゼによって産生される。
【0029】
NOは可溶性グアニル酸シラーゼ(sGC)経路を介して血小板活性化に影響を及ぼす。NOはsGCのヘム鉄の部分と結合して環状グアノシン一リン酸の細胞内濃度を上昇させ、これにより環状アデノシン一リン酸の濃度が上昇し、最終的には凝固反応の顕著な成分であるカルシウムイオンの濃度を低下させる。
【0030】
最終的に、NO活性化sGCは、カルシウムイオン濃度を低下させる。さらに、ホスホイノシチド3-キナーゼを阻害し、血小板のフィブリノーゲンに対する親和性を低下させ、血小板表面のフィブリノーゲン結合部位の数を減少させる。
【0031】
抗菌剤として、NOは、生理的濃度のスーパーオキシドと反応してペルオキシ亜硝酸を生成し、酸化ストレスを誘発し、細菌細胞のアミノ酸をニトロソ化し、それらのDNA鎖を酸化、切断し、脂質過酸化を介して細胞膜損傷を引き起こす。加えて、NOは酸化剤と反応してN2O3を形成し、細菌膜蛋白質上のシステイン残基のスルフヒドリル基と反応し、それらの機能性を変化または阻害する。
【0032】
本開示の重要な態様は、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンの両方を熱可塑性ポリウレタンカテーテル押し出し成形物に組み込むことである。
【0033】
カテーテル装置に一酸化窒素放出化合物を組み込むことによって、NO放出化合物は、時間の経過とともに分解し、生理学的に妥当なレベルで気相中にNOを放出し、血流または感染細菌に対して上述の生理機構を加える。
【0034】
一酸化窒素およびクロルヘキシジンを放出して抗血小板作用および抗菌性を提供するように構成された開示されたカテーテルは、熱可塑性ポリウレタンカテーテル押し出し成形物に一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンを最初にしみ込ませることによって製造される。その後、しみ込ませたカテーテル押し出し成形物を、クロルヘキシジンおよび/または一酸化窒素放出化合物を含むポリウレタンコーティングでコーティングする。
【0035】
しみ込ませる工程は、カテーテル押し出し成形物を、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンが溶解された溶媒にさらすことによって、1段階で達成することができる。カテーテル押し出し成形物は、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンがカテーテル押し出し成形物を浸透するのに十分な時間、溶媒溶液にさらされる。しみ込ませる工程は、カテーテル押し出し成形物を、一酸化窒素放出化合物が溶解された溶媒およびクロルヘキシジンが溶解された別の溶媒にさらすことによって、2段階で達成することができる。カテーテル押し出し成形物は、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンがカテーテル押し出し成形物に浸透するのに十分な時間、各溶媒溶液にさらされる。さらされる時間は、約25分から約240分の範囲であり得る。さらされる十分な時間は、溶媒中の一酸化窒素放出化合物とクロルヘキシジンの濃度に反比例する。次いで、溶媒を蒸発によりカテーテル押し出し成形物から除去する。
【0036】
任意の生理学的に適合する一酸化窒素放出化合物を使用することができる。一酸化窒素放出化合物の非限定的な例としては、s-ニトロソ-n-アセチルペニシラミン(SNAP)、s-ニトロソグルタチオン(GSNO)、およびこれらの混合物が挙げられる。s-ニトロソ-n-アセチルペニシラミン(SNAP)は、溶媒中の濃度が0~20重量/体積%であってもよい。t-ニトロソグルタチオン(GSNO)は、溶媒中の濃度が0~20重量/体積%であってもよい。SNAPとGSNOの組み合わせは、溶媒中の濃度が0重量/体積%より大きくなければならない。
【0037】
クロルヘキシジンはカチオン性を有する強塩基として特徴づけられる。遊離塩基型と安定塩型の両方が市販されている。クロルヘキシジンの非限定的な例としては、クロルヘキシジンジアセテート、クロルヘキシジンベース、グルコン酸クロルヘキシジン、およびこれらの混合物が挙げられる。クロルヘキシジンジアセテートは、溶媒中の濃度が0.5~6.5重量/体積%であってもよい。クロルヘキシジンベースは、溶媒中の濃度が0~2.5重量/体積%であってもよい。
【0038】
ポリウレタンカテーテル押し出し成形物と適合する任意の溶媒を使用することができる。溶媒は、ポリマーの分解を引き起こすべきではない。溶媒はまた、蒸発によって効果的に除去されるべきである。蒸発しない溶媒は避けるべきである。
【0039】
溶媒はメタノールを含み得る。溶媒はアセトンを含み得る。溶媒は、メチルエチルケトン(MEK)を含み得る。溶媒は、溶媒の混合物を含み得る。溶媒は、メタノール、アセトンおよびMEKの混合物を含み得る。非限定的な実施形態において、溶媒は、20~25体積%のメタノール、17.5~77.5体積%のアセトン、および残りの体積%のMEKを含み得る。
【0040】
しみ込ませる工程は室温で行うことができる。しみ込ませる工程は、約25~55℃の範囲の温度で行うことができる。
【0041】
コーティング工程は、しみ込ませたカテーテル押し出し成形物を、適切な溶媒に溶解したポリウレタンおよびクロルヘキシジンおよび/または一酸化窒素放出化合物を含むポリマー溶液中に浸漬コーティングすることによって達成することができる。
【0042】
ポリマー溶液中でのしみ込ませたカテーテルの滞留時間(dwell time)は、約1分~約120分の範囲であり得る。
【0043】
浸漬コーティングポリマー溶液中のポリウレタンは、脂肪族または芳香族ポリウレタンであってもよい。ポリウレタンは、Lubrizolによって製造された市販のTecoflex(登録商標)脂肪族ポリエーテル系熱可塑性ポリウレタンなどの溶液グレードの脂肪族ポリウレタンであってもよい。ポリウレタンは、DSM Biomedicalによって製造された市販のCarboSil(登録商標)TSPCUなどの熱可塑性シリコーン-ポリカーボネート-ウレタン(TSPCU)であってもよい。
【0044】
浸漬コーティングポリマー溶液中の実用的ポリマー濃度は、その分子量に関連する。例えば、約50kDaの分子量を有する低分子量熱可塑性ポリウレタン(TPU)は、より高い濃度、5重量%まで存在し、使用可能な粘度をもたらし得る。約240kDaの分子量を有する高分子量TPUは、より低い濃度、0.5重量%~1重量%で存在し得る。
【0045】
前記ポリマー溶液中のクロルヘキシジンは、クロルヘキシジンベースを含んでいてもよい。浸漬コーティング溶液中のクロルヘキシジン濃度は、0.5重量%~7.5重量%の範囲であってもよい。
【0046】
ポリマー溶液中の一酸化窒素放出化合物は、任意の生理学的に適合する一酸化窒素放出化合物であり得る。一酸化窒素放出化合物の非限定的な例としては、s-ニトロソ-n-アセチルペニシラミン(SNAP)、s-ニトロソグルタチオン(GSNO)、およびこれらの混合物が挙げられる。s-ニトロソ-n-アセチルペニシラミン(SNAP)は、溶媒中に1~20重量/体積%の濃度を有していてもよい。
【0047】
浸漬コーティングポリマー溶液のための溶媒は、メタノール、ジオキソラン、およびこれらの混合物を含み得る。非限定的な実施形態において、溶媒は、10体積%~25体積%のメタノール、および75体積%~90体積%のジオキソランを含む。
【0048】
コーティング工程は、室温で行うことができる。コーティング工程は、約25~50℃の範囲の温度で行うことができる。
【0049】
上記のように製造されたカテーテルは、一酸化窒素およびクロルヘキシジンを放出して抗血小板作用および抗菌性を提供するように構成される。
図1は、二重の抗血小板および抗菌の機能性を提供するために、一酸化窒素(NO)放出化合物およびクロルヘキシジンを含むように製造されたカテーテル100の一部の断面図である。カテーテル100は、一酸化窒素放出化合物およびクロルヘキシジンをしみ込ませた、押し出し成形された熱可塑性ポリウレタンカテーテル本体110を含む。カテーテル100はさらに、クロルヘキシジンを含む、ポリウレタンカテーテル本体110上のポリウレタンコーティング120を含む。ポリマーコーティング120は、一酸化窒素放出化合物をさらに含み得る。
【0050】
本明細書に記載されているすべての例および条件付き言語は、本発明および当該技術を発展させるために発明者によって貢献された概念を理解する際に読者を助けるための教育的目的を意図しており、そのような具体的に記載されている例および条件に限定されないものとして解釈されるべきである。本発明の実施形態を詳細に説明したが、種々の変更、置換、および変更は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明に加えることができることを理解されたい。実施形態を組み合わせてもよいことを理解されたい。