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特許7630581加工機、加工システム及び被加工物の製造方法
<図1>
  • 特許-加工機、加工システム及び被加工物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】加工機、加工システム及び被加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/22 20060101AFI20250207BHJP
   G05B 19/416 20060101ALI20250207BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20250207BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
B23Q17/22 E
G05B19/416 E
G05B19/404 G
B24B49/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023169204
(22)【出願日】2023-09-29
【審査請求日】2024-12-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亨
(72)【発明者】
【氏名】秋山 貴信
(72)【発明者】
【氏名】福田 将彦
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-24542(JP,A)
【文献】特開2009-28819(JP,A)
【文献】特開2008-87146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/22
G05B 19/416
G05B 19/404
B24B 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク又は工具を支持する第1可動部と、
前記第1可動部を第1方向に案内するリニアガイドと、
前記第1可動部の前記第1方向における第1変位と、前記第1可動部の前記第1方向に直交する第2方向の変位である第1誤差とに応じた信号を出力する2次元スケールと、
前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向において前記リニアガイドと一定の位置関係を有しており、前記ワーク又は前記工具を前記第1方向又は前記第2方向に平行な第1回転軸回りに回転させる主軸と、
を有しており、
前記第1回転軸を含むとともに前記第1方向及び前記第2方向に平行な仮想平面を仮定したときに、前記仮想平面から前記2次元スケールまでの距離が、前記仮想平面から前記リニアガイドまでの距離の1/3未満である
加工機。
【請求項2】
前記2次元スケールは、前記仮想平面内に位置している
請求項1に記載の加工機。
【請求項3】
前記仮想平面と対向している第1面を有している支持部と、
前記第1面に支持されているとともに、前記リニアガイド及び前記第1可動部を支持している固定部と、
前記第1面に支持されているとともに前記固定部から離れているスケール配置部と、
を更に有しており、
前記2次元スケールは、
前記スケール配置部に固定されているスケール部と、
前記第1可動部に固定されており、前記スケール部との相対移動に応じて信号を出力する検出部と、を有しており、
前記スケール配置部は、前記第1面から前記仮想平面の側へ前記リニアガイドの位置を超える高さを有している
請求項1に記載の加工機。
【請求項4】
前記スケール配置部は、中実な金属部材である
請求項3に記載の加工機。
【請求項5】
前記ワーク又は前記工具を支持する第2可動部と、
前記第2可動部を前記第2方向に駆動する第2駆動部と、
前記第2駆動部を制御するコントローラと、
を更に有しており、
前記コントローラは、前記2次元スケールが検出した前記第2方向の速度誤差に基づいて、当該速度誤差に起因する前記ワーク及び前記工具の前記第2方向における相対速度の誤差を低減するように前記第2駆動部を制御する
請求項1に記載の加工機。
【請求項6】
前記第1可動部を前記第1方向に駆動する第1駆動部と、
前記第1駆動部を制御するコントローラと、
を更に有しており、
前記2次元スケールは、前記第1方向の互いに異なる位置にて2つの前記第1誤差を同時に検出し、
前記コントローラは、前記2つの第1誤差から特定される前記第3方向に平行な軸の回りの回転誤差に基づいて、前記回転誤差に起因する前記ワークと前記工具との前記第1方向における相対位置の誤差を前記第1可動部の平行移動によって低減するように前記第1駆動部を制御する
請求項1に記載の加工機。
【請求項7】
前記ワーク又は前記工具を支持する第2可動部と、
前記第2可動部を前記第2方向に駆動する第2駆動部と、
前記第2駆動部を制御するコントローラと、
を更に有しており、
前記2次元スケールは、前記第1方向の互いに異なる位置にて2つの前記第1誤差を同時に検出し、
前記コントローラは、前記2つの第1誤差から特定される前記第3方向に平行な軸の回りの回転誤差に基づいて、前記回転誤差に起因する前記ワークと前記工具との前記第2方向における相対位置の誤差を前記第2可動部の平行移動によって低減するように前記第2駆動部を制御する
請求項1に記載の加工機。
【請求項8】
前記2次元スケールと並列に前記第1方向に延びており、前記2次元スケールの幅方向の一方側の構成に相当する構成を有し、前記2次元スケールの幅方向の他方側の構成に相当する構成を有しておらず、前記第3方向を幅方向としている補助スケールを更に有している
請求項1に記載の加工機。
【請求項9】
前記2次元スケールと並列に前記第1方向に延びており、前記第1可動部の前記第3方向の変位である第2誤差に応じた信号を出力する補助スケールを更に有しており、
前記2次元スケールが検出する前記第1誤差と、前記補助スケールが検出する前記第2誤差とに基づいて前記第1方向に平行な軸の回りの回転誤差を特定する
請求項1に記載の加工機。
【請求項10】
第1方向及び第2方向に直交する第3方向に面している第1面を有している支持部と、
前記第1面に支持されている固定部と、
リニアガイドを介して前記固定部に支持されており、前記リニアガイドによって前記固定部に対して前記第1方向に案内される、ワーク又は工具を支持する第1可動部と、
前記第1面に支持されているとともに前記固定部から離れているスケール配置部と、
前記第1可動部の前記第1方向における第1変位と、前記第1可動部の前記第2方向の変位である第1誤差とに応じた信号を出力する2次元スケールと、
を有しており、
前記2次元スケールは、
前記スケール配置部に固定されているスケール部と、
前記第1可動部に固定されており、前記スケール部との相対移動に応じて信号を出力する検出部と、を有しており、
前記スケール配置部は、前記第1面が面している側へ前記リニアガイドの位置を超える高さを有しており、前記スケール部は、前記リニアガイドよりも前記第1面が面している側に位置している
加工機。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の加工機と、
前記加工機から前記第1誤差の検出値の情報を取得し、取得した情報に応じた画像を表示する診断装置と、
を有している加工システム。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の加工機を用いて、前記ワークと前記工具とを接触させて前記ワークを被加工物に加工する加工ステップを有する
被加工物の製造方法。
【請求項13】
前記加工ステップにおいて、前記工具が前記ワークに接する加工点を含み、前記第1方向及び前記第2方向に平行な第2仮想平面を仮定したときに、前記第2仮想平面から前記2次元スケールまでの距離が、前記第2仮想平面から前記リニアガイドまでの距離の1/3以下である
請求項12に記載の被加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工機、加工システム及び被加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工具によってワークを加工する加工機が知られている(例えば下記特許文献1)。このような加工機は、例えば、工具又はワークを支持する可動部をリニアガイドによって案内することによって工具とワークとの相対移動を実現している。可動部は、理想的にはリニアガイドに沿って直線上を移動する。ただし、現実には、種々の要因によって、うねりを生じながら移動する。すなわち、真直度又は直角度は0とはならない。このうねりは加工精度を低下させる。
【0003】
下記特許文献1では、2次元スケール(2次元リニアエンコーダ等と称されることもある。)を用いて可動部の変位を検出することによって真直度を向上させる加工機を提案している。具体的には、特許文献1の加工機は、工具又はワークを支持する可動部として、第1リニアガイドによって第1方向に案内される第1可動部と、第2リニアガイドによって第1方向に直交する第2方向に案内される第2可動部とを有している。2次元スケールは、第1可動部の第1方向の変位と、第1可動部の第2方向の変位(誤差)とを検出する。そして、加工機は、2次元スケールによって第2方向の誤差が検出されると、当該誤差が工具とワークとの相対位置に及ぼす影響を補償するように(換言すれば打ち消すように)、第2可動部の第2方向における位置を制御する。
【0004】
下記特許文献2は、工具によってワークを加工する加工機ではなく、半導体等の製造に用いられるステージ装置に係るものであるが、2次元スケールを利用する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-24542号公報
【文献】特開2015-109079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
2次元スケールによる検出の精度を向上させることができる加工機、加工システム及び被加工物の製造方法が待たれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る加工機は、ワーク又は工具を支持する第1可動部と、前記第1可動部を第1方向に案内するリニアガイドと、前記第1可動部の前記第1方向における第1変位と、前記第1可動部の前記第1方向に直交する第2方向の変位である第1誤差とに応じた信号を出力する2次元スケールと、前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向において前記リニアガイドと一定の位置関係を有しており、前記ワーク又は前記工具を前記第1方向又は前記第2方向に平行な第1回転軸回りに回転させる主軸と、を有しており、前記第1回転軸を含むとともに前記第1方向及び前記第2方向に平行な仮想平面を仮定したときに、前記仮想平面から前記2次元スケールまでの距離が、前記仮想平面から前記リニアガイドまでの距離の1/3未満である。
【0008】
本開示の一態様に係る加工機は、第1方向及び第2方向に直交する第3方向に面している第1面を有している支持部と、前記第1面に支持されている固定部と、リニアガイドを介して前記固定部に支持されており、前記リニアガイドによって前記固定部に対して前記第1方向に案内される、ワーク又は工具を支持する第1可動部と、前記第1面に支持されているとともに前記固定部から離れているスケール配置部と、前記第1可動部の前記第1方向における第1変位と、前記第1可動部の前記第2方向の変位である第1誤差とに応じた信号を出力する2次元スケールと、を有しており、前記2次元スケールは、前記スケール配置部に固定されているスケール部と、前記第1可動部に固定されており、前記スケール部との相対移動に応じて信号を出力する検出部と、を有しており、前記スケール配置部は、前記第1面が面している側へ前記リニアガイドの位置を超える高さを有しており、前記スケール部は、前記リニアガイドよりも前記第1面が面している側に位置している。
【0009】
本開示の一態様に係る加工システムは、上記加工機と、前記加工機から前記第1誤差の検出値の情報を取得し、取得した情報に応じた画像を表示する診断装置と、を有している。
【0010】
本開示の一態様に係る被加工物の製造方法は、上記加工機を用いて、前記ワークと前記工具とを接触させて前記ワークを被加工物に加工するステップを有する。
【発明の効果】
【0011】
上記の構成又は手順によれば、2次元スケールによる検出の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る加工機の構成を示す模式的な斜視図。
図2】2次元スケールに係る構成を取り外した状態で図1の加工機を示す模式的な斜視図。
図3図3(a)及び図3(b)は2次元スケールの構成及び動作を説明する図。
図4図1の加工機における制御系の構成を示すブロック図。
図5図4のブロック図の一部について詳細を示す図。
図6】ロールによる誤差の算出方法を説明する図。
図7】ヨーによる誤差の算出方法を説明する図。
図8】第2実施形態に係る加工機における制御系の構成を示すブロック図。
図9図8の3次元スケールの構成を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態の概要)
図1は、実施形態に係る加工機1の構成を示す模式的な斜視図である。図2は、図1において、2次元スケールに係る構成を除いた図である。これらの図には、便宜上、直交座標系XYZを付している。+Y方向は、例えば、鉛直上方である。
【0014】
本開示に係る技術は、種々の加工機に適用可能であり、図示されている加工機1は、その一例に過ぎない。ただし、以下の説明では、便宜上、加工機1の構成を前提とした説明をすることがある。
【0015】
加工機1は、例えば、工具101によってワーク103の加工(例えば研削及び/又は研磨)を行う。より詳細には、図示の例では、ワーク103は、Z軸に平行なワーク回転軸AWの回りに回転される。また、工具101は、砥石によって構成されており、Y軸に平行な工具回転軸ATの回りに回転される。そして、工具101がワーク103に当接されることによって、ワーク103の研削及び/又は研磨が行われる。このような加工機1は、例えば、非球面レンズ等を作製する非球面加工機として利用可能である。
【0016】
工具101又はワーク103を支持する複数の可動部(X軸テーブル9X、サドル13及びZ軸テーブル9Z)それぞれは、X軸、Y軸又はZ軸に沿って平行移動する。これにより、工具101及びワーク103は任意の方向へ相対移動する。この平行移動は、各可動部がリニアガイド(X軸ガイド17X、Y軸ガイド17Y又はZ軸ガイド17Z)によって案内されることによって実現される。また、各可動部の平行移動の変位は、図1に示すように、2次元スケール(X軸センサ25X、Y軸センサ25Y又はZ軸センサ25Z)によって検出される。検出された変位は、例えば、平行移動のフィードバック制御に利用される。
【0017】
2次元スケールは、各可動部が平行移動すべき方向(第1方向)の変位に加えて、上記第1方向に直交する方向(第2方向)における変位(誤差)も検出可能となっている。例えば、X軸センサ25Xは、X軸テーブル9XのX方向(第1方向)の変位に加えて、X軸テーブル9XのZ方向(第2方向)の変位(誤差)を検出する。Y軸センサ25Yは、サドル13のY方向(第1方向)の変位に加えて、サドル13のZ方向(第2方向)の変位(誤差)を検出する。Z軸センサ25Zは、Z軸テーブル9ZのZ方向(第1方向)の変位に加えて、Z軸テーブル9ZのX方向(第2方向)の変位(誤差)を検出する。
【0018】
上記のように2次元スケールが誤差を検出することによって、例えば、当該誤差に起因する工具101とワーク103との相対位置の誤差を補償するように加工機1を制御することができる。例えば、X軸センサ25XによってX軸テーブル9XのZ方向の誤差が生じたとき、その誤差と同じ方向及び同じ量でZ軸テーブル9Zを変位させることによって、工具101及びワーク103の相対位置の誤差を低減することができる。及び/又は、2次元スケールが検出した誤差は、品質管理に利用されてもよい。
【0019】
ここで、2次元スケールが変位を検出する2方向に平行で、かつ工具101がワーク103に接する加工点を含む仮想平面VP(図1及び図2では不図示。図6にZ軸センサ25Zに係る仮想平面VPを示す。)を仮定する。加工点に代えて、回転軸(AW又はAT)を含む仮想平面VPが仮定されてもよい。このとき、2次元スケールは、仮想平面VP内に位置している。
【0020】
例えば、X軸センサ25Xは、X方向及びZ方向に平行で、ワーク回転軸AWを含む仮想平面VP(図6)内に位置している。Y軸センサ25Yは、Y方向及びZ方向に平行で、工具回転軸ATを含む仮想平面VP(不図示)内に位置している。Z軸センサ25Zは、Z方向及びX方向に平行で、ワーク回転軸AWを含む仮想平面VP(図6)内に位置している。
【0021】
このようにすることによって、後に詳述するように、2次元スケールによって検出される誤差の精度が向上する。この効果を得る観点において、2次元スケールは、必ずしも仮想平面VP内に位置する必要はなく、仮想平面VPに近い位置に配置されていてよい。例えば、仮想平面VPから2次元スケールまでの距離は、仮想平面VPからリニアガイドまでの距離の1/2未満、1/3未満、1/5未満又は1/10未満とされてよい。
【0022】
別の観点では、加工機1は、2次元スケールを仮想平面VPに近づけるための構成を有している。具体的には、2次元スケールの一部(後述するスケール部)が設けられるスケール配置部(X軸スケール配置部21X、Y軸スケール配置部21Y及びZ軸スケール配置部21Z)が設けられている。
【0023】
3軸のうちX軸を例に取ると、X軸スケール配置部21Xは、その上面がX軸ガイド17Xよりも上方に位置する高さを有している。X軸センサ25Xの一部(スケール部)は、X軸スケール配置部21Xの上面に設けられている。これにより、X軸センサ25Xは、X軸ガイド17Xに対して仮想平面VPの側に位置している。
【0024】
なお、2次元スケールを仮想平面VPに近づけるための構成は、スケール配置部によらなくてもよい。また、スケール配置部は、2次元スケールを仮想平面VPに近づけることに寄与しなくてもよい。スケール配置部は、2次元スケールを仮想平面VPに近づけること以外にも効果(後述)を奏し得る。
【0025】
以上が実施形態に係る加工機1の概要である。以下では、概略、下記の順に説明を行う。
第A章 第1実施形態
1.加工機の全体構成(図1及び図2
2.スケールに係る構成
2.1.スケール(図3(a)及び図3(b))
2.1.1.スケール全般
2.1.2.スケールの構成の具体例
2.1.3.回転誤差の検出に係る構成
2.2.各軸におけるスケールの配置態様
2.3.スケール配置部
3.制御系
3.1.複数の軸の制御系(図4
3.1.1.制御の概要
3.1.2.信号処理
3.1.3.フィードバック制御
3.1.4.誤差の補償
3.2.各軸における制御系(図5
3.2.1.Z軸センサに基づくZ軸の制御
3.2.2.他の軸のセンサに基づくZ軸の制御
3.2.3.補足
4.回転誤差の影響の算出方法(図6及び図7
4.1.ロールの影響
4.2.ヨーの影響
4.3.ピッチの影響
5.加工システム(図1
6.第1実施形態のまとめ
第B章 第2実施形態
7.第2実施形態の全体構成(図8
8.スケール(図9
9.第2実施形態のまとめ
【0026】
<第A章 第1実施形態>
(1.加工機の全体構成)
加工機1は、例えば、工具101及びワーク103を保持する機械本体3と、機械本体3を制御するコントローラ5とを有している。
【0027】
機械本体3は、既述のとおり、ワーク103及び工具101それぞれを回転させるとともに、工具101とワーク103とを相対移動させてワーク103の加工を行う。より詳細には、例えば、加工前(別の観点では工具101とワーク103との接触前)において、工具101は、Y方向に移動されて位置決めがなされる。その後、工具101及びワーク103のそれぞれが回転している状態で、工具101のX方向の移動及び/又はワーク103のZ方向の移動がなされることによって加工が行われる。機械本体3は、上記のような動作を実現するため、例えば、以下の構成を有している。
【0028】
機械本体3は、基台7と、基台7に支持されている既述のX軸テーブル9Xと、X軸テーブル9Xに固定されているコラム11と、コラム11に支持されている既述のサドル13と、サドル13に支持されている工具主軸15Tとを有している。工具主軸15Tは、工具101を保持しており、既述の工具回転軸ATの回りに回転可能である。X軸テーブル9Xは、基台7上をX方向に直線移動可能である。サドル13は、コラム11に対してY方向に直線移動可能である。
【0029】
また、機械本体3は、基台7に支持されているZ軸テーブル9Zと、Z軸テーブル9Zに支持されているワーク主軸15Wとを有している。ワーク主軸15Wは、ワーク103を保持しており、既述のワーク回転軸AWの回りに回転可能である。Z軸テーブル9Zは、基台7上をZ方向に直線移動可能である。
【0030】
可動部(9X、13及び9Z)の平行移動及び主軸(15W及び15T)の回転を実現するための機構(駆動源及びガイド等)の構成は、種々のものとされてよく、例えば、公知の構成又は公知の構成を応用したものとされてよい。例えば、駆動源は、電動機、油圧機器又は空圧機器とされてよい。電動機の場合を例に取ると、例えば、主軸は回転式の主軸モータ(電動機)によって駆動されてよい。可動部の平行移動は、リニアモータによって実現されてもよいし、回転式の電動機の回転が適宜な機構(例えばボールねじ機構)によって直線運動に変換されることによって実現されてもよい。
【0031】
また、例えば、可動部(9X、13及び9Z)を案内する(別の観点では駆動方向以外の方向における移動を規制する)リニアガイド(25X、25Y又は25Z)は、可動部と固定部とが摺動するすべり案内であってもよいし、可動部と固定部との間で転動体が転がる転がり案内であってもよいし、可動部と固定部との間に空気又は油を介在させる静圧案内であってもよいし、これらの2以上の組み合わせであってもよい。同様に、主軸(15W及び15T)の軸受は、すべり軸受、転がり軸受、静圧軸受又はこれらの2以上の組み合わせとされてよい。
【0032】
図示の例では、各可動部(9X、13又は9Z)に対して、互いに並列に可動方向に延びる2つのガイド(17X及び17X、17Y及び17Y、又は17Z及び17Z)が設けられている。なお、2つのガイドを含む構成全体を1つのガイドとして捉えてもよい。また、各可動部に対して、2つのガイドが設けられていると捉えることができない(すなわち1つのガイドとしてしか捉えることができない)構成のガイドが設けられても構わない。X軸及びZ軸それぞれに係る2つのガイドは、可動部(9X又は9Z)を支持している。Y軸に係る2つのY軸ガイド17Yは、サドル13の全荷重を支持しているとは限らないが、コラム11は、Y軸ガイド17Yを介してサドル13を支持していると表現されてよい。
【0033】
図示の例では、各可動部(9X、13又は9Z)の2つのガイドは、V-V転がり案内によって構成されている。より詳細には、例えば、X軸ガイド17Xは、X軸テーブル9Xを支持するX軸ベッド19Xの上面に形成された断面V字状の溝と、X軸テーブル9Xの下面に形成された断面三角形状の突条と、上記の溝と突条との間に介在している複数のコロ(不図示)とを有している。Y軸ガイド17Yは、コラム11の側面に形成された断面V字状の溝と、サドル13の側面に形成された断面三角形状の突条と、上記の溝と突条との間に介在している複数のコロ(不図示)とを有している。Z軸ガイド17Zは、X軸ベッド19Xを-Z側へ延長した部分に支持されるZ軸ベッド19Zの上面に形成された断面V字状の溝と、Z軸テーブル9Zの下面に形成された断面三角形状の突条と、上記の溝と突条との間に介在している複数のコロ(不図示)とを有している。
【0034】
コントローラ5は、例えば、特に図示しないが、NC装置及びドライバ(例えばサーボドライバ)を含んで構成されている。NC装置は、例えば、特に図示しないが、CPU(central processing unit)、ROM(read only memory)、RAM(random access memory)及び外部記憶装置(例えばHDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive))を含んで構成されている。換言すれば、NC装置は、コンピュータを含んで構成されている。CPUがROM及び/又は外部記憶装置に記憶されているプログラムを実行することによって、制御等を行う各種の機能部が構築される。また、コントローラ5は、一定の動作のみを行う論理回路を含んでいてもよい。
【0035】
コントローラ5は、例えば、主軸(15W及び15T)の回転数、並びに可動部(9X、13及び9Z)の速度及び位置を制御する。位置制御及び速度制御は、例えば、いわゆるフルクローズドループ制御とされてよい。すなわち、可動部の位置及び速度の検出値がフィードバックされてよい。最も、位置制御及び/又は速度制御は、フィードバックがなされないオープンループ制御とされたり、電動機の回転数の検出値がフィードバックされるセミクローズドループ制御とされたりしてもよい。
【0036】
加工機1の加工精度は適宜に設定されてよい。例えば、加工機1は、サブマイクロメータオーダーの精度(1μm未満の誤差)、又はナノメータオーダーの精度(10nm未満の誤差)で加工を実現可能なものであってよい。そのような工作機械は、本願出願人によって既に実用化されている(例えばUVMシリーズ、ULGシリーズ及びULCシリーズ。)。より詳細には、例えば、各軸における位置決め精度は、1μm以下、0.1μm以下、10nm以下又は1nm以下とされてよい。
【0037】
(2.スケールに係る構成)
(2.1.スケール)
本2.1節では、基本的に2次元スケール自体について説明する。換言すれば、X軸センサ25X、Y軸センサ25Y及びZ軸センサ25Zに共通する事項について説明する。各軸の2次元スケールの配置態様等については、次節(2.2節)で述べる。
【0038】
ただし、便宜上、本節の説明では、基本的に、X軸センサ25Xを例に取る。下記の説明は、他の方向の変位を検出する2次元スケールに援用されてよい。このとき、下記の説明における用語は適宜に他の用語に置換されてよい。例えば、Y軸センサ25Yに援用するときは、「X」と「Y」とを相互に置換し、「x」と「y」とを相互に置換し、「X軸テーブル9X」を「サドル13」に置換する。Z軸センサ25Zに援用するときは、「X」と「Z」とを相互に置換し、「x」と「z」とを相互に置換する。
【0039】
(2.1.1.スケール全般)
図1に示すように、X軸センサ25Xは、例えば、X方向に延びているスケール部27と、スケール部27に対向している検出部29とを有している。スケール部27においては、例えば、光学的又は磁気的に形成された複数のパターンがX方向(X軸センサ25Xの構成によってはX方向に加えてZ方向)に一定のピッチで(上位概念で言えば所定の規則に従って)配列されている。検出部29は、各パターンとの相対位置に応じた信号を生成する。従って、スケール部27及び検出部29の相対移動に伴って生成される信号の計数(すなわちパターンの計数)によって、変位(位置)を検出することができる。
【0040】
X軸センサ25Xは、スケール部27のパターンに基づいてスケール部27に対する検出部29の位置(絶対位置)を特定可能なアブソリュート式のものであってもよいし、そのような特定ができないインクリメンタル式のものであってもよい。公知のように、インクリメンタル式のスケールであっても、検出部29をスケール部27に対して所定位置(例えば移動限)に移動させてキャリブレーションを行うことによって絶対位置を特定することができる。
【0041】
X軸テーブル9Xの移動に係る誤差(Z方向の変位)は、当然ながら、X軸テーブル9XのX方向における移動可能な長さに比較して小さい。従って、X軸センサ25Xにおいて、Z方向の位置を検出可能な範囲の長さは、X方向の位置を検出可能な範囲の長さよりも短くされてよい。X軸センサ25Xにおいて、X方向の位置の検出精度及びZ方向の位置の検出精度は、互いに同等であってもよいし、互いに異なっていてもよい。いずれの場合においても、X軸センサ25Xにおいて、X方向の位置の検出精度及びZ方向の位置の検出精度それぞれは、比較的高くされてよく、例えば、1μm以下、0.1μm以下、10nm以下又は1nm以下とされてよい。
【0042】
(2.1.2.スケールの構成の具体例)
2次元スケールの構成は、公知の構成を含む種々の構成とされてよい。以下では、その一例を示す。後述するように、X軸センサ25Xは、X方向及びZ方向の変位だけでなく、Y軸回りの回転誤差を検出することも可能である。ただし、本2.1.2節では、X方向及びZ方向の変位の検出に係る構成についてのみ説明し、回転誤差の検出については次節(2.1.3節)で説明する。便宜上、変位の語は、特に断りがない限り、また、矛盾等が生じない限り、直線変位を指し、回転変位を指さないものとする。また、便宜上、X軸センサ25Xの各部の位置及び形状等を説明するときに、回転誤差が無いと仮定して、X方向及びZ方向の語を参照することがある。
【0043】
図3(a)は、X軸センサ25Xの一部の拡大図である。なお、説明の便宜上、図3(a)と他の図とで、直交座標系XYZに対するスケール部27及び検出部29の向きが異なることがあるが、これは本質的な差異ではない。下記の説明(式)では、実際の向きに応じて適宜に+及び-の符号が置換されたりしてよい。
【0044】
スケール部27は、例えば、互いに平行にX方向に延びるA相スケール部27a及びB相スケール部27bを有している。A相スケール部27a及びB相スケール部27bは、光学的又は磁気的に形成された複数のパターン27cを有している。複数のパターン27cは、X方向に対して傾斜する直線状である。A相スケール部27a及びB相スケール部27bとで、複数のパターン27cの傾斜角の大きさは互いに同等であり、かつ傾斜方向は互いに逆である。検出部29は、例えば、A相スケール部27aのパターン27cを検出するA相検出部29aと、B相スケール部27bのパターン27cを検出するB相検出部29bとを有している。なお、複数のパターン27cは、A相スケール部27a及びB相スケール部27bの全体において魚の骨に類似している。従って、このようなパターンを有する2次元スケールをフィッシュボーン型の2次元スケールと称することがある。
【0045】
図3(b)は、A相スケール部27aの一部を拡大して示す模式図である。
【0046】
A相検出部29aによって検出されるパターン27cの計数によって、A相スケール部27aのパターン27cに直交する方向の変位dAが検出される。パターン27cに直交する方向のX軸に対する傾斜角をθとし、変位dAのX方向成分をx1とし、変位dAのZ方向成分をz1とする。このとき、以下の式が成り立つ。
dA=x1×cosθ+z1×sinθ (1)
【0047】
一方、B相検出部29bによって検出されるパターン27cの計数によって、B相スケール部27bのパターン27cに直交する方向の変位dB(図3(a))が検出される。このとき、A相スケール部27aとB相スケール部27bとでパターン27cの傾斜角は同一であるから、B相スケール部27bにおいても、パターン27cに直交する方向のX軸に対する傾斜角(絶対値)はθである。また、検出部29がY軸回りに回転しないと仮定すると、変位dBのX方向成分及びZ方向成分は、変位dAのX方向成分及びZ方向成分(x1及びz1)と同じである。従って、以下の式が成り立つ。
dB=x1×cosθ-z1×sinθ (2)
【0048】
上記の(1)式及び(2)式から、以下の式が導かれる。
x1=(dA+dB)/(2×cosθ) (3)
z1=(dA-dB)/(2×sinθ) (4)
このような原理によって、図示の例の2次元スケールは、2方向の変位を検出することができる。
【0049】
図示の例以外の2次元スケールとしては、例えば、特許文献1の図8及び特許文献2の図4に示されているものが挙げられる。この2次元スケールでは、Z軸に平行に延びているとともにX方向に配列されている複数の第1パターンと、X軸に平行に延びているとともにZ軸に配列されている複数の第2パターンとが設けられている。そして、複数の第1パターンの計数によってX方向の変位が検出され、複数の第2パターンの計数によってZ方向の変位が検出される。すなわち、この2次元スケールは、通常の1次元のリニアスケールを互いに直交させた構成である。
【0050】
(2.1.3.回転誤差の検出に係る構成)
実施形態に係る2次元スケール(25X、25Y及び25Z)は、変位を検出する2方向に直交する軸の回りの回転誤差を検出可能に構成されている。検出された回転誤差は、例えば、当該回転誤差が工具101とワーク103との相対位置に及ぼす影響を低減するためのフィードバック制御に利用される。回転誤差を検出するための構成は、例えば、以下のとおりである。
【0051】
図3(a)に示すように、X軸センサ25Xは、X方向の位置が互いに異なる2つのA相検出部29aを有している。従って、検出部29がスケール部27に対してY軸回りに回転すると、その回転量に応じた移動量で、Z方向における両者の相対位置が変化する。従って、2つのA相検出部29aによって検出される2つの誤差(Z方向の変位)に基づいて、回転誤差を特定することができる。なお、2つのA相検出部29aが設けられるのではなく、2つのB相検出部29bが設けられてもよいことは明らかである。
【0052】
より詳細には、例えば、2つのA相検出部29aによって検出される変位dAをそれぞれdA′及びdA″とし、そのZ方向成分をz1′及びz1″とする。回転誤差は微小であることから、dA′及びdA″においてx1は同じであるとみなすことができる。このとき、(1)式と同様に、以下の式が成り立つ。
dA′=x1×cosθ+z1′×sinθ (1)′
dA″=x1×cosθ+z1″×sinθ (1)″
(1)′式から(1)″式を引いて整理すると、以下の式が成り立つ。
z1′-z1″=(dA′-dA″)/sinθ (5)
そして、2つのA相検出部29aの距離をdとすると、回転誤差αは、以下の式から求められる。
α=arctan((z1′-z1″)/d) (6)
【0053】
回転誤差αの算出には、2つのA相検出部29aによって同時に検出された2つの誤差(z1)が用いられる。ここでいう同時は、厳密に同時でなくてもよい。例えば、2つの誤差の検出時点は、検出を繰り返す周期(サンプリング周期)又は制御を繰り返す周期(後述する制御周期)に関して、同一の周期内の互いに異なる時点であってもよい。また、2つの誤差のそれぞれは、複数のサンプリング周期の平均値であってもよい。
【0054】
図3(a)の例においては、回転誤差が無いとき、1つのA相検出部29aとB相検出部29bとのX方向の位置が互いに同じである。ただし、後述する図4に例示するように、2つのA相検出部29aのX方向の位置の双方がB相検出部29bのX方向の位置と異なっていてもよい。図4の例では、B相検出部29bは、X方向において2つのA相検出部29aのちょうど中間に位置している。また、図3(a)の例においては、回転誤差が無いとき、2つのA相検出部29aのZ方向の位置は互いに同じである。ただし、両者は異なっていても構わない。
【0055】
距離dは、適宜に設定されてよい。距離dを長くするほど、αの絶対値に対してz1′-z1″の絶対値が大きくなるから、αの検出精度は向上する。ただし、検出部29は大型化する。距離dは、例えば、回転誤差が生じていないときのA相検出部29aとB相検出部29bとのZ方向の距離よりも長くされてよい。
【0056】
(3)式又は(4)式によってx1又はz1が算出されるとき、2つの変位dA(dA′及びdA″)のいずれが用いられてもよいし、2つの変位dAの平均値等が用いられてもよい。例えば、図3(a)の例においては、B相検出部29bに近い方のA相検出部29aが検出した変位dAが用いられてよい。図4の例においては、2つの変位dAの平均値が用いられてよい。
【0057】
回転誤差の検出では、X方向の互いに異なる2つの位置でZ方向の変位(誤差)が検出されればよいから、当然に、他の形式の2次元スケールにおいても検出可能である。例えば、既述のように、通常の1次元のリニアスケールを互いに直交させた2次元スケールにおいては、Z方向の変位を検出する検出部をX方向の位置を異ならせて2つ設ければよい。そして、2つの検出部によって検出されたz1′及びz1″を(6)式に代入すればよい((5)式は当然に不要である。)。
【0058】
(2.2.各軸におけるスケールの配置態様)
図1及び図2に示す各可動部(9X、13又は9Z)において、平行移動すべき方向(X方向、Y方向又はZ方向)に直交する方向としては、互いに直交する2方向を考えることができる。例えば、X軸テーブル9に関しては、X方向に直交する方向として、Z方向とY方向との2方向が存在する。従って、1つの可動部(1つの軸)につき、2つの2次元スケールを互いに異なる向きで設ける意義が存在する。例えば、X軸テーブル9については、X方向及びZ方向の変位を検出する2次元スケールと、X方向及びY方向の変位を検出する2次元スケールとが設けられてよい。
【0059】
ただし、第1実施形態では、各可動部に対して2次元スケールを1つのみ設け、また、Y方向に加工機1を見たときの誤差を検出するように2次元スケールを設けている。換言すれば、Y方向の誤差の検出の優先度は低くされている。具体的には、既に述べたが、X軸センサ25Xは、X方向及びZ方向の変位を検出する向きで設けられている。Y軸センサ25Yは、Y方向及びZ方向の変位を検出する向きで設けられている。Z軸センサ25Zは、Z方向及びX方向の変位を検出する向きで設けられている。このような2次元スケールの配置は、例えば、Y方向の可動部(サドル13)を位置決めすることが想定されている加工機において、加工に及ぼす影響が相対的に大きい誤差を効果的に検出できる。
【0060】
X軸センサ25Xでは、スケール部27及び検出部29の一方(図示の例では検出部29)は、X軸テーブル9Xに直接的に又は間接的に固定されている。スケール部27及び検出部29の他方(図示の例ではスケール部27)は、X軸ベッド19Xに対して直接的に又は間接的に固定されている。従って、X軸テーブル9Xが移動すると、スケール部27及び検出部29は相対移動する。これにより、X軸テーブル9Xの変位(位置)が検出される。より詳細には、例えば、以下のとおりである。
【0061】
基台7の上面にはX軸スケール配置部21Xが設けられている。X軸センサ25Xのスケール部27は、X軸スケール配置部21Xの上面に設けられ、X方向に延び、Z方向に幅を有している。X軸センサ25Xの検出部29は、X軸テーブル9Xに固定された適宜な形状及び寸法の支持部材(符号省略)によって支持されており、スケール部27に対して上方から対向している。実施形態の概要の説明で述べたように、X軸センサ25Xは、X軸ガイド17Xに対して仮想平面VP(ワーク回転軸AWを通る、XZ平面に平行な面)の側に位置しており、より詳細には、仮想平面VP内に位置している。
【0062】
Y軸センサ25Yでは、スケール部27及び検出部29の一方(図示の例では検出部29)は、サドル13に直接的に又は間接的に固定されている。スケール部27及び検出部29の他方(図示の例ではスケール部27)は、コラム11に直接的に又は間接的に固定されている。従って、サドル13が移動すると、スケール部27及び検出部29は相対移動する。これにより、サドル13の変位(位置)が検出される。より詳細には、例えば、以下のとおりである。
【0063】
X軸テーブル9Xの上面にはY軸スケール配置部21Yが設けられている。Y軸センサ25Yのスケール部27は、Y軸スケール配置部21YのX方向に面する側面に設けられ、Y方向に延び、Z方向に幅を有している。Y軸センサ25Yの検出部29は、サドル13に固定された適宜な形状及び寸法の支持部材(符号省略)によって支持されており、スケール部27に対してX方向において対向している。支持部材は、図示の例では、コラム11をZ方向に貫通している。Y軸センサ25Yは、Y軸ガイド17Yに対して仮想平面VP(工具回転軸ATを通る、YZ平面に平行な面)の側に位置しており、より詳細には、仮想平面VP内に位置している。
【0064】
Z軸センサ25Zでは、スケール部27及び検出部29の一方(図示の例では検出部29)は、Z軸テーブル9Zに直接的に又は間接的に固定されている。スケール部27及び検出部29の他方(図示の例ではスケール部27)は、Z軸ベッド19Zに対して直接的に又は間接的に固定されている。従って、Z軸テーブル9Zが移動すると、スケール部27及び検出部29は相対移動する。これにより、Z軸テーブル9Zの変位(位置)が検出される。より詳細には、例えば、以下のとおりである。
【0065】
X軸ベッド19XをZ軸ベッド19Zの側に延長した部分の上面にはZ軸スケール配置部21Zが設けられている。Z軸センサ25Zのスケール部27は、Z軸スケール配置部21Zの上面に設けられ、Z方向に延び、X方向に幅を有している。Z軸センサ25Zの検出部29は、Z軸テーブル9Zに固定された適宜な形状及び寸法の支持部材(符号省略)によって支持されており、スケール部27に対して上方から対向している。Z軸センサ25Zは、Z軸ガイド17Zに対して、仮想平面VP(ワーク回転軸AWを通る、XZ平面に平行な面)の側に位置しており、より詳細には、仮想平面VP内に位置している。
【0066】
仮想平面VPから2次元スケール(25X、25Y又は25Z)までの距離を参照したり、仮想平面VPの法線方向において2次元スケールの位置とリニアガイド(17X、17Y又は17Z)の位置とを比較したりするとき、2次元スケールの位置は、検出に直接的に寄与する部分を基準としてよい。例えば、スケール部27の検出部29と対向する表面(別の観点では仮想平面VPと平行な面)を基準としてよい。例えば、X軸センサ25Xでは、スケール部27の上面(ただし検出部29と対向する領域)の位置が基準とされてよい。
【0067】
また、リニアガイドの位置は、2次元スケールがリニアガイドよりも仮想平面VPの側に位置するという要件が相対的に厳しく判定されるように、可動部の案内に直接的に寄与する部分のうち仮想平面VPの側に位置する部分を基準としてよい。例えば、X軸ガイド17Xにおいては、X軸テーブル9Xの下面の突条の表面(傾斜面)のうち、不図示のコロと接触する領域の上端が基準とされてよい。
【0068】
2次元スケールが仮想平面VP内に位置するというとき、上記のように2次元スケールの位置の基準(例えばスケール部27の表面)が厳密に仮想平面VP内に位置している必要はない。例えば、両者の距離が、スケール部27と検出部29との距離(ギャップ)の5倍以下、2倍以下又は1倍以下の場合は、2次元スケールは、仮想平面VP内に位置していると捉えられてよい。ギャップは、例えば、2mm以下又は1mm以下である。
【0069】
各軸において、2次元スケールの検出部29は、可動部(9X、13又は9Z)が移動すべき方向において、加工点の近くに位置していてよい。換言すれば、検出部29は、加工点を含み、可動部が移動すべき方向に直交する仮想平面(不図示)の近く(例えば上記仮想平面内)に位置していてよい。さらに換言すれば、検出部29は、上記直交する仮想平面(不図示)と仮想平面VPとの交線の近く(例えば交線内)に位置していてよい。加工点に代えて、その可動部が支持する主軸(15W又は15T)の先端かつその主軸の回転軸上の位置が基準とされてもよい。検出部29の基準位置は、実質的に検出に寄与する部分の中心とされてよい。上記直交する仮想平面(不図示)又は交線の「近く」は、例えば、仮想平面VPからリニアガイドまでの距離の1/2未満、1/3未満、1/5未満又は1/10未満とされてよい。
【0070】
例えば、X軸センサ25Xの検出部29は、X方向に直交し、工具回転軸ATを含む仮想平面の近くに配置されてよい(図示の例)。Z軸センサ25Zの検出部29は、図示の例とは異なり、Z方向に直交し、ワーク主軸15Wの先端を含む仮想平面の近くに配置されてよい。Y軸センサ25Yの検出部29は、図示の例とは異なり、Y方向に直交し、工具主軸15Tの先端を含む仮想平面の近くに配置されてよい。このようにすることによって、例えば、後述するヨーの影響の説明(4.2節)から理解されるように、2次元スケールが位置を検出する2方向に直交する軸の回りの回転誤差を、2次元スケールの横方向における加工点の誤差として変換する必要性が低減される。
【0071】
(2.3.スケール配置部)
スケール配置部(21X、21Y及び21Z)の位置、形状及び寸法等は、2次元スケール(17X、17Y及び17Z)を所望の位置に配置できるように適宜に設定されてよい。図示の例では、以下のとおりである。
【0072】
スケール配置部の形状は直方体状とされている。また、スケール配置部は、中実な(空洞でない)金属部材とされている。換言すれば、スケール配置部は、金属によって一体的に形成されている。このようにいうとき、細部の形状は考慮外とされてよい。細部の形状としては、例えば、スケール配置部を基台7等に取り付けるための部位の形状、及び2次元スケールをスケール配置部に取り付けるための部位の形状が挙げられる。別の観点では、例えば、雌ネジ、ボルトが挿通される貫通孔(雌ネジでない孔)、又は何らかの部材の一部が嵌合する凹部が挙げられる。金属の種類は任意であり、例えば、鋳鉄である。
【0073】
各軸において、スケール配置部は、リニアガイドを介して可動部を支持している部材(固定部)とは異なる部材(例えば固定部を支持している支持部)に支持されている。さらに、スケール配置部は、固定部から離れている。具体的には以下のとおりである。
【0074】
X軸スケール配置部21Xは、X軸ベッド19Xに支持されるのではなく、基台7に支持されている。また、X軸スケール配置部21Xは、X軸ベッド19Xに対してZ方向に離れている。
【0075】
Y軸スケール配置部21Yは、コラム11に支持されるのではなく、X軸テーブル9Xに支持されている。また、Y軸スケール配置部21Yは、コラム11に対してZ方向に離れている。
【0076】
Z軸スケール配置部21Zは、Z軸ベッド19Zに支持されるのではなく、X軸ベッド19Xの延長部分に支持されている。また、Z軸スケール配置部21Zは、Z軸ベッド19Zに対してX方向に離れている。
【0077】
各軸において、スケール配置部と固定部(19X、11又は19Z)との距離は、両者が接触しない限り任意である。例えば、1cm未満であってもよいし、1cm以上であってもよい。
【0078】
なお、図示の例とは異なり、スケール配置部は、複数の部材が組み合わされて構成されたり、空洞を有していたり、固定部に支持されていたりしてもよい。
【0079】
(3.制御系)
(3.1.複数の軸の制御系)
(3.1.1.制御の概要)
図4は、加工機1における制御系の構成を示すブロック図である。
【0080】
図4の左側においては、3軸の可動部(9X、13及び9Z)と、3軸の2次元スケール(25X、25Y及び25Z)と、3軸の可動部を駆動する電動機(23X、23Y及び23Z)とが模式的に示されている。また、図4の右側においては、コントローラ5の構成が示されている。
【0081】
コントローラ5は、3軸の2次元スケールからの信号を処理する信号処理部34と、信号処理部34からの信号に基づいて3軸の電動機を制御する制御本体部35と、を有している。信号処理部34は、軸毎に、入力処理部(31X、31Y又は31Z)と、2つの補正部(31Xx及び31Xz、31Yy及び31Yz、又は31Zx及び31Zz)と、を有している。制御本体部35は、軸毎に、電動機を制御する制御部(33X、33Y又は33Z)を有している。
【0082】
各軸の入力処理部(31X、31Y又は31Z)は、2次元スケールから入力された信号に基づいて2方向の変位及び回転誤差を特定する。各軸において、各補正部(32Xx等)は、後に詳述するように、入力処理部が特定した回転誤差に基づいて、入力処理部が特定した2方向のいずれかの変位を補正する。各軸において、2方向の変位のうち1つ(可動部が移動すべき方向の変位)は、通常のフィードバック制御に利用される。残りの1つ(誤差)は、当該誤差が工具101及びワーク103の相対位置に及ぼす影響を打ち消すために他の軸の制御に利用される。
【0083】
なお、信号処理部34、制御本体部35、入力処理部、補正部及び軸毎の制御部(33X、33Y又は33Z)は、機能上又は概念上の区分である。従って、例えば、ハードウェアの観点においては、これらの制御部は、一体的に構成されていてもよいし、分散されて構成されていてもよい。また、制御部(33X、33Y又は33Z)は、ドライバを含んでいると捉えられてもよいし、ドライバを含んでいない(別の観点では図4ではドライバの図示が省略されている)と捉えられてもよい。
【0084】
一般に、センサの語は、物理量を信号に変換するトランスデューサーのみを指す場合と、トランスデューサーと、これに接続された機能部とを含んだ装置を指す場合とがある。機能部としては、例えば、トランスデューサーに電力を供給するドライバ、及びトランスデューサーからの信号の処理を行う演算部が挙げられる。本実施形態においても、2次元スケールは、いずれであっても構わない。また、上記のように、図示の区分は機能上又は概念上のものであるから、2次元スケールの流通段階等において、信号処理部34の一部(例えば入力処理部(31X、31Y又は31Z))は、2次元スケールの一部とされていても構わない。
【0085】
(3.1.2.信号処理)
入力処理部(31X、31Y又は31Z)から補正部(32Xx等)への信号経路に付した記号の意味は、以下のとおりである。なお、以下では、便宜上、サドル13をY軸テーブルと称する。また、図4に示されておらず、図8に示されている記号についても示す。
XPosX:「X」軸テーブルの「X」方向の「変位」
XPosY:「X」軸テーブルの「Y」方向の「変位」(誤差)
XPosZ:「X」軸テーブルの「Z」方向の「変位」(誤差)
YPosX:「Y」軸テーブルの「X」方向の「変位」(誤差)
YPosY:「Y」軸テーブルの「Y」方向の「変位」
YPosZ:「Y」軸テーブルの「Z」方向の「変位」(誤差)
ZPosX:「Z」軸テーブルの「X」方向の「変位」(誤差)
ZPosY:「Z」軸テーブルの「Y」方向の「変位」(誤差)
ZPosZ:「Z」軸テーブルの「Z」方向の「変位」
XRotX:「X」軸テーブルの「X」軸回りの「回転誤差」
XRotY:「X」軸テーブルの「Y」軸回りの「回転誤差」
XRotZ:「X」軸テーブルの「Z」軸回りの「回転誤差」
YRotX:「Y」軸テーブルの「X」軸回りの「回転誤差」
YRotY:「Y」軸テーブルの「Y」軸回りの「回転誤差」
YRotZ:「Y」軸テーブルの「Z」軸回りの「回転誤差」
ZRotX:「Z」軸テーブルの「X」軸回りの「回転誤差」
ZRotY:「Z」軸テーブルの「Y」軸回りの「回転誤差」
ZRotZ:「Z」軸テーブルの「Z」軸回りの「回転誤差」
【0086】
入力処理部及び補正部の動作については、既述のとおりであるが、念のために、軸毎に符号を付して述べる。
【0087】
X軸入力処理部31Xは、X軸センサ25Xからの信号に基づいて、X軸テーブル9XのX方向の変位(XPosX)及びZ方向の変位(XPosZ)と、Y軸回りの回転誤差(XRotY)とを特定する。補正部32Xxは、XRotYに基づいてXPosXを補正する。補正部32Xzは、XRotYに基づいてXPosZを補正する。
【0088】
Y軸入力処理部31Yは、Y軸センサ25Yからの信号に基づいて、サドル13のY方向の変位(YPosY)及びZ方向の変位(YPosZ)と、X軸回りの回転誤差(YRotX)とを特定する。補正部32Yyは、YRotXに基づいてYPosYを補正する。補正部32Yzは、YRotXに基づいてYPosZを補正する。
【0089】
Z軸入力処理部31Zは、Z軸センサ25Zからの信号に基づいて、Z軸テーブル9ZのZ方向の変位(ZPosZ)及びX方向の変位(ZPosX)と、Y軸回りの回転誤差(ZRotY)とを特定する。補正部32Zzは、ZRotYに基づいてZPosZを補正する。補正部32Zxは、ZRotYに基づいてZPosxを補正する。
【0090】
各軸において、2次元スケールから入力処理部(31X、31Y又は31Z)へは、例えば、3つの検出部(29a、29b及び29a)が生成する3つの信号が入力される。各信号は、例えば、検出部(29a、29b又は29a)の直下を通過した1つのパターン27cと1つの波形(パルス波)とが対応しているパルス信号である。パルス波は、例えば、正弦波、矩形波、三角波又はのこぎり波である。
【0091】
各軸の入力処理部(31X、31Y又は31Z)は、例えば、入力された3つの信号に基づいて、(3)式~(6)式と等価な演算を行って、2つの方向の変位及び回転誤差を特定する。補正部による補正の具体例については後述する(第4節)。
【0092】
(3.1.3.フィードバック制御)
既述のとおり、各軸において、可動部(9X、13又は9Z)が移動すべき方向の検出変位は、当該方向のフィードバック制御(通常のフィードバック制御)に利用される。具体的には、以下のとおりである。
【0093】
補正部32Xxが算出したX軸テーブル9XのX方向における変位(信号SXx)は、X軸制御部33Xによって、X軸テーブル9Xを駆動するX軸電動機23Xのフルクローズドループ制御に利用される。補正部32Yyが算出したサドル13のY方向における変位(信号SYy)は、Y軸制御部33Yによって、サドル13を駆動するY軸電動機23Yのフルクローズドループ制御に利用される。補正部32Zzが算出したZ軸テーブル9ZのZ方向における変位(信号SZz)は、Z軸制御部33Zによって、Z軸テーブル9Zを駆動するZ軸電動機23Zのフルクローズドループ制御に利用される。
【0094】
(3.1.4.誤差の補償)
既述のとおり、各軸において、可動部が移動すべき方向に直交する方向の検出変位(検出誤差)は、誤差に起因する工具101及びワーク103の相対位置の誤差を低減する制御に利用される。具体的には、以下のとおりである。
【0095】
補正部32Xzが算出したX軸テーブル9XのZ方向の誤差(信号SXz)は、補正部32Zzが算出したZ方向の変位(信号SZz)に加算部36Zによって加算されてZ軸制御部33Zに入力される。便宜上、「加算」と表現しているが、X軸テーブル9XのZ方向の誤差と同じ方向及び同じ量で、Z軸テーブル9Zの本来の制御量(信号SZzに基づく移動量)が補正されるように演算が行われる(制御部内の実際の演算は減算であってもよい。以下、同様。)。
【0096】
補正部32Yzが算出したサドル13のZ方向の誤差(信号SYz)は、補正部32Zzが算出したZ方向の変位(信号SZz)に加算部36Zによって加算されてZ軸制御部33Zに入力される。便宜上、「加算」と表現しているが、サドル13のZ方向の誤差と同じ方向及び同じ量で、Z軸テーブル9Zの本来の制御量(別の観点では信号SZzに基づく移動量)が補正されるように演算が行われる。
【0097】
補正部32Zxが算出したZ軸テーブル9ZのX方向の誤差(信号SZx)は、補正部32Xxが算出したX方向の変位(信号SXx)に加算部36Xによって加算されてX軸制御部33Xに入力される。便宜上、「加算」と表現しているが、例えば、Z軸テーブル9ZのZ方向の誤差と同じ方向及び同じ量で、X軸テーブル9Xの本来の制御量(別の観点では信号SXxに基づく移動量)が補正されるように演算が行われる。
【0098】
各軸の制御部(33X、33Y又は33Z)において、信号処理部34からの信号に基づく位置の取得、及び取得した位置に基づく電動機(23X、23Y又は23Z)の制御は、所定の制御周期で繰り返し行われる。3軸の制御部(33X、33Y及び33Z)における制御周期は、例えば、互いに同じ(異ならせることも不可能ではない。)であり、また、同期が図られる。
【0099】
各軸の入力処理部(31X、31Y又は31Z)は、例えば、所定のサンプリング周期で2次元スケール(25X、25Y又は25Z)から信号を取得して、2方向の変位及び回転誤差(検出値)を算出する。3軸の入力処理部(31X、31Y及び31Z)におけるサンプリング周期は、例えば、互いに同じ(異ならせることも不可能ではない。)であり、また、同期が図られる。
【0100】
サンプリング周期は、例えば、制御周期に対して、同じとされたり、短くされたりしてよい。いずれにせよ、制御周期毎の制御においては、生の(処理が施されてない)検出値が用いられてもよいし、何らかの処理が施された検出値が用いられたりしてよい。
【0101】
例えば、各軸の制御部(33X、33Y又は33Z)が用いる、各軸の可動部(9X、13又は9Z)が移動すべき方向(第1方向)の変位(XPosX、YPosY又はZPosZ)は、最新の生の検出値とされてよい。これにより、例えば、第1方向の実際の位置に対して制御遅れが生じる蓋然性を低減できる。
【0102】
一方で、各軸の制御部(33X、33Y又は33Z)が用いる誤差(XPosZ、YPosZ、ZPosX、XRotY、YRotX又はZRotY)は、最新の検出値を含む所定数(例えば10個)の検出値の平均値とされてよい。これにより、例えば、特異的な誤差に過剰に応答する蓋然性が低減される。
【0103】
サンプリング周期及び制御周期の具体的な値は、加工機1に要求される精度等に応じて適宜に設定されてよく、特に限定されない。例を示すと、サンプリング周期及び/又は制御周期は、0.02sec以下、0.01sec以下又は0.005sec以下とされてよい。
【0104】
(3.2.各軸における制御系)
図5は、各軸における制御系の構成の一例を示すブロック図である。ここでは、Z軸テーブル9Zを駆動する制御に係る構成を例に取っている。
【0105】
図4を参照して述べたように、Z軸テーブル9Zを駆動する制御においては、Z軸センサ25Zの検出値だけでなく、X軸センサ25X及びY軸センサ25Yの検出値が利用されてよい。ここでは、まず、Z軸センサ25Zの検出値に基づく制御について述べる。その後、X軸センサ25X及びY軸センサ25Yの検出値の利用態様について述べる。Z軸センサ25Zの検出値に基づく制御の説明では、便宜上、加算部36Z、X軸センサ25X及びY軸センサ25Yの存在を無視した表現をすることがある。
【0106】
(3.2.1.Z軸センサに基づくZ軸の制御)
Z軸センサ25Zの検出値(信号SZz)に基づくZ軸テーブル9Zを駆動する制御は、例えば、工作機械における一般的な制御と同様とされてよい。例えば、以下のとおりである。なお、念のために記載すると、図4を参照して述べたように、信号SZzは、補正部32Zzによって補正されたものである。従って、以下に述べる制御の手順が一般的であっても、当該制御は、全体としては実質的に一般的なものとは異なる。
【0107】
NCプログラム107は、各軸の駆動に関する指令の情報を含んでいる。例えば、NCプログラム107は、X軸テーブル9X、Z軸テーブル9Z及びサドル13の移動に関する指令の情報を含んでいる。移動に関する指令の情報は、例えば、移動軌跡上の複数の位置、及び複数の位置間の速度の情報を含んでいる。
【0108】
コントローラ5の解釈部39は、NCプログラム107を読み出して解釈する。これにより、例えば、テーブル(9X及び9Z)及びサドル13のそれぞれについて、順次に通過する複数の位置と、複数の位置間の速度の情報が取得される。
【0109】
コントローラ5の補間部41は、解釈部39が取得した情報に基づいて、所定の制御周期毎の目標位置等を算出する。例えば、順次に通過する2つの位置と、その2つの位置の間の速度とに基づいて、制御周期毎に順次に到達すべき複数の目標位置を2つの位置の間に設定する。補間部41は、軸毎に制御周期毎の目標位置等を算出して出力する。図5では、Z軸テーブル9Zの制御周期毎の目標位置がコントローラ5の加算部43に出力されている。
【0110】
加算部43には、上記の目標位置に加えて、Z軸センサ25Zによって検出されたZ軸テーブル9ZのZ方向における検出位置(信号SZz)が入力される。加算部43は、目標位置と検出位置との偏差を算出する。算出された偏差(制御周期毎の目標移動量)は、コントローラ5の位置制御部45に入力される。
【0111】
位置制御部45は、入力された偏差に所定のゲインを乗じて制御周期毎の目標速度を算出し、コントローラ5の加算部47に出力する。加算部47には、上記の目標速度に加えて、Z軸テーブル9ZのZ方向の検出速度が入力される。検出速度は、Z軸センサ25Zが検出したZ方向の検出位置が微分部55によって微分されることによって算出される。加算部47は、目標速度と検出位置との偏差を算出し、コントローラ5の速度制御部49に出力する。
【0112】
速度制御部49は、入力された偏差に所定のゲインを乗じて制御周期毎の目標電流(目標トルク)を算出し、コントローラ5の加算部51に出力する。加算部51は、入力された制御周期毎の目標電流と、不図示の電流検出部からの検出電流との偏差を算出し、コントローラ5の電流制御部53に出力する。電流制御部53は、入力された偏差に応じた電力をZ軸電動機23Zに供給する。
【0113】
(3.2.2.他の軸のセンサに基づくZ軸の制御)
図5に示すZ軸センサ25Zから加算部43へ至る経路においては、図4でも示した加算部36Zが位置している。従って、加算部43に入力されるZ軸テーブル9Zの検出位置は、加算部36Zによって補正されたものとなっている。
【0114】
具体的には、Z軸テーブル9Zの検出位置から、X軸テーブル9XのZ方向の位置誤差(信号SXz)が減算されるとともに、サドル13のZ方向の位置誤差(信号SYz)が減算されている。別の観点では、加算部43がZ軸テーブル9Zの検出位置(信号SZz)のみに基づいて算出する偏差に対して、上記位置誤差(信号SXz及びSYz)が加算されていると捉えることができる。
【0115】
その結果、例えば、Z軸テーブル9Zの位置は、上記位置誤差(信号SXz及びSYz)と同じ方向へ同じ量でZ軸テーブル9Zの移動量を増加させるように制御される。これにより、他の軸の位置誤差が工具101及びワーク103の相対位置に及ぼす影響は、Z軸テーブル9Zの移動によって打ち消される。
【0116】
また、加算部36Zは、Z軸センサ25Zからの経路が微分部55へ分岐する手前に位置している。すなわち、微分部55に入力されるZ軸テーブル9Zの検出位置は、加算部36Zによって補正されたものとなっており、ひいては、加算部47に入力されるZ軸テーブル9Zの検出速度は、間接的に加算部36Zによって補正されたものとなっている。
【0117】
具体的には、加算部47に入力された検出速度は、Z軸テーブル9Zの検出速度から、X軸テーブル9XのZ方向の速度誤差が減算されるとともに、サドル13のZ方向の速度誤差が減算されたものとなっている。別の観点では、加算部47がZ軸テーブル9Zの検出速度のみに基づいて算出する偏差に対して、上記速度誤差が加算されていると捉えることができる。
【0118】
その結果、例えば、Z軸テーブル9Zの速度は、上記速度誤差(信号SXz及びSYz)と同じ方向へ同じ量でZ軸テーブル9Zの速度を増加させるように制御される。これにより、他の軸の速度誤差が工具101及びワーク103の相対速度に及ぼす影響は、Z軸テーブル9Zの移動によって打ち消される。
【0119】
Z軸テーブル9Zは、工具101及びワーク103の一方(図1ではワーク103)を保持し、X軸テーブル9X(又はサドル13)は、工具101及びワーク103の他方(図1では工具101)を保持している。このことから、X軸テーブル9X(又はサドル13)の誤差は、上記のように、Z軸テーブル9Zの変位から減算されている。上記とは異なり、2つの可動部が、共に工具101を保持している態様、又は共にワーク103を保持している態様においては、上記とは逆に、一方の可動部の誤差が他方の可動部の変位に加算(減算を除く狭い意味)されてよい。すなわち、可動部は、他の軸の誤差と同じ量で誤差とは逆側へ移動するように制御されてよい。
【0120】
例えば、後述する第2実施形態では、X軸センサ225XによってX軸テーブル9XのY方向の誤差(図8のXPosY)も検出される。この誤差は、Y軸センサ225Yによって検出されるサドル13のY方向の変位(図8のYPosY)に加算(狭義)されてよい。これにより、上記誤差が工具101とワーク103との相対位置に及ぼす影響が打ち消される。
【0121】
なお、以上の説明は、図1に示す直交座標系XYZの正負をそのまま制御に適用した場合の概念上のものである。従って、例えば、実際のコントローラ5内の演算においては、加算及び減算は上記の説明と逆であっても構わない。
【0122】
(3.2.3.補足)
上記の説明では、Z軸テーブル9Zの移動に係る制御について述べたが、上記の説明は、適宜に他の軸の可動部(本実施形態ではX軸テーブル9X及びサドル13)の移動に係る制御に援用されてよい。3.2.1節の説明が他の軸の可動部に援用できることは明らかである。また、3.2.2節の説明は、全体の制御系の構成(図4及び後述する図8等)に応じて適宜に援用されてよい。
【0123】
例えば、図4から理解されるように、第1実施形態では、Y軸センサ25Yの検出値をX軸テーブル9Xに係る制御に利用していない。従って、第1実施形態において、3.2.2節の説明をX軸テーブル9Xの説明に援用するときは、Y軸センサ25Yに係る説明を削除し、Xの語とZの語とを交互に置換する。また、第1実施形態では、サドル13に係る制御は、他の軸のセンサの検出値を利用していない。従って、3.2.2節の説明をサドル13の説明に援用する必要はない。
【0124】
図4及び図5に示した構成は、あくまで一例であり、適宜に変形されてよい。例えば、特に図示しないが、図5において、フィードフォワード制御が付加されてもよい。電流ループに代えて加速度ループが挿入されてもよい。電動機(23Z等)の回転を検出する回転センサ(例えばエンコーダ又はレゾルバ)が設けられている場合においては、その回転センサの検出値に基づいて速度制御がなされてもよい。フィードフォワード及び加速度ループにおいて、他の軸(図5ではX軸及びY軸)の誤差が利用されてもよい。
【0125】
図5の例では、他の軸(例えばX軸)の速度の誤差は、他の軸の変位の誤差とZ軸の変位とが足し合わされて共に微分されることによってZ軸の制御に組み込まれている。ただし、他の軸の変位の誤差がZ軸の変位とは別個に微分されて速度の誤差が求められ、その後、他の軸の速度の誤差とZ軸の速度の誤差とが足し合わされてもよい。
【0126】
図5の例では、他の軸の変位の誤差は、加算部36Zを介して加算部43に入力された。ただし、加算部43への入力に代えて、補間部41に入力されて制御周期毎の目標位置の算出に利用されてもよい。同様に、他の軸の速度の誤差は、加算部36Zを介して加算部47に入力されるのではなく、上記のようにZ軸の速度とは別個に算出されて、位置制御部45による目標速度の算出に利用されてもよい。
【0127】
なお、図5において、解釈部39から電流制御部53まで(微分部55を含む)は、図4の制御本体部35に対応している。位置制御部45から電流制御部53まで(微分部55を含む)は、Z軸制御部33Zに対応している。
【0128】
(4.回転誤差の影響の算出方法)
可動部(9X、13又は9Z)が回転誤差を生じると、その回転誤差は、工具101とワーク103との相対位置(別の観点では加工点)に影響する。図4に示した補正部(32Xx、32Xz、32Yy、32Yz、32Zz又は32Zx)は、例えば、可動部の回転誤差を工具101とワーク103との相対位置の誤差に変換して変位に加算(広義)している。その変換の算出方法は適宜なものとされてよい。以下に例を示す。
【0129】
可動部(9X、13又は9Z)の移動すべき方向に平行な軸の回りの回転をロールと称する。例えば、Z軸テーブル9Zに関しては、ロールは、Z軸回りの回転である。また、可動部がリニアガイドによって支持される方向に平行な軸の回りの回転をヨーと称する。例えば、Z軸テーブル9Zに関しては、ヨーは、Y軸回りの回転である。また、上記の2つの軸に直交する軸の回りの回転をピッチと称する。例えば、Z軸テーブル9Zに関しては、ピッチは、X軸回りの回転である。
【0130】
第1実施形態では、いずれの軸についてもロールは検出されていない。ひいては、第1実施形態では、ロールは工具101とワーク103との相対位置の誤差に変換されていない。ただし、ロールに係る説明は、2次元スケールの位置を仮想平面VPに近づけていることによる効果の理解に役立ち、また、後述する第2実施形態の理解に役立つ。
【0131】
以下の説明では、主として、Z軸テーブル9Zを例にとって説明する。ただし、以下の説明が他の軸に援用できることは明らかである。また、以下の説明では、便宜上、値の正負を厳密に扱わないことがある。
【0132】
(4.1.ロールの影響)
図6は、Z軸テーブル9Zのロールがワーク回転軸AWの位置(別の観点では工具101とワーク103との相対位置)に及ぼす影響を説明する模式図である。なお、ワーク回転軸AWの位置は、Z方向に見たときの加工点の位置として捉えられてよい。ここでは、2つのZ軸ガイド17Zのうち、-X側のZ軸ガイド17Zがロールの回転中心となっている状態が想定されている。
【0133】
図6において付された記号が示す位置又は寸法等は、以下のとおりである。
Cr:ロールの回転中心(ロール中心)
Lr:ロール中心からワーク回転軸AWまでのX方向の距離
hr:ロール中心からワーク回転軸AWまでのY方向の距離
θr:ロール中心とワーク回転軸AWとを結ぶ線がY軸となす角度
rr:ロール中心からワーク回転軸AWまでの距離(回転半径)
αr:ロールにより生じる角度の変化(回転誤差)
dLr:ロールにより生じるX方向の変位(誤差)
dhr:ロールにより生じるY方向の変位(誤差)
【0134】
上記のように記号の意味を定義したとき、以下の式が成り立つ。
dLr=rr×sin(θr+αr)-rr×sin(θr)
=rr{sin(θr+αr)-rr×sin(θr)}
=rr{sin(θr)cos(αr)+cos(θr)sin(αr)-sin(θr)}
【0135】
ここで、αrは微小であることから、以下のように近似することができる。
cos(αr)=1
sin(αr)=αr
【0136】
上記の近似式をdLrの算出式に代入すると、以下の式を得られる。
dLr≒rr×{sin(θr)+cos(θr)×αr-sin(θr)}
=rr×αr×cos(θr)
=rr×αr×hr/rr
=αr×hr
すなわち、
dLr≒αr×hr
【0137】
同様にして、dhrを算出することができる。具体的には、まず、下記の式が成り立つ。
dhr=rr×cos(θr)-rr×sin(θr+αr)
=rr{cos(θr)-sin(θr+αr)}
=rr{cos(θr)-cos(θr)cos(αr)+sin(θr)sin(αr)}
【0138】
上式に既述の近似式を代入すると、以下の式が得られる。
dhr≒rr{cos(θr)-cos(θr)+sin(θr)×αr}
=rr×αr×sin(θr)
=rr×αr×Lr/rr
=αr×Lr
すなわち、
dhr≒αr×Lr
【0139】
dLr≒αr×hrの式は、dLrの値が、αr及びhrによって決まり、Lr及びθrによらないことを示している。すなわち、ワーク回転軸AWを含む仮想平面VP内においては、いずれの位置においてもdLrの値は同じである。従って、仮想平面VP内にZ軸センサ25Zが位置している場合、Z軸センサ25Zは、ロールによる回転誤差αrに起因するワーク回転軸AWにおけるX方向の誤差dLrをそのまま含んだ偏差を検出できていることになる。また、Z軸センサ25Zが仮想平面VP内に位置していないまでも、Z軸センサ25Zが仮想平面VPに近づくほど、Z軸センサ25Zが検出するX方向の誤差に誤差dLrがより反映される。すなわち、Z軸センサ25Zによる誤差の検出の精度が実質的に向上する。
【0140】
なお、上記の説明からも理解されるように、ロール中心CrがZ軸ガイド17Zと同じ高さに位置する限り、当該効果は成立する。また、本実施形態のように、2つのZ軸ガイド17Zが設けられている態様においては、ロール中心Crは、いずれかのZ軸ガイド17Zの位置となる蓋然性が高い。従って、例えば、説明の便宜上、-X側のZ軸ガイド17Zをロール中心Crと仮定したが、上記の式は、多くの場合に通用し、また、上記の効果は、多くの場合に奏される。
【0141】
第1実施形態とは異なり、ロールが検出される態様(例えば第2実施形態)においては、dLr=αr×hrの式によってロールにおける回転誤差がX方向の変位誤差に変換され、Z軸センサ25Zによって検出されるX方向の変位誤差に加算されてよい。ただし、hrとして、ワーク回転軸AW(加工点)とZ軸センサ25ZとのY方向の距離(図6の例では0)を用いる。これにより、回転誤差αrがワーク回転軸AWのX方向の変位に及ぼす誤差のうち、Z軸センサ25Zによって検出されない部分がdLrとして算出される。
【0142】
なお、上記から理解されるように、本実施形態では、ワーク回転軸AWとZ軸センサ25ZとのY方向の距離は0であるので、ロールが検出されたとしても、上記距離をhrとした場合のdLrは0である。すなわち、ロールのdLrは算出されなくてもよい。この観点においても、2次元スケールを仮想平面VP内に位置することによる効果を説明できる。
【0143】
同様に、ロールが検出される態様(例えば第2実施形態)においては、dhr=αr×Lrの式によってロールにおける回転誤差がY方向の変位誤差に変換され、後述するZ軸補助スケール26Z(図8)によって検出されるY方向の変位誤差に加算されてよい。ただし、Lrとして、ワーク回転軸AW(加工点)とZ軸補助スケール26ZとのX方向の距離を用いる。これにより、回転誤差αrがワーク回転軸AWのY方向の変位に及ぼす誤差のうち、Z軸補助スケール26Zによって検出されない部分がdhrとして算出される。
【0144】
(4.2.ヨーの影響)
図7は、Z軸テーブル9Zのヨーがワーク主軸15Wの先端位置(別の観点では加工点)の位置に及ぼす影響を説明する模式図である。図7では、便宜上、加工点Ppの符号をワーク回転軸AW上かつワーク主軸15Wの先端に付している。実際の加工機1においても、ワーク主軸15Wの先端位置が加工点Ppの位置として用いられて演算が行われても構わない。
【0145】
図7において付された記号が示す位置又は寸法等は、以下のとおりである。
Cy:ヨーの回転中心(ヨー中心)
Ly:ヨー中心から加工点までのX方向の距離
wy:ヨー中心から加工点までのZ方向の距離
θy:ヨー中心と加工点とを結ぶ線がZ軸となす角度
ry:ヨー中心から加工点までの距離(回転半径)
αy:ヨーにより生じる角度の変化(回転誤差)
dLy:ヨーにより生じるX方向の変位(誤差)
dwy:ヨーにより生じるZ方向の変位(誤差)
【0146】
ヨーに係る回転誤差αyに起因する誤差dwy及びdLyの方向は、いずれもZ軸センサ25Zによって変位が検出される方向である。そして、既述のとおり、Z軸センサ25Zが検出した変位に基づいてZ軸テーブル9Z及びX軸テーブル9Xが制御される。従って、絶対座標系におけるヨーの回転中心の位置に関わらず、制御においては、Z軸センサ25Zの位置をヨーの回転中心であるものとし、αyに起因するwy及びdLyが算出されて、Z軸センサ25Zの検出した変位に加算されてよい。
【0147】
上記のように各記号を定義したとき、以下の式を導くことができる。なお、dLr及びdhrと同様に導出できることから、以下の式の導出過程は省略する。
dLy≒αy×wr
dwy≒αy×Ly
【0148】
そして、図4に示す補正部32Zxは、dLy=αy×wrによってZRotY(=αy)に基づくZPozXの補正量を算出してよい。また、補正部32Zzは、dwy=αy×LyによってZRotY(=αy)に基づくZPozZの補正量を算出してよい。
【0149】
(4.3.ピッチの影響)
第1実施形態では、サドル13(Y軸)に関して、ピッチに係る回転誤差が検出されている。ヨーの説明がピッチに援用できることは明らかである。従って、ピッチに係る回転誤差をピッチの回転軸に直交する2方向の変位に変換する式等の説明は省略する。
【0150】
(5.加工システム)
図1に戻って、加工機1は、OpenCNC(computerized numerical control)などの技術を利用して診断装置93と接続されてよい。別の観点では、加工機1と診断装置93とによって加工システム91が構築されてよい。
【0151】
診断装置93は、例えば、コンピュータ(不図示)を含んで構成されてよい。コンピュータは、特に図示しないが、CPU、ROM、RAM及び外部記憶装置を含んで構成されており、CPUがROM及び/又は外部記憶装置に記憶されているプログラムを実行することによって、各種の機能部が構築される。
【0152】
診断装置93(機能部)は、例えば、加工機1のコントローラ5から加工に係る情報を取得する。当該情報としては、例えば、各種の2次元スケール(25X、25Y及び25Z)によって検出された誤差の情報が挙げられる。誤差の情報は、生の情報であってもよいし、何らかの処理が施された情報であってもよい。そして、診断装置93は、取得した情報に基づく処理を行う。
【0153】
上記の取得した情報に基づく処理としては、例えば、取得した情報に基づく画像の表示が挙げられる。例えば、診断装置93は、表示装置93aを有している。表示装置93aは、例えば、任意の画像を表示可能なものであり、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイによって構成されている。そして、診断装置93は、取得した情報に応じて表示装置93aに表示させる画像を変化させる。
【0154】
診断装置93が表示する画像の例としては、例えば、各可動部(9X、13又は9Z)が移動すべき方向の位置を横軸にし、誤差を縦軸にしたグラフのように誤差自体を示すものが挙げられる。また、画像は、取得した誤差(真直度)が大きいときに表示される所定の警告画像であってもよい。
【0155】
診断装置93が実行する処理としては、上記の他、例えば、誤差(真直度)に応じてコントローラ5へ制御指令を送信するものが挙げられる。例えば、診断装置93は、誤差が大きいときに加工のサイクルを停止させる信号をコントローラ5に送信してもよい。
【0156】
診断装置93は、コントローラ5と隣接してケーブルで接続されていてもよいし、コントローラ5(加工機1)から離れており、無線通信及び/又は有線通信をコントローラ5との間で行ってもよい。後者の場合において、コントローラ5と診断装置93との間にはインターネット及び/又は電話網が介在していてもよい。なお、診断装置93がコントローラ5と隣接している場合、診断装置93は、加工機1の一部と捉えられてもよい。また、診断装置93は、コントローラ5に含まれていてもよい。
【0157】
(6.第1実施形態のまとめ)
以下、加工機1の特徴を抽出するとともに、その効果について説明する。以下の説明では、便宜上、2次元スケールによって誤差が検出される第1可動部として、可動部(9X、13及び9Z)のうちZ軸テーブル9Zを例にとる。後述する第2実施形態のまとめも同様とする。もちろん、他の可動部(9X又は13)を例にとった場合も同様のことがいえる。
【0158】
加工機1は、第1可動部(Z軸テーブル9Z)と、リニアガイド(Z軸ガイド17Z)と、2次元スケール(Z軸センサ25Z)と、主軸(ワーク主軸15W)と、を有している。Z軸テーブル9Zは、ワーク103又は工具101(図1の例ではワーク103)を支持する。Z軸ガイド17Zは、Z軸テーブル9Zを第1方向(Z方向)に案内する。Z軸センサ25Zは、Z軸テーブル9ZのZ方向における第1変位(ZPosZ)と、Z軸テーブル9ZのZ方向に直交する第2方向(X方向)の変位である第1誤差(ZPosX)とに応じた信号を出力する。ワーク主軸15Wは、Z方向及びX方向に直交する第3方向(Y方向)においてZ軸ガイド17Zと一定の位置関係を有している(別の観点ではZ軸ガイド17Zに対してY方向に不動である。)。また、ワーク主軸15Wは、ワーク103又は工具101(図1の例ではワーク103)をZ方向又はX方向に平行な第1回転軸(ワーク回転軸AW)回りに回転させる。ワーク回転軸AWを含むとともにX方向及びZ方向に平行な仮想平面VPを仮定したときに、仮想平面VPからZ軸センサ25Zまでの距離(図6では0)が、仮想平面VPからZ軸ガイド17Zまでの距離hrの1/3未満である。
【0159】
これにより、図6を参照して説明したように、ロールに係る回転誤差αrに起因する工具101とワーク103との相対位置に係るX方向の誤差dLrを、Z軸センサ25Zが検出するX方向の誤差に含ませやすくなる。その結果、実質的に検出精度が向上する。また、その実質的に精度が向上した検出結果に基づいて加工機1を制御することによって、加工精度が向上し、製品の品質が向上する。
【0160】
2次元スケール(Z軸センサ25Z)は、仮想平面VP内に位置していてよい。この場合、例えば、上記効果が向上しやすい。
【0161】
加工機1は、支持部(X軸ベッド19Xの-Z側への延長部分)と、固定部(Z軸ベッド19Z)と、スケール配置部(Z軸スケール配置部21Z)と、を有していてよい。X軸ベッド19Xは、仮想平面VPと対向している第1面(上面)を有していてよい。Z軸ベッド19Zは、X軸ベッド19Xの上面に支持されていてよく、リニアガイド(Z軸ガイド17Z)及び第1可動部(Z軸テーブル9Z)を支持していてよい。Z軸スケール配置部21Zは、X軸ベッド19Xの上面に支持されていてよく、Z軸ベッド19Zから離れていてよい。2次元スケール(Z軸センサ25Z)は、スケール部27と、検出部29とを有していてよい。Z軸センサ25Zのスケール部27は、Z軸スケール配置部21Zに固定されていてよい。Z軸センサ25Zにおいて、検出部29は、Z軸テーブル9Zに固定されていてよく、スケール部27との相対移動に応じて信号を出力してよい。Z軸スケール配置部21Zは、X軸ベッド19Xの上面から仮想平面VPの側へZ軸ガイド17Z位置を超える高さを有していてよい。
【0162】
この場合、例えば、Z軸センサ25Zを仮想平面VPに近づけることができる。その結果、上述した検出精度を向上させる効果が奏される。また、Z軸センサ25Zのスケール部27は、Z軸ベッド19Zに配置されるのではなく(そのような態様も本開示に係る技術に含まれてよい。)、Z軸ベッド19Zから離れたZ軸スケール配置部21Zに配置される。その結果、例えば、Z軸テーブル9Zの移動に伴ってZ軸ベッド19Zが変形したときに、Z軸センサ25Zのスケール部27が変形する蓋然性が低減される。この観点からも検出精度が向上する。
【0163】
スケール配置部(Z軸スケール配置部21Z)は、中実な金属部材であってよい。この場合、例えば、Z軸スケール配置部21Zが外部からの応力によって変形し難くなるから、上述した効果が向上する。
【0164】
加工機1は、第2可動部(X軸テーブル9X)と、第2駆動部(X軸電動機23X)と、コントローラ5と、を更に有していてよい。X軸テーブル9Xは、ワーク103又は工具101(図1の例では工具101)を支持してよい。X軸電動機23Xは、X軸テーブル9Xを第2方向(X方向)に駆動してよい。コントローラ5は、X軸電動機23Xを制御してよい。また、コントローラ5は、2次元スケール(Z軸センサ25Z)が検出したX方向の速度誤差に基づいて、当該速度誤差に起因するワーク103及び工具101のX方向における相対速度の誤差を低減するようにX軸電動機23Xを制御してよい。
【0165】
この場合、Z軸テーブル9ZのX方向の「速度」の誤差がX軸テーブル9XのX方向に移動によって補償される。これにより、状態制御の精度が向上する。すなわち、Z軸テーブル9ZのX方向の「変位」の誤差をX軸テーブル9XのX方向に移動によって補償する場合における、位置制御の精度の向上とは異質な効果が奏される。その結果、例えば、真直度が向上する。別の観点では、例えば、ワーク103に対する工具101の相対位置の目標値に対してオーバーシュート及び/又はアンダーシュートが生じる蓋然性が低下する。
【0166】
加工機1は、第1可動部(Z軸テーブル9Z)を第1方向(Z方向)に駆動する第1駆動部(Z軸電動機23Z)と、Z軸電動機23Zを制御するコントローラ5と、を更に有していてよい。2次元スケール(Z軸センサ25Z)は、Z方向の互いに異なる位置にて2つの第1誤差(Z軸テーブル9ZのX方向の誤差)を同時に検出してよい。コントローラ5は、上記2つの第1誤差から特定される第3方向(Y方向)に平行な軸の回りの回転誤差(図4のZRotY、図7のαy)に基づいて、回転誤差に起因するワーク103と工具101とのZ方向における相対位置の誤差(図7のdwy)をZ軸テーブル9Zの平行移動によって低減するようにZ軸電動機23Zを制御してよい。
【0167】
この場合、例えば、2次元スケールによって簡便に回転誤差を検出することができる。また、上記の回転誤差を、Z軸テーブル9Zが移動すべき方向における変位の誤差に換算して、Z軸電動機23Zの制御によって補償することができる。換言すれば、回転誤差自体を低減するのではなく、回転誤差に起因する直線誤差を補償する。従って、例えば、比較的簡素な構成によってZ軸テーブル9Zの進行方向におけるうねりを低減できる。
【0168】
加工機1は、第2可動部(X軸テーブル9X)と、第2駆動部(X軸電動機23X)と、コントローラ5と、を更に有していてよい。X軸テーブル9Xは、ワーク103又は工具101(図1の例では工具101)を支持してよい。X軸電動機23Xは、X軸テーブル9Xを第2方向(X方向)に駆動してよい。コントローラ5は、X軸電動機23Xを制御してよい。2次元スケール(Z軸センサ25Z)は、第1方向(Z方向)の互いに異なる位置にて2つの第1誤差(Z軸テーブル9ZのX方向の誤差)を同時に検出してよい。コントローラ5は、上記2つの第1誤差から特定される第3方向(Y方向)に平行な軸の回りの回転誤差(図4のZRotY、図7のαy)に基づいて、回転誤差に起因するワーク103と工具101との第2方向(X方向)における相対位置の誤差(図7のdLy)をX軸テーブル9Xの平行移動によって低減するようにX軸電動機23Xを制御してよい。
【0169】
この場合、例えば、2次元スケールによって簡便に回転誤差を検出することができる。また、上記の回転誤差を、Z軸テーブル9Zの横方向における変位の誤差に換算して、X軸電動機23Xの制御によって補償することができる。換言すれば、回転誤差自体を低減するのではなく、回転誤差に起因する直線誤差を補償する。従って、例えば、比較的簡素な構成によってZ軸テーブル9Zの移動に係る真直度を向上させることができる。
【0170】
別の観点では、加工機1は、支持部(X軸ベッド19Xの-Z側への延長部分)と、固定部(Z軸ベッド19Z)と、第1可動部(Z軸テーブル9Z)と、スケール配置部(Z軸スケール配置部21Z)と、2次元スケール(Z軸センサ25Z)と、を有している。X軸ベッド19Xの延長部分は、第1方向(Z方向)及び第2方向(X方向)に直交する第3方向(Y方向)に面している第1面(上面)を有している。Z軸ベッド19Zは、X軸ベッド19Xの延長部分の上面に支持されている。Z軸テーブル9Zは、リニアガイド(Z軸ガイド17Z)を介してZ軸ベッド19Zに支持されており、Z軸ガイド17ZによってZ軸ベッド19Zに対してZ方向に案内され、ワーク103又は工具101(図1の例ではワーク103)を支持する。Z軸スケール配置部21Zは、X軸ベッド19Xの延長部分の上面に支持されているとともにZ軸ベッド19Zから離れている。Z軸センサ25Zは、Z軸テーブル9ZのZ方向における第1変位と、Z軸テーブル9ZのX方向の変位である第1誤差とに応じた信号を出力する。また、Z軸センサ25Zは、スケール部27と、検出部29とを有している。スケール部27は、Z軸スケール配置部21Zに固定されている。検出部29は、Z軸テーブル9Zに固定されており、スケール部27との相対移動に応じて信号を出力する。Z軸スケール配置部21Zは、X軸ベッド19Xの延長部分の上面から当該上面が面している側(+Y側)へZ軸ガイド17Zの位置を超える高さを有している。スケール部27は、Z軸ガイド17Zよりも+Y側に位置している。
【0171】
この場合、例えば、既述のとおり、Z軸センサ25Zを仮想平面VPに近づけることができるとともに、Z軸テーブル9Zの移動に伴ってスケール部27が変形する蓋然性が低減される。なお、上記のような観点で実施形態の特徴を抽出した場合、例えば、Z軸テーブル9Zは、Y方向においてワーク回転軸AWと一定の位置関係を有していなくてもよい。
【0172】
加工システム91は、上記のような加工機1と、診断装置93とを有する。診断装置93は、加工機1から前記第1誤差(Z軸テーブル9ZのX方向の誤差)の検出値の情報を取得し、取得した情報に応じた画像を表示する。
【0173】
この場合、例えば、加工機1の制御のための情報を利用して、Z軸ガイド17Zの案内面の状態を管理することができる。換言すれば、Z軸ガイド17Zの案内面の状態を測定する特別な測定システムを追加する必要がない。また、加工中にリアルタイムで案内面の状態を管理することができる。その結果、例えば、案内面が経年劣化又は破損を生じた状態での加工(不良品の製造)を継続してしまう蓋然性が安価に低減される。
【0174】
また、被加工物の製造方法は、上記のような加工機1を用いて、ワーク103と工具101とを接触させてワーク103を被加工物に加工する加工ステップを有する。
【0175】
この場合、例えば、真直度が加工精度に及ぼす影響を低減する効果によって、形状の精度が高い被加工物を得ることができる。
【0176】
上記加工ステップにおいて、工具101がワーク103に接する加工点(Pp参照)を含み、第1方向(Z方向)及び第2方向(X方向)に平行な第2仮想平面(仮想平面VP)を仮定したときに、第2仮想平面から2次元スケール(Z軸センサ25Z)までの距離が、第2仮想平面からリニアガイド(Z軸ガイド17Z)までの距離の1/3以下であってよい。
【0177】
すなわち、実施形態の説明では、主として、仮想平面VPとして主軸の回転軸(Z軸テーブル9Zに関してはワーク回転軸AW)を含むものを想定したが、加工ステップにおいては、実際の加工点を含む仮想平面VPが想定されてよい。これにより、Z軸センサ25Zの誤差が加工に及ぼす影響をより正確に検出することができる。
【0178】
<第B章 第2実施形態>
(7.第2実施形態の全体構成)
第2実施形態の説明では、基本的に、第1実施形態との相違点についてのみ述べる。特に言及が無い事項については、第1実施形態と同様とされたり、第1実施形態から類推されたりしてよい。
【0179】
図8は、第2実施形態に係る加工機201の制御系に係るブロック図である。この図は、図4に対応している。ただし、センサ(225X、225Y及び225Z)からコントローラ5への信号経路の図示は、図4よりも簡略化されている。
【0180】
第2実施形態は、端的に言えば、検出する誤差を第1実施形態よりも多くした態様である。より詳細には、各入力処理部(31X、31Y又は31Z)の出力(XPosX等)から理解されるように、1つの可動部(1つの軸)につき、3方向の平行移動及び3軸回りの回転誤差の合計で6つの検出値(そのうち5つが誤差)が取得されている。なお、入力処理部が出力する6つの検出値の意味については第1実施形態の説明において既に述べた。
【0181】
加工機201では、検出値の種類の増加に伴って、加工機1よりも補正部の数が増加している。具体的には、補正部32Yx、32Xy及び32Zyが追加されている。補正部32Yxは、サドル13(Y軸テーブル)に係る回転誤差をX方向の誤差に変換する。補正部32Xyは、X軸テーブル9Xに係る回転誤差をY方向の誤差に変換する。補正部32Zyは、Z軸テーブル9Zに係る回転誤差をY方向の誤差に変換する。
【0182】
また、加工機201では、検出値の種類の増加に伴って、各補正部が処理する回転誤差も増えている。具体的には、1つの補正部は、第1実施形態では1つの回転誤差を1つの直線誤差に変換したが、第2実施形態では3つの回転誤差を1つの直線誤差に変換している。その算出方法は、例えば、3つの回転誤差を互いに別々に3つの直線誤差に変換し、3つの直線誤差を足し合わせるものであってよい。1つの回転誤差を1つの直線誤差に変換する方法は、第1実施形態の説明で述べた。
【0183】
また、加工機201では、いずれの制御部(33X、33Y又は33Z)に入力される変位も、2つの方向の誤差が加算(減算を含む広義)されたものとなっている。これについては、図5の説明等を参照されたい。
【0184】
(8.スケール)
3つの変位及び3つの回転誤差を検出するセンサ(225X、225Y又は225Z)の構成は任意である。以下に例を示す。
【0185】
図9は、X軸テーブル9Xの変位及び回転誤差を検出するX軸センサ225Xの構成を示す斜視図である。
【0186】
X軸センサ225Xは、第1実施形態のX軸センサ25X(2次元スケール)に加えて、X軸センサ25Xに対して並列に延びるX軸補助スケール26Xを有している。X軸補助スケール26Xは、概略、X軸センサ25Xのうち2つの検出部(29a)を有している側の半分と同様の構成とされている。すなわち、X軸補助スケール26Xは、A相スケール部27aと同様の構成のスケール部27Aと、2つのA相検出部29aと同様の構成の2つのC相検出部29c(両者全体を検出部29Aとする。)と、を有している。
【0187】
なお、後述の説明から理解されるように、スケール部27Aのパターンの向きは、B相スケール部27bと同様とすることもできる。また、2つのC相検出部29cのX方向の位置及び距離d(図3)等は、2つのA相検出部29aの位置及び距離等と同じであってもよいし(図示の例)、異なっていてもよい。いずれにせよ、X軸センサ25XのA相に係る説明は、X軸補助スケール26Xに援用されてよい。
【0188】
そして、X軸センサ25Xと、X軸補助スケール26Xとは、幅方向を互いに直交させるように配置されている。例えば、X軸センサ25Xは、第1実施形態と同様の向きで配置されており、X軸補助スケール26Xは、Y方向を幅方向として配置されている。なお、両者は、互いに隣接していてもよいし、多少離れていてもよい。図9では、スケール部27Aは、スケール部27に対してB相スケール部27bの側に位置しているが、A相スケール部27aの側に位置していてもよい。
【0189】
A相及びB相と同様に、C相検出部29cによってスケール部27Aのパターン27cに直交する方向の変位が検出される。当該変位をdCとし、パターン27cに直交する方向のX軸に対する傾斜角をθとし、変位dCのX方向成分をx1とし、変位dCのY方向成分をy1とする。このとき、(1)式(又は(2)式)と同様に、以下の式が成り立つ。
dC=x1×cosθ+y1×sinθ (7)
【0190】
ここで、x1は(3)式から求められ、θは既知である。従って、下記式によってy1を算出することができる。
y1=(dC-x1×cosθ)/sinθ (8)
【0191】
Z軸回りの回転誤差(図示の例ではピッチに係る誤差)は、Y軸回りの回転誤差(図示の例ではヨーに係る回転誤差)と同様に算出可能である。すなわち、既述の(5)式において、zをyに置換し、AをCに置換すればよい。
【0192】
X軸回りの回転誤差(図示の例ではロールに係る誤差)は、例えば、Y軸回りの回転誤差の算出方法を応用することによって算出できる。具体的には、YZ平面において、A相検出部29a(又はB相検出部29b)とC相検出部29cとを結ぶ直線と、当該直線に直交する第4方向とを仮定する。z1及びy1それぞれの第4方向の成分をz1r及びy1rとする。A相検出部29aとC相検出部29cとの上記直線上における距離をdとする。このようにすると、(6)式と同様に、arctan((z1r-y1r)/d)によってX軸回りの回転誤差を算出できる。
【0193】
2次元スケールを拡張したセンサ(スケール)は、上記以外にも種々可能である。特に図示しないが、以下に例を挙げる。
【0194】
例えば、各軸において、互いに同一方向に延びるとともに、幅方向を互いに直交させている2つの2次元スケールが設けられてもよい。2次元スケールそれぞれの構成は任意であり、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。なお、2つの2次元スケールのうち一方の半分は補助スケールと捉えられてもよい。
【0195】
また、例えば、補助スケールが、フィッシュボーン型の2次元スケールの半分ではなく、通常の2次元スケールの半分(Y方向に配列された複数のパターンのみを有する構成)とされてもよい。この補助スケールは、フィッシュボーン型の2次元スケールと組み合わされてもよいし、通常の2次元スケールと組み合わされてもよい。なお、図示の例のX軸補助スケール26Xを通常の2次元スケールと組み合わせることも可能である。
【0196】
また、例えば、センサは、2次元スケールと同様又は類似した構成において、パターン27cに応じて生成される信号の強度に基づいてスケール部27と検出部29との距離を特定するものとされてよい。これにより、3次元の検出を行う3次元スケールが実現されてよい。なお、本開示において、特に断りがない限り、また、矛盾等が生じない限り、2次元スケールは、3次元スケールをその一種として含むものとする。
【0197】
図8に戻って、各軸のセンサ(225X、225Y又は225Z)は、図9に例示した構成とされている。ただし、図示の都合上、2次元スケール(25X、25Y又は25Z)と、補助スケール(26X、26Y又は26Z)とは同一平面上に示されている。
【0198】
(9.第2実施形態のまとめ)
第2実施形態に係る加工機201も、第1実施形態に係る加工機1と同様の構成を有している。従って、例えば、うねり等の計測精度を向上させることができる。
【0199】
加工機201は、補助スケール(Z軸補助スケール26Z)を更に有していてよい。Z軸補助スケール26Zは、2次元スケール(Z軸センサ25Z)と並列に第1方向(Z方向)に延びていてよく、Z軸センサ25Zの幅方向の一方側の構成に相当する構成を有していてよく、Z軸センサ25Zの他方側の構成に相当する構成を有していなくてよく、第3方向(Y方向)を幅方向としていてよい。
【0200】
この場合、例えば、2次元スケールと補助スケールとによって、少なくとも3方向の変位を検出できる。また、ロールに係る誤差を検出(算出)することもできる。なお、第2実施形態では、ヨー及びピッチも検出可能であったが、A相及び/又はC相に1つの検出部(29a又は29c)のみが設けられ、ヨー及び/又はピッチが検出不可能であっても構わない。
【0201】
加工機201は、補助スケール(Z軸補助スケール26Z)を更に有していてよい。Z軸補助スケール26Zは、2次元スケール(Z軸センサ25Z)と並列に第1方向(Z方向)に延びていてよく、第1可動部(Z軸テーブル9Z)の第3方向(Y方向)の変位である第2誤差に応じた信号を出力してよい。加工機201(コントローラ5又はZ軸センサ225Z)は、Z軸センサ25Zが検出する第1誤差(Z軸テーブル9ZのX方向の誤差)と、Z軸補助スケール26Zが検出する上記第2誤差とに基づいて第1方向(Z方向)に平行な軸の回りの回転誤差(ロールに係る誤差)を特定してよい。
【0202】
この場合、例えば、2次元スケールを用いてロールに係る誤差を検出できるので、ロールを検出するための他のセンサ(例えばジャイロセンサ又は2つのレーザー測長器)を設ける態様(そのような態様も本開示に係る技術に含まれてよい。)に比較して、検出のための構成が簡素化される。
【0203】
なお、以上の第1及び第2実施形態において、Z方向は第1方向の一例であり、Z軸テーブル9Zは第1可動部の一例である。ただし、X軸テーブル9X及びサドル13それぞれも第1可動部の一例であり、X方向及びY方向それぞれも第1方向の一例である。
【0204】
上記のようにZ軸テーブル9Zが第1可動部の一例であるとしたとき、X方向は第2方向の一例であり、Y方向は第3方向の一例である。X軸テーブル9Xは第2可動部の一例である。Z軸電動機23Zは第1駆動部の一例であり、X軸電動機23Xは第2駆動部の一例である。Z軸ガイド17Zはリニアガイドの一例である。Z軸センサ25Z及び225Zはそれぞれ2次元スケールの一例である。ワーク主軸15Wは主軸の一例であり、ワーク回転軸AWは第1回転軸の一例である。X軸ベッド19Xの延長部分は支持部の一例であり、Z軸ベッド19Zは固定部の一例であり、Z軸スケール配置部21Zはスケール配置部の一例である。
【0205】
X軸テーブル9X、サドル13又はZ軸テーブル9Zが第1可動部の一例であるとしたとき、工具主軸15Tも主軸の一例となり得る。また、X軸テーブル9Xが第1可動部の一例であるとしたとき、基台7は支持部の一例であり、X軸ベッド19Xは固定部の一例である。
【0206】
本開示に係る技術は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0207】
実施形態の説明でも述べたように、加工機は、図1に例示した構成のものに限定されない。例えば、加工機は、超精密非球面加工機のような特殊な工作機械に限定されず、一般的な工作機械であってもよい。また、加工機は、工作機械に限定されず、例えば、ロボットであってもよい。別の観点では、移動に関する指令の情報を含むプログラムは、NCプログラムに限定されず、ティーチングによって生成されたものであってもよい。
【0208】
また、加工機は、研削及び/又は研磨を行うものに限定されず、例えば、切削又は放電加工を行うものであってもよいし、上述した種々の加工の2以上を行うことができるものであってもよい。加工は、回転しているワークに回転していない工具を接触させるもの(例えば旋削)であってもよいし、回転していないワークに回転している工具を接触させるもの(例えば転削)であってもよいし、ワーク及び工具のいずれも回転していないものであってもよい。
【0209】
加工機が有している可動部の数(駆動される軸の数)は任意である。例えば、加工機は、平行移動に関して3つの軸を有していなくてもよいし、逆に、4つ以上の軸を有していてもよい。
【0210】
加工機が有している複数の軸のうち、2次元スケールによって変位が検出される軸の数は任意である。また、2次元スケールによって変位が検出される1つの軸において、5種類の誤差(2方向の直線誤差及び3軸回りの回転誤差)のうち、検出される誤差の数も任意である。例えば、2次元スケールが設けられる軸は1つであっても構わない。2次元スケールが設けられる軸の数及び検出される誤差の数の合計は、第1実施形態と第2実施形態との中間であっても構わない。4軸以上の加工機においては、第2実施形態よりも多くの誤差が検出されても構わない。
【0211】
2次元スケールによって検出される誤差は、リアルタイムの補正に利用されなくてもよい。例えば、試運転又は先のサイクルにおいて検出された誤差が、NCプログラムの補正に利用されたり、解釈部39又は補間部41によるサイクル毎の補正に利用されたりしてもよい。又は、誤差は、実施形態で述べた診断装置によって利用されるだけであってもよい。
【0212】
本開示からは、2次元スケールを仮想平面に近づけるという要件を必須としない種々の新たな技術的思想を抽出可能であり、また、2次元スケールを特定のスケール配置部に配置するという要件を必須としない種々の新たな技術的思想を抽出可能である。例えば、図5からは、他の軸(X軸及び/又はY軸)の速度の誤差を対象の軸(Z軸)の速度フィードバックに組み込むという新たな技術思想を抽出できる。この技術思想は、実施形態とは異なり、2次元スケールがベッドとテーブルとに直接に配置された構成に適用されても構わない。
【符号の説明】
【0213】
1…加工機、5…コントローラ、9X…X軸テーブル(第2可動部)、9Z…Z軸テーブル(第1可動部)、15W…ワーク主軸(主軸)、17Z…Z軸ガイド(リニアガイド)、25Z…Z軸センサ(2次元スケール)、101…工具、103…ワーク、AW…ワーク回転軸(第1回転軸)、VP…仮想平面。
【要約】
【課題】2次元スケールによる検出の精度を向上させる。
【解決手段】加工機1において、Z軸テーブル9Zは、ワーク103を支持する。Z軸ガイド17Zは、Z軸テーブル9ZをZ方向に案内する。Z軸センサ25Zは、Z軸テーブル9ZのZ方向における第1変位と、Z軸テーブル9ZのX方向の変位である第1誤差とに応じた信号を出力する。ワーク主軸15Wは、Y方向においてZ軸ガイド17Zと一定の位置関係を有している。また、ワーク主軸15Wは、ワーク103をZ方向又はX方向に平行なワーク回転軸AW回りに回転させる。ワーク回転軸AWを含むとともにX方向及びZ方向に平行な仮想平面VPを仮定したときに、仮想平面VPからZ軸センサ25Zまでの距離が、仮想平面VPからZ軸ガイド17Zまでの距離hrの1/3未満である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9