(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-06
(45)【発行日】2025-02-17
(54)【発明の名称】ヒーターエレメント、ヒーターユニット及び車室暖房用ヒーターシステム
(51)【国際特許分類】
H05B 3/03 20060101AFI20250207BHJP
H05B 3/14 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
H05B3/03 ZHV
H05B3/14 A
(21)【出願番号】P 2023529578
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013315
(87)【国際公開番号】W WO2022270070
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2021104974
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】桝田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】中島 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩文
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 徹
(72)【発明者】
【氏名】葛谷 晃司
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-026903(JP,U)
【文献】特開2003-098135(JP,A)
【文献】特開昭61-024186(JP,A)
【文献】国際公開第2020/036067(WO,A1)
【文献】実開昭51-027460(JP,U)
【文献】実開平02-014687(JP,U)
【文献】特開2013-093302(JP,A)
【文献】実開昭60-078976(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/03
H05B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有し、前記外周壁及び前記隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、
前記第1端面及び前記第2端面の前記外周壁及び前記隔壁に設けられた一対の電極層と、
前記電極層と導線とを電気的に接続可能な端子と
を備え、
前記電極層の少なくとも一部は、前記第1端面及び前記第2端面の外縁よりも外側に延出した延出部を有し、
前記端子は、前記延出部に接続され
、前記ハニカム構造体の側面
に沿って且つ前記側面と対向するように配置されているヒーターエレメント。
【請求項2】
前記ハニカム構造体の側面と前記端子との間に設けられた絶縁部を更に備える、請求項1に記載のヒーターエレメント。
【請求項3】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁と、前記第1端面及び前記第2端面の外縁領域の少なくとも一部
において前記第1端面及び前記第2端面の両方の前記セルが目封止された目封止部とを有し、前記外周壁及び前記隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、
前記第1端面及び前記第2端面の前記外周壁、前記隔壁及び前記目封止部に設けられた一対の電極層と、
前記電極層と導線とを電気的に接続可能な端子と、
を備え、
前記端子は、前記ハニカム構造体の流路方向において前記目封止部と対向する位置に設けられているヒーターエレメント。
【請求項4】
前記目封止部は、熱膨張率が8~15ppm/Kの材料で構成されている、請求項3に記載のヒーターエレメント。
【請求項5】
前記目封止部は、PTC特性を有する材料で構成されている、請求項3に記載のヒーターエレメント。
【請求項6】
前記電極層が二層構造を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のヒーターエレメント。
【請求項7】
前記ハニカム構造体は、前記隔壁の厚さが0.125mm以下、セル密度が93セル/cm
2以下、セルピッチが1.0mm以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のヒーターエレメント。
【請求項8】
前記ハニカム構造体は、前記隔壁の厚さが0.14~0.36mm、セル密度が2.54~46.5セル/cm
2、セルの開口率が80%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のヒーターエレメント。
【請求項9】
前記ハニカム構造体の25℃における体積抵抗率が0.5~200Ω・cmである、請求項1~8のいずれか一項に記載のヒーターエレメント。
【請求項10】
前記PTC特性を有する材料は、チタン酸バリウムを主成分とし、鉛を実質的に含まない材料である、請求項1~9のいずれか一項に記載のヒーターエレメント。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のヒーターエレメントを2個以上含むヒーターユニット。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のヒーターエレメント、又は前記ヒーターエレメントを2個以上含むヒーターユニットと、
外気導入部又は車室と前記ヒーターエレメント又は前記ヒーターユニットの流入口とを連通する流入配管と、
前記ヒーターエレメント又は前記ヒーターユニットに電圧を印加するためのバッテリーと、
前記ヒーターエレメント又は前記ヒーターユニットの流出口と前記車室とを連通する流出配管と
を備える車室暖房用ヒーターシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒーターエレメント、ヒーターユニット及び車室暖房用ヒーターシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の車室暖房用ヒーターシステムとして、蒸気圧縮ヒートポンプを主たるヒーターとして使用しつつ、車両始動時の急速加熱が必要なときや外気温が非常に低い時に、ジュール熱を利用したヒーターを補助的に使用するヒーターシステムが採用されてきた。
このヒーターシステムで用いられるジュール熱を利用したヒーターとして、特許文献1には、PTC素子をアルミニウムフィンと一体化したヒーターエレメントが積層配列されたヒーターユニットが提案されている。
しかしながら、このヒーターエレメントは、PTC素子及びアルミニウムフィン以外にも絶縁板や導電板などの多くの部品を備えているため、複雑な構造を有するとともに、組立コストがかかり、高価であるという課題がある。
【0003】
そこで、特許文献2には、コンパクトで体積当たりの熱伝達面積を大きくすることが可能なハニカム構造体を用いたヒーターエレメントが提案されている。このハニカム構造体を用いたヒーターエレメントは、上述のヒーターエレメントに比べて単純な構造であるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-157528号公報
【文献】国際公開第2020/036067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載のヒーターエレメントは、外周壁と、外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体を備え、ハニカム構造体の両端面に一対の電極が、電極材料の塗布・焼き付けによって形成されている。一対の電極において、外部電源に接続された導電線との電気接続法としては、一対の電極と接するリング状の導電部材を介して導電線と間接的に接合すること、又は一対の電極に導電線を直接的に接合することが挙げられる。リング状の導電部材を用いるのは、導電線と一対の電極との間の接触面積を増加させることで電気抵抗を下げるためである。他方、一対の電極に導電線を直接的に接合する方法は、導通面積が小さく十分な通電性を維持することに関して信頼性が乏しい。また、リング状の導電部材は、ハニカム構造体の外周壁とともに外周壁に隣接するセルも塞ぐように接合されている。したがって、このリングの導電部材を備えるヒーターエレメントは、空気の流路が少なく、圧力損失が増大する。その結果、ハニカム構造体のセルを通過する空気の流速が増加するので隔壁から空気への熱伝達が不十分になり、暖房性能が低下する。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、圧力損失の増大を抑制し、暖房性能が高いヒーターエレメント、ヒーターユニット及び車室暖房用ヒーターシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、以下の本発明によって解決されるものであり、本発明は以下の通りである。
【0008】
本発明は、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有し、前記外周壁及び前記隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、
前記第1端面及び前記第2端面の前記外周壁及び前記隔壁に設けられた一対の電極層と、
前記電極層と導線とを電気的に接続可能な端子と
を備え、
前記電極層の少なくとも一部は、前記第1端面及び前記第2端面の外縁よりも外側に延出した延出部を有し、
前記端子は、前記延出部に接続され、前記ハニカム構造体の側面に沿って且つ前記側面と対向するように配置されているヒーターエレメントである。
【0009】
また、本発明は、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁と、前記第1端面及び前記第2端面の外縁領域の少なくとも一部において前記第1端面及び前記第2端面の両方の前記セルが目封止された目封止部とを有し、前記外周壁及び前記隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、
前記第1端面及び前記第2端面の前記外周壁、前記隔壁及び前記目封止部に設けられた一対の電極層と、
前記電極層と導線とを電気的に接続可能な端子と、
を備え、
前記端子は、前記ハニカム構造体の流路方向において前記目封止部と対向する位置に設けられているヒーターエレメントである。
【0010】
また、本発明は、前記ヒーターエレメントを2個以上含むヒーターユニットである。
【0011】
さらに、本発明は、前記ヒーターエレメント、又は前記ヒーターエレメントを2個以上含むヒーターユニットと、
外気導入部又は車室と前記ヒーターエレメント又は前記ヒーターユニットの流入口とを連通する流入配管と、
前記ヒーターエレメント又は前記ヒーターユニットに電圧を印加するためのバッテリーと、
前記ヒーターエレメント又は前記ヒーターユニットの流出口と前記車室とを連通する流出配管と
を備える車室暖房用ヒーターシステムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧力損失の増大を抑制し、暖房性能が高いヒーターエレメント、ヒーターユニット及び車室暖房用ヒーターシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態1に係るヒーターエレメントの端面の模式図である。
【
図2】ハニカム構造体の流路方向に平行な
図1のヒーターエレメントの断面の模式図である。
【
図3】ハニカム構造体の流路方向に平行な、本発明の実施形態1に係る別のヒーターエレメントの断面の模式図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係るヒーターシステムの構成例を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態2に係るヒーターエレメントの端面の模式図である。
【
図6】ハニカム構造体の流路方向に平行な
図5のヒーターエレメントの断面の模式図である。
【
図7】ハニカム構造体の流路方向に平行な、本発明の実施形態2に係る別のヒーターエレメントの断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0015】
<実施形態1>
(1.ヒーターエレメント)
本発明の実施形態1に係るヒーターエレメントは、車両の車室暖房用のヒーターエレメントとして好適に利用可能である。車両としては、特に限定されないが、自動車及び電車が挙げられる。自動車としては、特に限定されないが、ガソリン車、ディーゼル車、CNG(圧縮天然ガス)やLNG(液化天然ガス)などを用いるガス燃料車、燃料電池自動車、電気自動車及びプラグインハイブリッド自動車が挙げられる。本発明の実施形態1に係るヒーターエレメントは、特に電気自動車及び電車のような内燃機関を持たない車両に好適に利用可能である。
【0016】
図1は、本発明の実施形態1に係るヒーターエレメントの端面の模式図である。
図2は、ハニカム構造体の流路方向に平行な
図1のヒーターエレメントの断面の模式図である。
図1及び2に示されるように、本発明の実施形態1に係るヒーターエレメント100は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第1端面13aから第2端面13bまで延びる流路となる複数のセル14を区画形成する隔壁12とを有するハニカム構造体10と、第1端面13a及び第2端面13bの外周壁11及び隔壁12に設けられた一対の電極層20と、電極層20と導線とを電気的に接続可能な端子30とを備える。外周壁11及び隔壁12は、PTC(Positive Temperature Coefficient)特性を有する材料で構成されている。電極層20の少なくとも一部は、第1端面13a及び第2端面13bの外縁よりも外側に延出した延出部22を有する。端子30は、延出部22に接続され、且つハニカム構造体10の側面と対向するように配置されている。このようにして端子30を接続及び配置することにより、セル14を塞ぐことなく、電極層20と端子30との接触面積を増大させることができ、外部からの給電量を高め易くなるため、暖房性能を向上させることができる。
以下、ヒーターエレメント100の各構成部材について詳細に説明する。
【0017】
(1-1.ハニカム構造体10)
ハニカム構造体10の形状は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第1端面13aから第2端面13bまで延びる流路となる複数のセル14を区画形成する隔壁12とを有していれば特に限定されない。ハニカム構造体10の形状としては、例えば、流路方向(セル14が延びる方向)に直交する断面(外形)を、多角形(四角形(長方形、正方形)、五角形、六角形、七角形、八角形など)、円形、オーバル形状(卵形、楕円形、長円形、角丸長方形など)などにすることができる。なお、端面(第1端面13a及び第2端面13b)は、当該断面と同一の形状である。また、断面及び端面が多角形の場合、角部は面取りしてもよい。
【0018】
セル14の形状は、特に限定されないが、流路方向に直交する断面において、多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形など)、円形、オーバル形状にすることができる。これらの形状は、単独又は二種以上を組み合わせてもよい。また、これらの形状の中でも四角形又は六角形が好ましい。このような形状のセル14を設けることにより、空気が流通する際の圧力損失を小さくすることができる。なお、
図1及び2は、流路方向に直交する断面において、断面(外径)及びセル14の形状が四角形であるハニカム構造体10を一例として示している。
【0019】
ハニカム構造体10は、複数のハニカムセグメントと、複数のハニカムセグメントの間を接合する接合層とを有するハニカム接合体であってもよい。ハニカム接合体を用いることにより、クラックの発生を抑えながら空気の流量確保に重要なセル14の総断面積を増やすことが可能となる。
なお、接合層は、接合材を用いて形成することができる。接合材としては、特に限定されないが、セラミックス材料に、水などの溶媒を加えてペースト状にしたものを用いることができる。接合材は、PTC特性を有するセラミックスを含有してもよく、外周壁11及び隔壁12と同一のセラミックスを含有してもよい。接合材は、ハニカムセグメント同士を接合する役割に加えて、ハニカムセグメントを接合した後の外周コート材として用いることも可能である。
【0020】
ハニカム構造体10を構成する外周壁11及び隔壁12は、PTC特性を有する材料で構成されている。
PTC特性を有する材料は、通電によって発熱可能な材料である。そのため、車室の空気が第1端面13aから流入し、複数のセル14を通過して第2端面13bから流出するまでに、発熱する外周壁11及び隔壁12からの伝熱によって当該空気を加熱することが可能である。また、PTC特性を有する材料は、温度が上昇してキュリー点を超えると、急激に抵抗値が上昇して電気が流れ難くなるという特性を有する。そのため、隔壁12(必要に応じて外周壁11)は、ヒーターエレメント100が高温になったときに、これらに流れる電流が制限されるので、ヒーターエレメント100の過剰な発熱が抑制される。
【0021】
PTC特性を有する材料としては、特に限定されないが、チタン酸バリウム(BaTiO3)を主成分とする材料であることが好ましく、Baの一部が希土類元素で置換されたチタン酸バリウム(BaTiO3)系結晶粒子を主成分とする材料で構成されるセラミックスであることがより好ましい。なお、本明細書において「主成分」とは、成分全体に占める割合が50質量%を超える成分のことを意味する。BaTiO3系結晶粒子の含有量は、例えば、蛍光X線分析、EDAX(エネルギー分散型X線)分析などにより求めることができる。その他の結晶粒子についても、この方法と同様にして測定することができる。また、チタン酸バリウム(BaTiO3)を主成分とする材料の熱膨張率は8~15ppm/Kである。ここで、熱膨張率とは、JIS R1618:2002「ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法」によって測定された熱膨張率を意味する。
【0022】
Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子の組成式は、(Ba1-xAx)TiO3で表すことができる。組成式中、Aは一種以上の希土類元素を表し、0.001≦x≦0.010である。
Aは、希土類元素であれば特に限定されないが、好ましくはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Eu、Gd、Dy、Ho、Er及びYbからなる群から選択される一種以上であり、より好ましくはLaである。xは、室温における電気抵抗が高くなり過ぎることを抑制する観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.0015以上、更に好ましくは0.002以上である。一方、xは、焼結不足となって室温における電気抵抗が高くなりすぎることを抑制する観点から、好ましくは0.010以下、より好ましくは0.009以下、更に好ましくは0.008以下である。
【0023】
Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子は、(Ba+希土類元素)/Ti比が、好ましくは1.005~1.050である。このような範囲に(Ba+希土類元素)/Ti比を制御することにより、室温における電気抵抗を安定して低下させることができる。Ba、希土類元素及びTiの元素比は、例えば、蛍光X線分析、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)などにより求めることができる。
【0024】
Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子は、平均結晶粒径が、好ましくは5~200μm、より好ましくは5~180μm、更に好ましくは5~160μmである。このような範囲に平均結晶粒径を制御することにより、室温における電気抵抗を安定して低下させることができる。
このBaTiO3系結晶粒子の平均結晶粒径は、次のようにして測定することができる。セラミックスから、5mm×5mm×5mmの角状試料を切り出し、樹脂で包埋する。包埋した試料を機械研磨により鏡面研磨してSEM観察する。SEM観察は、例えば株式会社日立ハイテク製の型式S-3400Nを使用し、加速電圧15kV、倍率3000で行う。SEM観察像(縦30μm×横45μm)において、視野の縦方向全体にまたがる太さ0.3μmの直線を10μmの間隔で4本引き、この直線が一部でも通過するBaTiO3系結晶粒子の数を数える。直線の長さをBaTiO3系結晶粒子の数で割ったものの4カ所以上のSEM観察像の平均を平均結晶粒径とする。
【0025】
Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子のセラミックスにおける含有量は、主成分となる量であれば特に限定されないが、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、より好ましくは94質量%以上である。なお、BaTiO3系結晶粒子の含有量の上限値は、特に限定されないが、一般的に99質量%、好ましくは98質量%である。
このBaTiO3系結晶粒子の含有量は、例えば、蛍光X線分析、EDAX(エネルギー分散型X線)分析によって測定することができる。その他の結晶粒子についても、この方法と同様にして測定することができる。
【0026】
外周壁11及び隔壁12に用いられるセラミックスは、Ba6Ti17O40結晶粒子を含むことが好ましい。セラミックスにおいてBa6Ti17O40結晶粒子を存在させることにより、室温における電気抵抗を低下させることができる。理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、Ba6Ti17O40結晶粒子は、焼成過程で液相化してBaTiO3系結晶粒子の再配列、粒成長及び緻密化を促進させるため、室温における電気抵抗が低下するものと考えられる。
【0027】
セラミックスにおけるBa6Ti17O40結晶粒子の含有量は、1.0~10.0質量%、好ましくは1.2~8.0質量%、より好ましくは1.5~6.0質量%である。Ba6Ti17O40結晶粒子を1.0質量%以上とすることにより、Ba6Ti17O40結晶粒子の存在による効果(すなわち、室温における電気抵抗を低下させる効果)を得ることができる。また、Ba6Ti17O40結晶粒子を10.0質量%以下とすることにより、PTC特性を確保することができる。
【0028】
外周壁11及び隔壁12に用いられるセラミックスは、BaCO3結晶粒子を更に含むことができる。BaCO3結晶粒子は、セラミックスの原料であるBaCO3粉末に由来する結晶粒子である。
BaCO3結晶粒子は、セラミックスの室温における電気抵抗にはほとんど影響しないため、セラミックスに含まれていなくてもよい。ただし、セラミックスにおけるBaCO3結晶粒子の含有量が多すぎると、室温における電気抵抗に影響する可能性がある上、他の結晶粒子が少なくなって所望の特性が得られない可能性がある。そのため、BaCO3結晶粒子の含有量は、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下である。なお、BaCO3結晶粒子の含有量の下限値は、特に限定されないが、一般的に0.1質量%、好ましくは0.2質量%である。
【0029】
外周壁11及び隔壁12に用いられるセラミックスは、上記の結晶粒子に加えて、PTC特性を有する材料に慣用的に添加されている成分を更に含んでいてもよい。このような成分としては、シフター、特性改善剤、金属酸化物及び導電体粉末などの添加剤の他、不可避的不純物が挙げられる。
【0030】
外周壁11及び隔壁12に用いられるセラミックスは、環境負荷を軽減するという観点から、鉛(Pb)を実質的に含まないことが望ましい。具体的には、セラミックスは、Pb含有量が、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下、更に好ましくは0質量%である。Pb含有量が少ないことにより、例えば、セラミックスに接触させることで加温した空気をヒトなどの生物に安全に当てることができる。なお、セラミックスにおいて、Pb含有量は、PbOに換算すると、好ましくは0.03質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0質量%である。鉛の含有量は、例えば、蛍光X線分析、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)などにより求めることができる。
【0031】
外周壁11及び隔壁12に用いられるセラミックスは、室温における電気抵抗に影響を与える可能性があるアルカリ金属を実質的に含まないことが好ましい。具体的には、セラミックスは、アルカリ金属の含有量が、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下、更に好ましくは0質量%である。このような範囲にアルカリ金属の含有量を制御することにより、室温における電気抵抗を安定して低下させることができる。アルカリ金属の含有量は、例えば、蛍光X線分析、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)などにより求めることができる。
【0032】
外周壁11及び隔壁12を構成する材料のキュリー点は、空気を効率良く加熱する観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは125℃以上である。また、キュリー点の上限値については、車室又は車室近傍に置かれる部品としての安全性の観点から、好ましくは250℃、より好ましくは225℃、更に好ましくは200℃、更により好ましくは150℃である。
【0033】
外周壁11及び隔壁12を構成する材料のキュリー点は、シフターの種類及び添加量によって調整可能である。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のキュリー点は約120℃であるが、Ba及びTiの一部をSr、Sn及びZrの一種以上で置換することにより、キュリー点を低温側にシフトさせることができる。
【0034】
本発明において、キュリー点は以下の方法により測定される。試料を測定用の試料ホルダーに取りつけ、測定槽(例:MINI-SUBZERO MC-810P エスペック株式会社製)内に装着して、10℃から昇温したときの温度変化に対する試料の電気抵抗の変化を、直流抵抗計(例:マルチメーター3478A YHP社製)を用いて測定する。測定により得られた電気抵抗-温度プロットにより、抵抗値が室温(20℃)における抵抗値の2倍になるときの温度をキュリー点とする。
【0035】
ハニカム構造体10は、一態様において、隔壁12の厚さが0.125mm以下、セル密度が93セル/cm2以下、セルピッチが1.0mm以上である。このような範囲に隔壁12の厚さ、セル密度及びセルピッチを制御することにより、空気がセル14を通過する際の圧力損失の増大を抑制することができるため、送風機などの出力を抑制することができる。このような効果を安定して得る観点から、隔壁12の厚さは0.075mm以下、セル密度が62セル/cm2以下、セルピッチが1.3mm以上であることが好ましい。
なお、隔壁12の厚さの下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.02mm、より好ましくは0.05mmである。また、セル密度の下限値も、特に限定されないが、好ましくは10セル/cm2、より好ましくは20セル/cm2である。また、セルピッチの上限値も、特に限定されないが、好ましくは3.0mm、より好ましくは2.0mmである。
ここで、隔壁12の厚さとは、流路方向に直交する断面において、隣接するセル14の重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁12を横切る長さを指す。隔壁12の厚さは、全ての隔壁12の厚さの平均値を指す。また、セル密度とは、ハニカム構造体10の各端面の面積でセル数を除して得られる値である。さらに、セルピッチは、ハニカム構造体10の各端面において、隣接する2つのセル14の重心同士を結ぶ線分の長さを指す。
【0036】
ハニカム構造体10は、別の態様において、隔壁12の厚さが0.14~0.36mm、セル密度が2.54~46.5セル/cm2、セル14の開口率が80%以上である。このような範囲に隔壁12の厚さ、セル密度及びセル14の開口率を制御することにより、圧力損失の増大を抑制しつつ、ハニカム構造体10の強度及び空気との接触面積を増大させることができる。このような効果を安定して得る観点から、隔壁12の厚さが0.15~0.35mm、セル密度が2.80~45.0セル/cm2、セル14の開口率が83%以上であることが好ましい。
なお、セル14の開口率の上限値は、特に限定されないが、好ましくは94%、より好ましくは92%である。
ここで、ハニカム構造体10のセル14の開口率とは、ハニカム構造体10の流路方向に直交する断面において、セル14の面積を、断面全体の面積(外周壁11、隔壁12及びセル14の合計面積)で除して得られた値を百分率で表した値である。
【0037】
ハニカム構造体10は、25℃における体積抵抗率が、好ましくは0.5~200Ω・cmである。このような範囲の体積抵抗率であれば、室温(25℃)における電気抵抗が低いということができる。そして、室温における電気抵抗を低くすることで、暖房に必要な発熱性能を確保することができるとともに、消費電力が大きくなるのを抑制することができる。
なお、ハニカム構造体10の体積抵抗率は、以下のように測定することで得られる。ハニカム構造体10から、30mm×30mm×15mmの寸法の試験片をランダムに2個以上切削加工し採取する。そして、測定温度における電気抵抗を2端子法にて測定し、試験片の形状から体積抵抗率を算出する。全ての試験片の体積抵抗率の平均値を測定温度における測定値とする。
【0038】
ハニカム構造体10の流路方向の長さ及び流路方向に直交する断面積は、要求されるヒーターエレメント100のサイズにあわせて調整すればよく、特に限定されない。例えば、所定の機能を確保しつつコンパクトなヒーターエレメント100に用いられる場合、ハニカム構造体10は、流路方向の長さを2~20mm、流路方向に直交する断面積を10cm2以上とすることができる。なお、流路方向に直交する断面積の上限値は、特に限定されないが、例えば、300cm2である。
【0039】
(1-2.電極層20)
電極層20は、第1端面13a及び第2端面13bの外周壁11及び隔壁12に設けられる。このように設けられた一対の電極層20によって流路方向に電圧を印加することにより、通電してジュール熱によりハニカム構造体10を発熱させることが可能となる。
電極層20は、少なくとも一部が、第1端面13a及び第2端面13bの外縁よりも外側に延出した延出部22を有する。延出部22を設けることにより、電極層20と端子30との接触面積を増大させることができるため、外部からの給電量を高め易くなり、ヒーターエレメント100の暖房性能を向上させることができる。
【0040】
電極層20は、単層構造であっても二層以上の構造であってもよいが、ハニカム構造体10の第1端面13a及び第2端面13bに対する接合性を高めるとともに、端子30から外周壁11及び隔壁12への良好な導電性を維持するために、二層構造であることが好ましい。例えば、ハニカム構造体10の第1端面13a及び第2端面13bに対する接合性が良好な第1電極層21aと、第1電極層21a及び端子30に対する接合性が良好な第2電極層21bとの二層構造とすればよい。二層構造の電極層20の場合、延出部22は、第1電極層21a、第2電極層21b又はそれらの両方に設けることができるが、製造性の観点から、第2電極層21bに設けることが好ましい。
【0041】
電極層20としては、例えば、Cu、Ag、Al、Ni及びSiから選択される少なくとも一種を含有する金属又は合金を使用することができる。また、PTC特性を有する外周壁11及び/又は隔壁12とオーミック接触が可能なオーミック電極層を使用することもできる。オーミック電極層は、例えば、ベース金属としてAu、Ag及びInから選択される少なくとも一種を含有し、ドーパントとしてn型半導体用のNi、Si、Ge、Sn、Se及びTeから選択される少なくとも一種を含有するオーミック電極層を使用することができる。特に、オーミック電極層は、第1電極層21aとして用いるのに適している。
電極層20の構成例としては、第1電極層21aとしてAl-Zn層、第2電極層21bとしてAl層を有する二層構造が挙げられる。
【0042】
電極層20の厚みは、特に限定されず、電極層20の形成方法に応じて適宜設定することができる。電極層20の形成方法としては、スパッタリング、蒸着、電解析出、化学析出のような金属析出法が挙げられる。また、電極ペーストを塗布した後、焼き付ける方法や、溶射によっても電極層20を形成することもできる。さらに、金属又は合金板を接合することによって電極層20としてもよい。
電極層20の厚みは、電極ペーストの焼付けでは5~30μm程度、スパッタリング及び蒸着のような乾式めっきでは100~1000nm程度、溶射では10~100μm程度、電解析出及び化学析出のような湿式めっきでは5~30μm程度とすることが好ましい。また、金属又は合金板の接合では電極層20の厚みを5~100μm程度とすることが好ましい。
【0043】
(1-3.端子30)
端子30は、電極層20と導線とを電気的に接続するための部材である。
端子30は、延出部22に接続され、且つハニカム構造体10の側面と対向するように配置される。このように端子30を接続及び配置することにより、電極層20と端子30との接触面積を増大させることができるため、外部からの給電量を高め易くなり、ヒーターエレメント100の暖房性能を向上させることができる。また、外周壁11付近のセル14の閉塞を避けて、空気の流路を確保可能であるため、圧力損失の増大を抑制することができる。端子30がハニカム構造体10の側面に沿って配置されるため、ヒーターエレメント100をコンパクト化することもできる。
【0044】
端子30の材質としては、特に限定されないが、例えば、金属とすることができる。金属としては、単体金属及び合金などを採用することもできるが、耐食性、電気抵抗率及び線膨張率の観点から、例えば、Cr、Fe、Co、Ni、Cu及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金、リン青銅がより好ましい。
端子30の形状及び大きさは、特に限定されず、電極層20の延出部22の構造などに応じて適宜調整すればよい。例えば、端子30は、
図3に示されるような流路方向に平行な断面がL字型の形状とすることができる。このような形状とすることにより、端子30を導線と接続する際の構造的な自由度が高くなる。
【0045】
端子30と電極層20との接続方法は、電気的に接続されていれば特に限定されず、例えば、拡散接合、機械的な加圧機構、溶接などによって接続することができる。
【0046】
(1-4.絶縁部40)
本発明の実施形態1に係るヒーターエレメント100は、必要に応じて、ハニカム構造体10の側面と端子30との間に絶縁部40を設けてもよい。絶縁部40を設けることにより、ハニカム構造体10の側面からの通電によってハニカム構造体10が不均一に加熱されることを抑制することができる。また、絶縁部40は、ハニカム構造体10の側面に端子30を支持する機能も有する。
【0047】
絶縁部40としては、特に限定されないが、例えば、アルミナやセラミックス、耐熱樹脂などの絶縁材料から形成された皮膜(例えば、印刷塗布による塗工膜)などを用いることができる。
絶縁部40の厚みは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上である。この範囲の厚みであれば、ハニカム構造体10の側面と端子30との間の絶縁性を確保しつつ、ハニカム構造体10の側面に端子30を安定して支持することができる。
【0048】
(1-5.ヒーターエレメント100の製造方法)
次に、本発明の実施形態1に係るヒーターエレメント100を製造する方法について例示的に説明する。
ヒーターエレメント100を構成するハニカム構造体10の材質をセラミックスとする場合、ハニカム構造体10の製造方法は、成形工程及び焼成工程を含む。
成形工程では、BaCO3粉末、TiO2粉末、及び希土類の硝酸塩又は水酸化物の粉末を含むセラミックス原料を含有する坏土を成形し、相対密度が60%以上のハニカム成形体を作製する。
セラミックス原料は、所望する組成となるように各粉末を乾式混合することによって得ることができる。
坏土は、セラミックス原料に、分散媒、バインダ、可塑剤及び分散剤を添加して混錬することによって得ることができる。坏土には、シフター、金属酸化物、特性改善剤、導電体粉末などの添加剤を必要に応じて含有させてもよい。
セラミックス原料以外の成分の配合量は、ハニカム成形体の相対密度が60%となるような量であれば特に限定されない。
【0049】
ここで、本明細書において「ハニカム成形体の相対密度」とは、セラミックス原料全体の真密度に対するハニカム成形体の密度の割合のことを意味する。具体的には、以下の式によって求めることができる。
ハニカム成形体の相対密度(%)=ハニカム成形体の密度(g/cm3)/セラミックス原料全体の真密度(g/cm3)×100
ハニカム成形体の密度は、純水を媒体とするアルキメデス法により測定することができる。また、セラミックス原料全体の真密度は、各原料の質量を合計した値(g)を、各原料の実の体積を合計した値(cm3)で除することによって求めることができる。
【0050】
分散媒としては、水、又は水とアルコールなどの有機溶媒との混合溶媒などを挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0051】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどの有機バインダを例示することができる。特に、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルセルロースを併用することが好適である。バインダは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよいが、アルカリ金属元素を含有していないことが好ましい。
【0052】
可塑剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリカルボン酸系高分子、アルキルリン酸エステルなどを例示することができる。
【0053】
分散剤には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコールなどの界面活性剤を用いることができる。分散剤は、一種を単独で使用するものであっても、二種以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0054】
ハニカム成形体は、坏土を押出成形することによって作製することができる。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度などを有する口金を用いることができる。
【0055】
押出成形によって得られるハニカム成形体の相対密度は、60%以上、好ましくは61%以上である。このような範囲にハニカム成形体の相対密度を制御することにより、ハニカム成形体を緻密化し、室温における電気抵抗を低下させることが可能となる。なお、ハニカム成形体の相対密度の上限値は、特に限定されないが、一般に80%、好ましくは75%である。
【0056】
ハニカム成形体は、焼成工程の前に乾燥させることができる。乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの従来公知の乾燥方法を用いることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0057】
焼成工程は、1150~1250℃で保持した後、20~500℃/時の昇温速度で1360~1430℃の最高温度に昇温させて0.5~5時間保持すること含む。
ハニカム成形体を1360~1430℃の最高温度で0.5~5時間保持することにより、Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子を主成分とするハニカム構造体10を得ることができる。
また、1150~1250℃で保持することにより、焼成過程で生成するBa2TiO4結晶粒子が除去され易くなるため、ハニカム構造体10を緻密化させることができる。
さらに、1150~1250℃から1360~1430℃の最高温度までの昇温速度を20~500℃/時とすることにより、1.0~10.0質量%のBa6Ti17O40結晶粒子をハニカム構造体10に生成させることができる。
【0058】
1150~1250℃での保持時間は、特に限定されないが、好ましくは0.5~5時間である。このような保持時間とすることにより、焼成過程で生成するBa2TiO4結晶粒子が安定して除去され易くなる。
【0059】
焼成工程は、900~950℃で0.5~5時間保持することを含むことが好ましい。900~950℃で0.5~5時間保持することにより、BaCO3が効率良く分解し、所定の組成を有するハニカム構造体10が得られ易くなる。
【0060】
なお、焼成工程の前には、バインダを除去するための脱脂工程を行ってもよい。脱脂工程の雰囲気は、有機成分を完全に分解するために大気雰囲気とすることが好ましい。
また、焼成工程の雰囲気も、電気特性の制御と製造コストの観点から大気雰囲気とすることが好ましい。
焼成工程や脱脂工程に用いられる焼成炉としては、特に限定されないが、電気炉、ガス炉などを用いることができる。
【0061】
このようにして得られたハニカム構造体10の第1端面13a及び第2端面13bの外周壁11及び隔壁12に電極層20を形成する。電極層20は上述の方法によって形成することができる。
次に、ハニカム構造体10の側面と端子30との間に絶縁部40を設ける場合、ハニカム構造体10の側面に絶縁材料を塗布等して絶縁部40を形成する。
次に、端子30を所定の位置に配置し、電極層20に端子30を接続する。電極層20と端子30との接続方法としては、上述の方法を用いることができる。なお、端子30は、ハニカム構造体10の側面より外側へ延出させてもよい。この場合、端子30を複数の金属部品で構成して接合してもよい。また、複数の金属部品間の接続は、ろう付けでも、溶接でも、バネ接点式などのその他の機械的接続でもよい。
【0062】
(1-6.ヒーターエレメント100の使用方法)
本発明の実施形態1に係るヒーターエレメント100は、例えば、端子30から一対の電極層20を介して電圧を印加することでハニカム構造体10を発熱させることができる。ハニカム構造体10に使用する材料の体積抵抗やハニカム構造体10の大きさを選択することにより、使用(印加)電圧は、12Vから800Vまで適宜調整することができる。
【0063】
ヒーターエレメント100が、電圧の印加によって発熱しているときに、セル14に空気を流すことで、空気を加熱することができる。セル14に流入する空気の温度としては、例えば-60℃~20℃とすることができ、典型的には-10℃~20℃とすることができる。
【0064】
本発明の実施形態1に係るヒーターエレメント100は、上記のように、ハニカム構造体10の第1端面13a及び第2端面13bに設けられた電極層20の延出部22に端子30を接続及び配置しているため、セル14を塞ぐことなく、電極層20と端子30との接触面積を増大させることができる。そのため、外部からの給電量を高め易くなるため、暖房性能を向上させることができる。さらに、外周壁11付近のセル14の閉塞を避けて、空気の流路を確保可能であるため、圧力損失の増大を抑制することができる。また、本発明の実施形態1に係るヒーターエレメント100は、PTC素子とアルミニウムフィンとを、絶縁セラミックス板を介して一体化した既存のヒーターエレメントよりも単純な構造を有するとともに、ヒーターユニットが大型化することを抑制可能である。また、既存のヒーターエレメントは、PTC素子が空気と直接接しないため、空気の昇温速度(昇温時間)が十分でないが、本発明の実施形態1に係るヒーターエレメント100は、外周壁11及び隔壁12がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体10が空気と直接接するため、空気の昇温速度を高めることができる。
【0065】
(2.ヒーターユニット)
本発明の実施形態1に係るヒーターユニットは、車両の車室暖房用のヒーターユニットとして好適に利用可能である。本発明の実施形態1に係るヒーターユニットは、ヒーターエレメント100を2個以上含む。特に、本発明の実施形態1に係るヒーターユニットでは、発熱性能が高いヒーターエレメント100を用いているため、ヒーターユニットの発熱性能を向上させることができる。また、ヒーターエレメント100はコンパクト化が可能であるため、ヒーターユニットが大型化することも抑制可能である。
【0066】
本発明の実施形態1に係るヒーターユニットにおいて、ヒーターエレメント100の配列方法としては、特に限定されないが、例えば、ハニカム構造体10の流路方向に平行であり且つ電極層20が設けられていない側面が対向するようにヒーターエレメント100を積層配列すればよい。
また、積層配列されるヒーターエレメント100は、筐体(ハウジング部材)に収容されていることが好ましい。筐体の材質としては、特に限定されず、金属、樹脂などが挙げられる。その中でも筐体の材質は樹脂であることが好ましい。樹脂製の筐体とすることにより、接地しなくても感電を抑制することができる。
さらに、積層配列されるヒーターエレメント100の間には、絶縁材が配置されていてもよい。このような構成とすることにより、複数のヒーターエレメント100の間の電気的なショートを抑制することができる。絶縁材としては、アルミナやセラミックスなどの絶縁材料から形成された板材、マットやクロスなどを用いることができる。
【0067】
(3.ヒーターシステム)
本発明の実施形態に係るヒーターシステムは、車両の車室暖房用のヒーターシステムとして好適に利用可能である。特に、本発明の実施形態1に係るヒーターシステムでは、発熱性能が高いヒーターエレメント100又はヒーターエレメント100を2個以上含むヒーターユニットを用いているため、ヒーターシステムの発熱性能を向上させることができる。また、ヒーターエレメント100及びヒーターユニットはコンパクト化が可能であるため、ヒーターシステムが大型化することも抑制可能である。
【0068】
図4は、本発明の実施形態1に係るヒーターシステムの構成例を示す模式図である。
図4に示されるように、本発明の実施形態1に係るヒーターシステム900は、本発明の実施形態に係るヒーターエレメント又はヒーターユニット600、外気導入部又は車室910とヒーターエレメント又はヒーターユニット600の流入口650とを連通する流入配管920a,920b、ヒーターエレメント又はヒーターユニット600に電圧を印加するためのバッテリー940、及びヒーターエレメント又はヒーターユニット600の流出口660と車室910とを連通する流出配管930を備える。
【0069】
ヒーターエレメント又はヒーターユニット600は、例えば、バッテリー940と導線(電線)950で接続し、その途中の電源スイッチをONにすることでヒーターエレメント又はヒーターユニット600を通電発熱するように構成することが可能である。
【0070】
ヒーターエレメント又はヒーターユニット600の上流側には蒸気圧縮ヒートポンプ960を設置することができる。ヒーターシステム900において、蒸気圧縮ヒートポンプ960が主暖房装置として構成されており、ヒーターエレメント又はヒーターユニット600が補助ヒーターとして構成されている。蒸気圧縮ヒートポンプ960は、冷房時に外部から熱を吸収して冷媒を蒸発させる働きをする蒸発器961、及び暖房時に冷媒ガスを液化させて熱を外部へ放出する働きをする凝縮器962を含む熱交換器を備えることができる。なお、蒸気圧縮ヒートポンプ960としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。
【0071】
ヒーターエレメント又はヒーターユニット600の上流側及び/又は下流側には送風機970を設置することができる。高電圧の部品をできるだけ車室910から離して配置して安全を確保する観点から、送風機970はヒーターエレメント又はヒーターユニット600の上流側に設置することが好ましい。送風機970を駆動すると、車室910内又は車室910外から空気が流入配管920a,920bを通ってヒーターエレメント又はヒーターユニット600に流入する。発熱中のヒーターエレメント又はヒーターユニット600を通過する間に空気は加熱される。加熱された空気は、ヒーターエレメント又はヒーターユニット600から流出し、流出配管930を通って車室910内に送られる。流出配管930の出口は車室910内でも特に暖房効果が高くなるよう乗員の足元近傍に配置してもよいし、座席シート内へ配管出口を配置して座席シートを内側から温めるようにしてもよいし、ウィンドウ近傍に配置してウィンドウの曇りを抑制する効果を合わせ持たせてもよい。
【0072】
流入配管920aと流入配管920bとは途中で合流する。流入配管920a及び流入配管920bには、合流地点よりも上流側において、バルブ921a,921bをそれぞれ設置することができる。バルブ921a,921bの開閉を制御することで、外気をヒーターエレメント又はヒーターユニット600に導入するモードと、車室910内の空気をヒーターエレメント又はヒーターユニット600に導入するモードの間で切り替えることができる。例えば、バルブ921aを開き、バルブ921bを閉じると、外気をヒーターエレメント又はヒーターユニット600に導入するモードとなる。バルブ921a及びバルブ921bの両者を開いて、外気及び車室910内の空気を同時にヒーターエレメント又はヒーターユニット600に導入することも可能である。
【0073】
<実施形態2>
(1.ヒーターエレメント)
本発明の実施形態2に係るヒーターエレメントは、本発明の実施形態1に係るヒーターエレメント100と同様に、車両の車室暖房用のヒーターエレメントとして好適に利用可能である。
図5は、本発明の実施形態2に係るヒーターエレメントの端面の模式図である。
図6は、ハニカム構造体の流路方向に平行な
図5のヒーターエレメントの断面(a-a’線の断面)の模式図である。
図5及び6に示されるように、本発明の実施形態2に係るヒーターエレメント200は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、第1端面13aから第2端面13bまで延びる流路となる複数のセル14を区画形成する隔壁12と、第1端面13a及び第2端面13bの外縁領域の少なくとも一部のセル14が目封止された目封止部15とを有するハニカム構造体10と、第1端面13a及び第2端面13bの外周壁11、隔壁12及び目封止部15に設けられた一対の電極層20と、電極層20と導線とを電気的に接続可能な端子30とを備える。外周壁11及び隔壁12は、PTC特性を有する材料で構成されている。端子30は、ハニカム構造体10の流路方向において目封止部15と対向する位置に設けられている。このようにして端子30を接続及び配置することにより、外周壁11に隣接するセル14の一部しか塞がれないようにすることができる。また、電極層20と端子30との接触面積を増大させることができるため、外部からの給電量を高め易くなり、暖房性能を向上させることができる。また、セル14の一部しか閉塞されないので、外周壁11付近のセル14の閉塞を低減し、空気の流路を確保可能であるため、圧力損失の増大を抑制することができる。
以下、ヒーターエレメント200の構成部材について詳細に説明する。なお、ヒーターエレメント200に用いられる各構成部材は、ヒーターエレメント100に用いられる各構成部材と基本的に共通しているため、共通する構成部材は同一の符号を付して説明を省略し、相違する構成部材のみについて説明する。
【0074】
ハニカム構造体10は、外周壁11及び隔壁12に加えて、第1端面13a及び第2端面13bの外縁領域の少なくとも一部のセル14が目封止された目封止部15を有する。目封止部15を設けることにより、目封止部15、並びにその周辺の外周壁11及び隔壁12上に形成された電極層20の面積を増大させることができるため、電極層20と端子30との接触面積を増大させることができる。目封止部15が設けられるセル14の数としては、対向して配置される端子30と電極層20との接続性の点から、例えば、2個以上100個以下とすることができる。
ここで、「第1端面13a及び第2端面13bの外縁領域」とは、外周壁11から第1端面13a及び第2端面13bの直径(円形でない場合は、円相当径)の1/4までの領域のことを意味する。
【0075】
目封止部15の材質は、特に限定されないが、外周壁11及び隔壁12を構成するPTC特性を有する材料と熱膨張の程度を揃える観点から、熱膨張率が8~15ppm/Kの材料で構成されていることが好ましい。この範囲の熱膨張率であれば、ヒーターエレメント200の使用時に、外周壁11及び隔壁12と目封止部15との間の熱膨張の程度の違いによるクラックなどの発生を抑制することができる。
【0076】
目封止部15は、外周壁11及び隔壁12と同様に、PTC特性を有する材料で構成されていることが好ましい。PTC特性を有する材料で目封止部15を構成することにより、通電によって外周壁11及び隔壁12とともに目封止部15も発熱させることができるため、ハニカム構造体10の発熱性能が向上する。
なお、目封止部15の材質は、外周壁11及び隔壁12の材質と異なっていてもよいが、生産性の観点から、同一であることが好ましい。
【0077】
目封止部15は、当該技術分野において公知の目封止処理によって形成することができる。目封止処理は、ハニカム成形体を焼成する前に行ってもよいし、焼成した後に行ってもよい。例えば、目封止部15を形成すべきハニカム成形体又はハニカム構造体10の端面(第1端面13a及び第2端面13b)のセル14に対応する箇所が開口した薄膜フィルムを貼り付ける。そして、ハニカム成形体又はハニカム構造体10の端面をスラリー状の目封止材に浸漬し、薄膜フィルムで塞がれていないハニカム成形体又はハニカム構造体10のセル14に目封止材を進入させることにより、目封止材が充填された目封止部15を形成することができる。目封止材に用いられる材料としては、ハニカム成形体の作製に用いられる材料を用いることができる。
【0078】
電極層20は、第1端面13a及び第2端面13bの外周壁11、隔壁12及び目封止部15に設けられる。このような位置に電極層20を設けることにより、目封止部15、並びにその周辺の外周壁11及び隔壁12上に、電極層20の面積が大きい領域を形成することができる。
【0079】
端子30は、ハニカム構造体10の流路方向において目封止部15と対向する位置に設けられる。このような位置に端子30を設けることにより、電極層20の面積が大きい領域と端子30を接続することができる。そのため、電極層20と端子30との接触面積の増大によって外部からの給電量を高め易くなり、暖房性能を向上させることができる。なお、端子30は、
図7に示されるような流路方向に平行な断面がL字型などの形状とすることができる。L字型などの端子30は、複数の形状の金属部材の機械的結合で作製されていてもよい。端子30を構成する金属部材は、ハニカム構造体10の外縁よりも内側におさめられる形態であってもよいし、ハニカム構造体10の外縁よりも外側まで伸びる形態であってもよい。また、端子30の形状は、L字型以外に、L字の先端がさらに折れ曲がったコの字型であってもよいし、曲面を有してもよい。このような形状とすることにより、端子30を導線と接続する際の構造的な自由度が高くなる。なお、
図7に示されるような構造のL字型の端子30を設ける場合、端子30と外周壁11の側面(流路方向に平行な外周面)とが直接的に接しないように構成することが好ましい。具体的には、端子30と外周壁11の側面との間に絶縁部40を配置したり、端子30と外周壁11の側面との間に空間を設けたりすればよい。
また、本発明の実施形態2に係るヒーターエレメント200は、ヒーターエレメント100と同様にして使用することができる。
【0080】
(2.ヒーターユニット)
本発明の実施形態2に係るヒーターユニットは、本発明の実施形態1に係るヒーターユニットと同様に、車両の車室暖房用のヒーターユニットとして好適に利用可能である。本発明の実施形態2に係るヒーターユニットは、ヒーターエレメント200を2個以上含む。特に、本発明の実施形態2に係るヒーターユニットでは、発熱性能が高いヒーターエレメント200を用いているため、ヒーターユニットの発熱性能を向上させることができる。また、ヒーターエレメント200はコンパクト化が可能であるため、ヒーターユニットが大型化することも抑制可能である。
なお、本発明の実施形態2に係るヒーターユニットの構造は、本発明の実施形態1に係るヒーターユニットと同様にすることができるため、説明を省略する。
【0081】
(3.ヒーターシステム)
本発明の実施形態2に係るヒーターシステムは、車両の車室暖房用のヒーターシステムとして好適に利用可能である。特に、本発明の実施形態2に係るヒーターシステムでは、発熱性能が高いヒーターエレメント200又はヒーターエレメント200を2個以上含むヒーターユニットを用いているため、ヒーターシステムの発熱性能を向上させることができる。また、ヒーターエレメント200及びヒーターユニットはコンパクト化が可能であるため、ヒーターシステムが大型化することも抑制可能である。
なお、本発明の実施形態2に係るヒーターシステムの構造は、本発明の実施形態1に係るヒーターシステムと同様にすることができるため、説明を省略する。
【符号の説明】
【0082】
10 ハニカム構造体
11 外周壁
12 隔壁
13a 第1端面
13b 第2端面
14 セル
15 目封止部
20 電極層
21a 第1電極層
21b 第2電極層
22 延出部
30 端子
40 絶縁部
100,200 ヒーターエレメント
600 ヒーターエレメント又はヒーターユニット
900 ヒーターシステム
910 車室
920a,920b 流入配管
921a,921b バルブ
930 流出配管
940 バッテリー
950 導線
960 蒸気圧縮ヒートポンプ
961 蒸発器
962 凝縮器
970 送風機