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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】毛髪抗老化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20250210BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20250210BHJP
   A61K 31/4375 20060101ALI20250210BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20250210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250210BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20250210BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
A61K8/49
A23L33/10
A61K31/4375
A61P17/14
A61P43/00 107
A61Q5/00
A61Q7/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020101481
(22)【出願日】2020-06-11
(65)【公開番号】P2021004235
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2019118073
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】新井 良平
(72)【発明者】
【氏名】谷 優治
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-121135(JP,A)
【文献】特開2019-031482(JP,A)
【文献】特開平11-060449(JP,A)
【文献】特開平10-298055(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101596252(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102058825(CN,A)
【文献】特開2020-152711(JP,A)
【文献】特開2018-168166(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138652(WO,A1)
【文献】特表2009-507012(JP,A)
【文献】特開2019-052145(JP,A)
【文献】特開平05-078222(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0027372(KR,A)
【文献】特開2018-043951(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107095993(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A23L 5/40- 5/49
A23L 31/00-33/29
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルベルビン及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、白髪の予防又は改善剤(但し、オウレン抽出物を含む白髪の予防又は改善剤、及びオウバク又はオウバク抽出物を含む白髪の予防又は改善剤を除く)。
【請求項2】
ベルベルビン、ベルベリン、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、老人性脱毛症の予防又は改善剤(但し、オウレン抽出物を含む老人性脱毛症の予防又は改善剤、及びオウバク又はオウバク抽出物を含む老人性脱毛症の予防又は改善剤を除く)。
【請求項3】
ベルベルビン、ベルベリン、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善剤(但し、オウレン抽出物を含む
毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善剤、及びオウバク又はオウバク抽出物を含む毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善剤を除く)。
【請求項4】
毛包構成細胞が、毛包幹細胞又は色素幹細胞である、請求項3に記載のDNA損傷抑制又は
改善剤。
【請求項5】
ベルベルビン、ベルベリン、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、色素幹細胞の減少抑制剤(但し、オウレン抽出物を含む色素幹細胞の減少抑制剤、及びオウバク又はオウバク抽出物を含む色素幹細胞の減少抑制剤を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白髪又は老人性脱毛症の予防又は改善剤、毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善剤、及び、色素幹細胞の減少抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
体毛の色素(メラニン)は毛球部に存在する色素細胞により産生され、この色素を供給された上皮細胞が体毛を形成することにより、有色毛が発生する。体毛が生え変わる際に毛球部は消失し、それに伴って毛球部の色素細胞も消失する。毛包中のバルジ領域と呼ばれる部分には毛包幹細胞と色素幹細胞が存在しており、新たな毛周期が始まり新たな体毛が生じる際には、毛包幹細胞から上皮細胞が色素幹細胞から色素細胞がそれぞれ毛球部へ供給され、再び上記のサイクルが繰り返される。
【0003】
白髪の発生原因は、加齢・ストレス・白斑に伴うもの等いくつかあり、上述の過程の一部に異常が生じることにより生じる。過去には、毛球部の色素細胞の色素産生能を維持又は改善することで、白髪を予防または改善することができると信じられ、色素細胞内で色素合成に関わるチロシナーゼをはじめとする酵素を活性化する作用を指標として、数多くの物質が見出されている(特許文献1~5)。
【0004】
近年、加齢による白髪発生のメカニズムが解明された。修復不可能な程度のDNA損傷が蓄積した色素幹細胞は、バルジ領域にいながら分化して(この分化を異所性分化という)、自己維持機能を失い消失する(非特許文献1)。その結果、毛球部に色素細胞が供給できず、色素を持たない上皮細胞が毛を作ることで白髪が生じる。つまり加齢による白髪の大部分では、そもそも毛球部に色素細胞が存在しておらず、色素合成に関わる酵素の活性化では改善できない。毛球部に色素細胞が残存している白髪は旧来のアプローチで改善可能と考えられるが、白髪(加齢によるものとは限らない)のうち、毛球部に色素細胞が存在するものはわずか20%程度との調査結果がある(非特許文献2)。
【0005】
また、さらに色素幹細胞は毛包幹細胞の働きによって維持されていることが解明された(非特許文献3)。毛包幹細胞は、TGF-βやWNTリガンドをはじめとする因子を産生することにより、色素幹細胞が幹細胞性を保ったままで存在できる環境(色素幹細胞ニッチ)を構成し、色素幹細胞の維持・活性化を制御している(非特許文献3,4)。つまり白髪を予防又は改善するためには、毛包幹細胞を維持し、さらにその色素幹細胞ニッチ機能を維持することにより、色素幹細胞の消失を防ぐことが重要である。
【0006】
黒色マウスにX線を用いてDNA損傷を与えることで、上述の加齢による機序を反映した白毛を誘導できることが知られており、広く加齢性マウス白髪モデルとして用いられている(特許文献6)。また、本モデルにおいてX線は、毛包幹細胞と色素幹細胞の両方に損傷を与えるが、その主要な標的は毛包幹細胞(色素幹細胞ニッチ機能の障害)であることが解明されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-288052号公報
【文献】特開2001-131032号公報
【文献】特開2007-8888号公報
【文献】特開2011-157317号公報
【文献】特開2002-47130号公報
【文献】特開2015-193550号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Inomata K, Aoto T, Binh NT, Okamoto N, Tanimura S, Wakayama T, Iseki S, Hara E, Masunaga T, Shimizu H, Nishimura EK, Genotoxic stress abrogates renewal of melanocyte stem cells by triggering their differentiation, Cell.2009;137(6):1088-99.
【文献】出田立郎ら著「アンチエイジングシリーズ1 白髪・脱毛・育毛の実際」エヌ・ティー・エス、2005年7月4日、p.49-61
【文献】Tanimura S, Tadokoro Y, Inomata K, Binh NT, Nishie W, Yamazaki S, Nakauchi H, Tanaka Y, McMillan JR, Sawamura D, Yancey K, Shimizu H, Nishimura EK, Hair follicle stem cells provide a functional niche for melanocyte stem cells, Cell Stem Cell. 2011;8(2):177-87.
【文献】Rabbani P, Takeo M Chou W, Myung P, Bosenberg M, Chin L, Taketo MM, Ito M, Coordinated activation of Wnt in epithelial and melanocyte stem cells initiates pigmented hair regeneration, Cell. 2011 Jun 10;145(6):941-955.
【文献】Aoki H, Hara A, Motohashi T, Kunisada T, Keratinocyte stem cells but not melanocyte stem cells are the primary target for radiation-induced hair graying, J Invest Dermatol. 2013;133(9):2143-51.
【文献】Matsumura H, Mohri Y, Binh NT, Morinaga H, Fukuda M, Ito M, Kurata S, Hoeijmakers J, Nishimura EK, Hair follicle aging is driven by transepidermal elimination of stem cells via COL17A1 proteolysis, Science. 2016;351(6273):aad4395.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、白髪を予防又は改善する手段を提供することである。また、加齢により生じる脱毛を予防又は改善する手段を提供することである。また、毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善剤を提供することである。また、色素幹細胞の減少抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで発明者らは鋭意検討した結果、ベルベルビン及びその誘導体、さらにこれらの塩が、優れた白髪又は老人性脱毛の予防又は改善作用を有すると共に、その作用が毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善作用、及び色素幹細胞の減少抑制作用に起因することを解明し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)ベルベルビン、その誘導体(ただし、ベルベリンを除く)、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、白髪の予防又は改善剤、
(2)ベルベルビン、その誘導体、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、老人性脱毛症の予防又は改善剤、
(3)ベルベルビン、その誘導体、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善剤、
(4)毛包構成細胞が、毛包幹細胞又は色素幹細胞である、(3)に記載のDNA損傷抑制又は改善剤、
(5)ベルベルビン、その誘導体、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、色素幹細胞の減少抑制剤、
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の白髪及び脱毛の予防又は改善剤は、毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善作用又は色素幹細胞の減少抑制作用を介して、白髪及び老人性脱毛の発生を予防し又は改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、試験例1において、ベルベルビンを評価した際の、マウスの背部体毛明度を示すグラフである。
図2図2は、試験例1において、ベルベリンを評価した際の、マウスの背部体毛明度を示すグラフである。
図3図3は、試験例2において、ベルベリンを評価した際の、除毛後15日目におけるマウスの発毛スコアを示すグラフである。
図4図4は、試験例2において、ベルベリンを評価した際の、除毛後17日目におけるマウスの発毛スコアを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明におけるベルベルビンとは、5,6-ジヒドロ-9-ヒドロキシ-10-メトキシベンゾ[g]-1,3-ベンゾジオキソロ[5,6-a]キノリジニウムで表される化合物である。
本発明における誘導体とは、もとの化合物の分子内の小部分を変化させて得られる化合物のことである。特に限定されるものではないが例えば、ベルベルビンのヒドロキシ基の一つがメトキシ基に変化したベルベリン(2,3-メチレンジオキシ-9,10-ジメトキシ-5,6-ジヒドロジベンゾ[a,g]キノリジニウム)が挙げられる。
本発明における塩とは、例えば塩化物、塩酸、硫酸やタンニン酸との塩が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0015】
本発明に用いるベルべルビン、その誘導体、及びそれらの塩は、既知の合成法で製造可能であり、また市販品を用いてもよい。市販品としては、塩化ベルベルビン(長良サイエンス株式会社製、キシダ化学株式会社製)、塩化ベルベリン(Sigma-Aldrich製)、ベルベリン塩酸塩(ナカライテスク製)、ベルベリン塩化物水和物(アルプス薬品工業製)、タンニン酸ベルベリン(アルプス薬品工業製)等が挙げられる。
【0016】
本発明における毛包構成細胞とは、毛包組織を構成するあらゆる細胞を示す。例えば、上皮系細胞である、毛包幹細胞、外毛根鞘細胞、内毛根鞘細胞及び毛母細胞、色素系細胞である、色素幹細胞、色素芽細胞及び色素細胞、並びに、間葉系細胞である、毛乳頭細胞及び真皮毛根鞘細胞がある。
【0017】
本発明における毛包幹細胞とは、毛包のバルジ領域及び二次毛芽に存在する、上皮系細胞の幹細胞をいう。
【0018】
本発明における色素幹細胞とは、毛包のバルジ領域及び二次毛芽に存在する、色素系細胞の幹細胞をいう。
【0019】
また、本発明の白髪及び老人性脱毛の予防又は改善作用は、上皮系細胞の色素系細胞に対するニッチ機能の維持又は改善作用、色素幹細胞の異所性分化抑制作用、並びに、毛包幹細胞及び色素幹細胞の減少抑制作用に起因すると考えられる。異所性分化とは、色素幹細胞が本来は幹細胞として存在すべき毛包バルジ領域にいながら、色素細胞へ分化する現象をいう。また、ニッチ機能とは、ある種の細胞が他の細胞の存在する環境を構築し、制御する機能をいう。
【0020】
本発明の白髪予防又は改善剤は、医薬部外品、医薬品又は飲食品等として提供することができる。その他、試薬(陽性対照等)として用いることも可能である。投与形態としては、特に限定されるものではないが、外用や内服が挙げられ、好ましくは頭皮を含む皮膚に適用する外用である。
【0021】
本発明を外用で適用する場合の剤形としては、例えば、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、シャンプー、コンディショナー、石鹸等が挙げられ、内服で適用する場合の剤形としては、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、液剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤、液状食品、半固形食品、固形食品等が挙げられる。
これらは、公知の方法で製造することができる。製造に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬に含有可能な種々の添加物を配合することができる。
【0022】
さらに本発明の白髪予防又は改善剤は、センブリエキス、ニンジンエキス、トウガラシチンキ、ショウキョウチンキ、ビワ葉エキス、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、パントテン酸、パンテノール、ビタミンE及びその誘導体、ヒノキチオール、サリチル酸、ピロクトンオラミン、ミノキシジル、アデノシン、t-フラバノン、サイトプリン、ペンタデカン酸グリセリド、アラントイン、ニコチン酸アミドをはじめとした発育毛物質と組み合わせて使用することもできる。組み合わせることにより、毛の産生が早まり、早期に白髪予防又は改善効果を得ることができる。
【0023】
本発明のベルベルビンの誘導体、及びそれらの塩の配合量は、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬で提供する場合、それぞれ組成物全体に対して0.000001~20質量%、好ましくは0.0001~10質量%、より好ましくは0.01~1質量%である。
【0024】
また、本発明の白髪の予防又は改善剤、老人性脱毛症の予防又は改善剤、毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善剤、及び色素幹細胞の減少抑制剤は、これを含む製品(医薬品、医薬部外品、飲食品、又は試薬等)又はその説明書に、白髪の予防又は改善、老人性脱毛症の予防又は改善、毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善、毛包幹細胞のDNA損傷抑制又は改善、色素幹細胞のDNA損傷抑制又は改善、又は色素幹細胞の減少を抑制する作用を目的とするために用いられる旨の表示を付することができる。ここで、「製品またはその説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、申請資料、その他の印刷物又は広告などに表示を付したことを意味する。また、これら表示においては、白髪の予防又は改善、老人性脱毛症の予防又は改善のために用いられることに関する情報、又は、毛包構成細胞のDNA損傷、毛包幹細胞のDNA損傷、色素幹細胞のDNA損傷、又は色素幹細胞の減少を抑制するに起因する疾患や症状の予防又は治療のために用いられることに関する情報を含むことができる。
【実施例
【0025】
以下に実施例及び試験例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0026】
(試験例1)X線マウス白髪モデルを用いた抗白髪作用の評価
<試験方法>
生後7週齢のC57BL/6マウスに麻酔を施し、バリカンにて背部体毛を数mm残して刈り取った。毛刈り後、背部状態が良好な個体を選別し、各群の体重の平均値及び分散がほぼ等しくなるように層別無作為化割付(EXSUS Professional Version 7.7.1(CACエクシケア製)を使用)を行い、群分けした。
エタノールに0.1%(w/v)となるように塩化ベルベルビン又はベルベリン塩酸塩を溶解して調製した投与液、又は溶媒のエタノールを、毛刈り翌日よりマウスに1日1回200 μL、一週間塗布した。毛刈りより6日後に、麻酔下で背部の除毛を行った。除毛は、毛刈り部に除毛剤(エピラット(クラシエ製))を塗布することで行った。除毛の翌日に、X線照射装置(RX-650(Faxitron X-ray))により、マウスに総量5GyのX線を照射した。
体毛が生え揃うまで飼育した後、体毛に色彩色差計(CR-400(コニカミノルタ製))のプローブを当て、明度(L値)を測定し、白毛率の指標とした。
【0027】
<試験結果>
図1及び図2は、ベルベルビン及びベルベリンをそれぞれ評価した結果である。X線照射により、毛包幹細胞及び色素幹細胞にDNA損傷を与えると、色素幹細胞の減少により、体毛の明度が増加し、体毛の白色化が誘導された(非特許文献1)。しかし、ベルベルビン又はベルベリンの塗布により、体毛の明度の増加が抑制され、体毛の白色化が抑制された。つまり、ベルベルビン及びベルベリンに白髪予防及び改善作用が確認された。
これは、両化合物が、毛包幹細胞及び色素幹細胞のDNA損傷を抑制及び改善することで、毛包幹細胞の色素幹細胞ニッチ機能を維持及び改善し、これらの結果、色素幹細胞の異所性分化が抑制されて、色素幹細胞が維持されたと推察される(非特許文献1)。
つまり、両化合物は、DNA損傷の抑制及び改善作用、上皮系細胞の色素系細胞に対するニッチ機能の維持及び改善作用、色素幹細胞の異所性分化抑制作用及び維持作用を有することが推測される。
なお、ベルベルビン及びベルベリンに、X線の直接的な吸収・妨害作用がないことは確認済みである。
【0028】
(試験例2)X線マウス老人性脱毛モデルを用いた抗脱毛作用の評価
X線は、加齢性の白髪以外に、加齢性の脱毛症(老人性脱毛症)と同様の機序で脱毛症を誘導できることが解明されている(非特許文献6)。老人性脱毛症は、男性ホルモンに起因する男性型脱毛症とは異なり、老化に伴う毛包幹細胞へのDNA損傷の蓄積が原因で、毛包幹細胞が徐々に失われて毛包のミニチュア化が起こる脱毛症であるが、X線を照射したマウスはこの老人性脱毛症モデルとしても用いることができる。
<試験方法>
生後7週齢のC57BL/6マウスに麻酔を施し、バリカンにて背部体毛を数mm残して刈り取った。毛刈り後、背部状態が良好な個体を選別し、各群の体重の平均値及び分散がほぼ等しくなるように層別無作為化割付(EXSUS Professional Version 7.7.1(CACエクシケア製)を使用)を行い、群分けした。
エタノールに0.1%(w/v)となるようにベルベリン塩酸塩を溶解して調製した投与液、又は溶媒のエタノールを、毛刈り翌日よりマウスに1日1回200 μL、一週間塗布した。毛刈りより6日後に、麻酔下で背部の除毛を行った。除毛は、毛刈り部に除毛剤(エピラット(クラシエ製))を塗布することで行った。除毛の翌日に、X線照射装置(RX-650(Faxitron X-ray))により、マウスに総量5GyのX線を照射した。
体毛の発生度合に差が見られる除毛後15日目及び17日目に、下記のスコア基準に従って発毛スコアを付け、発毛の程度を評価した。
【0029】
スコア1:皮膚がピンク色を呈する
スコア2:皮膚が灰色に変色(剃毛部の30%未満)
スコア3:皮膚が灰色に変色(剃毛部の30%以上60%未満)あるいは毛の伸長が認められる(剃毛部の30%未満)
スコア4:皮膚が灰色に変色(剃毛部の60%以上)あるいは毛の伸長が認められる(剃毛部の30%以上60%未満)
スコア5:毛の伸長が認められる(剃毛部の60%以上)
【0030】
<試験結果>
図3及び図4は、ベルベリンを評価した結果である。X線照射により、毛包幹細胞にDNA損傷を与えると、新生毛の発生が遅延した。しかし、ベルベリンの塗布により、新生毛の発生遅延が見られなくなった。つまり、ベルベリンに老人性脱毛症をはじめとする加齢に伴う脱毛の予防及び改善作用が確認された。
これは、ベルベリンが、毛包幹細胞のDNA損傷を抑制及び改善することで、毛包幹細胞が維持されたことによる。これらの作用は、試験例1の結果から、毛包幹細胞のDNA損傷抑制及び改善効果を有するベルベルビンも同様に有する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の白髪及び脱毛の予防又は改善剤は、加齢又はDNA損傷により生じる白髪及び脱毛の予防又は改善用の医薬部外品、医薬品又は飲食品の分野に利用可能である。また、毛包構成細胞のDNA損傷抑制又は改善剤、及び色素幹細胞の減少抑制剤もこれらの作用を必要とする医薬部外品、医薬品又は飲食品の分野に利用可能である。
図1
図2
図3
図4