(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】断熱性能推定装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20250210BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
G01N25/18 B
E04B1/76 400Z
(21)【出願番号】P 2021026360
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】八木橋 威夫
(72)【発明者】
【氏名】川原 慶喜
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-096522(JP,A)
【文献】特開2011-237124(JP,A)
【文献】特開2010-242487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
E04B 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の建物内の暖房器具が設けられた一つの部屋において前記暖房器具を停止してから所定時間が経過するまでの前記部屋の温度と気温との差の変化率に基づいて、前記検査対象の建物の断熱性能を示すデータを生成する断熱性能推定装置であって、
前記部屋の温度のデータと、前記検査対象の建物の周辺の気温のデータとを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部によって取得したデータに基づいて、前記暖房器具を停止したときの前記部屋の温度とそのときの前記検査対象の建物の周辺の気温との差を表す第1の値と、前記暖房器具を停止してから前記所定時間が経過したときの前記部屋の温度とそのときの前記検査対象の建物の周辺の気温との差を表す第2の値とを算出し、前記第1の値と前記第2の値との間の比を前記変化率として算出する変化率算出部と、
前記変化率に基づいて前記検査対象の建物の断熱性能を推定する推定部と、
前記推定部による断熱性能の推定結果を出力する出力部と、を有し、
前記変化率算出部は、前記暖房器具を停止してから単位時間毎に前記変化率を算出し、
前記推定部は、前記変化率と建物の断熱性能を表す等級との対応関係を表す対応関係情報を用いて、複数の前記等級の中から、前記変化率算出部によって算出された前記変化率に対応する一つの前記等級を選択し、前記断熱性能の推定結果として出力
し、
前記出力部は、前記変化率の時間的な変化を表す情報を表示装置の画面上に表示させる
断熱性能推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の断熱性能推定装置において、
前記変化率算出部は、前記第1の値に対する前記第2の値の割合を前記変化率として算出する
断熱性能推定装置。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の断熱性能推定装置において、
前記出力部は、前記検査対象の建物とは異なる建物の前記変化率の時間的な変化を表す情報を前記画面上に表示する
断熱性能推定装置。
【請求項4】
請求項
1乃至3の何れか一つに記載の断熱性能推定装置において、
前記出力部は、前記画面上に、前記変化率と時間の2つの座標で表される2次元空間を表示し、前記2次元空間に前記等級毎の領域を表示するとともに、各等級の大きさを示すシンボルを表示する
断熱性能推定装置。
【請求項5】
コンピュータを、
検査対象の建物内の暖房器具が設けられた一つの部屋において前記暖房器具を停止してから所定時間が経過するまでの前記部屋の温度と気温との差の変化率に基づいて、前記検査対象の建物の断熱性能を示すデータを生成するように機能させるプログラムであって、
前記部屋の温度のデータと、前記検査対象の建物の周辺の気温のデータとを取得する第1ステップと、
前記第1ステップによって取得したデータに基づいて、前記暖房器具を停止したときの前記部屋の温度とそのときの前記検査対象の建物の周辺の気温との差を表す第1の値と、前記暖房器具を停止してから前記所定時間が経過したときの前記部屋の温度とそのときの前記検査対象の建物の周辺の気温との差を表す第2の値とを算出し、前記第1の値と前記第2の値との間の比を前記変化率として算出する第2ステップと、
前記変化率に基づいて前記検査対象の建物の断熱性能を推定する第3ステップと、
前記第3ステップによる断熱性能の推定結果を出力する第4ステップと、
前記変化率の時間的な変化を表す情報を表示装置の画面上に表示させる第5ステップと、を前記コンピュータに実行させ、
前記第2ステップは
、前記暖房器具を停止してから単位時間毎に前記変化率を算出するステップを含み、
前記第3ステップは、前記変化率と建物の断熱性能を表す等級との対応関係を表す対応関係情報を用いて、複数の前記等級の中から、前記第2ステップにおいて算出された前記変化率に対応する一つの前記等級を選択し、前記断熱性能の推定結果として出力するステップを含む
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性能推定装置およびプログラムに関し、例えば、計測した温度に基づいて建物の断熱性能を推定する断熱性能推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の断熱性能はエネルギーの使用量に影響を与えるだけでなく、ヒートショックに代表される心血管病の発症に影響を及ぼすことが認知されつつある。将来における心血管病の発症リスクを低下させるためには、住宅の温度環境を改善することが好ましい。既存住宅の流通やリフォーム促進のためには、対象となる住宅の断熱性能を評価する必要がある。
【0003】
建物の断熱性能を表す一つの指標として、熱損失係数(以下、「Q値」とも称する。)が知られている。一般に、新築住宅の場合、Q値は設計図書の断熱仕様を元に計算される。しかしながら、既存の住宅の場合、設計図書がないことが多く、施工方法および経年劣化等により、実際の断熱性能が不明であることが多い。そのため、従来、既存の住宅の室温等を実測し、その計測値に基づいてその住宅のQ値を推定する手法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、住宅における複数の部屋と住宅の外部に温度計測装置をそれぞれ設置して各部屋の温度と外気温を一定期間計測し、計測した温度に基づいて建物全体の平均温度を求めるとともに建物外部に接する部屋の平均温度を算出し、これら2つの平均温度が一定の関係となる熱移動モデルを用いて、その建物のQ値を算出する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された断熱性能の推定手法は、対象の住宅において複数の温度計測装置を設置し、温度を一定期間計測する必要があるため、居住者の日常生活に制限や支障が生じ、居住者の負担が大きい。また、特許文献1の推定手法は、より正確にQ値を推定することを目的としているため、複雑な演算式を用いる必要がある。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、居住者の負担を抑えつつ、より簡単に建物の断熱性能を推定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の代表的な実施の形態に係る断熱性能推定装置は、検査対象の建物内の暖房器具が設けられた一つの部屋において前記暖房器具を停止してから所定時間が経過するまでの前記部屋の温度と気温との差の変化率に基づいて、前記検査対象の建物の断熱性能を示すデータを生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る断熱性能推定装置によれば、居住者の負担を抑えつつ、より簡単に建物の断熱性能を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】建物の断熱性能を推定するための温度の計測方法を説明するための図である。
【
図2】温度降下率Rから算出した推定Q値と設計図面等から算出したQ値との関係を示す図である。
【
図3】一つの部屋(リビングルーム)の温度降下率Rに基づいて算出した推定Q値と、各部屋の温度降下率Rに基づいて算出した推定Q値との関係を示す図である。
【
図4】本実施の形態に係る断熱性能推定装置を含むシステムの構成を示す図である。
【
図5】本実施の形態に係る断熱性能推定装置の機能ブロック構成を示す図である。
【
図6】本実施の形態に係る断熱性能推定装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図7】温度降下率と断熱性能の等級との対応関係の一例を示す図である。
【
図8】表示装置の画面上に表示される断熱性能に関する情報の表示例を示す図である。
【
図9】本実施の形態に係る断熱性能推定装置による、断熱性能を推定するための処理の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0012】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係る断熱性能推定装置(1)は、検査対象の建物(3)内の暖房器具が設けられた一つの部屋において前記暖房器具を停止してから所定時間(ts)が経過するまでの前記部屋の温度と気温との差の変化率に基づいて、前記検査対象の建物の断熱性能を示すデータを生成することを特徴とする。
【0013】
〔2〕上記〔1〕に記載の断熱性能推定装置(1)において、前記部屋の温度のデータ(40)と、前記検査対象の建物の周辺の気温のデータ(41)とを取得するデータ取得部(10)と、前記データ取得部によって取得したデータに基づいて、前記暖房器具を停止したときの前記部屋の温度(Tr1)とそのときの前記検査対象の建物の周辺の気温(Ta1)との差を表す第1の値(Tr1-Ta1)と、前記暖房器具を停止してから前記所定時間が経過したときの前記部屋の温度(Trn)とそのときの前記検査対象の建物の周辺の気温(Tan)との差を表す第2の値(Trn-Tan)とを算出し、前記第1の値と前記第2の値との間の比に基づいて前記変化率を算出する変化率算出部(11)と、前記変化率に基づいて前記検査対象の建物の断熱性能を推定する推定部(12)と、前記推定部による断熱性能の推定結果(22)を出力する出力部(13)と、を有していてもよい。
【0014】
〔3〕上記〔2〕に記載の断熱性能推定装置(1)において、前記変化率算出部は、前記第1の値に対する前記第2の値の割合(=(Trn-Tan)/(Tr1-Ta1))を前記変化率として算出してもよい。
【0015】
〔4〕上記〔2〕または〔3〕に記載の断熱性能推定装置(1)において、前記推定部は、予め設定された、建物の断熱性能を表す複数の等級の中から、前記変化率算出部によって算出された前記変化率に対応する一つの等級を選択し、前記断熱性能の推定結果として出力してもよい。
【0016】
〔5〕上記〔4〕に記載の断熱性能推定装置(1)において、前記出力部は、前記変化率の時間的な変化を表す情報(400)を表示装置の画面上に表示させてもよい。
【0017】
〔6〕上記〔5〕に記載の断熱性能推定装置(1)において、前記出力部は、前記検査対象の建物とは異なる建物の前記変化率の時間的な変化を表す情報(405)を前記画面上に表示してもよい。
【0018】
〔7〕上記〔5〕または〔6〕に記載の断熱性能推定装置において、前記出力部は、前記画面上に、前記変化率と時間の2つの座標で表される2次元空間を表示し、前記2次元空間に前記等級毎の領域(402)を表示するとともに、各等級の大きさを示すシンボル(403)を表示してもよい。
【0019】
〔8〕本発明の代表的な実施の形態に係るプログラムは、コンピュータを、検査対象の建物内の暖房器具が設けられた一つの部屋において前記暖房器具を停止してから所定時間が経過するまでの前記部屋の温度と気温との差の変化率に基づいて、前記検査対象の建物の断熱性能を示すデータを生成するように機能させることを特徴とする。
【0020】
〔9〕上記〔8〕に記載のプログラムにおいて、前記部屋の温度のデータと、前記検査対象の建物の周辺の気温のデータとを取得する第1ステップ(S1)と、前記第1ステップによって取得したデータに基づいて、前記暖房器具を停止したときの前記部屋の温度とそのときの前記検査対象の建物の周辺の気温との差を表す第1の値と、前記暖房器具を停止してから前記所定時間が経過したときの前記部屋の温度とそのときの前記検査対象の建物の周辺の気温との差を表す第2の値とを算出し、前記第1の値と前記第2の値との間の比に基づいて前記変化率を算出する第2ステップ(S2)と、前記変化率に基づいて前記検査対象の建物の断熱性能を推定する第3ステップ(S3)と、前記第3ステップによる断熱性能の推定結果を出力する第4ステップ(S4)と、をコンピュータに実行させてもよい。
【0021】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、実物と異なる場合がある。
【0022】
≪断熱性能推定方法の概要≫
本願発明者らは、本願発明に先立って下記に示す実験を行い、建物の一つの部屋の温度と気温との差の変化率から断熱性能を簡易的に推定可能であるという新たな知見を得た。以下、詳細に説明する。
【0023】
図1は、建物の断熱性能を推定するための温度の計測方法を説明するための図である。
図1において、横軸は時間を表し、縦軸は温度(℃)を表している。参照符号300は、一つの部屋(リビング)における温度の時間変化を表し、参照符号301は、玄関における温度の時間変化を表し、参照符号302は、寝室における温度の時間変化を表し、参照符号303は、建物の外部の気温(外気温)の時間変化を表している。
【0024】
実験では、冬季(11月から3月上旬)のうち、住宅1世帯あたり所定の温度の計測を少なくとも2回実施して、その計測結果から熱損失係数(Q値)を推定した。
【0025】
具体的には、
図1に示すように、建物の暖房器具(エアコンディショナー)が設置された一つの部屋(リビング)において、時刻t0に暖房器具をオンし、室温(約22℃)を一定時間以上(4時間以上)維持した後に、時刻t1(例えば、午前0時)に暖房器具を停止させた。その後、暖房器具が停止した状態を所定時間ts(約6時間)維持し、その期間において、単位時間t毎に、リビング、玄関、および寝室(以下、「各部屋」と称する。)の温度と建物の外部の気温(外気温)とを計測した。そして、暖房器具の停止時から計測終了時(午前6時)までの、各部屋の温度と気温との差の変化率からQ値を推定した。
【0026】
ここで、各部屋の温度と気温との差の変化率とは、暖房器具を停止したときの部屋の温度Tr1とそのときの検査対象の建物の周辺の気温Ta1との差(第1の値)と、暖房器具を停止してから所定時間tsが経過したときの部屋の温度Trnとそのときの検査対象の建物の周辺の気温Tanとの差(第2の値)との間の比に基づく値である。
【0027】
上記実験では、部屋の温度と気温との差の変化率Rを第1の値に対する第2の値の割合とし、下記式(1)によって求めた。以下、この変化率Rを「温度降下率R」とも称する。
【0028】
【0029】
上記実験では、暖房器具を停止した午前0時から午前6時までの期間tsにおける各部屋の温度降下率Rを算出し、所定の関係式を用いて温度降下率RからQ値(推定Q値)を算出した。
【0030】
図2は、各部屋の温度降下率Rから算出した推定Q値と設計図面等から算出したQ値との関係を示す図である。
図2の横軸は、建物の設計図書の断熱仕様に基づいて算出したQ値(設計Q値)を表し、横軸は上記実験によって得られた温度降下率から算出したQ値(推定Q値)を表している。
図2には、各建物における推定Q値と設計Q値との対応関係の一例が示されている。
【0031】
図2に示すように、各部屋の温度降下率Rに基づいて算出した推定Q値と設計Q値とが完全に一致することはないが、全体の8割程度の建物において、推定Q値と設計Q値との差が1.0未満であった。
【0032】
図3は、一つの部屋(リビングルーム)の温度降下率Rに基づいて算出した推定Q値と、各部屋の温度降下率Rに基づいて算出した推定Q値との関係を示す図である。
図3の横軸は、一つの部屋(リビングルーム)の温度降下率Rに基づいて算出した推定Q値を表し、横軸は各部屋の温度降下率Rに基づいて算出した推定Q値を表している。
図3には、リビングルームにおける推定Q値と各部屋の推定Q値との対応関係の一例が示されている。
【0033】
図3に示すように、一つの部屋(リビングルーム)における推定Q値と各部屋の推定Q値との対応関係が完全に一致することはないが、全体の8割程度の相関性があることがわかった。
【0034】
以上の実験結果より、本願発明者らは、建物における複数の部屋の温度を測定しなくとも、一つの部屋の温度と気温との差の変化率からその建物の断熱性能を簡易的に推定することが可能であるとの知見を得た。そして、本願発明者らは、この知見に基づき、新たな断熱性能推定装置を完成させた。
以下、本発明の実施の形態に係る断熱性能推定装置について説明する。
【0035】
≪断熱性能推定装置≫
図4は、本発明の実施の形態に係る断熱性能推定装置1を含むシステム6の構成を示す図である。
【0036】
同図に示される断熱性能推定装置1は、検査対象の建物における温度の計測結果に基づいて、検査対象の建物の断熱性能を推定するための装置である。
【0037】
図4に示すように、断熱性能推定装置1は、ネットワーク5に接続可能に構成され、ネットワーク5を介して温度データ管理装置4や建物3に設置された通信装置30と通信が可能となっている。本実施の形態では、建物3が「住宅」である場合を一例として説明するが、これに限られるものではない。
【0038】
ネットワーク5は、例えばインターネットに代表される広域ネットワーク(WAN:Wide Area Network)である。断熱性能推定装置1は、有線または無線通信によってネットワーク5と接続可能に構成されている。
【0039】
検査対象の建物3には、温度計31,32と通信装置30とが設けられている。
温度計31は、建物3内にある部屋のうち、暖房器具(例えばエアコンディショナー)が設置された一つの部屋に設けられており、例えば、単位時間t毎に、当該部屋の温度(室温)を計測する。
【0040】
ここで、温度計31が設置される部屋は、暖房器具が設置されている部屋であれば特に制限されないが、温度計測時の居住者の日常生活への制約を小さくし、且つ建物の温度降下率をより正確に算出することを考慮すると、例えば、温度計測時(例えば夜間)に人の出入りが少ないリビング等であることが好ましい。
【0041】
温度計32は、建物3の周辺の温度を計測する。温度計32は、建物3の外部に設けられており、例えば、単位時間t毎に気温(外気温)を計測する。
【0042】
本実施の形態に係る断熱性能推定装置1によって建物3の断熱性能を推定する場合には、事前に、
図1に示した手法と同様の手法により、建物3における温度の計測が行われる。
【0043】
具体的には、先ず、建物3の温度計31が設置された部屋(例えば、リビング)に設置された暖房器具(例えば、エアコンディショナー)をオンし、温度計31,32による室温および気温の単位時間毎の計測を開始する。その後、暖房器具を一定時間(4時間)以上運転させて室温を安定させる。室温が安定した後、所定の時刻(例えば、午前0時)において暖房器具を停止し、所定時間ts(例えば、6時間)、暖房器具を停止した状態を維持し、室温および気温の計測を継続する。そして、所定時間tsの経過後、温度計31,32による室温および気温の計測を停止する。
なお、温度の計測は、単位時間毎ではなく、暖房器具の停止時と所定時間tsの経過時だけでもよい。
【0044】
このようにして計測された室温および気温の計測結果は、温度計31,32に通信装置30に送信される。温度計31,32と通信装置30とは、例えば、無線LANやブルートゥース(登録商標)等の公知の無線通信方式によって相互にデータの送受信が可能となっている。例えば、温度計31,32は、単位時間t毎の温度の計測結果を通信装置30に送信する。
【0045】
通信装置30は、温度計31,32との間で相互に通信を行う。また、通信装置30は、有線または無線通信によってネットワーク5と接続可能となっており、ネットワーク5を介して外部と通信を行うことができる。通信装置30は、建物3の敷地内(例えば室内)に設けられている。
【0046】
上述したように、通信装置30は、温度計31から室温の計測結果を受信するとともに、温度計32から気温の計測結果を受信する。通信装置30は、受信した室温および気温の計測結果を、通信装置30内部に設けられた記憶装置(不図示)に記憶する。通信装置30は、例えば、温度データ管理装置4からの要求に応じて、通信装置30内の記憶装置に記憶されている建物3の室温および気温の計測結果を送信する。
【0047】
なお、
図4には、一つの建物3がネットワーク5に接続されている場合が例示されているが、これに限られず、温度計31,32および通信装置30が設置された複数の建物3がネットワーク5に接続されていてもよい。
【0048】
温度データ管理装置4は、建物3における室温および気温の計測結果を管理する装置である。温度データ管理装置4は、ネットワーク5を介して外部と双方向通信可能な情報処理装置(コンピュータ)であって、例えば、サーバである。
【0049】
温度データ管理装置4は、建物3に設置された温度計31,32によって計測された単位時間毎の室温および気温の計測結果を、ネットワーク5を介して検査対象の建物3に設けられた通信装置30から取得し、室温のデータ40および気温のデータ41として記憶する。例えば、ネットワーク5に複数の建物3(通信装置30)が接続されている場合には、建物3毎に室温のデータ40および気温のデータ41を取得して管理する。
【0050】
なお、断熱性能推定装置1を用いて建物3の断熱性能を推定する場合において、室温のデータ40および気温のデータ41を温度データ管理装置4によって管理することは必須ではない。例えば、建物3の通信装置30に記憶されている室温のデータ40および気温のデータ41をメモリカード等の記憶媒体にコピーし、検査対象の建物3の断熱性能を推定する際に、断熱性能推定装置1がその記憶媒体から室温のデータ40および気温のデータ41を読み出してもよい。
【0051】
次に、断熱性能推定装置1の具体的な構成について説明する。
断熱性能推定装置1は、検査対象の建物3内の暖房器具が設けられた一つの部屋において暖房器具を停止してから所定時間が経過するまでの部屋の温度と気温との差の変化率に基づいて、検査対象の建物3の断熱性能を示すデータを生成する。
【0052】
図5は、本実施の形態に係る断熱性能推定装置1の機能ブロック構成を示す図である。
図6は、本実施の形態に係る断熱性能推定装置1のハードウェア構成を示す図である。
【0053】
断熱性能推定装置1は、例えば、サーバやパーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末等の情報処理装置(コンピュータ)によって実現され、インストールされたプログラムにしたがって各種の演算を行うことにより、検査対象の建物3の断熱性能を推定する装置である。
【0054】
図5に示すように、断熱性能推定装置1は、検査対象の建物3の断熱性能を推定するための機能部として、データ取得部10、変化率算出部11、推定部12、出力部13、および記憶部14を有している。これらの各機能ブロックは、断熱性能推定装置1としての情報処理装置を構成する、
図6に示すハードウェア資源が、上記情報処理装置にインストールされたソフトウエア(断熱性能推定用のプログラムを含む各種プログラム)と協働することによって、実現される。
【0055】
図6に示すように、断熱性能推定装置1は、ハードウェア資源として、例えば、演算装置101、記憶装置102、入力装置103、I/F(Interface)装置104、出力装置105、およびバス106を備えている。
【0056】
演算装置101は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサによって構成されている。記憶装置102は、演算装置101に各種のデータ処理を実行させるためのプログラム1021と、演算装置101によるデータ処理で利用されるパラメータや演算結果等のデータ1022とを記憶する記憶領域を有し、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD、およびフラッシュメモリ等から構成されている。
【0057】
記憶装置102に記憶されるプログラム1021は、コンピュータを断熱性能推定装置1として機能させる断熱性能推定用プログラムを含み、例えば、記憶装置102に予めインストールされている。
【0058】
記憶装置102に記憶されるデータ1022は、例えば、後述する、温度データ42、温度降下率Rのデータ20、対応関係情報21、および断熱性能推定結果22等の各種データである。
【0059】
なお、プログラム1021およびデータ1022は、ネットワークを介して流通可能であってもよいし、CD-ROMやメモリカード等のコンピュータが読み取り可能な記憶媒体(Non-transitory computer readable medium)に書き込まれて流通可能であってもよい。
【0060】
入力装置103は、外部から情報の入力を検出する装置であり、例えばキーボード、マウス、ポインティングデバイス、ボタン、またはタッチパネル等を例示することができる。I/F装置104は、外部とデータの送受信を行う装置であり、例えば、有線または無線によって通信を行うための通信制御回路や入出力ポート、アンテナ等から構成されている。
【0061】
出力装置105は、演算装置101によるデータ処理によって得られた情報等を出力する装置である。出力装置105としては、SSDやHDD等の外部記憶装置や、LCD(Liquid Crystal Display)および有機EL(Electro Luminescence)等の表示装置等を例示することができる。バス106は、演算装置101、記憶装置102、入力装置103、I/F装置104、および出力装置105を相互に接続し、これらの装置間でデータの送受信を可能にする。
【0062】
断熱性能推定装置1は、演算装置101が記憶装置102に記憶されたプログラム1021に従って演算を実行して、記憶装置102、入力装置103、I/F装置104、出力装置105、およびバス106を制御することにより、
図5に示した断熱性能推定装置1の各機能ブロック(データ取得部10、変化率算出部11、推定部12、出力部13、および記憶部14)が実現される。
【0063】
以下、断熱性能推定装置1の各機能ブロックについて詳細に説明する。
【0064】
データ取得部10は、検査対象の建物3の断熱性能を推定するために必要なデータを取得する機能部である。データ取得部10は、ネットワーク5を経由して、温度データ管理装置4を含む外部の情報処理装置等とデータの送受信を行うことにより、必要なデータを取得する。
【0065】
データ取得部10は、検査対象の建物3の室温のデータ40と気温のデータ41を取得する。具体的に、データ取得部10は、温度データ管理装置4と通信を行うことにより、温度データ管理装置4に記憶されているデータの中から検査対象の建物3の室温のデータ40と気温のデータ41を取得する。データ取得部10は、例えば、取得した検査対象の建物3における単位時間毎の室温のデータ40および気温のデータ41を、単位時間t毎の温度データ42_1~42_nとして記憶部14に記憶する。
【0066】
なお、本明細書において、温度データ42_1~42_nのように参照符号に接尾辞が付された構成要素のそれぞれを区別しない場合には、「温度データ42」のように接尾辞を省略する場合がある。
【0067】
なお、検査対象の建物3の室温のデータ40と気温のデータ41は、温度データ管理装置4から取得する場合に限られない。例えば、検査対象の建物3の室温のデータ40と気温のデータ41を予めメモリカード等の記憶媒体に記憶しておく、そして、断熱性能推定装置1を用いて断熱性能を推定する際に、断熱性能推定装置1に記憶媒体を読み込ませて、データ取得部10がその記憶媒体から室温のデータ40と気温のデータ41を取得し、記憶部14に記憶してもよい。
【0068】
記憶部14は、断熱性能推定装置1による建物の断熱性能を推定するために必要な各種データや演算結果等を記憶する機能部である。例えば、記憶部14は、上述した温度データ42の他に、後述する、温度降下率Rのデータ20、対応関係情報21、および断熱性能推定結果22等の各種データを記憶する。
【0069】
変化率算出部11は、温度データ42に基づいて、検査対象の建物3における部屋の温度と気温との差の変化率を算出する機能部である。具体的には、変化率算出部11は、データ取得部10によって取得したデータ(温度データ42)に基づいて、暖房器具を停止させたときの部屋の温度(Tr1)とそのときの検査対象の建物3の周辺の気温(Ta1)との差を表す第1の値と、暖房器具を停止してから所定時間tsが経過したときの部屋の温度(Trn)とそのときの検査対象の建物3の周辺の気温(Tan)との差を表す第2の値とを算出し、第1の値(Tr1-Ta1)と第2の値(Trn-Ta1)との間の比に基づいて変化率を算出する。
【0070】
より具体的には、変化率算出部11は、上述した式(1)に基づいて、第1の値(Tr1-Ta1)に対する第2の値(Trn-Ta1)の割合を算出し、温度降下率Rとして出力する。
【0071】
このとき、変化率算出部11は、暖房器具の停止時(t=t1)の温度降下率R(=100%)と暖房器具を停止してから所定時間ts経過時(t=tn)の温度降下率Rを少なくとも算出し、温度降下率R(t=t1)のデータ20_1および温度降下率R(t=tn)のデータ20_nとして記憶部14に記憶する。
【0072】
なお、変化率算出部11は、単位時間t毎に温度降下率Rを算出してもよい。例えば、t=t1~tn(nは2以上の整数)の各時刻における温度降下率Rを夫々算出し、温度降下率Rのデータ20_1~20_nとして記憶部14に記憶してもよい。
【0073】
推定部12は、温度降下率Rに基づいて検査対象の建物3の断熱性能を推定する機能部である。推定部12は、例えば、予め設定された、建物の断熱性能を表す複数の等級の中から、変化率算出部11によって算出された温度降下率Rに対応する一つの等級を選択し、断熱性能の推定結果(断熱性能推定結果22)として出力する。
【0074】
図2に示したように、建物3の温度降下率RとQ値との間には相関がある。そこで、Q値に基づいて建物の断熱性能を複数の等級(区分)に分け、各等級と温度降下率Rとの対応関係を示す対応関係情報21を予め作成しておき、記憶部14に記憶しておく。そして、推定部12は、記憶部14に記憶された対応関係情報21を用いて、変化率算出部11によって算出された温度降下率Rから断熱性能を表す等級を決定する。
【0075】
図7は、温度降下率Rと断熱性能の等級との対応関係の一例を示す図である。
図7において、横軸は断熱性能の等級1~4を表し、縦軸は温度降下率Rを表している。
【0076】
断熱性能の等級1~4は、例えば、国土交通省によって定められている省エネルギー対策等級に準じたものである。各等級は、Q値に基づいて設定されている。
【0077】
図7には、上述した実験結果(
図2参照)に基づいて温度降下率Rとそれに対応するQ値との対応関係を導出し、各等級1~4のQ値の範囲毎に対応する温度降下率Rの範囲を表した箱ひげ図が示されている。
【0078】
例えば、
図7に示す箱ひげ図に基づいて、温度降下率Rと等級1~4との対応関係を表す対応関係情報21を予め作成し、記憶部14に記憶しておく。記憶部14に記憶される対応関係情報21は、温度降下率Rと等級1~4との関係を示すテーブル形式のデータであってもよいし、温度降下率Rと等級1~4との関係を示す関数(数式)のデータであってもよい。
【0079】
推定部12は、
図7に示すような対応関係情報21を用いて、変化率算出部11によって算出された温度降下率Rから一つの等級を選択して、断熱性能推定結果22として記憶部14に記憶する。
【0080】
出力部13は、推定部12による断熱性能の推定結果を出力する機能部である。具体的に、出力部13は、例えば、記憶部14に記憶されている断熱性能推定結果22としての断熱性能を示す等級の情報を、断熱性能推定装置1の出力装置105としての表示装置(ディスプレイ)に表示する。また、出力部13は、断熱性能を示す等級の情報や温度降下率Rの情報等を、断熱性能推定装置1のI/F装置104を介して、外部のストレージや情報処理装置等に出力してもよい。
【0081】
また、出力部13は、検査対象の建物3の温度降下率Rの時間的な変化を表す情報を表示装置の画面上に表示してもよい。このとき、出力部13は、検査対象の建物3とは異なる建物の温度降下率Rの時間的な変化を表す情報を画面上に表示してもよい。更に、出力部13は、表示装置の画面上に、温度降下率Rと時間の2つの座標で表される2次元空間を表示し、当該2次元空間に上記等級1~4毎の領域を表示するとともに、各等級1~4の大きさを示すシンボルを表示してもよい。
【0082】
図8は、表示装置の画面上に表示される断熱性能に関する情報の表示例を示す図である。
図8には、断熱性能推定装置1の表示装置の表示画面500が示されている。表示画面500には、横軸を経過時間〔h〕とし、縦軸を温度降下率〔%〕とした2次元空間が示され、検査対象の建物3の時刻t0(=0)から時刻tn(=6)までの温度降下率Rの時間的な変化を示すグラフ400と、検査対象の建物3と異なる建物の時刻t0(=0)から時刻tn(=6)までの温度降下率Rの時間的な変化を示すグラフ405が示されている。
【0083】
ここで、検査対象の建物3と異なる建物とは、検査対象の建物3と異なる場所に建設された建物であってもよいし、検査対象の建物3のリフォーム前またはリフォーム後の建物であってもよい。
【0084】
また、表示画面500には、上記2次元空間における各等級1~4の領域402が表示され、例えば、各領域402内には、当該領域に対応する等級の大きさを示すシンボル(例えば、星形のシンボル)403が表示されている。例えば、等級4の領域には4つの星印が表示され、等級1の領域には1つの星印が表示されている。
【0085】
このように、出力部13は、
図8に示すような表示画面500を表示装置に表示させることにより、検査対象の建物の断熱性能に関する情報をユーザに提示してもよい。
【0086】
次に、断熱性能推定装置1による断熱性能を推定するための処理の流れについて説明する。
【0087】
図9は、本実施の形態に係る断熱性能推定装置1による断熱性能を推定するための処理の流れを示すフロー図である。
【0088】
図9に示すように、先ず、断熱性能推定装置1は、検査対象の建物3の温度データ42を取得する(ステップS1)。例えば、断熱性能推定装置1は、温度データ管理装置4にアクセスし、データ取得部10が温度データ管理装置4に記憶されている検査対象の建物3の室温のデータ40および気温のデータ41を取得して、記憶部14に温度データ42として記憶する。あるいは、断熱性能推定装置1がメモリカード等の記憶媒体にアクセスし、データ取得部10が、当該記憶媒体から検査対象の建物3の室温のデータ40および気温のデータ41を読み出してもよい。
【0089】
次に、断熱性能推定装置1は、温度降下率Rを算出する(ステップS2)。
具体的には、先ず、変化率算出部11が、ステップS1で取得した検査対象の建物3の室温のデータ40および気温のデータ41から、暖房器具を停止した時刻t0での室温(Tr1)および気温(Ta1)の計測値と、暖房器具を停止してから所定時間が経過したときの時刻tnでの室温(Trn)および気温(Tan)の計測値とを取得する。次に、変化率算出部11が、取得した計測値を上記式(1)に代入することにより、温度降下率R(t=tn)を算出する。なお、このとき、変化率算出部11は、時刻t1~tnまでの単位時間t毎の温度降下率R(t=t0)~R(t=n)を算出してもよい。
【0090】
次に、断熱性能推定装置1は、ステップS2で算出した温度降下率Rに基づいて、検査対象の建物3の断熱性能を推定する(ステップS3)。具体的には、推定部12が、予め記憶部14に記憶されている温度降下率Rと断熱性能の等級1~4との対応関係情報21を用いて、ステップS2で算出した温度降下率Rに対応する等級を選択し、断熱性能推定結果22とする。
【0091】
次に、断熱性能推定装置1は、ステップS3で推定した断熱性能推定結果22を出力する(ステップS4)。具体的には、出力部13が、断熱性能推定結果22として断熱性能の等級の情報を表示装置(ディスプレイ)に表示させる。
また、時刻t1~tnまでの単位時間t毎の温度降下率R(t=t0)~R(t=n)を算出している場合には、出力部13は、
図8の表示画面500のように、温度降下率Rの時間的な変化を表すグラフ400を表示してもよい。また、表示画面500のように、境界線によって画成される断熱性能の各等級の範囲(領域402)と、各等級を表す星形のシンボル403とを、グラフ400とともに一つの画面に表示させてもよい。
【0092】
以上、本実施の形態に係る断熱性能推定装置1は、検査対象の建物3内の暖房器具が設けられた一つの部屋において暖房器具を停止してから所定時間が経過するまでの部屋の温度と気温との差の変化率に基づいて、検査対象の建物3の断熱性能を示すデータを生成する。
【0093】
具体的には、断熱性能推定装置1は、暖房器具を停止したときの一つの部屋の温度(Tr1)とそのときの検査対象の建物3の周辺の気温(Ta1)との差を表す第1の値(Tr1-Ta1)と、暖房器具を停止してから所定時間tsが経過したときの部屋の温度(Trn)とそのときの検査対象の建物3の周辺の気温Tanとの差を表す第2の値(Trn-Tan)との間の比に基づいて上記変化率を算出し、当該変化率に基づいて検査対象の建物3の断熱性能を推定する。より具体的には、上記変化率として第1の値に対する第2の値の割合(温度降下率R)を算出する。
【0094】
図2に示したように、上述した手法によって算出した温度降下率Rと断熱性能(Q値)とは相関がある。したがって、断熱性能推定装置1のように、検査対象の建物3の温度降下率Rを算出することにより、断熱性能を推定することが可能となる。
【0095】
検査対象の建物の温度降下率Rを算出するために、暖房器具が設置された一つの部屋の室温および気温を計測すれば足り、建物内の複数の部屋の温度を計測する必要はない。また、温度降下率Rを算出するために複雑な演算も必要ない。
【0096】
このように、本実施の形態に係る断熱性能推定装置1によれば、居住者の負担を抑えつつ、より簡単に建物の断熱性能を推定することが可能となる。
【0097】
また、断熱性能を推定するための指標として温度そのものではなく温度の変化率(温度降下率R)を用いることにより、計測環境等によって計測開始時の温度が異なる場合であっても、共通の尺度で断熱性能を評価することができるので、後述するように、他の住宅との断熱性能の比較やリフォーム前後の断熱性能の比較が容易となる。
【0098】
また、断熱性能推定装置1は、予め設定された、建物の断熱性能を表す複数の等級の中から、算出した温度降下率Rに対応する一つの等級を選択し、断熱性能推定結果22として出力する。
これによれば、熱損失係数(Q値)のような正確で細かい数値を断熱性能推定結果として出力する場合に比べて、居住者等に建物の断熱性能を直観的に理解してもらうことが可能となる。
【0099】
更に、断熱性能推定装置1は、温度降下率Rの時間的な変化を表す情報(グラフ400)を表示装置の画面上に表示させる。これによれば、検査対象の建物における温度降下率が低下していく様子を提示することができるので、居住者等に検査対象の建物の断熱性能をより直観的に理解してもらうことが可能となる。
【0100】
断熱性能推定装置1は、更に、検査対象の建物以外の建物の温度降下率Rの時間的な変化を表す情報(グラフ405)を表示する。これによれば、検査対象の建物とそれ以外の建物の温度降下率Rの変化を一つの画面に同時に表示することができるので、居住者等が、別の住宅との断熱性能の比較やリフォーム前後の断熱性能の比較等を行うことが容易となる。
【0101】
更に、断熱性能推定装置1は、表示装置の画面上に、温度降下率Rと時間の2つの座標で表される2次元空間を表示するとともに、当該2次元空間に等級毎の領域402を表示し、各等級の大きさを示すシンボル403を表示する。
これによれば、検査対象の建物3の温度降下率の時間的な変化を表すグラフ400と、その建物3の断熱性能の等級を一つの画面に表示することができるので、居住者等に建物の断熱性能をより直観的に理解してもらうことが可能となる。
【0102】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0103】
例えば、上記実施の形態では、検査対象の建物3の外部に設置した温度計32によって計測した気温のデータ41を用いる場合を例示したが、これに限られない。例えば、検査対象の建物3が存在する地域の日平均気温の情報(例えば、メッシュデータ)を、ネットワーク5に接続されている外部サーバ等から取得して、気温のデータ41として用いてもよい。ここで、外部サーバとは、各種気象データを提供するサーバであり、例えば、気象庁のサーバである。これによれば、建物3の外部に温度計32を設置する必要がないので、居住者の負担を更に低減することができる。
【0104】
また、上記実施の形態では、断熱性能推定装置1が備える表示装置に断熱性能推定結果22等の各種情報を表示する場合を例示したが、断熱性能推定のためのデータ処理を実行する装置と推定結果を表示する装置とは別々に構成されていてもよい。例えば、断熱性能推定するためのデータ処理の実行をユーザ端末(例えば、PCやタブレット端末等)からサーバに指示し、サーバが断熱性能推定のためのデータ処理を実行する場合、サーバが断熱性能推定結果22等をユーザ端末に送信し、ユーザ端末がサーバから受信した断熱性能推定結果22等をユーザ端末の表示装置に表示させてもよい。
【0105】
また、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、各処理間に他の処理が挿入されてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1…断熱性能推定装置、3…建物、4…温度データ管理装置、5…ネットワーク、30…通信装置、31,32…温度計、40…室温のデータ、41…気温のデータ、10…データ取得部、11…変化率算出部、12…推定部、13…出力部、14…記憶部、20_1~20_n…温度降下率、21…対応関係情報、22…断熱性能推定結果、101…演算装置、102…記憶装置、103…入力装置、104…I/F装置、105…出力装置、106…バス、1021…プログラム(学習済みモデル生成用プログラム)、1022,1024…データ、1023…プログラム(断熱性能推定用プログラム)。