(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20250210BHJP
【FI】
H01F37/00 A
H01F37/00 J
H01F37/00 M
H01F37/00 S
(21)【出願番号】P 2021045709
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】村下 将也
(72)【発明者】
【氏名】古川 尚稔
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩平
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-053432(JP,A)
【文献】特開2016-201509(JP,A)
【文献】特開2000-294429(JP,A)
【文献】特開2020-092117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一巻回部を有するコイルと磁性コアとを備え、
前記磁性コアは、
前記第一巻回部の内部に配置されるミドルコア部と、
前記第一巻回部の第一の端面に臨む第一エンドコア部と、
前記第一巻回部の第二の端面に臨む第二エンドコア部と、
前記第一巻回部の第一の側面の外側に配置され、前記第一エンドコア部と前記第二エンドコア部とをつなぐ第一サイドコア部と、
前記第一巻回部の第二の側面の外側に配置され、前記第一エンドコア部と前記第二エンドコア部とをつなぐ第二サイドコア部とを備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとを一体化する樹脂モールド部を備え、
前記磁性コアは、前記第一エンドコア部を含む第一分割コアと、前記ミドルコア部の少なくとも一部を含む第二分割コアとを備え、
前記第一分割コアは、
前記第一巻回部の内部空間に向く第一端面と、
前記第一エンドコア部の外方面から前記第一端面に向かって貫通する貫通孔とを備え、
前記第二分割コアは、
前記第一端面と隙間を空けて向き合う第二端面を備え、
前記樹脂モールド部の一部は、前記貫通孔と前記隙間とに配置されて
おり、
前記貫通孔の軸線は、前記ミドルコア部の軸方向に沿っており、
前記貫通孔は、前記ミドルコア部の軸心を含む
リアクトル。
【請求項2】
S1/S2が0.02以上0.15以下であり、
S1は前記貫通孔の横断面の面積であり
、
S2は前記ミドルコア部の横断面の輪郭線の内側の面積である
請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記第二端面は、前記第二端面の外周縁部に沿って設けられた環状のリブを備える請求項1
または請求項2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記第一分割コアは、前記第一エンドコア部と、前記ミドルコア部の少なくとも一部とで構成される概略T字形状を備え、
前記第二分割コアは、前記第二エンドコア部と、前記ミドルコア部の残部と、前記第一サイドコア部と、前記第二サイドコア部とで構成される概略E字形状を備える請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記第一分割コアは、軟磁性粉末を含む圧粉成形体である請求項1から
請求項4のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項6】
前記第二分割コアは、樹脂と、前記樹脂中に分散した軟磁性粉末とを含む複合材料の成形体である請求項1から
請求項5のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項7】
請求項1から
請求項6のいずれか1項に記載のリアクトルを備える、
コンバータ。
【請求項8】
請求項7に記載のコンバータを備える、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車などに備わるコンバータの構成部品にリアクトルがある。例えば、特許文献1に記載されるリアクトルは、コイルと磁性コアとを組み合わせた組合体と、組合体の少なくとも一部を覆う樹脂モールド部とを備える。コイルは、巻線を巻回してなる巻回部を備える。このリアクトルでは、樹脂モールド部の一部が、巻回部の内部に配置される分割コア間の隙間に配置され、樹脂ギャップ部を構成している。
【0003】
例えば、特許文献2の
図5から
図8には、巻回部の数が一つであるリアクトルが開示されている。このリアクトルの磁性コアは概略『8』の字形状となっている。この磁性コアは、巻回部の内部に配置されるミドルコア部と、巻回部の外周面の外側に配置される二つのサイドコア部と、巻回部の端面に配置される二つのエンドコア部とに区分される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-135334号公報
【文献】特開2016-201509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハイブリッド自動車などの電動車両の発達に伴い、生産性に優れる簡易な構成を有するリアクトルが求められている。また、リアクトルに通電される電流が大きくなる傾向にあるため、簡易な構成でありながら放熱性に優れるリアクトルが求められている。
【0006】
本開示は、簡易な構成でありながら放熱性に優れるリアクトルを提供することを目的の一つとする。また、本開示は、簡易な構成でありながら放熱性に優れるリアクトルを備えるコンバータ、及び電力変換装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のリアクトルは、第一巻回部を有するコイルと磁性コアとを備え、前記磁性コアは、前記第一巻回部の内部に配置されるミドルコア部と、前記第一巻回部の第一の端面に臨む第一エンドコア部と、前記第一巻回部の第二の端面に臨む第二エンドコア部と、前記第一巻回部の第一の側面の外側に配置され、前記第一エンドコア部と前記第二エンドコア部とをつなぐ第一サイドコア部と、前記第一巻回部の第二の側面の外側に配置され、前記第一エンドコア部と前記第二エンドコア部とをつなぐ第二サイドコア部とを備えるリアクトルであって、前記コイルと前記磁性コアとを一体化する樹脂モールド部を備える。前記磁性コアは、前記第一エンドコア部を含む第一分割コアと、前記ミドルコア部の少なくとも一部を含む第二分割コアとを備える。前記第一分割コアは、前記第一巻回部の内部空間に向く第一端面と、前記第一エンドコア部の外方面から前記第一端面に向かって貫通する貫通孔とを備える。前記第二分割コアは、前記第一端面と隙間を空けて向き合う第二端面を備える。前記樹脂モールド部の一部は、前記貫通孔と前記隙間とに配置されている。
【0008】
本開示のコンバーターは、本開示のリアクトルを備える。
【0009】
本開示の電力変換装置は、本開示のコンバーターを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示のリアクトルは、簡易な構成でありながら放熱性に優れる。また、本開示のコンバーター及び電力変換装置では、通電に伴う発熱によってその性能が低下し難い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るリアクトルの概略斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係るリアクトルの概略上面図である。
【
図3】
図3は、
図1のリアクトルに備わる磁性コアの概略正面図である。
【
図4】
図4は、実施形態2に係るリアクトルに備わる磁性コアの第二端面の近傍を示す部分拡大斜視図である。
【
図5】
図5は、実施形態2に係るリアクトルに備わる磁性コアの概略部分上面図である。
【
図6】
図6は、実施形態3に係るリアクトルに備わる磁性コアの概略上面図である。
【
図7】
図7は、実施形態4に係るリアクトルに備わる磁性コアの概略上面図である。
【
図8】
図8は、実施形態5に係るリアクトルに備わる磁性コアの概略上面図である。
【
図9】
図9は、ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す構成図である。
【
図10】
図10は、コンバータを備える電力変換装置の一例の概略を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、簡易な構成を備えるリアクトルとして、以下の三つの構成を備えるリアクトルを検討した。
・磁性コアが、第一分割コアと第二分割コアとを組み合わせた概略『8』の字型の磁性コアである構成。
・上記磁性コアのミドルコア部の位置において、第一分割コアと第二分割コアとの間に隙間が形成される構成。
・磁性コアとコイルとの組合体が樹脂によってモールドされ、その樹脂の一部が上記隙間に配置される構成。
【0013】
しかし、上記構成を備えるリアクトルでは、ミドルコア部の位置に配置される上記隙間に樹脂が十分に行き渡り難い。当該隙間への樹脂の充填が不十分であると、上記隙間において樹脂が存在しないエアポケットが形成される。エアポケットは、第一分割コアと第二分割コアとの間の熱伝導を阻害するので、リアクトルの放熱性が低下する。本発明者らは、このような問題点を踏まえて、本開示に係るリアクトルを完成させた。最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
<1>実施形態に係るリアクトルは、第一巻回部を有するコイルと磁性コアとを備え、前記磁性コアは、前記第一巻回部の内部に配置されるミドルコア部と、前記第一巻回部の第一の端面に臨む第一エンドコア部と、前記第一巻回部の第二の端面に臨む第二エンドコア部と、前記第一巻回部の第一の側面の外側に配置され、前記第一エンドコア部と前記第二エンドコア部とをつなぐ第一サイドコア部と、前記第一巻回部の第二の側面の外側に配置され、前記第一エンドコア部と前記第二エンドコア部とをつなぐ第二サイドコア部とを備えるリアクトルであって、前記コイルと前記磁性コアとを一体化する樹脂モールド部を備える。前記磁性コアは、前記第一エンドコア部を含む第一分割コアと、前記ミドルコア部の少なくとも一部を含む第二分割コアとを備える。前記第一分割コアは、前記第一巻回部の内部空間に向く第一端面と、前記第一エンドコア部の外方面から前記第一端面に向かって貫通する貫通孔とを備える。前記第二分割コアは、前記第一端面と隙間を空けて向き合う第二端面を備える。前記樹脂モールド部の一部は、前記貫通孔と前記隙間とに配置されている。
【0015】
上記構成<1>のリアクトルは簡素な構成を備える。上記構成のリアクトルの磁性コアは、第一分割コアと第二分割コアとで構成されている。そのため、このリアクトルは、コイルに対して第一分割コアと第二分割コアとを組み付けて、コイルと磁性コアとを樹脂によって一体化することで作製される。コイルと磁性コアとを一体化する樹脂は、固化することで樹脂モールド部になる。このように、上記構成のリアクトルは簡素な構成を備え、生産性に優れる。
【0016】
上記構成<1>のリアクトルは放熱性に優れる。リアクトルが作製される際、コイルと磁性コアとを一体化する樹脂の一部は、第一エンドコア部の貫通孔に流れ込む。貫通孔は第一エンドコア部の外方面から第一端面に向かって貫通している。そのため、貫通孔を介して十分な量の樹脂が第一端面と第二端面との隙間に充填され易い。上記隙間に配置された樹脂は固化して樹脂ギャップになる。十分な量の樹脂によって形成される樹脂ギャップには、エアポケットが出来難い。エアポケットが少ない樹脂ギャップによって第一分割コアと第二分割コアとの間の熱伝導が良好になる。従って、リアクトルの放熱性が向上する。
【0017】
上記構成では、樹脂をモールドする際、樹脂が貫通孔に流れ込んで、第一エンドコア部の外方面に作用する面圧が低下する。従って、モールドの圧力が大きくても、第一エンドコア部が損傷し難い。圧力が高いと、第一端面と第二端面との隙間だけでなく、ミドルコア部と第一巻回部との隙間にも十分に樹脂が行き渡り易い。
【0018】
第一分割コアに貫通孔が設けられることで第一分割コアの実体部分が減る。従って、上記構成のリアクトルは、第一分割コアに貫通孔を有さないリアクトルに比べて軽量である。ここで、後述する実施形態において詳述するように、貫通孔が設けられる位置が、磁性コアの磁束が通り難い箇所である。従って、貫通孔によるリアクトルの磁気特性の低下は限定的である。
【0019】
<2>実施形態に係るリアクトルの一形態として、前記貫通孔の軸線は、前記ミドルコア部の軸方向に沿っており、前記貫通孔は、前記ミドルコア部の軸心を含む形態が挙げられる。
【0020】
貫通孔がミドルコア部の軸心を含む位置に配置されていることで、貫通孔が磁性コアの磁気特性を低下させ難い。
【0021】
<3>実施形態に係るリアクトルの一形態として、S1/S2が0.02以上0.15以下であり、S1は前記貫通孔の横断面の面積でありS2は前記ミドルコア部の横断面の輪郭線の内側の面積である形態が挙げられる。
【0022】
上記形態<3>の構成によれば、リアクトルの磁気特性が大きく低下することなく、リアクトルの重量が低減される。
【0023】
<4>実施形態に係るリアクトルの一形態として、前記第二端面は、前記第二端面の外周縁部に沿って設けられた環状のリブを備える形態が挙げられる。
【0024】
第二端面が環状のリブを備えることで、リアクトルの作製時に貫通孔から隙間に浸入した樹脂が隙間の位置に留まり易い。従って、上記形態<4>の構成では、樹脂ギャップにエアポケットができ難い。
【0025】
<5>実施形態に係るリアクトルの一形態として、前記第一分割コアは、前記第一エンドコア部と、前記ミドルコア部の少なくとも一部とで構成される概略T字形状を備え、前記第二分割コアは、前記第二エンドコア部と、前記ミドルコア部の残部と、前記第一サイドコア部と、前記第二サイドコア部とで構成される概略E字形状を備える形態が挙げられる。
【0026】
上記形態<5>の構成では、各分割コアが単純な形状であるので、分割コアの作製が容易である。従って、上記形態<5>のリアクトルは、コストを含めた生産性に優れる。
【0027】
<6>実施形態に係るリアクトルの一形態として、前記第一分割コアは、軟磁性粉末を含む圧粉成形体である形態が挙げられる。
【0028】
圧粉成形体は透磁率などの磁気特性に優れる。従って、圧粉成形体によって第一分割コアを形成することで、貫通孔による第一分割コアの磁気特性の低下を補える。従って、貫通孔を有する第一分割コアであっても磁気特性に優れるリアクトルを作製できる。
【0029】
<7>実施形態に係るリアクトルの一形態として、前記第二分割コアは、樹脂と、前記樹脂中に分散した軟磁性粉末とを含む複合材料の成形体である形態が挙げられる。
【0030】
複合材料の成形体は、軟磁性粉末の含有量によってその磁気特性を調整し易い。例えば、複合材料の第二分割コアを用いて磁性コア全体の磁気特性を調整することで、磁気飽和し難い磁性コアとできる。
【0031】
<8>実施形態に係るコンバータは、上記形態<1>から形態<7>のいずれかのリアクトルを備える。
【0032】
上記コンバータは、放熱性に優れる実施形態のリアクトルを備える。放熱性に優れる実施形態のリアクトルでは、通電に伴う発熱によって磁気特性が低下し難い。従って、上記コンバータでは、通電に伴うコンバータの性能低下が生じ難い。
【0033】
<9>実施形態に係る電力変換装置は、上記形態<8>のコンバータを備える。
【0034】
上記電力変換装置では、通電に伴う電力変換装置の性能低下が生じ難い。なぜなら、電力変換装置に備わる実施形態のリアクトルが放熱性に優れるからである。
【0035】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示のリアクトルの実施形態を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、本発明は実施形態に示される構成に限定されるわけではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内の全ての変更が含まれることを意図する。
【0036】
<実施形態1>
図1,2に示される本例のリアクトル1は、コイル2と磁性コア3とを組み合わせて構成される。このリアクトル1の特徴の一つとして、磁性コア3の一部に貫通孔4が設けられていることが挙げられる。以下、リアクトル1に備わる各構成を詳細に説明する。
【0037】
≪コイル≫
コイル2は、一つの第一巻回部21を有する。第一巻回部21は、接合部の無い1本の巻線を螺旋状に巻回して構成される。巻線は、公知の巻線を利用できる。本形態の巻線は、被覆平角線を用いている。被覆平角線の導体線は、銅製の平角線で構成されている。被覆平角線の絶縁被覆は、エナメルからなる。第一巻回部21は、被覆平角線をエッジワイズ巻きしたエッジワイズコイルで構成されている。
【0038】
第一巻回部21の形状は矩形筒状である。即ち、本例の第一巻回部21の端面形状は矩形枠状である。本例の第一巻回部21の角部は丸められている。第一巻回部21の形状が矩形筒状であることで、巻回部が同じ断面積の円筒状である場合に比較して、第一巻回部21と設置対象との接触面積が大きくなり易い。そのため、リアクトル1は、第一巻回部21を介して設置対象に放熱し易い。その上、第一巻回部21を設置対象に安定して設置し易い。
【0039】
第一巻回部21の端部2a及び端部2bはそれぞれ、第一巻回部21の軸方向の一端側及び他端側において、第一巻回部21の外周側へ引き伸ばされている。第一巻回部21の端部2a及び端部2bでは絶縁被覆が剥がされて導体線が露出している。露出した導体線には、図示しない端子部材が接続される。コイル2にはこの端子部材を介して外部装置が接続される。外部装置の図示は省略する。外部装置は、例えばコイル2に電力供給を行なう電源などである。
【0040】
≪磁性コア≫
磁性コア3は、
図2に示すように、ミドルコア部30と、第一エンドコア部31と、第二エンドコア部32と、第一サイドコア部33と、第二サイドコア部34とを備える。
図2では各コア部30,31,32,33,34の境界が二点鎖線で示されている。ミドルコア部30は、磁性コア3のうち、第一巻回部21の内部に配置される部分を有する部位である。第一エンドコア部31は、磁性コア3のうち、第一巻回部21の第一の端面211に臨む部分である。第二エンドコア部32は、磁性コア3のうち、第一巻回部21の第二の端面212に臨む部分である。第一サイドコア部33は、磁性コア3のうち、第一巻回部21の第一の側面213の外側に配置される部分である。第二サイドコア部34は、磁性コア3のうち、第一巻回部21の第二の側面214の外側に配置される部分である。
【0041】
この磁性コア3では、ミドルコア部30、第一エンドコア部31、第一サイドコア部33、及び第二エンドコア部32に、太破線で示される環状の閉磁路が形成される。また、ミドルコア部30、第一エンドコア部31、第二サイドコア部34、及び第二エンドコア部32に、太破線で示される環状の閉磁路が形成される。
【0042】
ここで、磁性コア3を基準にしてリアクトル1における方向を規定する。まず、ミドルコア部30の軸方向に沿った方向がX方向である。そのX方向に直交し、ミドルコア部30と第一サイドコア部33と第二サイドコア部34とが並列される方向がY方向である。そして、X方向とY方向の両方に交差する方向がZ方向(
図1)である。
【0043】
[ミドルコア部]
磁性コア3の一部であるミドルコア部30は、
図2に示されるように、第一巻回部21の内部に配置される。従って、ミドルコア部30は、第一巻回部21の軸方向に沿って延びる。本例では、磁性コア3のうち、第一巻回部21の軸方向に沿った部分の両端部がそれぞれ、第一巻回部21の第一の端面211及び第二の端面212から突出している。その突出する部分もミドルコア部30の一部である。
【0044】
ミドルコア部30の形状は、第一巻回部21の内部形状に沿った形状であれば特に限定されない。本例のミドルコア部30は、略直方体状である。
【0045】
[第一エンドコア部・第二エンドコア部]
第一エンドコア部31及び第二エンドコア部32は、第一巻回部21のY方向の幅よりも大きい。即ち、第一エンドコア部31は、第一巻回部21の第一の端面211よりもY方向の外側に張り出している。第二エンドコア部32は、第一巻回部21の第二の端面212よりもY方向の外側に張り出している。
【0046】
第一エンドコア部31と第二エンドコア部32の形状は、各エンドコア部31,32の内部に十分な磁路が形成される形状であれば特に限定されない。本例の第一エンドコア部31及び第二エンドコア部32は略直方体状である。Z方向から見た第一エンドコア部31及び第二エンドコア部32の4つの角部のうち、両サイドコア部33,34から遠い位置にある2つの角部は、丸みを有していも良い。上記2つの角部が丸みを有していると、エンドコア部31,32の重量が削減される。上記2つの角部は、磁束が通り難い箇所である。従って、上記2つの角部が丸められていても、リアクトル1の磁気特性は低下し難い。
【0047】
本例の第一エンドコア部31は、外方面310に設けられる貫通孔4を備える。外方面310は、第一エンドコア部31におけるX方向を向く二つの面のうち、コイル2から離れた位置にある面である。この貫通孔4によって第一エンドコア部31の重量が低減される。貫通孔4の詳細については後述する。
【0048】
[第一サイドコア部・第二サイドコア部]
第一サイドコア部33は、第一巻回部21の第一の側面213の外側において、第一エンドコア部31と第二エンドコア部32とをつなぐ。第一サイドコア部33の軸方向は、ミドルコア部30の軸方向に平行となっている。第一の側面213は、第一巻回部21におけるY方向に向く面である。
【0049】
第二サイドコア部34は、第一巻回部21の第二の側面214の外側において、第一エンドコア部31と第二エンドコア部32とをつなぐ。第二の側面214は、第一巻回部21におけるY方向に向く面であって、第一の側面213の反対方向に向いた面である。第二サイドコア部34の軸方向は、ミドルコア部30の軸方向に平行となっている。本例では、ミドルコア部30の軸線と、第一サイドコア部33の軸線と、第二サイドコア部34の軸線とは、XY平面上に配置されている。
【0050】
[サイズ]
本例のリアクトル1が車載用である場合、磁性コア3のX方向の長さLは、例えば30mm以上150mm以下、磁性コア3のY方向の幅Wは、例えば30mm以上150mm以下、Z方向の高さH(
図1)は、例えば15mm以上75mm以下である。
【0051】
ミドルコア部30のY方向の長さT0は、例えば10mm以上50mm以下である。第一エンドコア部31のX方向の長さT1、及び第二エンドコア部32のX方向の長さT2は、例えば5mm以上40mm以下である。また、第一サイドコア部33のY方向の長さT3、及び第二サイドコア部34のY方向の長さT4は、例えば5mm以上40mm以下である。これらの長さは、磁性コア3の磁路断面積の大きさに関わる。
【0052】
[分割形態]
磁性コア3は、第一分割コア3Aと第二分割コア3Bとを組み合わせてなる。本例の第一分割コア3Aは、第一エンドコア部31と、ミドルコア部30の一部とで構成されている。Z方向から見た第一分割コア3Aの形状は、略T字形状である。第一分割コア3Aは、第一巻回部21の内部空間に向く第一端面3aを備える。第一端面3aはY-Z平面に平行である。
【0053】
本例の第二分割コア3Bは、第二エンドコア部32と、第一サイドコア部33と、第二サイドコア部34と、ミドルコア部30の一部とで構成されている。Z方向から見た第二分割コア3Bの形状は、略E字形状である。第二分割コア3Bは、第一巻回部21の内部空間に向く第二端面3bを備える。第二端面3bは第一端面3aに向き合う。第二端面3bはY-Z平面に平行である。
【0054】
第一端面3aと第二端面3bとの間には隙間3gが形成されている。この隙間3gには、後述する樹脂モールド部5の一部が配置されている。隙間3gに配置される樹脂モールド部5の一部は、樹脂ギャップとして機能する。
【0055】
[磁気特性・材質など]
第一分割コア3Aと第二分割コア3Bは、軟磁性粉末を含む原料粉末を加圧成形してなる圧粉成形体、又は軟磁性粉末と樹脂との複合材料の成形体であることが好ましい。第一分割コア3Aと第二分割コア3Bが圧粉成形体であっても良いし、第一分割コア3Aと第二分割コア3Bが複合材料の成形体であっても良い。また、第一分割コア3Aと第二分割コア3Bの一方が圧粉成形体で、他方が複合材料の成形体であっても良い。このような磁性コア3は磁気飽和し難い。後述する貫通孔4が設けられる第一分割コア3Aが圧粉成形体で構成され、第二分割コア3Bが複合材料の成形体で構成されることが好ましい。
【0056】
圧粉成形体の軟磁性粉末は、鉄などの鉄族金属、又はFe(鉄)-Si(シリコン)合金、Fe-Ni(ニッケル)合金などの鉄合金などで構成される軟磁性粒子の集合体である。軟磁性粒子の表面には、リン酸塩などで構成される絶縁被覆が形成されていても良い。原料粉末には潤滑材などが含まれていてもかまわない。
【0057】
複合材料の成形体は、軟磁性粉末と未固化の樹脂との混合物を金型に充填し、樹脂を固化させることで製造できる。複合材料の軟磁性粉末には、圧粉成形体で使用できるものと同じものを使用できる。一方、複合材料に含まれる樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、常温硬化性樹脂、及び低温硬化性樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ナイロン6やナイロン66といったポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂などが挙げられる。その他、不飽和ポリエステルに炭酸カルシウムやガラス繊維が混合されたBMC(Bulk molding compound)、ミラブル型シリコーンゴム、ミラブル型ウレタンゴム等も利用できる。
【0058】
上述の複合材料は、軟磁性粉末及び樹脂に加えて、非金属粉末を含有していても良い。非金属粉末は複合材料の成形体の放熱性を向上させる。非金属粉末としては、例えばアルミナ又はシリカなどのセラミックスフィラーが挙げられる。セラミックスフィラーは非磁性材料でもある。非金属粉末の含有量は、0.2質量%以上20質量%以下、更に0.3質量%以上15質量%以下、0.5質量%以上10質量%以下が挙げられる。
【0059】
複合材料中の軟磁性粉末の含有量は、30体積%以上80体積%以下であることが挙げられる。飽和磁束密度や放熱性の向上の観点から、軟磁性粉末の含有量は更に、50体積%以上、60体積%以上、70体積%以上とすることができる。製造過程での流動性の向上の観点から、軟磁性粉末の含有量を75体積%以下とすることが好ましい。複合材料の成形体では、軟磁性粉末の充填率を低く調整すれば、その比透磁率を小さくし易い。複合材料の成形体の比透磁率は、例えば5以上50以下である。複合材料の成形体の比透磁率は、更に10以上45以下、15以上40以下、20以上35以下であっても良い。本例では、第二分割コア3B全体が複合材料の成形体によって構成されている。
【0060】
圧粉成形体は、複合材料の成形体よりも軟磁性粉末の含有量を高め易い。例えば、圧粉成形体における軟磁性粉末の含有量は、80体積%超、更に85体積%以上である。圧粉成形体からなる分割コアは、飽和磁束密度、及び比透磁率が高い分割コアとなり易い。圧粉成形体の比透磁率は、例えば50以上500以下である。圧粉成形体の比透磁率は、80以上、100以上、150以上、180以上であっても良い。本例では、貫通孔4を含む第一分割コア3A全体が圧粉成形体によって構成されている。
【0061】
≪貫通孔≫
第一分割コア3Aは貫通孔4を備える。貫通孔4は、外方面310から第一端面3aに向かって貫通する。貫通孔4は、後述する樹脂モールド部5を構成する樹脂の通り道である。外方面310における貫通孔4の開口は、
図3に示されるように、X方向から見てミドルコア部30の外周輪郭線の内側に配置されることが好ましい。
【0062】
貫通孔4の軸線はX方向に沿っていることが好ましい。また、貫通孔4は、ミドルコア部30の軸線を含むことが好ましい。軸線は、ミドルコア部30のY-Z断面の面積重心を含む。本例の磁性コア3に形成される二つの閉磁路は、ミドルコア部30の軸線からY方向に離れる方向に向かっている(
図2参照)。そのため、第一分割コア3Aにおける貫通孔4の位置には磁束が通り難い。従って、第一分割コア3Aに貫通孔4が設けられていても、リアクトル1の磁気特性が低下し難い。
【0063】
貫通孔4の横断面の形状は特に限定されない。貫通孔4の横断面とは、貫通孔4の延伸方向に直交する断面である。本例の場合、貫通孔4の横断面は、貫通孔4のY-Z断面である。本例の貫通孔4の横断面の形状は真円形である。当該断面形状は、楕円形であっても良いし、矩形を含む多角形状であっても良いし、星形などの異形であっても良い。
【0064】
貫通孔4の横断面の面積は以下の式(1)を満たすことが好ましい。S1は、貫通孔4の横断面の面積である。S2は、ミドルコア部30の横断面の輪郭線の内側の面積である。
式(1)…0.02≦S1/S2≦0.15
【0065】
S1/S2が0.02以上であれば、樹脂モールド部5(
図1,2)を構成する樹脂が貫通孔4を流れ易い。また、第一分割コア3Aの重量が削減され、リアクトルが軽量化される。S1/S2が0.15以下であれば、貫通孔4を設けたことによる磁性コア3の磁気特性の低下が抑制される。S1/S2の下限値は0.03であることが好ましく、0.04であることがより好ましい。S1/S2の上限値は0.14であることが好ましく、0.12であることがより好ましい。好ましいS1/S2の範囲は0.04以上0.12以下である。
【0066】
貫通孔4の横断面の面積は絶対値で40mm2以上であることが好ましい。この場合、樹脂モールド部5を構成する樹脂の種類によらず、貫通孔4における樹脂の流通性が十分に確保される。
【0067】
≪樹脂モールド部≫
樹脂モールド部5は、
図1,2に示されるように、コイル2と磁性コア3とを一体化する。樹脂モールド部5は、コイル2と磁性コア3の組物の全体を覆っていても良いし、組物の一部のみを覆っていても良い。後者の場合、樹脂モールド部5は少なくとも外方面310における貫通孔4を覆っている。第一巻回部21の外周面の少なくとも一部が樹脂モールド部5から露出していれば、コイル2からの放熱が促進され易い。
【0068】
樹脂モールド部5は、例えばコイル2と磁性コア3の組物を金型内に配置し、樹脂によってモールドすることで形成される。樹脂の一部は、貫通孔4を介して隙間3gに入り込む。樹脂が固化することで樹脂モールド部5が形成される。樹脂モールド部5の一部は、貫通孔4と隙間3gとに配置される。隙間3gに配置された樹脂モールド部5の一部は樹脂ギャップとして機能する。
【0069】
本例の樹脂モールド部5の一部は、第一巻回部21の内周面とミドルコア部30の外周との間にも配置されている。この位置に配置される樹脂モールド部5の一部は、第一巻回部21とミドルコア部30とを強固に一体化する。
【0070】
樹脂モールド部5を構成する樹脂には、複合材料に含まれる樹脂に使用できるものと同じものを使用できる。樹脂モールド部5を構成する樹脂として、例えばPBT樹脂などが挙げられる。これらの樹脂にアルミナなどのセラミックスフィラーが含有されていても良い。
【0071】
≪その他≫
図2に二点鎖線で示されるように、第二分割コア3Bにも貫通孔40が設けられていても良い。貫通孔40は、第二分割コア3Bの外方面320から第二端面3bに貫通する。この場合、貫通孔40の体積は、第一分割コア3Aの貫通孔4の体積と同じであることが好ましい。貫通孔4の体積と貫通孔40の体積が同じであれば、貫通孔4を流れる樹脂と貫通孔40を流れる樹脂とがほぼ同時期に隙間3gに到達し易い。
【0072】
リアクトル1は、更にケース、接着層、及び保持部材の少なくとも一つを備えていてもよい。ケースは、コイル2と磁性コア3との組合体を内部に収納する部材である。ケースに収納された組合体は、封止樹脂部により埋設されていてもよい。接着層は、上記組合体を載置面、上記組合体をケースの内底面、上記ケースを載置面などに固定するものである。保持部材は、コイル2と磁性コア3との間に配置され、コイル2と磁性コア3との相対的な位置を規定する部材である。保持部材は、絶縁性樹脂によって構成されており、コイル2と磁性コア3との間の絶縁を確保する。
【0073】
≪効果≫
本例のリアクトル1は生産性に優れる。
本例のリアクトル1では、リアクトル1を構成する部品点数が少ない。また、コイル2と磁性コア3との組物を樹脂によってモールドするだけで、コイル2と磁性コア3とが一体化されると共に、磁性コア3に樹脂ギャップが形成される。従って、本例のリアクトル1は生産性に優れる。
【0074】
本例のリアクトル1は放熱性に優れる。
本例のリアクトル1が作製される際、コイル2と磁性コア3とを一体化する樹脂の一部は、第一エンドコア部31の貫通孔4に流れ込む。貫通孔4は第一エンドコア部31の外方面310から第一端面3aに向かって貫通している。そのため、貫通孔4を介して十分な量の樹脂が第一端面3aと第二端面3bとの隙間3gに充填され易い。隙間3gに配置された樹脂は固化して樹脂ギャップになる。十分な量の樹脂によって形成される樹脂ギャップには、エアポケットが出来難い。エアポケットが少ない樹脂ギャップによって第一分割コア3Aと第二分割コア3Bとの間の熱伝導が良好になる。従って、リアクトル1の放熱性が向上する。
【0075】
貫通孔4を有する本例のリアクトル1は、貫通孔4を有さない従来のリアクトルに比べて軽量である。
本例のリアクトル1では、第一分割コア3Aに貫通孔4が設けられることで、第一エンドコア部31の実体部分が減る。従って、リアクトル1が軽量化される。また、第一エンドコア部31の実体部分が減少するので、コストを含めた磁性コア3の生産性、即ちリアクトル1の生産性が向上する。
【0076】
本例のリアクトル1は、貫通孔4を有さないリアクトルと同等程度の磁気特性を有する。
本例のリアクトル1では、第一エンドコア部31の外方面310におけるY方向の中間部に貫通孔4が設けられている。この中間部は、磁束が通り難い箇所である。従って、磁性コア3に貫通孔4を設けたことによるリアクトル1の磁気特性の低下が抑制される。
【0077】
本例のリアクトル1では、樹脂をモールドする際、樹脂が貫通孔4に流れ込んで、第一エンドコア部31に外方面310に作用する面圧が低下する。従って、モールドの圧力が大きくても、第一エンドコア部31が損傷し難い。圧力が高いと、第一端面3aと第二端面3bとの隙間3gだけでなく、ミドルコア部30と第一巻回部21との隙間にも十分に樹脂が行き渡り易い。
【0078】
<実施形態2>
実施形態2に係るリアクトル1を
図4,5に基づいて説明する。実施形態2のリアクトル1と実施形態1のリアクトル1とは、第二端面3bの構成が異なる。本例のリアクトル1における第二端面3bの構成以外の構成は、実施形態1のリアクトル1と同じである。
【0079】
図4,5に示されるように、本例の第二分割コア3Bの第二端面3bは、その外周縁部に沿って設けられた環状のリブ3rを備える。本例のリブ3rは矩形環状である。リブ3rは、周方向に切れ目がない形態であっても良いし、切れ目が有る形態であっても良い。
【0080】
本例のリブ3rの外周面は、ミドルコア部30の外周面と面一になっている。リブ3rの内周面は、第二端面3bに向かうに従ってミドルコア部30の軸線側に傾斜している。
【0081】
第二端面3bが環状のリブ3rを備えることで、リアクトル1の作製時に貫通孔4から隙間3gに浸入した樹脂が隙間3gの位置に留まり易い。従って、樹脂ギャップにエアポケットができ難い。
【0082】
<実施形態3>
実施形態3に係るリアクトル1を
図6に基づいて説明する。
図6には、リアクトル1に備わる磁性コア3のみが示されている。実施形態3のリアクトル1と実施形態1,2のリアクトル1とは、磁性コア3の分割状態が異なる。本例のリアクトル1における磁性コア3の分割状態以外の構成は、実施形態1,2のリアクトル1と同じである。
【0083】
本例の第一分割コア3Aは、第一エンドコア部31によって構成される。第一エンドコア部31には貫通孔4が設けられている。Z方向から見た第一分割コア3Aは概略I字型である。第一分割コア3Aは圧粉成形体によって構成されることが好ましい。
【0084】
本例の第二分割コア3Bは、ミドルコア部30、第二エンドコア部32,第一サイドコア部33、及び第二サイドコア部34によって構成される。Z方向から見た第二分割コア3Bは概略E字型である。第二分割コア3Bは複合材料の成形体によって構成されることが好ましい。
【0085】
本例のリアクトル1によっても、実施形態1のリアクトル1と同様の効果が得られる。
【0086】
<実施形態4>
実施形態4に係るリアクトル1を
図7に基づいて説明する。
図7には、リアクトル1に備わる磁性コア3のみが示されている。実施形態4のリアクトル1と実施形態1,2のリアクトル1とは、磁性コア3の分割状態が異なる。本例のリアクトル1における磁性コア3の分割状態以外の構成は、実施形態1,2のリアクトル1と同じである。
【0087】
本例の第一分割コア3Aは、第一エンドコア部31と、ミドルコア部30の一部と、第一サイドコア部33の一部と、第二サイドコア部34の一部とで構成される。第一エンドコア部31には貫通孔4が設けられている。Z方向から見た第一分割コア3Aは概略E字型である。第一分割コア3Aは圧粉成形体によって構成されることが好ましい。
【0088】
本例の第二分割コア3Bは、第二エンドコア部32と、ミドルコア部30の一部と、第一サイドコア部33の一部と、第二サイドコア部34の一部とで構成される。Z方向から見た第二分割コア3Bは概略E字型である。第二分割コア3Bのミドルコア部30、第一サイドコア部33、及び第二サイドコア部34はそれぞれ、第一分割コア3Aのミドルコア部30、第一サイドコア部33、及び第二サイドコア部34よりも長い。第二分割コア3Bは複合材料の成形体によって構成されることが好ましい。
【0089】
本例のリアクトル1によっても、実施形態1のリアクトル1と同様の効果が得られる。
【0090】
<実施形態5>
実施形態5に係るリアクトル1を
図8に基づいて説明する。
図8には、リアクトル1に備わる磁性コア3のみが示されている。実施形態5のリアクトル1と実施形態1,2のリアクトル1とは、磁性コア3の分割状態が異なる。本例のリアクトル1における磁性コア3の分割状態以外の構成は、実施形態1,2のリアクトル1と同じである。
【0091】
本例の第一分割コア3Aは、第一エンドコア部31と、ミドルコア部30の一部と、第二サイドコア部34とで構成される。第一エンドコア部31には貫通孔4が設けられている。Z方向から見た第一分割コア3Aは概略F字型である。第一分割コア3Aは圧粉成形体によって構成されることが好ましい。
【0092】
本例の第二分割コア3Bは、第二エンドコア部32と、ミドルコア部30の一部と、第一サイドコア部33とで構成される。Z方向から見た第二分割コア3Bは概略F字型である。第二分割コア3Bのミドルコア部30は、第一分割コア3Aのミドルコア部30よりも長い。第二分割コア3Bは複合材料の成形体によって構成されることが好ましい。
【0093】
本例のリアクトル1によっても、実施形態1のリアクトル1と同様の効果が得られる。
【0094】
<実施形態6>
≪コンバータ・電力変換装置≫
実施形態に係るリアクトル1は、以下の通電条件を満たす用途に利用できる。通電条件としては、例えば、最大直流電流が100A以上1000A以下程度であり、平均電圧が100V以上1000V以下程度であり、使用周波数が5kHz以上100kHz以下程度であることが挙げられる。実施形態に係るリアクトル1は、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車両などに載置されるコンバータの構成部品、又はこのコンバータを備える電力変換装置の構成部品に利用される。
【0095】
ハイブリッド自動車や電気自動車などの車両1200は、
図9に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ1220とを備える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジン1300を備える。
図9では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを備える形態とすることができる。
【0096】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V以上300V以下程度のメインバッテリ1210の入力電圧を400V以上700V以下程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される入力電圧をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。入力電圧は、直流電圧である。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0097】
コンバータ1110は、
図10に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトル1115とを備え、ON/OFFの繰り返しにより入力電圧の変換を行う。入力電圧の変換とは、ここでは昇降圧を行う。スイッチング素子1111には、電界効果トランジスタ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタなどのパワーデバイスが利用される。リアクトル1115は、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。リアクトル1115として、実施形態に係るリアクトル1を備える。
【0098】
車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を備える。コンバータ1110は、代表的には、DC-DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC-DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150のなかには、DC-DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、実施形態に係るリアクトル1などと同様の構成を備え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用できる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、実施形態に係るリアクトル1などを利用することもできる。
【0099】
放熱性に優れる実施形態のリアクトル1を備えるコンバータ1110及び電力変換装置1100では、通電に伴う性能低下が生じ難い。
【0100】
<試験>
≪試験例1≫
試験例1では、リアクトル1のインダクタンスと全損失に及ぼす貫通孔4の影響を調べた。具体的には、貫通孔4を有さない試料No.1のリアクトルと、貫通孔4を有する試料No.2から試料No.6のリアクトル1の解析を行った。試料No.1のリアクトルと、試料No.2から試料No.6のリアクトル1との相違点は貫通孔4の有無のみである。また、試料No.2から試料No.6のリアクトルの相違点は、貫通孔4の断面積のみである。各試料の磁性コアは、実施形態1に示されるT字形の第一分割コアとE字型の第二分割コアとで構成される。
【0101】
[試料No.1]
・第一分割コア3A…圧粉成形体
・第二分割コア3B…複合材料の成形体
・貫通孔4…なし
【0102】
[試料No.2]
・貫通孔4の直径…5mm
・S1/S2…0.02
S1=貫通孔4の横断面の面積、S2=ミドルコア部30の横断面の輪郭線の内側の面積
【0103】
[試料No.3]
・貫通孔4の直径…7.5mm
・S1/S2…0.04
【0104】
[試料No.4]
・貫通孔4の直径…10mm
・S1/S2…0.09
【0105】
[試料No.5]
・貫通孔4の直径…12.5mm
・S1/S2…0.14
【0106】
[試料No.6]
・貫通孔4の直径…15mm
・S1/S2…0.2
【0107】
各試料のインダクタンス及び全損失のシミュレーションには、市販のソフトウェアであるJMAG-Designer19.0(株式会社JSOL製)を用いた。インダクタンスの解析では、電流をコイル2に流したときのインダクタンス(μH)を求めた。電流は0Aから300Aの範囲で変化させた。電流値が0A、100A、200A、及び300Aのときのインダクタンスを表1に示す。インダクタンスは、0A時の試料No.1のインダクタンスを100%としたパーセンテージで示される。
【0108】
また、全損失の解析では、直流電流0A、入力電圧200V、出力電圧400V、周波数20kHzで駆動したときの磁束密度分布および電流密度分布に基づいて全損失(W)を求めた。本例の全損失には、磁性コア3の鉄損、及びコイル損失などが含まれる。その結果を表1に示す。全損失は、試料No.1の全損失を100%としたパーセンテージで示される。
【0109】
表1には、貫通孔4を設けたことによる磁性コア3の重量削減割合(%)を合わせて示す。重量削減割合は、試料No.1の質量を100%としたパーセンテージで示される。
【0110】
【0111】
表1に示すように、ベースモデルである試料No.1のリアクトルに比べて、貫通孔4の横断面の面積が大きくなるほど、リアクトル1のインダクタンスが低下し、全損失が増加する傾向にあった。つまり、リアクトル1の軽量化と、リアクトル1の磁気特性とはトレードオフの関係にある。しかし、貫通孔4が、第一エンドコア部31の外方面310における中間部にあることで、インダクタンスの低下と全損失の増加は微々たるものであった。ここで、リアクトル1の磁気特性を維持するという観点から、貫通孔4を設けたことによるインダクタンスの低下率、及び全損失の上昇率は、1%以下であることが好ましい。この観点からすると、S1/S2は0.02以上0.14以下程度であることが好ましい。
【符号の説明】
【0112】
1 リアクトル
2 コイル
21 第一巻回部、2a,2b 端部
211 第一の端面、212 第二の端面
213 第一の側面、214 第二の側面
3 磁性コア
3a 第一端面、3b 第二端面、3g 隙間、3r リブ
3A 第一分割コア、3B 第二分割コア
30 ミドルコア部、31 第一エンドコア部、32 第二エンドコア部
33 第一サイドコア部、34 第二サイドコア部
310,320 外方面
4,40 貫通孔
5 樹脂モールド部
1100 電力変換装置
1110 コンバータ、1111 スイッチング素子、1112 駆動回路
1115 リアクトル、 1120 インバータ
1150 給電装置用コンバータ、1160 補機電源用コンバータ
1200 車両
1210 メインバッテリ、1220 モータ、1230 サブバッテリ
1240 補機類、1250 車輪
1300 エンジン
H 高さ
L,T0,T1,T2,T3,T4 長さ
W 幅