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  • 特許-発がんプロモーション抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】発がんプロモーション抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/69 20060101AFI20250210BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250210BHJP
   A61K 36/88 20060101ALI20250210BHJP
   A61K 36/258 20060101ALI20250210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250210BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20250210BHJP
【FI】
A61K36/69
A61P35/00
A61K36/88
A61K36/258
A61P43/00 121
A23L33/105
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021012398
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022115688
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2023-09-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年3月5日に日本薬学会第140年会のWeb要旨集において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】591262779
【氏名又は名称】救心製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 栄二
(72)【発明者】
【氏名】坪野谷 智衣
(72)【発明者】
【氏名】清水 康晴
(72)【発明者】
【氏名】須藤 慶一
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-106024(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108888689(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠志、サフラン、および紅参を有効成分として含有する発がんプロモーション抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発がんプロモーション抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がん患者は年々増加して、日本人の死亡原因の1位を占めるに至っている。2017年には、約86万例が新たにがんと診断されて、約37万例ががんで死亡している。がんの治療は、化学療法、外科的処置または放射線療法などによって行われているが、必ずしも満足のいく治療効果が得られず、患者の生活の質の低下を招く場合がある。また、がんは、治療後の再発を完全に防ぐことができないとされている。従って、他の疾患と同様、予防医学的な観点が求められ、がんの再発も含めて発がんの予防法が注目されている。
【0003】
がん予防法としては、一般には、禁煙や食生活の見直し等の生活習慣の改善や、ストレスへの対処など環境に配慮したものが提案されているが、より積極的な手段として、がん予防に有効な物質の開発が望まれている。がんは、正常な細胞の遺伝子が損傷を受けることで始まり(イニシエーション)、次いで形質が変化し無秩序な増殖作用が加わる(プロモーション)ことで発症するとされている。これらの過程を抑制することは、がん予防に繋がると考えられている。
【0004】
そこで、発がん性物質によるイニシエーション活性および/またはプロモーション活性を阻害または抑制する予防剤が種々提案されている(例えば、特許文献1~3)。特許文献1~3においては、それぞれサルナシ果汁またはサルナシ果汁の高極性有機溶媒抽出物、茶葉由来高分子組成物、または紅麹から抽出された化合物が、有効成分として含有されている。
【0005】
最近では、発がんプロモーションに影響する物質をin vitroで精度よく検出できる試験法として、Bhas 42細胞形質転換試験法が公表されている(例えば、非特許文献1)。この試験で用いられているBhas 42細胞は、BALB/c 3T3細胞(マウス全胎児)にv-Ha-rasがん遺伝子を導入して樹立された細胞株である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-136556号公報
【文献】特開2013-95694号公報
【文献】特開2008-56618号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】GUIDANCE DOCUMENT ON THE IN VITRO BHAS 42 CELL TRANSFORMATION ASSAY, Series on Testing & Assessment No. 231 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規な発がんプロモーション抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、遠志が、発がんプロモーションを抑制する作用を有することを見出した。すなわち、本発明は、遠志を有効成分として含有する発がんプロモーション抑制剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な発がんプロモーション抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】発がんプロモーター(TPA)添加によるフォーカス数の増加に及ぼす生薬製剤(能活精)の影響を示す図である。
図2】発がんプロモーター(TPA)添加によるフォーカス数の増加に及ぼす遠志の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の発がんプロモーション抑制剤は、遠志を有効成分として含有する。遠志(Polygalae Radix)は、イトヒメハギPolygala tenuifolia Willdenow (Polygalaceae)の根または根皮である(第十七改正日本薬局方)。遠志の代表的な薬理作用としては、従来、去痰、鎮咳、鎮静、記憶学習改善作用が知られていた。本発明者らは、遠志が、発がんプロモーションを抑制する作用、具体的には、発がんプロモーターによる腫瘍細胞の形質の変化、および形質の変化した腫瘍細胞の無秩序な増殖を抑制する作用を有することを見出した。
【0013】
遠志としては、例えば、市販品のオンジ乾燥エキス(アルプス薬品(株))を用いることができる。あるいは、イトヒメハギの根等から常法により調製された乾燥エキスを用いてもよい。乾燥エキスは、既知の方法でイトヒメハギの根等から抽出液を得、濃縮、殺菌、乾燥して調製することができる。乾燥エキスとしては、例えば、水製乾燥エキスおよびエタノール製エキスが挙げられる。
【0014】
本発明の発がんプロモーション抑制剤は、遠志に加えて、サフランまたは紅参を有効成分として含有することができる。サフランとは、Crocus sativus Linneの柱頭および花柱の上部であり、その代表的な薬理作用としては、従来、鎮静、鎮痛、通経などの作用が知られていた。紅参とは、Panax ginseng C.A. Meyerの根を蒸した後に乾燥したものであり、その代表的な薬理作用としては、従来、滋養強壮、血流改善、血糖降下、抗ストレスなどの作用が知られていた。こうした成分が含有された場合には、発がんプロモーションを抑制する作用がよりいっそう高められる。
【0015】
あるいは、本発明の発がんプロモーション抑制剤は、遠志に加えて、サフランおよび紅参の両方を含有していてもよい。遠志、サフランおよび紅参は、羚羊角および沈香等とともに生薬製剤(能活精)に含有されている。この生薬製剤は、OTC医薬品として市販されており、滋養強壮(虚弱体質、肉体疲労、病中病後、胃腸虚弱、食欲不振、血色不良、冷え性、発育期)の効能を有する。
本発明者らは、遠志、サフランおよび紅参を含有する生薬製剤(能活精)が、発がんプロモーションを抑制する作用を有することを見出した。
【0016】
本発明の発がんプロモーション抑制剤において、遠志、サフランおよび紅参は、それぞれ原生薬のままでも使用できるが、原生薬から抽出した抽出物や原生薬を粉砕した粉砕物(粉末)として使用することが好ましい。例えば、紅参水製乾燥エキスを用いることができる。なお、抽出や粉砕の方法は、医薬品や食品の製造に用いられる方法であれば特に限定されず、任意の方法を使用できる。
【0017】
例えば、粉砕した各原料をその質量の5~30倍量、好ましくは10~20倍量の熱水により抽出し、得られた抽出液を濃縮および乾燥して使用することができる。原料の粉砕は、インパクトミルやジェットミルなどの公知の手段を用いて行うことができる。また、濃縮および乾燥には、減圧蒸発濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥等の公知の手段を採用することができる。
【0018】
本発明の発がんプロモーション抑制剤は、例えば、ヒト1日当たり体重1kgにつき有効成分としてオンジ乾燥エキス0.03~30mg、サフラン末0.1~100mg、および紅参乾燥エキス0.3~300mgを含有する製剤とすることができる。この場合、有効成分以外の成分としては、羚羊角末0.1~100mg、沈香0.01~10mgを含有することができる。さらに、添加物として、真珠、トウモロコシデンプン、および香料(リュウノウ)等を含有してもよい。こうした成分を、ゼラチンによりカプセル化することもできる。
【0019】
本発明の発がんプロモーション抑制剤は、投与方法に応じて、適切な賦形剤等と共に当業者に既知の方法で製剤化して得ることができる。投与方法としては、経口投与、外用投与、経直腸投与(坐薬)、点眼等の非経口投与が挙げられる。なかでも、経口投与、外用投与等が好ましい。経口投与する場合、上記1日あたりの量を一度に、もしくは数回に分けて投与することができる。投与は、食前、食後および食間のいずれに行ってもよく、また投与期間は特に限定されない。
【0020】
本発明の発がんプロモーション抑制剤は、経口または非経口投与用の任意の剤形とすることができる。例えば、顆粒剤、細粒剤、錠剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤などが挙げられる。これらは、常法により製剤化することができる。注射用の形態としては、例えば静脈直接注入用、点滴投与用などが挙げられる。必要に応じて、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトール、でんぷん、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、ゼラチン等の担体や、溶剤、溶解補助剤、等張化剤等の通常の添加剤を適宜配合してもよい。
【0021】
本発明の発がんプロモーション抑制剤を含有する外用剤は、経皮吸収型である。必要に応じて公知の添加剤などを混合して、常法により外用製剤とすることができる。外用製剤としては、具体的には、クリーム剤、液剤、ローション剤、乳剤、チンキ剤、軟膏剤、水性ゲル剤、油性ゲル剤、エアゾール剤、パウダー剤、シャンプーおよび石鹸などが挙げられる。こうした外用剤の1日当たりの投与量は、投与する対象の症状、目的、年齢、投与方法等に応じて適宜設定することができる。
【0022】
本発明の発がんプロモーション抑制剤は、食品中に含有させることができる。本発明の発がんプロモーション抑制剤を含有する食品は、一般的な飲食品の形態をとりうる。例えば、それ自体、またはそれに適当な風味を加えてドリンク剤、例えば清涼飲料、粉末飲料とすることもできる。具体的には、ジュース、牛乳、菓子、ゼリー等に適量を添加して飲食することができる。
【0023】
本発明の発がんプロモーション抑制剤を含有する食品は、癌の予防のための特定保健用食品または栄養機能食品等の保健機能食品として提供することが可能である。
【0024】
さらに、本発明の発がんプロモーション抑制剤を含有する食品は、濃厚流動食や、食品補助剤として利用することも可能である。食品補助剤として使用する場合、例えば錠剤、カプセル、散剤、顆粒、懸濁剤、チュアブル剤、シロップ剤等の形態に調製することができる。食品補助剤とは、食品として摂取されるもの以外に栄養を補助する目的で摂取されるものをさし、栄養補助剤、ダイエタリーサプリメントなどもこれに含まれる。
食品は、本発明の発がんプロモーション抑制剤を常法に従って、一般食品の原料と配合することにより、加工製造することができる。
【0025】
本発明の発がんプロモーション抑制剤を食品中に含有させる場合には、所定量の発がんプロモーション抑制剤が摂取されるように適切な量を摂取すればよい。食品の摂取量は、食品中における発がんプロモーション抑制剤の含有量に応じて、適宜選択することができる。
【0026】
栄養補助食品あるいは機能性食品の例としては、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料などが配合された流動食、半消化態栄養食、成分栄養食、ドリンク剤、カプセル剤、経腸栄養剤などの加工形態を挙げることができる。上記各種食品には、例えば、スポーツドリンク、栄養ドリンクなどの飲食物は、栄養バランス、風味を良くするために、更にアミノ酸、ビタミン類、ミネラル類などの栄養的添加物や甘味料、香辛料、香料、色素などを配合することもできる。さらに、食品に通常添加される抗酸化剤として、トコフェロール、L-アスコルビン酸、BHA、ローズマリー抽出物などを常法に従って用いることができる。
【0027】
本発明の発がんプロモーション抑制剤を、家畜、家禽、ペット類の飼料に配合することでこれら動物におけるがんの予防を行うことができる。形態としては、ドライドッグフード、ドライキャットフード、ウェットドッグフード、ウェットキャットフード、セミモイストドックフード、養鶏用飼料、牛、豚などの家畜用飼料に配合することができる。
【0028】
また、本発明の発がんプロモーション抑制剤は、ヒト以外の動物、例えば、牛、馬、豚、羊などの家畜用哺乳類、鶏、ウズラ、ダチョウなどの家禽類、は虫類、鳥類あるいは小型哺乳類などのペット類などにも、適宜用いることができる。
【0029】
本発明の発がんプロモーション抑制剤における発がんプロモーションの抑制作用は、形質転換を抑制する作用であり、Bhas 42細胞形質転換試験法を参考にして確認することができる。
【実施例
【0030】
以下、本発明に係る発がんプロモーション抑制剤を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0031】
(被験薬1)
被験薬1として、生薬製剤(能活精)(0.313mg/mL、1.25mg/mL、5mg/mLを用意した。生薬製剤(能活精)は、10% Dimethyl sulfoxideで30分間超音波抽出し、遠心分離(1000rpmで3分間)した上清を濾過滅菌した。最終溶媒濃度は、1%とした。
【0032】
生薬製剤(能活精)は、1日量(4カプセル)中、遠志乾燥エキス30mg、サフラン末90mg、紅参乾燥エキス330mg、羚羊角末100mg、沈香10mgを含有する。さらに、添加物として、真珠、トウモロコシデンプン、および香料(リュウノウ)を含有し、これらを含む混合物はゼラチンによりカプセル化されている。
【0033】
(被験薬2)
被験薬2として、遠志(0.00390mg/mL、0.0130mg/mL、0.0390mg/mL、0.130mg/mL)を用意した。遠志は、オンジ乾燥エキス(アルプス薬品工業(株)製)を、10% Dimethyl sulfoxideに再溶解させ、濾過滅菌した。最終溶媒濃度は、1%とした。
【0034】
[発がんプロモーション抑制試験]
Bhas 42細胞形質転換試験法(非特許文献1)を参考にし、発がんプロモーターを用いて被験薬の発がんプロモーション抑制作用を評価した。まず、Bhas 42細胞(1.4×104 cells)を35mmディッシュに播種し、培養を開始した(0日目)。培養開始後、4日目、7日目、および11日目には、所定濃度の被験薬を含む10%FBS含有DMEM:F12培地に交換した。
【0035】
この10%FBS含有DMEM:F12培地には、所定濃度の被験薬に加えて50ng/mLの12-O-Tetradecanoylphorbol 13-acetate(TPA)が共添加されている。TPAは、強力な発がんプロモーターであり、プロテインキナーゼC(PKC)の下流のシグナル伝達経路を活性化させることがよく知られている。
14日目に培地交換した後、21日目まで培養し、メタノールで細胞を固定した。これを5%ギムザ染色液で染色し、顕微鏡観察を行ってフォーカス(形質転換巣)を計数することで、TPAの形質転換促進に対する被験薬の抑制作用を評価した。
【0036】
(実施例1:生薬製剤(能活精)を含有する発がんプロモーション抑制剤)
図1には、Bhas 42細胞における発がんプロモーションに及ぼす生薬製剤の影響を示す。図1において、データは平均±標準誤差(mean±SE)を示す。生薬製剤を添加していないもの(コントロール群)との有意差の解析には、多重比較検定(Dunnett法)を使用した。**はp<0.01を表す。
図1の結果から、0.313mg/mL以上の生薬製剤(能活性)は、TPA添加によるフォーカス数の増加を抑制し、特に1.25mg/mL以上の生薬製剤(能活精)は、フォーカス数の増加を有意に抑制することが確認された。また、5mg/mLの生薬製剤(能活精)が含有された場合には、ノーマル群よりフォーカス数が減少している。このことは、生薬製剤(能活精)のBhas 42細胞における形質転換に対する作用が、TPAの促進作用を特異的に阻害するのではないこと、さらには、本生薬製剤が広く形質転換の発現を抑制する作用を有していることを示唆している。
【0037】
(実施例2:遠志を含有する発がんプロモーション抑制剤)
図2には、Bhas 42細胞における発がんプロモーションに及ぼす遠志の影響を示す。図2において、データは平均±標準誤差(mean±SE)を示す。遠志を添加していないもの(コントロール群)との有意差の解析には、多重比較検定(Dunnett法)を使用した。**はp<0.01を表す。
図2の結果から、0.00390mg/mL以上の遠志は、TPA添加によるフォーカス数の増加を抑制し、特に0.0130mg/mL以上の遠志は、TPA添加によるフォーカス数の増加を有意に抑制することが確認された。また、0.0390mg/mL以上の遠志が含有された場合には、ノーマル群よりフォーカス数が減少している。このことは、遠志のBhas 42細胞における形質転換に対する作用が、TPAの促進作用を特異的に阻害するのではないこと、さらには、遠志が広く形質転換の発現を抑制する作用を有していることを示唆している。
図1
図2