(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】Nr4a1拮抗薬を用いた鎮痛薬
(51)【国際特許分類】
C07D 239/91 20060101AFI20250210BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20250210BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250210BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20250210BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
C07D239/91 CSP
A61K31/517
A61P29/00
A61P25/04
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2022536292
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2021025590
(87)【国際公開番号】W WO2022014433
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2020120069
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、橋渡し研究戦略推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592019213
【氏名又は名称】学校法人昭和大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 一朗
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】栗原 崇
(72)【発明者】
【氏名】合田 浩明
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521276(JP,A)
【文献】特表2012-514631(JP,A)
【文献】特表2012-504149(JP,A)
【文献】特表2003-508388(JP,A)
【文献】国際公開第2019/032902(WO,A1)
【文献】REGISTRY[online],2015年07月05日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1795010-99-9
【文献】REGISTRY[online],2011年09月09日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1330600-74-2
【文献】REGISTRY[online],2011年09月01日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1326463-27-7
【文献】REGISTRY[online],2007年03月01日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号924105-05-5
【文献】REGISTRY[online],2009年02月25日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1111451-36-5
【文献】REGISTRY[online],2008年06月27日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1031169-80-8
【文献】REGISTRY[online],2008年04月10日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1013582-50-7
【文献】REGISTRY[online],2011年04月27日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1286441-93-7
【文献】REGISTRY[online],2008年04月10日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1013308-53-6
【文献】REGISTRY[online],2008年04月10日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1013582-58-5
【文献】REGISTRY[online],2018年03月04日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号2184216-83-7
【文献】REGISTRY[online],2008年04月10日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1013494-30-8
【文献】REGISTRY[online],2009年01月26日,[retrieved on 2021.08.04], Retrieved from:STN, CAS登録番号1095838-76-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D、A61K、A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化1】
(式中、R
1は水酸基、メルカプト基、C
1-6-アルコキシ基、C
1-6-ハロアルコキシ基、アミノ基、C
1-6-アルキルアミノ基又はジC
1-6-アルキルアミノ基であり;R
2は水酸基、メルカプト基、C
1-6-アルコキシ基、C
1-6-ハロアルコキシ基、アミノ基、C
1-6-アルキルアミノ基又はジC
1-6-アルキルアミノ基であり;R
3はハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、C
1-6-アルコキシ-カルボニル基又はカルボキシ-C
1-6-アルキル基であり;R
4は置換又は無置換のC
3-12-炭化水素基
(但し、プロピル基、イソブチル基及びアリル基を除く。)である。)
で示される化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項2】
前記式(I)において、R
1及びR
2が水酸基である請求項1記載の化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項3】
前記式(I)において、R
4が置換又は無置換のC
3-12-アルキル基、又は置換又は無置換のC
7-12-アラルキル基である請求項1又は2記載の化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する鎮痛薬。
【請求項5】
がん患者に適用される請求項4記載の鎮痛薬。
【請求項6】
次式(II):
【化2】
(式中、R
1、R
2及びR
3は請求項1に記載の前記式(I)と同義であり;R
4’は置換又は無置換のC
2-12-炭化水素基である。)
で示される化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する鎮痛薬。
【請求項7】
がん患者に適用される請求項6記載の鎮痛薬。
【請求項8】
次式(I):
【化3】
(式中、R
1
は水酸基、メルカプト基、C
1-6
-アルコキシ基、C
1-6
-ハロアルコキシ基、アミノ基、C
1-6
-アルキルアミノ基又はジC
1-6
-アルキルアミノ基であり;R
2
は水酸基、メルカプト基、C
1-6
-アルコキシ基、C
1-6
-ハロアルコキシ基、アミノ基、C
1-6
-アルキルアミノ基又はジC
1-6
-アルキルアミノ基であり;R
3
はハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、C
1-6
-アルコキシ-カルボニル基又はカルボキシ-C
1-6
-アルキル基であり;R
4
は置換又は無置換のC
3-12
-炭化水素基である。)
で示される化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する鎮痛薬。
【請求項9】
次式(I):
【化4】
(式中、R
1
は水酸基、メルカプト基、C
1-6
-アルコキシ基、C
1-6
-ハロアルコキシ基、アミノ基、C
1-6
-アルキルアミノ基又はジC
1-6
-アルキルアミノ基であり;R
2
は水酸基、メルカプト基、C
1-6
-アルコキシ基、C
1-6
-ハロアルコキシ基、アミノ基、C
1-6
-アルキルアミノ基又はジC
1-6
-アルキルアミノ基であり;R
3
はハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、C
1-6
-アルコキシ-カルボニル基又はカルボキシ-C
1-6
-アルキル基であり;R
4
は置換又は無置換のC
3-12
-炭化水素基である。)
で示される化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する抗がん薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nr4a1拮抗薬を用いた鎮痛薬に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは1981年以来、日本人の死亡原因の第1位を占める。がん患者は年齢とともに増加し、70歳以上では3~4人に1人はがん患者であるといわれている。
【0003】
抗がん薬の投与による共通の副作用としての骨髄抑制や嘔吐、脱毛などはがん患者を苦しませる結果となっている。抗がん薬の中には、例えばパクリタキセルなどのタキサン類、オキサリプラチンなどの白金類のように、手足唇の痛み・しびれ・冷感など末梢神経障害性疼痛を生じるものもある。更に、がん患者においては精神的や社会的な痛みに加えて、身体的痛み、いわゆる「がん性疼痛」が大きな問題となっている。ここでいうがん性疼痛とは、がん原発巣の痛み、骨転移による痛み、がん細胞の神経への浸潤に伴う神経障害性疼痛などである。
【0004】
がん患者の実に70%近くが痛みを経験する。がん性疼痛緩和はWHOが定める3段階除痛ラダーにしたがい、主として、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンのような非オピオイド系鎮痛薬とコデイン、モルヒネ、フェンタニルなどのオピオイド系鎮痛薬を組み合わせて治療が行われる。がん性疼痛の80%は、適切な鎮痛薬の使用により、多くの患者で除痛効果が得られている一方で、がん細胞の神経への浸潤による神経障害性疼痛、骨転移痛、消化管閉塞にはオピオイドが効きにくいとされる。また、オピオイドによる便秘・嘔吐・依存性・耐性などの副作用は更に患者を苦しめる。したがって、これら疼痛に有効な鎮痛薬の開発が望まれている。
【0005】
このように、現状において、がん及びがん性疼痛に対する抗がん薬及びオピオイド系鎮痛薬の2種類の薬剤の投与とそれに伴う強い副作用は、がん患者を苦しめる結果となっている。したがって、1つの薬で鎮痛作用と抗がん作用を併せ持ち、かつ従来の鎮痛薬・抗がん薬と比較して副作用の少ない、「制がん鎮痛薬」の開発は、がん患者にとってのクオリティ・オブ・ライフを大いに高める画期的な治療薬になる可能性がある。しかしながら現在のところ、1つの薬で鎮痛作用と抗がん作用を併せ持つ薬は存在しない。
【0006】
一方、核内受容体のひとつである「Nuclear receptor subfamily 4、 group A member 1、 Nr4a1」について、特許文献1には、Nr4a1の活性や発現を調節する作用物質を同定する方法が開示されている。特許文献1には、がん細胞の成長を阻害することは記載されているが、鎮痛効果については何ら記載されていない。
【0007】
本発明者らは、先にNr4a1拮抗薬の獲得を目指し、Nr4a1タンパクと既知アンタゴニストTMPAの複合体構造(PDB;3V3Q)を基に、「3次元ファーマコホアベースの絞り込み」、「分子ドッキングシミュレーションによる絞り込み」、及び「化学特性に基づいた分子類似性解析」からなる多段階イン・シリコスクリーニングを行い、既存の化合物データベースより、10化合物を新規Nr4a1アンタゴニスト候補化合物として同定し、そのうちの1化合物であるNRA-8がPACAPによる疼痛を抑制することを報告した(非特許文献1)。しかしながら、非特許文献1には、いずれの化合物についても構造は開示されておらず、抗がん作用については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】磯 芹奈、高原理行、合田浩明、宮田篤郎、栗原 崇、豊岡尚樹、▲高▼▲崎▼一朗(ポスター発表);新規鎮痛薬の開発を目指した核内受容体Nr4a1アンタゴニストの創製;第90回日本薬理学会年会、2017年3月15-17日、長崎(長崎ブリックホールほか)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、NSAIDsやオピオイドとは異なる作用機序をもち、1つの薬で鎮痛作用と抗がん作用を併せ持つ疼痛治療薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、標的分子の選定のため、慢性疼痛とがん細胞の増殖・浸潤に共通する分子を探索したところ、候補分子として核内受容体のひとつであるNr4a1を同定した。すなわち、神経障害性疼痛モデルマウスの脊髄後角における遺伝子発現と、種々のがん細胞株における遺伝子発現を、GeneChipマイクロアレイ法を用いて網羅的に解析したところ、疼痛モデルマウスとがん細胞において共通して発現が上昇する遺伝子としてNr4a1 mRNAを同定することができた。
【0012】
そこで、本発明者らは、次式:
【化1】
で示されるNRA-8のNr4a1阻害効果が、すでに報告されているNr4a1拮抗薬であるTMPA及びDIM-C-pPhOHと比較して同等あるいはそれよりも強力であることから、NRA-8より強い活性を示す化合物の獲得を目指し、NRA-8の構造をもとに構造展開を行った。NBRE-Lucレポーターベクター(NBRE;Nr4a1結合DNAドメイン)を用いたスクリーニングにおいて、元化合物である化合物NRA-8と同等以上の効力を示す化合物として、多くの1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン誘導体の獲得に成功し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)次式(I):
【化2】
(式中、R
1は水酸基、メルカプト基、C
1-6-アルコキシ基、C
1-6-ハロアルコキシ基、アミノ基、C
1-6-アルキルアミノ基又はジC
1-6-アルキルアミノ基であり;R
2は水酸基、メルカプト基、C
1-6-アルコキシ基、C
1-6-ハロアルコキシ基、アミノ基、C
1-6-アルキルアミノ基又はジC
1-6-アルキルアミノ基であり;R
3はハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、C
1-6-アルコキシ-カルボニル基又はカルボキシ-C
1-6-アルキル基であり;R
4は置換又は無置換のC
3-12-炭化水素基である。)
で示される化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物。
(2)前記式(I)において、R
1及びR
2が水酸基である前記(1)に記載の化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物。
(3)前記式(I)において、R
4が置換又は無置換のC
3-12-アルキル基、又は置換又は無置換のC
7-12-アラルキル基である前記(1)又は(2)に記載の化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物。
(4)前記(1)~(3)のいずれかに記載の化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する鎮痛薬。
(5)がん患者に適用される前記(4)に記載の鎮痛薬。
(6)次式(II):
【化3】
(式中、R
1、R
2及びR
3は請求項1に記載の前記式(I)と同義であり;R
4’は置換又は無置換のC
2-12-炭化水素基である。)
で示される化合物もしくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する鎮痛薬。
(7)がん患者に適用される前記(6)に記載の鎮痛薬。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化合物は、1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン骨格の2位にハロゲン原子で置換されたフェニル基を、3位に置換又は無置換の炭化水素基を有する化合物であり、鎮痛薬として有用であり、当該鎮痛薬はNSAIDsやオピオイドとは異なる作用機序をもつ新しい疼痛治療薬である。
【0015】
また、本発明の化合物は、鎮痛作用と抗がん作用を併せ持つので、従来の抗がん薬による骨髄抑制などの副作用を回避できるがん治療が可能となる。また、NSAIDsに見られる消化性潰瘍、オピオイドに見られる便秘などの有害作用を回避した疼痛治療が可能となる。がんと疼痛の双方において治療効果が期待できるため、多剤併用の必要性が少なくなることから、予期しない有害作用の出現を回避することができ、更に、難治性がん性疼痛患者のクオリティ・オブ・ライフの改善が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1はレポーターアッセイの結果及びNRA-8の構造を示す。
【
図2】
図2はPACAP誘発長期アロディニア反応に対する化合物の効果を示す。
【
図3】
図3は神経障害性疼痛モデルマウスのアロディニアに対するNRA-8の効果を示す。
【
図4】
図4は骨がん性疼痛モデルマウスのアロディニアに対するNRA-8の効果を示す。
【
図5】
図5はPanc1細胞の増殖、生存及び遊走に対するNRA-8の効果を示す。
【
図6】
図6はPanc1細胞の増殖に対する既存鎮痛薬の効果を示す。
【
図7】
図7はレポーターアッセイによる本発明の化合物の評価を示す。
【
図9】
図9は本発明の化合物の抗がん活性評価(細胞株)を示す。
【
図10】
図10は本発明の化合物の抗がん活性評価(移植モデル)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
前記式(I)及び(II)においてR1又はR2で表されるC1-6-アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0019】
前記式(I)及び(II)においてR1又はR2で表されるC1-6-ハロアルコキシ基としては、例えばトリフルオロメトキシ基が挙げられる。
【0020】
前記式(I)及び(II)においてR1又はR2で表されるC1-6-アルキルアミノ基としては、例えばメチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、イソペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、シクロプロピルアミノ基、シクロブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基が挙げられる。
【0021】
前記式(I)及び(II)においてR1又はR2で表されるジC1-6-アルキルアミノ基としては、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、メチルエチルアミノ基が挙げられる。
【0022】
前記式(I)及び(II)においてR3で表されるハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0023】
前記式(I)及び(II)においてR3で表されるC1-6-アルコキシ-カルボニル基としては、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、シクロプロピルオキシカルボニル基、シクロブチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0024】
前記式(I)及び(II)においてR3で表されるカルボキシ-C1-6-アルキル基としては、例えばカルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基が挙げられる。
【0025】
前記式(I)においてR4で表されるC3-12-炭化水素基としては、例えば、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の直鎖状又は分岐状のC3-12-アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のC3-12-シクロアルキル基;1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オレイル基等のC3-12-アルケニル基;1-プロピニル基、2-プロピニル(プロパルギル)基、3-ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等のC3-12-アルキニル基;C6H5(CH2)n-(ここで、n=1~6の整数である。)、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等のC7-12-アラルキル基;フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;アダマンチル基等の橋かけ環炭化水素基;スピロ炭化水素基等が挙げられる。
【0026】
前記式(II)においてR4’で表されるC2-12-炭化水素基としては、前記のC3-12-炭化水素基の他にエチル基を加えたものが挙げられる。
【0027】
前記のC3-12-炭化水素基及びC2-12-炭化水素基は、例えば、C1-6-アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基)、メチレンジオキシ基、C2-6-アルケニルオキシ基、アラルキルオキシ基(例えばベンジルオキシ基、4-メチルベンジルオキシ基、3-メチルベンジルオキシ基、2-メチルベンジルオキシ基、4-フルオロベンジルオキシ基、3-フルオロベンジルオキシ基、4-クロロベンジルオキシ基、3-クロロベンジルオキシ基)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、C1-6-ハロアルキル基、C1-6-ハロアルコキシ基、アシル基(例えばホルミル基、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基等のC1-6-脂肪族アシル基;ベンゾイル基、トルオイル基等のアロイル基)、アシルオキシ基(例えばホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基等のC1-6-脂肪族アシルオキシ基;ベンゾイルオキシ基、トルオイルオキシ基等のアロイルオキシ基)、水酸基、カルボキシル基、アセトアミド基、カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基等から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。
【0028】
前記式(I)又は(II)においてR4又はR4’で表される置換された炭化水素基としては、2-ヒドロキシエチル基、2-メトキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、3-メトキシプロピル基、4-ヒドロキシブチル基、4-メトキシブチル基、3-(p-メトキシフェニル)プロピル基、3-(p-フルオロフェニル)プロピル基、3-(p-クロロフェニル)プロピル基等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
前記式(I)又は(II)で示される化合物としては、R1及びR2が水酸基、R3がハロゲン原子、例えば塩素原子、R4が置換又は無置換のC3-8-アルキル基、又は置換又は無置換のC7-11-アラルキル基である化合物が好ましい。
【0030】
前記式(I)で示される化合物は新規化合物であり、前記式(II)で示される化合物は、前記式(I)で示される新規化合物の他に公知化合物を包含する。
【0031】
前記式(I)又は(II)で示される化合物の塩としては、薬学的に許容される塩が好ましく、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ピロ硫酸、メタリン酸等の無機酸、又はクエン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸)等の有機酸との塩が挙げられる。
【0032】
前記式(I)又は(II)で示される化合物又はその塩の溶媒和物としては、例えば水和物が挙げられる。
【0033】
前記式(I)において、R
1及びR
2が水酸基、R
3がハロゲン原子、例えば塩素原子である化合物は、例えば、以下に示すようにして製造することができる。
【化4】
(式中、R
4は前記式(I)と同義である。)
【0034】
すなわち、アミン体(R4-NH2)とo-ニトロ安息香酸を縮合させて、o-ニトロ安息香酸アミドに変換後、還元し、3,4-ジ(ベンジルオキシ)-5-クロロベンズアルデヒドと反応させてベンジル体を得た後、脱ベンジル化して目的物を得ることができる。
【0035】
R1及びR2がC1-6-アルコキシ基又はC1-6-ハロアルコキシ基のように、ベンジル基で保護する必要がない場合には、3,4-ジ(ベンジルオキシ)-5-クロロベンズアルデヒドの代わりに、3,4-ジ(C1-6-アルコキシ又はC1-6-ハロアルコキシ)-5-クロロベンズアルデヒドを用いることにより直接目的物を得ることができる。
【0036】
前記式(II)で示される化合物も前記と同様にして得ることができる。
【0037】
前記のようにして得られる生成物を精製するには、通常用いられる手法、例えばシリカゲル等を担体として用いたカラムクロマトグラフィーやメタノール、エタノール、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、n-ヘキサン-酢酸エチル、水等を用いた再結晶法によればよい。カラムクロマトグラフィーの溶出溶媒としては、メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトン、ヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチル、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0038】
前記の化合物は、鎮痛薬及び/又は抗がん薬として、慣用の製剤担体と組み合わせて製剤化することができる。投与形態としては、特に限定はなく、必要に応じ適宜選択して使用され、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、徐放性製剤、液剤、懸濁剤、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
【0039】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、無機塩類等を用いて常法に製造される。また、これらに加えて、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜添加することができる。
【0040】
結合剤としては、例えばデンプン、デキストリン、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
【0041】
崩壊剤としては、例えばデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0042】
界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等が挙げられる。
【0043】
滑沢剤としては、例えばタルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0044】
流動性促進剤としては、例えば軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
【0045】
注射剤は、常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、オリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。更に必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤等を加えてもよい。また、注射剤は、安定性の観点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥技術により水分を除去し、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。前記式(I)又は(II)の化合物の注射剤中における割合は、5~50重量%の間で変動させ得るが、これに限定されるものではない。
【0046】
その他の非経口剤としては、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、常法に従って製造される。
【0047】
製剤化した鎮痛薬及び/又は抗がん薬は、剤形、投与経路等により異なるが、例えば、1日1~4回を1週間から3ヶ月の期間、投与することが可能である。
【0048】
経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人の場合、前記式(I)又は(II)の化合物の重量として、例えば0.1~1000mg、好ましくは1~500mgを、1日数回に分けて服用することが適当である。
【0049】
非経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人の場合、前記式(I)又は(II)の化合物の重量として、例えば0.1~1000mg、好ましくは1~500mgを、静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射により投与することが適当である。
【0050】
本発明の化合物は、鎮痛作用と抗がん作用を併せ持ち、鎮痛作用と抗がん作用に必要な用量の乖離は小さいので、がん患者に適用すると、多剤併用の必要性が少なくなることから、予期しない有害作用の出現を回避することができ、更に、難治性がん性疼痛患者のクオリティ・オブ・ライフの改善が期待できる。本発明の化合物は、神経障害性疼痛モデル及び骨がん性疼痛モデルに対し鎮痛作用を示し、また種々がん細胞の増殖・生存・遊走を抑制したことから、難治性の慢性疼痛に対し鎮痛薬として、種々のがんに対して抗がん薬としてそれぞれ単独でも治療効果が期待できる。特に骨がん性疼痛モデルマウスの疼痛反応に対して良好な鎮痛効果を示した(
図8)。本モデルマウスの疼痛反応に対してオピオイドが効きにくいことは既に報告されており(Minami et al.、J Pharmacol Sci.、111(1)、60-72、2009)、臨床においてもがん細胞の骨転移痛にはオピオイドが効きにくいとされる。したがって本発明の化合物は、オピオイドが効きにくい転移性骨腫瘍に伴う疼痛に対しての治療効果が期待できる。
【0051】
がんと診断されてからの5年生存率は、すい臓がん8.9%、肺がん29.5%、脳・中枢神経系34.1%であり、これらは他の腫瘍と比較して著しく低い(国立がん研究センター統計による)。外科的手術において取りきれていなかった腫瘍が再増殖する「再発」又は別の部位でがんが見つかる「転移」によるものであるが、5年生存率の低さは、これら腫瘍の再発・転移に対する薬物治療が現状において完全でないことを示す。本発明の化合物は、すい臓がん細胞Panc1、肺がん細胞株A549、及び脳腫瘍(グリオーマ)細胞U87、U251をはじめとする種々がん細胞において増殖・生存・遊走を強く抑制することができた(
図5及び
図9)。また、Xenograftモデルにおいても、本発明の化合物は、経口投与で腫瘍増殖抑制効果を示した(
図10)。以上のことから、外科的手術において腫瘍を取り除いた後のがん再発・転移を予防するために用いることが期待でき、5年生存率の改善につながることが期待できる。
【0052】
近年、本発明のターゲット分子である核内受容体Nr4a1は、「PD-L1の発現」(Karki et al.、Cancer Res 80(5)、1011-1023、2020)及び「T細胞の疲弊化」(Liu et al.、Nature 567、525-529、2019; Chen et al.、Nature 567、530-534、2019)に関与するという報告がされており、本発明の化合物によりNr4a1を阻害すると、「がん細胞におけるPD-L1の発現減少」及び「T細胞の活性化」を介して、がん免疫療法を増強する可能性が期待できる。
【0053】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2020-120069の明細書及び図面に記載される内容を包含する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]3-置換-2-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン誘導体の合成
【化5】
【0056】
Ar雰囲気下、市販のo-ニトロ安息香酸(100mg,0.60mmol)のジクロロメタン溶液(3mL)に市販のアミン2a-i(0.60mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(149mg,0.78mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(92mg,0.60mmol)、トリエチルアミン(0.08mL,0.60mmol)を氷冷下、順次加えた後、室温で24時間撹拌した。その後、10%HCl水溶液(3mL)を加え、ジクロロメタン(1mL×3回)で抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:アセトン=3:1~1:1)により精製することでアミド3a-iを得た。
【0057】
アミド3a-i(0.48mmol)の酢酸エチル溶液(3mL)に10%パラジウム活性炭素(5mg)を室温にて加えた後、水素置換を行い、室温で2時間撹拌した。その後、セライト濾過により触媒を取り除き、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去することでアニリンを得た。得られたアニリンは精製を行うことなく次の反応に用いた。Ar雰囲気下、得られたアニリンのアセトニトリル溶液(3mL)に5-クロロ-3,4-ジベンジルオキシベンズアルデヒド(168mg,0.48mmol)、シアヌル酸クロリド(18mg,0.10mmol)を室温にて順次加えた後、室温で24時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:アセトン=2:1~1:1)により精製することで1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン誘導体4a-iを得た。
【0058】
1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン誘導体4a-iのメタノール溶液(3mL)に20%水酸化パラジウム活性炭素(3mg)を室温にて加えた後、水素置換を行い、室温で4時間撹拌した。その後、セライト濾過により触媒を取り除き、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=50:1~10:1)により精製することで目的とするNRA-807~NRA-815を得た。
【0059】
3-ブチル-2-(5-クロロ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン(NRA-807)
1H-NMR (400 MHz、 DMSO-d6) δ: 0.87 (3H、 t、 J = 7.4 Hz)、 1.32 (2H、 sext、 J = 7.4 Hz)、1.46-1.64 (2H、 m)、 2.75-2.82 (1H、 m)、 3.94-4.04 (1H、 m)、 5.78 (1H、 d、 J = 2.4 Hz)、 6.41 (1H、 s)、 6.65 (1H、 d、 J = 7.6 Hz)、 6.70 (1H、 td、 J = 7.6、 1.3 Hz)、6.82 (1H、 d、 J = 2.4 Hz)、 6.90 (1H、 d、 J = 2.4 Hz)、7.19 (1H、 td、 J = 7.6、 1.3 Hz)、 7.75 (1H、dd、 J = 7.6、 1.3 Hz)、 8.49 (1H、s)
【0060】
2-(5-クロロ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-イソプロピル-1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン(NRA-808)
1H-NMR (400 MHz、DMSO-d6) δ: 1.00 (3H、 d、 J = 6.9 Hz)、 1.26 (3H、 d、 J = 6.9 Hz)、4.73 (1H、 sept、 J = 6.9 Hz)、5.82 (1H、 d、 J = 2.0 Hz)、 6.40 (1H、 s)、 6.58 (1H、 d、 J = 7.6 Hz)、 6.73 (1H、 t、 J = 7.6 Hz)、 6.81 (1H、 d、 J = 2.0 Hz)、6.89 (1H、 d、 J = 2.0 Hz)、7.14 (1H、 td、 J = 7.6、 2.0 Hz)、 7.43 (1H、dd、 J = 7.6、 2.0 Hz)、 8.43 (1H、 br)
3-ベンジル-2-(5-クロロ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン(NRA-809)
1H-NMR (400 MHz、 DMSO-d6) δ: 3.78 (1H、 d、 J = 15.6 Hz)、 5.48 (1H、 d、 J = 15.6 Hz)、5.63 (1H、 d、 J = 1.8 Hz)、 6.37 (1H、 s)、 6.67 (1H、 d、 J = 7.2 Hz)、 6.75 (1H、 t、 J = 7.2 Hz)、 6.79 (1H、 d、 J = 1.8 Hz)、 6.83 (1H、 d、 J = 1.8 Hz)、7.20-7.32 (6H、 m)、 7.84 (1H、 dd、 J = 7.2、 1.8 Hz)、 8.48 (1H、 br)
【0061】
2-(5-クロロ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-フェネチル-1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン(NRA-810)
1H-NMR (400 MHz、 DMSO-d6) δ: 2.76-2.79 (1H、 m)、 2.92-3.07 (2H、 m)、4.05-4.11 (1H、 m)、 5.71 (1H、 d、 J = 2.0 Hz)、6.34 (1H、 s)、 6.66 (1H、 d、 J = 7.5 Hz)、6.72 (1H、 t、 J = 7.5 Hz)、6.82 (1H、 d、 J = 2.0 Hz)、 6.89 (1H、 d、 J = 2.0 Hz)、 7.15-7.28 (6H、 m)、 7.79 (1H、 dd、 J = 7.5、 2.0 Hz)、8.54 (1H、 br)
【0062】
2-(5-クロロ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-(3-フェニルプロピル)-1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン(NRA-811)
1H-NMR (400 MHz、 DMSO-d6) δ: 1.81-2.00 (2H、 m)、 2.62 (2H、 t、 J = 7.6 Hz)、 2.84-2.91 (2H、 m)、3.92-3.99 (1H、 m)、5.78 (1H、 d、 J = 1.8 Hz)、6.66 (1H、 d、 J = 7.7 Hz)、 6.71 (1H、 t、 J = 7.7 Hz)、 7.13 (1H、 t、 J = 7.7 Hz)、7.17-7.26 (5H、 m)、 7.78 (1H、 d、 J = 7.7 Hz)、8.56 (1H、 br)
【0063】
2-(5-クロロ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-(4-フェニルブチル)-1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン(NRA-812)
1H-NMR (400 MHz、 DMSO-d6) δ: 1.62-1.65 (5H、 m)、 2.03-2.08 (1H、 m)、2.60-2.61 (1H、 m)、 3.98-4.05 (1H、 m)、 5.75 (1H、 J = 2.7 Hz)、 6.64 (1H、 J = 7.7 Hz)、 6.79 (1H、 d、 J = 1.8 Hz)、6.87 (1H、 d、 J = 1.8 Hz)、 7.10-7.25 (6H、 m)、7.77 (1H、 dd、 J = 7.7、 1.8 Hz)、8.52 (2H、br)
【0064】
2-(5-クロロ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-(3-(p-メトキシフェニル)プロピル)-1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン(NRA-813)
1H-NMR (400 MHz、Acetone-d6) δ: 1.79-1.98 (2H、m)、 2.55 (2H、 t、 J = 8.0 Hz)、 2.82-2.90 (1H、 m)、 3.73 (3H、 s)、3.88-3.96 (1H、 m)、5.77 (1H、 d、 J = 1.6 Hz)、6.66 (1H、 d、 J = 8.0 Hz)、 6.70 (1H、 t、 J = 8.0 Hz)、 6.78-6.82 (3H、 m)、 6.87 (1H、 d、 J = 2.4 Hz)、 7.08 (1H、 d、 J = 8.0 Hz)、7.20 (1H、 td、 J = 1.6 Hz)、7.77 (1H、 dd、 J = 8.0、 1.6 Hz)
【0065】
2-(5-クロロ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-(3-(p-フルオロフェニル)プロピル)-1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン(NRA-814)
1H-NMR (400 MHz、Acetone-d6) δ: 1.80-2.00 (2H、m)、 2.63 (2H、 t、 J = 8.0 Hz)、 2.82-2.92 (1H、 m)、 3.91-3.98 (1H、m)、5.78 (1H、 d、 J = 2.4 Hz)、 6.66 (1H、 d、 J = 8.0 Hz)、6.72 (1H、 t、 J = 8.0 Hz)、 6.81 (1H、 d、 J = 2.4 Hz)、6.88 (1H、 d、 J = 2.4 Hz)、 7.00 (2H、 t、 J = 8.0 Hz)、7.19-7.24 (3H、 m)、 7.79 (1H、 dd、 J = 8.0、 1.2 Hz)、 8.12 (1H、 s)、 8.76 (1H、 s)
【0066】
2-(5-クロロ-3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-(3-(p-クロロフェニル)プロピル)-1,2,3,4-テトラヒドロキナゾリン-4-オン(NRA-815)1H-NMR (400 MHz、Acetone-d6) δ: 1.80-2.00 (2H、 m)、 2.63 (2H、 t、 J = 8.0 Hz)、 2.83-2.94 (1H、 m)、 3.88-3.96 (1H、 m)、5.79 (1H、 d、 J = 1.6 Hz)、 6.40 (1H、 s)、 6.67 (1H、 t、 J = 8.0 Hz)、 6.72 (1H、 t、 J = 8.0 Hz)、 6.82 (1H、 d、 J = 2.4 Hz)、 6.88 (1H、 d、 J = 2.4 Hz)、7.18-7.28 (5H、 m)、 7.78 (1H、 dd、 J = 8.0、 1.2 Hz)、 8.56 (1H、 br)
【0067】
[実施例2]新規Nr4a1アンタゴニスト候補化合物の同定
本発明者らは新規Nr4a1拮抗薬の獲得を目指し、Nr4a1タンパクと既知アンタゴニストTMPAの複合体構造(PDB;3V3Q)を基に、「3次元ファーマコホアベースの絞り込み」、「分子ドッキングシミュレーションによる絞り込み」、及び「化学特性に基づいた分子類似性解析」からなる多段階イン・シリコスクリーニングを行い、既存の化合物データベースより、10化合物(ナミキ商事株式会社から購入)を新規Nr4a1アンタゴニスト候補化合物として同定した。その後、NBRE-Lucレポーターベクター(NBRE;Nr4a1結合DNAドメイン)を用いた一次スクリーニングを行った。すなわちCHO細胞を96wellプレートに1×10
5個播種し、24時間インキュベートした。NBRE-LucレポーターベクターとNr4a1発現ベクターをトランスフェクションし6時間インキュベートした。培地交換後、候補化合物(10化合物)、及びすでに報告されているNr4a1拮抗薬であるTMPA及びDIM-C-pPhOHを20μMとなるよう加え、18時間インキュベートした。その後、ルシフェリンを加え、マイクロプレートリーダーにて発光を測定した。このようなレポーターアッセイにおいて、拮抗薬としての特性を持つ化合物として1種同定することができた(NRA-8と命名)。NRA-8のNr4a1阻害効果は、すでに報告されているNr4a1拮抗薬であるTMPA及びDIM-C-pPhOHと比較して同等あるいはそれよりも強力であった。レポーターアッセイの結果及びNRA-8の構造を
図1に示す。
【0068】
[実施例3]マウス疼痛モデルを用いた薬効評価1(PACAP髄腔内投与により誘発される機械的アロディニア)
PACAP(100pmol/5μL)をマウスに単回脊髄くも膜下腔内(i.t)投与すると、機械刺激に対する過敏現象(機械的アロディニア)を長期(投与後少なくとも3か月間)に渡って生じた(Yokai et al. Mol. Pain 2016. 12、 1-13.)。このPACAP誘発長期機械的過敏現象の発症は、NRA-8(1nmol)の同時投与によってほぼ完全に抑制された(
図2)。コントロールとして用いた既知Nr4a1拮抗薬TMPA及びDIM-C-pPhOHも同様に発症を抑制したが、その効果はNRA-8が最も強力であった(
図2)。前記化合物に代えて溶媒(VEH:0.2%DMSO含有人工脳脊髄液)を使用した例では、PACAP誘発機械的過敏現象を抑制しなかった。
【0069】
マウスは雄性ddY(6~12週齢)を使用し、機械刺激に対する閾値は、vonFreyテストにより評価した。すなわち、Chaplanらの方法に従い、50%逃避反射閾値(Threshold)を算出した(Chaplan et al.、 J. Neurosci. Meth. 53、 55-63、 1994)。化合物は、99.7%DMSOに溶解した後、人工脳脊髄液で希釈して調製した(DMSOの最終濃度は0.2%)。
【0070】
[実施例4]マウス疼痛モデルを用いた薬効評価2(末梢神経障害性疼痛モデル:脊髄神経損傷により誘発される機械的アロディニア)
雄性ddY(6~12週齢)の第4腰髄脊髄神経を絹糸で結紮するspinal nerve ligation(SNL)モデルを使用した。薬効評価は、神経結紮の14日後に行った。NRA-8(100pmol及び1nmol)のi.t.投与は、神経結紮によって誘発される機械的アロディニアを用量依存的に抑制した(
図3)。一方で、溶媒(VEH:0.2%DMSO含有人工脳脊髄液)を使用した例では、機械的アロディニアを抑制しなかった。
【0071】
[実施例5]マウス疼痛モデルを用いた薬効評価3(骨がん性疼痛モデル:大腿骨へのがん細胞の移植により誘発される機械的アロディニア)
雄性C3H/HeNマウス(6~12週齢)の大腿骨骨髄(膝関節部位より)にNCTC2472細胞を移植することによって惹起される機械的アロディニアに対する薬物の効果を検討した。NRA-8はがん細胞移植の10日目に経口投与した。NRA-8(10及び30mg/kg)の経口投与は、がん細胞移植によって誘発される機械的アロディニアを用量依存的に抑制した(
図4)。一方で、溶媒(VEH:0.1%DMSO含有蒸留水)を使用した例では、機械的アロディニアを抑制しなかった。
【0072】
[実施例6]ヒトすい臓がん細胞株Panc1に対する抗がん活性
ヒトすい臓がん細胞株Panc1に対する抗がん活性を調べたところ、新規Nr4a1拮抗薬NRA-8は、Panc1細胞の増殖・生存・遊走を抑制した(
図5)。一方で、既存の鎮痛薬(アスピリン(アセチルサリチル酸)、ジクロフェナク、プレガバリン)に抗がん活性(細胞増殖の抑制効果)は認められなかった(
図6)。また、NRA-8は、A549細胞(ヒト肺がん)、U87及びU251(ヒト脳腫瘍)、LNCaP(ヒト前立腺がん)、MCF7(ヒト乳がん)などの種々のがん細胞株においても同様の抗がん活性を示した。
【0073】
更に、本発明者らはNRA-8より強い活性を示す化合物の獲得を目指し、NRA-8の構造をもとに構造展開を行った。NBRE-Lucレポーターベクター(NBRE;Nr4a1結合DNAドメイン)を用いたスクリーニングにおいて、元化合物である化合物NRA-8と同等以上の効力を示す化合物として、NRA-811の獲得に成功した。また、NRA-811の構造をもとに更に強い活性を持つ化合物の構造展開を行い、レポーターアッセイを行ったところ、NRA-811よりも強力な活性を持つ化合物NRA-813、814及び815の獲得に成功した。
【0074】
レポーターアッセイによる本発明の化合物の評価を
図7に示す。
【0075】
PACAP誘発長期疼痛モデル、坐骨神経結紮神経障害性疼痛モデル、及び骨がん性疼痛モデルに対し、NRA-8よりも強い鎮痛作用を示した(
図8)。
【0076】
また、NRA-811及び815は、ヒトすい臓がん細胞株Panc1において、細胞増殖・生存・遊走の抑制を示し、その効果は元化合物(NRA-8)よりも強力であった(
図9)。また、NRA-811及び815は、A549細胞(ヒト肺がん)、U87及びU251(ヒト脳腫瘍)、LNCaP(ヒト前立腺がん)、MCF7(ヒト乳がん)などの種々のがん細胞株においても同様の抗がん活性を示した。
【0077】
[実施例7]Xenograftモデル(がん細胞移植モデル)における抗がん活性
雄性ヌードマウス(Balb/c nu/nu,6週齢)を使用し、右脇腹皮下にヒトすい臓がん細胞株Panc1(1×106個)を移植した。NRA化合物は0.3%メチルセルロース含有水に懸濁し、がん細胞移植7日目から一日1回7日間、経口投与した。腫瘍の大きさは、ノギスを用いて、腫瘍の長径(mm)と短径(mm)を計測し、体積を長径(mm)×短径(mm)×短径(mm)として算出した。
【0078】
NRA-8の腫瘍増殖抑制効果はXenograftモデルにおいては強いものではなかったが、本発明の化合物であるNRA-811及び815はNRA-8よりも強い腫瘍増殖抑制効果を示した(
図10)。
【0079】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。