(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】フェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材、電子材料又は電子部品
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20250210BHJP
【FI】
C01G49/00 A
(21)【出願番号】P 2021551690
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2020038020
(87)【国際公開番号】W WO2021070871
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019184770
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】安賀 康二
(72)【発明者】
【氏名】小島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆男
(72)【発明者】
【氏名】續 忠志
(72)【発明者】
【氏名】近野 曉美
(72)【発明者】
【氏名】桑原 翔
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-154869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
C08K 3/22
C01L 101/00
H01F 1/34
H01F 1/36
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップ構造を表面に備える球状又は多面体状のフェライト粒子を少なくとも含み、
前記ステップ構造は、前記フェライト粒子の表面において多角形状の輪郭を有
し、
前記ステップ構造の輪郭は閉じた直線形状で構成されている、フェライト粉末。
【請求項2】
前記ステップ構造が2段以上のステップを有する、請求項1に記載のフェライト粉末。
【請求項3】
前記フェライト粉末は、その形状係数SF-1が100~110である、請求項1又は2に記載のフェライト粉末。
【請求項4】
前記フェライト粉末は、その体積粒度分布における50%径(D50)が0.10~20.00μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
【請求項5】
前記フェライト粉末は、マンガン(Mn)含有量が4.0~17.0質量%、鉄(Fe)含有量が50.0~70.0質量%のマンガン(Mn)フェライトの組成を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のフェライト粉末と、樹脂と、を含む、フェライト樹脂複合材料。
【請求項7】
請求項6に記載のフェライト樹脂複合材料を含む、電磁波シールド材、電子材料又は電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材、電子材料又は電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト粉末と樹脂とからなる複合材料は、電磁波シールド材を始め、様々の用途で多用されている。このような複合材料は、フェライト粉末と樹脂とを混練することで作製される。複合材料はシートなどの形状に成形されて複合体(成形体)となる。このときフェライト粉末を構成する粒子の形状が球形に近いと、成形時の流動性が高くなり、複合体中のフェライト粉末の充填率が高くなる。そのため成形性が良好になるとともに、電磁波遮蔽性能等の特性が良好になる。このような観点から球状又は多面体状の粒子で構成されるフェライト粉末(粒子)が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1(国際公開第2017/212997号)には、平均粒径が1~2000nmの単結晶であり且つ真球状の粒子形状を備えるフェライト粒子であって、当該フェライト粒子は、Znを実質的に含有せず、Mnを3~25重量%、Feを43~65重量%を含有し、当該フェライト粒子とバインダー樹脂とからなる成形体によって測定した複素透磁率の実部が100MHz~1GHzの周波数帯域において極大値を有することを特徴とするフェライト粒子が開示され、該フェライト粒子を電子機器の電磁波シールド材料に用いると、幅広い周波数帯域の電磁波を周波数に関係なく安定して遮蔽できる旨が記載されている(特許文献1の請求項1及び[0078])。
【0004】
特許文献2(特開2016-60682号公報)には、粒径11μm未満のフェライト粒子を15~30重量%含有し、かつ体積平均粒径が10~50μmであることを特徴とする真球状フェライト粉が開示され、フィラーとして用いられたときの充填性及び成型性が良好で、優れたハンドリング性を有し、かつ高抵抗であることから、この球状フェライト粉を樹脂と共に樹脂組成物とし、さらに成型した成型体は、電磁波吸収用のIC封止剤を始めとする種々の用途に使用可能である旨が記載されている(特許文献2の請求項1及び[0093])。
【0005】
特許文献3(国際公開第2018/061327号)には、平均粒径が1~2000nmの単結晶体であり、且つ、多面体状の粒子形状を備え、Niを5~10重量%含有し、Znを15~30重量%含有し、Cuを1~5重量%含有し、Feを25~50重量%含有することを特徴とするNi-Zn-Cu系フェライト粒子が開示され、該フェライト粒子は、高い飽和磁化と高い電気抵抗を両立して備えることから、磁気フィラーや成形体原料として好適である旨が記載されている(特許文献3の請求項1及び[0089])。
【0006】
特許文献4(特開2006-160560号公報)には、(a)可溶性イオンの含有量が5ppm以下、(b)平均粒子径が10~50μmの範囲であり、(c)X線回折による結晶構造がスピネル構造を示す球状焼結フェライト粒子が開示され、該球状焼結フェライト粒子とシリカ粒子からなる充填材を含有する半導体封止用樹脂組成物は、低粘度で良好な流動特性を有し、しかも電磁波遮蔽機能を有するようになり、この樹脂組成物を封止材料として用いることにより、得られる半導体装置はEMCに優れたものとなる旨が記載されている(特許文献4の請求項1及び[0023])。
【0007】
特許文献5(特開平04-304700号公報)には、平均粒径が50~150μmの球状粒子であることを特徴とするMn-Zn系フェライト粒子粉末からなる電波吸収体材料用粉末が開示され、平均粒径を150μm以下の球状とすることにより、従来、材料の大粒径化の支障となっていた射出成形時のゲートの詰まりを流動性の向上により改善できる旨が記載されている(特許文献5の請求項1及び[0008])。
【0008】
また電磁波シールド材等の複合材とは異なる用途に用いられるものではあるが、特許文献6(特許第5921801号公報)には、原料としてのFe2O3粉末と、このFe2O3粉末10kg当たり10~50gの副原料としての炭酸塩と、還元剤としての混合物を顆粒化した後、1000℃以下の温度で焼成して、粒子の表面に同心円状に広がった隆起部分の集合であるステップ状の凹凸を有するキャリア芯材を製造することを特徴とする、電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法が開示され、該キャリア芯材は球形度が0.8以上である旨が記載されている(特許文献6の請求項1及び[0024])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/212997号
【文献】特開2016-60682号公報
【文献】国際公開第2018/061327号
【文献】特開2006-160560号公報
【文献】特開平04-304700号公報
【文献】特許第5921801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、球状又は多面体状のフェライト粉末を用いることで、複合材料や複合体としたときの成形性及び充填性の改善を図ることが提案されている。しかしながら、本発明者らが調べたところ、このようなフェライト粉末と樹脂とを用いて複合体を作製すると、複合体からフェライト粒子が脱落し易いとの問題のあることが分かった。特に複合体を加工する際にフェライト粒子の脱落(脱離粒子)が数多く見つかった。このようなフェライト粒子の脱落は、複合体表面の平滑性劣化をもたらすため、好ましくない。
【0011】
粒子脱落の原因を究明するにあたり、球状や多面体状のフェライト粒子は、その表面が滑らか過ぎるため、樹脂との密着力に劣ると本発明者らは考えた。さらに検討を進めた結果、球状や多面体状のフェライト粒子あっても、その表面に多角形状のステップ構造を設けることで樹脂との密着力が改善すること、及びこのような粒子を備えたフェライト粉末は、これを複合材料や複合体に適用したときに、成形性及び充填性を損なうことなく、粒子脱落を抑制できるとの知見を得て、本発明を完成させた。
【0012】
したがって本発明は、複合材料や複合体に適用したときに成形性及び充填性を損なうことなく粒子脱落を抑制できるフェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材料、電子材料又は電子部品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記(1)~(7)の態様を包含する。なお、本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0014】
(1)ステップ構造を表面に備える球状又は多面体状のフェライト粒子を少なくとも含み、
前記ステップ構造は、前記フェライト粒子の表面において多角形状の輪郭を有する、フェライト粉末。
【0015】
(2)前記ステップ構造が2段以上のステップを有する、上記(1)のフェライト粉末。
【0016】
(3)前記フェライト粉末は、その形状係数SF-1が100~110である、上記(1)又は(2)のフェライト粉末。
【0017】
(4)前記フェライト粉末は、その体積粒度分布における50%径(D50)が0.10~20.00μmである、上記(1)~(3)のいずれかのフェライト粉末。
【0018】
(5)前記フェライト粉末は、マンガン(Mn)含有量が4.0~17.0質量%、鉄(Fe)含有量が50.0~70.0質量%のマンガン(Mn)フェライトの組成を有する、上記(1)~(4)のいずれかのフェライト粉末。
【0019】
(6)上記(1)~(5)のいずれかのフェライト粉末と、樹脂と、を含む、フェライト樹脂複合材料。
【0020】
(7)上記(6)のフェライト樹脂複合材料を含む、電磁波シールド材、電子材料又は電子部品。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複合材料や複合体に適用したときに、成形性及び充填性を損なうことなくフェライト粒子の脱落を抑制できるフェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材料、電子材料又は電子部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0024】
1.フェライト粉末
本実施形態のフェライト粉末は、ステップ構造を表面に備える球状又は多面体状のフェライト粒子を少なくとも含む。このステップ構造は、フェライト粒子の表面において多角形状の輪郭を有する。
【0025】
本実施形態のフェライト粉末は、複数のフェライト粒子から構成される。すなわちフェライト粉末は複数のフェライト粒子の集合体である。またフェライト粉末は、ステップ構造を表面に備える球状又は多面体状のフェライト粒子(球状様ステップ粒子)を少なくとも含む。すなわちフェライト粉末を構成するフェライト粒子は、その一部が球状様ステップ粒子であってもよく、あるいは全部が球状様ステップ粒子であってもよい。
【0026】
フェライト粉末に含まれる粒子の形状を球状又は多面体状とすることで、この粉末の成形性及び充填性をより優れたものとすることができる。これは、球状又は多面体状の粒子は、成形時に他の粒子と接触したときに滑らかに回避できるからである。そのため成形時の流動性を良好にするとともに密に充填する。これに対して板状又は針状といった異方形状あるいは不定形状を有する粒子は、成形性及び充填性に劣る。
【0027】
フェライト粉末が亜鉛(Zn)やストロンチウム(Sr)等の飽和蒸気圧の高い成分を含むときには、粒子が多面体状になり易い。これは、フェライト粉末製造時の高温加熱(溶射)工程で、飽和蒸気圧の高い成分が粒子内部から外部に移動してフラックスとして機能し、それにより粒子が結晶構造を反映した多面体状に成長しやすくなるためと考えられている。一方で、フェライト粉末が飽和蒸気圧の高い成分を含まないとき、例えばマンガン(Mn)フェライトなどの組成を有するときには、粒子が球状になりやすい。
【0028】
多面体状の粒子は、基本的に複数の多角形が立体的に組み合わさった形状を有している。多面体を構成する多角形は、典型的には、三角形、四角形、六角形、八角形、十角形又はこれらの組み合わせからなる。このような多面体として、例えば四角形と六角形と八角形との組み合わせからなる斜方切頂立方八面体が挙げられる。また多面体は面の数が多いほど球に近くなる。したがって多面体状粒子は、好ましくは10面体以上、より好ましくは12面体以上、さらに好ましくは14面体以上の形状を有する。また多面体状粒子は、典型的には100面体以下、より典型的には72面体以下、さらに典型的には24面体以下の形状を有する。
【0029】
なお多角形を構成する直線の一か所または複数箇所が切れている粒子や、直線の一部が曲線となっている粒子も、粒子全体を見たときに多面体状と認識できる程度であれば、多面体状粒子に含まれるものとする。また多角形を構成する直線に細かくギザギザが入っている粒子も、多面体状粒子に含まれるものとする。さらに球状様ステップ粒子はその表面にステップ構造を有しており、厳密に言うと、完全な球状又は多面体状とはならないことがある。しかしながら、このステップ構造は粒子の寸法に比べて格段に小さい。したがって、このような微視的なステップ構造を有していても、巨視的に見て球又は多面体の形状を有する粒子を、球状又は多面体状の粒子とする。
【0030】
本実施形態のフェライト粉末は、これに含まれるフェライト粒子(球状様ステップ粒子)がステップ構造を備える。このステップ構造を
図1及び
図2を用いて説明する。
図1及び
図2は、本実施形態の一態様における球状様ステップ粒子の表面SEM像である。
図1及び
図2を見て分かるように、粒子表面は平滑ではなく、ステップ構造が形成されている。このようなステップ構造を有する粒子が含まれることで、フェライト粉末を複合材料や複合体に適用したときに、樹脂との密着力が向上して粒子脱落が抑制される。その詳細なメカニズムは不明であるが、粒子表面にステップ構造が存在することで、粒子の表面積、すなわち樹脂との接触面積が増大し、その結果、粒子と樹脂との間の化学的結合力が高くなると推測している。またステップ構造の段差で粒子と樹脂とが嵌合することで、樹脂のアンカー効果が働き、粒子と樹脂との間の物理的結合力が高くなるとも推測している。
【0031】
ステップ構造はフェライト粒子表面において多角形状の輪郭を有する。すなわち粒子を表面視したときに、ステップ構造はその外形(輪郭)が多角形状である。換言するに、直線の組み合わせでもって粒子表面の一領域を取り囲むようにステップ構造が設けられているということもできる。このようなステップ構造を設けることで、粒子の脱落をより効果的に防ぐことが可能となる。ステップ構造の輪郭は、多角形状である限り限定されない。しかしながらフェライトの結晶構造を反映して、輪郭は、典型的には三角形、四角形、六角形、八角形、十角形である。またフェライト粒子は、その表面に複数のステップ構造を備えていてもよい。これにより、粒子の脱落をより効果的に防ぐことができる。各フェライト粒子が備えるステップ構造は、好ましくは4~50個、より好ましくは4~30個である。
【0032】
なおステップ構造の輪郭は、無端であること、すなわち閉じた直線形状で構成されていることが好ましい。しかしながら輪郭を構成する直線の一か所または複数箇所が切れている場合、直線の一部が曲線となっている場合、あるいは直線に細かくギザギザが入っている場合であっても、全体視したときに多角形状の認識できる程度であれば、多角形状の輪郭とする。
【0033】
ステップ構造を構成するステップは1段であってもよく、あるいは多段であってもよい。しかしながらステップ段数が多いほど、粒子の脱落をより効果的に防ぐことができる。したがってステップ段数は、2段以上が好ましく、4段以上がより好ましい。一方で、ステップ段数が過度に多いと、フェライト粉末の流動性が劣化する恐れがある。したがってステップの段数は、100段以下が好ましく、80段以下がより好ましい。なおステップ構造が多段ステップで構成される場合、上段にあるステップが取り囲む領域は、その下段にあるステップが取り囲む領域より一回り小さい。すなわちステップ構造は上段ほど面積が小さい多角形板の積層体からなるということもできる。
【0034】
ステップ構造が多段ステップから構成される場合、ステップの平均間隔(Hs)は、0.001~0.2μm(1~200nm)が好ましい。ここで平均間隔(Hs)は、ステップ構造の隣接する断差(ステップ)間の距離の平均値である。これを
図3を用いて説明する。
図3は多段ステップ構造の断面模式図を示す。
図3に示されるように多段ステップ構造では複数の段差が存在し、隣接する段差はある距離を隔てて離れている。この隣接する断差間の距離の平均値をステップの平均間隔(Hs)とする。平均間隔(Hs)は、走査電子顕微鏡(SEM)などを用いてフェライト粒子表面を観察することで求めることができる。Hsは、3nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。またHsは、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましく、25nm以下が特に好ましい。
【0035】
体積平均粒径(D50)が2.00μm以上の場合、フェライト粉末中の球状様ステップ粒子の含有割合(Ps)は、個数基準で、3%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。Psが高ければ高いほど、樹脂との密着力が向上して粒子脱落が抑制される。そのためPsは高いほど好ましい。しかしながら、典型的には90%以下、より典型的には80%以下、さらに典型的には70%以下である。なおPsはフェライト粉末を走査電子顕微鏡(SEM)などで観察することで求めることができる。またPsはフェライト粉末製造時の条件を制御することで調整が可能である。
【0036】
一方で体積平均粒径(D50)が0.10μm以上2.00μm未満の場合、フェライト粉末中の球状様ステップ粒子の含有割合(Ps)は、個数基準で、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。Psが高ければ高いほど、樹脂との密着力が向上して粒子脱落が抑制される。しかしながら樹脂からの脱離で問題となるのは0.3μm以上の粒子である。体積平均粒径が0.10μm以上2.00μm未満の範囲内であれば粒径が比較的小さくBET比表面積が大きい。そのためPsが0.5%以上の範囲を満たしていればよい。Psは、典型的には60%以下、より典型的には45%以下、さらに典型的には30%以下である。なおPsはフェライト粉末を走査電子顕微鏡(SEM)などで観察することで求めることができる。またPsはフェライト粉末製造時の条件を制御することで調整が可能である。
【0037】
フェライト粉末は、その形状係数SF-1が100~110であるのが好ましい。SF-1は、粉末を構成する粒子の球形度の指標となるものであり、完全な球形では100となり、球形から離れるほど大きくなる。SF-1を110以下とすることで、粒子が球状又は多面体状のいずれであっても、粉末の流動性が高まり、成形性及び充填性がより優れたものになる。SF-1は、105以下がより好ましく、103以下がさらに好ましい。
【0038】
フェライト粉末は、その形状係数SF-2が100~110であるのが好ましい。SF-2は、粉末を構成する粒子表面の凹凸度合いを示す指標となるものである。SF-2は、表面凹凸が無ければ100となり、凹凸が深くなるほど大きくなる。本実施形態のフェライト粉末は、粒子表面に微視的なステップ構造を有し、これにより複合材料や複合体にしたときに、樹脂との密着性が向上して粒子の脱落が抑制される。そのため適度に高いSF-2が好ましい。SF-2は101%以上がより好ましい。一方で、SF-2が過度に高いと、粉末の流動度が劣るものとなり、成形性及び充填性が劣化する恐れがある。SF-2は105以下がより好ましい。
【0039】
フェライト粉末は、その体積粒度分布における50%径(体積平均粒径;D50)が0.10~20.00μmであるのが好ましい。D50を0.10μm以上とすることで、フェライト粉末の凝集を抑制することができ、成形性及び充填性がより優れたものとなる。一方で、D50を20.00μm以下とすることで、粒子間空隙の発生を抑制することができ、充填性がより優れたものとなる。D50は、0.50μm以上がより好ましく、0.60μm以上がさらに好ましく、0.80μm以上が特に好ましく、1.00μm以上が最も好ましい。またD50は、10.00μm以下がより好ましく、8.00μm以下がさらに好ましく、6.00μm以下が特に好ましく、4.00μm以下が最も好ましい。
【0040】
フェライト粉末は、後述する粒度分布測定において0.3μm以上の粒子の含有割合が、好ましくは0.1個数%以上、より好ましくは5.0個数%以上、さらに好ましくは10.0個数%以上、最も好ましくは20.0個数%以上である。なお個数分布は体積粒度分布測定結果を個数分布に換算したデータを用いる。
【0041】
フェライト粉末は、そのタップ密度が0.50~3.50g/cm3であるのが好ましく、1.00~3.00g/cm3であるのがより好ましい。小粒径の大粒径の粒子を混在させることでタップ密度を高めることができ、その結果、フェライト粉末の充填性が全体としてより優れたものとなる。
【0042】
フェライト粉末は、そのBET比表面積が、0.35~10.00m2/gであるのが好ましい。BET比表面積を10.00m2/g以下とすることで、フェライト粉末の凝集を抑制することができ、成形性及び充填性がより優れたものとなる。一方でBET比表面積を0.35m2/g以上とすることで、粒子間空隙の発生を抑制することができ、充填性がより優れたものとなる。またBET比表面積を上記範囲内とすることで、フェライト粉末を複合材料や複合体に適用したときに樹脂との密着性がより良好なものとなる。BET比表面積は、0.50m2/g以上がより好ましい。またBET比表面積は、7.50m2/g以下がより好ましく、5.00m2/g以下がさらに好ましく、2.50m2/g以下が特に好ましい。
【0043】
フェライト粉末の組成は特に限定されるものではない。しかしながらフェライト粉末が、マンガン(Mn)フェライトの組成を有することが好ましい。マンガン(Mn)フェライトは、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、酸素(O)を主に含むフェライトであり、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)及び/又はストロンチウム(Sr)などの他の成分を含み得る。マンガン(Mn)フェライトが、他の成分を含まず、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、酸素(O)を含み、残部不可避不純物からなる組成を有するものであってもよい。またフェライト粉末のマンガン(Mn)含有量は、好ましくは4.0~17.0質量%、鉄(Fe)含有量は、好ましくは50.0~70.0質量%である。このような組成とすることで、フェライト粉末及びそれを用いて作製された複合材料や複合体の磁気特性を良好なものとすることができる。マンガン(Mn)含有量は、より好ましくは4.0~11.0質量、さらに好ましくは5.0~10.0質量%である。また鉄(Fe)含有量は、より好ましくは60.0~65.0質量%、さらに好ましくは61.0~65.0質量%である。
【0044】
2.フェライト粉末の製造方法
本実施形態のフェライト粉末は、その製造方法が限定されない。しかしながら以下に説明するように、フェライト原料の混合物を所定の条件で溶射し、次いで急冷することにより製造することができる。
【0045】
<原料混合>
まずフェライト原料を混合して原料混合物とする。フェライト原料として、酸化物、炭酸塩、水酸化物及び/又は塩化物などの公知のフェライト原料を使用できる。また原料の混合は、ヘンシェルミキサー等の公知の混合機を用い、乾式及び湿式のいずれか一方又は両方で行えばよい。
【0046】
<仮焼成及び粉砕>
次に得られた原料混合物を仮焼成して仮焼成物とする。仮焼成は公知の手法で行えばよい。例えば、ロータリーキルン、連続炉又はバッチ炉などの炉を用いて行えばよい。仮焼成の条件も公知の条件でよい。例えば、大気等の雰囲気下で700~1300℃で2~12時間保持する条件が挙げられる。
【0047】
<造粒>
その後、得られた仮焼成物を粉砕及び造粒して造粒物とする。粉砕方法は特に限定されない。例えば、振動ミル、ボールミル又はビーズミルなどの公知の粉砕機を用い、乾式及び湿式のいずれか一方又は両方で行えばよい。造粒方法も公知の手法でよい。例えば粉砕後の仮焼成物に、水と、必要に応じて、ポリビニルアルコール(PVA)等のバインダー、分散剤及び/又は消泡剤などの添加剤と、を加えて粘度を調整し、その後、スプレードライヤー等の造粒機を用いて造粒する。
【0048】
通常のフェライト粒子の製造においては、バインダー成分を本焼成前に除去する。これに対して、本実施形態では脱バインダー処理を行わないことが好ましい。バインダー成分を含有した状態で溶射を行うことで、ステップ形状を安定的に生成させることが可能になる。
【0049】
先述したように、製造後のフェライト粉末が亜鉛(Zn)やストロンチウム(Sr)等の飽和蒸気圧の高い成分を含むときには、粒子が多面体状になり易い。一方で、飽和蒸気圧の高い元素を含む場合であっても、後述する高温加熱(溶射)工程で温度を適切に制御すれば、真球状の粒子形状を維持しながら、粒子表面に多面体形状の微細ステップ構造を形成することができる。フェライト主成分である鉄(Fe)と鉄(Fe)以外の元素では飽和蒸気圧が異なるためである。また、温度を適切に制御する上で、高温加熱(溶射)工程に供される原料粒子(造粒物)に含まれるバインダー成分の吸熱反応を用いることが有効である。
【0050】
具体的には、原料粒子組成(MFe、Mm)及びバインダー樹脂量(B)で表される相対バインダー樹脂量(B×(MFe+Mm)/Mm、単位:質量%)が、下記(1)式を満足するように調整することが好ましい。なお下記(1)式において、MFeは鉄(Fe)のmol数、Mmは鉄(Fe)以外の金属元素の総mol数、Bはバインダー樹脂の量(単位:質量%)である。
【0051】
【0052】
相対バインダー樹脂量が0.06を下回ると、バインダー成分添加量が少なくなりすぎる。溶射火炎の温度が過度に高くなるため、真球状の粒子であってもステップ構造が生成しにくくなる。一方で相対バインダー樹脂量が0.30を上回ると、バインダー成分添加量が多すぎる。そのため溶射火炎の温度が下がりすぎてしまい、真球状の粒子のみならず不定形の粒子が大量に生成してしまう。相対バインダー樹脂量は0.07以上0.20以下であることがより好ましい。
【0053】
<溶射>
次に得られた造粒物を溶射して溶射物とする。溶射では、燃焼ガスと酸素との混合気体を可燃性ガス燃焼炎として用いることができる。燃焼ガスと酸素との容量比は、1:3.5~1:6.0が好ましく、1:4.9~1:6.0がより好ましく、1:4.9~1:5.3が特に好ましい。これにより揮発した材料が凝縮し、粒径が小さい粒子の形成を好適に進行させることができる。例えば燃焼ガス7Nm3/時に対して酸素35Nm3/時の割合(燃焼ガスと酸素との容量比が1:5)とする条件が挙げられる。
【0054】
燃焼ガスや酸素が過度に多い条件では、燃焼に使われなかったガスや酸素が燃焼により発生した熱を奪い、火炎の温度が下がる恐れがある。したがってそのような条件で溶射を行うことは好ましくない。燃焼に使われなかった余剰燃焼ガス量は、供給された燃焼ガス量の20体積%以下であることが好ましい。また燃焼に使われなかった余剰酸素量は、供給された酸素量の20体積%以下であることが好ましい。
【0055】
溶射に用いる燃焼ガスとして、プロパンガス、プロピレンガス、アセチレンガス等の可燃性ガスが挙げられ、中でもプロパンガスが好適である。造粒物を可燃性ガス中に搬送するために、窒素、酸素、空気等の搬送ガスを用いることができる。搬送される造粒物の流速は、20~60m/秒が好ましい。溶射温度は、1000~3500℃が好ましく、2000~3500℃がより好ましい。このような条件を満足することで、揮発した材料が凝縮し、粒径が比較的小さい粒子の形成をさらに好適に進行させることができる。また得られるフェライト粒子の形状をさらに好適に調整することができる。
【0056】
次に溶射によりフェライト化した粒子に、冷却用ガスを導入して急冷及び凝固し、凝固した粒子をサイクロン又はフィルターで回収する。そして回収したフェライト粒子を、必要に応じて分級すればよい。冷却用ガスとして室温の大気を用いることができる。あるいは急冷と酸化を防止するため、室温よりも温度が低い空気や不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)も用いることもできる。分級では、既存の風力分級(気流分級)、メッシュ濾過、ふるい(篩)分級、沈降などの手法を用いて、所望の粒径に粒度調整する。なおサイクロン等の気流分級で粒径の大きい粒子を1つの工程の中で分離して回収することも可能である。
【0057】
ステップ構造を備えるフェライト粒子(球状様ステップ粒子)を得るためには、造粒物を所定の条件で溶射することが重要である。溶射時に造粒物の全体が溶融した後に急冷される。その詳細なメカニズムは不明であるが、高温溶融時にフェライトの結晶構造を反映した多角形状のステップ構造が粒子表面に形成され、急冷することでこの構造が保持されたまま冷却されるのではないかと推察している。すなわちバインダーを含有する造粒物が溶射されることで、バインダーが分解されながら原料一次粒子がフェライト粒子(球状様ステップ粒子)に変化してゆく。バインダー分解は吸熱反応であり、ステップ構造を形成しても必要以上に熱が加わりにくい。そのため、明確なステップ構造が生成及び維持されやすいと推察される。一方で、造粒物がバインダーを含有しない場合や非常に少ない場合には、火炎からの過剰な熱を受け取る。そのため、たとえステップ構造が形成されたとしても、時間の経過とともにステップ構造が粒子全体で維持されなくなり、局所的に消滅してしまう。造粒物のバインダー含有量は、造粒物の質量に対して0.007質量%以上が好ましい。一方で造粒物のバインダー含有量が過剰な場合には、吸熱反応が大きくなりすぎるため真球状にならない粒子が生成しやすくなる。造粒物のバインダー含有量は、造粒物の質量に対して0.100質量%以下が好ましく、0.050質量%以下がより好ましい。
【0058】
また造粒物を溶融温度以下の温度で焼成してフェライト粒子とした場合には、多角形状のステップ構造が形成されにくく、仮に形成されたとしても、徐冷することでステップ構造が消失してしまうと考えている。例えば、特許文献6では原料混合物を顆粒化した後に1000℃以下の温度で焼成して粒子表面にステップ状の凹凸を有するキャリア芯材を製造している(特許文献6の請求項1)。しかしながら、このステップ状の凹凸は同心円状であり、本実施形態が対象とするステップ構造とは形状が異なる。
【0059】
また溶射時の条件も重要である。すなわち溶射火炎中を通過する際の温度(原料粒子に対する与える熱量)から室温まで冷却される間の時間によって、ステップ構造発現のメカニズムが変化する。特に高い温度の火炎を通過した原料一次粒子が急冷されることでステップ構造が発現する。同じ温度の火炎であっても原料一次粒子の単位時間当たりの通過数(時間当たりの処理量)が多くなるとステップ構造は発現しにくくなる。そのためステップ構造を発現させる観点から、溶射原料の供給量は少ない方が好ましい。例えば、供給量は、20kg/時間以下が好ましく、10kg/時間以下がより好ましく、5kg/時間未満が最も好ましい。
【0060】
また燃焼ガス量比は1.05以上2.00以下であることが好ましい。ここで、燃焼ガス量比は、原料供給量(kg/時間)に対する正味の燃焼に使われる燃焼ガス量(Nm3/時間)の比であり、下記(2)式にしたがって求められる。
【0061】
【0062】
また正味の燃焼に使われる燃焼ガス量(Nm3/時間)は、下記(3)式又は下記(4)式にしたがって求められる。
【0063】
【0064】
3.フェライト樹脂複合材料
本実施形態のフェライト樹脂複合材料は、上記フェライト粉末と樹脂とを含む。この複合材料によれば、成形性及び充填性を損なうことなく、フェライト粒子の脱落が抑制される。
【0065】
複合材料を構成する樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂又はこれらの組み合わせなどが挙げられる。ここでシリコーン樹脂は、アクリル、ウレタン、エポキシ及び/又はフッ素等で変性した変性シリコーン樹脂であってもよい。
【0066】
複合材料は、フェライト粉末と樹脂以外の他の成分を含んでもよい。このような成分として、例えば、溶媒、充填剤(有機充填剤、無機充填剤)、可塑剤、酸化防止剤、分散剤、顔料等の着色剤及び/又は熱伝導性粒子などが挙げられる。
【0067】
複合材料中の全固形分に対するフェライト粉末の割合は、50~95質量%が好ましく、80~95質量%がより好ましい。また複合材料中の全固形分に対する樹脂の割合は、5~50質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。フェライト粉末や樹脂の割合を上記範囲内とすることで、複合材料中のフェライト粉末の分散安定性、並びに複合材料の保存安定性及び成形性が優れたものになるとともに、複合材料を成形して得られる複合体(成形体)の機械的強度や電磁波遮蔽性能等の特性がより優れたものになる。
【0068】
4.電磁波シールド材、電子材料、電子部品
本実施形態の電磁波シールド材、電子材料又は電子部品は、上記フェライト樹脂複合材料を含む。電磁波シールド材、電子材料又は電子部品は、複合材料を公知の手法で成形して作製すればよい。成形手法は、特に限定されるものではなく、例えば圧縮成形、押出成形、射出成形、ブロー成形又はカレンダー成形が挙げられる。また複合材料の塗膜を基体上に形成する手法であってもよい。
【0069】
このように、本実施形態のフェライト粉末は、特定の形状を有し且つ特定のステップ構造をその表面に備えるフェライト粒子を含むことを特徴としている。このフェライト粉末は、電磁波シールド材料、電子材料及び/又は電子部品の用途に好適である。また本実施形態のフェライト粉末、フェライト樹脂複合材料並びに電磁波シールド材料、電子材料又は電子部品は、成形性及び充填性を損なうことなく、フェライト粒子の脱落を抑制することが可能となる。これに対して、特許文献1~5にはフェライト粒子の表面構造に関する記載はなく、粒子脱落を課題とするものではない。また特許文献6に開示されるキャリア芯材は、その表面ステップ状凹凸が同心円状であり、本実施形態が対象とするステップ構造とは形状が異なる。またその課題はキャリア芯材の帯電付与能力の向上であり(特許文献6の[0026])、粒子脱落とは無関係である。
【実施例】
【0070】
本実施形態を、以下の例によって、さらに具体的に説明する。
【0071】
(1)フェライト粉末の作製
例1
<原料混合>
原料として、酸化鉄(Fe2O3)と四酸化三マンガン(Mn3O4)とを用い、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル比が、Fe:Mn=7.8:1となるように秤量し、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。
【0072】
<仮焼成及び粉砕>
得られた混合物を、ロータリーキルンを用いて仮焼成した。仮焼成は、混合物を大気中900℃で4時間保持することにより行った。得られた仮焼成物を、乾式ビーズミル(3/16インチの鋼球ビーズ)を用いて粗粉砕し、その後、水を加えて、湿式ビーズミル(0.65mmのジルコニアビーズ)を用いて微粉砕した。粉砕粉の粒径は、2.26μmであった。
【0073】
<造粒>
得られたスラリーに、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA、10%水溶液)を固形分換算で0.017質量%加えた。その後、バインダーを加えたスラリーを、スプレードライヤーを用いて造粒した。
【0074】
<溶射>
得られた造粒物を可燃性ガス燃焼炎中で溶射及び急冷した。溶射は、プロパンガス流量7.0m3/時間、酸素流量35m3/時間、原料供給速度4.5kg/時間の条件で行った。また溶射直後の燃焼ガスに冷却用の大気を導入して溶射物を急冷し、急冷した溶射物を気流の下流側に設けたサイクロンで回収した。得られた溶射物から篩を用いて粗粉を取り除き、さらに分級装置により微粉を除去して、複数個のマンガン(Mn)系フェライト粒子からなるフェライト粉末を得た。
【0075】
例2
溶射直後の燃焼ガスに冷却用の大気を導入して溶射物を急冷し、急冷した溶射物を気流の下流側に設けたバグフィルターで回収した。得られた溶射物から気流分級により粗粉を取り除くものの、微粉除去は行わなかった。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0076】
例3
原料混合時に、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル比が、Fe:Mn=3.0:1となるように秤量した。また造粒時に、スラリーに、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA、10%水溶液)を固形分換算で0.044質量%加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。例3では仮焼成及び粉砕後の粉砕粉の粒径は、2.52μmであった。
【0077】
例4
溶射直後の燃焼ガスに冷却用の大気を導入して溶射物を急冷し、急冷した溶射物を気流の下流側に設けたバグフィルターで回収した。得られた溶射物から気流分級による粗粉を取り除くものの、微粉除去は行わなかった。それ以外は例3と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0078】
例5
原料混合時に、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル比が、Fe:Mn=14.0:1となるように秤量した。また造粒時に、スラリーに、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA、10%水溶液)を固形分換算で0.010質量%加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。例5では仮焼成及び粉砕後の粉砕粉の粒径は、2.01μmであった。
【0079】
例6
溶射を、プロパンガス流量7.5m3/時間、酸素流量35m3/時間、原料供給速度4.5kg/時間の条件で行った。溶射直後の燃焼ガスに冷却用の大気を導入して溶射物を急冷し、急冷した溶射物を気流の下流側に設けたバグフィルターで回収した。得られた溶射物から気流分級により粗粉を取り除くものの、微粉除去は行わなかった。それ以外は例5と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0080】
例7
溶射を、プロパンガス流量7.5m3/時間、酸素流量37.5m3/時間、原料供給速度6kg/時間の条件で行った。また溶射直後の燃焼ガスに冷却用の大気を導入して溶射物を急冷し、急冷した溶射物を気流の下流側に設けたサイクロンで回収した。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0081】
例8
溶射直後の燃焼ガスに冷却用の大気を導入して溶射物を急冷し、急冷した溶射物を気流の下流側に設けたバグフィルターで回収した。得られた溶射物から気流分級により粗粉を取り除くものの、微粉除去は行わなかった。それ以外は例7と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0082】
例9(比較)
溶射の代わりに、造粒物の脱バインダー、本焼成を行い、その後、得られた焼成物を解砕して、解砕物から気流分級により粗粉及び微粉を除去した。脱バインダー及び本焼成は、造粒物を大気中650℃で4時間保持し、その後、酸素0体積%の雰囲気下1250℃で4時間保持することにより行った。また解砕はハンマークラッシャーを用いて行った。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末の作製を行った。
【0083】
例1~例9について、フェライト粉末の製造条件を表1に示す。
【0084】
(2)複合材料の作製
例1~例9で得られたフェライト粉末を用いて、フェライト樹脂複合材料を作製した。複合材料の作製は、次のようにして行った。得られたフェライト粉末と市販のエポキシ樹脂とを、フェライト粉末の体積が60体積%となるように秤量し、自転公転式ミキサーにてペースト化した。また粘度計を用いてペースト粘度を測定した。得られたペーストをシリコーン樹脂の型に流し込んだ後に熱硬化し、脱離粒子評価用サンプル(複合材料)を作製した。
【0085】
(3)評価
例1~例9で得られたフェライト粉末及び複合材料について、各種特性の評価を以下の通り行った。
【0086】
<元素分析‐金属成分含有量>
フェライト粉末の金属成分含有量を、次のようにして測定した。まず試料(フェライト粉末)0.2gを秤量し、これに純水60mlと1Nの塩酸20ml及び1Nの硝酸20mlを加えた後に加熱して、試料を完全溶解させた水溶液を調整した。得られた水溶液をICP分析装置(株式会社島津製作所、ICPS-10001V)にセットし、金属成分含有量を測定した。
【0087】
<粒子の表面構造‐Ps>
フェライト粉末中の粒子の表面構造を、次のようにして評価した。まず走査電子顕微鏡(SEM;日立ハイテクノロジーズ社、SU-8020)を用いてフェライト粉末を観察した。観察の際に、平均粒径2μm以上の粒子は倍率を50000倍に設定し、平均粒径2μm未満の粒子は200000倍に設定した。そしていずれの場合も水平フェレ径0.3μm以上の粒子が、視野中に1~30個、好ましくは1~10個入る状態で撮影した。
【0088】
撮影はランダムに10視野分を撮影し、水平フェレ径0.3μm以上の粒子について多角形状ステップの有無を確認した。そして球状様ステップ粒子の割合(Ps)を、下記(5)式にしたがって算出した。なお水平フェレ径0.3μm未満の粒子は、撮影時に電子線が粒子を透過してしまいステップの有無を判定できない恐れがある。そのため評価対象から外した。
【0089】
【0090】
ここでNiはi番目の視野で撮影された水平フェレ径0.3μm以上の粒子の数であり、niはi番目の視野に撮影された粒子のうち、球状様ステップを有する粒子の数である。また部分的に撮影視野の外側に出ている粒子も1粒子としてカウントした。
【0091】
<粒子の表面構造‐Hs>
走査電子顕微鏡(SEM)での観察の際に、倍率を200000倍に設定し、1~30個、好ましくは1~10個の球状様ステップ粒子を、これらが視野中央に入るように撮影した。そしてSEM写真のスケールからステップの平均間隔(Hs)を下記(6)式にしたがって求めた。
【0092】
【0093】
図1に球状様ステップ粒子のSEM写真の一例を示す。図中の矢印(→)は、平行に並んでいるステップに対する垂直方向を表す。また図の数字(1、2、3・・・)は各ステップを表す。なお撮影はステップが判別できるように行えばよく、粒子全体が1視野に入る必要はない。またHsの算出に際してステップは1粒子の任意の1か所を選べばよい。方向の異なるステップが複数存在する場合はおおむねその粒子を代表するステップから算出してもよい。ステップの数は4以上であればよい。
【0094】
<形状係数‐平均粒径2μm以上の場合>
平均粒径2μm以上の粒子については、フェライト粉末の形状係数(SF-1及びSF-2)を、粒子画像分析装置(Malvern Panalytical社、モフォロギG3)を用いて求めた。まず粒子画像分析装置を用いてフェライト粉末を解析した。解析の際には粉末中30000粒子について1粒子ごとに画像解析を行い、円形度(Circularity)、周囲長(Perimeter)、円相当径(CE Diameter)を自動測定した。この際、倍率10倍の対物レンズを使用した。また装置付属の分散用治具を用いてスライドガラス上に粒子を分散させた。この際、サンプル量:3mm3、分散圧:5barの条件で粒子を分散させた。
【0095】
得られたデータのうち、体積平均粒径±5%以内の粒子のデータの平均を平均円形度、平均周囲長(Perimeter)、平均円相当径(CE Diameter)とし、下記(7)式及び下記(8)式にしたがって、SF-1及びSF-2を算出した。
【0096】
【0097】
<形状係数‐平均粒径2μm未満の場合>
平均粒径2μm未満の粒子については、フェライト粉末の形状係数(SF-1及びSF-2)を、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)を用いて求めた。まずFE-SEMを用いてフェライト粉末の撮影を複数視野で行った。撮影は倍率100000倍の条件で行った。その後、画像解析ソフト(Image-Pro Plus)を用いて画像解析を行った。解析の際には体積平均粒径±5%の円相当径の100粒子を選択し、粒子ごとに解析した。そして最大長(水平フェレ径)R(単位:μm)、投影周囲長L(単位:μm)及び投影面積S(単位:μm2)、円相当径r(単位:μm)を測定した。
【0098】
次いで下記(9)式及び下記(10)式にしたがって各粒子のSF-1及びSF-2を算出し、それぞれの平均値をフェライト粉末のSF-1及びSF-2とした。
【0099】
【0100】
<異形粒子割合>
フェライト粉末中の異形粒子割合を次のようにして求めた。粒子画像分析装置を用いた解析の際に、円形度0.965以上1.000以下の粒子の個数Nと円形度0.950以上0.965未満の粒子の個数nをカウントし、異形粒子割合を、下記(11)式にしたがって算出した。なお円形度0.950未満の粒子は凝集した粒子である恐れがある。そのため、このような粒子を評価対象から外した。
【0101】
【0102】
<タップ密度>
フェライト粉末のタップ密度を、USPタップ密度測定装置(ホソカワミクロン株式会社、パウダテスタPT-X)を用いて、JIS Z 2512-2012に準拠して測定した。
【0103】
<真比重>
フェライト粉末の真比重を、ガス置換法を用いて、JIS Z8807:2012に準拠して測定した。具体的には全自動真密度測定装置(株式会社マウンテック、Macpycno)を用いて測定を行った。
【0104】
<粒度分布>
フェライト粉末の粒度分布を、次のようにして測定した。まず試料(フェライト粉末)10g及び水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを2滴添加した。次いで超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー、UH-150型)を用いて分散した。このとき超音波ホモジナイザーの出力レベルを4に設定して20秒間の分散を行った。その後、ピーカー表面にできた泡を取り除き、得られた分散液をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所株式会社、SALD-7500nano)に導入して測定した。測定条件は、ポンプスピード7、内蔵超音波照射時間30、屈折率1.70-050iとした。この測定により体積粒度分布における10%径(D10)、50%径(体積平均粒径、D50)及び90%径(D90)を求めた。
【0105】
<BET比表面積>
フェライト粉末のBET比表面積を、比表面積測定装置(株式会社マウンテック、Macsorb HM model-1208)を用いて測定した。まずフェライト粉末約10gを薬包紙に載せ、真空乾燥機で脱気した。真空度が-0.1MPa以下であることを確認した後に、200℃で2時間加熱して、粒子表面に付着している水分を除去した。その後、水分が除去されたフェライト粉末(約0.5~4g)を測定装置専用の標準サンプルセルに入れ、精密天秤で正確に秤量した。続いて秤量したフェライト粒子を測定装置の測定ポートにセットして測定した。測定は1点法で行った。測定雰囲気は、温度10~30℃、相対湿度20~80%(結露なし)とした。
【0106】
<磁気特性‐飽和磁化、残留磁化及び保磁力>
フェライト粉末の磁気特性(飽和磁化、残留磁化及び保磁力)を、次のようにして測定した。まず内径5mm、高さ2mmのセルに試料(フェライト粉末)を詰めて、振動試料型磁気測定装置(東英工業株式会社、VSM-C7-10A)にセットした。印加磁場を加えて5kOeまで掃引し、次いで印加磁場を減少させて、ヒステリシスカーブを描かせた。このカーブのデータより、試料の飽和磁化σs、残留磁化σr及び保磁力Hcを求めた。
【0107】
<透磁率>
フェライト粉末の透磁率を、RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ(アジレントテクノロジー株式会社、E4991A)と磁性材料測定電極(16454A)を用いて測定した。まず試料(フェライト粉末)9gとバインダー樹脂(Kynar301F:ポリフッ化ビニルデン)1gをポリエチレン製容器(内容量100ml)に入れ、ボールミルを用いて、回転数100rpmの条件で撹拌及び混合を行った。次に、得られた混合物(0.6g程度)をダイス(内径4.5mm、外径13mm)に充填し、プレス機を用いて40MPaの圧力で1分間の加圧を行って成形体とした。得られた成形体を、熱風乾燥機を用いて140℃で2時間の加熱硬化を行って測定用サンプルとした。得られた測定用サンプルをRFインピーダンス/マテリアル・アナライザにセットし、事前に測定しておいた測定用サンプルの外径、内径及び高さを入力した。測定の際、振幅を100mVとし、測定周波数1MHz~3GHzの範囲を対数スケールで掃引した。周波数100MHzでの複素透磁率の実部(μ’)及び虚部(μ’’)を求め、損失係数(tanδ)を、下記(12)式にしたがって算出した。
【0108】
【0109】
<脱離粒子の割合>
複合材料(複合体)の脱離粒子の割合を次のようにして求めた。まず研磨機を用いて複合材料を研磨して粒子断面を露出させた。電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて複数の視野で研磨断面の観察を行い、最表面に露出しているフェライト粒子及び脱離粒子の個数をカウントした。ここで粒子脱離部は研磨断面でくぼみとなるため、くぼみの個数を脱離粒子の個数とした。そして脱離粒子の割合を下記(13)式にしたがって算出した。
【0110】
【0111】
(4)結果
例1~例9について、得られた評価結果を表2及び表3に示す。また例1、例4及び例9について、フェライト粒子の表面SEM像を、それぞれ
図1、
図2及び
図4に示す。
【0112】
表2に示されるように、溶射により作製した例1~例8のフェライト粉末は、これに含まれる粒子が真球状又は多面体状であった。このうち粗粉を篩分級により微粉を気流分級により除去した例1、例3、例5及び例7は、体積平均粒径D50が比較的大きく(3.48~3.94μm)、真球状の粒子形状を有していた。これに対して、粗粉を気流分級により除去し微粉除去を行わなかった例2、例4、例6及び例8はD50が比較的小さく(0.23~0.83μm)、多面体状であった。しかしながら例1~例8のいずれも形状係数SF-1が小さく(101~102)、球形度に優れることが分かった。
【0113】
例1~例8は、粒子表面に多角形状のステップ構造を備えていた。そのため複合材料としたときの脱離粒子割合が6個数%以下と小さかった。特に球状様ステップ粒子の割合(Ps)が64~67%と高い例1、例3及び例5では、脱離粒子が殆ど見られなかった。
【0114】
これに対して、焼成により作製した例9のフェライト粉末は、含まれる粒子が粒状であり、真球状又は多面体状ではなかった。また例9は、粒子表面にステップ構造を備えていなかった。そのため複合材料としたときの脱離粒子の割合が15個数%と高かった。
【0115】
【0116】
【0117】