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特許7630855高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20250210BHJP
【FI】
H02J50/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023189298
(22)【出願日】2023-11-06
(65)【公開番号】P2024068652
(43)【公開日】2024-05-20
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】202211389897.2
(32)【優先日】2022-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513059401
【氏名又は名称】同▲済▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】郭志偉
(72)【発明者】
【氏名】李云輝
(72)【発明者】
【氏名】祝可嘉
(72)【発明者】
【氏名】江俊
(72)【発明者】
【氏名】孫勇
(72)【発明者】
【氏名】江海涛
(72)【発明者】
【氏名】陳鴻
【審査官】山口 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-061889(JP,A)
【文献】特開2022-121324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システムであって、W型反共鳴構造とLorentz共鳴構造を結合することで、三次Anti-PT対称性WPTシステムを構築するステップを含み、W型反共鳴構造について、2つの離調したモードω=ω+Δとω=ω-Δの間の結合係数はiγであり、式中Δは離調量を表し、W型反共鳴構造及び共鳴構造における共振モードω間の結合係数はκであり、
前記システムの運動方程式は以下のとおりであり、
【数1】
式中、γ及びΓ(j=+,-,0)はそれぞれ共振モードa=A-iωtの放射損失及び固有損失を表し、κ±は反共鳴構造と共鳴構造の間の近接場結合強度を表し、
は外部から反共鳴構造に入力される電磁波を表し、γ=γ=γ/2=γ、κ=κ=κを考慮すると、システムの固有損失Γj=Γ=Γ=0は無視され、無反射条件
を考慮すると、システムの動力学方程式は下記式で表すことができ、
【数2】
この場合、システムの有効ハミルトニアンは下記式で表され、
【数3】
式中、ωは共鳴及び反共鳴システムの中心周波数を表し、Δは反共鳴構造の周波数離調量を表し、κは反共鳴構造と共鳴構造の結合強度を表し、γは反共鳴構造における2つの離調モードの放射損失を表し、式(3)から非エルミートシステムが三次Anti-PT対称性条件(PT)H(PT)-1=PHP=-Hを満たすと確認され、システムの対称性中心が周波数空間のωであることを特徴とする、前記システム。
【請求項2】
一般性を失わないように、まずγ=1と仮定し、この場合、異なる結合強度κで、システムモードがマージする位置は、非エルミートシステムの除外点に対応することを特徴とする、請求項1に記載の高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システム。
【請求項3】
式(1)に基づき、W型反共鳴構造とLorentz共鳴構造とによる三次Anti-PT対称性のWPTシステムの伝送効率は下記式で表され、
【数4】
式中、S2+は共鳴構造から出力される信号を表し、
は反共鳴構造から入力される信号を表し、Aは共鳴構造の振幅を表し、A及びAは反共鳴構造の離調モードの振幅を表し、固定の動作周波数ω=ωで、システムの伝送効率は常にη=4γ/4γ=1であることを特徴とする、請求項1に記載の高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システム。
【請求項4】
平面型超構造コイルを用いて反共鳴送電コイルATCを設計し、次に受電コイルRCと整合させ、三次Anti-PT対称性のWPTシステムを構築するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システム。
【請求項5】
ATC及びRCの半径はそれぞれR及びrで表され、R=15cmと固定する場合、ATCとRCの近接場結合係数は送電/受電端面積比の増加につれて指数関数的に減少するκ=159.55e-0.72R/rとなることを特徴とする、請求項4に記載の高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システム。
【請求項6】
バイパスコンデンサを合成次元のATCの等価回路図として用い、交流電源電圧がU=-IZの場合、ATCのKirchhoff方程式は下記式で表すことができ、
【数5】
式中IとIはそれぞれ異なる方向に沿った電流を表し、 は、集中定数回路のインダクタのインダクタンスを表し、L はリッツ線により提供された分布インダクタのインダクタンスを表し、C (i=0,1,2)はそれぞれ集中定数回路のコンデンサの静電容量を表し、-Zは電源インピーダンスを表し、ATC構造の対称性により、L=L=L及びC=Cであり、
1/C=1/C+1/C

と仮定し、適切な近似
を行い、ATC構造モードの振幅はa=(-iL/ω)dI/dt(n=1,2)で表され、次に式(5)は下記式に書き換えられ、
【数6】
ATC構造の等価ゲイン及び有効結合がそれぞれγ=-Z/2L及びκ=1/2ωCLとして得られることを特徴とする、請求項5に記載の高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システム。
【請求項7】
合成された三次Anti-PT対称性のWPTシステムを提案し、L=L、C=C、R=Zと仮定するステップをさらに含み、この場合、システムのKirchhoff方程式は下記式で表され、
【数7】
ここのM=ξLは合成されたATCとTCの相互インダクタンスを表し、ξ=-C/Cは異なる負荷の結合因子を表し、式(6)と同様に、ATCとRCとの結合システムの下記動力学方程式が得られ、
【数8】
ユニタリ変換
を使用し、a=aとすると、運動方程式は下記式で表すことができ、
【数9】
Δ=1/2ωCL及びγ=-Z/2Lと設定すると、Kirchhoff方程式から得られた動力学方程式は下記式で表され、
【数10】
γ=γ/2及びκ=-Δ/2と定義すると、システムの有効ハミルトニアンは式(3)で表され、システムはAnti-PT対称性条件(PT)H(PT)-1=PHP=-Hを満たすことを特徴とする、請求項6に記載の高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線電力伝送の技術分野に関し、特に高次反パリティ-時間(Anti-parity-time,Anti-PT)対称性システムにおける反共鳴状態の「エネルギー準位ピンニング」効果に基づいて高効率と安定性を実現する多負荷無線電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線電力伝送(Wireless Power Transfer,WPT)は、電磁波を利用して電力を電源から負荷に直接伝送する技術であり、人々の電力利用のための新たなアプローチを開いており、家電業界、工業的な自動作業場及び人工知能プラットフォーム等、高自由度での電力供給を必要とするシナリオのいずれに対しても、重要な応用価値を有する。しかし、従来のWPTは伝送距離により大きく制限され、研究者らは、2つの共振コイル間の近接場結合効果(ここで結合強度はコイル距離の増加につれて指数関数的に減少する)によって、磁気共鳴WPTが中距離の高効率なエネルギー伝送を実現できると発見し、それにより非放射磁気共鳴WPTの広範囲な発展を促進した。それにも関わらず、磁気共鳴WPTには、エネルギー伝送の高効率と高安定性を同時に実現しにくいという最も顕著な欠点がある。強結合の場合(共振コイルの間隔が小さい)、高い伝送効率を確保できるが、動作周波数は近接場結合により分裂される。従って、送電端共振コイルと受電端共振コイルの間隔が変化すると、システムの最適動作周波数はシフトし、さらにデバイスの安定性が低下する。一方、弱結合の場合(共振コイルの間隔が大きい)、動作周波数の安定性を確保できるが、伝送効率は著しく低下する。従って、どのようにシステムの高い伝送効率を維持しながら安定したエネルギー伝送を実現するかは、現在、中長距離WPTにおける調和しにくい矛盾となっている。この問題を解決するために、研究者らは、周波数追跡回路を使用してシステムの動作周波数を常に変更し、走査によって効率が最高な周波数を取得してから、最適な動作周波数への切り替えによって高効率なWPTを確保することを提案した。この解決手段は、高い伝送効率を実現できるが、システムの周波数走査追跡回路により、機器の構造複雑性が増加するだけでなく、回路素子の性能に対する要求がさらに高くなり、そのため、複雑な回路整合ネットワークは多くの適用シナリオにおいてまだ限界がある。
【0003】
近年、非エルミート物理の顕著な進歩により、現代のWPT技術革新に原理的に新たな裏付けがもたらされる。研究者らは非エルミート物理におけるパリティ-時間(Parity-Time,PT)対称性をWPTシステムに適用し、非線形回路によってシステムの最適な動作周波数を適応的に追跡するロバストWPTを実現していた。該解決手段はコア素子のオペアンプにより制約されるため、システムの最大パワーが10W以上に達しにくいが、新たな物理原理から新たな研究視点を模索する示唆をもたらし、さらに新技術及び新デバイスの登場を促進する。現在、周波数追跡回路及び非線形効果に基づくWPT技術は段階的にWPTの最適動作周波数のロックという問題を解決していたが、デバイス内部の複雑な回路及び非線形素子に対してまだ敏感性が高いため、システム全体の安定性能はまだ低い。また、長距離、高送電/受電端面積比、及び多負荷の安定的で高効率なWPTをどのように実現するかは、現在でも早急な解決が待たれる重要な科学的難題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の科学的な課題に対して、本発明は、「W型」の反共鳴構造を初めて提案する。基礎的なWPTプラットフォームに該反共鳴モードを導入することで、反パリティ-時間(Anti-Parity-Time,Anti-PT)の有効な非エルミートシステムを容易に構築することができる。反共鳴モードの「エネルギー準位吸引」を反共鳴モード及び共鳴モードの「エネルギー準位分裂」と組み合わせて、高次Anti-PT対称性による「エネルギー準位ピンニング」効果を検討した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明で採用される技術的解決手段は、以下のとおりである。
【0006】
高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システムであって、W型反共鳴構造とLorentz共鳴構造を結合することで、三次Anti-PT対称性WPTシステムを構築するステップを含み、W型反共鳴構造について、2つの離調したモードω=ω+Δとω=ω-Δの間の結合係数はiγであり、式中Δは離調量を表し、W型反共鳴構造及び共鳴構造における共振モードωの間の結合係数はκである。
【0007】
前記システムの運動方程式は、以下のとおりであり、
【0008】
【数1】
式中、γ及びΓ(j=+,-,0)はそれぞれ共振モードa=A-iωtの放射損失及び固有損失を表し、κ±は反共鳴構造と共鳴構造の間の近接場結合強度を表し、
は外部から反共鳴構造に入力される電磁波を表し、γ=γ=γ/2=γ、κ=κ=κを考慮すると、システムの固有損失Γj=Γ=Γ=0が無視され、無反射条件
を考慮すると、システムの動力学方程式が下記式で表すことができ、
【0009】
【数2】
この場合、システムの有効ハミルトニアンは下記式で表され、
【0010】
【数3】
式中、ωは共鳴及び反共鳴システムの中心周波数を表し、Δは反共鳴構造の周波数離調量を表し、κは反共鳴構造と共鳴構造の結合強度を表し、γは反共鳴構造における2つの離調モードの放射損失を表し、式(3)から非エルミートシステムが三次Anti-PT対称性条件(PT)H(PT)-1=PHP=-Hを満たすと確認され、システムの対称性中心が周波数空間のωである。
【0011】
さらに、一般性を失わないように、まずγ=1と仮定し、この場合、異なる結合強度κで、システムモードがマージする位置は非エルミートシステムの除外点に対応する。
【0012】
さらに、式(1)に基づき、W型反共鳴構造とLorentz共鳴構造とによる三次Anti-PT対称性のWPTシステムの伝送効率は下記式で表され、
【0013】
【数4】
【0014】
式中、S2+は共鳴構造から出力される信号を表し、
は反共鳴構造から入力される信号を表す。Aは共鳴構造の振幅を表し、A及びAは反共鳴構造の離調モードの振幅を表し、固定の動作周波数ω=ωで、システムの伝送効率は常にη=4γ/4γ=1である。
【0015】
さらに、平面型超構造コイルを用いて反共鳴送電コイルATCを設計し、次に受電コイルRCと整合させ、コンパクトな三次Anti-PT対称性のWPTシステムを構築するステップをさらに含む。
【0016】
さらに、ATC及びRCの半径はそれぞれR及びrで表され、R=15cmと固定する場合、ATCとRCの近接場結合係数は送電/受電端面積比の増加につれて指数関数的に減少するκ=159.55e-0.72R/rとなる。
【0017】
さらに、バイパスコンデンサを合成次元のATCの等価回路図として用い、交流電源電圧がU=-IZの場合、ATCのKirchhoff方程式は下記式で表すことができ、
【0018】
【数5】
式中、IとIはそれぞれ異なる方向に沿った電流を表し、-Zは電源インピーダンスを表し、ATC構造の対称性により、L=L=L及びC=Cであり、
1/C=1/C+1/C
と仮定し、適切な近似
を行い、ATC構造モードの振幅はa=(-iL/ω)dI/dt(n=1,2)で表され、次に式(5)は下記式に書き換えられ、
【0019】
【数6】
ATC構造の等価ゲイン及び有効結合がそれぞれγ=-Z/2L及びκ=1/2ωCLとして得られる。
【0020】
さらに、合成された三次Anti-PT対称性のWPTシステムを提案し、L=L、C=C、R=Zと仮定するステップをさらに含み、この場合、システムのKirchhoff方程式は下記式で表され、
【0021】
【数7】
ここのM=ξLは合成されたATCとTCの相互インダクタンスを表し、ξ=-C/Cは異なる負荷の結合因子を表し、式(6)と同様に、ATCとRCとの結合システムの下記動力学方程式が得られ、
【0022】
【数8】
ユニタリ変換
を使用し、a=aとすると、システムの運動方程式は下記式で表すことができ、
【0023】
【数9】
Δ=1/2ωCL及びγ=-Z/2Lと設定すると、Kirchhoff方程式から得られた動力学方程式は下記式で表され、
【0024】
【数10】
γ=γ/2及びκ=-Δ/2と定義すると、システムの有効ハミルトニアンは式(3)で表され、システムはAnti-PT対称性条件(PT)H(PT)-1=PHP=-Hを満たす。
【0025】
本発明に記載の技術的解決手段の有益な効果は以下のとおりである。
【0026】
従来の共鳴WPTに比べ、反共鳴WPTはより高い安全性(即ちより低い待機電力損失)、安定性、伝送効率及び柔軟性を有する。デバイスの小型化及び集積化を考慮して、本発明は「合成次元」を採用して「超構造コイル」を設計し、高次Anti-PT対称性システムの構築に用い、さらに多負荷の高効率WPTを実現する。高次Anti-PT対称性の「エネルギー準位ピンニング」効果に基づいて提案される新規WPT技術は、非エルミート物理の充実に良好な応用研究プラットフォームを提供するだけでなく、従来の共鳴メカニズムを打破する近接場適用、例えば共鳴イメージング、無線センシング、光子ルーティング等のための新たなアプローチをも開く。
【図面の簡単な説明】
【0027】
以下の図面を参照して行う非限定的実施例についての詳細な説明を読むことで、本出願の他の特徴、目的及び利点はより明確になる。
図1】有効な三次Anti-PT対称性非エルミートシステムを示す。図中、(a)は「W型」反共鳴構造とLorentz共鳴構造とが結合するエネルギー伝送モデルであり、(b)は異なる結合強度κでの、システムの固有周波数の実数部(実線)と虚数部(破線)であり、(c)は有効な三次Anti-PT対称性非エルミートシステムの等価3エネルギー準位モデルである。
図2】有効な三次Anti-PT対称性非エルミートシステムの等価回路モデルを示す。図中、(a)は個別のATCの回路モデルであり、(b)はATCとRCとが結合する回路モデルである。
図3】「超構造コイル」で構築される三次Anti-PT対称性WPTシステムにおけるATCとRCの結合強度の送電/受電端面積比に追従する変化を示す。
図4】異なる送電/受電端面積比R/rでの、システムの固有周波数の実数部(a)と虚数部(b)を示し、図中、実線及び破線はそれぞれATC及びRTCに対応するWPTシステムを示す。
図5】ATC及びRTCに対応するWPTシステムの伝送効率の比較を示す。
図6】ATCを導入されたWPTシステムの多負荷エネルギー伝送への使用を示し、図中、(a)、(b)は負荷Aを移動する場合の、システムの伝送効率であり、(c)、(d)は2つの同じ負荷での伝送効率の比較であり、(e)、(f)、(g)は2つの異なる負荷での伝送効率の比較である。
図7】ATC及びRTCに対応するWPTシステムの待機電力損失の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図面と実施例を関連付けて本出願をさらに詳細に説明する。なお、ここで説明される具体的な実施例は関連する発明を解釈するためのものに過ぎず、該発明を限定するものではないことが理解される。また、説明すべきことは、説明の便宜上、図面には発明に関連する部分のみが示される点である。
【0029】
説明すべきことは、矛盾しない限り、本出願における実施例及び実施例における特徴は互いに組み合わせることができる点である。以下に図面を参照しながら実施例により本出願を詳細に説明する。
【0030】
一、解決手段の原理についての説明
本発明は、「W型」反共鳴構造とLorentz共鳴構造とを結合することで、三次のAnti-PT対称性WPTシステムを構築することを提案し、その対応する物理モデルは図1(a)に示すとおりである。「W型」反共鳴構造について、2つの離調したモードω=ω+Δとω=ω-Δの間の結合係数はiγであり、式中Δは離調量を表す。また、「W型」反共鳴構造及び共鳴構造における共振モードω間の結合係数はκである。図1(a)に示すシステムの運動方程式は下記式とすることができ、
【0031】
【数11】
式中、γ及びΓ(j=+,-,0)はそれぞれ共振モードa=A-iωtの放射損失及び固有損失を表す。κ±は反共鳴構造と共鳴構造との間の近接場結合強度を表す。
は外部から反共鳴構造に入力される電磁波を表す。γ=γ=γ/2=γ、κ=κ=κを考慮すると、システムの固有損失Γj=Γ=Γ=0は無視され、無反射条件
を考慮すると、システムの動力学方程式は下記式で表すことができ、
【0032】
【数12】
この場合、システムの有効ハミルトニアンは、下記式で表すことができ、
【0033】
【数13】
式中、ωは共鳴及び反共鳴システムの中心周波数を表し、Δは反共鳴構造の周波数離調量を表し、κは反共鳴構造と共鳴構造の結合強度を表し、γは反共鳴構造における2つの離調モードの放射損失を表す。式(3)から、図1に示す非エルミートシステムが三次Anti-PT対称性条件(PT)H(PT)-1=PHP=-Hを満たすと確認することができ、システムの対称性中心は周波数空間のωである。一般性を失わないように、まずγ=1と仮定し、この場合、異なる結合強度κで、システム固有周波数の実数部及び虚数部はそれぞれ図1(b)の実線及び破線で示されるとおりである。システムモードがマージする位置は非エルミートシステムの除外点(Exceptional point,EP)に対応し、図では五芒星で表記される。明らかなように、中心周波数ωでは常に実数のままであり、この「エネルギー準位ピンニング」効果は、反共鳴構造の「エネルギー準位吸引」、及び反共鳴構造におけるω=ω+Δ及びω=ω-Δのそれぞれの、共鳴構造におけるωに対する上向き及び下向きの「エネルギー準位反発」という相互作用に由来する結果であり、システムに対応する3つのエネルギー準位は図1(c)に示すとおりである。
【0034】
式(1)に基づき、「W型」反共鳴構造とLorentz共鳴構造とによる三次Anti-PT対称性のWPTシステムの伝送効率は下記式で表すことができ、
【0035】
【数14】
式中、S2+は共鳴構造から出力される信号を表し、
は反共鳴構造から入力される信号を表す。Aは共鳴構造の振幅を表し、A及びAは反共鳴構造の離調モードの振幅を表す。固定の動作周波数ω=ωで、システムの伝送効率は常にη=4γ/4γ=1であり、それは結合強度κに関係しないため、三次Anti-PT対称性のWPT技術は、従来の共鳴WPTが伝送効率と安定性を両立しにくいという問題の打破に良好な解決方法を提供する。
【0036】
二、実験ステップ及び結果
本発明は、実験において、図3に示すように、平面型「超構造コイル」を用いて反共鳴送電コイル(Anti-resonance transmitter coil,ATC)を設計し、次に受電コイル(Receiver coil,RC)と整合させ、コンパクトな三次Anti-PT対称性のWPTシステムを構築することを提案する。ATC及びRCの半径はそれぞれR及びrで表す。R=15cmと固定する場合、図3は、ATCとRCの近接場結合係数が送電/受電端面積比の増加につれて指数関数的に減少するκ=159.55e-0.72R/rとなることを示す。「超構造コイル」における集中定数回路素子の部分は図3に示すとおりであり、ここで電源信号は回路基板左側の「+」及び「-」からシステムに入力される。回路基板に付けられたLはリッツ線により提供された分布インダクタを表し、L及びC(i=0,1,2)はそれぞれ集中定数のインダクタ及びコンデンサを表す。
【0037】
図3に示すように、バイパスコンデンサを「合成次元」のATCの等価回路図として用いた。交流電源電圧がU=-IZの場合、ATCのKirchhoff方程式(キルヒホッフ方程式)は下記式で表すことができ、
【0038】
【数15】
式中、I及びIはそれぞれ異なる方向に沿った電流を表す。-Zは電源インピーダンスを表す。ATC構造の対称性を考慮すると、L=L=L及びC=Cと考えた。また、システムを簡略化するために、1/C=1/C+1/C
と仮定し、適切な近似
を行った。ATC構造モードの振幅はa=(-iL/ω)dI/dt(n=1,2)で表すことができ、次に式(5)は下記式に書き換えることができ、
【0039】
【数16】
さらに、Kirchhoff方程式を結合モード理論と関連付けるために、それぞれATC構造の等価ゲイン及び有効結合をγ=-Z/2L及びκ=1/2ωCLとして得た。
【0040】
図3に示すATCとRCとの結合構造を考慮すると、本発明は合成された三次Anti-PT対称性のWPTシステムを提案する。システムを簡略化するために、L=L、C=C、R=Zと仮定した。この場合、システムのKirchhoff方程式は下記式で表すことができ、
【0041】
【数17】
ここのM=ξLは合成されたATCとTCとの相互インダクタンスを表す。ξ=-C/Cは異なる負荷の結合因子を表す。式(6)と同様に、ATCとRCとの結合システムの下記動力学方程式を得ることができ、
【0042】
【数18】
適切なユニタリ変換
を使用し、a=aとすると、システムの運動方程式は下記式で表すことができ、
【0043】
【数19】
Δ=1/2ωCL及びγ=-Z/2Lと仮定すると、Kirchhoff方程式から得られた動力学方程式は下記式で表すことができ、
【0044】
【数20】
γ=γ/2及びκ=-Δ/2と定義すると、システムの有効ハミルトニアンは式(3)で表すことができ、つまり、システムはAnti-PT対称性条件(PT)H(PT)-1=PHP=-Hを満たすものである。従って、合成されたATC構造を導入することで、三次Anti-PT対称性を満たすWPTシステムを容易に構築できた。
【0045】
式(4)から分かるように、三次Anti-PT対称性非エルミートシステムは、結合強度に依存しないエネルギー伝送を実現でき、つまり異なる送電/受電端面積比での高効率WPTを実現できる。L=98μH、C=5.1nF、Z=50Ωと選定する場合、RC半径の変化につれて得られたシステムの固有値の実数部及び虚数部はそれぞれ図4に示すとおりである。明らかなように、実数のみでの固有周波数ω=226はRCの半径に依存しておらず、これにより、異なる送電/受電端面積比での高効率なWPTに有効なアプローチが提供される。特にATCとRCの半径比がR/r=2.41を満たす場合、固有値はEP1位置でマージする。比較の便宜上、図4の破線で示されるように、ATCの代わりに共鳴送電コイル(Resonance transmitter coil,RTC)が使用され、同じパラメータでの従来の共鳴WPTの相図が提供された。図から分かるように、従来の共鳴WPTにとって、RTCとRCの半径比がR/r=1.7を満たす場合、固有値はEP1位置でマージする。半径比がこの臨界値を超えると、システムの固有周波数は実数でなくなり、さらに伝送効率が著しく低下する。また、図4から分かるように、有効な三次Anti-PT対称性WPTシステムのEPは従来の共鳴WPTのEPに比べてより大きな半径比の条件下で出現する。
【0046】
従来の共鳴WPTシステムに比べ、合成された反共鳴システムの伝送効率は図5に示すとおりである。RTC(ATC)WPTシステムの計算及び測定結果は、それぞれ実線(破線)及び五芒星(円形)で表される。図から分かるように、共鳴WPTシステムについて、異なる半径比条件を考慮すると、最適な動作周波数を追跡する必要がある。しかし、反共鳴のAnti-PT対称性WPTシステムを導入すると、その動作周波数は常にω=226kHzに固定される。一方、Anti-PT対称性WPTの伝送効率は比較的安定するが、共鳴WPTシステムにおいて、半径比R/rが2.4より大きくなると、伝送効率は急激に低下する。図5の伝送効率と比較して分かるように、このような半径比に関係しない実固有周波数によるAnti-PT対称性WPTシステムは、周波数追跡なしの高送電/受電端面積比の高効率WPT解決手段である。
【0047】
本発明は、Anti-PT対称性WPTシステムで実現される高送電/受電端面積比の高効率WPTを利用して多様な多負荷WPTを提案する。まず、ヘリックス構造の平面コイル構造について、その内部の磁場分布は均一である。図6(a)は、z方向において負荷Aを異なる距離で移動することで測定した送電コイルと受電コイルの結合強度を示し、結果によると、RCを移動する場合に送電コイルとRCの結合強度が常にほぼ一定であるため、伝送効率はRCの位置に関係しないようになった。図6(b)中の破線及び円形はそれぞれ、対応する半径比がR/r=6(結合強度がκ=5.1kHz)の場合、三次Anti-PT対称性WPTシステムにおいてRCをz方向に沿って0cmから8cmまで移動した時の伝送効率の理論的に算出された値及び実験で測定された値を表す。対照群として、同じパラメータでの共鳴WPTシステムの伝送効率の理論値及び実験で算出された値は実線及び五芒星で表す。ATCを導入された三次Anti-PT対称性WPTシステムとRTCを導入された共鳴WPTシステムとを比較すると、三次Anti-PT対称性WPTシステムにおいて高送電/受電端面積比での伝送効率の顕著な向上が可能であることが分かった。
【0048】
次に、n個の同じ負荷A(負荷間の結合は無視してもよい)を含む状況を考慮すると、システムのKirchhoff方程式は下記式とすることができ、
【0049】
【数21】
式中、Iaj(j=1,2、…,n)は第Aj個の負荷の電流を表す。式(8)と同様に、ATCを導入された多負荷WPTシステムの動力学方程式は下記式で表すことができ、
【0050】
【数22】
図6(c)に示す2つの負荷A1及びA2(ZA1=ZA2=Z=50Ω及びκ=5.1)を例にし、動作周波数ω=ωで負荷の伝送効率は、下記式のとおりであり、
【0051】
【数23】
式中、χは多負荷WPTシステムの1つの定数因子を表し、κ=1/2ωCL、γ=-Z/2L、γAj=-ZAj/2L、κAj=-Mω/2L(j=1,2)である。実験において、負荷A1及びA2をランダムに15回移動した伝送効率を測定したところ、図6(d)に示すように、伝送効率がηA1=ηA2=0.21のように均等に割り当てられることが分かった。理論的に算出された結果は破線で表され、実験で測定された負荷A1及びA2での伝送効率はそれぞれ円形及び角柱形で表される。
【0052】
最後に、ATCを導入されたWPTシステムの多負荷条件下での、伝送効率の選択的配分という問題も検討した。図6(e)に示す2つの異なる負荷A=A及びA=B(Z≠Z)を考慮すると、2つの負荷の伝送効率比は下記式で表すことができ、
【0053】
【数24】
式中、γ=-Z/2L(γ=-Z/2L)及びκ=κ(κ=κ )は、それぞれ、負荷A(B)の放射損失及び結合強度を表す。図6(f)及び6(g)に示すように、Z=10Ω(κ =2.1kHz)及びZ=100Ω(κ =3.2kHz)を含めて異なる負荷Bを考慮して、伝送効率の配分問題を検討した。図から分かるように、異なる負荷条件下で、第1のケース(Z=50Ω、Z=10Ω)と第2のケース(Z=50Ω、Z=100Ω)の伝送効率比はそれぞれ、約1.22及び約4.99である。従って、Anti-PT対称性WPTシステムで実現される高送電/受電端面積比での高効率WPTは、異なる負荷間での伝送効率の柔軟な配分を実現することができる。
【0054】
安全性及び省エネに着目して、システムがアイドル状態にある場合、システムの低エネルギー出力を維持することは非常に意味がある。従来のWPT解決手段では、アイドル電力損失は常に解決しにくい問題である。しかし、反共鳴モードで構築されるAnti-PT対称性システムでは、このような制限は効果的に克服できる。従来の共鳴WPTシステムに比べ、Anti-PT対称性WPTシステムの待機電力損失は図7に示すとおりである。ATC及びRTCに対応するWPTシステムの計算結果及び測定結果は、それぞれ、実線及び記号で表される。図から見えるように、Anti-PT対称性のWPTシステムは動作周波数付近でのアイドル電力損失が従来の共鳴WPTの場合より明らかに小さく、これは断続的な無線充電に役立ち、実用での安全性がより高い。本発明で提案される高次Anti-PT対称性に基づく多負荷無線電力伝送システムの利点は以下のとおりである。
【0055】
1.「W」型反共鳴モードで構築される高次Anti-PT対称性WPTシステムは実数固有値を有し、伝送効率が高い。
【0056】
2.反共鳴モードの「エネルギー準位吸引」を反共鳴モード及び共鳴モードの「エネルギー準位分裂」と組み合わせて、高次Anti-PT対称性による「エネルギー準位ピンニング」効果を検討したところ、エネルギー伝送の周波数のロックを確保でき、安定性が高い。
【0057】
3.反共鳴モードを有する「超構造コイル」は構造が簡単で、コイルのサイズは従来の共振コイルと同等である。
【0058】
4.高次Anti-PT対称性WPTシステムの伝送効率は近接場結合強度に対するロバスト性が高く、高送電/受電端面積比、及び多負荷の高効率エネルギー伝送を実現できる。
【0059】
以上は本出願の好ましい実施例及び利用される技術的原理の説明に過ぎない。当業者であれば、本出願に係る発明の範囲は、上記技術的特徴の特定の組合せによる技術的解決手段に限定されるものではなく、また、前記発明の思想から逸脱することなく、上記技術的特徴又はその均等特徴を任意に組み合わせて構成される他の技術的解決手段、例えば、上記特徴を本出願で開示される類似機能を有する技術的特徴(これらに限定されず)と交換して構成される技術的解決手段も包含するものとすることを理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7