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特許7630899線径予測方法、線径予測装置、ダイス決定方法及びダイス決定システム
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  • 特許-線径予測方法、線径予測装置、ダイス決定方法及びダイス決定システム 図1
  • 特許-線径予測方法、線径予測装置、ダイス決定方法及びダイス決定システム 図2
  • 特許-線径予測方法、線径予測装置、ダイス決定方法及びダイス決定システム 図3
  • 特許-線径予測方法、線径予測装置、ダイス決定方法及びダイス決定システム 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】線径予測方法、線径予測装置、ダイス決定方法及びダイス決定システム
(51)【国際特許分類】
   B21C 1/00 20060101AFI20250210BHJP
   B21C 3/02 20060101ALI20250210BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
B21C1/00 Z
B21C3/02 A
B21C51/00 Z
B21C51/00 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024060437
(22)【出願日】2024-04-03
【審査請求日】2024-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木須 健太
(72)【発明者】
【氏名】松田 秀作
(72)【発明者】
【氏名】中村 優佑
(72)【発明者】
【氏名】毛利 健吾
(72)【発明者】
【氏名】矢野 優葵
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】FORM TECH REVIEW,2012 Vol.22 No.1,2013年06月07日,63-71ページ,URL:https://www.amada-f.or.jp/report/f/tech_2012.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 1/00
B21C 3/02
B21C 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイスを用いた金属線材の線引き加工後の線径を、線径予測モデルによって予測する線径予測方法であって、
前記線径予測モデルは、少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度と、線引き加工後の線径とを一組にした教師データが多数組蓄積された学習済の機械学習モデルであり、
前記線径予測モデルは、加工する前記金属線材の線径が小さいサイズ範囲では、ダイスの穴径又は線引き加工後の線径の範囲が狭い径範囲で作成され、
加工する前記金属線材の線径が前記サイズ範囲より大きいサイズ範囲では、ダイスの穴径又は線引き加工後の線径の範囲が前記径範囲より広い径範囲で作成されており、
前記線径予測モデルに、少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度を入力し、前記線径予測モデルから、線引き加工後の線径を出力させる、線径予測方法。
【請求項2】
複数のダイスから目的とする線径に応じたダイスを決定するダイス決定方法であって、
前記複数のダイスについて、請求項1に記載の線径予測方法を用いて、前記線径予測モデルから線引き加工後の線径を出力させ、
出力された線径をダイス線径として記録し、
記録された複数のダイス線径から前記目的とする線径に最も近いダイス線径を選択し、
選択されたダイス線径に対応するダイスを目的とする線径に応じたダイスと決定する、ダイス決定方法。
【請求項3】
ダイスを用いた金属線材の線引き加工後の線径を予測する線径予測装置であって、
少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度と、線引き加工後の線径とを一組にした教師データが多数組蓄積された学習済の機械学習モデルである線径予測モデルを備えており、
前記線径予測モデルは、加工する前記金属線材の線径が小さいサイズ範囲では、ダイスの穴径又は線引き加工後の線径の範囲が狭い径範囲で作成され、
加工する前記金属線材の線径が前記サイズ範囲より大きいサイズ範囲では、ダイスの穴径又は線引き加工後の線径の範囲が前記径範囲より広い径範囲で作成されている、線径予測装置。
【請求項4】
複数のダイスから目的とする線径に応じたダイスを決定するダイス決定システムであって、
請求項3に記載の線径予測装置と、
前記複数のダイスについて、前記線径予測装置を用いて、前記線径予測モデルから線引き加工後の線径を出力させ、出力された線径をダイス線径として記録するダイス線径記録手段と、
記録された複数のダイス線径から前記目的とする線径に最も近いダイス線径を選択し、
選択されたダイス線径に対応するダイスを目的とする線径に応じたダイスとして決定するダイス決定手段を備えている、ダイス決定システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイスを用いた金属線材の線引き加工後の線径を予測する技術、及びその予測技術を利用して、目的とする線径に応じたダイスを決定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイスを用いた金属線材の線引き加工は、ダイスと呼ばれる入口側から出口側に向けて内径が細くなっている筒状の工具に金属線材を引き抜きながら通すことで線径を細くする引き抜き加工の1種である。引き抜き加工の歴史は古いが、引き抜き加工後の形状予測に数値解析等が用いられ始めたのは近年のことである。
【0003】
特許文献1には、ダイス穴径及びこれにより引き抜かれた線の線径の相関式を求めて記憶させ、前記相関式から、測定された穴径又は線径の一方の値に基づいて他方の値を予測する演算部を有することで、測定精度を向上させた微小径測定装置が開示されている。また特許文献2には、有限要素法を用い、空引き前後の形状変化率と応力比の関係から空引き後の形状を予測する方法が開示されている。
しかし、かかる従来の予測技術では、ダイスを用いた金属線材の線引き加工後の線径の予測精度は十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-294619号公報
【文献】特開平7-144214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ダイスを用いた金属線材の線引き加工後の線径の予測精度を向上する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、線引き加工を繰り返すことによりダイスの形状が変化することに着目し、線引き加工後の線径に影響を及ぼすダイスの形状因子について詳細に分析したところ、ダイスの穴径のほかに、ベアリング長さ及びリダクション角度が大きな影響を及ぼすことがわかった。そこで本発明者らは、少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度と、線引き加工後の線径とを一組にした教師データを用いて機械学習モデルを作成し、これを線径予測モデルとして利用することとした。
【0007】
すなわち、本発明の一観点によれば、次の線径予測方法が提供される。
ダイスを用いた金属線材の線引き加工後の線径を、線径予測モデルによって予測する線径予測方法であって、
前記線径予測モデルは、少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度と、線引き加工後の線径とを一組にした教師データが多数組蓄積された学習済の機械学習モデルであり、
前記線径予測モデルは、加工する前記金属線材の線径が小さいサイズ範囲では、ダイスの穴径又は線引き加工後の線径の範囲が狭い径範囲で作成され、
加工する前記金属線材の線径が前記サイズ範囲より大きいサイズ範囲では、ダイスの穴径又は線引き加工後の線径の範囲が前記径範囲より広い径範囲で作成されており、
前記線径予測モデルに、少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度を入力し、前記線径予測モデルから、線引き加工後の線径を出力させる、線径予測方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ダイスを用いた金属線材の線引き加工後の線径を精度良く予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ダイスの構成を示す断面模式図。
図2】線径予測モデルの作成フロー図。
図3】線径予測装置の一例を概念的に示すブロック図。
図4】ダイスの決定方法の一例を概念的に示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、ダイスの構成を示す断面模式図である。金属線材は、ダイス1内部の最小径である穴径Aを有するベアリング3を通じて、ダイス1の最大径側から最小径側に向かう引抜方向で加工される。ベアリング3に至るまでの傾斜部はリダクション2と称する。上述のとおり、本発明者らが線引き加工後の線径に影響を及ぼすダイスの形状因子について詳細に分析したところ、線引き加工時に金属線材が接触する部分の形状因子、すなわち、穴径A、ベアリング2の長さ(ベアリング長さB)、及びリダクション2が成す角度(リダクション角度C)が大きな影響を及ぼすことがわかった。そこで本発明者らは、少なくともダイスの穴径A、ベアリング長さB及びリダクション角度Cと、線引き加工後の線径とを一組にした教師データを用いて機械学習モデルを作成し、これを線径予測モデルとして利用することとした。なお、本発明においてダイスの穴径とは、ダイスのベアリングが有する穴の最小径のことをいい、言い換えれば、後述するダイスの穴部における最小径のことをいう。
以下に、本発明の実施形態を前提となる構成も含めて、具体的に説明する。
【0011】
<ダイスを用いた線引き加工>
線引き加工は、固定された土台にダイスをセットし、この中を通して金属線材を引き抜き、細く加工していく。この場合、金属線材には大きな張力がかかるため、金属線材を破断させないために一回あたりの加工で断面積減少は小さく抑える必要がある。そのため、製品サイズを得るために数回から数十回に渡り繰り返し引抜きを行い、太い線材を徐々に細く加工していく。繰り返し金属線材を通すため、ダイスのリダクション部分とベアリング部分、すなわちダイスの穴部が、摩耗により変形してしまう。
線引き加工に使用されるダイスは、一般に汎用されている、金属線加工用ダイスを用いる。好ましくは、ダイス鋼,超硬合金,ダイヤモンドなどの高硬度材料からなるものであれば、ダイスの穴部の摩耗量が抑えられるため、線引き加工後の線径の予測精度が高まる。
加工される金属線材の種類は問わないが、アルミニウム等の軽金属類、鉄や銅等の重金属、金や銀、白金等の貴金属、又は合金であってもよく、本発明では硬質なタングステン線であってもダイスの穴部の摩耗量に限らず、精度よく線径を予測することができる。
【0012】
<線径予測モデルの作成>
図2は、線径予測モデルの作成フロー図である。
本発明において線径予測モデルは、機械学習モデルである。機械学習モデルとしては、線径回帰、ランダムフォレスト、ニューラルネットワークなどの公知の機械学習モデルを用いる。
【0013】
線径予測モデルを作成するにあたり、機械学習モデルに学習させる教師データを作成する。本発明において教師データは、少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度と、線引き加工後の線径とを一組にしたものである。すなわち本発明において教師データは、少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度を説明変数とし、線引き加工後の線径を目的変数とするものである。
【0014】
説明変数を得るためにダイスの形状を測定する。測定には形状測定器を用いる。少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ、及びリダクション角度が測定できるものであれば、接触式であっても非接触式であってもよい。好ましくは、3次元測定器や画像測定器を用いる。
上述のとおり本発明では、少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度を説明変数とするが、その他、ダイスの穴径の真円度、最大ベアリング長さ、最小ベアリング長さ、ベアリング長差などを説明変数に追加することもできる。これら追加の説明変数も、ダイスの形状を測定することにより得ることができる。さらに線引き加工時の環境温度や加工速度、断面減少率などの製造条件も説明変数に追加することができる。なお、断面減少率を用いる場合には、線引き加工時の{(加工前線材線径)―(加工後線材線径)}/加工前線材線径×100%として計算する。
一方、目的変数である線引き加工後の線径は、線引き加工後の線材の線径を実測して得られた値であってもよく、測定できない場合は線引き加工後の重量値から換算して算出してもよい。
【0015】
このようにして、少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度と、線引き加工後の線径とを一組にした教師データを多数組作成し、これを機械学習モデルに機械学習させ、学習済の機械学習モデル、すなわち線径予測モデルを作成する。なお、学習に必要な教師データの組数は多いほど予測精度がよいが、少なくとも10組以上であれば、予測誤差を小さくすることができる。さらに15組以上であれば、予測誤差が2%以内に抑えられる。
【0016】
本発明において線径予測モデルは、ダイスの穴径や線引き加工後の線径の大小にかかわらず、全範囲について一括して作成することもできるが、本発明者らが種々試験を行った結果、線径予測モデルは、ダイスの穴径又は線引き加工後の線径の範囲ごとに作成することで、予測精度がさらに向上することがわかった。特に、0.1mm以下の小さいサイズほど、狭いサイズ範囲で学習モデルを作成するとよい。サイズが小さいほど、微細なサイズの違いが予測値に影響を及ぼすためである。好ましくは、ダイスの穴径又は目的とする線径の前後10%以下の範囲で線径予測モデルを作成するとよい。0.1mmを超えるサイズについては、より広い範囲で線径予測モデルを作成しても予測誤差は小さくなる。この場合は、ダイスの穴径又は目的とする線径の前後30%以上の範囲で作成した線径予測モデルであっても高い精度の予測値が得られる。
【0017】
<線径予測装置>
図3は、線径予測装置の一例を概念的に示すブロック図である。この線径予測装置は、形状測定器4と管理コンピュータ5を有する。形状測定器4で測定された測定データは、更新記録可能なフラッシュメモリ、内蔵あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、メモリーカードなどの情報記録媒体及びその読み書き装置を用いてオペレーターが管理コンピュータ5へ入力する。直接管理コンピュータへ保管されるよう設定してもよい。
管理コンピュータ5は、ダイスの識別データや形状データと線引き加工後の線径実測値を入力した在庫データベース、形状データと線径実測値を教師データ用の数値に処理するプログラムを持つデータの演算部、機械学習モデルである線径予測モデルを含む。線径予測モデルは、ダイスの形状データ(少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度)と、線引き加工後の線径とを一組にした教師データが多数組蓄積された学習済の機械学習モデルであり、この線径予測モデルに少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度を入力すると、この線径予測モデルにより線引き加工後の線径が予測され出力される。
なお、在庫データベースに追加されたデータは、演算部で処理され、教師データとして追加されても良く、線形予測モデルが再構築されることにより、高い精度の予測値が得られる。
【0018】
<ダイスの決定方法>
図4は、ダイスの決定方法の一例を概念的に示すフロー図である。同図に示すダイス決定システム6は、図3に示した線径予測装置を用いて、その線径予測モデルから線引き加工後の線径を出力させ、出力された線径をダイス線径として記録するダイス線径記録手段と、記録された複数のダイス線径から目的とする線径に最も近いダイス線径を選択し、選択されたダイス線径に対応するダイスを、目的とする線径に応じたダイスとして決定する、ダイス決定手段を備えている。すなわち、ダイス決定システム6に目的とする線径(目的の線径)を入力すると、目的とする線径(目的の線径)に応じたダイスが出力される。
【実施例
【0019】
表1から表3に、図3に示した線径予測装置によって予測された予測線径及び実測値を示している。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
表1は、ダイスの穴径が0.04mm以上0.05mm未満の範囲で18組の教師データを用いて線径予測モデルを作成したもの、表2は、ダイスの穴径が0.05mm以上0.08mm未満の範囲で36組の教師データを用いて線径予測モデルを作成したもの、表3は、ダイスの穴径が0.1mm以上0.2mm未満の範囲で17組の教師データを用いて線径予測モデルを作成したものである。
いずれの線径予測モデルにおいても、絶対誤差は2%以内に抑えられた。
【符号の説明】
【0024】
1 ダイス
2 リダクション
3 ベアリング
4 形状測定器
5 管理コンピュータ
6 ダイス決定システム
A 穴径
B ベアリング長さ
C リダクション角度
【要約】
【課題】ダイスを用いた金属線材の線引き加工後の線径の予測精度を向上する技術を提供する。
【解決手段】少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度と、線引き加工後の線径とを一組にした教師データが多数組蓄積された学習済の機械学習モデルである線径予測モデルに、少なくともダイスの穴径、ベアリング長さ及びリダクション角度を入力し、前記線径予測モデルから、線引き加工後の線径を出力させる。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4