(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】筒形電池、筒形電池用電池缶、および筒形電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/128 20210101AFI20250210BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20250210BHJP
H01M 50/117 20210101ALI20250210BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20250210BHJP
H01M 50/131 20210101ALI20250210BHJP
H01M 50/545 20210101ALI20250210BHJP
H01M 50/56 20210101ALI20250210BHJP
H01M 6/06 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
H01M50/128
H01M50/107
H01M50/117
H01M50/121
H01M50/131
H01M50/545
H01M50/56
H01M6/06 C
(21)【出願番号】P 2020121144
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤波 大輔
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-192480(JP,A)
【文献】特開2001-291521(JP,A)
【文献】特開2017-068905(JP,A)
【文献】特開2007-026865(JP,A)
【文献】特開昭60-257070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/198
H01M 50/50-50/598
H01M 6/00-6/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体を兼ねる電池缶内に成形体からなる電極合剤が圧入されてなる筒形電池であって、
前記電池缶は、内面から放射内方向に向かって層状に形成された複数の導電膜を有し、
前記複数の導電膜は、前記内面に接して形成される第1の導電膜と、前記電極合剤に接する側に形成
される第2の導電膜とを含み、
前記第1の導電膜は、粉末状の炭素材料を付着させてなる乾燥した導電膜であり、
前記第2の導電膜は、前記第1の導電膜に対して潤滑性に優れたゲル状の導電膜である、
筒形電池。
【請求項2】
請求項1に記載の筒形電池であって、前記第1の導電膜と前記第2の導電膜とからなる二層の前記導電膜を有する筒形電池。
【請求項3】
集電体を兼ねる電池缶内に環状に成形された電極合剤が圧入されてなる筒形電池の前記電池缶であって、
内面から放射内方向に向かって層状に形成された複数の導電膜を有し、
前記複数の導電膜は、前記内面に接して形成される第1の導電膜と、放射内方向の表層側に形成
される第2の導電膜とを含み、
前記第1の導電膜は、粉末状の炭素材料を付着させてなる乾燥した導電膜であり、
前記第2の導電膜は、前記第1の導電膜に対して潤滑性に優れた第2のゲル状の導電膜である、
筒形電池用電池缶。
【請求項4】
集電体を兼ねる筒形の電池缶内に環状に成形された電極合剤が圧入されてなる筒形電池の製造方法であって、
上方に開口する有底筒状の前記電池缶の内面に、粉末状の導電
材料からなる第1の導電膜を付着させるステップと、
前記電池缶の
内面に第2の導電膜の起源となる導電材料を、筒形の前記電池缶の軸周りに円環状に塗布する導電材料塗布ステップと、
前記導電材料塗布ステップに続いて、前記電極合剤を前記電池缶内に圧入する合剤圧入ステップと、
を含み、
前記合剤圧入ステップでは、前記電池缶に圧入されていく前記電極合剤の外周面によって、前記
第2の導電膜の起源となる導電材料を、前記電池缶の内面に形成済みの他の導電膜の表層上で流動させながら、当該表層に塗布することで前記第2の導電膜を形成する、
筒形電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒形電池、筒形電池用電池缶、および筒形電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の構造として、インサイドアウト型と呼ばれるものがある。インサイドアウト型の電池では、集電体を兼ねる電池缶内に、金型などを用いて圧縮成形された成形体からなる電極合剤が圧入されている。筒形電池としては、例えば、円筒形のアルカリ電池や、以下の特許文献1に記載されているボビン形非水電解液電池などがよく知られている。
【0003】
図1に筒形電池の一例として、円筒形のアルカリ電池1を示した。
図1は、LR6型のアルカリ電池1を示しており、
図1(A)は、円筒軸50の延長方向を上下(縦)方向としたときの縦断面図であり、
図1(B)は、
図1(A)における円100内の拡大図である。
【0004】
図1(A)に示したように、アルカリ電池1は、有底筒状の金属製電池缶2、環状に成形された正極の電極合剤(以下、正極合剤3と称する)、この正極合剤3の内側に配設された有底円筒状のセパレーター4、亜鉛合金を含んでセパレーター4の内側に充填される負極ゲル5、この負極ゲル5中に挿入された金属製の負極集電子6、皿状の金属製負極端子板7、樹脂製の封口ガスケット8などにより構成される。この構造において、正極合剤3、セパレーター4、負極ゲル5が、電解液の存在下でアルカリ電池1の発電要素を形成する。なお
図1を含めた以下の各図では、電池缶2の底部側を下方として上下方向を規定することとする。
【0005】
電池缶2の内面2iには、
図1(B)に拡大して示したように導電塗料が塗布されてなる導電膜10が、少なくとも、正極合剤3が配置されている領域20にわたって形成されている。正極合剤3は電池缶2内に圧入状態で挿入されており、電池缶2は、内面2iが導電膜10を介して正極合剤3の外周面3oと接触することで正極集電体として機能する。導電膜10は、環状の正極合剤3の外周面3oと電池缶2の内面2iとの接触抵抗を低減させるために設けられている。なお、図示したアルカリ電池1は、電池缶2内に、三個の正極合剤3が上下方向に積層されている。
【0006】
電池缶2の下端には正極端子9が下方に突出するように形成されている。皿状の負極端子板7は、フランジ状の縁がある皿状で、正極端子9を下方としたとき、その皿を伏せた状態で電池缶2の開口に封口ガスケット8を介してかしめられている。
【0007】
負極ゲル5中に挿入された棒状の負極集電子6は、上端に円板状の頭部61を備えて、その頭部61の下面に下方に延長する棒状の胴部62が一体的に形成されてなり、頭部61の上面63が皿状の負極端子板7の下面71に溶接されて電池缶2内に立設した状態で固定されている。なお負極端子板7、負極集電子6および封口ガスケット8は、封口体としてあらかじめ一体に組み合わせられており、封口ガスケット8が、電池缶2の開口縁部と、負極端子板7におけるフランジ状の縁とに挟持されて電池缶2が封口される。なお、以下の非特許文献1には一般的な円筒形アルカリ電池の構造や製造手順などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】FDK株式会社、”アルカリ電池のできるまで”、[online]、[令和2年6月15日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/denchi_club/denchi_story/arukari.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、インサイドアウト型の筒形電池では、電池缶の内面に導電膜が形成されている。導電膜に用いられる導電塗料は、溶媒に黒鉛などの粉末状の導電性材料を分散させたものである。導電膜は、電池缶の内面に塗布された導電塗料から溶媒が揮発することで、乾燥した粉末状の導電性材料が電池缶の内面に付着したものである。
【0011】
しかしながら、従来の筒形電池では、電極合剤の外周面と、電池缶の内面に形成された導電膜との摩擦抵抗が大きく、電極合剤を電池缶に圧入する際に、電極合剤の外周面に欠け等の破損が生じる場合がある。また、電極合剤を圧入するときの摩擦によって導電膜の一部が剥離する場合もある。そして、電池缶と電極合剤とが接触する領域において、電極合剤の一部が破損していたり、導電膜の一部が剥離していたりすると、その破損や剥離がある箇所では、電池缶と電極合剤との間の接触抵抗が増大する。そして、従来の筒形電池では、上述した電極合剤の破損や導電膜の剥離が、放電性能、特に高負荷放電時の放電性能の改善を妨げる要因の一つになっていた。
【0012】
そこで本発明は、電極合剤を電池缶に圧入する際の電極合剤の破損や導電膜の剥離を抑止できる筒形電池、筒形電池用電池缶、および筒形電池の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、集電体を兼ねる電池缶内に成形体からなる電極合剤が圧入されてなる筒形電池であって、
前記電池缶は、内面から放射内方向に向かって層状に形成された複数の導電膜を有し、
前記複数の導電膜は、前記内面に接して形成される第1の導電膜と、前記電極合剤に接する側に形成される第2の導電膜とを含み、
前記第1の導電膜は、粉末状の炭素材料を付着させてなる乾燥した導電膜であり、
前記第2の導電膜は、前記第1の導電膜に対して潤滑性に優れたゲル状の導電膜である。
【0014】
本発明の他の一態様は、集電体を兼ねる電池缶内に環状に成形された電極合剤が圧入されてなる筒形電池の前記電池缶であって、
内面から放射内方向に向かって層状に形成された複数の導電膜を有し、
前記複数の導電膜は、前記内面に接して形成される第1の導電膜と、放射内方向の表層側に形成される第2の導電膜とを含み、
前記第1の導電膜は、粉末状の炭素材料を付着させてなる乾燥した導電膜であり、
前記第2の導電膜は、前記第1の導電膜に対して潤滑性に優れた第2のゲル状の導電膜である。
【0015】
また、本発明の一態様には、集電体を兼ねる筒形の電池缶内に環状に成形された電極合剤が圧入されてなる筒形電池の製造方法も含まれており、当該製造方法は、
上方に開口する有底筒状の前記電池缶の内面に、粉末状の導電材料からなる第1の導電膜を付着させるステップと、
前記電池缶の内面に第2の導電膜の起源となる導電材料を、筒形の前記電池缶の軸周りに円環状に塗布する導電材料塗布ステップと、
前記導電材料塗布ステップに続いて、前記電極合剤を前記電池缶内に圧入する合剤圧入ステップと、
を含み、
前記合剤圧入ステップでは、前記電池缶に圧入されていく前記電極合剤の外周面によって、前記第2の導電膜の起源となる導電材料を、前記電池缶の内面に形成済みの他の導電膜の表層上で流動させながら、当該表層に塗布することで前記第2の導電膜を形成することとしている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電極合剤を電池缶に圧入する際の電極合剤の破損や導電膜の剥離を抑止できる筒形電池、筒形電池用電池缶、および筒形電池の製造方法が提供される。その他の効果につては以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】筒形電池の一例である円筒形アルカリ電池の構造を示す図である。
【
図2】実施例に係る筒形電池の電池缶内面に形成された導電膜の構造を示す図である。
【
図3】実施例に係る筒形電池の導電膜を構成するゲル状導電膜の形成手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例について、添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一又は類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。ある図面において符号を付した部分について、不要であれば他の図面ではその部分に符号を付さない場合もある。
【0019】
本発明の実施例に係る筒形電池としてLR6型のアルカリ電池を挙げる。実施例に係る筒形電池の基本的な構成や外観は、
図1に示した一般的なアルカリ電池1と同様である。しかし、実施例に係る筒形電池(以下、「アルカリ電池1」と称することがある)は、電池缶2の内面2iに形成された導電膜10の構造に特徴を有し、その製造過程において、電池缶2に正極合剤3を圧入する際の正極合剤3の破損を抑止できるとともに、正極合剤3と電池缶2の内面2iとの間の接触抵抗を低減させて優れた放電特性を有するものとなっている。
【0020】
図2に、アルカリ電池1の電池缶2の内面2iに形成された導電膜10の構造を示した。なお、
図2は、
図1における円100内の領域に対応している。
図2に示したように、アルカリ電池1の電池缶2の内面2iには、当該内面2iから電池缶2の軸50方向、すなわち電池缶2の放射内方に向かって層状に導電膜10が形成されている。本実施例では、二層の導電膜10が形成されており、電池缶2の内面2iに接する側に、従来のアルカリ電池1と同様に、粉末状の炭素材料を付着させてなる導電膜(以下、粉末状導電膜10aと称することがある)が形成され、正極合剤3の外周面3oに接する表層側(電池缶2の内方側)に、粉末状導電膜10aに対して潤滑性に優れた導電膜10bが形成されている。本実施例では、ゲル状の状導電膜(以下、ゲル状導電膜10bと言うことがある)が形成されている。なお、
図2では、導電膜10の構造が理解し易いように、電池缶2の厚さに対して導電膜(10、10a、10b)の厚さを誇張して示している。
【0021】
次に、本実施例のアルカリ電池1の特性を評価するために、導電膜10の形成状態が異なる各種LR6型アルカリ電池をサンプルとして作製した。以下の表1に各サンプルにおける導電膜10の形成状態を示した。
【0022】
【表1】
表1に示したように、サンプル1が実施例に係るアルカリ電池1であり、
図2に示した二層構造の導電膜10を有している。サンプル2は、従来のアルカリ電池1であり、電池缶2の内面2iに粉末状導電膜10aのみを形成したものである。サンプル3は、電池缶2の内面2iにゲル状導電膜10bのみを形成したものであり、サンプル4は、電池缶2の内面2iに導電膜10が形成されていないものである。
【0023】
なお、サンプル1、2における粉末状導電膜10aは、ともに同じ条件で形成されたものであり、導電体である粉末状の黒鉛と溶媒であるMEKとを質量比50:50で混合した導電塗料を電池缶2の内面2iに噴霧して塗布した後、乾燥(溶媒を揮発)させることで形成したものである。なお、粉末状導電膜10aに含まれる導電体は、乾燥重量で5mg以上である。
【0024】
一方、サンプル1、3におけるゲル状導電膜10bは、ともに同じ条件で形成されたものであり、黒鉛、ゲル化剤であるポリアクリル酸(PA)、電解液であるKOH、および希釈剤である水を、質量比で、それぞれ、65%、1%、12%、および22%の割合で混合した導電材料(以下、ゲル状導電材料ということがある)からなる。なお、ゲル状導電膜10bを形成するために、ゲル状導電材料を10mg以上使用した。
【0025】
ゲル状導電膜10bの形成方法としては、ゲル状導電材料を、刷毛などを用いて電池缶2の内面2iに塗布してもよいが、サンプル1、3では、ゲル状導電材料の粘性と流動性とを利用し、正極合剤3を電池缶2に圧入する工程と同時にゲル状導電膜10bを形成している。
図3にゲル状導電膜10bの形成手順を示した。
図3(A)、
図3(B)は、封口前の電池缶2の縦断面図を示しており、
図3(C)は、
図3(B)における円101内を拡大した図である。
【0026】
まず、
図3(A)に示すように、封口前の電池缶2の内面2iにおいて、組み立て後のアルカリ電池1の状態(
図1参照)で、正極合剤3の外周面3oと対面する領域20の上端位置3uにゲル状導電材料10cをリング状に塗布する。次に、
図3(B)にて太線矢印で示したように、正極合剤3を、電池缶2の開口端から下方に向けて圧入していく。それによって、例えば、サンプル3であれば、
図3(C)に示したように、塗布したゲル状導電材料10cが電池缶2の下方に向けて流動しながら電池缶2の内面2iに塗布されてゲル状導電膜10bが形成される。サンプル1であれば、ゲル状導電材料10cが電池缶2の内面2iに形成済みの粉末状導電膜10aの表層に塗布されてゲル状導電膜10bが形成される。
【0027】
上述したような手順で導電膜10が形成されたサンプル1~3と、導電膜10を省略したサンプル4とについて、まず、製造過程で正極合剤3を電池缶2に圧入する際の摩擦特性として、正極合剤3の滑り性、正極合剤3の欠けや割れなどの破損の有無、および粉末状導電膜10aの剥がれの有無を調べた。以下の表2に、各サンプルにおける摩擦特性を示した。
【0028】
【表2】
表2では、従来のアルカリ電池1に対応するサンプル2における各種摩擦特性を基準とし、表中では、その基準を「△」で示した。また、表2において、滑り特性は、正極合剤3の電池缶2への圧入のし易さを示しており、サンプル2において、正極合剤3の圧入に要した圧力よりも低い圧力で圧入できた場合が「〇」で示され、圧入時に基準よりも高い圧力を要した場合が「×」で示されている。
【0029】
また、正極合剤3の破損については、サンプルごとに複数の個体(例えば、100個など)を用意し、電池缶2内に、正極合剤3を圧入する際に正極合剤3が欠けたりひびが入ったりする不具合の頻度に応じて「△」、「〇」、「×」で示した。表中では、サンプル2における不具合の頻度を基準とし、不具合が発生するものの、頻度が基準以下となったサンプルを「△」で示した。また、全個体において不具合が発生しなかったサンプルを「〇」で示した。不具合が基準の個数よりも多いサンプルを「×」で示した。なお、正極合剤3の破損は、アルカリ電池1が備える三つの正極合剤3を全て圧入し終えるまでの間に不具合の有無があったかどうかを調べた。なお、正極合剤3の破損は、正極合剤3を電池缶2に圧入する際に目視で確認することができる。正極合剤3の割れはもちろん、正極合剤3の一部が欠けた場合でも、電池缶2内に落ちた正極合剤3の破片の有無を調べることで不具合の発生を確認することができる。
【0030】
また、表2において、粉末状導電膜10aの剥離は、サンプルごとに複数の個体を用意し、正極合剤3の破損と同様に、不具合が発生した個体数に応じて「△」、「○」「×」で示した。ゲル状導電膜10bのみを有するサンプル3と、導電膜10を持たないサンプル4については、評価の対象外なので、表中では、「-」で示した。なお、二個目の正極合剤3を圧入し終えた時点までに、圧入済みの正極合剤3の上方に粉末状導電膜10aの剥離が発生すれば、電池缶2の内面2iを観察することで、その剥離を目視で確認することができる。粉末状導電膜10aが剥離した箇所では、電池缶2の内面2iが露出する。二個目の正極合剤3を圧入した時点で粉末状同電電膜10aの剥離が確認できなかった個体については、三つ全ての正極合剤3を電池缶2に圧入した後に電池缶2を劈開することで、粉末状導電膜10aの剥離の有無を確認した。
【0031】
表2に示したように、正極合剤3の外周面3oにゲル状導電膜10bが接する構造のサンプル1、3では、正極合剤3の滑り性が良好で、正極合剤3の破損も発生しなかった。また、二層構造の導電膜10を有するサンプル1では、粉末状導電膜10aの剥離も発生しなかった。なお、電池缶2の内面2iに導電膜10が形成されていないサンプル4では、電池缶2の内面2iに、ニッケルメッキなどからなる金属面が露出している。このサンプル4では、正極合剤3の滑り性が、従来のアルカリ電池1であるサンプル2よりも悪化し、正極合剤3も破損し易かった。したがって、このサンプル4の摩擦特性から、粉末状導電膜10aよりも金属面の方が、摩擦が大きいことが確認できた。
【0032】
以上により、少なくとも、インサイドアウト型の筒形電池1において、ゲル状導電膜10bが、正極合剤3の外周面3o側に接するように形成されていれば、正極合剤3の滑り性が良好になり、筒形電池1の生産性を向上させることができる。また、正極合剤3の破損も発生せず、歩留まりが向上する。
【0033】
次に、各サンプルの放電性能を、組み立て直後の初度特性と、組み立て後60℃の温度で100日間保存した後での保存後特性とで評価した。放電性能の評価には、正極合剤3を電池缶2に圧入する際に正極合剤3が破損せず、二個目の正極合剤3を圧入した時点で粉末状導電膜10aに剥離が発生しなかった個体を用いた。そして、各サンプルについて、初度特性と保存後特性のそれぞれに対して、個体を所定数(例えば、10個)用意し、放電特性を、JIS C8515:2017規格に準拠した放電試験を行うことで評価した。
【0034】
具体的には、放電性能を、異なる三つの放電モードによって所定の終止電圧に至るまでの時間によって評価した。三つの放電モードは、軽負荷放電性能、中負荷放電性能、および重負荷放電性能のそれぞれを評価するためのものであり、軽負荷放電性能は、終止電圧を0.8Vとして、3.9Ωの負荷を掛けて一日当たり1時間放電させる動作を繰り返す放電モードで評価した。中負荷放電性能は、終止電圧0.9Vとして、一日当たり250mAの電流で1時間放電させる放電モードによって評価した。重負荷放電性能は、終止電圧を1.05Vとして、1時間当たり、1500mWの電力を2秒間で放電させた後に650mWの電力を28秒間で放電させる交互放電動作を5分間、続いて放電を55分間休止させるという周期を連続して繰り返す放電モードによって評価した。そして、各サンプルの放電性能は、各サンプルに属する個体の平均値で評価した。以下の表3に、各サンプルにおける放電性能を示した。
【0035】
【表3】
表3では、従来のアルカリ電池1に対応するサンプル2の初度特性を基準とし、この基準に対して±5%未満となった場合が「○」、5%以上改善された場合が「◎」、5%以上劣化した場合が「△」、そして放電動作自体が不可能であった場合が「×」で示されている。そして、表3に示したように、サンプル2の保存後特性は、軽負荷放電性能のみが初度特性を維持し、中負荷放電性能と重負荷放電性能が劣化した。
【0036】
一方、実施例に係るアルカリ電池1に対応するサンプル1では、初度特性では、軽負荷、中負荷、重負荷の全ての放電性能が改善され、保存後特性についても、軽負荷と中負荷での放電性能が改善され、重負荷放電性能もサンプル2の初度特性と同等であった。
【0037】
また、ゲル状導電膜10bのみを有するサンプル3と、導電膜10が設けられていないサンプル4では、初度特性において、軽負荷放電性能のみが基準を満たし、中負荷放電性能が劣化した。そして、初度特性における重負荷放電性能と、保存後特性の全ての放電性能とで放電不可能となった。
【0038】
以上より、ゲル状導電膜10bは、粉末状導電膜10aに対して面抵抗率が高いことがわかった。それにも拘わらず、ゲル状導電膜10bが粉末状導電膜10aと正極合剤3との層間に介在するサンプル1では、放電性能が粉末状導電膜10aのみのサンプル2と同等ではなく、明らかに向上している。
【0039】
サンプル1において放電性能が向上した理由としては、正極合剤3を電池缶2に圧入したときに、ゲル状導電膜10bが粉末状導電膜10aを保護し、粉末状導電膜10aの剥離が抑止されたということが考えられる。しかし、サンプル1の放電性能が、サンプル2に対して大きく向上したことから、粉末状導電膜10aの剥離が抑止されたことだけがサンプル1における放電性能の向上の理由とは考え難い。
【0040】
ところで、正極合剤3の表面には、金型成形時に発生する微視的な凹部が多数存在することが知られており、二層構造の導電膜10を有するサンプル1では、このような凹部にゲル状導電膜10bが充填されたことで、放電性能が向上したと考えることができる。すなわち、サンプル1では、正極合剤3の外周面3oの全面と電池缶2の内面2iとが、二層の導電膜10および電池缶2の内面2iの全ての層間で確実に密着し、上記凹部に起因して従来から発生していた接触抵抗の増加が抑止され、結果的にサンプル2に対して放電性能が向上したと考えることができる。もちろん、実施例に係るアルカリ電池1では、正極合剤3の外周面3oに微細な凸部があったとしても、流動性のあるゲル状導電膜10bによって外周面3oが均されるため、正極合剤3の外周面3oの凸部に起因する放電性能の劣化も抑止できることが容易に予想される。
【0041】
一方、従来のアルカリ電池1に対応するサンプル2は、正極合剤3の外周面3oが、凹部のある状態で粉末状導電膜10aに接しているため、凹部のある箇所では、粉末状導電膜10aを構成する黒鉛などの導電粒子と正極合剤3の外周面3oとが接触できず、放電性能を改善することが難しかったと考えることができる。
【0042】
以上のように、実施例に係るアルカリ電池1は、電池缶2の内面2iに、当該内面2iから放射内方に向けって粉末状導電膜10aとゲル状導電膜10bがこの順に形成されていることにより、その製造過程において、正極合剤3の圧入を容易にして生産性を向上させることができる。また、実施例に係るアルカリ電池1では、正極合剤3の圧入時に、ゲル状導電膜10bを構成するゲル状導電材料10cが潤滑剤として機能し、アルカリ電池1の内部抵抗の低減に最も寄与する粉末状導電膜10aの剥離が発生し難い。さらに、実施例に係るアルカリ電池1では、正極合剤3の外周面3oに存在する微少な凹部内にゲル状導電膜10bが充填される。それによって、実施例に係るアルカリ電池1は、優れた放電性能を有するものとなっている。
【0043】
実施例に係るアルカリ電池1は、電池缶2の内面2iに形成された層状の導電膜10において、潤滑性に優れたゲル状導電膜10bが正極合剤3の外周面3oに接する側に形成されていたが、導電膜10の表層側の導電膜10bはゲル状でなくてもよい。表層側の導電膜10bとしては、例えば、フラーレンなどの超微粒子からなる導電材料が、粉末状導電膜10aと同様にして膜状に形成されたものなどが考えられる。いずれにしても、粉末状導電膜10aに対して潤滑性に優れた導電膜10bが層状の導電膜10の表層側に形成されていればよい。それによって、正極合剤3を電池缶2に圧入する際の摩擦抵抗を低減させて、正極合剤3の破損や粉末状導電膜10aの剥離を抑止することができる。なお、超微粒子からなる導電膜10bであれば、超微粒子が電極合剤3の外周面3oに存在する凹部に充填されて、電極合剤3と電池缶2の内面2iとの間における接触抵抗の増加を抑止できたと考えた方が
層状の導電膜10は、二層でなくてもよく、電池缶2の内面2iに接する粉末状導電膜10aと、正極合剤3の外周面3oに接して粉末状導電膜10aよりも潤滑性に優れた導電膜10bとを有していれば、導電膜10は三層以上であってもよい。
【0044】
実施例に係る筒形電池1は、環状に圧縮成形された電極合剤が電池缶2の内面2iに接触して電池缶2が集電体として機能するものであれば、円筒形のアルカリ電池1に限らない。
【符号の説明】
【0045】
1 筒形電池(アルカリ電池)、2 電池缶(正極缶)、2i 電池缶の内面、
3 正極合剤、3o 正極合剤の外周面、4 セパレーター、5 負極ゲル、
6 負極集電子、7 負極端子板、8 封口ガスケット、9 正極端子、
10 導電膜、10a 粉末状導電膜、
10b 潤滑性に優れた導電膜(ゲル状導電膜)、50 円筒軸