(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】ブリモニジンとチモロールとを含む、緑内障罹患患者における眼圧を下降させるための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5377 20060101AFI20250210BHJP
A61K 31/498 20060101ALI20250210BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20250210BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61K31/498
A61P27/06
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2020153876
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019166276
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】水野 朱実
(72)【発明者】
【氏名】下田 祥子
(72)【発明者】
【氏名】▲たぎし▼ 和隆
(72)【発明者】
【氏名】尾松 和則
(72)【発明者】
【氏名】児島 由記
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 久美子
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-508545(JP,A)
【文献】PARK, S.W. et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci,2019年07月,Vol. 60, Issue 9,p. 2391
【文献】Jpn J Ophthalmol,2016年,Vol. 60,pp. 20-26
【文献】Jpn J Ophthalmol,2010年,Vol. 54,pp. 407-413
【文献】緑内障診療ガイドライン(第4版),日本眼科学会雑誌,日本,2018年,第122巻, 第1号,pp. 5-42
【文献】眼科,Vol. 56, No. 13,pp. 1515-1521
【文献】臨床眼科,2014年,Vol. 68, No. 13,pp. 1749-1753
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
視野異常は認められないが、緑内障性の構造異常が認められ、かつ正常眼圧を有する緑内障罹患患者において眼圧を下降させるための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含
み、該患者が、該組成物以外の他の緑内障治療薬が投与されており、他の緑内障治療薬による効果が不十分であった患者であり、該組成物中の該ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩の濃度が、ブリモニジン酒石酸塩として約0.1w/v%であり、該チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩の濃度が、チモロールとして約0.5w/v%である、組成物。
【請求項2】
前視野緑内障と判定され、かつ正常眼圧を有する緑内障罹患患者において眼圧を下降させるための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含み、該患者が、該組成物以外の他の緑内障治療薬が投与されており、他の緑内障治療薬による効果が不十分であった患者であり、該組成物中の該ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩の濃度が、ブリモニジン酒石酸塩として約0.1w/v%であり、該チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩の濃度が、チモロールとして約0.5w/v%である、組成物。
【請求項3】
前記正常眼圧は、21mmHg未満である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、眼圧下降率で評価する場合に眼圧を約20%以上下降させる、請求項1~
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記眼圧下降率が投与開始日から4週間後に評価されたものである、請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
前記眼圧下降率が投与開始日から12週間後に評価されたものである、請求項
4に記載の組成物。
【請求項7】
前記眼圧下降率が投与開始日から28週間後に評価されたものである、請求項
4に記載の組成物。
【請求項8】
前記眼圧下降率が投与開始日から52週間後に評価されたものである、請求項
4に記載の組成物。
【請求項9】
前記患者は、前記他の緑内障治療薬を4週間以上投与されている、請求項1
~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記他の緑内障治療薬による治療が効果不十分であった患者の投与前眼圧値が、15mmHg以上である、請求項1
~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記投与前眼圧値が、前記他の緑内障治療薬の治療の際の2時間値である、請求項1
0に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、少なくとも28週間投与されることを特徴とする、請求項1~1
1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、少なくとも52週間投与されることを特徴とする、請求項1~1
2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩が、ブリモニジン酒石酸塩である、請求項1~1
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩が、チモロールマレイン酸塩である、請求項1~1
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物において、前記ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩がブリモニジン酒石酸塩であり、前記チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩がチモロールマレイン酸塩であり、ブリモニジン酒石酸塩の濃度が約0.1w/v%であり、チモロールマレイン酸塩の濃度が約0.68w/v%であり、さらにリン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム水和物、エデト酸ナトリウム水和物、ベンザルコニウム塩化物、等張化剤、及びpH調節剤を含む、請求項1~1
5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が点眼薬である、請求項1~
16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記患者に1回1滴、1日2回点眼投与される、請求項1~
17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記眼圧下降率は、眼圧の評価日の2時間値を用いて算出される、請求項
4に記載の組成物。
【請求項20】
視野異常の進行を抑制又は視野異常の発症を予防するための組成物であって、該組成物は、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含み、視野異常は認められないが、緑内障性の構造異常が認められ、かつ正常眼圧を有する患者に投与されることを特徴と
し、該患者が、該組成物以外の他の緑内障治療薬が投与されており、他の緑内障治療薬による効果が不十分であった患者であり、該組成物中の該ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩の濃度が、ブリモニジン酒石酸塩として約0.1w/v%であり、該チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩の濃度が、チモロールとして約0.5w/v%である、組成物。
【請求項21】
視野異常の進行を抑制又は視野異常の発症を予防するための組成物であって、該組成物は、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含み、前視野緑内障と判定され、かつ正常眼圧を有する患者に投与されることを特徴と
し、該患者が、該組成物以外の他の緑内障治療薬が投与されており、他の緑内障治療薬による効果が不十分であった患者であり、該組成物中の該ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩の濃度が、ブリモニジン酒石酸塩として約0.1w/v%であり、該チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩の濃度が、チモロールとして約0.5w/v%である、組成物。
【請求項22】
前記視野異常の進行の抑制又は視野異常の発症の予防が、眼圧下降を含む、請求項2
0または2
1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブリモニジンとチモロールとを含む、緑内障罹患患者における眼圧を下降させるための組成物および関連発明に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障治療の第一選択薬としてプロスタグランジン関連薬やチモロールが使用されている。しかしながら、緑内障の治療が不十分な場合もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者らは、チモロールとブリモニジンとを含む点眼液が、特定の患者群に対して、高い眼圧下降作用を示すことを新たに見出した。また、上記点眼液が、緑内障(例えば、前視野緑内障)の進行を予防すること等も新たに見出した。また、本開示は、第一選択薬として投与されている他の緑内障治療薬の効果が不十分である患者において、第二選択薬として有効な薬剤を提供することが可能である。したがって、本開示は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
正常眼圧を有する緑内障罹患患者において眼圧を下降させるための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、組成物。
(項目2)
前記正常眼圧は、21mmHg未満である、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記組成物が、該組成物以外の他の緑内障治療薬による治療が効果不十分であった患者に投与されることを特徴とする、項目1または2に記載の組成物。
(項目4)
前記他の緑内障治療薬がプロスタグランジン関連薬の単一成分用剤またはβ遮断薬の単一成分用剤である、項目3に記載の組成物。
(項目5)
前記他の緑内障治療薬がβ遮断薬の単一成分用剤である、項目3に記載の組成物。
(項目6)
前記組成物は、第一選択薬がβ遮断薬の単一成分用剤であるときの、第二選択薬として投与されることを特徴とする、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)
前記患者は、前記他の緑内障治療薬を4週間以上投与されている、項目3~5のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)
前記他の緑内障治療薬による治療が効果不十分であった患者の投与前眼圧値が、15mmHg以上である、項目3~5のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)
前記投与前眼圧値が、前記他の緑内障治療薬の治療の際の2時間値である、項目8に記載の組成物。
(項目10)
前記患者が、正常眼圧緑内障と判定された患者または前視野緑内障と判定され正常眼圧を有する患者である、項目1~9のいずれか一項に記載の組成物。
(項目11)
前記正常眼圧緑内障と判定された患者または前記前視野緑内障と判定され正常眼圧を有する患者の眼圧が、21mmHg未満である、項目10に記載の組成物。
(項目12)
前記患者が、前視野緑内障と判定され正常眼圧を有する患者である、項目1~11のいずれか一項に記載の組成物。
(項目13)
前記組成物が、少なくとも28週間投与されることを特徴とする、項目1~12のいずれか一項に記載の組成物。
(項目14)
前記組成物が、少なくとも52週間投与されることを特徴とする、項目1~12のいずれか一項に記載の組成物。
(項目15)
前記ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩が、ブリモニジン酒石酸塩である、項目1~14のいずれか一項に記載の組成物。
(項目16)
前記チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩が、チモロールマレイン酸塩である、項目1~15のいずれか一項に記載の組成物。
(項目17)
前記組成物中の前記ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩の濃度が、約0.1w/v%である、項目1~16のいずれか一項に記載の組成物。
(項目18)
前記組成物中の前記チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩の濃度が、約0.5w/v%である、項目1~17のいずれか一項に記載の組成物。
(項目19)
前記組成物において、前記ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩がブリモニジン酒石酸塩であり、前記チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩がチモロールマレイン酸塩であり、ブリモニジン酒石酸塩の濃度が約0.1w/v%であり、チモロールマレイン酸塩の濃度が約0.68w/v%であり、さらにリン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム水和物、エデト酸ナトリウム水和物、ベンザルコニウム塩化物、等張化剤、及びpH調節剤を含む、項目1~18のいずれか一項に記載の組成物。
(項目20)
前記組成物が点眼薬である、項目1~19のいずれか一項に記載の組成物。
(項目21)
前記患者に1回1滴、1日2回点眼投与される、項目1~20のいずれか一項に記載の組成物。
(項目22)
前記組成物が、眼圧下降率で評価する場合に眼圧を約20%以上下降させる、項目1~21のいずれか一項に記載の組成物。
(項目23)
前記眼圧下降率は、眼圧の評価日の2時間値を用いて算出される、項目22に記載の組成物。
(項目24)
緑内障における視野異常を予防するまたは視野異常の進行を遅らせるための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、組成物。
(項目25)
視野異常の進行を抑制又は視野異常の発症を予防するための組成物であって、該組成物は、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含み、前視野緑内障と判定され、かつ正常眼圧を有する患者に投与されることを特徴とする、組成物。
(項目26)
前記視野異常の進行の抑制又は視野異常の発症の予防が、眼圧下降を含む、項目25に記載の組成物。
(項目27)
正常眼圧を有する前視野緑内障の患者において眼圧を下降させる方法における使用のための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、組成物。
(項目28)
前記組成物は、以下
1)前記患者に対して他の緑内障治療薬を投与する工程と、
2)1)の投与後、該患者の0時間値及び2時間値を測定する工程と、
3)2)の測定の結果該患者の0時間値及び2時間値が15.0mmHg以上31.0mmHg以下の場合、前記組成物を投与する工程
を含む、項目24に記載の組成物。
(項目29)
正常眼圧緑内障の患者において眼圧を下降させる方法における使用のための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、組成物。
(項目30)
前記方法は、以下
1)前記患者に対して他の緑内障治療薬を投与する工程と、
2)1)の投与後、該患者の0時間値及び2時間値を測定する工程と、
3)2)の測定の結果該患者の0時間値及び2時間値が15.0mmHg以上31.0mmHg以下の場合、前記組成物を投与する工程
を含む、項目29に記載の組成物。
(項目31)
ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む組成物であって、第一選択薬としての該組成物以外の他の緑内障治療薬による効果が不十分である患者において、眼圧下降率で評価する場合に眼圧を約20%以上下降させて、該患者の視野障害の発生または進行を抑制する方法において使用するための組成物であって、該方法は、
a)該患者が正常眼圧緑内障であるかどうか診断する工程と、
b)第一選択薬としての他の緑内障治療薬を投与する工程と、
c)該患者が他の緑内障治療薬による効果が不十分であるかどうかを診断する工程と、
d)該患者の眼圧を測定する工程と、
e)他の緑内障治療薬による効果が不十分であり、かつ該患者が正常眼圧緑内障である場合に、他の緑内障治療薬に代えて、あるいは他の緑内障治療薬と組み合わせて、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩とチモロールまたはその薬学的に受容可能な塩を含む組成物を、第二選択薬として選択して、該患者に該組成物を投与する工程と
を含み、
該眼圧下降率は、眼圧の評価日の2時間値を用いて算出され、
該正常眼圧緑内障である患者は、
(1)視野計で測定したときに、緑内障性視野異常が存在する;
(2)眼底検査にて、緑内障性視神経乳頭が存在する;および、
(3)他の緑内障治療薬の投与前にGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した眼圧値が21.0mmHg以上を示した既往がない、
を満たす患者である、組成物。
(項目32)
ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、第一選択薬としての他の緑内障治療薬による効果が不十分である患者において、眼圧下降率で評価する場合に眼圧を約20%以上下降させて、該患者の視野異常の進行を抑制又は視野異常の発症を予防する方法において使用するための組成物であって、該方法は、
a)該患者が前視野緑内障であり、かつ正常眼圧を有する患者であるかどうか診断する工程と、
b)第一選択薬としての他の緑内障治療薬を投与する工程と、
c)該患者が他の緑内障治療薬による効果が不十分であるかどうかを診断する工程と、
d)該患者の眼圧を測定する工程と、
e)他の緑内障治療薬による効果が不十分であり、かつ該患者が前視野緑内障であり、かつ正常眼圧を有する場合に、他の緑内障治療薬に代えて、あるいは他の緑内障治療薬の併用薬として、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩とチモロールまたはその薬学的に受容可能な塩を含む組成物を、第二選択薬として選択して、該患者に該組成物を投与する工程と
を含み、
該眼圧下降率は、眼圧の評価日の2時間値を用いて算出され、
該正常眼圧緑内障である患者は、
(1)視野計で測定したときに、緑内障性視野異常が存在しない;
(2)眼底検査にて、緑内障性視神経乳頭が存在する;および、
(3)他の緑内障治療薬の投与前にGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した眼圧値が21.0mmHg以上を示した既往がない、
を満たす患者である、組成物。
(項目33)
前記他の緑内障治療薬がプロスタグランジン関連薬単一成分用剤またはβ遮断薬単一成分用剤である、項目31または32に記載の組成物。
(項目34)
前記他の緑内障治療薬がβ遮断薬単一成分用剤である、項目31~33のいずれか一項に記載の組成物。
(項目35)
ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩との複数成分用剤であって、第一選択薬としての該複数成分用剤以外の他の緑内障治療薬による効果が不十分である患者において、眼圧下降率で評価する場合に眼圧を約20%以上下降させて、該患者の視野障害の発生または進行を抑制する方法において使用するための複数成分用剤であって、該方法は、
a)該患者が正常眼圧緑内障であるかどうか診断する工程と、
b)第一選択薬としての他の緑内障治療薬を投与する工程と、
c)該患者が他の緑内障治療薬による効果が不十分であるかどうかを診断する工程と、
d)該患者の眼圧を測定する工程と、
e)他の緑内障治療薬による効果が不十分であり、かつ該患者が正常眼圧緑内障である場合に、他の緑内障治療薬に代えて、あるいは他の緑内障治療薬と組み合わせて、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩とチモロールまたはその薬学的に受容可能な塩を含む組成物を、第二選択薬として選択して、該患者に該複数成分用剤を投与する工程と
を含む、
複数成分用剤。
(項目36)
配合薬である、項目35に記載の複数成分用剤。
【0004】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0005】
本開示によれば、特定の患者群に対して、高い眼圧下降作用を示す、ブリモニジンとチモロールとを含む組成物が提供される。また、本開示によれば、緑内障(例えば、前視野緑内障)の進行を予防する、ブリモニジンとチモロールとを含む組成物も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本開示を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。本明細書において、「約」とは、後に続く値の±10%を意味する。本明細書では、時刻の表示は特に断らない限り24時間制で表示する。
【0007】
(定義)
本明細書において「ブリモニジン」とは、以下の式
【0008】
【化1】
として示される、化学名5-ブロモ-N-(4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-2-イル)キノキサリン-6-アミンで示される化合物である。ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩は医薬の成分として使用されており、代表的にブリモニジン酒石酸塩(化学名5-ブロモ-N-(4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-2-イル)キノキサリン-6-アミン-一-(2R,3R)-酒石酸塩)として提供される。ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩は、選択的アドレナリンα2受容体作動薬であり、点眼剤において有効成分として配合され、市販されている。ブリモニジン及びその薬学的に受容可能な塩は商業的に入手可能である。ブリモニジンの薬学的に受容可能な塩としては、限定するものではないが、酒石酸塩、塩酸塩又は酢酸塩が挙げられる。点眼薬として緑内障、高眼圧症の治療薬として使用され、塗布剤として酒さの皮膚発赤の治療にも使用される。ブリモニジンは(開放隅角)緑内障または高眼圧症の患者の眼圧の下降のために使用される。
【0009】
本明細書において「チモロール」とは、以下の式
【0010】
【化2】
として示される、化学名(2S)-1-[(1,1-ジメチルエチル)アミノ]-3-(4-モルホリン-4-イル-1,2,5-チアジアゾール-3-イルオキシ)プロパン-2-オールで示される化合物である。チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩は医薬の成分として使用されており、代表的にチモロールマレイン酸塩(化学名(2S)-1-[(1,1-ジメチルエチル)アミノ]-3-(4-モルホリン-4-イル-1,2,5-チアジアゾール-3-イルオキシ)プロパン-2-オールマレイン酸塩)として提供される。チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩は、非選択性β遮断薬であり、房水産生を抑制して眼圧を下降させることにより、点眼薬として緑内障の治療に使用される。チモロール及びその薬学的に受容可能な塩は商業的に入手可能である。チモロールの薬学的に受容可能な塩としては、限定するものではないが、マレイン酸塩、塩酸塩および酢酸塩が挙げられる。
【0011】
一般的には「緑内障」とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患を意味し(日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会. 緑内障診療ガイドライン(第4版). 日本眼科学会雑誌. 122巻1号. p.5-53(2018.01)(以下「緑内障診療ガイドライン(第4版)」と称する)、原発緑内障、続発緑内障、および小児緑内障を含むとされる。原発緑内障には、原発開放隅角緑内障(広義)および原発閉塞隅角緑内障が含まれ、原発開放隅角緑内障(広義)には原発開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障が含まれる。本明細書において正常眼圧緑内障は、緑内障性視野異常が認められ、眼圧が正常(例えば、21mmHg未満)の場合をいう。また本明細書において、前視野緑内障は、視野異常は認められないが、緑内障性の構造異常および高眼圧(例えば、21mmHg以上)が認められる「前視野緑内障(高眼圧)」と、緑内障性の構造異常のみが認められる「前視野緑内障(正常眼圧)」とに分類される。すなわち、「前視野緑内障(高眼圧)」の患者は、前視野緑内障と判定され、かつ高眼圧を有する患者であり、「前視野緑内障(正常眼圧)」の患者は、前視野緑内障と判定され、かつ正常眼圧を有する患者である。続発緑内障には、続発開放隅角緑内障および続発閉塞隅角緑内障が含まれ、小児緑内障には、原発先天緑内障、若年開放隅角緑内障、および先天眼形成異常に関連した緑内障、先天全身疾患に関連した緑内障などが含まれる。
【0012】
本明細書において、「緑内障性構造異常」とは、緑内障に特有の眼の構造的異常を指し、主に眼圧上昇に起因するものである。緑内障性構造異常には、緑内障性視神経乳頭や網膜神経線維層欠損などの、緑内障を示唆する異常が含まれ、当該異常は眼底検査により確認することができる。眼底検査は、眼底写真や光干渉断層計(Optical coherence tomography:OTC)により行うことができる。本明細書において「緑内障性視神経乳頭」とは、例えば視神経乳頭の陥凹が拡大することを指し、当該分野で公知の任意の手法で測定することができる(緑内障診療ガイドライン(第4版))。
【0013】
本明細書において、「視野異常」とは緑内障性視野異常であり、通常の自動静的視野検査で認められる視野欠損をいう。通常の自動静的視野検査は、例えば、Humphrey視野計やOctopus視野計などの視野計を使用して測定することができる。(緑内障診療ガイドライン(第4版))。
【0014】
本明細書において、「投与前眼圧」とは、目的とする医薬による治療開始前の眼圧であり、目的とする医薬の投与を開始する当日(投与開始日)であって、当該医薬を投与する前(通常、12時間以内前)に測定された眼圧をいい、その値を「投与前眼圧値」という。1つの好ましい実施形態では、本開示の組成物の投与を開始する日の朝または昼間眼圧を指す。例えば、後述する実施例の0時間値または2時間値が挙げられるがこれに限定されず、当該医薬を投与する0~11時間前以内、0~10時間前以内、0~9時間前以内、0~8時間前以内、0~7時間前以内、0~6時間前以内、0~5時間前以内、0~4時間前以内、0~3時間前以内、0~2時間前以内などの任意の数値が想定される。
【0015】
本明細書において、投与開始日、評価日等の「0時間値」は、対象となる日(例えば投与開始日、評価日)の8:00~10:00に測定された眼圧値をいい、投与開始日、評価日等の「2時間値」は、対象となる日(例えば投与開始日、評価日)の朝の点眼後の2時間±30分以内かつ12:30までに測定された眼圧値を指す。なお投与開始日の朝には、他の緑内障治療薬が点眼され、評価日の朝には他の緑内障治療薬ではなく、目的とする医薬(本開示の組成物)が点眼される。評価日において、「0時間値」は、当該医薬投与の直前に測定された眼圧である。「0時間値」や「2時間値」は、当該分野では、患者の眼圧について一定の値を示すものとして使用されており、患者を特定するのに十分な値として使用されている。
【0016】
本明細書において「評価日」は、眼圧を評価する日を指す。任意の日が該当し得るが、例えば、投与開始日から約4週間後、約12週間後、約3か月後、約6か月後、約28週間後、約52週間後、約1年後、約3年後等の期間が対象となり得る。
【0017】
本明細書において「眼圧下降率」とは、同一の患者において、評価対象である評価日の眼圧を、評価基準である投与開始日の眼圧と比較した変動率をいう。本開示では、代表的に、眼圧下降率は、眼圧の評価日の2時間値を用いて算出される。
【0018】
本明細書において「単一成分用剤」とは、緑内障における眼圧下降等の薬効発揮の用途に関して単一の有効成分(API)を含むまたは用い、その他の有効成分を含まないまたは用いない製剤をいう。したがって、β遮断薬の単一成分用剤は、有効成分としてβ遮断薬のみを含み、β遮断薬のみの投与を想定して提供される製剤をいう。他方、本明細書において「複数成分用剤」は、薬効発揮の用途に関して、主となる有効成分に加えて、追加の有効成分と組み合わせて投与される製剤をいう。複数成分用剤は、個々の有効成分が同一の製剤に存在する形で提供されてもよく(本明細書において「配合剤」ともいう)、個別の製剤に存在する形で提供されてもよく、その組み合わせであってもよい。したがって、複製成分用剤は、単一成分用剤として製剤されたが、用途として、他の有効成分と組み合わせて投与されるように用途が特定されて提供される剤形も含む。したがって、複数成分用剤は、有効成分としてβ遮断薬等の第一の有効成分を含み、さらにプロスタグランジン関連薬などの追加の有効成分を含む製剤または追加の有効成分を含む別個の製剤と組み合わせて投与される製剤も含まれる。本明細書でいえば、例えば、本開示は、プロスタグランジン関連薬を含む医薬であって、β遮断薬を含む医薬と組み合わせて投与することを想定して提供される実施形態や、β遮断薬を含む医薬であって、プロスタグランジン関連薬を含む医薬と組み合わせて投与されることを想定して提供される実施形態を含む。
【0019】
本明細書において「配合剤」とは、薬効発揮の用途に関して、主となる有効成分と、追加の有効成分とを同一の製剤中に含む剤を言い、例えば、緑内障における眼圧下降のための、作用機序の異なるまたは同じ複数の有効成分を同一製剤中に含む製剤をいう。本明細書では、配合剤は、追加で、他の緑内障治療薬(単剤、配合剤を問わない)と同時または異時に併用して使用されてもよい。
【0020】
本明細書において「プロスタグランジン関連薬」とは、プロスタグランジンまたはプロスタグランジン類似体であって、プロスタグランジンと同等の作用を示すもの、またはそれらの薬学的に許容され得る塩を含む医薬を指す。プロスタグランジン関連薬は、房水流出促進作用により、副経路(ぶどう膜強膜流経由)として、緑内障に適用される。プロスタグランジン関連薬としては、例えば、限定するものではないが、ラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロストなどのプロスタグランジンF2α誘導体や、プロスタマイド誘導体などを挙げることができる。
【0021】
本明細書において「点眼薬」または「点眼液」は同義で使用され、当該分野において通常使用されるのと同じ意味で用いられ、一般に「めぐすり」(目薬)とも称されるものであり、目に直接投与する液状の薬である。
【0022】
本明細書において「指示書」は、本開示を使用する方法を使用者に対する説明を記載したものであり、日本では「添付文書」、米国などではラベル(label)と称される。この指示書は、本開示の使用方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、必要な場合は、本開示が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省等、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、紙媒体で提供され得るが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0023】
本明細書において「第一選択薬」(ファーストライン、ファーストチョイスなどとも呼ばれる)とは、ある疾患に対して最初に投与すべき治療薬をいう。通常第一選択薬には、副作用が少なく、有効性がある程度高いとされる薬が選ばれるとされている。第一選択薬を投与した後も改善が見られない場合は、他の作用機序などを考慮し効果を重視した第二選択薬が投与される。緑内障では、プロスタグランジン関連薬やβ遮断薬が第一選択薬として投与されている。
【0024】
本明細書において「第二選択薬」(セカンドライン、セカンドチョイスなどとも呼ばれる)とは、第一選択薬を投与しても改善がみられない場合や、副作用のため治療の継続が困難な場合などに、次に使用される治療薬をいう。緑内障の第二選択薬は多数あり、炭酸脱水酵素阻害薬点眼薬や,α2受容体刺激薬,ROCK阻害薬、α1受容体遮断薬、交換神経非選択性刺激薬、副交感神経刺激薬、第一選択薬と第二選択薬の配合剤、第二選択薬同士の配合剤などの種類があり、それぞれ作用効果や適切な患者が異なることから、第二選択薬の適切な選択は緑内障の適切な治療において重要である。第二選択薬は、第一選択薬を含む他の緑内障治療薬の併用剤として使用してもよい。
【0025】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0026】
(組成物)
一つの局面において、本開示は、緑内障を治療または予防するため、代表的には、緑内障罹患患者において眼圧を下降させるための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、組成物(すなわち、配合剤)として提供されうる。本開示の組成物は、予想外にも正常な眼圧を有する緑内障罹患患者により効果的である。したがって、いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、正常眼圧を有する緑内障罹患患者に投与され得る。
【0027】
理論に束縛されることを望まないが、別個の製剤として投与される場合、先に投与された製剤の有効成分は、後に投与される製剤により洗い流されてしまうことがあり(洗い流し効果)、有効性が低下する可能性がある。したがって、別個の製剤として投与する場合、通常、数分の時間間隔をおいて投与する必要があり、患者にとって負担がある。本開示のブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む組成物(すなわち、配合剤)は、洗い流し効果による有効性の低下が生じず、時間間隔をおいて投与するという患者負担も無く、有利である。
【0028】
いくつかの実施形態において、正常眼圧は、21mmHg未満であり得る。
【0029】
一つの実施形態では、本開示の組成物は、点眼薬、眼軟膏などとして提供され、好ましくは点眼薬として提供される。2成分が別々に提供される場合、両者は同じ剤型として提供されてよく、異なる剤型として提供されてもよい。
【0030】
本開示の組成物等は、例えば、眼科用の組成物(特に水性点眼剤)に一般的に使用され得る等張化剤、緩衝剤、粘稠剤、保存剤、pH調節剤、又は溶剤等を含んでいてもよい。より具体的には、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム水和物、エデト酸ナトリウム水和物、ベンザルコニウム塩化物、等張化剤、pH調節剤などの添加成分を一種または複数種含んでいてもよい。本開示の組成物において、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩は、特に制限されず、適用対象となる患者の症状の程度、1回当たりの適用量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば約0.05~約0.2w/v%、好ましくは約0.1~約0.2w/v%、特に好ましくは約0.1w/v%が挙げられる。本開示の組成物において、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩は、特に制限されず、適用対象となる患者の症状の程度、1回当たりの適用量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば約0.25~約1.0w/v%、好ましくは約0.5~約1.0w/v%、特に好ましくは約0.5w/v%が挙げられる。本明細書において、ブリモニジン、またはその薬学的に受容可能な塩の含有量又は濃度に関する言及は、そうではないと明記しない限り、ブリモニジン酒石酸塩に換算された含有量又は濃度を意味する。また明細書において、チモロール、またはその薬学的に受容可能な塩の含有量又は濃度に関する言及は、そうではないと明記しない限り、チモロール(塩を含まない)に換算された含有量又は濃度を意味する。例えばチモロール約0.5w/v%は、チモロールマレイン酸塩0.68w/v%に相当する。
【0031】
1つの実施形態では、本開示の組成物には、以下の添加物が添加されうる:
本開示の組成物では、約32mM以下の濃度でリン酸及び/又はその塩を含むことが好ましい。リン酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸水素二アルカリ金属塩;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸二水素アルカリ金属塩;リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸三アルカリ金属塩等が挙げられる。また、リン酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよく、例えば、リン酸水素二ナトリウムの場合であれば十二水和物の形態、リン酸二水素ナトリウムの場合であれば二水和物の形態等であってもよい。本発明において、リン酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
リン酸及びその塩の中でも、好ましくはリン酸水素二アルカリ金属塩とリン酸二水素アルカリ金属塩との組み合わせ、更に好ましくはリン酸水素二ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムとの組み合わせが挙げられる。リン酸水素二アルカリ金属塩とリン酸二水素アルカリ金属塩とを組み合わせて使用する場合、これらの比率については、特に制限されないが、例えば、リン酸水素二アルカリ金属塩1モル当たり、リン酸二水素アルカリ金属塩は約0.005~約1.0モルが挙げられる。pHをより安定化させるという観点から、好ましくは約0.01~約0.4モル、更に好ましくは約0.05~約0.5モル、特に好ましくは約0.26モルが挙げられる。
【0033】
また本開示の組成物において、リン酸及び/又はその塩の濃度は約32mM以下に設定され、好ましくは約16mM以下、更に好ましくは約13mM以下、特に好ましくは約6.3mM以下が挙げられる。また、リン酸及び/又はその塩の濃度の下限値については、特に制限されないが、例えば、約0.01mM以上、好ましくは約0.3mM以上、更に好ましくは約3.2mM以上、特に好ましくは約6.3mM以上が挙げられる。リン酸及び/又はその塩の濃度の具体的範囲として、例えば約0.01~32mMが挙げられ、好ましくは約0.3~約32mM、更に好ましくは約0.3~約16mM、特に好ましくは約0.3~約6.3mMが挙げられる。
【0034】
本開示の組成物は、前記成分に加えて、エデト酸及び/又はその塩を含んでいてもよい。エデト酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、エデト酸一ナトリウム、エデト酸二ナトリウム(EDTA)、エデト酸四ナトリウム等のエデト酸ナトリウム塩が挙げられる。また、エデト酸の塩は、二水和物のような水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。
【0035】
本発明の組成物にエデト酸及び/又はその塩を含有させる場合、エデト酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましくはエデト酸の塩、更に好ましくはエデト酸二ナトリウム(EDTA)が挙げられる。
【0036】
本開示の組成物にエデト酸及び/又はその塩を含有させる場合、その濃度としては、例えば約0.0001~約0.2w/v%が挙げられ、好ましくは約0.001~約0.03w/v%、更に好ましくは約0.005~約0.015w/v%、特に好ましくは約0.01w/v%が挙げられる。本明細書において、エデト酸及び/又はその塩の濃度は、エデト酸二ナトリウム二水和物に換算された濃度を意味する。
【0037】
本開示の組成物には、前記成分の他に、必要に応じて、等張化剤、多価アルコール、界面活性剤、粘稠剤、緩衝剤(リン酸及びその塩以外)、キレート剤(エデト酸及びその塩以外)、清涼化剤、防腐剤、安定化剤、pH調節剤等の添加剤を含有してもよい。
【0038】
等張化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の金属塩等が挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
多価アルコールとしては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらの多価アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
界面活性剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、チロキサポール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オクトキシノール等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤;アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤;アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩等の陽イオン界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
粘稠剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等の水溶性高分子;ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース類等が挙げられる。これらの粘稠剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
緩衝剤(リン酸及びその塩以外)としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、Tris緩衝剤、アミノ酸等が挙げられる。これらの緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明の眼科用組成物では、リン酸及び/又はその塩を含むことにより緩衝作用が付与されるので、リン酸及びその塩以外の緩衝剤を
配合せずとも、所望の緩衝作用を具備することができる。
【0043】
キレート剤(エデト酸及びその塩以外)としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、クエン酸及びその塩等が挙げられる。これらのキレート剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明の眼科用組成物では、エデト酸及び/又はその塩を含有させる場合には、キレート作用も付与されるので、エデト酸及びその塩以外のキレート剤を配合せずとも、所望のキレート作
用を具備することができる。
【0044】
清涼化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、l-メントール、ボルネオール、カンフル、ユーカリ油等が挙げられる。これらの清涼化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
防腐剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ソルビン酸又はその塩、安息香酸又はその塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジン酢酸塩、ホウ酸又はその塩、デヒドロ酢酸又はその塩、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化亜鉛、パラクロルメタキシレノール、クロルクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ポリドロニウム、チメロサール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。これらの防腐剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中で塩化ベンザルコニウムは、防腐効果と共に製剤の浸透性を上昇させるため特に好ましい。
【0046】
防腐剤の濃度はその種類により適宜変えることができるが、例えば約0.0001~約0.1w/v%が挙げられる。好ましくは約0.0005~約0.05w/v%、更に好ましくは約0.001~約0.05w/v%、特に好ましくは約0.002w/v%が挙げられる。
【0047】
安定化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、亜硫酸塩、モノエタノールアミン、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、タウリン、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。これらの安定化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
pH調節剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、塩酸、酢酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン-アミノカプロン酸等の酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリが挙げられる。これらのpH調節剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
これらの添加剤の濃度は、使用する添加剤の種類や眼科用組成物に付与すべき特性等に応じて適宜設定すればよい。
【0050】
本開示の組成物は、代表的には、水性点眼剤として提供される。本開示の組成物は、淡緑黄色~緑黄色の澄明でありうる。本開示の組成物は、pH6.9~7.3で提供されうる。本開示の組成物の浸透圧比生理食塩液に対する比が約0.9~約1.1でありうる。本開示の組成物は、点眼剤として提供され得、例えば、通常、1回1滴、1日2回点眼されうるが、それに限定されない。好ましくは、本開示の組成物は、朝及び夜(9:00±1時間及び21:00±1時間)に点眼されうる。
【0051】
本開示の組成物が対象とする患者は、緑内障に罹患する患者である。いくつかの実施形態において、本開示の組成物が対象とする患者は、原発緑内障、好ましくは、原発開放隅角緑内障(広義)であり得る。本発明者らは、緑内障のうち原発開放隅角緑内障に罹患する患者群に対して、本開示の組成物の治療効果が優れていることを見出した。特定の実施形態において、本開示の組成物により治療される患者は、緑内障性構造異常が観察される患者であり得る。緑内障性構造異常としては、緑内障性視神経乳頭の存在や網膜神経線維層の欠損などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、網膜神経線維の菲薄化等の変化も、網膜神経線維層の欠損を示唆する所見である。特定の実施形態において、本開示の組成物により治療される患者は、正常眼圧緑内障の患者または正常眼圧を有する前視野緑内障の患者であり得る。典型的には、正常眼圧緑内障または正常眼圧を有する前視野緑内障の患者は、過去に約21mmHg以上の眼圧値の既往歴がない。眼圧は、一般的な眼圧計を用いて測定することができ、例えば圧平眼圧計や反跳式眼圧計により測定することができる(緑内障診療ガイドライン(第4版)。
【0052】
正常眼圧緑内障患者は、(1)緑内障性視野異常が存在する、(2)緑内障性視神経乳頭が存在する、および(3)過去に測定した眼圧値(例えばGoldmann圧平眼圧計を用いて測定された眼圧値)が21.0mmHg以上を示した既往がない、を満たす患者である。(1)~(3)の診断は、実施例1を参照のこと。
【0053】
正常眼圧を有する前視野緑内障は、(1)緑内障性視野異常が存在しない、(2)緑内障性視神経乳頭が存在する、および(3)過去に測定した眼圧値(例えばGoldmann圧平眼圧計を用いて測定された眼圧値)が21.0mmHg以上を示した既往がない、を満たす患者である。(1)~(3)の診断は、実施例1を参照のこと。
【0054】
本開示の組成物は、予想外にも正常眼圧を有する緑内障患者における眼圧を下降することができる。また、緑内障性視野異常が存在しない緑内障である前視野緑内障において本開示の組成物が有効であり、緑内障性視野異常の発症を予防し得るものであり優れている。特に、正常眼圧を有する前視野緑内障患者において、本開示の組成物は高い眼圧下降率を示したことは驚くべき発見であった。
【0055】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、本開示の組成物以外の他の緑内障治療薬による治療が効果不十分であった患者に投与され得る。他の緑内障治療薬は、本開示の組成物以外の緑内障治療薬を意味し、例えば、β遮断薬、α受容体作動薬、プロスタグランジン関連薬、炭酸脱水素酵素阻害薬、ROCK阻害薬、選択的EP2受容体作動薬またはこれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。β遮断薬としては、例えば、チモロール、レボブノロール、ベタキソロール、ニプラジロールまたはそれらの薬学的に受容可能な塩などが挙げられるが、これらに限定されない。プロスタグランジン関連薬としては、ラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロストなどのプロスタグランジンF2α誘導体、プロスタマイド誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。炭酸脱水素酵素阻害薬としては、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、ROCK阻害薬としては、リパスジルが挙げられるが、これらに限定されない。選択的EP2受容体作動薬としては、オミデネパグ イソプロピルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
いくつかの実施形態において、他の緑内障治療薬は、第一選択薬として投与されたものであり得る。さらなる実施形態において、他の緑内障治療薬を第一選択薬として投与された場合に、本開示の組成物は、第二選択薬として投与されるものであり得る。いくつかの実施形態において、第一選択薬は単一成分用剤であり得、本開示の組成物は配合剤であり、第二選択薬として投与され得る。
【0057】
いくつかの実施形態において、他の緑内障治療薬は、プロスタグランジン関連薬単一成分用剤またはβ遮断薬単一成分用剤であり得る。いくつかの実施形態において、他の緑内障治療薬は、β遮断薬単一成分用剤であり得る。特定の実施形態において、他の緑内障治療薬は、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩であり得る。
【0058】
他の緑内障治療薬の治療効果が不十分であることの指標として、他の緑内障治療薬による治療後であって、本開示の組成物の投与前の眼圧が15mmHg以上であることが用いられ得る。このほか、治療効果としては、視神経乳頭所見、視野所見などを挙げることができるがこれらに限定されない。その他、効果不十分は無治療時眼圧からの眼圧下降率が低い場合(例えば、眼圧下降率10%、または20%未満等)、他の緑内障治療薬の治療効果が不十分であると判断してもよい。また、治療され得る患者は、他の緑内障治療薬を1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、または8週間以上投与されている患者であり得る。例えば、β遮断薬(例えば、チモロール)の治療効果は、典型的には約4週間で判断され得る。
【0059】
本開示の組成物により治療される、他の緑内障治療薬の治療効果が不十分である患者は、約15mmHg~約31mmHgの投与前眼圧を有し得る。投与前眼圧は、本開示の組成物の投与開始日に測定された眼圧であり得、好ましくは、朝(9:00±1時間)および昼(朝の点眼後2時間±30分以内かつ12:30まで)の両方で、約15mmHg~約31mmHgの眼圧であることが好ましい。前記眼圧は、本開示の組成物の投与前に測定されたものである。投与開始日において、本開示の組成物は、投与前眼圧を測定した後、すなわち昼よりも後(好ましくは夜、さらに具体的には21:00±1時間)に投与が開始される。好ましい実施形態において、本開示の組成物により治療され得る患者は、約15mmHg~約21mmHgの眼圧を有し得る。
【0060】
本開示の組成物は、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6時間、少なくとも7週間、または少なくとも8週間、少なくとも12週間、少なくとも16週間、少なくとも28週間、少なくとも36週間、少なくとも44週間、少なくとも52週間患者に投与され得る。
【0061】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、眼圧下降率で評価する場合に患者の眼圧を約5%以上、約10%以上、約15%以上、または約20%以上下降させ得る。別の実施形態において、本開示の組成物は、眼圧下降率で評価する場合に患者の眼圧を、0%より大きく10%未満、10%以上20%未満、または20%以上下降させ得る。緑内障治療において、眼圧を下降させることは視野異常進行リスクの低減につながることが知られている。眼圧が1mmHg下降すると、視野異常進行リスクが10%軽減するとの報告もされている。また緑内障治療においては、無治療時眼圧からの眼圧下降率を目標として設定することが推奨されており、20%以上が一つの目標とされている(緑内障診療ガイドライン(第4版)、川瀬和秀.眼科. 48巻6号. p.871~881(2006)、Akira Aoyama et al., Japanese Journal of Ophthalmology 54巻2号. P.117-23 (2010)(DOI: 10.1007/s10384-009-0779-z))。したがって、好ましい実施形態において、本開示の組成物は、眼圧下降率で評価する場合に患者の眼圧を約20%以上下降させ得る。
【0062】
眼圧下降率は、以下の式:
眼圧下降率={(本開示の組成物を投与する前の眼圧値-本開示の組成物を所定期間投与した後の眼圧値)/本開示の組成物を投与する前の眼圧値}×100によって算出され得る。式中の眼圧値は、複数の時点で測定された眼圧の平均値であってもよい。いくつかの実施形態において、眼圧値は2時間値であり得る。したがって、この場合、眼圧下降率={本開示の組成物の投与開始日の眼圧値(2時間値)-本開示の組成物を所定期間投与した後の眼圧の評価日の眼圧値(2時間値)}/本開示の投与開始日の眼圧値(2時間値)×100によって算出され得る。
【0063】
さらなる局面において、本開示は、緑内障における視野異常を予防するまたは視野異常の進行を遅らせるための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、組成物を提供する。いくつかの実施形態において、緑内障を有する患者は、正常眼圧を有し得る。
【0064】
さらなる局面において、本開示は、正常眼圧緑内障の患者において眼圧を下降させるための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、組成物を提供する。
【0065】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、1)前記患者に対して他の緑内障治療薬を投与する工程と、2)1)の投与後、該患者の0時間値及び2時間値を測定する工程と、3)2)の測定の結果該患者の0時間値及び2時間値が15.0mmHg以上31.0mmHg以下の場合、本開示の組成物を投与する工程を含み得る。
【0066】
さらなる局面において、本開示は、前視野緑内障と判定された患者に投与され、視野異常の進行を抑制又は視野異常の発症を予防するための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前視野緑内障と判定された患者は、正常眼圧を有し得る。
【0067】
さらなる局面において、本開示は、正常眼圧を有する前視野緑内障の患者において眼圧を下降させるための組成物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、組成物を提供し得る。
【0068】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、1)前記患者に対して他の緑内障治療薬を投与する工程と、2)1)の投与後、該患者の0時間値及び2時間値を測定する工程と、3)2)の測定の結果該患者の0時間値及び2時間値が15.0mmHg以上31.0mmHg以下の場合、本開示の組成物を投与する工程を含み得る。
【0069】
本発明の有効成分であるブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩は、別個の製剤(すなわち、併用剤)として提供され、これらを組み合わせて投与されてもよい。
【0070】
したがって、さらなる局面において、本開示は、正常眼圧を有する緑内障罹患患者において眼圧を下降させるための組み合わせ物であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、組み合わせ物を提供する。
【0071】
さらなる局面において、本開示は、正常眼圧を有する緑内障罹患患者において眼圧を下降させるための点眼液等の医薬であって、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩を含み、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩と組み合わせて投与されることを特徴とする、医薬を提供する。
【0072】
さらなる局面において、本開示は、正常眼圧を有する緑内障罹患患者において眼圧を下降させるための点眼液等の医薬であって、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩を含み、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と組み合わせて投与されることを特徴とする、医薬を提供する。
【0073】
さらなる局面において、本開示は、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む組成物であって、第一選択薬としての該組成物以外の他の緑内障治療薬による効果が不十分である患者において、眼圧下降率で評価する場合に眼圧を約20%以上下降させて、該患者の視野障害の発生または進行を抑制する方法において使用するための組成物であって、該方法は、
a)該患者が正常眼圧緑内障であるかどうか診断する工程と、
b)第一選択薬としての他の緑内障治療薬を投与する工程と、
c)該患者が他の緑内障治療薬による効果が不十分であるかどうかを診断する工程と、
d)該患者の眼圧を測定する工程と、
e)他の緑内障治療薬による効果が不十分であり、かつ該患者が正常眼圧緑内障である場合に、他の緑内障治療薬に代えて、あるいは他の緑内障治療薬と組み合わせて、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩とチモロールまたはその薬学的に受容可能な塩を含む組成物を、第二選択薬として選択して、該患者に該組成物を投与する工程と
を含み、
該眼圧下降率は、眼圧の評価日の2時間値を用いて算出され、
該正常眼圧緑内障である患者は、
(1)視野計で測定したときに、緑内障性視野異常が存在する;
(2)眼底検査にて、緑内障性視神経乳頭が存在する;および、
(3)他の緑内障治療薬の投与前にGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した眼圧値が21.0mmHg以上を示した既往がない、
を満たす患者である、組成物を提供する。
【0074】
さらなる局面において、本開示は、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とを含む、第一選択薬としての他の緑内障治療薬による効果が不十分である患者において、眼圧下降率で評価する場合に眼圧を約20%以上下降させて、該患者の視野異常の進行を抑制又は視野異常の発症を予防する方法において使用するための組成物であって、該方法は、
a)該患者が前視野緑内障であり、かつ正常眼圧を有する患者であるかどうか診断する工程と、
b)第一選択薬としての他の緑内障治療薬を投与する工程と、
c)該患者が他の緑内障治療薬による効果が不十分であるかどうかを診断する工程と、
d)該患者の眼圧を測定する工程と、
e)他の緑内障治療薬による効果が不十分であり、かつ該患者が前視野緑内障であり、かつ正常眼圧を有する場合に、他の緑内障治療薬に代えて、あるいは他の緑内障治療薬の併用薬として、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩とチモロールまたはその薬学的に受容可能な塩を含む組成物を、第二選択薬として選択して、該患者に該組成物を投与する工程と
を含み、
該眼圧下降率は、眼圧の評価日の2時間値を用いて算出され、
該正常眼圧緑内障である患者は、
(1)視野計で測定したときに、緑内障性視野異常が存在しない;
(2)眼底検査にて、緑内障性視神経乳頭が存在する;および、
(3)他の緑内障治療薬の投与前にGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した眼圧値が21.0mmHg以上を示した既往がない、
を満たす患者である、組成物を提供する。
a)該患者が前視野緑内障であり、かつ正常眼圧を有する患者であるかどうか診断する工程は、本開示の組成物の投与開始日よりも前、より具体的には、第一選択薬としての他の緑内障治療薬の投与開始前に行われることが好ましい。その後、当該患者において他の緑内障治療薬の効果が不十分であった場合に、第二選択薬の使用が検討される。第二選択薬の使用の検討時に、前視野緑内障であり、かつ正常眼圧を有する患者であるかが確認され、前視野緑内障であり、かつ正常眼圧を有する患者であった場合に、当該患者に対する治療薬として、本開示の組成物を第二選択薬として選択する。
【0075】
本開示は、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩との複数成分用剤であって、第一選択薬としての該複数成分用剤以外の他の緑内障治療薬による効果が不十分である患者において、眼圧下降率で評価する場合に眼圧を約20%以上下降させて、該患者の視野障害の発生または進行を抑制する方法において使用するための複数成分用剤であって、該方法は、
a)該患者が正常眼圧緑内障であるかどうか診断する工程と、
b)第一選択薬としての他の緑内障治療薬を投与する工程と、
c)該患者が他の緑内障治療薬による効果が不十分であるかどうかを診断する工程と、
d)該患者の眼圧を測定する工程と、
e)他の緑内障治療薬による効果が不十分であり、かつ該患者が正常眼圧緑内障である場合に、他の緑内障治療薬に代えて、あるいは他の緑内障治療薬と組み合わせて、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩とチモロールまたはその薬学的に受容可能な塩を含む組成物を、第二選択薬として選択して、該患者に該複数成分用剤を投与する工程と
を含み、
該複数成分用剤を提供する。ここで、1つの実施形態において、複数成分用剤は配合薬であることが有利であり得る。この複数成分用剤における種々の実施形態は、本開示の他の実施形態において採用され得る任意の実施形態について、適切である限り1または複数の実施形態が適用され得ることが当業者には理解される。
【0076】
これらの局面の実施形態は、上記に記載の1つまたは複数の実施形態を適宜採用し得る。
【0077】
いくつかの実施形態において、視野異常の進行を抑制又は視野異常の発症は、前視野緑内障の進行の予防とも考えられ、眼圧下降を含み得る。
【0078】
(方法)
別の局面において、本開示は、必要とする対象において、緑内障を治療または予防するため、代表的には、緑内障罹患患者において眼圧を下降させるため、または視野異常を予防するまたは視野異常の進行を遅らせるため、および/または前視野緑内障の進行を予防するための方法を提供する。この方法は、ブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩と、チモロールまたはその薬学的に受容可能な塩と、有効量で必要とする対象に投与する工程を包含する。投与する工程において、本開示のチモロールまたはその薬学的に受容可能な塩とブリモニジンまたはその薬学的に受容可能な塩とが、一緒に投与され得、投与は、2つの成分が同時に投与されることができ、合剤として投与されることができる。このような手法は例えば、添付文書またはラベルなどとして提供されうる。方法として提供される任意の要素は、(組成物および組み合わせ物等)に記載される任意の実施形態を適宜採用することができることが理解される。
【0079】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を記載する。必要な場合、以下の実施例において、ICHまたはそれに準ずる臨床試験において遵守すべき事項、治験実施の際に認定された規定される基準を遵守し、ヘルシンキ宣言に基づいて行った。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカーの同等品でも代用可能である。
【0081】
(実施例1)
原発開放隅角緑内障(広義)患者(107名)において、0.1%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロール配合点眼剤(1mL中、ブリモニジン酒石酸塩1mg、チモロールマレイン酸塩6.8mg(チモロールとして5mg)、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム水和物、エデト酸ナトリウム水和物、ベンザルコニウム塩化物、等張化剤、pH調節剤を含む、点眼液)(以下、本点眼剤)を1日2回52週間点眼したときの有効性(眼圧下降効果)を、多施設共同非対照非遮蔽試験により確認した。なお、本実施例では、朝の点眼前、かつ9:00±1時間に眼圧を測定した眼圧値を0時間値、朝の点眼後2時間±30分以内かつ12:30までに測定した眼圧値を2時間値と称する。
【0082】
有効性の評価は、観察期終了日(治療期開始日)に測定した0時間値の眼圧値が高い方の眼を対象とし(有効性評価対象眼)、治療期52週まで同じ眼で評価した。なお、本実施例は、患者のスクリーニング時に、参加にあたり十分な説明を受けた後、患者本人の自由意思による文書同意を得られた者を対象とした。
【0083】
本実施例における原発開放隅角緑内障(広義)には、原発開放隅角緑内障(Primary Open Angle Glaucoma)(以下、POAG)、正常眼圧緑内障(Normal Tension Glaucoma)(以下、NTG)、前視野緑内障(Preperimetric Glaucoma)(高眼圧群)(以下、PPG(高眼圧))、前視野緑内障(正常眼圧群)(以下、PPG(正常眼圧))を含めた。原発開放隅角緑内障(広義)の基準のうち、POAG群は、以下の(1)及び(2)を満たす者、PPG(高眼圧)群は、以下の(2)のみを満たし治療が必要と判断された者、NTG群は以下の(1)、(2)及び(3)のすべてを満たす者、PPG(正常眼圧)群は以下の(2)及び(3)を満たし治療が必要と判断された者とした。
【0084】
(1)緑内障性視野異常が存在する。
【0085】
Humphrey 視野計で視野測定している場合は、Anderson-Patellaの基準(Anderson DR, Patella VM. Automated Static Perimetry. 2nd edition. St. Louis: Mosby; 1999: 152-3.)に従う。その他の自動静的視野計で視野測定している場合は、医師が緑内障性視野異常の存在を判断する(緑内障診療ガイドライン(第3版)等)。
【0086】
(2)緑内障性視神経乳頭が存在する。
【0087】
眼底検査にて、判断する(緑内障診療ガイドライン(第3版)等)
(3)過去にGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した眼圧値が21.0mmHg以上を示した既往がない。
【0088】
まず観察期として、チモロールマレイン酸塩点眼液を、両眼にそれぞれ1回1滴、1日2回[朝及び夜(9:00±1時間及び21:00±1時間)]、4週間点眼[観察期開始日の夜から観察期終了日(治療期開始日)の朝まで]した。観察期終了日(治療期開始日)に有効性評価対象眼の0時間値及び2時間値を確認し、0時間値及び2時間値が15.0mmHg以上31.0mmHg以下の場合に治療期に移行することとした。
【0089】
治療期として、本点眼剤を両眼にそれぞれ1回1滴、1日2回[朝及び夜(9:00±1時間及び21:00±1時間)]、観察期終了日(治療期開始日)の夜から点眼を開始し、52週間点眼した(治療期終了日の点眼は朝のみ)。治療期開始日から4週目、12週目、28週目、52週目の各観察日において眼圧値(2時間値)を測定し、治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)を確認した。
【0090】
観察期終了日(治療期開始日)の朝はチモロールマレイン酸塩点眼液を、治療期の各観察日においては本点眼剤を、0時間値の眼圧測定後かつ9:00±1時間に点眼した。
【0091】
また、スクリーニング時、治療期開始日から28週目、52週目の各観察日において眼底所見、視野障害について確認を行った。
【0092】
測定した眼圧値を用いて、以下の式から眼圧下降率を算出した。
【0093】
眼圧下降率(%)={(治療期開始日の眼圧値(2時間値)-各観察日(各眼圧評価日)の眼圧値(2時間値))/治療期開始日の眼圧値(2時間値)}*100
算出した眼圧変化率を、(++):20%≦下降率、(+):10%≦下降率<20%、(±):下降率<10%として評価した。
【0094】
(結果)
POAG、NTG、PPG(高眼圧)、PPG(正常眼圧)の各群について、各観察日の全症例数に対する(++)、(+)、(±)の症例数の割合を算出し、結果を以下の表に示した。
【0095】
その結果、NTG群においては、(++)を示す症例割合が、投与12週以降52週まで継続して約40%以上であり、PPG(正常眼圧)群においては投与4週以降52週まで継続して約40%以上であることが確認された。
【0096】
またNTG群(39例)において、眼底所見が悪化した症例はなく、視野障害はほぼ全例において進行が見られなかった。PPG(正常眼圧)群(14例)において、眼底所見が悪化した症例はなく、視野障害はほぼ全例において認められなかった。
【0097】
【0098】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0099】
緑内障を治療するための組成物が提供される。この技術は、製薬等の分野において利用可能である。