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特許7630946極低温冷凍機および極低温冷凍機の制御方法
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  • 特許-極低温冷凍機および極低温冷凍機の制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】極低温冷凍機および極低温冷凍機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/00 20060101AFI20250210BHJP
   F25B 9/06 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
F25B9/00 A
F25B9/06 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020167270
(22)【出願日】2020-10-01
(65)【公開番号】P2022059486
(43)【公開日】2022-04-13
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】劉 暢恒
【審査官】庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-113779(JP,A)
【文献】特開2011-141074(JP,A)
【文献】特開2004-085048(JP,A)
【文献】特開昭60-171359(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0085121(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起動時に室温から極低温に急速に冷却するクールダウン運転と、クールダウン運転によって極低温に冷却された状態を維持する定常運転とを実行可能な極低温冷凍機であって、
圧縮機と、
モータを有し、前記モータによって駆動される膨張機と、
前記モータの運転周波数を制御するインバータと、
前記圧縮機から前記膨張機に高圧の作動ガスを供給するように前記圧縮機を前記膨張機に接続する高圧ラインと、
前記膨張機から前記圧縮機に低圧の作動ガスを回収するように前記圧縮機を前記膨張機に接続する低圧ラインと、
前記高圧ラインの圧力および前記低圧ラインの圧力を測定し、または前記高圧ラインと前記低圧ラインの差圧を測定するように構成されている圧力測定部と、
少なくとも前記クールダウン運転において、前記圧力測定部の出力に基づいて前記高圧ラインと前記低圧ラインの差圧を目標圧と比較し、前記差圧が前記目標圧を上回る場合に前記モータの運転周波数を増加させるように前記インバータを制御する加速冷却を実行するコントローラと、
前記高圧ラインを前記低圧ラインに接続するバイパスラインと、
前記バイパスラインに設けられ、出入口間に設定圧以上の差圧が作用するとき開くリリーフバルブと、を備え、
前記目標圧は、前記設定圧よりも小さい圧力値に設定され、前記目標圧と前記設定圧の差は、0.1MPa以内であることを特徴とする極低温冷凍機。
【請求項2】
前記コントローラは、前記差圧が前記目標圧を下回る場合に前記モータの運転周波数を減少させるように前記インバータを制御することを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項3】
前記目標圧と前記設定圧の差は、0.03MPaから0.07MPaの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の極低温冷凍機。
【請求項4】
前記コントローラは、前記クールダウン運転において前記加速冷却を実行し、前記定常運転において前記加速冷却を実行しないことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項5】
前記コントローラは、前記クールダウン運転において前記定常運転に比べて前記モータの運転周波数を高くするように前記インバータを制御することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項6】
極低温冷凍機の制御方法であって、前記極低温冷凍機は、起動時に室温から極低温に急速に冷却するクールダウン運転と、クールダウン運転によって極低温に冷却された状態を維持する定常運転とを実行可能であり、圧縮機と、モータを有し、前記モータによって駆動される膨張機と、前記モータの運転周波数を制御するインバータと、前記圧縮機から前記膨張機に高圧の作動ガスを供給するように前記圧縮機を前記膨張機に接続する高圧ラインと、前記膨張機から前記圧縮機に低圧の作動ガスを回収するように前記圧縮機を前記膨張機に接続する低圧ラインと、前記高圧ラインを前記低圧ラインに接続するバイパスラインと、前記バイパスラインに設けられたリリーフバルブと、を備え、前記方法は、少なくとも前記クールダウン運転において、
前記高圧ラインと前記低圧ラインの差圧を測定することと、
測定された前記高圧ラインと前記低圧ラインの差圧を目標圧と比較することと、
前記差圧が前記目標圧を上回る場合に前記モータの運転周波数を増加させるように前記インバータを制御することと、を備え、
前記リリーフバルブは、出入口間に設定圧以上の差圧が作用するとき開き、
前記目標圧は、前記設定圧よりも小さい圧力値に設定され、前記目標圧と前記設定圧の差は、0.1MPa以内であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温冷凍機および極低温冷凍機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温冷凍機は、極低温環境で使用される超伝導機器、測定機器、試料など様々な対象物を冷却するために利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-64869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
極低温冷凍機で対象物を冷却するには、まず、極低温冷凍機を起動し、室温など初期温度から目的の極低温まで極低温冷凍機を冷却しなければならない。これは、極低温冷凍機のクールダウンとも称される。クールダウンは対象物の冷却を始めるための準備にすぎないから、その所要時間はなるべく短いことが望まれる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温冷凍機のクールダウン時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機は、圧縮機と、モータを有し、モータによって駆動される膨張機と、モータの運転周波数を制御するインバータと、圧縮機から膨張機に高圧の作動ガスを供給するように圧縮機を膨張機に接続する高圧ラインと、膨張機から圧縮機に低圧の作動ガスを回収するように圧縮機を膨張機に接続する低圧ラインと、高圧ラインの圧力および低圧ラインの圧力を測定し、または高圧ラインと低圧ラインの差圧を測定するように構成されている圧力測定部と、圧力測定部の出力に基づいて高圧ラインと低圧ラインの差圧を目標圧と比較し、差圧が目標圧を上回る場合にモータの運転周波数を増加させるようにインバータを制御するコントローラと、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機の制御方法が提供される。極低温冷凍機は、圧縮機と、モータを有し、モータによって駆動される膨張機と、モータの運転周波数を制御するインバータと、圧縮機から膨張機に高圧の作動ガスを供給するように圧縮機を膨張機に接続する高圧ラインと、膨張機から圧縮機に低圧の作動ガスを回収するように圧縮機を膨張機に接続する低圧ラインと、を備える。本方法は、高圧ラインと低圧ラインの差圧を測定することと、測定された高圧ラインと低圧ラインの差圧を目標圧と比較することと、差圧が目標圧を上回る場合にモータの運転周波数を増加させるようにインバータを制御することと、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極低温冷凍機のクールダウン時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
図2】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
図3】実施の形態に係る極低温冷凍機の制御方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1および図2は、実施の形態に係る極低温冷凍機10を概略的に示す図である。極低温冷凍機10は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である。図1には、極低温冷凍機10を構成する圧縮機12と膨張機14が制御装置100とともに模式的に示され、図2には、極低温冷凍機10の膨張機14の内部構造が示される。
【0013】
圧縮機12は、極低温冷凍機10の作動ガスを膨張機14から回収し、回収した作動ガスを昇圧して、再び作動ガスを膨張機14に供給するよう構成されている。圧縮機12と膨張機14により極低温冷凍機10の冷凍サイクルが構成され、それにより極低温冷凍機10は所望の極低温冷却を提供することができる。膨張機14は、コールドヘッドとも称される。作動ガスは、冷媒ガスとも称され、通例はヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。理解のために、作動ガスの流れる方向を図1に矢印で示す。
【0014】
なお、一般に、圧縮機12から膨張機14に供給される作動ガスの圧力と、膨張機14から圧縮機12に回収される作動ガスの圧力は、ともに大気圧よりかなり高く、それぞれ第1高圧及び第2高圧と呼ぶことができる。説明の便宜上、第1高圧及び第2高圧はそれぞれ単に高圧及び低圧とも呼ばれる。典型的には、高圧は例えば2~3MPaである。低圧は例えば0.5~1.5MPaであり、例えば約0.8MPaである。理解のために、作動ガスの流れる方向を矢印で示す。
【0015】
膨張機14は、冷凍機シリンダ16と、ディスプレーサ組立体18とを備える。冷凍機シリンダ16は、ディスプレーサ組立体18の直線往復運動をガイドするとともに、ディスプレーサ組立体18との間に作動ガスの膨張室(32、34)を形成する。また、膨張機14は、膨張室への作動ガスの吸気開始タイミングおよび膨張室からの作動ガスの排気開始タイミングを定める圧力切替バルブ40を備える。
【0016】
本書では、極低温冷凍機10の構成要素間の位置関係を説明するために、便宜上、ディスプレーサの軸方向往復動の上死点に近い側を「上」、下死点に近い側を「下」と表記することとする。上死点は膨張空間の容積が最大となるディスプレーサの位置であり、下死点は膨張空間の容積が最小となるディスプレーサの位置である。極低温冷凍機10の運転時には軸方向上方から下方へと温度が下がる温度勾配が生じるので、上側を高温側、下側を低温側と呼ぶこともできる。
【0017】
冷凍機シリンダ16は、第1シリンダ16a、第2シリンダ16bを有する。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2シリンダ16bが第1シリンダ16aよりも小径である。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは同軸に配置され、第1シリンダ16aの下端が第2シリンダ16bの上端に剛に連結されている。
【0018】
ディスプレーサ組立体18は、互いに連結された第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bを備え、これらは一体に移動する。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2ディスプレーサ18bが第1ディスプレーサ18aよりも小径である。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは同軸に配置されている。
【0019】
第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに収容され、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに収容されている。第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに沿って軸方向に往復移動可能であり、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに沿って軸方向に往復移動可能である。
【0020】
図2に示されるように、第1ディスプレーサ18aは、第1蓄冷器26を収容する。第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの筒状の本体部の中に、例えば銅などの金網またはその他適宜の第1蓄冷材を充填することによって形成されている。第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は第1ディスプレーサ18aの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第1蓄冷材が第1ディスプレーサ18aに収容されてもよい。
【0021】
同様に、第2ディスプレーサ18bは、第2蓄冷器28を収容する。第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの筒状の本体部の中に、例えばビスマスなどの非磁性蓄冷材、HoCuなどの磁性蓄冷材、またはその他適宜の第2蓄冷材を充填することによって形成されている。第2蓄冷材は粒状に成形されていてもよい。第2ディスプレーサ18bの上蓋部および下蓋部は第2ディスプレーサ18bの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第2ディスプレーサ18bの上蓋部の下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第2蓄冷材が第2ディスプレーサ18bに収容されてもよい。
【0022】
ディスプレーサ組立体18は、室温室30、第1膨張室32、第2膨張室34を冷凍機シリンダ16の内部に形成する。極低温冷凍機10によって冷却すべき所望の物体または媒体との熱交換のために、膨張機14は、第1冷却ステージ33と第2冷却ステージ35を備える。室温室30は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部と第1シリンダ16aの上部との間に形成される。第1膨張室32は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部と第1冷却ステージ33との間に形成される。第2膨張室34は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部と第2冷却ステージ35との間に形成される。第1冷却ステージ33は、第1膨張室32を取り囲むように第1シリンダ16aの下部に固着され、第2冷却ステージ35は、第2膨張室34を取り囲むように第2シリンダ16bの下部に固着されている。
【0023】
第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に形成された作動ガス流路36aを通じて室温室30に接続され、第1ディスプレーサ18aの下蓋部に形成された作動ガス流路36bを通じて第1膨張室32に接続されている。第2蓄冷器28は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部から第2ディスプレーサ18bの上蓋部へと形成された作動ガス流路36cを通じて第1蓄冷器26に接続されている。また、第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部に形成された作動ガス流路36dを通じて第2膨張室34に接続されている。
【0024】
第1膨張室32、第2膨張室34と室温室30との間の作動ガス流れが、冷凍機シリンダ16とディスプレーサ組立体18との間のクリアランスではなく、第1蓄冷器26、第2蓄冷器28に導かれるようにするために、第1シール38a、第2シール38bが設けられていてもよい。第1シール38aは、第1ディスプレーサ18aと第1シリンダ16aとの間に配置されるように第1ディスプレーサ18aの上蓋部に装着されてもよい。第2シール38bは、第2ディスプレーサ18bと第2シリンダ16bとの間に配置されるように第2ディスプレーサ18bの上蓋部に装着されてもよい。
【0025】
図1に示されるように、膨張機14は、圧力切替バルブ40を収容する冷凍機ハウジング20を備える。冷凍機ハウジング20は、冷凍機シリンダ16と結合され、それにより、圧力切替バルブ40およびディスプレーサ組立体18を収容する気密容器が構成される。
【0026】
圧力切替バルブ40は、図2に示されるように、高圧バルブ40aと低圧バルブ40bを備え、冷凍機シリンダ16内に周期的圧力変動を発生させるように構成されている。圧縮機12の作動ガス吐出口が高圧バルブ40aを介して室温室30に接続され、圧縮機12の作動ガス吸入口が低圧バルブ40bを介して室温室30に接続されている。高圧バルブ40aと低圧バルブ40bは、選択的かつ交互に開閉するように(すなわち、一方が開いているとき他方が閉じるように)構成されている。
【0027】
圧力切替バルブ40は、ロータリーバルブの形式をとってもよい。すなわち、圧力切替バルブ40は、静止したバルブ本体に対するバルブディスクの回転摺動によって高圧バルブ40aと低圧バルブ40bが交互に開閉されるように構成されていてもよい。その場合、膨張機モータ42が圧力切替バルブ40のバルブディスクを回転させるように圧力切替バルブ40に連結されていてもよい。たとえば、圧力切替バルブ40は、バルブ回転軸が膨張機モータ42の回転軸と同軸となるように配置される。
【0028】
あるいは、高圧バルブ40aと低圧バルブ40bはそれぞれ個別に制御可能なバルブであってもよく、その場合、圧力切替バルブ40は、膨張機モータ42に連結されていなくてもよい。
【0029】
膨張機モータ42は、たとえばスコッチヨーク機構などの運動変換機構43を介してディスプレーサ駆動軸44に連結されている。膨張機モータ42は、冷凍機ハウジング20に取り付けられている。運動変換機構43は、圧力切替バルブ40と同様に、冷凍機ハウジング20に収容されている。運動変換機構43は、膨張機モータ42が出力する回転運動をディスプレーサ駆動軸44の直線往復運動に変換する。ディスプレーサ駆動軸44は、運動変換機構43から室温室30の中へと延び、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に固定されている。膨張機モータ42の回転は運動変換機構43によってディスプレーサ駆動軸44の軸方向往復動に変換され、ディスプレーサ組立体18は冷凍機シリンダ16内を軸方向に直線的に往復する。
【0030】
膨張機モータ42は、たとえば、三相交流で駆動する永久磁石型モータである。膨張機モータ42の運転周波数は、インバータ70によって制御される。膨張機モータ42は、インバータ70の出力周波数に相当する膨張機モータ42の運転周波数に応じた回転数で動作することができる。一例として、インバータ70の出力周波数は、30Hzから100Hzの範囲、または40Hzから70Hzの範囲で変化しうる。
【0031】
膨張機モータ42およびインバータ70は、商用電源(三相交流電源)などの外部電源80から給電される。なお、膨張機モータ42およびインバータ70は、例えば、圧縮機12を介して外部電源80に接続され給電されてもよく、この場合、圧縮機12が膨張機モータ42とインバータ70の電源とみなされてもよい。
【0032】
また、膨張機14は、第2冷却ステージ35(及び/または第1冷却ステージ33)の温度を測定し、測定温度を示す測定温度信号を出力する温度センサ46を備えてもよい。
【0033】
圧縮機12は、高圧ガス出口50、低圧ガス入口51、高圧流路52、低圧流路53、第1圧力センサ54、第2圧力センサ55、バイパスライン56、圧縮機本体57、および圧縮機筐体58を備える。高圧ガス出口50は、圧縮機12の作動ガス吐出ポートとして圧縮機筐体58に設置され、低圧ガス入口51は、圧縮機12の作動ガス吸入ポートとして圧縮機筐体58に設置されている。高圧流路52は、圧縮機本体57の吐出口を高圧ガス出口50に接続し、低圧流路53は、低圧ガス入口51を圧縮機本体57の吸入口に接続する。圧縮機筐体58は、高圧流路52、低圧流路53、第1圧力センサ54、第2圧力センサ55、バイパスライン56、および圧縮機本体57を収容する。圧縮機12は、圧縮機ユニットとも称される。
【0034】
圧縮機本体57は、その吸入口から吸入される作動ガスを内部で圧縮して吐出口から吐出するよう構成されている。圧縮機本体57は、例えば、スクロール方式、ロータリ式、または作動ガスを昇圧するそのほかのポンプであってもよい。この実施の形態では、圧縮機本体57は、固定された一定の作動ガス流量を吐出するよう構成されている。あるいは、圧縮機本体57は、吐出する作動ガス流量を可変とするよう構成されていてもよい。圧縮機本体57は、圧縮カプセルと称されることもある。
【0035】
第1圧力センサ54は、高圧流路52を流れる作動ガスの圧力を測定するよう高圧流路52に配置されている。第1圧力センサ54は、測定された圧力を表す第1測定圧信号P1を出力するよう構成されている。第2圧力センサ55は、低圧流路53を流れる作動ガスの圧力を測定するよう低圧流路53に配置されている。第2圧力センサ55は、測定された圧力を表す第2測定圧信号P2を出力するよう構成されている。よって第1圧力センサ54、第2圧力センサ55はそれぞれ、高圧センサ、低圧センサと呼ぶこともできる。また本書では、第1圧力センサ54と第2圧力センサ55のいずれか指して、または両方を総称して、単に「圧力センサ」と表記することもある。
【0036】
バイパスライン56は、膨張機14を迂回して高圧流路52から低圧流路53に作動ガスを還流させるように高圧流路52を低圧流路53に接続する。バイパスライン56には、バイパスライン56を開閉し、またはバイパスライン56を流れる作動ガスの流量を制御するためのリリーフバルブ60が設けられている。リリーフバルブ60は、その出入口間に設定圧以上の差圧が作用するとき開くように構成されている。リリーフバルブ60は、オンオフ弁または流量制御弁であってもよく、例えば電磁弁でもよい。設定圧は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。これにより、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧がこの設定圧を超えて過大となることを防ぐことができる。
【0037】
一例として、リリーフバルブ60は、制御装置100による制御によって開閉されてもよい。制御装置100は、測定される高圧ライン63と低圧ライン64の差圧を設定圧と比較し、測定差圧が設定圧以上の場合にリリーフバルブ60を開き、測定差圧が設定差圧未満の場合にリリーフバルブ60を閉じるようにリリーフバルブ60を制御してもよい。制御装置100は、高圧ライン63と低圧ライン64の測定差圧を、第1圧力センサ54からの第1測定圧信号P1と第2圧力センサ55からの第2測定圧信号P2に基づいて取得してもよい。別の例として、リリーフバルブ60は、いわゆる安全弁として作動するように構成されていてもよく、すなわち、出入口間に設定圧以上の差圧が作用するとき機械的に開放されてもよい。
【0038】
なお、圧縮機12は、そのほか種々の構成要素を有しうる。例えば、高圧流路52には、オイルセパレータ、アドソーバなどが設けられていてもよい。低圧流路53には、ストレージタンクそのほかの構成要素が設けられていてもよい。また、圧縮機12には、圧縮機本体57をオイルで冷却するオイル循環系や、オイルを冷却する冷却系などが設けられていてもよい。
【0039】
また、極低温冷凍機10は、圧縮機12と膨張機14の間で作動ガスを循環させるガスライン62を備える。ガスライン62は、圧縮機12から膨張機14に作動ガスを供給するように圧縮機12を膨張機14に接続する高圧ライン63と、膨張機14から圧縮機12に作動ガスを回収するように圧縮機12を膨張機14に接続する低圧ライン64とを備える。膨張機14の冷凍機ハウジング20には高圧ガス入口22と低圧ガス出口24が設けられている。高圧ガス入口22は、高圧配管65によって高圧ガス出口50に接続され、低圧ガス出口24は、低圧配管66によって低圧ガス入口51に接続されている。高圧ライン63は、高圧配管65と高圧流路52からなり、低圧ライン64は、低圧配管66と低圧流路53からなる。バイパスライン56は、ガスライン62の一部であるとみなされてもよい。バイパスライン56は、膨張機14を迂回して高圧ライン63から低圧ライン64に作動ガスを還流させるように高圧ライン63を低圧ライン64に接続する。
【0040】
したがって、膨張機14から圧縮機12に回収される作動ガスは、膨張機14の低圧ガス出口24から低圧配管66を通じて圧縮機12の低圧ガス入口51に入り、さらに低圧流路53を経て圧縮機本体57に戻り、圧縮機本体57によって圧縮され昇圧される。圧縮機12から膨張機14に供給される作動ガスは、圧縮機本体57から高圧流路52を通じて圧縮機12の高圧ガス出口50から出て、さらに高圧配管65と膨張機14の高圧ガス入口22を経て膨張機14に供給される。
【0041】
高圧ライン63と低圧ライン64の差圧がリリーフバルブ60の設定圧を超えて大きくなり、リリーフバルブ60が開いているときには、高圧ライン63を流れる作動ガスの一部は、高圧流路52からバイパスライン56へと分流される。バイパスライン56は低圧流路53に合流しているので、作動ガスは膨張機14を迂回して圧縮機本体57に還流し、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧は小さくなる。それにより差圧がリリーフバルブ60の設定圧を下回ればリリーフバルブ60は閉じ、高圧ライン63から低圧ライン64へのバイパスライン56を通じた作動ガス流れは遮断される。
【0042】
図1に示されるように、極低温冷凍機10を制御する制御装置100は、インバータ70を制御するコントローラ110を備える。コントローラ110は、第1測定圧信号P1および第2測定圧信号P2を取得するよう第1圧力センサ54および第2圧力センサ55と電気的に接続されている。また、コントローラ110は、温度センサ46からの測定温度信号を取得するよう温度センサ46と電気的に接続されている。
【0043】
詳細は後述するが、コントローラ110は、第1測定圧信号P1および第2測定圧信号P2に基づいて、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧を目標圧と比較し、差圧が目標圧を上回る場合に膨張機モータ42の運転周波数を増加させ、差圧が目標圧を下回る場合に膨張機モータ42の運転周波数を減少させるように、インバータ70を制御する。
【0044】
図示される例では、制御装置100は、圧縮機12および膨張機14とは別に設けられこれらと接続されているが、その限りでない。制御装置100は、圧縮機12に搭載されてもよい。制御装置100は、膨張機モータ42に搭載される等、膨張機14に設けられてもよい。あるいは、コントローラ110が圧縮機12に搭載され、インバータ70が膨張機14に搭載される等、コントローラ110とインバータ70が別々に設置されてもよい。
【0045】
制御装置100は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図1では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0046】
極低温冷凍機10は、圧縮機12および膨張機モータ42が運転されるとき、第1膨張室32および第2膨張室34において周期的な容積変動とこれに同期した作動ガスの圧力変動を発生させる。典型的には、吸気工程においては、低圧バルブ40bが閉じ高圧バルブ40aが開くことによって、高圧の作動ガスが圧縮機12から高圧バルブ40aを通じて室温室30に流入し、第1蓄冷器26を通じて第1膨張室32に供給され、第2蓄冷器28を通じて第2膨張室34に供給される。こうして、第1膨張室32、第2膨張室34は低圧から高圧へと昇圧される。このとき、ディスプレーサ組立体18が下死点から上死点へと上動され第1膨張室32と第2膨張室34の容積が増加される。高圧バルブ40aが閉じると吸気工程は終了する。
【0047】
排気工程においては、高圧バルブ40aが閉じ低圧バルブ40bが開くことによって、高圧の第1膨張室32、第2膨張室34が圧縮機12の低圧の作動ガス吸入口に開放されるので、作動ガスが第1膨張室32、第2膨張室34で膨張し、その結果低圧となった作動ガスが第1膨張室32、第2膨張室34から第1蓄冷器26、第2蓄冷器28を通じて室温室30へと排出される。このとき、ディスプレーサ組立体18が上死点から下死点へと下動され第1膨張室32と第2膨張室34の容積が減少される。作動ガスは膨張機14から低圧バルブ40bを通じて圧縮機12に回収される。低圧バルブ40bが閉じると排気工程は終了する。
【0048】
このようにして、たとえばGMサイクルなどの冷凍サイクルが構成され、第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35が所望の極低温に冷却される。第1冷却ステージ33は、例えば約20K~約40Kの範囲にある第1冷却温度に冷却されることができる。第2冷却ステージ35は、第1冷却温度より低い第2冷却温度(例えば、約1K~約4K)に冷却されることができる。
【0049】
極低温冷凍機10は、定常運転と、定常運転に先行してクールダウン運転とを実行可能である。クールダウン運転は、極低温冷凍機10の起動時に室温から極低温に急速に冷却する運転モードであり、定常運転は、クールダウン運転によって極低温に冷却された状態を維持する極低温冷凍機10の運転モードである。極低温冷凍機10は、クールダウン運転によって標準冷却温度に冷却され、定常運転ではこの標準冷却温度を含む極低温の許容温度範囲内に維持される。標準冷却温度は、極低温冷凍機10の用途と設定に応じて異なるが、例えば超伝導装置の冷却用途では典型的に、約4.2K以下である。ある他の冷却用途では、標準冷却温度は、例えば約10K~20K、または10K以下であってもよい。クールダウン運転から定常運転への切替は、制御装置100によって制御されてもよい。例えば、制御装置100は、温度センサ46からの測定温度信号に基づいて、第2冷却ステージ35(及び/または第1冷却ステージ33)の測定温度を上述の標準冷却温度と比較し、測定温度が標準冷却温度より高い場合にはクールダウン運転を実行し、測定温度が標準冷却温度以下の場合にはクールダウン運転から定常運転に移行してもよい。
【0050】
図3は、実施の形態に係る極低温冷凍機10の制御方法を説明するフローチャートである。本方法は、極低温冷凍機10の運転中にコントローラ110によって所定の周期で繰り返し実行される。極低温冷凍機10の加速冷却と呼ぶこともでき、この加速冷却は少なくともクールダウン運転において実行される。
【0051】
そこで、図3に示されるように、本方法ではまず、極低温冷凍機10の現在の運転モードがクールダウン運転であるか否かが判定される(S10)。コントローラ110は、極低温冷凍機10の現在の運転モードを示す情報に基づいて、現在の運転モードがクールダウン運転であるか否かを判定してもよい。現在の運転モードを示す情報は、クールダウン運転と定常運転の切替処理の結果として、コントローラ110に保存されていてもよい。
【0052】
現在の運転モードがクールダウン運転である場合には(S10のY)、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧が測定される(S12)。この差圧は、極低温冷凍機10の圧力測定部、例えば上述のように第1圧力センサ54および第2圧力センサ55を使用して測定される。コントローラ110は、第1測定圧信号P1と第2測定圧信号P2から高圧ライン63と低圧ライン64の測定差圧ΔPMを取得する。
【0053】
次に、高圧ライン63と低圧ライン64の測定差圧ΔPMが目標圧PTと比較される(S14)。目標圧PTの値は、リリーフバルブ60が開く上述の設定圧よりも小さい圧力値に設定されている。ただし、目標圧PTは、設定圧になるべく近い圧力値に設定され、例えば、目標圧PTと設定圧の差は、0.1MPa以内であってもよい。目標圧PTは、設定圧よりも例えば0.03MPaから0.07MPa小さくてもよく、例えば0.05MPa小さくてもよい。リリーフバルブ60の設定圧が例えば1.6MPaである場合には、目標圧PTは、例えば1.6MPaより小さく、1.5MPa以上であってもよい。目標圧PTは、例えば1.53MPaから1.57MPaの範囲にあってもよく、例えば1.55MPaであってもよい。目標圧PTは、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。目標圧PTは、極低温冷凍機10の使用者によってコントローラ110に予め入力され、またはコントローラ110によって自動的に設定され、コントローラ110に保存されている。
【0054】
コントローラ110は、測定差圧ΔPMを目標圧PTと比較し、比較結果として両者の大小関係を出力する。すなわち、コントローラ110による比較結果は、次の3つの状態、(i)測定差圧ΔPMが目標圧PTより大きい、(ii)測定差圧ΔPMが目標圧PTより小さい、(iii)測定差圧ΔPMが目標圧PTと等しい、のうちいずれかを表す。
【0055】
コントローラ110による比較結果に基づいてインバータ70が制御され、インバータ70の出力周波数に従って膨張機モータ42の運転周波数が制御される。具体的には、(i)測定差圧ΔPMが目標圧PTより大きい場合には、コントローラ110は、膨張機モータ42の運転周波数を増加させるようにインバータ70を制御する(S16)。(ii)測定差圧ΔPMが目標圧PTより小さい場合には、コントローラ110は、膨張機モータ42の運転周波数を減少させるようにインバータ70を制御する(S18)。(iii)測定差圧ΔPMが目標圧PTと等しい場合には、膨張機モータ42の運転周波数を増減させる必要が無いので、コントローラ110は、現在の運転周波数を維持するようにインバータ70を制御する。なお、(iii)の場合を(i)または(ii)のいずれかに含めてもよい。
【0056】
代案として、膨張機モータ42の運転周波数を増加させる場合と減少させる場合とで目標圧PTが異なっていてもよい。例えば、測定差圧ΔPMが第1目標圧PT1より大きい場合に、コントローラ110は、膨張機モータ42の運転周波数を増加させるようにインバータ70を制御してもよい。測定差圧ΔPMが第2目標圧PT2より小さい場合に、コントローラ110は、膨張機モータ42の運転周波数を減少させるようにインバータ70を制御してもよい。第2目標圧PT2は第1目標圧PT1よりも小さくてもよい。測定差圧ΔPMが第1目標圧PT1と第2目標圧PT2の間にある場合に、コントローラ110は、膨張機モータ42の現在の運転周波数を維持するようにインバータ70を制御してもよい。
【0057】
膨張機モータ42の運転周波数を増加または減少させるとき、コントローラ110は、膨張機モータ42の現在の運転周波数の値から運転周波数を所定量増加または減少させてもよい。ただし、運転周波数を増加させようとするとき現在の運転周波数の値が既に上限値に達している場合には、コントローラ110は、運転周波数を増加させずに、その上限値に維持してもよい。例えば、膨張機モータ42の運転周波数のとりうる範囲が30Hz~100Hzであって現在の値が既に上限値の100Hzである場合には、コントローラ110は、運転周波数を100Hzからさらに増加させるのではなく、100Hzを維持する。同様に、運転周波数を減少させようとするとき現在の運転周波数の値が既に下限値に達している場合には、コントローラ110は、運転周波数を減少させずに、その下限値に維持してもよい。
【0058】
あるいは、コントローラ110は、目標圧PT(第1目標圧PT1または第2目標圧PT2でもよい)からの測定差圧ΔPMの偏差を最小化するように(例えばPID制御などフィードバック制御により)膨張機モータ42の運転周波数を調整するようにインバータ70を制御してもよい。このようにして、コントローラ110は、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧を目標圧と比較し、差圧が目標圧を上回る場合に膨張機モータ42の運転周波数を増加させ、差圧が目標圧を下回る場合に膨張機モータ42の運転周波数を減少させるように、インバータ70を制御してもよい。
【0059】
このようにして、測定差圧ΔPMが目標圧PTを上回る場合に膨張機モータ42の運転周波数が増加される。運転周波数が増加するとき膨張機14で冷却に使用される作動ガス流量が増えるので、圧縮機12の吐出流量が一定である(または変動したとしても十分に小さい)とすると、測定差圧ΔPMは減少して目標圧PTに近づき、または目標圧PTを下回ることになる。また、測定差圧ΔPMが目標圧PTを下回る場合に膨張機モータ42の運転周波数が減少される。膨張機14で使用される作動ガス流量が減るので、測定差圧ΔPMは増加して目標圧PTに近づき、または目標圧PTを上回ることになる。
【0060】
この実施の形態では、現在の運転モードがクールダウン運転ではない(現在の運転モードが例えば定常運転である)場合には(S10のN)、コントローラ110は、加速冷却を実行しない。現在の運転モードが定常運転である場合には、膨張機モータ42の運転周波数は、例えば、外部電源80からインバータ70への入力周波数またはこれより低い値など、一定値に固定されてもよい。あるいは、現在の運転モードが定常運転である場合には、極低温冷凍機10の温調制御が実行されてもよく、例えば、温度センサ46からの測定温度信号に基づいて、目標温度(例えば上述の標準冷却温度)からの測定温度の偏差を最小化するように(例えばPID制御などフィードバック制御により)膨張機モータ42の運転周波数を調整するようにインバータ70を制御してもよい。
【0061】
ところで、極低温冷凍機10の運転中、仮に、測定差圧ΔPMが増加してリリーフバルブ60の設定圧を超えた場合には、リリーフバルブ60が開きバイパスライン56を通じて余剰の作動ガスが還流し、この還流する作動ガスは膨張機14での極低温冷却に寄与しない。極低温冷凍機10が所定の冷凍能力を出力するために膨張機14に必要とされる作動ガス流量は、冷却温度に依存した作動ガスの密度変化に相関するため、温度が高いほど少なくてよい。そのため、圧縮機12の吐出流量が一定であるとすると、冷却温度が高いほど余剰の作動ガス流量が多くなり、測定差圧ΔPMが大きくなりがちである。したがって、とくに、極低温冷凍機10の起動時、つまりクールダウン運転において、多量の余剰ガスがバイパスライン56を通じて還流し無駄となりうる。
【0062】
これに対して、実施の形態に係る極低温冷凍機10の加速冷却によると、測定差圧ΔPMが目標圧PTを上回る場合に膨張機モータ42の運転周波数を増加して、余剰の作動ガス流量を膨張機14での極低温冷却に利用することができる。膨張機モータ42の運転周波数の増加はすなわち極低温冷凍機10の冷凍サイクルの単位時間あたりの回数増加に相当するから、極低温冷凍機10の冷凍能力を増加させることができる。クールダウン運転で余剰の作動ガス流量は多くなるから、この加速冷却は、クールダウン運転において極低温冷凍機10の冷凍能力を高めることに適する。したがって、実施の形態によると、極低温冷凍機10のクールダウン時間を短縮することができる。
【0063】
一般に極低温冷凍機10の冷凍能力は測定差圧ΔPMに比例的に変動しうるから、測定差圧ΔPMの低下は冷凍能力の低下をもたらしうる。しかしながら、実施の形態によると、測定差圧ΔPMが目標圧PTを下回る場合には膨張機モータ42の運転周波数が減少される。これにより、膨張機14で使用される作動ガス流量が減り、測定差圧ΔPMが回復されるので、冷凍能力の低下を防止しまたは緩和することができる。
【0064】
また、この実施の形態では、目標圧PTがリリーフバルブ60の設定圧よりも小さい圧力値に設定されている。このようにすれば、測定差圧ΔPMが増加するときリリーフバルブ60の設定圧に達する前に目標圧PTに達するから、リリーフバルブ60を開くことなく(つまり余剰ガスを無駄に還流させることなく)、膨張機モータ42の運転周波数を増加して極低温冷凍機10の冷凍能力を高めることができる。
【0065】
さらに、目標圧PTと設定圧の差は、0.1MPa以内である。このようにすれば、リリーフバルブ60を閉鎖した状態で、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧をなるべく高く保つことができ、極低温冷凍機10の冷凍能力を高めることができる。
【0066】
上述の実施の形態では、極低温冷凍機10の加速冷却は、クールダウン運転において行われている。しかし、加速冷却は、クールダウン運転で行うだけでなく、定常運転でも行われてもよい。定常運転中に加速冷却をする場合には、図3に示すフローにおけるステップS10、すなわち、極低温冷凍機10の現在の運転モードを判定するステップは省略されてもよい。
【0067】
あるいは、コントローラ110は、極低温冷凍機10の現在の運転モードを判定し、極低温冷凍機10がクールダウン運転にある場合には、定常運転中である場合に比べて膨張機モータ42の運転周波数が高くなるようにインバータ70を制御してもよい。クールダウン運転における膨張機モータ42の運転周波数は、外部電源80からインバータ70への入力周波数(例えば50Hzまたは60Hz)よりも高くてもよく、定常運転における膨張機モータ42の運転周波数は、この入力周波数に等しいかそれより低くてもよい。
【0068】
例えば、コントローラ110は、クールダウン運転において膨張機モータ42の運転周波数を第1の範囲内で制御し、定常運転において膨張機モータ42の運転周波数を第2の範囲内で制御してもよい。第2の範囲は第1の範囲よりも低い運転周波数であってもよい。または、コントローラ110は、クールダウン運転において膨張機モータ42の運転周波数を第1の初期値から制御し、定常運転において膨張機モータ42の運転周波数を第2の初期値から制御してもよい。第2の初期値は第1の初期値よりも低い運転周波数であってもよい。第1の範囲(または第1の初期値)は、インバータ70への入力周波数よりも高くてもよく、第2の範囲(または第2の初期値)は、インバータ70への入力周波数に等しいかそれより低くてもよい。
【0069】
上述の実施の形態では、高圧ライン63と低圧ライン64の差圧を測定するための圧力測定部として第1圧力センサ54と第2圧力センサ55が使用されている。しかし、ある実施の形態では、圧力測定部として、例えばバイパスライン56またはリリーフバルブ60に設けられた差圧センサが使用されてもよい。
【0070】
第1圧力センサ54、第2圧力センサ55等の圧力測定部は、圧縮機12に設けられることは必須ではなく、ガスライン62、膨張機14など圧力を測定可能な任意の場所に設けられてもよい。例えば、第1圧力センサ54は高圧ライン63の任意の場所に設けられてもよく、第2圧力センサ55は低圧ライン64の任意の場所に設けられてもよい。また、同様に、バイパスライン56とリリーフバルブ60も圧縮機12に設けられることは必須ではなく、圧縮機12の外に配置され高圧ライン63と低圧ライン64を接続してもよい。
【0071】
上述の実施の形態では、圧縮機12が固定された一定の作動ガス流量を吐出するように構成されている。しかし、ある実施の形態では、圧縮機12は、作動ガス吐出流量を可変とするように構成されていてもよい。この場合、コントローラ110は、圧縮機12が一定の作動ガス流量を吐出するように制御されているときに上述の加速冷却を実行してもよい。あるいは、コントローラ110は、測定差圧ΔPMが目標圧PTを下回る場合に膨張機モータ42の運転周波数を維持し(または増加させ)、それとともに圧縮機12の作動ガス吐出流量を増加するように圧縮機12を制御してもよい。
【0072】
上述の実施の形態は、極低温冷凍機10が二段式のGM冷凍機である場合を例として説明しているが、これに限られない。極低温冷凍機10は、単段式または多段式のGM冷凍機であってもよく、さらには、膨張機を駆動する膨張機モータを備える例えばGM型パルス管冷凍機などその他のタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0073】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0074】
10 極低温冷凍機、 12 圧縮機、 14 膨張機、 56 バイパスライン、 60 リリーフバルブ、 63 高圧ライン、 64 低圧ライン、 70 インバータ、 110 コントローラ。
図1
図2
図3