(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】樹脂の粘性状態判定方法、射出装置および射出成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20250210BHJP
【FI】
B29C45/76
(21)【出願番号】P 2020197763
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】赤木 誉志
(72)【発明者】
【氏名】中川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和馬
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-142204(JP,A)
【文献】特開2008-37068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の粘性状態を確認する
検査工程を備え、
前記検査工程は、計量ステップと、測定ステップと、比較ステップとを備え、
前記計量ステップは、射出装置において射出ノズルが金型から離間した状態で樹脂を計量するようにし、
前記測定ステップは、前記射出ノズルが前記金型から離間した状態で予めスクリュを速度制御により前進を開始して樹脂を押出し、前記スクリュの圧力が切替圧力に達した後に規定圧力での圧力制御に切り替え、該圧力制御中において規定時間で前進した前記スクリュのストロークである押出しストロークを得るようにし、
前記比較ステップは、前記押出しストロークを適正な押出しストロークの範囲である適正ストローク範囲と比較するようにする、樹脂の粘性状態確認方法。
【請求項2】
前記粘性状態確認方法は、成形条件を変更したときに実施する準備工程をさらに備え、
前記準備工程は、前記計量ステップと前記測定ステップとを規定の回数である規定準備回数
だけ繰り返し実施し、前記規定準備回数分の前記押出しストロークに基づいて前記適正ストローク範囲を決定する、請求項1に記載の樹脂の粘性状態確認方法。
【請求項3】
前記検査工程は、前記比較ステップにおいて得られた前記押出しストロークと加熱シリンダの内径と前記射出ノズルの内径と前記射出ノズルの樹脂流路長さとに基づいて樹脂の粘度を計算する、粘度算出工程をさらに備える、請求項
1または2に記載の樹脂の粘性状態確認方法。
【請求項4】
前記検査工程
は、前記比較ステップにおける比較結果に基づいて樹脂の粘性状態が適正か否かを判定する判定工程をさらに備える、請求項1~
3のいずれかの項に記載の樹脂の粘性状態確認方法。
【請求項5】
前記判定工程は、前記検査工程を規定の回数である規定検査回数実施したときに、実施した前記検査工程のうち、前記比較ステップにおいて前記押出しストロークが前記適正ストローク範囲に入ったものの回数により樹脂の粘性状態が適正か否か判定する、請求項
4に記載の樹脂の粘性状態確認方法。
【請求項6】
前記判定工程では、樹脂の粘性が不適正と判定された場合に警報を出力する、請求項
4または
5に記載の樹脂の粘性状態確認方法。
【請求項7】
先端に射出ノズルが設けられている加熱シリンダと、
該加熱シリンダ内に入れられているスクリュと、
コントローラと、を備え、
前記コントローラは、樹脂の粘性状態を検査する検査手段を備え、
前記検査手段は、前記スクリュを回転させて樹脂を溶融して前記加熱シリンダ内に計量する計量手段と、
前記射出ノズルが金型から離間した状態で規定圧力の圧力制御により前記スクリュを前進させて計量した樹脂を押出し、規定時間で前進した前記スクリュのストロークである押出しストロークを得る測定手段と、
前記押出しストロークを適正な押出しストロークの範囲である適正ストローク範囲と比較する比較手段と、を含み、
前記計量手段は前記射出ノズルが金型から離間した状態で実施するようになっており、
前記測定手段は、予め前記スクリュを速度制御により前進を開始して、前記スクリュの圧力が切替圧力に達した後に圧力制御に切り替えて実施するようになっている、射出装置。
【請求項8】
前記コントローラは、成形条件を変更したときに実施する準備手段をさらに備え、
前記準備手段は、前記計量手段と前記測定手段とを規定の回数である規定準備回数だけ繰り返し実施し、前記規定準備回数分の前記押出しストロークに基づいて前記適正ストローク範囲を決定する、請求項7に記載の射出装置。
【請求項9】
前記検査手段は、前記比較手段において得られた前記押出しストロークと加熱シリンダの内径と前記射出ノズルの内径と前記射出ノズルの樹脂流路長さとに基づいて樹脂の粘度を計算する、粘度算出手段をさらに備える、請求項
7または8に記載の射出装置。
【請求項10】
前記検査手段
は、前記比較手段における比較結果に基づいて樹脂の粘性状態が適正か否かを判定する判定手段をさらに備える、請求項
7~9のいずれかの項に記載の射出装置。
【請求項11】
前記判定手段は、前記検査手段を規定の回数である規定検査回数実施し、実施した前記検査手段のうち、前記比較手段において前記押出しストロークが前記適正ストローク範囲に入ったものの回数により樹脂の粘性状態が適正か否か判定する、請求項
10に記載の射出装置。
【請求項12】
前記判定手段では、樹脂の粘性が不適正と判定された場合に警報を出力する、請求項
10または11に記載の射出装置。
【請求項13】
樹脂を計量し射出する射出装置と、金型を型締めする型締装置とを備え、
前記射出装置は、先端に射出ノズルが設けられている加熱シリンダと、
該加熱シリンダ内に入れられているスクリュと、
コントローラと、を備え、
前記コントローラは、樹脂の粘性状態を検査する検査手段を備え、
前記検査手段は、前記スクリュを回転させて樹脂を溶融して前記加熱シリンダ内に計量する計量手段と、
前記射出ノズルが金型から離間した状態で規定圧力の圧力制御により前記スクリュを前進させて計量した樹脂を押出し、規定時間で前進した前記スクリュのストロークである押出しストロークを得る測定手段と、
前記押出しストロークを適正な押出しストロークの範囲である適正ストローク範囲と比較する比較手段と、を含み、
前記計量手段は前記射出ノズルが金型から離間した状態で実施するようになっており、
前記測定手段は、予め前記スクリュを速度制御により前進を開始して、前記スクリュの圧力が切替圧力に達した後に圧力制御に切り替えて実施するようになっている、射出成形機。
【請求項14】
前記コントローラは、成形条件を変更したときに実施する準備手段をさらに備え、
前記準備手段は、前記計量手段と前記測定手段とを規定の回数である規定準備回数だけ繰り返し実施し、前記規定準備回数分の前記押出しストロークに基づいて前記適正ストローク範囲を決定する、請求項13に記載の射出成形機。
【請求項15】
前記検査手段は、前記比較手段において得られた前記押出しストロークと加熱シリンダの内径と前記射出ノズルの内径と前記射出ノズルの樹脂流路長さとに基づいて樹脂の粘度を計算する、粘度算出手段をさらに備える、請求項
13または14に記載の射出成形機。
【請求項16】
前記検査手段
は、前記比較手段における比較結果に基づいて樹脂の粘性状態が適正か否かを判定する判定手段をさらに備える、請求項
13~15のいずれかの項に記載の射出成形機。
【請求項17】
前記判定手段は、前記検査手段を規定の回数である規定検査回数実施し、実施した前記検査手段のうち、前記比較手段において前記押出しストロークが前記適正ストローク範囲に入ったものの回数により樹脂の粘性状態が適正か否か判定する、請求項
16に記載の射出成形機。
【請求項18】
前記判定手段では、樹脂の粘性が不適正と判定された場合に警報を出力する、請求項
16または17に記載の射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂を金型に射出する射出成形機において樹脂の粘性状態を判定する判定方法、および樹脂の粘性状態を判定する射出成形機、ならびに射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機においては、成形品毎に成形に適した成形条件を設定している。成形条件には加熱シリンダ温度、型締力、射出圧力、射出速度、射出ストローク、保圧圧力、保圧時間等のデータがある。品質の高い成形品を得るにはこれらを適切な値に設定する必要がある。
【0003】
ところで樹脂の粘度は流動性に影響する。流動性の変化は成形不良の原因になり、例えば流動性が大きい場合オーバーパック等の原因になり、小さい場合には転写性の低下やショートショット等の原因になる。樹脂の粘度は樹脂温度によって変化するので加熱シリンダ温度を適切に設定し、制御することによって所望の流動性が得られるはずである。しかしながら樹脂の粘度は乾燥状態によっても、あるいは他の条件によっても変化する。樹脂メーカーから提供されている樹脂は、製品ロットによって樹脂の状態が異なっている可能性があり、樹脂の粘度および流動性に影響が出る。
【0004】
樹脂の粘度を正確に得るには、射出成形機に粘度センサを設けて測定し、あるいは金型内等の樹脂流路に圧力センサを設けて圧力差を得て粘度を計算する必要がある。つまり粘度を測定するために専用の装置、センサを設ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
特許文献1において、射出成形機において格別に粘度センサや圧力センサを設けずに樹脂の粘度を測定する方法が提案されている。この文献に記載の方法は、射出ノズルを金型から離間させた状態でスクリュ速度を一定の条件で射出を実施する。このときに測定される実測射出圧力値と、射出ノズルの樹脂流路内径、樹脂流路長さ等から樹脂の粘度を計算する。これを射出成形機のコントローラのモニタに表示して、オペレータに通知する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂の正確な粘度を測定するには、射出成形機に粘度センサや圧力センサを設ける必要があり、コスト高になってしまう。特許文献1に記載の方法は、格別に粘度センサ等を設ける必要がなくコストは小さい。しかしながら、実測射出圧力値、射出ノズルの樹脂流路内径、樹脂流路長さ等から計算する粘度は必ずしも高い精度は期待できない。また単に粘度を表示するだけでは、オペレータが射出成形を適切に実施できるか否かの判断ができない。
【0008】
そこで本開示において、樹脂の粘度のデータそのものよりも、樹脂の粘性状態が適切な範囲にあるか否か、換言すると樹脂の流動状態が適切な範囲にあるか否かを確認し、このような情報をオペレータに提供する樹脂の粘性状態確認方法、このような方法を実施する射出装置、および射出成形機を提供する。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の樹脂の粘性状態確認方法は、次のように構成する。まず、射出装置において樹脂を計量する。射出ノズルを金型から離間させた状態で、規定圧力の圧力制御によりスクリュを前進させる。つまり樹脂を押し出す。規定時間でスクリュが前進した長さ、すなわち押出しストロークを測定する。この押出しストロークが適正な範囲である適正ストローク範囲にあるか否かをチェックする。
【発明の効果】
【0011】
本開示によって、押出しストロークが適正ストローク範囲にあれば、樹脂の粘性状態は適切な範囲にあると判断し、範囲を逸脱していれば樹脂の粘性状態に問題があると判断することができる。格別に粘度センサを設ける必要はないし、樹脂圧力センサを設ける必要もなく、低コストで実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態に係る射出成形機を示す正面図である。
【
図2】本実施の形態に係る射出装置を示す正面断面図である。
【
図3A】本実施の形態に係る樹脂の粘性状態確認方法を実施している、本実施の形態に係る射出装置の正面断面図である。
【
図3B】本実施の形態に係る樹脂の粘性状態確認方法を実施している、本実施の形態に係る射出装置の正面断面図である。
【
図3C】本実施の形態に係る樹脂の粘性状態確認方法を実施している、本実施の形態に係る射出装置の正面断面図である。
【
図3D】本実施の形態に係る樹脂の粘性状態確認方法を実施している、本実施の形態に係る射出装置の正面断面図である。
【
図4】本実施の形態に係る樹脂の粘性状態確認方法の、準備工程を示すフローチャートである。
【
図5】本実施の形態に係る樹脂の粘性状態確認方法の、検査工程を示すフローチャートである。
【
図6】本実施の形態に係る樹脂の粘性状態確認方法を実施するときの、スクリュ速度、スクリュ圧力、スクリュ位置のそれぞれの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。また、図面が煩雑にならないように、ハッチングが省略されている部分がある。
【0014】
本実施の形態を説明する。
<射出成形機>
本実施の形態に係る射出成形機1は、一般的な射出成形機と同様に構成されている。すなわち、
図1に示されているように、ベッドBに設けられている型締装置2と射出装置3とから概略構成され、コントローラ4によって制御されるようになっている。型締装置2は直圧式から構成することもできるが、本実施の形態においてはトグル式からなる。つまり型締装置2は、固定盤7と、可動盤8と、型締ハウジング9と、型締ハウジング9と固定盤7とを連結しているタイバー10、10、…と、トグル機構11とから構成され、金型13、14が固定盤7と可動盤8とに設けられている。トグル機構11を駆動すると金型13、14が型締めされるようになっている。
【0015】
<射出装置>
本実施の形態に係る射出装置3も一般的な射出成形機3と同様に構成され、その全体が
図1に概略的に、そしてその断面が
図2に示されている。射出装置3は、加熱シリンダ17と、この加熱シリンダ17に入れられているスクリュ18とから構成されている。加熱シリンダ17の上流側にはホッパ20が、先端には射出ノズル21がそれぞれ設けられている。射出装置3はノズルタッチ装置23を備え、射出装置3を型締装置2方向に駆動して射出ノズル21を金型13にタッチさせたり、逆方向に駆動して射出ノズル21を金型13から離間させたりするようになっている。
【0016】
<コントローラ>
本実施の形態に係る射出成形機1は、このように装置、部材等については一般的な射出成形機と同様に構成されているが、コントローラ4において実施される処理に特徴がある。具体的には、本実施の形態に係る射出成形機1は、成形サイクルが停止した状態から成形サイクルを開始するとき、その開始に先立って樹脂の粘性状態が適正な範囲にあるか否かを確認するようになっている。コントローラ4には、この確認方法を実施するための処理を行うプログラムが格納されている。
【0017】
次に、このプログラムについて詳しく説明する。なお、以下の説明では
図1、2を適宜参照する。
【0018】
このプログラムは、準備手段30、検査手段40、判定手段50及び粘度算出手段60のサブプログラムから構成されている。準備手段30は、成形条件を変更したときに実施する準備工程のためのサブプルグラムである。検査手段40は、成形サイクルが停止した状態から開始するときに実施する検査工程のためのサブプログラムである。判定手段50は、検査工程の結果に基づいて樹脂の粘性状態が適正か否かを判定する判定工程を実施するためのサブプログラムである。粘度算出手段60は、参考として粘度を計算してコントローラ4のモニタに表示する粘度算出の処理を実施する粘度算出工程のためのサブプログラムである。準備手段30と検査手段40は複数の処理を実施するようになっており、これらの処理を実施する複数の手段から構成されている。
【0019】
<準備工程>
本実施の形態に係る射出成形機1は、成形サイクルが停止した状態から成形サイクルを開始するときに、後で説明する検査工程によって樹脂の粘性状態が適正な範囲であるか否かを確認するようにする。適正な範囲であるか否かは所定の基準、すなわち適正ストローク範囲に基づいて確認するようにしている。用語「適正ストローク範囲」の意味については、以下の説明で明らかになるのでここでは説明しない。適正ストローク範囲はオペレータが経験に基づいて決定してもよいが、本実施の形態に係る射出成形機1においては、準備工程により決定するようになっている。
【0020】
適正ストローク範囲は、計量条件によって変わる。ここで、計量条件とは、例えば、使用する樹脂の種類、樹脂温度、射出ノズルの樹脂流路の内径や射出ノズルの樹脂流路長さ、保圧力、切替圧力である。そこで射出成形機1において成形条件を変更した場合、コントローラ4を操作して準備手段30を実行して、適正ストローク範囲を得ることになる。
【0021】
<準備工程 計量ステップ>
コントローラ4において準備手段30を実行すると準備工程が開始される。準備工程は、
図4に示されているように、最初に計量ステップS11を実施する。計量ステップS11は、準備手段30の計量手段31によって実施される。この計量ステップS11によって射出装置3において樹脂を計量する。計量ステップS11は本実施の形態に係る射出成形機1においては射出ノズル21が金型13から離間した状態で実施する。この様子が
図3Aに示されている。
【0022】
計量ステップS11は、比較的粘度の高い樹脂を対象としている場合にはスクリュ18に背圧を印加して実施してもよい。比較的粘度の低い樹脂を対象としている場合にはスクリュ18を後退させながら計量を実施するようにしてもよい。
なお、射出ノズル21を金型13から離間した状態で計量ステップS11を実施しているので、
図3Bにおいて符号25で示されているように、射出ノズル21の先端から空気が入ることがある。計量が完了したら計量ステップS11を完了する。
【0023】
<準備工程 測定ステップ>
次にコントローラ4は測定手段32により
図4に示す測定ステップS12を実施する。測定ステップS12は射出ノズル21を金型13から離間させた状態で実施する。この測定ステップS12は2段階の処理からなる。まず、最初の段階の処理によって、スクリュ18を速度一定の速度制御により前進させて樹脂を射出ノズル21から押し出す。
図6には、スクリュ18の速度、つまり、スクリュ速度71の変化が示されている。速度一定制御の開始直後においては符号71aで示されているように速度が0から急速に増加し、所定の速度に到達した後、符号71bで示されているように一定になる。このとき、スクリュ18の位置つまりスクリュ位置72は、開始直後は符号72aで示されているように緩やかに前進するが、その後すぐに符号72bで示されているように、一定の割合で前進する。スクリュ18の圧力つまりスクリュ圧力73は、符号73aで示されているように増加する。
【0024】
スクリュ18を速度制御により前進させると、やがて樹脂が射出ノズル21の先端から押し出される。射出ノズル21の先端に入り込んでいた空気が樹脂と共に押し出される。そして、スクリュ圧力73は、やがてコントローラ4において設定された切替圧力に達する。この操作によって、樹脂の状態、特に密度のばらつきが低減される。この状態が
図3Cに示されている。このタイミングにおけるスクリュ18の位置が符号26で示されている。
【0025】
スクリュ圧力73が切替圧力に達したら、コントローラ4は次の段階の処理を実施する。なわち、スクリュ18の駆動を規定圧力の圧力制御に切り替える。
図6に示されているように、スクリュ圧力73は規定圧力の圧力制御に切り替えられた後に、符号73bのように圧力が一定になる。圧力制御でスクリュ18を押出しているときのスクリュ速度71とスクリュ位置72の変化が、それぞれ符号71cと符号72cで示されている。
【0026】
スクリュ18を規定圧力の圧力制御で前進を開始してから規定時間後にスクリュ18の前進を停止する。この状態が
図3Dに示されている。コントローラ4は、規定時間でスクリュ18が進んだ距離、すなわち符号26と符号27のそれぞれのスクリュ位置の差を計算する。これを押出しストロークとして記憶する。
【0027】
押出しストロークは、樹脂の粘性状態と関係が大きい。粘度が高いと押出ストロークは短くなり、低いと長くなる。この押出しストロークは、スクリュ18の先端に入り込んでいる空気によって影響を受ける。本実施の形態では、測定ステップS12においてスクリュ18の駆動は速度制御により開始している。計量ステップS11において射出ノズル21を金型13から離間させて計量したときに
図3Bに示すように射出ノズル21の先端に空気が入り込んで樹脂の密度にばらつきが生じていたとしても、この処理によって樹脂の密度のばらつきを低減することができる。
【0028】
ところで、スクリュ18を前進させるとき、最初に一定速度で速度制御し、そして所定の圧力で速度制御から圧力制御に切り替えて、その後一定圧力で圧力制御するようにしている。これらは一般的な射出成形機において用意されている各種の設定によって容易に実施できる。速度制御によりスクリュ18を前進させるのは、いわゆる「射出」設定によって、速度制御から圧力制御への切り替えは「保圧切替」設定により、そして、圧力制御によりスクリュ18を前進させるのは「保圧」設定によって実現できる。
【0029】
<準備工程 適正ストローク範囲の決定>
測定ステップS12が完了したら、コントローラ4は、
図4に示すステップS13において、計量ステップS11と測定ステップS12を実施した回数をチェックする。この回数が規定準備回数に達していれば、
図4に示すステップS14に移行する。達していなければステップS11に戻る。なお、最初は計量ステップS11と測定ステップS12を1回しか実施していないので、ステップS11に戻る。
【0030】
計量ステップS11と測定ステップS12とを規定準備回数実施したら、規定準備回数分の押出しストロークが得られる。これらの押出しストロークに基づいてステップS14において適正ストローク範囲を決定する。本実施の形態において、適正ストローク範囲の最小値は、規定準備回数分の押出しストロークのうちの最小の押出しストロークから、適正ストローク範囲の最大値は、規定準備回数分の押出しストロークのうちの最大の押出しストロークから、それぞれ決定している。しかしながら、例えば規定準備回数分の押出しストロークから平均値mと分散σとを得て、これらに基づいて適正ストローク範囲を決定するようにすることもできる。すなわち、適正ストローク範囲をm ±2σ、あるいはm ±3σ等のようにすることができる。適正ストローク範囲が決定されたら、準備工程を完了する。
【0031】
<検査工程>
本実施の形態に係る射出成形機1は、成形サイクルが停止した状態から成形サイクルを開始するとき、または成形不良が発生した場合に検査工程を実施して、樹脂の粘性状態が適正な範囲であるか否かを確認する。検査工程は、コントローラ4において検査手段40を実行すると開始される。
【0032】
<検査工程 計量ステップ>
検査工程では、最初に
図5に示されているように、計量ステップS21を実施する。計量ステップS21は、検査手段40の計量手段41によって実施される。検査工程における計量ステップS21は、準備工程における計量ステップS11と同様の処理を行う。つまり、射出装置3において樹脂を計量する。計量ステップS21は、本実施の形態に係る射出成形機1においては射出ノズル21が金型13から離間した状態で実施する。
【0033】
<検査工程 測定ステップ>
計量ステップS21が完了したら、コントローラ4は測定手段42により
図5に示す測定ステップS22を実施する。検査工程の測定ステップS22も、準備工程の測定ステップS12と同様の処理を行う。すなわち、測定ステップS22は射出ノズル21を金型13から離間させた状態で実施するようにし、2段階の処理からなる。最初はスクリュ18を速度制御により前進させる。スクリュ18の圧力が切替圧力に達したら、コントローラ4は次の段階の処理を実施する。すなわち、スクリュ18の駆動を規定圧力の圧力制御に切り替える。規定時間後にスクリュ18の前進を停止して、押出しストロークを得る。
【0034】
<検査工程 比較ステップ>
測定ステップS22が完了したら、コントローラ4は、比較手段43により
図5に示す比較ステップS23を実施する。比較ステップS23では、測定ステップS22で得られた押出しストロークを、準備工程で得られた適正ストローク範囲と比較する。すなわち押出しストロークが適正ストローク範囲に入っているか否かをチェックする。
【0035】
比較ステップS23が完了したら、コントローラ4は、
図5に示すステップS24において、計量ステップS21と測定ステップS22と比較ステップS23を実施した回数をチェックする。この回数が規定検査回数に達していれば、
図5に示す判定工程S25に移行する。達していなければステップS21に戻る。
【0036】
<判定工程>
検査工程において規定検査回数分、計量ステップS21と測定ステップS22と比較ステップS23とを実施したら、コントローラ4は判定手段50により判定工程S25を実施する。判定工程S25は、規定検査回数分の判定ステップS23の結果から、樹脂の粘性状態が適正であるか否かを判定する工程である。判定ステップS23において押出しストロークが適正ストローク範囲に入った回数が、基準となる適正基準回数以上であれば樹脂の粘性状態は適正であると判定し、基準となる適正基準回数を下回ったら不適正であると判定する。例えば、規定検査回数が5回、適正基準回数が3回であるとする。このとき、5回の判定ステップS23の結果のうちで押出しストロークが適正ストローク範囲に入った回数が、3回以上の場合には適正と判断し、2回以下の場合には不適正と判断する。
【0037】
<警報出力>
図5に示すステップS26の処理で、樹脂の粘性状態が不適正であると判断したら、コントローラ4は、
図5に示す警報出力S27を実施する。すなわちコントローラ4に付属しているスピーカから警報を出力する。あるいは、付属しているモニタに樹脂の粘性状態が不適正である旨のメッセージを表示する。オペレータは成形サイクルを開始する前に、樹脂の粘性状態に問題があることを認識することができ、適切な対応をとることができる。
【0038】
<樹脂の粘度算出工程>
本実施の形態に係る射出成形機1は、測定ステップS22で得られた押出しストロークから、樹脂の粘度を計算して参考値としてコントローラ4のモニタに表示することができる。押出しストロークから計算して得られる樹脂の粘度は必ずしも精度の高いものではないので、射出成形機1の運転において必須ではない。したがって粘度の計算は省略してもよい。しかしながら、粘度を参考値としてオペレータに提供することによって、成形サイクルの開始の可否を判断する情報の一つになり得る。本実施の形態においては、ステップS26の処理で樹脂の粘性状態が適正であると判断されたら、あるいは警報出力S27が完了したら、
図5に示す、樹脂の粘度算出工程S28を実施する。
【0039】
樹脂の粘度算出工程S28では、すでに得られている、規定検査回数分の押出しストロークから平均値を得る。平均値の押出しストロークによって以下の(2式)によって樹脂の粘度η[Pa・s]を計算する。得られた粘度ηを参考値としてコントローラ4に付属のモニタに表示する。処理が完了する。
【0040】
【0041】
本実施の形態においては、準備工程の計量ステップS11(
図4参照)も検査工程の計量ステップS21(
図5参照)も、射出ノズル21を金型13から離間した状態で実施するように説明した。しかしながら射出ノズル21を金型13にタッチさせた状態で計量ステップS11、S21を実施するようにしてもよい。タッチさせた状態で計量すると、射出ノズル21の先端からの空気の侵入を防止できる。その後に射出ノズル21を金型13から離間させて測定ステップS12(
図4参照)、S22(
図5参照)を実施するとき、射出ノズル21から空気を追い出す必要がないので、2段階の処理を実施する必要はない。つまり測定ステップS12、S22は、スクリュ18を規定圧力による圧力制御で開始するようにしてもよい。
【0042】
<実験>
本実施の形態に係る樹脂の粘性状態確認方法により、樹脂の粘性状態を適切に判定できるか否かを確認するため、実験を行った。
【0043】
(1)本実施の形態に係る射出成形機1を使用して、以下の条件により、準備工程を実施した。
使用樹脂:ポリカーボネート(PC)
加熱シリンダ(先端部)の設定温度:290℃
計量ステップS11の条件
実施条件:射出ノズル21は金型13から離間して実施。
計量完了:スクリュ位置が85mmになったときに完了。
測定ステップS12の条件
速度制御:スクリュ速度は10mm/s
圧力制御に切り替える切替圧力:3MPa
圧力制御における規定圧力:10MPa、30MPa
規定時間:1s
規定準備回数:10回
【0044】
規定圧力を10MPaとしたとき、および30MPaとしたときのそれぞれについて、規定準備回数だけ計量ステップS11と測定ステップS12を繰り返し実施して、押出しストロークを得たところ次の表のようになった。
【0045】
【0046】
(2)規定圧力が10MPaと30MPaのそれぞれにおける、押出しストロークの最小値と最大値とを表から読み取って、次のように適正ストローク範囲を決定した。
規定圧力が10MPaのとき:適正ストローク範囲は、11.42~12.26
規定圧力が30MPaのとき:適正ストローク範囲は、43.34~44.21
【0047】
(3)次に、加熱シリンダ(先端部)の設定温度だけを5℃だけ高い値に変更して、検査工程を実施した。他の条件は全て準備工程における条件と同じとした。
使用樹脂:ポリカーボネート(PC)
加熱シリンダ(先端部)の設定温度:295℃(+5℃)
計量ステップS21の条件
実施条件:射出ノズル21は金型13から離間して実施。
計量完了:スクリュ位置が85mmになったときに完了。
測定ステップS22の条件
速度制御:スクリュ速度は10mm/s
圧力制御に切り替える切替圧力:3MPa
圧力制御における規定圧力:10MPa、30MPa
規定時間:1s
規定検査回数:規定圧力が10MPaのときは3回、30MPaのときは10回
【0048】
規定圧力を10MPaとしたとき、および30MPaとしたときのそれぞれについて、規定検査回数だけ計量ステップS21と測定ステップS22を繰り返し実施して、押出しストロークを得たところ次の表のようになった。
【0049】
【0050】
規定圧力が10MPaのときも、30MPaのときも、規定検査回数分の押出しストロークは、全て適正ストローク範囲を超えて大きくなっていた。樹脂温度が+5℃高くなって、樹脂の流動性が大きくなっていることが確認できた。すなわち、本実施の形態に係る樹脂の粘性状態確認方法によって、樹脂の粘性状態を適切に判定できることが確認できた。
【0051】
(4)次に、未乾燥状態の樹脂を使用して検査工程を実施した。他の条件は全て準備工程における条件と同じとした。
使用樹脂:ポリカーボネート(PC) 未乾燥状態のものを使用
加熱シリンダ(先端部)の設定温度:290℃
計量ステップS21の条件
実施条件:射出ノズル21は金型13から離間して実施。
計量完了:スクリュ位置が85mmになったときに完了。
測定ステップS22の条件
速度制御:スクリュ速度は10mm/s
圧力制御に切り替える切替圧力:3MPa
圧力制御における規定圧力:10MPa、30MPa
規定時間:1s
規定検査回数:規定圧力が10MPaのときは3回、30MPaのときは5回
【0052】
規定圧力を10MPaとしたとき、および30MPaとしたときのそれぞれについて、規定検査回数だけ計量ステップS21と測定ステップS22を繰り返し実施して、押出しストロークを得たところ次の表のようになった。
【0053】
【0054】
規定圧力が10MPaのときも、30MPaのときも、規定検査回数分の押出しストロークは、全て適正ストローク範囲を超えて大きくなっていた。樹脂が未乾燥状態のとき、樹脂の流動性が大きくなっていることが確認できた。すなわち、本実施の形態に係る樹脂の粘性状態確認方法によって、樹脂の粘性状態を適切に判定できることが確認できた。
【0055】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。以上で説明した複数の例は、適宜組み合わせて実施されることもできる。
【符号の説明】
【0056】
1 射出成形機 2 型締装置
3 射出装置 4 コントローラ
13 金型 14 金型
17 加熱シリンダ 18 スクリュ
21 射出ノズル 23 ノズルタッチ装置
30 準備手段 31 計量手段
32 測定手段 40 検査手段
41 計量手段 42 測定手段
43 比較手段 50 判定手段
60 粘度算出手段