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特許7631039オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法
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  • 特許-オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20250210BHJP
   C01B 25/30 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B25/30 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021035431
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135546
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 潤
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-041683(JP,A)
【文献】特開2018-125111(JP,A)
【文献】特開2020-100555(JP,A)
【文献】特開2014-135254(JP,A)
【文献】特許第6528890(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
C01B 25/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料化合物を水熱反応に付した反応混合物からオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る際に排出される溶液Xを用いるLi3PO4粒子の製造方法であって、
次の工程(I)~(IV):
(I)リチウムイオンの含有量が1000mg/L~20000mg/Lである溶液Xに、炭酸リチウムと硫酸、或いは炭酸リチウムと硫酸リチウムと硫酸とを添加して、リチウムイオンの含有量が5000mg/L~40000mg/Lであり、かつ硫酸の含有量がリチウムイオン1モルに対して0.52モル~1.00モルである混合液Aを得る工程
(II)得られた混合液Aに不活性ガスによるバブリング処理を施して、混合液Bを得る工程
(III)得られた混合液Bに、混合液B中のリチウムイオン1モルに対するアルカリイオンの量で1.05モル~2.10モルであるアルカリ化合物を添加し、混合液Cを得る工程
(IV)得られた混合液Cにリン酸化合物を添加して混合液Dを得た後、固液分離してLi3PO4粒子を得る工程
を備える、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法。
【請求項2】
工程(IV)におけるリン酸化合物の添加量が、混合液C中のリチウムイオン1モルに対して0.30モル~0.36モルである請求項1に記載のLi3PO4粒子の製造方法。
【請求項3】
工程(II)のバブリング処理における不活性ガスが、窒素、アルゴン、又はヘリウムである請求項1又は2に記載のLi3PO4粒子の製造方法。
【請求項4】
工程(II)のバブリング処理における不活性ガスの吹き込み総量が、吹き込んだ不活性ガスの全体積と混合液Aの体積との比(不活性ガスの全体積/混合液Aの体積)で、0.5~15である請求項1~3のいずれか1項に記載のLi3PO4粒子の製造方法。
【請求項5】
工程(I)で用いる溶液Xの温度が5℃~25℃で、25℃におけるpHが6~9であり、かつ工程(IV)で用いる混合液Cの温度が40℃~80℃で、25℃におけるpHが12~14である請求項1~4のいずれか1項に記載のLi3PO4粒子の製造方法。
【請求項6】
Li3PO4粒子が、式(X):LiaMnbFecxPO4(ただし、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c及びxは、0<a≦1.2、0.3≦b≦1.2、0.2≦c≦1.2、及び0≦x≦0.3を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)で表されるオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るための粒子である、請求項1~5のいずれか1項に記載のLi3PO4粒子の製造方法。
【請求項7】
工程(I)で用いる溶液Xが、次の工程(i)~(ii):
(i)Li3PO4粒子に、鉄化合物及びマンガン化合物を含み、かつ金属(M)化合物(MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。)を含み得る金属源を添加及び混合した後、水熱反応に付して反応混合物を得る工程
(ii)工程(i)で得られた反応混合物から未反応のLiイオンを含む溶液を分離して、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る工程
を経ることによって式(X)で表されるオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得たときに、工程(ii)において分離した未反応のLiイオンを含む溶液である、請求項6に記載のLi3PO4粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電子端末や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立している。近年の電子機器の高性能化による消費電力の増大に伴い、リチウムイオン二次電池の更なる高容量化が要求されている。かかる電池の性能を高めるべく、水熱反応に付する工程により得られるオリビン型構造を有するリン酸マンガンリチウムやリン酸鉄リチウム等を用いた種々の正極材料が開発されている。
【0003】
ところで、オリビン型構造を有するリン酸リチウム系正極材料は、その多くが原料化合物を水熱反応に付した反応混合物から得られる一方、かかる反応混合物から分離された液相は不要な排液として処分されている。しかしながら、処分される液相中には、多量のリチウムイオンが残存しており、原材料の中で最も高価なリチウム源を過剰に消費することとなるため、製造コストの増大を招いている。こうしたことから、水熱反応後の液相中に残存するリチウムイオンの回収、再利用するための試みもなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、リチウムを特定量で含むリチウム塩水溶液に、リン酸を特定量で加えた後、30~80℃まで昇温させ、pHを調整するように攪拌しながら水酸化ナトリウム水溶液を添加等して、固体リン酸リチウムを得るリン酸リチウムの調製工程を経る、ナノリン酸鉄リチウムの水相合成法が開示されており、かかる工程中においてリン酸リチウムを回収し、リチウムの再利用を図っている。また特許文献2では、水熱反応後に分離したリチウムイオンが残存する溶液に、pHが10.5以上かつ11.8以下となるまでアルカリを添加して、固化物を除去した溶液を得る工程と、得られた溶液にリチウム源を添加等してリン酸リチウムを生成させる工程等を備える電極材料の製造方法が開示されており、オリビン系電極材料の製造過程で生成する未反応のリチウムイオンをリン酸リチウムとして回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-528140号公報
【文献】特開2020-47514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、大掛かりな装置を要する昇温等の工程を経る上、工程数も多く、過度に処理時間が増大しまうおそれがあり、大量の排液を再利用しつつ量産化を図るには不向きである。また上記特許文献2に記載の技術であっても、リチウム源を添加する溶液が高pHであるためにリチウム源の一部が溶け残ったままとなり、リチウムイオンの回収の効率化を充分に図れないおそれがある。
そのため、これを用いて製造したリチウムイオン二次電池においても、依然として良好な電池特性を発揮することができないおそれがあり、充分に改善の余地がある。
【0007】
したがって、本発明の課題は、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する際に排出されるリチウムイオン含有溶液の再利用を有効に図りつつ、高性能なオリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する上で有用な原材料となるLi3PO4(リン酸三リチウム)粒子を得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、種々検討したところ、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する際に排出されるリチウムイオン含有溶液に特定量の炭酸リチウムや硫酸リチウムと硫酸とを添加し、不活性ガスによるバブリング処理を施した後、アルカリ化合物を添加する工程及びリン酸化合物を添加する工程を含むことにより、簡易な方法でありながら高純度で比表面積の大きいLi3PO4粒子を効率的に得ることのできる製造方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、原料化合物を水熱反応に付した反応混合物からオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る際に排出される溶液Xを用いるLi3PO4粒子の製造方法であって、
次の工程(I)~(IV):
(I)リチウムイオンの含有量が1000mg/L~20000mg/Lである溶液Xに、炭酸リチウムと硫酸、或いは炭酸リチウムと硫酸リチウムと硫酸とを添加して、リチウムイオンの含有量が5000mg/L~40000mg/Lであり、かつ硫酸の含有量がリチウムイオン1モルに対して0.52モル~1.00モルである混合液Aを得る工程
(II)得られた混合液Aに不活性ガスによるバブリング処理を施して、混合液Bを得る工程
(III)得られた混合液Bに、混合液B中のリチウムイオン1モルに対するアルカリイオンの量で1.05モル~2.10モルであるアルカリ化合物を添加し、混合液Cを得る工程
(IV)得られた混合液Cにリン酸化合物を添加して混合液Dを得た後、固液分離してLi3PO4粒子を得る工程
を備える、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する過程において、リチウム化合物等を含む所定の原料化合物を水熱反応に付した後、反応混合物から分離されて廃棄処分の対象とされるリチウムイオン含有排液を有効に再利用しつつ、昇温工程等の大掛かりな装置を要することのない簡易な方法でありながら、比表面積の大きい高純度のLi3PO4粒子を効率的に製造することができる。
このように、希少有価物質であるリチウムを無駄なく使用しながら有用性の高いLi3PO4粒子を得ることができ、かかる粒子を原材料として用いれば、良好な電池特性の発現を可能とするオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られたLi3PO4粒子Z1のX線回折パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子の製造方法は、原料化合物を水熱反応に付した反応混合物からオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る際に排出される溶液Xを用いるLi3PO4粒子の製造方法であって、
次の工程(I)~(IV):
(I)リチウムイオンの含有量が1000mg/L~20000mg/Lである溶液Xに、炭酸リチウムと硫酸、或いは炭酸リチウムと硫酸リチウムと硫酸とを添加して、リチウムイオンの含有量が5000mg/L~40000mg/Lであり、かつ硫酸の含有量がリチウムイオン1モルに対して0.52モル~1.00モルである混合液Aを得る工程
(II)得られた混合液Aに不活性ガスによるバブリング処理を施して、混合液Bを得る工程
(III)得られた混合液Bに、混合液B中のリチウムイオン1モルに対するアルカリイオンの量で1.05モル~2.10モルであるアルカリ化合物を添加し、混合液Cを得る工程
(IV)得られた混合液Cにリン酸化合物を添加して混合液Dを得た後、固液分離してLi3PO4粒子を得る工程
を備える。
【0013】
本発明において用いる溶液Xは、原料化合物を水熱反応に付した反応混合物からオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る際に排出される未反応リチウムイオン含有溶液、いわゆる廃棄処分の対象とされる排液であり、リチウムイオンの含有量が1000mg/L~20000mg/Lである。本発明では、かかる溶液Xを用いることにより、一旦オリビン型リン酸リチウム系正極材料の製造に付して排出された処分の対象となるリチウムイオン含有排液を無駄なく再利用して、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得るためのLi3PO4粒子を製造する方法を実現するものである。
【0014】
ここで、オリビン型リン酸リチウム系正極材料とは、所定の原料化合物を水熱反応に付した後、得られる反応混合物から溶液Xと分離し、回収された固形分から製造されるものであればよく、具体的には、例えば下記式(X)で表される。
LiaMnbFecxPO4(ただし、式(X)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c及びxは、0<a≦1.2、0.3≦b≦1.2、0.2≦c≦1.2、及び0≦x≦0.3を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
【0015】
上記式(X)で表されるオリビン型リン酸リチウム系正極材料は、少なくとも遷移金属としてマンガン(Mn)及び鉄(Fe)の双方を含む。すなわち、式(X)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素であって、好ましくはMg、又はZrである。aについては、0.6≦a≦1.2が好ましく、0.65≦a≦1.15がより好ましく、0.7≦a≦1.1がさらに好ましい。bについては、0.3≦b≦0.8が好ましく、0.5≦b≦0.8がより好ましく、0.7≦b≦0.8がさらに好ましい。cについては、0.2≦c≦0.6が好ましく、0.2≦c≦0.5がより好ましく、0.2≦c≦0.3がさらに好ましい。xについては、0≦x≦0.2が好ましく、0≦x≦0.15がより好ましく、0≦x≦0.1がさらに好ましい。
【0016】
具体的には、例えばLiMn0.3Fe0.7PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.9Fe0.1PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.75Fe0.15Mg0.1PO4、LiMn0.75Fe0.19Zr0.03PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、LiMn0.5Fe0.5PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、Li0.6Mn0.84Fe0.36PO4等が挙げられる。なかでもLiMn0.3Fe0.7PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、又はLi0.6Mn0.84Fe0.36PO4が好ましい。
【0017】
本発明の製造方法は、工程(I)として、リチウムイオンの含有量が1000mg/L~20000mg/Lである溶液Xに、炭酸リチウムと硫酸、或いは炭酸リチウムと硫酸リチウムと硫酸とを添加して、リチウムイオンの含有量が5000mg/L~40000mg/Lであり、かつ硫酸の含有量がリチウムイオン1モルに対して0.52モル~1.00モルである混合液Aを得る工程を備える。
このように、工程(I)では、一定量のリチウムイオンを含有する溶液Xを出発原料として用いるものであり、リチウム源として炭酸リチウム或いは炭酸リチウムと硫酸リチウムを、硫酸とともに添加することによって、一旦オリビン型リン酸リチウム系正極材料の製造に付したリチウムイオン含有排液である溶液Xを有効に再利用することができる。
【0018】
溶液Xを回収して、工程(I)に供するまでの間、夾雑物が混入しなければよく、特別な保管環境を必要としない。また、溶液Xのリチウムイオンの含有量を上記範囲に調整するため、希釈操作又は濃縮操作を一般的な方法で行ってもよい。
溶液Xのリチウムイオンの含有量は、得られるLi3PO4粒子をオリビン型リン酸リチウム系正極材料の製造に付す際に、その生産性を高める観点から、1000mg/L~20000mg/Lであって、好ましくは2500mg/L~20000mg/Lであり、より好ましくは4000mg/L~20000mg/Lである。
なお、溶液Xは、その他硫酸イオンを含有していてもよく、例えば、溶液X中の硫酸イオンの含有量は、後述する硫酸の添加による混合液A中の硫酸の含有量の調整を不当に阻害しない観点から、好ましくは3000mg/L~150000mg/Lであり、より好ましくは6000mg/L~150000mg/Lであり、さらに好ましくは9000mg/L~150000mg/Lである。
【0019】
溶液Xの25℃におけるpHは、続いて添加する炭酸リチウムや硫酸リチウム及び硫酸を良好に溶解又は分散させる観点から、好ましくは6~9であり、より好ましくは6~8.5であり、さらに好ましくは6~8である。
また、溶液Xの温度は、好ましくは5℃~25℃であり、より好ましくは15℃~25℃である。
【0020】
工程(I)では、かかる溶液Xに、炭酸リチウムと硫酸、或いは炭酸リチウムと硫酸リチウムと硫酸とを添加し、リン酸化合物を添加することなく、リチウムイオンの含有量が5000mg/L~40000mg/Lであり、かつ硫酸の含有量がリチウムイオン1モルに対して0.52モル~1.00モルである混合液A、すなわち炭酸リチウム、又は炭酸リチウムと硫酸リチウムとが完全溶解した混合液Aを得る。このように、混合液Aを得るにあたり、溶液Xに添加するリチウム源として、炭酸リチウム単独で用いるか、或いは炭酸リチウムと硫酸リチウムを併用するかのいずれかであって、炭酸リチウムを必ず用いる。
これにより、pH環境の低領域への調整を可能としつつ、炭酸リチウムや硫酸リチウムの溶解を促進する一方、溶液中に過度に溶存する、添加した炭酸リチウム由来の炭酸(溶存炭酸)をガス化又は不溶化させ、後述する工程(II)にてバブリング処理を施すこととも相まって、溶液からの溶存炭酸の除去を容易にし、得られるLi3PO4粒子の比表面積を有効に増大させることができる。また、溶液Xへの硫酸の添加は、硝酸や有機酸、塩酸等を添加する場合に比べて排液の処理が容易であり、かつ忌避成分の生成を有効に回避することができる。そして、かかる工程(I)にてリン酸化合物を添加することなく、後述する工程(IV)にてリン酸化合物を添加することにより、効率的かつ簡易なLi3PO4粒子の製造を可能にすることができる。
このように、本発明では、炭酸リチウム由来の炭酸を介することにより、比表面積の大きいLi3PO4粒子を効率的に得ることができる。
【0021】
なお、本明細書において、「炭酸リチウム、又は炭酸リチウムと硫酸リチウムとが完全溶解した混合液」とは、添加した炭酸リチウムや硫酸リチウムが溶媒中に完全に溶解し、混合液中に浮遊物や沈殿物を生じることなく、透明度の高い混合液、いわゆるスラリーとは異なる液状物質であることを意味する。「炭酸リチウム由来の炭酸(溶存炭酸)」とは、混合液中に溶解した状態で存在する炭酸であり、CO3 2-やHCO3 -等のイオン類、及び溶存する炭酸ガス(CO2)の総称である。
【0022】
溶液Xへの硫酸の添加量は、得られる混合液A中の硫酸の含有量が、混合液A中のリチウムイオン1モルに対して0.52モル~1.00モルとなる量であればよく、溶存炭酸を効率的に除去する観点から、好ましくは0.52モル~0.95モルであり、より好ましくは0.52モル~0.90である。
また、溶液Xへの硫酸の添加量と炭酸リチウムの添加量との質量比(硫酸/炭酸リチウム)は、溶存炭酸を効率的に除去する観点から、好ましくは1.2~4.8であり、より好ましくは1.2~4.0であり、さらに好ましくは1.2~3.2である。
炭酸リチウム及び硫酸リチウムの合計添加量100質量%中、炭酸リチウムの添加量は、溶存炭酸を効率的に除去する観点から、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0023】
工程(I)において得られる混合液Aにおけるリチウムイオンの含有量は、Li3PO4粒子の生産性を高める観点から、5000mg/L~40000mg/Lであって、好ましくは7500mg/L~40000mg/Lであり、より好ましくは10000mg/L~40000mg/Lである。
すなわち、混合液Aにおいて、リチウムイオンの含有量は溶液Xにおけるリチウムイオンの含有量よりも多く、かつこのような量になるよう、リチウム源として炭酸リチウムを単独で用いる場合には、かかる炭酸リチウムから放出されるリチウムイオンの量を考慮しつつ、リチウム源として炭酸リチウムと硫酸リチウムとを併用する場合には、炭酸リチウムと硫酸リチウムとの両方から放出されるリチウムイオンの量を考慮しつつ、これらリチウム源を添加すればよい。
【0024】
溶液Xへの炭酸リチウム及び硫酸、或いは炭酸リチウムと硫酸リチウムと硫酸の添加順序は、炭酸リチウムの溶解を充分かつ効果的に促進する観点から、炭酸リチウムを添加した後、或いは炭酸リチウムと硫酸リチウムとを添加した後、硫酸を添加するのが好ましい。
ここで、硫酸を添加する前に、予め炭酸リチウム、或いは炭酸リチウムと硫酸リチウムを添加した後の溶液Xを撹拌してもよい。撹拌時間は、好ましくは5分間~300分間であり、より好ましくは10分間~180分間である。
【0025】
工程(I)で得られる混合液Aの25℃におけるpHは、溶存炭酸をH2CO3の形態で残存させて、続く工程(II)において施す不活性ガスによるバブリング処理によって、効果的かつ効率的に混合液から溶存炭酸を除去する観点から、好ましくは0.5~5であり、より好ましくは1.0~5であり、さらに好ましくは1.5~5である。
また混合液Aの温度は、好ましくは25℃~40℃である。
【0026】
本発明の製造方法は、工程(II)として、工程(I)で得られた混合液Aに不活性ガスによるバブリング処理を施して、混合液Bを得る工程を備える。このように不活性ガスによるバブリング処理を施すことによって、混合液Aに不活性ガスが吹き込まれて混合液A中に残存する溶存炭酸、特にCO2の形態で残存する溶存炭酸を効果的かつ効率的に除去することができる
【0027】
用い得る不活性ガスとしては、好ましくは窒素、アルゴン、又はヘリウムであり、より好ましくは窒素である。
バブリング処理における不活性ガスの吹き込み総量は、充分かつ効果的に溶存炭酸を除去する観点から、吹き込んだ不活性ガスの全体積と混合液Aの体積との比(不活性ガスの全体積/混合液Aの体積)で、好ましくは0.5~15であり、より好ましくは1~15であり、さらに好ましくは2~15である。
また、バブリング処理の時間は、同様の観点から、好ましくは10分間~300分間であり、より好ましくは20分間~240分間であり、さらに好ましくは30分間~180分間である。
【0028】
工程(II)で得られる混合液Bの25℃におけるpHは、酸性であり、具体的には、好ましくは0.5~5であり、より好ましくは1.0~5であり、さらに好ましくは1.5~5である。
また混合液Bの温度は、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは25℃~40℃である。
【0029】
本発明の製造方法は、工程(III)として、工程(II)で得られた混合液Bに、混合液B中のリチウムイオン1モルに対するアルカリイオンの量で1.05モル~2.10モルであるアルカリ化合物を添加し、混合液Cを得る工程を備える。これにより、酸性の混合液Bの中和反応によって熱が発生するため、加温又は昇温を要することがなく、Li3PO4粒子の比表面積を有効に増大させることができ、さらに工程(I)で用いた溶液X中のSO4 2-イオン等の不純物によるLi3PO4粒子の純度低下や汚染を防止することもできる。
【0030】
アルカリ化合物の添加量は、混合液Cの温度を調整する観点、工程(IV)において、Li3PO4粒子の核成長反応よりも核生成反応を優先させる観点から、混合液B中のリチウムイオン1モルに対するアルカリイオンの量で、1.05モル~2.10モルであって、好ましくは1.05モル~2.00モルであり、より好ましくは1.05モル~1.90モルである。
用い得るアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム(アルカリイオン=ナトリウムイオン)、水酸化カリウム(アルカリイオン=カリウムイオン)から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、Li3PO4粒子の回収率や、回収したLi3PO4粒子から製造したオリビン型リン酸リチウム系正極材料を用いて得られるリチウムイオン電池の電池特性の向上の観点から、水酸化ナトリウムを用いるのが好ましい。かかるアルカリ化合物としては、固体(粒状、フレーク状)を使用してもよく、水溶液等のアルカリ溶液としてもよく、アルカリ水溶液とするのが好ましい。
【0031】
このように、混合液Bにアルカリ化合物を添加するにあたり、具体的には、溶媒を用いてアルカリ化合物をアルカリ溶液とし、かかるアルカリ溶液を混合液Bに滴下した後に撹拌するのがよい。
なお、アルカリ溶液を滴下しながらも混合液Bを攪拌するのがよい。
また、アルカリ溶液を滴下した後における混合液Cの撹拌時間は、好ましくは5分~180分であり、より好ましくは10分~120分である。
【0032】
工程(III)で得られる混合液Cの温度は、好ましくは40℃~80℃であり、より好ましくは40℃~70℃である。
また混合液Cの25℃におけるpHは、好ましくは12~14であり、より好ましくは12.5~14であり、さらに好ましくは13~14である。
【0033】
本発明の製造方法は、工程(IV)として、工程(III)で得られた混合液Cにリン酸化合物を添加して混合液Dを得た後、固液分離してLi3PO4粒子を得る工程を備える。すなわち、本発明では、工程(I)において、リン酸化合物を添加することなく炭酸リチウムや硫酸リチウムと硫酸とを添加する一方、工程(IV)においてリン酸化合物を添加する。原料化合物の添加順序についてもこのように設定することにより、処分の対象となるリチウムイオン含有排液を無駄なく再利用しつつ、簡易な方法でありながらも比表面積の大きいLi3PO4粒子を効率的に得る製造する方法を実現することができる。
【0034】
リン酸化合物の添加量は、Li3PO4粒子の核生成反応を有効に促進する観点から、混合液C中のリチウムイオン1モルに対し、好ましくは0.30モル~0.36モルであり、より好ましくは0.31モル~0.35モルであり、より好ましくは0.32モル~0.35モルである。
用い得るリン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでもリン酸を用いるのが好ましく、Li3PO4粒子の核生成反応を促進する観点から、40~90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。
【0035】
このように、混合液Cにリン酸化合物を添加するにあたり、具体的には、混合液Cにリン酸化合物を滴下した後に攪拌するのがよい。こうしたリン酸化合物の滴下によって、Li3PO4粒子の核生成反応を有効に促進し、純度が高く、かつ比表面積の大きいLi3PO4粒子を効率良く生成させることができる。
【0036】
Li3PO4粒子の核生成反応を有効に促進する観点から、リン酸化合物の滴下速度は、リン酸化合物全量を混合液Cへ滴下するのに要する時間換算で、好ましくは0.3分~5分であり、より好ましくは0.3分~4分である。
なお、リン酸化合物を滴下しながらも混合液Cを攪拌するのがよい。
また、リン酸化合物を滴下した後における混合液Dの撹拌時間は、好ましくは1分~30分であり、より好ましくは5分~15分である。
【0037】
工程(IV)においても特に加温又は昇温を要することはないが、工程(IV)で得られる混合液Dの温度は、好ましくは40℃~80℃であり、より好ましくは40℃~70℃である。
また混合液Dの25℃におけるpHは、好ましくは10.0~13.0であり、より好ましくは11.0~13.0である。
【0038】
次いで、上記混合液Dを固液分離することにより、Li3PO4粒子を沈殿回収する。固液分離に用いる装置しては、例えば、フィルタープレス機、遠心濾過機、減圧濾過機等が挙げられる。なかでも、効率的にLi3PO4粒子を得る観点から、フィルタープレス機を用いるのが好ましい。
【0039】
得られたLi3PO4粒子(ケーキ)は、さらに乾燥するのが望ましい。かかる乾燥手段としては、恒温乾燥、凍結乾燥又は真空乾燥が好ましい。
【0040】
本発明の製造方法、すなわち混合液A~Dを用いる、いわゆる液-液反応を介した製造方法により得られるLi3PO4粒子は、比表面積が大きく粒径が非常に小さいため、高性能なオリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造する上で有用な原材料となる。
【0041】
具体的には、得られるLi3PO4粒子のBET比表面積は、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る原材料として用いる際に、反応性を向上させる観点から、好ましくは19m2/g以上であり、より好ましくは22m2/g以上であり、好ましくは200m2/以下である。
また、得られるLi3PO4粒子の平均粒径(D50)は、好ましくは1μm~10μmであり、より好ましくは1μm~9μmであり、さらに好ましくは1μm~8μmである。
なお、Li3PO4粒子の平均粒径(D50)とは、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の累積50%粒子径を意味する。
【0042】
本発明の製造方法により得られるLi3PO4粒子には、粒子の微細化、及び粒度分布のシャープ化を実現する観点から、工程(I)において充分に溶解しきれなかった炭酸リチウムや硫酸リチウムに由来する炭素や、工程中において充分に除去しきれなかった溶存炭酸に由来する炭素が残存していないことが好ましい。かかる炭素の残存量は、具体的には、Li3PO4粒子中に、好ましくは0.3質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以下である。
かかるLi3PO4粒子における炭素の残存量は、炭素硫黄分析装置(EMIA-220V2、(株)堀場製作所製)を用いて確認することができる。
【0043】
本発明の製造方法により得られるLi3PO4粒子を原材料として用い、例えば上記式(X)で表されるオリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る場合、次の工程(i)~(ii):
(i)得られたLi3PO4粒子に、鉄化合物及びマンガン化合物を含み、かつ金属(M)化合物(MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。)を含み得る金属源を添加及び混合した後、水熱反応に付して反応混合物を得る工程
(ii)工程(i)で得られた反応混合物から未反応のLiイオンを含む溶液を分離して、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る工程
を備える製造方法により得ることができる。
【0044】
上記工程(i)は、本発明の製造方法により得られたLi3PO4粒子に、鉄化合物及びマンガン化合物を含み、かつ金属(M)化合物(MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。)を含み得る金属源を添加及び混合した後、水熱反応に付して反応混合物を得る工程である。
【0045】
用い得る鉄化合物としては、2価の鉄化合物及びこれらの水和物等であればよく、例えば、ハロゲン化鉄等のハロゲン化物;硫酸鉄等の硫酸塩;シュウ酸鉄、酢酸鉄等の有機酸塩;並びにこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、電池物性を高める観点、又は工程(i)で得られる排液をさらに本発明の製造方法にて有効活用する観点から、硫酸鉄又はその水和物を用いるのが好ましい。
【0046】
用い得るマンガン化合物としても2価のマンガン化合物及びこれらの水和物等であればよく、例えば、ハロゲン化マンガン等のハロゲン化物;硫酸マンガン等の硫酸塩;シュウ酸マンガン、酢酸マンガン等の有機酸塩;並びにこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、電池物性を高める観点、又は工程(i)で得られる排液をさらに本発明の製造方法における溶液Xの一部として有効活用する観点から、硫酸マンガン又はその水和物を用いるのが好ましい。
【0047】
鉄化合物及びマンガン化合物以外の金属化合物としては、金属として式(X)中のM(MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。)を含むものであればよく、鉄化合物及びマンガン化合物と同様、例えば、ハロゲン化物、硫酸塩、有機酸塩、並びにこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、電池物性を高める観点から、硫酸塩又はその水和物を用いるのが好ましく、MがMg、又はZrである金属(M)硫酸塩を用いるのがより好ましい。
【0048】
鉄化合物及びマンガン化合物の使用モル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、好ましくは99:1~30:70であり、より好ましくは95:5~40:60であり、さらに好ましくは90:10~50:50である。
【0049】
本発明の製造方法により得られたLi3PO4粒子は、水とともにLi3PO4含有混合物とし、これに上記鉄化合物及びマンガン化合物を含む金属化合物等の金属源を添加して混合して、水熱反応に付するための混合物を製造する。かかる金属源の添加順序は、特に制限されない。
Li3PO4含有混合物に金属源を混合する前、予めかかるLi3PO4含有混合物を撹拌しておくのが好ましい。Li3PO4含有混合物の撹拌時間は、好ましくは1分~10分であり、より好ましくは2分~8分である。この撹拌によって、均斉性が確保されたLi3PO4含有混合物を得ることができる。
【0050】
次いで、Li3PO4含有混合物に金属源を添加及び混合する。金属源の混合は、Li3PO4含有混合物を撹拌しながら行う。かかる混合物のpHは、好ましくは3.5~8であり、より好ましくは4~7である。また、これら金属源の合計添加量は、混合物に含有されるLi3PO41モルに対し、好ましくは0.90~1.10モルであり、より好ましくは0.95~1.05モルである。
【0051】
得られたLi3PO4と金属源を含有する混合物を、水熱反応に付する。これにより、オリビン型リン酸リチウム系正極材料となる化合物を生成させ、これを含む反応混合物を得ることができる。Li3PO4と金属源を含有する混合物を製造する際に用いる水の使用量は、金属源の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、かかる混合物中に含有されるLi3PO41モルに対し、好ましくは10モル~90モルであり、より好ましくは20モル~70モルである。
また、上記水熱反応に付される混合物に、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。かかる酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na224)、アンモニア水等を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、過剰に添加されることでオリビン型リン酸リチウム系正極材料となる化合物の生成が抑制されるのを防止する観点から、金属源1モルに対し、好ましくは0.01モル~1モルであり、より好ましくは0.03モル~0.5モルである。
【0052】
水熱反応は、100℃以上であればよく、130℃~180℃が好ましい。かかる水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130℃~180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3MPa~0.9MPaであるのが好ましく、140℃~160℃で反応を行う場合の圧力は0.3MPa~0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.5時間~24時間が好ましく、3時間~12時間がより好ましい。
【0053】
上記工程(ii)は、上記工程(i)で得られたオリビン型リン酸リチウム系正極材料を含む反応混合物から未反応のLiイオンを含む溶液を分離して、オリビン型リン酸リチウム系正極材料を得る工程である。かかる反応混合物から未反応のLiイオンを含む溶液を分離する、いわゆる固液分離に用いる装置しては、上記と同様のものを用いることができ、効率的に正極材料を得る観点から、フィルタープレス機を用いるのが好ましい。
さらに、得られた正極材料は、水で洗浄するのが好ましい。正極材料を水で洗浄する際、正極材料1質量部に対し、水を3質量部~20質量部用いるのが好ましく、5質量部~15質量部用いるのがより好ましい。
洗浄した水は、正極材料から洗い流された未反応のLiイオンを含むため、かかる洗浄水を全量回収し、固液分離で得られた溶液とともに、本発明の工程(I)の溶液Xとして活用することができる。かかる洗浄水の回収を効率的に行うために、フィルタープレス機を用いて洗浄と固液分離をするのが好ましい。得られた回収水は、工程(I)で活用されるまでの間に夾雑物が混入しなければよく、特別な保管環境を必要としない。また、この回収水中のLiイオン濃度の調整のため、希釈操作又は濃縮操作を一般的な方法で行うことができる。
【0054】
工程(ii)で分離回収されたオリビン型リン酸リチウム系正極材料は、必要により乾燥する。乾燥手段は、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。
【0055】
かかるオリビン型リン酸リチウム系正極材料の平均粒径は、好ましくは10nm~200nmであり、より好ましくは30nm~150nmである。
【0056】
得られたオリビン型リン酸リチウム系正極材料は、カーボン担持し、次いで焼成することにより、正極活物質とするのが好ましい。カーボン担持は、オリビン型リン酸リチウム系正極材料に常法により、グルコース、フルクトース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、サッカロース、デンプン、デキストリン、クエン酸等の炭素源及び水を添加し、次いで焼成すればよい。焼成条件は、不活性ガス雰囲気下又は還元条件下に400℃以上、好ましくは400℃~800℃で10分~3時間、好ましくは0.5時間~1.5時間行うのが好ましい。かかる処理により正極材料の粒子表面にカーボンが担持された正極活物質とすることができる。炭素源の使用量は、正極材料100質量部に対し、炭素源に含まれる炭素として3質量部~15質量部が好ましく、炭素源に含まれる炭素として5質量部~10質量部がさらに好ましい。
【0057】
また、上記処理のほか、粒子の表面に炭素を担持する処理として、例えば、得られたオリビン型リン酸リチウム系正極材料と導電性炭素材料を含む混合物を、粉砕/複合化/混合処理する方法を用いてもよい。かかる処理を施すことにより、正極材料と導電性炭素材料とが複合した正極活物質を形成することができ、より導電性を高めることができる。
【0058】
粉砕/複合化/混合処理の際に用いる導電性炭素材料としては、カーボンブラックが好ましく、そのうちアセチレンブラック、ケッチェンブラックがより好ましい。導電性炭素材料の添加量は、良好な放電容量と経済性の点から、正極材料100質量部に対し、炭素原子換算量で0.5質量部~15質量部であるのが好ましく、2質量部~10質量部であるのがより好ましい。
【0059】
オリビン型リン酸リチウム系正極材料と導電性炭素材料との混合物は、乾式にて、粉砕/複合化/混合処理を行う。この時、ジエチレングリコール、エタノールなどを助剤として少量添加してもよい。
【0060】
粉砕/複合化/混合処理を施す装置としては、通常のボールミルでもよいが、自公転可能な遊星ボールミル(フリッチュ社製)が好ましく、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)、マルチパーパスミキサ(日本コークス工業社製)、或いはハイブリタイザー(奈良機械社製)等、被処理物へのメカノケミカル作用/複合化処理を行えるものであれば何れでもよい。
【0061】
遊星ボールミルで用いられる装置の容器としては、鋼、ステンレス、ナイロン製が挙げられ、内壁はアルミナ煉瓦、磁気質、天然ケイ石、ゴム、ウレタン等が挙げられる。ボールとしては、アルミナ球石、天然ケイ石、鉄球、ジルコニアボール等が用いられる。ボールの大きさは、0.1mm~20mmが好ましく、さらには0.5mm~5mmボールが好ましい。ボールの充填量は、使用するミルの内容積に対し、ボールの充填体積が5~50%を占める割合とするのが好ましい。
遊星ボールミルを用いる混合は、例えば公転50rpm~800rpm、自転100rpm~1,600rpmの条件で、好ましくは5分~24時間、より好ましくは0.5時間~6時間、さらに好ましくは1時間~3時間行う。
【0062】
上記のようにオリビン型リン酸リチウム系正極材料の表面に炭素を複合化した正極活物質は、不活性ガス雰囲気下又は還元条件下に、好ましくは500℃~800℃で10分~24時間、より好ましくは600℃~700℃で0.5時間~3時間焼成するのが好ましい。かかる処理により、正極材料の表面にさらに炭素が堅固に担持された正極活物質を得ることができる。焼成に用いる装置としては、焼成雰囲気及び温度の調整が可能なものであれば特に制限されず、バッチ式、連続式、加熱方式(間接又は直接)のいずれの方式のものも使用することができる。かかる装置としては、例えば、外熱キルンやローラーハース等の管状電気炉が挙げられる。
【0063】
次に、得られたオリビン型リン酸リチウム系正極材料を含有するリチウムイオン二次電池について説明する。
かかる正極材料を適用できるリチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータを必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0064】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト又は非晶質炭素等の炭素材料等である。そしてリチウムを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。
【0065】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液の用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0066】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF32及びLiN(SO3CF32、LiN(SO2252及びLiN(SO2CF3)(SO249)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0067】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【実施例
【0068】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0069】
[実施例1]
表1~2に示す条件にしたがって、Li3PO4粒子Z1を製造した。
具体的には、リチウムイオンの含有量が12000mg/L、硫酸イオンの含有量が83000mg/Lである溶液X110L(25℃におけるpH=6.7、温度20℃)に、Li2CO3(FMC社製、純度99%)0.73kg、硫酸(株式会社クリタ製、純度95%)1.27kgを添加して、混合液A1(混合液A1中のLiイオン1モルに対する硫酸の含有量=0.57モル、Liイオンの含有量=24000mg/L、25℃におけるpH=3.9、温度30℃)を調製した。得られた混合液A1を10分間撹拌し、その後撹拌しながら混合液A1に窒素によるバブリング処理(窒素の全体積/混合液A1の体積=5)を30分間施して、混合液B1(25℃におけるpH=3.9、温度25℃)を得た。
得られた混合液B1にNaOH溶液(株式会社クリタ製、純度48%)4.29kgを滴下しながら(混合液B1中のリチウムイオン1モルに対するNaイオンの添加量=1.4モル、)撹拌・混合し、さらに10分間撹拌して混合液C1(25℃におけるpH=14・測定不可、温度45℃)を得た。
【0070】
次いで、混合液C1を撹拌しながら、混合液C1にリン酸(下関三井化学株式会社製、75%)1.60kg(混合液C1中のLiイオン1モルに対するH3PO4の添加量=0.33モル)を滴下しながら(滴下速度=リン酸化合物全量を混合液C1へ滴下するのに要した時間は2分)撹拌・混合し、さらに10分間撹拌して混合液D1(25℃におけるpH=12.5、温度50℃)を得た。
得られた混合液D1を、減圧濾過機を用いて濾過し、次いで得られた固形分をかかる固形分1質量部に対して10質量部の水で洗浄してLi3PO4ケーキを得た後、これを凍結乾燥してLi3PO4粒子を得た。得られたLi3PO4粒子のBET比表面積は25m2/g、平均粒径(D50)は6μm、炭素量は検出限界以下であった。
また、得られたLi3PO4粒子は、空間群Pmnbsに相当するX線回折パターンを示す単相であった。かかるLi3PO4粒子の物性を表3に示すとともに、X線回折パターンを図1に示す。
【0071】
[実施例2]
表1~2に示す条件にしたがい、かつ溶液X1にLi2CO30.73kg、硫酸1.16kgを添加して、混合液A2(混合液A2中のLiイオン1モルに対する硫酸の含有量=0.54モル、Liイオンの含有量=24000mg/L、25℃におけるpH=4.5、温度30℃)を調製した以外、実施例1と同様の操作をしてLi3PO4粒子を得た。
【0072】
[実施例3]
表1~2に示す条件にしたがい、かつ混合液B1にNaOH溶液3.37kgを滴下しながら(混合液B1中のリチウムイオン1モルに対するNaイオンの添加量=1.1モル)撹拌・混合し、さらに10分間撹拌して混合液C3(25℃におけるpH=13、温度40℃)を得た以外、実施例1と同様の操作をしてLi3PO4粒子を得た。
【0073】
[実施例4]
表1~2に示す条件にしたがい、かつ混合液C1にリン酸1.68kg(混合液C1中のLiイオン1モルに対するH3PO4の添加量=0.35モル)を滴下しながら撹拌・混合し、さらに10分間撹拌して混合液D4(25℃におけるpH=11.5、温度50℃)を得た以外、実施例1と同様の操作をしてLi3PO4粒子を得た。
【0074】
[比較例1]
表1~2に示す条件にしたがい、かつ溶液X1にLi2CO30.73kg、硫酸1.01kgを添加して、混合液Ax1(混合液Ax1中のLiイオン1モルに対する硫酸の含有量=0.50モル、Liイオンの含有量=24000mg/L、25℃におけるpH=5.8、温度30℃)を調製した以外、実施例1と同様の操作をしてLi3PO4粒子を得た。
【0075】
[比較例2]
表1~2に示す条件にしたがい、かつ混合液B1にNaOH溶液2.76kgを滴下しながら(混合液B1中のリチウムイオン1モルに対するNaイオンの添加量=0.9モル)撹拌・混合し、さらに10分間撹拌して混合液Cx2(25℃におけるpH=11、温度35℃)を得た以外、実施例1と同様の操作をしてLi3PO4粒子を得た。
【0076】
[比較例3]
溶液X1にLi2CO30.73kg、硫酸1.01kgを添加して、混合液Ax3(混合液Ax3中のLiイオン1モルに対する硫酸の含有量=0.50モル、Liイオンの含有量=24000mg/L、25℃におけるpH=5.8、温度30℃)を調製し、混合液Ax3に窒素によるバブリング処理(窒素の全体積/混合液Ax1の体積=5)を30分間施して、混合液Bx3(25℃におけるpH=5.8、温度25℃)を得た。
得られた混合液Bx3にNaOH溶液4.29kgを滴下しながら(混合液Bx3中のリチウムイオン1モルに対するNaイオンの添加量=1.4モル)撹拌・混合し、さらに10分間撹拌して混合液Cx3(25℃におけるpH=14・測定不可、温度35℃)を得た。
次いで、混合液Cx3にリン酸1.83kg(混合液Cx3中のLiイオン1モルに対するH3PO4の添加量=0.38モル)を滴下しながら撹拌・混合し、さらに10分間撹拌して混合液Dx3(25℃におけるpH=9、温度40℃)を得た以外、表1~2に示す条件にしたがい、実施例1と同様の操作をしてLi3PO4粒子を得た。
【0077】
[比較例4]
表1~2に示す条件にしたがい、かつ混合液A2に窒素によるバブリング処理を施さずに、混合液Bx4(25℃におけるpH=4.5、温度30℃)を得た以外、実施例2と同様と同様の操作をしてLi3PO4粒子を得た。
【0078】
[比較例5]
表1~2に示す条件にしたがい、かつ溶液X1にLi2CO30.73kg、硫酸1.01kgを添加して、混合液Ax5(混合液Ax5中のLiイオン1モルに対する硫酸の含有量=0.50モル、Liイオンの含有量=24000mg/L、25℃におけるpH=5.8、温度30℃)を調製し、混合液Ax5に窒素によるバブリング処理を施さずに、混合液Bx5(25℃におけるpH=5.8、温度30℃)を得た以外、実施例1と同様の操作をしてLi3PO4粒子を得た。
【0079】
《充放電特性の評価》
表3に示す各Li3PO4粒子を原材料として用いて常法によりオリビン型リン酸リチウム系正極材料を製造し、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、オリビン型リン酸リチウム系正極材料、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを重量比90:5:5の配合割合で混合し、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
次いで、上記の正極を用いてコイン型リチウムイオン二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1モル/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンなどの高分子多孔フィルムなど、公知のものを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型リチウムイオン二次電池(CR-2032)を製造した。
製造したリチウムイオン二次電池を用いて定電流密度での充放電試験を行った。このときの充電条件は、電流0.2CA(34mAh/g)、電圧4.5Vの定電流充電とした。放電条件を電流0.2CAもしくは3CAとし、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。温度は全て30℃とした。
結果を表3に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
図1