(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】耐火性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20250210BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250210BHJP
B32B 27/22 20060101ALI20250210BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20250210BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250210BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20250210BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20250210BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20250210BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20250210BHJP
C08L 11/00 20060101ALI20250210BHJP
F16L 5/00 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
E04B1/94 F
B32B27/00 N
B32B27/22
B32B27/28
C08K3/013
C08K3/04
C08K3/32
C08K5/10
C08K7/00
C08L11/00
F16L5/00 J
(21)【出願番号】P 2021035715
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 秀康
(72)【発明者】
【氏名】廣野 明津
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智也
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122793(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/090696(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136896(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/159697(WO,A1)
【文献】特開2021-004356(JP,A)
【文献】特開2018-090756(JP,A)
【文献】特開2007-160690(JP,A)
【文献】特開2004-092256(JP,A)
【文献】特開2017-075643(JP,A)
【文献】特開2018-109283(JP,A)
【文献】特開2017-137475(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132475(WO,A1)
【文献】特開2020-041121(JP,A)
【文献】特開2020-164872(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163841(WO,A1)
【文献】特開2009-138184(JP,A)
【文献】特許第6830609(JP,B2)
【文献】特開2017-226965(JP,A)
【文献】特開2014-211081(JP,A)
【文献】特開2020-152809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
B32B 27/00
B32B 27/22
B32B 27/28
C08K 3/013
C08K 3/04
C08K 3/32
C08K 5/10
C08K 7/00
C08L 11/00
F16L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火樹脂組成物からなる耐火材と、前記耐火材と一体化された基材及び粘着層とを備え、建築物の区画貫通部を防火構造とする際に用いられる耐火積層体であって、
前記耐火樹脂組成物は、樹脂、可塑剤、添加剤、及び熱膨張性層状無機物を含有し、建築物の防火構造に用いられる耐火性樹脂組成物であって、
前記樹脂が、
クロロプレンゴムを含み、
前記可塑剤がエステル構造を有する可塑剤であり、
前記添加剤が、難燃
剤及び無機充填材
を含み、
前記難燃剤はリン原子含有化合物である、耐火積層体(ただし、前記耐火樹脂組成物が、耐火樹脂組成物における熱硬化性エラストマー100質量部に対して、5質量部以上の割合で発泡剤を含有するものを除く)。
【請求項2】
前記添加剤が、さらに吸熱剤及び/又は滑剤を含む、請求項1に記載の耐火積層体。
【請求項3】
前記可塑剤の含有量が、前記樹脂100質量部あたり0.5~100質量部である、請求項1
又は2に記載の耐火
積層体。
【請求項4】
前記熱膨張性層状無機物の含有量が、前記耐火性樹脂組成物100質量部あたり10~50質量部である、請求項1~
3いずれか1項に記載の耐火
積層体。
【請求項5】
前記難燃剤の含有量が、前記樹脂100質量部あたり15~60質量部である、請求項1~4いずれか1項に記載の耐火積層体。
【請求項6】
前記無機充填材の含有量が、前記樹脂100質量部あたり5~80質量部である、請求項1~5いずれか1項に記載の耐火積層体。
【請求項7】
前記樹脂と粉体との含有量の比率(樹脂/粉体)が0.2~3である、請求項1~6いずれか1項に記載の耐火
積層体。
【請求項8】
前記熱膨張性層状無機物が熱膨張性黒鉛である、請求項1~7いずれか1項に記載の耐火
積層体。
【請求項9】
請求項
1~8のいずれか1項に記載の耐火積層体を含む区画貫通処理材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性樹脂組成物に関し、詳しくは、区画貫通部を閉塞することのできる膨張性を有する耐火性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅、オフィスビル、学校等の建築物において、壁等の仕切り部には、ケーブル類、配管類などの長尺の挿通体を通すために、区画貫通部が設けられることがある。区画貫通部は、いずれかの区画で火災が発生した際に、他の区画への延焼を防止するために、防火措置を施した構造(耐火構造)にすることが求められている。仕切り部は、2枚の壁部からなり、壁部間が中空部となっている中空壁が一般的である。
【0003】
区画貫通部を耐火構造とする方法は、例えば、長尺の挿通体と貫通孔の間隙に、耐火パテなどの不定形充填材を充填する方法が知られている。不定形充填材を使用する場合、各壁部の貫通孔内部と、挿通体の間には、耐火材よりなる筒状部材などが合わせて配設されることもある(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6150933号公報
【文献】特許第6348320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、区画貫通部の防火処理に不定形充填材を使用した場合、作業者によるバラつきがあり、十分な耐火性能が得られないことがある。また、躯体内に耐火材及びその付属品等を設置する場合、それらがどの程度(量や厚み、長さ等)設置されているか明確でなかったり、規定通りに設置されているか判断できなかったりすることがある。そのため、規定通りに耐火材などが設置されているか否かを確認するためには、区画貫通処理構造を破壊して、内部構造を確認する必要がある。
【0006】
また、内部にケーブル類及び配管類等の長尺の挿通体が挿通される区画貫通構造においては、区画貫通処理構造を施した後に挿通体を動かした場合には、内部に設置された耐火材などが設置されていた適切な位置からずれてしまうことがある。また、地震等の外力によっても、耐火材などが設置されていた適切な位置からずれてしまうことがある。さらに、耐火材が均一に膨張せずに偏って膨張すると設置されていた適切な位置からずれたり、脱落したりすることがある。このように、耐火材などが設置されていた適切な位置からずれてしまうことによって、区画貫通部の耐火構造として望まれる耐火性能を発揮することが困難となる。
【0007】
上記課題を踏まえ、躯体内に不定形充填材を使用せず、高い膨張倍率を有する熱膨張性シートを区画貫通部に設置する方法が考えられる。熱膨張性シートは、例えば熱膨張材を高充填することで得られ膨張倍率を高くでき、火災が発生した際には、火炎によって十分に膨張し、区画貫通部を閉塞し、延焼を抑制することが可能となる。
しかしながら、熱膨張材を高充填することによって、シートの残渣が脆くなる傾向にあり、火炎等により吹き飛ばされることが起こる。したがって、区画貫通部を十分に閉塞することができず、延焼を抑制できない場合があった。
【0008】
そこで、本発明は、火災が発生した際には、区画貫通部を適切に閉塞して延焼を抑制するとともに、膨張残渣を硬くして、区画貫通部の閉塞を維持することができる耐火性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]樹脂、可塑剤、添加剤、及び熱膨張性層状無機物を含有し、建築物の防火構造に用いられる耐火性樹脂組成物であって、前記樹脂が、ポリビニルアセタール、ポリブテン、及びゴム成分からなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記添加剤が、難燃剤、吸熱剤、滑剤、及び無機充填材からなる群から選択される少なくとも1種である、耐火性樹脂組成物。
[2]前記ゴム成分が、クロロプレンゴム、天然ゴム、ブチルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ニトリル・ブタジエンゴム、エチレンプロピレン系ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、及びアクリルゴムからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の耐火性樹脂組成物。
[3]前記樹脂が、ポリフェニレンオキシド及び石油樹脂からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、[1]又は[2]に記載の耐火性樹脂組成物。
[4]前記ポリビニルアセタールが、ポリビニルブチラールである[1]~[3]いずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。
[5]可塑剤の含有量が、前記樹脂100質量部あたり0.5~100質量部である、[1]~[4]いずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。
[6]前記熱膨張性層状無機物の含有量が、前記耐火性樹脂組成物100質量部あたり10~50質量部である、[1]~[5]いずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。
[7]前記樹脂と粉体との含有量の比率(樹脂/粉体)が0.2~3である、[1]~[6]いずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。
[8]前記熱膨張性層状無機物が熱膨張性黒鉛である、[1]~[7]いずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。
[9][1]~[8]いずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物からなる耐火材。
[10]300℃における膨張倍率が5倍以上、かつ600℃における膨張倍率が20倍以上である、[9]に記載の耐火材。
[11]300℃における残渣硬さが4kgf/cm2以上、かつ600℃における残渣硬さが0.3kgf/cm2以上である、[9]又は[10]に記載の耐火材。
[12]300℃における残渣維持率が80%以上、かつ600℃における残渣維持率が50%以上である、[9]~[11]いずれか1項に記載の耐火材。
[13]前記耐火性樹脂組成物の熱膨張開始温度が100~300℃である、[9]~[12]いずれか1項に記載の耐火材。
[14]厚みが0.1~10mmである、[9]~[13]いずれか1項に記載の耐火材。
[15][9]~[14]いずれか1項に記載の耐火材と、前記耐火材と一体化された基材及び粘着層とを備える耐火積層体。
[16][9]~[14]のいずれか1項に記載の耐火材、又は[15]に記載の耐火積層体を含む区画貫通処理材。
[17][16]に記載の区画貫通処理材を含む区画貫通処理構造。
[18][17]に記載の区画貫通処理構造の施工方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、火災が発生した際には、区画貫通部を閉塞し、延焼を抑制することができ、かつ膨張残渣を硬くして、区画貫通部の閉塞を維持することができる耐火性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】区画貫通処理構造のシート状部材の構成を示す模式的断面図である。
【
図2】区画貫通処理構造のシート状部材の構成を示す模式的断面図である。
【
図3】区画貫通処理材が設置される前の区画貫通処理構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の耐火性樹脂組成物は、樹脂、可塑剤、後述する特定の添加剤、及び熱膨張性層状無機物を含有する。
【0013】
(樹脂)
本発明の耐火性樹脂組成物は、ポリビニルアセタール、ポリブテン、及びゴム成分からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂を含有する。これらの樹脂を使用することにより、耐火性及び残渣硬さが良好な耐火材を得ることができる。また、ゴム成分を使用することで、高い耐火性及び残渣硬さが得られ、ポリブテンやポリビニルアセタールを使用することで、粘着性が得られやすくなる。これらの中では、ポリブテン、及びゴム成分からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂を含有することが好ましい。
【0014】
<ポリビニルアセタール>
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタールであれば特に限定されないが、ポリビニルブチラール(PVB)が好ましい。ポリビニルブチラールを用いることで、耐火性添加剤に対する樹脂の量が比較的少ない場合でも、機械的強度を高くすることが可能となる。そのため、耐火材の厚さを薄くしても、一定の機械的強度を確保することができる。
上記ポリビニルアセタールの水酸基量は、好ましくは20~40モル%である。水酸基量を20モル%以上とすることで、ポリビニルアセタールの極性が高くなり、耐火性添加剤との結着力が強くなり、耐火材の機械的強度が向上しやすくなる。また、水酸基量を40モル%以下とすることで、耐火材が硬くなり過ぎたりすることを防止する。上記水酸基量は、より好ましくは23モル%以上、さらに好ましくは26モル%以上である。また、上記水酸基量は、より好ましくは37モル%以下、さらに好ましくは35モル%以下である。
【0015】
上記ポリビニルアセタールのアセタール化度は、好ましくは40~80モル%である。アセタール化度を上記範囲内とすることで、上記する水酸基量を所望の範囲内として、耐火材の機械的強度が向上しやすくなる。アセタール化度は、より好ましくは55モル%以上であり、さらに好ましくは65モル%以上であり、また、より好ましくは76モル%以下である。
また、上記ポリビニルアセタールのアセチル基量は、好ましくは0.1~30モル%である。アセチル基量がこの範囲内であると、耐湿性に優れ、可塑剤との相溶性に優れ、高い柔軟性を発揮して取扱い性が向上する。また、アセチル基量をこれら範囲内とすることで、上記する水酸基量を所望の範囲内として、耐火材の機械的強度が向上しやすくなる。これら観点から、アセチル基量は、0.2モル%以上がより好ましく、0.5モル%以上がさらに好ましく、また、15モル%以下がより好ましく、7モル%以下がさらに好ましい。
なお、アセタール化度、水酸基量、及びアセチル基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定し、また算出することができる。
【0016】
ポリビニルアセタールの重合度は、好ましくは200~3000である。重合度をこれら範囲内にすることで、耐火性添加剤を適切に耐火材中に分散させることがきる。重合度は、より好ましくは250以上、さらに好ましくは300以上である。
ポリビニルアセタールの重合度を低くすると粘度も下がり、耐火材中に耐火性添加剤を分散しやすくなり、耐火材の機械的強度が向上する。そのような観点から、ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下、さらに好ましくは1000以下である。
なお、ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、JIS K6728に記載の方法に基づいて測定した粘度平均重合度をいう。
【0017】
ポリビニルアセタール樹脂の10質量%エタノール/トルエン粘度は、好ましくは5mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上であり、さらに好ましくは15mPa・s以上である。また、10質量%エタノール/トルエン粘度は、好ましくは500mPa・s以下、より好ましくは300mPa・s以下であり、更に好ましくは200mPa・s以下である。ポリビニルアセタール樹脂の10質量%エタノール/トルエン粘度を上記のとおりにすることにより、耐火材中に耐火性添加剤を分散しやすくなり、耐火材の機械的強度が向上する。
なお、10質量%エタノール/トルエン粘度は、次のように測定した値である。
エタノール/トルエン(重量比1:1)混合溶剤150mlを三角フラスコにとり、これに秤量した試料を加え、樹脂濃度を10wt%とし、20℃の恒温室にて振とう溶解する。その溶液を20℃に保持しBM型粘度計を用いて粘度を測定して、10質量%エタノール/トルエン粘度を求めることができる。
【0018】
上記アルデヒドは特に限定されないが、一般には、炭素数が1~10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1~10のアルデヒドは特に限定されず、例えば、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n-ブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-バレルアルデヒドが好ましく、n-ブチルアルデヒドがより好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
本発明で使用される樹脂は、ポリビニルアセタールのみからなってもよいが、他の樹脂と併用してもよい。ポリビニルアセタールの含有量は、樹脂100質量部に対して、1~100質量部が好ましく、5~80質量部がより好ましく、10~50質量部がさらに好ましい。
【0020】
<ゴム成分>
本発明で使用するゴム成分としては、クロロプレンゴム、天然ゴム、ブチルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ニトリル・ブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどのエチレンプロピレン系ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、及びアクリルゴムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらゴム成分を耐火性樹脂組成物に使用することで、該組成物からなる耐火材の耐火性が向上する。中でも、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴムといった、塩素原子を含有するゴム成分を含有するのがより好ましい。
また、ゴム成分は、ブチルゴムを少なくとも含有することも好ましい。ブチルゴムをゴム成分として使用すると、該組成物から得られる耐火材に粘着性を付与しやくなる。また、粘着性向上の観点から、ブチルゴムは、ポリビニルアセタール、ポリブテン、後述する石油樹脂、又はこれらの2以上の組み合わせと併用することも好ましい。
【0021】
本発明におけるゴム成分の含有量としては、特に限定されないが、樹脂100質量部に対し、10~100質量部が好ましく、15~95質量部がより好ましく、20~93質量部がさらに好ましい。
また、塩素原子を含有するゴム成分の含有量としては、特に限定されないが、樹脂100質量部に対し、0~80質量部が好ましく、5~70質量部がより好ましく、10~65質量部がさらに好ましい。
【0022】
本発明で使用するゴム成分としては、100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)が、好ましくは10~150、より好ましくは20~140、さらに好ましくは30~130である。ムーニー粘度ML(1+4)が上記範囲であることにより、加工性・成形性が良好となり目的のシート・成形体を作製しやすい。また均一に充填されるため、良好な耐火性能の効果が得られる。また、クロロプレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、ニトリル・ブタジエンゴム-PVCコポリマーといった、塩素原子を含有するゴム成分を含有する場合、塩素原子を含有するゴム成分の塩素含有量は、5~50が好ましく、8~45がより好ましく、10~40がさらに好ましい。これら下限値以上とすることで、耐火材の耐火性を向上させることができる。また、これら上限値以下とすることで、火災発生時、塩素由来の有毒ガスの発生を抑制することができる。こうした点を踏まえると、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリル・ブタジエンゴムを含有することが好ましい。
【0023】
<ポリブテン>
本発明でポリブテンを使用する場合、特に限定されず、例えば、イソブテンのホモポリマー、イソブテンとn-ブテンとのコポリマー、ポリブテンを乳化により、エマルジョンにしたものなどが挙げられる。耐火性樹脂組成物にポリブテンを使用することにより、該組成物からなる耐火材の粘着性が向上し、施工の際、両面テープなどを使用しなくても建具などに容易に取り付けることができる。これらの中では、イソブテンとn-ブテンとのコポリマーが好ましい。
またポリブテンは、ASTM D 2503に準拠した方法で測定した重量平均分子量が例えば、300~5000、好ましくは300~2000である。
【0024】
ポリブテンの含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、3~70質量部が好ましく、5~65質量部がより好ましく、10~60質量部がさらに好ましい。
【0025】
上記した樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよいが、耐火性及び残渣硬さをより効果的に発揮させる観点から、2種以上を併用して使用することが好ましい。
【0026】
本発明において、2種以上の樹脂を併用して使用する場合、樹脂の組み合わせは、ポリビニルアセタールとゴム成分、ポリビニルアセタールとポリブデン、ポリビニルアセタールとポリブデンとゴム成分、及びポリブテンとゴム成分の組み合わせなどが挙げられる。中でも、耐火材の残渣硬さ及び残渣維持率を向上させる観点から、ポリブテンとゴム成分を組み合わせて使用することがより好ましい。
【0027】
本発明において、2種以上の樹脂を併用して使用する場合、各樹脂の含有量比は、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアセタールとゴム成分を併用する場合は、ポリビニルアセタールの含有量は、ゴム成分の含有量100質量部に対し、50~300質量部が好ましく、100~200質量部がより好ましく、120~180質量部がさらに好ましい。
ポリビニルアセタールとポリブデンを併用する場合は、ポリビニルアセタールの含有量は、ポリブテンの含有量100質量部に対し、30~150質量部が好ましく、40~120質量部がより好ましく、50~100質量部がさらに好ましい。
ポリブテンとゴム成分を併用する場合は、ポリブテンの含有量は、ゴム成分の含有量100質量部に対し、5~300質量部が好ましく、10~270質量部がより好ましく、15~240質量部がさらに好ましい。
【0028】
本発明の耐火性樹脂組成物を構成する樹脂は、上記した樹脂に加え、ポリフェニレンオキシド及び石油樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。ポリフェニレンオキシド及び石油樹脂は、これらのうち一方を含有してもよいし、両方を含有してもよい。
【0029】
<ポリフェニレンオキシド>
ポリフェニレンオキシドとしては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)などの未変性ポリフェニレンオキシドであってもよいし、変性ポリフェニレンオキシドであってもよい。ポリフェニレンオキシドを使用することにより、残渣硬さ及び残渣維持率を向上させることができる。
樹脂がポリフェニレンオキシドを含む場合、ポリフェニレンオキシドの含有量は、耐火材の残渣硬さ及び残渣維持率を所望の範囲に調整できるようにする観点から、樹脂100質量部あたり、1~60質量部が好ましく、3~50質量部がより好ましく、5~45質量部がさらに好ましい。
【0030】
本発明において、ポリフェニレンオキシドを使用する場合、ポリブテン及びゴム成分からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と併用することが好ましく、ポリブテン及びゴム成分の両方と併用することがより好ましい。なお、ポリフェニレンオキシドをゴム成分と併用して使用する場合は、塩素含有ゴム成分と併用してもよいし、それ以外のゴム成分(塩素不含有ゴム成分)と併用してもよい。ポリフェニレンオキシドを使用することで、塩素含有ゴム成分を使用しなくても、耐火材の残渣硬さ及び残渣維持率を向上させ、十分な耐火性を確保できる。
【0031】
<石油樹脂>
石油樹脂としては、例えば、脂肪族炭化水素樹脂系石油樹脂、芳香族炭化水素樹脂系石油樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂系石油樹脂、共重合系石油樹脂、水素化石油樹脂、石油樹脂エマルジョンなどが挙げられる。石油樹脂を使用することにより、耐火材の粘着性を向上させることができ、良好な施工性を得られる。
樹脂が石油樹脂を含む場合、石油樹脂の含有量は、耐火材の粘着性を向上させ、良好な施工性を得られるようにする観点から、樹脂100質量部に対し、2~30質量部が好ましく、3~20質量部がより好ましく、4~10質量部がさらに好ましい。
【0032】
(可塑剤)
本発明の耐火性樹脂組成物は、可塑剤を含有する。可塑剤を含有することで、該組成物に柔軟性が付与され、それにより、該組成物の製造の際、該組成物の各成分を均一に混合しやすくなり、その結果、該組成物からなる耐火材の残渣硬さ及び残渣維持率を所望の範囲に調整できる。加えて、良好な施工性が得られたり、火災発生の際には膨張しやすくなったりして、耐火性も向上する。
可塑剤の具体的としては、例えば、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等のアジピン酸エステルや、アジピン酸ジブトキシエチル、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)、アジピン酸ジ(メトキシテトラエチレングリコール)、アジピン酸ジ(メトキシペンタエチレングリコール)、アジピン酸(メトキシテトラエチレングリコール)(メトキシペンタエチレングリコール)などのアジピン酸エーテルエステル系可塑剤、アジピン酸ポリエステルなどの脂肪酸エステル可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤、ポリエーテルエステル可塑剤、トリー2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤、トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)等の燐酸エステル可塑剤、鉱油等のプロセスオイルなどが挙げられる。
【0033】
本発明で使用する可塑剤としては、樹脂の結晶化を防止し、柔軟性などを付与する観点から、エステル構造を有する可塑剤、即ちジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等のアジピン酸エステルや、アジピン酸ジブトキシエチル、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)、アジピン酸ジ(メトキシテトラエチレングリコール)、アジピン酸ジ(メトキシペンタエチレングリコール)、アジピン酸(メトキシテトラエチレングリコール)(メトキシペンタエチレングリコール)などのアジピン酸エーテルエステル系可塑剤、アジピン酸ポリエステルなどの脂肪酸エステル可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤、ポリエーテルエステル可塑剤、トリー2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤、トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)等の燐酸エステル可塑剤からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0034】
エステル構造を有する可塑剤の中でも、さらにエーテル構造を有する可塑剤、即ち、ポリエーテルエステル可塑剤、アジピン酸ジブトキシエチル、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)、アジピン酸ジ(メトキシテトラエチレングリコール)、アジピン酸ジ(メトキシペンタエチレングリコール)、アジピン酸(メトキシテトラエチレングリコール)(メトキシペンタエチレングリコール)などのアジピン酸エーテルエステル系可塑剤からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
なお、本発明において、可塑剤は1種を単独で、もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
耐火性樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、耐火性樹脂組成物における可塑剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、例えば0.5質量部以上100質量部以下の範囲であり、好ましくは1質量部以上80質量部以下の範囲、より好ましくは10質量部以上70質量部以下の範囲、さらに好ましくは20質量部以上50質量部以下の範囲である。可塑剤は、これら下限値以上とすると、柔軟性が付与され、成形性が良好になりやすい。また、上限値以下とすることで、成形体に適度な強度が付与される。そして、上記範囲内となることで、耐火材の残渣硬さ及び残渣維持率を所望の範囲に調整しやすくなる。
【0036】
(熱膨張性層状無機物)
熱膨張性層状無機物は、加熱時に膨張する従来公知の物質であり、例えば、バーミキュライト、熱膨張性黒鉛などが挙げられ、中でも熱膨張性黒鉛が好ましい。熱膨張性層状無機物としては、粒子状や鱗片状のものを用いてもよい。熱膨張性層状無機物は、加熱されることで膨張して大容量の空隙を形成するため、本発明の熱膨張性層状無機物を用いた耐火材は、着火した場合に延焼を抑制し、消火する。
熱膨張性黒鉛は、天然鱗片状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とにより処理してグラファイト層間化合物を生成させたものである。生成された熱膨張性黒鉛は炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
本発明に使用される熱膨張性黒鉛は、酸処理して得られた熱膨張性黒鉛がアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和されたものなども使用することもできる。
脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0037】
熱膨張性黒鉛の粒度は、20~200メッシュが好ましい。熱膨張性黒鉛の粒度が前記範囲内であると、膨脹して大容量の空隙を作りやすくなるため耐火性が向上する。また、樹脂への分散性も向上する。
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比の上限は特に限定されないが、熱膨張性黒鉛の割れ防止の観点から、1,000以下であることが好ましい。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が2以上であることにより、膨張して大容量の空隙を作りやすくなるため難燃性が向上する。
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比は、10個の熱膨張性黒鉛について、それぞれ最大寸法(長径)及び最小寸法(短径)測定し、最大寸法(長径)を最小寸法(短径)で除した値の平均値を平均アスペクト比とする。熱膨張性黒鉛の長径及び短径は、例えば、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定することができる。
【0038】
また、本発明の耐火性樹脂組成物における、熱膨張性層状無機物の含有量は、耐火性樹脂組成物100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、30質量部以上がよりさらに好ましい。また、熱膨張性層状無機物の上記含有量は、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、48質量部以下がさら好ましい。上記下限値以上であると、十分な熱膨張性が得られ、区画貫通部を十分に閉塞することが可能となる。また、本発明では、熱膨張性層状無機物を高充填としても膨張残渣の硬度が高くなり、比較的耐火性を維持しやすくなる。一方、上記上限値以下であると成形性が良好となり、シール部材の表面性、機械的物性、柔軟性なども良好となる。また、熱膨張性黒鉛の含有量を上記範囲内で選択することで、膨張倍率を所望の範囲内に調整しやすくなる。
【0039】
(特定の添加剤)
本発明の耐火性樹脂組成物は、特定の添加剤として、上記した熱膨張性層状無機物以外に、難燃剤、吸熱剤、滑剤及び無機充填材から選ばれる少なくとも1種を含有する。これらは、それぞれの成分を1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明の耐火性樹脂組成物は、特定の添加剤を含有することで、耐火性樹脂組成物の残渣硬さ及び残渣維持率を高くできる。
【0040】
<難燃剤>
難燃剤、吸熱剤、及び無機充填材は、耐火性添加剤であり、耐火性樹脂組成物の耐火性を向上させる。
本発明に使用する難燃剤としてはリン原子含有化合物が挙げられる。リン原子含有化合物としては、赤リン、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及びキシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及びリン酸マグネシウム等のリン酸金属塩、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらリン含有化合物を使用することで、耐火性樹脂組成物に適切な耐火性、消火性能を付与できる。難燃剤は、これら1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これら難燃剤の中では、耐火性樹脂組成物の耐火性、消火性能を向上させる観点から、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム等が特に好ましい。
【0041】
難燃剤は、好ましくは、常温(23℃)及び常圧(1気圧)で固体状となるものである。難燃剤の平均粒子径は、1~200μmが好ましく、1~60μmがより好ましく、3~40μmがさらに好ましく、5~20μmがよりさらに好ましい。難燃剤の平均粒子径が上記範囲内であると、耐火性樹脂組成物における難燃剤の分散性が向上し、難燃剤を樹脂中に均一に分散させたり、樹脂に対する難燃剤の配合量を多くしたりすることができる。
【0042】
本発明における難燃剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対し、15~60質量部が好ましく、20~55質量部がより好ましく、25~50質量部がさらに好ましい。
【0043】
<吸熱剤>
本発明の耐火性樹脂組成物に用いられる吸熱剤としては、水和金属化合物が好適に挙げられる。水和金属化合物とは、火炎の接触により分解して水蒸気を発生し、吸熱する効果を有する化合物である。水和金属化合物としては、金属水酸化物、金属塩の水和物が挙げられる。具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、カルシウム-マグネシウム系水酸化物、ハイドロタルサイト、ベーマイト、タルク、ドーソナイト、硫酸カルシウムの水和物、硫酸マグネシウムの水和物、ホウ酸亜鉛[2ZnO・3B2O5・3.5H2O]などが挙げられる。
これらの中では、耐火性、消火性能などの観点から、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム2水和物、及び硫酸マグネシウム7水和物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、特に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましい。
【0044】
吸熱剤としては、熱分解開始温度が500℃以下、吸熱量が500J/g以上であるものが好ましい。熱分解開始温度、及び吸熱量のいずれかが上記範囲内となると、発火に際し、速やかに消火することができる。以上の観点から、吸熱剤の熱分解開始温度は、400℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。また、吸熱剤の熱分解開始温度は、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。これら下限値以上とすることで、火災以外の加熱により、吸熱剤が誤って機能することを防止する。
なお、熱分解開始温度は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0045】
前記吸熱剤の吸熱量は、好ましくは600J/g以上、より好ましくは900J/g以上である。吸熱剤の吸熱量が上記範囲内であると、熱の吸収性が向上するため、耐火性、消火性能がより良好となる。吸熱剤の吸熱量は、通常、4000J/g以下、好ましくは3000J/g以下である。
なお、吸熱量は熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0046】
また、吸熱剤は、平均粒子径が0.1~90μmであるものが好ましい。平均粒子径を上記範囲内とすることで、樹脂中に吸熱剤が分散しやすくなり、吸熱剤を多量に配合させやすくなり、耐火性、消火性能も向上させやすくなる。
以上の観点から、吸熱剤の平均粒子径は、0.5~60μmがより好ましく、0.8~40μmがさらに好ましく、0.8~10μmがよりさらに好ましい。
【0047】
本発明における吸熱剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対し、5~40質量部が好ましく、10~30質量部がより好ましく、12~20質量部がさらに好ましい。
【0048】
<滑剤>
本発明の耐火性樹脂組成物には、滑剤を使用してもよい。該組成物は、滑剤を使用することにより、流動性が良好になり、熱膨張性層状無機物や耐火性添加剤が組成物中に適切に分散される。そのため、該組成物からなる耐火材の熱膨張性や残渣硬さが良好となり、耐火材の耐火性が向上する。本発明において用いられる滑剤としては、例えば、樹脂系滑剤、リン酸エステル系滑剤などが挙げられる。滑剤は、上記した耐火性添加剤と併用することが好ましい。
【0049】
樹脂系滑剤としては、公知の樹脂系滑剤を使用できるが、アクリル系オリゴマーが好ましい。
アクリル系オリゴマーとしては、アクリル酸エステル系オリゴマーが好ましい。オリゴマーを構成するアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチルなどを挙げられる。これらの中では、アクリル酸ブチル系オリゴマーが好ましい。樹脂系滑剤は、市販品も使用でき、例えば、ADEKA社製の「アデカスタブ FC-113」を使用できる。
【0050】
リン酸エステル系滑剤としては、長鎖型脂肪族リン酸エステル系化合物が挙げられ、長鎖型モノアルキルリン酸エステル、長鎖型ジアルキルリン酸エステル等を好ましく用いることができる。長鎖型モノアルキルリン酸エステル、及び長鎖型ジアルキルリン酸エステルを構成するアルキル基としては、炭素数が12~18であることが好ましい。炭素数が12~18であるアルキル基としては、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基が挙げられる。
本発明において使用する長鎖型脂肪族リン酸エステル系化合物としては、モノドデシルリン酸エステル、ジドデシルリン酸エステル、モノオクタデシルリン酸エステル、ジオクタデシルリン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、モノオクタデシルリン酸エステル、ジオクタデシルリン酸エステル、又はこれらの混合物がより好ましい。
本発明において使用する滑剤としては、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよく、例えば、樹脂系滑剤とリン酸エステル系滑剤を併用してもよく、上記した中では、アクリル系オリゴマーと長鎖型脂肪族リン酸エステル系化合物を併用して使用することがより好ましい。
本発明の耐火性樹脂組成物における滑剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.1~15質量部が好ましく、0.3~8質量部がより好ましく、0.5~4質量部がさらに好ましい。
【0051】
<無機充填材>
本発明の耐火性樹脂組成物に使用できる無機充填材としては、上記した熱膨張性層状無機物、難燃剤、吸熱剤、滑剤以外の無機充填材が挙げられ、特に限定されないが、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーンナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セビオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカバルン、窒化アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコニア鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。
これらのうち、炭酸カルシウム、カーボンブラックが好ましい。これらの無機充填材は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
無機充填材の平均粒子径は、0.5~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。無機充填材は、含有量が少ないときは分散性を向上させる観点から粒子径が小さいものが好ましく、含有量が多いときは高充填が進むにつれて、耐火性樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するため粒子径が大きいものが好ましい。
なお、上述の難燃剤、吸熱剤、及び無機充填材の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したメディアン径(D50)の値である。
【0053】
本発明における無機充填材の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対し、5~80質量部が好ましく、8~70質量部がより好ましく、10~65質量部がさらに好ましい。
【0054】
本発明の耐火性樹脂組成物における、特定の添加剤の含有量としては、樹脂100質量部に対して、好ましくは3~250質量部、より好ましくは5~200質量部、さらに好ましくは10~150質量部であり、よりさらに好ましくは50~130質量部である。特定の添加剤の含有量が前記下限値以上であると、難燃性が得られ、また機械的物性を向上させることができる。一方、前記上限値以下であると、熱膨張性層状無機物の相対量が十分となり、火災が発生した際に、火炎によって膨張し、区画貫通部を閉塞し、延焼を抑制することができる。
【0055】
また、ポリフェニレンオキシドの配合量を比較的多くすると、特定の添加剤の量を比較的少なくできる。その場合、特定の添加剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは3~50質量部、より好ましくは5~30質量部であり、ポリフェニレンオキシドの含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは20~60質量部、より好ましくは30~50質量部である。
【0056】
上記した特定の添加剤は、上述のように、難燃剤、吸熱剤、滑剤、無機充填材から選ばれる少なくとも1種を有していればよい。これらのうち、耐火性添加剤の組み合わせとしては、耐火材の耐火性を向上させる観点から、難燃剤、吸熱剤、及び無機充填材から選ばれる少なくとも1種が好ましく、難燃剤と吸熱剤の組み合わせや、難燃剤と無機充填材の組み合わせがより好ましく、また難燃剤、吸熱剤、及び無機充填材を組み合わせて使用することも好ましい。また、これら各組み合わせには、さらに滑剤が加えられてもよい。
中でも、難燃剤として、ポリリン酸アンモニウム(APP)を選択し、無機充填材として炭酸カルシウムを選択した場合の組み合わせが好ましい。火災等によって加熱された際にポリリン酸アンモニウムと炭酸カルシウムが反応することで、残渣を硬くする作用があることに起因すると思われる。また、残渣を硬くする観点から、耐火性添加剤として亜リン酸アルミニウムを使用することも好ましい。
【0057】
本発明の耐火性樹脂組成物は、樹脂と粉体との含有量の比率(樹脂/粉体)が0.2~3であることが好ましく、0.5~2であることがより好ましく、0.5~0.7であることがさらに好ましい。樹脂と粉体との含有量の比率を上記範囲とすることで、耐火材の残渣硬さ及び残渣維持率を所望の範囲に調整しやすくなる。
なお、粉体とは、室温(23℃)、常圧(1気圧)で固体となるものであり、耐火性樹脂組成物においても、樹脂に溶解、相溶せずに、耐火性樹脂組成物において粉状、粒子状、繊維状として存在するものである。具体的には、上記記載した各成分のうち、固体状の難燃剤、吸熱剤、無機充填材、滑剤、熱膨張性層状無機物が粉体となる。
【0058】
本発明の耐火性樹脂組成物には、その物性を損なわない範囲で、必要に応じて、熱安定剤、加工助剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、架橋剤、架橋促進剤等の熱膨張性樹脂組成物に一般的に使用される添加剤が添加されてもよい。これらの中では加工助剤を使用することが好ましい。
【0059】
[耐火材]
本発明の耐火材は、本発明の耐火性樹脂組成物からなり、特にシート状であることが好ましい。耐火材の厚みとしては、0.1~10mmであることが好ましく、2~8mmであることがより好ましく、3~5mmであることがさらに好ましい。厚みが前記下限値以上であると、十分な耐火性能が確保され、前記上限値以下であると、耐火材の柔軟性が確保される。
【0060】
本発明の耐火材の熱膨張開始温度は、特に限定されないが、例えば、100~300℃であることが好ましく、120~280℃であることがより好ましく、130~250℃であることが更に好ましい。これら下限値以上とすることで、火災以外の加熱により、熱膨張性材料が誤って膨張することを防止する。また、上限値以下とすることで、火災の加熱により確実に熱膨張性材料を膨張させやすくなる。
また、本発明の耐火材の熱膨張開始温度の測定方法は、後述の実施例に記載の通りである。
【0061】
本発明の耐火材の300℃における膨張倍率としては、5倍以上が好ましく、10倍以上がより好ましく、15倍以上がさらに好ましい。また、600℃における膨張倍率としては、20倍以上が好ましく、25倍以上がより好ましく、30倍以上がさらに好ましい。耐火材の膨張倍率が上記下限値以上であることにより、火災発生時の膨張性能が良好になり、区画貫通部を閉塞して延焼を防止する効果を十分に発揮することができる。
また、耐火材の膨張倍率は、特に限定されるものではないが、火災発生時に、一定の残渣硬さ及び残渣維持率を担保し、耐火材と区画貫通部の間に隙間が発生することを防止する観点から、300℃下では、50倍以下が好ましく、40倍以下がより好ましく、35倍以下がさらに好ましく、よりさらに好ましくは20倍以下である。また、600℃下では、65倍以下が好ましく、60倍以下がより好ましく、50倍以下がさらに好ましく、よりさらに好ましくは40倍以下である。
【0062】
本発明の耐火材の300℃における残渣硬さとしては、3kgf/cm2以上が好ましく、4kgf/cm2以上がより好ましく、5kgf/cm2以上がさらに好ましい。また、600℃における残渣硬さとしては、0.1kgf/cm2以上が好ましく、0.2kgf/cm2以上がより好ましく、0.3kgf/cm2以上がさらに好ましい。残渣硬さが上記下限値以上であることにより、火災発生時に、耐火材が火炎により吹き飛ぶことを防止することができ、火災発生時の延焼を有効に防止することができる。
また、耐火材の残渣硬さは、特に限定されるものではないが、300℃下では、50kgf/cm2以下が好ましく、40kgf/cm2以下がより好ましく、20kgf/cm2以下がさらに好ましい。また、600℃下では、10kgf/cm2以下が好ましく、4kgf/cm2以下がより好ましく、2kgf/cm2以下がさらに好ましい。
【0063】
本発明の耐火材の300℃における残渣維持率としては、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。また、600℃における残渣維持率としては、40%以上が好ましく、44%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。残渣維持率が上記下限値以上であることにより、優れた耐火性が得られ、火災発生時の延焼を有効に防止することができる。
また、耐火材の残渣維持率は、特に限定されるものではないが、300℃下では、95%以下が好ましく、93%以下がより好ましい。また、600℃下では、70%以下が好ましく、65%以下がより好ましい。
なお、耐火材の膨張倍率、残渣硬さ、及び残渣維持率は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0064】
[耐火積層体]
本発明の耐火材は、耐火材単層で使用してもよいが、耐火材(以下、耐火材層ともいう)を2層以上積層し、又は耐火材以外の他の層を積層して、多層体(耐火積層体)で使用してもよい。使用される他の層としては、基材、粘着剤層などが挙げられる。
耐火積層体は、基材及び粘着剤層の両方を有してもよいが、少なくとも一方を有すればよい。
【0065】
<基材>
耐火積層体に使用される基材は、耐火材を支持し、その材質によっては耐火材に熱を均等に伝達させる。基材としては、例えば、アルミニウム箔、銅箔等の金属箔、ガラスクロス、アルミガラスクロスなどの金属箔とガラスクロスの複合体等の金属箔複合体、紙、布、樹脂フィルムなどが挙げられる。これらのなかでは、耐火性の観点から、不燃材料で構成されることが好ましく、金属箔及び金属箔複合体がより好ましい。金属箔及び金属箔複合体を使用することで、耐火材に熱を均等に伝達させやすくなり、火災が発生したときに耐火材が均等に発泡され、耐火性を向上させやすくなる。なお、不燃材料とは、建築基準法及び建築基準法施行令において定められるものである。
【0066】
基材は、耐火材の片面側に設けられてもよいし、耐火材を挟むようにして両面側に設けられてもよいが、基材により、耐火材の膨張を有効に制御し、区画貫通部方向に膨張させることで、火災発生時に区画貫通部が確実に閉塞されるようにする観点から、耐火材の両面側に設けられることが好ましい。
【0067】
各基材の厚みは、特に限定されないが、例えば0.01~1mm、好ましくは0.05~0.5mmである。不燃材料層がこれら上限値以下の厚みを有することで、シート状部材に柔軟性が付与される。また、下限値以上の厚みを有することで、耐火性能を確保しやすくなる。
【0068】
<粘着剤層>
耐火積層体に使用される粘着剤層は、粘着剤により形成されるとよく、粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤等を用いることができる。粘着剤層は、不燃性、準不燃性、又は難燃性であってもよく、使用する粘着剤に難燃剤などを配合してもよい。粘着剤層の厚みは、例えば5~400μm、好ましくは10~150μmである。
また、粘着剤層は、耐火積層体を他の部材に接着できるように耐火積層体の最外面に配置されてもよい。
【0069】
上記の通り、シート状耐火材は、複数積層してもよいが、複数のシート状耐火材を積層する場合、粘着性を有する場合には、直接積層してもよいし、粘着剤層や粘着剤層以外の公知の接着剤より構成される接着剤層を介して積層してもよい。
【0070】
シート状耐火材を複数積層する場合には、互いに膨張倍率が異なる層であることが好ましく、使用形態に合わせて、膨張倍率をコントロールするとよい。シート状耐火材を2層以上備える場合には、少なくともそのうちの1層は、本発明の耐火性樹脂組成物から構成され、膨張率が高い層の耐火材層を構成することが好ましい。
また、基材と耐火材層から構成される耐火積層体にあっては、基材は2層以上あってもよく、さらに、耐火剤層が、粘着性を有する場合には、他の部材に接着できるように最外面に配置するとよい。
【0071】
耐火積層体は、好ましくは基材と耐火材層とを有する。耐火積層体は、基材と耐火材層の2層であってもいいし、交互に少なくとも3層積層されていてもよい。さらに、耐火積層体は、3層構成に限られず、基材と耐火材層が交互に4層積層されていてもよいし、それ以上設けられてもよい。
本発明の耐火性樹脂組成物により得られる耐火材層は膨張倍率が高く、かつ残渣も硬いため、複数ある耐火材層の一部の層を構成してもよいし、すべての層を構成してもよい。
なお、耐火積層体の詳細な構成については後述する。
【0072】
また、耐火積層体は、基材及び熱膨張性を有する耐火材層が交互に少なくとも3層積層されていることも好ましい。具体的には、耐火積層体3は、
図1(a)に示すように、基材30A,30B及び耐火材層31Aが交互に3層積層されていてもよく、
図1(b)に示すように、基材30A及び耐火材層31A,31Bが交互に3層積層されていてもよい。シート状部材3は、3層構成に限られず、
図1(c)に示すように、基材30A,30B及び耐火材層31A,31Bが交互に4層積層されていてもよい。
【0073】
また、基材と耐火剤層が交互に積層される場合、シート状部材3は、基材/耐火材層/基材、或いは、耐火材層/基材/耐火材層をこの順に有する限り、基材と耐火材層は、1層ずつ交互に設ける必要はなく、基材/基材/耐火材層/耐火材層のように同種の層が連続して積層してもよい。例えば、
図1(d)に示すように、基材30A,30Bが連続して積層し、基材30B,30C及び耐火材層31Aが交互に積層されていてもよい。また、シート状部材3は、
図1(e)に示すように、積層数に制限はなく、複数の基材30A,・・・30Y,30Z及び複数の耐火材層31A,・・・31Y,31Zが交互に多層積層されていてもよい。
【0074】
耐火積層体3は、
図2(a)に示すように、粘着性を有する耐火材層31Aを最外面に配置することも好ましい。
また、粘着剤層を備える場合、
図2(b)に示すように、粘着剤層33を備える耐火材層31Aを最外面に配置する構成とすることも好ましい。この場合には、樹脂として、クロロプレンゴムやポリフェニレンオキシドなどの含有量を相対的に増やしたり、熱膨張性層状無機物の含有量を増やしたりして、耐火剤層自体の耐火性能を向上させやすくなる。
【0075】
以上の構成により、耐火積層体3とは別部材としての固定部材を使用しなくても、耐火積層体3を後述する仕切り部11(
図3参照)などの他の部材に容易に固定させることができる。また、耐火材層自体に粘着性を持たせることで、粘着剤層を設けなくてもよいので、耐火積層体3の構成をより簡素化できる。なお、耐火積層体3は、その最外面に粘着性を有する耐火材層、又は粘着剤層が設けられる場合、その最外面に剥離シートが貼付されてもよい。剥離シートは、使用時に最外面から剥離されるとよい。
【0076】
なお、
図2に示す耐火積層体は、一例であり、粘着剤層を最外層に設けたり、粘着性を有する耐火層を最外層に設けたりする場合の構成は
図2に示す構成に限定されず、耐火剤層/基材の2層構造であってもよいし、耐火剤層/基材/粘着剤層や、基材/耐火剤層/粘着剤層の3層構造などであってもよい。
また、多層構造において、シート状部材3は、その全体において同じ層構成を有していてもよいが、部分的に異なる構造を有してもよい。例えば、基材と耐火材層との層構成が一部で変更されていてもよい。
【0077】
<製造方法>
本発明の耐火性樹脂組成物は、例えば下記のようにして製造することができる。まず、所定量の耐火性添加剤などの特定の添加剤、熱膨張性層状無機物、樹脂、及びその他の必要に応じて配合される添加剤を、混練ロールなどの混合機で混合して、耐火性樹脂組成物を得る。混合時の温度は、100~150℃であることが好ましい。混合時の温度を前記下限値以上とすることにより、各成分を均一に混合しやすくなる。また、混合時の温度を前記上限値以下とすることにより、混合中に熱膨張性層状無機物が膨張することを防止することができ、良質な耐火材を提供することができる。なお、耐火性樹脂組成物は、適宜溶剤が添加されて、希釈されてもよい。
【0078】
上記のように得られた耐火性樹脂組成物は、所定の形状に成形されて耐火材とするとよい。具体的には、押出成形、プレス成形などによりシート状の耐火材とするとよい。また、溶剤に希釈された耐火性樹脂組成物は、基材、剥離シートなどの支持体に塗布し、適宜乾燥などすることで、支持体の一方の面上に耐火材を形成するとよい。剥離シート上に形成された耐火材は、剥離シートから剥離することで、耐火材単層からなるシート状の耐火材とするとよい。
また、剥離シートから剥離した後に別の層上に積層することで、多層構造の耐火積層体を得るとよい。また、剥離シート上、又は他の支持体上に積層された状態のまま、他の層に積層されてもよい。
【0079】
本発明の耐火性樹脂組成物は、建築物の防火構造に用いられ、特に壁等の仕切り部において、ケーブル類、配管類などの長尺の挿通体を通すための、区画貫通部の防火構造に用いられることが好ましい。すなわち、区画貫通部において、いずれかの区画で火災が発生した際に、他の区画への延焼を防止するための耐火材として使用することが好ましい。
また、本発明の耐火性樹脂組成物は、区画貫通処理構造において、区画貫通処理材として好適に用いることができる。
【0080】
[区画貫通処理構造]
以下、本発明の耐火性樹脂組成物が耐火材として区画貫通処理構造に適用される具体例を図面しつつ詳細に説明する。
区画貫通処理構造は、
図3に示すように、建築物の仕切り部11に形成され、かつ内部に長尺の挿通体21が挿通される区画貫通部15を耐火構造とする区画貫通処理構造である。
区画貫通処理構造において、耐火材は、シート状部材3として、区画貫通部15に施工され、区画貫通処理構造10を形成するための区画貫通処理材の少なくとも一部として使用される。
なお、本明細書においては、
図3に示すように、区画貫通部15に施工され、区画貫通処理構造10を形成するための部材(シート状部材3、及びこれらを固定するための固定部材など)を纏めて区画貫通処理材ということがある。
【0081】
区画貫通処理構造における仕切り部11は、建築物の壁面において区画間(第1の区画Aと、第2の区画B)を仕切る部材であり、仕切り部11の一方の外面11A側から他方の外面11B側に貫通する区画貫通部15を有する。
図3で示す仕切り部11は、中空壁であり、間隔(中空部13)を介して配置される2枚の壁材(仕切り材)12A,12Bから構成される。そのため、区画貫通部15は、一方の壁材12Aに形成された貫通孔13Aと、他方の壁材12Bに形成された貫通孔13Bと、これらの間にある中空部13によって構成される。そして、一方の壁材12Aの外面が仕切り部11の外面11Aを構成し、他方の壁材12Bの外面が仕切り部11の外面11Bを構成する。貫通孔13A,13Bは、例えば、円形、楕円形、又は、これらに近似する形状を有すればよい。なお、外面11A、11Bそれぞれにおいて貫通孔13A,13Bは、仕切り部11に設けられた区画貫通部15の開口13C,13Dを構成する。
【0082】
以下では、仕切り部11の一方の開口13C側における区画貫通処理構造の構成について説明するが、本実施形態では、他方の開口13D側における区画貫通処理構造の構成も同様であるのでその説明は省略する。
【0083】
区画貫通処理構造10は、区画貫通処理材として、シート状部材3と、カバー部材5とを備え、シート状部材3が前記したように、基材と耐火材層が一体化した耐火材である。シート状部材3は、上記した耐火材を備える部材であり、耐火材単層からなってもよいが、
図3においては、耐火積層体である構造を示す。
【0084】
〔シート状部材〕
耐火材(シート状部材3)は、
図3に示すように、挿通体21が内部に挿通されるためのスリット32を有し、スリット32の少なくとも1つがシート状部材3の外縁まで延在する。スリット32は、切込みにより形成される。シート状部材3は、外縁まで延在するスリット32を介して、挿通体21をシート状部材3の内部に挿入させることが可能である。なお、スリット32は、挿通体21が内部に挿通されるための孔と、孔からシート状部材3の外縁まで延在するスリット32とを有する形態であってもよい。
【0085】
スリット32によって挿通体21が挿入されたシート状部材3は、
図4に示すように、仕切り部11の外側から、開口13Cと挿通体21の間の間隙13Eを覆うように、外面11A上に配置され、それにより、開口13Cと挿通体21の間の間隙13Eがシート状部材3により塞がれる。シート状部材3は、仕切り部11の外面11A及び挿通体21の外周の両方に接するように配置されることが好ましい。シート状部材3が、挿通体21及び仕切り部11に接するように設置されることで、仕切り部11の開口13Cを塞ぐことができ、耐火性能を向上させ、維持することができる。
【0086】
シート状部材3(耐火材又は耐火積層体)の詳細は上記の通りであるが、シート状部材3を使用することで、耐火パテ、ロックウールなどの充填材を区画貫通部15の内部に配置することなく、耐火構造が形成されるので、作業者によるバラつきが生じることもない。
さらに、シート状部材3に複数の耐火材層が積層されている場合、膨張した仕切り部11側の耐火材層が間隙13E内部に埋め込まれ、シート状部材3が膨張する際に仕切り部11から離れるのを防止し、上記したずれがより生じにくくなる。一方で、仕切り部11から離れた位置にある耐火材層は、均等に膨張して、その膨張残渣により延焼を適切に防止できるとよい。
【0087】
シート状部材3に耐火材層が複数ある場合、仕切り部11の外面11Aから最も離れた耐火材層の膨張倍率が、仕切り部11の外面11Aから最も近接した耐火材層の膨張倍率より高くなることが好ましい。すなわち、
図1(b),(c)におけるシート状部材3では、図の右側を仕切り部11側とすると、耐火材層31Bの膨張倍率が、耐火材層31Aの膨張倍率より高くなることが好ましい。そして、少なくとも耐火材層31Bが、本発明の耐火性樹脂組成物からなるとよい。本発明の耐火性樹脂組成物は膨張倍率が高くできるため、耐火材層31Bの材料として好適である。
このように、仕切り部11側の耐火材層の膨張倍率が低いと、膨張残渣の強度が高く維持され、間隙13E内部に埋め込まれた耐火材層によりシート状部材3が適切に支持され、ズレがより一層生じにくくなる。また、仕切り部11から離れた位置の耐火材層は、加熱により十分に膨張して、より高い耐火性能を発揮しやすくなる。
【0088】
なお、耐火材層が3層以上である場合には、仕切り部11の外面11Aから離れた耐火材層をより良好に略均一に膨張させるために、仕切り部11の外面11Aから離れた耐火材層ほど、膨張倍率を高くすることが好ましい。
【0089】
シート状部材3は、
図2(a)に示すように、粘着性を有する耐火材層31Aを最外面に配置する場合には、粘着性を有する耐火材層によって仕切り部11の外面11Aに接着させればよい。
また、
図2(b)に示すように、粘着剤層33を備える耐火材層31Aを最外面に配置する構成とする場合には、粘着剤層によって仕切り部11の外面11Aに接着させればよい。
また、シート状部材3は、タッカー、ビスなどのシート状部材3とは別部材である固定部材によって仕切り部11の外面11Aに固定されるとよい。もちろん、これらの2以上の組み合わせにより、シート状部材3は、仕切り部11に固定されてもよい。
【0090】
〔カバー部材〕
カバー部材5は、シート状部材3に連結するように設けられ、仕切り部11に設けられたシート状部材3を覆う部材である。カバー部材5は、例えば、
図3に示すように、シート状部材3の4辺縁に連結するように4枚使用し、シート状部材3から外側に向かって延在する4つの延在部とし、
図4に示すように、仕切り部11に設けられたシート状部材3を覆う。カバー部材5がシート状部材3の少なくとも一部に連結するように設けられる手段としては、例えば、接着剤、粘着剤及び粘着テープ、並びに、タッカー、ビス等の固定部材などの公知の固定手段によって固定される手段が挙げられる。ここで、接着剤、粘着剤及び粘着テープは、不燃材料、準不燃材料又は難燃材料のいずれかであることが好ましく、接着剤、粘着剤などに難燃剤などを配合するとよい。
カバー部材5は、シート状であり、かつ、変形できることで、シート状部材3を容易に覆うことが可能である。
【0091】
カバー部材5は、
図4に示したように、区画貫通部15の開口13Cを覆う部分が、挿通体21を接するように包囲し、かつ外側から巻かれた紐状部材22によって挿通体21に固定される。紐状部材22は、曲げることができる部材であればよく、ワイヤを含むワイヤ部材であることが好ましい。ワイヤ部材は、金属製のワイヤ単独でもよいし、ねじりっこ(登録商標)などの金属製のワイヤを樹脂で被覆した樹脂被覆ワイヤ、モールなどと呼ばれるワイヤと繊維を絡ませたものなどでもよい。ワイヤ部材を使用すると、ひねったり、ねじったりするだけで、カバー部材5を挿通体21に固定できる。
【0092】
カバー部材5は、シート状部材3の一部を覆い、シート状部材3の一部を外部から視認不可能とするとよい。具体的には、シート状部材3の挿通体21が挿通される部分を覆うとよく、それにより、区画貫通部15のデザイン性を良好とすることができ、かつ、区画貫通部15の耐火性能を向上させることができる。
一方で、カバー部材5は、シート状部材3の一部を外部から視認可能なように覆うとよい。具体的には、カバー部材5は、
図4に示すように、シート状部材3の端面3Cを外部から視認可能とするとよい。カバー部材5が設置された状態で、シート状部材3の端面3Cを外部から視認可能とすることで、シート状部材3が区画貫通部15に設置されていることの視認検査を簡便に行うことができる。
【0093】
カバー部材5は、シート状部材3及び挿通体21に接するように設置されることが好ましい。カバー部材5が、シート状部材3及び挿通体21に接するように設置されることで、シート状部材3及びカバー部材5によって仕切り部11の開口13Cを塞ぐことができ、耐火性能を向上させることができる。
【0094】
カバー部材5は、シート状部材3との間に空隙40を形成するように設置する。シート状部材3とカバー部材5との間に空隙40があることで、カバー部材5は、挿通体21の軸方向の動きに対する裕度を持って固定される。カバー部材5が裕度を持って挿通体21に固定されることで、シート状部材3及びカバー部材5の設置後に、シート状部材3及びカバー部材5の内側に配置された挿通体21を軸方向に動かした場合であっても、カバー部材5の裕度によってシート状部材3及びカバー部材5が挿通体21と一緒に動いてしまうことを緩衝する。シート状部材3及びカバー部材5が挿通体21と一緒に動いてしまうことを緩衝することで、シート状部材3及びカバー部材5が区画貫通部15からずれることを抑制することができる。つまり、このような構成とすることで、シート状部材3及びカバー部材5を区画貫通部15における適切な位置に維持して配置し続けることができ、区画貫通部15の耐火性を維持することができる。
シート状部材3とカバー部材5との間に空隙40があり、カバー部材5が挿通体21の軸方向の動きに対して裕度を持って固定される構成としては種々の形態を取り得る。例えば、カバー部材5の少なくとも一部が屈曲ないし湾曲できるような柔軟性や伸縮性を有する材料による構成、及び、カバー部材5の少なくとも一部が挿通体21に対してたるみを有するように固定する構成等が挙げられる。
【0095】
カバー部材5は、耐火性のある材料の単層からなってもよいし、不燃材料層単層からなってもよいし、耐火材層及び不燃材料層の両方を有してもよいが、不燃材料層を有することが好ましく、不燃材料層からなることがより好ましい。また、耐火材層及び不燃材料層以外の層を有してもよく、そのような層としては、例えば、不燃材料以外の材料より構成される材料層、粘着剤層などが挙げられる。
カバー部材5としては、好ましくは、アルミニウム箔などの金属箔、ガラスクロス、アルミガラスクロスなどの金属箔とガラスクロスの複合体である金属箔複合体などが挙げられる。これらは不燃材料層を構成する。これらのなかでは、耐火性の観点からアルミガラスクロスがより好ましい。
不燃材料層の厚みは、特に限定されないが、例えば0.01~1mm、好ましくは0.05~0.5mmである。不燃材料層がこれら上限値以下の厚みを有することで、カバー部材5に柔軟性が付与される。したがって、カバー部材5は、例えば、不燃材料層を有していても、挿通体21の外周に密着させながら巻き付けることができる。また、下限値以上の厚みを有することで、耐火性能を確保しやすくなる。
【0096】
カバー部材5は、上記のとおり、シート状部材3を覆うように変形可能なシートであるとよいが、柔軟性が付与され、変形が容易なようにシート状部材3よりも厚みが小さいことが好ましい。カバー部材5の厚みは、特に限定されないが、例えば0.01~1mm、好ましくは0.05~0.5mmである。
【0097】
カバー部材5に使用される耐火材層は、加熱により膨張する熱膨張性部材であることが好ましい。熱膨張性部材は、火災時に膨張することで火災の延焼を防止する。熱膨張性部材は、上記した熱膨張性樹脂組成物により形成されることが好ましい。また、耐火材層は、粘着性を有してもよい。
なお、耐火材層の厚みは、特に限定されないが、例えば0.01~1mm、好ましくは0.05~0.5mmである。耐火材層がこれら上限値以下の厚みを有することで、カバー部材5に柔軟性が付与される。したがって、カバー部材5が耐火材層を有していても、挿通体21の外周に巻き付けることができる。また、下限値以上の厚みを有することで、耐火性能を確保しやすくなる。
【0098】
カバー部材5は、粘着性を有する耐火材層を有するか、又は粘着剤層を有してもよい。粘着性を有する耐火材層、及び粘着剤層は、カバー部材5において最外面を構成するとよい。
以上の構成により、カバー部材5とは別部材としての固定部材を使用しなくても、カバー部材5をシート状部材3又は挿通体21に固定させることができる。また、耐火材層自体に粘着性を持たせることで、粘着剤層を設けなくてもよいので、カバー部材5の構成をより簡素化できる。
なお、カバー部材5は、その最外面に粘着性を有する耐火材層、又は粘着剤層が設けられる場合、その最外面に剥離シートが貼付されてもよい。剥離シートは、使用時に最外面から剥離されるとよい。
【0099】
区画貫通処理構造10の施工方法は、仕切り部11に設けられる区画貫通部15の開口13Cと挿通体21との間の間隙13Eの少なくとも一部を塞ぐように上述したシート状部材3を設置する工程を含む。そして、シート状部材3に設置されたカバー部材5によってシート状部材3を覆い、カバー部材5の一部を挿通体21に固定することで施工できる。したがって、その施工が容易である。
【0100】
施工に使用するシート状部材3とカバー部材5は別体であってもよく、別体である場合は、シート状部材3を仕切り部11に設置した後に、シート状部材3にカバー部材5を接着させて設置し、設置されたカバー部材5によってシート状部材3を覆うことで施工できる。また、施工に使用するシート状部材3とカバー部材5は、予めシート状部材3及びカバー部材5が接着された一体物であってもよい。
【0101】
以上の本実施形態の構成によれば、区画貫通部15の開口13C内部の間隙13Eが、シート状部材3及びカバー部材5により塞がれ、かつこれらうち少なくともシート状部材3が耐火材を有する。したがって、区画貫通部処理構造10に適切な耐火性能を付与できる。
また、本実施形態では、耐火パテ、ロックウールなどの充填材を区画貫通部15の内部に配置することなく、シート状部材3及びカバー部材5により耐火構造が形成されるので、作業者によるバラつきが生じることもない。
【0102】
さらに、本実施形態では、少なくともシート状部材3及びカバー部材5の少なくとも一部が露出しており、外部から視認可能である。また、シート状部材3やカバー部材5を固定するための固定部材が設けられる場合、固定部材も外部から視認可能な位置に配置するとよい。そして、区画貫通部15の内部には、挿通体21以外の部材が何も設けられない。そのため、区画貫通処理材は、規定通り施工されたことが目視や写真撮影により簡単に点検できる。また、施工忘れなども発生にくくなる。
【0103】
粘着剤層は、粘着剤により形成されるとよく、粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤等を用いることができる。粘着剤層は、不燃性、準不燃性、又は難燃性であってもよく、使用する粘着剤に難燃剤などを配合してもよい。粘着剤層の厚みは、例えば5~400μm、好ましくは10~150μmである。
カバー部材5の一面5Aに粘着剤層を有する構成とすることにより、カバー部材5とは別部材としての固定部材を使用しなくても、カバー部材5を挿通体21に固定させることができる。
なお、カバー部材5は、一面5Aに粘着剤層が設けられる場合、一面5Aに剥離シートが貼付されてもよい。剥離シートは、使用時に一面5Aから剥離されるとよい。
【0104】
カバー部材5は、挿通体21の外周に追従することが可能な柔軟性を有する弾性発泡体で構成される。弾性発泡体としては、具体的には、オレフィン系樹脂発泡体及びウレタン系樹脂発泡体等が挙げられる。
弾性発泡体の厚みは、特に限定されないが、例えば0.1~10mm、好ましくは0.15~5mmである。弾性発泡体がこれら上限値以下の厚みを有することで、カバー部材5に柔軟性が付与される。したがって、カバー部材5は、挿通体21の外周に密着させながら巻き付けることができる。また、下限値以上の厚みを有することで、カバー部材5の配設が容易となる。
【0105】
以上の本実施形態の構成によれば、区画貫通部15の開口13C内部の間隙13Eが、シート状部材3及びカバー部材5により塞がれ、かつこれらのうち少なくともシート状部材3が、耐火材を有する。したがって、区画貫通部処理構造10に適切な耐火性能を付与できる。
また、上記で説明した通り、区画貫通処理構造10は、シート状部材3とカバー部材5とを用意し、まず、シート状部材3により区画貫通部15の開口13Cと挿通体21との間の間隙13Eを塞ぐように設置する。次いで、挿通体21に一周以上カバー部材5を巻き付け、カバー部材5によって、シート状部材3を少なくとも一部を覆うように固定することで施工できる。したがって、その施工が容易である。
また、本実施形態では、耐火パテ、ロックウールなどの充填材を区画貫通部15の内部に配置することなく、シート状部材3及びカバー部材5により耐火構造が形成されるので、作業者によるバラつきが生じることもない。
【0106】
また、以上の説明では、仕切り部11は、内部に中空部13がある中空壁であったが、中空壁に限定されず、中空が設けられない壁であってもよく、例えば1枚の壁材からなるものでもよい。また、仕切り部11は、建築物の壁に限定されず、建築物の天井、床であってもよい。仕切り部は、天井、床の場合でも、2枚の仕切り材の間に中空部を有する構造であってもよいし、中空部がない構造であり、例えば1枚の仕切り材から構成されてもよい。
【0107】
カバー部材5は、上記態様に限定されない。例えば、
図3で示した区画貫通処理構造10では、カバー部材5は、シート状部材3から外側に向かって延在する4つの延在部とする態様を示したが、シート状部材3よりも一回り大きい1枚のシート状の部材でもよい。
また、
図4で示した区画貫通処理構造10では、シート状部材3の面3Aの一部分のみにカバー部材5が接着される態様を示したが、シート状部材3よりも一回り大きい1枚のシート状のカバー部材5を使用する場合は、シート状部材3の面3A全体にカバー部材5が接着する態様とすることができる。すなわち、カバー部材5の一方の面上に、シート状部材3が積層される構造を有してもよい。このような構造においては、カバー部材5が不燃材料層を有することが好ましい。シート状部材3とカバー部材5が不燃材料層及び耐火材層の組み合わせとすることにより、耐火性を向上させることができる。また、カバー部材5のシート状部材3が接着される面には、粘着剤層が設けられてもよく、この粘着剤層により容易にシート状部材3に接着可能となる。
また、シート状部材3は、シート状部材3の1層である基材を、他の層より外側に延在する構造にしてもよい。そのような構造によれば、基材の延在する部分をそのままカバー部材5として使用することができる。
また、
図3及び
図4で示した区画貫通処理構造10では、シート状部材3とカバー部材5とをそれぞれ備える態様を示したが、カバー部材5は省略されてもよい。
また、区画貫通処理構造において、シート状部材は、仕切り部の開口を覆うように配置されたが、そのような態様に限定されず、例えば、スリーブ形状に曲げられて、区画貫通部15に挿入されて使用されてもよい。
【実施例】
【0108】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例及び比較例で用いた各成分を下記に示す。
【0109】
(樹脂)
・PVB(積水化学工業社製、製品名「BH-3」、水酸基量35モル%、アセタール化度64モル%、アセチル基量1モル%)
・ポリブデン(ENEOS社製、製品名「日石ポリブテン LV-100」、数平均分子量500)
・クロロプレンゴム(東ソー社製、製品名「SKYPRENE B-12」、100℃におけるムーニー粘度35)
・天然ゴム(ソクテック社製、製品名「HAラテックス」、100℃におけるムーニー粘度121)
・ブチルゴム(JSR社製、製品名「JSR BUTYL 365」、125℃におけるムーニー粘度33)
・スチレン・ブタジエンゴム(旭化成社製、製品名「タフデン 2003」、100℃におけるムーニー粘度33)
・ニトリル・ブタジエンゴム(JSR社製、製品名「N520」、100℃におけるムーニー粘度51)
・エチレンプロピレンゴム(住友化学工業社製、製品名「エスプレン532」、100℃におけるムーニー粘度110)
・クロロスルフォン化ポリエチレン(東ソー社製、製品名「TOSO-CSM(登録商標) TS-430」、100℃におけるムーニー粘度58)
・エピクロロヒドリンゴム(ダイソー社製、製品名「エピクロマーH」、100℃におけるムーニー粘度50)
・アクリルゴム(日本ゼオン社製、製品名「Nipol AR51」、100℃におけるムーニー粘度55)
・ポリフェニレンオキシド(旭化成社製、製品名「Xyron S202」)
・石油樹脂(出光興産社製、製品名「アイマーブ」)
【0110】
(熱膨張性層状無機物)
・熱膨張性黒鉛1(ADT社製、製品名「ADT-351」、熱膨張開始温度:180℃)
・熱膨張性黒鉛2(エアウォーター社製、製品名「SS-3N」、熱膨張開始温度:200℃)
・熱膨張性黒鉛3(富士黒鉛工業社製、製品名「EXP-50S 150」、熱膨張開始温度:150℃)
【0111】
(特定の添加剤)
<難燃剤>
・亜リン酸アルミニウム(太平化学産業社製、製品名「APA100」)
・ポリリン酸アンモニウム(太平化学産業社製、製品名「APP」)
<吸熱剤>
・水酸化アルミニウム(日本軽金属社製、製品名「BF013」、平均粒子径1μm、熱分解開始温度200℃、吸熱量1000J/g)
・水酸化マグネシウム(協和化学工業社製、製品名「キスマ10」、平均粒子径0.9μm、熱分解開始温度280℃、吸熱量1350J/g)
<滑剤>
・アクリル酸ブチル系オリゴマー(ADEKA社製、製品名「アデカスタブ FC-113」)
・モノオクタデシルリン酸エステルとジオクタデシルリン酸エステルの混合物(ADEKA社製、製品名「アデカスタブ AX-71」)
<無機充填材>
・炭酸カルシウム(白石カルシウム社製、製品名「BF300」)
・カーボンブラック(三菱ケミカル社製、製品名「ダイヤブラックH」)
【0112】
(可塑剤)
・ジイソデシルフタレート(東京化成社製、商品名「DIDP」)
・アジピン酸エーテルエステル(ADEKA社製、製品名「RS-107」)
・ポリエーテルエステル(ADEKA社製、製品名「RS-700」)
【0113】
各物性の測定方法及び評価方法は以下のとおりである。
(熱膨張開始温度)
300℃に設定したホットプレート上に2cm角の耐火材を載せて、初期厚みの2倍になった時の温度を熱膨張開始温度とした。
【0114】
(膨張倍率)
各実施例及び比較例で得られた耐火性樹脂組成物からなる耐火材の試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ2.0mm)を作製し、該試験片を電気炉に供給し、300℃又は600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)を膨張倍率として算出した。
【0115】
(残渣硬さ)
加熱後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製、「フィンガーフイリングテスター」)に供給し、0.25cm2の圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し、破断点応力を測定した。
【0116】
(残渣維持率)
300℃及び600℃で膨張倍率を測定した加熱後の試験片の重量を測定した。試験片をISO834の加熱曲線に沿って水平炉内で1時間加熱した。加熱後の試験片重量を測定した。加熱試験前に対する加熱試験後の試験片重量残存率(%)を算出し、残渣の耐久性の尺度とした。
【0117】
(耐火試験)
コンクリート製の躯体に直径160mmの開口を開け、PVC100のVU管(外径114mm、厚み3.1mm、JIS規格K6741)を通して配管し、床下側に300mm、床上側500mmに出した。各実施例、比較例で得られた耐火材をスリーブ形状に曲げ、開口に設置した。スリーブと配管との間の各クリアランスが10mm以上となるように配管の位置調整を行い、ISO834の加熱曲線に沿って水平炉内で2時間加熱した。床上25mmの貫通パイプ温度が、初期温度+180℃未満且つ貫通して炎出がない場合を合格(PASS)と評価し、初期温度+180℃以上又は床上パイプが貫通して炎出する場合を不合格(FAIL)と評価した。
【0118】
[実施例1~6、比較例1~4]
下記表1に示す配合にて、樹脂、熱膨張性層状無機物、難燃剤、吸熱剤、滑剤、無機充填材、可塑剤、石油樹脂をロールに投入して130℃で5分間混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物をプレス成型により、130℃で3分間プレス成形して、厚み1.5mm(実施例23は厚み1.3mm)の熱膨張性シートを得た。
評価結果を表1に示す。
【0119】
【0120】
以上の各実施例に示すように、本発明の耐火性樹脂組成物を用いた耐火材は、十分な膨張倍率を有し、残渣硬さ及び残渣維持率も良好であったため、耐火試験においても、貫通して炎出が生じることはなかった。
一方、比較例で作製された耐火材は、残渣硬さ及び残渣維持率が低くなったり、高温下でも膨張しなかったりして、いずれも、耐火試験の結果貫通して炎出が生じた。
【符号の説明】
【0121】
3 シート状部材
5 カバー部材
10 区画貫通処理構造
11 仕切り部
12A,12B 壁材
13 中空部
13A,13B 貫通孔
13C,13D 開口
13E 間隙
15 区画貫通部
21 挿通体
22 紐状部材
30A,・・・30Y,30Z 基材
31A,・・・31Y,31Z 耐火材層
32 スリット
33 粘着剤層
40 空隙