(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】焼灼中の心臓壁組織の厚さの測定
(51)【国際特許分類】
A61B 18/12 20060101AFI20250210BHJP
【FI】
A61B18/12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021038183
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2024-01-25
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレス・クラウディオ・アルトマン
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0043189(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0062547(US,A1)
【文献】特表2019-517832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/287
A61B 18/12 - A61B 18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼灼を受けている心臓組織の厚さを推定するための
プロセッサの作動方法であって、
損傷を形成するために、
プローブにより前記心臓組織の領域に
印加された焼灼パルスシーケンス内の所与の焼灼パルスについて、
前記プロセッサが、前記所与の焼灼パルスに起因して前記損傷に追加された増分深さを推定する工程と、
前記プロセッサが、前記所与の
焼灼パルスの前の累積深さ、及び前記増分深さに基づいて、前記損傷の累積深さを推定する工程と、
前記プロセッサが、前記所与の焼灼パルスを印加した後の前記領域における電位図信号の振幅を評価する工程と、
前記プロセッサが、前記振幅が所定の閾値を超える場合、前記厚さの推定値を少なくとも前記累積深さに設定する工程と、を含む、
プロセッサの作動方法。
【請求項2】
前記プロセッサが、前記電位図信号の前記振幅が所定の値を下回ることを検出することに応答して、
前記プロセッサが、前記焼灼パルスシーケンスを終了する工程を含む、請求項1に記載の
プロセッサの作動方法。
【請求項3】
前記所定の値が前記所定の閾値に等しい、請求項2に記載の
プロセッサの作動方法。
【請求項4】
前記プロセッサが電位図信号の前記振幅を評価する工程が、
前記プロセッサが前記焼灼パルス間のインターバル中に前記振幅を測定する工程を含む、請求項1に記載の
プロセッサの作動方法。
【請求項5】
前記プロセッサが前記焼灼パルスシーケンスを印加する工程が、
前記プロセッサが、予想される増分深さが予め定められた増分値よりも小さいように、前記
焼灼パルスシーケンスを計画する工程を含む、請求項1に記載の
プロセッサの作動方法。
【請求項6】
前記プロセッサが、前記厚さの前記推定値を設定した後に、
前記プロセッサが、前記焼灼パルスシーケンスを変更して、次の焼灼工程によって引き起こされる前記増分深さを変更する工程を含む、請求項1に記載の
プロセッサの作動方法。
【請求項7】
前記プロセッサが前記電位図信号の前記振幅を評価する工程が、
前記プロセッサが、前記焼灼パルスを印加するために使用される同じ電極を使用して前記電位図信号を測定する工程を含む、請求項1に記載の
プロセッサの作動方法。
【請求項8】
前記プロセッサが前記焼灼パルスを印加する工程が、
前記プロセッサが、不可逆的電気穿孔法(IRE)パルスを印加する工程を含む、請求項1に記載の
プロセッサの作動方法。
【請求項9】
前記プロセッサが前記焼灼パルスを印加する工程が、
前記プロセッサが、高周波(RF)焼灼を印加する工程を含む、請求項1に記載の
プロセッサの作動方法。
【請求項10】
焼灼を受けている心臓組織の厚さを推定するためのシステムであって、
損傷を形成するために、プローブが前記心臓組織の領域に印加するための焼灼パルスシーケンスを出力するように構成されたインターフェースと、
前記
焼灼パルスシーケンス内の所与の焼灼パルスについて、
前記所与の焼灼パルスに起因して前記損傷に追加された増分深さを推定し、
前記所与の
焼灼パルスの前の累積深さ、及び前記増分深さに基づいて、前記損傷の累積深さを推定し、
前記プローブが前記所与の焼灼パルスを印加した後の前記領域における電位図信号の振幅を評価し、前記振幅が所定の閾値を超える場合、前記厚さの推定値を少なくとも前記累積深さに設定するように構成された、プロセッサと、を備えている、システム。
【請求項11】
前記プロセッサが、前記電位図信号の前記振幅が所定の値を下回ることを検出することに応答して、前記焼灼パルスシーケンスを終了するように更に構成されている、請求項
10に記載のシステム。
【請求項12】
前記所定の値が前記所定の閾値に等しい、請求項
11に記載のシステム。
【請求項13】
前記プロセッサが、前記焼灼パルス間のインターバル中に前記振幅を測定することによって、電位図信号の前記振幅を評価するように構成されている、請求項
10に記載のシステム。
【請求項14】
前記プロセッサが、予想される増分深さが予め定められた増分値よりも小さいように、前記
焼灼パルスシーケンスを計画するように構成されている、請求項
10に記載のシステム。
【請求項15】
前記プロセッサが、前記厚さの推定値を設定した後に、前記焼灼パルスシーケンスを変更して、次の焼灼工程によって引き起こされる前記増分深さを変更するように構成されている、請求項
10に記載のシステム。
【請求項16】
前記プロセッサが、前記焼灼パルスを印加するために使用される同じ電極を使用して前記電位図信号を測定することによって、前記電位図信号の前記振幅を評価するように更に構成されている、請求項
10に記載のシステム。
【請求項17】
前記インターフェースが、不可逆的電気穿孔法(IRE)パルスを出力するように構成されている、請求項
10に記載のシステム。
【請求項18】
前記インターフェースが、高周波(RF)焼灼パルスを出力するように構成されている、請求項
10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、心臓の感知及び焼灼、特に、焼灼を受けている心臓壁組織の特性を推定することに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓壁の厚さを推定するために、超音波、蛍光透視法、及びMRI撮像などの、多数の方法が使用され得る。推定された壁厚は、心臓壁組織の損傷を推定するために、電気物理信号と更に相関することができる。例えば、Takeshi Sasakiらは、「Myocardial Structural Associations with Local Electrograms:A Study of Post-Infarct Ventricular Tachycardia Pathophysiology and Magnetic Resonance Based Non-Invasive Mapping」、Circulation Arrhythmia and Electrophysiology、December、2012、5(6):1081-1090において、MRIで見られる左心室の壁厚、梗塞後の瘢痕の厚さ、及び壁内の瘢痕の位置の間の有意な関連性、並びに、電気解剖学的マッピング上の局所心内膜電位図バイポーラ/ユニポーラ電圧、持続時間、及び偏向の間の有意な関連性について記載している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の一実施形態は、焼灼を受けている心臓組織の厚さを推定するための方法を提供し、(a)損傷を形成するために、心臓組織の領域に焼灼パルスシーケンスを印加する工程と、(b)シーケンス内の所与の焼灼パルスについて、所与の焼灼パルスによる損傷に追加された増分深さを推定する工程と、を含む。損傷の累積深さは、所与のパルスの前の累積深さ、及び増分深さに基づいて推定される。所与の焼灼パルスを印加した後の領域における電位図信号の振幅を評価し、振幅が所定の閾値を超える場合、厚さの推定値は、少なくとも累積深さとなるように設定される。
【0004】
いくつかの実施形態では、方法は、電位図信号の振幅が所定の値を下回ることを検出することに応答して、焼灼パルスシーケンスを終了する工程を更に含む。いくつかの実施形態では、所定の値は、所定の閾値に等しい。
【0005】
一実施形態では、電位図信号の振幅を評価する工程は、焼灼パルス間のインターバル中に振幅を測定する工程を含む。別の実施形態では、工程は、プロセッサ制御下で自動的に実行される。
【0006】
いくつかの実施形態では、焼灼パルスシーケンスを印加する工程は、予想される増分深さが予め定められた増分値よりも小さいように、シーケンスを計画することを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、方法は、厚さの推定値を設定した後に、焼灼パルスシーケンスを変更して、次の焼灼工程によって引き起こされる増分深さを変更する工程を更に含む。
【0008】
一実施形態では、電位図信号の振幅を評価する工程は、焼灼パルスを印加するために使用される同じ電極を使用して電位図信号を測定する工程を含む。別の実施形態では、焼灼パルスを印加する工程は、不可逆的電気穿孔法(IRE)パルスを印加する工程を含む。
【0009】
更に別の実施形態では、焼灼パルスを印加する工程は、高周波(RF)焼灼を印加する工程を含む。
【0010】
本発明の別の実施形態によれば、焼灼を受けている心臓組織の厚さを推定するためのシステムが更に提供される。システムは、インターフェース及びプロセッサを備える。インターフェースは、損傷を形成するために、プローブが心臓組織の領域に印加するための焼灼パルスシーケンスを出力するように構成されている。プロセッサは、シーケンス内の所与の焼灼パルスについて、(i)所与の焼灼パルスに起因して損傷に追加された増分深さを推定し、(ii)所与のパルスの前の累積深さ、及び増分深さに基づいて損傷の累積深さを推定し、及び(iii)所与の焼灼パルスを印加した後の領域における電位図信号の振幅を評価し、振幅が所定の閾値を超える場合、厚さの推定値を少なくとも累積深さに設定するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以下の本開示の実施形態の詳細な説明を図面と併せ読むことで、本開示のより完全な理解が得られるであろう。
【
図1】本発明の例示的な実施形態による、不可逆的電気穿孔法(IRE)治療及び電位図感知のためのカテーテルベースのシステムの概略図である。
【
図2】本発明の例示的な実施形態による、焼灼持続時間の関数として損傷部位の位置における損傷深さ及び電位図信号振幅を概略的に示すグラフである。
【
図3】本発明の例示的な実施形態による、
図1のシステムを使用して焼灼を受けている心臓壁組織の厚さを推定するための方法を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
概論
焼灼処置を受けている患者の心臓組織の損傷は、不可逆的電気穿孔法(irreversible electroporation、IRE)を使用するか、カテーテルを使用して印加できる高周波(RF)などの他のタイプの焼灼エネルギーを使用して形成できる。IREアブレーションでは、カテーテルの遠位端上に配設される電極が組織と接触するように、カテーテルが操作される。次いで、電極間に高電圧双極パルスが印加され、組織内で生成された強電界パルスが細胞死及び損傷生成を引き起こす。RFアブレーションでは、交互のRF電流が、1つ又は2つ以上の電極によって組織に適用され、熱によって細胞死を引き起こす。
【0013】
焼灼を受ける組織位置における壁厚の推定は、心臓壁の穿孔などの焼灼の深刻な副作用を回避するために重要であり得る。加えて、推定は、これらの位置におけるベースライン推定として推定された壁厚を使用して、近くの位置がより急速に焼灼される、焼灼処置の短縮を支援することができる。背景技術に示されるように、様々な撮像方法を使用して心臓壁厚を測定することができる。しかしながら、焼灼処置中にこのような方法を使用することは、焼灼システム及び臨床ワークフローに実質的な複雑性を追加する。
【0014】
以下に記載される本発明の例示的な実施形態は、焼灼を受ける壁組織の厚さを推定するために、心臓組織からリアルタイムに電位図を獲得し、分析するためのシステム及び方法を提供する。開示されたシステムは、自動段階的焼灼/推定プロセスを適用して、最適な損傷深さ(例えば、不整脈を除去するのに十分な最小限の損傷深さ)を達成するために使用することができる、改善された推定を達成することができる。
【0015】
いくつかの例示的な実施形態では、電位図を取得するために、IRE又はRF焼灼電極などのカテーテル焼灼電極が更に使用される。他の例示的な実施形態では、カテーテルを用いて他の種類の焼灼エネルギー(例えば、レーザー、極低温)が印加され、電位図を取得するために使用されるカテーテル上に他の検知電極が配置される。一般に、焼灼持続時間の関数としてモデル化され得る深さを有する、組織内に損傷を形成する任意のカテーテルベースの焼灼方法を、開示された焼灼/推定プロセスと共に使用することができる。
【0016】
例示的な実施形態では、開示された焼灼/推定プロセスは、焼灼の方法に関連する上記の損傷深さモデルの1つを使用して推定された必要な持続時間で、所与の持続期間の間に組織を焼灼して、予め定められた計画された深さの損傷を生成するために、プロセッサ制御システムを操作する医師が開始する。次いで、電極を使用して、焼灼された組織からの電位図信号を検出する。IRE及びRF焼灼の場合、同じ電極を使用して電位図検出を行うことができる。
【0017】
測定された電位図信号が予め定められた閾値を上回る振幅を有する場合、プロセッサは、組織厚が予め定められた損傷深さと少なくとも同じ厚さであると判定する(すなわち、プロセッサは、厚さに対する下限を設定する)。そのような場合、プロセッサは、組織を焼灼して損傷深さを増分量だけ増加させ、その後、電位図を取得して蓄積された損傷深さを再推定するために、追加の持続時間の適用を指示する。上記の工程は、電位図信号の振幅が予め定められた閾値を下回るまで繰り返され得る。
【0018】
したがって、開示された焼灼/推定プロセスが進行するにつれて、推定された壁厚の下限が徐々に成長する(この下限は、予め定められた閾値心壁組織の上に電位図信号を依然として有する組織内の蓄積された損傷深さに等しいため)。最終的に、電位図信号の振幅は、予め定められた閾値を下回る。プロセスのその時点で、プロセッサは、信号振幅を低下させる蓄積された損傷深さである壁組織厚さを推定し、応答性良くその位置での焼灼を終了する。
【0019】
医師は、計画された増分損傷深さが、安全であると見なされる予め定められた増分値よりも小さくなるように、追加の持続時間を選択することによって推定精度を制御する。
【0020】
上述のように、上記の段階的焼灼/推定プロセスは、その全体が、自動プロセッサ制御下で実行されてもよい。したがって、実際には、医師及び患者は両方とも、単一の連続的焼灼プロセスとして、開示された段階的焼灼/推定プロセス(電位図取得に必要とされるインターバルを含む)を経験する。
【0021】
開示された段階的焼灼/推定技術は、例えば、様々な数の焼灼エネルギーパルスごとの厚さを推定することによって、不均一な数の焼灼及び推定工程の使用を可能にする。したがって、例示的な実施形態では、焼灼を受ける心臓組織の厚さを推定するための方法が提供され、この方法は、損傷を形成するために、心臓組織の領域に焼灼パルスシーケンスを印加する工程と、シーケンス内の所与の焼灼パルスについて、(a)所与の焼灼パルスによって損傷部に追加された増分深さを推定する工程と、(b)所与のパルスの前の累積深さ、及び増分深さに基づいて損傷の累積深さを推定する工程と、(c)所与の焼灼パルスを印加した後の領域における電位図信号の振幅を評価する工程と、振幅が所定の閾値を超える場合、厚さの推定値を少なくとも累積深さに設定する工程と、を含む。
【0022】
いくつかの例示的実施形態では、医師又はプロセッサは、電位図信号の振幅が所定の閾値とは異なる既定値を下回ることを検出することに応答して、焼灼パルスシーケンスを終了してもよい。
【0023】
本文脈では、焼灼エネルギーのパルスを印加することはまた、極低温及びレーザーエネルギーなどの非電気エネルギーを所与の持続時間にわたって印加することも含む。
【0024】
電位図を取得して分析するための既に利用可能な能力を使用して、焼灼を受けている心臓壁組織の厚さを推定することにより、正確かつ費用効率の高い焼灼処置が可能であり得る。
【0025】
システムの説明
図1は、本発明の例示的な実施形態による、不可逆的電気穿孔法(IRE)治療及び電位図感知のためのカテーテルを用いたシステム12の概略図である。このIRE処置は、医師14により実施され、一例として、本明細書の以下の説明における処置は、ヒトの患者18の心臓の心筋16の一部のIREを含むと仮定される。
【0026】
焼灼を実行するために、医師14は、例として、患者の管腔にLasso(登録商標)カテーテル(Biosenseウェブスター、カリフォルニア州アーバイン製)のプローブ20を挿入し、それにより、プローブ20の遠位端22が患者の心臓に入る。挿入
図25及び70が示すように、遠位端22は、遠位端22の弓状部分40(例えば、ラッソー部分40)の外側に取り付けられた複数の電極53を備え、電極53は心筋の位置に接触している。電極53は、一方が他方から距離75、dだけ離間している。遠位端22はまた、力センサ45を備えており、プローブ20は近位端28も備えている。
【0027】
システム12は、装置の操作コンソール48内に位置するシステムプロセッサ46により制御される。コンソール48は、医師14がプロセッサ46と通信するために使用する制御装置49を備えている。処置中、プロセッサ46は、典型的には、例えば、患者18の外部の磁気送信機が遠位端内に配置されたコイル内に信号を生成する磁気追跡方法を使用してプローブの遠位端22の位置及び配向を追跡する。Biosense Websterにより製造されるCarto(登録商標)システムは、このような追跡方法を使用する。別の例として、遠位端22の位置及び配向は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,456,182号に記載されているBiosense Webster製のAdvanced Catheter Location(ACL)システムを使用して追跡されてもよい。ACLシステムでは、プロセッサは、複数の電極53のそれぞれと患者18の皮膚に連結されている複数の表面電極49との間で測定されたインピーダンスに基づいて、複数の電極53のそれぞれの位置を推定する。
【0028】
プロセッサ46のためのソフトウェアは、例えば、ネットワークを経由して電子的形態でプロセッサにダウンロードすることができる。代替的に又は追加的に、ソフトウェアは、光学的、磁気的、又は電子的記憶媒体などの非一時的有形媒体上で提供され得る。遠位端22の行路は、典型的には、画面62上に、患者18の心臓の3次元表示60で表示される。装置12で実施されるIRE治療の進行(例えば、蓄積された損傷深さ)は、典型的には、画面62上にもグラフィック64及び/又は英数字データ66として表示される。
【0029】
挿入
図70が示すように、ラッソー部分40は、電極53の領域の大部分又は全体にわたって、すなわち、もしあれば、最小限の電極領域が血液に曝露された状態で、半円筒形状の電極53を心腔72の壁組織としっかりと接触させるように組織を十分に強く押圧しながら、PV74の解剖学的構造の心腔72組織の形状を受け入れる。電極53によるIRE焼灼を受ける心腔72壁組織は、本発明の開示された例示的実施形態のうちのいくつかにおいて、例えば、隣接する電極53間の電極間距離75及び電圧降下を使用して推定される局所厚さD、77を有している。
【0030】
システム12を操作するために、プロセッサ46は、装置を操作するためにプロセッサにより使用されるいくつかのモジュールを有するメモリ50と通信する。ゆえに、メモリ50は、電力制御モジュール54及び力モジュール56を備えている。電力制御モジュール54は、電極53にIRE電力を供給し、典型的には、電極対にわたる瞬間的なRMS電圧を測定することによって瞬間電力の測定も行う。
【0031】
力モジュール56は、遠位端22の力センサ45からの信号を取得して評価することにより、瞬間接触力を測定する。例示的な実施形態では、瞬間的な電圧及び接触力に基づいて、プロセッサ46は時間依存性損傷深さ77を推定する。IRE焼灼持続時間の関数として損傷深さを推定するためのシステム及び方法は、2019年12月24日に提出され、参照により本明細書に組み込まれる、「Calculating an Irreversible Electroporation(IRE)Index Taking IRE Field、Contact Force and Time Into Account」と題する米国特許出願第16/726312号に記載されている。
【0032】
別の例示的な実施形態では、RF焼灼エネルギーが印加され、時間依存性損傷深さ77が、測定された瞬間的な電流及び接触力を使用してプロセッサによって推定される。RF焼灼持続時間の関数として損傷深さを推定するためのシステム及び方法は、参照により組み込まれる米国特許出願公開第2017/0014181号に記載されている。
【0033】
メモリ50は、例えば温度測定モジュール及び灌注モジュールのような、他のモジュールも備え得る。簡潔化のために、他のそのようなモジュールは、本願においては示されていない。メモリ50のモジュールは、ハードウェア並びにソフトウェア要素も備え得る。
【0034】
焼灼中の心臓壁組織の厚さの測定
図2は、本発明の例示的な実施形態による、焼灼持続時間の関数として損傷部位の位置における損傷深さ及び電位図信号振幅を概略的に示すグラフである。図示の損傷深さvs焼灼時間曲線270の主要部分にわたって見られるように、損傷深さは、通常、弱い非線形性で単調に増加する。同時に、焼灼位置からの電位図の振幅272は、損傷がより深い深さで形成されるにつれて減少する。焼灼中の特定の時間273では、損傷は、組織壁厚と同じくらい深くなり、電位図の振幅は予め定められた閾値274を下回る。
【0035】
本発明の例示的な実施形態によれば、医師は、焼灼された不整脈発生部位において、それぞれの厚さ280すなわち本質的に組織壁厚を推定することができる。例示的な実施形態では、医師は、例えば、ラッソーカテーテル20の電極53を使用して、所与の持続時間にわたって心臓組織の位置を焼灼して、組織内に、深さ280よりも小さい計画された深さまで損傷を形成する。
図1で論じた方法に基づいて、焼灼システムのプロセッサは、結果として生じる損傷深さを推定することができる。次に、焼灼中のインターバル中、プロセッサは、例えば、プローブ20の同じ電極53を使用して、焼灼位置から電位図信号を受信する。
【0036】
ほとんどの場合、一部の電気生理学的活性組織は、その位置に留まり、電位図信号の振幅は、最初に予め定められた閾値を上回るものである。したがって、プロセッサは、組織厚さを最小で、損傷の深さであると推定するが、この初期深さは、通常は過小評価されている。段階的焼灼/推定プロセスは、プロセッサの制御下で、又は医師によって手動で繰り返され、プロセスの各工程において、組織は、持続時間278などの追加の持続時間にわたって更に焼灼されて、プロセッサがその値及び蓄積された損傷深さを推定する増分損傷深さ282を追加する。例示的な実施形態では、追加の持続時間の値は、計画された増分損傷深さが、組織を焼灼し過ぎないように、及び/又は壁厚の正確な推定を達成するために、予め定められた増分値よりも小さいように選択される。
【0037】
増分損傷深さ(2mm未満)を焼灼するために使用され得るRF焼灼設定の例を、表Iに示す。
【0038】
RF低深度パラメータ:
【0039】
【0040】
増分損傷深さ(3mm未満)を焼灼するために使用され得るIRE焼灼設定の一例が、表IIによって与えられる。
【0041】
IRE低深度パラメータ:
【0042】
【0043】
焼灼及びその後の壁組織厚さ推定工程は、繰り返し焼灼のために選択された追加の持続時間の値に応じて、又は前述の損傷部位モデルと共に使用されるRF電力若しくはIREピーク電圧などの他のパラメータに応じて、より微細な増分損傷深さ、例えばミリメートル未満で適用することができる。
【0044】
この場合も、焼灼工程の直後に、プロセッサは、焼灼された位置から電位図信号を受信し、以下のように組織壁厚を推定する。電位図信号振幅が予め定められた振幅276(例えば、0.1mV未満)を下回る場合、プロセッサは、焼灼位置における組織厚さを、損傷部の蓄積深さであるように再推定し、その位置で焼灼を終了させる。
【0045】
一方、電位図信号振幅が予め定められた振幅276を上回っている場合(、プロセッサは、推定値を、少なくとも損傷部の新たに蓄積された深さであるように更新する。次いで、プロセッサ又は医師は、追加の持続時間278にわたって焼灼工程を繰り返し、次いで、増分損傷深さ282を推定し、電位図信号を測定することができる。不整脈発生信号が工程を経るごとに段階的に徐々に減少するにつれて、推定された組織の厚さはより正確になる。
【0046】
開示された技術により、厚さ280が判定された後の組織焼灼を停止することができ、そうでなければ、近くの臓器及び穿孔においても危険となり得る。更に、時間273において、組織が不整脈源性を実質的に停止したため、更なる焼灼には臨床的価値がない。
【0047】
上記の段階的焼灼/推定プロセスは、自動的に実行されてもよく、実際には、電位図取得に必要とされる、典型的にはわずかなインターバルを含む、単一の連続的焼灼として経験されてもよい。
【0048】
図2に記載されるプロセスは、純粋に明確にする目的でもたらされる。実際には、開示されたモデルの、焼灼の膨大なデータベースに基づく実際の曲線が使用される。所与の焼灼持続時間及び更なる焼灼持続時間は、不整脈の位置及び種類、並びに患者ごとに応じて変化し得る。
【0049】
図3は、本発明の例示的な実施形態による、
図1のシステム12を使用して焼灼を受けている心臓壁組織の厚さを推定する方法を概略的に説明するフローチャートである。提示された実施形態によるアルゴリズムは、初期焼灼工程90において、医師14が所与の期間にわたって心臓組織の位置を焼灼することを開始するプロセスを実行する。
【0050】
図1に記載されるモデルなどの損傷深さvs焼灼持続時間モデルを使用する損傷深さ推定工程92において、プロセッサ46は、増分及び蓄積された損傷深さを推定する。第1の焼灼反復では、増分深さは蓄積深さに等しい。
【0051】
次に、電位図取得工程94において、医師14は、同じ又は異なるカテーテルを使用して、焼灼位置で電位図信号を測定する。
【0052】
電位図振幅検査工程96において、プロセッサ46は、電位図信号の振幅(例えば、ピーク値又はRMS値)が予め定められた閾値を下回るかどうかを確認する。
【0053】
焼灼された位置で、依然として実質的な電気生理学的活動が存在する、すなわち、電位図振幅が閾値を上回る場合、プロセッサ46は、組織壁厚推定工程98において、焼灼された心臓壁厚を、少なくとも損傷部の蓄積深さであると推定する。次いで、プロセスは工程91に戻り、増分焼灼工程91において、増分焼灼を実行する。
【0054】
最終的に、プロセッサ46は、電位図振幅が閾値を下回ると判定し、次いで、プロセッサ46は、壁組織厚さ推定工程100において、焼灼された心臓壁厚を、損傷の蓄積深さであると推定する。それに応じて、プロセッサ46は、焼灼終了工程102において、その位置で焼灼を終結する。
【0055】
本明細書に記述される実施形態は、主に心臓用途に関するものであるが、本明細書に記載される方法及びシステムは、神経信号を監視する神経内科などの他の医療用途で用いることもできる。
【0056】
したがって、上記に述べた実施形態は、例として引用したものであり、また本発明は、上記に具体的に示し説明したものに限定されないことが理解されよう。むしろ、本発明の範囲は、上記の明細書に記載される様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに前述の記載を一読すると当業者が着想すると思われるそれらの変形及び修正であって、先行技術に開示されていない変形及び修正を含む。参照により本特許出願に援用される文献は、これらの援用文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾して定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部と見なすものとする。
【0057】
〔実施の態様〕
(1) 焼灼を受けている心臓組織の厚さを推定するための方法であって、
損傷を形成するために、前記心臓組織の領域に焼灼パルスシーケンスを印加する工程と、
前記シーケンス内の所与の焼灼パルスについて、
前記所与の焼灼パルスに起因して前記損傷に追加された増分深さを推定する工程と、
前記所与のパルスの前の累積深さ、及び前記増分深さに基づいて、前記損傷の累積深さを推定する工程と、
前記所与の焼灼パルスを印加した後の前記領域における電位図信号の振幅を評価する工程と、前記振幅が所定の閾値を超える場合、前記厚さの推定値を少なくとも前記累積深さに設定する工程と、を含む、方法。
(2) 前記電位図信号の前記振幅が所定の値を下回ることを検出することに応答して、前記焼灼パルスシーケンスを終了する工程を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記所定の値が前記所定の閾値に等しい、実施態様2に記載の方法。
(4) 電位図信号の前記振幅を評価する工程が、前記焼灼パルス間のインターバル中に前記振幅を測定する工程を含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記工程が、プロセッサ制御下で自動的に実行される、実施態様1に記載の方法。
【0058】
(6) 前記焼灼パルスシーケンスを印加する工程が、予想される増分深さが予め定められた増分値よりも小さいように、前記シーケンスを計画する工程を含む、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記厚さの前記推定値を設定した後に、前記焼灼パルスシーケンスを変更して、次の焼灼工程によって引き起こされる前記増分深さを変更する工程を含む、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記電位図信号の前記振幅を評価する工程が、前記焼灼パルスを印加するために使用される同じ電極を使用して前記電位図信号を測定する工程を含む、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記焼灼パルスを印加する工程が、不可逆的電気穿孔法(IRE)パルスを印加する工程を含む、実施態様1に記載の方法。
(10) 前記焼灼パルスを印加する工程が、高周波(RF)焼灼を印加する工程を含む、実施態様1に記載の方法。
【0059】
(11) 焼灼を受けている心臓組織の厚さを推定するためのシステムであって、
損傷を形成するために、プローブが前記心臓組織の領域に印加するための焼灼パルスシーケンスを出力するように構成されたインターフェースと、
前記シーケンス内の所与の焼灼パルスについて、
前記所与の焼灼パルスに起因して前記損傷に追加された増分深さを推定し、
前記所与のパルスの前の累積深さ、及び前記増分深さに基づいて、前記損傷の累積深さを推定し、
前記プローブが前記所与の焼灼パルスを印加した後の前記領域における電位図信号の振幅を評価し、前記振幅が所定の閾値を超える場合、前記厚さの推定値を少なくとも前記累積深さに設定するように構成された、プロセッサと、を備えている、システム。
(12) 前記プロセッサが、前記電位図信号の前記振幅が所定の値を下回ることを検出することに応答して、前記焼灼パルスシーケンスを終了するように更に構成されている、実施態様11に記載のシステム。
(13) 前記所定の値が前記所定の閾値に等しい、実施態様12に記載のシステム。
(14) 前記プロセッサが、前記焼灼パルス間のインターバル中に前記振幅を測定することによって、電位図信号の前記振幅を評価するように構成されている、実施態様11に記載のシステム。
(15) 前記プロセッサが、予想される増分深さが予め定められた増分値よりも小さいように、前記シーケンスを計画するように構成されている、実施態様11に記載のシステム。
【0060】
(16) 前記プロセッサが、前記厚さの推定値を設定した後に、前記焼灼パルスシーケンスを変更して、次の焼灼工程によって引き起こされる前記増分深さを変更するように構成されている、実施態様11に記載のシステム。
(17) 前記プロセッサが、前記焼灼パルスを印加するために使用される同じ電極を使用して前記電位図信号を測定することによって、前記電位図信号の前記振幅を評価するように更に構成されている、実施態様11に記載のシステム。
(18) 前記インターフェースが、不可逆的電気穿孔法(IRE)パルスを出力するように構成されている、実施態様11に記載のシステム。
(19) 前記インターフェースが、高周波(RF)焼灼パルスを出力するように構成されている、実施態様11に記載のシステム。