(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】ガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽およびその利用
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20250210BHJP
C25B 1/46 20060101ALI20250210BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20250210BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20250210BHJP
C25B 11/069 20210101ALI20250210BHJP
【FI】
C25B9/00 E
C25B1/46
C25B9/23
C25B11/032
C25B11/069
(21)【出願番号】P 2021055747
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】杉山 幹人
(72)【発明者】
【氏名】刑部 次功
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180726(WO,A1)
【文献】特開2008-127631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換膜により陽極室と陰極室とに区画され、前記陽極室内に陽極電極が設置され、前記陰極室内に陰極電極が設置され、前記陽極室に食塩水を、前記陰極室に酸素含有ガスを、それぞれ供給して電解する、ガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽において、
前記陰極電極は、
親水性かつ導電性の電極支持層と、
(a)前記電極支持層の表面の一方の面側に配置され、かつ、親水性触媒および疎水性樹脂を含有する、導電性の反応層と、の2層のみからなるガス拡散電極
;もしくは、
(b)前記電極支持層の表面の一方の面側に配置され、かつ、親水性触媒および疎水性樹脂を含有する、導電性の反応層と、疎水性樹脂層と、の3層のみからなるガス拡散電極であって、前記疎水性樹脂層は、前記ガス拡散電極の前記反応層が配置された面に接するように配置されている、ガス拡散電極であり、
前記陰極電極は、導電性であり、
前記電極支持層は、電極支持層単位体積当たりの液保持量が0.10g-H
2
O/cm
3
~0.80g-H
2
O/cm
3
であり、
前記陰極室内において、前記ガス拡散電極における前記電極支持層が、前記反応層が配置された面と反対側の面にて、前記イオン交換膜と接するように配置されている、
ガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽。
【請求項2】
前記電極支持層は、カーボン、酸化ジルコニウム、セラミックス、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレンと六フッ化プロピレンとの共重合体、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ニッケル、ステンレス、銀、および金からなる群から選択される少なくとも1つによって形成されているものである、請求項
1に記載の電解槽。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の電解槽を用いて食塩水を電解する工程を有する、塩素ガスの製造方法。
【請求項4】
請求項1
または2に記載の電解槽を用いて食塩水を電解する工程を有する、水酸化ナトリウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽およびその利用技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化ナトリウムおよび塩素は、従来はイオン交換膜、陰極に金属電極を用いて、食塩水を電解する方法によって製造されてきた。しかし、食塩水の電気分解には大きな電力が必要となるため、近年では大幅な省エネルギーを期待して、陰極電極としてガス拡散電極を用いて、酸素を還元する方法が検討されている。
【0003】
ガス拡散電極を用いて酸素を還元する方法では、電解槽が陽極室、陰極液室、陰極ガス室という3室に区画される3室法のほか、陽極、イオン交換膜、ガス拡散電極を互いに密着し、陰極液室を実質的になくし、電解槽を陽極室および陰極ガス室の2室に区画する2室法が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、イオン交換膜により陽極室と陰極室に区画され、該陽極室に陽極を設置し、該陰極室に液保持層とガス拡散電極を設置して、陽極室に食塩水を陰極室に酸素含有ガスをそれぞれ供給して電解する2室法の電解槽において、イオン交換膜とガス拡散電極間に、所定の液保持層単位体積当たりの液保持量の液保持層を設けた電解槽が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、電極基体に、親水性触媒と疎水性バインダーを含む触媒層を担持したガス拡散電極において、前記電極基体が、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボン発泡体およびカーボン焼結体から選択されるカーボン材料であることを特徴とするガス拡散電極と、当該ガス拡散電極を用いた食塩電解槽が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/008060号公報
【文献】特開2006-219694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2のような技術では、イオン交換膜とガス拡散電極との間に、別途、液保持層や親水性層を設置する必要があり、電解槽の組み立ての容易性の点で改善の余地があった。なお、特許文献2では、食塩電解槽において、ガス拡散電極の設置向きについても記載されていない。
【0008】
本発明の一態様は、上記課題に鑑みてなされたものであり、組み立てが容易なガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽およびその利用技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来、炭素材料からなる基体に、反応層を塗布してガス拡散陰極を形成した後、イオン交換膜側に、別途、液保持層や親水性層を張り付けていたところ、親水性かつ導電性の電極支持層の片面(イオン交換膜側と反対側)に反応層を形成することにより、液保持層や親水性膜を設けなくとも、良好な性能を有するガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽を得ることができること、またかかる電解槽によれば液保持層や親水性膜を設ける必要がないため、組み立てが容易となること等の新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明の一実施形態は、以下の態様を含む。
<1>イオン交換膜により陽極室と陰極室とに区画され、前記陽極室内に陽極電極が設置され、前記陰極室内に陰極電極が設置され、前記陽極室に食塩水を、前記陰極室に酸素含有ガスを、それぞれ供給して電解する、ガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽において、前記陰極電極は、親水性かつ導電性の電極支持層と、前記電極支持層の表面の一方の面側に配置され、かつ、親水性触媒および疎水性樹脂を含有する、導電性の反応層と、の2層のみからなるガス拡散電極であり、前記陰極室内において、前記ガス拡散電極における前記電極支持層が、前記反応層が配置された面と反対側の面にて、前記イオン交換膜と接するように配置されている、ガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽。
<2>前記電極支持層は、電極支持層単位体積当たりの液保持量が0.10g-H2O/cm3~0.80g-H2O/cm3である、<1>に記載の電解槽。
<3>前記電極支持層は、カーボン、酸化ジルコニウム、セラミックス、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレンと六フッ化プロピレンとの共重合体、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ニッケル、ステンレス、銀、および金からなる群から選択される少なくとも1つによって形成されているものである、<1>または<2>に記載の電解槽。
<4>前記ガス拡散電極の前記反応層が配置された面に接するように、疎水性樹脂層が配置される、<1>~<3>のいずれかに記載の電解槽。
<5>上記<1>~<4>のいずれかに記載の電解槽を用いて食塩水を電解する工程を有する、塩素ガスの製造方法。
<6>上記<1>~<4>のいずれかに記載の電解槽を用いて食塩水を電解する工程を有する、水酸化ナトリウムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、組み立てが容易な電解槽を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽の構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0013】
<1.ガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽>
本発明の一実施形態に係るガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽は、イオン交換膜により陽極室と陰極室とに区画され、前記陽極室内に陽極電極が設置され、前記陰極室内に陰極電極が設置され、前記陽極室に食塩水を、前記陰極室に酸素含有ガスを、それぞれ供給して電解する、ガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽において、前記陰極電極は、親水性かつ導電性の電極支持層と、前記電極支持層の表面の一方の面側に配置され、かつ、親水性触媒および疎水性樹脂を含有する、導電性の反応層と、の2層のみからなるガス拡散電極であり、前記陰極室内において、前記ガス拡散電極における前記電極支持層が、前記反応層が配置された面と反対側の面にて、前記イオン交換膜と接するように配置されている、ガス拡散電極食塩電解2室法の電解槽である。以下、本発明の一実施形態について詳説する。
【0014】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るガス拡散電極食塩電解2室法用の電解槽1は、イオン交換膜2、陽極室3、陰極室4、陽極電極5、ガス拡散電極(陰極電極)7、クッション材8、陰極室背板(陰極端子)9、陽極ガスケット10、陰極ガスケット11、陽極液導入口12、陽極液およびガス取出口13、酸素含有ガス導入口14、水酸化ナトリウム水溶液取出口15から構成される。
【0015】
電解槽1において、イオン交換膜2により陽極室3と陰極室4に区画される。イオン交換膜2の陽極室3側には陽極電極5が配置されている。イオン交換膜2の陰極室4側には、ガス拡散電極7、クッション材8、陰極室背板(陰極端子)9が、この順で設置されていている。ガス拡散電極7は、電極支持層6aと反応層6bとから構成されている。直流電流は最終的にクッション材8により排電される。陽極ガスケット10は陽極電極5を、陰極ガスケット11はガス拡散電極7を、電解槽1に固定化するためのものである。
【0016】
陽極室3の底部近傍に、陽極液(食塩水)導入口12が形成されている。また陽極室3の上壁側には、陽極液(未反応食塩水)および(塩素)ガス取出口13が形成されている。陰極室4上部近傍の側壁には酸素含有ガス導入口14が形成されており、陰極室4底部近傍の側壁には、水酸化ナトリウム水溶液取出口15が形成されている。なお、水酸化ナトリウム水溶液取出口15は、過剰な酸素ガスの排出口としても機能する。
【0017】
電解槽1の陽極室3に陽極液導入口12から陽極液(食塩水)が供給され、陰極室4には酸素含有ガス導入口14から酸素含有ガス(例えば、酸素ガスや空気等)が供給される。両電極間に通電することで、電解槽1は動作する。
【0018】
上述した特許文献1では「液保持層」がガス拡散電極とイオン交換膜2との間に配置される構成であり、また特許文献2では「親水性層」がガス拡散電極とイオン交換膜との間に配置される構成である。これに対して、本発明の一実施形態では、ガス拡散電極7は、イオン交換膜側に、液保持層や親水性層を別途設ける必要はなく、液保持機能(親水層としての機能)を備えた電極支持層6aと反応機能を備える反応層6bとの2層のみから構成される。本構成によれば、ガス拡散電極7とイオン交換膜2との間に、別途、液保持層(親水層)を形成する必要がないため、組み立てが容易となる。
【0019】
また、本発明の一実施形態では、ガス拡散電極7において、電極支持層6aは、反応層6bが形成された面と反対側の面にて、イオン交換膜2と接する。換言すれば、陰極室4において、ガス拡散電極7は電極支持層6aおよび反応層6bの2層構造であって、イオン交換膜2、電極支持層6a、反応層6bは、この順に配置されている。本構成によれば、イオン交換膜2と反応層6bとが接する構成とした場合に比べて、電解槽1に電流を供給して電解を開始した後、所定時間経過後の陽極および陰極間の抵抗を低くできるという利点がある。これは、電極支持層6aが液保持性或いは親水性であるためと考えられる。
【0020】
ガス拡散電極での陰極反応は、水と酸素から水酸化物イオンのみを生成する反応である。反応に寄与する水は、陽極液(未反応食塩水)が、イオン交換膜2を通過して、ガス拡散電極7に供給されるため、イオン交換膜2とガス拡散電極7の電解面積界面上に、反応するに十分な量および均一濃度で存在することが望ましい。本構成によれば、電極支持層6aにおいて十分な量および均一濃度の水が存在できるため、電流の一部分に集中した片流れ或いは水の不均一な濃度分布により発生する抵抗上昇分を低くできる。言い換えれば、イオン交換膜2、反応層6b、電極支持層6aの順に配置すると、イオン交換膜2とガス拡散電極7の界面上に均一濃度で十分な量の水を持続的に存在させることが困難となり抵抗上昇を招くことが考えられる。
【0021】
また、本発明の一実施形態のガス拡散電極7によれば、ガス拡散電極7とイオン交換膜2との間に液保持層や親水性層を別途形成する場合に比べて、電解槽1に電流を供給して電解を開始した後、所定時間経過後の陽極および陰極間の抵抗を低くできるという利点もある。これは、イオン交換膜2とガス拡散電極7の電解面積界面上に、反応するに十分な量および均一濃度の水が存在できているためと考えられる。
【0022】
また、液保持層を設けた場合においては、本構成に比べて、液保持層とガス拡散電極の接触抵抗および電極支持層自身の抵抗が余分に発生し、抵抗上昇を招くと考えられる。
【0023】
電極支持層6aは、親水性かつ導電性であり、反応層6bが形成される支持体として機能するものである。電極支持層6aは、親水層(液保持層)としての機能も有する。電極支持層6aは、ガス拡散電極の支持体として一般的に使用されるものであれば特に限定されないが、液体、特に生成する水酸化ナトリウム水溶液を保持できる性能を有することが好ましい。また、電極支持層6aは、水酸化ナトリウムに対する化学的および物理的耐性を有することが好ましい。化学的耐性とは高アルカリに対して耐性を有する材料を意図し、物理的耐性とは電解槽にかかる加重に対して適度な強度を有する材料を意図する。
【0024】
電極支持層6aは、良好な液保持機能を有することが好ましい。例えば、液保持機能としては、電極支持層単位体積当たりの液保持量が0.10g-H2O/cm3~0.80g-H2O/cm3であることが好ましく、0.15g-H2O/cm3~0.70g-H2O/cm3であることがより好ましく、0.20g-H2O/cm3~0.60g-H2O/cm3であることがさらに好ましい。なお、本明細書でいう電極支持層の液保持量は、電極支持層を水酸化ナトリウム濃度34.5重量%の水溶液に1日浸漬させた後、水洗し完全に水酸化ナトリウム水溶液を取り除き、完全に乾燥させた時の重量をAとし、前述の完全に乾燥させた電極支持層を純水中に1時間浸漬後取り出した時の重量をBとすると、B-Aで定義される。また単位体積当たりの液保持量は、該液保持量を液保持量測定に使用した電極支持層の体積で割った値で定義される。実施例でも同様の定義で測定した。
【0025】
電極支持層6aは、カーボン、酸化ジルコニウム、セラミックス、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレンと六フッ化プロピレンとの共重合体、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ニッケル、ステンレス、銀、および金からなる群から選択される少なくとも1つ以上によって形成されていることが好ましい。なかでも、多孔性の炭素系の基体が好ましく例示できる。多孔性の炭素系の基体としては、例えば、炭素材料から成るクロス、繊維焼結体、発泡体などを用いることができる。これらのなかでも、大型化と量産の容易さからクロスか繊維焼結体のいずれかが好ましく、市販のカーボンクロス、およびカーボンペーパーなどの繊維焼結体を利用することができる。
【0026】
電極支持層6aは、酸素および生成した水酸化ナトリウムが透過する必要があるため、十分な導電性に加えて適度な多孔性を兼ね備えることが好ましく、空孔径としては0.001~1mmが、空隙率としては30~95%が好ましい。また、電極支持層6aの厚さは、引っ張り強度などの機械的強度と、酸素および生成した水酸化ナトリウムの透過距離を考慮すれば、0.1~1mmの範囲のものが好適に使用できる。
【0027】
反応層6bは、電極支持層6aの表面の一方の面側に配置され、かつ、親水性触媒および疎水性樹脂を含有する、導電性の反応層である。
【0028】
反応層6bに使用される親水性触媒は、高温高濃度のアルカリ中で電気化学的に安定である銀、白金、パラジウムのうち少なくとも一種類からなるものであり、単一金属、あるいはこれら金属の合金を使用することができる。なお、価格の点で銀の単一金属、あるいは銀に微量のパラジウム又は白金を添加した、銀-パラジウム合金、および銀-白金合金であることが好ましい。これら親水性触媒は市販されている粒子状のものを好適に使用できるが、これに限定されず、公知方法に従って合成後使用してもよい。例えば、硝酸銀、或いは硝酸銀と硝酸パラジウム又は硝酸銀とジニトロジアンミン白金硝酸水溶液に、還元剤を混合す湿式法や、蒸着、スパッタなどの乾式法で合成された粒子状のものも使用できる。親水性触媒の粒径は0.001~50μmのものを使用でき、0.001~1μmであることがより好ましい。
【0029】
反応層6bに使用される疎水性樹脂は、親水性触媒の結着剤として機能するものである。例えば、高温高濃度のアルカリ中で化学的に安定であるフッ素系樹脂を利用することができる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)などの粉末、または懸濁水溶液を好適に使用し得る。疎水性樹脂は電極に十分なガス透過性を付与し、生成した水酸化ナトリウムによる電極の過度の湿潤を防止することで良好な電解性能に寄与するものであり、その粒径範囲としては0.005~10μmが好ましい。
【0030】
また、反応層6bには、親水性触媒および疎水性樹脂以外に、カーボン材料を含有させることもできる。カーボン材料としては、例えば、カーボン粉末、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、ダイヤモンド、等を挙げることができる。カーボン材料を含有させることにより、導電性および親水性を改質できる利点がある。
【0031】
電極支持層6aへの反応層6bの形成方法としては、従来公知の手法を好適に利用でき、特に限定されない。例えば、親水性触媒および疎水性樹脂を混合・撹拌・脱泡したスラリーまたは樹脂混合物を、電極支持層6aに塗布・乾燥することで、電極支持層6aの片面に反応層6bを形成し得る。なお、スラリーまたは樹脂混合物の塗布は、筆・刷毛・スクレーパーを使用して手動で行ってもよいし、塗工機およびスプレードライ装置等を使用してもよい。
【0032】
また、ガス拡散電極7の反応層6bが配置された面に接するように、さらに疎水性樹脂層(不図示)が配置されることが好ましい。つまり、陰極室4において、イオン交換膜2、電極支持層6、反応層6b、疎水性樹脂層が、この順で設けられることが好ましい。疎水性樹脂層は、例えば、ガス拡散電極7の反応層6bが形成されている表面に、疎水性樹脂のコーティングを行うことで形成し得る。かかる構成によれば、ガス拡散電極7の接触抵抗をより緩和することができる。なお、疎水性樹脂としては、上述したものを好適に使用できる。
【0033】
イオン交換膜2としては、一般的なガス拡散電極食塩電解2室法用のイオン交換膜が使用でき、特に限定されないが、フッ素樹脂系の陽イオン交換膜が耐食性の面から好ましい。
【0034】
陽極電極5は、一般的なガス拡散電極食塩電解2室法用の不溶性陽極を好適に利用でき、特に限定されないが、DSAと呼ばれるチタン製の不溶性電極を例示できる。
【0035】
クッション材8は、ガス拡散電極7をイオン交換膜2に密着させるためのものである。クッション材8を圧縮状態で収容してクッション材8に反力を生じさせ、その反力を利用してガス拡散電極7をイオン交換膜2に密着させることが好ましい。2室法では、イオン交換膜2を境界として陽極室3には食塩水による液圧が作用し、陰極室4にはガス圧が作用している。クッション材8の反力は、この液圧とガス圧の差圧に合わせて設計されるが、液圧は食塩水の深さが深いほど大きいため、クッション材8の反力を、陰極室4上部より下部の方が大きくなるようにすることで、イオン交換膜2や陽極電極5に加わる圧力の均等化を図ることができる。
【0036】
このようなクッション材8としては、コイル材又はウエーブ加工したマット材を使用することが可能である。コイルは直径方向に弾性を持ち、この方向に反力が生じるため、コイル軸を陰極ガス室背板に並行に配置して使用することができ、コイル材の線径、コイル系、敷設密度を調整することにより、クッション材の反力を上部より下部の方が大きくなるようにすればよい。またウエーブ加工されたマット材は、金属ワイヤーをメリヤス編みしたデミスターメッシュをウエーブ加工したものを用いることができ、ワイヤーの線径、束ねるワイヤー本数、マット材の積層枚数を調整することにより、クッション材の反力を上部より下部の方が大きくなるようにすればよい。
【0037】
また、陽極室3に供給される食塩水は厳密に精製されることが好ましい。カルシウム、マグネシウムイオン等はキレート樹脂を使用して10ppbレベルまで除去されることが好ましい。
【0038】
また、陰極室4に供給される酸素含有ガスは、加湿することが好ましい。加湿方法としては、電解槽1に供給する酸素含有ガスに散水し加湿する方法、酸素含有ガスを水中に吹き込み加湿させる方法などがある。
【0039】
水酸化ナトリウムは、イオン交換膜2と陰極室4との間で、陽極室3からイオン交換膜2を透過してくる浸透水に溶解して水酸化ナトリウム水溶液となる。生成した水酸化ナトリウム水溶液はガス拡散電極7の電極支持層6a内を拡散し、特に重力により落下して電極支持層6aの下端に達して液滴として陰極室4底部まで流下し、過剰酸素を含むガスとともに水酸化ナトリウム水溶液取出口15から電解槽1外に取り出される。
【0040】
また、電解槽1の電解条件としては、電流密度1~10kA/m2とすることが好ましく、電解時の陽極室3、陰極室4の温度は、特に限定されるものではなく、通常用いられる温度であればよい。例えば、イオン交換膜2の性能を最大限発揮するために電流密度に応じた温度範囲に設定することが好ましい。温度範囲としては、イオン交換膜2の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、電流密度が1.0kA/m2以上、2.0kA/m2未満である場合、68~82℃が好ましく、2.0kA/m2以上、3.0kA/m2未満である場合、77~85℃が好ましく、3.0kA/m2以上である場合、80~90℃が好ましい。
【0041】
<2.塩素ガスおよび水酸化ナトリウムの製造方法>
また、本発明の一実施形態には、上述した電解槽1を用いて食塩水を電解する(食塩水を電解して、塩素ガスを製造する)工程を有する、塩素ガスの製造方法が含まれ得る。また、本発明の一実施形態には、上述した電解槽1を用いて食塩水を電解する(食塩水を電解して、水酸化ナトリウムを製造する)工程を有する、水酸化ナトリウムの製造方法が含まれ得る。
【0042】
電解槽1の陽極室3に食塩水を供給し、かつ陰極室4に酸素を供給しながら陽極電極5およびガス拡散電極7の両電極間に通電すると、陰極室4側では、イオン交換膜2の陰極室4側の表面で水酸化ナトリウムが生成し、この水酸化ナトリウムは水溶液としてガス拡散電極7を透過する。
【0043】
このようにして、ガス拡散電極7を通過した水酸化ナトリウムは、陰極室4下部に集められ、水酸化ナトリウム水溶液取出口15から、未反応の酸素と共に取り出される。一方、陽極電極5の表面に生成した塩素ガスは、陽極室3上部に集められ、陽極液およびガス取出口13から取り出される。
【0044】
本発明の一実施形態にかかる塩素ガスまたは水酸化ナトリウムの製造方法によれば、簡便に塩素ガスまたは水酸化ナトリウムを得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の一実施形態は、前記または後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例および比較例において「部」および「%」とある場合、重量部または重量%を意味する。
【0046】
(実施例1)
<ガス拡散電極(陰極電極)の作製>
反応層を形成する懸濁液として、銀粉末(福田金属箔工業株式会社製、シルコート)2.4gとポリテトラフルオロエチレン水懸濁液(三井フロロケミカル株式会社製、31JR)0.8gおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.06gを、脱泡機能付き撹拌機を用いて、2000rpmで5分間混合した後、2200rpmで5分間脱泡した。
【0047】
得られた懸濁液を、刷毛を用いて、電極支持層であるカーボンクロス(AvCarb Material Solutions製、1071HCB、縦9cm×横9cm×厚さ0.4mm)の一面に、横6cm×縦5.6cmの面積に250g/m2となるように塗布し、熱風乾燥機内で120℃にて1時間乾燥して反応層を形成し、陰極電極となるガス拡散電極を作製した。なお、電極支持層として使用したカーボンクロスは、単位体積当たりの液保持量が0.40-H2O/cm3のものである。
【0048】
<電解槽の作製>
電解槽は、
図1に示すような構成にて作製した。電解槽(クロリンエンジニアズ株式会社製、0.336dm2電解槽)において、陽極電極として、ペルメレック電極株式会社製DSE(登録商標)を、イオン交換膜として旭化成株式会社製A1001をそれぞれ用いた。
【0049】
鉛直方向に位置するイオン交換膜を挟んで、陽極室内にて陽極電極をイオン交換膜方向に押圧し、陰極室内にて、ガス拡散電極を、反応層が配置された面と反対側の面にて、カーボンクロスがイオン交換膜と接するように、クッション材を用いて密着固定して、電解槽を構成した。
【0050】
<食塩電解実験>
食塩電解実験は、陽極液導入口より陽極室に80℃の飽和食塩水を供給し、酸素含有ガス導入口より陰極室にPSA濃縮酸素(93体積%)を供給した。飽和食塩水および酸素が陽極室、陰極室にそれぞれ供給されたことを確認した後、10Aの電流(電流密度3kA/m2)を陽極電極およびガス拡散電極の両極に供給した。電流供給後は、陽極液およびガス取出口の温度を80℃に、生成される水酸化ナトリウム水溶液濃度を35%となるよう管理しながら、電解を行った。
【0051】
陽極電極およびガス拡散電極の両電極間の抵抗は、パルス発生器とオシロスコープを用いたカレントインターラプタ―法にてモニタリングする測定した。
【0052】
本構成の電解槽において、電流を供給して電解を開始後4日目の陽極および陰極間の抵抗は、0.31Vであった。また、イオン交換膜とガス拡散電極との間に、親水層を別途設ける必要がないため、組み立ては容易であった。
【0053】
(実施例2)
ガス拡散電極の反応層の表面側に、さらに、ポリテトラフルオロエチレン水懸濁液(三井フロロケミカル株式会社製、31JR)を凹凸の発生しない程度に塗布し、疎水性樹脂層を形成した以外は、実施例1と同様の構成の電解槽を作製し、同様の条件による電解を行った。
【0054】
本構成の電解槽において、電流を供給して電解を開始後4日目の陽極および陰極間の抵抗は、0.30Vであった。疎水性樹脂層を形成することにより、電極の接触抵抗が緩和され、実施例1に比べて、陽極および陰極間の抵抗がさらに抑制されたものと考えられる。また、実施例1と同様、イオン交換膜とガス拡散電極との間に、親水層を別途設ける必要がないため、組み立ては容易であった。
【0055】
(実施例3)
反応層を形成する懸濁液に、カーボン粉末(電気化学工業株式会社製、AB-11)0.0024gおよびカーボン粉末(電気化学工業株式会社製、AB-6)0.0024gを追加した以外は、実施例1と同様の構成の電解槽を作製し、同様の条件による電解を行った。
【0056】
本構成の電解槽において、電流を供給して電解を開始後4日目の陽極および陰極間の抵抗は、0.31Vであった。また、実施例1,2と同様、イオン交換膜とガス拡散電極との間に、親水層を別途設ける必要がないため、組み立ては容易であった。
【0057】
(比較例1)
陰極室内にて、ガス拡散電極におけるカーボンクロスを、反応層が配置された面にて、イオン交換膜と接するように密着固定した以外は、実施例1と同様の構成の電解槽を作製し、同様の条件による電解を行った。
【0058】
本構成の電解槽において、電流を供給して電解を開始後4日目の陽極および陰極間の抵抗は、0.70Vと悪化した。
【0059】
(比較例2)
陰極のガス拡散電極として、ペルメレック電極株式会社製カーボンクロス基材2室法GDEを使用し、さらに、ガス拡散電極とイオン交換膜との間に、親水性を示すペルメレック電極株式会社製カーボンクロスを配置する構成とした以外は、実施例1と同様に電解槽を作製し、同様の条件による電解を行った。
【0060】
本構成の電解槽において、電流を供給して電解を開始後4日目の陽極および陰極間の抵抗は、0.38Vであった。
【0061】
一方、本構成の電解槽では、ガス拡散電極とイオン交換膜との間に、親水層であるカーボンクロスを配置したため、部材数が増加し、実施例1に比べて組み立ての容易性は劣った。
【0062】
比較例2は、実施例1~3に比べて、親水層とガス拡散電極の接触抵抗および親水層自身の抵抗が余分に存在したため抵抗上昇となったと考えられる。
【符号の説明】
【0063】
1 電解槽
2 イオン交換膜
3 陽極室
4 陰極室
5 陽極電極
6a 電極支持層
6b 反応層
7 ガス拡散電極(陰極電極)
8 クッション材
9 陰極室背板(陰極端子)
10 陽極ガスケット
11 陰極ガスケット
12 陽極液導入口
13 陽極液およびガス取出口
14 酸素含有ガス導入口
15 水酸化ナトリウム水溶液取出口