IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハンス イェンセン ルブリケイターズ アクティーゼルスカブの特許一覧

特許7631190大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット
<>
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図1
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図2
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図3
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図4
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図5a
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図5b
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図5c
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図6
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図7
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図8
  • 特許-大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】大型低速2ストローク機関のルブリケータポンプユニット及び潤滑系統を改良するためのバルブシートの変更形態、ならびに改良されたルブリケータポンプユニット
(51)【国際特許分類】
   F04B 53/18 20060101AFI20250210BHJP
   F04B 53/10 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
F04B53/18
F04B53/10 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021518085
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 DK2019050289
(87)【国際公開番号】W WO2020069706
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】PA201870648
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】511081141
【氏名又は名称】ハンス イェンセン ルブリケイターズ アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【弁理士】
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】バック ペール
(72)【発明者】
【氏名】フロドガード エミル
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-121931(JP,A)
【文献】特開2002-340205(JP,A)
【文献】特開昭54-074522(JP,A)
【文献】特開2006-242019(JP,A)
【文献】特表2007-533882(JP,A)
【文献】国際公開第2016/173601(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 53/18
F04B 53/10
F01M 1/16
F16K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型低速機関の潤滑系統を改善する方法であって、
前記大型低速機関は、シリンダ(1)を含み、前記シリンダ(1)は内側に往復動ピストンを備え、噴射フェーズ中に前記シリンダ(1)の周囲のさまざまな位置で前記シリンダ(1)への潤滑剤の噴射のために前記周囲に沿って配設される複数の潤滑剤インジェクタ(4)を備え、
前記潤滑系統は、前記噴射フェーズ中に前記潤滑剤インジェクタ(4)に潤滑剤を供給するように構成され、
前記潤滑系統は前記噴射フェーズ中に潤滑剤供給コンジット(9)を介して前記各潤滑剤インジェクタ(4)に加圧潤滑剤を供給するために、前記潤滑剤供給コンジット(9)によって各潤滑剤インジェクタ(4)にパイプ連結されるルブリケータ(11)を含み、
前記ルブリケータ(11)は、油圧駆動アクチュエータピストン(123)がストローク長に沿って往復動するように配置されるハウジング(101)を含み、
前記ハウジング(101)は、複数の噴射プランジャ(119)及び対応する複数の添加チャネル(115)、ならびに前記添加チャネル(115)ごとに1つの逆止弁(102)をさらに含み、
各噴射プランジャ(119)は前記添加チャネル(115)の1つに摺動自在に配置され、
前記噴射プランジャ(119)は、前記ストローク長にわたって前記油圧駆動アクチュエータピストン(123)によって共通に移動されるように、前記油圧駆動アクチュエータピストン(123)に結合され、添加チャネル距離にわたって前記添加チャネル(115)内の潤滑剤を加圧して、前記加圧された潤滑剤を各添加チャネル(115)から前記対応する逆止弁(102)を通して排出し、前記潤滑剤を前記シリンダ(1)に噴射し、
前記添加チャネル距離は、前記噴射フェーズ中に前記添加チャネル(115)から前記逆止弁(102)を通って排出される潤滑剤の容積を画定し、
各逆止弁(102)は、前記ハウジング(11)内の対応するバルブチャンバ(102’)に設けられ、ばね(25)の荷重によってバルブシート(24)に対して予応力を負荷される球形バルブ部材(23)を含み、
前記方法は、
前記ばね(25)及び前記球形バルブ部材(23)を前記バルブチャンバ(102’)から除去することと、
前記バルブチャンバ(102’)内で前記バルブシート(24)を加工することによって前記バルブシート(24)を円対称形状に変更することと、を含み、
前記加工は、12.5μm未満の前記バルブシート(24)の算術平均粗さを前記加工によって提供することによって、前記球形バルブ部材(23)と前記バルブシート(24)との間の緊密な接触のために前記バルブシート(24)の算術平均粗さを減少させるように前記バルブシート(24)を加工することを含み、
前記加工は、加工工具で行なわれ、前記加工工具は、材料を前記バルブシートに対して置換し、除去し、または追加し、
その後、前記ルブリケータ(11)を、前記変更されたバルブシート(24)を備える前記大型低速機関の前記潤滑系統内で作動させる前に、前記ばね(25)及び前記球形バルブ部材(23)を再び取り付けることと、を含み、
前記方法は、
第一曲率半径(34)を有する凹状の形状に前記バルブシート(24)を変更することと、前記第一曲率半径(34)以下の第二曲率半径(33)を有する凸状の前記球形バルブ部材(23)を提供することと、を含み、
前記第一曲率半径及び前記第二曲率半径は前記バルブシート(24)に直交する平面内で測定され、
前記第一曲率半径は、前記第二曲率半径よりも5~50%大きく、
前記方法は、
前記変更前に、少なくとも100,000回の潤滑剤噴射サイクルの間、前記潤滑系統内で前記ルブリケータ(11)を作動させることと、
前記変更後に、前記ルブリケータ(11)及び前記変更されたバルブシート(24)を用いて前記潤滑系統の作動を継続することと、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記加工は、放電加工、穴あけ加工、フライス削り加工、溶接加工、研削加工、研磨加工、エッチング加工、めっき加工、電解加工のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
20~100バールの範囲内の潤滑剤圧力で前記変更されたルブリケータ(11)を用いて前記潤滑剤インジェクタ(4)に潤滑剤を供給することによって前記潤滑系統を作動させることと、
前記潤滑剤インジェクタ(4)によって、潤滑剤の微粒化液滴の霧を前記シリンダ(1)内側の旋回する掃気に噴射することと、
前記シリンダの上死点(TDC)に向かって旋回運動することによって前記微粒化液滴の霧の輸送中に前記微粒化液滴の霧を前記シリンダ壁部に分配することと、
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
大型低速機関のためのルブリケータ(11)を改良する方法であって、
前記大型低速機関は、シリンダ(1)を含み、前記シリンダ(1)は内側に往復動ピストンを備え、噴射フェーズ中に前記シリンダ(1)の周囲のさまざまな位置で前記シリンダ(1)への潤滑剤の噴射のために前記周囲に沿って配設される複数の潤滑剤インジェクタ(4)を備え、
前記ルブリケータ(11)は、前記噴射フェーズ中に加圧潤滑剤を前記潤滑剤インジェクタ(4)に供給するように構成され、
前記ルブリケータ(11)は、油圧駆動アクチュエータピストン(123)がストローク長に沿って往復動するように配置されるハウジング(101)を含み、
前記ハウジング(101)は、複数の噴射プランジャ(119)及び対応する複数の添加チャネル(115)、ならびに前記添加チャネル(115)ごとに1つの逆止弁(102)をさらに含み、
各噴射プランジャ(119)は前記添加チャネル(115)の1つに摺動自在に配置され、
前記噴射プランジャ(119)は、前記ストローク長にわたって前記油圧駆動アクチュエータピストン(123)によって共通に移動されるように、前記油圧駆動アクチュエータピストン(123)に結合され、添加チャネル距離にわたって前記添加チャネル(115)内の潤滑剤を加圧して、前記加圧された潤滑剤を各添加チャネル(115)から前記対応する逆止弁(102)を通して排出し、前記潤滑剤を前記シリンダ(1)に噴射し、
前記添加チャネル距離は、前記噴射フェーズ中に前記添加チャネル(115)から前記逆止弁(102)を通って排出される潤滑剤の容積を画定し、
各逆止弁(102)は、前記ハウジング(11)内の対応するバルブチャンバ(102’)に設けられ、ばね(25)の荷重によってバルブシート(24)に対して予応力を負荷される球形バルブ部材(23)を含み、
前記方法は、
前記ばね(25)及び前記球形バルブ部材(23)を前記バルブチャンバ(102’)から除去することと、
前記バルブチャンバ(102’)内で前記バルブシート(24)を加工することによって前記バルブシート(24)を円対称形状に変更することと、を含み、前記円対称は、前記異なるバルブシート(24)を横切って測定されるときに0.2mm未満まで変化し、
前記加工は、12.5μm未満の前記バルブシート(24)の算術平均粗さを前記加工によって提供することにより、前記球形バルブ部材(23)と前記バルブシート(24)との間の緊密な接触のために前記バルブシート(24)の算術平均粗さを減少させるように前記バルブシート(24)を加工することを含み、
前記加工は、工具によって行なわれ、前記工具は、材料を前記バルブシートに対して置換し、除去し、または追加し、その後、前記ルブリケータ(11)を、前記変更されたバルブシート(24)を備える前記大型低速機関の潤滑系統内で作動させる前に、前記ばね(25)及び前記球形バルブ部材(23)を再び取り付けることと、を含み、
前記方法は、第一曲率半径(34)を有する凹状の形状に前記バルブシート(24)を変更することと、前記第一曲率半径(34)以下の第二曲率半径(33)を有する凸状の前記球形バルブ部材(23)を提供することと、を含み、
前記第一曲率半径及び前記第二曲率半径は前記バルブシート(24)に直交する平面内で測定され、前記第一曲率半径は、前記第二曲率半径よりも5~50%大きく、
前記方法は、
前記変更前に、少なくとも100,000回の潤滑剤噴射サイクルの間、前記潤滑系統内で前記ルブリケータ(11)を作動させることと、
前記変更後に、前記ルブリケータ(11)及び前記変更されたバルブシート(24)を用いて前記潤滑系統の作動を継続することと、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
前記加工は、放電加工、穴あけ加工、フライス削り加工、溶接加工、研削加工、研磨加工、エッチング加工、めっき加工、電解加工のうちの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型低速2ストローク機関内の潤滑系統のためのルブリケータポンプユニットを改良する方法に関する。既存の潤滑系統を、寿命が長く漏れのないように変更する。例えば、大型低速2ストローク機関は、船用機関または発電所の大型機関である。
【背景技術】
【0002】
環境保護に重点を置いているため、船用機関からの排出物の削減に関する試みに取り組んでいる。これは、特に競争の激化により、それらのような機関についての潤滑系統の着実な最適化も伴う。注目を集めている経済的側面の1つは、石油消費量の削減であり、これは、環境保護だけのためでなく、船舶の運用コストの著しい部分であるためである。
【0003】
船用機関についての潤滑系統は、ドイツの特許文書DE19743955B4及び同等のデンマークの特許DK173288B1に開示されている。それは、中央制御装置が船用機関の各シリンダについてのルブリケータに潤滑剤を供給する潤滑系統を開示している。ルブリケータは、シリンダ外周部の周囲に配設される複数の潤滑剤インジェクタに潤滑剤を分配する。ルブリケータは、ハウジングを含み、このハウジングの中では、複数のピストンポンプは円形の周りに配置され、油圧駆動アクチュエータピストンによって合わせて同期して駆動される。各ピストンポンプは、逆止弁を介して単シリンダのインジェクタの1つに潤滑剤をポンピングしている噴射プランジャを含む。油圧駆動アクチュエータピストンは、その静止した後方エンドストッパと前方エンドストッパとの間の調整可能な距離を越えて移動しており、この調整可能な距離は調整ねじによって調整可能である。調整ねじを回すために、エンドキャップでアクセス可能であり、このエンドキャップがハウジングのフランジを覆い、このフランジを通って調整ねじが延在する。
【0004】
船用機関シリンダへのコンパクトな潤滑剤ジェットの噴射に関連して、またピストンリング間のピストン上への潤滑剤クイル用に、このシステムは広く普及しており、MAN B&W Diesel and Turbo社からアルファルブリケータポンプユニットの商品名で販売されている。
【0005】
図1は、インターネットページ(http://www.mariness.co.kr/02_business/Doosan%20Retrofit%20Service.pdf?PHPSESSID=fd56da9de6eaca2f1f446512e84fcf69)上にあるアルファ潤滑系統用のルブリケータポンプユニットの一実施例を示す。
【0006】
原理をより詳細に説明するために、図面は追加の参照番号に関して若干変更されている。簡潔にするために、MAN B&W Diesel and Turboによって販売されているアルファ潤滑系統用のルブリケータポンプユニットは、以下では「アルファルブリケータ」と称される。この用語は、船用機関の技術分野で通常使用されている用語と一致しており、インターネット上の関連出版物及び技術文献と一致している。
【0007】
上記のDE19743955B4及びDK173288B1と同様に、アルファルブリケータ100は、金属ハウジング101を備え、この金属ハウジング101は、複数の噴射プランジャ119が1つの円形に配置され、油圧駆動アクチュエータピストン123によって合わせて同期して駆動される。各噴射プランジャ119は、入口開口部113を介してハウジング101の内部容積114から潤滑剤を受容する添加チャネル115内に摺動自在に配置される。入口開口部113は、噴射プランジャ119の前進運動中に噴射プランジャ119によって閉じられ、その結果、噴射プランジャ119によるさらなる前進運動は、添加チャネル115の残りの部分に受容した潤滑剤を加圧し、それを逆止弁102に通してパイプ103中に、そして単シリンダのインジェクタの1つまでポンピングする。予応力を負荷されたばね109によって引き起こされるアクチュエータピストン123の後退中に、噴射プランジャ119は、噴射プランジャ119の前端部が入口開口部113を越えて後退するまで、後退し、添加チャネル115内に真空を生成し、潤滑剤を入口開口部113に流入させ、添加チャネル115を再充填することができる。
【0008】
添加チャネル115内の噴射プランジャ119によって加圧され、逆止弁102を通して排出される潤滑剤の容積は、入口開口部113から後退前の最大前進位置までの噴射プランジャ119の運動距離によって確定される。ストローク長にわたるアクチュエータピストン123の運動中、噴射プランジャ119の運動の第一部分は入口開口部113を通過し、噴射プランジャ119が入口開口部113を通過してそれを閉じた場合にのみ、潤滑剤は加圧され、残りの添加チャネル距離から排出される。
【0009】
油圧駆動アクチュエータピストン123は、その静止した後方エンドストッパ104と前方エンドストッパ105との間の調整可能な距離を越えて移動しており、この調整可能な距離は調整ねじによって調整可能である。調整ねじ121を回すために、エンドキャップ106でアクセス可能であり、このエンドキャップがハウジング101のフランジ107を覆い、このフランジを通って調整ねじ121が延在する。アルファルブリケータ100内のフランジ107は、スペーサ122を支持し、調整ねじ121の調整のためにねじ部110を含む。往復動アクチュエータピストン123は、アクチュエータピストン123の後ろのボリューム108内で振動する油圧によって駆動され、電磁弁116は、アクチュエータピストン123の後ろのこのボリューム108内での2つの圧力レベル間でシフトする。達する圧力レベルが低いほど、ばね109の荷重は、アクチュエータピストン123を後方エンドストッパに押し戻す。電磁弁116は、制御ユニットからの対応する信号によって調節される。
【0010】
図1に見られるように、ポンプストロークの基本設定のためのスペーサ122は、エンドキャップ106の後ろのフランジ107に設けられ、そこで調整ねじ121の頭部は、回転による調整のためにアクセス可能である。
【0011】
アルファルブリケータは、静電容量フィードバックセンサ120を使用して油圧アクチュエータのストローク長が十分に長いことを検証するという点で、上記の特許DE19743955B4及びDK173288B1とは相対的に異なる。
【0012】
このフィードバックセンサ120は、図1にも示されている。示されるように、油圧アクチュエータピストンは、2つの円周方向溝部111を含み、油圧アクチュエータピストン123のストロークがフィードバックセンサ120を通過して移動するのに、第二溝部111に対して十分な長さである場合、フィードバックセンサ120は、中央制御装置に適切な潤滑の確認信号を与える。フィードバックセンサ120が第一及び第二溝部111を通過すると、フィードバックセンサ120は、中央制御装置が適切な潤滑の確認として受信するダブルパルス信号を生成する。フィードバックセンサ120が第一溝部111の1つだけを通過する場合、フィードバックセンサ120からの対応するシングルパルス信号は、フィードバックセンサ120の一般的な機能と、適切な潤滑のためにアクチュエータピストン123の十分な運動がないが、少なくとも短い距離にわたるアクチュエータピストン123の運動とを中央制御装置に示す。フィードバックセンサ120が何らかの信号を発している場合、ストロークが適切な潤滑に十分な長さとして測定されなかった警告メッセージが制御装置によって提供される。
【0013】
逆止弁102は、バルブチャンバ102’の内側に設けられ、従来、ばねによってバルブシートに対して予応力を負荷されたバルブ部材、この場合には球形バルブ部材を備えることによって構築される。加圧潤滑剤によって生じる力が予応力を負荷した力を上回る所定の限界値を超えて潤滑剤の圧力が上昇すると、添加チャネル115内の潤滑剤は、つる巻きばねの予応力を負荷する力に対して球形バルブ部材を変位させる。一旦開かれると、逆止弁102は、圧力が噴射フェーズ中に増加した状態にある限り、インジェクタへの潤滑剤の流れのためにパイプ103に通路を与える。添加チャネル115内の油圧が所定の限界値以下に減少すると、逆止弁102は、アイドルフェーズの間、再び閉じ、次の噴射フェーズまで閉じたままである。
【0014】
アルファタイプルブリケータを備えた船用機関についての潤滑系統が、比較的短時間の機能の後では不十分であることがわかっている。アルファルブリケータを含むシステム全体が比較的高価であり、長期的な信頼性が一般的に要求されるため、適切な機能をより長い期間にわたって延長することが望ましい。
【0015】
US2013/260647は、最大2000バールの圧力で燃料が上昇した速度で制御チャンバから漏れ出る、コモンレール高圧燃料噴射システムを開示する。高圧バルブのボールとボールシートとの間の距離が50ミクロンしか上がらないという事実が原因で、燃料が非常に高速になり、キャビテーションのリスクがある。キャビテーションのリスクを最小にするために、工具は特殊な面取り領域を設けられ、バルブ本体のボールシートディフューザに面取りされたアンダーカット部分を提供する。面取り部分は、燃料流量の力を低下させ、キャビテーションを減少させる。
【0016】
アルファルブリケータでは、この圧力は、100バールをはるかに下回り、US2013/260647での2000バールと比較して、通常、30分の1より低いアルファルブリケータにはキャビテーションが存在しないため、ディフューザも必要ではない。したがって、特殊な方法のUS2013/260647でのこの開示は、ディフューザ内のキャビテーションを回避するためにコモンレール高圧燃料噴射システムでの非常に特殊な燃料バルブを微調整するものであり、アルファタイプのルブリケータが短時間の作動後に適切に機能していない場合にそのルブリケータを修復する方法についての手がかりを与えない。アルファルブリケータに当該技術での改良を提供するために、他の考慮事項が適用される。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、当該技術分野の改良を提供することである。特定の目的は、上述されるようなタイプのルブリケータを備えた潤滑系統、特にアルファルブリケータを備えたアルファ潤滑系統を改良する方法を提供することである。
【0018】
「ルブリケータ」という用語は、本明細書ではルブリケータポンプユニットに使用され、このルブリケータポンプユニットは、対応する大型低速2ストローク機関(通常はディーゼルまたはガス燃料を燃料とする)内の潤滑剤インジェクタのための潤滑剤を加圧して添加する。ルブリケータ及びその機能は、図1を参照して上述された、アルファルブリケータを一実施例として参照して以下で詳細に説明される。
【0019】
「噴射フェーズ」という用語は、インジェクタによって潤滑剤がシリンダに噴射されている時間に使用される。「アイドルフェーズ」という用語は、噴射フェーズ間の時間に使用される。「噴射サイクル」という用語は、噴射シーケンスを開始するのにかかる時間、及び次の噴射シーケンスが開始するまでにかかる時間に使用され、通常、噴射シーケンスは各噴射シーケンス中にすべての潤滑剤インジェクタを伴う。例えば、噴射シーケンスは、各インジェクタによる単一の噴射を含み、その場合、噴射サイクルは、噴射フェーズの開始から次の噴射フェーズの開始まで測定される。噴射の「タイミング」という用語は、シリンダ内側のピストンの特定の位置に対するインジェクタによる噴射フェーズの開始の調整に使用される。
【0020】
第一値と第二値との間として記述された間隔の場合、エンドポイントは任意選択で含まれる。
【0021】
表面粗さは算術平均粗さの値Raとして表される。
【0022】
アルファ潤滑系統の寿命が比較的短いという問題を徹底的に調査した結果、性能の低下がアルファルブリケータ内の逆止弁からの漏れが原因であることが明らかになった。これは、比較的短い機能の後に劣化問題に直面すると一般に考えられている構成要素ではないため、驚くべきことである。これらの調査では、100万サイクル後に逆止弁がすでに漏れていたことがわかっている。一見すると100万サイクルは、多いように見えるかもしれないが、これは、その後のエンジンのメンテナンス停止の間の時間経過未満に相当することがあるため、実際にはそうではない。
【0023】
特に、アルファルブリケータを圧力上昇時の潤滑剤噴射に使用する場合、この問題はより顕著になる。
【0024】
この問題がアルファルブリケータの逆止弁における漏れが原因であったという認識では、比較的小さな構成要素、すなわち使用されたルブリケータの逆止弁のみを変更することによって、潤滑系統全体の機能が改良される可能性がある。
【0025】
漏れの問題の認識から、技術的な解決策は簡単ではなかった。特に、ルブリケータの単なる交換は、高価な解決策であるだけでなく、機能をさらに100万回だけの潤滑剤噴射サイクルに制限する。したがって、アルファルブリケータへのアップグレードを提供することがさらなる目的であった。
【0026】
この目的は、工具でバルブシートを加工することにより、バルブチャンバ内のバルブシート(通常は金属製のバルブシート)を変更することで達成された。通常、加工することによって材料が除去される。ただし、一部の技法の結果、塑性変形または融解変形が生じ、一部の技法はバルブシートに材料を追加する場合もある。加工することにより、より高い精度で変更されたバルブシートが作製される。より高い精度の実施例は、より低い表面粗さ、及び正確な円対称である。
【0027】
加工技術の実施例は、放電加工、穴あけ加工、フライス削り加工、溶接加工、研削加工、研磨加工、エッチング加工、めっき加工、または電解加工である。このリストは排他的ではない。
【0028】
例えば、この加工によって表面粗さを、12.5μm未満、任意選択で6.3μm未満または1.6μm未満まで減少させることが有利である。任意選択で、表面粗さは、12.5~0.8μm、16.3~0.8μm、または1.6~0.8μmの範囲内である。
【0029】
以下により詳細に提示される例示的な実験では、変形部材をバルブシートに単に押し込み、塑性変形を引き起こしたことによる簡単な方法で、バルブシートを変更した。顕微鏡検査により、バルブシート上へのそのような変形部材のインプレッションが、十分な力で行われた場合、バルブシートの表面粗さを実質的に減少させることが明らかになった。
【0030】
驚くべきことに、この表面粗さの減少は、バルブ部材とバルブシートとの間のより近く、より密な接触を提供するだけでなく、結果として、逆止弁の寿命を何倍にも延ばすことになることで、ルブリケータの寿命を延ばし、潤滑系統全体を改良することが判明した。
【0031】
上記の加工技術により、変形部材のインプレッションよりも高い精度までバルブシートの変更ができる。また、提示された加工技術は、バルブシートの最終的な形状に関して高い自由度を有する。
【0032】
例えば、これらの加工技術を使用して、バルブシートの凹面を作製する。有用な変更は、バルブが球の一部をたどる部分球形へのものである。
【0033】
ただし、円錐形へのバルブシートの加工も可能である。
【0034】
さらなるオプションとして、この変更を使用して、バルブシートの凸形状を作製する。一実施例は、例えば楕円形または円形の断面を有する、円対称トーラスとして形成される凸状バルブシートである。バルブ部材も凸状、例えば球形である場合、バルブ部材及びトロイダルバルブシートは、接線方向の接触のために非常に狭い相互接触リングを含む。それらのようなトーラスと円錐形のバルブ部材との間にも、狭い接触リングが得られる。
【0035】
変更後、バルブ部材は、バルブシートの変更後に円形リングに沿ってバルブシートに対して締着するためにバルブチャンバに装着される。
【0036】
例えば、この方法は、第一曲率半径を有する凹形状を達成するようにバルブシートを変更することを含み、第一曲率半径はバルブシートに直交する平面内で測定される。「バルブシートに直交する」という用語は、バルブシートとバルブ部材との間の接触リングを含む平面に直交することとして理解されたい。
【0037】
任意選択で、加工されたバルブシートは、バルブシートに対して予応力を負荷されていることによって弁を閉じる、凸状バルブ部材、典型的にはボール部材の第二曲率半径を下回らない第一曲率半径を有する。
【0038】
例えば、バルブ部材は、変更前にバルブチャンバ内側にあったものと同じである。あるいは、例えば異なるサイズ及び/または形状を有する、新しいバルブ部材を装着する。典型的なバルブ部材は球形のものであるため、弁はボール逆止弁である。
【0039】
通常、バルブ部材は金属、例えば鋼から作製される。あるいは、バルブ部材はポリマーまたはセラミックスから作製される。
【0040】
いくつかの実施形態では、バルブシートについての曲率半径は、バルブ部材と同じ、またはほぼ同じである。他の実施形態では、バルブシートについての曲率半径は、バルブ部材、例えばボール部材の曲率半径よりも大きく、例えばこれよりも5~50%以内で大きい。この場合、バルブシートの曲率は、湾曲したバルブ部材がバルブシート上の中央に装着されるようにガイドするのに十分である。しかしながら、曲率が異なるため、バルブ部材の凸面とバルブシートの凹面との間の接触リングは比較的薄く、これは、逆止弁の良好な密封性及び迅速な応答にとって有利である。
【0041】
例えば、バルブシートが3~10mmの直径を有する場合、バルブ部材とバルブシートとの間のリング状の接触面の厚さは、0.01から0.5mmの範囲内、任意選択で、0.05から0.5mmの範囲内、または0.1mmから0.5mmの範囲内である。極角における角度スパンの点から、これはおよそ0.1~10度に相当する。いくつかの実用的な実施形態では、有用な接触偏角は、0.1から5度の範囲内にある。例えば、バルブ部材とバルブシートとの間の接触面は、0.1mm2から2mm2の範囲内の面積を有する。
【0042】
通常、バルブ部材はバルブシートの内径よりも30~100%大きい。例えば、バルブシートの内径が3mmである場合、ボール部材は直径では4~6mmの範囲内にある。例えば、バルブシートの上流にあり、逆止弁によって閉じられているコンジットの直径に、バルブシートの内径がほぼ等しい。
【0043】
変更された凹状バルブシートの曲率半径が凸状バルブ部材の曲率半径よりも大きい場合、バルブシートとバルブ部材との間の曲率半径の精度は要求されない。これにより、変更プロセスが比較的簡単になる。
【0044】
バルブシート及び同じ曲率半径を有するバルブ部材の拘束がないことにより、楕円体、放物線、または双曲線など、バルブシートの他の凹面形状も可能になる。円錐形を使用することも可能である。
【0045】
しかしながら、長寿命のために、バルブシートが円対称であることが有利である。例えば、円対称性は、バルブシート全体で測定した場合、0.2mm未満まで、例えば0.1mm未満まで変化する。
【0046】
いくつかの実施形態では、バルブチャンバ内のバルブシートは、非球形から部分球形である形状に変更される。部分球形のバルブシートは、球面切頭体とも称される球形セグメントの表面に似ている。以下では、このような形状を有するバルブシートは部分球形バルブシートと称される。
【0047】
任意選択で、バルブチャンバ内で変更されたバルブシートは、バルブシートに当接しているバルブ部材の曲げ半径に等しいが、または実質的に等しいが、それより小さくない曲げ半径を有する部分球形である形状を有する。例えば、すでに上述されるように、変更後のバルブシートの曲率半径は、加工手順後に挿入されるバルブ部材の曲率半径よりも大きい。
【0048】
任意選択で、システムをさらに改良するために、さらなる逆止弁が既存の逆止弁に追加され、二重弁システムが設けられる。二重弁システムは、このシステムの密封性及び寿命を向上させる。例えば、変更された逆止弁に直列に、さらに逆止弁が追加される。このような追加の逆止弁は、潤滑剤出口でルブリケータハウジングに取り付けられる可能性がある。
【0049】
例えば、この方法は、変更前に少なくとも100,000回の潤滑剤噴射サイクルの間、潤滑系統内のルブリケータを作動させること、及び変更後にルブリケータ及び変更された逆止弁を用いて潤滑系統を作動させることを含む。
【0050】
ただし、変更は、上記のアルファルブリケータなどの新しいルブリケータがその作動を開始する前に行われる可能性がある。
【0051】
より詳細には、潤滑系統の具体的な実施形態を以下に説明する。
【0052】
潤滑系統は、大型低速2ストローク機関のエンジン(例えば、船用エンジンまたは発電所の大型機関)内の1つまたは複数のシリンダを潤滑するための潤滑剤をインジェクタに提供する。通常、機関はディーゼルまたはガス燃料を燃焼させている。この機関は、1つ以上のシリンダを含み、それぞれのシリンダは、内側に往復動ピストンを備え、噴射フェーズ中にシリンダの周囲のさまざまな位置でシリンダへの潤滑剤の噴射のためにこのシリンダの周囲に沿って配設される複数の潤滑剤インジェクタを備える。
【0053】
潤滑系統はルブリケータを含み、このルブリケータは、潤滑剤供給コンジット、例えばインジェクタごとに1つの供給コンジットによって、各インジェクタにパイプ連結され、噴射フェーズ中に潤滑剤供給コンジットを介して各インジェクタに加圧潤滑剤を供給する。
【0054】
ルブリケータは、ハウジング、通常は金属ハウジングを含むタイプのものであり、ハウジング内には、油圧駆動のアクチュエータピストンがストローク方向に沿ったストローク長で往復するように配置される。任意選択で、ルブリケータは、ストローク長調整機構をさらに備え、このストローク長調整機構は、最小ストローク長と最大ストローク長との間で往復油圧駆動アクチュエータピストンのストローク長を可変的に調整するように構成される。
【0055】
ルブリケータは、対応する添加チャネルに摺動自在に配置された複数の噴射プランジャをさらに含み、噴射プランジャは、アクチュエータピストンに結合され、アクチュエータピストンによって移動し、この移動中に添加チャネル内の潤滑剤を加圧する。アクチュエータピストンがストローク長にわたって移動すると、インジェクタプランジャは対応する長さにわたって移動する。添加チャネル内側の噴射プランジャの移動は、噴射プランジャが添加チャネル距離にわたって移動する間、添加チャネル内の潤滑剤を加圧し、添加チャネル距離は、機関シリンダへの潤滑剤の噴射のために、噴射フェーズ中に添加チャネルから逆止弁及び供給コンジットを通ってインジェクタに排出される、ポンプアクションにおける潤滑剤の容積を画定する。
【0056】
例えば、添加チャネル距離はストローク長以下である。これは構成によって決まる。任意選択で、添加チャネル距離は、最小ストローク長と最大ストローク長との間のアクチュエータピストンの可変ストローク長に対応する、最小添加チャネル距離と最大添加チャネル距離との間で調整可能である。
【0057】
また、ルブリケータは、バルブ、通常は電気バルブを備え、このバルブは、アクチュエータピストンに作用している油圧レベル間で切り替えて、アクチュエータピストンを圧力レベルの切り替えによって往復動で油圧駆動することを引き起こすように配置される。通常、アクチュエータピストンは、つる巻きばねによって後方エンドストッパに対して予応力を負荷される。
【0058】
いくつかの具体的な実施形態では、ルブリケータは、アクチュエータピストンを駆動するための高圧オイルを受容し、バルブは、
a)噴射フェーズ中のアクチュエータピストンへの加圧油のアクセス、及び
b)噴射フェーズ間にアクチュエータピストンからの油の排出のために、アクチュエータピストンとドレンとの間の連結、
の間で切り替わる。
【0059】
潤滑系統は、バルブの切り替えを制御する制御装置をさらに備える。電気バルブの場合には、制御装置は、電気バルブに電気的に接続され、対応する電気信号が制御装置から電気バルブに送信されることによって、噴射フェーズの間の切り替えのタイミングを制御する。あるいは、制御装置は、アクチュエータピストンを駆動するための高圧オイルの切り替えを提供するために、ルブリケータの上流で高圧バルブを作動させる。
【0060】
上記の目的によれば、潤滑系統は、ルブリケータの逆止弁を変更することによって改良され、その結果、バルブチャンバ内のバルブシート(通常は金属製のバルブシート)は、通常はある一定の作動時間後に改良されるが、ルブリケータがまだ新しい間の作動開始前にも改良される可能性がある。最終的な技術的解決策は、既存のルブリケータの比較的低コストでの簡単な変更であることが判明したが、それでも潤滑系統の短寿命の問題を解決した。
【0061】
明確にするために、「インジェクタ」という用語が潤滑剤入口ポートを含むインジェクタハウジングを備える噴射バルブシステムに使用されることが示され、この潤滑剤入口ポートは、潤滑剤供給コンジットに流体連通され、そこからシリンダへの噴射のための潤滑剤を受容する。さらに、インジェクタは、噴射フェーズ中に、この入口ポートからシリンダに潤滑剤を噴射するために、シリンダ内に延在する潤滑剤出口としてノズル開口部を含む1つの単一噴射ノズルをさらに備える。インジェクタがシリンダ壁部を通ってシリンダ内に延在する単一のノズルを含むが、インジェクタが適切に取り付けられている場合、ノズル自体は、任意選択で、複数の開口部を有する。例えば、複数の開口部を有するノズルは、WO2012/126480に開示されている。
【0062】
例えば、各インジェクタは、ノズルに出口弁システムを備え、このノズルは、出口弁システムで所定の限界値を超える圧力上昇時に、噴射フェーズ中にノズル開口部への潤滑剤の流れのために開き、噴射フェーズ後に出口弁システムを閉じるように構成される。出口弁システムは、シリンダからの背圧のために閉じ、その上、出口弁が開かない限り、潤滑剤がシリンダに入るのを防止する。例えば、出口弁システムは、出口逆止弁を含む。出口逆止弁では、ボール、楕円体、プレート、またはシリンダなどの出口弁部材は、出口弁ばねによって出口弁シートに対して予応力を負荷される。出口弁システムの上流のフローチャンバ内への加圧潤滑剤の供給時に、ばねの予応力を負荷された力は潤滑剤の圧力によって反作用され、圧力がばねの力よりも高い場合、その出口弁シートから出口弁部材を移し、出口逆止弁はノズル開口部を通したシリンダへの潤滑剤の噴射のために開く。例えば、出口弁ばねは、ノズル開口部から離れる方向でバルブ部材に作用するが、反対の運動も可能である。
【0063】
例えば、中央制御装置は、コンピュータを含み、またはコンピュータに電子の有線接続もしくは無線接続によって接続され、コンピュータは、機関の実際の状態及び動きについてのパラメータを監視することで、これらのパラメータに基づいて潤滑剤噴射の量及びタイミングを制御するように構成されるタイプのものである。
【0064】
任意選択で、インジェクタは、シリンダの掃気に潤滑剤の霧を供給するように構成されるSIPインジェクタである。微粒化液滴のスプレーは、オイルミストとも称され、SIP潤滑では重要であり、ピストンがTDCに向けたその移動中にインジェクタを通過する前に、潤滑剤のスプレーは、インジェクタによってシリンダ内側の掃気に繰り返し噴射される。掃気では、微粒化液滴は、TDCに向かう掃気の旋回運動が原因で、TDCに向かう方向に輸送されるときに、拡散され、シリンダ壁部上に分配される。SIP噴射用のそれらのようなインジェクタの例は、WO2012/126473及びWO2014/048438に開示されている。電気バルブを備えるSIPインジェクタについての追加オプションは、デンマークの特許出願DK201770936及びDK201770940に見いだされる。例えば、インジェクタは、0.1から1mmの間、例えば0.2から0.5mmの間のノズル開口部を有するノズルを含み、オイルミストとも称される微粒化液滴のスプレーを排出するように構成される。スプレーの微粒化は、ノズルでの潤滑剤インジェクタ内の高加圧化潤滑剤が原因である。ルブリケータからの圧力は、10バールよりも高く、この高圧噴射については、通常は20バールから120バールの間にある。一実施例は、30~100バールの間の間隔である。別の例は、60~120バールの間、例えば60~100バールの間の間隔である。噴射時間は短く、通常は5~30ミリ秒(msec)のオーダーである。ただし、噴射時間は、1msec、または1msec未満でもあり、例えば0.1msecまで下げることができる。
【0065】
SIP噴射の場合には、ルブリケータは、対応する必要なパラメータ、特に圧力間隔を用いて作動する。例えば、方法は、SIPインジェクタと組み合わせて20~100バールの範囲内の潤滑剤圧力で変更されたルブリケータを備える潤滑系統を作動させることと、SIPインジェクタによって、潤滑剤の微粒化液滴の霧を機関シリンダ内側の旋回する掃気に噴射することと、シリンダの上死点(TDC)に向かって旋回運動することによって液滴の輸送中に液滴をシリンダ壁部に分配することとを含む。
【0066】
また、粘度は微粒化に影響する。船用機関で使用される潤滑剤は、通常、40℃で約220cSt、100℃で20cStの典型的な動粘度を有し、これは202~37mPa・sの間の動粘度に変換される。有用な潤滑剤の一実施例は、高性能の船用ディーゼル機関シリンダオイルExxonMobil(登録商標)Mobilgard(商標)560VSである。船用機関に有用な他の潤滑剤は、他のMobilgard(商標)オイル及びCastrol(登録商標)Cyltechオイルである。船用機関に一般的に使用される潤滑剤は、40~100℃の範囲内でほぼ同じ粘度プロファイルを有し、例えば0.1~0.8mmのノズル開口径を有し、潤滑剤が開口部で30~80バールの圧力、及び30~100℃または40~100℃の範囲内の温度を有する場合、微粒化にすべて有用である。また、Rathesan Ravendran、Peter Jensen、Jesper de Claville Christiansen、Benny Endelt、Erik Appel Jensen、(2017)「Rheological behaviour of lubrication oils used in two-stroke marine engines」、Industrial Lubrication and Tribology,Vol.69 Issue:5,pp.750-753,https://doi.org/10.1108/ILT-03-2016-0075によるこの主題に関する公開記事を参照する。
【0067】
本発明は、図面を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】インターネットサイト(http://www.mariness.co.kr/02_business/Doosan%20Retrofit%20Service.pdf?PHPSESSID=fd56da9de6eaca2f1f446512e84fcf69)上に公開されている通りのアルファ制御装置の図面の再現である。
図2】潤滑系統を備えた機関内のシリンダの一部のスケッチである。
図3】変更用のルブリケータの一実施例を示す。
図4】変更前のルブリケータの一実施例を示す。
図5】アルファルブリケータのバルブシートの顕微鏡画像を示し、a)では新しいバルブは金属フリンジを含み、b)では新しいバルブシートはエッジを含み、c)では使用されているバルブシートは偏摩耗を示す。
図6】a)では3850回の噴射サイクル、及びb)では100万回のサイクルの後、変更前のルブリケータの性能の測定を示す。
図7】200万回の噴射サイクル後、変更されたルブリケータの性能の測定を示す。
図8】変更後のルブリケータの一実施例を示す。
図9】変形したバルブシートの顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
図1は、インターネットサイト(http://www.mariness.co.kr/02_business/Doosan%20Retrofit%20Service.pdf?PHPSESSID=fd56da9de6eaca2f1f446512e84fcf69)上に公開されている通りのアルファ制御装置の図面の再現である。
【0070】
本明細書に記載の方法について、アルファルブリケータのこの図は、変更されているルブリケータの具体的な実施形態についての例として役立つ。したがって、序論で与えられた説明は、変更の説明にも同様に当てはまる。
【0071】
図2は、船用ディーゼル機関などの大型低速2ストローク機関のシリンダの半分を示す。シリンダ1は、シリンダ壁部3の内側にシリンダライナ2を備える。シリンダ壁部3の内側には、シリンダ1への潤滑剤の噴射のための複数のインジェクタ4が設けられている。
【0072】
図示されるように、インジェクタ4は、隣接するインジェクタ4間で同じ角距離を有する円に沿って配設されているが、これは厳密には必要ではない。また、軸方向にシフトしたインジェクタを用いる配置も可能であり、例えば、隣接するインジェクタに対してピストンの上死点(TDC)に向かって毎秒シフトしたインジェクタを用いる配置も可能であることがわかり、円に沿った配置は必要ではない。
【0073】
図示されるように、インジェクタ4は、潤滑剤供給ライン9を介してルブリケータ11から加圧潤滑油を受容する。供給された油は、通常、特定の温度、例えば、50~60度まで加熱される。ルブリケータ11は、機関のシリンダ1内のピストン運動と同期して、正確なタイミングのパルスで、加圧潤滑油をインジェクタ4に供給する。ルブリケータ11による噴射は、制御装置12によって制御される。同期のために、制御装置12は、クランクシャフトの速度、負荷、及び位置を含む、機関の実際の状態及び動きについてのパラメータを監視し、後者は、シリンダ内のピストンの位置を明らかにする。
【0074】
インジェクタ4のそれぞれは、ノズル開口部5’を含むノズル5を備え、このノズル開口部から潤滑剤は、例えば、コンパクトジェットの形態で、またはSIP噴射用の微小液滴7を用いる微細霧化スプレー8として、高圧下でシリンダ1に排出される。
【0075】
例えば、SIP噴射について、ノズル開口部は、0.2~0.5mmの間などの0.1~0.8mmの間の直径を有し、高圧で微細スプレー8に潤滑剤を霧化するものであり、潤滑剤のコンパクトジェットとは対照的である。圧力は、10バールを上回り、例えば10~120バール、任意選択では20~120バール、もしくは20~100バール、30~80バール、もしくは50~80バール、もしくは60~120バールの範囲内にある、または120バールよりも高い圧力でもある。シリンダライナ2上の潤滑油の均一な分配が達成されるように、シリンダ1内の掃気の旋回10は、スプレー8を輸送し、シリンダライナ2に押し付ける。
【0076】
任意選択で、シリンダライナ2は、スプレー8のための、またはインジェクタ4からの噴射のための適切なスペースを提供するためのフリーアウト6を備える。
【0077】
ルブリケータ11は、オイルポンプを含む潤滑剤供給部15から潤滑剤を受容するための供給コンジット14と、任意選択で潤滑剤の再循環のために、典型的にはオイルリザーバへの潤滑剤の戻りのための戻りコンジット13とに連結される。供給コンジット14内の潤滑剤圧力は、戻りコンジット13内の圧力よりも高く、例えば、少なくとも2倍高い。潤滑剤供給コンジット14は、ルブリケータ11内のアクチュエータピストンを駆動することに加えて、潤滑用の潤滑剤を供給するためにも使用される。
【0078】
図3は、変更用のルブリケータ11の一実施例を示す。番号付けは、図1の変更された従来技術のルブリケータに等しい。変更前に、バルブチャンバ102’は、図1の単一の逆止弁102を含む。
【0079】
図4は、図1の従来技術のルブリケータ11のバルブチャンバ102’内の逆止弁102のより詳細な図である。2つの拡大部分B及びCは、それぞれ3倍及び6倍のさらなる倍率で詳細を示す。逆止弁102は、つる巻きばね25からの荷重によってバルブシート24に対して予応力を負荷される球形バルブ部材23を含む。添加チャネル115内の潤滑剤が所定の限界値を上回る圧力に達すると、添加チャネル115内の潤滑剤は、ばね25の予応力を負荷する力に対してバルブ部材23を変位させる。図示されるように、バルブチャンバ102’が一般に円錐形の端部27を有するにもかかわらず、バルブシート24は鋭いエッジである。ルブリケータ11の早期不具合の徹底的な調査は、漏れは鋭いエッジのバルブシート24の密封性の問題が原因であることを明らかにした。
【0080】
バルブシート24を変更する場合、改良が達成される。例えば、変更後のバルブシートは、球の一部である輪郭を有し、任意選択で球形のバルブ部材と同じ半径を有する。
【0081】
図5は、変更前のアルファルブリケータのバルブシートのいくつかの顕微鏡画像を示す。図5aは、新しいアルファルブリケータのバルブシート、及びバルブシート内の金属フリンジ35の顕著な粗さを示し、これは逆止弁の密封性に損害を与える。図5bは、新しいアルファルブリケータのバルブシート24内のエッジ34を示し、これは、バルブシート24とボール部材との間の適切な封止を妨げる。図5cは、使用されたアルファルブリケータの顕微鏡写真を示し、バルブシートの楕円形が原因で、バルブシートの断面24’が他の断面24’’よりも広く見えることを図示する。楕円形のバルブシートは、おそらく使用中の偏摩耗が原因である。それは、球形のバルブ部材に対して適切に封止しなくなる。バルブシート内のこれらの不具合のすべては、新しいアルファルブリケータから生じるものもあれば、使用中の摩耗から生じるものもあり、特に潤滑剤の圧力が高い場合、十分な封止を妨げる。
【0082】
図6a及び6bは、変更前のルブリケータの性能の測定を示し、バルブシート24は、図4に示されるように鋭利なエッジであり、図5に示されるような不具合があった。図6a及び図6bの6つのグラフは、アルファルブリケータの6つの出口に対して作成されており、各出口は1つの逆止弁を含む。図8aの測定は、3850回の噴射サイクル後に行われた。ピークは噴射を示し、水平レベルはアイドルフェーズ中の圧力レベルを示す。図8bのグラフは、100万回のサイクル後の同様の測定を示す。実線で描かれた曲線のドロップは、逆止弁102の漏れが原因であるアイドルフェーズ中の圧力損失を示す。
【0083】
図7は、200万回の噴射サイクル後、変更されたルブリケータの性能の測定を示す。実験結果は、噴射フェーズのスパイク間のアイドルフェーズ中の水平圧力曲線を示す。図7の水平圧力レベルは、図6bの減少する圧力曲線とは対照的に、密封性に関して、変更された逆止弁102の2倍を上回るまで増加した寿命を表す。
【0084】
図7の試験実験におけるルブリケータ11は、より小さな表面粗さ、及び円対称に関してより高い精度を有する部分球形構成に変更されたバルブシート24を含む。
【0085】
図7の実験のためのバルブシートの変更は、ボール形状のバルブ部材23とほぼ同じサイズのボール形状の変形部材を、200kgに相当する力で鋭利なエッジのバルブシート24上に押し付けることによって行われた。この力は、図4の構成から、表面粗さが少なく円対称性がより正確である球形の一部の形状に、鋭利なエッジのバルブシート24を変形させるのに十分であった。
【0086】
変形部材、例えば力を負荷された鋼のボールをバルブチャンバに押し付けることによる変形は、図4の鋭利なエッジのバルブシート24を変更する簡単な方法である。
【0087】
さらに進んだのは、放電加工、穴あけ加工、フライス削り加工、溶接加工、研削加工、研磨加工、エッチング加工、めっき加工、及び/または電解加工など、バルブシートの機械加工についての技法であり、最適な結果のために、さまざまな技法を組み合わせることができる。
【0088】
図8は、図7の試験実験に使用されたものと同様の、寸法精度が高い凹状セグメント、例えば、部分球形セグメントなどにバルブシートを加工することによって、バルブシート24が変更された一実施例を示す。これは、バルブシート24に対して静止しているボール形のバルブ部材23を示す。
【0089】
図8に示されるように、さらに明確にするために、バルブシート24の曲率半径33、及び球形バルブ部材の曲率半径34は、バルブシートに対して直交して中心となる平面で測定される。2つの曲率半径は図8に示され、図8は断面図であるため、そのような平面上への図である。
【0090】
図9は、変形部材を使用してバルブシートを変形させた、変更されたバルブシートの顕微鏡画像を示す。実験では、表面粗さ0.06μm(算術平均粗さの値Ra)を有する球形変形部材を200kg相当の力でバルブシートに押し付け、変形を引き起こし、表面粗さ0.8μmの変化をもたらした。リング状のバルブシートの幅は0.06mmであった。バルブシートの表面積は約0.5mm2であった。
【0091】
変形の結果、寿命は大幅に改善されたが、上記の方法でバルブシートを機械加工することで、寸法精度がさらに向上し、寿命もさらに改善された。
【0092】
例えば、最終的なバルブシートは、球形バルブ部材と同じ曲率半径、または実質的に同じ半径などを有する、凹形、典型的には部分球形を含む。この部分球形バルブシートが原因で、球形バルブ部材23とバルブシート24との間の接触領域28は、図4の球形バルブ部材23と鋭いエッジのバルブシート24との間よりも滑らかである。あるいは、バルブシートは、バルブ部材についての曲率半径よりも大きい曲率半径を有する凹状の形態を達成する。さらなる代替案として、最終的なバルブシートは、円錐形状または凸状トロイダル形状を有する。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図6
図7
図8
図9