IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナイモックス コーポレーションの特許一覧

特許7631225フェキサポチドトリフルタートによる下部尿路症状の治療法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】フェキサポチドトリフルタートによる下部尿路症状の治療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20250210BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20250210BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20250210BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20250210BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20250210BHJP
【FI】
A61K38/10
A61P13/02
A61P13/00
A61P13/10
C07K7/08 ZNA
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021565143
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-15
(86)【国際出願番号】 US2020032017
(87)【国際公開番号】W WO2020231777
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】16/410,658
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517433430
【氏名又は名称】ナイモックス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】NYMOX CORPORATION
【住所又は居所原語表記】777 Terrace Avenue Hasbrouck Heights,New Jersey 07604 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】アヴァーバック, ポール
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-505188(JP,A)
【文献】Ther Adv Urol,2019年,Vol.11,pp.1-16,published 2019 Jan 14
【文献】World J Mens Health,2013年,Vol.31, No.3,pp.193-207
【文献】World Journal of Urology,2018年,Vol.36,pp.801-809
【文献】Ther Adv Chronic Dis,2011年,Vol.2, No.6,pp.377-383
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/10
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧迫感、尿流が弱い、断続的な尿流および残尿感からなる一群から選択される下部尿路症状(LUTS)のうちの閉塞性排尿症状を有すると識別された哺乳動物のうち、125mL以上の尿を排尿できなかった哺乳動物の割合を減少させるために使用する組成物であって、前記組成物が、SEQ ID NO.1(Ile-Asp-Gln-Gln-Val-Leu-Ser-Arg-Ile-Lys-Leu-Glu-Ile-Lys-Arg-Cys-Leu)および中性緩衝生理食塩水からなる医薬剤を含み、前立腺肥大症(BPH)を有すると識別され、かつLUTSのうちの閉塞性排尿症状を有する哺乳動物に投与可能である場合前記組成物は、投与から12ヵ月以上経過した後に125mL以上の尿を排尿できなかった患者の割合を、SEQ ID NO.1を含有しない対照組成物の投与から12ヶ月以上経過した後で125mL以上の尿を排尿できなかった患者の割合と比較して、20%~50%減少させる、組成物
【請求項2】
前記組成物に含まれるSEQ ID NO.1の量は2.5mg/Lである、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記組成物が、経口投与、皮下投与、皮内投与、鼻腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、髄腔内投与、鼻腔内投与、腫瘍内投与、局所投与、経直腸投与、経腹膜投与、および経皮投与からなる群から選択される方法によって投与可能である、請求項1に記載の組成物
【請求項4】
前記組成物は、投与後12カ月後に最大流量の悪化(「Qmax悪化」)を示した患者の割合を、SEQ ID NO.1を含有しない対照組成物の投与後12ヶ月後に最大流量の悪化(「Qmax悪化」)を示した患者の割合と比較して、約15%~約45%減少させる、請求項1に記載の組成物
【請求項5】
前記組成物は2回以上投与可能である、請求項4に記載の組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年5月13日に出願された米国特許仮出願第16/410,658号の優先権を主張するものであり、この出願の全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
(配列表)
本願はASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
実施形態は、フェキサポチドトリフルタート(「FT」)を含む組成物を投与することにより下部尿路症状(LUTS)を治療する方法を含む。方法は、特に、尿の最大流量(Qmax)の改善および夜間頻尿の改善に有効である。
【背景技術】
【0004】
多くの医療的治療および処置は基本的に、有害なまたは不要な組織の除去または破壊を伴う。そのような治療の例には、癌性または前癌性の成長物の外科的除去、化学療法による転移性腫瘍の破壊、および腺性(例えば前立腺)過形成の低減が含まれる。他の例には、不要な顔毛の除去、疣贅の除去および不要な脂肪組織の除去が含まれる。
【0005】
良性前立腺過形成(BPH)は高齢男性によく見られ、活動や幸福感を妨げるなど、生活の質に影響を与える症状がある。BPHは、尿閉、感染症、膀胱結石および腎不全の危険性を伴う進行性の疾患であり得る。軽度から中等度の症状を持つ多くの男性は処置なしで順調であるが、それ以外の男性においては厄介な症状や合併症が進行し、医学療法や手術に至る場合がある。
【0006】
良性前立腺過形成(BPH)は、組織学的診断では前立腺の平滑筋と上皮細胞の非悪性増殖を指す。Lee C他、「良性の前立腺の成長を制御する内因性および外因性の要因」、Prostate、1997年;31:131-138;Auffenberg GB他、「良性前立腺肥大症のための確立された医学療法」、Urol Clin North Am、2009年;36:443-459。正確な病因は不明である。BPHの進行により、(病理学的に)前立腺の大きさによって診断される良性の前立腺肥大(BPE)が発生する可能性がある。組織学的にBPHの男性の約50%がBPEを発症する。BPEは最終的には膀胱出口部閉塞(BOO)を引き起こす可能性があり、BPEに関連している場合は良性前立腺閉塞(BPO)とも称される。BOOおよびBPOは尿流動態測定によって診断される。BPEを呈していても著しいLUTSを伴わない患者もいれば、LUTSを呈してQoLが著しく低下してもBPEまたはBPHを伴わない患者もいる。Park,H.J.他、「良性前立腺過形成(BPH)に伴う尿路症状(LUTS)」,World J.Mens Health,No.31(3),193-207(2013年)を参照。
【0007】
前立腺肥大症の男性における下部尿路症状(LUTS)は、一般的に2つのタイプに分類される。1)「蓄尿」症状とも呼ばれる「刺激」症状、および、2)「排尿」症状とも呼ばれる「閉塞」症状の2つである。刺激・蓄尿の症状としては、尿意切迫感、頻尿、夜間頻尿(夜に就寝した後に頻繁に排尿する必要がある)がある。閉塞・排尿の症状には、尿流が弱い、尿を排出するためにいきんだり力を入れたりする必要がある、残尿感がある、排尿の途中で何度も止まったり再開する等の症状がある。特に夜間頻尿は睡眠の質を低下させるだけでなく、慢性的な疲労感や配偶者への迷惑を引き起こす等、最も厄介な症状である。
【0008】
米国と欧州では、LUTS、BPH、LUTS/BPHの治療において医師を支援するガイドラインが制定されている。Oelke M他、European Association of Urology,Eur.Urol.2013年7月;64(1):118-40を参照のこと。ガイドラインには、症状を呈しているが投薬や外科的介入が必要ない男性に対する経過観察(WW)から、薬物治療、外科的介入までの様々な治療オプションについて説明がなされている。薬物治療のガイドラインでは、α遮断薬(αアドレナリン拮抗薬)、5α還元酵素阻害薬(5ARI)、抗ムスカリン薬(抗コリン薬)、PDE5阻害薬(タダラフィル)、併用療法、バソプレッシン類似物質などが使用される。また、α遮断薬と5ARIや抗ムスカリン薬との併用療法も推奨されている。
【0009】
経尿道的前立腺切除術などの前立腺手術は、絶対的な適応症または薬物治療抵抗性のBPH、LUTS、または急性尿閉(AUR)を罹患する男性に適応される。手術の適応となるのは、尿閉、肉眼的血尿、尿路感染症、膀胱結石などの重篤な症状である。低侵襲治療としては、経尿道的マイクロ波治療や経尿道的針治療がある。また、手術ができない男性には、カテーテル治療の代わりとして前立腺ステントを用い得る。様々な治療の選択肢が存在するにも関わらず、前立腺肥大症に起因し得る厄介な症状を治療するための有効かつ安全な薬剤に対する医療的ニーズが満たされないままになっている。これらの症状は、慢性尿路感染症、失禁、急性・慢性尿閉、腎不全などのより深刻な問題を引き起こす可能性がある。
【0010】
有害なまたは不要な細胞および組織を破壊し、従ってそれらの除去を容易にするかまたはそれらの更なる成長を阻害する能力を有することが知られている薬剤は、2015年7月24日に出願された米国特許出願第14/808,713号(「良性前立腺過形成の患者に対する手術の必要性を低減させる方法」)、2015年1月27日に出願された米国特許出願第14/606,683号(「細胞の破壊または除去を必要とする疾患を治療する方法」)、2015年6月12日に出願された米国特許出願第14/738,551号(「望ましくない細胞増殖物の除去または破壊を必要とする疾患を治療するための配合組成物」)、米国特許出願公開第2007/0237780号(放棄済)、米国特許出願公開第2003/0054990号(現米国特許第7,172,893)、米国特許出願公開第2003/0096350号(現米国特許第6,924,266号)、米国特許出願公開第2003/0096756号(現米国特許第7,192,929号)、米国特許出願公開第2003/0109437号(現米国特許第7,241,738号)、米国特許出願公開第2003/0166569号(現米国特許第7,317,077号)、米国特許出願公開第2005/0032704号(現米国特許第7,408,021号)、および米国特許出願公開第2015/0148303号(現米国特許第9,243,035号)に開示されており、これらの開示内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0011】
これらの文献に開示されている薬剤の一つに、フェキサポチドトリフルタート(FT)がある。FTは、前立腺細胞を減少させることが示されている。BPHおよびその症状の一部を対象とした対照臨床試験では、長期観察の結果、FTで見られた全体的な改善は、プラセボ治療よりも大きかった。
【0012】
刺激性および/または閉塞性のLUTSを、従来の薬物療法や外科的手術によるリスクや副作用なしに、改善・解消できる治療法が求められている。従来の薬物療法のリスクおよび副作用がなくまたは外科的介入なしに、下部尿路症状を有する患者の刺激・蓄尿症状および、閉塞・排尿症状を改善できる治療法が必要とされている。
【0013】
前述の関連技術の説明を含む本記載全体を通して、本明細書に記載されたすべての公に入手可能な文書(すべての米国特許および公開特許出願を含む)は、参照によりその全体が本明細書に具体的に組み込まれる。前述の関連技術の説明は、如何なる形であれ、係属中の米国特許出願を含む上記文書の何れかが本開示の先行技術であることを認めるものではない。更に、記載された製品、方法、および/または装置に関連する欠点についての本明細書における記載は、如何なるものであれ、実施形態を限定するものではない。実際、実施形態の態様は、記載された欠点による害を被ることなく、記載された製品、方法、および/または装置の特定の特徴を含んでもよい。
【発明の概要】
【0014】
当技術分野では、下部尿路症状を有する患者のQoLを改善できる、新規で、毒性が低く、頻度が少ない(例えば、毎日または毎週薬剤を服用する必要性を回避する)治療の必要性が依然として存在する。また、下部尿路症状を有する患者の刺激・閉塞性症状を改善するような治療法も必要とされている。本発明の実施形態は、これら需要を満たすものである。
【0015】
本開示は、アミノ酸配列Ile-Asp-Gln-Val-Leu-Ser-Arg-Ile-Lys-Leu-Glu-Ile-Lys-Arg-Cys-Leuと表記される特定のペプチド(フェキサポチドトリフルタートまたは「FT」)を含む特定のペプチドが、下部尿路症状(LUTS)さらにはLUTS患者の刺激性症状および/または閉塞性症状を有意に改善することができるという発見に基づく。
【0016】
組成物は、エアロゾル、注入、ボーラス注射、植え込み装置、徐放システムなどによって、筋肉内、経口、静脈内、腹腔内、脳室内(柔組織内)、脳室内、腫瘍内、病巣内、皮内、髄腔内、鼻腔内、眼内、動脈内、局所、経直腸、経腹膜、経皮投与することができる。あるいは、FTペプチドをインビボで発現させることもできる。そのためには、FTペプチドを発現する遺伝子を投与する、そのような産生を誘発するワクチンを投与する、または遺伝子改変によりインビボでペプチドを発現する細胞、細菌またはウイルスを導入する、等の手段を用いる。
【0017】
別の実施形態では、夜間頻尿の症状を有する患者(任意にBPHも有する患者を含む)を特定する工程と、FTを含む組成物を特定された患者に投与する工程とを備え、夜間頻尿の症状を改善する方法が含まれる。この方法により、対照群と比較して、ベースラインからの夜尿頻尿の頻度変化を有する患者の割合を減少させる。
【0018】
さらに別の実施形態では、閉塞性LUTSを有する患者(任意にBPHも有する患者を含む)を特定する工程と、特定された患者にFTを含む組成物を投与する工程とを備え、本方法により尿の最大流量(Qmax)を改善する。この方法は、対照群と比較して、1回の投与から少なくとも12カ月後にQmaxを達成できなかった患者の割合を減少させる。
【0019】
別の実施形態では、閉塞性LUTSを有する患者(任意にBPHも有する患者を含む)を特定する工程と、特定された患者にFTを含む組成物を投与する工程とを備える、(事前の水の経口摂取量にかかわらず)125ml以上の尿量を提供できないことで測定される尿流悪化/閉塞を抑制する方法を含む。本方法は、対照群と比較して、一回投与後少なくとも12カ月後にQmaxが悪化した患者の割合を減少させる。
【0020】
前述の一般的な説明および後述の詳細な説明は何れも、例示的かつ説明的なものであり、特許請求される実施形態のさらなる説明を提供することが意図されている。他の目的、利点および特徴が、以下の各実施形態の詳細な説明から当業者に容易に明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態を説明する前に、本発明は、説明されている特定の方法論、プロトコル、細胞株、ベクターおよび試薬に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用する用語は、専ら特定の実施形態を説明するためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の各実施形態の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。
【0022】
本明細書で使用される用語および語句は、他に指示されない限り、以下に示すように定義される。本明細書を通して、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別の意味に規定される場合を除き、複数の指示対象への言及を含む。従って、例えば、「宿主細胞」への言及は、複数の宿主細胞を含み、「抗体」への言及は、1つまたは複数の抗体および当業者に知られているその均等物への言及である。
【0023】
本明細書に記載されるアミノ酸およびアミノ酸残基は、以下の表に示される一般に認められた1文字または3文字のコードに従って参照され得る。
【表1】
【0024】
本明細書で使用されるフェキサポチドトリフルタート(「FT」)は、以下のアミノ酸配列を有する17量体ペプチドを表す:Ile-Asp-Gln-Gln-Val-Leu-Ser-Arg-Ile-Lys-Leu-Glu-Ile-Lys-Arg-Cys-Leu(SEQ ID NO.1)FTは米国特許第6,924,266号、第7,241,738号、第7,317,077号、第7,408,021号、第7,745,572号、第8,067,378号、第8,293,703号、第8,569,446号、および第8,716,247号、ならびに、米国特許出願公開第2017/0360885号、第2017/0020957号、第2016/0361380号および第2016/0215031号明細書に開示されている。これらの特許および出願公開の開示内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
FTは以下の通り表される。
SEQ ID NO.1:IDQQVLSRIKLEIKRCLまたはIle-Asp-Gln-Gln-Val-Leu-Ser-Arg-Ile-Lys-Leu-Glu-Ile-Lys-Arg-Cys-Leu.
【0025】
「フラグメント」という用語は、タンパク質またはペプチドのアミノ酸配列の連続した部分配列からなり、スプライス変異体などの天然に存在するフラグメントおよび天然に存在するインビボプロテアーゼ活性から生じるフラグメントを含むタンパク質またはポリペプチドを指す。こうしたフラグメントは、アミノ末端、カルボキシ末端、および/または内部(天然スプライシングなどによる)で、一部切除(truncated)されていてもよい。こうしたフラグメントは、アミノ末端メチオニンを伴いまたは伴わずに調製されてもよい。「フラグメント」という用語は、直接またはリンカーを介して連結される、共通のまたは共通でない連続するアミノ酸配列を有する、同じタンパク質またはペプチド由来の同一または異なるフラグメントを含む。当業者は、本明細書に概説されたガイドラインおよび手順を用いて、過度の実験をすることなく、実施形態で使用するのに適したフラグメントを選択することができるであろう。
【0026】
「変異体」という用語は、本明細書記載のタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列に比較した際、1以上のアミノ酸置換、欠失、および/または挿入が存在している、タンパク質またはポリペプチドを指し、該用語には、こうして記載されるタンパク質またはペプチドの天然に存在するアレル変異体または選択的スプライシング変異体が含まれる。「変異体」という用語には、類似のまたは相同のアミノ酸(群)あるいは似ていないアミノ酸(群)による、ペプチド配列中の1つ以上のアミノ酸の置換が含まれる。どのアミノ酸を類似または相同と認定可能であるかに関する多くの基準がある(Gunnar von Heijne、Sequence Analysis in Molecular Biology、123-39頁(Academic Press、ニューヨーク州ニューヨーク、1987年)。好ましい変異体には、1つ以上のアミノ酸位置でのアラニン置換が含まれる。他の好ましい置換には、タンパク質の全体の正味電荷、極性、または疎水性に対してほとんどまたは全く影響しない、保存的置換が含まれる。保存的置換を、以下の表2に示す。
【表2】
表3は、アミノ酸置換の別のスキームを示す。
【表3】
【0027】
他の変異体は、より保存的でないアミノ酸置換からなることも可能であり、(a)例えばシートまたはらせんコンフォメーションとしての、置換領域のポリペプチド主鎖の構造、(b)標的部位での分子の電荷または疎水性、あるいは(c)側鎖の大きさの維持に対して、影響がより有意に異なる残基を選択することなどがある。一般的に、機能に対して、より有意な影響を有すると期待される置換は、(a)グリシンおよび/またはプロリンが別のアミノ酸に置換されるか、あるいは欠失されるかまたは挿入されるもの;(b)親水性残基、例えばセリルまたはスレオニルが、疎水性残基、例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、またはアラニルに対して(またはこれらによって)置換されるもの;(c)システイン残基が任意の他の残基に対して(またはこれらによって)置換されるもの;(d)電気的陽性側鎖を有する残基、例えばリジル、アルギニル、またはヒスチジルが、陰性電荷を有する残基、例えばグルタミルまたはアスパルチルに対して(またはこれらによって)置換されるもの;あるいは(e)大きな側鎖を有する残基、例えばフェニルアラニンが、こうした側鎖を持たないもの、例えばグリシンに対して(またはこれらによって)置換されるものである。他の変異体には、新規グリコシル化部位および/またはリン酸化部位を生成するように設計されたもの、あるいは存在するグリコシル化部位および/またはリン酸化部位を欠失させるように設計されたものの何れかが含まれる。変異体には、グリコシル化部位、タンパク質分解的切断部位および/またはシステイン残基での少なくとも1つのアミノ酸置換が含まれる。変異体にはまた、リンカーペプチド上のタンパク質またはペプチド・アミノ酸配列の前または後に追加的なアミノ酸残基を含む、タンパク質およびペプチドも含まれる。例えば、ジスルフィド結合形成によるペプチドの環化を可能にするため、FTのペプチドのアミノ末端およびカルボキシ末端両方に、システイン残基を付加することも可能である。「変異体」という用語はまた、ペプチドの3’端または5’端の何れかに隣接する、少なくとも1つから25個まで、またはそれより多い追加的なアミノ酸を持つFTのアミノ酸配列を有するポリペプチドも含む。
【0028】
「誘導体」という用語は、プロセシングおよび他の翻訳後修飾などの天然プロセスによるだけでなく、例えば1以上のポリエチレングリコール分子、糖、ホスフェート、および/または他のこうした分子が、野生型タンパク質またはFTに天然に付着していない場合に、こうした分子を付加するなどの、化学的修飾技術によって化学的に修飾されている、化学的修飾タンパク質またはポリペプチドを指す。誘導体には塩が含まれる。こうした化学的修飾は、基本的教科書に、そしてより詳細なモノグラフに、並びに多量の研究文献によく記載され、そしてこれらは当業者に周知である。同じ種類の修飾が、所定のタンパク質またはポリペプチドのいくつかの部位に同じ度合いでまたは異なる度合いで存在してもよいことが認識されるであろう。また、所定のタンパク質またはポリペプチドが、多くの種類の修飾を含有してもよい。修飾は、タンパク質またはポリペプチドのどの部位で生じることも可能であり、そうした部位には、ペプチド主鎖、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシ末端が含まれる。修飾には、例えば、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有架橋の形成、システインの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシ化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、ホスホリル化、プレニル化、ラセミ化、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、ヒドロキシル化およびADP-リボシル化、セレノイル化、硫酸化、アルギニル化などのトランスファーRNAが仲介するタンパク質へのアミノ酸の付加、およびユビキチン化が含まれる。例えばProteins--Structure And Molecular Properties,第2版,T.E.Creighton,W.H.Freeman and Company,ニューヨーク(1993年)およびWold,F.、「Posttranslational Protein Modifications:Perspectives and Prospects」、Posttranslational Covalent Modification Of Proteins中,1-12頁,B.C.Johnson監修、Academic Press,ニューヨーク(1983年);Seifterら,Meth.Enzymol.182:626-646(1990年)およびRattan他、「Protein Synthesis:Posttranslational Modifications and Aging」、Ann.N.Y.Acad.Sci.663:48-62(1992年)を参照されたい。「誘導体」という用語には、分枝する、あるいは分枝して環状に、または分枝せずに環状になる、タンパク質またはポリペプチドを生じる化学的修飾が含まれる。環状、分枝および分枝環状タンパク質またはポリペプチドは、翻訳後天然プロセスから生じる可能性があり、そしてまた、完全に合成的な方法で作成することも可能である。
【0029】
「相同体」という用語は、2つのポリペプチドのアミノ酸の位における類似性を比較するのに一般的に用いられる標準法によって決定されるように、FTのアミノ酸配列と少なくとも60%同一であるタンパク質を指す。2つのタンパク質の間の類似性または同一性の度合いは、限定されるわけではないが、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.監修,Oxford Unversity Press,ニューヨーク,1988年;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.監修,Academic Press,ニューヨーク,1993年;Computer Analysis of Sequence Data,第I部,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.監修,Humana Press,ニュージャージー州,1994年;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987年;Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.監修,M Stockton Press,ニューヨーク,1991年;ならびにCarillo H.and Lipman,D.,SIAM,J.Applied Math.,48:1073(1988年)に記載されるものを含む、既知の方法によって、容易に計算可能である。同一性を決定する好ましい方法は、試験する配列間で最大のマッチを生じさせるように設計される。同一性および類似性を決定する方法は、公的に利用可能なコンピュータプログラムに体系化されている。
【0030】
2つの配列間の同一性および類似性を決定する際に有用な好ましいコンピュータプログラム法には、限定されるわけではないが、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.ら,Nucleic Acids Research,12(1):387(1984))、BLASTP、BLASTN、およびFASTA、Atschul,S.F.ら,J.Molec.Biol.,215:403-410(1990)が含まれる。BLAST Xプログラムは、NCBIおよび他の供給源(BLAST Manual、Altschul、S.ら、NCBI NLM NIH Bethesda、Md.20894;Altschul、S.ら、J.Mol.Biol.、215:403-410(1990年))から公的に入手可能である。例えば、GAP(ウィスコンシン大学遺伝子コンピュータグループ、ウィスコンシン州マディソン)などのコンピュータアルゴリズムを用いて、パーセント配列同一性を決定しようとする2つのタンパク質またはポリペプチドを、各々のアミノ酸が最適にマッチするように並列させる(アルゴリズムに決定されるような「マッチしたスパン」)。
【0031】
ギャップオープニングペナルティ(平均対角の3倍として計算;「平均対角」は、用いる比較マトリックスの対角の平均であり;「対角」は、特定の比較マトリックスによる、各完全アミノ酸マッチに割り当てられたスコアまたは数字である)およびギャップ伸長ペナルティ(通常、ギャップオープニングペナルティの1/10)、ならびにPAM250またはBLOSUM62などの比較マトリックスを、アルゴリズムと組み合わせて用いる。標準比較マトリックス(PAM250比較マトリックスに関しては、Dayhoffら:Atlas of Protein Sequence and Structure,vol.5,supp.3を参照されたい;BLOSUM62比較マトリックスに関しては、Henikoffら,Proc.Natl.Acad.Sci USA,89:10915-10919を参照されたい)もまた、アルゴリズムに使用可能である。次いで、アルゴリズムによってパーセント同一性が計算される。相同体は、場合によって、対応するタンパク質またはペプチドと比較した際、典型的には1つ以上のアミノ酸置換、欠失、および/または挿入を有するであろう。
【0032】
「融合タンパク質」という用語は、一つ以上のペプチドが、(これに限定されないが)抗体またはFabフラグメントもしくは短鎖Fvのような抗体フラグメント等のタンパク質に組換え融合しているまたは(共有結合および非共有結合を含めた)化学的に複合している(conjugated)タンパク質を意味する。「融合タンパク質」という用語は、更に、ペプチドの多量体(すなわち、二量体、三量体、四量体およびそれより多い多量体)を意味する。このような多量体は、1つのペプチドを含むホモマー多量体;2つ以上のペプチドを含むヘテロマー多量体;および少なくとも1つのペプチドおよび少なくとも1つの他のタンパク質を含むヘテロマー多量体を含む。このような多量体は、疎水性、親水性、イオン性および/または共有結合の会合、結合またはリンクの結果であってもよく、リンカー分子を用いた架橋結合によって形成されてもよく、または間接的に、例えば、リポソーム形成によって連結されていてもよい。
【0033】
「ペプチド模倣体(mimetic)」または「模倣体」という用語は、ペプチドまたはタンパク質の生物学的活性を模倣するが、もはや化学的性質はペプチド性でない、すなわちもはやペプチド結合(すなわちアミノ酸間のアミド結合)をまったく含有しない、生物学的活性化合物を指す。本明細書において、ペプチド模倣体という用語は、より広い意味で用いられ、事実上、もはや完全にペプチド性でない分子、例えば偽ペプチド、半ペプチドおよびペプトイドなどが含まれる。この、より広い意味でのペプチド模倣体の例(ペプチドの一部が、ペプチド結合を欠く構造と交換されている場合)を以下に記載する。完全な非ペプチドであれ、または部分的な非ペプチドであれ、各実施形態によるペプチド模倣体は、そのペプチド模倣体の基となるペプチドの活性基の三次元配置を緊密に真似る、反応性化学部分の空間的配置を提供する。活性部位の幾何学的形状がこのように類似である結果、ペプチド模倣体は、ペプチドの生物学的活性に似た、生物学的系に対する影響を有する。
【0034】
本発明の実施形態のペプチド模倣体は、好ましくは、三次元形状および生物学的活性両方において、本明細書記載のペプチドに実質的に類似である。当該技術分野に知られるペプチドを構造的に修飾してペプチド模倣体を生成する方法の例には、D-アミノ酸残基構造を導く、主鎖キラル中心の反転が含まれ、D-アミノ酸残基構造は、特にN末端で、不都合に影響を及ぼす活性を伴わずに、タンパク質分解的分解に対して、増進した安定性を導く。この例は、論文“Tritriated D-ala1-Peptide T Binding”,Smith C.S.ら,Drug Development Res.,15,371-379頁(1988年)に記載される。第二の方法は、NからCの鎖間イミドおよびラクタムなどの、安定性のための環状構造の改変である(Edeら,Smith and Rivier(監修)“Peptides:Chemistry and Biology”,Escom,Leiden(1991年)中,268-270頁)。これの一例は、米国特許第4,457,489号(1985年)、Goldstein、G.らに開示されるものなどの、コンフォメーション的に制限されたチモペンチン様化合物で与えられており、前記特許の開示は参照により全体として本明細書に組み込まれる。第三の方法は、ペプチド内のペプチド結合を、タンパク質分解に耐性を与える偽ペプチド結合により置換することである。
【0035】
ペプチド構造および生物学的活性に概して影響を与えない、いくつかの偽ペプチド結合が記載されている。このアプローチの1つの例は、逆反転(retro-inverso)偽ペプチド結合で置換することである(“Biologically active retroinverso analogues of thymopentin”,Sisto A.ら,Rivier,J.E.and Marshall,G.R.(監修)“Peptides,Chemistry,Structure and Biology”,Escom,Leiden(1990年)中,722-773頁,およびDalpozzoら(1993年),Int.J.Peptide Protein Res.,41:561-566、本明細書に援用される)。この修飾に従って、ペプチドのアミノ酸配列は、1つ以上のペプチド結合が、逆反転偽ペプチド結合と交換されていることを除いて、上述のペプチドの配列と同一であってもよい。好ましくは、最もN末端のペプチド結合が置換されており、これはこうした置換が、N末端に作用するエキソペプチダーゼによるタンパク質分解に対して、耐性を与えるであろうためである。アミノ酸の化学基を類似構造の他の化学基で置換することによって更に修飾することもできる。生物学的活性を全く損失させないか、またはほとんど損失させずに、酵素的切断に対する安定性を増進させることが知られる別の適切な偽ペプチド結合は、還元アイソスター偽ペプチド結合である(Couderら(1993年)、Int.J.Peptide Protein Res.、41:181-184、参照により全体として本明細書に組み込まれる)。
【0036】
従って、これらのペプチドのアミノ酸配列は、1つ以上のペプチド結合が、イソスター偽ペプチド結合によって交換されていることを除いて、FTの配列と同一であってもよい。好ましくは、最もN末端のペプチド結合が置換されており、これはこうした置換が、N末端に作用するエキソペプチダーゼによるタンパク質分解に対して、耐性を与えるであろうためである。1つ以上の還元アイソスター偽ペプチド結合を有するペプチドの合成が当該技術分野において知られている(Couderら(1993年)、上記引用)。他の例は、ケトメチレンまたはメチルスルフィド結合の導入によるペプチド結合の置換などである。
【0037】
本明細書記載のペプチドのペプトイド誘導体は、生物学的活性に重要な構造的決定基を保持するが、ペプチド結合が取り除かれ、それによってタンパク質分解に対する耐性が与えられた、別の種類のペプチド模倣体に相当する(Simonら,1992年,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:9367-9371、本明細書にその全体が援用される)。ペプトイドは、N-置換グリシンのオリゴマーである。いくつかのN-アルキル基が記載されており、各々は天然アミノ酸の側鎖に対応する(Simonら(1992年)、上記引用)。ペプチドのアミノ酸の一部または全てを、交換されるアミノ酸に対応するN-置換グリシンと交換することが可能である。
【0038】
「ペプチド模倣体」または「模倣体」という用語にはまた、以下に定義するような、逆Dペプチドおよび鏡像異性体も含まれる。
【0039】
「逆Dペプチド」という用語は、ペプチドのL-アミノ酸配列に比較した際、逆の順に配置されたD-アミノ酸からなる、生物学的活性タンパク質またはペプチドを指す。従って、L-アミノ酸ペプチドのカルボキシ末端残基は、D-アミノ酸ペプチドのアミノ末端になるなどである。例えば、ペプチドETESHは、HdSdEdTdEdになり、ここで、Ed、Hd、Sd、およびTdは、それぞれ、L-アミノ酸、E、H、S、およびTに対応するD-アミノ酸である。
【0040】
「鏡像異性体」という用語は、あるペプチドのアミノ酸配列中の一つ以上のL-アミノ酸残基が、対応するD-アミノ酸残基で置き換えられている生物学的に活性なタンパク質またはペプチドを意味する。
【0041】
本明細書中で用いられる「組成物」という言葉は、FTおよび必要に応じて付加的な活性剤を含有する任意の組成物を広く意味する。その組成物は、乾燥配合物、水溶液、または滅菌組成物を含むことができる。FTを含む組成物は、ハイブリダイゼーションプローブとして用いることができる。それらプローブは、凍結乾燥された形で貯蔵することができ、また、炭水化物などの安定剤と会合させることができる。ハイブリダイゼーションの場合、プローブは、塩類、例えば、NaCl;界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);および他の成分、例えば、デンハート溶液、脱脂乳、サケ精子DNA等を含有する水溶液中に配置することができる。
【0042】
付加的な活性剤がFTとともに使用される実施形態では、「活性剤」という表現は、必要な患者に治療効果を提供する任意の薬剤、より好ましくは、不要な細胞増殖物および/または組織増殖物を除去することができる任意の薬剤を示すために使用される。適切な活性剤には、(i)抗癌活性剤(アルキル化剤、トポイソメラーゼI阻害剤、トポイソメラーゼII阻害剤、RNA/DNA代謝拮抗剤、および抗有糸分裂剤など)、(ii)良性成長物を治療するための活性剤、例えば、抗ニキビおよび抗疣贅活性剤、(iii)抗アンドロゲン化合物(酢酸シプロテロン(1α,2β-メチレン-6-クロロ-17α-アセトキシ-6-デヒドロプロゲステロン)タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤)、(iv)アルファ1-アドレナリン受容体遮断薬(タムスロシン、テラゾシン、ドキサゾシン、プラゾシン、ブナゾシン、インドラミン、アルフゾシン、シロドシン)、(v)5α-レダクターゼ阻害剤(フィナステリド、デュタステリド)、(vi)ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害剤(タダラフィル)およびそれらの組み合わせ、が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書全体において、下部尿路症状(LUTS)を有する患者の症状を指す用語「閉塞性症状」および「排尿症状」、ならびに、用語「過敏性症状」および「蓄尿症状」は、それぞれ互換可能に使用される。欧州泌尿器科学会(EAU)および米国泌尿器科学会(AUA)のガイドラインでは、LUTSを下部尿路(LUT)に影響を及ぼす刺激性(蓄尿)症状(日中の頻尿、尿意切迫感、夜間頻尿)、閉塞性(排尿)症状(圧迫感、尿流が弱い、断続的な尿流、残尿感)、排尿後症状(排尿後の漏れ)と定義している。Park,H.J.他,“良性前立腺過形成(BPH)に伴う尿路症状(LUTS).”,World J.Mens Health,No.31(3),193-207(2013年)を参照。
【0044】
閉塞性症状および刺激性症状の改善は、当技術分野で知られている技術に従って測定することができる。例えば、尿流量計によって尿の重量変化を判別し、時間経過に対する流量の連続的なプロットを得ることが知られている。Qmaxの正確な(±5%)測定を可能にするべく、プロットは内部の電子的なフィルタよって平滑化される。Schafer W他、「尿流動態検査の実行例:尿流量測定、充填式膀胱内圧測定法と圧力-流量の研究」、Neurourol Urodynamics,Vol.21,pp.261-74(2002年)を参照のこと。夜間頻尿の測定方法には様々なものがあるが、その多くは、患者が治療前と治療後にアンケートに回答してベースラインを設定し、治療後にベースラインとの差(改善、改善しない、悪化等)を判定する。例としては、国際前立腺症状スコア(IPSS)の夜間頻尿に関する質問のスコア評価、夜間排尿回数の評価(Boyarsky症状スコア)、Madsen-Iversen症状スコア、ICSmale質問票等が挙げられる。例えば、Chartier-Kastler他、「LUTS/BPH患者の夜間頻尿の測定ならびにその睡眠の質およびQoLに対する影響」、Eur.Urol.Supp.,Vol.5,pp.3-11(2006年)を参照のこと。夜間頻尿の測定には、IPSSの夜間頻尿に関する質問(質問7)のベースラインからの変化の平均値を求める方法が好ましい。質問7は、過去1ヵ月間に就寝してから起床するまでに何回、排尿のために起きなければならなかったかを患者に尋ねるもので、スコアは「なし」(スコア0)から「5回以上」(スコア5)の範囲で設定されている。
【0045】
刺激性および/または閉塞性症状を有するLUTS患者の特定は、通常、免許を持つ経験豊富な医療従事者によって行われ、前立腺肥大症(BPH)とは別の診断である。つまり、多少の重複はあるものの、BPHを有する患者が常にLUTSを有するとは限らず、LUTSを有する患者が常にBPHも有するとは限らない。刺激性LUTSまたは閉塞性LUTSを有する患者を識別するために利用可能な、当業界で知られている多数の技術がある。例えば、Chapple他、「男性の下部尿路症状(LUTS)」An International Consultation on Male LUTS,福岡、日本、9月30日~10月4日、2012年、Societe Internatinoal d’Urologie,(2013)では、閉塞性症状に苦しむ患者を特定するための確立された技術が開示されており(「Patient Assessment」、Committee2,Section2.3,pp.61-80(103-122))、および、夜間頻尿を患っている患者を識別するための確立された技術が開示されている(「Assessment」,Committee3,Section3.6,pp.155-162(197-204))。当業者であれば、上記のガイドラインおよび上記の公開文献に記載されているガイドラインを用いて、閉塞性LUTSを有する患者および夜間頻尿の患者を特定することができるであろう。
【0046】
本発明者は、特定の理論や操作に限定されることを意図していないが、FTを哺乳動物に投与するとLUTSを有する患者の刺激性および閉塞性症状の改善に予想外の優れた効果が得られることを予期せず発見した。本発明者は、このようなFTの投与法により、刺激性および閉塞性の両方の症状を含むLUTSを有する患者において、対照薬またはプラセボを投与した患者と比較して、予想外に優れた症状改善効果が得られることを発見した。LUTSを有する患者はBPHも有する場合もあるし、一実施形態では、LUTSを有する患者はBPHを有していない。LUTSを有しBPHも有する患者の集団は、BPHを患っている全体の患者集団のサブセットであることは明らかである。したがって、BPHを治療または改善する方法は、必ずしもLUTSを有する患者の刺激性および/または閉塞性の症状をも改善するわけではない。
【0047】
本発明者は、FT2.5mgを一回投与してから約3ヶ月後に、125ml以上の尿量を達成できない患者の割合の減少に、対照薬を投与された患者と比較して(例えば、FTでは3.9%対して対照薬4.3%すなわち減少率約10%)緩やかな改善が見られることを発見した。また、最大流量の悪化を示した患者の割合の減少において、対照薬を投与された患者と比較して(FTでは35.2%に対して対照薬では37%、すなわち減少率約5.1%)緩やかな改善が認められた。本発明者は、FT2.5mgを一回投与してから約12ヶ月後に、125ml以上の尿量を達成できない患者の割合の減少に、対照薬を投与された患者と比較して(例えば、FTでは4.5%対して対照薬5.9%すなわち減少率約31%)顕著な改善が見られることを予期せず発見した。また、最大流量の悪化を示した患者の割合の減少において、対照薬を投与された患者と比較して(FTでは35%に対して対照薬では42%、すなわち減少率約20%)緩やかな改善が認められた。これらの結果から、FTは1回の投与にもかかわらず、短期的な効果よりも長期的に優れた効果をもたらすことが明らかになった。また、この効果は、従来の経口薬と比較して、非常に望ましいものであり、予想外であった。従来の内服薬の効果については、αブロッカーはほぼ即効性があるが継続して服用しないと効果が得られない(長期成功率が非常に低い、すなわち、長期的な効果が低い)、5ARIは効果を得るには長期間継続して服用する必要があり副作用も多い等、一様ではない。
【0048】
同様に、FT2.5mgを一回投与した患者において、3ヶ月後にベースラインからの平均夜間尿頻度点の緩やかな改善が認められたが、これらの改善は対照群と比較して有意に優れたものではなかった(約8%の改善をもたらしたのみ)。しかし、本発明者は予想外にも、FT2.5mgを一回投与した患者では、対照群と比較して、少なくとも12ヶ月後にベースラインからの夜間頻尿回数変化の増加を示す割合が有意に低いことを見出した。この結果からも、FTは一回の投与でも長期的な効果が得られることが明らかになった。
【0049】
一実施形態では、本発明者は、本明細書に記載されるFTを投与する方法により、FTの投与から12ヶ月後に、事前の水摂取量にかかわらず尿量が125mlに満たない患者の割合(「Qmax未達」)によって測定される尿流悪化/閉塞が継続していたBPHおよびLUTSを有する患者の割合を減少させるのに有効であることを発見した。プラセボ対照と比較して、少なくとも15%、約15%~約75%、約20%~約50%、約25%~約45%、約30%~約37%、または、これらの範囲の任意の値分、減少させたことを発見した。驚くべきことに、本発明者は、投与後12ヶ月目に測定されたベースラインからの平均流量の改善量が、(1)FTを投与した患者と、(2)対照薬を投与した患者とで同等であることを発見した。
【0050】
別の実施形態では、本発明者は、本明細書に記載されるFTを投与する方法により、投与後12カ月後に最大流量の悪化(「Qmax悪化」)を示した患者の割合を有意に減少させることができることを発見した。FTを含む組成物を投与することにより、12ヵ月後にQmaxが悪化した患者の割合が、対照群と比較して、約15%以上、約15%~約50%、約15%~約40%、約18%~約40%、約19%~約25%、または、これらの範囲の任意の値分、減少させたことを発見した。驚くべきことに、本発明者はまた、投与後3ヶ月~12ヶ月目に測定されたベースラインからの平均流量の改善量が、(1)FTを投与した患者と、(2)対照薬を投与した患者とで同等であることを発見した。
【0051】
別の実施形態では、本発明者は、本明細書に記載されるFTを投与する方法により、対照群と比較して、ベースラインから12ヶ月後の夜間頻尿の頻度変化が0ZCVより大きい患者の割合(「夜間頻尿の悪化」)を有意に減少させることを発見した。FTを含む組成物を投与することにより、12ヵ月後に夜間頻尿が悪化した患者の割合が、対照群と比較して、約20%以上、約20%~約75%、約25%~約50%、約30%~約40%、約32%~約38%、または、これらの範囲の任意の値分、減少したこと発見した。驚くべきことに、本発明者は、一晩あたりの夜間頻尿の頻度の平均的な改善度が、(1)FTを投与した患者と、(2)対照薬を投与した患者で同等であることも発見した。
【0052】
実施形態は、FTを含む組成物を投与することにより、LUTSの刺激性または閉塞性のいずれか(または両方)の症状に悩まされている哺乳類を治療する方法を含む。組成物は、唯一の活性剤としてFTを含んでもよい、または、FTを別の活性剤と組み合わせて投与してもよい。この方法には、FTを含む組成物を筋肉内に、経口的に、静脈内に、腹腔内に、大脳内に(柔組織内に)、脳室内に、病巣内に、眼内に、動脈内に、髄腔内に、腫瘍内に、鼻腔内に、局所的に、経皮的に、皮下に、皮内に、経直腸的に、または経腹膜的に単独で、または担体に複合された形で投与することが含まれるが、これらには限定されない。
【0053】
いかなる哺乳動物も本発明の使用により利益を得ることができる。哺乳動物には、ヒト、マウス、ウサギ、イヌ、ヒツジおよび他の家畜、さらには獣医師、動物園の飼育係、野生動物保護作業員によって治療されたまたは治療可能な任意の哺乳動物が含まれる。好ましい哺乳動物としては、ヒト、ヒツジおよびイヌが挙げられる。本明細書では、「哺乳動物」という言葉と「患者」という言葉とは、互換的に使用される。
【0054】
FTの他のより小さなフラグメントを、これらのペプチドが同じ又は類似の生物活性を有するように選択し得ることが当業者には明らかであろう。当業者は、FTの他のフラグメントも、これらのペプチドが同じまたは類似の生物学的活性を有するように選択することができる。したがって、実施形態で使用される用語「FT」は、これらの他のフラグメントを包含する。一般に、各実施形態のペプチドは少なくとも4つのアミノ酸、好ましくは少なくとも5つのアミノ酸、更に好ましくは少なくとも6つのアミノ酸を有する。
【0055】
また、本発明の実施形態は、2つ以上のFT配列を連結してなるFTを含む組成物を付加的な活性剤と共に投与することを含む治療方法を包含する。FTが所望の生物学的活性を有する限り、2つ以上のFT配列も、所望の生物学的活性を有することになろう。
【0056】
本発明の実施形態に包含されるFT並びにそのフラグメント、変異体、誘導体、相同体、融合タンパク質及び模倣体は、当業者に公知の方法を用いて製造できる。例えば、組換えDNA技術、タンパク質合成、ならびに、天然のペプチド、タンパク質、変異体、誘導体及び相同体の分離等の方法を用いることができる。FTならびにそのフラグメント、変異体、誘導体、相同体、融合タンパク質および模倣体は、当業者に公知の方法を用いて他のペプチド、タンパク質ならびにそれらのフラグメント、変異体、誘導体および相同体から製造することができる。そのような方法は、ペプチドまたはタンパク質を切断してFTにするプロテアーゼの使用を含むが、これに限定されない。例えば、米国特許第6,924,266号、7,241,738号、第7,317,077号、第7,408,021号、第7,745,572号、第8,067,378号、第8,293,703号、第8,569,446号および第8,716,247号広報、ならびに米国特許出願公開第2017/0360885号、第2017/0020957号、第2016/0361380号、および第2016/0215031号明細書に開示されている任意の方法を使用して、本明細書に記載のFTペプチドを調製することができる。これらの特許文献の開示内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0057】
付加的な活性剤を使用する場合には、当該付加的な活性剤として、以下から選択される1つ以上の活性剤を使用できる。(i)抗癌活性剤(アルキル化剤、トポイソメラーゼI阻害剤、トポイソメラーゼII阻害剤、RNA/DNA代謝拮抗剤、および有糸分裂阻害剤など)、(ii)良性増殖を治療するための活性剤、例えば、抗ニキビおよび抗疣贅活性剤(サリチル酸)、(iii)抗アンドロゲン化合物(酢酸シプロテロン(1α、2β-メチレン-6-クロロ-17α-アセトキシ-6-デヒドロプロゲステロン)タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤)、(iv)α1-アドレナリン受容体遮断薬(タムスロシン、テラゾシン、ドキサゾシン、プラゾシン、ブナゾシン、インドラミン、アルフゾシン、シロドシン)、(v)5α-レダクターゼ阻害剤(フィナステリド、デュタステリド)、(vi)ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害剤(タダラフィル)およびそれらの組み合わせ。好ましくは、付加的な活性剤は、タムスロシン、フィナステリド、テラゾシン、ドキサゾシン、プラゾシン、タダラフィル、アルフゾシン、シロドシン、デュタステリド、デュタステリドとタムスロシンの組み合わせ、およびこれらの混合物および組み合わせからなる群から選択される。
【0058】
本明細書に記載される治療用組成物は、薬学的に許容される担体と混合された一定量のFTを含み得る。一部の代替的な実施形態において、追加的な活性剤をFTと同じ組成物に含ませて投与することができ、また他の各実施形態において、FTを含む組成物が注射として投与され、一方で追加的な活性剤が経口医薬品(ゲル、カプセル、錠剤、液体など)の形態で処方される。担体材料は、注射用の水、好ましくは哺乳動物への投与用溶液に通常含まれている他の材料を補充した水であり得る。通常、FTは、生理学的に許容される1つ以上のキャリア、賦形剤または希釈剤と組み合わせて、精製されたFTペプチド(または化学的に合成されたFTペプチド)を含む組成物の形態で投与される。中性緩衝生理食塩水または血清アルブミンを混合した生理食塩水は適当な担体の例である。好ましくは、製品は適当な賦形剤(例えば、ショ糖)を用いて凍結乾燥物として処方される。所望であれば他の標準的担体、希釈剤、および賦形剤を含んでもよい。各実施形態の組成物は、当業者に公知の適当な範囲のpH値を有する緩衝液、例えばpH約7.0から8.5のトリス緩衝液、またはpH約4.0から5.5の酢酸緩衝液も含み得る。これに更にソルビトールまたはその適切な代替物が加わってもよい。
【0059】
経口投与用の固体剤形は、カプセル、錠剤、ピル、散剤及び顆粒剤を含むが、これらに限定されない。そのような固体剤形の場合、付加的な活性剤、および/またはFTは以下の少なくとも1つと混合され得る:(a)クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムのような1つ以上の不活性賦形剤(または担体);(b)デンプン、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール、およびケイ酸のような充填剤または増量剤;(c)カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖およびアカシアのような結合剤;(d)グリセロールのような保湿剤;(e)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種の複合ケイ酸塩、および炭酸ナトリウムのような崩壊剤;(f)パラフィンのような溶液凝固遅延剤;(g)第四級アンモニウム化合物のような吸収促進剤;(h)アセチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールのような湿潤剤;(i)カオリンおよびベントナイトのような吸着剤;および(j)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール類、ラウリル硫酸ナトリウム、またはそれらの混合物のような滑沢剤。カプセル、錠剤、およびピルの場合、剤形は緩衝剤も含み得る。
【0060】
経口投与用の液体剤形は、製薬学的に許容しうるエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシルを含む。液体剤形は、活性化合物に加え、当該技術分野で通常使用されている不活性希釈剤、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤、および乳化剤を含み得る。乳化剤の例は、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油類、例えば、綿実油、落花生油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール類、ソルビタンの脂肪酸エステル類、またはこれらの物質の混合物などである。
【0061】
そのような不活性希釈剤のほかに、該組成物は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、甘味料、風味料及び着香料などのアジュバントを含むこともできる。
【0062】
本発明の組成物中の活性成分の実際の用量レベルは、特定の組成物とって所望の治療的応答を得るのに有効な量のFTおよび付加的な活性剤を得るために、変動しうる。従って、選択される用量レベルは、所望の治療効果、投与経路、所望の治療期間、および他の要因によって決まる。特定の実施形態では、適切な量の担体(例えば、約7.2のpHを有する10mlのリン酸緩衝生理食塩水)中に約0.5~約25mg、約1.0~約10mg、約2.0~約5.0mg、2.5mg、または、これらの間の任意の量の組成物が含まれる。
【0063】
ヒトを含む哺乳動物の場合、体表面積に基づいて有効量を投与できる。様々な大きさ、種の動物、およびヒトに関する用量の相互関係(mg/M2体表面積に基づく)は、E.J.Freireichらによって、Cancer Chemother.Rep.,50(4):219(1966年)に報告されている。体表面積は、個体の身長および体重からおよそ決定できる(例えば、Scientific Tables、Geigy Pharmaceuticals、ニューヨーク州アーズリー、537-538頁(1970年)参照)。
【0064】
任意の特定の患者に対する特定の用量レベルは、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間および経路、投与薬物の効力、吸収および排出速度、他の薬物との組合せ、および治療される特定の疾患の重症度などの様々な要因によって異なるであろうことは理解されよう。組成物を少なくとも2回投与することが望ましく、少なくとも2回目の投与は1回目の投与の少なくとも1年後に行われる。本実施形態において、組成物の投与の間隔は、1年~15年、1年~4年、または、1年~2年の間の範囲において、様々であってもよい。
【0065】
本発明の実施形態にかかるFTを含む組成物を投与する方法は、当該組成物を、エアロゾル、注入、ボーラス注射、植え込み装置、徐放システムなどによって、筋肉内、経口、静脈内、腹腔内、脳室内(柔組織内)、脳室内、腫瘍内、病巣内、皮内、髄腔内、鼻腔内、眼内、動脈内、局所、経直腸、経腹膜、経皮投与することを含むが、これには限定されない。例えば、米国特許第6,924,266号、7,241,738号、第7,317,077号、第7,408,021号、第7,745,572号、第8,067,378号、第8,293,703号、第8,569,446号および第8,716,247号広報、ならびに米国特許出願公開第2017/0360885号、第2017/0020957号、第2016/0361380号、および第2016/0215031号明細書に開示されている任意の投与方法を使用することができる。
【0066】
ある実施形態において、FTペプチドと組み合わせて投与される少なくとも一つの活性剤は、以下の(1)-(40)からなる群から選択される:(1)5α-レダクターゼ阻害剤および/または抗エストロゲン、(2)5α-レダクターゼ阻害剤および/またはアロマターゼ阻害剤、(3)5α-レダクターゼ阻害剤および/または17β-HSD阻害剤、(4)5α-レダクターゼ阻害剤、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(5)5α-レダクターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(6)5α-レダクターゼ阻害剤、アロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(7)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、および抗エストロゲン、(8)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(9)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、および17β-HSD阻害剤、(10)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(11)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、アロマターゼ阻害剤、および17β-HSD阻害剤、(12)5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、アロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(13)17β-HSD阻害剤、および抗エストロゲン、(14)17β-HSD阻害剤、およびアロマターゼ阻害剤、(15)17β-HSD阻害剤、アロマターゼ阻害剤、および抗エストロゲン、(16)17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、および抗エストロゲン、(17)17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(18)17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(19)抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(20)抗エストロゲン、アロマターゼ阻害剤、および抗アンドロゲン、(21)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、および抗エストロゲン、(22)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、およびアロマターゼ阻害剤、(23)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、および17β-HSD阻害剤、(24)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(25)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(26)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、アロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(27)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、および抗エストロゲン、(28)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(29)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、および17β-HSD阻害剤、(30)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(31)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、アロマターゼ阻害剤、および17β-HSD阻害剤、(32)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、5α-レダクターゼ阻害剤、抗アンドロゲン、アロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン、および17β-HSD阻害剤、(33)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、および抗エストロゲン、(34)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、およびアロマターゼ阻害剤、(35)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、アロマターゼ阻害剤、および抗エストロゲン、(36)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、および抗エストロゲン、(37)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(38)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、17β-HSD阻害剤、抗アンドロゲン、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、(39)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、抗エストロゲン、およびアロマターゼ阻害剤、および(40)LHRHアゴニストまたはアンタゴニスト、抗エストロゲン、アロマターゼ阻害剤、および抗アンドロゲン。
【0067】
組織培養遺伝学的アレイデータに基づけば、FTは、前立腺上皮細胞におけるカスパーゼ経路(カスパーゼ7、8、10、カスパーゼリクルートドメイン6、11、14、DIABLOの活性化)、腫瘍壊死因子経路(TNF1、TNFSF6、TNFSF8、TNFSF9、CD70リガンド、TNFRSF19L、TNFRSF25、TRAF2、TRAF3、TRAF4、TRAF6受容体の活性化)、およびBCL経路(BIK、HRK、BCL2L10、BCL3の活性化)をin vitroで刺激する新しい分子である。FTは、細胞膜の完全性の喪失、ミトコンドリアの代謝停止、RNAの枯渇、DNAの溶解と凝集、細胞の断片化と細胞の消失を選択的に引き起こす。アポトーシスの過程では、典型的な超微細構造の漸進性の変化として、膜の破壊と膨潤、徐々に深くなる核の浸潤、最終的には膜のブレブ形成、そして細胞死とアポトーシス小体への断片化が起こる。組織学的には、アポトーシスのマーカーが免疫組織化学的に陽性となる典型的なアポトーシスによる変化が、治療後数週間にわたって注射部位全体に認められる。
【0068】
FTは、BPH患者および低悪性度(T1c)の前立腺癌患者を対象とした広範囲な試験が行われている。この化合物とプラセボ対照薬は、9回のヒト臨床試験において1700以上の手順で経直腸投与された。BPH患者を対象としたこれらの大規模な長期臨床試験では、FTは0.25mg/mlの濃度で投与された(2.5mgのFTは、体積比で前立腺の約15~20%に投与されたことになる)。例えば、Shore他、「The potential for NX-1207 in benign prostatic hyperplasia:an update for clinicians」Ther Adv.Chronic Dis.,2(6),377-383ページ(2011年)を参照のこと。したがって、FTを含む組成物は、2.5mgのFTを含むことが好ましい。
【0069】
以下の実施例は本発明の各実施形態を説明するために提供する。しかしながら、各実施形態はこれらの実施例に記載されている特定の条件または詳細事項に限定されるものではないことが理解されるべきである。本明細書全体を通じて、米国特許を含む公的に入手可能な文献への何れかまたは全ての参照は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。特に、本発明の実施形態は、米国特許第6,924,266号、7,241,738号、第7,317,077号、第7,408,021号、第7,745,572号、第8,067,378号、第8,293,703号、第8,569,446号および第8,716,247号広報、ならびに米国特許出願公開第2017/0360885号、第2017/0020957号、第2016/0361380号、および第2016/0215031号明細書に含まれる例を参照により明示的に組み込む。これらの文献の各々は、そこに明記されている特定のペプチドが、正常なげっ歯類の筋肉組織、皮下結合組織、真皮などの組織において、in vivoで細胞死を引き起こすための有効な薬剤であることを明らかにしている。
【実施例
【0070】
臨床試験は、BPHに罹患した多数の患者を対象に実施され、その中にはLUTSを有する患者もいた。全てのプロトコルは、規則に従って行われ医師によって実施された。
【0071】
[実施例1]
診療室環境における泌尿器科医による超音波誘導下の二重盲検条件下で、BPHを患いかつ場合によってはLUTSを有する患者に、a)FTを2.5mg含有のpH7.2のリン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)、または、b)PBS単独、の何れかの前立腺内注射を行った。患者は12ヶ月から数年にわたり、定期的な身体診察、臨床検査、および症状の評価を受けて追跡された。有効なテストを提供するのに十分な量(125mL以上)の尿を排尿できる被験者を対象に、標準的な手法を用いた流量計の測定により、尿の最大流量(Qmax)をベースラインにおいておよび12ヵ月後に測定した。欲した量の水を飲んでも125mL以上の排尿ができなかった被験者を「Qmax不可」と分類した。Qmax不可となった被験者の数を異なるグループで比較した。平均流量の改善は、FT治療を受けた患者と対照群とで同程度であったが、驚くべきことに、対照薬として賦形剤注射を受けた被験者は、FT2.5mgの治療に比べて未達成数が31%多いことが分かった。実施例1の結果を以下の表4に示す。
【表4】
【0072】
表4の結果から、FTを含む組成物を投与すると、対照群と比較して、Qmaxを未達成の患者の割合が減少したことが明らかになった(約31%の改善)。FTを患者に投与することで、Qmax未達成の患者の割合を対照群と比較して31%減少させることができるというのは、全く予期しなかった結果である。
【0073】
[実施例2]
診療室環境における泌尿器科医による超音波誘導下の二重盲検条件下で、BPHを患いかつ場合によってはLUTSを有する患者に、a)FTを2.5mg含有のpH7.2のリン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)、または、b)PBS単独、の何れかの前立腺内注射を行った。患者は12ヶ月から数年にわたり、定期的な身体診察、臨床検査、および症状の評価を受けて追跡された。尿の最大流量(Qmax)は、標準的な手法を用いた流量計を読み取ることにより、3ヵ月後および12ヵ月後に測定が行われた。流量平均値の改善はFT投与群と対照群とで同様であったが、驚くべきことに、FT2.5mgを投与された患者は、賦形剤のみの対照群と比較して、12ヵ月後の流量値の悪化を示した患者の割合が有意に少ないことが判明した。実施例2の結果を以下の表5に示す。
【表5】
【0074】
表5の結果から、FTを含む組成物を投与することにより、12ヶ月後にQmaxが悪化した患者の割合が、対照群と比較して有意に減少したことが明らかになった(約20%の改善)。FTを患者に投与することで、Qmaxが悪化した患者の割合を対照群と比較して20%減少させることができるということは全くの予想外であった。
【0075】
[実施例3]
診療室環境における泌尿器科医による超音波誘導下の二重盲検条件下で、BPHを患いかつ場合によってはLUTSを有する患者に、FTを2.5mg含有のpH7.2のリン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)10mL、または、PBSのみを10mL、の何れかの前立腺内注射を行った。患者は12ヶ月、定期的な身体診断、臨床検査、および症状の評価を受けて追跡された。前月の夜間頻尿の平均頻度については患者が記入したアンケートで記録した。一晩あたりの夜間頻尿の平均改善度は、FT治療を受けた被験者と対照群との間で同程度であったが、驚くべきことに、FT治療を受けた患者のうち、悪化を示した患者の割合は、対照群と比較してFT治療を受けた患者で有意に低かった。実施例3の結果を以下の表6に示す。
【表6】
【0076】
表6の結果から、FTを含む組成物を投与することで、ベースラインから12ヶ月後の夜間頻尿の頻度変化が0より大きい患者の割合が、対照群と比較して有意に減少したことが明らかになった(約36%の改善)。FTを患者に投与することにより、ベースラインから12ヵ月後までの夜間頻尿の頻度の変化が0より大きい患者の割合を、対照群と比較して約36%減少させることができるとい事は、まったく予想外であった。
【0077】
上記の実施例の結果は、(LUTSも有しているか否かは問わずに)BPHを有する患者についての驚くべきデータを提供した。BPHを有するがLUTSを有しない患者は、実施例で提供される改善結果を必ずしも経験しないであろう。その結果、このような患者では、刺激性および/または閉塞性のLUTSをほとんど有さないベースラインからスタートした場合、刺激性および/または閉塞性のLUTSの改善を必ずしも示さないため、結果が好ましくない方向に歪められていることが予想される。したがって、LUTSも有するBPH患者を特定し、FTを含む組成物をそのような患者に投与することで、(a)12ヶ月後にQmax未達成となる患者の割合を減少させる、(b)12ヶ月後にQmax悪化を示す患者の割合を減少させる、および(c)ベースラインから12ヶ月後の夜間頻尿の頻度の変化が0を超える患者の割合を減少させる、という症状において、それぞれ上記実施例1~3で示された改善よりもさらに大きな改善効果が得られると考えられる。
【配列表】
0007631225000001.app