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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】H因子増強性抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20250210BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250210BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250210BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20250210BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250210BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250210BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250210BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250210BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20250210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250210BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20250210BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20250210BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250210BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20250210BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250210BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20250210BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250210BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20250210BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20250210BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P43/00 111
A61P7/06
A61P13/12
A61P29/00
A61P27/02
A61K39/395 N
A61K47/60
A61K48/00
A61K35/12
A61K35/76
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2022503450
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 US2020042627
(87)【国際公開番号】W WO2021011903
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】62/875,309
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520137084
【氏名又は名称】ジェミニ・セラピューティクス・サブ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Gemini Therapeutics Sub.Inc.
(73)【特許権者】
【識別番号】522021941
【氏名又は名称】スティヒティング・サンキン・ブルートフォールジーニング
【氏名又は名称原語表記】STICHTING SANQUIN BLOEDVOORZIENING
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ローダー,スコット
(72)【発明者】
【氏名】パーセル,トム
(72)【発明者】
【氏名】ゴビンダラジャン,スリダル
(72)【発明者】
【氏名】カイペルス,タコ ウィレム
(72)【発明者】
【氏名】ヴァウテルス,ディアナ
(72)【発明者】
【氏名】ブラウウェル,マリア クララ
(72)【発明者】
【氏名】パウ,リシャルト ベンヤミン
(72)【発明者】
【氏名】リスペンス,ターデ
(72)【発明者】
【氏名】ヨンヘリウス,イルセ
(72)【発明者】
【氏名】デッケルス,ギリアン
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525362(JP,A)
【文献】Blood advances,2019年,Vol.3, No.4,pp.621-632
【文献】Clinical Chemistry,2005年,Vol.51, No.5,pp.856-863
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2000年,Vol.275, No.17,pp.12917-12925
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00-19/00
C12N 15/00-15/90
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
H因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に特異的に結合する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、
- 配列SSVTY(配列番号1)または配列TSVTY(配列番号13)を含む軽鎖CDR1配列、
- 配列ATS(配列番号2)または配列ASS(配列番号14)を含む軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、
- 配列IWSGGTT(配列番号10)または配列VWSGGTT(配列番号6)を含む重鎖CDR2配列、及び
- 配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)または配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を含む重鎖CDR3配列
を含む、前記抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項2】
- 配列SSVTY(配列番号1)を含む軽鎖CDR1配列、
- 配列ATS(配列番号2)を含む軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、
- 配列IWSGGTT(配列番号10)を含む重鎖CDR2配列、及び
- 配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を含む重鎖CDR3配列
を含む、請求項1に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項3】
- 配列SSVTY(配列番号1)を含む軽鎖CDR1配列、
- 配列ATS(配列番号2)を含む軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、
- 配列VWSGGTT(配列番号6)を含む重鎖CDR2配列、及び
- 配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を含む重鎖CDR3配列
を含む、請求項1に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項4】
- 配列TSVTY(配列番号13)を含む軽鎖CDR1配列、
- 配列ASS(配列番号14)を含む軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、
- 配列VWSGGTT(配列番号6)を含む重鎖CDR2配列、及び
- 配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を有する重鎖CDR3配列
を含む、請求項1に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項5】
- 配列TSVTY(配列番号13)を含む軽鎖CDR1配列、
- 配列ASS(配列番号14)を含む軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、
- 配列IWSGGTT(配列番号10)を含む重鎖CDR2配列、及び
- 配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を含む重鎖CDR3配列
を含む、請求項1に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項6】
前記抗体またはフラグメントは、FHに対して2.5×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.1×10-9M以下のKの結合親和性を有するか、あるいは、前記抗体またはフラグメントは、FHに対して1.25×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.04×10-9M以下のKの結合親和性を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項7】
前記抗体またはフラグメントは、
- 10%(v/v)の血清の存在下で、in vitroのリポ多糖におけるC3b沈着を、38nM以下のIC50 値で阻害する、及び/または
- 10%(v/v)の血清の存在下で、in vitroの溶血活性を、150nM以下のIC50 値で阻害する、及び/または
- in vitroのC3bに対するFHのKを最大で2μMまで減少させる(結合親和性を増加させる)、及び/またはin vitroのC3bに対するFHの結合親和性を少なくとも3倍増加させる、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項8】
- 配列番号4または配列番号16配列を含む可変軽鎖配列、および
- 配列番号12または配列番号8配列を含む可変重鎖配列
を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項9】
配列番号4配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号12配列を含む可変重鎖配列とを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項10】
配列番号4配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号8配列を含む可変重鎖配列とを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項11】
配列番号16配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号8配列を含む可変重鎖配列とを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項12】
配列番号16配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号12配列を含む可変重鎖配列とを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項13】
前記抗体またはフラグメントは、FH活性を増強し、場合により、前記FH活性は、代替補体活性化の阻害であり、さらに場合により、代替補体活性化の阻害は、
- 溶血活性の阻害、
- C3b沈着の阻害、及び/または
- C3b、iC3b及び/またはC3dに対するFHの結合の増加
を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項14】
前記抗体またはフラグメントは、免疫グロブリン重鎖可変領域及び免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、免疫グロブリン重鎖定常領域及び免疫グロブリン軽鎖定常領域をさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項15】
前記抗体またはフラグメントは、Fabフラグメントを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項16】
前記抗体またはフラグメントは、モノクローナルである、請求項1~15のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項17】
前記抗体またはフラグメントは、ヒト軽鎖及び重鎖定常領域を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項18】
定常領域がヒトIgG4のFcドメインを含む、請求項17に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項19】
ヒトIgG4のFcドメインが297位にアミノ酸残基AlaまたはGlnを含む、請求項18に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項20】
前記抗体またはフラグメントは、PEG化されている、請求項1~19のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項21】
前記抗体またはフラグメントは、PEG化されたFabフラグメントである、請求項20に記載の抗体またはフラグメント。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメントをコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸。
【請求項23】
請求項22に記載の核酸を含むベクター。
【請求項24】
前記ベクターは、AAVベクターである、請求項23に記載のベクター。
【請求項25】
前記AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、及びAAV12からなる群から選択される、請求項24に記載のベクター。
【請求項26】
請求項22に記載の核酸、または請求項23~25のいずれか1項に記載のベクターを含む、組換え型細胞。
【請求項27】
請求項1~21のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、請求項22に記載の核酸、請求項23~25のいずれか1項に記載のベクター、または請求項26に記載の組換え型細胞、ならびに薬学的に許容されるキャリア、希釈剤、及び/または賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項28】
療法において使用するための、請求項1~21のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、請求項22に記載の核酸、請求項23~25のいずれか1項に記載のベクター、請求項26に記載の組換え型細胞、または請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
代替補体活性化を阻害するのに使用するための、請求項1~21のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、請求項22に記載の核酸、請求項23~25のいずれか1項に記載のベクター、請求項26に記載の組換え型細胞、または請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項30】
代替経路補体活性化に関連する障害の治療、緩和、または防止において使用するための、請求項1~21のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、請求項22に記載の核酸、請求項23~25のいずれか1項に記載のベクター、請求項26に記載の組換え型細胞、または請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、及びIgA腎症からなる群から選択される、請求項30に記載の使用のための抗体もしくはフラグメント、核酸、組換え型細胞、または医薬組成物。
【請求項32】
抗体またはフラグメントを生成する方法であって、請求項22に記載の核酸または請求項23~25のいずれか1項に記載のベクターを細胞に供給することと、前記核酸またはベクターに含まれる前記核酸配列を前記細胞に翻訳させることにより、請求項1~21のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメントを生成することとを含む前記方法。
【請求項33】
前記抗体またはフラグメントを採取、精製、及び/または単離することをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年7月17日に出願された米国仮特許出願第62/875,309号の利益及び優先権を主張するものであり、同仮特許出願の開示内容は、あらゆる目的のために全体として参照により本明細書に組み込まれる。
本出願には、ASCIIフォーマットで電子提出され、参照により全体として本明細書に組み込まれる配列表が含まれる。2020年8月4日に作成された前記ASCIIコピーは、GEM-013WO_SL.txtという名称であり、18,037バイトのサイズである。
【背景技術】
【0002】
補体系は、哺乳動物などの多くの生物を侵入病原体から保護するのに寄与する自然免疫の重要な要素である。補体系は、主に肝臓で合成される30を超える異なる成分からなる。補体系の活性化は、古典的経路、レクチン経路、及び代替経路という3つの異なる経路によって起こる。3つの経路は、各経路で異なるが同様の活性を有する、C3転換酵素の形成で合流する。
【0003】
古典的補体経路では、抗体-抗原複合体と結合すると、C1q、C1r、及びC1sからなる補体成分(C)1複合体の活性化が起こる。C1複合体は、C4及びC2を切断し、C4bC2aからなるC3転換酵素の形成をもたらす。C3転換酵素はC3を切断して活性成分のC3a及びC3bにする。レクチン経路では、マンノース結合レクチンが病原体表面のマンノース残基に結合し、C4及びC2を切断することのできるセリンプロテアーゼであるMASP-1及びMASP-2を活性化する。古典的経路と同様に、これがC4bC2a C3転換酵素の形成をもたらす。このC3転換酵素は、C3bに結合してC5転換酵素を形成しうる。古典的経路及びレクチン経路に反して、代替経路は、血漿中のC3からC3(H2O)への自然加水分解に起因する低レベルの持続的活性を有する。このC3b様C3(H2O)は、B因子(FB)に結合することにより流体相C3転換酵素を形成することができ、これは次に、D因子によってBbへと活性化される。同様に、C3bが表面に結合すると、FBに結合してC3bBを形成しうる。この複合体はD因子によって切断され、代替経路のC3転換酵素であるC3bBbとなり、これはプロパージン(P因子)によってC3bBbPへと安定化されうる。このC3転換酵素はC3を切断してC3a及びC3bにすることができる。このプロセスに加えて、代替経路は、古典的経路及びレクチン活性化経路の増幅ループとして機能する。なぜなら、これらの経路で生成されたC3bは、代替経路の開始点として機能しうるからである。それにより、増幅ループは、古典的経路及びレクチン経路の強化をもたらす。3つの活性化経路のうちの1つで形成されたC3転換酵素は、C3bに結合してC5転換酵素を形成することができる。3つすべての補体経路のC5転換酵素が、C5をC5a及びC5bへと活性化し、これが補体系の末端経路を開始する。C5bはC6、C7、C8、及びC9に結合して膜侵襲複合体(MAC)を形成し、これが膜貫通チャネルを形成して細胞溶解を引き起こす。
【0004】
補体は、病原体の膜に細孔を形成することに加えて、C3b分子によるオプソニン化、ならびに免疫細胞を感染部位に誘引して活性化するC3a及びC5aなどの炎症促進性ペプチドの生成により、病原体または変化した自己細胞を排除するのを助ける。補体の強い炎症促進性の性質のため、宿主細胞は、いくつかの膜及び可溶性補体調節タンパク質によって良好に保護される。
【0005】
代替経路は全補体活性の80~90%に寄与する。したがって、この経路の調節はきわめて重要である。C3の自然加水分解によって形成されるC3(H2O)、及びC3bは通常、病原体が結合していなければ、H因子(FH)、I因子(FI)、及び宿主細胞表面分子によって急速に不活性化され、それにより、C3転換酵素の形成が阻害される。CD55(別名、崩壊加速因子またはDAF)は、宿主細胞表面でC3bに結合する。FIはC3bを切断して不活性型にするが、細胞表面で発現する補因子(CD46、MCP)、または血漿中を循環する補因子(FH)のいずれかに依存する。
【0006】
FHは、溶解状態と細胞表面上の両方で補体の代替経路を制御するのに不可欠な血漿糖タンパク質である。FHはFBと同じ位置でC3bに結合し、それによりC3転換酵素の形成を防止する。FHはまた、崩壊加速活性を有し、すなわち、代替経路C3転換酵素が形成されるとそれらの解離を促進する。FHがC3bに結合するかどうかは、細胞表面に存在する炭水化物によって決まる。宿主細胞表面に存在するシアル酸、グリコサミノグリカン、及びヘパリンは、FHがC3bに結合するのを促進し、一方、病原体の表面で発現する分子へのC3bの結合は、FBの結合をもたらす。したがって、FHは、宿主細胞にその補体阻害活性を及ぼすが、病原性細胞の表面には及ぼさない。なぜなら、FHに結合する細胞表面分子は、宿主細胞で発現するが、病原性細胞では通常発現しないためである。FHは、FHのN末端から開始して1~20とナンバリングされる20個の補体制御タンパク質(CCP)ドメインを含有する。CCPドメインは短コンセンサスリピート(SCR)またはsushiドメインとも呼ばれる。CCP1~4は、調節に関与するドメインであり、CCP19~20は、C3bの結合に関与し、CCP6、7、8、19、及び20は、細胞の表面で発現するGAG及びシアル酸に結合する。CCP19及び/またはCCP20に結合する抗体は、FHの活性を阻害する。
【0007】
H因子関連タンパク質(CFHR)は、構造及び抗原性においてFHに関連する血漿糖タンパク質である。FHRタンパク質もCCPドメインから構成されており、これらは、FHに見出されるCCPドメインに対して様々な程度の相同性を有する。例えば、FHR1は、CCP6、CCP7、CCP18、CCP19及びCCP20に対応するドメインを含む。FHとは対照的に、CFHRは強い補体阻害活性を有しない。CFHRの一般的な特徴は、それらが補体のC3b成分に結合することにより、C3bに対する結合をFHと競合し、したがって補体の代替経路の正の調節因子とみなされることである。
【0008】
変異に起因する宿主表面のFH欠損または認識障害は、補体媒介性の組織損傷及び疾患に関連している。正常な止血中の補体活性化を制御することに加えて、FHは、疾患細胞及び組織の補体媒介性損傷の制限においても重要な役割を果たす。FHタンパク質の機能喪失につながりうる、FH遺伝子の変異が複数報告されている。FHのC末端領域は、疾患の変異のホットスポットである。これは、FHが宿主細胞に結合するための重要な領域である。この領域におけるほとんどの疾患関連変異が、FH結合に干渉する。変異型FH遺伝子を有するほとんどの患者はヘテロ接合性変異を有し、これは循環FHのおよそ半分が正常な機能を有することを意味する。しかしながら、これは、補体が活性化されるある特定の条件下では、自己表面を保護するのに充分ではないようである。FH欠損は、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)及び非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)などの腎疾患につながりうる。さらに最近では、FH変異と加齢性黄斑疾患(AMD)との関係が報告されている。
【0009】
現在、aHUSにおけるようなFH欠損の標準治療は、血漿補充または血漿交換療法である。そのような療法では、欠損した補体調節因子が補充される。血漿交換療法はさらに、変異型補体因子及び/または補体因子に対する自己抗体を除去する。しかしながら、血漿療法にはいくつかの制限もある。これまでの前向き臨床試験で、血漿交換療法がaHUSの治療に安全または有効であること、及び血漿療法の効率が根底にある変異に依存しうることを示したものはない。一部の患者は新鮮凍結血漿に対してアナフィラキシー反応を発現し、あらゆる形態の血漿療法の休止が必要となる場合がある。さらに、血漿交換は、血漿由来の活性病原性補体成分の投与のためにaHUSの臨床像を悪化させうる。
【0010】
最近では、治療用モノクローナル抗体エクリズマブが、米国及び欧州諸国を含む数か国でaHUS及び発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療のために承認された。エクリズマブは、C5が切断されてC5a及びC5bになることを防止する、C5に対して特異的なヒト化マウスモノクローナル抗体である。したがって、末端経路の活性化を防止し、免疫細胞の流入を減少させる。しかしながら、エクリズマブの使用は、不必要な副作用に関連している。末端経路の開始にきわめて重要な成分であるC5を遮断するので、エクリズマブで治療された患者は、クリアランスがMAC形成に大きく依存する被包性細菌(Neisseria meningitidisなど)の感染に罹りやすくなる。したがって、エクリズマブでの治療を受ける前の患者には、髄膜炎菌に対するワクチン接種が必要である。さらに、エクリズマブはC3の下流で作用するため、C3沈着が維持され、不必要または過剰な補体活性化が関与する数種の障害において有害である。さらに、エクリズマブ治療には高いコストが伴い、抗体の利用可能性は限られている。
【0011】
CCP18に結合するマウスモノクローナル抗体がChengら(Clinical Chemistry,2005)によって報告されている。X52.1と呼ばれるこの抗体は、FHの二量体化によって引き起こされると考えられているC3b及びC3dへのFHの結合を増加させることが報告されている。X52.1によって誘導されるC3b及びC3dへのFHの結合の増加は、Coreyら(J Biol Chem.2000)によって示されているように、RBC及び数種類のがん細胞を含む細胞の補体媒介性溶解の増加をもたらす。これは、抗体X52.1がFHの補体阻害活性を阻害することを実証している。実際、Coreyらは、この抗体が、がん細胞の補体媒介性溶解を増進することにより、がんの治療に使用されうることを示唆している。
【0012】
依然として、不必要または過剰な補体活性化に関連する障害の治療において有用な薬剤のような、FHに結合する新規の改善された治療剤が必要である。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、H因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合性フラグメント、例えば、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。かかる抗体及び抗原結合性フラグメントは、FHの活性の増強、例えば、C3bに対するFHの結合親和性の増加、C3沈着を阻害するFHの能力の増加、及び/または溶血活性を阻害するFHの能力の増加のために有用である。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列SSVTY(配列番号1)または配列TSVTY(配列番号13)を含む軽鎖CDR1配列、配列ATS(配列番号2)または配列ASS(配列番号14)を含む軽鎖CDR2配列、配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、配列VWSGGTT(配列番号6)またはIWSGGTT(配列番号10)の配列を含む重鎖CDR2配列、及び配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)または配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を含む重鎖CDR3配列を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列SSVTY(配列番号1)を含む軽鎖CDR1配列、配列ATS(配列番号2)を含む軽鎖CDR2配列、配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、配列IWSGGTT(配列番号10)を含む重鎖CDR2配列、及び配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を含む重鎖CDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列番号4または16に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号8または12に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列とを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列番号4に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号12に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列とを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列SSVTY(配列番号1)を含む軽鎖CDR1配列、配列ATS(配列番号2)を含む軽鎖CDR2配列、配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、配列VWSGGTT(配列番号6)を含む重鎖CDR2配列、及び配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を含む重鎖CDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列番号4に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号8に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列とを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列TSVTY(配列番号13)を含む軽鎖CDR1配列、配列ASS(配列番号14)を含む軽鎖CDR2配列、配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、配列VWSGGTT(配列番号6)を含む重鎖CDR2配列、及び配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を有する重鎖CDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列番号16に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号8に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列とを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列TSVTY(配列番号13)を含む軽鎖CDR1配列、配列ASS(配列番号14)を含む軽鎖CDR2配列、配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、配列IWSGGTT(配列番号10)を含む重鎖CDR2配列、及び配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を含む重鎖CDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列番号16に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号12に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列とを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FHに対して2.5×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.1×10-9M以下のKの結合親和性を有するか、あるいは、抗体またはフラグメントは、FHに対して1.25×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.04×10-9M以下のKの結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FHに対して2.5×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.1×10-9M以下のKの結合親和性を有するか、あるいは、抗体またはフラグメントは、FHに対して0.6×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.6×10-11M以下のKの結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはフラグメントは、10%(v/v)の血清の存在下でin vitroのリポ多糖(LPS)におけるC3沈着を、38nM以下のIC50値、例えば30nM以下のIC50値で阻害する、及び/または10%(v/v)の血清の存在下でin vitroの溶血活性を、150nM以下のIC50値、例えば130nM以下のIC50値で阻害する、及び/または10%(v/v)の血清の存在下でin vitroのC3bに対するFHのK値を2μM以下まで減少させる(結合親和性を増加させる)、及び/または10%(v/v)の血清の存在下でin vitroのC3bに対するFHの結合親和性を少なくとも3倍増加させる。ある特定の実施形態において、血清は、正常ヒト血清である。
【0019】
いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FH活性を増強し、場合により、FH活性は、代替補体活性化の阻害であり、さらに場合により、代替補体活性化の阻害は、溶血活性の阻害、補体成分3(C3)沈着の阻害、及び/またはC3b、iC3b及び/またはC3dに対するFHの結合の増加を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、免疫グロブリン重鎖可変領域及び免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、抗体またはフラグメントは、免疫グロブリン重鎖定常領域及び免疫グロブリン軽鎖定常領域をさらに含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、IgGの定常領域を含む。いくつかの実施形態では、IgGの定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)である。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、IgG4(例えば、ヒトIgG4)の定常領域を含む。いくつかの実施形態では、IgG4の定常領域は、297位に変異を含む。ある特定の実施形態において、IgG4の定常領域は、297位にアミノ酸残基Qを含む。ある特定の実施形態において、IgG4の定常領域は、297位にアミノ酸残基Aを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくともFabフラグメントを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、モノクローナル抗体またはそのフラグメントである。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、ヒト軽鎖及び重鎖定常領域を含むキメラ抗体もしくはヒト化抗体またはそのフラグメントである。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、PEG化されている。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、PEG化されたFabフラグメントである。
【0021】
いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントをコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書で開示されるいずれかの核酸を含むベクターを提供する。いくつかの実施形態では、ベクターは、AAVベクターである。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、及びAAV12からなる群から選択される。
【0022】
いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書で開示されるいずれかの核酸、または本明細書で開示されるいずれかのベクターを含む、組換え型細胞を提供する。
【0023】
いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書で開示されるいずれかの抗体もしくはフラグメント、本明細書で開示されるいずれかの核酸、本明細書で開示されるいずれかのベクター、または本明細書で開示されるいずれかの組換え型細胞、ならびに薬学的に許容されるキャリア、希釈剤、及び/または賦形剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0024】
いくつかの実施形態では、本開示は、療法において使用するための、本明細書で開示されるいずれかの抗体もしくはフラグメント、本明細書で開示されるいずれかの核酸、本明細書で開示されるいずれかのベクターを提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、代替補体活性化を阻害するのに使用するための、本明細書で開示されるいずれかの抗体もしくはフラグメント、本明細書で開示されるいずれかの核酸、または本明細書で開示されるいずれかのベクターを提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、代替経路補体活性化に関連する障害の治療、緩和、または防止において使用するための、本明細書で開示されるいずれかの抗体もしくはフラグメント、本明細書で開示されるいずれかの核酸、または本明細書で開示されるいずれかのベクターを提供する。いくつかの実施形態では、障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、及びIgA腎症からなる群から選択される。
【0025】
いくつかの実施形態では、本開示は、代替経路補体活性化に関連する障害の治療、緩和、または防止のための医薬を調製するための、本明細書で開示されるいずれかの抗体もしくはフラグメント、本明細書で開示されるいずれかの核酸、または本明細書で開示されるいずれかのベクターの使用を提供する。いくつかの実施形態では、障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、及びIgA腎症からなる群から選択される。
【0026】
いくつかの実施形態では、本開示は、代替経路補体活性化に関連する障害を治療、緩和、または防止する方法であって、それを必要とする個体に、本明細書で開示されるいずれかの抗体もしくはフラグメント、本明細書で開示されるいずれかの核酸、本明細書で開示されるいずれかのベクター、または本明細書で開示されるいずれかの医薬組成物を治療有効量で投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、及びIgA腎症からなる群から選択される。
【0027】
いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書で開示されるいずれかの抗体もしくはフラグメント、本明細書で開示されるいずれかの核酸、本明細書で開示されるいずれかのベクター、または本明細書で開示されるいずれかの医薬組成物を対象に投与することを含む、代替補体活性化を阻害する方法を提供する。
【0028】
いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書で開示されるいずれかの抗体もしくはフラグメントを生成する方法であって、本明細書で開示されるいずれかの核酸または本明細書で開示されるいずれかのベクターを細胞に供給することと、核酸またはベクターに含まれる核酸配列を細胞に翻訳させることにより、抗体またはフラグメントを生成することとを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、抗体またはフラグメントを採取、精製、及び/または単離することをさらに含む。
【発明を実施するための形態】
【0029】
A. 一般的技術及び定義
本明細書中で別途定義しない限り、本明細書に記載される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解されている意味を有するものとする。概して、本明細書に記載される薬理学、細胞及び組織培養、分子生物学、細胞及びがん生物学、神経生物学、神経化学、ウイルス学、免疫学、微生物学、遺伝学ならびにタンパク質及び核酸化学に関連する命名法、ならびにそれらの技術は、当該技術分野で周知であり、一般的に使用されているものである。矛盾がある場合には、本明細書が定義を含めて優先する。
【0030】
本開示の実践では、別途記載しない限り、当業者の技能範囲内にある、分子生物学(組換え技術など)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来技術を用いる。そのような技術は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,second edition(Sambrook et al.,1989)Cold Spring Harbor Press、Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.,1984)、Methods in Molecular Biology,Humana Press、Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1998)Academic Press、Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.,1987)、Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press、Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.,1993-1998)J.Wiley and Sons、Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.)、Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987)、Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel et al.,eds.,1987)、PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis et al.,eds.,1994)、Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd.ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY(2001)、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NY(2002)、Harlow and Lane Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY(1998)、Coligan et al.,Short Protocols in Protein Science,John Wiley & Sons,NY(2003)、Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999)などの文献で充分に説明されている。
【0031】
酵素反応及び精製技術は、製造元の仕様書に従って、当該技術分野で一般的に実行されるように、または本明細書に記載されるように行われる。本明細書に記載される分析化学、生化学、免疫学、分子生物学、有機合成化学、ならびに医薬品化学及び製薬化学に関連して使用される命名法、ならびにそれらの実験手順及び技術は、当該技術分野で周知であり、一般的に使用されているものである。化学合成及び化学分析には標準的技術が使用される。
【0032】
本明細書及び実施形態を通して、「含む(comprise)」という用語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、記載される整数または整数の群の包含を意味するが、いずれかの他の整数または整数の群の除外を意味するものではないと理解されたい。
【0033】
実施形態が「含む(comprising)」という文言を用いて本明細書に記載される場合は必ず、「からなる(consisting of)」及び/または「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語で記載されること以外は類似の実施形態も提供されるものと理解される。
【0034】
「含む(including)」という用語は、「を含むがこれに限定されない(including but not limited to)」を意味するように使用される。「含む」及び「を含むがこれに限定されない」は同義に使用される。
【0035】
「例えば(e.g.)」または「例えば(for example)」という用語に続く例(複数可)はいずれも、網羅的または限定的であることを意図しない。
【0036】
文脈上他の解釈が必要な場合を除き、単数形の用語は複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0037】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書では、冠詞の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)の文法的対象を指すように使用される。例えば、「要素(an element)」は、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0038】
状態または患者を「治療する」とは、臨床結果を含め、有益または所望の結果を得るためのステップをとることを指す。疾患または状態(例えば、眼の疾患)に関して、治療とは、感染(例えば、眼の疾患またはそれに関連する症状)の進行、重篤度、及び/または持続期間の低減もしくは回復、または1つ以上の療法の投与(1つ以上の予防薬または治療剤の投与を含むがこれに限定されない)から生じる1つ以上の症状の回復を指す。
【0039】
本明細書で使用する場合、「特異的な」及び「特異的に結合する」または「特異的に結合することが可能な」という用語は、抗体とそのエピトープとの間の非共有結合的相互作用を指す。これは、抗体またはフラグメントが、他の結合部位または他の抗原よりもそのエピトープに優先的に結合することを示す。よって、抗体またはフラグメントは、他の結合部位または抗原に非特異的に結合する場合があるが、抗体またはフラグメントのそのエピトープに対する結合親和性は、抗体またはフラグメントのいかなる他の結合部位または抗原に対する結合親和性よりも著しく高い。
【0040】
アミノ酸配列もしくは核酸配列の同一性のパーセンテージ、または「%の配列同一性」という用語は、本明細書では、2つの配列をアラインし、必要に応じてギャップを導入して、最大の同一性パーセントを達成した後に、参照アミノ酸配列または核酸配列における残基と同一である、完全長のアミノ酸配列または核酸配列の残基のパーセンテージと定義される。アラインメントの方法及びコンピュータプログラムは、当該技術分野で周知であり、例えば「Align 2」がある。
【0041】
本明細書で使用する場合、「FH.07」とは、配列番号32の可変軽鎖アミノ酸配列及び配列番号36の可変重鎖アミノ酸配列を含む抗体を指す。
【0042】
本明細書で使用する場合、「FHR-1.3B4」とは、配列番号48の可変軽鎖アミノ酸配列及び配列番号52の可変重鎖アミノ酸配列を含む抗体を指す。
【0043】
本明細書に示すアミノ酸配列において、アミノ酸は1文字記号によって表記される。これらの1文字記号及び3文字記号は、当業者に周知であり、次の意味を有する:A(Ala)はアラニンであり、C(Cys)はシステインであり、D(Asp)はアスパラギン酸であり、E(Glu)はグルタミン酸であり、F(Phe)はフェニルアラニンであり、G(Gly)はグリシンであり、H(His)はヒスチジンであり、I(Ile)はイソロイシンであり、K(Lys)はリジンであり、L(Leu)はロイシンであり、M(Met)はメチオニンであり、N(Asn)はアスパラギンであり、P(Pro)はプロリンであり、Q(Gln)はグルタミンであり、R(Arg)はアルギニンであり、S(Ser)はセリンであり、T(Thr)はトレオニンであり、V(Val)はバリンであり、W(Trp)はトリプトファンであり、Y(Tyr)はチロシンである。
【0044】
「FH活性を増強する」という用語は、本開示に係る抗体またはフラグメントがFHに結合した場合にFHの活性が増加することを意味する。いくつかの実施形態では、本開示の抗体及びフラグメントによって増強されるFHの活性は、例えば個体における、代替補体活性化の阻害である。本明細書で使用する場合、「代替補体活性化」という用語は、代替経路を介した、すなわち、代替経路のC3転換酵素、すなわちC3bBb/C3bBbPの形成を少なくとも伴う、またはこのC3転換酵素の形成の増加を伴う、補体系の活性化を指す。代替補体活性化は、代替経路C3転換酵素によるC3a及びC3bへのC3の切断、代替経路C5転換酵素、すなわちC3bBbC3b/C3bBbC3bPの形成、及び/またはC5の切断及びその後のC6、C7、C8及びC9の結合によるMACの形成をさらに伴いうる。代替補体活性化は、代替経路増幅ループの増加をさらに含みうる。
【0045】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントは、本明細書で開示される代替補体活性化プロセスのうちのいずれか1つ以上を阻害することが可能である。いくつかの実施形態では、代替補体活性化は、個体において(例えば、血液、間質液または脳脊髄液などの個体の体液において)阻害される。本明細書で使用する場合、「個体」という用語は、「対象」または「患者」と同義に使用され、補体系をその免疫系の一部として含む、ヒトまたは哺乳動物(例えば、げっ歯類、サル、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ)などの動物を指す。いくつかの実施形態では、個体は哺乳動物である。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0046】
本明細書で使用する場合、「代替補体活性化の阻害」は、代替補体系の成分、因子、または活性の量または活性における、その阻害を引き起こす、またはその阻害の結果である任意の変化を含む。代替補体活性化の阻害は、例えば、溶血活性の阻害、対象の細胞における補体成分3(C3)沈着の阻害、C3b、iC3b及び/またはC3dに対するFHの結合の増加、代替補体経路C3転換酵素C3bBb/C3bBbPの形成の阻害、C3bに対するB因子の結合の阻害及び/またはC3bとB因子との間の相互作用の阻害、代替経路C3転換酵素によるC3a及びC3bへのC3の切断の阻害、宿主細胞への、特に宿主細胞で発現するシアル酸、グリコサミノグリカン及び/またはヘパリンへのFHの結合の増加、代替補体経路の増幅ループの阻害、ならびに代替補体経路C5転換酵素C3bBbC3bP/C3bBbC3bPの形成の阻害、代替経路C5転換酵素によるC5a及びC5bへのC5の切断の阻害、FHの崩壊加速活性の増加、すなわち、代替経路C3転換酵素が形成された際のその解離の促進、及び/またはC3bの分解をもたらすFI補因子活性の増加を含む。特定の実施形態において、本開示の抗FH抗体及びフラグメントによって増強されるFHによる代替補体活性化の阻害は、溶血活性の阻害、対象の細胞におけるC3沈着の阻害、及び/またはC3b、iC3b及び/またはC3dに対するFHの結合の増加を含む。
【0047】
本明細書で使用する「阻害」は、好ましくは、示される活性が少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%低減することを意味する。したがって、「代替補体活性化の阻害」は、代替補体経路の活性が少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%低減することを意味する。同様に、「溶血活性の阻害」は、溶血活性が少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%低減することを意味する。
【0048】
本明細書で使用する「増加」は、好ましくは、示される活性が少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%増加することを意味する。したがって、「C3bに対するFHの結合の増加」は、C3bに対するFHの結合が少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%増加することを意味する。同様に、「宿主細胞に対するFHの結合の増加」は、宿主細胞に対するFHの結合が少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%、少なくとも約550%、少なくとも約600%、少なくとも約700%、少なくとも約800%、少なくとも約900%、または少なくとも約1000%増加することを意味する。
【0049】
本明細書で使用する場合、「溶血活性」とは、好ましくは細胞表面におけるMACの形成の結果として、補体系の活性化によって誘導される、赤血球の破裂及びその後の細胞の内容物の、例えば循環中への放出を指す。溶血活性は例えば、本明細書の実施例に記載されるように、Sanchez-Corralら(2004)及びWoutersら(2008)によって報告された溶血アッセイを場合により多少修正して使用することにより測定される。この代表的かつ非限定的なアッセイでは、ヒツジ赤血球(SRBC)などの赤血球を、例えば37℃で1.25時間振盪しながら、血清(例えばヒト血清)と共にインキュベートする。低レベルのFHまたは機能不全のFHを含む血清は、SRBCの溶解をもたらす。溶解は、20mM EDTAを含有するベロナール緩衝液の添加後、予め冷却した遠心機(例えば7℃)で2.5分間の遠心分離を行うことによって停止することができる。赤血球溶解のパーセンテージは、上清の吸光度を412nmで測定することによって決定される。血清は例えば、健康なヒト個体に由来してもよく、不必要または過剰な代替経路補体活性化に関連する障害、例えばaHUSを患うヒト個体に由来してもよい。溶血活性を阻害する抗体またはフラグメントの能力は、抗体またはフラグメントの存在下で赤血球を血清と共にインキュベートすることによって決定されうる。
【0050】
「結合親和性」とは、抗体または機能的部分もしくは機能的均等物の単一の結合部位と、その結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合的相互作用の総和の強度を指す。別途記載しない限り、本明細書で使用する場合、「結合親和性」は、結合対のメンバー(本出願では抗体及び抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。本明細書において、結合親和性は、k対kの比として算出される平衡解離定数(K)によって表される。例えば、Chen,Y.,et al.,1999を参照のこと。親和性は、例えば、BiaCore(GE Healthcare Life Sciences GE Healthcare Life Sciences)もしくはIBIS Technologies BV(Hengelo,the Netherlands)のIBIS-iSPR機器などの表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ、またはKinexaなどの溶液相アッセイのような、当該技術分野で公知の一般的方法によって測定することができる。
【0051】
B. 抗FH抗体及びそのフラグメント
WO 2016/028150には、C3bに対するFHの結合の増加、媒介されるC3沈着の阻害、及び溶血活性の阻害によって示されるように、代替経路活性化を阻害する、FH.07と呼ばれるマウスアゴニスト抗FH抗体が記載されている。抗体のFab’及びF(ab’)2フラグメントは、同じFH増強効果を有することが示された。WO 2019/139481には、FH.07よりもFHに対する結合親和性が高く、FH活性を増強する能力が増加している、FHR-1.3B4と呼ばれる別のマウスアゴニスト抗FH抗体が記載されている。
【0052】
一態様において、本開示は、アゴニスト抗FH抗体(例えば、ヒト化抗体)及びそのフラグメント、すなわちFH活性を増強する抗体及びフラグメントを提供する。一態様において、これらの抗体は、FHのドメインCCP18内の同じエピトープに対する結合を抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4と競合する。増強性抗FH抗体は、代替補体経路の活性化の強力な阻害剤であり、したがって、補体系の代替経路の不必要または過剰な活性化に関連する障害の治療において有用である。FHは、C3が切断されてC3bになり、その後これが細胞表面でFBに結合し、C3転換酵素が形成されて、C3分子がさらに切断されてC3bになることが促進される、代替経路の増幅ループを特異的に阻害する。本開示の抗体及びフラグメントがC3のレベルで補体活性化に干渉するという事実の主な利点は、表面へのC3bの蓄積及びC3aの放出が回避されることである。反対に、エクリズマブのように補体活性化がC5レベルで阻害された場合、C3bの蓄積及びC3aの放出は阻害されない。C3bはオプソニンとして作用し、C3aはアナフィラトキシンである。したがって、C3bの蓄積及びC3aの形成が防止されることが好ましい。なぜなら、これらのプロセスは、免疫細胞の誘引及び標的のオプソニン化貪食作用をもたらすからである。これは、例えばエクリズマブを投与されているPNH患者では、C3bの蓄積により赤血球がオプソニン化され、その後肝臓及び脾臓で除去されるため、依然として輸血が必要であることを意味する。さらに、抗C5抗体で治療すると、さもなければMACによって溶解される細胞でC3bが形成され、C3aが蓄積する。抗C5抗体の重要な欠点は、病原体によって誘導される補体活性化にも抗体が干渉するので、患者が感染に罹りやすくなることである。宿主細胞を保護する補体系の調節因子をターゲティングすることにより、これは回避される。
【0053】
本明細書で使用する「抗体」という用語は、標的エピトープに対して特異的な、軽鎖可変領域(VL)と対になった重鎖可変領域(VH)を少なくとも含む免疫グロブリンタンパク質を指す。この用語は、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の両方を含む。これは、完全長免疫グロブリンを含め、FHのCCP18に特異的に結合するあらゆる形態の抗体を指す。本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、少なくとも1つの抗原結合部位を含む。本明細書で使用する「抗原結合部位」という用語は、少なくとも1つのCDR配列、好ましくは少なくとも2つのCDR配列、より好ましくは少なくとも3つのCDR配列を含む、抗体またはそのフラグメントの部位を指す。例えば、抗原結合部位は、軽鎖CDR1~3または重鎖CDR1~3を含む。いくつかの実施形態では、抗原結合部位は、軽鎖CDR1~3及び重鎖CDR1~3を含む。
【0054】
当業者には周知であるように、抗体は2つの重鎖及び2つの軽鎖を含有する。抗体の重鎖は、免疫グロブリン分子を構成する2種類の鎖のうち大きい方である。重鎖は定常ドメイン及び可変ドメインを含み、この可変ドメインは抗原結合に関与している。抗体の軽鎖は、免疫グロブリン分子を構成する2種類の鎖のうち小さい方である。軽鎖は定常ドメイン及び可変ドメインを含む。軽鎖の可変ドメインは、抗原結合に関与する重鎖の可変ドメインと一緒になっていることが多いが、常にそうとは限らない。相補性決定領域(CDR)は、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインに存在する超可変領域である。完全長抗体の場合、重鎖のCDR1~3と、接続した軽鎖のCDR1~3とは、一緒になって抗原結合部位を形成する。
【0055】
CDRは、抗原結合に関与し、抗原特異性及び結合親和性を抗体に付与する。重鎖及び軽鎖の可変ドメインのそれぞれに3つのCDRがあり、これらは可変ドメインのそれぞれでCDR1、CDR2、及びCDR3と称される。本明細書で使用する「CDRセット」という用語は、標的抗原に結合することが可能な単一の重鎖または軽鎖可変ドメインで生じる3つのCDRのグループを指す。これらのCDRの正確な境界は、異なるシステムによって定義が異なる。3つの重鎖CDRは、CDRH1、CDRH2、及びCDRH3と呼ばれることがあり、3つの軽鎖CDRは、CDRL1、CDRL2、及びCDRL3と呼ばれることがある。
【0056】
「抗体の抗原結合性フラグメント」は、本明細書では、抗体と同じ抗原(例えばFHのCCP18)に必ずしも同程度とは限らないが特異的に結合することが可能な抗体の一部と定義される。FH活性増強性抗体のフラグメントはさらにまた、必ずしも同程度とは限らないが、FH活性を増強する。FH活性阻害抗体のフラグメントはさらにまた、必ずしも同程度とは限らないが、FH活性を阻害する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体フラグメントは、抗体(例えば、本明細書で開示されるいずれかの抗体)の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3配列を含み、いくつかの実施形態では、抗体の軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3配列をさらに含む。抗体のフラグメントの非限定的な例は、単一ドメイン抗体、単鎖抗体、ナノボディ、ユニボディ、単鎖可変フラグメント(scFv)、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメント、及びF(ab)フラグメントである。いくつかの実施形態では、抗体のフラグメントは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/または軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくともFabフラグメントを含む。いくつかの実施形態では同じエピトープへの結合を本開示の抗体と競合する増強性抗FH抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4のFab’フラグメントは、FHの機能を増強する能力を保持することが実証されている。したがって、いくつかの実施形態では、本開示の抗体のフラグメントは、本開示に係る抗体のFabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメント、またはF(ab)フラグメントである。別の実施形態において、本開示に係る抗体のフラグメントは、免疫グロブリン重鎖可変領域、免疫グロブリン重鎖定常領域、免疫グロブリン軽鎖可変領域、及び免疫グロブリン軽鎖定常領域を含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体及びフラグメントは、ヒトFHなどのFHの活性を増強することができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、C3沈着の阻害は、本明細書の実施例に記載されるC3沈着アッセイなどのC3沈着アッセイを使用して測定される。この代表的かつ非限定的なアッセイは、マイクロタイタープレートをLPSでコーティングすることを含む。その後このプレートを、例えば、上記のように健康な個体あるいは不必要または過剰な代替補体活性化に関連する障害を患う個体に由来する血清と共に、抗体またはフラグメントの存在下または非存在下でインキュベートする。LPSにおけるC3沈着は、抗C3抗体で検出することができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、C3bに対するFHの結合の増加は、本明細書の実施例に記載されるように、ELISAを使用して測定される。この代表的かつ非限定的なアッセイは、マイクロタイターELISAプレートをC3bでコーティングし、このプレートを、例えば、上記のように健康な個体あるいは不必要または過剰な代替補体活性化に関連する障害を患う個体に由来する血清と共にインキュベートすることを含む。結合したFHは、ペルオキシダーゼ標識ポリクローナル抗FHなどの抗FH抗体で検出することができる。C3bに対するFH結合を増進する抗体またはフラグメントの能力は、コーティングされたC3bとのインキュベーションの前に、抗体またはフラグメントの存在下で血清をプレインキュベートすることによって決定することができる。別の例として、C3bに対するFHの結合は、例えば、本明細書の実施例に記載されるように、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して決定することができる。SPRは、標識のない環境で生体分子の相互作用をリアルタイムで測定する技術である。相互作用物質の一方、例えばC3bを、センサ表面に固定化し、もう一方、例えばFHを、例えば(異なる濃度の)本開示の抗体またはフラグメントの存在下または非存在下で、溶液中に遊離させ、表面を通過させる。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、in vitroのC3bに対するFHの結合親和性を最大で2μM、最大で1.95μM、最大で1.8μM、最大で1.7μMまで増加させる(K値を減少させる)、及び/またはin vitroのC3bに対するFHの結合親和性を少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも5.5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、もしくは少なくとも10倍増加させる。特定の実施形態において、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、in vitroのC3bに対するFHの結合親和性(K)を1μM未満、750nM未満、500nM未満、300nM未満、または250nM未満まで増加させる。特定の実施形態において、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、in vitroのC3bに対するFHの結合親和性(K)を250nM~1μMまで増加させる。特定の実施形態において、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、in vitroのC3bに対するFHの結合親和性を少なくとも3~5倍増加させる。
【0060】
いくつかの実施形態では、本開示によって提供される抗体またはそのフラグメントは、1つ以上の機能的アッセイにおいて低いin vitro IC50値、例えばいくつかの実施形態では、同じ機能的アッセイにおける抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4のin vitro IC50値よりも低いin vitro IC50値を有する。「IC50」は、当該技術分野で周知の用語であり、ある特定の機能的活性を50%阻害または低減するために必要な抗体またはフラグメントの濃度を指す。抗体またはフラグメントのIC50値が低いほど、抗体またはフラグメントの阻害活性が強くなり、治療剤としての潜在能力が高くなる。いくつかの実施形態では、機能的アッセイは、本明細書上記のC3b沈着アッセイ及び/または溶血アッセイである。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を、38nM以下、35nM以下、32nM以下、30nM以下、28nM以下、27nM以下、25nM以下、23nM以下、20nM以下、18nM以下、15nM以下、または10nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を、15nM~30nMのIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を、150nM以下、130nM以下、120nM以下、115nM以下、110nM以下、105nM以下、100nM以下、95nM以下、90nM以下、85nM以下、80nM以下、75nM以下、70nM以下、65nM以下、または60nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を、60nM~80nMのIC50値で阻害する。
【0061】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を、本明細書上記のように低いIC50値で阻害し、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を、本明細書上記のように低いIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を38nM以下のIC50値で阻害し、かつ10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を150nM以下のIC50値で阻害するか、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を30nM以下のIC50値で阻害し、かつ10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を150nM以下のIC50値で阻害するか、または10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を27nM以下のIC50値で阻害し、かつ10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を100nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着のIC50値は、本明細書上記のようにC3沈着アッセイにおいて決定される。いくつかの実施形態では、溶血活性のIC50値は、本明細書上記のように溶血活性アッセイにおいて決定される。
【0062】
いくつかの実施形態では、本開示によって提供される抗体またはそのフラグメントは、FH及び/またはドメインCCP18~20を含むFHフラグメントに対して高い結合親和性、例えばいくつかの実施形態では抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4の結合親和性よりも高い結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントのin vivoの治療活性は、例えば、抗体またはフラグメントが、それが特異的なエピトープまたは抗原以外の結合部位及び/または抗原に結合することを最小限に抑えるために、またin vivoで投与する必要のある抗体またはフラグメントの量を最小限に抑えるために、典型的に高い結合親和性を必要とする。いくつかの実施形態では、高い結合親和性を有する抗体が好ましい。いくつかの実施形態では、抗体またはそのフラグメントは、FHに対して2.5×10-8M以下の解離定数(K)の結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.1×10-9M以下のKの結合親和性を有する。したがって本開示は、一実施形態において、H因子(FH)に特異的に結合し、FH活性を増強する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供し、この抗体は、FHに対して2.5×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.1×10-9M以下のKの結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、FHに対して22.5nM以下、20nM以下、17.5nM以下、15nM以下、12.5nM以下、10nM以下、9nM以下、8nM以下、7nM以下、6nM以下、5nM以下、4nM以下、3nM以下、2nM以下、1nM以下、0.9nM以下、0.8nM以下、0.7nM以下、または0.6nM以下のKの結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、CCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.09×10-9M以下、0.08×10-9M以下、0.07×10-9M以下、0.06×10-9M以下、0.05×10-9M以下、0.04×10-9M以下、0.03×10-9M以下、0.02×10-9M以下、1×10-11M以下、0.9×10-11M以下、0.8×10-11M以下、0.7×10-11M以下、または0.6×10-11M以下のKの結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、抗体またはそのフラグメントは、FHに対して1.25×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.04×10-9M以下のKの結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、抗体またはそのフラグメントは、FHに対して0.6×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.6×10-11M以下のKの結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、結合親和性は、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して、例えば、本明細書に記載されるアッセイで、すなわち、完全長FH(FHの結合親和性の場合)またはドメイン18~20から成るFHのフラグメント(CCP18~20の結合親和性の場合)のいずれかを表面に流す前に抗体またはフラグメントを捕捉したProtAチップ上でのSPRによって結合親和性が決定されるアッセイで、SPRを使用して決定される。
【0063】
いくつかの実施形態では、本開示によって提供される抗体またはそのフラグメントは、FHとC3bとの相互作用を増加させる。いくつかの実施形態では、抗体またはそのフラグメントは、2μM以下の解離定数(K)のC3bに対するFHの結合親和性を増加させる。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、2μM以下、1.5μM以下、1μM以下、500nM以下、400nM以下、または300nM以下のKのC3bに対する結合親和性を増加させる。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、in vitroのC3bに対するFHの結合親和性を、少なくとも2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、または5倍増加させる(Kを低減させる)。
【0064】
いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、高い結合親和性を有し、in vitroのLPSにおけるC3沈着を低いIC50値で阻害する、及び/またはin vitroの溶血活性を低いIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、FHに対して2.5×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.1×10-9M以下のKの結合親和性を有し、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を38nM以下のIC50値で阻害する、及び/または10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を150nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FHに対して1.25×10-8M以下(例えば、10nM以下、5nM以下、または1nM以下)のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.04×10-9M以下のKの結合親和性を有し、in vitroのLPSにおけるC3沈着を30nM以下のIC50値で阻害し、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を115nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FHに対して1.25×10-8M以下(例えば、10nM以下、5nM以下、または1nM以下)のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.04×10-9M以下のKの結合親和性を有し、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を27nM以下のIC50値で阻害し、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を100nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FHに対して1.25×10-8M以下(例えば、10nM以下、5nM以下、または1nM以下)のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.04×10-9M以下のKの結合親和性を有し、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を25nM以下のIC50値で阻害し、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を80nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FHに対して1.25×10-8M以下(例えば、10nM以下、5nM以下、または1nM以下)のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.04×10-9M以下のKの結合親和性を有し、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を15nM~25nMのIC50値で阻害し、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を15nM~25nMのIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、結合親和性は、本明細書に記載されるように、SPRによって決定される。いくつかの実施形態では、in vitroのLPSにおけるC3沈着のIC50値は、本明細書上記のようにC3沈着アッセイにおいて決定される。いくつかの実施形態では、溶血活性のIC50値は、本明細書上記のように溶血活性アッセイにおいて決定される。
【0065】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、FH及び/またはCCP18を含むFHフラグメントに対して、抗体FH.07の結合親和性よりも高い結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、FH及び/またはCCP18~20を含むFHフラグメントに対して、抗体FH.07の結合親和性よりも高い結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、抗体FH.07のIC50値よりも低いIC50値を有する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、抗体FH.07よりも大きなLPSにおけるC3沈着の阻害を示す。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、抗体FH.07よりも大きな溶血活性の阻害を示す。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、FHのCCP18における同じエピトープへの結合を抗体FH.07と競合する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、高い貯蔵能力、特に抗体FH.07と比較して改善された貯蔵安定性を有する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、高い安定性、特に抗体FH.07と比較して改善された安定性を有する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、高い選択性、特に抗体FH.07と比較して増加した選択性を有する。
【0066】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、FH及び/またはCCP18を含むFHフラグメントに対して、抗体FHR-1.3B4の結合親和性よりも高い結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、FH及び/またはCCP18~20を含むFHフラグメントに対して、抗体FHR-1.3B4の結合親和性よりも高い結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、抗体FHR-1.3B4のIC50値よりも低いIC50値を有する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、LPSにおけるC3沈着を抗体FHR-1.3B4よりも良好に阻害する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、抗体FHR-1.3B4よりも大きな溶血活性の阻害を示す。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、FHのCCP18における同じエピトープへの結合を抗体FHR-1.3B4と競合する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、高い貯蔵能力、特に抗体FHR-1.3B4と比較して改善された貯蔵安定性を有する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、高い安定性、特に抗体FHR-1.3B4と比較して改善された安定性を有する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、高い選択性、特に抗体FHR-1.3B4と比較して増加した選択性を有する。
【0067】
いくつかの実施形態では、本開示によって提供される抗体またはそのフラグメントは、FH、特にFHのCCP18ドメインに対する結合を、抗FH.07抗体と競合する。
【0068】
表1に本開示の例示的な抗体を列挙する。CDR配列は、IMGTナンバリングシステム(Lefranc 1997、Lefranc 1999、及びLefranc et al.2003)に従ってナンバリングされている。LCは軽鎖であり、HCは重鎖であり、CDRは相補性決定領域であり、VHは重鎖可変領域であり、VLは軽鎖可変領域である。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0069】
いくつかの実施形態では、本開示は、H因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に特異的に結合する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、表1に開示されている抗体のVH及びVL配列の、Kabat(Kabat et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,NIH Publication No.91-3242,Bethesdaを参照のこと)、Chothia(例えば、Chothia C&Lesk A M,(1987),J.Mol.Biol.196:901-917を参照のこと)、MacCallum(MacCallum R M et al.,(1996)J.Mol.Biol.262:732-745を参照のこと)、または当該技術分野で公知の任意の他のCDR決定方法によって決定される、重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、ならびに軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む、抗体またはフラグメントを提供する。
【0070】
いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体は、抗体1である。表1は、抗体1の可変重鎖及び軽鎖配列ならびに個々のCDR配列の概略を提供する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、抗体1の重鎖CDR配列のうちの少なくとも1つ、2つ、または3つを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、抗体1の軽鎖CDR配列のうちの少なくとも1つ、2つ、または3つを含む。本明細書で使用する「抗体1」という用語は、例えば、単離及び/または精製された抗体あるいは組換え生成された抗体などの、表1に示される重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3領域を少なくとも含むすべての抗体及びフラグメントを包含する。いくつかの実施形態では、抗体1は、FHのCCP18における同じエピトープへの結合を抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4と競合する。
【0071】
いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体は、抗体2である。表1は、抗体2の可変重鎖及び軽鎖配列ならびに個々のCDR配列の概略を提供する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、抗体2の重鎖CDR配列のうちの少なくとも1つ、2つ、または3つを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、抗体2の軽鎖CDR配列のうちの少なくとも1つ、2つ、または3つを含む。本明細書で使用する「抗体2」という用語は、例えば、単離及び/または精製された抗体あるいは組換え生成された抗体などの、表1に示される重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3領域を少なくとも含むすべての抗体及びフラグメントを包含する。いくつかの実施形態では、抗体2は、FHのCCP18における同じエピトープへの結合を抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4と競合する。
【0072】
いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体は、抗体3である。表1は、抗体3の可変重鎖及び軽鎖配列ならびに個々のCDR配列の概略を提供する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、抗体3の重鎖CDR配列のうちの少なくとも1つ、2つ、または3つを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、抗体3の軽鎖CDR配列のうちの少なくとも1つ、2つ、または3つを含む。本明細書で使用する「抗体3」という用語は、例えば、単離及び/または精製された抗体あるいは組換え生成された抗体などの、表1に示される重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3領域を少なくとも含むすべての抗体及びフラグメントを包含する。いくつかの実施形態では、抗体3は、FHのCCP18における同じエピトープへの結合を抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4と競合する。
【0073】
いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体は、抗体4である。表1は、抗体4の可変重鎖及び軽鎖配列ならびに個々のCDR配列の概略を提供する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、抗体4の重鎖CDR配列のうちの少なくとも1つ、2つ、または3つを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、抗体4の軽鎖CDR配列のうちの少なくとも1つ、2つ、または3つを含む。本明細書で使用する「抗体4」という用語は、例えば、単離及び/または精製された抗体あるいは組換え生成された抗体などの、表1に示される重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3領域を少なくとも含むすべての抗体及びフラグメントを包含する。いくつかの実施形態では、抗体4は、FHのCCP18における同じエピトープへの結合を抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4と競合する。
【0074】
いくつかの実施形態では、本開示は、H因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に特異的に結合する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、
- 配列SSVTY(配列番号1)または配列TSVTY(配列番号13)を有する軽鎖CDR1配列、
- 配列ATS(配列番号2)または配列ASS(配列番号14)を有する軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1、
- 配列VWSGGTT(配列番号6)もしくはIWSGGTT(配列番号10)の配列を有する重鎖CDR2、及び/または
- 配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)もしくは配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を有する重鎖CDR3配列、及び/または
- 前述の任意の組み合わせ
を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0075】
特定の実施形態において、抗体またはフラグメントは、以下を含む:
- 配列SSVTY(配列番号1)を有する軽鎖CDR1配列、
- 配列ATS(配列番号2)を有する軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1配列、
- 配列VWSGGTT(配列番号6)を有する重鎖CDR2、及び
- 配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を有する重鎖CDR3配列。
【0076】
特定の実施形態において、抗体またはフラグメントは、以下を含む:
- 配列SSVTY(配列番号1)を有する軽鎖CDR1配列、
- 配列ATS(配列番号2)を有する軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1配列、
- 配列IWSGGTT(配列番号10)を有する重鎖CDR2、及び
- 配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を有する重鎖CDR3配列。
【0077】
特定の実施形態において、抗体またはフラグメントは、以下を含む:
- 配列TSVTY(配列番号13)を有する軽鎖CDR1配列、
- 配列ASS(配列番号14)を有する軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1配列、
- 配列VWSGGTT(配列番号6)を有する重鎖CDR2、及び
- 配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を有する重鎖CDR3配列。
【0078】
特定の実施形態において、抗体またはフラグメントは、以下を含む:
- 配列TSVTY(配列番号13)を有する軽鎖CDR1配列、
- 配列ASS(配列番号14)を有する軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1配列、
- 配列IWSGGTT(配列番号10)を有する重鎖CDR2、及び
- 配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を有する重鎖CDR3配列。
【0079】
いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FH活性、例えば代替補体活性化の阻害、例えば溶血活性の阻害、補体成分3(C3)沈着の阻害、及び/またはC3b、iC3b及び/またはC3dに対するFHの結合の増加を増強する。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/または軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくともFabフラグメントを含む。
【0080】
いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FHに対して2.5×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.1×10-9M以下のKの結合親和性を有する、例えば、FHに対して1.25×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.04×10-9M以下のKの結合親和性を有する抗体またはフラグメントである。
【0081】
さらなる実施形態において、本開示は、FHのCCP18に特異的に結合する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、配列SSVTY(配列番号1)を有する軽鎖CDR1配列、配列ATS(配列番号2)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3、配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1、配列VWSGGTT(配列番号6)を有する重鎖CDR2、及び配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を有する重鎖CDR3配列を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。一実施形態において、抗体またはフラグメントは、配列番号4の配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号8の配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。特定の実施形態において、抗体またはフラグメントは、配列番号4の配列を含む可変軽鎖配列及び配列番号8の配列を含む可変重鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FH活性、例えば代替補体活性化の阻害、例えば溶血活性の阻害、補体成分3(C3)沈着の阻害、及び/またはC3b、iC3b及び/またはC3dに対するFHの結合の増加を増強する。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/または軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくともFabフラグメントを含む。
【0082】
さらなる実施形態において、本開示は、FHのCCP18に特異的に結合する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、配列SSVTY(配列番号1)を有する軽鎖CDR1配列、配列ATS(配列番号2)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3、配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1、配列IWSGGTT(配列番号10)を有する重鎖CDR2、及び配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を有する重鎖CDR3配列を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。一実施形態において、抗体またはフラグメントは、配列番号4の配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列番号12の配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。特定の実施形態において、抗体またはフラグメントは、配列番号4の配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号12の配列を含む可変重鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FH活性、代替補体活性化の阻害、例えば溶血活性の阻害、補体成分3(C3)沈着の阻害、及び/またはC3b、iC3b及び/またはC3dに対するFHの結合の増加を増強する。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/または軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくともFabフラグメントを含む。
【0083】
さらなる実施形態において、本開示は、FHのCCP18に特異的に結合する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、配列TSVTY(配列番号13)を有する軽鎖CDR1配列、配列ASS(配列番号14)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3、配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1、配列VWSGGTT(配列番号6)を有する重鎖CDR2、及び配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を有する重鎖CDR3配列を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。一実施形態において、前記抗体またはフラグメントは、配列番号16の配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列番号8の配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。特定の実施形態において、抗体またはフラグメントは、配列番号16の配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号8の配列を含む可変重鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FH活性、例えば代替補体活性化の阻害、例えば溶血活性の阻害、補体成分3(C3)沈着の阻害、及び/またはC3b、iC3b及び/またはC3dに対するFHの結合の増加を増強する。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/または軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくともFabフラグメントを含む。
【0084】
さらなる実施形態において、本開示は、FHのCCP18に特異的に結合する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、配列TSVTY(配列番号13)を有する軽鎖CDR1配列、配列ASS(配列番号14)を有する軽鎖CDR2配列、及び配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3、配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1、配列IWSGGTT(配列番号10)を有する重鎖CDR2、及び配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を有する重鎖CDR3配列を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。一実施形態において、抗体またはフラグメントは、配列番号16の配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、配列番号12の配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列を含む。特定の実施形態において、抗体またはフラグメントは、配列番号16の配列を含む可変軽鎖配列、及び配列番号12の配列を含む可変重鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FH活性、例えば代替補体活性化の阻害、例えば溶血活性の阻害、補体成分3(C3)沈着の阻害、及び/またはC3b、iC3b及び/またはC3dに対するFHの結合の増加を増強する。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくとも重鎖可変ドメイン(VH)及び/または軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。いくつかの実施形態では、フラグメントは、少なくともFabフラグメントを含む。
【0085】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントは、FHに対して2.5×10-8M以下のKの結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.1×10-9M以下のKの結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FHに対して22.5nM以下、20nM以下、17.5nM以下、15nM以下、12.5nM以下、10nM以下、9nM以下、8nM以下、7nM以下、6nM以下、5nM以下、4nM以下、3nM以下、2nM以下、1nM以下、0.9nM以下、0.8nM以下、0.7nM以下、もしくは0.6nM以下のKの結合親和性、及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.09×10-9M以下、0.08×10-9M以下、0.07×10-9M以下、0.06×10-9M以下、0.05×10-9M以下、0.04×10-9M以下、0.03×10-9M以下、0.02×10-9M以下、1×10-11M以下、0.9×10-11M以下、0.8×10-11M以下、0.7×10-11M以下、もしくは0.6×10-11M以下のKの結合親和性を有する。
【0086】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を、38nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を、35nM以下、32nM以下、30nM以下、28nM以下、25nM以下、23nM以下、20nM以下、18nM以下、15nM以下または10nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroのLPSにおけるC3沈着を、15nM~30nMのIC50値で阻害する。
【0087】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を、150nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を、105nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を、150nM以下、130nM以下、115nM以下、105nM以下、100nM以下、95nM以下、75nM以下、70nM以下、65nM以下、または60nM以下のIC50値で阻害する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、10%(v/v)の正常ヒト血清の存在下でin vitroの溶血活性を、60nM~80nMのIC50値で阻害する。
【0088】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントは、in vitroのC3bに対するFHの結合親和性(K)を2μM以下、1.5μM以下、1μM以下、500nM以下、400nM以下、もしくは300nM以下まで増加させる、及び/またはin vitroのC3bに対するFHの結合親和性を少なくとも2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、もしくは5倍増加させる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントは、in vitroのC3bに対するFHの結合親和性(K)を50~500nMまで増加させる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントは、in vitroのC3bに対するFHの結合親和性(K)を50~300nMまで増加させる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントは、in vitroのC3bに対するFHの結合親和性(K)を100~300nMまで増加させる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントは、in vitroのC3bに対するFHの結合親和性(K)を250~300nMまで増加させる。
【0089】
場合により、本明細書で開示されるCDRのいずれか1つ以上のうちの少なくとも1つの配列が最適化され、それにより、例えば、結合親和性、選択性、FH増強能力、及び/またはin vivo安定性もしくは貯蔵安定性を(さらに)改善するような、バリアント抗体またはフラグメントが生成される。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、高い貯蔵安定性、特に抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4と比較して改善された貯蔵安定性を有する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、高いin vivo安定性、特に抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4と比較して改善されたin vivo安定性を有する。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、高い選択性、特に抗体FH.07または抗体FHR-1.3B4と比較して増加した選択性を有する。
【0090】
さらに、場合により、本開示の抗体またはフラグメントのフレームワーク領域のうちの少なくとも1つにおける少なくとも1つの配列が、例えば、抗体もしくはフラグメントの結合有効性もしくは安定性を改善するために、または非ヒト配列のヒトへの投与後のその副作用を低減させるために、最適化される。これは例えば、変異誘発手順によって行われる。当業者には、少なくとも1つの変化したCDRまたはフレームワーク配列を含む抗体バリアントを生成することが可能である。CDR及び/またはフレームワーク配列は、例えば、そのようなフレームワーク配列をコードする核酸を変異させることによって最適化される。例えば、保存的アミノ酸置換が適用される。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるCDR、フレームワーク、可変重鎖、可変軽鎖配列のいずれかは、本明細書で開示されるアミノ酸配列のいずれか1つ以上と比較して、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個のアミノ酸置換、欠失、または挿入(例えば、保存的置換)を含む。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるCDR、フレームワーク、可変重鎖、可変軽鎖配列のいずれかは、本明細書で開示されるアミノ酸配列のいずれか1つ以上と比較して、少なくとも1、2、3、4、または5個のアミノ酸置換、欠失、または挿入(例えば、保存的置換)を含む。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるCDR、フレームワーク、可変重鎖、可変軽鎖配列のいずれかは、本明細書で開示されるアミノ酸配列のいずれか1つ以上と比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個以下のアミノ酸置換、欠失、または挿入(例えば、保存的置換)を含む。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるCDR、フレームワーク、可変重鎖、可変軽鎖配列のいずれかは、本明細書で開示されるアミノ酸配列のいずれか1つ以上と比較して、1、2、3、4、または5個以下のアミノ酸置換、欠失、または挿入(例えば、保存的置換)を含む。保存的アミノ酸置換の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンなどの1つの疎水性残基の別の疎水性残基への置換、及び1つの極性残基の別の極性残基への置換、例えばアルギニンのリジンへの置換、グルタミン酸のアスパラギン酸への置換、またはグルタミンのアスパラギンへの置換が挙げられる。
【0091】
改善された抗体またはフラグメントを選択するために、例えば本明細書に記載される試験を使用して、得られたバリアント抗体またはフラグメントの結合親和性、FH増強能力、及び/または安定性を試験してもよい。FH、特にFHのCCP18に対して特異的な抗体またはフラグメントが得られたら、その所望の生物学的活性、すなわちFHの活性を増強するその能力を、当業者に知られるいくつかの方法によって試験することができる。本明細書で前述したように、FHの活性の増強は、溶血活性の阻害、細胞におけるC3沈着の阻害、及び/またはC3bに対するFHの結合の増加を含みうる。これらの活性を試験するための機能的アッセイは、本明細書で前述してあり、実施例に詳述する。通常、CDR配列の最大3つのアミノ酸残基が、CDRを構成するアミノ酸の数に応じて、同じ特異性を維持しながら変化する可能性がある。よって、いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、各CDRの最大で3、最大で2、または最大で1個のアミノ酸が表1の重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3配列と比較して変化している、重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3配列を含有しうる。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、表1に示すものと同じ抗体の軽鎖CDR3及び重鎖CDR3、最大で1個のアミノ酸が変化している抗体の軽鎖CDR2、ならびに最大で3個のアミノ酸が変化している軽鎖CDR1、重鎖CDR1及び重鎖CDR2を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、表1に示すものと同じ抗体の軽鎖CDR2及びCDR3ならびに重鎖CDR3、ならびに最大で2個のアミノ酸または最大で1個のアミノ酸が変化している軽鎖CDR1、重鎖CDR1及び重鎖CDR2を含む。
【0092】
したがって本開示はさらに、H因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に特異的に結合する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはそのフラグメントであって、
- 配列SSVTY(配列番号1)と少なくとも60%もしくは少なくとも80%同一の配列を有する軽鎖CDR1配列、配列ATS(配列番号2)と少なくとも60%同一の配列を有する軽鎖CDR2配列、及び配列QHRSSSNPLT(配列番号3)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する軽鎖CDR3、配列GFSLTNYG(配列番号5)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR1、配列VWSGGTT(配列番号6)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR2、及び配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR3配列、
- 配列SSVTY(配列番号1)と少なくとも60%もしくは少なくとも80%同一の配列を有する軽鎖CDR1配列、配列ATS(配列番号2)と少なくとも60%同一の配列を有する軽鎖CDR2配列、及び配列QHRSSSNPLT(配列番号3)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する軽鎖CDR3、配列GFSLTNYG(配列番号5)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR1、配列IWSGGTT(配列番号10)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR2、及び配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR3配列、
- 配列TSVTY(配列番号13)と少なくとも60%もしくは少なくとも80%同一の配列を有する軽鎖CDR1配列、ASS(配列番号14)と少なくとも60%同一の配列を有する軽鎖CDR2配列、及び配列QHRSSSNPLT(配列番号3)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する軽鎖CDR3、配列GFSLTNYG(配列番号5)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR1、配列VWSGGTT(配列番号6)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR2、及び配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR3配列、
- 配列TSVTY(配列番号13)と少なくとも60%もしくは少なくとも80%同一の配列を有する軽鎖CDR1配列、ASS(配列番号14)と少なくとも60%同一の配列を有する軽鎖CDR2配列、及びQHRSSSNPLT(配列番号3)の配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する軽鎖CDR3、配列GFSLTNYG(配列番号5)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR1、配列IWSGGTT(配列番号10)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR2、及び配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%同一の配列を有する重鎖CDR3配列
を含む、抗体またはそのフラグメントを提供する。
【0093】
いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、FH活性を増強する。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、示される配列と少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一の、重鎖CDR1、CDR2及び/またはCDR3配列、及び/または軽鎖CDR1、CDR2及び/またはCDR3配列を含む。
【0094】
本開示はさらに、H因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に特異的に結合する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはそのフラグメントであって、
- 1個のアミノ酸置換を場合により有する配列SSVTY(配列番号1)を有する軽鎖CDR1配列、配列ATS(配列番号2)を有する軽鎖CDR2配列、及び1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3、1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1、1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列VWSGGTT(配列番号6)を有する重鎖CDR2、及び1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する重鎖CDR3配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)、
- 1個のアミノ酸置換を場合により有する配列SSVTY(配列番号1)を有する軽鎖CDR1配列、配列ATS(配列番号2)を有する軽鎖CDR2配列、及び1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3、1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1、1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列IWSGGTT(配列番号10)を有する重鎖CDR2、及び1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する重鎖CDR3配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)、
- 1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列TSVTY(配列番号13)を有する軽鎖CDR1配列、軽鎖CDR2配列ASS(配列番号14)、及び1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3、1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1、1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列VWSGGTT(配列番号6)を有する重鎖CDR2、及び1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する重鎖CDR3 ARNFGNYAMDY(配列番号7)、または
- 1個のアミノ酸置換を場合により有する配列TSVTY(配列番号13)を有する軽鎖CDR1配列、配列ASS(配列番号14)を有する軽鎖CDR2配列、及び1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を有する軽鎖CDR3、1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列GFSLTNYG(配列番号5)を有する重鎖CDR1、1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列IWSGGTT(配列番号10)を有する重鎖CDR2、及び1もしくは2個のアミノ酸置換を場合により有する配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を有する重鎖CDR3配列
を含む、抗体またはそのフラグメントを提供する。
【0095】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、本明細書で開示される重鎖または軽鎖配列のいずれかに由来する少なくとも1つ以上のCDR(複数可)を含む。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、配列番号4、8、12、または16の可変重鎖または可変軽鎖配列のいずれかに由来する少なくとも1つ以上のCDR(複数可)を含む。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、本明細書で開示される重鎖または軽鎖配列のいずれかに由来する少なくとも1つ以上のCDRを含み、CDRは、Kabatシステムを使用してナンバリングされる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、本明細書で開示される重鎖または軽鎖配列のいずれかに由来する少なくとも1つ以上のCDRを含み、CDRは、Chothiaシステムを使用してナンバリングされる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、本明細書で開示される重鎖または軽鎖配列のいずれかに由来する少なくとも1つ以上のCDRを含み、CDRは、MacCallumシステムを使用してナンバリングされる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、本明細書で開示される重鎖または軽鎖配列のいずれかに由来する少なくとも1つ以上のCDRを含み、CDRは、AbMシステムを使用してナンバリングされる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントは、本明細書で開示される重鎖または軽鎖配列のいずれかに由来する少なくとも1つ以上のCDRを含み、CDRは、IMGTシステムを使用してナンバリングされる。
【0096】
Kabatによって記述されたシステムは、「Kabatに従ってナンバリングされる」、「Kabatナンバリング」、「Kabat定義」、及び「Kabatラベリング」ともいい、抗体のいかなる可変ドメインにも適用可能な明確な残基ナンバリングシステムを提供し、各鎖の3つのCDRを定義する正確な残基境界を提供する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987)and(1991)。この内容は参照により全体として本明細書に組み込まれる)。これらのCDRはKabat CDRと呼ばれ、軽鎖可変ドメインの残基24~34あたり(CDR1)、50~56あたり(CDR2)、及び89~97あたり(CDR3)、ならびに重鎖可変ドメインの31~35あたり(CDR1)、50~65あたり(CDR2)、及び95~102あたり(CDR3)を含む。CDRがKabatに従って定義される場合、軽鎖FR残基は、残基1~23あたり(LCFR1)、35~49あたり(LCFR2)、57~88あたり(LCFR3)、及び98~107あたり(LCFR4)に位置付けられ、重鎖FR残基は、重鎖残基の残基1~30あたり(HCFR1)、36~49あたり(HCFR2)、66~94あたり(HCFR3)、及び103~113あたり(HCFR4)に位置付けられる。「KabatにあるようなEUインデックス」とは、ヒトIgG1 EU抗体の残基ナンバリングを指す。
【0097】
他のCDRナンバリングシステムも当該技術分野では使用されている。Chothiaらは、Kabat CDRの特定の小部分が、アミノ酸配列のレベルでは大きな多様性を有するにもかかわらず、ほぼ同一のペプチド骨格の立体構造を採ることを見出した。(Chothia et al.(1987)J.Mol.Biol.196:901-917、及びChothia et al.(1989)Nature 342:877-883)。これらの小部分はL1、L2、及びL3、またはH1、H2、及びH3と称され、「L」及び「H」はそれぞれ軽鎖領域及び重鎖領域を表す。これらのCDRは「Chothia CDR」、「Chothiaナンバリング」、または「Chothiaに従ってナンバリングされる」といわれることがあり、軽鎖可変ドメインの残基24~34あたり(CDR1)、50~56あたり(CDR2)、及び89~97あたり(CDR3)、ならびに重鎖可変ドメインの26~32あたり(CDR1)、52~56あたり(CDR2)、及び95~102あたり(CDR3)を含む。Mol.Biol.196:901-917(1987)。
【0098】
MacCallumによって記述されたシステムは、「MacCallumに従ってナンバリングされる」、または「MacCallumナンバリング」ともいい、軽鎖可変ドメインの残基30~36あたり(CDR1)、46~55あたり(CDR2)、及び89~96あたり(CDR3)、ならびに重鎖可変ドメインの30~35あたり(CDR1)、47~58あたり(CDR2)、及び93~101あたり(CDR3)を含む。MacCallum et al.((1996)J.Mol.Biol.262(5):732-745)。
【0099】
AbMによって記述されたシステムは、「AbMに従うナンバリング」、または「AbMナンバリング」ともいい、軽鎖可変ドメインの残基24~34あたり(CDR1)、50~56あたり(CDR2)、及び89~97あたり(CDR3)、ならびに重鎖可変ドメインの26~35あたり(CDR1)、50~58あたり(CDR2)、及び95~102あたり(CDR3)を含む。
【0100】
IMGT(INTERNATIONAL IMMUNOGENETICS INFORMATION SYSTEM)による可変領域のナンバリングを使用することもでき、これは、Lefranc,M.-P.,“The IMGT unique numbering for immunoglobulins,T cell Receptors and Ig-like domains”,The Immunologist,7,132-136(1999)に記載され、参照により全体として本明細書に明示的に組み込まれる、IIMGTの方法に従った免疫グロブリン可変重鎖または軽鎖の残基のナンバリングである。本明細書で使用する場合、「IMGT配列ナンバリング」または「IMTGに従うナンバリング」とは、IMGTに従う、可変領域をコードする配列のナンバリングを指す。重鎖可変ドメインの場合、IMGTに従ってナンバリングすると、超可変領域の範囲は、CDR1でアミノ酸27~38位、CDR2でアミノ酸56~65位、及びCDR3でアミノ酸105~117位になる。軽鎖可変ドメインの場合、IMGTに従ってナンバリングすると、超可変領域の範囲は、CDR1でアミノ酸27~38位、CDR2でアミノ酸56~65位、及びCDR3でアミノ酸105~117位になる。本明細書に記載されるコンストラクト及び抗原結合アームのいくつかの実施形態において、本明細書に記載されるCDRは、Chothiaナンバリングに従ってナンバリングした場合、軽鎖可変ドメインの残基24~34あたり(CDR1)、49~56あたり(CDR2)、及び89~97あたり(CDR3)、ならびに重鎖可変ドメインの27~35あたり(CDR1)、49~60あたり(CDR2)、及び93~102あたり(CDR3)を含む。いくつかの実施形態では、軽鎖可変ドメインのCDR2は、Chothiaナンバリングに従ってナンバリングした場合、アミノ酸49~56を含みうる。
【0101】
本開示に係る抗体またはそのフラグメントは、いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体またはフラグメントである。モノクローナル抗体は、単一の分子種から実質的になる抗体である。モノクローナル抗体は、自然に、例えば生成中に生じた1つ以上の変異を有する、可能性のあるバリアント抗体またはフラグメントを例外として、同じ配列を有し、同じエピトープに結合する、均一な抗体の集団から得られる。モノクローナル抗体は、有利なことに、抗血清中に存在するポリクローナル抗体の量よりも大幅に高い量の抗体を得ることができるように、組換えにより生成されうる。しかしながら、ポリクローナル抗体及びフラグメントも本開示に包含される。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、キメラ抗体またはヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、したがって、少なくともヒト軽鎖及び重鎖定常領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントはまた、重鎖及び軽鎖可変領域内のヒトフレームワーク領域を含む。いくつかの実施形態では、完全にヒト配列からなるヒト抗体またはフラグメントが提供される。ヒト疾患の治療のための非ヒト抗体またはフラグメントの使用はいくつかの要因によって妨げられるので、いくつかの実施形態では、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体の使用は、非ヒト抗体の使用よりも望ましい。人体は非ヒト抗体を異物として認識することがあり、その結果、非ヒト抗体またはフラグメントに対する免疫応答が生じ、有害な副作用及び/または循環からの抗体もしくはフラグメントの急速なクリアランスがもたらされる。キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体をヒトに投与した場合、副作用の可能性は低減する。さらに、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体を使用すると、非ヒト抗体と比較してクリアランスが低減するため、一般により長い循環半減期が達成される。いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントのフレームワーク領域にヒト生殖系列配列が使用される。ヒト生殖系列配列の使用により、抗体またはフラグメントの免疫原性のリスクが最小限に抑えられる。なぜなら、これらの配列には、フレームワーク領域が由来する個体に固有であり、別のヒト個体に適用すると免疫原性応答を引き起こしうる体細胞変異が含まれる可能性が低いからである。
【0102】
抗体のヒト化またはキメラ抗体を提供するための手段は、当該技術分野で周知である。親の非ヒト抗体の特異性及び親和性を維持しながら、ヒト抗体の同じまたは同様の位置で発生する抗体中のアミノ酸残基の含有量を増加させることを目的とした、様々な組換え型DNAベースのアプローチが確立されている。例えば、マウス抗体の可変領域のフレームワーク領域は、非ヒトCDRを無傷のままにして、最高度の相同性を有する対応するヒトフレームワーク領域によって置換される。本開示に係る抗体をヒト化するのに好適なさらなる方法は、CDRグラフティング(Queen,C et.al.1989、Carter,P et al.1992)、リサーフェシング(Padlan,EA,et.al.1991)、超ヒト化(superhumanization)(Tan,PDA,et.al.2002)、ヒトストリング内容最適化(human string content optimization)(Lazar,G.A.et.al.2007)、及びヒューマニアリング(humaneering)(Almagro,JC,et.al.2008)を含むがこれに限定されない。
【0103】
一実施形態において、本開示に係る抗体またはフラグメントは、二重特異性抗体などの多特異性抗体である。多特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原及び/またはエピトープに対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。一実施形態において、二重特異性抗体は、FHに対する結合特異性を有し、例えば、本明細書に記載されるようにFHのCCP18に特異的に結合する1つの可変軽鎖及び1つの可変重鎖を含み、かつ別の抗原に対する結合特異性を有する。別の実施形態において、二重特異性抗体は、FHの2つの異なるエピトープに結合しうる。
【0104】
本開示に係る抗体またはフラグメントは、任意のクラスのものでありうる。抗体の「クラス」とは、その重鎖が有する定常ドメインまたは定常領域の種類を指す。抗体には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMが存在し、これらのうちのいくつかは、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4などのサブクラスまたはアイソタイプにさらに分類されうる。ある特定の実施形態において、本開示に係る抗体は、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)の定常領域(例えば、Fcドメイン)を含む。ある特定の実施形態において、本開示に係る抗体は、ヒトIgG(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)の定常領域(例えば、Fcドメイン)を含む。Fcドメインは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導する能力を含め、抗体のエフェクター機能を媒介する。ある特定の実施形態において、本明細書で開示される抗体は、Fcのエフェクター機能を低減させる1つ以上の変異を有するFcドメインを含む。いくつかの実施形態では、本明細書で開示される抗体は、234、235、236、237、270、297、318、320、322、329、及び331から選択される1つ以上の位置に変異(例えば、野生型ヒトIgG1に対する置換)を含むFcドメインを含む。そのような変異は当該技術分野で公知であり、限定するものではないが、L234A、L235A、G237A、P329AまたはP329G、A330S、P331S、N297Q、N297A、及びそれらの組み合わせを含む。Fcドメインはまた、新生児Fc受容体FcRnに結合し、それによって抗体のリサイクルを促進し、それによって抗体の半減期を延長する。ある特定の実施形態において、本明細書で開示される抗体は、FcRnに対するFcの結合親和性を増加させる1つ以上の変異を有するFcドメインを含む。そのような変異は当該技術分野で公知であり、限定するものではないが、M252Y/T256D、T256D/T307Q、及びT256D/T307Wを含む。
【0105】
ある特定の実施形態において、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはフラグメントは、ネイティブな抗体またはフラグメントに天然に存在するものに加えて、翻訳後修飾をさらに含みうる。そのような修飾は、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化、PEG化(ポリエチレングリコール)、及びアシル化を含むがこれに限定されない。結果として、修飾されたポリペプチドは、ポリエチレングリコール、脂質、単糖または多糖、及びホスフェートなどの非アミノ酸要素を含み得る。特定の実施形態において、抗体またはフラグメントは、PEG化されている。さらなる特定の実施形態では、抗体またはフラグメントは、PEG化されたFab分子である。
【0106】
本開示に係るFHなどの特定の抗原に対して特異的な抗体は、当該技術分野で公知の様々な方法によって調製することができる。例えば、抗体を誘発するための免疫原としてヒトFHを使用することができる。別の例として、FH関連タンパク質のヒトFHのCCP18ドメインを免疫原として使用することができる。そのような方法の一例は、実施例に記載するような免疫化及びハイブリドーマ生成によるものである。FHに対するマウスモノクローナル抗体は、例えば、場合によりモンタニドなどのアジュバントの存在下で、例えば4週間間隔でのヒトH因子またはFHR-1などのFH関連タンパク質の腹腔内投与により、マウス(例えばBALB/cマウス)を免疫化することによって生成することができる。4回目の免疫化から数日後、脾臓細胞を、例えば骨髄腫細胞株SP2/0と融合させることができる。ハイブリドーマの上清中のH因子特異的抗体の存在はELISAによって試験することができる。例えば、マイクロタイタープレートをmoAb(例えばラット抗マウスカッパmoAb RM19)でコーティングして、マウスIgG抗体を捕捉することができる。抗体の特異性はビオチン化H因子によって決定されうる。FH特異的抗体をもたらす方法の別の例は、免疫グロブリン鎖をコードする組換え型核酸配列を発現するファージディスプレイライブラリをスクリーニングすることによる。抗体ファージディスプレイの方法は、当該技術分野で使用されており、広く報告されている。抗体のライブラリのスクリーニングは、免疫化に使用されるものと同じ抗原、例えばヒトFH、FH関連タンパク質、またはヒトFHのCCP18ドメインを用いて行うことができる。
【0107】
C. 核酸及びベクター
本開示はさらに、本明細書で開示されるいずれかの抗体またはそのフラグメントをコードする核酸配列を含む1つ以上の単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸を提供する。いくつかの実施形態では、核酸は、表1に示される抗体1の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、及び/または軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を少なくともコードする。いくつかの実施形態では、核酸は、表1に示される抗体2の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、及び/または軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を少なくともコードする。いくつかの実施形態では、核酸は、表1に示される抗体抗体3の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、及び/または軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を少なくともコードする。いくつかの実施形態では、核酸は、表1に示される抗体4の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、及び/または軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を少なくともコードする。
【0108】
いくつかの実施形態では、本開示に係る核酸は、少なくとも30ヌクレオチド、少なくとも50ヌクレオチド、または少なくとも75ヌクレオチドの長さを有する。いくつかの実施形態では、本開示に係る核酸は、抗体1の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列及び/または重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むキメラ型もしくはヒト化型のモノクローナル抗体またはそのフラグメントをコードする。いくつかの実施形態では、本開示に係る核酸は、抗体2の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列及び/または重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むキメラ型もしくはヒト化型のモノクローナル抗体またはそのフラグメントをコードする。いくつかの実施形態では、本開示に係る核酸は、抗体3の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列及び/または重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むキメラ型もしくはヒト化型のモノクローナル抗体またはそのフラグメントをコードする。いくつかの実施形態では、本開示に係る核酸は、抗体4の重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列及び/または重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むキメラ型もしくはヒト化型のモノクローナル抗体またはそのフラグメントをコードする。
【0109】
抗体5~7の重鎖及び軽鎖をコードする核酸配列を表1に示す。しかしながら、表1に示される核酸配列とは異なるが、表1に示される重鎖、軽鎖、重鎖CDR、または軽鎖CDR配列のアミノ酸配列をコードする核酸コドンを含む核酸配列を含む、本開示に係る抗体の重鎖または軽鎖CDRをコードする核酸もまた、本開示に包含される。
【0110】
したがって、配列番号1、2、3、5、6及び7、またはそれらの任意の組み合わせもしくはフラグメントの配列のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸が提供される。さらに、配列番号1、2、3、5、10、及び11、またはそれらの任意の組み合わせもしくはフラグメントの配列のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸が提供される。さらに、配列番号3、5、6、7、13、及び14、またはそれらの任意の組み合わせもしくはフラグメントの配列のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸が提供される。さらに、配列番号3、5、10、11、13、及び14、またはそれらの任意の組み合わせもしくはフラグメントの配列のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸が提供される。
【0111】
さらに、配列番号4及び8、またはそれらの任意の組み合わせもしくはフラグメントの配列のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸が提供される。さらに、配列番号4及び12、またはそれらの任意の組み合わせもしくはフラグメントの配列のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸が提供される。さらに、配列番号8及び16、またはそれらの任意の組み合わせもしくはフラグメントの配列のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸が提供される。さらに、配列番号12及び16、またはそれらの任意の組み合わせもしくはフラグメントの配列のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸が提供される。重鎖及び/または軽鎖CDRをコードする核酸、または例えば保存的アミノ酸置換によって修飾された抗体もまた、本開示に包含される。
【0112】
いくつかの実施形態では、本開示に係る核酸または核酸配列は、ヌクレオチドの鎖(すなわち、DNA及び/またはRNA)を含む。しかしながら、本開示の核酸または核酸配列は、例えば、DNA/RNAヘリックス、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)及び/またはリボザイムのような他の種類の核酸構造を含んでもよい。そのような他の核酸構造は、核酸配列の機能的均等物と呼ばれ、本開示に包含される。「核酸配列の機能的均等物」という用語には、天然ヌクレオチドと同じ機能を呈する非天然ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド及び/または非ヌクレオチド構成要素を含む鎖も包含される。
【0113】
本開示はさらに、本開示に係る1つ以上の核酸を含むベクターを提供する。いくつかの実施形態では、ベクターはプラスミドである。プラスミドは、本明細書では環状と定義される。いくつかの実施形態では、プラスミドは二本鎖のDNA分子である。本開示に係る核酸を含むベクターを調製する方法は、当該技術分野で周知である。本開示のベクターを生成するのに好適なベクターの非限定的な例は、レトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクターである。本開示に係るベクターは、様々な用途に使用することができる。本開示に係るベクターは、いくつかの実施形態では、例えば本開示に係る抗体またはフラグメントの生成のために、細胞における本開示に係る核酸のin vitro発現のために使用される。さらに、本開示に係る核酸を含む本開示に係るベクターは、治療のために使用することができる。そのようなベクターを、それを必要とするヒトなどの個体に投与すると、本開示に係る抗体またはフラグメントがin vivoで発現される。
【0114】
いくつかの実施形態では、本開示は、本明細書で開示されるいずれかの抗体もしくはフラグメントをコードするベクターを提供する。いくつかの実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ベクターは、AAVベクターである。本開示の組換え型AAV(rAAV)ベクターは、様々なアデノ随伴ウイルスから生成されうる。例えば、いずれのAAV血清型のITRも、複製、組込み、切除、及び転写メカニズムに関して同様の構造及び機能を有すると予想される。AAV血清型の例には、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、及びAAV12が含まれる。いくつかの実施形態では、rAAVベクターは、血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、またはAAV8から生成される。これらの血清型は、光受容細胞または網膜色素上皮をターゲティングすることが知られている。特定の実施形態において、rAAVベクターは、血清型AAV2から生成される。ある特定の実施形態において、AAV血清型は、AAVrh8、AAVrh8RまたはAAVrh10を含む。rAAVベクターが血清型AAV1~AAV12から選択される2つ以上の血清型のキメラでありうることも理解されよう。ベクターの向性は、1つの血清型の組換え型ゲノムを別のAAV血清型に由来するカプシドにパッケージングすることによって変化させることができる。いくつかの実施形態では、rAAVウイルスのITRは、AAV1~12のうちのいずれか1つのITRに基づくことができ、AAV1~12、AAV-DJ、AAV-DJ8、AAV-DJ9、または他の改変された血清型のうちのいずれか1つから選択されるAAVカプシドと組み合わせてもよい。ある特定の実施形態において、任意のAAVカプシド血清型が本開示のベクターと共に使用されうる。AAV血清型の例には、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV-DJ、AAV-DJ8、AAV-DJ9、AAVrh8、AAVrh8R、またはAAVrh10が含まれる。ある特定の実施形態において、AAVカプシド血清型はAAV2である。
【0115】
さらに、本開示に係る核酸またはベクターを含む組換え型細胞が提供される。いくつかの実施形態では、細胞の核酸翻訳機構が、コードされる抗体またはフラグメントを生成するように、核酸またはベクターが細胞に導入される。いくつかの実施形態では、本開示に係る核酸またはベクターは、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、NSO(マウス骨髄腫)、または293(T)細胞株の細胞などのいわゆるプロデューサー細胞で発現され、これらの細胞のうちのいくつかは、商業的な抗体生産に適応している。そのようなプロデューサー細胞の増殖は、本開示に係る抗体またはフラグメントを生成することが可能なプロデューサー細胞株をもたらす。いくつかの実施形態では、プロデューサー細胞株は、ヒトで使用するための抗体を生成するのに好適である。いくつかの実施形態では、プロデューサー細胞株は、病原性微生物などの病原因子を含まない。
【0116】
本開示はさらに、本開示に係る抗体またはフラグメントを生成する方法であって、本開示に係る核酸またはベクターを細胞に供給することと、核酸またはベクターに含まれる核酸配列を細胞に翻訳させることにより、本開示に係る抗体またはフラグメントを生成することとを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、本開示に係る方法は、抗体またはフラグメントを採取、精製、及び/または単離することをさらに含む。本開示に係る抗体またはフラグメントを生成する方法を用いて得られる抗体またはフラグメントも提供される。
【0117】
D. 医薬組成物
いくつかの実施形態では、本開示に係る抗体またはフラグメントは、治療的用途で有利に使用することができる。したがって、本開示に係る抗体またはフラグメント、ならびに薬学的に許容されるキャリア、希釈剤、及び/または賦形剤を含む、医薬組成物が提供される。また、本開示に係る核酸またはベクター(例えばAAVベクター)、ならびに少なくとも1つの薬学的に許容されるキャリア、希釈剤、及び/または賦形剤を含む、医薬組成物も提供される。好適なキャリアの非限定的な例は、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン(例えばBSAまたはRSA)、及び卵白アルブミンである。いくつかの実施形態では、キャリアは、水溶液、例えば食塩水、または油性溶液などの溶液である。錠剤、カプセルなどに組み込むことができる賦形剤の非限定的な例は、トラガカントガム、アカシア、トウモロコシデンプン、またはゼラチンなどの結合剤、微結晶性セルロースなどの賦形剤、トウモロコシデンプン、アルファ化デンプン、及びアルギン酸などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、スクロース、ラクトース、またはサッカリンなどの甘味剤、ならびにペパーミント、ウィンターグリーンまたはチェリーの油などの香味剤である。いくつかの実施形態では、単位剤形はカプセルである。いくつかの実施形態では、単位剤形は、上記の賦形剤のうちの1つ以上に加えて、脂肪油などの液体キャリアを含有する。コーティングとして、または投与単位の物理的形態を変更するために、他の様々な材料が存在してもよい。例えば、錠剤はシェラック及び/または糖、あるいはその両方でコーティングされうる。いくつかの実施形態では、本開示に係る医薬組成物は、ヒトでの使用に好適である。
【0118】
本明細書に記載される医薬組成物は、様々な異なる方法で投与することができる。例としては、本開示に係る抗体を含み、薬学的に許容されるキャリアを含有する医薬組成物を、眼内、硝子体内、網膜下、経口、鼻腔内、直腸、局所、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、真皮下、経皮、髄腔内、及び頭蓋内の方法によって投与することが挙げられる。特定の実施形態において、本明細書で開示される抗体、フラグメント、ベクター、または医薬組成物のいずれも、対象に硝子体内投与されうる。特定の実施形態において、本明細書で開示される抗体、フラグメント、ベクター、または医薬組成物のいずれも、対象に網膜下投与されうる。経口投与の場合、有効成分は、カプセル、錠剤、及び粉末などの固体剤形、またはエリキシル剤、シロップ、及び懸濁液などの液体剤形で投与することができる。注射用無菌組成物は、従来の薬学的慣行に従って、本開示の抗体またはフラグメントを、水、もしくはゴマ油、ココナッツ油、ピーナッツ油、綿実油などの天然油のような注射用ビヒクル、またはオレイン酸エチルのような合成脂肪ビヒクルに溶解または懸濁させることによって製剤することができる。バッファー、防腐剤、及び/または抗酸化剤を組み込んでもよい。
【0119】
E. 治療的/予防的用途
本開示はさらに、療法において使用するための、本開示に係る抗体またはフラグメントを提供する。さらに、療法において使用するための、本開示に係る核酸が提供される。療法は、治療的または予防的でありうる。本開示に係る抗体またはフラグメントは、代替経路補体活性化に関連する障害の治療、緩和、または防止に特に好適である。したがって、代替経路補体活性化に関連する障害の治療、緩和、または防止において使用するための、本開示に係る抗体またはフラグメントが提供される。また、代替経路補体活性化に関連する障害の治療、緩和、または防止において使用するための、本開示に係る核酸が提供される。本明細書で使用する場合、「代替補体活性化に関連する障害」は、本明細書では、不必要な及び/または過剰な代替経路補体活性化が細胞、組織、または細胞外マトリックスの損傷をもたらす障害と定義される。不必要な及び/または過剰な代替経路活性化によって損傷しうる細胞は、血液と接触しているあらゆる細胞、例えば、赤血球、上皮細胞、特に肝臓及び/または腎臓の上皮細胞、血小板、白血球、内皮細胞である。いくつかの実施形態では、障害は、FH機能障害またはFH欠損に関連する障害である。いくつかの実施形態では、障害は、FH機能障害またはFH欠損に関連するが、FHの非存在には関連しない障害である。本開示の抗体及びフラグメントはFHの機能を増強するので、抗体及びフラグメントは、FH機能障害またはFH欠損の影響を遮断または低減させるのに特に好適である。しかしながら、本開示の増強性抗FH抗体は、FHが人為的に遮断されている健康な個体の血清と共にインキュベートした赤血球の溶解も阻害しうる。したがって、抗体及びフラグメントは、FH機能障害またはFH欠損以外の要因によって引き起こされる不必要な及び/または過剰な代替経路補体活性化を遮断または低減させるために使用することもできる。そのような治療されうる障害の非限定的な例は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)である。
【0120】
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は、補体媒介性HUSとも呼ばれ、溶血性貧血、血小板減少症、全身性血栓性微小血管症(TMA)、及び腎不全を特徴とする。aHUSの発症は典型的には小児期にあり、疾患のエピソードは、例えば感染、妊娠、他の疾患、手術、または外傷に関連する。aHUS患者の60%超が、血漿交換または血漿補充にもかかわらず、死亡するか、または末期腎疾患(ESRD)を発症する。aHUS患者では、補体系の成分または因子におけるいくつかの変異が特定されている。FH、FI FB、膜補因子タンパク質(MCP)、トロンボモジュリン(THBD)、またはC3の変異は、FHの変異が最も高頻度であるaHUS患者(aHUS患者の約20~30%)における既知の変異の約50%を構成する。患者の大多数は変異に対してヘテロ接合性であるが、それにもかかわらず病的なFH欠損が生じる。さらに、患者の約10%において、aHUSはFHに対する自己抗体に起因し、機能的FHの低減も生じる。現在、aHUSの標準治療は、血漿補充または血漿交換療法である。さらに、エクリズマブがaHUS患者の治療に使用されている。腎移植は、aHUSの根底にある変異に依存する再発のリスクが高いことに関連している。FH、FB、FI、C3またはTHBDに変異がある小児では、再発のリスクが増加するため、移植は禁忌である。本開示に係る、少なくともFabフラグメントを含む抗体またはフラグメントなどの抗体またはフラグメントは、FHの変異または抗FH自己抗体の存在に起因するaHUSの治療、緩和、または防止に特に好適である。FHに対する増強効果は、変異を有するFHのCCPドメインとは無関係である。例えば、増強性FH抗体またはそのフラグメントは、FHのCCP1、CCP6、CCP7、CCP14、CCP17、CCP18、CCP19及びCCP20に変異を有するaHUS患者における代替補体活性化を阻害することができる。しかしながら、本開示の抗体及びフラグメントは、FH機能障害またはFH欠損の非存在下でもFHの活性を増強しうるので、あらゆる形態の補体依存性aHUSが、本開示の抗体またはフラグメントによって有利に治療、緩和、または防止されうる。
【0121】
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、全能性造血幹細胞のX染色体における遺伝子変異によって引き起こされる。この変異は、グリコシルホスファチジルイノシトール膜固定タンパク質(GPI-AP)の合成に重要である、ホスファチジルイノシトールグリカンクラスAタンパク質の欠損をもたらす。補体系の阻害剤CD55はそのようなタンパク質の一例であり、宿主細胞表面でC3bに結合することにより、C3転換酵素の形成を防止する。よって、これらのタンパク質の欠損は、不必要または過剰な補体活性化をもたらす。PNHの主な帰結の1つは、補体系の過剰な活性の結果として赤血球が溶解することである。最近、エクリズマブが数か国でPNHの治療のために承認された。他の療法には、輸血、赤血球刺激剤療法、コルチコステロイド及びタンパク同化ステロイドによる治療が含まれる。本開示の抗体及びフラグメントはまた、FHのレベルまたはFH機能とは無関係にFHの活性を増強し、それにより補体系の代替経路の活性化を阻害しうるので、抗体及びフラグメントは、PNH患者において有利に使用されうる。さらに、本開示の抗体及びフラグメントは、活性化経路のより下流で作用するエクリズマブとは異なり、C3沈着のレベルで作用するので、C3bによってオプソニン化される細胞が少なくなるため、肝臓の細胞の消耗が低減する。
【0122】
加齢性黄斑変性(AMD)は、網膜の損傷であり、通常は高齢の個体が罹患し、視野の中心である黄斑の視力を喪失する。最近では、FHにおける変異及びSNP(一塩基多型)がAMD患者の約35%に関係するとされている。このSNPは、FHのCCP7に位置し、ヘパリンに対するFHの結合に影響を及ぼすことにより、宿主細胞表面及び細胞外マトリックスに結合するFHの能力を損なうことが実証された。本開示に係る、少なくともFabフラグメントを含む抗体またはフラグメントなどの抗体またはフラグメントは、FH機能低下(すなわち、FHをコードする遺伝子におけるSNP)を特徴とするAMDの治療、緩和、または防止に特に好適である。
【0123】
膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は、主に小児及び若年成人に発生する慢性腎炎のまれな原因である。メサンギウム細胞及び内皮細胞の増殖ならびにメサンギウム基質の増大、内皮下免疫沈着物及び/または膜内高密度沈着物による末梢毛細血管壁の肥厚、ならびに毛細血管壁への糸球体間質の介在の結果として、糸球体の傷害を引き起こす。MPGNは、多くの場合、FHが完全に欠如していることに関連付けられる。いくつかの実施形態では、本開示の抗体及び/またはフラグメントで治療されうるMPGNは、FH機能障害またはFH欠損に関連するが、FHの非存在には関連しない。
【0124】
したがって、本開示は、代替経路補体活性化に関連する障害の治療、緩和、または防止において使用するための、本開示に係る抗体またはフラグメントまたは核酸を提供する。いくつかの実施形態では、障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)からなる群から選択される。また、代替経路補体活性化に関連する障害の治療、緩和、または防止のための医薬を調製するための、本開示に係る抗体もしくはフラグメント、核酸またはベクターの使用が提供される。いくつかの実施形態では、障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、及びIgA腎症からなる群から選択される。特定の実施形態において、障害はIgA腎症である。いくつかの実施形態では、本開示による医薬または予防薬として使用される抗体またはフラグメントは、表1に示される抗体の重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3を含む抗体またはそのフラグメント(すなわち、Fab、Fab’またはF(ab)またはF(ab’)フラグメント)である。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、ヒト化型またはキメラ型のモノクローナル抗体またはフラグメントである。
【0125】
本開示はさらに、本開示に係る抗体もしくはフラグメント、または本開示に係る核酸もしくはベクターを個体に投与することを含む、代替補体活性化を阻害する方法を提供する。本開示はさらに、代替経路補体活性化に関連する障害を治療、緩和、または防止する方法であって、それを必要とする個体に、本開示に係る抗体またはフラグメントを治療有効量で投与することを含む方法を提供する。また、代替経路補体活性化に関連する障害を治療、緩和、または防止する方法であって、それを必要とする個体に、本開示に係る核酸またはベクターを治療有効量で投与することを含む方法が提供される。さらに、代替経路補体活性化に関連する障害を治療、緩和、または防止する方法であって、それを必要とする個体に、本開示に係る医薬組成物を治療有効量で投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)からなる群から選択される。本明細書で使用する場合、「個体」は、ヒトまたは免疫系の一部として補体系を有する動物(例えば哺乳動物)である。特定の実施形態において、個体はヒトである。いくつかの実施形態では、本開示の方法で使用される抗体は、抗体1の重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3、抗体2の重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3、抗体3の重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3、または抗体4の重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3を含む、抗体またはそのフラグメント、例えばFab、Fab’、F(ab)またはF(ab’)フラグメントである。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、ヒト化型またはキメラ型のモノクローナル抗体またはフラグメントである。
【0126】
本開示の抗体、フラグメント、核酸を含有する組成物は、予防的及び/または治療的な処置のために投与されうる。治療的用途において、本開示に係る抗体、フラグメント、核酸、または組成物は、疾患を既に患っている及び/または疾患の症状を既に示している個体(例えばヒト)に、疾患の症状及び/またはその合併症を和らげるのに充分な量で投与される。予防的用途では、本開示に係る抗体、フラグメント、核酸、または組成物は、これらの症状またはその合併症の発生を防止するために、個体が障害の症状を示す前に個体に投与される。例えば、代替補体活性化に関連する障害を引き起こしうる、または引き起こす遺伝子変異を有する個体は、本開示に係る抗体、フラグメント、核酸、または組成物で予防的に処置されうる。抗体、フラグメント、核酸、またはベクター分子は、典型的には、補体系の代替経路の不必要または過剰な活性化に関連する障害に対処するのに十分な量である治療有効量で、本開示に係る医薬組成物中に存在する。
【0127】
明確性及び簡潔な説明を目的として、本開示の同じまたは別個の態様または実施形態の一部として複数の特徴が本明細書に記載される場合がある。当業者には、本開示の範囲が、同じまたは別個の実施形態の一部として本明細書に記載される特徴のすべてまたはいくつかの組み合わせを有する実施形態を含みうることが理解されよう。
【実施例
【0128】
これらの実施例は、例示を目的として提供するものに過ぎず、本明細書で提供する特許請求の範囲を限定するものではない。
【0129】
試薬
ヒト精製H因子はCompTech(Tyler,Texas USA)から入手した。ラット抗マウスカッパ(RM19)はSanquin(Business Unit reagents,Sanquin,Amsterdam,the Netherlands)から入手した。高性能ELISAバッファー(HPE)はSanquinから入手した。組換え型FH CCP(CCP15~18、CCP15~19、CCP18~20、またはCCP19~10)は、以前に報告されているように(Schmidt et al.2008)生成した。ヒトFHに対するマウスモノクローナル抗体(mAb)は、以前に報告されているように作製した。抗IL-6.8はアイソタイプ対照として使用し、Sanquinから入手した。抗C3.19は、分子のC3dフラグメント上のエピトープと反応しうる(Wolbink et al.1993)。
【0130】
rhFHRタンパク質の発現
C末端に6つのヒスチジン(6xHis)タグを含有する組換え型ヒトH因子関連(rhFHR)タンパク質を生成し、以前に報告されているように(Pouw et al.2015)精製した。手短に述べると、HEK293F細胞でpcDNA3.1発現ベクターの一過性トランスフェクションによってタンパク質を発現させ、その後、HisTrap(商標)High Performance 1mlカラム(GE Healthcare Life Sciences,Freiburg,Germany)を使用したNi2+アフィニティークロマトグラフィーにより、タンパク質を上清から精製した。Amicon(登録商標)Ultra Centrifugal Filter Devices(Merck Millipore,Darmstadt,Germany)を使用してrhFHRを濾過し、濃縮した。
【0131】
抗体生成
25μgの組換え型ヒトH因子関連タンパク質1(FHR-1)と25μgのrhFHR-1を含むモンタニドをアジュバントとして4週間間隔でBALB/cマウスに腹腔内投与して免疫化することにより生成したモノクローナル抗体FHR-1.3B4。4回目のブースター免疫化から3日後、脾臓細胞を骨髄腫細胞株SP2/0と融合させた。ハイブリドーマの上清中のFHR-1特異的抗体の存在をELISAによって試験した。簡潔に述べると、マイクロタイタープレートをラット抗マウスカッパmoAb(RM19)でコーティングして、マウスIgG抗体を捕捉した。抗体の特異性をビオチン化rhFHR-1によって決定した。簡潔に述べると、ビオチン化rhFHR-1の結合を、0.1%(v/v)のストレプトアビジンHRPコンジュゲートと共にHPE中で30分間インキュベートすることによって決定した。0.003%(v/v)のHを含有するpH5.5の0.1M酢酸ナトリウム中で100μg/mLの3,5,3’,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を使用して、ELISAをさらに展開した。100μLのHSOを加えて基質の変換を停止し、Synergy 2 Multi-Modeプレートリーダー(BioTek Instruments,Winooski,VT,USA)を用い、450nmで吸光度を測定し、540nmでの吸光度に補正した。ELISAステップはすべて、1ウェル当たり100μLの最終体積で行った。
【0132】
CDR配列をヒト生殖系列抗体のフレームワーク領域にグラフトすることによってFHR-1.3B4抗体をヒト化した。ヒト化の結果として抗体5が生成された。次いで、抗体5の特定のアミノ酸を変異させて、FHに対する結合親和性を改善させた。抗体1、抗体2、抗体3、及び抗体4は、表1に開示されているように、FHに対して最も高い親和性を呈した抗体であった。
【0133】
H因子に対する抗体の結合親和性
抗体1~4の結合親和性を決定するために、BiaCore T200(GE Healthcare)及びCM5センサチップ(GE Healthcare)を製造元の説明に従って使用し、表面プラズモン共鳴(SPR)実験を行った。簡潔に述べると、プロテインAまたはプロテインGを結合させたチップで抗体1~9または抗FHR-1.3B4を捕捉し、捕捉されたmoAB上に完全長FHを漸減濃度で流した。SPR実験から得られた結合動態を表2に提示する。







【表2】
【0134】
表2に示すように、抗体1、抗体2、抗体3、及び抗体4は、ナノモルまたはナノモル以下の親和性でヒトFHに結合した。さらに、抗体1~4は、完全長FHに対してFHR-1.3B4のものよりも高い結合親和性を有した。
【0135】
mAbのエピトープマッピング及び競合アッセイ
特定のモノクローナル抗体(mAb)の結合部位をマッピングした。具体的には、様々なCCPドメイン(CCP15~18、CCP15~19、CCP18~20、及びCCP19~20)を含む組換え型FHフラグメント及び完全長ヒトFHに対してmAbの反応性を試験した。複数のCCPドメイン(15~18、15~19、18~20または19~20)から構成された組換え型ヒトFHフラグメントを使用し、表1に開示されているもののようなmAbのエピトープの位置を決定した。簡潔に述べると、RM-19でコーティングしたマイクロタイタープレートでFH.07及びFHR-1.3B4を捕捉して、最適な結合立体構造を確実にした。次に、100倍高い濃度の示された非標識組換え型FHフラグメントと混合したビオチン化FHをプレート上で1時間インキュベートした。ビオチン化FHの結合を、0.01%(v/v)のストレプトアビジン-ポリHRPコンジュゲートと共にHPE中で30分間インキュベートすることによって決定した。以前に報告されているようにELISAをさらに展開した。FH.07及びFHR-1.3B4は、ヒトFHのCCP18に結合することが見出された。
【0136】
表1に開示されている抗体またはフラグメントを使用した競合アッセイを、アゴニスト抗FH抗体FH.07を用いて行った。表1に開示されているヒト化抗FHR-1 mAbがFHの結合をFH.07と競合するかどうかを決定するために、上記と同様の設定を使用した。簡潔に述べると、mAbをプレートに直接コーティングし、10倍高い濃度の示されたmAbの非存在下または存在下でのビオチン化FH(FH-bt)の結合を、以前に報告されているようにELISAによって評価した。FHR-1.3B4は、FH.07と競合することが見出された。
【0137】
LPSにおけるC3沈着
抗体1~4がFHによる代替経路阻害に影響を与えるかどうかを調べるために、LPSにおけるC3沈着アッセイを行った。簡潔に述べると、96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc)に、Salmonella typhosa LPS(40μg/mL、L-6386 Sigma-Aldrich)を含むPBSを、室温で一晩コーティングした。LPSを使用して補体の代替経路を活性化した。プレートをPBS+0.1%(w/v)Tween-20、10%(v/v)で洗浄した。正常ヒト血清(NHS、最終濃度10%(v/v))を、0.05%(w/v)ゼラチン、5mM MgCl、10mM EGTA、及び0.1%(w/v)Tween-20を含有するベロナール緩衝液(VB;3mMバルビタール、1.8mMバルビタールナトリウム、145mM NaCl、pH7.4)中、示された濃度の抗FH/抗FHR-1 mAb(抗体1~4またはFHR-1.3B4)、アイソタイプ対照、または負の対照としてのaIL6-8 ABの存在下または非存在下でインキュベートした。C3b沈着をビオチン化mAb抗C3.19(HPE中0.55μg/mL)で検出し、続いて0.01%(v/v)のストレプトアビジン-ポリHRPコンジュゲートと共にHPE中で30分間インキュベートした。上記のようにELISAを展開した。表3に抗体1~4及びFHR-1.3B4のIC50値を記載する。表4に抗体1~4のIC50値(2反復試験)を記載する。
【表3】
【表4】
【0138】
表3及び4に示すように、抗体1~4は、LPSにおけるC3b沈着を阻害した。これにより、代替経路活性化に対するFHの阻害機能が抗体1、2、3、または4の添加によって強化されたことが示された。さらに、表3に示すように、抗体1~4は、LPSにおけるC3b沈着の阻害において、より低いIC50値によって示されるようにFHR-1.3B4よりも効果的であった。
【0139】
SRBC溶血アッセイ
H因子の機能に対する抗体1~4の影響を調べるために、Sanchez-Corral et al.(2004)及びWouters et al.(2008)によって以前に概説されている溶血アッセイを行った。簡潔に述べると、20μg/mlの抗FH.09(FHに対する遮断抗体)を含有する事前希釈したヒト血清(20%、v/v)を、示されたmAb(抗体1~4またはFHR-1.3B4)と共にプレインキュベートし、1対1の比でヒツジ赤血球(SRBC)と混合して、5mM MgCl及び10mM EGTAを含むVB、またはブランクとして10mM EDTAを含むVB中、10%(v/v)血清及び1.05*10細胞/mlの最終濃度とし、続いて振盪しながら37℃で75分間インキュベートした。20mM EDTAを含む100μlの氷冷VBを添加して溶解を停止させ、続いて遠心分離(2.5分、1,800RPM/471 RCF、7℃)を行った。412nmでの上清の吸光度として溶血を測定し、690nmで測定したバックグラウンド吸光度に対して補正し、100%溶解対照(0.6%(w/v)のサポニンと共にインキュベートしたSRBC)に対するパーセンテージとして表した。負の対照として、補体活性化を防止するために10mM EDTAを補ったVBで希釈した血清と共にSRBCをインキュベートした。
【0140】
Graphpad prism 7.04を使用して、表1に開示されているような様々な抗体を使用した複数の実験から溶血のIC50を算出し、通常の一元配置ANOVA及びダネットの多重比較検定によって統計的比較を行った。表5に抗体1~4及びFHR-1.3B4のIC50値を記載する。表6に抗体1~4のIC50値(2反復試験)を記載する。












【表5】
【表6】
【0141】
表5及び6に示すように、抗体1~4はSRBC溶解を阻害した。さらに、表6に示すように、抗体1~3は、SRBC溶解の阻害において、より低いIC50値によって示されるようにFHR-1.3B4よりも効果的であった。
【0142】
抗FH抗体の存在下でのC3bに対するH因子の結合親和性
表1に開示されているような抗体1~4の存在下でのC3bに対するFHの結合を、Biacore T200機器(GE Healthcare,Little Chalfont,UK)を使用した表面プラズモン共鳴によって決定した。具体的には、精製されたC3b(Complement Technologies)を、標準的なアミンカップリングの使用によりCM5 Biacore Sensor Chip(GE Healthcare)のフローセルに固定化した。残りのフローセルは参照面として使用し、タンパク質を添加せずにカップリング反応を行うことによって調製した。C3bとのカップリング後、2000応答単位(RU)の応答が得られた。SPR実験は、10μl/分の流速を使用し、0.01%(w/v)のTween-20(Merck)を補ったpH7.4のリン酸緩衝食塩水(PBS、Orphi Farma)(PBS-T)中、37℃で行った。
【0143】
moAbによる架橋が干渉する可能性なしに抗体の効果を決定するために、mAb(抗体1~4)の組換え生成されたFab’フラグメントを使用した。Fab’フラグメントを血漿精製FH(pdFH)と混合した。異なる濃度(FH単独の場合は10~0,01953μM、moAb Fab’フラグメントと複合した場合は5~0,01953μM)のFHを、10μM(少なくとも2倍モル比過剰)の抗FHR-1 3B4 Fab’フラグメントまたは抗体1~4のFab’フラグメントの非存在下または存在下で、チップ上に60秒間注入した。また、FHを添加せずに各Fab’フラグメントを注入して、表面とFab’フラグメントの相互作用の有無を決定した。pdFHの注入後、60秒間の解離を行い、各サイクル間で1M NaCl(Merck)を1回注入して表面を再生した。
【0144】
Scrubber 2(Biologic Software)を使用してデータを分析し、平衡分析によって親和性を決定した。表7に抗体1~4の結合動態を列挙する。
【表7】
【0145】
表7に示すように、抗体1~4のFab’フラグメントの添加により、C3bコーティング表面での応答が増加し、抗体1~4がC3bに対するpdFHの結合を増進したことが示された。
本発明の実施形態
本発明の実施形態を以下の項にさらに記載する:
[項1]
H因子(FH)の補体制御タンパク質ドメイン18(CCP18)に特異的に結合する、単離型、合成型、もしくは組換え型の抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、
- 配列SSVTY(配列番号1)または配列TSVTY(配列番号13)を含む軽鎖CDR1配列、
- 配列ATS(配列番号2)または配列ASS(配列番号14)を含む軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、
- 配列VWSGGTT(配列番号6)またはIWSGGTT(配列番号10)の配列を含む重鎖CDR2配列、及び
- 配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)または配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を含む重鎖CDR3配列
を含む、前記抗体またはその抗原結合性フラグメント。
[項2]
- 配列SSVTY(配列番号1)を含む軽鎖CDR1配列、
- 配列ATS(配列番号2)を含む軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、
- 配列IWSGGTT(配列番号10)を含む重鎖CDR2配列、及び
- 配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を含む重鎖CDR3配列
を含む、上記項1に記載の抗体またはフラグメント。
[項3]
- 配列SSVTY(配列番号1)を含む軽鎖CDR1配列、
- 配列ATS(配列番号2)を含む軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、
- 配列VWSGGTT(配列番号6)を含む重鎖CDR2配列、及び
- 配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を含む重鎖CDR3配列
を含む、上記項1に記載の抗体またはフラグメント。
[項4]
- 配列TSVTY(配列番号13)を含む軽鎖CDR1配列、
- 配列ASS(配列番号14)を含む軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、
- 配列VWSGGTT(配列番号6)を含む重鎖CDR2配列、及び
- 配列ARNFGNYAMDY(配列番号7)を有する重鎖CDR3配列
を含む、上記項1に記載の抗体またはフラグメント。
[項5]
- 配列TSVTY(配列番号13)を含む軽鎖CDR1配列、
- 配列ASS(配列番号14)を含む軽鎖CDR2配列、
- 配列QHRSSSNPLT(配列番号3)を含む軽鎖CDR3配列、
- 配列GFSLTNYG(配列番号5)を含む重鎖CDR1配列、
- 配列IWSGGTT(配列番号10)を含む重鎖CDR2配列、及び
- 配列ARNFGNYAMDF(配列番号11)を含む重鎖CDR3配列
を含む、上記項1に記載の抗体またはフラグメント。
[項6]
前記抗体またはフラグメントは、FHに対して2.5×10 -8 M以下のK の結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.1×10 -9 M以下のK の結合親和性を有するか、あるいは、前記抗体またはフラグメントは、FHに対して1.25×10 -8 M以下のK の結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.04×10 -9 M以下のK の結合親和性を有する、上記項1~5のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項7]
前記抗体またはフラグメントは、FHに対して2.5×10 -8 M以下のK の結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.1×10 -9 M以下のK の結合親和性を有するか、あるいは、前記抗体またはフラグメントは、FHに対して0.6×10 -8 M以下のK の結合親和性及び/またはCCP18~20から成るFHフラグメントに対して0.6×10 -11 M以下のK の結合親和性を有する、上記項1~5のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項8]
前記抗体またはフラグメントは、
- 10%(v/v)の血清の存在下で、in vitroのリポ多糖におけるC3沈着を、38nM以下のIC 50 値、例えば30nM以下のIC 50 値で阻害する、及び/または
- 10%(v/v)の血清の存在下で、in vitroの溶血活性を、150nM以下のIC 50 値、例えば130nM以下のIC 50 値で阻害する、及び/または
- in vitroのC3bに対するFHのK を最大で2μMまで減少させる(結合親和性を増加させる)、及び/またはin vitroのC3bに対するFHの結合親和性を少なくとも3倍増加させる、上記項1~7のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項9]
- 配列番号4または16に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列、
- 配列番号8または12に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列
を含む、上記項1~8のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項10]
配列番号4に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列と、8に対して少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列とを含む、上記項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項11]
配列番号4に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号12に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列とを含む、上記項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項12]
配列番号16に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号8に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列とを含む、上記項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項13]
配列番号16に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変軽鎖配列と、配列番号12に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列を含む可変重鎖配列とを含む、上記項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項14]
前記抗体またはフラグメントは、FH活性を増強し、場合により、前記FH活性は、代替補体活性化の阻害であり、さらに場合により、代替補体活性化の阻害は、
- 溶血活性の阻害、
- 補体成分3(C3)沈着の阻害、及び/または
- C3b、iC3b及び/またはC3dに対するFHの結合の増加
を含む、上記項1~13のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項15]
前記抗体またはフラグメントは、免疫グロブリン重鎖可変領域及び免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、免疫グロブリン重鎖定常領域及び免疫グロブリン軽鎖定常領域をさらに含む、上記項1~14のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項16]
前記抗体またはフラグメントは、Fabフラグメントを含む、上記項1~15のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項17]
前記抗体またはフラグメントは、モノクローナルである、上記項1~16のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項18]
前記抗体またはフラグメントは、ヒト軽鎖及び重鎖定常領域を含む、上記項1~17のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項19]
前記抗体またはフラグメントは、PEG化されている、上記項1~18のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメント。
[項20]
前記抗体またはフラグメントは、PEG化されたFabフラグメントである、上記項19に記載の抗体またはフラグメント。
[項21]
上記項1~20のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメントをコードする核酸配列を含む、単離型、合成型、もしくは組換え型の核酸。
[項22]
上記項21に記載の核酸を含むベクター。
[項23]
前記ベクターは、AAVベクターである、上記項22に記載のベクター。
[項24]
前記AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、及びAAV12からなる群から選択される、上記項23に記載のベクター。
[項25]
上記項21に記載の核酸、または上記項22~24のいずれか1項に記載のベクターを含む、組換え型細胞。
[項26]
上記項1~20のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、上記項21に記載の核酸、上記項22~24のいずれか1項に記載のベクター、または上記項25に記載の組換え型細胞、ならびに薬学的に許容されるキャリア、希釈剤、及び/または賦形剤を含む、医薬組成物。
[項27]
療法において使用するための、上記項1~20のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、上記項21に記載の核酸、上記項22~24のいずれか1項に記載のベクター、上記項25に記載の組換え型細胞、または上記項26に記載の医薬組成物。
[項28]
代替補体活性化を阻害するのに使用するための、上記項1~20のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、上記項21に記載の核酸、上記項22~24のいずれか1項に記載のベクター、上記項25に記載の組換え型細胞、または上記項26に記載の医薬組成物。
[項29]
代替経路補体活性化に関連する障害の治療、緩和、または防止において使用するための、上記項1~20のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、上記項21に記載の核酸、上記項22~24のいずれか1項に記載のベクター、上記項25に記載の組換え型細胞、または上記項26に記載の医薬組成物。
[項30]
前記障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、及びIgA腎症からなる群から選択される、上記項29に記載の使用のための抗体もしくはフラグメント、核酸、組換え型細胞、または医薬組成物。
[項31]
代替経路補体活性化に関連する障害の治療、緩和、または防止のための医薬を調製するための、上記項1~20のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、上記項21に記載の核酸、上記項22~24のいずれか1項に記載のベクター、上記項25に記載の組換え型細胞、または上記項26に記載の医薬組成物の使用。
[項32]
前記障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、及びIgA腎症からなる群から選択される、上記項31に記載の使用。
[項33]
代替経路補体活性化に関連する障害を治療、緩和、または防止する方法であって、それを必要とする対象に、上記項1~20のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、上記項21に記載の核酸、上記項22~24のいずれか1項に記載のベクター、上記項25に記載の組換え型細胞、または上記項26に記載の医薬組成物を治療有効量で投与することを含む前記方法。
[項34]
前記障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢性黄斑変性(AMD)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、及びIgA腎症からなる群から選択される、上記項33に記載の方法。
[項35]
上記項1~20のいずれか1項に記載の抗体もしくはフラグメント、上記項21に記載の核酸、上記項22~24のいずれか1項に記載のベクター、上記項25に記載の組換え型細胞、または上記項26に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、代替補体活性化を阻害する方法。
[項36]
抗体またはフラグメントを生成する方法であって、上記項21に記載の核酸または上記項22~24のいずれか1項に記載のベクターを細胞に供給することと、前記核酸またはベクターに含まれる前記核酸配列を前記細胞に翻訳させることにより、上記項1~20のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメントを生成することとを含む前記方法。
[項37]
前記抗体またはフラグメントを採取、精製、及び/または単離することをさらに含む、上記項36に記載の方法。
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