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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】デンプンに由来する甘い飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/60 20060101AFI20250210BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20250210BHJP
【FI】
A23L2/00 C
A23L2/38 J
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022504092
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 EP2020070847
(87)【国際公開番号】W WO2021013952
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】19187830.5
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508343478
【氏名又は名称】ハイネケン・サプライ・チェーン・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Heineken Supply Chain B.V.
【住所又は居所原語表記】Burgemeester Smeetsweg 1,NL-2382 PH Zoeterwoude, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】オフォドゥ、イケチュクウ・フィクトル
(72)【発明者】
【氏名】ベッカーズ、アウグスティヌス・コルネリウス・アルデゴンデ・ペトルス・アルベルト
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0017282(US,A1)
【文献】米国特許第04765993(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・炭水化物 4~20重量%;
・エタノール 0~1.0重量%;及び
・水 80~95重量%;
を含むデンプン由来飲料であって、
前記飲料は、炭水化物の重量で計算して、
・グルコース 5~65重量%;
・フルクトース 0~65重量%;
・スクロース 0~50重量%;
・マルトース 0.1~30重量%;
・マルトトリオース 0.03~8重量%;
・オリゴグルコース(重合度4~10) 3~35重量%;
を含み、かつ、
・グルコース及びフルクトースは前記炭水化物の少なくとも20重量%;
・グルコース、フルクトース及びスクロースは前記炭水化物の少なくとも40重量%;
・グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、マルトトリオース及びオリゴグルコースは前記炭水化物の少なくとも80重量%;
・([グルコース]+[フルクトース])/[マルトース]は1.0以上;
(式中、[グルコース]は重量%によるグルコース濃度を示し、[フルクトース]は重量%によるフルクトース濃度を示し、[マルトース]は重量%によるマルトース濃度を示す)
、飲料。
【請求項2】
前記飲料は少なくとも0.1重量%の穀物タンパク質を含む、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記飲料は少なくとも1mg/Lのイソアルファ酸を含む、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
・([グルコース]+[フルクトース])/[オリゴグルコース]は1.0以上
(式中、[オリゴグルコース]は重量%によるオリゴグルコース濃度を示す)
である、請求項1~3のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
前記飲料の甘味は、1Lあたり少なくとも30gのスクロースを含む水溶液と同等である、請求項1~4のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項6】
前記飲料は5~11重量%の炭水化物を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項7】
前記飲料は、炭水化物の重量で計算して少なくとも30重量%のグルコースを含み、[グルコース]/[フルクトース]が6以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項8】
前記飲料は、炭水化物の重量で計算して少なくとも20重量%のフルクトースを含み、[フルクトース]/[グルコース]が0.5以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項9】
前記飲料は、炭水化物の重量で計算して少なくとも24重量%のマルトースを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項10】
前記飲料は、炭水化物の重量で計算して少なくとも10重量%のスクロースを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項11】
前記飲料は密閉容器に包装されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載された飲料の製造方法であって、前記方法は:
(a) 第一のマッシュを準備し、前記第一のマッシュに含まれるデンプンを加水分解して第一の加水分解マッシュを得;
(b) 第二のマッシュを準備し、前記第二のマッシュに含まれるデンプンを加水分解して第二の加水分解マッシュを得;
(c) 前記第二の加水分解マッシュを、グルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及びそれらの組合せから選択されるグリコシダーゼで酵素的に加水分解する;
工程を含み、前記方法は、
(d1) 前記第一の加水分解マッシュ及び前記グリコシダーゼで処理した第二のマッシュを混合して、加水分解マッシュの組合せを得;かつ
(e1) 前記加水分解マッシュの組合せをろ過して麦汁を得るか;又は
(d2) 前記グリコシダーゼで処理した第二のマッシュをろ過して第一の麦汁を得、前記第二の加水分解マッシュをろ過して第二の麦汁を得;かつ
(e2) 前記第一の麦汁と前記第二の麦汁を混合する;
工程を更に含む、製造方法。
【請求項13】
前記第二の加水分解マッシュは、グルコースイソメラーゼによってグルコースがフルクトースに変換される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載された飲料の製造方法であって、前記方法は:
(a) デンプン源を準備し;
(b) 前記デンプン源を水と混合してマッシュを得;
(c) 前記マッシュに含まれるデンプンを酵素で加水分解して加水分解マッシュを得、前記酵素による加水分解は、αアミラーゼ、βアミラーゼ及びそれらの組合せから選択されるアミラーゼの存在下で、並びにグルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及びそれらの組合せから選択されるグリコシダーゼの存在下で行われ;
(d) 前記加水分解マッシュをろ過して麦汁を得;
(e) 場合によっては、前記麦汁をホップ、ホップ抽出物、カラメル及び/又は糖と混合し;
(f) 前記麦汁を加熱して少なくとも20分間沸騰させる;
工程を含む、製造方法。
【請求項15】
前記グリコシダーゼはグルコアミラーゼである、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記マッシュに含まれるデンプンは、アミラーゼの存在下で加水分解され、前記アミラーゼは、αアミラーゼ、βアミラーゼ及びそれらの組合せから選択される、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記マッシュに含まれるデンプンは、グルコースイソメラーゼの存在下で加水分解される、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプンに由来するノンアルコールの甘い飲料に関する。より具体的には、本発明は、飲料の炭水化物組成を、グルコアミラーゼ及び/又はαグルコシダーゼで調整する工程によって製造された飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
「マルタ」は、カリブ海地域で非常に人気のあるデンプンに由来する甘い飲料である。マルタは、大麦、ホップ、水、場合によってビールのように他の成分から製造され、砂糖を加えてもよく、カラメル色にしてもよい、わずかに炭酸を含む非発酵麦芽飲料である。ビールとは異なり、マルタはノンアルコールである。麦芽の香りと味が強く、色はスタウトと同系(暗褐色)で、一般に、糖蜜やライ麦パンのような味わいであると言われている。飲む際には、よく氷を入れる。マルタに似た非発酵麦芽飲料は、中南米の国の一部やアフリカでも非常に人気がある。
【0003】
マルタのような非発酵麦芽飲料の製造では、穀物のデンプンは、マッシングと呼ばれる工程で糖に変換される。マッシング中にデンプンが加水分解され、グルコース(単糖)、マルトース(二糖)、マルトトリオース(三糖)及びオリゴグルコース単位が生じる。グルコース、マルトース及びマルトトリオースは、製品の甘味に寄与する。オリゴスクロース単位は「とろみ」を付与し、したがって飲料の口当たりに影響を及ぼす。マッシングが終了後、マッシュをろ過し、得られたマッシュ抽出物(麦汁)を煮沸し、通常、カラメル、ホップ抽出物及び砂糖を加える。冷却後、得られた飲料を密閉容器に充填する。
【0004】
マルタのようなノンアルコール麦芽飲料の代表的な糖の含有量は、約50g/Lの後から加えた砂糖を含めて、約105g/Lである。マッシング中にデンプンから放出される糖は飲料を甘くするが、消費者が好む甘味とするために、スクロース若しくは転化糖シロップ又はグルコース若しくはフルクトースシロップのような他の甘味料の形で、糖分を加える。
【0005】
健康への懸念が高まっているため、食品や飲料に添加する砂糖の量を減らす傾向がある。砂糖の含有量の低下に伴う問題は、(望ましい)甘味の喪失である。この問題の解決策は、アスパルテームやステビオール配糖体といった栄養のない又はカロリーゼロの甘味料の添加である。しかし、砂糖は甘味を提供するだけでなく、(他の多くの属性の中で)口当たりも提供するので、砂糖を他の甘味料に置き換えることは、製品の口当たりや後味に悪影響を及ぼす。また、コストの観点から、砂糖代替品の使用は魅力的でない可能性がある。
【0006】
米国特許第4,765,993号には、温かい麦芽のマッシュに煮沸した穀物を加えて沸騰させ、冷却し、炭酸ガスを加え、ろ過し、デンプン分解酵素の1つ又は混合物を添加してマルトースや複合炭水化物をデキストロースに変換し、充填し、低温殺菌する、アルコールフリーの飲料の製造方法が記載されている。
【0007】
米国特許出願公開第2015/0017282号は、麦汁ろ過(lautering)中も依然として活性で、80℃で少なくとも10%の残留活性を有するグルコアミラーゼをマッシュに添加することを含む、醸造用麦汁の製造方法が記載されている。
【0008】
本発明は、上述したマルタ型飲料の1つ以上の欠点を克服することを目的とする。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、味、口当たり、臭い及び外観の点で通常のマルタ飲料と非常に似ているが、全糖含量が低減されたマルタ様飲料の製造を可能にする2つの特別な工程を開発した。より具体的には、本発明者らは、所望の甘味の飲料を得るのに、砂糖を加える必要がないか、加える砂糖が少なくなる、麦汁成分の炭水化物組成を変更する方法を見いだした。
【0010】
本発明の方法は、グルコアミラーゼ及び/又はαグルコシダーゼを利用する。その結果、飲料の炭水化物プロファイルが大幅に変化する。通常の麦汁から製造される飲料と比較して、本発明によって製造される飲料の単糖(グルコース及び/又はフルクトース)含量は実質的に高く、マルトース及び/又はマルトトリオースの量は実質的に低い。同時に、飲料中のオリゴグルコースの濃度は大きく影響しない。本発明は、飲料の品質、特に味と口当たりに著しく悪い影響を及ぼすことなく、飲料の全糖含量を減らすことができるという利点を提供する。
【0011】
グルコースはマルトース又はマルトトリオースよりも強力な甘味料であることから、本発明の方法におけるグルコアミラーゼ及び/又はαグルコシダーゼによるグルコアミラーゼ処理は、飲料の甘味を強くする。この甘味は、例えばグルコースイソメラーゼを使用してグルコースをフルクトースに変換することにより、更に強くしてもよい。オリゴ糖類及び多糖類に対する酵素処理の効果は限られていることから、この酵素処理は飲料の口当たり及び後味に大きな影響を及ぼさない。
【0012】
本発明のデンプン由来飲料は、
・炭水化物 4~20重量%;
・エタノール 0~1.0重量%;及び
・水 80~95重量%;
を含む。この飲料は、さらに、炭水化物の重量で計算して、
・グルコース 5~65重量%;
・フルクトース 0~65重量%;
・スクロース 0~50重量%;
・マルトース 0.1~30重量%;
・マルトトリオース 0.03~8重量%;
・オリゴグルコース(重合度4~10) 3~35重量%;
を含み、かつ、
・グルコース及びフルクトースは炭水化物の少なくとも20重量%;
・グルコース、フルクトース及びスクロースは炭水化物の少なくとも40重量%;
・グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、マルトトリオース及びオリゴグルコースは炭水化物の少なくとも80重量%;
・([グルコース]+[フルクトース])/[マルトース]は1.0以上
(式中、[グルコース]は重量%によるグルコース濃度を示し、[フルクトース]は重量%によるグルコース濃度を示し、[マルトース]は重量%によるグルコース濃度を示す)
という特徴を有する。
【0013】
本発明は、また、上記飲料の製造方法であって、前記方法は:
(a) 第一のマッシュを準備し、第一のマッシュに含まれるデンプンを加水分解して第一の加水分解マッシュを得;
(b) 第二のマッシュを準備し、第二のマッシュに含まれるデンプンを加水分解して第二の加水分解マッシュを得;
(c) 第二の加水分解マッシュを、グルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及びそれらの組合せから選択されるグリコシダーゼで酵素的に加水分解する;
工程を含み、前記方法は、
(d1) 第一の加水分解マッシュ及びグリコシダーゼで処理した第二のマッシュを混合して、加水分解マッシュの組合せを得;かつ
(e1) 加水分解マッシュの組合せをろ過して麦汁を得るか;又は
(d2) グリコシダーゼで処理した第二のマッシュをろ過して第一の麦汁を得、第二の加水分解マッシュをろ過して第二の麦汁を得;かつ
(e2) 第一の麦汁と第二の麦汁を混合する;
工程を更に含む、製造方法に関する。
【0014】
この方法で得られる飲料では、甘味のほとんどは第二の加水分解マッシュに由来し、口当たりのほとんどは第一の加水分解マッシュに由来する。
【0015】
本発明は、さらに、上記飲料の製造方法であって、前記方法は:
(a) デンプン源を準備し;
(b) デンプン源を水と混合してマッシュを得;
(c) マッシュに含まれるデンプンを酵素で加水分解して加水分解マッシュを得、前記酵素による加水分解は、αアミラーゼ、βアミラーゼ及びそれらの組合せから選択されるアミラーゼの存在下で、並びにグルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及びそれらの組合せから選択されるグリコシダーゼの存在下で行われ;
(d) 加水分解マッシュをろ過して麦汁を得;
(e) 場合によっては、前記麦汁をホップ、ホップ抽出物、カラメル及び/又は糖と混合し;
(f) 麦汁を加熱して少なくとも20分間沸騰させる;
工程を含む、製造方法に関する。
【0016】
この方法では、加水分解工程は、甘味を提供する多量の糖と、口当たりを提供するかなりの量のオリゴグルコースを生成する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
したがって、本発明の第一の側面は、
・炭水化物 4~20重量%;
・エタノール 0~1.0重量%;及び
・水 80~95重量%;
を含むデンプン由来飲料であって、前記飲料は、炭水化物の重量で計算して、
・グルコース 5~65重量%;
・フルクトース 0~65重量%;
・スクロース 0~50重量%;
・マルトース 0.1~30重量%;
・マルトトリオース 0.03~8重量%;
・オリゴグルコース(重合度4~10) 3~35重量%;
を含み、かつ、
・グルコース及びフルクトースは炭水化物の少なくとも20重量%;
・グルコース、フルクトース及びスクロースは炭水化物の少なくとも40重量%;
・グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、マルトトリオース及びオリゴグルコース(重合度4~10)は炭水化物の少なくとも80重量%;
・([グルコース]+[フルクトース])/[マルトース]は1.0以上
(式中、[グルコース]は重量%によるグルコース濃度を示し、[フルクトース]は重量%によるグルコース濃度を示し、[マルトース]は重量%によるグルコース濃度を示す)
に関する。
【0018】
本明細書において、用語「a」、「an」は、特に指定しない限り、「少なくとも1つ」と定義される。名詞(例.化合物、添加剤など)を単数形で示した場合、複数形が含まれることを意図する。したがって、特定の成分、例えば、「酵素」は、特に指定しない限り、「少なくとも1つの酵素」を意味する。本明細書において、用語「又は」は、「及び/又は」と理解されるべきである。
【0019】
本明細書において、用語「炭水化物」は、糖類を指し、より具体的には、この用語は、単糖類、二糖類、三糖類、オリゴ糖類及び多糖類を包含する。
【0020】
本明細書において、用語「オリゴ糖類」は、グリコシド結合によって結合した4~10個の単糖を含む糖類を指す。
【0021】
本明細書において、用語「オリゴグルコース」は、グルコース単位で構成されたオリゴ糖を指す。
【0022】
本明細書において、用語「多糖類」は、グリコシド結合によって結合した11個以上の単糖を含む糖を指す。
【0023】
異性体が存在する化合物(例.D及びLエナンチオマー)の場合、原則として、化合物の全てのエナンチオマー、ジアステレオマー及びシス/トランス異性体を含む。
【0024】
酵素が酵素分類(EC)により識別される場合、その酵素分類は、国際生化学分子生物学連合の命名法委員会(NC-IUBMB)が提供する酵素命名法に基づいて酵素が分類されたか、分類される可能性がある分類であり、その命名法はhttp://www.chem.qmul.ac.uk/iubmb/enzyme/.で確認することができる。(まだ)分類されていないが、そのように分類される可能性がある他の適切な酵素が含まれることを意図する。
【0025】
本明細書において、用語「グルコアミラーゼ」(EC 3.2.1.3)は、アミログルコシダーゼ又はグルカン1,4-αグルコシダーゼとも呼ばれ、鎖の非還元末端からの末端の(1→4)結合したα-D-グルコース残基の加水分解を連続的に触媒し、β-D-グルコースを放出することができる酵素を指す。
【0026】
本明細書において、用語「αグルコシダーゼ」(EC 3.2.1.20)は、マルターゼ又はマルターゼ-グルコアミラーゼとも呼ばれ、末端の(1→4)結合したα-D-グルコース残基の加水分解を触媒してα-D-グルコースを放出することができる酵素を指す。
【0027】
本明細書において、用語「αアミラーゼ」(EC 3.2.1.1)は、(1-4)-α-結合したD-グルコース単位を3つ以上含む多糖類の(1-4)-α-D-グルコシド結合の加水分解を触媒する酵素を指す。酵素はデンプンにランダムに作用し、α配置の還元基を遊離する。それは長鎖の糖類を分解し、最終的にデンプンからマルトトリオース及びマルトースを生成する。用語「α」は、放出された糖のアノマー配置のことで、加水分解された結合の配置とは関係しない。
【0028】
本明細書において、用語「βアミラーゼ」(EC 3.2.1.2)は、多糖類の(1-4)-α-D-グルコシド結合の加水分解を触媒して、鎖の非還元末端からマルトース単位を連続的に除去する酵素を指す。この酵素はデンプンに作用し、反転によってβマルトースを生成する。用語「β」は、放出された糖のアノマー配置のことで、加水分解された結合の配置とは関係しない。
【0029】
本明細書において、用語「グルコースイソメラーゼ」は、グルコースとフルクトースの相互変換を触媒する酵素(EC 5.3.1.18)を指す。
【0030】
本明細書において、用語「ノンアルコール」は、別途定める場合を除き、アルコール含有量が1.0%アルコール度数(ABV)以下であることを意味する。
【0031】
本明細書において、用語「発酵する」又は「発酵」は、麦汁と生きた酵母を少なくとも1時間接触させることを指す。
【0032】
本明細書では、「全糖」は、単糖類及び二糖類の量の合計として定義される。
【0033】
さまざまな炭水化物の濃度は、ACQUITY UPLC-RI システム(Waters)を備えたHPLCで求めることができる。
【0034】
本発明の飲料は、好ましくは、アルコール含有量が0.8%(ABV)以下、0.6%(ABV)以下、0.4%(ABV)以下、0.3%(ABV)以下、0.2%(ABV)以下、0.1%(ABV)以下、又は0.05%(ABV)以下である。最も好ましくは、飲料はアルコールを含まない。
【0035】
上述したように、本発明の飲料は、デンプンを加水分解するマッシング工程を含む方法で製造される。デンプンは、好ましくは穀物により提供される。これらの穀物はデンプンの他にタンパク質も含む。このタンパク質の一部は、通常、最終的に本発明の飲料に含まれる。したがって、飲料は、好ましくは少なくとも0.1mg/L、より好ましくは0.3~12mg/L、最も好ましくは0.8~10mg/Lの穀物タンパク質を含む。
【0036】
別の好ましい態様では、飲料は、ホップ及び/又はホップ抽出物の添加を含む方法で得られる。ホップ又はホップ抽出物は、通常、加熱する前又は加熱中に、ろ過したマッシュ抽出物に添加される。結果として、飲料は、通常、少なくとも1mg/Lのイソアルファ酸、より好ましくは2~20mg/Lのイソアルファ酸、最も好ましくは3~12mg/Lのイソアルファ酸を含む。
【0037】
カラメルは、好ましくは本発明の飲料の製造中に添加して、特徴的な色を与える別の成分である。飲料のEBC色単位は、通常少なくとも20、より好ましくは少なくとも60、最も好ましくは100~1000である。EBC(European Brewery Convention)色単位は、測定したビールの色を指す。EBC法は定量的で、ビールの色を分光光度計を用いて波長430nmで測定することを含む。色を測定するための実際の式は、
EBC=25×D×A430
(式中、Dは試料の希釈係数、A430は1cmキュベット内の430nmにおける吸光度)
である。
【0038】
本発明の飲料は好ましくは、甘味の強い飲料である。飲料の甘味は、好ましくは1Lあたり少なくとも30gのスクロースを含む水溶液と、より好ましくは1Lあたり40~150gのスクロースを含む水溶液と、最も好ましくは1Lあたり80~120gのスクロースを含む水溶液と同等である。
【0039】
本発明の飲料は、炭水化物を、好ましくは5~18重量%、より好ましくは6~16重量%、最も好ましくは7~15重量%含む。
【0040】
グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、マルトトリオース及びオリゴグルコース(DP4~10)は、飲料中の炭水化物の、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも95重量%である。飲料の水分含量は、好ましくは82~94重量%、より好ましくは83~93重量%、最も好ましくは84~92重量%である。
【0041】
炭水化物及び水は、通常、本発明の飲料の、少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも97重量%、最も好ましくは少なくとも98重量%である。
【0042】
本発明の飲料の全糖含量は、好ましくは4~15重量%、より好ましくは5~13重量%、最も好ましくは6~12重量%である。
【0043】
本発明の好ましい態様では、飲料は非常に多量のグルコースを含有する。より具体的には、飲料は、グルコースを、炭水化物の重量で計算して、少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、最も好ましくは50~75重量%含む。この態様では、[グルコース]/[フルクトース]が6以上であることから明らかなように、飲料に含まれるフルクトースの量は限られている。最も好ましくは、[グルコース]/[フルクトース]は10以上、より好ましくは少なくとも12以上である。
【0044】
好ましい態様では、グルコースの代わりに、飲料は多くのフルクトースを含む。上述したように、グルコースをフルクトースに有利に変換して、飲料の甘味を増してもよい。そのような変換は、グルコースイソメラーゼ(EC 5.3.1.18)で行うことができる。したがって、この好ましい態様では、飲料は、フルクトースを、炭水化物の重量で計算して、少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも25重量%、さらにより好ましくは少なくとも30重量%、最も好ましくは40~65重量%含む。この態様では、[フルクトース]/[グルコース]は0.5以上、より好ましくは前記比率は0.6以上、より好ましくは前記比率は0.7~1.0である。
【0045】
グルコース及びフルクトースは、炭水化物の、好ましくは少なくとも25重量%、より好ましくは少なくとも30重量%、最も好ましくは45~75重量%である。
【0046】
上述したように、マルトースのグルコースへの変換は、全糖含量を増加させることなく甘味を著しく増加させるので、本発明の飲料の製造では、これは特に有利である。したがって、好ましい態様では、飲料のマルトース含量は、炭水化物の重量で計算して、24重量%を超えず、より好ましくは20重量%を超えず、最も好ましくは15重量%を超えない。通常、飲料は、炭水化物の重量で計算して少なくとも1重量%のマルトースを含む。
【0047】
好ましい態様では、
([グルコース]+[フルクトース])/[オリゴグルコース]は1.0以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは3以上
(式中、[オリゴグルコース]は重量%によるオリゴグルコース濃度を示す)
である。
【0048】
本発明の飲料の濃度比([グルコース]+[フルクトース])/[マルトース]は、好ましくは少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも1.4、最も好ましくは少なくとも1.5である。
【0049】
本発明の飲料の濃度比([グルコース]+[フルクトース])/[マルトトリオース]は、好ましくは少なくとも3、より好ましくは少なくとも4、最も好ましくは少なくとも5である。
【0050】
マルトトリオースの酵素による加水分解は、マルトースの酵素による加水分解と同様、グルコースが生成するため甘味が増加する。全糖含量を問題としない場合、マルトトリオースの酵素による加水分解は、甘味が増すため好都合である。したがってある態様では、飲料は、炭水化物の重量で計算して、4重量%以下のマルトトリオース、より好ましくは2重量%以下のマルトトリオース、最も好ましくは1重量%以下のマルトトリオースを含む。
【0051】
飲料の全糖含量に懸念がある場合、マルトトリオースの酵素による加水分解は望ましくない可能性がある。したがって、別の好ましい態様では、飲料は、マルトトリオースを、炭水化物の重量で計算して、4~25重量%、より好ましくは5~20重量%、最も好ましくは6~15重量%含む。
【0052】
上述したように、本発明の飲料は、好ましくは多量のオリゴグルコースを含み、これは飲料の望ましい濃厚な口当たりに寄与する。飲料は、4~10の重合度(DP)のオリゴグルコースを、好ましくは4~32重量%、より好ましくは5~25重量%、さらにより好ましくは6~20重量%、最も好ましくは7~15重量%含み、全ての割合は炭水化物の重量で計算される。
【0053】
本発明のある態様では、飲料にスクロースは添加されず、この場合、飲料中のスクロースは、通常、炭水化物の重量で計算して2重量%以下である。
【0054】
別の態様では、飲料を更に甘くするために、飲料にスクロースを加える。通常、飲料は、炭水化物の重量で計算して少なくとも10重量%のスクロースを含む。しかし、グルコアミラーゼで処理することから、所望の甘味とするために必要なスクロースは少ない。好ましくは、飲料中のスクロースは、炭水化物の重量で計算して48重量%以下であり、最も好ましくは、飲料は20~45重量%のスクロースを含む。
【0055】
スクロースを加えて甘くする代わりに、本発明の飲料に、転化糖シロップ、高フルクトースシロップ及び/又はグルコースシロップ(以下「砂糖シロップ」という)を加えて甘くしてもよい。これらのシロップの1種以上を添加することによって飲料を更に甘くする場合、飲料は、通常、少なくとも20重量%のグルコース、少なくとも15重量%のフルクトース、及び、少なくとも60重量%のグルコースとフルクトースを含み、ここで、全ての割合は炭水化物の重量で計算される。
【0056】
グルコース、フルクトース及びスクロースは、飲料中に存在する炭水化物の、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、最も好ましくは70~90重量%である。
【0057】
飲料のpH(脱炭酸後に測定)は、通常、4.0~6.0、より好ましくは4.2~5.6、最も好ましくは4.3~5.4である。
【0058】
特定の好ましい態様では、本発明の飲料は、密閉容器に包装されている。適切な容器の例には、ボトル(ガラス、PET等)、缶、樽及び小袋が含まれる。小袋は、非炭酸飲料の包装に使用できる。
【0059】
本発明の飲料は、炭酸飲料又は非炭酸飲料であってもよい。好ましくは、飲料は炭酸飲料である。飲料は、通常、COを1~12g/L、より好ましくは2~10g/L含有する。
【0060】
本発明の別の側面は、上記飲料の製造方法であって、前記方法は、
(a) 第一のマッシュを準備し、第一のマッシュに含まれるデンプンを加水分解して第一の加水分解マッシュを得;
(b) 第二のマッシュを準備し、第二のマッシュに含まれるデンプンを加水分解して第二の加水分解マッシュを得;
(c) 第二の加水分解マッシュを、グルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及びそれらの組合せから選択されるグリコシダーゼで酵素的に加水分解する;
工程を含み、前記方法は、
(d1) 第一の加水分解マッシュ及びグリコシダーゼで処理した第二のマッシュを混合して、加水分解マッシュの組合せを得;かつ
(e1) 加水分解マッシュの組合せをろ過して麦汁を得るか;又は
(d2) グリコシダーゼで処理した第二のマッシュをろ過して第一の麦汁を得、第二の加水分解マッシュをろ過して第二の麦汁を得;かつ
(e2) 第一の麦汁と第二の麦汁を混合する;
工程を更に含む、製造方法に関する。
【0061】
第二の麦汁の酵素による加水分解で使用するグリコシダーゼは、好ましくはグルコアミラーゼである。
【0062】
第一のマッシュ及び第二の加水分解マッシュは、乾燥重量に基づいて、好ましくは1:9~2:1、より好ましくは1:7~1.5:1、最も好ましくは1:5~1:1の重量比で組み合わせる。
【0063】
第一の麦汁及び第二の麦汁は、乾燥重量に基づいて、好ましくは1:9~2:1、より好ましくは1:7~1.5:1、最も好ましくは1:5~1:1の重量比で組み合わせる。
【0064】
フルクトースは、特に甘みの強い糖である。フルクトースはグルコースよりもかなり甘いので、グルコースをフルクトースに変換して飲料の甘味を強くしてもよい。グルコースイソメラーゼがこの変換を触媒することができる。したがって、好ましい態様では、第二の加水分解マッシュは、グルコースイソメラーゼによってグルコースがフルクトースに変換される。
【0065】
第一のマッシュ及び第二のマッシュは、デンプン源を準備し、デンプン源を水と混合してマッシュを得ることによって適切に調製することができる。
【0066】
使用できるデンプン源には、麦芽及び麦芽以外の穀物が含まれる。大麦麦芽は、本発明の方法で適切に使用できる麦芽の一例である。使用できる麦芽以外の穀物の例には、大麦、米、小麦、ソルガム、トウモロコシ、ライ麦、オート麦及びその組合せが含まれる。ジャガイモやキャッサバといった塊茎作物も、デンプン源として使用できる。特定の好ましい態様では、本発明の方法で使用するデンプン源は大麦麦芽を含む。
【0067】
本発明によるマッシュの製造は、好ましくは、穀物の粉砕を含む。好ましくは、穀物は水と混ぜてマッシュとする前に粉砕する。
【0068】
第一の加水分解マッシュは、炭水化物を、好ましくは5~18重量%、より好ましくは6~16重量%、最も好ましくは7~15重量%含む。
【0069】
グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、マルトトリオース及びオリゴグルコース(DP4~10)は、第一の加水分解マッシュの炭水化物の、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも95重量%である。
【0070】
炭水化物及び水は、通常、第一の加水分解マッシュの、少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも97重量%、最も好ましくは少なくとも98重量%である。
【0071】
本発明の方法では、第一の加水分解マッシュは、飲料中のオリゴグルコースの主な供給源である。オリゴグルコース(DP4~10)は、第一の加水分解マッシュ中の炭水化物の、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも30重量%、最も好ましくは40~90重量%である。
【0072】
グルコース及びフルクトースは、第一の加水分解マッシュ中の炭水化物の、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下、最も好ましくは0~6重量%である。
【0073】
好ましい態様では、第一の加水分解マッシュの炭水化物組成は、以下の条件:
([グルコース]+[フルクトース])/[オリゴグルコース]は1以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下
(式中、[オリゴグルコース]は重量%によるオリゴグルコース濃度を示す)
を満たす。
【0074】
第二の加水分解マッシュは、炭水化物を、好ましくは5~18重量%、より好ましくは6~16重量%、最も好ましくは7~15重量%含む。
【0075】
グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、マルトトリオース及びオリゴグルコース(DP4~10)は、第二の加水分解マッシュ中の炭水化物の、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも95重量%である。
【0076】
炭水化物及び水は、通常、第二の加水分解マッシュの、少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも97重量%、最も好ましくは少なくとも98重量%である。
【0077】
フルクトース、グルコース、マルトース及びマルトトリオースは、第二の加水分解マッシュ中の炭水化物の、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは95~100重量%である。
【0078】
本発明の方法では、第二の加水分解マッシュは、飲料中の甘味を示す糖の主な供給源である。さらに、第二の加水分解マッシュは、好ましくは、強力な甘味の糖であるフルクトース、グルコース及びマルトースを高濃度で含む。したがって、好ましい態様では、フルクトース、グルコース及びマルトースは、第二の加水分解マッシュ中の炭水化物の、少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは92~100重量%である。
【0079】
特定の好ましい態様では、グルコース及びフルクトースは、第二の加水分解マッシュ中の炭水化物の、少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、最も好ましくは90~100重量%である。
【0080】
上述のとおりフルクトースはグルコースより甘い。したがって、第二の加水分解麦汁の甘味への寄与を最大にするために、例えば、グルコースイソメラーゼを使用して、多くのグルコースをフルクトースに変換することが好ましい。フルクトースは、第二の加水分解マッシュ中の炭水化物の、好ましくは少なくとも25重量%、より好ましくは少なくとも30重量%、最も好ましくは35~50重量%である。
【0081】
好ましい態様では、第二の加水分解マッシュの炭水化物組成は、以下の条件:
([グルコース]+[フルクトース])/[オリゴグルコース]は5以上、好ましくは15以上、より好ましくは30以上
(式中、[オリゴグルコース]は重量%によるオリゴグルコース濃度を示す)
を満たす。
【0082】
本発明のさらに別の側面は、上記飲料の製造方法であって、前記方法は、
(a) デンプン源を準備し;
(b) デンプン源を水と混合してマッシュを得;
(c) マッシュに含まれるデンプンを酵素で加水分解して加水分解マッシュを得、前記酵素による加水分解は、αアミラーゼ、βアミラーゼ及びそれらの組合せから選択されるアミラーゼの存在下で、並びにグルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及びそれらの組合せから選択されるグリコシダーゼの存在下で行われ;
(d) 加水分解マッシュをろ過して麦汁を得;
(e) 場合によっては、前記麦汁をホップ、ホップ抽出物、カラメル及び/又は糖と混合し;
(f) 麦汁を加熱して少なくとも20分間沸騰させる;
工程を含む。
【0083】
ビールなどの酵母による発酵飲料の製造に使用されるマッシング工程とは対照的に、本発明の方法におけるデンプンの酵素による加水分解は、単糖類の濃度が高くなる。酵母発酵飲料の製造では、単糖類の濃度が高くなると、浸透圧ストレスによって酵母に悪い影響を及ぼす可能性があるので、通常、マルトースの形成が最大化され、グルコース及びフルクトースが多くなることは回避される。
【0084】
工程a) で使用できるデンプン源には、麦芽及び麦芽以外の穀物が含まれる。大麦麦芽は、本発明の方法で適切に使用できる麦芽の一例である。使用できる麦芽以外の穀物の例には、大麦、米、小麦、ソルガム、トウモロコシ、ライ麦、オート麦及びその組合せが含まれる。ジャガイモやキャッサバといった塊茎作物も、デンプン源として使用できる。特定の好ましい態様では、本発明の方法で使用するデンプン源は大麦麦芽を含む。
【0085】
本発明によるマッシュの製造は、好ましくは、穀物の粉砕を含む。好ましくは、穀物は水と混ぜてマッシュとする前に粉砕する。
【0086】
本発明の方法におけるデンプンの酵素による加水分解は、αアミラーゼ及び/又はβアミラーゼとグリコシダーゼを組み合せて加えることによって達成される。デンプン分解酵素であるαアミラーゼ及びβアミラーゼは、大麦麦芽の形で適切に添加してもよい。
【0087】
最も好ましくは、デンプンはαアミラーゼ及びβアミラーゼの存在下で加水分解される。
【0088】
デンプンの酵素による加水分解が始まる前に、マッシュは、通常、10g/L以下、より好ましくは5g/L以下の単糖類及び/又は二糖類を含有する。
【0089】
酵素による加水分解が進行すると、αアミラーゼ及びβアミラーゼの作用によりマルトトリオース及びマルトースが形成され、糖の総量が徐々に増加する。グリコシダーゼ(グルコアミラーゼ及び/又はαグルコシダーゼ)の存在のため、マルトトリオース及び/又はマルトースの少なくとも一部が更に加水分解されてグルコースが生成する。
【0090】
本発明の方法においてマルトトリオース、マルトース及びグルコースが形成される速度は、とりわけ、温度、酵素のタイプ(例.最適温度)、酵素の量及び酵素による加水分解時間に依存する。好ましくは、条件は、酵素による加水分解の終わりに、デンプンのかなりの部分が、一方ではαアミラーゼ及び/又はβアミラーゼ、他方ではグリコシダーゼ(グルコアミラーゼ及び/又はαグルコシダーゼ)の複合作用によって、グルコースに変換されるように選択される。好ましくは、本発明の方法で使用するグリコシダーゼはグルコアミラーゼである。
【0091】
通常、デンプンの少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%が、重合度4未満の糖類に変換されたときに、酵素による加水分解を停止する。
【0092】
デンプンの酵素による加水分解(糊化及び液化を含む)は、好ましくは45~95℃で、より好ましくは48~85℃で、最も好ましくは50~65℃で行う。
【0093】
本発明の方法では、グリコシダーゼは、他のデンプン分解酵素と共に添加してもよく、及び/又はデンプン分解酵素が既にデンプンの一部を分解した後で添加してもよい。
【0094】
フルクトースは特に甘みの強い糖である。フルクトースはグルコースよりもかなり甘いので、グルコースをフルクトースに変換して飲料の甘味を強くしてもよい。グルコースイソメラーゼがこの変換を触媒することができる。したがって、好ましい態様では、マッシュに含まれるデンプンはグルコースイソメラーゼの存在下で加水分解される。
【0095】
加水分解マッシュのろ過は、デンプン源からの溶解していない物質を除去し、清澄化された麦汁を生成する。
【0096】
好ましい態様では、麦汁の加熱前又は加熱中に、ホップ及び/又はホップ抽出物を添加する。多くのアルファ酸をイソアルファ酸に変換するために、好ましくは、加熱の終了のかなり前に、ホップ又はホップ抽出物を添加する。
【0097】
上述したように、飲料の甘味は、スクロース及び/又は砂糖シロップの添加により増強してもよい。好ましい態様では、スクロース及び/又は砂糖シロップは、ろ過工程の後、好ましくは麦汁の加熱前又は加熱中に添加する。
【0098】
本発明の方法で添加するスクロース及び/又は砂糖シロップの総量は、最終飲料1Lあたり、好ましくは60g、より好ましくは50gを超えない。
【0099】
本発明の方法の有利な態様では、飲料の製造においてスクロース又は砂糖シロップを添加しない。この態様では、本発明の方法によって甘味が強くなる。
【0100】
別の有利な態様では、本発明の方法は、最終飲料1Lあたり、(減量された)10~50gのスクロース及び/又は砂糖シロップを添加することを含む。より好ましくは、この方法は、最終飲料1Lあたり、スクロース及び/又は砂糖シロップを20~45g添加することを含む。この態様では、糖の添加量を減らして、所望の甘味が達成する。
【0101】
本発明の方法では、麦汁を加熱して、少なくとも40分間、より好ましくは少なくとも50分間沸騰させる。
【0102】
麦汁の加熱後、本発明の方法は、例えば、以下の工程:
- 冷却;
- 成熟;
- ろ過;
- 炭酸化(carbonation);
- 密閉容器(例.ボトル、缶又は樽)に充填
の1つ以上を含んでいてもよい。
【0103】
本発明の方法は、好ましくは発酵工程を含まない。
【0104】
特定の好ましい態様では、本発明の方法は、密閉容器、最も好ましくはボトル、缶又は樽に飲料を充填する工程を含む。
【0105】
好ましくは、飲料は密閉容器に充填する前に炭酸化される。
【0106】
本発明を限定するものではない以下の実施例によって、本発明を更に説明する。
【実施例
【0107】
実施例1
飲料Aの製造
20kgの生の大麦(72%抽出物)を粉砕し、50Lの醸造水(55℃)とともにシリアルクッカーに入れて、マッシュを形成させた。マッシュにCaClを酵素の安定性を保証する濃度となるまで添加した。pHを5.9に調整し、マッシュにレシピ量の市販のプロテアーゼを加え、タンパク質マトリックスを分解して、デンプンを露出させた。マッシュを50℃に加熱し、30分間撹拌した。マッシュにレシピ量の耐熱性αアミラーゼを加え、一定のゆっくりとした速度で93℃に加熱し、ストリームAと称する液化マッシュを得た。
【0108】
24.5kgの大麦麦芽(78%抽出物)を粉砕し、120Lの醸造水(55℃)とともにマッシュタンに入れて、マッシュを形成させた。次いで、マッシュにCaClを酵素の安定性を保証する総カルシウム量となるように添加した。マッシュを20分間撹拌し、ストリームBを得た。
【0109】
ストリームAをストリームBに送り、温度が約62℃の新しいマッシュを形成させた。次いで、混合したマッシュのpHを5.4に調整し、20分間維持した。
【0110】
次に、マッシュを78℃に加熱し、ろ過し、ホップ抽出物及びカラメルを添加した後、60分間煮沸し、清澄化し、冷却して、飲料Aを得た。
【0111】
飲料1の製造
20kgの生の大麦(72%抽出物)を粉砕し、60Lの醸造水(55℃)とともにシリアルクッカーに入れて、50℃でマッシュを形成させた。次いで、マッシュにCaClを酵素の安定性を保証する総濃度となるように添加した。その後、pHを5.9に調整し、マッシュにレシピ量の市販のプロテアーゼを加えた。マッシュを50℃で30分間撹拌した。マッシュにレシピ量の2.5倍の耐熱性αアミラーゼに添加し、ゆっくりと93℃に加熱し、その後60分間維持し、ストリームAと称する液化マッシュを得た。
【0112】
24.5kgの大麦麦芽(78%抽出物)を粉砕し、110Lの醸造水(55℃)とともにマッシュタンに入れて、50℃でマッシュを形成させた。マッシュにCaClを酵素の安定性を保証する総濃度となるように添加した。マッシュを30分間撹拌し、ストリームBを得た。
【0113】
ストリームAをストリームBに送り、温度が約65℃でpH5.2の混合マッシュを形成させた。
【0114】
ストリームの混合後、以下の酵素を添加した:
- 13.4gのBioglucanase HAB(Kerry社が販売するβグルカナーゼ)
- 31.2gのBioferm FA Conc(Kerry社が販売するαアミラーゼ);75分後、この酵素を更に15g加えた
- 53.4gのAmylo 300(Kerry社が販売するアミログルコシダーゼ);90分後、更に53.4g加えた。
【0115】
マッシュを(ストリームAとBを混合した後から)120分間撹拌し、マッシュを78℃に加熱し、ろ過し、ホップ抽出物及びカラメルを添加した後、60分間煮沸し、清澄化し、冷却して、飲料1を得た。
【0116】
飲料A及び飲料1の試飲
飲料A及び飲料1を13.4°P(度プラト)に統一し、この比重で糖プロファイルを測定した。表1を参照。
【0117】
【表1】
【0118】
甘味と口当たりを定性的に比較するために、両方の飲料について、7人がランダムに盲検試験を行った。表2を参照。
【0119】
【表2】
【0120】
実施例2
実施例1の飲料Aを13.4°Pとし、その610mLに46gのスクロースを加え、得られた混合物を12.6°Pとして、全糖含量を約90g/Lとした。これを飲料Bとした。
【0121】
実施例1の飲料1を13.4°Pとし、その460mLに46.7gのスクロースを加え、得られた混合物を11°Pとして、全糖含量を約90g/Lとした。これを飲料2とした。
【0122】
次いで、甘味と口当たりを比較するために、飲料B及び飲料2について、3人の専門被験者がランダムに盲検試験を行った。この結果を表3に示す。
【0123】
【表3】
【0124】
実施例3
実施例1の飲料Aを13.4°Pとし、その360mLに240ppmのOmega Reb A(Tate & Lyle社が販売するステビアベースの甘味料)を加え、混合物を1Lとして、全糖含量を25g/Lとした。これを飲料Cとした。
【0125】
実施例1の飲料1を13.4°Pとし、その260mLに240ppmのOmega Reb Aを加え、混合物を1Lとして、全糖含量を25g/Lとした。これを飲料3とした。
【0126】
次いで、甘味と口当たりを比較するために、飲料C及び3について、3人の専門被験者がランダムに盲検試験を行った。この結果を表3に示す。
【0127】
【表4】
【0128】
実施例4
第一の麦汁の製造
ハンマーミルを使用して麦芽を事前に粉砕した。マッシュタン内の43kgの粉砕した麦芽に160Lのあらかじめ加熱(60℃)した水を加えた。マッシュのカルシウム含量を、CaCl溶液(33%)で165mg/Lに調整した。マッシング後、pHを塩酸溶液(5%)で5.6(±0.1)に調整した。
【0129】
実施したマッシング工程は以下のとおり:
・50℃で段階的に注入(15分)
・65℃に加熱 15分
・65℃を維持 40分
・78℃に加熱 10分
・78℃を維持 10分
【0130】
各チャンバーの容量が7.5kgである6つのチャンバーで構成されたマッシュフィルターを使用して、ろ過した。得られた麦汁を麦汁釜中で沸騰させ(100℃、70分)、pHを塩酸(5%)で4.8(±0.1)に調整した。麦汁を10分間渦巻き状に回転させて、沸騰中に形成した凝集物を除去し、甘い麦汁を得た。このようにして得た麦汁を冷却タンクに移した。以下、これを「第一の麦汁」と称する。
【0131】
第二の麦汁の製造
2つの麦汁は、マッシング工程が異なる点を除き、第一の麦汁と同じ方法で製造した。マッシング中、マッシュをpH4.5(「第二の麦汁A」)又はpH5.4(「第二の麦汁B」)で、アミログルコシダーゼ(Amigase(登録商標) Mega L、DSM Food Specialties B.V.、オランダ)で処理し、マルトース及びマルトトリオースをグルコースに変換した。
【0132】
実施したマッシング工程は以下のとおり:
・60℃で段階的に注入(20分)
・65℃に加熱 20分
・65℃を維持 30分
・19kgの冷水(5℃)を加え59℃に冷却 5分
・塩酸溶液(5%)を加え、pHを4.5又は5.4に調整
・アミログルコシダーゼの添加(穀物1トンあたり5.2kg)
・59℃を維持 120分
・80℃に加熱 21分
・80℃を維持 5分
【0133】
pH5.4に調整したマッシュは、グルコースイソメラーゼ(Sweetzyme(登録商標)、Novozymes)で処理し、グルコースをフルクトースに変換した。グルコースイソメラーゼ(10g/L)を加える前に、水酸化カリウム溶液(1M)で、マッシュのpHを6.5に調整した。次いで、マッシュを80℃で120分間インキュベートした。
【0134】
第一の麦汁と2つの第二の麦汁の炭水化物組成を表5に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
飲料を、表6に示すレシピに基づいて製造した。
【0137】
【表6】
【0138】
対照品 全糖レシピ - 12.4
A 全糖(DP1+2)の20%を除去し、甘味を調整していないレシピ
1 全糖(DP1+2)の20%を除去し、第一の麦汁と2つの第二の麦汁B(フルクトースが豊富な麦汁)で甘味と口当たりを調整したレシピ
2 全糖(DP1+2)の15%を除去し、第一の麦汁と2つの第二の麦汁B(フルクトースが豊富な麦汁)で甘味と口当たりを調整したレシピ
3 全糖(DP1+2)の6%を除去し、第一の麦汁と2つの第二の麦汁A(グルコースが豊富な麦汁)で甘味と口当たりを調整したレシピ
これらの飲料の炭水化物の組成を表7に示す。
【0139】
【表7】
【0140】
さまざまな炭水化物の甘味は、相対甘味度(RS)スケールで表すことができる。炭水化物のRSは、10重量%スクロース溶液と同等の甘味を示す当該炭水化物の濃度(重量%)を10で割ったものに等しい。上述した飲料に含まれる炭水化物のRS値を表8に示す。
【0141】
【表8】
【0142】
このRS値に基づいて、上述した飲料の相対甘味度を計算することができる(「計算相対甘味度」又は「CRS」)。さらに、CRSを炭水化物の割合(%)で割ることにより、炭水化物の総量に基づく相対的な甘味の寄与を計算することができる。これらの計算結果を表9に示す。
【0143】
【表9】
【0144】
実施例5
多量のオリゴグルコースを含む第一の加水分解マッシュと、多量のフルクトース及びグルコースを含む第二の加水分解マッシュを製造することにより、味と口当たりが良好で、炭水化物含量を最小限にした本発明の飲料を製造することができる。
【0145】
実施例4で示したように、通常のマルタ型飲料(対照品)は、相対甘味度が7.1で、オリゴグルコース含量が0.91重量%で、全炭水化物含量(DP1~10)が10.94重量%である。この甘味にするためには、多量のスクロースを加える必要がある。
【0146】
表10は、オリゴグルコースDP4~10のみを含む第一の麦汁と、フルクトース及びグルコースの1:1混合物のみを含む第二の麦汁という2つの仮想麦汁の炭水化物の組成を示す。
【0147】
表10の第一の麦汁と同様の組成の麦汁は、鎖の末端からグルコース分子を除去するのではなく、デンプンを短いデキストリン鎖に分解する加水分解酵素(例.エンドアミラーゼ)を使用し、かつ、デンプンの分解が、多量のマルトトリオース、マルトース及びグルコースが形成される段階に進まないことを確実にすることによって製造することができる。
【0148】
表10の第二の麦汁と同様の組成の麦汁は、デンプンを完全にグルコースに加水分解し、グルコースイソメラーゼで処理してグルコースを異性化し、グルコース及びフルクトースの1:1混合物を得ることによって製造することができる。
【0149】
表10は、甘味及びオリゴグルコース含量の点で上記対照品と一致する上述した2つの麦汁の希釈混合物(「ブレンド」)の組成を示す。
【0150】
【表10】
【0151】
この表から、本発明は、甘味及び口当たりを大幅に損なうことなく、炭水化物含量を最大で33重量%低減することを可能にすると結論付けることができる。また、スクロースを加えることなく甘いマルタ型飲料を製造することを可能にする。