(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20250210BHJP
G01N 27/41 20060101ALI20250210BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/41 325H
G01N27/419 327H
(21)【出願番号】P 2022526871
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2021018103
(87)【国際公開番号】W WO2021241238
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020094508
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100561
【氏名又は名称】岡田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100219690
【氏名又は名称】堀坂 純美子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】新妻 匠太郎
(72)【発明者】
【氏名】幸島 康英
(72)【発明者】
【氏名】青田 隼実
(72)【発明者】
【氏名】平川 敏弘
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-283285(JP,A)
【文献】特開2019-027836(JP,A)
【文献】特開昭62-100657(JP,A)
【文献】特開2006-170862(JP,A)
【文献】特開2013-234896(JP,A)
【文献】特開2018-173319(JP,A)
【文献】特開2020-020737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406-27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部と、
前記基体部の長手方向の一方の端部から被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部と、
前記被測定ガス流通部とは前記複数の固体電解質層の少なくとも1つの固体電解質層を介して前記基体部に埋設された、ヒータ発熱部及びヒータリード部を含むヒータとヒータ絶縁体とからなるヒータ含有層と、
前記基体部と前記ヒータ含有層との間の少なくとも一部に形成された圧力緩和空間と、
を含
み、
前記圧力緩和空間が、前記基体部の内部に閉じられた空間である、被測定ガス中の対象とするガスを検出するセンサ素子。
【請求項2】
前記圧力緩和空間は、
前記基体部と、
前記ヒータ発熱部が存在している領域の前記ヒータ含有層と、
の間の少なくとも一部に形成されている、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記圧力緩和空間が、前記ヒータ含有層の、前記被測定ガス流通部と近い側の面に接して形成されている、請求項1又は2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記圧力緩和空間が、前記ヒータ含有層の、前記被測定ガス流通部と遠い側の面に接して形成されている、請求項1~3のいずれかに記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記圧力緩和空間が、前記ヒータ含有層の側部に接して形成されている、請求項1~4のいずれかに記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記基体部の長手方向に直交する断面において、前記ヒータ含有層の断面積に対する前記圧力緩和空間の断面積の比が0.10以上である、請求項1~5のいずれかに記載のセンサ素子。
【請求項7】
前記基体部の長手方向に直交する断面において、前記ヒータ含有層の断面積に対する前記圧力緩和空間の断面積の比が0.80以下である、請求項1~6のいずれかに記載のセンサ素子。
【請求項8】
前記基体部の長手方向に直交する断面において、前記ヒータ含有層の断面積に対する前記圧力緩和空間の断面積の比が0.3以上0.6以下である、請求項1~7のいずれかに記載のセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いたセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、自動車の排気ガス等の被測定ガス中の対象とするガス成分(酸素O2、窒素酸化物NOx、アンモニアNH3、炭化水素HC、二酸化炭素CO2等)の検出や濃度の測定に使用されている。例えば、自動車の排気ガス中の対象とするガス成分濃度を測定し、その測定値に基づいて自動車に搭載されている排気ガス浄化システムを最適に制御することが行われている。
【0003】
このようなガスセンサとしては、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性の固体電解質を用いたセンサ素子を備えたガスセンサが知られている。ガスセンサは、対象とするガス成分を検知するために、固体電解質の酸素イオン伝導性を発現させる温度まで、センサ素子を加熱して用いられる。そのため、センサ素子内部にヒータが埋設された構造が広く使用されている。しかしながら、使用中にセンサ素子の内部構造に剥離が生じる場合がある。
【0004】
例えば、WO2018/230703号公報には、積層された酸素イオン伝導性の複数の固体電解質層を有するセンサ素子が開示されている。センサ素子の内部には、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部と、対象とするガス成分を検出するための複数の電極と、基準ガスを導入するための基準ガス導入空間と、センサ素子を加熱・保温するためのヒータ部が備えられていることが開示されている。また、ヒータ部に存在するヒータ絶縁層と基準ガス導入空間とが連通するように形成された圧力放散孔が開示されている。
【0005】
特許第4313027号公報には、ヒーター部が発熱体と少なくとも前記発熱体を支持する支持体とを含み、前記発熱体と前記支持体との間に発生する圧力を低減するように設けられた開口部を備えたガスセンサが開示されている。特に、開口部が、大気導入用空所に開口している構造が示されている(
図1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2018/230703号公報
【文献】特許第4313027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
センサ素子の内部構造に剥離が発生する理由は以下のように考えられる。ヒータ発熱体を取り囲んでいるヒータ絶縁体はアルミナ等の絶縁体からなる多孔体である。センサ素子が加熱されていない時には、多孔体であるヒータ絶縁体それ自体の内部やヒータ発熱体との界面等には、空気等の気体成分以外にも、水分等の液体成分が存在する。センサ素子を加熱するためにヒータを発熱させると、これらの水分等がヒータの発熱により蒸発し、発生した水蒸気等によって局所的に圧力が上昇する。この圧力上昇に起因して、剥離が生じると考えられる。従って、センサ素子の内部構造の剥離は、ガスセンサ始動時に発生することが多い。剥離を抑制するためには、局所的な圧力上昇を抑えることが必要であると考えられる。
【0008】
また、ガスセンサは自動車に搭載されている排気ガス浄化システム等に使用され、対象とするガスの濃度を正確に測定することが求められる。ガスセンサの始動時においても、可能な限り早く正確な測定ができるようになることが求められる。本発明者らの検討により、従来のガスセンサは、ガスセンサを始動してから正確な測定が開始できるまでの時間(すなわち、始動時間)が長くなる場合があるという問題が確認された。本発明者らの検討の結果、始動時間が長くなる理由は、以下のように考えられる。基準ガス導入空間は、対象とするガス成分を検知するため、一定の酸素濃度を有する基準ガス(例えば、大気)で満たされている。WO2018/230703号公報によれば、従来のセンサ素子は、ヒータ絶縁体内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和するために、ヒータ絶縁体と基準ガス導入空間とが連通するように圧力放散孔が設けられている。そのため、センサ始動時に、ヒータ絶縁体それ自体の内部やヒータ発熱体との界面等に存在する水分等が蒸発すると、多孔体であるヒータ絶縁体内を通じて、水蒸気等が圧力放散孔から基準ガス導入空間へと流入する。その結果、基準ガス中の酸素濃度が変動するため、被測定ガス中の対象とするガス成分を正確に測定することができない。その後、基準ガス導入空間から水蒸気等が完全に排出されると、基準ガス中の酸素濃度は一定となり、正確な測定ができるようになる。多孔体であるヒータ絶縁体は拡散抵抗が高いため、水蒸気等が基準ガス導入空間に完全に排出され、さらに基準ガス導入空間から完全に排出されるまでに時間を要する。結果として、ガスセンサを始動してから正確な測定が開始できるまでの時間(すなわち、始動時間)が長くなると考えられる。
【0009】
そこで、本発明は、センサ素子の内部構造に剥離が起こることがなく、かつ、ガスセンサを始動してから正確な測定が開始できるまでの始動時間が短いセンサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、センサ素子の固体電解質を含む基体部に埋設された、ヒータ及びヒータ絶縁体とからなるヒータ含有層と、前記基体部との間に圧力緩和空間を形成することにより、センサ素子の内部構造の剥離を抑制し、かつ、ガスセンサの始動時間を短くできることを見出した。
【0011】
本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 積層された複数の酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部と、
前記基体部の長手方向の一方の端部から被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部と、
前記被測定ガス流通部とは前記複数の固体電解質層の少なくとも1つの固体電解質層を介して前記基体部に埋設された、ヒータ発熱部及びヒータリード部を含むヒータとヒータ絶縁体とからなるヒータ含有層と、
前記基体部と前記ヒータ含有層との間の少なくとも一部に形成された圧力緩和空間と、
を含む、被測定ガス中の対象とするガスを検出するセンサ素子。
【0012】
(2) 前記圧力緩和空間は、
前記基体部と、
前記ヒータ発熱部が存在している領域の前記ヒータ含有層と、
の間の少なくとも一部に形成されている、上記(1)に記載のセンサ素子。
【0013】
(3) 前記圧力緩和空間が、前記ヒータ含有層の、前記被測定ガス流通部と近い側の面に接して形成されている、前記(1)又は(2)に記載のセンサ素子。
【0014】
(4) 前記圧力緩和空間が、前記ヒータ含有層の、前記被測定ガス流通部と遠い側の面に接して形成されている、上記(1)~(3)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0015】
(5) 前記圧力緩和空間が、前記ヒータ含有層の側部に接して形成されている、上記(1)~(4)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0016】
(6) 前記基体部の長手方向に直交する断面において、前記ヒータ含有層の断面積に対する前記圧力緩和空間の断面積の比が0.10以上である、上記(1)~(5)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0017】
(7) 前記基体部の長手方向に直交する断面において、前記ヒータ含有層の断面積に対する前記圧力緩和空間の断面積の比が0.80以下である、上記(1)~(6)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0018】
(8) 前記基体部の長手方向に直交する断面において、前記ヒータ含有層の断面積に対する前記圧力緩和空間の断面積の比が0.3以上0.6以下である、上記(1)~(7)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0019】
(9)前記センサ素子は、さらに、前記被測定ガス流通部と前記ヒータ含有層とのそれぞれから離隔して、前記基体部の長手方向の他方の端部に開口部を有し、前記基体部の長手方向に延びるように形成された基準ガス導入空間を含む、上記(1)~(8)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0020】
(10)前記圧力緩和空間が前記基準ガス導入空間に対しては開口していない、上記(9)に記載のセンサ素子。
【0021】
(11)前記圧力緩和空間が、前記基体部の内部に閉じられた空間である、上記(1)~(8)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0022】
(12)前記圧力緩和空間が、前記基準ガス導入空間以外を通じて前記基体部の外部に対して開口している空間である、上記(9)に記載のセンサ素子。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、センサ素子の内部構造の剥離を抑制し、かつ、ガスセンサの始動時間を短くすることができる。多孔体であるヒータ絶縁体それ自体の内部やヒータ発熱体との界面等に水分等の液体成分が存在した状態でガスセンサを始動すると、前記水分等がヒータの発熱により急速に蒸発する。しかしながら、蒸発により発生した水蒸気等の気体成分は、ヒータ絶縁体それ自体の内部やヒータ発熱体との界面等から圧力緩和空間に移動することができるため、ヒータ絶縁体近傍の圧力上昇を抑えることができる。結果として、センサ素子の内部構造の剥離を抑制することができる。従って、本発明に係るセンサ素子を用いれば、センサ素子がその内部構造の剥離によって破壊されにくく、繰り返し使用に耐えることができるため、ガスセンサの耐久性が向上する。
【0024】
また、本発明によれば、圧力緩和空間はセンサ素子の基体部内部に閉じた空間でよい。従って、ヒータの発熱により発生した水蒸気等の気体成分が基準ガス導入空間に流入することがなく、基準ガス中の酸素濃度を変動させない。その結果、ガスセンサの始動時間を短くすることができる。ゆえに、本発明に係るセンサ素子を用いれば、ガスセンサの始動直後から正確な測定が開始できる。
【0025】
また、本発明によれば、圧力緩和空間が存在することにより、ヒータと、基体部を構成する固体電解質との間の絶縁性をより向上させることができる。絶縁性のさらなる向上により、ヒータから固体電解質へのリーク電流をより低減することができ、対象とするガスを検出する際の電気信号の信号精度を向上させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】ガスセンサ100の概略構成の一例を示す長手方向の垂直断面模式図である。
【
図2】ガスセンサ100の概略構成の他の例を示す長手方向の垂直断面模式図である。
図2におけるセンサ素子101は、
図1におけるセンサ素子101と被測定ガス流通部の構成が異なる変形例である。
【
図3】ヒータ72(ヒータ発熱部72a及びヒータリード部72b)と圧力緩和空間76の概略的な平面配置の例を示す模式図である。
【
図4】ヒータ72(ヒータ発熱部72a及びヒータリード部72b)と圧力緩和空間76の概略的な平面配置の他の例を示す模式図である。
【
図5】
図1のV-V線に沿う断面模式図である。すなわち、センサ素子101の長手方向に直交する垂直断面模式図であり、圧力緩和空間76の一例を示す模式図である。
【
図6】センサ素子101の圧力緩和空間76についての他の例を示す模式図である。
【
図7】センサ素子101の圧力緩和空間76についての他の例を示す模式図である。
【
図8】センサ素子101の圧力緩和空間76についての他の例を示す模式図である。
【
図9】実施例における切断断面の位置を示す、平面模式図である。
【
図10】従来のセンサ素子の長手方向に直交する垂直断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のセンサ素子は、
積層された複数の酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部と、
前記基体部の長手方向の一方の端部から被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部と、
前記被測定ガス流通部とは前記複数の固体電解質層の少なくとも1つの固体電解質層を介して前記基体部に埋設された、ヒータ発熱部及びヒータリード部を含むヒータとヒータ絶縁体とからなるヒータ含有層と、
前記基体部と前記ヒータ含有層との間の少なくとも一部に形成された圧力緩和空間と、
を含む。
【0028】
[ガスセンサの概略構成]
本発明のセンサ素子について、図面を参照して以下に説明する。
図1は、センサ素子101を含むガスセンサ100の概略構成の一例を示す長手方向の垂直断面模式図である。以下においては、
図1を基準として、上下とは、
図1の上側を上、下側を下とし、
図1の左側を先端側、右側を後端側とする。
【0029】
図1において、ガスセンサ100は、センサ素子101によって被測定ガス中のNOxを検知し、その濃度を測定する限界電流型のNOxセンサの一例を示している。
【0030】
センサ素子101は、複数の酸素イオン伝導性の固体電解質層が積層された構造を有する基体部102を含む、長尺板状の素子である。長尺板状とは、長板状、あるいは、帯状ともいう。基体部102は、それぞれがジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する。これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。前記6つの層は全て同じ厚みであってもよいし、各層毎に異なる厚みであってもよい。各層の間は、固体電解質からなる接着層を介して接着されており、基体部102には前記接着層を含む。
図1においては、前記6つの層からなる層構成を例示したが、本発明における層構成はこれに限られるものではなく、任意の層構成としてよい。
【0031】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0032】
センサ素子101の長手方向の一方の端部(以下、先端部という)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、被測定ガス導入口10が形成されている。被測定ガス流通部は、被測定ガス導入口10から長手方向に、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0033】
被測定ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0034】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(
図1において図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。
【0035】
また、被測定ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43は、センサ素子101の他方の端部(以下、後端部という)に開口部を有している。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0036】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0037】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0038】
被測定ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0039】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0040】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0041】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0042】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの圧力変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空間へ導入される被測定ガスの圧力変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0043】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0044】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0045】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部22c(
図5、
図1においては図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0046】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0047】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を可変電源24により印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0048】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0049】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0050】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0051】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
【0052】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0053】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0054】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
【0055】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0056】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0057】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0058】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0059】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0060】
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0061】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
【0062】
第4拡散律速部45は、アルミナ(Al2O3)を主成分とする多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜としても機能する。
【0063】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0064】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0065】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0066】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0067】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0068】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0069】
主ポンプセル21、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80、補助ポンプセル50、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81、測定用ポンプセル41、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82、センサセル83、及び被測定ガス流通部をガス検知部と総称する。ガス検知部の構成は特に限定されず、固体電解質の酸素イオン伝導性を利用して対象とするガス成分を検知するように構成されていればよい。
【0070】
図1においては、被測定ガス流通部は2つの内部空所(第1内部空所20及び第2内部空所40)を有する構造であるが、被測定ガス流通部の構造はこれに限られない。
図2は、ガスセンサ100の概略構成の他の例を示す長手方向の垂直断面模式図である。
図2におけるセンサ素子101は、
図1におけるセンサ素子101と被測定ガス流通部の構成が異なる変形例である。
図2に例示するように、第2内部空所40を第5拡散律速部60でさらに2室に分け、第3内部空所61を形成しても良い。この場合、第2内部空所に補助ポンプ電極51を配置し、第3内部空所に測定電極44を配置しても良い。また第3内部空所61を形成する場合(3室構造)には、第4拡散律速部45を設けなくても良い。なお、
図2において、
図1と同じものには同じ符号を付しているので、説明は省略する。
【0071】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。加えて、センサ素子101は、センサ素子の内部構造の剥離の発生を抑制するための圧力緩和空間76を備えている。以下に詳しく説明する。
【0072】
[ヒータ部]
ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72(72a、72b)と、スルーホール73と、ヒータ絶縁体74を備えている。
【0073】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0074】
図3は、ヒータ72と後述する圧力緩和空間76の概略的な平面配置の例を示す模式図である。ヒータ72は、ヒータ発熱部72aと、ヒータ発熱部72aに接続していて且つセンサ素子101の長手方向後端側に延びているヒータリード部72bとを含んでいる。
図1を参照すると、ヒータ発熱部72aは、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ発熱部72aは、ヒータリード部72b及びスルーホール73を介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0075】
ヒータ発熱部72aは、第1内部空所20から第2内部空所40のほぼ全域に渡って、素子厚み方向において前記全域に対向するように埋設されており、センサ素子101のガス検知部を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
図3に示されるように、ヒータ発熱部72aは、平面から見て、蛇行した1本の線状の電気抵抗体である。
図3において、ヒータ発熱部72aは、ヒータ72の破線で囲まれた部分である。2本のヒータリード部72bは、ヒータ発熱部72aの両端にそれぞれ接続され、センサ素子101の長手方向後端部に向かってが延びている(
図3)。ヒータ発熱部72aの蛇行の数や線幅などの形状は、センサ素子101のガス検知部を所定の温度に調整することができるように任意に設定しうる。また、ガス検知部の全域が同じ温度に調整される必要はなく、ガス検知部に温度分布があってもよい。
【0076】
ヒータ72の変形例を
図4に示す。ヒータ発熱部72aとしては、
図4に示されるような、いわゆるくし型形状を採用してもよい。ヒータ発熱部72aの両端は、平面視略三角形状に先太りしており、それぞれがヒータリード部72bに接続されている。
図4において、ヒータ発熱部72aは、ヒータ72の破線で囲まれた部分である。ヒータ発熱部72aの長さや線幅などの形状は、センサ素子101のガス検知部を所定の温度に調整することができるように任意に設定しうる。また、ガス検知部の全域が同じ温度に調整される必要はなく、ガス検知部に温度分布があってもよい。
【0077】
ヒータ絶縁体74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって層状に形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁体74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。ヒータ絶縁体74は、多孔体である。
図3において、図示を省略しているが、ヒータ絶縁体74はヒータ72(ヒータ発熱部72a及びヒータリード部72b)全体を覆う領域に存在しており、その平面形状はほぼ矩形である。
【0078】
ヒータ部のうち、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様で埋設されているヒータ72とヒータ絶縁体74とを、ヒータ含有層75と称する。
【0079】
ヒータ発熱部72aの厚みは、所望の電気抵抗値となるように適宜設定してよい。ヒータ絶縁体74の厚みは、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性が保たれる範囲で適宜設定してよい。例えば、ヒータ含有層75の厚みとして、15~50μmとすることができる。ここで、ヒータ含有層75の厚みは、ヒータ72が存在する部分においては、ヒータ72及びヒータ絶縁体74を合わせた厚みである。ヒータ含有層75の長手方向の長さは、センサ素子の長さよりも短ければよく、例えば、40~80mmとすることができる。ヒータ含有層75の長手方向に直交する幅方向の長さは、センサ素子の幅よりも短ければよく、例えば、2~5mmとすることができる。また、ヒータ発熱部72aを含む領域のヒータ含有層75は、長手方向の長さを、例えば、2~15mmとすることができる。
【0080】
[圧力緩和空間]
センサ素子101は、圧力緩和空間76を備えている。
図3は、上述のように、ヒータ72と圧力緩和空間76の概略的な平面配置の例を示す模式図である。
図3において、圧力緩和空間76の平面における領域を、破線で例示している。
図5は、
図1のV-V線に沿う断面模式図である。すなわち、センサ素子101の長手方向に直交する垂直断面模式図であり、圧力緩和空間76の一例を示す模式図である。
【0081】
圧力緩和空間76は、センサ素子101の基体部102を構成する第3基板層3の下面とヒータ絶縁体74の上面とに挟まれた態様にて形成されている。すなわち、ヒータ含有層75の被測定ガス流通部に近い側の面75aに接して形成されている。
図5に示されるように、ヒータ絶縁体74と圧力緩和空間76の側面はそれぞれ接着層90に接している。接着層90は、第2基板層2と第3基板層3とを接着する気密な層であり、第2基板層2と第3基板層3と同じく、酸素イオン伝導性の固体電解質で構成される層である。
図3において破線で示されているように、圧力緩和空間76は、平面においてヒータ発熱部72aの全域をほぼ覆うように、ヒータ絶縁体74(
図3において図示省略)の上面に配置されている。圧力緩和空間76は、センサ素子101の長手方向に延びた層状の空間であり、センサ素子101の基体部102の内部に閉じた空間である。
【0082】
ヒータ絶縁体74は多孔体であるため、その内部やヒータ発熱部72aとの界面等に水分等の液体成分が溜まることがある。ガスセンサ使用中には、ヒータ発熱部72aの発熱によりセンサ素子は高温になるが、ガスセンサが使用されていない時(センサ素子が加熱されていない時)には、センサ素子は雰囲気温度と同じ温度になっている。そのため、多孔体であるヒータ絶縁体74の内部やヒータ発熱部72aとの界面等には、空気等の気体成分以外にも、水分等の液体成分が存在する。ヒータ絶縁体74の内部やヒータ発熱部72aとの界面等に水分等の液体成分が存在した状態で、ガスセンサを始動した場合、ヒータ発熱部72aの発熱によって水分等の液体成分が急速に蒸発する。蒸発により発生した水蒸気等の気体成分は、ヒータ絶縁体74の内部やヒータ発熱部72aとの界面等から圧力緩和空間76に移動することができるため、ヒータ絶縁体74近傍の圧力上昇を抑えることができる。結果として、センサ素子101が、隣り合う2つの固体電解質層の間、主に、第2基板層2と第3基板層3との間で剥離することを抑制することができると考えられる。従って、圧力緩和空間76を有するセンサ素子101を用いれば、センサ素子101がその内部構造の剥離によって破壊されにくく、繰り返し使用に耐えることができるため、ガスセンサ100の耐久性が向上する。
【0083】
圧力緩和空間76は、ヒータ絶縁体74の内部やヒータ発熱部72aとの界面等に存在する水分等の液体成分の蒸発による圧力を緩和することができればよい。圧力緩和空間76の厚みは、例えば、10~50μmとすることができる。圧力緩和空間76の長手方向の長さは、例えば、2~15mmとすることができる。圧力緩和空間76の長手方向に直交する幅方向の長さは、センサ素子の幅よりも短ければよく、例えば、2~5mmとすることができる。
【0084】
圧力緩和空間76は、基体部102を構成する固体電解質とヒータ含有層75との間の少なくとも一部に存在すればよい。圧力緩和空間76は、平面においてヒータ発熱部72aの全域をほぼ覆うように配置されていてもよいし、ヒータ発熱部72aの一部を覆うように配置されていてもよい。ヒータリード部72bの全部又は一部を覆うように配置されていてもよい。圧力緩和空間76は、ヒータ発熱部72aの領域のみに存在してもよいし、ヒータ発熱部72aの領域からさらにヒータリード部72bを含めてセンサ素子101の後端部まで延びていてもよい。あるいは、圧力緩和空間76は、ヒータリード部72bの領域のみに存在してもよい。また、圧力緩和空間76は、連続した1つの空間でもよいし、互いに独立した複数の空間から構成されていてもよい。
【0085】
図5においては、圧力緩和空間76が、ヒータ含有層75の被測定ガス流通部に近い側の面75aに接して形成されている形態について説明した。
【0086】
圧力緩和空間76の他の形態として、
図6に示されるように、第2基板層2の上面とヒータ絶縁体74の下面との間に(すなわち、ヒータ含有層75の被測定ガス流通部から遠い側の面75bに接して)圧力緩和空間76を形成してもよい。この場合の圧力緩和空間76は、センサ素子101の長手方向に延びた層状の空間である。
【0087】
このように、圧力緩和空間76を、ヒータ含有層75の、被測定ガス流通部と遠い側の面75bに接して形成した場合は、ガスセンサ使用中(センサ素子が高温に保持されている状態)において、センサ素子101に水が掛かった場合の強度(耐被水性)を向上させることもできる。圧力緩和空間が、高温のセンサ素子表面に水が掛かった時に生じる応力を緩和する働きをすると推察される。
【0088】
あるいは、圧力緩和空間76の他の形態として、
図7に示されるように、ヒータ含有層75の側部、すなわち、ヒータ含有層75の側面75cと接着層90の内方側面90aとの間に(すなわち、ヒータ含有層75の側面75cに接して)圧力緩和空間76を形成してもよい。この場合の圧力緩和空間76は、長手方向に延びた空間であり、例えば、その長手方向に直交する断面が矩形(
図7)やその他のいずれの形状であってもよい。圧力緩和空間76は、ヒータ含有層75の両側面に存在してもよいし、片側のみに存在してもよい。
【0089】
また、圧力緩和空間76の他の形態として、
図8に示されるように、ヒータ発熱部72aの上面及び側面が、圧力緩和空間76に露出するように、圧力緩和空間76を形成してもよい。この場合、ヒータ含有層75はヒータ絶縁体74とヒータ72とから構成される。ヒータ発熱部72aの上面のみが圧力緩和空間76に露出していてもよい。
【0090】
圧力緩和空間76の大きさ(容積)については、当業者が適宜設定することができる。例えば、センサ素子101の長手方向に直交する垂直断面において、ヒータ含有層75の断面積A
75(すなわち、ヒータ72の断面積とヒータ絶縁体74の断面積との和)に対する圧力緩和空間76の断面積A
76の比R(A
76/A
75)を、下限としては、0.10以上としてもよい。0.10以上であれば、ヒータ絶縁体74近傍の圧力上昇を抑制しやすい。好ましくは、断面積比Rが0.30以上としてもよい。一方、上限としては、断面積比Rが0.80以下としてもよい。好ましくは、0.60以下としてもよい。上限は、センサ素子の第2基板層2と第3基板層3との間の密着強度の観点から設定するとよい。好ましい範囲としては、0.10以上0.80以下、あるいは、0.30以上0.80以下としてもよい。より好ましくは、0.30以上0.60以下としてもよい。
図5~8に例示されているような、種々の圧力緩和空間76の配置において、上記の断面積比Rを設定してよい。なお、上記垂直断面は、センサ素子101の長手方向に直交するどの位置における垂直断面でもよい。
【0091】
ここで、ヒータ含有層75の断面積A75に対する圧力緩和空間76の断面積A76の比R(A76/A75)は、以下のように算出することができる。センサ素子101の長手方向に直交する垂直断面を研磨し、SEMにて撮影する。次に、得られたSEM画像を二値化処理してヒータ含有層75の断面積A75を求める。さらに、二値化処理の条件を変更して圧力緩和空間76の断面積A76を求める。求めたヒータ含有層75の断面積A75と、圧力緩和空間76の断面積A76とから、断面積比R=A76/A75を算出する。
【0092】
図1において、圧力緩和空間76は、センサ素子101の内部に閉じた空間である。従って、ヒータ絶縁体74の内部やヒータ発熱部72aとの界面等に存在する水分等の液体成分が蒸発して水蒸気等の気体成分が発生しても、圧力緩和空間76内に放出されるのみであり、基準ガス導入空間43に対して影響を与えることがない。つまり、ガスセンサを始動してから正確な測定が開始できるまでの始動時間に影響を与えず、ガスセンサの始動時間を短くすることができる。あるいは、圧力緩和空間76は、基準ガス導入空間43以外を通じて基体部102の外部に対して開口していてもよい。圧力緩和空間76が基体部102の外部に対して開口している場合は、発生した水蒸気等の気体成分による圧力をより低減することができる。基準ガス導入空間43以外を通じて開口しているのであれば、発生した水蒸気等の気体成分は、基準ガス導入空間43に対して直接影響を与えない。従って、この場合であっても、ガスセンサの始動時間を短くすることができると考えられる。
【0093】
圧力緩和空間76によって、さらに、以下の効果を得ることができる。圧力緩和空間76が存在することにより、基体部102を構成する固体電解質とヒータとの間に、ヒータ絶縁体74に加えて空間が介在することになるため、固体電解質とヒータとの間の絶縁性をより向上させることができる。絶縁性のさらなる向上により、ヒータから固体電解質へのリーク電流をより低減することができ、対象とするガスを検出する際の電気信号の信号精度を向上させることができる。
【0094】
[センサ素子製造方法]
次に、上述のようなセンサ素子の製造方法の一例を説明する。ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む複数の未焼成のシート状成形物(いわゆるグリーンシート)に所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後に、当該複数のシートを積層し、その積層体を切断した後、焼成することによってセンサ素子101を作製することができる。
【0095】
以下においては、
図1に示した6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合を例として説明する。
【0096】
まず、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む6枚のグリーンシートを準備する。グリーンシートの作製には、公知の成形方法を用いることができる。6枚のグリーンシートは全て同じ厚みでもよいし、形成する層によって厚みが異なってもよい。6枚のグリーンシートそれぞれに、印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴等を、パンチング装置による打ち抜き処理などの公知の方法で、予め形成する(ブランクシート)。スペーサ層5に用いるブランクシートには、内部空所等の貫通部も同様の方法で形成する。その他の層にも必要な貫通部を予め形成する。
【0097】
第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層に用いるブランクシートに、各層毎に必要な種々のパターンの印刷・乾燥処理を行う。パターンの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を用いることができる。乾燥処理についても、公知の乾燥手段を用いることができる。
【0098】
圧力緩和空間76の形成について、
図5の形態のセンサ素子101を作製する場合について、詳しく説明する。まず、第2基板層2に用いるブランクシートを準備する。この時、第2基板層2に用いるブランクシートが、第1基板層1に用いるブランクシートと予め積層された態様で準備されていてもよい。
【0099】
第2基板層2に用いるブランクシートに、ヒータ含有層75を印刷により形成する。ヒータ絶縁体74形成用のペースト(ヒータ絶縁体ペースト)を所定のパターンにて印刷・乾燥する。所望の厚みによっては、複数回印刷・乾燥を繰り返してもよい。印刷されたヒータ絶縁体ペーストの上に、ヒータ72形成用のペースト(ヒータペースト)を所定のパターンにて印刷・乾燥する。ヒータ72を形成する場合、ヒータ発熱部72aとヒータリード部72bとが同じヒータペーストで印刷されてもよいし、異なるヒータペーストで印刷されてもよい。また、所望の厚みによっては、複数回印刷・乾燥を繰り返してもよいし、ヒータ発熱部72aとヒータリード部72bとが異なる回数印刷・乾燥されてもよい。さらに、印刷されたヒータペーストの上に、ヒータ絶縁体ペーストを所定のパターンにて印刷・乾燥する。所望の厚みによっては、複数回印刷・乾燥を繰り返してもよい。
【0100】
次に、圧力緩和空間76を形成する。印刷されたヒータ含有層75の上に、圧力緩和空間76形成用のペースト(後工程の焼成により消失する消失材ペースト)を所定のパターンにて印刷・乾燥する。所望の厚みによっては、複数回印刷・乾燥を繰り返してもよい。
【0101】
また、第2基板層2に用いるブランクシートに、接着層90形成用のペースト(接着用ペースト)を所定のパターンにて印刷・乾燥する。所望の厚みによっては、複数回印刷・乾燥を繰り返してもよい。接着層90は、第2基板層2と第3基板層3を接着するための層であり、ヒータ含有層75と圧力緩和空間76とを合わせた厚みとほぼ等しい厚みになっていることが好ましい。
【0102】
ヒータ絶縁体ペーストとしては、Al2O3に樹脂・有機溶剤を混合して所定の粘度に調整したものが用いられる。ヒータペーストとしては、Ptを主成分とし、樹脂・有機溶剤を混合して所定の粘度に調整したものが用いられる。消失材ペーストとしては、後工程の焼成により消失する材料と有機溶剤とを混合して所定の粘度に調整したものが用いられる。消失材ペーストは後工程の焼成により消失するものであればよい。例えば、テオブロミン、アクリル樹脂、カーボン等を用いることができる。接着用ペーストは、固体電解質を含む。第2基板層2及び第3基板層3と同じ固体電解質を用いてもよい。例えば、ZrO2を主成分とし、樹脂・有機溶剤を混合して所定の粘度に調整したものが用いられる。
【0103】
6枚のブランクシートそれぞれに対する種々のパターンの印刷・乾燥が終わると、6枚の印刷済みブランクシートを、シート穴等で位置決めしつつ所定の順序で積み重ねて、所定の温度・圧力条件で圧着させて積層体とする圧着処理を行う。圧着処理は、公知の油圧プレス機等の積層機で加熱・加圧することにより行う。加熱・加圧する温度、圧力及び時間は、用いる積層機に依存するものであるが、良好な積層が実現できるように、適宜定めることができる。
【0104】
得られた積層体は、複数個のセンサ素子101を包含している。その積層体を切断してセンサ素子101の単位に切り分ける。切り分けられた積層体を所定の焼成温度で焼成し、センサ素子101を得る。焼成温度は、センサ素子101の基体部102を構成する固体電解質が焼結して緻密体となり、かつ、電極等が所望の気孔率を保持する温度であればよい。例えば、1300~1500℃程度の焼成温度で焼成される。上述のとおり、消失材ペーストが焼成によって消失するため、消失材ペーストが存在していた領域が空間となり、圧力緩和空間76を形成することができる。
【0105】
図6に示されるように、圧力緩和空間76を第2基板層2とヒータ含有層75との間に形成する場合は、第2基板層2に用いるブランクシートに、まず、圧力緩和空間76を形成するための消失材ペーストを所定のパターンにて印刷・乾燥する。その上に、上述のようにヒータ含有層75を印刷により形成する。その後、焼成により圧力緩和空間76を形成する。
【0106】
図7に示されるように、圧力緩和空間76をヒータ含有層75の側面75cに接して形成する場合は、第2基板層2に用いるブランクシートに、圧力緩和空間76を形成するための消失材ペーストと、ヒータ絶縁体74を形成するためのヒータ絶縁体ペーストをそれぞれ所定のパターンにて印刷・乾燥する。消失材ペーストは、接着層90の内側に沿って、センサ素子101の長手方向に延びるように印刷される。ヒータ絶縁体ペーストの上には、ヒータペーストとヒータ絶縁体ペーストとをさらに印刷・乾燥してヒータ含有層75を形成する。その後、焼成により圧力緩和空間76を形成する。
【0107】
図8に示されるように、圧力緩和空間76にヒータ発熱部72aを露出させた態様の場合は、ヒータ絶縁体ペーストを印刷・乾燥した上に、ヒータペーストを所定のパターンにて印刷・乾燥する。さらにその上に、圧力緩和空間76を形成するための消失材ペーストを印刷・乾燥する。その後、焼成により圧力緩和空間76を形成する。
【0108】
図5、6、7、及び8において、センサ素子101の内部における圧力緩和空間76の配置の例を示したが、本発明は上記の例に示される形態に限られない。本発明においては、センサ素子の内部構造の剥離を抑制し、かつ、ガスセンサの始動時間を短くするという本発明の目的を達成する範囲であれば、種々の形態の圧力緩和空間76を含むセンサ素子が含まれ得る。
【実施例】
【0109】
以下に、センサ素子を具体的に作製して試験を行った例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0110】
[実施例1~6]
実施例1~6として、上述したセンサ素子101の製造方法に従って、ヒータ絶縁体74と第3基板層3との間(すなわち、ヒータ含有層75の被測定ガス流通部に近い側の面75a)に圧力緩和空間76が形成されたセンサ素子(
図5)を作製した。消失材ペーストとしては、テオブロミンと有機溶剤とを混合して所定の粘度に調整したものを使用した。圧力緩和空間76はヒータ発熱部72aのほぼ全域を覆う領域に形成した。圧力緩和空間76とヒータ絶縁体74の幅方向の長さはほぼ同じとした。実施例1~6においては、ヒータ含有層75の厚みは一定とし、圧力緩和空間76の厚みを6種類変化させた。
【0111】
センサ素子101の長手方向に直交し、かつ、ヒータ発熱部72aを含む垂直断面において、ヒータ含有層75の断面積A75に対する圧力緩和空間76の断面積A76の比Rは、各々、0.04(実施例1)、0.14(実施例2)、0.24(実施例3)、0.33(実施例4)、0.66(実施例5)、0.79(実施例6)であった。
【0112】
なお、断面積比Rは、以下のように算出した。まず、実施例1について、センサ素子101の長手方向に直交し、かつ、ヒータ発熱部72aを含む3か所における切断断面を研磨した研磨断面を準備した。すなわち、
図9を参照して、センサ素子101の長手方向におけるヒータ発熱部72aの先端(S1)、中心(S2)、及び後端(S3)の3つの研磨断面を準備した。3つの研磨断面それぞれのSEM画像(反射電子像、倍率30倍、約130万画素)を撮影した。SEM画像の倍率はセンサ素子101の大きさ等に応じて、適宜変更してもよい。次に、撮影したうちの1枚のSEM画像について、画像処理ソフトウェアPick Map(URL:https://fishers.mydns.jp/software/pickmap/index.html)を用いて、当該SEM画像の中のヒータ含有層75(すなわち、ヒータ発熱部72a及びヒータ絶縁体74)のみが抽出されるように、閾値をRGBの平均値に調整することによって当該SEM画像を二値化した。なお、画像処理ソフトウェアPick Mapは、上記URLより最新版を入手し、使用することができる。さらに、画像処理ソフトウェアPick Mapを用いて、二値化したSEM画像中のヒータ含有層75の断面積A
75を算出した。圧力緩和空間76についても、同様に、画像処理ソフトウェアPick Mapを用いて、当該SEM画像を二値化し、断面積A
76を算出した。その後、算出したヒータ含有層75の断面積A
75と圧力緩和空間76の断面積A
76とから、断面積比R:(圧力緩和空間76の断面積A
76)/(ヒータ含有層75の断面積A
75)を算出した。残り2枚のSEM画像に対しても同じ操作を行い、断面積比Rを算出した。算出した3つの断面積比Rの値を平均した値を、実施例1における断面積比Rとした。実施例2~6についても、同様に断面積比Rを算出した。
【0113】
[実施例7]
実施例7として、第2基板層2とヒータ絶縁体74との間(すなわち、ヒータ含有層75の被測定ガス流通部に遠い側の面75b)に圧力緩和空間76が形成されたセンサ素子を作製した(
図6)。圧力緩和空間76の平面形状は、実施例1~6と同じとした。圧力緩和空間76の形成以外は、実施例1~6と同じように作製した。センサ素子101の長手方向に直交し、かつ、ヒータ発熱部72aを含む垂直断面において、ヒータ含有層75の断面積A
75に対する圧力緩和空間76の断面積A
76の比R(断面積比)は、0.31(実施例7)であった。断面積比Rの算出は、実施例1~6と同じように行った。
【0114】
[実施例8]
実施例8として、接着層90の側面90aとヒータ絶縁体74の側面との間に(すなわち、ヒータ含有層75の側面75cに接して)圧力緩和空間76が形成されたセンサ素子を作製した(
図7)。圧力緩和空間76は、ヒータ含有層75の両側面に、センサ素子の長手方向に延びた空間とし、長手方向の長さは実施例1~7の場合と同じとした。圧力緩和空間76の形成以外は、実施例1~6と同じように作製した。センサ素子101の長手方向に直交し、かつ、ヒータ発熱部72aを含む垂直断面において、ヒータ含有層75の断面積A
75に対する圧力緩和空間76の断面積A
76の比R(断面積比)は、0.40(実施例8)であった。断面積比Rの算出は、実施例1~6と同じように行った。
【0115】
[比較例1]
比較例1として、圧力緩和空間76がないセンサ素子を作製した(
図10)。圧力緩和空間76を形成しなかったことを除いて、実施例1~6と同じように作製した。
【0116】
なお、
図5及び
図6に示されるように、圧力緩和空間76をヒータ含有層75の上面又は下面に沿ってセンサ素子101の長手方向に延びるように形成した場合(実施例1~7)においては、上記断面積比Rと、
図1に示されるようなセンサ素子101の長手方向に沿う垂直断面における断面積比とは実質的にほぼ同じである。
【0117】
[剥離発生電圧の測定]
実施例1~8及び比較例1で得られたセンサ素子を用いて、剥離発生電圧の測定を実施した。まず、センサ素子の後端側、すなわちガス導入口がある先端側とは反対側を、水に4時間浸漬した。表面に付着した水分をふき取った後、センサ素子101のヒータ72に6Vの電圧を30秒間印加し、センサ素子の剥離が発生するかを調べた。剥離が発生しなかった場合は、1V刻みで12Vまで印加電圧を上げて、剥離が発生する電圧を調べた。実施例1~8及び比較例1の試験サンプル数は、各々5本とした。結果を表1に示す。
【0118】
【0119】
表1に、実施例1~8及び比較例1の各水準における圧力緩和空間76の位置と断面積比R(A76/A75)を示す。さらに、各水準について、各印加電圧(6V、7V、8V、9V、10V、11V、及び12V)における剥離発生本数(本)を示している。
【0120】
実施例1~8において、6Vで剥離したサンプルはなかった。実施例2~8においては、10V以下で剥離したサンプルはなかった。実施例3及び実施例6については、6~11Vの印加では5本中1本も剥離が発生せず、12V印加で初めて1本に剥離が生じた。残りの4本は12Vを印加しても剥離が生じなかった。実施例4、5、7及び8の4水準では、6~12Vを印加しても5本すべてに剥離は生じなかった。
【0121】
比較例1においては、5本のサンプル各々に対して、ヒータに6Vを印加し、1本が6Vの印加によりセンサ素子101に剥離を生じた。6Vで剥離が生じなかった4本のサンプル各々に対して、ヒータに7Vを印加し、4本すべてが7Vの印加により剥離を生じた。
【0122】
この剥離電圧の測定試験は、加速試験である。センサ素子後端を水に浸漬することにより、強制的にヒータ絶縁体74の内部又は界面に水を溜める。さらに、通常ヒータ発熱部72aは制御された温度カーブで加熱されるところ、この試験においては、一定電圧をかけることによって、急速にヒータ発熱部72aを加熱し、急速に水蒸気を発生させる。従って、この試験における剥離発生電圧から、実使用時の剥離発生の程度を直接的かつ定量的に推定できるものではない。しかしながら、比較例1と比べて剥離発生電圧が高い、あるいは、印加電圧を上げても剥離が発生しないのであれば、実際の使用中においても、比較例1と比べて剥離の発生が抑制されることが確認されている。
【0123】
実施例1~8は、圧力緩和空間76が存在するため、比較例1と比べて剥離発生電圧が高く、センサ素子101の剥離を抑制することができた。また、実施例4、7、及び8の結果から分かるように、圧力緩和空間76の位置によらず、センサ素子101の剥離を抑制することができた。
【0124】
さらに、断面積比の値が大きくなる(すなわち、圧力緩和空間76の容積が大きくなる)につれて、より剥離発生電圧が高くなった(実施例1~5)。ヒータ発熱部72aの発熱によって、ヒータ絶縁体74の内部又は界面から水蒸気が発生するが、圧力緩和空間76の容積が大きいほど圧力の上昇がより抑えられ、センサ素子101の剥離をより抑制することができたと考えられる。一方、断面積比の値が大きくなりすぎると、抑制効果がやや小さくなる傾向がみられた(実施例6)。断面積比の値が大きすぎると、圧力を緩和する効果は十分に得られるが、センサ素子内部の空間が大きすぎるために、センサ素子の構造強度が下がり、より小さい応力で第2基板層2と第3基板層3との間が剥離したものと推察される。
【0125】
以上のように、圧力緩和空間76が存在することによって、使用中のセンサ素子の剥離の発生を抑制できることが明らかになった。圧力緩和空間76が、ヒータ絶縁体74のいずれの面(上面、下面、又は側面)に接していても、剥離の発生を抑制することができることが示された。
【符号の説明】
【0126】
1 第1基板層
2 第2基板層
3 第3基板層
4 第1固体電解質層
5 スペーサ層
6 第2固体電解質層
10 ガス導入口
11 第1拡散律速部
12 緩衝空間
13 第2拡散律速部
20 第1内部空所
21 主ポンプセル
22 内側ポンプ電極
22a (内側ポンプ電極の)天井電極部
22b (内側ポンプ電極の)底部電極部
22c (内側ポンプ電極の)側部電極部
23 外側ポンプ電極
24 (主ポンプセルの)可変電源
30 第3拡散律速部
40 第2内部空所
41 測定用ポンプセル
42 基準電極
43 基準ガス導入空間
44 測定電極
45 第4拡散律速部
46 (測定用ポンプセルの)可変電源
48 大気導入層
50 補助ポンプセル
51 補助ポンプ電極
51a (補助ポンプ電極の)天井電極部
51b (補助ポンプ電極の)底部電極部
52 (補助ポンプセルの)可変電源
60 第5拡散律速部
61 第3内部空所
70 ヒータ部
71 ヒータ電極
72 ヒータ
72a ヒータ発熱部
72b ヒータリード部
73 スルーホール
74 ヒータ絶縁体
75 ヒータ含有層
75a (ヒータ含有層の)上面
75b (ヒータ含有層の)下面
75c (ヒータ含有層の)側面
76 圧力緩和空間
80 主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル
81 補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル
82 測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル
83 センサセル
90 接着層
90a (接着層の)内方側面
100 ガスセンサ
101 センサ素子
102 基体部