(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】アルテルナンオリゴ糖を製造するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20250210BHJP
C12N 9/24 20060101ALI20250210BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
C12P19/04 Z
C12N9/24
C12P1/00 A
(21)【出願番号】P 2022542403
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 EP2021050287
(87)【国際公開番号】W WO2021140208
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-06-29
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク テルフェール
(72)【発明者】
【氏名】ラウフ フェルトマン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル プルス
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-522520(JP,A)
【文献】特開昭53-029994(JP,A)
【文献】特表2008-529534(JP,A)
【文献】Food Sci. Technol.Res.,2001年,Vol.7,No.1,p.39-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 9/00- 9/99
CAPLUS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌槽式反応器(11)において、スクロース(9)を、触媒有効量のアルテルナンスクラーゼ酵素(13)及びアクセプター分子(12)と
攪拌を伴いながら接触させること
であって、
前記アルテルナンスクラーゼ酵素(13)及び前記アクセプター分子(12)が、前記反応器(11)内の水性液体(4)中に存在し、
前記アルテルナンスクラーゼ酵素は前記水性液体に溶解、乳化、又は懸濁されており、前記スクロース(9)が、前記反応器(11)に連続的又は半連続的に供給され、
前記スクロース(9)及び前記アクセプター分子(12)は、アルテルナンオリゴ糖(8)に変換され、フルクトース(6)が副産物として生成され
ることと、
膜濾過(17)により、前記反応器(11)から前記フルクトース(6)の少なくとも一部を連続的又は半連続的に除去すること
であって、
前記フルクトース(6)の少なくとも一部を除去することが、前記反応器(11)の内容物を、膜を含む装置(16)を通して連続的又は半連続的に循環させ、かつ、前記反応器(11)の前記内容物を前記膜に接触させることを含み、少なくとも前記フルクトース(6)の一部及び水性液体(4´´)の一部が、前記膜を通過するとともに、残りが前記反応器に戻され、
使用されるアクセプター分子(12)の総量に対して、供給されるスクロース(9)の総量である、スクロース(9):アクセプター分子(12)のモル比が、10:1~30:1であることとを含み、
アルテルナンオリゴ糖の平均重合度DPwが14より大きい、
アルテルナンオリゴ糖(8)を製造するための方法。
【請求項2】
前記膜濾過(17)が、ダイアフィルトレーションである
、請求項1に記載の
方法。
【請求項3】
前記反応器に、更なる水性液体を連続的又は半連続的に供給することを更に含む
、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応器(11)と、膜を含む前記装置(16)と、を含む反応器システムに、更なる水性液体を連続的又は半連続的に供給することを更に含む
、請求項
1に記載の
方法。
【請求項5】
更なる副産物として生成されるアルテルナン多糖類(14)の少なくとも一部、及び前記アルテルナンスクラーゼ酵素(13)の少なくとも一部を、好ましくは更なる膜濾過(3)により除去すること(S2)を更に含み、前記更なる膜濾過(3)において、前記アルテルナンオリゴ糖(8)が透過液に含まれる
、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項6】
前記アルテルナンオリゴ糖(8)を濃縮すること(S3)を更に含む
、請求項1~
5のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項7】
前記アルテルナンオリゴ糖(8)の平均重合度DPw又はDPnが、前記反応器(11)に供給される前記スクロース(9)の量によって調節される
、請求項1~
6のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項8】
前記アルテルナンオリゴ糖(8)の所望の平均重合度DPw又はDPnに達したときに、前記スクロース(9)の供給を停止する
、請求項1~
7のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項9】
前記アルテルナンオリゴ糖(8)の前
記平均重合度DPwが、GPC-RIで測定して5~30の範囲内である
、請求項1~
8のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項10】
前記アルテルナンオリゴ糖(8)の前
記平均重合度DPwが、GPC-RIで測定して10~20の範囲内である
、請求項1~
8のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項11】
前記アクセプター分子(12)が、マルトース分子である
、請求項1~1
0のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項12】
前記スクロース(9)が連続的に供給され、時間当たりのスクロースのモル量でのスクロース(9)の供給速度が、時間当たりのフルクトースのモル量でのフルクトース(6)の連続除去速度に等しい又は実質的に等しい、又はスクロース(9)の前記供給速度とフルクトース(6)の前記除去速度との比率が、1.2:1~1:1の範囲内であることを特徴とする請求項1~1
1のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項13】
更なるアルテルナンスクラーゼ酵素を、好ましくは連続的又は半連続的に前記反応器(11)へ供給する
、請求項1~1
2のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項14】
アルテルナンスクラーゼ酵素:供給されるスクロース(9)の総量であるスクロース(9)の比率が、1000~10000単位(酵素活性):1000gのスクロース(9)である
、請求項1~1
3のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項15】
アルテルナンオリゴ糖の平均重合度DPwが14~32の範囲内である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルテルナンオリゴ糖を製造するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
アルテルナンオリゴ糖(alternan-oligosccharide)は、プレバイオティクス成分(prebiotic ingredients)として記載されている。特許文献1は、スクロースと様々なアクセプター糖とのアルテルナンスクラーゼ(alternansucrase)酵素触媒反応によって生成されるオリゴ糖が、腸内細菌病原体(enteric bacterial pathogens)を制御するためのプレバイオティクスとして有効であることを開示している。腸内病原性細菌(beneficial bacteria)の集団は、有益な細菌(例えば、乳酸菌、ビフィズス菌等)の増殖を促進するのに有効な量のこれらのオリゴ糖の1つ又は複数を含む組成物で、動物を処理することによって、実質的に減少又は阻害することができる。
【0003】
特許文献2によれば、アルテルナンスクラーゼをコードする核酸分子が提供される。また、記載された核酸分子によって形質転換されたベクター、宿主細胞、植物細胞、及びそれらを含む植物が提供される。更に、アルテルナンスクラーゼをコードする核酸分子の挿入により、炭水化物アルテルナン(carbohydrate alternan)を合成するトランスジェニック植物を調製するための方法が記載されている。更に、アルテルナンの調製方法及びそこから得られる生成物が提供される。
【0004】
特許文献3は、酸性食品の成分としてのアルテルナン多糖類及びアルテルナンオリゴ糖の使用、及び成分としてアルテルナンを含む酸性食品を対象としている。また、開示内容は、食品配合物中の熱安定性成分としてのアルテルナンの使用、及び食品がその製造中に加熱工程に供された、アルテルナンを成分として含む食品も対象としている。
【0005】
特許文献2及び特許文献3において、アルテルナンオリゴ糖の製造方法が提案されており、当該製造方法では、
a)スクロース含有溶液を、スクロースのアルテルナンオリゴ糖及びフルクトースへの変換を可能にする条件下で、触媒有効量のアルテルナンスクラーゼ酵素及びアクセプター分子と接触させ、
b)当該溶液からアルテルナンオリゴ糖とフルクトースを分離する。
【0006】
反応は、全ての抽出物を含むバッチ式反応器の内部で行われ、室温~37℃の範囲内、pHを約4.7~7の範囲内で行うことができ、スクロースがほぼ消費されるまで進行させることができる。得られた生成物は、通常、シロップとして得られるが、これは更に、精製(すなわち膜濾過によって)されることや、乾燥されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第7182954号(特許請求の範囲等)
【文献】国際公開第2000/47727号(特許請求の範囲等)
【文献】国際公開第2009/095278号(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このプロセスでは、副産物の蓄積が問題となっていた。更に言えば、より長鎖のマルトースアルテルナンオリゴ糖の調製においては、所望の平均鎖長が全く得られない、或いはほとんど得られないため、これまで用いられてきたプロセスは用いることができない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、アルテルナンオリゴ糖を製造するための代替プロセスを提供することである。好ましくは、このプロセスによれば、副産物の生成を最小限に抑えることができ、及び/又は、副産物をより効率的に除去することができるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、請求項1に記載のプロセスを提供する。本発明は、アルテルナンオリゴ糖を製造するためのプロセスであって、反応器において、スクロースを、触媒有効量のアルテルナンスクラーゼ酵素及びアクセプター分子と接触させることを含み、アルテルナンスクラーゼ酵素及びアクセプター分子が、反応器内の水性液体中に存在し、スクロースが、反応器に連続的又は半連続的に供給され、スクロース及びアクセプター分子は、アルテルナンオリゴ糖に変換され、フルクトースが副産物として生成され、更に、膜濾過により、反応器からフルクトースの少なくとも一部を連続的又は半連続的に除去することを含むことを特徴とするプロセスを提供する。
【0011】
本発明によって、その一般的な形態又は特定の実施形態において、以下の利点のうちの1つ又は複数を達成することができる。
一定の低いフルクトース濃度を達成しうる。
アルテルナンポリマー又はロイクロース等、更なる不要な副産物の生成を低減し、又は、最小化することができる。
副産物は、必ずしもフルクトースだけではなく、ほかに考えられるものとして、アルテルナンポリマー又はロイクロースが挙げられ、以下に説明するように、それらを除去することも可能である。
従来のプロセスよりも長鎖のアルテルナンオリゴ糖を製造することができる。スクロースの添加量により、鎖長を調整することができる。
本発明は、このプロセスで得られたアルテルナンオリゴ糖を提供する。
更なる利点は、詳細な説明の特定の実施形態に記載されている。
【0012】
[アルテルナンオリゴ糖]
重合度DP、又は重量平均重合度DPwである平均重合度は、代替法として、GPC-RI(屈折率検出によるゲル浸透クロマトグラフィー)、又はHPAEC-PAD(パルスアンペロメトリック検出による高速アニオン交換クロマトグラフィー)を用いて測定される。
【0013】
アルテルナンは、グルコース単位から構成される糖、或いはグルコース又はグルコース単位以外の構造からなるアクセプター分子が存在する場合には実質的にグルコース単位から構成される糖である。グルコース単位は、α-1-3-及びα-1-6-グリコシド結合(リンケージと称する場合もある。)を介して互いに結合しており、これら2種類の結合は主に交互に現れる。マルトース等のグルコース(単位)を含むアクセプター分子が存在する場合、これらは別の方法で結合している場合がある。アルテルナンは、分岐を含んでいる場合がある(Seymourら、Carbohydrate Research 74、(1979)、41-62)。アルテルナン多糖類とアルテルナンオリゴ糖は、重合度によって区別されるアルテルナンの一種である。アルテルナン多糖類分子は、アクセプター分子を含む場合と、含まない場合があるが、アクセプター分子を含んでいることが好ましい。
【0014】
本発明におけるアルテルナン、特に、アルテルナンオリゴ糖は、グルコースベース糖(glucose-based saccharide)と定義することができ、当該糖は、還元末端とα-1-6及びα-1-3のグリコシドリンケージを交互に有するD-グルコースモノマーを有している。そして、「アクセプター分子単位」とも呼ばれるアクセプター分子、特にマルトース単位が、還元末端に存在するか、言い換えれば還元末端に結合されている。
【0015】
アルテルナンオリゴ糖分子は、少なくとも一つのアクセプター分子を含んでいることが好ましい。
【0016】
本発明の方法によって製造される本発明のアルテルナンオリゴ糖は、好ましくは重量平均重合度DPwが5~30の範囲にあり、好ましくは5~25の範囲にあり、より好ましくは10~30、又は10~20の範囲にあり、さらに好ましくは10~18、又は12~18の範囲にある。更に好ましいDPwの範囲は、18~30、又は20~30である。これらの値は、GPC-RIで測定される。より詳細な方法については、後述の実施例の項に記載する。
【0017】
本発明の方法により製造された本発明のアルテルナンオリゴ糖は、HPAEC-PADで測定した平均重合度DPwが、7~32、12~30、12~20、又は12~18の範囲内であることが好ましい。詳細な方法は、後述の実施例の項において記載する。平均重合度は、13、14、15、又は16より大きくてもよい(HPAEC-PAD)。いくつかの実施形態では、平均重合度は、17より大きい(HPAEC-PAD)。平均重合度は、20未満、19未満、又は18未満(HPAEC-PAD)であってもよい。
【0018】
上記のGPC-RI値とHPAEC-PAD値は、それぞれ独立して検討されるべきである。これは、異なる方法を比較する場合、上記の値や範囲が互いに対応していないことを意味する。異なるDPwを持つ生成物を製造したり、DPwを操作したり、異なる生成物のDPwを異なる方法で測定したりすることが可能である。
【0019】
本発明において、単数形用語である「アルテルナンオリゴ糖」は、重合度(DP)が1つのみの分子を有する単分散アルテルナンオリゴ糖と、重合度が異なる分子を有する多分散アルテルナンオリゴ糖の両方を意味する。
【0020】
本発明のアルテルナンオリゴ糖は、重合度(DP)が3~30の範囲にあるアルテルナン分子からなることが好ましく、又は実質的に重合度(DP)が3~30の範囲にあるアルテルナン分子を含むか、或いは、実質的に重合度(DP)が3~30の範囲にあるアルテルナン分子からなることが好ましい。これらDPの範囲の端点は、平均値ではなく、単一の値を意味するものである。
【0021】
「実質的に……含む(comprise)か、或いは、実質的に……からなる(consist)」という用語は、3~30の範囲の重合度(DP)を有するアルテルナン分子の、アルテルナンオリゴ糖の総重量に基づいて、特に乾燥ベースで90.0重量%以上の量、好ましくは95.0重量%以上又は97.0重量%以上、より好ましくは98.0重量%以上、更に好ましくは99.0重量%以上、最も好ましくは99.5重量%以上の量を意味する。アルテルナンオリゴ糖には、30より高いDPを持つアルテルナン分子が少量含まれることがある。ここで、「少量」という用語は、アルテルナンオリゴ糖の総重量に基づいて10.0重量%未満、又は5.0重量%未満の量、好ましくは3.0重量%未満、より好ましくは2.0重量%未満、更に好ましくは1.0重量%未満、最も好ましくは0.5重量%未満の量を意味している。
【0022】
アルテルナンオリゴ糖の重合度(DP)は、アクセプター分子に直接又は間接的に結合したD-グルコシル単位の数に、アルテルナンオリゴ糖に残存するアクセプター分子の単糖単位の数を加えたものとして定義される。
【0023】
本発明の定義によるアルテルナン多糖類は、30より高いDPを有する。このDPは、平均値ではなく、単一の数値を意味するものである。本発明では、単数形用語である「アルテルナン多糖類」は、重合度(DP)が1つのみの分子を有する単分散アルテルナン多糖類と、重合度が異なる分子を有する多分散アルテルナン多糖類の両方を意味する。
【0024】
本発明の定義によるアルテルナン多糖類は、5000g/mol以上の重量平均分子量(Mw)(GPC RI又はGPC MALLSで測定)を有していてもよい。別の実施形態によれば、アルテルナン多糖類は、重量平均分子量(Mw)が10000000g/mol~60000000g/mol(GPC MALLSで測定)の範囲内であり、より好ましくは12000000g/mol~50000000g/molの範囲内である。
【0025】
[アルテルナンスクラーゼ酵素]
本明細書で使用するためのアルテルナンスクラーゼは、例えば、特許文献2に開示されているように、種々の微生物、好ましくはロイコノストック属(Leuconostoc)の株(strains)、特にL.メセンテロイデス属(L.mesenteroides)の株から得ることができる。一実施形態によれば、当該酵素は、Leathersらの米国特許第5702942号に記載されているような、デキストラスクラーゼ(dextransucrase)に対して高い割合のアルテルナンスクラーゼを分泌する株)によって生産される。別の実施形態によれば、アルテルナンオリゴ糖を生成するために使用することができるアルテルナンスクラーゼ酵素には、ロイコノストックメセンテロイデス属の株であるNRRL B 1355、23185、23186、23188、23311、21297、30821、30894が含まれる。これらの酵素は、Gilles Jouclaの博士論文(Ingenier INSA、Toulouse、France、2003)に記載されているように、更にクローニングして、組換え発現させることができる。また、アルテルナンスクラーゼ酵素は、L.メセンテロイデス属以外の生物で生産することができ、その生物はアルテルナンスクラーゼ酵素をコードする組換え核酸を含む。好ましい生物として、大腸菌(E.coli)が挙げられる。
【0026】
アルテルナンスクラーゼの生産は、従来技術を用いて、かつ、Leathersらの文献に記載されているような酵素の増殖及び生産を促進するのに有効な好気性条件下で、上記の微生物のいずれかを、培養することにより行うことができる。培養後、酵素は、例えば遠心分離又は濾過等の従来技術を用いて、微生物から単離又は分離することができる。
【0027】
一実施形態において、「アルテルナンスクラーゼ酵素が反応器内の水性液体中に存在する」という用語は、アルテルナンスクラーゼ酵素が水性液体に溶解、乳化、又は懸濁されていること、好ましくは溶解されていることを意味する。一実施形態において、アルテルナンスクラーゼ酵素は、キャリア材料に固定化されていない。
【0028】
[アクセプター分子]
アクセプター分子とは、アルテルナンスクラーゼが鎖延長反応(chain-extending reaction)を触媒することができる分子を意味すると理解される。アルテルナンオリゴ糖分子は、アクセプター分子を含み、好ましくは1つのアクセプター分子を含む。アルテルナン多糖類分子は、好ましくはアクセプター分子を含み、より好ましくは1つのアクセプター分子を含む。分子という単数形の用語が用いられる場合でも、本発明では複数のアクセプター分子が用いられ、これらは化学的に同一であっても、或いは、異なっていてもよい。
【0029】
アルテルナン、特にアルテルナンオリゴ糖は、アクセプター分子とスクロースを、スクロースからアクセプター分子へとグルコース単位を転移させ、フルクトースとアルテルナン、特にアルテルナンオリゴ糖を放出する、1つ又は複数のアルテルナンスクラーゼ酵素と反応させて、生成することができる。アクセプター分子は、スクロースからグルコース単位を受け入れることができる。
【0030】
反応混合物に加えることができるアクセプター分子は、炭水化物又は炭水化物誘導体であることが好ましい。外部アクセプターを使用すると、低分子アルテルナンオリゴ糖が生成される。アクセプター分子は、スクロースからグルコース単位を受け入れることができる、炭素位置番号で2、3及び6の1つ又は複数に遊離ヒドロキシル基を有する糖又は糖アルコールから選択することができる。炭水化物アクセプターは、マルトース、イソマルトース、マルチトール、(イソ)マルトトリオース及びメチル-α-D-グルカンからなる群より選択される糖であることが好ましい。他の好ましいアクセプター分子は、グルコース、ゲンチオビオース、ラフィノース、メリビオース、イソマルチトール、イソマルトオリゴ糖、テアンデロース(theanderose)、コジビオース、グルコシルトレハロース、セロビオース、マルトテトラオス、ニゲロース、ラクトース、パノース、又はこれらの混合物である。アクセプター分子は、マルトースであることが好ましい。
【0031】
選択された特定のアクセプターに応じて、グルコシル単位は一般的に、α(1,6)結合を介して、或いはα(1,6)結合がすでに存在する場合にはα(1,3)結合を介して付加される。この反応により、典型的には、異なる重合度(DP)を有するオリゴ糖の混合物が生成される。
【0032】
一実施形態において、「アクセプター分子が反応器内の水性液体中に存在する」という用語は、アクセプター分子が水性液体に溶解、乳化、又は懸濁されている、好ましくは溶解されていることを意味する。
【0033】
[水性液体]
本発明における「水性液体」という用語は、少なくとも80vol%の水、好ましくは、少なくとも90vol%の水、又は少なくとも95vol%の水を含む液体を意味し、上限は100vol%である。水性液体は水であることが好ましい。
【0034】
[反応器]
反応器は、タンク反応器であってよい。
反応は、攪拌、例えばかき混ぜることによって行われてもよい。一実施形態において、反応器は、攪拌槽式反応器である。前述の実施形態と組み合わせることができる、別の実施形態において、撹拌は、反応器の内容物を移動させることによって行われる。これは、好ましくはポンプを使用して行われ、好ましくはこの明細書の他の箇所に記載されているように、ポンプによって反応器の内容物を循環させることによって行われる。
撹拌、特に、かき混ぜを行う際、
「反応器において、スクロースを、触媒有効量のアルテルナンスクラーゼ酵素及びアクセプター分子と接触させることを含み、アルテルナンスクラーゼ酵素及びアクセプター分子が、反応器内の水性液体中に存在し、スクロースが、反応器に連続的又は半連続的に供給され」ることは、撹拌、特にかき混ぜることによって行われる。
別の実施形態において、フルクトースの除去及び/又はスクロースの添加により、反応器の内部に乱流が生じ、成分が混合される。
かかるスクロース(基質)は、連続的又は半連続的に添加される。
【0035】
スクロースの供給に関して「半連続的に」という用語は、スクロースの供給が1回又は複数回、好ましくは2回以上中断されることを意味する。すなわち、「半連続的に」という用語は、少なくとも2つの供給期間、好ましくは、少なくとも3つの供給期間、又は少なくとも4つの供給期間があり、各供給期間は、供給の中断期間によって次の供給期間と区切られていることを意味する。スクロースの供給期間は、一定の期間であってもよく、非一定の期間であってもよい(すなわち、期間の長さが互いに異なっていてもよい)。供給の中断期間は、一定の期間であってもよく、非一定の期間であってもよい。スクロースの供給期間及び供給の中断期間は、同じ長さの期間であってもよく、異なる長さの期間であってもよい。
【0036】
フルクトースの除去に関して「半連続的に」という用語は、フルクトースの除去が1回又は複数回、好ましくは複数回(2回以上)中断されることを意味する。すなわち、「半連続的に」という用語は、少なくとも2つの除去(removal)(又は除去する(removing))期間、好ましくは、少なくとも3つの除去期間、又は少なくとも4つの除去期間があり、各除去期間は、除去の中断期間によって次の除去期間と区切られていることを意味する。フルクトースの除去期間は、一定の期間であってもよく、非一定の期間であってもよい。フルクトースの除去中断期間は、一定の期間であってもよく、非一定の期間であってもよい。フルクトースの除去期間とフルクトースの除去中断期間とは、同じ長さの期間であってもよく、異なる長さの期間であってもよい。
【0037】
半連続運転では、スクロースが供給される期間とフルクトースが除去される期間とは、同一であってもよく、重複しても重複しなくてもよい。半連続運転の一実施形態において、フルクトースの除去が中断されたときにスクロースの供給が行われ、フルクトースの除去が行われるときにスクロースの供給が中断される。これは特に、スクロース供給とフルクトース除去が交互に行われることを意味する。
【0038】
反応器へのスクロースの供給は、直接又は間接的に行うことができる。直接供給は、例えば、スクロース又はスクロース溶液が、反応器のところで又は反応器の内部でじかに終わる供給管を介して添加される場合に行われる。一方、間接供給は、例えば、スクロース又はスクロース溶液が、反応器と、流体連通している別の装置、例えば更なるパイプ、又は更なる装置、例えば本明細書で後述する膜を含む装置、で終わる供給パイプを介して添加される場合に行われる。又は、供給は、反応器及び本明細書で後述する膜を含む装置からなる反応器システムに対して行われてもよい。スクロースの供給(又は配給)は、膜を介して行われない。すなわち、スクロースの供給において、スクロースは膜を貫通しない。スクロースが、膜を含む上記装置に供給される場合、スクロースの供給は装置の膜を介して行われない。すなわち、スクロースは装置の膜を貫通しない。フルクトースを除去するための膜濾過に使用される上述の膜は、フルクトース及び水性液体の一部を貫通させるが、スクロースを貫通させない膜である。
【0039】
触媒有効量のアルテルナンスクラーゼ酵素及びアクセプター分子は、スクロースが添加される前に反応器の内部に存在している。スクロースは、固体として添加されてもよく、好ましくは溶液又は懸濁液として、好ましくは水性液体中に添加される。供給されたスクロースは、アルテルナンスクラーゼによって直接変換されることができる。
【0040】
本プロセスにおいて、生物変換、すなわち酵素によるアルテルナンオリゴ糖の生成は、連続的又は半連続的なフルクトースの除去の下で行われる。除去は、アルテルナンオリゴ糖の生成が始まった後、副産物としてフルクトースが生成された時点で行われる。
【0041】
一実施形態において、フルクトースの除去は、スクロースが反応器に供給されると同時に行われる。ここで、同時とは、スクロースを添加する1つの期間又は複数の期間とフルクトースを除去する1つの期間又は複数の期間とが少なくとも部分的に重なることを意味する。フルクトースは、スクロースが添加される少なくとも全期間において除去されることが好ましい。フルクトースの除去は、スクロースの添加を停止した後、又はスクロースの添加を終了したとき、継続されてもよい。
【0042】
フルクトースの少なくとも一部を除去することは、プロセスにおいて、(副産物として)生成されたフルクトースの全量に関連するものである。フルクトースの少なくとも一部を除去することは、生成される全フルクトースの好ましくは70mol%以上、好ましくは80mol%以上、より好ましくは90mol%以上であることを意味する。除去の上限は100mol%であり、生成されたフルクトースの全量(100mol%)又は実質的に全量が除去されることが好ましい。ここで、実質的に全量とは、95mol%以上を意味する。
【0043】
フルクトースの除去は、低減(depletion)とも呼ばれる。
【0044】
フルクトースの除去は、一実施形態において、ダイアフィルトレーション
によって行われる。すなわち、かかる膜濾過は、ダイアフィルトレーションであるか、又はダイアフィルトレーションとして実行される。
【0045】
本発明の一実施形態において、フルクトースの少なくとも一部を除去することは、反応器の内容物を、膜を含む装置を通して連続的又は半連続的に循環させ、かつ、反応器の内容物を膜に接触させることを含み、少なくともフルクトースの一部と水性液体の一部は、(透過液として)膜を通過し、残り(保持液(retentate))は、反応器に戻される。
【0046】
循環に関して「半連続的に」という用語は、循環が1回又は複数回、好ましくは複数回(2回以上)中断されることを意味する。すなわち、「半連続的に」とは、少なくとも2つの循環期間、好ましくは、少なくとも3つの循環期間、又は少なくとも4つの循環期間があり、各循環期間は、循環の中断期間によって次の循環期間と区切られていることを意味する。循環の期間は、一定の期間であってもよく、非一定の期間であってもよい。循環の中断期間は、一定の期間であってもよく、非一定の期間であってもよい。循環の期間と循環の中断期間は、同じ長さの期間であってもよく、異なる長さの期間であってもよい。
【0047】
反応器の内部における温度は、特定の実施形態において、30~45℃、又は30~40℃の範囲内である。
【0048】
膜を含む装置は、膜セル(membrane cell)、膜モジュール、又は、膜を含む濾過セル(filtration cell)であってもよい。
【0049】
膜を含む装置は、反応器と流体連通している。反応器の内容物は、装置に送られ、その装置から反応器へ戻される。しかしながら、フルクトースの一部と水性液体の一部は、(透過液として)膜を通過し、反応器に戻されることはない。
【0050】
膜を含む装置は、チューブ、パイプ、又はパイプライン等の液体の輸送に適した接続部によって反応器と接続されていてもよい。第1の接続部は、反応器の出口と装置の入口との間に存在していてもよい。第2の接続部は、装置の出口と反応器の入口との間に存在していてもよい。反応器の内容物を循環させるためのポンプが存在していてもよい。反応器の内容物を循環させることは、反応器自体及び膜装置を介して行われる。両者は、「反応器システム」とも呼ばれ、反応器と、膜を含む装置と、を含むシステムである。反応器の内容物の循環流は、特に乱流において、液相での成分の混合を引き起こす場合がある。
【0051】
一実施形態において、反応器からフルクトースの少なくとも一部を連続的又は半連続的に除去することは、ナノ濾過によって行われる。膜は、ナノ濾過膜であることが好ましい。
【0052】
膜を含む装置を通る連続的又は半連続的な循環によって、フルクトース及び水性液体が連続的又は半連続的に除去される。
【0053】
一実施形態において、フルクトースを除去するための膜濾過に適用される圧力は、5~30barの範囲内である。温度は、30~40℃であってよい。
【0054】
更なる実施形態において、本プロセスは、反応器、又は、反応器と、膜を含む装置と、を含む反応器システムに、更なる水性液体を連続的又は半連続的に供給することを含む。この処置により、透過液の一部として反応器又は反応器システムから出る水性液体を交換することができる。「更なる水性液体」とは、プロセスの過程で反応器に添加される水性液体を意味する。すなわち、更なる水性液体とは、請求項1に記載の水性液体に加えて添加される水性液体を意味する。更なる水性液体の供給に関して「半連続的に」という用語は、更なる水性液体の供給が1回又は複数回、好ましくは複数回(2回以上)、中断されることを意味する。すなわち、「半連続的に」とは、少なくとも2つの供給期間、好ましくは、少なくとも3つの供給期間、又は少なくとも4つの供給期間があり、各供給の期間は、給供の中断期間によって次の供給期間と区切られていることを意味する。更なる水性液体を供給する期間は、一定の時間期間であってもよく、非一定の期間であってもよい。更なる水性液体の供給を中断する期間は、一定の時間期間であってもよく、非一定の期間であってもよい。更なる水性液体を供給する期間と、更なる水性液体の供給を中断する期間とは、同じ長さの時間期間であってもよく、異なる長さの期間であってもよい。
【0055】
一実施形態において、本プロセスは、副産物として生成されるアルテルナン多糖類の少なくとも一部、及びアルテルナンスクラーゼ酵素の少なくとも一部を、好ましくは更なる膜濾過により除去することを更に含む。本プロセスの副産物であるフルクトースに加えて、アルテルナン多糖類は、更なる副産物として生成される。このステップは、副産物を分離するために任意で実行される。膜濾過の場合、アルテルナンオリゴ糖は透過液で得られる。一方、アルテルナン多糖類とアルテルナンスクラーゼは保持液に含まれる。一実施形態において、この膜濾過は限外濾過である。膜は、限外濾過膜であることが好ましい。一実施形態において、このような膜濾過、特に限外濾過に適用される圧力は、2~15barの範囲内である。この更なる膜濾過における温度は、30~60℃の範囲内であってよい。
【0056】
(アルテルナン多糖類の少なくとも一部及びアルテルナンスクラーゼ酵素の少なくとも一部を除去するための)更なる膜濾過は、更なる膜である膜を含む更なる装置で行われてもよい。
【0057】
一実施形態において、本プロセスは、アルテルナン多糖類の少なくとも一部を除去した後、及びアルテルナンスクラーゼ酵素の少なくとも一部を除去した後に得られる生成物を濃縮することを更に含み、かかる生成物は、アルテルナンオリゴ糖を含む。特に、このプロセスは、好ましくは前述の更なる膜濾過で得られる透過液において、アルテルナンオリゴ糖を濃縮することを更に含んでもよい。
【0058】
フルクトースを除去するための膜濾過、又は、(アルテルナン多糖類の少なくとも一部及びアルテルナンスクラーゼ酵素の少なくとも一部を除去するための)任意選択の更なる膜濾過において、任意の公知又は通常の材料の膜を使用することができる。非限定的な例として、ポリアミド、ポリサルフォン、又はポリ(ビニリデン)フルオライド等が挙げられる。
【0059】
一実施形態において、本プロセスは、得られた生成物を乾燥させることを更に含む。前述したように、濃縮とは、生成物が液相のままであることを意図している。乾燥とは、固形の生成物を得ることを意味している。
【0060】
副産物として生成されるアルテルナン多糖類の少なくとも一部と、アルテルナンスクラーゼ酵素の少なくとも一部を除去した後に得られる生成物を乾燥させることが好ましい。なお、前述の濃縮と乾燥は、連続して行うことができる。
【0061】
乾燥生成物は、乾燥ベースで少なくとも65%(w/w)、又は少なくとも70%(w/w)、又は少なくとも75%(w/w)又は少なくとも80%(w/w)のアルテルナンオリゴ糖を含んでもよく、更に具体的には少なくとも85%(w/w)又は少なくとも95%(w/w)のアルテルナンオリゴ糖を含んでもよい。各下限値と組み合わせることができる上限値は、99.0%又は99.9%(w/w)であることが好ましい。
【0062】
乾燥生成物は、乾燥ベースでフルクトース等価物を、0.1~15%(w/w)、又は0.1~10%(w/w)、又は0.1~9%(w/w)、又は0.1~8%(w/w)、又は0.1~7%(w/w)、又は0.1~6%(w/w)、又は0.1~5%(w/w)、又は0.1~3%(w/w)、又は0.1~2%(w/w)、又は0.1~1%(w/w)、又は0.1~0.5%(w/w)含んでもよい。いくつかの実施形態において、乾燥生成物は、乾燥ベースでフルクトース等価物を、10%(w/w)未満含んでいる。かかる組成物は、乾燥ベースでフルクトース等価物を、9%未満(w/w)、8%未満(w/w)、7%未満(w/w)、6%未満(w/w)、5%未満(w/w)3%未満(w/w)、2%未満(w/w)、1%未満(w/w)、又は0.5%未満(w/w)含むことが好ましい。
【0063】
いくつかの実施形態において、前述のフルクトース等価物は、ロイクロース、フルクトース、及び/又は、スクロースである。いくつかの実施形態において、前述のフルクトース等価物は、ロイクロースである。いくつかの実施形態において、前述のフルクトース等価物は、フルクトースである。いくつかの実施形態において、前述のフルクトース等価物は、スクロースである。いくつかの実施形態において、前述のフルクトース等価物は、ロイクロース及びフルクトースである。いくつかの実施形態において、前述のフルクトース等価物は、ロイクロース及びスクロースである。いくつかの実施形態において、前述のフルクトース等価物は、フルクトース及びスクロースである。いくつかの実施形態において、前述のフルクトース等価物は、ロイクロース、フルクトース、及びスクロースである。
【0064】
本プロセスの副産物であるフルクトース等価物は、本プロセスにおいて除去することができる。このことは、フルクトースに関しては既に説明した。一実施形態において、本プロセスは、副産物として生成されたロイクロースの少なくとも一部を、膜濾過によって反応器から連続的又は半連続的に除去することを含んでいる。かかる膜濾過は、フルクトースの除去に使用されるものと同じであることが好ましい。そのため、フルクトースとロイクロースを同じ膜濾過のステップで除去することができる。
【0065】
本プロセスの抽出物に属するフルクトース等価物は、本プロセスにおいて除去することができる。一実施形態において、本プロセスは、膜濾過によって、未反応の抽出物として、スクロースの少なくとも一部を反応器から連続的又は半連続的に除去することを含んでいる。かかる膜濾過は、フルクトースの除去のために使用されるものと同じであってよい。そのため、フルクトースとスクロースを同じ膜濾過のステップで除去することができる。
【0066】
本プロセスの一実施形態において、アルテルナンオリゴ糖の平均重合度DPw又はDPnは、反応器に供給されるスクロースの量によって調節される。
【0067】
更なる実施形態において、アルテルナンオリゴ糖の所望の平均重合度DPw又はDPnに達したとき、又は、達していたときに、スクロースの供給を停止する。
【0068】
スクロースの添加を停止した後、所望のフルクトース濃度に達するまで、又は、達していたときまで、フルクトースの除去を継続してもよい。
【0069】
スクロースの添加量によって、生成される鎖の長さを調整することができる。重合度の程度は、スクロースとアクセプター分子の濃度や相対比率によって変化することがある。反応生成物は、一般的に、異なる重合度を有するアルテルナンオリゴ糖の混合物から構成されている。スクロース:アクセプター比率が比較的高い場合には、より多くのグルコシル単位がグルカンに転移され、より重合度の高い生成物が得られる(すなわち、生成物中の高DPオリゴ糖の相対量が増加する)。一方、スクロース:アクセプター比率が低い場合には、アクセプターへの単一のグルコシル単位の転移による反応生成物が主要なものとなる。
【0070】
従って、スクロース:アクセプター比率(スクロース対アクセプター比率と称する場合がある。)を変えることによって、所望の重合度を有するオリゴ糖の収率を最適化することができる。
【0071】
スクロース:アクセプター分子の比率とは、本プロセスで使用されるアクセプター分子の総量に対する、当該プロセス中に添加されるスクロースの総量を意味する。この比率は質量比又はモル比で示すことができる。
【0072】
スクロースが一度に供給されるのではなく、連続的又は半連続的に供給され、供給されたスクロースが消費されるため、反応器内の実際の比率は前述の比率より低くなる。
【0073】
スクロース:アクセプター分子の比率は、質量比(例えば、kgスクロース:kgアクセプター分子)で、10:1~30:1の範囲内であることが好ましく、15:1~23:1の範囲内であることがより好ましい。かかるアクセプター分子は、マルトースであることが好ましいが、この範囲で他のアクセプターを適用することもできる。
【0074】
スクロース:アクセプター分子の比率は、モル比(例えば、Molスクロース分子:Molアクセプター分子)で、10:1~30:1の範囲内であることが好ましく、15:1~23:1の範囲内であることがより好ましい。かかるアクセプター分子は、マルトースであることが好ましいが、この範囲で他のアクセプターを適用することもできる。
【0075】
スクロースの供給速度又は供給方式(例えば、連続的又は半連続的)は、反応器内のフルクトースの濃度が、本プロセス中に増加しないように、又はフルクトースが蓄積されないように選択することが好ましい。
【0076】
スクロースの供給速度は、反応器内のスクロースの濃度が、本プロセス中に増加しないように、又はスクロースが蓄積されないように選択されることが好ましい。かかるスクロースの供給速度は、供給されたスクロースが反応において直接消費されるように選択されることが好ましい。
【0077】
スクロースの供給速度は、50~1500g/hr、又は50~1000g/hr、又は50~800g/hr、又は50~500g/hr、又は50~250g/hr、又は50~200g/hr、又はそれぞれの速度を、mol/hr(スクロースのモル質量342.30g/mol)で表したときの速度であることが好ましい。スクロースが溶液又は懸濁液に添加されている場合、この速度は、スクロースの重量のみを意味し、溶液又は懸濁液全体の重量を意味するものではない。
【0078】
本プロセスの一実施形態において、更なるアルテルナンスクラーゼ酵素が、好ましくは連続的又は半連続的に、反応器に供給される。つまり、反応器の内部にすでに存在していたアルテルナンスクラーゼ酵素(請求項1に記載のアルテルナンスクラーゼ酵素)に、更なるアルテルナンスクラーゼ酵素が添加される。この処置により、より高い総単位のアルテルナンスクラーゼ酵素活性を達成することができ、反応時間を短縮することができる。スクロース量も増加させることにより、スクロース量をより高い酵素の総単位に適合させることが好ましい。
【0079】
アルテルナンスクラーゼ酵素の供給に関して、「半連続的に」という用語は、酵素の供給が1回又は複数回、好ましくは2回以上中断されることを意味する。すなわち、「半連続的に」という用語は、少なくとも2つの供給期間、好ましくは、少なくとも3つの供給期間、又は少なくとも4つの供給期間があり、各供給期間は、中断期間によって次の供給期間と区切られていることを意味する。酵素の供給期間は、一定の期間でああってもよく、非一定の期間であってもよい(すなわち、期間の長さが互いに異なっていてもよい)。供給の中断期間は、一定の期間でああってもよく、非一定の期間であってもよい。酵素の供給期間と供給の中断期間は、同じ長さの期間であってもよく、異なる長さの期間であってもよい。
【0080】
好ましいアルテルナンスクラーゼ酵素:スクロース(供給されたスクロースの総量)の比率は、1000~10000単位(酵素活性):1000gのスクロース、又は1000~7000単位(酵素活性):1000gのスクロース、又は1000~5000ユニット(酵素活性):スクロース1000g、又は1000~2500単位(酵素活性):スクロース1000gであり、1200~2300単位(酵素活性):スクロース1000gであることが好ましく、1500~2000単位(酵素活性):スクロース1000gであることがより好ましい。これらの比率は、アルテルナンスクラーゼの酵素活性の総単位に関連するものである。かかる単位(酵素活性)は、本プロセスで使用されるアルテルナンスクラーゼ酵素の総単位を意味する。例えば、更なるアルテルナンスクラーゼ酵素を反応器に供給する場合、(i)最初に存在するアルテルナンスクラーゼ酵素と(ii)更に反応器に供給される全てのアルテルナンスクラーゼ酵素との合計が、総単位を意味する。
【0081】
上記のパラメータを用いると、オリゴ糖の好ましいDPw又はDPnに達することが特に可能であり、その一部はこの明細書において言及されている。
【0082】
請求項1のプロセスに関連する反応時間は、選択したスクロース:アクセプターの比率、選択したスクロースの供給速度、選択した酵素活性、及び/又は選択したスクロースの総量に依存しうる。典型的な反応時間は、10~150時間、又は10~30時間、又は10~24時間、又は10~20時間の範囲内である。副産物として生成されるアルテルナン多糖類、及びアルテルナンスクラーゼ酵素を、更なる膜濾過によって除去する、又は更なる膜濾過で得られる保持液を濃縮する、といった本明細書の別の箇所で言及される更なるプロセスのステップは、含まれない。
【0083】
請求項1のプロセスに関連する反応温度は、30~60℃の範囲内とすることが好ましい。特定の温度範囲又は異なる温度が、異なるプロセスの段階又はステップで適用されてもよい。
【0084】
一実施形態において、スクロースは連続的に供給され、時間当たりのスクロースのモル量でのスクロースの供給速度が、時間当たりのフルクトースのモル量でのフルクトースの連続除去速度に等しいか、実質的に等しく、又はスクロースの供給速度とフルクトースの除去速度との比率が、1:2~1:1の範囲内である。アルテルナンオリゴ糖の生成に消費されるスクロース1モル量あたり、同モル量のフルクトースが生成され、当該モル量を連続的に除去することが好ましい。
【0085】
以下、本発明を実施例によって例示するが、これらの実施例は、前述に、及び、特許請求の範囲に記載された本発明の一般的な思想を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【
図1】
図1(a)は、先行技術
に基づくプロセス
の概略を示している。
図1(b)は、本発明のプロセスの概略を示している。
【
図2】
図2(a)は、先行技術
のプロセス
の設計を示している。
図2(b)は、本発明のプロセスの設計を示している。
【
図3】
図3は、スクロースの供給量を一定にした場合の、プロセス時間に対する、分子量の増加を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0087】
[方法]
(HPAEC-PADによるDPの測定)
DPの値は、グルコースベース糖類を還元及び加水分解した後、HPAEC-PADを用いて測定された。6g/mLの消化性炭水化物組成物を含む2ミリリットルの溶液を、0.5Mのアンモニア中の0.2mLのNaBH4溶液(40mg/mL)で、40℃、30分間処理した。還元された試料を、121℃で1時間加熱した0.5mLの2Mのトリフルオロ酢酸を用いて加水分解し、モノマーを放出させた。放出されたモノマーは、CarboPac(商標) MA1を搭載したThermo Scientific(商標) Dionex(商標) ICS-6000イオンクロマトグラフシステムに対して、試料溶液を注入し、溶離液(水と1000mMのNaOH)を0.4mL/minで供給して定量化された。DP値は、下記式で算出される。
【0088】
【0089】
(GPC-RIによるDPの測定)
DP値はGPC-RIで代替測定した。試料は水で希釈し、直列に連結した2本の東ソーのTSK GEL G2500 PWXLカラムを使用し、水中(0.5mL/min)でゲル浸透クロマトグラフィーにかけた。オリゴ糖は透過中に相対分子量により分離され、屈折率検出(refractometric detection)を用いて定量される。分子量の定量化は、342~5000Daの範囲の標準物質(PSS-Polymer Standards)を用いた外部標準法に基づいて行われた。キャリブレーションと計算のために、Chromeleon Extension Pack V2.0を、Dionex社の使用説明書に従って使用した。
【実施例】
【0090】
[実施例1]
先行技術のプロセスは、例えば特許文献2
及び3から知られており、
図1(a)に示すように以下の4つのステップP1~P4を含む。
【0091】
ステップP1では、スクロースとマルトースの生物変換2が、バッチ式反応器1において、T=37℃で、約20時間行われる。スクロース:マルトースの比率は、7:1(w/w又はmol/mol)
が選択される。ステップP1は、
図2(a)に示す生物変換2のためのバッチ式反応器1において行われる。
【0092】
ステップP2は、アルテルナンポリマー(アルテルナン多糖類)及びアルテルナンスクラーゼ酵素(AlSu)を除去するための限外濾過3のステップである。このステップは、
図2(a)に示す限外濾過装置3´で行われる。
【0093】
ステップP3では、ナノ濾過5によってフルクトースが除去される。このステップは、
図2(a)に示すナノ濾過装置5´で行われる。ここでは、水
4´が加えられ、水4´´ととフルクトース6との混合物が除去される。
【0094】
最終ステップP4では、ステップP3からの生成物が蒸発脱水7で濃縮される。これは
図2(a)の蒸発脱水装置7´で行われ、マルトースアルテルナンオリゴ糖(MAOS)8が得られる。
【0095】
本発明のプロセスは、特定の実施形態において、
図1(b)に示す3つのステップS1~S3を含む。
【0096】
図1(a)の先行技術のプロセスと比較して、ステップS1における生物変換2は、スクロース9の連続的な供給10とフルクトース6の連続除去からなる。半連続的な供給と除去
も可能である。スクロース9(総添加量)とマルトース12の質量比は、19:1(1kgのマルトースに対して19kgのスクロース)
であり、期間は約72時間である。ステップS1で既にフルクトース6を除去しているので、先行技術におけるステップP3は省略することができる。フルクトース6を除去することにより、マルトース12に対してより高い比率のスクロース9を使用すること、
及びマルトースアルテルナンオリゴ糖8の重合度をより高めることが
可能となる。
【0097】
生物変換であるステップS1は、
図2(b)の反応器11で行われ、マルトース12とアルテルナンスクラーゼ酵素(AlSu)13は、水4の
中に存在する。上述のように、生物変換
は、スクロース9の連続的な供給10、フルクトース6の連続除去、期間約72h(可変)、T=37℃、スクロースとマルトースとの比19:1(w/w又はmol/mol)で行われる。スクロース9を、
(水に溶解された)供給物10として添加し、反応器11の内容物を攪拌する。反応器11での生物変換において、マルトースアルテルナンオリゴ糖8(MAOS)とも呼ばれる、アクセプター分子であるマルトースを含むアルテルナンオリゴ糖が主生成物として生成され、アルテルナンポリマー14、フルクトース6及びロイクロース15が副産物として生成される。反応器11からの内容物は、膜セル(ダイアフィルトレーションセル)16を通って連続的に循環され、
この実施例では、ナノ濾過で
あり、定容積ダイアフィルトレーションとして行われる膜濾過17において、水4´´、フルクトース6、及びロイクロース15が、除去される。。ロイクロース15の含有量は、先行技術と比較して、約30%から10%未満へと低減される。除去された水4´´は、水4´の供給流に置き換えられる。
【0098】
反応器11と膜セル16は、生物変換とナノ濾過を組み合わせた装置を構成しており、反応器システムとも呼ばれる。
【0099】
本実施形態におけるプロセスのステップS2は、先行技術のステップP2に相当する。ここでは、副産物としてのアルテルナン多糖類(アルテルナンポリマー)14、及びアルテルナンスクラーゼ酵素(AlSu)13が、装置3´における限外濾過3によって除去される。このステップは、所望されるより多くのアルテルナンポリマー14が生成された場合や、残存するアルテルナン種の所望のDPwを操作するために有益である。
【0100】
本実施形態におけるプロセスのステップS3は、先行技術のステップP4に相当する。ここでは、生成物は、装置7´における蒸発脱水7によって濃縮される。
【0101】
製造時に使用した反応液の組成を表1に示す。2.1Lの溶液は、システム内の水(デッドボリューム)と合わせて約5.6Lとなる。プロセスは、膜を通過するマルトースの潜在的な損失を最小限に抑えるために、最初の1時間は、低減させることなく実行される。その後、ナノ濾過膜Filmtec NF270-2540(DOW社製)を介してフルクトースを常時低減させる。鎖延長の完了後、ナノ濾過モジュールをTRISEP 2540-UE50-QXF限外濾過モジュール(Microdyn Nadir社製)に交換した。これにより、マルトースアルテルナンオリゴ糖(MAOS)画分が、より長い老化鎖及び酵素から分離された。このプロセスで使用した膜と使用したプロセスパラメータを表2にまとめる。濾液は最終的に乾物含量が72%を超えるまで濃縮された。
【0102】
【0103】
【0104】
図3は、プロセス
の進行に伴う鎖長の増加を示している。
値は、GPC-RI測定により記録された
。図3のMw
値からDPwを計算するための関係
式は、
以下の通りである。
【0105】
【0106】
従って、プロセスの終盤では、約15.4のDPwに達していることが理解される(2500/162)。
【0107】
DPwが約15である平均鎖長になるように、マルトース1kgに対してスクロース19kg(合計)が使用された。
【0108】
[比較例]
図1(a)に示すプロセスに従ってアルテルナンオリゴ糖を製造した。21:1の比率(kgスクロース:kgマルトース)
を使用し、9.9のDPwを得た。DPwの測定には、GPC-RIを用いたが、上述の方法の項で述べた方法のプロトコル
に完全には従わなかった。それにもかかわらず、
図3の結果と比較して、本発明によれば、より高いDPwを有するアルテルナンが得られることが示されている。
【0109】
本発明の方法で得られた2つの試料について、HPAEC-PAD法で分析したDPw値を以下の表3にまとめた。
【0110】
【0111】
試料DCC-2及びDCC-3は、本発明のプロセスによって製造されたものである。
【0112】
グルコースベースのオリゴ糖のグリコシド結合プロファイルは、部分的にメチル化したアルジトールアセテートを用いてGC-MSにより測定した。簡単に説明すると、試料を無水DMSOに溶解し、n-ブチルリチウム(Sigma 230707)を添加して脱プロトン化し、ヨウ化メチル(Sigma 289566)でメチル化した。次いで、メチル化した試料を2N TFAで加水分解した(121℃ で60分間)。加水分解した試料を窒素エアドラフト下で蒸発させ、1M水酸化アンモニウムに再溶解し、重水素化ほう素ナトリウム(20mg/ml)を含むDMSO溶液でアルデヒド基を還元した。氷酢酸を滴下して反応を停止させ、1-メチルイミダゾールと無水酢酸を加えてアセチル化した。アセトン中の部分的にメチル化されたアルジトールアセテートは、Supelco 24111-U SP-2380 キャピラリーカラム(インジェクター容量:0.5μl、インジェクター温度:250℃、検出器温度:250℃、キャリアガス:ヘリウム30mL/min、スプリット比:40対1、温度プログラム:100℃で3分、4℃/minから270℃で20分)を用いたGC-MS(7890A-5975C MSD、Agilent Technologies、Inc.、Santa Clara、CA、USA)で定量化された。電子衝撃スペクトルは、50~550Daの質量範囲にわたって、69.9eVで取得された。
【0113】
【0114】
1,6-グリコシド結合のより高い値は、観察される1,5,6-トリ-O-アセチル-1-デウテリオ-2,3,4-トリ-O-メチル-D-グルシトールの量に寄与する消化性炭水化物組成物中のロイクロース含有量によって説明される。更に、ロイクロースは、単量体グルコースと同様に、消化性炭水化物組成物中の末端Glc量に寄与する。
【0115】
[実施例2]
この実施例において、パラメータを以下の表に示すように変化させ、アルテルナンスクラーゼを4等分して反応器に与え、最初の供給分は、スクロースが反応器に供給される前に存在するようにした。
【0116】
【0117】
本発明のプロセスにおける反応時間は(ここでは更なる膜濾過によってアルテルナン多糖類及びアルテルナンスクラーゼ酵素を除去する、或いは更なる膜濾過で得られる保持液を濃縮する等の更なるステップは含まれていない)、スクロース量の増加、スクロース供給速度の増加、酵素活性の増加及び温度の上昇によって短縮できる。
【符号の説明】
【0118】
P1:バッチでの生物変換
P2:限外濾過
P3:ナノ濾過
P4:濃縮
S1:生物変換
S2:限外濾過
S3:濃縮
1:バッチ式反応器
2:生物変換
3:膜濾過(実施例では限外濾過)
3´:膜濾過装置(実施例では限外濾過装置)
4、4´、4´´:水性液体(実施例では水)
5:ナノ濾過
5´:ナノ濾過装置
6:フルクトース
7:蒸発脱水
7´:蒸発脱水装置
8:アルテルナンオリゴ糖(実施例ではマルトースアルテルナンオリゴ糖(MAOS))
9:スクロース
10:供給
11:反応器
12:アクセプター分子(実施例ではマルトース)
13:アルテルナンスクラーゼ(AlSu)
14:アルテルナンポリマー(アルテルナン多糖類)
15:ロイクロース
16:膜を含む装置(実施例では膜セル)
17:膜濾過(実施例では生物変換とナノ濾過(定容積ダイアフィルトレーション))