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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20250210BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20250210BHJP
【FI】
B41J2/01 121
B41J2/01 125
B41J2/01 127
B41J2/01 401
B41J2/01 501
C09D11/30
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2023072090
(22)【出願日】2023-04-26
(62)【分割の表示】P 2022533890の分割
【原出願日】2021-06-22
(65)【公開番号】P2023100753
(43)【公開日】2023-07-19
【審査請求日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2020112580
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】福岡 修一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 久満
(72)【発明者】
【氏名】西本 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】大小田 等
(72)【発明者】
【氏名】宮原 崇
(72)【発明者】
【氏名】石原 篤志
(72)【発明者】
【氏名】竹下 知寛
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203093(JP,A)
【文献】特開2019-089300(JP,A)
【文献】特開2017-030359(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0204159(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
C09D 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒質及び定着剤ポリマーを含むインクを被印刷物に付着させるインク吐出装置と、
前記被印刷物を加熱することにより前記媒質の蒸発を促進させる乾燥装置と、
前記被印刷物に付着した前記インクに紫外線を照射して前記インクを加熱することにより前記定着剤ポリマーを溶融させて前記インクを前記被印刷物に定着させる溶融装置と、
を有しており、
前記乾燥装置は、前記被印刷物の搬送方向において、前記インク吐出装置よりも上流側に位置しておらず、かつ、前記インク吐出装置よりも下流側に位置しており、
前記溶融装置は、前記被印刷物の搬送方向において、前記インク吐出装置よりも上流側に位置しておらず、かつ、前記乾燥装置よりも下流側に位置しており、
前記乾燥装置は、50℃以上、前記定着剤ポリマーのガラス転移温度未満の温度まで前記被印刷物を加熱する、印刷装置。
【請求項2】
前記インクの媒質は水系である
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記乾燥装置は、70℃以上に前記被印刷物を加熱する
請求項1又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記乾燥装置は、前記被印刷物に向けて温風を吹き付ける温風乾燥機であり、
前記溶融装置は、前記被印刷物に付着した前記インクにUVを照射して当該インクを加熱する装置である、請求項1~3のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記乾燥装置は、前記被印刷物の前記インクが付着した面に向けて温風を吹き付ける
請求項4に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記乾燥装置は、前記被印刷物の前記インクが付着した面の裏面に向けて温風を吹き付ける
請求項4又は5に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記溶融装置は、前記乾燥装置が前記媒質を蒸発させた後に前記定着剤ポリマーを溶融させる
請求項1~6のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記乾燥装置による前記被印刷物の加熱量、前記乾燥装置と前記溶融装置との相対位置及び前記被印刷物の搬送速度が、前記溶融装置による前記定着剤ポリマーの溶融が始まる前に前記乾燥装置による前記媒質の蒸発が完了するように定められている
請求項1~のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項9】
前記被印刷物に対して前記溶融装置とは反対側に位置し、前記被印刷物の前記インクが付着した面の裏面から前記被印刷物を加熱して前記定着剤ポリマーの溶融を補助する補助溶融装置を有する
請求項1~のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項10】
前記補助溶融装置は、所定の温度を維持するように制御されつつ前記被印刷物の前記裏面に接触する加熱面を有し、
前記溶融装置は、前記被印刷物に付着したインクを前記所定の温度より高い温度に加熱する
請求項に記載の印刷装置。
【請求項11】
前記インクが付着した面が凸になるように前記被印刷物の少なくとも一部を湾曲させつつ前記被印刷物を搬送する搬送装置を有し、
前記溶融装置は、前記被印刷物のうち前記搬送装置によって湾曲されている部分に紫外線を照射する
請求項1~10のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項12】
1以上の前記溶融装置を構成している、互いに異なる波長の紫外線を照射する複数の光源を有する
請求項1~11のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項13】
記溶融装置は、前記被印刷物に付着したインクを、前記定着剤ポリマーのガラス転移温度以上の温度に加熱する
請求項1~12のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項14】
前記インクは、前記定着剤ポリマーとは別の第1ポリマーを含み、
前記乾燥装置は、前記第1ポリマーのガラス転移温度以上前記定着剤ポリマーのガラス転移温度未満の温度まで前記被印刷物を加熱する
請求項13に記載の印刷装置。
【請求項15】
前記乾燥装置は、前記被印刷物の搬送方向において、前記溶融装置よりも上流側に位置し、
前記乾燥装置の直後から前記溶融装置と対向する部分の直前までの領域において、前記被印刷物の温度が、前記第1ポリマーのガラス転移温度以上前記定着剤ポリマーのガラス転移温度未満の温度となるように、前記乾燥装置による加熱量、前記乾燥装置と前記溶融装置との相対位置、及び前記被印刷物の搬送速度が定められている
請求項14に記載の印刷装置。
【請求項16】
前記第1ポリマーは、分散剤ポリマーである
請求項14又は15のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項17】
前記インクに含まれるポリマーの中で前記定着剤ポリマーのガラス転移温度が最も高い
請求項1416のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項18】
前記インク吐出装置は、含有する着色剤が互いに異なる少なくとも2種類の前記インクを吐出し、
前記2種類のインクは、前記着色剤とは別の紫外線吸収剤の含有率が互いに異なっている
請求項1~17のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項19】
前記2種類のインクにおいて、一方のインクが含有する前記着色剤は、他方のインクが含有する前記着色剤と比較して、前記溶融装置からの紫外線の吸収率が低く、かつ前記一方のインクは、前記他方のインクと比較して、前記紫外線吸収剤の含有率が大きい
請求項18に記載の印刷装置。
【請求項20】
前記2種類のインクにおいて、一方のインクは、他方のインクに比較して、前記溶融装置からの紫外線に対する前記着色剤による吸収率が低く、かつ他方のインクに比較して、前記紫外線吸収剤の含有率が大きい
請求項18に記載の印刷装置。
【請求項21】
媒質及び定着剤ポリマーを含むインクを被印刷物に付着させるインク吐出ステップと、
前記被印刷物を加熱することにより前記媒質の蒸発を促進させる乾燥ステップと、
前記被印刷物に付着した前記インクに紫外線を照射して前記インクを加熱することにより前記定着剤ポリマーを溶融させて前記インクを前記被印刷物に定着させる溶融ステップと、
を有しており、
前記乾燥ステップは、前記被印刷物の搬送方向において、前記インク吐出ステップが行われる位置よりも上流側で行われず、かつ、前記インク吐出ステップが行われる位置よりも下流側で行われ、
前記溶融ステップは、前記被印刷物の搬送方向において、前記インク吐出ステップが行われる位置よりも上流側で行われず、かつ、前記乾燥ステップが行われる位置よりも下流側で行われ、
前記乾燥ステップでは、50℃以上、前記定着剤ポリマーのガラス転移温度未満の温度まで前記被印刷物を加熱する、印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドを有する印刷装置において、被印刷物に付着したインクを短時間で定着させるための技術が種々提案されている(例えば特許文献1~3)。
【0003】
特許文献1では、被印刷物に付着したインクに紫外線(以下、「UV」と略すことがある。)を照射している。UVは、インクが含む着色剤によって吸収され、これにより、インクの温度が上昇する。その結果、インクが含む溶媒の蒸発が促進され、ひいては、インク(着色剤)の定着が促進される。
【0004】
特許文献2では、ロールから供給される長尺状の被印刷物のうちの印刷前の部分を加熱するヒータ、被印刷物のうちの印刷中の部分を加熱するヒータ、及び被印刷物のうちの印刷後の部分を加熱するヒータが開示されている。また、特許文献2では、紫外線の照射によって重合する重合性物質を含むインクを硬化させるために被印刷物にUVを照射するUV光源も開示している。
【0005】
特許文献3では、インクジェットヘッドによって転写ベルトにインクを付着させ、転写ベルトを被印刷物に接着させてインクを被印刷物に付着させる印刷装置が開示されている。特許文献3では、インクが含む高分子をUVによって硬化させる技術、及びインクが含むバインダ樹脂をヒータによって溶融させる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-30359号公報
【文献】特開2014-117921号公報
【文献】特開2014-233864号公報
【発明の概要】
【0007】
本開示の一態様に係る印刷装置は、インク吐出装置と、乾燥装置と、溶融装置と、を有する。前記インク吐出装置は、インクを被印刷物に付着させる。前記インクは、媒質及び定着剤ポリマーを含む。前記乾燥装置は、前記被印刷物を加熱することにより前記媒質の蒸発を促進させる。前記溶融装置は、前記被印刷物に付着した前記インクに紫外線を照射して前記インクを加熱することにより前記定着剤ポリマーを溶融させて前記インクを前記被印刷物に定着させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る印刷装置の側面図である。
図2図1の印刷装置の平面図である。
図3A図1の印刷装置が有するインクジェットヘッドを上方から見た斜視図である。
図3B図3Aのインクジェットヘッドを下方から見た斜視図である。
図3C図3Aのインクジェットヘッドが有するヘッド本体を上方から見た斜視図である。
図3D図3Cの領域IIIdの拡大図である。
図4図1の印刷装置の信号処理系の構成を示すブロック図である。
図5図1の印刷装置においてインクを定着させる方法を説明する概念図である。
図6】インクの媒質が蒸発に要する時間の試算結果を示す図である。
図7図1の印刷装置における被印刷物の温度分布の試算結果を示す図である。
図8A】UVによって加熱されるインク内の樹脂の温度変化の試算結果を示す図である。
図8B】UVによって加熱されるインク内の水の温度変化の試算結果を示す図である。
図9】第2実施形態に係る印刷装置の側面図である。
図10】第3実施形態に係る印刷装置の側面図である。
図11】第4実施形態に係る印刷装置の側面図である。
図12A】実施形態に係るインクセットの光吸収特性を示す図である。
図12B】変形例に係るインクセットを説明するための模式図である。
図13A】変形例に係るインクセットに含まれるUV吸収剤の光吸収特性を示す図である。
図13B】変形例に係るインクセットの光吸収特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の図面は、模式的なものである。従って、細部は省略されることがある。また、寸法比率は現実のものと必ずしも一致しない。複数の図面相互の寸法比率も必ずしも一致しない。特定の寸法が実際よりも大きく示され、特定の形状等が誇張されることもある。
【0010】
第2実施形態以降の説明においては、基本的に、先に説明された実施形態との相違部分について述べる。特に言及が無い事項については、先に説明された実施形態と同様とされたり、先に説明された実施形態から類推されたりしてよい。また、複数の実施形態間においては、互いに対応する構成については、細部が異なっていても、互いに同一の符号を付すことがある。
【0011】
「媒質」は、例えば、他の物質(溶質)を溶かす「溶媒」(又は「溶剤」)であってもよいし、他の物質(分散質)を分散させる「分散媒」であってもよい。「分散媒」は、一般に、ある程度の大きさ(例えば粒径1nm以上)を有する粒子(分散質)が分散している媒質を指す狭義の用語として用いられる場合と、この狭義の分散媒に加えて溶媒を含む広義の用語として用いられる場合とがある。本開示においては、狭義の用語として用いる。
【0012】
分散質としての「粒子」は、公知のように、固体に限定されず、液体又は気体であってもよい。ただし、本開示において、単に「粒子」という場合は、特に断りが無い限り、分散質としての粒子ではなく、固体の粒子を意味するものとする。
【0013】
「ガラス」は、一般に、例えば、ケイ酸塩を主成分とする物質を指す狭義の用語として用いられる場合と、昇温によりガラス転移現象を示す非晶質固体となる物質を指す広義の用語として用いられる場合とがある。本開示においては、広義の用語として用いる。従って、本開示においてガラス又はガラス成分というとき、これらは、ケイ酸塩を主成分とするものに限定されず、例えば、ポリマーを主成分とするものであってもよい。
【0014】
「ガラス転移温度」(ガラス転移点)は、公知のように、ガラス転移が起きる温度である。以下では、ガラス転移温度を「Tg」と略すことがある。Tgは、JIS(日本産業規格)のK7121等の規格に従って測定されてよい。Tgは、より厳密性が要求されるときは、例えば、上記規格において定義されている補外ガラス転移開始温度、中間点ガラス転移温度及び補外ガラス転移終了温度のうち、中間点ガラス転移温度とされてよい。ただし、Tg未満の状態を維持するときは補外ガラス転移開始温度が参照され、Tg以上の状態を維持するときは補外ガラス転移終了温度が参照されてもよい。
【0015】
<第1実施形態>
(印刷装置の全体構成)
図1は、本開示の第1実施形態に係る印刷装置1の側面図である。図2は、印刷装置1の平面図である。
【0016】
これらの図には、便宜上、空間に固定された直交座標系D1-D2-D3を付す。印刷装置1は、任意の方向を鉛直方向とすることが可能である。ただし、実施形態の説明では、便宜上、+D3側が鉛直上方であるものとする。平面視又は平面透視の語は、特に断りがない限り、D3軸に沿って見ることをいうものとする。
【0017】
印刷装置1は、例えば、被印刷物101を供給ローラ3Aから回収ローラ3Bへと搬送する。供給ローラ3A及び回収ローラ3B並びに後述する各種のローラは、被印刷物101を搬送する搬送装置5を構成している。印刷装置1は、被印刷物101の搬送経路に沿って種々の装置を有している。例えば、印刷装置1は、インクの液滴を被印刷物101に向けて吐出するインク吐出装置7と、インク吐出装置7によって吐出されて被印刷物101に着弾したインクの被印刷物101に対する定着を促進する複数の装置(例えば、9、11及び13)とを有している。また、印刷装置1は、上記の各種の装置を制御する制御装置15(図1)を有している。
【0018】
印刷装置1は、上記以外の構成を備えていてもよい。例えば、印刷装置1は、供給ローラ3Aとインク吐出装置7との間に被印刷物101にコーティング剤(後述)を一様に塗布する不図示の塗布機を有していてもよい。また、例えば、印刷装置1は、インク吐出装置7のヘッド21(後述)をクリーニングするクリーニング部を備えていてもよい。
【0019】
(被印刷物)
被印刷物101は、例えば、長尺状かつシート状とされている。被印刷物101は、印刷前においては、供給ローラ3Aに巻き取られた状態になっている。被印刷物101は、供給ローラ3Aから送り出され、インク吐出装置7の下側を通り、回収ローラ3Bに巻き取られて回収される。被印刷物101の材料、幅、長さ及び厚さ等の寸法は適宜に設定されてよい。例えば、被印刷物101の材料は、紙、樹脂又は布とされてよい。被印刷物101としての樹脂(例えばPET:polyethylene terephthalate)フィルムの厚さは適宜に設定されてよい。当該厚さの範囲の一例を挙げると、5μm以上20μm以下である。以下の説明では、被印刷物101のうち、インクが付着される面を表面(おもてめん)といい、その反対側の面を裏面ということがある。
【0020】
(インク)
インク吐出装置7によって吐出される前のインクは、例えば、媒質(溶媒及び/又は分散媒)と、着色剤と、1種以上のポリマーとを含んでいる。1種以上のポリマーは、少なくとも定着剤ポリマーを含む。インクが吐出されて被印刷物101に着弾した後、インク内の媒質は蒸発する。また、定着剤ポリマーは、加熱されることによって溶融し(例えばガラス状態となり)、その後、固化する。このような作用によって、着色剤が被印刷物101に定着する。
【0021】
なお、上記の説明から理解されるように、本実施形態のインクは、例えば、UV硬化型のインクではない。UV硬化型のインクは、紫外線のエネルギーに反応して液体から固体に化学的に変化する合成樹脂(すなわちUV硬化樹脂)を含み、UV硬化樹脂の硬化作用によって被印刷物101に定着する。本実施形態のインクは、そのようなUV硬化樹脂(ポリマー)を実質的に含まない。ただし、本実施形態のインクは、UV硬化型のインクであるとは言えない程度の量でUV硬化樹脂を含んでいても構わない。
【0022】
媒質は、例えば、インク(吐出前)に含まれる成分のうち、最も質量%が高い成分である。媒質の質量%は、適宜に設定されてよく、50質量%未満であってもよいし、50質量%以上であってもよく、例えば、50質量%以上70質量%以下である。媒質は、水若しくは水系溶媒であってもよいし、有機物(例えば有機溶媒)であってもよい。本実施形態における説明では、主として、媒質が水である場合を例にとる。
【0023】
着色剤は、媒質に溶けない顔料であってもよいし、媒質(溶媒)に溶ける染料であってもよいし、両者の組み合わせであってもよい。顔料及び染料は、公知の種々のもの、及びそれを応用したものとされてよい。例えば、顔料は、凝集を抑制するために表面がコーティングされたもの(いわゆる自己分散型顔料)であってもよいし、そのようなコーティングがなされていないものであってもよい。吐出前のインクにおける着色剤の質量%は適宜に設定されてよい。当該質量%の範囲の一例を挙げると、1質量%以上10質量%以下である。
【0024】
定着剤ポリマーは、本実施形態においては、上述した作用から理解されるように、少なくとも吐出前のインクにおいて粒子(固体)として存在する。従って、定着剤ポリマーは、媒質に溶ける性質(例えば水溶性)を有さず、また、吐出前のインクの温度よりも高いガラス転移温度(Tg)を有している。また、定着剤ポリマーは、インクを加熱した後も着色剤を定着させるために固形成分として残る性質を有している。なお、定着剤ポリマーは、着色剤を定着させる作用以外の作用を奏してもよい。
【0025】
定着剤ポリマーのTgは、適宜な値であってよい。例えば、インクが定着剤ポリマー以外のポリマーを含んでいる態様において、その一部の種類のポリマーのTg又は全部の種類のポリマーのTgよりも高くされてよい。ただし、定着剤ポリマーのTgは、他の全てのポリマーのTgよりも低くてもよい。定着剤ポリマーのTgの範囲の一例を示すと、70℃以上120℃以下(又は110℃以下)である。
【0026】
定着剤ポリマーの質量%は適宜に設定されてよい。例えば、インクが定着剤ポリマー以外に1種以上のポリマーを含んでいる態様において、定着剤ポリマーの質量%は、任意の種類のポリマーの質量%よりも大きくされたり、前記1種以上のポリマーの合計の質量%よりも大きくされたりしてよい。この場合、例えば、定着剤ポリマーの溶融前に媒質を蒸発させることによる効果(後述)が向上する。もちろん、定着剤ポリマーの質量%は、上記よりも小さくてもよい。吐出前のインクにおける定着剤ポリマーの質量%の範囲の一例を挙げると、1質量%以上40質量%以下である。
【0027】
なお、定着剤ポリマー以外の1種以上のポリマーは、インクの吐出後、熱によって分解されて蒸発することがある。そのような態様においては、定着剤ポリマーの質量%と上記1種以上のポリマーの質量%との上記の関係は、例えば、インクの吐出前(蒸発が生じる前)に成立してよい。また、実施形態の説明において、各種のポリマーの質量%は、特に断りが無い限り、ポリマーの蒸発が生じない態様のもの、又はポリマーの蒸発が生じる前のものと捉えられてよい。
【0028】
定着剤ポリマーの具体的な組成及び/又は成分は適宜なものとされてよい。例えば、定着剤ポリマーは、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー又はメタクリル酸系ポリマーであってよい。なお、これらのポリマーのTgは、上述した70℃以上120℃以下の範囲の温度となり得る。
【0029】
インクが定着剤ポリマー以外の他のポリマーを含んでいる態様において、当該他のポリマーの物性及び役割は適宜なものであってよい。例えば、他のポリマーは、媒質(溶媒)に溶ける性質(例えば水溶性)を有していてもよいし、そのような性質を有していなくてもよい。また、他のポリマーは、インクの吐出前において、液体であってもよいし、固体であってもよい。また、他のポリマーは、顔料を分散させる(別の観点では凝集を抑制する)ための分散剤ポリマーであってもよいし、インクの擦過に対する強度を向上させるための耐擦過性ポリマーであってもよい。他のポリマーの質量%は適宜に設定されてよい。
【0030】
既述のように、他のポリマーの少なくとも1種のポリマーのTgは、定着剤ポリマーのTgよりも低くてよい。例えば、分散剤ポリマーのTg及び/又は耐擦過性ポリマーのTgは、定着剤ポリマーのTgよりも低くてよい。定着剤ポリマーのTgよりも低いTgを有するポリマーのTgの具体的な値は適宜なものであってよい。その範囲の一例を挙げると、50℃以上70℃未満である。
【0031】
分散剤ポリマーの構成は、公知のものなどの適宜なものとされてよい。例えば、分散剤ポリマーは、紐状のポリマーである。ただし、分散剤ポリマーは、粒子状であってもよい。また、例えば、分散剤ポリマーは、顔料に吸着する部分と、分散性を発現する部分とを有している。分散性は、例えば、立体障害、静電反発及び/又は導通阻害によって発現される。分散剤ポリマーは、通常、顔料が自己分散型のものである場合において不要であるが、自己分散型の顔料を含むインクに添加されても構わない。分散剤ポリマーは、例えば、スチレンとアクリル酸ブチルとを70:30の比率で含むものとされてよい。この場合の分散剤ポリマーのTgは、上述した50℃以上70℃未満の範囲の温度となり得る。
【0032】
耐擦過性ポリマーの構成は、公知のものなどの適宜なものとされてよい。例えば、耐擦過性ポリマーは、ポリエステル樹脂とされてよい。この場合、耐擦過性ポリマーのTgは、上述した50℃以上70℃未満の範囲の温度となり得る。
【0033】
インクは、上述したポリマーの他にも適宜な成分を含んでよい。例えば、インクは、界面活性剤(分散剤ポリマーを除く)、保湿剤、表面張力調整剤、PH調整剤及び/又は光沢付与剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、ポリマーによって構成されていても構わない。
【0034】
(搬送装置)
搬送装置5は、例えば、被印刷物101の搬送経路に沿って複数のローラ(例えば、3A、3B、17A、17B、19A~19D)を有している。各ローラは、円筒状又は円柱状の部材であり、軸方向が被印刷物101の搬送方向に直交するように配置され、外周面を被印刷物101の表面又は裏面に被印刷物101の全幅に亘って当接させる。そして、回収ローラ3Bを含む少なくとも1つのローラがモータによって軸回りに回転されることによって、被印刷物101が搬送される。なお、本実施形態では、ローラがモータによって回転される態様を例に取るが、ローラは、他の駆動源又は人力によって回転されても構わない。
【0035】
複数のローラの数、搬送経路に対する位置及び径等は適宜に設定されてよい。図示の例では、搬送装置5は、供給ローラ3A及び回収ローラ3Bの他、供給ローラ3A側から回収ローラ3B側へ順に、第1テンションローラ19A、第2テンションローラ19B、第1加熱ローラ17A、第2加熱ローラ17B、第3テンションローラ19C及び第4テンションローラ19Dを有している。回収ローラ3Bを除く各ローラは、モータ等によって回転駆動されてもよいし、被印刷物101からの摩擦力によって受動的に回転するだけであってもよい。
【0036】
第1加熱ローラ17A及び第2加熱ローラ17Bは、後に詳述する、インクの被印刷物101に対する定着を促進する装置に兼用されるものであり、被印刷物101を加熱する機能を有している。第1テンションローラ19A~第4テンションローラ19Dは、被印刷物101に張力を付与することに寄与している。また、図示の例では、第1テンションローラ19A~第4テンションローラ19Dは、被印刷物101を第1加熱ローラ17A及び第2加熱ローラ17Bに密着させて加熱の効率を向上させることにも寄与している。
【0037】
より詳細には、例えば、第1加熱ローラ17Aは、インク吐出装置7よりも上流側において、被印刷物101の裏面に当接している。第2テンションローラ19Bは、第1加熱ローラ17Aとの間に他のローラを介在させずに第1加熱ローラ17Aの上流側に位置し、かつ被印刷物101の表面(換言すれば第1加熱ローラ17Aが当接する面とは反対側の面)に当接している。第1テンションローラ19Aは、第2テンションローラ19Bとの間に他のローラを介在させずに第2テンションローラ19Bの上流側に位置し、かつ被印刷物101の裏面(換言すれば第2テンションローラ19Bが当接する面とは反対側の面)に当接している。第1テンションローラ19A及び第2テンションローラ19Bの少なくとも一方は、不図示の付勢部(例えば、ばね及び/又はアクチュエータ)によって、被印刷物101へ向かって付勢されている。これにより、被印刷物101に張力が付与され、また、被印刷物101は第1加熱ローラ17Aに密着する。
【0038】
また、例えば、第2加熱ローラ17Bは、インク吐出装置7よりも下流側において、被印刷物101の裏面に当接している。第3テンションローラ19Cは、第2加熱ローラ17Bとの間に他のローラを介在させずに第2加熱ローラ17Bの下流側に位置し、かつ被印刷物101の表面(換言すれば第2加熱ローラ17Bが当接する面とは反対側の面)に当接している。第4テンションローラ19Dは、第3テンションローラ19Cとの間に他のローラを介在させずに第3テンションローラ19Cの下流側に位置し、かつ被印刷物101の裏面(換言すれば第3テンションローラ19Cが当接する面とは反対側の面)に当接している。第3テンションローラ19C及び第4テンションローラ19Dの少なくとも一方は、不図示の付勢部(例えば、ばね及び/又はアクチュエータ)によって、被印刷物101へ向かって付勢されている。これにより、被印刷物101に張力が付与され、また、被印刷物101は第2加熱ローラ17Bに密着する。
【0039】
第1加熱ローラ17A及び/又は第2加熱ローラ17Bは、例えば、径が比較的大きくされている。これにより、これらの加熱ローラの被印刷物101に対する密着面積が大きくなり、加熱の効率が向上している。例えば、第1加熱ローラ17Aの径は、第1テンションローラ19Aの径及び/又は第2テンションローラ19Bの径よりも大きい。同様に、第2加熱ローラ17Bの径は、第3テンションローラ19Cの径及び/又は第4テンションローラ19Dの径よりも大きい。第1加熱ローラ17Aの径及び/又は第2加熱ローラ17Bの径は、搬送装置5が含む全ての他のローラの径よりも大きくされてもよい。
【0040】
側面視において、被印刷物101が第2テンションローラ19Bと第1加熱ローラ17Aとの間においてなす直線は、被印刷物101が第1加熱ローラ17Aと次のローラ(図示の例では第2加熱ローラ17B)との間においてなす直線に対して傾斜してよく、かつその傾斜角は、比較的大きくされてよい。これにより、被印刷物101が第1加熱ローラ17Aに対して密着する第1加熱ローラ17Aの軸心回りの角度範囲が大きくなる。例えば、上記傾斜角は、45°以上、70°以上又は90°以上とされてよい。被印刷物101が第3テンションローラ19Cと第2加熱ローラ17Bとの間においてなす直線と、被印刷物101が第2加熱ローラ17Bとその1つ前のローラ(図示の例では第1加熱ローラ17A)との間においてなす直線との関係についても同様である。
【0041】
ローラの配置等は、上記以外にも種々可能である。例えば、第1加熱ローラ17A、第1テンションローラ19A及び第2テンションローラ19Bが当接する被印刷物101の面は、図示の例とは逆であってもよい。第1テンションローラ19Aを設けずに、第2テンションローラ19Bを設けてもよい。第4テンションローラ19Dを設けずに、第3テンションローラ19Cを設けてもよい。第1テンションローラ19A~第4テンションローラ19Dを省略してもよい。図示の例以外のローラが設けられてもよい。例えば、第1加熱ローラ17Aと第2加熱ローラ17Bとの間に、側面視において上方を凸側とする曲線上に配列され、被印刷物101の裏面に当接する複数のローラを設けてもよい。
【0042】
被印刷物101の移動の態様は、インク吐出装置7の態様等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、搬送装置5は、被印刷物101を連続的に移動させてもよいし、被印刷物101を間欠的に移動させてもよい。また、被印刷物101が連続的に移動する場合において、被印刷物101の搬送速度は、一定であってもよいし、変化してもよい。なお、間欠的な移動は、別の観点では、速度の変化を伴う移動である。被印刷物101の搬送速度の具体的な値は、適宜に設定されてよい。搬送速度(速度が変化する場合は例えば平均速度)の範囲の例を挙げると、50m/分以上300m/分以下、又は100m/分以上200m/分以下である。
【0043】
(インク吐出装置)
インク吐出装置7は、被印刷物101に対向してインクの吐出を直接的に担う少なくとも1つ(図示の例では20個)のヘッド21を有している。
【0044】
なお、本開示におけるインク吐出装置7の位置に関する記述においては、例えば、ヘッド21の位置、後述する吐出面21aの位置、又は後述する複数のノズル21bの配置領域の位置が参照されてよい。換言すれば、インク吐出装置7の位置に関する記述において、インク吐出装置7の語は、ヘッド21、吐出面21a又は複数のノズル21bの配置領域の語に適宜に置換されてよい。
【0045】
本実施形態では、ヘッド21は、被印刷物101の搬送方向に交差する方向において基本的に固定されており、印刷装置1は、いわゆるラインプリンタとなっている。ただし、印刷装置は、ヘッド21を被印刷物101の搬送方向に交差する方向(例えば、略直交する方向)に移動させつつ液滴を吐出する動作と、被印刷物101の搬送とを交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタであってもよい。
【0046】
ヘッド21は、インクを吐出する吐出面21a(図示の例では下面)が被印刷物101と略平行に対向するように不図示の部材によって保持されている。吐出面21aと被印刷物101との距離は適宜に設定されてよい。例えば、当該距離は、0.5mm以上20mm以下、又は0.5mm以上2mm以下である。ヘッド21の平面視における形状(吐出面21aの形状)は、適宜な形状とされてよく、例えば、被印刷物101の搬送方向に交差する方向に長い長尺形状(より詳細には概略長方形状)とされている。搬送方向に交差する方向は、例えば、搬送方向に略直交する方向であり、また、被印刷物101の幅方向ということもある(以下、同様。)。
【0047】
複数のヘッド21は、例えば、図2に示すように、少なくとも1つ(図示の例では4つ)のヘッド群23を構成するように配置されている。各ヘッド群23は、複数(図示の例では5つ)のヘッド21を含んでいる。各ヘッド群23に含まれる複数のヘッド21は、被印刷物101の幅方向において、ヘッド21の印刷可能な範囲が互いに繋がるように、あるいは端が重複するように配置されている。これにより、被印刷物101の幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
【0048】
図示の例では、より詳細には、各ヘッド群23において、5つのヘッド21のうち、3つのヘッド21は、被印刷物101の幅方向に並んでいる。残りの2つのヘッド21は、上記の3つのヘッド21に対して搬送方向にずれた位置で被印刷物101の幅方向に並んでおり、かつ被印刷物101の幅方向において上記の3つのヘッド21の間にそれぞれ位置している。別の表現をすれば、各ヘッド群23において、複数のヘッド21は、千鳥状に配置されている。
【0049】
4つのヘッド群23は、被印刷物101の搬送方向に沿って配置されている。各ヘッド21には、インクタンク25(図1)からインクが供給される。1つのヘッド群23に属するヘッド21には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群23で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群23から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)及びブラック(K)である。このようなインクを被印刷物101に着弾させることにより、カラー画像を印刷できる。
【0050】
印刷装置1に搭載されているヘッド21の個数は、単色で、1つのヘッド21で印刷可能な範囲を印刷するのであれば、1つでもよい。ヘッド群23に含まれるヘッド21の個数、及びヘッド群23の個数は、被印刷物101の態様及び印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群23の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群23を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能のヘッド21を使用しても搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群23を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、被印刷物101の幅方向の解像度を高くしてもよい。
【0051】
さらに、色のあるインクを印刷する以外に、被印刷物101の表面処理をするために、コーティング剤などの液体を、ヘッド21で、一様に、あるいはパターンニングして印刷してもよい。コーティング剤としては、例えば、被印刷物101として液体が浸み込み難いものを用いる場合において、インクが定着し易いように、液体受容層を形成するものを使用できる。他に、コーティング剤としては、被印刷物101として液体が浸み込み易いものを用いる場合において、液体のにじみが大きくなり過ぎたり、隣に着弾した別の液体とあまり混じり合わないように、液体浸透抑制層を形成するものを使用できる。なお、コーティング剤は、ヘッド21による印刷に代えて、又は加えて、既述の塗布機(不図示)によって塗布されてもよい。
【0052】
特に図示しないが、複数のヘッド21は、ヘッド室に収容されていてもよい。ヘッド室は、例えば、基本的には、外部と隔離された空間として構成されている。また、ヘッド室は、搬送装置5によって搬送されている被印刷物101の入室を許容する入口と、搬送装置5によって搬送されている被印刷物101の退室を許容する出口とを有している。そして、被印刷物101は、ヘッド室内においてヘッド21によってインクが付着される。ヘッド室では、その外部と比較して、インクの付着に影響を及ぼす因子の変動を低減することが容易である。そのような因子としては、例えば、温度、湿度及び気圧を挙げることができる。ヘッド室内における上記の種々の因子の少なくとも1つは、適宜な手段によって積極的に制御されてもよい。
【0053】
ヘッド21がインクの液滴を吐出する方式は、適宜なものとされてよい。例えば、ヘッド21は、圧電アクチュエータによってヘッド21内のインクに圧力を付与して液滴を吐出するピエゾ式のものとされてよい。また、例えば、ヘッド21は、インクを加熱して気泡を発生させ、この気泡の発生に伴う圧力によって液滴を吐出するサーマル式のものとされてよい。
【0054】
(インクの被印刷物への定着を促進する装置)
印刷装置1は、既述のように、インク吐出装置7によって吐出されて被印刷物101に着弾したインクの被印刷物101に対する定着を促進する複数の装置を有している。当該複数の装置は、例えば、乾燥装置9、溶融装置11及び補助溶融装置13を含んでいる。これらの装置は、概して言えば、インクを加熱することによってインクの定着を促進する。ただし、これらの装置は、具体的な構成、加熱量及び/又は位置等が相違している。ひいては、これらの装置は、インクに対して互いに異なる作用を及ぼしたり、及び/又は互いの作用に関して相互に影響したりしている。
【0055】
(乾燥装置)
乾燥装置9は、例えば、被印刷物101を加熱することによってインクの媒質の蒸発を促進する。乾燥装置9による被印刷物101の加熱は、インクの被印刷物101に対する付着前に行われてもよいし、付着後に行われてもよいし、双方において行われてもよい。乾燥装置9は、インクの付着後に被印刷物101を加熱する場合、裏面側から被印刷物101を加熱してもよいし(直接的にインクを加熱しなくてもよいし)、表面側から被印刷物101を加熱してもよいし(被印刷物101と共に直接的にインクを加熱してもよいし)、裏面側及び表面側の双方から被印刷物101を加熱してもよい。
【0056】
別の観点では、乾燥装置9は、被印刷物101の搬送方向において、インク吐出装置7よりも上流側に位置する部分を有していてもよいし、インク吐出装置7と同位置に位置している部分を有していてもよいし、インク吐出装置7よりも下流側に位置する部分を有していてもよいし、上記3つの位置の2つ以上の位置に一体的に又は分散して位置している部分を有していてもよい。また、乾燥装置9は、被印刷物101に対して、表面側に位置する部分を有していてもよいし、裏面側に位置している部分を有していてもよいし、上記の双方を有していてもよい。なお、インク吐出装置7と同位置の空間に乱流が発生してインクの吐出安定性が低下するのを抑制しつつ、被印刷物101およびインクを加熱できる点で、乾燥装置9は、インク吐出装置7と同位置に位置しておらず、インク吐出装置7よりも上流側に位置する部分を有していてよい。
【0057】
なお、本開示における乾燥装置9の位置に関する記述においては、例えば、乾燥装置9のうち被印刷物101の加熱に直接的に寄与する部分(例えば、加熱ローラの外周面又は温風を送り出す送風口)の位置、又は被印刷物101のうち乾燥装置9によって加熱される部分(例えば、ローラが当接する部分、又は温風が吹き付けられる部分)の位置が参照されてよい。換言すれば、乾燥装置9の位置に関する記述において、乾燥装置9の語は、加熱に直接的に寄与する部分、又は被印刷物101のうち加熱される部分の語に適宜に置換されてよい。
【0058】
乾燥装置9は、例えば、被印刷物101の幅方向において被印刷物101を概ね一様に加熱する(加熱量は幅方向において一定である。)。ひいては、被印刷物101の幅方向における温度分布は概ね一様である。ただし、乾燥装置9は、被印刷物101の幅方向において加熱量が異なっていてもよい。例えば、放熱しやすい幅方向両側において加熱量が相対的に大きくなっていてもよい。被印刷物101の搬送方向において、乾燥装置9が同時に加熱可能な長さは任意に設定されてよい。
【0059】
乾燥装置9の構成は種々可能である。本実施形態では、乾燥装置9は、第1加熱ローラ17Aを有している。第1加熱ローラ17Aは、既述のように、インク吐出装置7よりも上流側において被印刷物101の裏面に当接している。
【0060】
より詳細には、第1加熱ローラ17Aは、その外周面のうち、軸回りの一部の範囲のみを被印刷物101に当接させている。また、第1加熱ローラ17Aは、例えば、被印刷物101と基本的に摺動せずに、被印刷物101の移動に伴って能動的に又は受動的に回転する。従って、第1加熱ローラ17Aは、軸回りの互いに異なる位置に、被印刷物101を加熱する第1部分17a及び第2部分17bを有し、第1部分17a及び第2部分17bを交互に被印刷物101に当接させていると捉えることができる。
【0061】
第1加熱ローラ17Aの具体的な構成は、例えば、公知の構成又はこれを応用した構成等の種々の構成とされてよい。例えば、特に図示しないが、第1加熱ローラ17は、内部に電熱線を有し、電熱線に電流が流れることによってジュールの法則に従って発熱する構成とされてよい。また、例えば、第1加熱ローラ17は、内部に誘導コイルを有し、誘導加熱によって発熱する構成とされてよい。また、例えば、第1加熱ローラ17は、昇温された熱媒体が外部から供給される流路を有する構成とされてよい。第1加熱ローラ17Aの円筒状又は円柱状を成す基体は、セラミック及び/又は金属等の適宜な材料によって構成されてよい。
【0062】
(溶融装置)
溶融装置11は、被印刷物101に付着したインクにUVを照射してインクを加熱する。この加熱により、既述のように、インク内の定着剤ポリマー(別の観点ではガラス成分)が溶融する。その後、溶融した定着剤ポリマーが固化することによって、インク内の着色剤が被印刷物101に定着する。なお、UVは、インクの非配置位置において被印刷物101に照射されてよく、また、一部がインクを透過して被印刷物101に照射されてよい。被印刷物101の材質は、UVを実質的に透過させる材質であってもよいし、少なくとも一部を吸収して発熱する材質であってもよい。
【0063】
溶融装置11は、例えば、被印刷物101の搬送方向においてインク吐出装置7よりも下流側に位置しており、また、被印刷物101の表面側に位置して当該表面に対向している。これにより、溶融装置11は、インクにUVを照射できる。なお、被印刷物101の材質がUVを透過させる材質である場合においては、図示の例とは異なり、溶融装置11は、被印刷物101の裏面側に位置して被印刷物101の裏面に対向していてもよい。以下の説明では、特に断りが無い限り、図示の例を前提とする。インク吐出装置7と溶融装置11との被印刷物101の搬送方向における相対位置(距離)は、適宜に設定されてよい。例えば、両者は、互いに間隔を空けて配置されていてもよいし、互いに(殆ど)間隔を空けずに隣接して配置されていてもよい。
【0064】
なお、本開示における溶融装置11の位置に関する記述においては、例えば、溶融装置11におけるUVの出口(光学系の最も前側の部分)の位置、又は被印刷物101のうちUVが照射される領域の位置が参照されてよい。換言すれば、溶融装置11の位置に関する記述において、溶融装置11の語は、UVの出口、又は被印刷物101のうちUVが照射される領域の語に適宜に置換されてよい。
【0065】
溶融装置11によるUVの照射は、例えば、乾燥装置9による被印刷物101の加熱完了後に開始されてよい。また、別の観点では、インク内の定着剤ポリマーの溶融は、インク内の媒質が蒸発している途中で、又は媒質の蒸発が完了した後に、開始されてよい。なお、媒質の蒸発が完了したといっても、実用上は微量な媒質が残存していても構わない。例えば、UVの照射を開始する直前のインクが5質量%以下の媒質を含んでいても、媒質の蒸発が完了したと捉えられて構わない。なお、上記5質量%以下は、上記直前のインクにおける質量%であってもよいし、吐出前のインクにおける質量%に換算したときの質量%であってもよい。
【0066】
さらに別の観点では、被印刷物101の搬送方向において、溶融装置11は、乾燥装置9に対して下流側に位置してよい。この場合において、乾燥装置9と溶融装置11との被印刷物101の搬送方向における相対位置(距離)は、適宜に設定されてよい。例えば、両者は、互いに間隔を空けて配置されていてもよいし、互いに間隔を空けずに隣接して配置されていてもよい。
【0067】
溶融装置11は、例えば、インク吐出装置7によって印刷可能な領域の全幅に対してUVを照射可能である。例えば、溶融装置11は、被印刷物101の幅全体又は上記印刷可能な領域の幅全体に亘る長さを有しており、上記の幅内に同時にUVを照射する。ただし、溶融装置11は、図示の例とは異なり、被印刷物101の幅方向に移動することによって、印刷可能な領域の全幅に対してUVを照射しても構わない。
【0068】
溶融装置11は、例えば、被印刷物101の幅方向においてUVを概ね一様に照射する。換言すれば、被印刷物101(及びインク)に照射されるUVの単位時間当たりのエネルギーは、被印刷物101の幅方向において概ね一定である。なお、被印刷物101(及びインク)のUVの吸収量は、幅方向におけるインクの分布に影響を受ける。従って、UVによる加熱量は幅方向において一様とは限らない。なお、溶融装置11は、上記とは異なり、被印刷物101の幅方向においてUVの照射量が異なっていてもよい。
【0069】
被印刷物101において、UVが照射される領域の形状は、例えば、被印刷物101の搬送方向及び被印刷物101の幅方向に平行な辺を有する矩形状である。なお、UVが照射される領域は、矩形以外の形状であってもよい。被印刷物101の幅方向において、UVが照射される領域の長さは、上述のように、インク吐出装置7が印刷可能な領域の全幅以上である。また、被印刷物101の搬送方向において、UVが照射される領域の長さは適宜に設定されてよい。
【0070】
溶融装置11の具体的な構成は、適宜なものとされてよい。例えば、溶融装置11は、少なくともUVを生成する光源11aを有している。この他、溶融装置11は、光源11aから被印刷物101とは反対側へ漏れるUVを反射する反射鏡、光源11aからのUVの横断面の形状を整える開口を有する絞り、及び/又はUVを集束させるレンズを有していてもよい。そのような要素が設けられていても、光源11aのみを溶融装置11として定義してもよい。光源11aは、例えば、LED(light emitting diode)、白熱電球、蛍光灯又は水銀灯等の適宜な要素によって構成されてよい。光源11aは、上記の要素を1つのみ有していてもよいし、複数有していてもよい。複数の要素(例えばLED)によって面光源が構成されていてもよい。
【0071】
UVは、公知のように、可視光よりも波長が短い光であり、その波長は、例えば、10nm以上400nm以下である。溶融装置11が放射するUVは、近紫外線であってもよいし、遠紫外線であってもよい。近紫外線は、いわゆるUV-A、UV-B及びUV-Cのいずれであってもよい。換言すれば、溶融装置11が放射するUVの波長は適宜に設定されてよい。溶融装置11が放射するUVは、レーザー光のようにエネルギーが分布する波長の幅が狭いものであってもよいし、上記幅が広いものであってもよい。本開示における波長の既述においては、例えば、エネルギーがピーク(ピークが複数ある場合は最も高いピーク)となる波長が参照されてよい。
【0072】
溶融装置11が被印刷物101(及びインク)に照射するUVの強度は適宜に設定されてよい。なお、本開示においてUVの強度は、被印刷物101の単位面積に照射されるUVの単位時間当たりのエネルギーである。UVの強度は、例えば、UV硬化型のインクを硬化させるために被印刷物に照射されるUVの強度よりも高くされてよい。例えば、UV硬化型のインクを硬化させるためのUVの強度は、一般に、10W/cm未満である。これに対して、溶融装置11からのUVの強度は、10W/cm以上、20W/cm以上又は30W/cm以上とされてよい。ただし、上記とは異なり、溶融装置11からのUVの強度は、UV硬化型のインクを硬化させるためのUVの強度よりも低くてもよい。
【0073】
溶融装置11が被印刷物101(及びインク)に照射するUVの積算光量は適宜に設定されてよい。なお、積算光量は、上記の強度を時間により積分した値である。UVの積算光量は、例えば、UV硬化型のインクを硬化させるために被印刷物に照射されるUVの積算光量よりも多くされてよい。例えば、UV硬化型のインクを硬化させるために被印刷物に照射されるUVの積算光量は、一般に、500mJ/cm未満である。これに対して、溶融装置11によって被印刷物101に照射されるUVの積算光量は、500mJ/cm以上、1000mJ/cm以上、1500mJ/cm以上、5000mJ/cm以上又は10000mJ/cm以上とされてよい。ただし、上記とは異なり、溶融装置11が被印刷物101に照射するUVの積算光量は、UV硬化型のインクを硬化させるために被印刷物に照射されるUVの積算光量よりも少なくてもよい。
【0074】
(補助溶融装置)
補助溶融装置13は、被印刷物101に対して溶融装置11とは反対側に位置し、被印刷物101の裏面を加熱することによって定着剤ポリマーの溶融を補助する。補助溶融装置13は、定着剤ポリマーの溶融を補助するものであるから、被印刷物101の搬送方向における位置については、溶融装置11の位置の説明が援用されてよい。例えば、補助溶融装置13は、インク吐出装置7及び乾燥装置9に対して下流側に配置されてよい。
【0075】
なお、乾燥装置9と同様に、補助溶融装置13の位置に関する記述においては、例えば、補助溶融装置13のうち被印刷物101の加熱に直接的に寄与する部分の位置、又は被印刷物101のうち補助溶融装置13によって加熱される部分の位置が参照されてよい。換言すれば、補助溶融装置13の位置に関する記述において、補助溶融装置13の語は、加熱に直接的に寄与する部分、又は被印刷物101のうち加熱される部分の語に適宜に置換されてよい。
【0076】
被印刷物101の平面透視において、被印刷物101のうち補助溶融装置13によって加熱される領域の少なくとも一部は、被印刷物101のうち溶融装置11によってUVが照射される領域の少なくとも一部と重なっている。上記の2つの領域は、概ね一致していてもよいし、一致していなくてもよい。例えば、UVが照射される領域の全部は、補助溶融装置13によって加熱される領域の一部又は全部に重なってよい。この場合、後述する作用から理解されるように、UVのエネルギーを定着剤ポリマーの溶融に効率的に利用できる。
【0077】
補助溶融装置13は、例えば、被印刷物101の幅方向において被印刷物101を概ね一様に加熱する(加熱量は幅方向において一定である。)。ただし、補助溶融装置13は、被印刷物101の幅方向において加熱量が異なっていてもよい。例えば、放熱しやすい幅方向両側において加熱量が相対的に大きくなっていてもよい。被印刷物101の搬送方向において、補助溶融装置13が同時に加熱可能な長さは任意に設定されてよい。
【0078】
補助溶融装置13の構成は種々可能である。本実施形態では、補助溶融装置13は、既述の第2加熱ローラ17Bを有している。第2加熱ローラ17Bの構成は、第1加熱ローラ17Aの構成と同一であってもよいし。異なっていてもよい。いずれにせよ、第1加熱ローラ17Aの構成に関する既述の説明(第1部分及び第2部分を有すること、電熱線、誘導コイル又は流路を有してよいこと等)は、適宜に第2加熱ローラ17Bに援用されてよい。
【0079】
(インク吐出装置のヘッド)
インク吐出装置7のヘッド21の基本的な構成は、公知の構成又はこれを応用した構成等の種々の構成とされてよい。また、本実施形態においては、ヘッド21は、吐出前のインクを加熱するためのヒータを有していてもよい。吐出前のインクを加熱しておくことにより、例えば、吐出後のインクにおける媒質の蒸発及び/又は定着剤ポリマーの溶融に要する時間を低減することができる。ヘッド21が有するヒータの構成は、適宜なものとされてよい。以下に、ヘッド21に設けられるヒータの例を示す。
【0080】
図3Aは、ヘッド21を上方(被印刷物101とは反対側)から見た斜視図である。図3Bは、ヘッド21を下方(被印刷物101側)から見た斜視図である。図3Cは、ヘッド21の一部(ヘッド本体27)を上方から見た斜視図である。
【0081】
ヘッド21は、例えば、ヘッド本体27と、ヘッド本体27に対して上方に固定される背面部材29とを有している。ヘッド本体27は、被印刷物101に対向する吐出面21aを有している。吐出面21aには、インクの液滴を吐出する複数のノズル21bが開口している。いわば、ヘッド本体27は、液滴の吐出に直接的に関わる部材である。一方、背面部材29は、例えば、ヘッド本体27と、他の構成要素(例えばインクタンク25及び制御装置15)との仲介に寄与する。ヘッド21は、上記の他にも、適宜な部材(例えば背面部材29に被せられる筐体)を有していてよい。
【0082】
ヘッド本体27は、例えば、特に図示しないが、複数のノズル21bに個別に通じている複数の個別流路、及び複数の個別流路に共通に通じており、吐出面21aに沿って延びている共通流路を有している。ヘッド本体27の吐出面21aとは反対側の面には、例えば、1以上の共通流路の端部に対して個別に又は共通に通じる1以上の開口27aが開口している。ヘッド21がピエゾ式の場合においては、ヘッド本体27の吐出面21aとは反対側の面に、複数の個別流路内に個別に圧力を付与する複数の圧電アクチュエータを含むアクチュエータ基板30が設けられてよい。
【0083】
背面部材29は、例えば、不図示のチューブ等を介してインクタンク25と通じる1以上の開口29aと、開口29aとヘッド本体27の開口27aとをつなぐ不図示の流路とを有している。また、特に図示しないが、背面部材29は、ヘッド本体27(例えばアクチュエータ基板30)に電力を供給するドライバ、及び当該ドライバが実装されている回路基板を収容している。
【0084】
図3Dは、図3Cの領域IIIdの拡大図である。
【0085】
ヘッド本体27は、互いに積層された複数のプレート31を有している。複数のプレート31に貫通孔が形成されることなどによって、ノズル21b及びノズル21bに通じる流路が構成されている。プレート31は、例えば、金属又は樹脂によって構成されている。
【0086】
このような構成のヘッド21においては、例えば、図3Aに示すように、背面部材29の上面にヒータ33Aが設けられてよい。ヒータ33Aは、例えば、シート状のヒータ(フィルムヒータ)とされてよい。ヒータ33Aは、例えば、平面内で適宜に延びる電熱線をシート状の絶縁体によって挟んで構成されている。ヒータ33Aの平面形状及び寸法等は適宜に設定されてよい。
【0087】
また、例えば、ヒータ33Aに加えて、又は代えて、図3Dに示すように、複数のプレート31の間にシート状のヒータ33Bを介在させてもよい。ヒータ33Bは、ヒータ33Aと同様に、例えば、平面内で適宜に延びる電熱線をシート状の絶縁体によって挟んで構成されている。ヒータ33Bの平面形状及び寸法等は適宜に設定されてよい。例えば、ヒータ33Bは、平面透視において全てのノズル21bに亘る広さを有していてよい。
【0088】
特に図示しないが、背面部材29の上面及び/又はヘッド本体27の内部に加えて、又は代えて、ヘッド21の側面(D1方向又はD2方向に交差する面)、背面部材29の内部、及び/又はヘッド本体27と背面部材29との間にヒータが設けられてもよい。ヒータは、シート状のものに限定されず、例えば、シート状とは概念できない程度の厚みを有するものであってもよい。また、ヘッド21は、ヒータに加えて、又は代えて、熱媒体が流れる流路を有していてもよい。
【0089】
(制御装置)
制御装置15(図1)は、例えば、特に図示しないが、CPU(central processing unit)、ROM(read only memory)、RAM(random access memory)及び外部記憶装置を含んで構成されている。換言すれば、制御装置15は、例えば、コンピュータを含んで構成されている。CPUがROM及び/又は外部記憶装置に記憶されているプログラムを実行することによって、後述する各種の機能部が構築される。また、制御装置15は、一定の動作のみを行う論理回路を含んでいてもよいし、各種の要素に電力を供給するドライバを含んで概念されてもよい。
【0090】
制御装置15は、ハードウェア的に適宜に分散されていてもよい。例えば、制御装置15は、搬送装置5、インク吐出装置7、乾燥装置9、溶融装置11、及び補助溶融装置13に個別に設けられた複数の下位の制御装置と、複数の下位の制御装置との間で信号を送受信することによって複数の下位の制御装置を制御する(例えば同期を図る)上位の制御装置とを含んで構成されていてもよい。
【0091】
(信号処理系の構成)
図4は、印刷装置1の信号処理系の構成を示すブロック図である。
【0092】
制御装置15は、CPUがプログラムを実行することなどによって構築された各種の機能部(例えば、35、37、39、41、43及び45)を有している。ヘッド制御部35は、ヘッド21を制御する。搬送速度制御部37は、搬送装置5を制御する。第1温度制御部39は、乾燥装置9(換言すれば第1加熱ローラ17A)を制御する。ヘッド温度制御部41は、ヘッド21が有しているヘッドヒータ33(33A及び/又は33B)を制御する。第2温度制御部43は、補助溶融装置13(換言すれば第2加熱ローラ17B)を制御する。UV制御部45は、溶融装置11を制御する。より詳細には、例えば、以下のとおりである。
【0093】
(ヘッド制御部)
ヘッド制御部35は、例えば、画像(文字も画像の一種である。)の情報を含むデータに基づいて、所定の周期で到来する吐出時期に各ノズル21bが吐出すべき液滴の大きさに応じた情報を生成し、ヘッド21の不図示のドライバに出力する。不図示のドライバは、入力された情報に応じた電圧をノズル21b毎の駆動素子(例えば圧電アクチュエータ)に入力する。なお、ヘッド制御部35は、ドライバを含んで概念されても構わない。吐出周期は、印刷装置1の製造者によって設定された不変の値であってもよいし、所定の情報に基づいてヘッド制御部35が設定した値であってもよい。上記の所定の情報は、例えば、製造者又はユーザによって設定された被印刷物101の搬送方向における解像度、及び/又は製造者又はユーザによって設定された被印刷物101の搬送速度である。例えば、速度100m/minで搬送される被印刷物101に1200dpiのヘッド21を用いて印字する場合、駆動周波数78.74kHzで動作させ、インクを吐出させるように制御することができる。
【0094】
(搬送速度制御部)
搬送速度制御部37は、例えば、被印刷物101の搬送速度が目標値に維持されるように搬送装置5を制御する。目標値は、例えば、印刷装置1の稼働中(別の観点では印刷中。以下、同様。)において基本的に一定である。また、目標値は、印刷装置1の製造者によって設定された不変の値であってもよいし、ユーザによって設定された値であってもよいし、所定の情報に基づいて搬送速度制御部37が設定した値であってもよい。上記の所定の情報は、例えば、製造者又はユーザによって設定された被印刷物101の搬送方向における解像度、及び/又は製造者又はユーザによって設定された液滴の吐出周期である。
【0095】
搬送速度制御部37は、例えば、被印刷物101の速度を検出する速度センサ47の検出値に基づくフィードバック制御を行ってもよいし(図示の例)、フィードバックを行わないオープンループ制御を行ってもよい。速度センサ47は、被印刷物101自体の速度を検出してもよいし、被印刷物101を駆動する要素の速度を検出してもよい。前者としては、例えば、光学式マウスのように画像認識から速度を検出するものが挙げられる。後者としては、搬送装置5のローラ又はローラを駆動するモータの回転を検出するセンサ(例えばエンコーダ又はレゾルバ)が挙げられる。これらを用いることにより、被印刷物101の速度とヘッド21からの吐出タイミングとの同期を取ることができる。
【0096】
搬送速度制御部37は、例えば、不図示のドライバを介して、搬送装置5の少なくとも1つのローラを回転させる少なくとも1つのモータに電力を供給する。なお、搬送速度制御部37は、ドライバを含んで概念されても構わない。ドライバは、モータのフィードバック制御(上述のフィードバック制御の下位のフィードバック制御)を行うものであってもよいし、モータのオープンループ制御を行うものであってもよい。
【0097】
(第1温度制御部)
第1温度制御部39は、例えば、被印刷物101の所定の部位の温度が目標値に維持されるように乾燥装置9を制御する。所定の部位は、例えば、被印刷物101のうち乾燥装置9によって加熱されている領域の温度である。ただし、所定の部位は、被印刷物101のうちの他の領域であって、乾燥装置9による加熱が温度変化に支配的な領域であってもよい。例えば、所定の部位は、乾燥装置9によって加熱される領域の下流側の領域であって、他の装置によって加熱されない領域(例えば、図1の例ではインク吐出装置7と対向する領域)であってもよい。
【0098】
温度の目標値は、例えば、印刷装置1の稼働中において基本的に一定である。また、目標値は、印刷装置1の製造者によって設定された不変の値であってもよいし、ユーザによって設定された値であってもよいし、所定の情報に基づいて第1温度制御部39が設定した値であってもよい。上記の所定の情報は、例えば、製造者又はユーザによって入力されたインクに関する情報(例えば所定のポリマーのTgを特定可能な情報)、製造者又はユーザによって設定された被印刷物101の搬送速度、及び/又は製造者又はユーザによって入力された乾燥装置9と他の装置(例えば、7、11及び/又は13)との相対位置(距離)である。
【0099】
第1温度制御部39は、例えば、被印刷物101の所定の部位の温度を検出する第1温度センサ49の検出値に基づくフィードバック制御を行ってもよいし(図示の例)、フィードバックを行わないオープンループ制御を行ってもよい。第1温度センサ49は、被印刷物101自体の温度を検出してもよいし、被印刷物101付近の気温を検出してもよいし、乾燥装置9の適宜な部位(例えば第1加熱ローラ17Aの表面又は内部)の温度を検出してもよい。いずれの場合においても、第1温度センサ49は、非接触式の温度センサであってもよいし、接触式の温度センサであってもよい。非接触式の温度センサとしては、例えば、放射温度計及びサーモグラフィーを挙げることができる。接触式の温度センサとしては、熱電対、サーミスタ及び測温抵抗体を挙げることができる。検出された温度は、そのまま目標値と比較されてもよいし、適宜な補正(例えばセンサの位置と異なる位置の温度への変換)が施された後に目標値と比較されてもよい。
【0100】
乾燥装置9の制御は、具体的には、例えば、熱を生じる要素(例えば電熱線又は誘導コイル)に対して不図示のドライバを介して供給する電力の制御である。より詳細には、熱を生じる要素の態様に応じて、電圧、電流及び/又は周波数(交流の場合)が制御されてよい。なお、第1温度制御部39は、ドライバを含んで概念されても構わない。また、乾燥装置9の制御は、上記以外の制御であってもよい。例えば、第1加熱ローラ17Aに熱媒体が供給される構成においては、熱媒体の流量が制御されてもよい。
【0101】
(ヘッド温度制御部)
ヘッド温度制御部41は、例えば、ヘッド21の所定の部位に保持されているインクの温度が目標値に維持されるようにヘッドヒータ33を制御する。所定の部位は、例えば、ヘッド本体27及び背面部材29のいずれであってもよく、また、これらの部材内のいずれの部位(換言すればいずれの流路)であってもよい。ただし、所定の部位がノズル21b内又はノズル21bに近い位置であれば、インク103の被印刷物101に対する定着の制御の精度が向上する。
【0102】
温度の目標値は、例えば、印刷装置1の稼働中において基本的に一定である。また、目標値は、印刷装置1の製造者によって設定された不変の値であってもよいし、ユーザによって設定された値であってもよいし、所定の情報に基づいてヘッド温度制御部41が設定した値であってもよい。上記の所定の情報は、例えば、製造者又はユーザによって入力されたインクに関する情報(例えば所定のポリマーのTgを特定可能な情報)である。
【0103】
ヘッド温度制御部41は、例えば、インクの温度を検出するヘッド温度センサ51の検出値に基づくフィードバック制御を行ってもよいし(図示の例)、フィードバックを行わないオープンループ制御を行ってもよい。ヘッド温度センサ51は、流路内に露出してインク自体の温度を検出してもよいし、流路内に露出せずにヘッド21の温度を検出してもよい。前者の場合においては、例えば、接触式の温度センサを用いることができる。後者の場合においては、例えば、接触式又は非接触式の温度センサを用いることができる。接触式又は非接触式の温度センサの具体例は、既述のとおりである。検出された温度は、そのまま目標値と比較されてもよいし、適宜な補正(例えばセンサの位置と異なる位置の温度への変換)が施された後に目標値と比較されてもよい。
【0104】
ヘッドヒータ33の制御は、具体的には、例えば、ヘッドヒータ33に対して不図示のドライバを介して供給する電力の制御である。より詳細には、ヘッドヒータ33の具体的な構成に応じて、電圧及び、電流及び/又は周波数(交流の場合)が制御されてよい。なお、ヘッド温度制御部41は、ドライバを含んで概念されても構わない。
【0105】
(第2温度制御部)
第2温度制御部43は、例えば、被印刷物101の所定の部位の温度が目標値に維持されるように補助溶融装置13を制御する。所定の部位は、例えば、被印刷物101のうち補助溶融装置13によって加熱されている領域の温度である。
【0106】
温度の目標値は、例えば、印刷装置1の稼働中において基本的に一定である。また、目標値は、印刷装置1の製造者によって設定された不変の値であってもよいし、ユーザによって設定された値であってもよいし、所定の情報に基づいて第2温度制御部43が設定した値であってもよい。上記の所定の情報は、例えば、製造者又はユーザによって入力されたインクに関する情報(例えば所定のポリマーのTgを特定可能な情報)である。
【0107】
第2温度制御部43は、例えば、被印刷物101の所定の部位の温度を検出する第2温度センサ53の検出値に基づくフィードバック制御を行ってもよいし(図示の例)、フィードバックを行わないオープンループ制御を行ってもよい。第2温度センサ53は、被印刷物101自体の温度を検出してもよいし、被印刷物101付近の気温を検出してもよいし、補助溶融装置13の適宜な部位(例えば第2加熱ローラ17Bの表面又は内部)の温度を検出してもよい。いずれの場合においても、第2温度センサ53は、非接触式の温度センサであってもよいし、接触式の温度センサであってもよい。接触式及び非接触式の温度センサの具体例は既述のとおりである。検出された温度は、そのまま目標値と比較されてもよいし、適宜な補正(例えばセンサの位置と異なる位置の温度への変換)が施された後に目標値と比較されてもよい。
【0108】
補助溶融装置13は、例えば、被印刷物101(及びインク)の温度を所定の温度(例えば定着剤ポリマー以外のポリマーのTg以上定着剤ポリマーのTg未満の温度)まで上昇させる動作が意図されてよい。また、溶融装置11は、UVの照射によって、インクの温度を上記の所定の温度よりも高い温度(例えば定着剤ポリマーのTg以上の温度)まで上昇させる動作が意図されてよい。このような動作が意図されており、かつ溶融装置11によるインクの加熱が被印刷物101の温度に及ぼす影響が大きい場合においては、補助溶融装置13の制御においては、被印刷物101自体の温度ではなく、補助溶融装置13の適宜な部位の温度が検出されて、フィードバック制御に利用されてよい。
【0109】
補助溶融装置13の制御は、具体的には、例えば、熱を生じる要素(例えば電熱線又は誘導コイル)に対して不図示のドライバを介して供給する電力の制御である。より詳細には、熱を生じる要素の態様に応じて、電圧、電流及び/又は周波数(交流の場合)が制御されてよい。なお、第2温度制御部43は、ドライバを含んで概念されても構わない。また、補助溶融装置13の制御は、上記以外の制御であってもよい。例えば、第2加熱ローラ17Bに熱媒体が供給される構成においては、熱媒体の流量が制御されてもよい。
【0110】
(UV制御部)
UV制御部45は、例えば、溶融装置11から被印刷物101までの距離(WD:working distance)が一定であるときに被印刷物101に照射されるUVの強度が目標値に維持されるように溶融装置11を制御する。
【0111】
強度の目標値は、例えば、印刷装置1の稼働中において基本的に一定である。また、目標値は、印刷装置1の製造者によって設定された不変の値であってもよいし、ユーザによって設定された値であってもよいし、所定の情報に基づいてUV制御部45が設定した値であってもよい。上記の所定の情報は、例えば、製造者又はユーザによって入力されたインクに関する情報(例えば所定のポリマーのTgを特定可能な情報)、及び/又は被印刷物101のうちのUVが照射される予定の領域にUVが照射されないと仮定した場合における上記領域の温度である。UVを照射しないと仮定した場合における温度は、製造者又はユーザによって入力された値であってもよいし、所定の情報に基づいてUV制御部45が算出した値であってもよい。上記の所定の情報は、例えば、加熱に供される要素(9(17A)、21(33)及び/又は13(17B))における温度の目標値(別の観点では加熱量)、及びこれらの要素と溶融装置11との相対位置(距離)である。
【0112】
UV制御部45は、例えば、UVの強度をフィードバックしないオープンループ制御を行う。また、UV制御部45は、UVを生成する光源11aに対して不図示のドライバを介して供給する電力の制御を行う。より詳細には、光源11aの態様に応じて、電圧、電流及び/又は周波数(交流の場合)が制御されてよい。ドライバは、電力のフィードバック制御を行ってもよい。UV制御部45は、ドライバを含んで概念されても構わない。
【0113】
(インクの定着作用)
図5は、印刷装置1におけるインクの被印刷物101への定着の作用を説明する概念図である。
【0114】
図5の上下左右方向は、図1の上下左右方向に対応している。図5では、被印刷物101の一部の断面が示されている。被印刷物101は、紙面左側から紙面右側へ搬送されている。紙面左上には、ヘッド21の一部の断面が拡大して示されている。インク103は、ヘッド21から液滴として吐出されて被印刷物101の表面(上面)に付着すると、成分の比率及び成分の状態(ガラス状態等)を変化させながら被印刷物101と共に移動する。図5は、同一の液滴(インク103)の状態の変化を時系列で示す図として捉えられてよいし、互いに異なる複数の液滴を同時に見せている図と捉えられてもよい。なお、以下の説明では、インク103の成分の比率及び成分の状態が変化しても、インクに同一の符号(103)を用いる。
【0115】
図5では、インク103の状態(成分の比率及び成分の状態)として、第1状態S1から第5状態S5までの5つの状態が概念されている。
【0116】
第1状態S1は、ヘッド21に保持されているとき(換言すれば吐出前)のインク103の状態である。第1状態S1のインク103は、例えば、媒質105(溶媒及び/又は分散媒)と、着色剤107と、1種以上のポリマー(109及び111)を含んでいる。1種以上のポリマーは、少なくとも定着剤ポリマー109を含む。図示の例では、1種以上のポリマーは、第1ポリマー111も含んでいる。既述のように、インクは、この他にも、他の成分(ポリマーを含む)を含んでよい。ただし、図解を容易にするために、図5では他の成分の図示は省略されている。ここでの第1ポリマー111の説明は、他のポリマーにも適用されて構わない。
【0117】
図示の便宜上、着色剤107は、媒質105に分散している粒子(別の観点では顔料)として表現されている。また、定着剤ポリマー109は、第1状態S1において、粒子(換言すれば固体)の状態で存在している。定着剤ポリマー109以外のポリマーは、既述のように、第1状態S1において、溶質であってもよいし、分散質であってもよく、また、液体であってもよいし、固体であってもよい。図示の第1ポリマー111は、紐状の分散剤ポリマーのように表現されている。既述のように、本開示における図面は模式的なものであり、インク103内の粒子の径及び密度等も実際のものを反映したものではない。
【0118】
第2状態S2は、ヘッド21から被印刷物101に向かって飛翔しているとき(換言すれば吐出後且つ着弾前)のインク103の状態である。第2状態S2(成分の比率及び成分の状態)は、基本的に第1状態S1と同じである。
【0119】
第3状態S3は、被印刷物101に付着した後から、ある程度の時間が経過するまでの間のインク103の状態である。この状態では、媒質105が徐々に蒸発していく。このとき、ヘッドヒータ33によってインク103が予め昇温されていることにより、媒質105の蒸発が促進される。また、乾燥装置9によって被印刷物101が加熱されており、その熱がインク103に伝わることにより、媒質105の蒸発が促進される。
【0120】
また、特に図示しないが、定着剤ポリマー109以外の他のポリマーであって、第1状態S1及びS2において粒子であったポリマーは、第3状態S3において一部又は全部がガラス状態となってもよい。また、他のポリマーのいずれか1種以上のポリマーは、熱によって分解されて蒸発しても構わない。インクに含まれていたポリマー以外の添加剤は、残存してもよいし、蒸発しても構わない。
【0121】
第4状態S4は、溶融装置11によってUVが照射される直前のインク103の状態である。この状態では、第3状態S3よりも媒質105の蒸発が進行している。例えば、媒質105の蒸発は完了してよい。媒質105の蒸発によって、媒質105に溶けていた溶質、又は分散していた分散質(上述した蒸発するものは除く)は凝集して残る。図5では、着色剤107及び定着剤ポリマー109が凝集している状態が表されている。
【0122】
定着剤ポリマー109以外の他のポリマー(例えば第1ポリマー111)は、残存していてもよいし、分解されて蒸発してもよい。残存している場合、ガラス状態となっていてもよいし、ガラス状態となっていなくてもよい。例えば、定着剤ポリマー109以外に残存している全てのポリマーはガラス状態となっていてよい。なお、図5では、図解を容易にするために、第4状態S4及び第5状態S5のインク103に関して、第1ポリマー111は、その有無に関わらず図示が省略されている。
【0123】
第5状態S5は、溶融装置11によってUVが照射されているときのインク103の状態である。この状態では、着色剤107がUVを吸収して発熱し、この熱によって定着剤ポリマー109が溶融する(ガラス状態となる。)。その後、特に図示しないが、UVの照射が終了してインク103の温度が低下すると、定着剤ポリマー109が固化し、着色剤107が被印刷物101に定着する。図示は省略しているが、インク103が他のポリマー(例えば第1ポリマー111)を含む場合においては、当該他のポリマーも固化する(又は固体の状態を維持する。)。
【0124】
上記のように、定着剤ポリマー109の溶融前に媒質105の一部又は全部を蒸発させてよい。この場合、例えば、ガラス状態となった定着剤ポリマー109が被膜を形成して媒質105の蒸発を抑制してしまう蓋然性を低減することができる。その結果、効率的に媒質105を蒸発させることができる。定着剤ポリマー109の溶融前(別の観点ではUVによる加熱直前)の媒質105の蒸発量は、例えば、第1状態S1を基準として、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上又は全部(95質量%以上又は100質量%)とされてよい。
【0125】
UVをインク103に照射して加熱することによって、例えば、短時間でインク103を昇温して定着剤ポリマー109を溶融させることができる。一方で、発熱は主として着色剤107において生じることから局所的なものとなる。その結果、UVのみによってインク103の加熱を行うと、局所的に過度の温度上昇が生じ、インク103及び/又は被印刷物101の品質が低下する可能性がある。乾燥装置9及び/又は補助溶融装置13によって被印刷物101を加熱することにより、例えば、局所的な発熱を緩和しつつ、昇温時間を短縮できる。
【0126】
定着剤ポリマー109は、逆説的であるが、その組成ではなく、上記のような作用の有無によって定着剤ポリマーであるか否かが判定されてもよい。すなわち、定着剤ポリマー109は、インク103が含む1種以上のポリマーのうち、UVの照射による加熱前においては固体(粒子)の状態で存在し、UVの照射によって溶融し(ガラス状態となり)、その後、固形成分としてインク103内に残存するポリマーであると定義されてもよい。
【0127】
(ヘッドヒータの目標温度)
ヘッド21は、例えば、既述のように、第1状態S1のインク103の温度を所定の目標温度に維持するヘッドヒータ33を有してよい。また、第1状態S1(成分比率及び成分の状態)は、基本的に(粘度等は除いて)、常温(例えば20℃)におけるインク103の状態と同様とされてよい。従って、例えば、ヘッドヒータ33の目標温度は、常温においてガラス状態となることが意図されていない、任意の種類又は全ての種類のポリマーのTgよりも、低い温度に設定されてよい。逆の観点では、インク103は、上記任意の種類又は全ての種類のポリマーのTgがヘッドヒータ33の目標温度よりも高くなるように構成されてよい。上記のように目標温度及び/又はTgが設定されることにより、例えば、溶融したポリマーがノズル21bの内面等に付着する蓋然性が低減される。
【0128】
また、ヘッドヒータ33の目標温度は、上記任意の種類又は全ての種類のポリマーのTgよりも低い範囲内で、極力高くされてよい。逆の観点では、インク103は、上記任意の種類又は全ての種類のポリマーのTgが、ヘッドヒータ33の目標温度よりも高い範囲内で極力低くなるように構成されてよい。このように目標温度及び/又はTgが設定されることにより、例えば、インク103が被印刷物101に着弾してから被印刷物101に定着するまでの時間を短くすることができる。また、例えば、被印刷物101に着弾した後の液滴が、意図されていない広がりを生じる蓋然性を低減できる(保形性を向上させることができる。)。なお、インク103の温度を高くしておくと(例えば45°以上にしておくと)、インク103の保形性が向上することは、発明者が実験により得た知見である。
【0129】
上記任意の種類又は全ての種類のポリマーのTg、及びヘッドヒータ33の目標温度の具体例を挙げる。ポリマーのTgは50℃以上とされてよい。一方、ヘッドヒータ33の目標温度の範囲は、40℃以上50℃未満、又は40℃以上45°以下とされてよい。また、別の観点では、例えば、ヘッド21の目標温度と、インク103が含む特定の種類のポリマー(例えば分散剤ポリマー又は耐擦過性ポリマー)のTgとの差は、前者が後者よりも低いことを前提として、1℃以上10℃以下、又は1℃以上5℃以下とされてよい。
【0130】
第2状態S2において、吐出されたインク103(液滴)が飛翔していることによって、インク103の温度は低下する。この温度変化は、飛翔距離(時間経過)に対して線形的なものである。また、温度の低下量は比較的小さい。試算の例を以下に示す。2pLの液滴が25℃の雰囲気において初速10m/sで1mmの距離を飛翔する場合を想定する。この場合、液滴の初期温度が40℃のときは、液滴の温度は38.0℃に低下する。液滴の初期温度が50℃のときは、液滴の温度は46.6℃に低下する。10pLの液滴が25℃の雰囲気において初速10m/sで1mmの距離を飛翔する場合を想定する。この場合、液滴の初期温度が40.0℃のときは、液滴の温度は39.3℃に低下する。液滴の初期温度が50℃のときは、液滴の初期温度は48.8℃に低下する。ヘッドヒータ33の目標温度、及び/又は下記の乾燥装置9の目標温度の設定に際しては、この温度差が考慮されてもよいし、考慮されなくてもよい。
【0131】
(乾燥装置の目標温度)
乾燥装置9は、既述のように、被印刷物101の温度を目標温度に維持してよい。被印刷物101の温度と、第3状態S3のインク103の温度とは概ね同等とみなされてよい。乾燥装置9の目標温度(別の観点では第3状態S3のインク103の温度。本段落及び次段落において同様。)は、定着剤ポリマー109のTgよりも低くされてよい。逆の観点では、インク103は、定着剤ポリマー109のTgが乾燥装置9の目標温度よりも高くなるように構成されてよい。このように目標温度及び/又はTgが設定されることにより、例えば、既述のように、溶融した定着剤ポリマー109の被膜によって媒質105の蒸発が抑制される蓋然性が低減される。
【0132】
乾燥装置9の目標温度は、定着剤ポリマー109のTgよりも低い範囲内で極力高くされてよい。例えば、乾燥装置9の目標温度は、インク103が被印刷物101に着弾する際の被印刷物101の温度がインク103の温度よりも高くなるように設定されてよい。この場合、例えば、媒質105の蒸発を促進する効果が向上する。逆の観点では、インク103は、定着剤ポリマー109のTgが、乾燥装置9の目標温度よりも高い範囲内で極力低くなるように選択されてよい。この場合、例えば、定着剤ポリマー109を溶融させる時間を短くすることができる。
【0133】
乾燥装置9の目標温度の設定においては、媒質105が蒸発に要する時間が考慮されてもよい。
【0134】
図6は、媒質105が蒸発に要する時間の試算結果を示す図である。この図において、横軸は、インク103の液滴の表面温度T(℃)を示している。縦軸は、インク103の媒質105の蒸発が完了する時間t(s)を示している。
【0135】
この試算では、インク103の液滴ではなく、水の液滴を想定した。また、約3.8×10-10の表面積を有する半球状の水の液滴が25℃の雰囲気に晒されている状況を想定している。
【0136】
図示されているように、時間tは、温度Tが雰囲気の温度よりも高くなると急激に短くなり、その後、沸点の手前(約70℃)で概ね一定となる。図6には示していないが、温度Tが雰囲気の温度(25℃)と同じ場合は、時間tは約4000sとなる。この結果から、例えば、乾燥装置9の目標温度を70℃としてよい。
【0137】
定着剤ポリマー109のTg、及び乾燥装置9の目標温度(別の観点では第3状態S3のインク103の温度。本段落において同様。)の具体例を挙げる。定着剤ポリマーのTgは70℃以上120℃以下とされてよい。一方、乾燥装置9の目標温度は、定着剤ポリマー109のTgよりも低いことを前提として、50℃以上120℃未満、60℃以上120℃未満、70℃以上120℃未満とされてよい。また、別の観点では、定着剤ポリマー109のTgと乾燥装置9の目標温度との差は、前者が後者よりも高いことを前提として、1℃以上50℃以下、1℃以上30℃以下、又は1℃以上10℃以下とされてよい。ここでの具体例は、矛盾等が生じない限り、既述の定着剤ポリマー109以外のポリマーのTg及びヘッドヒータ33の目標温度の具体例と組み合わされてよい。
【0138】
本実施形態では、乾燥装置9は、第1加熱ローラ17Aによって実現されている。被印刷物101の温度は、第1加熱ローラ17Aの位置から離れるに従って低下する。このような態様においては、上述した目標温度は、例えば、第1加熱ローラ17Aの位置からインク103が着弾する位置(インク吐出装置7の位置)の直前までの所定の位置の温度の目標値とされてよい。例えば、所定の位置は、第1加熱ローラ17Aの位置、又はインク吐出装置7の直前の位置とされてよい。所定の位置の温度の目標値は、第1加熱ローラ17Aの位置からインク吐出装置7の直前の位置までの領域全域に亘って、被印刷物101の温度が上述した目標温度の範囲に収まるように設定されてもよい。
【0139】
被印刷物101の温度分布を試算した結果の例を以下に示す。
【0140】
試算の条件(仮定)は次のとおりである。第1加熱ローラ17Aの温度として、50℃、60℃及び70℃の3ケースを想定した。第2加熱ローラ17Bの温度は70℃とした。溶融装置11の影響は考慮外とした。被印刷物101の周囲の雰囲気の温度は25℃とした。被印刷物101の搬送速度は100m/分とした。被印刷物101は厚さ12μmのPETとした。
【0141】
図7は、試算結果を示す図である。この図において、横軸は、D1方向における位置x(m)を示している。縦軸は、被印刷物101の温度T(℃)を示している。位置x1は、第1加熱ローラ17Aの位置を示している。位置x2は、第2加熱ローラ17Bの位置を示している。線LT50、LT60及びLT70は、それぞれ第1加熱ローラ17Aの温度が50℃、60℃及び70℃であるケースの試算結果を示している。
【0142】
この図に示すように、被印刷物101の温度は、概ね線形的に低下する。従って、例えば、乾燥装置9(本実施形態では第1加熱ローラ17A)の温度(別の観点では加熱量)、乾燥装置9と他の装置(例えばインク吐出装置7又は溶融装置11)との相対位置(距離)、及び被印刷物101の搬送速度に基づいて、他の装置(7又は11)における被印刷物101(インク103)の温度を容易に推定することができる。なお、距離及び搬送速度は、乾燥装置9から他の装置までの搬送時間と捉えてもよい。
【0143】
別の観点では、上記のパラメータ(加熱量、距離及び搬送速度等)の値(目標値)の設定により、任意の位置で任意の温度を実現し、ひいては、既述の種々の作用を得ることができる。例えば、被印刷物101のインク吐出装置7と対向する直前の部分の温度を第1ポリマー111のTg以上定着剤ポリマー109のTg未満の温度とすることができる。乾燥装置9(本実施形態では第1加熱ローラ17A)の直後から溶融装置11と対向する部分の直前までの領域において、被印刷物101の温度を第1ポリマー111のTg以上定着剤ポリマー109のTg未満の温度とすることができる。また、溶融装置11による定着剤ポリマー109の溶融前に蒸発を完了させることができる。
【0144】
図7では、第1加熱ローラ17Aの温度を60℃以上(さらには70℃以上)にすると、1.5m下流においても、概ね40℃以上の温度が保たれることが示されている。このように比較的高い温度が比較的長い距離(別の観点では時間)に亘って維持されることによって、例えば、被印刷物101に着弾したインク103に温度低下が生じる蓋然性を低減してインク103の保形性を確保する作用、及び/又はインク103を昇温して蒸発を促進する作用が得られやすい。
【0145】
(補助溶融装置の目標温度)
補助溶融装置13は、既述のように、被印刷物101の温度を目標温度に維持してよい。既述のように、補助溶融装置13は、被印刷物101の温度を定着剤ポリマー109のTg未満の所定の温度まで上昇させる動作が意図されてよく、溶融装置11の加熱が被印刷物101の温度に及ぼす影響が大きい場合は、ここでの目標温度は、被印刷物101自体の温度ではなく、補助溶融装置13の所定の部位の温度の目標値とされてよい。
【0146】
補助溶融装置13の目標温度については、乾燥装置9の目標温度の説明が適宜に援用されてよい。例えば、補助溶融装置13の目標温度は、定着剤ポリマー109のTg未満とされてよく、また、定着剤ポリマー109のTgよりも低い範囲内で極力高くされてよい。具体的な値としては、補助溶融装置13の目標温度の範囲は、定着剤ポリマー109の温度よりも低いことを前提として、50℃以上120℃未満、60℃以上120℃未満、70℃以上120℃未満とされてよい。また、別の観点では、定着剤ポリマー109のTgと補助溶融装置13の目標温度との差は、前者が後者よりも高いことを前提として、1℃以上50℃以下、1℃以上30℃以下、又は1℃以上10℃以下とされてよい。
【0147】
(溶融装置によるUV照射)
上記のように、被印刷物101が溶融装置11の直前に到達したときの被印刷物101(別の観点ではインク103)の温度、及び/又は補助溶融装置13によって昇温された被印刷物101(別の観点ではインク103)の温度は適宜に設定されてよい。そして、溶融装置11によって照射されるUVの強度及び照射時間(別の観点ではD1方向における照射長さ)等は、定着剤ポリマー109がそのTg以上となるように適宜に設定されてよい。
【0148】
以下に、UVの照射による昇温の試算の結果の例を示す。
【0149】
まず、着色剤107としてカーボンブラック(顔料)が含まれる樹脂の温度上昇を試算した。試算の条件(仮定)は次のとおりである。着色剤107の粒子形状は70nmの立方体とした。着色剤107の密度は2200kg/mとした。着色剤107の比熱は691J/kgKとした。5200個の上記着色剤107が0.8pLの樹脂中に存在しているものとした。樹脂の密度は1060kg/mとした。樹脂の比熱は1340J/kgKとした。UVの強度は352kW/mとし、そのうちの8割が発熱量に変換されると仮定した。熱は樹脂の外部へ逃げないと仮定した。UV照射前の初期温度として25℃及び50℃の2ケースを想定した。
【0150】
図8Aは、上記のような条件下における0.8pLの樹脂の温度変化を示す図である。横軸は、UVの照射時間t(μs)を示している。縦軸は、温度T℃を示している。破線は初期温度が25℃の場合を示しており、実線は初期温度が50℃の場合を示している。
【0151】
この図に示されているように、着色剤107を含む樹脂の温度は、比較的短い時間で定着剤ポリマー109のTg以上の温度まで上昇する。具体的には、例えば、樹脂の温度は、約0.01sの間に50℃から120℃まで上昇している。
【0152】
次に、上記の樹脂が含まれる水の温度上昇を試算した。試算の条件(仮定)は次のとおりである。1.2pLの水と、上記の0.8pLの樹脂(5200個の着色剤107を含む)とが混在してインクが構成されているものとした。水の密度は1000kg/mとした。水の比熱は4180J/kgKとした。熱はインクの外部へ逃げないと仮定した。UV照射前の初期温度として25℃及び50℃の2ケースを想定した。
【0153】
図8Bは、上記のような条件下における水(別の観点ではインクの全体)の温度変化を示す図である。横軸は、UVの照射時間t(μs)を示している。縦軸は、温度T℃を示している。破線は初期温度が25℃の場合を示しており、実線は初期温度が50℃の場合を示している。
【0154】
この図に示されているように、インクの温度は、比較的短い時間で定着剤ポリマー109のTg以上の温度まで上昇する。具体的には、例えば、インクの温度は、約0.05sの間に50℃から120℃まで上昇している。
【0155】
以上のように、UVの強度及び照射時間からインクの温度を試算することができる。このことは、例えば、第5状態S5のインク103の温度が、乾燥装置9及び/又は補助溶融装置13によって昇温されたインク103の温度(例えば定着剤ポリマー109のTg未満の温度)から、所望の温度(例えば定着剤ポリマー109のTg以上の温度)まで上昇するように、UVの強度及び照射時間(D1方向における照射長さ)を設定可能であることを示している。
【0156】
また、上記の試算例は、例えば、UV照射によって比較的短い時間(例えば0.05s以下)で、インク103の温度を任意の温度まで上昇させることができることを示している。
【0157】
上記の試算例では、インク103が120℃まで上昇する時間が約0.05sであるのに対して、着色剤107を含む樹脂が120℃まで上昇する時間は約0.01sとなっている。これは、UVの照射は局所的な温度上昇を生じることを示している。別の観点では、溶融装置11のみによってインク103の温度を上昇させるのではなく、乾燥装置9及び/又は補助溶融装置13によってインク103の温度を上昇させることによって、局所的な温度上昇が緩和されることが示されている。
【0158】
(装置の寸法の一例)
印刷装置1の各種の寸法、その内部の各種の装置の各種の寸法、及び装置同士の相対位置(距離)は適宜に設定されてよい。本実施形態では、効率的にインク103を乾燥させて被印刷物101に定着させることから、被印刷物101の全長(特にインク吐出装置7から回収ローラ3Bまでの長さ)を短くすることが容易である。以下に寸法の範囲の例を示す。以下に示す範囲は、あくまで例であって、各種の寸法は、以下に示す範囲外の大きさであっても構わない。
【0159】
被印刷物101の搬送方向(D1方向)において、印刷装置1の全長は、1m以上5m以下とされてよい。供給ローラ3Aの軸心から第1加熱ローラ17Aの軸心までのD1方向に平行な距離は、200mm以上600mm以下とされてよい。第1加熱ローラ17A(及び第2加熱ローラ17B)の直径は20mm以上100mm以下とされてよい。第1加熱ローラ17Aの軸心からインク吐出装置7の前端までのD1方向に平行な距離は、200mm以上600mm以下とされてよい。インク吐出装置7の前端から後端までのD1方向に平行な長さは300mm以上900mm以下とされてよい。インク吐出装置7の後端から溶融装置11の前端又は第2加熱ローラ17Bの軸心までのD1方向に平行な長さは200mm以上600mm以下とされてよい。溶融装置11の前端から後端までのD1方向に平行な長さは5mm以上30mm以下とされてよい。溶融装置11の後端から回収ローラ3Bの軸心までのD1方向に平行な長さは、被印刷物101(インク103)を冷却する不図示の冷却装置を設けた場合において、300mm以上900mm以下とされてよい。上記の寸法と、被印刷物101の搬送速度50mm/分以上300mm/分以下とが組み合わされてよい。
【0160】
以上のとおり、本実施形態では、印刷装置1は、インク吐出装置7と、乾燥装置9と、溶融装置11とを有している。インク吐出装置7は、インク103を被印刷物101に付着させる。インク103は、媒質105及び定着剤ポリマー109を含む。乾燥装置9は、被印刷物101を加熱することにより媒質105の蒸発を促進させる。溶融装置11は、被印刷物101に付着したインク103に紫外線を照射してインク103を加熱することにより定着剤ポリマー109を溶融させてインク103(着色剤107)を被印刷物101に定着させる。
【0161】
従って、例えば、媒質105の蒸発と定着剤ポリマー109の溶融とを別個の装置で行うことができる。その結果、例えば、インク103の定着の高速化、インク103の定着の効率化、及び/又はインク103等の品質向上を図ることができる。具体的には、例えば、乾燥装置9は、被印刷物101を加熱することから、インク103の着弾前に被印刷物101の温度を予め上昇させておくことによって、インク103の着弾後に即座にインク103の温度を上昇させ、媒質105の蒸発を開始することができる。また、例えば、溶融装置11は、UVの照射によって着色剤107の温度を上昇させ、ひいては、定着剤ポリマー109を加熱する。従って、被印刷物101に熱が逃げる前に定着剤ポリマー109を加熱することができ、熱効率が向上する。また、例えば、UVの照射によってのみインク103を加熱するのではなく、乾燥装置9によってインク103を加熱することから、局所的な過度の加熱によってインク103及び/又は被印刷物101の品質が低下する蓋然性が低減される。例えば、局所的な加熱によって被印刷物101に皺及び/又は変形が生じる蓋然性が低減される。なお、局所的な加熱が皺及び/又は変形を生じ得ることは、発明者が実験により得た知見である。
【0162】
溶融装置11は、被印刷物101の搬送方向において、乾燥装置9よりも下流側に位置してよい。別の観点では、溶融装置11は、乾燥装置9が媒質105を蒸発させた後に定着剤ポリマー109を溶融させてよい。
【0163】
この場合、例えば、媒質105の少なくとも一部が蒸発した後に溶融装置11による定着剤ポリマー109の溶融が開始される。その結果、既述のように、溶融した定着剤ポリマー109によって形成された被膜が媒質105の蒸発を妨げる蓋然性が低減される。ひいては、短時間でインク103を乾燥させて定着させることができる。
【0164】
乾燥装置9による被印刷物101の加熱量(別の観点では目標温度)、乾燥装置9と溶融装置11との相対位置(別の観点では距離)及び被印刷物101の搬送速度は、溶融装置11による定着剤ポリマー109の溶融が始まる前に乾燥装置9による媒質105の蒸発が完了するように定められてよい。
【0165】
この場合、例えば、上述した定着剤ポリマー109の被膜によって媒質105の蒸発が妨げられる蓋然性を低減する効果が向上する。また、例えば、蒸発した媒質105によって定着剤ポリマー109内に気泡が生じる蓋然性も低減され、定着後のインク103の品質が向上する。具体的には、例えば、気泡による光沢の低下が低減される。
【0166】
印刷装置1は、補助溶融装置13を有してもよい。補助溶融装置13は、被印刷物101に対して溶融装置11とは反対側に位置し、被印刷物101のインク103が付着した面(表面)の裏面から被印刷物101を加熱して定着剤ポリマー109の溶融を補助してよい。
【0167】
この場合、被印刷物101は、UVの照射によって表面から加熱されるとともに、補助溶融装置13によって裏面から加熱される。その結果、例えば、被印刷物101を短時間で昇温することができる。また、UVの照射のみによって定着剤ポリマー109を溶融する態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれてよい。)に比較して、インク103内の局所的な過度の昇温が抑制され、インク103及び/又は被印刷物101の品質が低下する蓋然性が低減される。
【0168】
補助溶融装置13は、所定の温度を維持するように制御されつつ被印刷物101の裏面に接触する加熱面(第2加熱ローラ17Bの外周面)を有してよい。換言すれば、補助溶融装置13は、被印刷物101の温度が所定の温度になるように被印刷物101を加熱してよい。溶融装置11は、被印刷物101に付着したインクを上記所定の温度より高い温度に加熱してよい。
【0169】
この場合、例えば、補助溶融装置13によって被印刷物101の温度が所定の温度にされることから、上記の局所的な過度の昇温の蓋然性を低減する効果が奏されやすくなる。また、被印刷物101の周囲の雰囲気の温度が変動しても、その変動に応じた加熱量の調整は補助溶融装置13によってなされるから、UVの強度又は照射時間の調整はなされなくてもよい。すなわち、インク103の温度が定着剤ポリマー109のTgを超えるようにUVを照射する構成(別の観点では制御)が簡素化される。
【0170】
乾燥装置9は、被印刷物101を加熱する第1部分17aと第2部分17bとを交互に繰り返し被印刷物101に接触させてよい。
【0171】
この場合、例えば、ヒータが被印刷物101に対して摺動する(継続的に被印刷物101に当接する)板状である態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれてよい。)に比較して、被印刷物101に当接することによって低下した第1部分17a又は第2部分17bの温度を被印刷物101に当接していない期間に上昇させることができる。その結果、例えば、電熱線等の発熱部の単位体積当たりの発熱量を低減しつつ、被印刷物101を加熱する速度を維持できる。ひいては、発熱部の負担が低減される。
【0172】
乾燥装置9は、被印刷物101を定着剤ポリマー109のガラス転移温度(Tg)より低い温度まで加熱してよい。溶融装置11は、被印刷物101に付着したインク103を、定着剤ポリマーのTg以上の温度に加熱してよい。
【0173】
この場合、例えば、乾燥装置9の加熱によって定着剤ポリマー109の溶融が生じる蓋然性は低い、又は溶融したとしてもその量は少ない。一方で、溶融装置11によって確実に定着剤ポリマー109を溶融させることができる。その結果、上述した定着剤ポリマー109の被膜によって媒質105の蒸発が妨げられる蓋然性を低減する効果が向上する。
【0174】
インク103は、定着剤ポリマー109とは別の第1ポリマー111を含んでよい。乾燥装置9は、第1ポリマー111のガラス転移温度(Tg)以上定着剤ポリマー109のガラス転移温度(Tg)未満の温度まで被印刷物101を加熱してよい。
【0175】
この場合、例えば、インク103は、乾燥装置9によって、定着剤ポリマー109のTg未満の温度範囲であって、比較的高い温度にされているということができる。従って、例えば、既述のように乾燥装置9によって媒質105の蒸発を促進する効果が向上する。
【0176】
乾燥装置9は、被印刷物101の搬送方向(D1方向)において、インク吐出装置7よりも上流側に位置する第1乾燥装置(本実施形態では第1加熱ローラ17A)を含んでよい。被印刷物101のインク吐出装置7と対向する直前の部分の温度が、第1ポリマー111のTg以上定着剤ポリマー109のTg未満の温度となるように、第1乾燥装置による加熱量、第1乾燥装置とインク吐出装置7との相対位置、及び被印刷物101の搬送速度が、製造者、ユーザ及び/又は制御装置15によって定められてよい。
【0177】
この場合、例えば、インク吐出装置7の直前において被印刷物101の温度が定着剤ポリマー109のTg未満であることから、その後に着弾したインク103の温度が定着剤ポリマー109のTgに到達する蓋然性が低減される。ひいては、上述した定着剤ポリマー109の被膜が媒質105の蒸発を妨げる蓋然性を低減する効果が奏されやすい。その一方で、インク吐出装置7の直前において被印刷物101の温度は比較的高くされていると言えるから、その後に着弾したインク103の温度を短時間で上昇させて媒質105の蒸発を促進することができる。
【0178】
乾燥装置9は、被印刷物101の搬送方向において、溶融装置11よりも上流側に位置してよい。乾燥装置9の直後から溶融装置11と対向する部分の直前までの領域において、被印刷物101の温度が、第1ポリマー111のTg以上定着剤ポリマー109のTg未満の温度となるように、乾燥装置9による加熱量(別の観点では目標温度)、乾燥装置9と溶融装置11との相対位置(別の観点では距離)、及び被印刷物101の搬送速度が、製造者、ユーザ及び/又は制御装置15によって定められてよい。
【0179】
この場合、例えば、乾燥装置9の直後から溶融装置11の直前までの領域において被印刷物101の温度が定着剤ポリマー109のTg未満であることから、この領域において定着剤ポリマー109の被膜が形成される蓋然性が低減される。ひいては、当該被膜によって媒質105の蒸発が妨げられる蓋然性が低減される。その一方で、上記領域において被印刷物101の温度は比較的高くされていると言えるから、媒質105の蒸発を促進する効果が向上する。
【0180】
第1ポリマー111は、分散剤ポリマーであってよい。
【0181】
この場合、例えば、分散剤ポリマーは、媒質105の蒸発が完了する前は、媒質105に分散されており、被膜を形成しにくい。従って、例えば、乾燥装置9によって分散剤ポリマーのTgよりも高い温度までインク103の温度を上昇させても、乾燥装置9によって定着剤ポリマーのTgよりも高い温度までインク103の温度を上昇させた態様に比較すれば、被膜が媒質105の蒸発を妨げる蓋然性は低い。その結果、例えば、定着剤ポリマー109の被膜が形成される前にインク103の温度を比較的高くして媒質105を効率的に蒸発させる効果が向上する。
【0182】
インク103に含まれるポリマーの中で定着剤ポリマー109のガラス転移温度が最も高くされてよい。
【0183】
この場合、例えば、定着剤ポリマー109のTgは比較的高いと言える。従って、乾燥装置9は、インク103の温度を定着剤ポリマーのTg未満の温度範囲で比較的高くできる。その結果、定着剤ポリマー109の被膜が形成される前において媒質105の蒸発を促進する効果が向上する。
【0184】
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態に係る印刷装置201の構成を示す側面図であり、第1実施形態の図1に対応している。
【0185】
印刷装置201においては、被印刷物101の搬送方向において、溶融装置11は、第2加熱ローラ17Bよりも下流に位置している。換言すれば、印刷装置201は、溶融装置11と被印刷物101を挟んで対向する補助溶融装置13を有していない。第2加熱ローラ17Bは、第1加熱ローラ17Aと共に、溶融装置11よりも上流側に位置する乾燥装置209を構成している。すなわち、乾燥装置209は、第1加熱ローラ17Aによって構成されている第1乾燥装置と、第2加熱ローラ17Bによって構成されている第2乾燥装置とを有しているということができる。
【0186】
第1加熱ローラ17A(第1乾燥装置)の制御及び目標温度については、矛盾が生じない限り、第1実施形態における第1加熱ローラ17A(乾燥装置9)の制御及び目標温度についての説明が援用されてよい。このとき、乾燥装置9の語は、矛盾が生じない限り、乾燥装置209の語に置換されてもよいし、第1乾燥装置の語に置換されてもよい。
【0187】
第2加熱ローラ17B(第2乾燥装置)の制御及び目標温度については、矛盾が生じない限り、第1実施形態における第1加熱ローラ17A(乾燥装置9)の制御及び目標温度についての説明が援用されてよい。このとき、乾燥装置9の語又は第1加熱ローラ17Aの語は、矛盾が生じない限り、第2乾燥装置の語又は第2加熱ローラ17Bの語に置換されてよい。及び/又は、第1実施形態における第2加熱ローラ17B(補助溶融装置13)の制御及び目標温度についての説明が援用されてもよい。このとき、補助溶融装置13の語は、矛盾が生じない限り、第2乾燥装置の語に置換されてもよい。
【0188】
例えば、乾燥装置209又は第2加熱ローラ17B(第2乾燥装置)による被印刷物101の加熱量、乾燥装置209又は第2加熱ローラ17Bと溶融装置11との相対位置及び被印刷物101の搬送速度は、溶融装置11による定着剤ポリマー109の溶融が始まる前に乾燥装置209又は第2加熱ローラ17Bによる媒質105の蒸発が完了するように定められてよい。乾燥装置209の直後(別の観点では第2乾燥装置の直後)から溶融装置11と対向する部分の直前までの領域において、被印刷物101の温度が、第1ポリマー111のTg以上定着剤ポリマー109のTg未満の温度となるように、乾燥装置209又は第2乾燥装置による加熱量、第2乾燥装置と溶融装置11との相対位置、及び被印刷物101の搬送速度が定められてよい。
【0189】
以上のとおり、本実施形態においても、印刷装置1は、インク吐出装置7と、乾燥装置209と、溶融装置11とを有している。インク吐出装置7は、インク103を被印刷物101に付着させる。インク103は、媒質105及び定着剤ポリマー109を含む。乾燥装置209は、被印刷物101を加熱することにより媒質105の蒸発を促進させる。溶融装置11は、被印刷物101に付着したインク103に紫外線を照射してインク103を加熱することにより定着剤ポリマー109を溶融させてインク103(着色剤107)を被印刷物101に定着させる。
【0190】
従って、例えば、第1実施形態と同様の効果が奏される。具体的には、例えば、媒質105の蒸発と定着剤ポリマー109の溶融とを別個の装置で行うことができる。その結果、例えば、インク103の定着の高速化、インク103の定着の効率化、及び/又はインク103等の品質向上を図ることができる。
【0191】
本実施形態のように、乾燥装置209は、被印刷物101の搬送方向において、インク吐出装置7よりも上流側に配置された第1乾燥装置(第1加熱ローラ17A)と、インク吐出装置7よりも下流側に配置された第2乾燥装置(第2加熱ローラ17B)と、を有してもよい。溶融装置11は、第2乾燥装置よりも下流側に位置してよい。
【0192】
この場合、例えば、第1加熱ローラ17Aによってインク103の着弾の前に予め被印刷物101の温度を上昇させておくことにより、着弾後のインク103の温度を早期に上昇させることができる。また、例えば、第2加熱ローラ17Bによって着弾後のインク103を加熱して早期に媒質105を蒸発させることができる。ひいては、溶融装置11によるUV照射前に媒質105の蒸発を完了させることが容易である。
【0193】
なお、第1実施形態は、第2実施形態に比較すると、例えば、第2加熱ローラ17Bは、定着剤ポリマー109の温度をそのTg以上に上昇させる作用に寄与しやすく、ひいては、溶融装置11の負担を軽減しやすい。また、例えば、機構設計の制約に起因して、インク吐出装置7から第2加熱ローラ17Bの軸心までの距離が第1実施形態と第2実施形態とで同じであるとすると、第1実施形態の方が印刷装置1の全長を短くしやすい。
【0194】
<第3実施形態>
図10は、第3実施形態に係る印刷装置301の構成を示す側面図であり、第1実施形態の図1に対応している。
【0195】
印刷装置301は、複数(図示の例では3つ)の溶融装置11A、11B及び11Cを有している。溶融装置11A、11B及び11Cのそれぞれは、例えば、基本的に(寸法等の具体的な設計事項を除いて)、第1実施形態の溶融装置11と同様のものである。以下では、A~Cを省略して、溶融装置11A~11Cを区別しないことがある。なお、これら3つの溶融装置11を1つの溶融装置として捉えても構わない。
【0196】
複数の溶融装置11は、例えば、被印刷物101の搬送方向における位置が互いに異なっている。被印刷物101において、複数の溶融装置11によってUVが照射される領域は、搬送方向において互いに離れていてもよいし、実質的に隙間無く互いに隣接していてもよいし、互いに重複していてもよい。
【0197】
複数の溶融装置11は、例えば、被印刷物101のうち、第2加熱ローラ17Bによって表面側に凸となるように湾曲している部分に沿って配列されている。各溶融装置11は、概ね、被印刷物101の湾曲している部分に対して、当該部分の法線方向においてUVを照射する。換言すれば、被印刷物101の湾曲部分は、複数の法線方向からUVが照射される。なお、図10では、被印刷物101の湾曲している部分に対して、3つの溶融装置11A、11B、11CからUVを照射する例を示しているが、各溶融装置11と被印刷物101との距離を更に大きくすることにより、更に多くの溶融装置11を配置して、更に多くの溶融装置11からのUVを、被印刷物101の湾曲している部分に照射することができる。このように、被印刷物101の凸となるように湾曲している部分にUVを照射することにより、被印刷物101の特定の領域に対して、多くの溶融装置11からのUVを垂直に近い角度で照射することができるので、照射されるUVのエネルギー密度を高めて、定着剤ポリマー109を短時間で溶融することが可能となる。
【0198】
図示の例とは異なり、複数の溶融装置11は、被印刷物101のうち直線状に延びている部分に沿って配列されて、上記直線状に延びている部分にUVを照射してもよい。また、被印刷物101の表面側に凸となるように湾曲してUVが照射される部分は、第2加熱ローラ17B以外のローラによって構成されてもよいし、2以上のローラによって構成されてもよい。
【0199】
特に図示しないが、被印刷物101の湾曲部分は、複数の溶融装置11以外の方法によって、複数の法線方向からUVが照射されてもよい。例えば、1つの溶融装置11が被印刷物101の湾曲部分に沿うように構成されてもよい。具体的には、例えば、複数の光源11aが被印刷物101の湾曲部分に沿って配列されているとともに、複数の光源11aに共通の反射鏡、絞り及び/又は電源回路等が設けられていてもよい。反射鏡及び/又は絞りは、被印刷物101の湾曲部分に沿う形状を有してよい。ただし、このような態様は、光源11a毎に溶融装置11を定義して、複数の溶融装置11同士で反射鏡、絞り及び/又は電源回路が共用されていると捉えてもよい。また、例えば、複数のLED(光源11aの例)が被印刷物101の湾曲部分に沿うように配列された曲面状の面光源(これも光源11aの例)を有する溶融装置11が設けられてもよい。
【0200】
複数の溶融装置11は、UVの波長、UVの強度、及び/又は被印刷物101においてUVが照射される領域の搬送方向の長さ等の種々の条件が互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0201】
例えば、複数(その一部又は全部)の溶融装置11のUVの波長は、互いに同一とされてよい。この場合、例えば、UVが照射される領域の被印刷物101の搬送方向における長さを1つの溶融装置11がUVを照射できる長さよりも長くできる。その結果、例えば、被印刷物101の搬送速度を速くしつつ、定着剤ポリマー109の溶融に必要な、被印刷物101の同一位置に対するUVの照射時間を確保できる。別の観点では、定着剤ポリマー109の溶融に必要な照射距離(時間)を確保するための溶融装置11の設計の自由度が向上する。
【0202】
また、例えば、複数(その一部又は全部)の溶融装置11のUVの波長は、互いに異なるものとされてよい。後にインクの変形例において説明するように、インクによるUVの吸収量(UVによる発熱量)が大きくなるUVの波長は、インク103の色(着色剤107の種類)によって異なる。従って、例えば、印刷装置1がカラープリンタである場合において、色毎に、発熱量が大きくなる波長のUVを照射する溶融装置11を設けることによって、複数の色のインク103を均等に加熱することができる。
【0203】
なお、被印刷物101の湾曲部分にUVを照射する溶融装置と同様に、互いに異なる波長のUVを照射する複数の溶融装置11(別の観点では複数の光源11a)は、反射鏡、絞り及び/又は電源回路が共用され、1つの溶融装置と捉えることが可能な構成であっても構わない。互いに異なる波長のUVを照射する複数のLED(光源11aの例)が入り乱れた状態で配列されて1つの面光源(これも光源11aの例)を構成していてもよい。
【0204】
以上のとおり、本実施形態においても、印刷装置301は、インク吐出装置7と、乾燥装置9と、溶融装置11とを有している。従って、例えば、第1実施形態と同様の効果が奏される。具体的には、例えば、媒質105の蒸発と定着剤ポリマー109の溶融とを別個の装置で行うことができる。その結果、例えば、インク103の定着の高速化、インク103の定着の効率化、及び/又はインク103等の品質向上を図ることができる。
【0205】
印刷装置301は、インク103が付着した面が凸になるように被印刷物101の少なくとも一部を湾曲させつつ被印刷物101を搬送する搬送装置5を有してよい。1以上の溶融装置11は、被印刷物101のうち搬送装置5(より詳細には第2加熱ローラ17B)によって湾曲されている部分にUVを照射してよい。
【0206】
この場合、例えば、内周側よりも外周側の方が広いから、被印刷物101のUVが照射される領域に対して相対的に1以上の溶融装置11が配置される領域を広くできる。その結果、例えば、被印刷物101の相対的に狭い領域に対して複数の法線方向からUVを照射してエネルギーの密度を高め、短時間でインク103の温度を上昇させることができる。また、例えば、UVが照射される領域の長さをD1方向以外の方向に確保できるから、印刷装置1を短くすること容易化される。
【0207】
印刷装置301は、1以上の溶融装置11を構成している、互いに異なる波長のUVを照射する複数の光源11aを有してよい。
【0208】
この場合、例えば、既述のように、印刷装置301がカラープリンタである場合において、色毎に、発熱量が大きくなる波長のUVを照射する光源11aを設けることによって、複数の色のインク103を均等に加熱することができる。その結果、例えば、特定の色のインク103において加熱量の過不足が生じる蓋然性が低減される。ひいては、インク103及び/又は被印刷物101の品質が向上する。別の観点では、定着剤ポリマー109を溶融させる機能の、インク103の色に対する依存性が低下する。換言すれば、溶融のための構成を、単色のプリンタ及びカラープリンタを含む種々の印刷装置に適応したものにできる。
【0209】
<第4実施形態>
図11は、第4実施形態に係る印刷装置401の構成を示す側面図であり、第1実施形態の図1に対応している。
【0210】
印刷装置401の乾燥装置409は、第2実施形態の乾燥装置209と同様に、インク吐出装置7よりも上流側に位置する第1乾燥装置(第1加熱ローラ17A)と、インク吐出装置7と溶融装置11との間に位置する第2乾燥装置410とを有している。ただし、第2乾燥装置410は、第2実施形態の第2乾燥装置(第2加熱ローラ17B)とは異なる構成とされている。
【0211】
具体的には、第2乾燥装置410は、被印刷物101に向けて温風を吹き付ける温風乾燥機とされてよい。図示の例では、第2乾燥装置410は、被印刷物101の表面に温風を吹き付ける表側乾燥機455Aと、被印刷物101の裏面に温風を吹き付ける裏側乾燥機455Bとを有している(以下、両者を区別せずに、単に乾燥機455ということがある。)。なお、第2乾燥装置410は、表側乾燥機455A及び裏側乾燥機455Bのうちの一方のみを有していてもよい。
【0212】
各乾燥機455は、例えば、特に図示しないが、熱源と、熱源の周囲の気体を送り出す送風機とを有している。熱源は、例えば、第1加熱ローラ17Aにおいて例示したものと同様のもの(電熱線、誘導コイル、又は熱媒体が流れる流路)とされてよい。送風機は、例えば、ファンと、ファンを回転させるモータとを有するものとされてよい。各乾燥機455は、ファンによって送り出される気体を被印刷物101へ導くダクトを有していてもよい。図示の例とは異なり、1つの熱源からの気体がダクトによって被印刷物101の表面及び裏面の双方に案内されてもよい。被印刷物101に送り出される気体は、例えば、空気である。
【0213】
乾燥装置409又は第2乾燥装置410の制御又は目標温度については、矛盾等が生じない限り、第1実施形態における乾燥装置9(第1加熱ローラ17A)、及び/又は第2実施形態における第2乾燥装置(第2加熱ローラ17B)の説明が援用されてよい。
【0214】
例えば、乾燥装置409又は第2乾燥装置410による被印刷物101の加熱量、乾燥装置409又は第2乾燥装置410と溶融装置11との相対位置、及び被印刷物101の搬送速度は、溶融装置11による定着剤ポリマー109の溶融が始まる前に乾燥装置409又は第2乾燥装置410による媒質105の蒸発が完了するように定められてよい。乾燥装置409の直後(別の観点では第2乾燥装置410の直後)から溶融装置11と対向する部分の直前までの領域において、被印刷物101の温度が、第1ポリマー111のTg以上定着剤ポリマー109のTg未満の温度となるように、乾燥装置409又は第2乾燥装置410による加熱量、第2乾燥装置410と溶融装置11との相対位置、及び被印刷物101の搬送速度が定められてよい。
【0215】
また、例えば、第2乾燥装置410の制御は、他の乾燥装置と同様に、オープンループ制御であってもよいし、フィードバック制御であってもよい。後者の場合において、被印刷物101の温度を検出する温度センサは、被印刷物101自体の温度を検出してもよいし、被印刷物101付近の気温を検出してもよいし、第2乾燥装置410の適宜な部位の温度を検出してもよい。温風乾燥機によって構成された第2乾燥装置410においては、温度センサは、被印刷物101に送り出される気体の温度を検出するものであってもよい。
【0216】
また、例えば、第2乾燥装置410の制御は、他の乾燥装置と同様に、熱源に対する電力の制御とされてよい。温風乾燥機によって構成された第2乾燥装置410においては、熱源に対する電力の制御に代えて、又は加えて、送風量の制御がなされてもよい。
【0217】
以上のとおり、本実施形態においても、印刷装置401は、インク吐出装置7と、乾燥装置409と、溶融装置11とを有している。従って、例えば、第1実施形態と同様の効果が奏される。具体的には、例えば、媒質105の蒸発と定着剤ポリマー109の溶融とを別個の装置で行うことができる。その結果、例えば、インク103の定着の高速化、インク103の定着の効率化、及び/又はインク103等の品質向上を図ることができる。
【0218】
乾燥装置409(第2乾燥装置410)は、加熱された気体を送り出す温風乾燥機を含んで構成されてよい。この場合、例えば、第2実施形態のように第2加熱ローラ17Bによって第2乾燥装置が構成される態様に比較して、第2乾燥装置の構成が簡単である。なお、第2実施形態は、本実施形態に比較して、例えば、熱が被印刷物101の周囲に逃げにくいことから、エネルギー効率が高い。
【0219】
(インクセットの変形例)
以下に説明する変形例に係るインクセットは、互いに異なる色のインク103を含み、互いに異なる色のインク103に互いに同一の波長のUVが照射されることが想定されている。すなわち、変形例に係るインクセットは、1以上の全ての溶融装置11(別の観点では1以上の全ての光源11a)が放射するUVの波長が同一であるカラープリンタに適用されることが想定されている。ただし、変形例に係るインクセットは、互いに異なる波長のUVを放射可能なカラープリンタに適用されても構わない。
【0220】
図12Aは、互いに異なる色のインク103の光吸収特性の一例を示す模式図である。同図に係るインク103は、例えば、実施形態に係るインク103であり、変形例に係るインク103ではない。
【0221】
この図において、横軸は波長λ(nm)を示している。縦軸は、吸光度Abs(無次元量)を示している。範囲RUは、UVの波長の範囲を示している。範囲RVは、可視光の波長の範囲を示している。範囲RIは、赤外線の波長の範囲を示している。線LYは、イエローのインク103の特性を示している。線LMは、マゼンダのインク103の特性を示している。線LCは、シアンのインク103の特性を示している。線LKは、ブラックのインク103の特性を示している。光路の長さは4色で互いに同一である。
【0222】
吸光度は、例えば、入射光強度と出射光強度との比(入射光強度/出射光強度)の常用対数(底を10とする入射光強度/出射光強度の対数)である。吸光度は、反射及び散乱の影響を含んでいてもよいし、反射及び散乱の影響を除去したものであってもよい。便宜上、以下の説明では、反射及び散乱が吸収度に及ぼす影響は無視する。
【0223】
この図に示すように、インク103の吸光度は、光の波長によって変化する。換言すれば、光(例えばUV)を照射したときのインク103の発熱量は、光の波長によって変化する。そして、その変化の態様は、インク103の色によって異なっている。インク103の色の相違は、別の観点では、着色剤107の材料及び/又は含有率(質量%)の相違である。従って、同一の波長のUVを照射したときの発熱量は、着色剤107の材料及び/又は含有率が互いに異なるインク103同士で異なる。図示の例では、波長λ1のUVの吸光度は、ブラックが最も高く、次いでシアンが高く、イエロー及びマゼンダが共に低い。その結果、ブラックが過度に加熱されたり、逆に、イエロー及びマゼンダの加熱が不十分となったりする可能性が生じる。
【0224】
そこで、溶融装置11からのUV(別の観点では所定の波長のUV)による発熱量が、互いに色が異なる複数種類のインク103同士で同等となるように、着色剤107とは別のUV吸収剤を、インクセットの少なくとも1種類のインク103に添加してもよい。例えば、複数種類のインク103における、少なくとも2種類のインクにおいて、着色剤107とは別のUV吸収剤の含有率を互いに異ならせてもよい(片方のインク103はUV吸収剤を含まなくてもよい)。このような構成を有する場合には、UV吸収剤の含有率を調整することにより、溶融装置11からのUVによる発熱量を、複数種類のインク103同士で近づけることが可能となる。
【0225】
また、複数種類のインク103における、少なくとも2種類のインク103において、一方のインク103が含有する着色剤107は、他方のインク103が含有する着色剤107に比較して、溶融装置11からのUVの吸収率が低く、かつ一方のインク103は、他方のインク103と比較して、UV吸収剤の含有率が大きいようにしてもよい。この場合、他方のインク103はUV吸収剤を含まなくてもよい。着色剤107の吸収率の大小関係は、着色剤107の分子吸光係数(モル吸光係数)の大小関係とされてよい。また、着色剤107の吸収率の大小関係は、着色剤107を溶媒(例えば水)中に分散させた同程度の濃度の溶液の吸光度の大小関係とされてよい。分子吸光係数は着色剤107によって固有の値であり、インク103における着色剤107の濃度は大きく変わらない。従って、インクセットが上記のような構成を有する場合には、溶融装置11からのUVによる発熱量を、複数種類のインク103同士で更に近づけることが可能となる。
【0226】
また、複数種類のインク103において、溶融装置11からのUVに対する着色剤による吸収率が低いインク103ほど、UV吸収剤の含有率を大きくしてもよい。換言すれば、2種類のインク103に着目したとき、一方のインク103は、他方のインク103に比較して、溶融装置11からのUVに対する着色剤107による吸収率が低く、かつ他方のインク103に比較して、UV吸収剤の含有率が大きいようにしてもよい。この場合、他方のインク103は、UV吸収剤を全く含まなくてもよい。吸収率は、例えば、吸光度、または吸光度をUVが入射する試料(インク)の長さで割った値(吸収係数)とされてよい。インク103の着色剤107によるUVの吸収率は、例えば、インク103における着色剤107の含有率と同じ含有率で着色剤107を含み、残部(例えば媒質105)がUVを実質的に吸収しない試料の吸収率、又は変形例に係るインク103においてUV吸収剤を同じ質量の媒質105で置き換えたインク103のUVの吸収率とされてよい。吸収率は、公知の分光光度計による測定を用いて求められてよい。インクセットが上記のような構成を有する場合には、溶融装置11からのUVによる発熱量を、複数種類のインク103同士で更に近づけることが可能となる。
【0227】
なお、溶融装置11が放射するUVの波長域が比較的広い場合においては、上記のようにUVの吸収率等を比較するときの「溶融装置11からのUV」は、例えば、上記波長域のうちの代表波長を有するUVとされてよい。代表波長としては、適宜なものが利用されてよい。例えば、溶融装置11が放射するUVについて、横軸を波長とし、縦軸をエネルギーとしたスペクトルを考える。このとき、代表波長は、有意な大きさのエネルギーが得られている波長域の中心波長(下限の波長と上限の波長との中心)であってもよいし、ピークのエネルギーが得られている波長であってもよいし、有意な大きさのエネルギーが得られている波長域に亘ってエネルギーを積分したときの積分値を短波長側と長波長側とに2等分する波長であってもよい。
【0228】
図12Bは、上記のようにUV吸収剤が添加されたインク103を含むインクセットを示す模式図である。
【0229】
ここでは、図解を容易にするために、インク103の成分のうち、媒質105、着色剤107及びUV吸収剤113のみを示し、定着剤ポリマー109等の図示は省略している。図中、K、C、Y及びMは、ブラック、シアン、イエロー及びマゼンダに対応している。
【0230】
図示の例は、図12Aの波長λ1のUVが用いられることを想定している。そして、波長λ1において最も発熱量が多いブラックのインク103は、UV吸収剤113を含んでいない。一方、シアンのインク103は、UV吸収剤113を含んでいる。また、波長λ1において最も発熱量が少ないイエロー及びマゼンダのインク103は、シアンのインク103よりも多くUV吸収剤113を含んでいる。
【0231】
図13Aは、UV吸収剤113の光吸収特性の一例を示す模式図である。この図の横軸及び縦軸は、図12Aの横軸及び縦軸と同様である。
【0232】
この図に示すように、UV吸収剤113は、例えば、吸光度が高くなる山を有している。この山は、概ね範囲RUに収まっている。すなわち、UV吸収剤113は、UVによる発熱量が多い一方で、可視光(インク103の視認)に及ぼす影響が小さい。例えば、範囲RVにおける吸光度(例えばその最大値)は、吸光度のピーク、又は溶融装置11のUVの波長(波長λ1)における吸光度に対して、10%以下又は5%以下である。
【0233】
図13Bは、変形例に係るインク103(UV吸収剤113が添加されたインク103)の光吸収特性の一例を示す模式図である。この図の横軸及び縦軸は、図12Aの横軸及び縦軸と同様である。また、線LY、LM、LC及びLKは、図12Aと同様に、4色に対応している。
【0234】
この図では、図12Bを参照して説明したように、図13Aに示す特性を有するUV吸収剤113を添加することによって、溶融装置11のUVの波長(波長λ1)における吸光度(別の観点では吸収率)が複数の色同士で同等とされている。例えば、波長λ1において、全部の色の吸収率の差(最も高い吸収率と最も低い吸収率との差)は、最も高い吸収率の50%以下、20%以下又は10%以下である。なお、変形例に係るインクセットは、少なくとも2つの色のインク103同士において、波長λ1における吸収率の差がUV吸収剤113の添加によって多少なりとも低減されていればよい。すなわち、図13Bの例のように、全ての色の波長λ1における吸収率が同等になっていなくてもよい。
【0235】
UV吸収剤113の構成は適宜なものとされてよい。例えば、UV吸収剤113は、ポリマー又は着色剤の保護に利用されているもの、又は化粧品に利用されているものとされてよい。このようなUV吸収剤としては、例えば、ジヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、及びシアノアクリレート系化合物を挙げることができる。
【0236】
第1実施形態の説明で述べたように、インク吐出装置7は、含有する着色剤107が互いに異なる2種類のインク103を吐出してよい。そして、本変形例で述べたように、2種類のインク103において、一方のインク103(例えばY又はM)は、他方のインク(例えばC又はK)に比較して、溶融装置11からのUV(波長λ1のUV)に対する着色剤107による吸収率が低くされてよく、かつ着色剤107とは別のUV吸収剤113の質量%が大きくされてよい。
【0237】
この場合、例えば、所定の波長λ1のUVを照射したときにおいて、インク103の色同士の単位時間当たりの発熱量のばらつきが低減される。ひいては、特定の色のインク103において、過度の加熱が生じたり、加熱が不十分になったりする蓋然性が低減される。その結果、例えば、被印刷物101の画像の内容(配色)によらずに、インク103の被印刷物101に対する定着が安定的に行われる。
【0238】
本開示に係る技術は、上述した実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0239】
被印刷物は、長尺状のものに限定されないし、ローラによって搬送されるものに限定されない。例えば、印刷装置は、搬送ベルトを搬送して、被印刷物を搬送ベルトに置いて搬送してもよい。この場合において、被印刷物は、例えば、枚葉紙、裁断された布、木材又はタイルとされてよい。
【0240】
印刷装置は、被印刷物を移動させる搬送装置を有するものに限定されない。換言すれば、「被印刷物の搬送方向」、「搬送方向における上流」及び「搬送方向における下流」は概念できなくてもよい。例えば、印刷装置は、被印刷物が移動していない状態で、各種の装置(乾燥装置、インク吐出装置、溶融装置及び/又は補助溶融装置)を移動させてもよい。具体的には、例えば、ロボットによってインク吐出装置を被印刷物の表面に沿って移動させながら印刷を行ってよい。そして、インク吐出装置を被印刷物に近づける前、又はインク吐出装置の退避後、備え付けられた、又はロボットによって搬送される温風乾燥機によって媒質を蒸発させてよい。インク吐出装置の退避後、ロボットによって溶融装置を被印刷物の表面に近づけて定着剤ポリマーを溶融させてよい。当該態様では、例えば、2次元的な印刷だけでなく、3次元形状を有する被印刷物の表面に沿ってインク吐出装置を移動させることによって、3次元的に印刷がなされてもよい。また、被印刷物の搬送と、各種の装置の移動とが組み合わされても構わない。実施態様によっては、「被印刷物の搬送方向」は、被印刷物と各種の装置との「相対移動方向」と置き換えられてよい。
【0241】
乾燥装置は、加熱ローラ及び温風乾燥機に限定されない。例えば、乾燥装置は、赤外線を被印刷物に照射して被印刷物を加熱してもよい。実施形態の説明でも触れたが、乾燥装置は、被印刷物の搬送方向において、インク吐出装置の上流側及び下流側に限定されず、インク吐出装置と同位置に位置してもよい。例えば、乾燥装置は、インク吐出装置と被印刷物を挟んで対向し、被印刷物の裏面に当接するプレート状のヒータを有してよい。
【0242】
実施形態では、インク吐出装置と溶融装置との間に位置する第2乾燥装置(図9の17B並びに図11の455A及び455B)と、溶融装置と被印刷物を挟んで対向する補助溶融装置(図1の17B及び図10の17B)とが選択的に設けられた。ただし、第2乾燥装置と補助溶融装置との双方が設けられても構わない。
【符号の説明】
【0243】
1…印刷装置、7…インク吐出装置、9…乾燥装置、11…溶融装置、101…被印刷物、103…インク、105…媒質、109…定着剤ポリマー。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B