(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】転がり粘性抵抗の推定方法、転がり粘性抵抗の推定システム、転がり粘性抵抗の推定プログラム、及び当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体
(51)【国際特許分類】
G01M 13/04 20190101AFI20250210BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20250210BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
G01M13/04
F16C19/06
F16C19/52
(21)【出願番号】P 2023120862
(22)【出願日】2023-07-25
【審査請求日】2024-09-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】江川 航平
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-042052(JP,A)
【文献】Mihaela Rodica D. Balan et al.,Rolling Friction Torque in Ball-Race Contacts Operating in Mixed Lubrication Condition,lubricants,2015年04月13日,Vol.2015,No.3,pp.222-243,https://doi.org/10.3390/lubricants3020222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/04
F16C 19/06
F16C 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道面と当該軌道面を転動する転動体とを備える転がり軸受であって、前記軌道面と前記転動体とが点接触し、当該点接触部分に油膜が形成され、かつ前記軌道面が前記転動体と接触する接触部と、前記転動体と接触しない非接触部とを備える前記転がり軸受の、転がり粘性抵抗を推定するための方法において、
接触楕円の長軸方向の計算範囲を、接触楕円の長軸半径を超え
、かつ
前記転動体が転がる方向xと直交する方向yの等価半径以下の範囲内で選択した長さとして、回帰式から転がり粘性抵抗の推定値Fr,wを算出
し、
前記計算範囲が、EHL解析による回帰式の導出における積分範囲であることを特徴とする転がり粘性抵抗の推定方法。
【請求項2】
前記接触部と前記非接触部のそれぞれについて転がり粘性抵抗の回帰式を定め、各回帰式に基づいて算出した値の和を、前記転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定値Fr,wとする請求項1に記載の転がり粘性抵抗の推定方法。
【請求項3】
前記推定値Fr,wを以下の式から算出する請求項2に記載の転がり粘性抵抗の推定方法:
【数26】
但し、
【数7】
【数8】
【数9】
【数13】
【数14】
であり、
kは接触楕円比(k=a/b)、η
0は潤滑油の常圧粘度[Pa・s]、uは平均速度[m/s]、E’は等価ヤング率[Pa]、wは荷重[N]、αは粘度-圧力係数[Pa
-1]、R
xはx方向の等価半径[m]、R
yはy方向の等価半径[m]、lは接触楕円中心から解析領域の端までのy方向の距離[m]、aは接触楕円の長軸半径[m]
、bは接触楕円の短軸半径[m]を表し、添え字のleftは解析領域の左側を表し、添え字のrightは解析領域の右側を表す。
【請求項4】
前記接触部の回帰式に熱修正係数を乗じる請求項3に記載の転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定方法。
【請求項5】
軌道面と当該軌道面を転動する転動体とを備える転がり軸受であって、前記軌道面と前記転動体とが点接触し、当該点接触部分に油膜が形成され、かつ前記軌道面が前記転動体と接触する接触部と、前記転動体と接触しない非接触部とを備える前記転がり軸受の、転がり粘性抵抗を推定するためのシステムにおいて、
接触楕円の長軸方向の計算範囲を、接触楕円の長軸半径を超え
、かつ
前記転動体の転がり方向xと直交する方向yの等価半径以下の範囲内で選択した長さとして、回帰式から転がり粘性抵抗の推定値Fr,wを算出
し、前記計算範囲を、EHL解析による回帰式の導出における積分範囲とする演算部と、
前記推定値Fr,wを出力する出力部とを備えたことを特徴とする転がり粘性抵抗の推定システム。
【請求項6】
前記接触部と前記非接触部のそれぞれについて転がり粘性抵抗の回帰式を定め、各回帰式に基づいて算出した値の和を、前記転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定値Fr,wとする請求項5に記載の転がり粘性抵抗の推定システム。
【請求項7】
前記推定値Fr,wを以下の式から算出する請求項6に記載の転がり粘性抵抗の推定システム:
【数26】
但し、
【数7】
【数8】
【数9】
【数13】
【数14】
であり、
kは接触楕円比(k=a/b)、η
0は潤滑油の常圧粘度[Pa・s]、uは平均速度[m/s]、E’は等価ヤング率[Pa]、wは荷重[N]、αは粘度-圧力係数[Pa
-1]、R
xはx方向の等価半径[m]、R
yはy方向の等価半径[m]、lは接触楕円中心から解析領域の端までのy方向の距離[m]、aは接触楕円の長軸半径[m]
、bは接触楕円の短軸半径[m]を表し、添え字のleftは解析領域の左側を表し、添え字のrightは解析領域の右側を表す。
【請求項8】
前記接触部の回帰式に熱修正係数を乗じる請求項7に記載の転がり粘性抵抗の推定システム。
【請求項9】
軌道面と当該軌道面を転動する転動体とを備える転がり軸受であって、前記軌道面と前記転動体とが点接触し、当該点接触部分に油膜が形成され、かつ前記軌道面が前記転動体と接触する接触部と、前記転動体と接触しない非接触部とを備える前記転がり軸受の、転がり粘性抵抗を推定するためのプログラムにおいて、
コンピュータに、
接触楕円の長軸方向の計算範囲を、接触楕円の長軸半径を超え
、かつ
前記転動体の転がり方向xと直交する方向yの等価半径以下の範囲内で選択した長さとして、回帰式から転がり粘性抵抗の推定値Fr,wを算出
し、前記計算範囲を、EHL解析による回帰式の導出における積分範囲とする処理と、
前記推定値Fr,wを出力する処理とを行わせることを特徴とする転がり粘性抵抗の推定プログラム。
【請求項10】
前記接触部と前記非接触部のそれぞれについて転がり粘性抵抗の回帰式を定め、各回帰式に基づいて算出した値の和を、前記転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定値Fr,wとする請求項9に記載の転がり粘性抵抗の推定プログラム。
【請求項11】
前記推定値Fr,wを以下の式から算出する請求項10に記載の転がり粘性抵抗の推定プログラム:
【数26】
但し、
【数7】
【数8】
【数9】
【数13】
【数14】
であり、
kは接触楕円比(k=a/b)、η
0は潤滑油の常圧粘度[Pa・s]、uは平均速度[m/s]、E’は等価ヤング率[Pa]、wは荷重[N]、αは粘度-圧力係数[Pa
-1]、R
xはx方向の等価半径[m]、R
yはy方向の等価半径[m]、lは接触楕円中心から解析領域の端までのy方向の距離[m]、aは接触楕円の長軸半径[m]
、bは接触楕円の短軸半径[m]を表し、添え字のleftは解析領域の左側を表し、添え字のrightは解析領域の右側を表す。
【請求項12】
前記接触部の回帰式に熱修正係数を乗じる請求項11に記載の転がり粘性抵抗の推定プログラム。
【請求項13】
請求項9~12の何れか1項に記載の推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受における転がり粘性抵抗の推定方法、転がり粘性抵抗の推定システム、転がり粘性抵抗の推定プログラム、及び当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受における潤滑の主目的は、摩擦の減少と要素間の油膜の生成による損傷の防止である。正常に潤滑された転がり軸受では、軌道面と転動体の間には、EHL(Elasto-hydrodynamic Lubrication)油膜が形成され、二面を分離することで早期の表面損傷を防いでいる。表面損傷防止の観点からは油膜は厚い方がよいが、転がり軸受の重要な性能指標の一つである低摩擦の観点からはこの限りではない。油膜が厚くなる条件では流体を接触面に流入させる際の油の粘性による抵抗が大きくなる。この抵抗は転がり粘性抵抗と呼ばれる。
【0003】
転がり粘性抵抗の大きさを推定することは転がり軸受の設計や性能評価において重要な課題となる。転がり粘性抵抗を高精度に推定するため、過去の研究では、玉と軌道輪の接触点近傍をEHL解析によって計算することで、転がり粘性抵抗の回帰式を構築している。回帰式の構築に際し、転がり粘性抵抗の計算範囲として、接触楕円の範囲もしくは接触楕円を中心とした軸方向両側の長軸半径の範囲とすることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】N. Biboulet and L. Houpert, Hydrodynamic force and moment in pure rolling lubricated contacts. Part 1: point contacts, J. Eng. Tribol., 224,8(2010), 777-788
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら非特許文献1の解析では、転がり粘性抵抗の計算範囲が実軸受に対して狭いため、実軸受での転がり粘性抵抗が過少評価されている。これは、十分潤滑下の軸受では、玉と軌道輪の間が油で満たされているため、転がり粘性抵抗は軌道面と転動体が接触する接触部(接触楕円が形成される領域)のみならず、軌道面の幅内で接触楕円よりも軸方向外側の領域である非接触部でも発生しているのに対し、非特許文献1では、軸方向の計算範囲を、接触楕円等の範囲に限っていることによる。そのため、非特許文献1の計算値は実軸受の転がり粘性抵抗値と乖離する傾向にある。
【0006】
そこで、本発明は、実軸受での転がり粘性抵抗を高精度に推定できる転がり粘性抵抗の推定方法、推定システム、推定プログラム、及び当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る転がり粘性抵抗の推定方法は、軌道面と当該軌道面を転動する転動体とを備える転がり軸受であって、前記軌道面と前記転動体とが点接触し、当該点接触部分に油膜が形成され、かつ前記軌道面が前記転動体と接触する接触部と、前記転動体と接触しない非接触部とを備える前記転がり軸受の、転がり粘性抵抗を推定するための方法において、接触楕円の長軸方向の計算範囲を、接触楕円の長軸半径を超えかつ軸方向等価半径以下の範囲内で選択した長さとして、回帰式から転がり粘性抵抗の推定値Fr,wを算出することを特徴とする。
【0008】
この推定方法においては、前記接触部と前記非接触部のそれぞれについて転がり粘性抵抗の回帰式を定め、各回帰式に基づいて算出した値の和を、前記転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定値Fr,wとすることができる。
【0009】
この推定方法においては、前記推定値Fr,wは以下の式から算出することができる:
【数26】
但し、
【数7】
【数8】
【数9】
【数13】
【数14】
であり、η
0は潤滑油の常圧粘度[Pa・s]、uは平均速度[m/s]、E’は等価ヤング率[Pa]、wは荷重[N]、αは粘度-圧力係数[Pa
-1]、R
xはx方向の等価半径[m]、R
yはy方向の等価半径[m]、lは接触楕円中心から解析領域の端までのy方向の距離[m]、aは接触楕円の長軸半径[m]を表す。
【0010】
この推定方法においては、前記接触部の回帰式に熱修正係数を乗じることができる。
【0011】
また、本発明に係る転がり粘性抵抗の推定システムは、軌道面と当該軌道面を転動する転動体とを備える転がり軸受であって、前記軌道面と前記転動体とが点接触し、当該点接触部分に油膜が形成され、かつ前記軌道面が前記転動体と接触する接触部と、前記転動体と接触しない非接触部とを備える前記転がり軸受の、転がり粘性抵抗を推定するためのシステムにおいて、接触楕円の長軸方向の計算範囲を、接触楕円の長軸半径を超えかつ軸方向等価半径以下の範囲内で選択した長さとして、回帰式から転がり粘性抵抗の推定値Fr,wを算出する演算部と、前記推定値Fr,wを出力する出力部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
この推定システムにおいては、前記接触部と前記非接触部のそれぞれについて転がり粘性抵抗の回帰式を定め、各回帰式に基づいて算出した値の和を、前記転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定値Fr,wとすることができる。
【0013】
この推定システムにおいては、前記推定値Fr,wを以下の式から算出することができる:
【数26】
但し、
【数7】
【数8】
【数9】
【数13】
【数14】
であり、η
0は潤滑油の常圧粘度[Pa・s]、uは平均速度[m/s]、E’は等価ヤング率[Pa]、wは荷重[N]、αは粘度-圧力係数[Pa
-1]、R
xはx方向の等価半径[m]、R
yはy方向の等価半径[m]、lは接触楕円中心から解析領域の端までのy方向の距離[m]、aは接触楕円の長軸半径[m]を表す。
【0014】
この推定システムにおいては、前記接触部の回帰式に熱修正係数を乗じることができる。
【0015】
また、本発明に係る転がり粘性抵抗の推定プログラムは、軌道面と当該軌道面を転動する転動体とを備える転がり軸受であって、前記軌道面と前記転動体とが点接触し、当該点接触部分に油膜が形成され、かつ前記軌道面が前記転動体と接触する接触部と、前記転動体と接触しない非接触部とを備える前記転がり軸受の、転がり粘性抵抗を推定するためのプログラムにおいて、コンピュータに、接触楕円の長軸方向の計算範囲を、接触楕円の長軸半径を超えかつ軸方向等価半径以下の範囲内で選択した長さとして、回帰式から転がり粘性抵抗の推定値Fr,wを算出する処理と、前記推定値Fr,wを出力する処理とを行わせることを特徴とする。
【0016】
この推定プログラムにおいては、前記接触部と前記非接触部のそれぞれについて転がり粘性抵抗の回帰式を定め、各回帰式に基づいて算出した値の和を、前記転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定値Fr,wとすることができる。
【0017】
また、この推定プログラムにおいては、前記推定値Fr,wを以下の式から算出することができる:
【数26】
但し、
【数7】
【数8】
【数9】
【数13】
【数14】
であり、η
0は潤滑油の常圧粘度[Pa・s]、uは平均速度[m/s]、E’は等価ヤング率[Pa]、wは荷重[N]、αは粘度-圧力係数[Pa
-1]、R
xはx方向の等価半径[m]、R
yはy方向の等価半径[m]、lは接触楕円中心から解析領域の端までのy方向の距離[m]、aは接触楕円の長軸半径[m]を表す。
【0018】
この推定プログラムにおいては、前記接触部の回帰式に熱修正係数を乗じることができる。
【0019】
以上に述べた推定プログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録しても良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、実軸受での転がり粘性抵抗を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】EHL解析に用いる解析範囲と積分範囲を示す軌道面の展開図である。
【
図4】計算条件を示す表である(軸受型番6320)。
【
図5】計算条件を示す表である(軸受型番6210)。
【
図6】計算条件を示す表である(軸受型番6004)。
【
図8】計算に用いた潤滑油の物性値を示す表である。
【
図9】y=0mmでの油膜圧力、油膜厚さ分布を示す図で、(b)図は(a)図のx=±0.4mmの領域を拡大して示す。
【
図10】y=3mmでの油膜圧力、油膜厚さ分布を示す図である。
【
図11】x=0mmでの単位長さあたりの転がり粘性抵抗、油膜厚さ分布を示す図である。
【
図12】平均速度変化によるy=0mmでの油膜圧力分布と圧力発生位置の変化を示す図で、(b)図は(a)図のx=±0.4mmの領域を拡大して示す。
【
図13】荷重変化によるy=0mmでの油膜圧力分布と圧力発生位置の変化を示す図で、(b)図は(a)図のx=±0.4mmの領域を拡大して示す。
【
図14】軸方向等価半径変化によるy=0mmでの油膜圧力分布と圧力発生位置の変化を示す図で、(b)図は(a)図のx=±0.4mmの領域を拡大して示す。
【
図15】平均速度変化によるy=3mmでの油膜圧力分布と圧力発生位置の変化を示す図である。
【
図16】荷重変化によるy=3mmでの油膜圧力分布と圧力発生位置の変化を示す図である。
【
図17】軸方向等価半径変化によるy=3mmでの油膜圧力分布と圧力発生位置の変化を示す図である。
【
図18】接触部の無次元転がり粘性抵抗Fr,cに及ぼす無次元パラメータの影響を示す図で、(a)図が無次元速度パラメータU、(b)図が無次元荷重パラメータW、(c)図が無地元材料パラメータG、(d)図が接触楕円比を示す。
【
図19】定数の最適値の探索に使用する初期値を示す表である。
【
図20】定数の最適値を探索した結果を示す表である。
【
図21】非接触部の無次元転がり粘性抵抗Fr,ncに及ぼす無次元速度パラメータU’の影響を示す図である。
【
図22】非接触部の無次元転がり粘性抵抗Fr,ncに及ぼす無次元形状パラメータLの影響を示す図である。
【
図23】定数の最適値の探索に使用する初期値を示す表である。
【
図24】定数の最適値を探索した結果を示す表である。
【
図25】無次元パラメータの使用範囲を示す表である。
【
図26】Fr,cの解析値と計算値の相対誤差分布を示す図である。
【
図27】Fr,wの解析値と計算値の相対誤差分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0023】
図1は、転がり軸受の一種である玉軸受1を示す断面図である。この玉軸受1は、外周面に内輪軌道面11aを有する内輪11と、内周面に外輪軌道面12aを有する外輪12と、内輪軌道面11a及び外輪軌道面12aの相互間に転動自在に介在する複数の転動体(玉)13と、軸受周方向に所定の間隔を隔てて転動体13を保持する保持器14とを備える。玉軸受の軌道面11a、12aと転動体13との間には、軸受内部に供給された潤滑油によって油膜が形成される。
【0024】
玉軸受1では、内輪軌道面11aおよび外輪軌道面12aが、それらの曲率半径が玉13の曲率半径よりもごく僅かに大きくなるよう加工される。そのため、内輪軌道面11aと玉13、および外輪軌道面12aと玉13は何れも点接触する。点接触部は、軌道面および玉の弾性変形により、楕円形(接触楕円と呼ばれる)の形状となる。接触楕円の大きさは、ヘルツの弾性接触理論もしくは半無限弾性体近似による接触解析により求めることができる。
【0025】
本発明は、上記のような転がり軸受の設計あるいは性能評価に際して重要情報となる、軸受内の転がり粘性抵抗の値を回帰式から高精度に推定可能とするものである。以下、回帰式の導出過程を説明する。
【0026】
以下の説明で使用する記号の定義を以下に列挙する。
a: 接触楕円の長軸半径 [m]
a1~a5: 無次元転がり粘性抵抗式の定数
b: 接触楕円の短軸半径 [m]
b1~b5: 無次元転がり粘性抵抗式の定数
E’: 等価ヤング率 [Pa]
Fr: 無次元転がり粘性抵抗
fr: 転がり粘性抵抗 [N]
ft: 熱修正係数を考慮した転がり粘性抵抗 [N]
G: 無次元材料パラメータ
h∞: すきま [m]
hc: 中央油膜厚さ [m]
k: 接触楕円比=a/b
L: 無次元形状パラメータ
l: 接触楕円中心から解析領域の端までのy方向の距離 [m]
p: 圧力 Pa
Rx: x方向の等価半径 [m]
Ry: y方向の等価半径 [m]
U: 無次元速度パラメータ
U’: 非接触部の無次元速度パラメータ
u: 平均速度 [m/s]
W: 無次元荷重パラメータ
w: 荷重 [N]
x: 転がり方向の座標 [m]
y: 転がり方向と直交する方向の座標 [m]
α: 粘度-圧力係数 [Pa-1]
φt: 熱修正係数
η0: 潤滑油の常圧粘度 [Pa・s]
【0027】
[下付き添え字]
c: 接触部
nc: 非接触部
left: 解析領域の中央より左側
right: 解析領域の中央より右側
nl: 非接触部の左側
nr: 非接触部の右側
w: 解析領域全体
【0028】
なお、等価半径Rは、転動体(玉)の半径をR1とし、軌道面の半径をR2として、R=R1×R2/(R1+R2)から求められる。等価ヤング率E’は、玉のヤング率をE1、ポアソン比をν1とし、軌道輪の弾性係数をE2、ポアソン比をν2として、2/E’=(1-ν1
2)/E1+(1-ν2
2)/E2から求められる。
【0029】
以下では、解析領域内の油膜圧力及び油膜厚さ分布が等温EHL解析によって求められる。この解析では、粘度と圧力の関係式としてRoelandsの式を用い、粘度-圧力係数としてWu-Klaus-Dudaの式を用いた。数値解析アルゴリズムにはマルチレベル法を用いている。
【0030】
図2は、EHL解析に用いる解析範囲と積分範囲を示すもので、軸受の一方の軌道面(例えば内側軌道面11a)を平面に展開した展開図である。
図2に示すように、軌道面には、転動体との接触により接触楕円が形成される。
図2中のx方向は転動体が転がる方向であり、x方向と直交するy方向(接触楕円の長軸方向)は、ラジアル転がり軸受では軸方向、スラスト転がり軸受では径方向に該当する。以下、転がり粘性抵抗の計算方法を説明する。
【0031】
転がり粘性抵抗f
rは転がり方向のポアズイユ(Poiseuille)流れによる潤滑油のせん断抵抗であるから、
【数1】
で表される。
【0032】
式(1)を用いて転がり粘性抵抗を計算するためには積分範囲を定義する必要がある。本実施形態では、x方向の積分範囲を-30b~2bとしている。これは、-30b~2bの範囲外では、転がり粘性抵抗が概ね飽和することによる。y方向については、非特許文献1の解析では、y方向の積分範囲が接触楕円の長軸半径aに依存するため、荷重や接触楕円比によって積分範囲が変化する問題があるが、本実施形態では、y方向の積分範囲を軌道面の軸方向幅とし、接触楕円の大きさとは無関係の一定領域としている。
【0033】
転がり粘性抵抗は、下記の式(2)~式(5)のように、接触部と非接触部に分けて計算し、接触部と非接触部で別の回帰式を構築することで算出される。解析領域のうち、接触楕円の長軸側の二つの頂点に挟まれた矩形領域(-30b~2bおよび±aの範囲)が接触部となり、接触部を軸方向両側から挟む二つの矩形領域が非接触部となる。このように解析範囲を接触部と非接触部に分けることで、接触点の入口周辺のみで発生する潤滑油のせん断発熱の影響を接触部でのみ考慮できる、軌道面の中央に接触楕円が存在しない場合も計算が可能となる、等の利点が得られる。なお、本実施形態では、接触部と二つの非接触部のy方向幅寸法の総和は軌道面の幅寸法と等しい。つまり、y方向の解析範囲は軌道面の幅寸法と一致している。
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【0034】
なお,玉軸受、特に低粘度油を使用しつつ高速回転させる玉軸受に本発明を適用する場合、接触部およびその近傍に存在する潤滑油のせん断による発熱の影響が大きくなるため、この発熱の影響を考慮すべきである。従って、そのような場合は、下記の式(6)のように、fr,c にのみ熱修正係数φ
tを乗じるのが好ましい。「fr,c にのみ」としたのは、潤滑油のせん断発熱は接触部の入り口周辺のみで発生していることによる。熱修正係数φ
tの詳細は後で述べる。
【数6】
【0035】
以下、転がり粘性抵抗の数値解析(EHL解析)について説明する。この解析では、先ず、
図3に示す計算制御パラメータの下で、転がり粘性抵抗のパラメータスタディを行った。計算条件を
図4~
図6に示す。なお、
図4~
図6の玉半径およびピッチ円半径は、それぞれ軸受型番6320,6210、6004と対応する。計算に用いた材料と潤滑油の物性値を
図7および
図8に示す。
【0036】
EHL解析によって得られた油膜圧力、単位長さあたりの転がり粘性抵抗、油膜厚さ分布を
図9(a)(b)、
図10、および
図11に示す。計算条件は
図5の「基準となる条件」である。
図9(a)(b)はy=0mmの油膜圧力および油膜厚さ分布を示し、
図10は、y=3mmの油膜圧力および油膜厚さを示す。y=0mmは接触部、y=3mmは非接触部である。y=0mmではEHLの特徴である圧力スパイクや出口付近での最小油膜厚さの存在が確認できる。また、入口側の圧力が0となる圧力発生位置はx=-3.89mmである。圧力発生位置が解析領域内に存在するため、本計算条件は十分潤滑下の解析、つまり、転がり方向の解析領域の入口側の長さを一定以上とすることで転がり粘性抵抗の計算値が変化しなくなる位置での解析、といえる。y=3mmでは圧力スパイクは発生せず、接触部と比較して圧力の最大位置が大きく入口側に移動している。従って、y=3mmでは、いわゆる流体潤滑下での圧力分布となる。また、圧力発生位置は接触部と大きく変化しないが、油膜圧力の最大値は接触部より小さい。
【0037】
図11にx=0mmでの単位長さあたりの転がり粘性抵抗、および油膜厚さ分布を示す。単位長さあたりの転がり粘性抵抗とは、各格子で発生するポアズイユ流れによるせん断応力を転がり方向にのみ積分した値であり、これを軸方向に積分することで任意の範囲での転がり粘性抵抗が計算可能となる。転がり粘性抵抗分布は格子の分割数の都合上、出口付近での計算に誤差が発生しているため、軸方向に若干変動しているが、振幅が小さいことや計算領域全体の転がり粘性抵抗は軸方向に積分することから問題視せず、この状態で検討を進めた。接触部と非接触部では単位長さあたりの転がり粘性抵抗は大きく異なるが,接触部と非接触部全体の転がり粘性抵抗はそれぞれ,fr,c=0.5N、fr,nc=0.082×2=0.164Nであり,非接触部の転がり粘性抵抗は無視できないことが明らかとなった。一般的にモーター等で使用される深溝玉軸受においても,非接触部の最小すきまは本計算条件と同程度であることが多いため,トルク計算の際には,非接触部の転がり粘性抵抗を考慮する必要がある。
【0038】
各種パラメータ変化による接触部の油膜圧力分布と圧力発生位置の変化を検討する。計算条件は
図5の「基準となる条件」から平均速度、荷重、軸方向等価半径を変化させた。
図12(a)(b)~
図14(a)(b)に平均速度変化、荷重変化、軸方向等価半径変化によるy=0mmでの油膜圧力分布と圧力発生位置の変化を示す。接触部では、平均速度、接触楕円の短軸半径の増加によって、圧力発生位置が前方へ移動する。また,
図14(a)(b)については、接触楕円の短軸半径が同じであれば,接触楕円比が増加することで圧力の側方漏れが抑制されるため、圧力発生位置も遠ざかると予想したが、上記の計算条件では、軸方向等価半径の増加により、面圧及び接触楕円の短軸半径が小さくなるため、軸方向等価半径の増加に伴って圧力発生位置が近づいたと考えられる。
【0039】
次に、各種パラメータ変化によるy=3mmでの非接触部の油膜圧力分布と圧力発生位置の変化を検討する。計算条件は既に述べた接触部での各種パラメータ変化の場合と同様の条件である。
図15~
図17に平均速度変化、荷重変化、軸方向等価半径変化による油膜圧力分布と圧力発生位置の変化を示す。非接触部では、平均速度の増加により非接触部の油膜圧力も増加し、圧力発生位置が遠ざかる。また、荷重、軸方向等価半径の増加により最小すきまが小さくなることで、油膜圧力が増加する。また,圧力発生位置が荷重の増加によって遠ざかり、軸方向等価半径の増加によって近づいた。この要因は軸方向等価半径の増加によるy=3mmでの転がり方向等価半径の増加、接触部の圧力発生距離の影響、解析領域と接触楕円の大きさの関係など様々な要因が存在すると考えられる。
【0040】
以上の解析結果に基づいて、接触部の転がり粘性抵抗Fr,cの回帰式を導出する。接触部の転がり粘性抵抗Fr,cの回帰式に使用する無次元数として、以下の式(7)~(9)を用いる。
【数7】
【数8】
【数9】
【0041】
また、接触部の無次元転がり粘性抵抗Fr,cを式(10)で表す。
【数10】
【0042】
図18(a)~(d)に接触部の無次元転がり粘性抵抗Fr,cに及ぼす無次元パラメータの影響を示す。プロットは解析値、点線は近似線である。Fr,cはUの0.68~0.72乗、Wの0.43~0.45乗、Gの1.07~1.1乗、κの0.57~0.6乗にそれぞれ比例する。以上の結果から、接触部の無次元転がり粘性抵抗Fr,cの回帰式は、以下の式(11)のように与えられる。ただし、a
1~a
5は定数である。
【数11】
【0043】
定数a
1~a
5の最適値の決定方法及びその値を検討する。定数a
1~a
5の最適値の探索に際しては、適当な初期値をあらかじめ与えておく必要がある。
図19に定数の最適値の探索に使用する初期値を示す。初期値はMicrosoft-Excelの近似機能を使用して決定した。
【0044】
以下に,定数a1~a5の最適値探索アルゴリズムを示す。
(i)a2~a5を固定して、解析解と回帰式の解の差の二乗和が最小となるa1を探索する。
(ii)(i)のa1とa3~a5を用いて、解析解と回帰式の解の差の二乗和が最小となるa2を探索する。
(iii)同様にして、a3~a5を探索する。
(iv)解析解と回帰式の解の差の二乗和の変化率が収束していれば終了する。収束していなければ、(i)に戻る。
【0045】
このようにして各定数の最適値を探索した結果、
図20のような定数が得られた。以上より、接触部の転がり粘性抵抗Fr,cの回帰式は、式(12)のように表される。
【数12】
【0046】
次に、非接触部の転がり粘性抵抗Fr,ncの回帰式を導出する。非接触部の転がり粘性抵抗Fr,ncの回帰式に使用する無次元数を以下の式(13)、(14)に示す。
【数13】
【数14】
【0047】
無次元速度パラメータU’について,非接触部は材料のヤング率の影響は極めて小さいと判断し、等価ヤング率から粘度-圧力係数に変更した。無次元形状パラメータLは非接触部における特定の領域のすきまの大きさを表すパラメータである。非接触部の形状に影響を与えるパラメータは非接触部の長さl-a、転がり方向の等価半径Rx、軸方向の等価半径Ryの3つのパラメータであることから、式(14)のように無次元形状パラメータLを定めた。
【0048】
また,非接触部の無次元転がり粘性抵抗Fr,nc を式(15)のように定義した。
【数15】
【0049】
図21および
図22に非接触部の無次元転がり粘性抵抗Fr,nc に及ぼす無次元パラメータの影響を解析した結果を示す。Fr,ncは、U’の0.89~0.94乗、Lの0.78~0.83乗にそれぞれ概ね比例する。また,
図4~
図6に示す計算条件の接触楕円比変化、荷重変化、軌道面の幅変化があっても、プロットが各U’の直線上に概ね存在する。よって、Fr,nc はU’とLのみで近似可能で、荷重や面圧の影響は無視できることが分かる。ただし、Lの累乗近似は解析値と近似線の誤差が大きい場合もあるため、誤差のより小さい近似式を検討した。この近似式を用いて表現すると、無次元転がり粘性抵抗Fr,nc の回帰式は式(16)のように与えられる。ただし,b
1~b
5は定数である。
図22中の点線はU’=7.8×10
-7での式(16)を用いた近似値であるが、Lが小さい場合の誤差がやや大きく見えるものの、その絶対値は非常に小さいため、トルク計算において大きな誤差にならないと考えられる。
【数16】
【0050】
定数b
1~b
5の最適値の決定方法及びその値を検討する。定数b
1~b
5の最適値の探索に際しては、適当な初期値をあらかじめ与えておく必要がある。
図23に定数の最適値の探索に使用する初期値を示す。初期値はMicrosoft-Excelの近似機能を使用して決定した。
【0051】
定数b
1~b
5についても接触部と同様の方法で最適値が探索される。なお、定数の誤差低減及び収束性向上のため、定数を探索する順番は接触部とは異なり、b
4→b
5→b
1→b
2→b
3の順で探索した。以上の方法により、定数の最適値を探索した結果、
図24に示すような定数が得られた。以上より、非接触部の転がり粘性抵抗Fr,nc の回帰式は式(17)のように表される。
【数17】
【0052】
以上の説明を踏まえて、以下に転がり粘性抵抗の回帰式と使用した無次元数を示す。また、
図25に本実施形態で構築した回帰式の無次元パラメータの使用範囲を示す。
・Fr,c に使用した無次元数
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
・Fr,nc に使用した無次元数
【数22】
【数23】
【数24】
【0053】
無次元転がり粘性抵抗の無次元化方法を式(10)に統一して、式(15)を参酌しつつ式(12)と式(17)をまとめると、任意の軌道面の幅での無次元転がり粘性抵抗Fr,wの回帰式は、下記の式(18)で表される。式(18)では、接触部の回帰式と非接触部の回帰式に基づいて算出した値の和を無次元転がり粘性抵抗Fr,wの推定値としている。なお、上記「無次元化方法を式(10)に統一して」は、有次元の転がり粘性抵抗を、これにα/R
x
2を乗じることで無次元化するよう無次元化方法を統一することを意味する。
【数25】
【0054】
図26にFr,cの解析値と計算値の相対誤差分布を示し、
図27にFr,w の解析値と計算値の相対誤差分布を示す。相対誤差は(計算値-解析値)/解析値として求めている。縦軸は全解析条件での相対誤差の存在割合である。Fr,c、Fr,w 共に相対誤差10%以内に全解析条件の90%以上が存在し、計算式として十分な精度であることが理解できる。
【0055】
式(18)から算出した転がり粘性抵抗Fr,wの値が、転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定値(無次元)となる。この無次元転がり粘性抵抗Fr,wの値にRx
2/αを乗じることで、実軸受の有次元の転がり粘性抵抗値(fr,c+fr,nl+fr,nr)(単位N)を推定することが可能となる(fr,c+fr,nl+fr,nr=Fr,w×Rx
2/α)。
【0056】
玉軸受1の総トルクを算出する場合には、別に算出した転がり粘性抵抗以外の軸受トルク要因(トラクション、弾性ヒシテリシス損失等)との総和を算出することで、高精度に軸受トルクを推定することができる。
【0057】
非特許文献1の式をはじめ、既存の転がり粘性抵抗の回帰式では、積分範囲が接触楕円を中心とした長軸半径の範囲に限られている。既に述べたように、転がり粘性抵抗は接触部のみならず非接触部でも相当量が生じるため、既存の回帰式を用いた場合は、転がり粘性抵抗の計算値が実軸受の値とは乖離する傾向にある。これに対し、本実施形態では、接触楕円の長軸方向の計算範囲を、接触楕円の長軸半径を超えかつ軸方向等価半径以下の範囲内で選択した長さとして、回帰式から転がり粘性抵抗の推定値Fr,wを算出している。そのため、非接触部での転がり粘性抵抗も計算値に含めることができ、転がり粘性抵抗の推定値を実際の値に近づけることができる。
【0058】
玉軸受のトルク計算に転がり粘性抵抗式を適用するのであれば、y方向(接触楕円の長軸方向)の積分範囲は、軸受の軌道面幅とするのが理想である。本実施形態では、接触部と前記非接触部のそれぞれについて転がり粘性抵抗の回帰式を定め、各回帰式に基づいて算出した値の和を、前記転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定値Fr,wとしているので、積分範囲と軸受の軌道面幅を一致させることが可能となる。これにより、任意の軌道面幅を計算領域とした転がり粘性抵抗を求める計算式の構築が可能となり、転がり粘性抵抗を高精度に推定することができる。
【0059】
既に述べたように温度修正係数を考慮する場合、下記のように、式(18)のうち接触部の回帰式に温度修正係数φ
tを乗じた式を用いる。
【数27】
【0060】
温度修正係数φ
tとしては、公知の種々の式を用いることができ、例えば、以下の温度修正係数φ
t(Mihir K. Ghosh、Raj K. Pandey、"Thermal Elastohydrodynamic Lubrication of Heavily Loaded Line Contacts - An Efficient Inlet Zone Analysis")を用いることができる。
【数28】
なお、上式中のWは無次元荷重パラメータ、Qは熱荷重パラメータ、Sは摺動パラメータを表す。
【0061】
以上に述べた転がり粘性抵抗の推定は、システム(もしくは装置)の内部で行うことができる。そのようなシステムとして、例えば、接触楕円の長軸方向の計算範囲を、接触楕円の長軸半径を超えかつ軸方向等価半径以下の範囲内で選択した長さとして、回帰式から転がり粘性抵抗の推定値Fr,wを算出する演算部と、推定値Fr,wを出力する出力部とを備えるものが想定される。演算部として、例えばコンピュータに内蔵されたCPU等を用いることができる。出力部には、演算結果を表示するディスプレイの他、ディスプレイ等の外部装置に出力信号を送信するための出力インターフェース等も含まれる。
【0062】
この推定システムでは、接触部と非接触部のそれぞれについて転がり粘性抵抗の回帰式を定め、各回帰式に基づいて算出した値の和を、転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定値Fr,wとして扱う。この処理は演算部で行うことができる。
【0063】
また、以上に述べた転がり粘性抵抗の推定は、プログラムを読み込んだコンピュータで実行することもできる。この場合、プラグラムは、コンピュータに、接触楕円の長軸方向の計算範囲を、接触楕円の長軸半径を超えかつ軸方向等価半径以下の範囲内で選択した長さとして、回帰式から転がり粘性抵抗の推定値Fr,wを算出する処理と、推定値Fr,wを出力する処理とを行わせるものとする。
【0064】
このプログラムでは、接触部と非接触部のそれぞれについて転がり粘性抵抗の回帰式を定め、各回帰式に基づいて算出した値の和を、転がり軸受の転がり粘性抵抗の推定値Fr,wとする処理を行わせることができる。
【0065】
この推測システムおよび推測プログラムの何れにおいても、推定値Fr,wは式(18)から算出することができる。接触部の回帰式に熱修正係数を乗じた式から推定値Fr,wを算出することもできる。
【0066】
以上の説明では、玉軸受を例に挙げて転がり粘性抵抗の推定方法を説明したが、当該方法は、軌道面と転動体が点接触する転がり軸受に広く適用可能であり、玉軸受以外にも、例えば自動調心ころ軸受に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 転がり軸受(玉軸受)
11 内輪
11a 内輪軌道面
12 外輪
12a 外輪軌道面
13 転動体(玉)
14 保持器